くにさくロゴ
1982/02/10 第98回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第098回国会 予算委員会公聴会 第2号
姉妹サイト
 
1982/02/10 第98回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第098回国会 予算委員会公聴会 第2号

#1
第098回国会 予算委員会公聴会 第2号
昭和五十八年二月十日(木曜日)
    午前十時開議
 出席委員
   委員長 久野 忠治君
   理事 江藤 隆美君 理事 高鳥  修君
   理事 堀内 光雄君 理事 三原 朝雄君
   理事 村田敬次郎君 理事 川俣健二郎君
   理事 坂井 弘一君 理事 大内 啓伍君
      上村千一郎君    越智 伊平君
      奥田 幹生君    澁谷 直藏君
      津島 雄二君    渡海元三郎君
      橋本龍太郎君    藤尾 正行君
      藤田 義光君    岩垂寿喜男君
      小野 信一君    大出  俊君
      木島喜兵衞君    小林  進君
      佐藤 観樹君    沢田  広君
      城地 豊司君    関  晴正君
      野坂 浩賢君    草川 昭三君
      岡田 正勝君    木下敬之助君
      竹本 孫一君    瀬崎 博義君
      中路 雅弘君    山原健二郎君
      楢崎弥之助君
 出席公述人
        社団法人隊友会
        援護本部本部長 丸山  昂君
        上智大学教授  川田  侃君
        京都大学経済研
        究所教授    森口 親司君
        社団法人経済団
        体連合会副会長 石田 正實君
        統一戦線促進労
        働組合懇談会代
        表委員・事務局
        長       春山  明君
        慶応義塾大学教
        授       大熊 一郎君
 出席政府委員
        内閣官房副長官 藤波 孝生君
        総理府総務副長
        官       深谷 隆司君
        行政管理政務次
        官       菊池福治郎君
        防衛政務次官  林  大幹君
        経済企画政務次
        官       辻  英雄君
        環境政務次官  福島 譲二君
        国土政務次官  玉生 孝久君
        外務政務次官  石川 要三君
        大蔵政務次官  塚原 俊平君
        大蔵省主計局次
        長
        兼内閣審議官  宍倉 宗夫君
        大蔵省主計局次
        長       平澤 貞昭君
        文部政務次官  大塚 雄司君
        厚生政務次官  稲垣 実男君
        農林水産政務次
        官       楢橋  進君
        通商産業政務次
        官       渡辺 秀央君
        運輸政務次官  関谷 勝嗣君
        郵政政務次官  戸井田三郎君
        建設政務次官  中村喜四郎君
 委員外の出席者
        予算委員会調査
        室長      三樹 秀夫君
    ─────────────
委員の異動
二月十日
 辞任         補欠選任
  澁谷 直藏君     津島 雄二君
  正示啓次郎君     奥田 幹生君
  稲葉 誠一君     小野 信一君
  岩垂寿喜男君     城地 豊司君
  岡田 利春君     関  晴正君
  竹本 孫一君     岡田 正勝君
  正森 成二君     山原健二郎君
同日
 辞任         補欠選任
  奥田 幹生君     正示啓次郎君
  津島 雄二君     澁谷 直藏君
  小野 信一君     稲葉 誠一君
  城地 豊司君     岩垂寿喜男君
  関  晴正君     岡田 利春君
  岡田 正勝君     竹本 孫一君
    ─────────────
本日の公聴会で意見を聞いた案件
 昭和五十八年度一般会計予算
 昭和五十八年度特別会計予算
 昭和五十八年度政府関係機関予算
     ────◇─────
#2
○久野委員長 これより会議を開きます。
 昭和五十八年度一般会計予算、昭和五十八年度特別会計予算、昭和五十八年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。
 この際、御出席の公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 公述人各位には、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。昭和五十八年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。
 なお、御意見を承る順序といたしましては、まず丸山公述人、次に川田公述人、続いて森口公述人の順序で、お一人約二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答えを願いたいと存じます。
 それでは、まず丸山公述人にお願いをいたします。
#3
○丸山公述人 私は、昭和五十八年度の総予算案につきまして、賛成の立場から意見の開陳を行わさせていただきたいと思っております。二十分でございますので、ごくかいつまんで粗筋だけ述べさせていただきたい思います。
 まず、国際情勢をどう見るかということでございますが、もうすでに皆様御案内のように、かつては、第二次大戦から約二十年にわたる間アメリカが、戦略核兵器それから通常兵器、こういった軍事的な総合力を背景といたしまして、いわゆる世界の警察官として国際的な平和の維持に当たっておったという時代がございました。これは学者の中ではパクスアメリカーナというふうに言われておりますけれども、その後、ソ連の非常な急ピッチの軍事拡張によりまして、だんだんアメリカとの差を詰めてまいっております。むしろ量的には東側の陣営が大きいという評価がございます。たとえば、NATOとワルシャワ条約機構を対比いたしますと、平均いたしまして三対一ぐらいの比率で東側が優勢に立っているというふうに言われております。それで在来は、こういった量的な差を質的な優位によって補うということで国際的なバランスが保たれておったというふうに見られておりますが、その質的な優位もだんだん格差が縮まってきておるように思います。これは技術上の進歩によるものでございます。
 そこで、一九七〇年代半ば以降、今日に至るまでの新しい時代を、学者はパクス・ルッソ・アメリカーナ、つまりロシアとアメリカとによる平和の維持という時代に入っておる、こう称しております。つまり世界の平和維持構造と申しますか、これはまた逆に言えば戦争抑止構造、平和ということは戦争のない事態を指して言われるわけでございまして、そういう戦争抑止構造、これはアメリカとソ連という軍事的なスーパーパワーの均衡によって維持されておるのが現状であるというふうに申し上げてよろしいかと思います。
 そこで、ことしのアメリカのワインバーガー国防報告あるいは予算教書の提出に際しますレーガン大統領の演説、こういったことに顕著に見られますことは、東側、つまりソ連の軍事力というものはすでに均衡を超して対米優位に移りつつあるのだ、こういう表現が使われておりますけれども、私は、公平に見て必ずしもそうではない、依然として西側の優位は続いていると思いますけれども、これからの数カ年の間、新たにアメリカの国防予算が現実の段階で実ってくる時期、これはどうしても四、五年のタイムラグを必要とするわけでございまして、そういたしますと、その間に確実にソ連が優位になる、こういう言い方ではないかと思うのでございますけれども、この点で、すぐ双方が戦争を始めるとか、こういうことではないと思います。問題は、軍事的に優位であるという立場から、それを政治的に転嫁してくる、こういう点が問題になるのではないか。結局、その政治的な積極的な対外政策ということに対する警戒が、いまの状態から危惧されるということではないかと思います。現実には、ソ連という国は大変慎重な用心深い国でございます。したがって、軍事的な行動については、よほどの成算がなければその重い腰を上げることがないわけでございますが、一たん上げますと、非常に機動的に速く事態の解決に向かってばく進をするというのが、過去の歴史に見られるところでございます。
 したがいまして、われわれとしては、やはりこれに対して、いわゆる政治的な積極的な活動、こういったものに対応できる態勢を考えておかなければならないというふうに思うわけでございます。ときには非核国に対しては核攻撃はやらないということを言いつつも、先ごろの総理の不沈空母でございますか、こういう発言に対しまして、日本を核攻撃する可能性があるような一種の恫喝を行う、これが一つのソ連の外交の本質であると思うわけでございますが、こういうことにわれわれとしてはもちろん惑わされてはなりませんし、また、心理的にも十分これに耐え得るだけの措置を考えておかなければならないというふうに思うわけでございます。
 今度の国防報告などに見られますように、アメリカも戦略核の充実ということにかなり力を入れております。MXという次のICBMにつきましては、配置の方法が適当なものが見つからないで、結局議会で予算を削られておりますけれども、いずれにしろその方向に進んでおる。またソ連の方も、中距離爆撃機は持っておらなかったのでございますが、超音速のブラックジャックという新しい航空機を整備しておるようでございますし、それから、タイフーンという大型の潜水艦もつくっておる、あるいは新型のICBMを四種類開発をしておるというようなことで、いずれも戦略核兵器の態勢を強化する方向に進んでおるわけでございますが、これは大変困った状態であるわけでございまして、同時にやはり核兵器の制限について、軍備管理について同じような動きを示し始めてきておる。SALTの次のSTART、SALTというのは青天井を排して、現状持っておるものの上に一つのシーリングを定めて、それまではやるということであったわけでございますが、STARTになりますと、今度は現状を逆に減らしていくということに向けての話でございますが、そういう方向に進んでおる。
 それから、特にことしの大きな命題になっておりますのは中距離の核ミサイルの相互削減交渉、これが一昨年から始まりました。やっとテーブルについたという状態でございまして、現在は米ソともにあらゆる方法で相互の駆け引きを活発に行っております。特に西独ではこの三月六日に総選挙がございまして、その総選挙の一番大きな問題は、ソ連がヨーロッパに向けて配備をしておりますSS20という中距離の核ミサイルに対してアメリカでつくりますパーシングIIという中距離の弾道ミサイル、それからトマホークという地上から発射いたします巡航ミサイル、巡航ミサイルの方はドイツを含めてヨーロッパの五カ国に配備することになっておりますけれども、特にパーシングIIは発射後数分で目標に到達するという大変ソ連にとっては致命的な打撃を与えるおそれのある兵器であるわけでございまして、このパーシングIIとGLCMを本年度末に展開を開始するということでございますが、どうしてもソ連としてはこれを阻止しなければならないという状況でございまして、たまたまこの三月に総選挙が行われるのでありますが、この総選挙の結果によって西独がこれらを受け入れるかどうかが左右されるということでございまして、一つの焦点に立っておるわけでございます。
 そういう国際情勢の中で、ただいまは非常に大きなお話を申し上げたのでございますけれども、ここでわれわれが冷静によく見てみなければいかぬと思いますのは、戦後、現在までの間に約六十件の紛争なり戦争なりというものが各地域で発生をいたしております。この六十件の紛争は、大体がいずれも米ソ並びにその直接の同盟国の間には起きていないわけでございます。ほとんどが、この両勢力の影響のないところで紛争が出ておるということが一つでございます。
 そこで、この二大陣営というものが直接対決することは、これはもう地球の死滅を、人類の死滅を意味するわけでございまして、こういうことが絶対あってはならないということで、相互にこれを回避する方策をいろいろ講じておるのでございまして、それが現実の国際政治の大きな源流になっているというふうに見てよろしいのじゃないかと思います。やはり相互のバランスを保つためにソ連とアメリカは戦略核兵器を主体としたものを考えておりますけれども、NATOの諸国あるいはその他の諸国におきましては、通常兵器の防衛力というものを高めることによって、核兵器への移行の、いわゆる核の敷居でございますが、これをできるだけ高める努力をすべきであるということに進んでおるわけでございまして、最近アメリカで、核兵器の先制使用、第一使用という戦略を変更すべきであると言って、もとの国防長官をやりましたマクナマラとかシュレジンジャーとか、こういった人々が呼びかけておりますけれども、この人々の真意も、やはりいまの核を中心とした防衛力の整備というよりは通常兵器に重点を置くべきであるということを主張しているものでございます。
 それで、国際関係からわが国の問題についてですが、時間の配分が余りよろしくないのであれでございますが、第一回目でございますのでごく簡単に触れたいと思います。
 私は一つ最初に申し上げたいのは、日本の防衛について、国の防衛という問題はわが国自身の問題であるということでございまして、どうも最近の傾向は、アメリカから言われるからやるのだというような風潮が強いのでございますけれども、日本の防衛はあくまでわれわれが主体的な立場に立って判断すべきことであって、アメリカと安保条約を締結して集団防衛体制というものをつくっておるのは、一つはわが国の選択により行っておるわけでございまして、これは国防方針の中にもはっきり述べられておるわけでございますが、本質は、防衛というものはわれわれ自身の問題であるということを強調させていただきたいと思います。
 それから、ことしの予算の基軸になっております「防衛計画の大綱」でございますが、これは昭和五十一年に閣議決定されたものでございまして、この物の考え方は、その前文に書いてありますように、「安定化のための努力が続けられている国際情勢及びわが国周辺の国際政治構造並びに国内諸情勢が、当分の間、大きく変化しないという前提にたてば、」こうなっておるわけでございます。
 この経緯は、もう皆様方十分御存じのように、平和時の防衛力の限界というものを、その下敷きにしてつくっておるものでございまして、表現が適当ではございませんが、非常に薄く広く、あらゆる部面に欠落のないようにし、全体として均衡のとれているもの、ですから一説には、脅威に対処ではなくて脱脅威的な物の考え方だ、こういう非難も受けるわけでございますけれども、しかし、これはそれなりに、たとえば防空態勢にいたしますと、その脅威を見積もってやっているのではなくて、いまこれだけの防空態勢をやれば、どれだけの侵入機を撃退できるか、撃滅できるか、撃墜できるか、こういうことは計算をできるわけです。したがって、相手国にしてみれば、それだけのリスクを冒して日本を攻めなければならないということで、それだけの応分の抑止力というものは十分持っておるわけでございます。ですから、やはり「防衛計画の大綱」というものはできるだけ早く整備をする必要があるし、そのためにはこの五十八年度予算、これのもとになっておりますのは五六中業でございますが、五六中業の初年度でございますので、ぜひともお認めをいただくことが必要ではないかというふうに考えておるわけでございます。
 大変話がアンバランスになりまして恐縮でございますが、一応私の主張を申し述べさせていただきました。(拍手)
#4
○久野委員長 どうもありがとうございました。
 次に、川田公述人にお願いをいたします。
#5
○川田公述人 御紹介にあずかりました川田でございます。
 きょうの新聞を見まして非常にびっくりいたしました。社会党の平林書記長が急逝されまして、この機会に御生前の御業績をおたたえし、哀悼の意を深くあらわしたいと思います。(拍手)
 予算案に対する意見を申すように言われまして、事務局の方から賛否をはっきりしてほしいと御注意を受けたのでございますけれども、御承知のとおり財政破綻の中の緊縮財政ということで、たしか十二月三十一日の新聞で当の大蔵大臣自身が、百点満点とすれば五十点だというふうに記者会見でおっしゃっておりまして、私ども大学では、五十点といいますと及第点ではございませんで落第点でもない、ちょうどその中間ぐらいなところでございます。そういう状態なので、全体についての賛否を、私の意見を申し上げるというのは非常にむずかしいので、それぞれの局面について申し上げていきたいと思います。
 全体として、一般的な歳出の伸びをマイナスにしたということと、それから公債の発行高を減額したということについては評価できるというように私は考えております。現在の日本の経済の財政破綻の状況では、やはり財政再建が至上命令であると思いますから。
 ただ、こういう緊縮財政というのを今年度限りではなくて、もしこういうものを実行するのであれば数年度、つまり一般歳出を圧縮して公債の発行額を次第に減らしていくという方式を今後数年間ぐらいとらないと、その効果はあらわれてこないのではないかと思います。もちろん緊縮財政を続けますと、経済に対してデフレ的な効果は出てくるわけでございますけれども、現在のところは、景気対策というよりは中長期的な経済運営を重視すべきであると私は思います。破綻した財政というものをどのように立て直すかが非常に重要でありますので、その点が次第にはっきりしてくれば、経済の先行きの不透明感も取り払われてくるという意味では、やはり緊縮財政というものを今後も貫いていくことが重要ではないかというように考えております。
 その場合には、一般歳出の総枠を抑えていくということが非常に重要になると思いますけれども、それと同時に、その中で効果のある政策についてはプラスの予算をつけていくということをするためには、一般歳出の中のむだを取り除いていくということが非常に重要になってくるわけで、今後も総枠を抑えながら、むだな歳出を切り詰めていくならば、財政再建は行政改革との関係で可能になってくるのではないかというように考えます。
 そういうむだな歳出を切り詰めていくという点から考えますと、私が今年度予算について賛成できないのは防衛費が突出しているということであって、やはりこういう緊縮財政を組む限りは防衛予算も他の予算との均衡を保つ必要があるわけで、特に軍事力増強の危機感というものを解消して平和日本の姿を近隣諸国に示すという点からも、防衛予算の伸びがあり過ぎたという点については、私は賛成しかねるわけでございます。
 ただ、私がきょうここで申し上げるように言われておりますのはむしろ経済協力の側面でございます。経済協力の側面についても確かに予算は伸びているわけで、ODAの事業費全体ではたしか九千六百七十億円で、今年度の当初と比べると二・七%の伸びになっている。一般会計だけではODAは八・九%がふえているということで、これもかなり防衛予算並みの伸び率を示しているように見えますけれども、ただし、これについては経済協力は現在非常に必要とされている。世界経済を立て直すためにも、南の経済が非常に衰退していく中で北の先進工業国だけが栄えるということはあり得ませんので、こういう経済的な危機において、やはり経済協力を強めていくということは非常に必要である。
 それから、前の総理大臣がたしか八一年の施政方針演説において、八〇年代の前半五年においてODAを倍増するということを世界に向かって公約しているわけでありますから、この公約をやはり果たしていくということは道義的にも重要であろうと思います。そういう点から考えると、概算要求ではODAの一般会計の伸びは一一・四%になっておりまして、そうすればその倍増計画が実現できるというぎりぎりの線であったわけでありますが、それが大幅に削られているという点は、やはり問題があるのではないかというように私は思います。やはり経済協力は今後とも量的にも質的にもふやしていくということが非常に強く要求されているわけで、その点は今後も日本として努力を払っていかなければならないことであろうと思います。鈴木総理が八一年初頭の施政方針演説で中期目標を示されて、八〇年代の中ごろまでに日本のODAを倍増するということは、やはり私は実現すべきではないかと思います。
 国際政治というのは確かにいま丸山先生がおっしゃったように力と力という関係で、権力構造という点を無視することはできませんけれども、しかし、イギリスの有名な外交官であり、その後、学者として大成しましたE・H・カーが非常に強調しておりますように、権力だけで動くものではないのであって、やはりインターナショナルモラリティーといいますか、道義というものは非常に重要であり、その道義を貫徹できないような国は滅んでいくという点から考えても、道義面というものは今後の国際政治でも非常に重要になってくるわけでありますので、特に国際的に公約したものは何とか実現するように努力すべきだというふうに考えます。
 もちろん一方で、経済協力はただ量がふえればよいのかという御批判は非常に強いわけであります。確かにODAがふえていくとパラレルに大型プロジェクトがふえていく。たとえばインドネシアのアサハンであるとか、シンガポールの石油化学であるとか、イランのパンダルホメイニとか、あるいはサウジアラビアの石油化学のような大型プロジェクトがふえていく傾向が確かにあります。むしろ、その経済協力がきめが細かくて、一億円あるいは五千万円単位でも日本も喜んでやり、相手側も非常に喜ぶというようなプロジェクトはあり得るわけですから、そういうきめの細かさというものがなくなってくるのではないかという心配が一つある。
 もう一つは、これに対する強い批判でありますけれども、ODAがふえると結局日本の企業がそれでもうかるではないか。つまり財界の要求によって経済協力をふやすのは言語道断だという御批判があります。確かにたてまえは、発展途上国に開発計画というものがありまして、それに合わせてプロジェクトができて、その上で日本側に援助してくれるかどうかという打診があり、そして入札があって円借款という形で決まってくるのがたてまえでありますけれども、現実には私も耳にするところは、日本なら日本のコンサルタントのような会社が商売になりそうなものを探し回って、相手側の役人ないしは企業と事前に打ち合わせてプロジェクトをつくって、それを相手国から上がったような形にして援助を取りつける。そうなりますと決してアンタイドではない。やはり結果的にはひもつきのような援助にもなるし、日本の企業はもうかる。したがって、経済協力費を上げたのは防衛費の伸びと同じように財界の要求に屈したものであるという御批判があるそうでありますが、私は、それはODAの内容いかんの問題であって、そういう問題があるからODAを減らしたらいいという議論にはつながらないのではないかというように思います。
 御承知のとおり、いま南の経済は大変な困難を抱えていて、絶対的貧困を抱えている最貧国の窮状というのは絶望的でさえある。これを何とか救わなければ世界経済全体にも影響を及ぼすでありましょうし、われわれの持っているヒューマンなソリダリティー、連帯感からいっても、そういう最貧国の窮状がふえていくということは、これをこのまま放置することはできない。それに、いわゆる中所得国と言われている国々もいまや債務累積にあえいでいるわけであります。有名なブラント報告というのがございますが、ブラント報告によれば、一九八〇年、先進国が行っている年間の援助、ODAは二百億ドルであるけれども、これをダブリングする、倍増してもニーズに見合うことができないほど、いま南側の資金は欠乏し、南側の資金に対する要求は非常に強いと言われているわけであります。国際的な基準でありますGNPの〇・七%に日本はまだはるかに及ばない、〇・三四%ぐらいでしょうか。一人当たり所得が大体六千ドルぐらいの国は、一人当たりで四十二ドルぐらいの援助をしなければならないということになっておりますが、日本はまだその半分以下でありますから、今後とも量的にも質的にも、つまり質的というのはODA全体における贈与の比率であるとか、あるいは金利、返済期限などの借款の条件を改善していくということはどうしても必要になってくる。
 しかし一方において、そういう企業側の利益を喜ばせるだけだという批判もあるわけでありますから、私は、提案というよりは申し上げたい第一点は、経済協力の中身を今後吟味していってほしいということであって、経済協力の中身の吟味あるいは経済協力の評価という視点を入れていって、そしてしかも、いま南側の開発ニーズが非常に多様化しておりますから、その経済協力の効果が上がるか上がらないかという点を年じゅう吟味していくということが必要である。
 八〇年のDACの議長の報告によりますと、そういうことは非常にむずかしくて、つまり相手国側が自助努力をし、そこでいろいろな計画がつくられていく、それに対してODAの援助が行われるのであるから、相手側の国内資本形成を含めた自助努力と切り離して経済協力の効果を評価するのはむずかしいということが報告に出ておりますが、しかし、その報告でも、少なくとも個別のプロジェクトに関する評価はできる、あるいは相手国側との協力関係がうまくいっているかどうか、また相手国側が経済協力を吸収する能力があるかどうかということは評価できるわけで、私、この点は非常に重要であると思いますので、今後、国会、政府その他においては経済協力の中身の吟味ということを、忘れないで、していただきたいと思います。と同時に、政府の資金だけでは非常に足りませんので、民間の資金あるいは貿易を通ずる協力、あるいは投資とか技術移転とか、民間との役割りの分担というものが非常に重要になってくると思います。
 もう一つは、これは世界銀行が非常に心配している問題でありますけれども、いわゆるグラスルーツのところに援助が届かない。したがって、世銀でも国連でもOECDでも、最近はいわゆる非営利団体によるところの国際協力、NGOの役割りを重視してNGOとの協議会を行っている。欧米諸国では、そのNGOというものを評価して、ODAの一部をNGOに渡して、欧米諸国はすでに一%ないし一〇%をNGOにお金を渡し、NGOがそれによって開発協力を行っていくということをしているわけであります。経済協力をぜひもう少し分権化する、あるいは重層的にして――日本でも非営利団体による国際協力団体というのは、調べによりますとすでに八十六団体、少なくとも八十六団体があるということでありますので、そういう非営利団体によるところの技術協力あるいは医療、教育というような開発協力を評価して、ODAの一部をNGOを通して行うということによって、このグラスルーツに経済協力が届くようにするべきだと思います。日本のような官尊民卑のところでは、なかなかそういうことはむずかしいかもしれませんが、いわゆる関係当局においては、国民に対して南北問題に理解を求める、それは文書や何かではやっておりますけれども、私は、NGOを尊重することによって、南北問題についてのすぐれた国民教育も可能になるというふうに考えております。そういう意味においてはぜひ経済協力を分権化し、重層的に行って、相手側の貧富の開きをさらにひどくするような経済協力でなしに、それが真に必要とするところに届くようにしていただきたいと思います。
 さらに第三点として、私は、何のための経済協力かということを関係の官庁が絶えず考えていくということは大事だと思います。これは幸い、一九八一年版の通産省の「経済協力の現状と問題点」とか、あるいは一九八一年に外務省から出ました「経済協力の理念 政府開発援助はなぜ行うのか」というようなパンフレットが出ておりまして、政府、官庁においても次第に何のための経済協力かということを問い詰めていくような傾向が出ておりますが、これは私は非常に重要なことであって、経済協力の意義とか基本的な方向であるとか、あるいはどこに重点的な分野を移すかということを絶えず吟味していくということが重要になると思います。
 一般的には、私は、ブラント報告が言っておりますような理念、つまり北も南もお互いに利益を得るという相互利益、ミューチュアルインタレストという考えが一番正しいのではないかと思います。もちろん最貧国には、ミューチュアルインタレストといっても見返りを要求はできませんので、ヒューマンソリダリティーというような観点ももちろん重要でありますけれども、今日、経済協力を進めるのは単に南の国を救うというのではなくて、北の経済の活性化にも役立つ。ブラントという学者でない政治的なリーダーシップをとっているその政治的リーダーが、このことを非常に重要視しているのは、いままさに世界経済が非常に危ういという認識に立っているのだと思います。南がつぶれれば北もつぶれるという連帯感の中で経済協力の意味というものを再評価すべきだろうと思います。
 こういうときに、最近私が懸念するのは、紛争周辺国への援助をともすれば高めたいというような発想が日本に出てきて、何か防衛支持援助的な性格の援助があるのではないか。あるいは冷戦時代の東西援助競争的な視点というものが出てきているような様子がうかがえる。しかも、経済援助というのは軍事的な問題とはっきりと区別すべきだと私は思うのですが、紛争周辺国に対する援助を高めるという発想だけでなくて、それと見合って、もうかなり豊かな中進国にも大規模な援助をするというのは私は疑問だと思います。少ない経済協力というものはなるべく南アジアとかアフリカのような低所得国に回して、すでに豊かになりつつある中進国などに対しては民間の資金を回すというように分業化を図るということが大事であって、同時に、経済協力はあくまでも経済協力として筋を通すということをしてほしいと思います。これについては、私は、ここで重大な危惧の念だけを表明するにとどめさせていただきたいと思います。
 経済協力といった場合には政府だけではとてもやり切れなくなっておりまして、公の資金以外に最近は民間の資金に頼らざるを得ない。むしろ昔は六対四であったのが最近は逆転して、民間の資金に頼る方が多くなったと言われております。民間による海外投資も非常に重要である。ただ、多国籍企業的な負の側面を正していきながら、民間の投資活動あるいは技術移転活動とお互いに連携をとりながら南北問題に対処していくことが必要になってくるわけで、もちろん中所得国と言われている国々もいま資金難でありますので、これについては民間の商業銀行もがんばらなければならないと思います。
 ただ、御承知のように、いま重大な世界経済の危機として国際金融不安が出ております。これは七〇年代後半に初めて世界経済に起きた現象であって、多国籍企業にかわりまして私的な民間の商業銀行が資金を融通する、つまり、OPECの余剰金をューロ市場で取り入れて、それを中進国に貸すということが余りにもオーバーレンディングをやり過ぎまして、いまメキシコその他危機的な状態が出てきております。メキシコに貸している銀行は実に千四百ぐらいの銀行、ポーランドのようなところでも五百の銀行が貸していると言われて、およそ先進工業国の有名な銀行はすべて貸しているということであります。これについては、私は非常に重大な局面になっていると思いますが、単に私的な銀行に任せるだけではなくて、大蔵省を初めとする警報システムのような、あるいは情報センターのようなものをつくると同時に、国際的なIMFその他の公的な金融機関と連絡をとりながら、この問題を解決していくということが、世界経済にとって今日非常に強く要求されているところであります。
 大変舌足らずになりましたが、一応これで終わります。(拍手)
#6
○久野委員長 どうもありがとうございました。
 次に、森口公述人にお願いいたします。
#7
○森口公述人 京大の経済研究所でマクロ経済分析をやっております森口でございます。
 私は、五十八年度の予算案につきましては、財政当局の厳しい条件下での努力は多といたしますが、なお幾つかの問題点がございまして賛成できません。以下、その理由を申し述べたいと思います。
 まず、「経済運営の基本的姿勢」を取り上げたいと思いますが、五十八年度の日本経済は、世界経済の不況が続きます中で国際収支の黒字幅が拡大し、これが経済摩擦の大きな要因になる、こういうふうに考えられます。それから米国経済は、不況から脱出し拡大に向かう可能性がかなりあると思いますが、それによってわが国の輸出が拡大し、それをてこにして日本経済の景気回復が実現できる、こういうふうに期待することはできないと思います。また期待すべきでもないと思います。
 米国は、拡大する国内需要が米国内の産業に向かって、そうして米国産業を再活性化する、これに役立つことを期待しております。そのために連邦政府は、財政赤字を拡大させつつもなお所得減税を過去二年間行ってきており、ことしも行おうというふうにしているわけですね。このために米国では、景気回復が仮に明白になったといたしましても、日本あるいはその他の国々からの対米輸出が大幅に伸びるというようなことを放置しないのではないか、こういうふうに思います。したがって、日本経済のこれまでのパターン、世界の景気回復を待って輸出を伸ばして、それによって国内経済を立て直そうという、いわば他力本願的なパターンなんですが、これはもはや作用しない、そういう方向を考えるわけにいかないと思います。
 ところで、わが国の国内経済の現状はどうかと申しますと、最近の景気動向指数とか、あるいは労働市場の状況、雇用統計などを見ても、あるいはまた企業収益の動きなどを見ましても、依然として景気は低迷状態にある、不況下にあると言ってよろしいかと思います。しかも雇用状況は年々悪化しておりまして、昨年来、新規学卒の就職状況などが大変厳しくなってきておりますし、また中高年層の失業率も最近高まってきております。こういったぐあいに、景気の現状はかなり憂慮すべきものがあると考えます。
 わが国社会はいわゆる柔構造社会でありまして、不況に強い体質を持っているということで、当面の一、二年程度の不況ですとこれに耐えられるという意見がもっぱらでありまして、私もそれに反対ではございません。しかし、もう少し中期的に考えますと、ロボット化が着実に進みます中で、現在のような二%台の実質成長が続きますと、いわゆる良好な職あるいは良好なジョブという言葉がございます。つまり社会保障などの保障がちゃんとあり、労働条件がいい、常雇の形をとる、そういったような形の職なんですが、そのような良好な職につきます人々の数は限られておりまして、現在ふえております就業者の多くの部分が、いわゆるパートタイム、短時間雇用あるいは女子中心のものであるというふうになっておりまして、こういう事態がいましばらく続きますと、日本社会の安定性を脅かす心配がございます。
 本年は、米国におきましては金利がずいぶん低下しておりまして、これに伴ってわが国の円レートも上昇が持続する、こういうふうに予想されますが、さらに、これに対しまして石油価格の低下の可能性というのが現実のものになってまいりました。こういう状況下ですと円レートの上昇というのは、輸出が数量で伸びなくても輸出価格、これはドル建てでありますが、ドル建ての輸出価格を増加させ、これを通じましてドル建ての輸出金額がふえる、こういうことによりまして経常収支の黒字幅が大幅に拡大するということが、かなりの確かさでもって予測できるように思います。いわゆるJカーブ効果というものが再び作用するのではないか。これは昭和五十二年から五十三年にかけまして起こった事態でございます。こういうことで、日本経済の対外的な不均衡、そして国内的な不均衡、この可能性がかなり高まってまいります。
 こういう点からいたしますと、五十八年度予算の基礎になっております「経済運営の基本的姿勢」につきましては、以上のような事態の展開を予感するような指摘はございますが、しかし予算案がそういうものを着実にとらえて対処しているというふうには申せないわけであります。
 まず、五十八年度予算原案が総需要に与える効果というものを検討いたしますと、一般会計ベースの投資的経費として見ますと、前年度の当初比で一・一%のマイナスになっております。これを五十七年度の補正後の水準と比べますと四%のマイナスということになります。これにさらに文教費関係の設備費を加えて五十七年度と五十八年度を比べますと、公的部門の資本形成に関係のある部分の伸び率は、五十八年度は一〇%を超えるマイナスになる、こういうことでございます。この中には、言うまでもありませんが、国庫債務負担行為などによって、いわば五十七年度の補正予算で先食いされました支出が、五十八年度については補正がなされていないということのためでもあります。
 他方、財政投融資計画によりますと、道路、住宅関連の事業規模は確かに増加させておりますが、全体としては伸び率が二%であります。以上を国民所得ベースに換算して考えますと、公的部門の資本形成は五十七年度比で横ばいになる。これは明らかに総需要に対してマイナス要因でありまして、五十八年度の成長率を押し下げることになるかと思います。
 つまり、公的支出がそういう不況要因になり、輸出が伸び悩み、そして、その輸出関連産業で従来活発でありました民間設備投資が沈滞しつつありますから、こういったことを考えますと、総需要を支える海外と財政という二つの柱が外れるということを意味します。残る国内民間需要はどうかといいますと、昨年来、賃金上昇率は大変低くなってきておりまして、他方、限界所得税率が高うございますから、こういったことから家計の支出が大幅は伸びるということは期待できないわけであります。他方、中小企業あるいは零細企業ないしは個人業主の所得というのは過去三年間減少を続けております。これは財政がだめ、そして国内の住宅投資とか消費が伸びない場合には、中小零細企業の所得は伸びないというのがわが国の経済の一つのはっきりとした特徴でございまして、そういうことから国内民間需要の大幅な伸びは期待できない、こういうことであります。
 こういう状況下で超緊縮予算を組むということは、全般的に景気見通しを一段と悪化させ、不況心理を強めるおそれもございます。また対外均衡との関係から見ますと、国内需要の停滞は輸入をさらに抑え込むことになりまして、この面でも経常収支の黒字幅の拡大を通して、諸外国から、日本はまた失業の輸出を続けているというふうな非難を受けるおそれがあると思います。
 以上のような日本経済の姿を数字で申しますと、大体次のようなことになります。
 GNPの実質成長率は二・六%程度、同じくGNPの名目成長率が四・四%程度、これは五十八年度予算原案の土台になっております政府経済見通しの名目成長率よりかなり低くなっております。他方、物価につきましては、卸売物価はマイナス一%、消費者物価は二%、こういうようなことになるのではないかと思います。
 その場合、次に税収の見通しはどうだろうかということを考えますと、名目成長率がこのように低くなりますと税収は伸びないのではないか、さらに税収不足が起こるのではないかという議論があり得るかと思うのですが、大づかみに言いますと、そういう傾向は確かにございます。ところが、もし五十八年度のこういう名目成長率の伸びが低いということが、石油価格の低下あるいは円高を通じて起こるといたしますと、一部の不況に悩んでおります基礎素材産業とか石油化学産業とか、そういうところでは企業収益が大幅に好転するという可能性を持っております。また、電力産業などでは明らかに企業収益が大幅に伸びます。ですから、名目成長率で見ると低いにもかかわらず、法人所得の伸びを通しまして、五十八年度の税収がそう低くなるということは考えられないと思うのです。むしろ五十八年度予算の税収見積もりを検討してみますと、五十六年度、七年度に過大な見積もりをして、結果とずいぶん違いました。それでいろいろな非難を浴びた結果、その批判にこりまして、来年度予算につきましては見積もりがやや控え目に過ぎているのではないかと思われるのであります。私は、むしろもう五千億円ほど税収見積もりを高目に見てもいいのではないかというふうに考えております。
 残された時間で、私は五十八年度予算を議論する上で、現代の財政が持っている役割りとの関係を議論さしていただきたいと思います。
 中央政府の財政の役割りは、従来三つあるというふうに言われておりまして、第一が公共サービスを提供する、あるいは新しい時代に必要な公共サービスを提供すべくシステムを改善していく、こういうことであります。この点では行政改革の必要性が出てくるわけですが、五十八年度の予算から申しますと、そういう新しい八〇年代の社会的ニーズにふさわしい形で歳出構造が変わってきているとは申せない。行政改革は依然としておくれているのではないかというふうに思います。
 それから、第二番目の財政の役割りといたしましては、所得分配の公正を維持する。完全な悪平等はもちろん必要なことではございませんが、過度の不公正あるいは不公平を除くということが大切な役割りであります。この点では従来から言われておりますように、勤労者の所得税負担がますます増しておりまして、このままですと、アンダーグラウンドという言葉がございますが、地上でまじめにやっている人々の租税負担はますますふえ、経済のアンダーグラウンド化を強めてしまうのではないか。この点でも、五十八年度予算が、従来の税制のもとでひたすら税収増に努めているという姿勢は問題ではないかと考えます。
 それから、第三番目の財政の役割りは経済の安定化でありますが、これは先ほど来私申し上げておりますように、内外の不均衡を助長しかねない可能性を五十八年度予算原案は持っておりまして、この点で私は賛成できないと申し上げたわけであります。経済安定化という観点から考えますと、やはり当面の経済運営に関しましては、行政改革と財政再建という問題を分けて考えておく必要があると思います。行政改革は、やはり八〇年代あるいは九〇年代の公共財サービスのあり方を前向きに考えていく歳出構造の改革の問題であります。それから財政再建という場合には、やはり当面の財政赤字を減らすという問題に限局されるわけでありますが、これは生き物であります日本経済を相手にして、年々二兆円ずつ機械的に赤字幅を、あるいは赤字国債の発行額を減少させていくというふうなことは、財政の経済安定化効果を全く殺してしまうおそれがあると思います。
 私個人の意見としましては、先ほどの税収の見積もりがやや低目に過ぎるというふうなことをあわせ考えますと、今年度は財政赤字の圧縮が実現できなくても、当面所得税減税を一兆円程度行う。それから公的部門の投資的経費、主として公共事業になりますが、こういうものを少なくとも実質で前年並み、つまり五十七年度並みにして、過度のデフレ効果が出てこないように努力する。投資的経費で言いますと約八千億円の増加、これを考えるべきではないかと思います。
 そして中期的に見て、財政赤字の縮小に努めるといたしますと、そのためには当面の直接税が正常な比率を超えてふえていくという状況を改める、そのためのいわゆる直間比率の是正に努めるということが必要だと思いますが、当面それが増税につながるということは望ましいとは考えておりません。個人所得税中心の税制というもので日本の財政は賄ってきたわけですが、これは高度成長下で名目所得の伸びが大きい場合には、それなりの役割りを大いに果たしたと思います。しかし、今後予想されます中成長、あるいはインフレの問題が、それほどというよりはほとんどなくなって、名目所得の伸び率がかなり低い、つまり五とか六%というような状況では、所得税中心の税制では財政再建はおぼつかないのではないか、こういうふうに考えます。
 以上で、私の公述人としての陳述を終わらせていただきます。(拍手)
#8
○久野委員長 どうもありがとうございました。
 なお、森口公述人におかれましては、御都合により正午過ぎに退席を願いたいと申し出がありますので、御了承願います。
    ─────────────
#9
○久野委員長 これより公述人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。奥田幹生君。
#10
○奥田(幹)委員 公述人の三人の先生方には、大変有益な御意見をお聞かせいただきましてありがとうございました。
 そこで私は、防衛問題について御意見を聞かせていただきました丸山公述人に二、三まず最初にお尋ねをしたいと思います。
 先生が言われました、日本の防衛はわが国自身の問題であって、自主的にやるべきであるというお話はまことに私も同感でございます。
 そこで、まず「防衛計画の大綱」これが五十一年の秋に、当時の坂田防衛庁長官時代につくられたものでございますが、それに基づきまして、五六中業がいよいよ新年度から五年間でスタートするわけでございます。この五十一年と申しますと、まだデタント時代でございまして、たしかデタントの末期ではなかったかと思います。したがって、当然、問題になりましたポーランド問題でございますとか、あるいは五十四年の暮れに起きましたソビエト軍のアフガニスタンへの侵入あるいはまたわが国の北方四島へのソビエト軍の増強、こういうような問題はまだ起きておらなかった時代でございます。言うなれば世界全体が、服装にたとえますと夏物、夏服を着ておった時代ではなかったかと思うのですけれども、そういうときにつくられましたこの防衛計画大綱が、今日の時点でもまだ十分であるというようにお考えになっておるのかどうか、これがまず一点でございます。
 二点目は、先月十七日に中曽根総理が訪米をされました。翌十八日に初めての中曽根・レーガン会談が持たれたわけでございます。私も随員の一人としてお供をいたしましたけれども、その首脳会談の途中から同席をされた向こうのワインバーガー国防長官から、日本の海の守りは手薄なんじゃないかというような発言が出たわけでございます。調べてみますると、ワインバーガー長官は去年の三月日本にやってきまして、当時の伊藤防衛庁長官と会談をいたしましたその席でも似たような御発言があるわけでございます。ソ連の脅威の圧力に対抗する十分な抑止力が必要である、こういう前提に立って、ここでは特に対潜能力、それから防空、これの増強が必要であるというようなことが述べられておるわけでございます。
 日本も現在P3Cが八機しかない。それを今度の五十八年度では三十二機にふやしたい。そうして五年計画で七十五機にまで持っていきたいというような計画もあるわけでございますけれども、なるほど地形から見ますると島国でございまするし、そうして資源を持たない、ほとんど外国から輸入しておるというような、そういう特殊な日本であるということを考えますると、そうなのかいなというような感じもするのですけれども、果たして事実どうなのか。かつて防衛事務次官までお務めいただき、いまは第三者の立場におられる丸山公述人といたしましては、こういう点をどう見ておられるのか、お伺いをいたします。
#11
○丸山公述人 お答えを申し上げます。
 第一番目の「防衛計画の大綱」は、昭和五十一年に制定されたものでございまして、先ほど私申し上げましたように、これはその前文に書いてございますように、日本の周辺の情勢が余り変わりがない、また国内の事情も余り変わりがないということを前提につくり上げたものでございまして、またしかも、必要最小限度のものでございまして、一応平時における警戒態勢は十分できるようにしたい。独力で対処できるのは限定的かつ小規模な侵略までである。それ以上の侵攻に対しては、もちろんアメリカの支援を得なければならないわけでございますけれども、そのアメリカの支援を得るまで抵抗を継続しなければならないわけでございますが、その抵抗を継続できる、有効にできる態勢ということを一応前提にしておるわけでございます。
 そこで、申し上げましたように、まずこの考え方がそれでよろしいのかどうかという問題がございます。いろいろただいま先生から御指摘ございましたように、その後においてかなり大きな国際情勢の変化がある、その点をやはり前提として見直しをする必要はあるのじゃなかろうか、これは私もそう考えております。ただ問題は、「防衛計画の大綱」それ自体の達成ということが五六中業の目標になっておりますので、まずやはり早くこの「防衛計画の大綱」の水準まで到達することが必要でありますし、また同時に、わが国の防衛力の欠陥というものもよく知っておく必要があるというふうに思います。
 二番の問題と重ねて申し上げるようなことになるわけでございますが、実は「防衛計画の大綱」の防衛庁原案は、海につきましては五個護衛隊群――護衛隊群をもう一個多く要求を出しておりました。で、財政当局との間に調整がつきませんで、この五十一年の最後の国防会議、ここで直接両大臣間で折衝が行われました。その結果、当面四個護衛隊群でいこう、五個護衛隊群にすることは財政の負担が大きくなるので、とりあえず四個護衛隊群でいこうということで、現在の四個護衛隊群になったわけでございますけれども、これは現実には即応態勢の一個護衛隊群を意味するわけでございます。
 御案内のように、海上自衛隊の船は定期にドックに入らなければなりませんし、そのほか乗員の訓練、その他いろいろな諸条件によりまして、常時態勢というのは、この四個護衛隊群持っておりますと一個護衛隊群の即応態勢ということになるわけでございまして、もし五個護衛隊群にいたしますと二個護衛隊群が即応態勢をとれるということでございまして、このわずか一個護衛隊群でございますけれども、その持つ意味は非常に大きいのでございます。
 したがいまして、私は、やはり大綱自体がこういう形で決まっておりますので、できるだけ早い時期に大綱それ自体の見直しを早くしていただく必要がある。それから、その後の新しい事態に対応いたしましていろいろ戦訓も取り入れる必要があると思うのでございます。特に今回のワインバーガーの報告書の中にも出ておりますけれども、フォークランドの紛争による戦訓というものを非常に高く評価しておりまして、そこでわが国の海上自衛隊の現状を見ますと、最近よく問題になっておりますシーレーンでございますが、シーレーンの防衛のためには、洋上防空に対する配慮は全然しておりません。この大綱におきましては洋上防空を考えておりません。わが国の航空自衛隊は本土の防空だけを考えておるわけでございまして、こういう点は新しく整備をしなければならない機能であると思います。
 私は特に専門家でございませんので、すべてにわたってレビューをしておるわけではございませんから、気がついたところだけ申し上げておるわけでございますが、とりあえずそういった点についての整備を含めて見直しをすべきではないかというふうに考えております。
#12
○奥田(幹)委員 ありがとうございました。
 川田先生に、同じく防衛問題について伺うのですが、先生は六・五%前年比の伸びにつきまして突出は残念だという意味の御意見をお述べになったように記憶をしておりますけれども、なるほど国内だけを見ておりますと、非常に財政も、それから一般の中小企業、経済界も厳しい、こういうような中での六・五%でございますから、先生のような御意見も出ようかと思うのですけれども、国際情勢を見ますると、これまた非常に厳しい情勢の中で、自由圏は何とか自由社会を守ろうとしまして、やはり国防予算に無理をしておるわけなんです。NATOが目標三%、それから去年の夏に私オーストラリアに参ったのですけれども、あそこも南半球で非常に地形的には恵まれておりますけれども、やはり自分の国は自分で守らなければならぬということで三%の国防予算を組んでおります。そういう中で日本だけが、六・五%といいましてもGNPから言いますると一%弱というような数字でございまするけれども、みんなが、自由諸国が力を合わせて何とかひとつ、それぞれ北からの脅威に対処しなければならぬと言っておるときに、それでもなお六・五突出だというような御意見なのかどうか、国内だけを見られてそういう御意見なのか、これを承りたい。
 それからもう一つ、恐縮ですが丸山公述人に、かつて防衛事務次官をやっておられた御体験からお伺いをするのですけれども、何でも六・五の予算の伸びは突出だ。それが高じて、ひいては防衛庁は国民の意識からかけ離れてひとり歩きするんじゃなかろうか。昔陸軍いま何とかと言われましたが、そういうかつての陸軍のような歩みを続けるんじゃなかろうかという心配が一部にはあるように思うわけなんです。もっともっと防衛庁自身が国民の合意と理解を得るような努力をしてもらう必要があるのじゃなかろうか。ここに拝見をいたしました「自衛隊とびある記」なかなかよくできておりますけれども、こういうような、あるいはそのほかに防衛白書、その程度のものでは足りないのじゃなかろうかという気持ちを持つのでございますが、以上についてお尋ねをいたします。
#13
○川田公述人 時間がございませんので簡単に申し上げます。
 私の基本的な国際政治情勢の見方、間違っているかもしれませんが、もちろん力と力の権力闘争という側面は非常にありますけれども、しかし現在は、むしろ世界経済危機の方が当面深刻である。それから日米関係についても、日米経済摩擦の方が深刻であって、防衛費を上げよということをアメリカが表向きは言っていると思いますけれども、深刻さは私は日米経済摩擦の方にあると思います。
 それから、力と力の関係について、ソ連の軍事力の方が上回ったということは丸山先生の御発言にありましたけれども、上回ってないというのが私の評価であります。私はソ連は毛嫌いして余り行ったことがないのですが、ある学会の関係で、昨年と一昨年科学アカデミーの招きで行きましたのですが、そのときに向こうの人とアフガニスタン問題、ポーランド問題についても率直に話し合いましたが、先ごろのイスラエルの進攻においてソ連製の武器が非常に劣っていたということについてはどう思うかと言われて、事実は示すとおりであってソ連の方が数段おくれているということをわれわれは認めざるを得ない。それから経済も非常に悪いというわけで、モスクワに行きましても、科学アカデミーの最上級の人が住むべきビルディングをつくっているわけでありますが、これも財政破綻でしょうか、野ざらしになったままになっていて、経済力においても非常に問題が出てきておるということはソ連も認めているところであります。
 それからさらに、現在われわれは毎日敵と話し合っているということを言っておりましたけれども、現在モスクワにいる外人の中で一番多いのは西ドイツ人である、西ドイツの技師であると言われているほどであって、いま非常に活発な東西経済交流が行われておる。つまり東西対立の中で細細とした西ヨーロッパとソ連の経済交流ではなくて、いまはもうオープンな、開放的な経済相互依存体制に西ヨーロッパとソ連、東欧圏が入った。これは貿易だけじゃなくて、御承知のとおり資金においても大変な交流がある。それからパイプラインにおいても、チェコスロバキア、オーストリアを通ってソ連の天然ガスその他が全西ヨーロッパに供給されるようになって、これはますますふえるであろう、こういう決定的な趨勢は動かしがたいのであって、ソ連、東欧との間にも経済交流、文化交流を軸とした平和な交流を進めていくことが日本の安全に寄与する道であって、ここで日本が力をもって国際平和に貢献しようとするのではなくて、経済その他文化交流によって平和に貢献していくという基本的な姿勢を失うべきではない。そういう意味において、やはり今回の防衛費は突出であり、残念だというふうに私は申し上げたわけであります。
#14
○丸山公述人 ちょっと余分でございますが、私先ほど申し上げましたのはアメリカとソ連の総合的な軍事力の比較でございますが、アメリカは、ソ連が凌駕しているというふうに言っておりますけれども、私はそうでないということを申し上げたのでございます。やはりアメリカ側が優位であるというふうに思います。レーガン大統領がみずから劣っているということを強調することは、アメリカが同盟国に対して与えておりますコミットメント、抑止力を弱くする結果になるわけであって、私は余り賢明な方法ではないと思います。ただ問題は、ソ連がアメリカより優勢になったというふうに思い込むことが問題でございます。それが政治的に転嫁するおそれがある、こういうことを申し上げたわけでございます。
 いまの予算の問題でございますが、私は先ほど時間がなくて御説明できなかったのでございますが、実は今度の五十八年度の予算、これは非常にできが悪い予算だと私は思っております。できが悪いのに賛成するのはおかしいじゃないかということかもしれませんが、私は逆の意味でできが悪い、と申しますのは正面経費。御案内のように防衛予算の一番軸をなしますものは正面の装備、正面経費でございます。その正面経費も、歳出と後年度負担を合わせましたいわゆる契約権限額でございます。これはことしの予算の中では六千七百九十九億、約六千八百億でございますが、この数字は昨年度が八千四百六十一億だったのでございまして、一九・六%の減になっております。結果的には、主だったものは、たとえば七四式戦車が七十六両が六十両、それからP3Cが十機の予定が七機に落ちましたし、それから戦闘機のF15が二十機が十三機に落ちておる、こういうことでございまして、今後、先ほど申し上げましたいわゆる五六中業の目標を達成するということになりますと、五十九年度以降実質の伸び率二六%を保たなければ達成できないということでございまして、これは防衛庁としては今後えらい努力をしなければならないというふうに私は心配しておるわけでございます。
 今回の予算の中で、この正面経費に入っておりませんもので、いわゆる自動警戒管制組織、航空自衛隊のバッジでございますが、これが正面経費以外の分で入っておりますので、中身としてはそれほど問題にするべきではないかもしれませんが、正面経費については問題があると思います。
 それから、長くなって恐縮でございます。広報でございますが、これも御指摘のとおりで、私どものアイデアでいろいろ考えまして大変拙劣でございまして、これについては国民の御理解を得ることを大いにしなければいけないというふうに考えております。
#15
○奥田(幹)委員 どうもありがとうございました。
#16
○久野委員長 沢田広君。
#17
○沢田委員 諸先生にはお忙しいところ、大変御苦労さまであります。きわめて時間が限られておりますので、お答えも簡潔にお願いをいたしたいと思っております。
 川田先生、大変貴重な御意見をいただきましたが、この緊縮財政が財政再建という立場で続いていくと、やはりどうしても景気が不況になり、失業者がより多数生まれてくるというような条件を生み出す嫌いがあると思うのであります。それに対応するお考えがあったら、ちょっとお聞かせいただきたい、そう思います。
#18
○川田公述人 大変むずかしい御質問ですが、私個人の意見ですが、産業その他農業に対する助成金などで、削ってもいいようなものが削られてないというような面もあると思うのですね。それから歳出の中のむだを削減することについて非常に徹底していない。ですから、そこのところをもう少し徹底すれば、いま先生のおっしゃったような景気回復に充てるべきところをふやすことができる。全体としては緊縮予算でも、予算の配分方法いかんによると思います。
 それからもう一点は、非常に重要な点だと思いますが、一年や二年で景気が回復するような経済では最近はないというのが私の認識で、非常に長期的な不況になっているということでありますから、しっかり腰をおろして、世界不況にじっくり中長期的な視点で対処すべきであるというように考えます。
#19
○沢田委員 同じく川田先生でありますが、経済援助の問題は、わが国の安全という立場にとってもきわめて必要な要件である、そのことは理解できるのでありますが、ODAのやっておる仕事あるいは二国間の経済援助あるいは民間の借款、そういうものを見ましても、この評価と中身の吟味というのが、きわめて靴の上からかいているようないら立ちをわれわれは覚えるわけであります。なかなか実態がつかめない。これは会計検査院もなかなか手が入らないというような状況でありまして、いろいろなものがあるらしいということは言えるのでありますが、なかなかその実態をつかんで、それをこの国会なら国会で議論するという場がないのであります。先生の御意図として、この評価なり中身の吟味に何かうまい考え方というものがあるかどうか、専門の立場で教えていただければ幸いだと思います。
#20
○川田公述人 私も細かい点についてはわかりません。私自身は、マレーシアとかスリランカに現地調査をして、日本との経済協力の現地も見てまいりましたのですが、もちろん外務省や通産省が非常に声を大にして言っているように、最近は農業重視、食糧重視、人づくり重視という面があって、個別的なケースでは非常にじみちにやっている面があると思うのですね。しかし、たしか世上に非常にうわさされているように、必要ない大型プロジェクトがあるのではないか、日本の企業を利するようなものが入っているのではないかという批判があることは、これはもう耳を覆いがたいものがあるわけでありますので、私はそれは国会のチェック機能ということで、われわれが文書で書いて批判しても、われわれの機能というのは非常に限られておりますので、国会こそそういう機能を発揮すべきである。それから外務省や通産省も、そのいろいろなプロジェクトを克明に経済協力白書などに出しているわけでありますけれども、あれだけでは確かに素人ではよくわからない。ですから、あれを実際にどういうふうに行われているかを説明する、その説明会のようなものを開いていただければ、われわれは納得できるのではないかと思います。
 それからもう一点、やはり民間の非営利団体の開発協力というものが、アメリカにおいてもヨーロッパにおいても非常に重視されてきたということです。それから世界銀行や国連やOECDでも、グラスルーツの本当の援助にならないという点に、もう数年前から世界銀行などでは全く苦慮しているわけなんですね。それは機関そのものが考えるだけでなくて、やはりそういうことに実際に携わっている民間のエネルギーを活用する、そういう点で私は重層的経済協力というふうに申し上げたので、これは私はヨーロッパだけではなくて、ぜひ日本でも行われるように国会あたりでもチェックしていただけるとありがたいと思います。
#21
○沢田委員 森口先生にお願いしますが、これからの景気不況の打開のためには、ざっくばらんに言いますと財投、建設国債。ですから赤字克服に対しては若干長期になっても、簡単に言うと長期になっても、ある程度の財投なり、あるいは公共事業なり、そういう意味を含めて投資をしながら仕事をつくって景気の回復を図る方が望ましい。そのことが同時に民間の活力なりあるいは所得、税金の増収につながるというふうな意味にお話しになったのではないかと思いますが、その点いかがだったか。
 それからもう一つは、直間比率の是正に対してのやり方、所得税は確かに下げなくちゃいかぬのですが、その代替はどういうものをお考えになっておられるか、あったらお答えいただきたいと思います。
#22
○森口公述人 お答えいたします。
 私は、当面の景気対策としては、やはり所得税の減税と、それから公共事業規模を過度に収縮させるということは望ましくない。拡大は無理かと思いますが、公共事業につきましては前年度並み、これは実質でやる、そうしますと予算原案で考えているよりは相当の、五千億円から七千億円程度の増加が必要だと思います。中期的に見ますと、やはり財政再建というのは大事なことは大事であります。しかしそれは今後の景気回復と、それから国際協力を含む新しいいろいろな負担があるわけですね。それを国民各層が前向きに考えて、喜んで必要な負担は負うという意識がはっきりしてから、あるいはするように努力をした上でやるべきだ、こういうふうに思います。
 それから次の直間比率の問題ですが、やはり現在の所得税の機構ですと、雇用のふえている部分が短時間労働者とかいろいろな弾力的な形に変わっておりまして、その辺からなかなか税収が上がらないのです。それからだんだんとストックの時代に入ってまいりますと、人々の経済的な余裕あるいは社会のだれが強者で、だれが弱者かという判断は、働いて幾ら所得を得ているかということよりは、幾ら使っているかということの方がはかりやすいと思うのです。支出面でよく使う人がやはり負担を多く持つべきである、こういうふうに考えますから、やはり間接税による増収を図る、これが一つです。もう一つは、現在利子所得優遇制度というのが非常に根づいておりますけれども、私はこれもタブー視しない、あるいは聖域視しないで考え直すということが必要かと思います。
#23
○沢田委員 最後でありますが、あと関連して小林委員の方で質問いたしますが、シンガポールあるいは韓国あるいはマレーシア、国民所得一人当たりの割合で言えばやや中進国的なところに該当すると思うのですが、川田先生の言われた四十億ドルの韓国援助などは、その中進国の援助の必要のない分の最たるものだといった意味に受け取られたのでありますが、そのように受け取っていいのかどうか、お伺いしたいと思います。――首を縦に振っておられますから、そのとおりだという意味だと思います。
 最後に丸山先生、あと小林委員の質問がありますから一分ぐらいで終わらせますが、こういうふうに軍備軍備と、これだけをやっておられて、日本は、食糧の自給率あるいは石油資源、そういうものが一方に欠落しておって、戦車があって飛行機があって艦船があって、石油がなくてどう動くのだろうか。あるいは食い物も三二%ぐらいの自給率しかなくて、果たしてこの島国の中で鉄砲を持って何で戦うのだろうか、われわれ素朴な疑問を持つのです。それよりも、そういうことでなしに、やはり平和を求めていくという積極的な努力の方がより価値が高いのじゃないかというのが社会党としての考え方なんでありますが、その点は、先生は私から見ると、ばかに戦争屋みたいな感じに感じてしまうのでありますが、率直にひとつ御意見をお伺いしたい。
#24
○丸山公述人 先ほども申し上げましたように、防衛力というものは平和維持のために必要なんだということの観点から申し上げておるわけでございまして、たとえばエネルギーの問題でございますと、自衛隊で消費をいたしますエネルギーは、現在は日本の総消費量の一%以下でございます。問題は、そのエネルギーの国の備蓄ということが大事であると思います。
 ですから、総合安保という言葉で言われておりますように、エネルギー、食糧あるいはその他の資源、こういったものはすべて海外に仰いでおるわけでございますけれども、やはり経済変動その他に対応する問題――脅威というものは必ずしも軍事的なものだけではないわけでございまして、総合的に考えて国の備蓄を進めるべきだという施策が現在進んでおるわけでございまして、私は、そういう施策はまさに国の防衛ということとうらはらになるということで、大変歓迎すべきことではないかと思っております。
#25
○沢田委員 どうもありがとうございました。
#26
○久野委員長 小林進君。
#27
○小林(進)委員 丸山先生、どうも久しぶりでございました。きょうは、もうあなたは防衛庁ではございませんから対決の必要はない。私はあなたから教えていただくために三点ばかり、関連でございますが、ひとつ質問させていただきます。
 一つは、マクナマラ、シュレジンジャー等アメリカの防衛庁長官のお話が出ましたけれども、このお二人、それにケネディ等も含めて、レーガンさんとは考えが大変違うようでございます。マクナマラさんは、核については核先制不使用をアメリカ政府は宣言すべきじゃないかということを強く主張しておられるが、こういう点をどうお考えになるか。私もその後しばしばこの両氏には会見いたしておりますが、これは非公式ですけれども、日本はレーガン政府の要求に応じて防衛力を増強すべきじゃない、むしろそれは米ソの対立を強めるだけで、日本のためにもアメリカのためにも不幸なことだということをしばしば言われておったのでありますが、これに対する率直な御所見をひとつ承りたい。第一問であります。
 第二問は、これもほんの限られた時間ですけれども、明治憲法と平和憲法に対する国の防衛という問題であります。
 明治憲法では、陸海空三軍はだれを守るか。これは、国を守るのでもなければ主権を守るのでもない、天皇を守る。大君の辺にこそ死なめ、われわれは大君のためにこそ身を鴻毛の軽きに置いて死ぬのだ。実に憲法は明白でしたよ。だから終戦のときも、やはりみんなどうして終戦を迎えるか、天皇御一人の身に危害が加えられるか、変化が加えられるか、それが守られるならば、国民はどうでもいいとは言わぬけれども、無条件降伏してもよろしいという、最後の一点がそこにあって、旧憲法は明確だった。軍隊も何でも天皇のためにこそ、われわれは大君のためにこそ辺に死なめ。ところが新憲法になったら、さて自衛隊はできたが、だれのために死ぬのか、だれのために国を守るのかという点が非常に不明確ですね。この教育が徹底しなければ、何のために自衛隊をつくって大きな金を毎日使っておるのかわからないのですよ。私はしょっちゅう、それを毎日あらゆる人の意見を聞いているのです。これはみんな意見があるのです。
 それで、私の意見ですけれども、天皇に成りかわって今度この日本国の新しい主権者になったのは国民じゃないか、国民だ。だから、もしこれを厳密に考えていけば、天皇の辺にこそ死なめは今度は国民の辺にこそ死なめという形に変わったのだから、防衛も自衛隊も目的は国民の生命、身体、財産。天皇にかわって国の一番中心は国民なんだから、国民の命を守るというふうにきちっと姿勢が変わってこなくちゃならぬ。それが出てこない。出てこないから、どうもその国民の命を守るということが、ともすれば、日本を不沈艦にして日本列島が沈まなければ国民の命はどうでもいいと思われるような、そうとられるような主張が出てくる。この点はいま一度、旧憲法は天皇のために死ぬのだ、新憲法は国民のために死ぬのだというふうに、ここをひとつ明確に位置づけるべきだと私は考えます。この点いかがでございますか。第二問であります。限られた時間でございますから、私はあなたからお教えいただきたいのでございます。
 第三問は、アメリカのワインバーガーが去年の三月に秘密に署名したというアメリカの防衛指針というものがあります。その防衛指針によりますと、アメリカ軍が一番重要で守る地区はやはり北米、それからヨーロッパ、NATO、それから湾岸地区、いわゆるペルシャ湾、それから南西アジアということですね。これがアメリカの国防軍が重点的に守るところだ。アジアとか日本は重点地区じゃないのですね。アメリカの国防軍が守る重点地区じゃない。それで、このアジアや日本海、こういう地区に対しては、地域の同盟友邦諸国と相携えて、友邦諸国というのは日本であることは間違いありません、相携えて、そうしてソ連とベトナムの勢力が、いわゆる重点地区のあるNATOや北米や湾岸地区、ペルシャ湾の方へ行くのを防ぐために、日本の沿岸やその地区における弱い地点を、われわれがそれを阻止するために日本にその任務を分担してもらうのだ。その話を詰めるために、いわゆるパートナーシップを特に緊密化させよう、その要件を帯びてワインバーガーが先般日本へ来たのだということ、これはアメリカの秘密の指針の中に明らかになっておる。これは明らかに、日本はアメリカの世界戦略、特に対ソ戦略の一環に組み入れられて、そしてウラジオストクやベトナムや朝鮮半島、ともかくここへソ連軍をくぎづけにしておくという役割りを分担させられるということを、この指針は明らかにしているのじゃないかと私は考えるわけでありますが、いかにお考えになっておりますか。
 実に限られた時間でございますから、駆け足で三つだけお伺いしておきたいのであります。
#28
○丸山公述人 私も詳しく知っているわけではございませんで、新聞の報道を見た程度でございますので、あるいは間違ったことを申し上げるかもしれませんが、あらかじめ御容赦願いたいと思います。
 まず第一番目のマクナマラ、シュレジンジャー、それからジョージ・ケナンとか、こういったグループだったと思います、これは御案内のように、元国防長官をやられた方々で、いわゆる軍政的な問題についての専門家でございます。核の先制使用という戦略を改めたらどうだというのがその趣旨でございまして、この点は、いわゆる核の抑止効果というものを考えて核の先制使用ということを言っておるのでございますが、先ほどもちょっと私触れましたように、核兵器それ自体は非常にパラドックスを持っている兵器である。つまり、核は抑止をねらって使える一種の政治的な兵器であるわけですが、ただし、政治的な兵器だといってほっておいて、これが使えなくなってしまうと今度は抑止効果がなくなるということで、絶えず使える兵器と政治的な抑止力の維持ということと、この間を行ったり来たりしているのでございます。この間のパーシングを配備するにしましても、これは、パーシングというものの存在は、使用するために配備をするのではなくて、配備するためにやるんだ、つまり抑止の道具として配備するために配備するんだ、こういう言い方をしております。そういうことで、大変申しわけございませんが、実は私もよくわかりません。
 ただ、ここでマクナマラ、シュレジンジャーが言っておりますのは、そういう核兵器ということではなくて、やはり通常兵器のバランスというものを優先して考えるべきじゃないか。それがアメリカの――特にこれはヨーロッパを指しておるわけでございますが、NATO、ワルシャワ条約の均衡を保つということは、核によって保つのではなくて通常兵器によって保てというのが、その趣旨のように承知をいたしております。
 それから、第二番目は全くおっしゃるとおりでございまして、私ちょっと原文を持っておりませんので間違っているかもしれませんが、自衛隊法の第二条には明確に国民の生命、身体、財産を守るということを書いてございます。自衛隊の教育はまさにそれを中心にして現にやっておるのでございます。ですから、二番目はもう小林先生のおっしゃるとおりだと思います。
 それから、三番目の防衛指針、例のガイドラインでございますけれども、これはニューヨーク・タイムズか何かがリークをして、まだ政府は認めてないようでございまして、私もよく中身は、小林先生の方がよく御存じでございますのであれでございますが、ただ、ことしのワインバーガーの柔軟戦略というのを見ますと、例の空母の配備につきまして、いま御案内のように現役の空母が十四隻、それから練習用の空母が一隻ということで、将来アメリカが目指しておるのは十五タスクグループ、機動グループをつくり上げるということを目指しておるわけでございまして、とりあえず当面の運用として北大西洋、それから日本海、これはいままでのところは年に一回ぐらいは入っておるわけですが、ここに対するプレゼンスの度合いを高めるということを言っておるわけでございまして、ガイドラインの方とちょっと矛盾するようなことでございますが、現実はそういう方向が出ております。はっきりしたお答えにならなくて恐縮でございますが、そういうふうに見ております。
#29
○小林(進)委員 大変どうもありがとうございました。
#30
○久野委員長 草川昭三君。
#31
○草川委員 公明党・国民会議の草川昭三でございます。三人の先生方に、大変貴重な御意見を拝聴いたしまして厚くお礼を申し上げます。
 まず最初に川田侃先生にお伺いをしたいと思うのでございますが、いまお話しの中で、ODAの経済協力を量的、質的にも拡充をすべきだ、しかも民間の協力というお話もございまして、全く私も同感でございます。私も、バングラデシュ等を初めイエメンとか中東のいろいろな国の実情を見てきたわけでございますが、現地の青年協力隊だとか専門家の方々の涙ぐましい努力というのもあるわけでございますが、日本の国内企業で任務終了後の受け入れ状況というのが非常に悪いわけでございます。御案内のとおり年功序列型でございますし、終身雇用でございますから、何か一元的ないい方法はないだろうかと私どもかねがね思っておるのですが、先生の御意見があればお伺いをしたいと思います。
 もう一つ、第二番目に、国際金融の不安についていまも大変話題になっておるわけでございます。先生も御指摘になっておられるわけですが、実はアメリカなりヨーロッパの銀行が巧妙に債権の回収を図っておる。米英の中央銀行が、日銀を通じて日本に役割り分担というのですか、一行当たり一億ドルぐらいの追加融資を求めている。早く言うならば、日本だけがいま一番損、こういう言い方は非常に悪いのですが、割りを食っておるという現状があるやに思うわけでございますが、その点についての先生の御意見を賜りたいと思います。
#32
○川田公述人 第一問についてお答え申し上げます。
 一問については、非常にむずかしい御質問なんですが、たとえば西ドイツなどでは経済協力は一本にしぼっておりますけれども、日本の場合には外務省とか経済企画庁とか通産省とか、ばらばらになっているというところにも問題があるのか、あるいはばらばらの方が逆に経済協力を重層的に行うためにはよいのか、私はまだ結論が出ません。
 それから、青年協力隊その他民間のボランティアのような活動は今後ますます大きくなり、恐らくそれが南北をつなげる一つの核心のようなものになりつつあるのではないかと思います。ですから、青年協力隊は、これは公の資金を使っているわけでありますが、いまの御質問は帰った後の就職ということでございますが、いずれにしても実際に働いている人を遇するという方向に経済協力が大転換すべきであって、ボランティアはボランティアであるからボランティア活動に任せればいいという時代ではないのであって、やはりヨーロッパやアメリカのようにNGO協議会、これはヨーロッパなどで政府がつくっているわけですが、NGO協議会というのを政府とNGOとの間につくることによって、資金も流すし情報も流す、つまり国民が全部経済協力に参加できるような体制にするということが非常に重要ではないかと思います。
 それから第二点につきましては、私も素人ながら非常に心配なんですけれども、現在、世界の民間商業銀行が貸し付けている額は四千億ドルになった。これは南の国の総債務の約半分を占めた。これは、一時多国籍企業がチリでかなり政治に介入して、多国籍企業の支配ということで憂慮すべき状態があるということが指摘されて、多国籍企業をいかに規制すべきかという問題になったわけですが、現在はそれと全く形の異なった従属の問題が出ている。つまり、世界の先進工業国のほとんどすべての有名な銀行が、南、これは南だけじゃなく先進国にも貸しているわけですけれども、これをどうするかという問題、私は、やはりこれは人類がかつて経験したことのない問題だと思うのですね。ですから、これを過度にあふり立てて危ない危ないと言うのではなくて、やはり慎重にこれに対処していかなければならない。
 私は、どうしてこういう問題が起きたのかというと、一つは、つまりいま一次産品市場も非常に悪い、それから、アメリカの高金利にあふられて借りた金がどんどん累積するという問題があると思うのですね。そのほか、不況なものですから国内には貸し出しできない。貸出先が少ないために国境を越えて貸し出しをするというところで、銀行の間に競争状態が起きた。いわば非常に乱暴なオーバーレンディングが起きた。ですから、債務国の方がオーバーボローイングしたのではなくて、先進国の銀行がどんどんオーバーレンディングした結果としてこうなってしまって、いまこれでは回収できないというので逆にアンダーレンディングをやって、メキシコのような状態が現出している。
 ですから、ここまで来たら、IMFとか公的な国際金融機関、それから日本で言えば大蔵省とか、そういうものが衆知をしぼって、カントリーリスク論というようなことをやっているのではなくて、むしろ国としてあるいは国際的に体制を整えて、警報システムなり情報交換をする。もちろん私的な、商業銀行同士が情報も交換しなければいけないと思います。
 それから低開発国、特に中進国がいま問題でありますけれども、そこには経済運営の節度を求めていく。これは、IMFが介入してくれば自然にコンディショナリティーが働きますから、経済計画をIMFに提出するということになって節度が出てくると思うのですけれども、もうすでに御承知のとおり、アメリカでもペン・スクエア銀行が破産するとか、西ドイツでは大きな電機企業がつぶれるというようなことで、銀行それ自体は国内の倒産にエネルギーを相当費やさなければならないところにもってきて、この国際的な大金融不安が起きておりますので、一体これをどう切り抜けるのか。日本政府なり議会は、わりにそういう国際問題はアメリカに任せておくということで御議論なさらないと思うのですが、私、そこには非常に危険があると思うのですね。やはり日本も、世界の経済体制をどう立て直すか、それから国際金融通貨体制をどう立て直すかということが現在非常に問題になっているわけで、現在は非常に浮遊した状況になっておりまして、IMFが実質的に機能を喪失した後に、七五年のランブイエのサミット会議と、それを受けて七六年のキングストンでのIMFの委員会において、要するに管理フロートでいこう、しかし管理フロートでいこうということは国際的に決まりましたけれども、その管理フロートが有効に動いていない、管理フロート制になっているにかかわらず為替相場は物すごく乱高下している。それから、ユーロ市場を中心にして短期の資本が急激かつ大量に移動するというような状態が起きておりまして、きのうこの点は盛田さんも御指摘になったのだと思いますが、私は、これはもはや金融界だけに任すべき問題ではなくなったという認識でございます。
#33
○草川委員 もう一遍済みませんけれども、いま追加融資を求められておるわけですが、やはりそれは応ずるということが国際的には必要かどうか。
#34
○川田公述人 私はやはり必要だと思います。いまここでアンダーレンディングになりますとむしろ国際金融不安が過激に続発するので、ブラント委員会もこれは先を見越して非常に心配して、そのこともブラント報告は言っておりますが、中所得国は最貧国とは違った非常に経済困難に押しやられている。この中所得国に対しては、つまり日本で言えば海外経済協力基金のような公のお金ではなくて、私的な商業銀行がそこに貸し出しを続けていくような世界的な体制を整えよう、こういうふうに言っているわけでありまして、私は危なくなったから引き揚げればもっと危なくなると思います。ですから、これは慎重に対処すべきであると思います。
#35
○草川委員 どうもありがとうございました。
 続いて丸山先生にお伺いしたいのですが、ちょっと私は違う立場から隊友会のことについてお伺いしたいわけでございます。
 実は自衛隊の退職者の方々の就職を私どももずいぶんいろいろとお願いをしたり、あるいは協力をしたりしておるわけでございますけれども、実質的には退職予定の自衛官のお仕事は地方連絡本部の援護課の方々がやっておみえになるわけです。それで、いま丸山先生はたまたま隊友会の援護本部という形になっておりますが、隊友会の中には支部がありますし、連合会もあるわけです。そこで改めて援護本部というものをつくられて、さらにこの援護本部で各支部の運営をなさろうとしておみえになるのですが、それは重複するのではないか、こう思うのですが、それはどのようでございましょうか。
#36
○丸山公述人 大変紛らわしい組織になっておりますので、ただいまの先生御指摘のような御疑問が出てくるかと思います。御指摘のとおり現在までは地方連絡部がやっておりますが、しかし、これは数の少ないときでございますと、いわゆる縁故紹介といいますか、その範囲のもので足りたのでございますけれども、来年から五十九年、六十年以降、六十三年が一つのピークになりますけれども、停年退職者につきましては在来の三倍になるわけでございます。と申しますのは、昭和二十九年当時、陸は三十万を考えておったのでございまして、当時それに見合う幹部要員を採用いたしまして、ちょうどそれが三十年後そろって退職をする。しかも、ここ数年停年延長をやっておる関係で、それが全部合わさって出てくるということでございまして、在来の就職あっせんではとてもこれに対処し切れないというので、そこで労働大臣の御認可を得まして無料職業紹介事業ができる資格を取りまして、それで始めているわけでございます。
 それが援護本部でございまして、援護本部の置き場所を隊友会の中に置いている。つまり、新たに法人をつくるということは、いまの行革の全体のあれから見て好ましくないので、隊友会にひさしを貸していただいてそこへ援護本部を置く、こういうことにしていただいたのでございます。それで、援護本部の方の支部といいますのは、現在東京と福岡と札幌、仙台の四カ所でございまして、今度の予算では広島を入れていただいておりますけれども、近く全国で七カ所できるわけでございまして、隊友会の支部とは全然違います。別物でございます。隊友会のひさしを貸していただいて、そこに援護本部というものを置いておる、こういうことでございます。
#37
○草川委員 ありがとうございました。
 森口先生に最後に一問だけでございますが、先生も財政の役割りというものについてお述べになったわけでございますけれども、財投の方の役割りも今日的には再検討すべき時期になったのではないか。従来の資金運用部にだけ頼る財投についての考え方はどうかということについて、先生から御意見を賜りたいと思います。
#38
○森口公述人 おっしゃるとおりでありまして、原資になる資金運用部の資金も先細りの傾向が少し見えてまいっておりますし、それを運用する特殊法人はずいぶん整理の必要があると思います。そして、将来は民間の活力を生かすためにも、政府の歳出でかかるお金というのは大したことはないのですが、むしろ許認可権を縮小して、それによって民間の活力を引き出す、そしてなお資金運用部の資金でやらなくてはいけないことがあれば、郵貯の方も縮小が望ましいと思うのですが、それを弾力化した債券市場で資金調達をしてやる、そういう方向が望ましいと思います。
#39
○草川委員 終わります。
#40
○久野委員長 岡田正勝君。
#41
○岡田(正)委員 森口先生が十二時に退場ということでございますので、森口先生から先にお尋ねをさせていただきたいと思います。また、三人の先生方には大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございます。民社党の岡田であります。
 それでは、先生、三つまとめて質問させていただきますので、お時間の範囲内でよろしくお願いいたします。
 まず第一に、国民が大変心配をしております国内の景気の振興策につきまして、経済の安定化と関連をいたしましてお考えをお教えいただければありがたいと思います。
 次に、所得税減税が六カ年もない、さらに不公正税制ということについても余り積極的にやっていない、こういうことによります国民に与える影響についてお考えをお教えいただきたいと思います。
 次に、第三番目は、日本は世界の中でも一番ロボット化が進んでおるのでありますが、このロボット化の進行によりまして、雇用への影響というのはどうなるのだろうかという国民の心配があります。この点についてお考えをお教えいただければありがたいと思います。
 以上です。
#42
○森口公述人 どうも私の都合でありがとうございます。
 国内の景気対策につきましては、私は、財政の赤字というのは、名目GNPの比率で見てふえることはまずいのですが、今後漸次的に減らしていくというふうに弾力的に考える必要があるし、それが望ましいと思います。経済の安定化の当面の対策としては、まず所得税減税を行う、将来の直間比率の是正等による間接税の増収による再建というものを先で行う、それをペアにして実現を図るということがいいと思います。
 それから第二点の、所得税減税が行われていない、その結果として所得税の比率がずいぶん上がりまして、現在のサービス化の経済の傾向とあわせ考えますと、どうも経済のアングラ化がこのままだと進んでしまって大変困ったことになるのではないかと考えます。やはり支出税というものを将来考えて、そしてそれを払えば人々が自由に経済活動について、たとえば資金の出どころを調べられるとかそういうことがないような、プライバシーを確保しながら民間の活力を引き出していくという方向とも合うのではないかと思います。
 それから最後のロボット化でございますが、私は、二%台の経済成長では、ロボット化が進むほど深刻な事態になると思うのですね。これまでわが国ではロボット化についてわりと楽観論があったのですが、私はそれは正しくないと思います。やはり今後とも景気政策の一環として中小企業のロボット化を進めると、それが進めば進むほど一方で雇用問題が深刻になると思いますし、あるいはロボット化におくれた中小企業の転換のことも考えなくてはいけませんから、やはり全体としてマクロの経済成長率を三%ないし四%に維持しなくては、ほころびがくるんじゃないかと思います。
#43
○岡田(正)委員 ありがとうございました。
#44
○久野委員長 森口公述人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
 退席していただいて結構でございます。(拍手)
#45
○岡田(正)委員 次に、川田先生、お願いいたしたいと思います。
 一点でありますが、世界の平和と繁栄のためにも経済協力ということは非常に重視しなければならない。いまのような予算のふえ方ではどうも心配だ、もっと積極的にやるべきではないか。全く同感であります。
 そこで、この経済協力の関係でいろんな分野がありますけれども、その一端だけのことでありますが、たとえばバングラデシュとか、ああいう方面に対する経済協力の中で一部分つかまえてみますと、たとえばブルドーザーなんかを貸与しているのですね。ところが、そのブルドーザーが行きましても、非常に大きなものでありますが、それが故障いたしますと、もう直すことができないのですね。メンテナンスがないわけです。そういうことで全くそれが野ざらしになっている。何のために大金を投じてこんなことをするのだろうか、現地の人も全くその好意には感謝していますが、大変困っておるというようなことを私ども見たり聞いたりするわけであります。そこで、先生のいろんな御意見を伺ったのでありますが、経済協力の今後のあり方についてどうあらねばならぬのかということについて、先生のお考えをお教えいただければありがたいと思います。
#46
○川田公述人 大変むずかしい御質問ですが、私が先ほど申し上げましたのは、評価の点に関して、確かにDAC議長の報告では、評価というのは非常にむずかしい、ただあそこでも、個別的には評価できる、つまり個別プロジェクトの目的と合わせて、実際にそのとおりになったかどうかは評価できる、少なくとも。それから相手国の政府なり官僚とうまくやったかどうか、つまり相手国との外交関係その他についてスムーズに運んだかどうかということも評価できる。それからもう一つは、一体相手国に吸収能力があるかどうかという点についても、これは多少慎重にやりませんと内政干渉になりますが、私は、発展途上国が腐敗しているというふうに初めからきめつけて見るのではなくて、腐敗しているというより行政能力に欠けているところが大きいと思うのですね。ですから。相手国の行政能力との関係で果たしてこれは十分に吸収し得るかどうか、吸収できないもので経済協力を進めても、先生がおっしゃったような結果になり果てるわけであります。ですから、その点の評価もそれなりにできるのであって、その評価の方に、これは私の考えですけれども、いままで日本政府なり官庁はそれほど重点を置かなかった。今後はそこに重点を置いて評価し、そして、実際にそういう場合には技術移転がうまく行われてないわけでありますから、いわゆる適正技術をどのように移転するかという点で煮詰めていかなければならない。つまりそういう積み重ね方式において欠けるところがあったのではないか。
 これは経験が乏しいわけで仕方がない。これは日本だけではなくてほかの国も仕方がないと思うのですが、これからは余り失敗が許されないような、つまり向こうの経済はますます悪くなるという現在でありますから、ブラントの憂えているような状況が現出するかしないかというような瀬戸際に立っているわけで、やはりそこの評価をしっかりやり、積み重ねていく。その点についてやはり国会も一定の働きをしなければならない。
 それに関連して、やはり資金難ということが非常に大きいわけですから、これは世界的にどうするかという問題が考えられなければならないので、ブラントが言っているような、抽象的ですが、つまりたとえばオートマチックソースということを言っておりますが、軍事的な防衛の取引に関しては世界的な税金をかける、あるいは海底の資源は国際的な共有の財産として、それをオートマチックソースに投げ入れていく。そこで資金をつくる一方、現在の世界銀行では足らないから世界的なデベロプメントファンドを設ける、そういうようなことで、これは人類全体がかなり集中力を出さないと、非常に南北問題は今後ますます激発してくるのではないかということです。ですから、細かいところの積み重ねから、さらにその資金の調達まで、大変な困難がわれわれの前にあるというように思うのです。
#47
○岡田(正)委員 ありがとうございました。
 丸山先生にお尋ねいたします。
 先生は前、事務次官をやっていらっしゃったということでございまして、非常にわかりやすいお話をいただきまして、ありがたく思っておるのですが、実はきのう青木日出雄先生の方からもお話がございまして、ちょっとショッキングなお話の内容でございました。そこで、日本の将来の防衛のあり方はどうかということで、陸海空に分けまして非常に詳しい御意見が開陳されたのです。その中で、時間がありませんからはしょって陸上の関係だけちょっと申し上げますと、陸上自衛隊というのは定員が十八万人であるけれども、現在でさえ十五万七千ぐらいしかいない、いわゆる充足されてないという状態でありまして、日本に上陸をされてしまったらこれはもう大変なことになる。やはり上陸前にこれを阻止するということが一番大事なのではないかということを非常に力説をしておられました。
 そういう関係からいいまして、防衛費を何も金高をふやすばかりが能ではない、だから、陸上自衛隊の数をいまの半分ぐらいにしてもいいのじゃないか。むしろ沿岸警備隊的なものにいたしまして、もっと軽量化して、そしてミサイル、ロケットなどで武装して、まあハリネズミ論に近いような御意見でありましたが、そうやってやれば兵力も半減するし、そうすればもっとほかに有効に金が使えるではないか。人間ばかりぎょうさん置いておくのは能ではないというずいぶん思い切った御提案があったわけでございます。
 この点について先生はいかようにお考えになりますか、教えてください。
#48
○丸山公述人 青木さんは大変専門家でございますし、制服の御出身で非常によく勉強されておられる方でございますので、おっしゃることは筋としては私は当たっているように思います。しかし、青木さんは空の御出身で、陸に冷たいのかもしれませんけれども、私は、ある程度やっぱり陸海空のバランスというものは必要だというふうに思います。もちろん陸の場合には、全く島国に閉じこもって、そこで、上陸をした場合には国民をどうするか、住民をどうするかということが大変な問題でございまして、戦前の帝国陸軍は外地で無人の野を走っておったわけでございますが、沖縄でありましたような、ああいう形の戦争をやらなければならない、それを強いられるんだということを、われわれとしては十分肝に銘じておかなければならないわけでございまして、そういう意味で、あくまでもやはり上陸する前に重点を注ぐ。もちろん、あらゆる総力、軍事以外の方法を駆使をいたしまして、そういう事態を避けるということが大事だと思いますが、ただ、抑止力としてはある程度のやはり陸の兵力というものは必要だというふうに考えておるわけでございます。
 これからだんだん防衛費の伸びがきつくなってまいりますと、特に人件費のシェアが問題になってまいります。かつては五〇%を超す人件費だったのでございますが、最近は徐々にこれが減ってまいりまして、四〇%台になっておるということは大変いい傾向だと思うのでございますが、できるだけ、先ほどもお話に出ておりましたが、ロボットとか無人化の開発をやるべきだと思いますし、それから、先ごろのイスラエルのレバノン攻撃においても、無人飛行機が大変活躍をしておるわけでございまして、こういうところで、できるだけ人件費を切り詰めるという趣旨からも合理化といいますか、これは当然、陸上自衛隊ばかりじゃございません、すべてについて同じでございますが、特に陸上自衛隊においては、これは検討すべき材料であるというふうに私は考えております。
#49
○岡田(正)委員 続いてお尋ねをいたしますが、中曽根総理はアメリカでいろいろな約束をして帰られたのでありますが、その中で、国民によくわからない問題の中で、シーレーンの防衛というのがありますね。このシーレーンの防衛というのをやるのには、先ほど先生がちょっと御意見の中で触れられましたけれども、シーレーンを本気にやるのだったら洋上防空ということが大変必要な問題である、こういうふうにおっしゃいました。ということになると、短絡的な考えかもわかりませんが、ははあ、そうすると航空母艦が要るということになってくるのかな、あるいはどこかの無人島を飛行場に改造するというようなことが必要になるのかなというような心配が起きてくるのでありますが、その点はどうお考えでございましょうか。
#50
○丸山公述人 一つの航路帯で南東を考えているところがございますが、これは硫黄島にそういう基地を設けることによってできると思いますが、いずれにいたしましても、私は航空母艦を持つ必要はないというふうに思います。もし持つとしてもヘリ空母ぐらいなものでいいのじゃないかと思うのですが、洋上防空をやるためには、要撃管制のできる飛行機を持っていかなければなりません。そういう点では、最近到着しておりますが、E2Cというのが、航空自衛隊でこれは九機整備することになっておりますけれども、これは航続距離が比較的短いのでございます。そういう点で、去年でございますか、アメリカからサウジアラビアに提供いたしましたE3でございますね。E3AとかBとかいうのがございますが、要するにAWACSと言いまして、空中で早期警戒もやりますし、それから要撃管制もやれる飛行機でございますが、もしやるとすれば、こういうのを導入すべきだと思います。航空母艦よりはるかに――もっとも大変高い飛行機でございますけれども、航空母艦などをつくるよりはいいと思います。それから、航空母艦はどちらかといえば攻撃的な兵器だということで、政府の在来の答弁では持たないという方に入っておるわけでございますから、私は、そういうことによって洋上防空の能力というものをつけることは可能だというふうに考えております。
#51
○岡田(正)委員 ありがとうございました。
#52
○久野委員長 山原健二郎君。
#53
○山原委員 時間が十分間でございますので、お一人にお尋ねする以外方法がございませんが、川田先生にお伺いいたしたいと思います。
 先生の出されました論文を幾つか読ませていただきましたが、一つは南北問題と軍縮問題に関して「わが国平和外交の課題」というのを読ませていただきました。これはパルメ委員会のことも書かれておりまして、昨年も私は、パルメさんがわが国に来られましたときに国際会議に出席をしておったわけですが、軍縮志向というのが非常に強烈であるということを痛切に感じました。また、先生も「南北問題を打開するためには、軍縮問題を進めなければならない。」こういうふうに書かれておりまして、このお気持ちは変わりがないと思います。
 それから次に「日本はどのような役割を担うべきか」という論文を一昨年の九月に、ある雑誌に出されております。この中で「平和国家としての日本の役割」の項に「今後とも、日本は非核三原則を堅持するとともに、自衛力を最小限にとどめること、また、他国に武器を輸出するようなことは絶対にしないことなど、平和国家に徹する心をひきしめ、自重自戒する必要が大いにあると思います。」ということでイギリスのノーマン・マクレー氏の言葉を引用しておられまして、そして最後に「米ソの核均衡は決して世界の平和を確保するものでなく、むしろ、米ソの武器輸出を通じて第三世界諸国までをも軍拡競争にまきこみ、人的物的資源を浪費させ、世界戦争の危険を高めています。」こういうふうに述べられまして「これが第二次大戦後の歴史の教訓だ。」こういうふうに述べられておるわけでございますが、このお気持ちはいまもお変わりないでしょうか。
#54
○川田公述人 今後の日本の外交のあり方について書いたものでございますが、防衛力につきましては、私は、非武装中立というのが理想だとは思うのですが、戦後これだけ、三十年たって、それが非常に抽象的であるということで国民の支持が余り得られない。実際のアンケートその他では、非核ではいく、その点は国民は徹底しているわけで、右から左にかけて共通していると思う。しかし、ある程度の自衛に必要な限定武装は必要だという認識が国民の中にどうもあるように思われるわけで、私は、その非武装中立というのが理想であり、行き着くべき時点だというふうには考えますが、現実の社会の中で国民が現在選択しています非核・限定武装あるいは非核・局限武装というような状態の中で、平和国家としての理想を追い求めていく際に一番大きな問題となりますのは、局限武装なり限定武装というのを一体どこに歯どめを置くかということと同時に、先ほどからお話が出ておりますとおり、シビリアンコントロールが徹底しているかどうかという点にあるので、やはりこのシビリアンコントロールが私は非常に大きな問題として現在あると思います。つまり、そういう民主的なコントロールというものを確立しているのか、あるいはそれがなし崩しに次第にそうでなくなっているのかという点に私は一番重大な問題があると思いますし、その点でやはり国会のチェック機能というのは非常に重要になると思います。
 それから、軍縮に関連しては、先ほどから申し上げておりますがブラント委員会その他にいろいろな報告が出ておりますが、どの報告にも共通しているところは、現在の南の国々の経済を救い出すための資金というものは膨大になる。つまり大量の資金を北から南へ移転しなければならない。それから、先ごろの金融不安で明らかになったことは、コメコンの範囲にあるハンガリー、ルーマニアとかポーランド、その能力というものもついに限界があるということがわかった。いまルーマニア、ハンガリーはIMFに入っておりますけれども、したがって、単に南だけでなく、東の諸国の一部においても資金難というものに直面しているわけで、これだけ膨大な資金をどこからひねり出すか。先ほど申し上げた、海底資源を人類共通の財産とするとか、あるいは軍事の取引について世界的な税金を課するというオートマチックなソースだけではもちろん足らないわけで、やはり決定的な資金、ファンドの出どころというのは、どのレポートにも共通していますが、軍縮以外にはないということなのですね。しかし、それが余り進んでいないということで非常に――私がいま申し上げました軍縮がもちろん前提なのですが、軍縮を前提として、その他の手段としてオートマチックな、自動的なソースをつくるということと、もう一つは世界のデベロプメントファンドを別につくる、それがダブっておりますので、軍縮をネグレクトしたわけではございません。
#55
○山原委員 先生がこの論文の最後に「「戦争の足音」を阻止するために地道な努力を払う必要がありましょう。」という言葉を書かれておりまして、私は、被爆した唯一の民族を代表する政府並びに国民として、示唆に富んだお言葉だと思っております。
 その点から見ますと、いわゆる五十八年度予算、これは閣議決定をしましたときの翌日の十二月三十一日の日本の各新聞の社説を見ましても、いわゆる軍備増強に傾斜した予算案というふうに述べておりまして、非常に危惧の念を持っております。いままで国家予算が閣議で決定されました場合に、各紙の社説がこれほど厳しい批判をしたことはなかったと私は思うのです。それからまた、その後訪米をしました中曽根総理の国会における答弁あるいは訪米中の発言、運命共同体であるとか不沈空母であるとか海峡封鎖であるとかいうような問題につきましても、新聞のみならず国民も大きな危惧の念を持っておりまして、たとえばNHKの世論調査によりましても、七八%の方がアメリカの戦争に巻き込まれる危険性があるということを述べております。この点から見ますと、当然五十八年度予算につきまして、私どもは軍事費の削減ということは重大な課題になっておると思いますが、その点について先生の御意見を一言お伺いしたいのです。
 それからもう一つは、先ほど少し質問が出ておったわけですけれども、訪韓をしました中曽根総理が四十億ドルの対韓援助を約束して帰ったということにつきまして、先ほどから経済協力につきましての重層あるいは分権化の問題あるいは南を援助し北の活性化を図るという点での経済協力についての一定の疑問を出されておったのでございますが、この対韓援助について先生はどういうお考えを持っておるか、その点を最後にお聞きいたしたいのです。
#56
○川田公述人 防衛予算につきましては、すでに先ほど申し上げましたように私は基本的に反対でございます。突出については反対ということでございます。やはりほかの予算と均衡を保たなければならないと思います。
 もう一つの問題につきましては、抽象的に申し上げたわけでありますけれども、戦後五〇年代、六〇年代、これはアメリカもソ連もそうでありますが、経済協力と言いながら、実際には紛争周辺諸国に対する防衛肩がわり、あるいは政権てこ入れ的な援助をし、それが東西援助競争と言われていたのは御承知のとおりであります。日本の経済協力をいま振り返りますと、少なくとも今日までは、そういうことはされてなかったというふうに私は記憶しております。それはやはり平和国家としての分限をわきまえた日本のやり方だと思います。最近、ある官庁の一部で、紛争周辺国に対する経済協力をすべきだという発想があるやに聞いておりますが、これが進んでいきますと、やはり一時アメリカやソ連がやったような軍事的な援助と関連を持つところの防衛支持援助的な性格に堕落していく、そういうふうになりますといいことはないというように私は思いますので、防衛支持援助的な性格にならないように、やはり国会がしっかり監視していただきたいというように私は思います。
#57
○山原委員 どうもありがとうございました。
 丸山さん、時間の関係で失礼いたしました。
#58
○久野委員長 楢崎弥之助君。
#59
○楢崎委員 御苦労さまです。新自連の楢崎弥之助です。
 丸山さんとは長い間国会でいろいろと論議をいたして、大体当時のお考えはわかっておるつもりですが、いまや職を離れて自由な立場で物を言われるということでございましょうが、一点だけお伺いいたします。
 先ほど、五十一年度「防衛計画の大綱」の見直しをやるべきだ。この「防衛計画の大綱」が出てきたいきさつも、すでに経過をお互いやり合って、四十七年度の平和時の防衛力限界論争から発展して、亡くなった久保さんの基盤防衛力構想、それを基礎にして防衛計画大綱ができたわけです。つまり、いままで防衛計画がない、ないと言われておる、装備計画はあっても。それで初めて防衛構想らしいものが出てきたのが基盤防衛力構想です。したがって「防衛計画の大綱」を見直すということはこの防衛構想を見直す、当然そうなると思いますね。そうすると基盤防衛力構想を防衛戦略として見直して、見直す方向は、公述人の前後のお話からいきますと、どうも対ソ脅威対処と申しますか、つまり脅威対処構想への移行を示唆されておるように私は聞いたのでありますけれども、どうでしょうか。
#60
○丸山公述人 簡単に申しますと、先生のおっしゃる御指摘のとおりでございます。要するに、御案内のように久保構想は一名、脱脅威論と言われたように、脅威を算定せずに、一種のシビルミニマム的に、近代国家の日本として最小限持つべきものという発想で、できておるわけでございますけれども、私が申し上げておるのは、やはり防衛力というのは脅威を前提にして、脅威対処の方策を探るのが常道ではなかろうか、こういうふうに考えておるわけでございます。
#61
○楢崎委員 そうだと思うのですね、あなたのお考えは。防衛庁時代、われわれやり合った当時とはずいぶん違うお考えのようであります。私は批判はいたしません。
 次に、一問だけ。中曽根総理になって防衛構想が、あるいは防衛政策がずいぶん変わった印象を、一般の国民の皆さんも受けています。われわれは具体的に、いままでのこの予算委員会の中でもその変貌についていろいろ問題提起をいたしました。丸山さんは、中曽根総理になって、いままでの防衛構想が変わったとお思いでしょうか、それとも変わっていないか。もし変わったとすれば、どういうところが変わったか、それをお考えをお伺いしたい。
#62
○丸山公述人 端的に申しまして、私は変わってないように思います。どうもいろいろ片言隻句の方が先行して、何か変わったような印象を国民に与えておるのではなかろうか。よくよくせんじ詰めて国会の御答弁その他を――私も全部見ているわけではございませんから、一部分でございますけれども、まあ在来の延長線のお話をされておるということで、本質的には変わっておられないというふうに私は受け取っております。
#63
○楢崎委員 もうこれでやめます。
 あなたがあそこの政府委員席におられたら、もうここまでこうこう、こう変わっておりますがと具体的に指摘したいのですが、時間がありませんからそれはやめますけれども、ただ一つだけ本当のことをおっしゃった気がするのです。片言隻句というのは、われわれが片言隻句を言っておるのじゃないのでありまして、総理が言っているのですね。いままで使わなかったような言葉、運命共同体とか――私は、運命共同体という言葉を聞きましたときに笑ったんですよ、あれ、これは三十数年前われわれが使っておった、聞いた言葉だなと思って。つまり、あの方は一九四一年ぐらいの時代で発想が停止している感じがしたんです。そうして、おとといですか、今度は同心円という言葉を使われたんですね、日米同心円。同心円というのは、私の記憶に間違いがあるか、私は苦手ですが、数学で何かそういう記憶があるのです。丸山さん、この同心円とは、どういうふうに解釈されますか。
#64
○丸山公述人 私も中学の数学の記憶しかございませんので、円の中心が同じだということだと思いますのですが……。
#65
○楢崎委員 円の中心ということは、運命共同体とそれがダブりますと、全くわれわれが心配しているとおりになるのですね。どこかの部分で丸が大きく重なっておるなら、まだわかるんですよ。全くしんが一つで、大きな丸の中へ小さい丸があるのを同心円というのでしょう。大きい丸の方がアメリカとしたら、そのアメリカの中に中心が一緒になっておる。いや、そうしか解釈されないのですね、あの同心円という言葉は。(「いいじゃないか」と呼ぶ者あり)だから私は批判はしません、いいじゃないかということですから。そうでしょう、自民党の諸君もそう思っておると思いますね。それで結構です。わかりました。終わります。
#66
○久野委員長 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。
 公述人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 午後一時三十分より再開することとし、この際、休憩いたします。
    午後零時三十二分休憩
     ────◇─────
    午後一時三十五分開議
#67
○久野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 この際、御出席の公述人に一言ごあいさつを申し上げます。
 公述人の各位には、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。昭和五十八年度予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。
 なお、御意見を承る順序といたしましては、まず石田公述人、次に春山公述人、続いて大熊公述人の順序で、お一人約二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答えを願いたいと存じます。
 それでは、まず石田公述人にお願いをいたします。
#68
○石田公述人 私は、経団連の副会長をやっております石田でございます。政府提出の五十八年度予算案に賛同する趣旨から、意見を陳述させていただきます。
 目下、財政政策の最重要の課題は、経済環境が大きく変化したことに伴う税収の伸び悩みや国債発行の問題といった歳入面の制約に対応いたしまして、いかに歳出削減を進めるかということでございます。この観点からしますというと、今回の政府予算案において、一般歳出の伸びがゼロに抑えられたことは一つの前進でございます。個別経費を見ましても、たとえば、国民健康保険に関係する補助金である臨時財政調整交付金を大幅に削減していること、前年度当初比にしますと九百七十億円減でございます。また、交付税特別会計借入金の利子負担について、地方に二分の一これを負担させることにして、これが約三千四百四十六億円など、歳出削減の成果も見られます。その意味で、この政府予算案は、この先歳出削減を進めていく上での第一歩と位置づけられるのでございます。他方、赤字国債の発行額は、財政再建元年と言われました五十五年度と同程度の七兆円に達するなど、基本問題の多くは五十九年度以降に持ち越されたとの印象は免れません。
    〔委員長退席、高鳥委員長代理着席〕
 今後の期待といたしましては、現在さまざまな歳出の前提となっておる法律、制度そのものを見直していただきたいと思うのでございます。特に、高度成長期の豊富な自然増収を前提として導入されたものの多くは、今日いわゆる歳出の当然増の原因となっておるのでございます。結局、これを継続できるような経済情勢では今日ないわけでございます。しかしながら、いままでのところ、歳出削減の多くの部分は、現行の法律、制度の枠内での総額抑制という形によっているのでございます。たとえば、昨年夏の概算要求で設定されましたマイナス五%シーリングの対象経費も、これは私どもは五十兆の五%かと思っておりましたら実際はわずか五兆円、二千五百億というような一般会計予算規模の一割にすぎなかったのでございます。歳出削減の実を上げるには、法律、制度そのものの見直しが必要でございます。
 社会保障の面では、まず、ばらまき型の福祉政策を見直し、身障者対策などに重点配分することが必要でございます。たとえば、児童手当につきましては、すでに五十七年度から所得制限が強化されておりますが、日本の賃金体系や扶養控除という税制との関係もございまして、この際、廃止もやむを得ないのではないかと考えられるわけでございます。また、医療費の抑制ということでは、すでにいろいろな対策が講じられておりますが、医療制度の根幹であります今日の医療費支払い方式そのものを改革しないと、根本的な解決にならないと思います。教科書の無償給付という点につきましても、教科書が私有物になる現在のやり方のもとでは、受益者負担という観点から根本的に見直す必要があると思います。農業の分野でも、たとえば生活改良普及事業など、個々の施策がそもそも農村の対策としてなじむものかどうかという点にまで踏み込んで補助金を見直すべきであると考えます。また、食糧管理制度につきましても、単にその経費を抑制するというだけではなく、現行の全量管理方式そのものを見直さなければ根本解決にはつながらないと思うのでございます。国と地方との関係につきましても、国の仕事を地方に移譲することが先に来ませんと、補助金はなくならないのでございます。
 政府は、臨調答申の趣旨を尊重して、こうした法律、制度の改革を含む具体的な歳出削減スケジュールを国民の前に明らかにしてほしいと思うのでございます。
 福祉の充実、教育の充実を願う気持ちはたれしも同じでございますが、現在の制度をそのまま維持拡充する体力は日本経済にはございません。先進国病と言われる各国が福祉政策の方向を転換しつつあることは御承知のとおりでございます。日本は先進国病に陥らないためには、国民の自立自助の精神に基づいた日本的な福祉社会を築くことが必要でございます。
 次に、国債をめぐる問題についてでございますが、政府予算案によれば、五十八年度には国債発行残高は実に百十兆円にも達するとのことでございます。五十七年度には十四兆三千億円、五十八年度には十三兆三千億円という大量の国債発行が続いていることから、わが国の金融市場にさまざまなひずみを生じつつあります。国債の大量発行は金融市場の大きな圧迫要因でございまして、金利の引き上げとクラウディングアウトの危険をはらんでおりまして、民間経済活動を阻害するおそれが多分にございます。こうした事態が恒常化しますというと、やがては国債の日銀引き受けといった議論まで誘発しかねない危惧があるわけでございます。また、一般会計に占める国債費の比率も、五十八年度は定率繰り入れを停止しても一六・三%に達するということでございます。これは、再建元年と言われました五十五年度の一二・五%の水準と比べましても、財政の硬直化が相当進んでいるということが言えると思います。先日大蔵省が当委員会に提出いたしました国債整理基金の資金繰り試算によりますというと、六十一年度までに赤字国債発行をゼロにいたしたとしましても、六十七年度の国債費は十八兆七千三百億円に達するとのことでございますが、このままでは財政は本来の機能を果たし得なくなります。
 したがって、五十九年度特例債脱却ということは事実上むずかしくなったといたしましても、財政再建の重要性は少しも変わっていないのでございます。その意味で、今後政府が赤字国債の発行額を着実に減らしていくための新たなフレームワークが必要でございます。したがいまして、先般大蔵省が当委員会に提出いたしました財政中期試算はそれといたしまして、先ほど申し上げましたように、歳出削減とそれによる赤字国債の減額を内容とする何らかの基本方針を示す必要があると存じます。それは何も固定的に考えるのではなく、むしろ経済情勢の変化に応じて見直していく必要があります。そうした基本方針を示すことが、わが国経済の先行きに対する不安感を払拭する一助ともなると思います。
 なお、最近議論の出ております赤字国債の借りかえにつきましては、財政節度を失わせるという意味で非常に問題があると考えられます。
 ところで、この財政再建問題につきましては、従来から増税なき財政再建ということが大原則になっております。先ほど申し上げましたように、とにかく歳出削減の徹底を第一に考えるべきでございまして、いまの制度を放置したまま増税で財政収支を合わせようとすれば、結局は毎年増税が繰り返されることになるのでございます。逆の言い方をいたしますと、増税の排除ということは歳出削減を進めるためのかんぬきとして機能しているわけでございます。さらに、この歳出削減が行政改革とも密接に関連しております以上、仮に増税で財源が調達できるというようなことになりますと、行政改革も進まなくなると思われるのでございます。
 もとより、昨今のような厳しい経済情勢の中で増税を行えば、ますます不況を深刻化させることは明らかでございます。これまでの政府のやり方を見ますと、不公平是正の名のもとに取りやすいところから取るという安易な増税が繰り返され、民間活力を失わせる結果になっております。わが国企業の実質的な税負担は、すでに先進国の中で一番重くなっております。ここでちょっと数字を申し上げますと、日本では大体五三%ぐらいの企業負担でございます。次に高いのが、ドイツが五〇%、フランスが四八%、アメリカが三八%、英国が一八%というふうに、日本が世界で一番高くなっております。その上に、わが国企業は従業員のために年間五兆円もの社会保障負担をしておるのでございます。企業の法人税は大体九兆四、五千億でございますが、そのほかに年間五兆円もの、医療、年金の事業者負担でございますけれども、社会保障負担をしております。厳しい経済環境の中で企業増税を行えば、それこそ日本経済は失速し、財政危機に拍車をかけることになりかねません。このような事情は、五十六年度に企業課税を中心に一兆四千億円の増税が行われましたが、最終的な法人税収入は予算より一兆五千億円も落ち込んだことで明らかでございます。また、実際に今度の五十六年、五十七年というのは税収が非常に落ち込んだのでございますけれども、これなどもやはり、いかに景気によりまして法人税が少なくなったかということの実証でございます。
 最近、税制問題について直間比率の是正ということが議論されておりますが、これは大変大きな問題で、安易に取り上げるべきではないと思います。仮に当初は所得税減税と大型間接税導入の効果が相殺され、いわゆる増税は行われないといたしましても、それ以降の増税に歯どめがないという点を危惧しておるからでございます。欧州各国の例を見ましても、大型間接税が安易な増税手段となってきたことは事実でございます。当面、こうした増税もしくは増税につながりやすい措置をいろいろ考えるのではなく、歳出削減ということに努力を集中すべきでございます。
 最後に申し上げたいのは、先ほども触れましたように、財政再建と行政改革は表裏一体という点でございます。
 これだけ経済情勢が厳しい中で、経済界が行政改革の推進を最優先の政策課題といたしまして政府に要望し続けておりますのは、現時点において政府と民間の役割り分担を徹底的に洗い直しておかなければ、わが国の将来展望は開けないと考えるからでございます。そして、この政府部門の役割りの整理ということが具体的にあらわれてくるのが、歳出削減による財政再建ということでございます。
 その趣旨から、政府には、三月の臨調最終答申を一つの指針といたしまして、今後とも行政改革への努力を続けてほしいと切望しておるわけでございます。五十八年度の政府予算案はその第一歩として重要であると考える次第でございます。
 御清聴どうもありがとうございました。(拍手)
#69
○高鳥委員長代理 どうもありがとうございました。
 次に、春山公述人にお願いをいたします。
#70
○春山公述人 統一労組懇の代表委員・事務局長の春山でございます。
 私は、昭和五十八年度政府総予算案に対して、反対の立場で意見を述べさせていただきます。
 私のこの意見は、労働者、国民の生活全般の実情を踏まえ、その暮らしと平和を守る立場からのものであります。加えて、統一労組懇に参加している二十の産業別組織と三百二十六を超える県、地域統一労組懇の全国百五十万人を超える労働者の経済的、政治的、制度的な要求にかかわる意見であるとともに、私たちがこの二年余の間に中小企業業者団体や婦人その他の団体あるいは各種団体と共同で進めてまいりました「軍事費を削って暮らしと福祉、教育の充実を」求める国民署名約二千六十万人に及ぶ人々の切実な願いを踏まえたものでもあります。
 意見の第一は、国民生活水準の引き上げ、改善は急務であり、とりわけ当面、できるだけ早く一兆円以上の勤労所得税減税を実施すべきであるとともに、一般消費税などいかなる名目にせよ間接税増税は行うべきではないということであります。
 減税の財源については後で触れますけれども、ここでは減税を行うべき理由について述べさせていただきます。
 いまわが国には四千万人の賃金労働者がおり、家族を含めますと国民の過半数を占めています。その国民の約六割、大都市の居住者ならば約七割が、二年連続可処分所得が低下し、暮らしの現状と将来に対して不安と失望感を抱いていると分析をしたのは、昨年の政府の国民生活白書であります。また、ことしの一月十六日付のある新聞の世論調査結果は、十人のうち九人までが将来経済生活低下の不安を持っていると言っております。
 このように逼迫をしている労働者、国民の生活困難の打開の道を民主的に指し示すことは、国民主権を憲法でうたっているわが国の政府の重大な責務でなければなりません。
 そのような生活困難をつくり出している要因は、さまざまに複合し、深刻化しております。それはたとえば、GNPでは世界二位あるいは三位と言われながら、労働者の賃金水準では先進工業国中十五位、十六位という低さにあるのに、さらに加えての労働者に対する賃金抑制政策であり、また打ち続く国民への増税、高負担政策であり、さらにその背景には、レーガン米大統領の核戦略構想にくみする政府の軍備増強政策があり、また大企業優遇政策があります。それらを総合的な体系として進めている反国民的と言うべき臨調答申と、その政府の実行の姿勢もかかわっていると言わなければなりません。
 具体的には後でも触れますけれども、当面、間接税増税は行うべきではなく、一兆円以上の勤労所得税減税を実施すべきであることを強く主張するものです。
 一九七八年以降、五年連続して物価調整減税が行われませんでした。さらに昭和五十八年度も減税を行わないとすると、年間所得の少ない労働者ほど、小刻みの累進税率のもとで税負担は増加していきます。
 国税庁の最近の民間給与実態調査によれば、労働者の平均年収はわずか三百万円前後であります。その平均階層の世帯が夫婦子供二人の四人世帯の場合、所得税額は一九七七年から一九八二年までの五年間に実に五倍にふくれ上がっております。所得税、住民税、社会保険料など罰則を背景にした天引きの総額は、その平均世帯層で一九八二年で三十二万四千二百七十円になるという試算があり、それは低い賃金の中での手取り収入の八分の一近いものとなっています。一つの例として、年収一千万円以上階層の税額の、同じ五年間の伸びが二倍以下であるのと対比をしても明らかに重過ぎます。
 また、同じ調査結果で見ても、ここ数年、税金の伸びは給与の伸びを倍近く上回っています。一九七八年の対前年比の給与の増加率が一〇・五%なのに税金の増加率は二〇・〇%で、以後七九年は七・五%に対して一八・五%、八〇年は七・三%に対して一四・八%、八一年は五・一%に対して一〇・二%と、それぞれ税金の額は給与の額の増加率の二倍を超えている場合もあり、家計に大きく食い込んでいます。
 また、政府の言う財政再建期間である一九七九から明八三年度までの四年間の政府予算総額の増加率は一二七・〇%ですが、源泉所得税の増加率は同じ期間に一五六・八%という高率であります。法人税の同じ期間の伸び率が一二八・五%です。歳出の方では、社会保障費の伸び率は一一九・五%、文教費は一一一・三%、軍事予算が一三一・六%ですから、労働者、国民の負担増がいかに厳しいかはっきりしています。
 昨年の九月に京都の生活協同組合が、一世帯当たりの税金、社会保険料、任意保険料の合計が家計費の中で占める割合を調査いたしましたところ、平均して総収入の二三・六%、つまり四分の一近くという結果が出ました。税金だけでも九・四%です。ここでも家計への圧迫は明らかであります。税負担の増加にあわせて医療、教育、福祉などでの臨調答申に基づく家計負担の増加で、二重、三重の負担が国民にはかかっています。こうした低所得層ほど厳しい税負担を改め、一兆円以上の減税を低所得層重点に実施をすることは、労働者、国民の負担をわずかでもやわらげ、生活改善に資するだけではなくて、消費購買力を引き上げ、消費不況を民主的に打開をする方向につながり、積極的な意義を持つものであります。
 同時に強調したいのは、そういう道に逆行し、国民負担を増加させる直間比率の見直しなどという口実での、実際には直接税も間接税も双方ともに増税するような政策、これには強く反対をするものであります。
 第二に、昨年の人事院勧告は凍結をされたままになっておりますが、完全に実施をすべきであります。あわせて、人勧凍結関連の年金、社会保障の物価スライド凍結も解除し、改善をするとともに、昭和五十八年度予算にも賃上げ分その他の所要額を見込むべきであります。
 国家公務員の賃上げ凍結分八十四万人、千五百三十四億円、地方公務員、特殊法人労働者、三公社労働者の賃金、年金、社会保障対象者などへの総額一兆数千億円の凍結は直ちに解除し、賃上げなどとあわせて完全に実施をすべきであります。
 財政赤字の解消を口実に、官公労働者に一方的に犠牲を強要し、労働基本権剥奪の代償機能を停止をさせることは全く不当であります。憲法で保障された労働基本権を官公労働者から剥奪をしてきて、いままた、その代償機能を破壊をするということは二重の誤りであり、国内だけではなくて、国際的にも問題が大きいと言わなければなりません。
 これとの関連で、第三として、第二次臨時行政調査会答申に基づく政府の予算上の措置分一兆五千億円以上の財政緊縮措置についても、行うべきではないと主張をいたします。
 医療、福祉、教育、社会保障など、弱者、低所得者層を含む国民の生活にかかわる予算の削減には強く反対をいたします。これは、仮に政府の経済見通しに沿って見ても、来年度三・四%成長の内訳として、その大部分の二・一%を個人消費の増に置いているではありませんか。賃上げの抑制、人勧凍結、国民生活の圧迫予算では、その見通しはすでにして破綻をすると言わなければなりません。
 そもそも財政赤字の原因も、また対策を講ずべき重点も、軍備の増強、大企業の利益擁護という国政運営のゆがみ、ひずみから生まれているのでありまして、それを労働者、国民にもっぱら犠牲と負担を押しつけるのは誤っているし、筋違いであります。労働者、国民に対しては、むしろ大幅な減税と賃上げを行い、消費需要を広く喚起し、中小商工業者も含めて広範な産業活動に民主的な活力を吹き込み、消費不況の打開をこそ目指すべきであります。
 第四点として主張をすることは、軍事費を主要装備調達分などで一兆円以上削減することであります。
 私たちは、アメリカの核戦略体制に組み込まれ、日米安保条約に基づいて日本がアメリカのための不沈空母や核戦場になるなど、戦争につながる一切の危険と脅威は、直ちに全面的に除去すべきであることを強く主張をいたします。
 軍事力均衡論に基づく軍拡路線で地球の上の平和が保てないことは、第一次世界大戦以来の歴史がそれを明らかにしておりますし、そのことは国連軍縮総会でも触れていることではないでしょうか。国連加盟国の三分の二を超える国々が追求している、軍事ブロックや軍事同盟を解消し、非同盟中立の国際連帯強化の道でこそ、真の恒久平和を進めることができるものであります。
 ことしの一月のNHKテレビで「七九%の国民が、アメリカが勝手にどこかで起こした戦争に日本が巻き込まれるのではないかという不安を持っているし、また、五四%の人が、日本が場合によれば核戦場になる危険を感じている」そういうNHKの世論調査結果を出しておりましたが、広く耳を傾けるべきであります。
 とりわけ、この日米軍事同盟強化、軍備増強の路線が、日本型ファシズムとも言うべき国民の基本的な権利侵害につながることは、全く許せないものであると思います。日米軍事同盟をやめ、非核三原則を法制化し、核兵器の全面禁止を進め、当面、軍事予算の一兆円以上の削減を強く求めるものであります。それは同時に、日本経済の民主的な自立、過剰な海外依存からの脱却ともつなげていかなければなりません。
 私たちが集約した「軍事費を削って暮らしと福祉、教育の充実を」求める国民二千六十万人の署名にこたえる道こそ、平和憲法に徹する正しい道であると言うべきであります。
 第五に、昭和五十八年度政府予算案で依然として十分には改められていないどころか、ほとんど手をつけられていない、大企業、大資産家優遇税制と大企業向け予算並びに大企業の巨額な隠し利益などについて、税制改正を含め、全面的な改善、是正を強く求めるものであります。
 これらは、軍事予算の増強絡みで、国民の税金のむだと浪費の典型が数多く指摘されるところであります。たとえば大企業の退職手当引当金に充当されている額は、労働者の四〇%が一年ごとに退職するという、実際にはあり得ない規模の計算であるのに、税制特例が認められていますし、貸し倒れ引当金は、期末売掛金の千分の三以上を特例対象としており、過大に過ぎます。法人の受取配当益金も、税計算で算入対象になっていないのはおかしいと思います。大企業千三百一社の資産は百五十兆円以上という計算もあり、適正な課税を行うべきであります。法人税率が、所得七百万円以上では大企業も中小企業も同じ率になっているというのは改めるべきであり、所得が多いほど率を引き上げるべきであります。各種準備金に対する課税も改めるべきであります。有価証券譲渡益は、同一銘柄二十万株以下でも課税対象とすべきであります。海外進出費、経済協力費、エネルギー対策費、産業投資特別会計などについても、廃止あるいは縮小など、国民的な立場での改善を図るべきであります。
 そういう、国民の事実上の負担増を顧みないで大企業が利益をため込んでいることは、八二年九月期決算での民間の調査機関の発表を見ても明らかであります。東証一部上場八百社の四分の一が史上最高利益か大増益を上げていることが発表をされています。その社会的な還元や賃上げに充てることをしないで、財界や日経連が一方的に、この一月十一日に出した労問研報告でベースアップの見直しや人勧制度の廃止や参議院制度の見直しや、あるいは第二臨調での自立自助、政府や国に甘えの構造をやめよなどと主張をするのは、まことに身勝手きわまりない暴論であります。大企業の優遇政策を徹底的に見直すべきことこそ国民的な利益につながるものと考えます。
 私たちの試算では、この見直しを進めるならば、軽く見ても優に年間五兆円程度の財源をつくることはできるはずでありますし、労働者の賃上げも大幅に可能になるはずです。ここに手をつけずに労働者、国民への増税、高負担、臨調路線での国民生活圧迫予算を組むのは、明らかに不当であります。強く是正を求めたいと思います。
 最後に、雇用と年金に触れたいと思います。
 現在、政府の発表ですと完全失業率は二・四%、完全失業者は百三十万人台が続いていると言われます。この水準は、第一次石油ショックのときを上回る厳しいものであります。とりわけ、高齢者、身体障害者の雇用機会は少なく、職業安定所の窓口では、百人の求職者に対して一人の就職機会をもつくることができないという厳しさであります。この失業率の計算は、日本は世界で最低などと言われていますけれども、それは事実に反します。失業率の計算を西ドイツやイギリス並みの計算方式をとって行うならば、日本の失業率は、優に西ドイツやイギリスの倍を超えるものであります。
 このような失業の増大に対して、消費需要の引き起こし、生活関連公共事業の拡大、労働者の解雇規制立法あるいは中高年、身障者雇用の拡大、労働時間短縮など、積極的な雇用政策の展開が求められるところであります。
 また、年金問題では、七月三十日に出されました第二次臨時行政調査会第二次答申、いわゆる基本答申と関連をして、七月中に大蔵大臣の私的諮問機関である年金制度基本問題研究会あるいは厚生大臣の私的諮問機関であります社会保障制度長期展望懇談会などが関連をした考え方を示しておりますが、ここ十年ないし十数年の間に労働者の年金保険料を現行の五・数%から実に四倍に引き上げるべきだなどという議論が展開をされていますが、これこそまさに暴論であります。
 私ども統一労組懇が、これからの高齢化の進行、それに対する年金財源の確保、また現にある、たとえば厚生年金四十兆円の積み立て、社会保障費の中の軍人恩給財源など、総合的に検討した結果では、民主的にこの年金財源その他の制度を運用するならば、財界や一部の方々が言っているような、年金保険料を四倍に引き上げるか、あるいは年金水準を四分の一に引き下げるか、年金支給開始年齢を六十五歳か七十歳に繰り下げるなどという非常識な暴論は、通るものでないことは明らかであります。民主的に年金制度の検討を通じて、これからふえていく高齢者の生活の改善を図る道こそ、政府のとるべき道であります。
 以上、私どもの考え方を述べさせていただきました。よろしくお願いをいたします。ありがとうございました。(拍手)
#71
○高鳥委員長代理 どうもありがとうございました。
 次に、大熊公述人はお願いをいたします。
#72
○大熊公述人 大熊でございます。
 五十八年度の予算案につきまして、賛成の立場から意見を申し述べさしていただきます。
 以下、この予算案に対する私の意見でございますが、順序といたしまして、第一に、この予算案を予算編成の基本方針と見られます増税なき財政再建という立場から、いかに評価すべきかを申し述べ、第二に、この増税なき財政再建という方針そのものを、今日の経済情勢及び中長期経済展望のもとでどう評価すべきか、どう検討すべきかということを申し述べるものでございます。
 まず第一に、この増税なき財政再建という基本方針から本年度の予算案を見ましたときにはどうでありましょうか。
 まず第一に、この予算案で強調されておりますところは、超緊縮型の予算であるということが強調されております。つまり、一般歳出の伸び率がゼロということは、まさに昭和三十年度の一兆円予算のとき以来の緊縮予算であります。ただし、三十年度は、これはいわゆる均衡予算でありまして、今日の赤字予算ではございません。その点は若干割り引いて考えなくてはならない。
 それから第二番目に、歳出のカットの中身でございますが、大体は、当面の財政事情にかかわらず合理化を要するような歳出面のカット、それからよく言われますような国民ひとしく痛みを分かち合うような歳出のカット、この二つになっておるのでございますが、やはりどうもひとしく痛みを分かち合うカットというところに重点が置かれているようであります。
 それから第三番目は、公債の減額でございますが、一兆円の減額ということは、この五十七年度の当初予算比では大幅な後退と言わざるを得ません。公債依存度は、予算案では二六・五%というふうに推計されておりますが、どうもこの赤字公債からの脱却という問題は、はなはだ道遠しと言わざるを得ない状況だと存じます。
 それからもう一つは、この増税なき財政再建の「増税なき」という言葉の現状でございますが、本年度の予算では、内国税の三百三十億円の増税、それから関税の二百六十億円の引き下げ、合計七十億円の増加という、ほぼ従来どおりということでありまして、国民が待望している給与所得税を初め大幅な税制の見直しは、ことしは行われておらないのであります。
 さて、このような五十八年度の予算案を見まするときに、やはり幾つかの問題点があることは事実であります。
 まず第一に、超緊縮型の予算である、こういうように申し上げたのでありますが、果たして、この緊縮予備はどこまで貫かれるのかという疑問がございます。恐らく、これが貫かれるかどうかは、まず第一には、五十七年度の決算の状況にかかわってくるでありましょう。またさらには、五十八年度の景気の動向にかかわってくるわけでございます。このような状況につきましては、税収が果たしてどのような大きさになるのか、見積もりとどの程度に食い違うのかというようなことについては、私も軽々に判断をいたしかねるところでございますが、やはりこの五十七年度の決算に関しましては、また前年度の轍を踏むようなことがないかというおそれを抱くものでございます。
 それからもう一つは、この増税なき財政再建の「増税なき」という言葉、これまた一体どこまで貫かれるのかという疑問でございます。この「増税なき」というのは、歳出を抑制をする、歳出の増加を抑制する、あるいは歳出をもっと積極的にカットするという場合の大きな前提になるわけであります。これがありませんと、なかなか歳出の増勢を抑えることはできず、またしたがって、カットなどなかなかできないものでございます。ところが、この「増税なき」という意味は、実質的に増税がないということではなくて、その後それは新税の創設、間接税を中心とした新税の創設を考えないという中身になったようでございますが、さらに今日では、どうもこの「増税なき」と申しますのは、実施の目標といいますよりは、一種の理念に変化をしていると言わざるを得ないわけであります。
 このように考えますと、もう一つの変化は、財政再建という言葉が財政改革という言葉に変わっていることであります。財政の再建から財政の改革へという言葉の変化は、一見財政再建の積極化を意味するようにもとれるのでありますが、しかし、やはり国民の目から見ますと、要調整額と申しますものを増税で賄うのではないかという心配をするのは、ある意味では当然かと存じます。
 むしろ、この財政の改革というものを、財政再建の積極的な取り組みを示す言葉だというふうに考えるべきであります。と申しますのは、歳出のカットを毎年財政当局が提案いたしましても、これには法律の改正が必要な場合がきわめて多いのであります。やはり財政の改革という以上は、こうした思い切った法律の改正へまで踏み込んで、そして財政の再建に積極的に取り組むということが必要でございます。たとえば、補助金をとりましても、法律補助の方はなかなか削れないというような事情があるからでございます。
 最後に、今回の予算の編成を見ておりますと、やはり単年度予算の編成という技術に安住をしているのではないかというような考えが持たれます。
 つまり、まず問題点を後に持ち越すことができるという意味が、この単年度予算編成の技術的な安易さでございます。しばしば後年度負担の問題が取り上げられるのでありますが、やはりこれはしばしば言われますような五十八年度の人勧あるいは年金スライドの扱いというものがどうなるのかということでは、予算編成の前提が大きく変わる可能性もあるわけであります。
 それから、どうも急場のやりくりがやはり自立つのでありまして、たとえば財政投融資計画における政府保証債依存が増加をしているとか、あるいは国債償還財源の繰り入れを停止するというようなことが目立つのでありますが、それ自体の問題は、これは十分検討に値することとしても、やはり急場のやりくりという印象はぬぐえないのであります。
 そもそも財政再建は、最近に至りましては行政改革、臨調の報告に、あたかも便乗するがごとく行われているのでありますが、行政改革と財政再建というのは、一応別個のものでございます。しかし、われわれはいま両方に真剣に取り組まなくてはならないのでありますが、ここではとりあえず財政再建に、より真剣に、積極的に取り組むべきことを要望いたしたいと存じます。つまり、そのためには積極的な取り組みの姿勢を示すと同時に、できるだけ具体的にまた納得のいくスケジュールを示していただきたい。私は、何も財政再建をこのような景気の低迷状態の中でドラスチックに急激に行えということを申し上げているのではございませんが、しかし、長い目で見るということは、これは今日の国債発行の状況からは許せないかもしれませんが、やはり着実に検討をしていくという姿勢とスケジュールがぜひ欲しいというように考えるのであります。
 当面の対応はいろいろございますでしょうが、時間もございませんので、中長期的な経済情勢の中で、われわれはいま緊縮予算というものをどういうふうに見たらよいか、また今後どうすべきかという点に話を移させていただきます。
 五十八年度予算の緊縮型という性格は、たとえば政府の経済見通しを見ましても、GNPベースで政府の支出は五十七年度が名目三・三%増、五十八年度は〇・四%の増、それから実質政府支出の方は、五十七年度が三・三%の増に対し、五十八年度は〇・七%の減ということに示されております。さらにまた、資金の需給面から見ましても、公債の減額の一兆円あるいは決算不足の補てん二兆二千五百億円というものは、これは一種のデフレ要因であります。国債費の支出一兆三千億円を差し引きましても、なお相当の民間資金の引き揚げ要因があるというのが五十八年度予算の緊縮型の性格でございます。
 ただ、われわれは少し長い目で、今日までの景気に対する財政のあり方、フィスカルポリシーと申しておりますが、今日までのフィスカルポリシーの歩みというものをごく簡単に振り返ってみたいと存じます。
 第一は、六〇年代の高度成長期でございます。高度成長期に財政が安易にふくれ上がったということが今日反省をされておりますが、私は実は、高度成長期と申しますのは、技術革新を基調にした民間投資主導型の高度成長であった、こういうように考えます。したがって、その間、財政は常に黒字であります。黒字を政府部門の中に留保しておくという制度はございません。一部はございますが、大体ございません。また、もちろん増税の必要もないわけでありますから、結局、高度成長型の財政のもとでは、結果として年々大幅な歳出の増加または減税が行われたということであります。しばしばこれをわれわれの間ではケインズ型の政策と言いますが、私はそうではなくて、むしろこれは新古典派型の成長であるというふうに考えます。財政はそれは後追いをしてきた。
 第二は、第一次石油ショック後の景気の落ち込みでありますが、私は、この時期こそ公共投資主導の景気補整が行われたケインズ型の財政政策の時期であったというふうに考えます。その間、公共投資は年々比較的景気を補整するような形で変化をいたしておりますが、しかし、何分、この期間を通じて赤字財政が連続して行われ、したがって国債依存度というものが過去に例を見ない大きなものになつたことも事実でございます。
 そこで、今日第三の時期と申しますのは、財政節度をもう一度見直そう、赤字公債依存の財政の体質を反省して財政の節度をもう一度見直してみよう、こういう第三の時期が来たというように考えられます。ケインズ型の財政政策では、景気の不況のときには減税をし、あるいは景気の過熱したときには増税をするという、両方向に機械的にプラス・マイナスの政策がとり得るという大前提があるわけでございます。しばしば、ケインズが住んでいた住宅のあったハーベイ・ロードの名前をとりまして、これをハーベイ・ロードの前提と申しますが、この前提をもう一度反省して財政節度を考えようというのが第三の今日の時期である、こういうように考えられます。
 そして、もしこの財政節度を従来どおり大きく逸脱していると、どういうことが起こるであろうか。そのデメリットについて触れてみたいと存じますが、第一は、金融面で公債が年々大幅に蓄積されるということは、発行の条件としての公債の値段というものは安くしなくてはならない。言うならば、公債の発行そのものが高金利を誘発することになります。
 それから、財政の赤字と申しますのは、財政の赤字分そのままが、これは通貨にせよ公債にせよ民間の金融資産のイコールの増大でございます。したがって、この民間の経済の実体が変わらないで、それを映す金融資産の総額がふえれば、金融資産の単位価格は当然減少する、つまり金利が上昇をするというデフレ効果の心配が出てくる。
 それから、第二に実体効果でございますが、国民経済バランスを見ますると、高度成長期においては、民間の投資が民間の貯蓄と財政の黒字と貿易の赤字で賄われていたのでございますが、現状の低成長期においては、民間投資と財政の赤字と貿易の黒字を全部民間貯蓄が賄うという形になっているのでございます。
    〔高鳥委員長代理退席、村田委員長代理着席〕
 これに対して、欧米型の経済は、しばしばインフレ基調と申しますか過熱型の経済であると言われますのは、この民間の貯蓄と民間投資がほぼ見合うような経済でありますから、財政の赤字と貿易の赤字が見合いやすい経済であるということであります。
 それで、わが国の経済の今後を中長期的に見ますると、高齢化社会は確実にやってまいりますし、また年金、保険の負担も恐らく今後急増せざるを得ない。そういうことがもし貯蓄率を減らすとしますならば、この欧米型の過熱型の経済に移行するおそれがあるということで、財政の節度を守るということは、長期的に経済の安定に寄与するということでございます。
 時間がございませんので、一言簡単につけ加えて申しますと、今後われわれの経済は、まず高度成長は望めないであろう。安定成長を志向する。これは、第三次産業中心の経済であるということになるわけで、労働生産性の伸びは大幅には望めないであろう。
 それから、こういうような経済のもとで国民経済を運営するためには、何よりも国際収支の安定が必要であります。変動レート制のもとでは、為替レートが変動するのがあたりまえのように考えられますが、実は変動レート制は、これは為替レートが変動することによって、できるだけレートを安定させるという働きに依存をしている制度であります。ところが今日では、この為替レートはかなり激しい上下を繰り返しておりますので、貿易面それから資本収支面を含めまして、われわれはできるだけ為替レートの安定性に努力すべきである。
 こういうような国民経済の運営のもとで、われわれはまず財政の守備範囲を明確にする必要がある。それはむしろ国民生活の向上に積極的に介入するというよりも、国民生活の安定を積極的に志向をしていく。つまり国民の平均生活水準を不完全に保障するのではなくて、国民の最低生活を完全に保障する方にわれわれは財政は重点を置くべきである。
 それからさらに、今日、税制の問題が言われますが、先ほど申し上げましたように社会保険負担の増大が確実に予想されるということになりますと、仮に所得税の減税を行いますとしても、これは間接税の肩がわりによって、つまり所得税の減税を所得税の増加で行うということではなく、間接税の肩がわりによって行わざるを得ないであろう、こういうように考えられます。ところが、間接税というものは直接税と違い、たとえば累進所得税が成長率に感応的なのに対しまして、間接税というのは安定型の税収を確保するものでございます。したがって、間接税の比重が増加をするということは、税収は安定をするけれども、今後税収の大幅な伸びは見込まれないような状況になります。したがって財政支出の増加も低く抑えられざるを得ない。今後、財政支出の増加の中には、どうしても重要で伸ばさざるを得ないものが多々あるわけでありますから、そういう点にかんがみましても、中長期的にも財政の節度を維持するということがきわめて重要であるということを申し述べまして公述を終わります。(拍手)
#73
○村田委員長代理 どうもありがとうございました。
    ─────────────
#74
○村田委員長代理 これより公述人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。津島雄二君。
#75
○津島委員 公述人のお三方から大変有益な御意見を賜りましたことを、まず御礼を申し上げます。
 時間が限られておりますので、取り急いで要点のみお伺いをいたします。まず石田さんにお伺いをいたします。
 論旨の中心が、法律、制度を含めた根本的な見直しをしなければ財政再建はできないということでございました。
 そこで、一点だけお伺いをいたしますけれども、御指摘になりましたいろいろな制度上の問題、高度成長期から出てきた遺産のようなものだとおっしゃっておりましたけれども、児童手当の問題とか教科書の無償配付の問題あるいは食管制度、生活改善普及事業の問題、あるいは私自身、医療費の抑制については非常に苦労した経験を持っておりますが、医療費の問題、こういう問題を真剣に処理をしてまいりましても、ある考え方によりますと、財政上の節減額はおのずから限界があるであろう。たとえば、一兆円オーダーの節減は全体としてできるかもしれないけれども、最近大蔵省から出てまいりましたような中期試算に見られるような大きな財政の歳入不足を賄うには、どうもいま御指摘になったような制度を全部やってもなかなかむずかしいという御意見があるのでございますけれども、これに対しまして率直なお考えをまずお示しいただきたいと思います。
#76
○石田公述人 石田でございます。
 いろいろあると思うのですけれども、私、経団連で一応試算したことがあるのです。歳出カットを一二、三%やれば大体大蔵省の言っているような要調整額、ああいう税収不足といいますか、そういうようなものは出てこないという計算をわれわれは持っているのですけれども、これはある新聞には何か一三%やれば、それは必要ないというような数字も出ておりました。そういうものをやってみますと、私ども本当を言うと、いまの臨調の方でいろいろな部会報告やら出ておりますけれども、あれを読みましてもわりに抽象的ですね。だから本当を言うと、これはわれわれは今度臨調の方に請求しているのですけれども、ああいう制度をやってみると大体幾ら歳出カットになるのか、やはりそういう数字を出してもらわないことには、ただこういう制度をこうやればどうなるとか、こうすればこうなる、こうやるべきだというようなことが出てきておるのですけれども、それは大体幾らになるかというような計算、これは私どもは先ほど申し上げたようなものに基づいて計算しますと、一二%ぐらいやると大体要調整額というのは要らないというような数字が出てくるのですけれども、そういうものを臨調の方で出してもらいたいと思うのですね。そうすると、今度は国民の方もこれだけやればどれぐらい歳出カットになるかというのがはっきり出てきますから、そうすると、われわれはいろいろな負担もふえる、どれだけ負担がふえるのか、しかし、こういうふうな増税にならなくて、どれだけで済むのかというような数字が出てくると思うのですけれども、そこら辺が一番肝心な点じゃないかと思うわけです。
#77
○津島委員 具体的な数字の議論をいたしませんとなかなかあれでございますので、税の面についてちょっとお伺いいたします。
 日本の企業負担が諸外国に比べて非常に高いという御指摘でございました。確かに法人税収を国民所得に対比をいたしますと、それは高いわけでございますけれども、諸外国の場合に一体流通税といったような税をどのように考えておられるのか、付加価値税をどういうふうに考えておられるかという点、つまり、いまの企業負担という点からいって意図的に外しておられたように思いますけれども、その点もし御意見がございましたらお伺いをいたしたいのでございます。
 なお、関連をいたしますので、税の問題で春山さんに一つお伺いいたしますが、春山さんの御意見の中で、最近税制改正がないので、給与の伸びを税金の伸びが非常に大きく上回っている、ことに低所得層においてそれが強いというお話でございました。そこで、私は簡単な数字を申し上げますけれども、たとえば課税最低限以下の方は税はゼロでございますね。その方がたとえば若干給与が伸びて、年にたとえば千五百円税がかかるということになりますと、税の伸びは無限大でございますね。つまり、私ども前から非常に疑問に思っておりましたのは、税金対税金の伸びでいきますと、もともとベースの低いところは物すごく伸びが大きいわけで、これは数学的なきわめて単純な話であります。そういう意味で、税金の伸びがこの層で何倍だというのは、これは非常に矛盾のある議論でございまして、それを前提といたしまして、先ほど税制改正を御主張になった場合に、課税最低限と税率の手直しについて何か具体的な御意見があればお伺いをいたしたいのでございます。それぞれ一点ずつお願い申し上げます。
#78
○石田公述人 ちょっと私、質問の意思がよくわからなかったのですが、間接税、まあ付加価値税と申しますか、こういうものは、しかし理論でいけば最終消費者に転嫁されますから、別にその意味では企業の方の負担ということは考えられないです。ところが、庫出し税とかいうようなことになりますと、私、石油をやっているのですけれども、石油なんてあれは庫出し税なんですね。ガソリンなんてのはタンクでそのままかけるわけですね。ところが、あれはいろいろなロスが出る。そういうものをうまく計算ができなくて、結局これは企業者持ちというふうなことになりやすい傾向があるわけです。だから、たとえばこの前の大型消費税の問題なんて経営者側から見ると、非常に反対されたのは、完全に消費者の方に転嫁されればいいですけれども、されないということになるんじゃないかというのを非常に心配しているんじゃないかと思うわけです。そこら辺がもう少し日本の税の徴収の仕方を考えなければいかぬのじゃないかと思うのです。
 いまでも不公平税制というとクロヨンなんていう数字が使われているのですけれども、ああいう点を本当に徹底的にやれば、ああいう言葉は出ないだろうと思うのです。もう少し税の公平性というようなことをやらなければいかぬと思うのです。それにまた付加価値税なんてやってくると、なおさら人がふえることになるのでしょうかどうでしょうか、そこら辺の事務の手続の問題もあると思うのですけれども、そこら辺の繁雑さというものも相当加わってくるのじゃないかと思います。だから私は、率直に言いますと、いまの税制のもとで本当の不公平税制というものを直していくということが先決問題であって、それが先にやるべきことじゃないか、そういうふうに考えるわけでございます。
#79
○春山公述人 お答えをいたします。
 最初の方でおっしゃられた、きわめて賃金の低い階層の税金のことにつきましては、そのような事実は確かにあると思います。
 私が問題にしておりますのは、たとえば東京都における生活保護水準でいいますと、四人世帯で一カ月十四万円でございます。その十四万円の十二カ月分でざっと百五十万円ぐらいございます。その生活保護水準ぎりぎりの人たちからも税金を取らなければならないのかという点では、私はそれは取るべきではないだろうと思っております。また、そのような生活保護水準というのは、いわば衣食住の最低限ぎりぎりのところを保障するものでございまして、それを上回って実際に労働している者に対して給与が多く支払われるのは当然でございます。いわば労働力の再生産の費用というのが賃金の中では当然含まれるべきだと考えます。その場合でも、先ほど私は平均所得階層三百万円というのが国税庁の統計だというふうに申し上げました。三百万円というのは、夫婦二人と子供二人、四人の世帯での生活費としてはぎりぎりでございます。いわばエンゲル係数で見ましても本当にぎりぎりのところで、これ以上詰めようがないというところでございます。そういう三百万円階層では税金がたとえ額として一万円上がり、二万円上がりという、見た目には少ないようでありましても、これは実質的には大変厳しい内容になるのであります。私はその点を特に取り上げて、この数年の間に五倍にも上がっていることの厳しさを申し上げたつもりでございます。
 なお、税金につきましては生活との関連がございますので、生活の中でのウエートを見るときには、先ほど申し上げました生活保護水準ぎりぎりの労働者が、私どもが常識的に考える以上に、ある試算によりますと一千万人を超えると言われているのでございます。働いておりながら、その賃金が生活水準さえも下回っているという労働者がいるのですから、税金の課税最低限につきましてはその辺を考慮してもっと引き上げるべきだろうと思っております。
 後段の部分でございますけれども、課税最低限を幾らにするかにつきまして私どもの中でも議論がたくさんございました。最終的に何百万円というふうに一くくりにしてしまうことには不適切さがあるだろうということで、現在その課税最低限のありようをめぐってさまざまな議論をしております。たとえば、中には課税最低限三百万円。三百万円までは税金をかけるべきではない。これは国税庁のその調査結果から見ましても、ほとんどの労働者の生活最低基準と考えていいのではないか、生活保護基準とはちょっと違う意味で、そこにはかけるべきではないという意見もありますけれども、その点はペンディングにしております。
 過日、後藤田官房長官のところに出しました文書の中でも、その辺については私どもは慎重な言い回しをしているところでございます、課税最低限そのものにつきましては。ただ、税率の手直しなどにかかわっては、パート労働者がこのところ六百万人からというふうに大変ふえている中で、七十九万円では大変困る。御主人が働いておってパートで奥さんが働いておって、七十九万円過ぎますと税金がかかる。これは困る。百二十万円ぐらいに引き上げてほしいという強い要請が方々からございますので、パートの労働者についてだけは課税最低限を百二十万円へというふうなことで考え方を申し述べておるところでございます。以上でございます。
#80
○津島委員 それでは一問だけ大熊先生に簡潔にお伺いいたします。
 先生のこれからの財政のあり方についてのお考えでございますが、私が伺ったところでは、経済の基調は変わってきた、したがって財政の守備範囲を明確にしろ。それから間接税の直間比率を改めても税収はそれほど伸びないと考えなければいけない。そのように理解をいたしたのでございますが、ずばりお伺いいたしますけれども、そのような新しい基調の経済の中で、直間比率をもう少し上げた方が望ましい、間接税の比率を上げた方が望ましいと考えておられるのかどうかだけお伺いいたします。
#81
○大熊公述人 申し上げます。
 直接税か間接税かということは、負担の基準を所得に求めるか、それとも支出に求めるかということだと思うのでありまして、所得に求める場合の方だけが公平か不公平かと申しますと、必ずしもそうではない。支出に公平、不公平を求めることもあり得ると思います。そういう意味で、私は、いま所得を中心とした課税が余りにも大きいということで、間接税の比重、つまり支出課税の比重をふやすべきである、こういうように考えております。
#82
○津島委員 どうもありがとうございました。
#83
○村田委員長代理 これにて津島雄二君の質疑は終了いたしました。
 次に、佐藤観樹君。
#84
○佐藤(観)委員 社会党の佐藤観樹でございます。
 三公述人の皆さん方には、大変お忙しいところ、貴重な御意見をありがとうございます。
 簡単にお伺いをさせていただきたいと思うのでございますが、最初に石田さんに、きょうお話しになりましたことの前提といたしまして、経済見通しと春闘等の関連について、経団連としてのお考えを少しお伺いしたいと思うのでございます。
 御存じのように、政府は名目成長率五・六、実質三・四ということを見通されて、そしてそれを基調にして予算を立てたり経済運営をやっていらっしゃる。しかし、経団連の御意見といたしましては、とてもそんなにはいかないのではないか、いろいろ議論があったようでございますし、稲山会長も数字を出すのはどうもというお話がいろいろあったやに新聞に書かれておりますが、公式的には二・六という実質成長率を出されている。したがって、それに伴ってベースアップも二%、つまり定昇ぐらいではないかということが新聞等に報じられ、あるいは会見をされているわけでございます。
 どうも私は、個人的意見でございますけれども、石田さんのところもそうでございますが、稲山さんのところも鉄でございますから、なかなかいま余りよくないもので、鉄は国家なりで、どうも自分のところがよくないと余り全体的によくないんだ、右にならえだ。しかし、日本経済の中には、エレクトロニクスにしろ、あるいはサービス業にしろ、あるいはソフトウェアの部分にしろ、大変いいところもあるわけでございまして、私は何でも一律にやるというのは必ずしも合理的なことではないのだろうと思っておるのでございますが、そういった意味で、実質二・六%、したがってベースアップは定昇ぐらいですよ、あるいは定昇という考え方すら高度成長のときの遺物ではないか、今後の低成長を考えれば、定昇自体がいわばベースアップの一つではないか、こういうお考え等も財界の方では論じられているわけでございます。
 これをずっと考えますと、卵が先か鶏が先かのような議論になってしまって、政府とやっておりますと、三・四%の実質成長をするためには雇用者一人当たりの伸びは五・一なければならぬのだという数字をはじいているわけでございます。そうしますと雇用者所得というのが、総消費のうちの大体三分の二でございますから大変ウエートが大きい。したがって、雇用者所得がある程度伸びてくれませんと政府が言う三・四は実現できない。
 しかも、春闘との関連で見ますと、この雇用者所得の伸び五・一というのを達成するためには、春闘自体が大体全雇用者数の半分ぐらいしかカバーできないのですから、感覚的にやはり七%ぐらい伸びないと、政府が言うように三・四%実質成長できないのではないかというようなこと等、ずっと考えてみますと、経団連さんが言われております、定昇のみですよ、二%程度ですよ、したがって経済成長も二・六、多くても二%から三%ぐらいと言っていらっしゃるわけですね。ということを考えてみますと、これは、二%から三%ぐらいしかできないから、したがってベースアップというものは定昇のみ、二%程度ですよということなのか。逆に、どうも低成長になってきたのだから、大体物の考え方として、そう毎年毎年大幅ベースアップはできないんだ、定昇ぐらいなんですよと、その考え方を延長していって、したがって消費はそんなに伸びない、したがって成長率もまあ二%から三%ぐらいの間ではないだろうかという、どちらが――成長がとまったからベースアップをある程度抑えなければいかぬのだというお考え方、それから、ベースアップが、もう全体的に経済がこういうことだから、こうなっているから、消費もある程度抑えられて成長もこうなるんだという考え方。ある意味ではこれは関連をしている問題でもありますし、その辺のところは、いわば卵と鶏かもしれませんけれども、どちらからの御発想で来られているのだろうか。
 あわせて、それに関連をして、今度政府は消費者物価が三・三%と見ているわけですね。そうしますと、経団連さんが言われるように春闘のベースアップが二%ぐらいということになりますと、ますますこれは物価上昇にすら追いつけない。あわせて、いま各位からお話がございましたように、税金では持っていかれるわ、税外負担の社会保険料では持っていかれるわということになりますと、これはますます経済が萎縮していってしまうのじゃないだろうか。
 私は経済を国会へ来て十何年やっているわけですけれども、よく病気も気からと言うように、景気もやはり気分のものがかなりあるわけですね。余りみんなが不景気だ、不景気だと言うと、何かみんなが萎縮してしまう、先行きが暗くなって消費も萎縮してしまうということで、そういった意味では、いわば経済の中心的大きな柱であるところの財界なり経団連の方でも余り縮小的なことを言われますと、全体が縮小していって縮小再生産になっていってしまうのじゃないだろうか。とりわけ、いま申しましたように、たとえば物価上昇すら労働者のベースアップの方がカバーできないということになりますと、ますます悪くなってしまうのじゃないか。
 私は実体を見て、諸外国から比べてみて、そんなにいま日本経済が悪いとは私も思っていないのです。ただ、財政の問題は後からちょっとお伺いしますが、雇用の面でもう少し何とかできないだろうかと思っているのです。百三十万人の失業のうち二十万から二十五万雇用創出をしていけば――日本経済というのは、各数字を見れば、世界から比べれば非常に安定的にできている方だと思うのです。その他いろいろなことがありますが、できている方だと思っているわけなんですが、しかしどうも経団連さんの言われるように、物価上昇は政府の見通しは三・三だけれども、賃上げの方は二%ですよと言われているが、こんな経済運営で果たして、財政再建にも関連をして、税収が上がっていくというようなことになるのだろうかということについては、はなはだ疑問を持っておるのでございますが、いかがでございましょうか。
#85
○石田公述人 お答えします。
 と申しましても、私、実はその点は非常に不得意でございまして……。第一、私の会社が、出光興産ですけれども、組合がないのです。そういうようなことで、どうもそういう点が不勉強でもございますし、それからまた、賃金の問題は、実は経済界の方としては日経連の方が主として、大槻さんが専門にやっておるわけでございまして、ちょっとそこら辺私……。
 大槻さんは御承知のとおり生産性基準賃金というようなことを言っておりまして、私たちは、財界としては大槻さんのところの日経連の考え方というのは一応支持しているわけでございます。
    〔村田委員長代理退席、委員長着席〕
 私も戦前に会社に入っておったのですけれども、戦前はベースアップなんというのはなかったですね。あれは戦後の、ことに高度成長以後の産物ですね。ですから、外国はみんなそれをやりまして、恐らくレーガンも困っているのはそれじゃないですか。それからサッチャーさんも、鉄の女なんていってえらいがんばってやっていますけれども、問題はやはりインフレをいかに抑えるかということにあるわけですね。
 そのインフレの原因がどこにあるかというと、結局、生産性以上に賃金を払うというところにインフレの原因があるんじゃないかというわけですね。一時ちょっと賃金がベースアップしますといかにもいいようですけれども、あとは結局インフレによって取り返されるようなことになって、ことに、こういう低成長時代になってきますとよほど考えませんと、いままでのような考え方でやっても、これはインフレになっていくおそれが多分にあるというふうに思うわけですね。政府の方が何ですか三・四%とかいうような数字を出しておりますけれども、しかし、これがどこら辺まで正しいのか、これはいろいろ議論がございまして、経団連さんも二・六とか言われましたけれども、これはまだはっきり決めているわけじゃないわけでして、低成長時代に入ったということは事実でございますし、最近の数字をちょっと先ほど聞いてみましてもかなりひどいようですね。だから、そこら辺から見ると、どれぐらいの成長になるのかはっきりわかりませんけれども、そういうようなことでございます。
 お答えになったかどうか知りませんけれども、そういう考え方でございます。
#86
○佐藤(観)委員 ただ、それは春闘の問題、ベースアップの問題、いろいろと議論すれば、生活レベルから見た問題がいろいろあると思うのでございますけれども、いまそういうお答えでございますから、それ以上深追いは申し上げません。
 次に、財政再建の問題についてなんでございますが、これは石田さんと大熊先生にお伺いしたいのでございます。
 私も実は大蔵委員会でずっと税金を十四年やってきて、よくいろいろなときにお話しするのでございますが、いずれにしろ行政というのはみんな税金でやるわけですから、最も効率的にやる、これは最低にして最高のいわば常識でなければならぬと思うのでございます。その意味で歳出カットということは最も効率的に税金を使いなさい、あるいは地方行政、地方自治体でも、より少ない人数でより効率的に上げるというのが住民へのサービスということで、私は原則的には当然だと思うのでございます。ただ、その場合、増税なき財政再建ということ、これはその精神、いわばなるべく、とにかくむだを排除していくという基本的な方向で――とにかく増税するということになりますとカットの刀が鈍りますので、その意味では、その方向性として増税なき財政再建という意味で、なるべく効率を上げていくということで進むというのは、第一義的には私はそのとおりだと思うのであります。
 しかし、いまの財政の状況を見たときに、その方針あるいはスローガンだけで一体日本は脱却できるのだろうかということになりますと、私は前段を否定をしているわけではないのでありますが、それだけではなかなかいかないのではなかろうか。財界の方というのは大変合理性を重んずる経済人でございますから、もう釈迦に説法だと思うのでございますが、たとえばことしの予算の五十兆三千七百九十六億のうちの一般歳出はざっと三十二兆といたしまして、ここは細かい数字が問題じゃないものですから、ざっと三分の一が補助金だと言われる。ではここで、いろいろなことがあろうとも完全に補助金を、たとえば三分の一をカットする、十兆カットするということが政治的にできたといたしましても、いまの財政赤字、建設国債といえども本来これはやはり財政赤字ですから、それは、片方では物が残っているというものの、財政という収支バランスから見れば赤字なものですから、その意味から申せば、十三兆の国債発行に対してそれだけの大なたをふるってみても十兆ですね。まだこれは差があるわけですね。もちろんその際には、公共事業を切ればその分だけ景気が悪くなるということによるところのマイナスの問題も起こってくるということはもう御承知のとおりでございますが、そういった意味では、この歳出カットだけではいまの財政再建というのはできないのではないか。
 私、申し上げましたように、冒頭のその精神で、とにかく効率化を目指していく、国民の皆さんに納めていただく税金を最も効率的に使っていくという意味での、それから行政サービスをする場合でも、最も効率的に最も少ない人数でできるだけの効率を上げようじゃないか、その方向はわかるのです。その方向はわかるのですが、収支バランスを考えた場合に、増税なき財政再建というのは、その精神としては私は第一義的に正しいと思うのでございますが、いまの財政バランスを考えると、ちょっとそれだけではとてもいかないのじゃないか。
 結局、尽きるところは、あと不公平税制をもう少し正していくか、自然増に頼るか、あるいは増税するかということですが、自然増といっても、いまの税体系の中でそう自然増はできない。強いてできるとすれば、サラリーマンの人々の課税最低限をちっとも上げてもらえないものだから、どんどん増収になるという意味での自然増はありますけれども、それ以外はちょっと法人税とてそんなに、実質三%成長が大体定着しているわけでございますから、そうは増収できないだろう。
 不公平税制については、恐らく石田さんと私とは大分見解の差があるだろう。たとえば私は、退職給与引当金というのはもう少し圧縮していいんじゃないか、しかも大きな企業の方はもう少し減らしてもいいんじゃないか、中小企業は一〇〇%認めてもいいんじゃないか、人数別に少しやってもいいんじゃないか、雇用者別、就業者別に変えてもいいんじゃないかなと私はかねてから思っているのでございます。
 というようなことを言っても、恐らく石田さんと見解は違うだろうし、もう少しインフレ利得の入っております土地ですね、私は固定資産税はやめてもいいと思うのです。たとえば財政再建中の七年間なり五年間やめていいから、皆さん方が持っていらっしゃる土地に含まれている簿価と時価との差ですね、全国合わせますと約二千兆と言われておりますので、これは専門家がはじいた数字でございますが、たとえばそれの一%にしても二十兆ですので、これを何年かかけていただく。その場合に固定資産税を、性格が似ているからというのでちょっとやめにするというのならやめにして、地方に、ある程度その分を出せばいいわけでありますから、というようなことをしたりして、不公平税制と申しますか、そういう意味での新しい税負担というのはしていかなければならぬだろう。それを一気に飛ばしてEC型の付加価値税だとか、あるいは大型間接税だとか、いや庫出し税とか言われることについては私は大変抵抗があるわけでございます。
 そういうようなことで、増税なき財政再建というのは、私は何度か言いますように、第一義的にまさにその方向で行くべきであるのですが、それもやはりおのずと限度があるだろうし、もう財政はそう先送りにできる状況ではないのではないかと思っているわけでございます。その点についてお二方の御見解をお伺いしたいのでございますが……。
#87
○石田公述人 お答えします。
 やはり先生は大蔵委員を長かったせいじゃないかと思うのですけれども、大蔵省というのは、歳出カットというのはどうも甘いですね。本当を言いますと、何か増分主義というのですか、総額抑制主義というのですか、この前の、去年でしたか、渡辺大臣のときでしたけれども、何かマイナス五%のシーリングというような話だったものですから、これはてっきり、五十兆の五%なら二兆四、五千億減るな、そう思っておったのです。ところが、実際にその対象になるのはたった五兆だというわけですね。そして二千五百億しかならないというような話で、あと、あれをふやし、これをふやしというようなことで、結局ふえたような数字になりまして……。だから、ああいう大蔵省の発言がすでにおかしいと思うのですね。対象は五兆円で、それの五%だけ削減するんだというなら、それならわかるのですけれども、いかにも一般歳出全体に五%下げるような発言をされるということは、国民が非常に誤るんじゃないか、こう思うのです。
 それと、今度の「基本的考え方」とか、それから展望じゃなくて今度は予測というようなことを使っておられますけれども、「中期予測」ですか、ああいう数字を見てみても、何かただ一兆四千億減らせばこうなるとか、二兆三千億減らせばこうなるとかいうような、そういう数字だけなんですね。だからそれよりもむしろ、私は今度非常にありがたいと思ったのですが、五十八年度の予算で二兆二千五百億という繰り越しの借入金がありますね。あれを含んでおいて、そして一般歳出というのがゼロに抑えてあるでしょう。だからあれだけは実質的には相当食い込んでいると思うのですね。だから、私はその点では五十八年度の予算というものは実際には四十八兆くらいの数字になっていると思うのですね。そうすると、あの点は私は今度は非常によかったんじゃないか。だから、あれをもう少し真剣にやれば大蔵省もやれるんじゃないか、こう思うのですけれどもね。
 先ほども答弁しましたように、私どもの計算によると一二%ぐらい歳出カットをやると、あの要調整額なんて要らずに再建できるというような数字が出ておるのですがね。その一二%の内容は、臨調で今度出しておりますああいう項目をいろいろ計算してやってみると大体そういう数字ができるのです。必ずしも荒唐無稽な数字じゃないので、必要があれば私たちの方でもそういうのをまた出してもいいと思いますけれども。私たちは、むしろそれよりも臨調に、ああいうふうな抽象的な文章ばかりでしゃべらずに、もう少し第一部会第二部会で、こういうことをやれば補助金のところはこうなるんだとか、それから特殊法人のところは、これをこういうふうにやれば幾らぐらい浮くんだというような数字を、やはり実際にこう付録としてつけてもらうと、われわれは非常に判断がしやすいのですけれども、あの文章だけでは非常にわかりにくいですね。あそこら辺は、私たちは今度最終答申に対して臨調の方にかたく申し入れをしようと思っていますけれども、そういうような考え方でございます。
#88
○大熊公述人 お答えいたします。
 あの増税なき財政再建というのはぜひ守って、今後も歳出のカットに御努力願いたいというふうなことに存じますが、それでも御指摘のとおり、それだけで済まないことは重々わかっておりますが、私は、やはり何とか現行の税制と申しますよりも、新しい税を創設することはできるだけ先に見送るという形で、できるだけの努力をしていくべきである。たとえば、一つはやはり国債を、今日、公社公団のあり方などがかなり批判されておりますので、できるだけ公債は多くを財投資金で肩がわりしていただくということも一つの手だと思いますし、それから現行の税制でも医師優遇税制、それから利子優遇税制というのがございますが、これらに、特にこの利子優遇税制に関しまして、私は、これをある意味では何らかの手直しをすることによって増収が図れるのではないか、こういうように考えております。
#89
○佐藤(観)委員 もう一問ぐらいお伺いしたいのですが、時間が参りましたので、きょうはありがとうございました。
#90
○久野委員長 草川昭三君。
#91
○草川委員 公明党・国民会議の草川昭三でございます。三人の先生方から大変貴重なお話をお伺いをいたしまして、心からお礼を申し上げるわけであります。
 まず最初に、石田先生にお伺いをしたいわけでございますが、先ほど、先進国病に陥らないためにも増税なき財政再建というものは、法改正、いわゆる制度改正を前提にしなければだめだ、非常にはっきりとした御発言がございました。私ども、非常にこれは大切な御意見だと思っておりますが、実は、経団連というのですか、財界として、いまも多少お話がございましたが、臨調の基本答申のときの構えから、第二、第三と部会報告になってまいりますと、しり抜けというと非常に臨調の方には恐縮でございますけれども、私どもも不満を持っておるわけでございますが、率直なところを、臨調の答申の流れを見て非常に御不満なのか、あの程度より仕方がないのか、御意見を賜りたいと思いますし、その中におけるいわゆる役所の、官僚という言葉を使うと大変抵抗のある方も多いわけでございますが、いわゆる役所の協力というものがなかなか基本的にないというようなことが言われておるわけですが、その点について、これも率直な御意見があればお伺いをしたいと思います。
 それから最後でございますけれども、三つ目は、これは石田さん個人のお仕事という意味で、実は昨日来からいろいろと国際的な為替相場の問題が昨日も盛田さんからも非常にきつく出ておりますし、それから本日の午前中も、OPECの石油価格の下落というものが果たして日本の産業なりあるいは国際的にどのような影響を与えるのだろうかというような点も出ておるわけでございますので、専門家の立場から教えていただきたい、こう思うわけであります。
#92
○石田公述人 お答えします。
 臨調の部会報告につきましては、私どもでは率直に言って非常に不満ですね。というのは、何か臨調の報告というのが、あれが目下、一番スタートからですけれども、実行可能だということが基本になっておるわけですね。ですから、私たちから見ると、もっと突っ込んでやるべきじゃないか、こう思うのですけれども、そこら辺が各役所に聞いたり、それから関係の団体に聞いたり、それからやはり政治の先生たちの御意見やらだんだん聞いていくと、だんだんこう狭められていくわけですね。それであんなふうなことになるというようなことをわれわれ聞いているのです。しかも、あの中の委員というよりもむしろ専門委員ですけれども、専門委員の方あたりでも、かなり過去官僚の方が大分おられるものですからね。それでいろいろな人たちの意見の妥協みたいなのが、あそこに部会報告になって出てくるものですから、まあやむを得ぬということかもわかりませんけれども、全くわれわれ財界から見ますと、もう少し突っ込みが足りないなという感じが非常に強いのが一点でございます。
 それからやはり今度の最終答申では、土光さん筋を通すというようなことを言っておられますし、これは私たちも十五日に財界の方で土光さんに意見を申し上げるようになっておりますけれども、やはりそういう意味では筋を通して、そして何といいますか、可能性のぎりぎりにするというのですか、それからもう少し、いまできなくても将来の展望としてこうあるべきだというようなことをやはり入れてもらいたい、そういうような意見がきょうございました。
 それから為替相場の問題ですけれども、これはきのう盛田さんが出て大分やったようでございますけれども、実はこの石油関係のわれわれのところが為替相場は一番大きく変動しまして、ことに、石油の値段が非常に高くなっておりますから、仮に一円動きますと、大体年間石油業界全体で五百億ドル以上になっておりますから、五百億ぐらい違うわけですね。ですから、上がっても下がっても私たち非常に影響があるわけでございます。
 しかもきのう盛田さんも言っているように、何かスペキュレーターというのですかね、為替相場というのが普通の為替だけの、貿易収支だとか経常収支とかいうようなこと、そういう面で動いてくれればいいですけれども、ところがそういうふうな、われわれはそういうファンダメンタルズはいいじゃないかというようなことでずいぶん考えておったら、去年はずいぶん裏切られてしまったのは、そのほかにやはり国際的なスペキュレーターというのがいる。シカゴ、あれが非常に有名ですけれどもね。ロンドンあたりもいるようですけれども、そういうのがいろいろな操作をやって、ことに日本の円というのがちょうど手ごろなものですから、それでまた日本のファンダメンタルズがいいといいますか、そういうような経済情勢もいいものですから、世界の経済の一〇%を占めるというような情勢にもなっておりますので、何ですか連中の目標になっているような形になっている。そこら辺にやはり円というものが非常に動いている原因があるというふうにわれわれ言われておるわけであります。
 いま石油がどういうふうになるのかというようなお話でございまして、これは実際はもう世界的に油が余っておりますし、それからサウジの標準価格なんというのは三十四ドルとなっておりますけれども、これが実際の、われわれはスポット価格と言うのですが、市場で取引されているのはもう二十九ドル五十とか二十九ドルというような数字が出ておりますから四ドル割っているような数字になっております。ですから、サウジも本当は、生産計画でいくと七百万バレルの生産枠を持っているのですけれども、いまもう四百万バレルかそれを割っているんじゃないかというようなことに言われております。そうすると、やはりいろいろなサウジの財政計画にも影響するでしょうし、それからいろいろないまプラントを建てておりますね、そういう計画があるわけですね。国家開発計画といいますか、そういうものの資金というような問題に非常に詰まってくることになってくるから、ここら辺もやはりサウジでも非常に重大な問題であります。一部の国では兵器を買わなければならないというような問題も抱えておるから、ここら辺も問題でございますし、ことにまたオイルダラーなんというのは日本にも相当入っておりましたし、それはアメリカなんて相当入っているわけでございますから、そういうものが今後どういうふうな動きをしてくるか、これが一つ問題でございます、油が。
 それからまた、メキシコのように油のために非常に調子よくやり過ぎまして、それでいま八百億ドル以上の借入金を持っているわけですね。それからベネズエラあたりもそうです。それからリビアとかアルジェリアあたりもそうですけれども、そういうものも下がってくると、いろいろな国のオイルダラーそのものの動きも関連しますし、また、そういうふうなメキシコとかベネズエラあたりの国際的な金融、こういうものが非常に混乱してくるのじゃないかというようなことで、石油の値下がりがいいかどうかというようなことがいろいろ議論されているわけです。しかし、実際日本は無資源国の消費国ですから、これは下がった方がいいというのは事実でございまして、それからまた、そういうふうな金融問題は金融問題として、ある期間を置けば、これはまたそれに対応していけばいいわけですから、それはやれるんじゃないかと思いますし、いろいろその人の立場によって違うかもわかりませんけれども、私どもとしては、やはり急激な値下がりというのはよくないけれども、ここで四ドルや五ドルの値下がりをするということは、一割か一割五分くらいの値下がりというのは非常に世界的にもいいのじゃないかというような見解を私たち持っております。
 以上でございます。
#93
○草川委員 どうもありがとうございました。
 では、続きまして大熊先生にお伺いしたいのですが、先ほど大熊先生の方から、政府保証債とそれから政府保証の借入金の依存度が増加をすることはいかがなものか、こういうお話がございました。従来の公社公団等が保証債で資金需要を手当てしておったわけでございますが、今回初めて住宅・都市公団等で九百八十億、本四公団で六百億の借入金をするわけでありますけれども、過去もこういう例はあるのですけれども、国に実際保証する能力がありや否や、この財政再建の大幅な赤字の段階で。そういう中で、それに応ずる民間側の銀行なり農協なり、いろいろあるわけでありますが、そこら辺のことは非常に私ども問題があるという気がするわけですが、その限界点というようなものとか、それから保証債と借入金との安定の度合い等について、お伺いしたいと思います。
#94
○大熊公述人 借り入れが一概に悪いということではございませんが、むしろどこが借り入れているのか。たとえば国鉄であるとか、あるいは住宅公団であるということになりますれば、むしろ借り入れをしている公社公団の実態が、経営が健全か不健全かということがまず第一に判断されなくてはならない問題で、それこそ臨調の当面の課題ではないかと存じます。
 それから、借り入れあるいは政保債の発行がどの程度が妥当かということでございますが、これはそうなりますと国債の発行がどの程度妥当かということにも広くつながってくるわけでございますが、やはり私は、どの程度が妥当かという限界は、これは歴史的に決められる節度の問題でありますが、もう一つはその発行によって民間の金利に大幅な不況の影響を与える、それが民間経済の回復を妨げる、大幅に妨げているのではないかということになりますと、これは厳しい限界であるというふうに考えております。
#95
○草川委員 終わります。
#96
○久野委員長 木下敬之助君。
#97
○木下委員 公述人の三人の先生方、本当に御苦労さまでございます。私は民社党の木下と申しまして、幾つか質問させていただきたいと思います。
 まず、大熊先生お願いいたします。
 先生さっきいろいろとお話しされた中で、財政の節度の維持ということを強調なさったと思います。私は聞いておりまして、国債発行の節度のことかな、現在で言ったら財政再建を順調にやることかなと、こういう受けとめ方をしたのですが、先生は具体的にはどういったことを考えて言われたのか。また、どういう枠を設けていけば節度の維持というものができるとお考えになっておられるかという点についてお聞きしたいと思います。
#98
○大熊公述人 私が節度と申し上げましたのは、できるだけ赤字公債を発行しないということでありますが、できるだけ赤字公債を発行しないということは、財政支出面でやはり大幅なカットをせざるを得ないということの意味でございます。それで、ただそれではどういうのが具体的に節度かと申しますれば、やはり先ほど申しました増税なき財政再建、これをできるだけ貫くというのが、これが節度の問題である、こういうように考えております。
#99
○木下委員 それはそういうことにお聞きいたしまして、もう一つ今後の問題を幾つか先生挙げられました。その中で国際収支の安定の必要ということを言われたと思うのですが、どういうふうにあるべきだというふうにお考えなのか。
#100
○大熊公述人 経済というのは長期的に先行きどうなるだろうかという期待に基づいておりますので、そういう意味で国際収支といいますか為替レートが安定した推移をとるのが望ましい。それで長期的には、私は、いろいろと摩擦を引き起こさないでわが国の経常収支がバランスをするような水準に落ちつくべきだと存じますが、しかし短期的にはかなり金融面からの影響がございます。そういう意味では、望ましい為替レートの水準が大体どのくらいなのかという国民的合意ができるだけ経済の中に定着をする。そうすれば、為替投機の問題も、そうした国民的合意でやがて正常な水準と思われるものを基準にして投機が行われるわけでございますから、やはり先ほど申しました長期的な望ましい経常収支の均衡というような形の水準をできるだけ早く検討をして、それを維持するような努力が望ましい、こういうように考えております。
#101
○木下委員 石田副会長、よろしくお願いします。
 一つには、先ほどもまた佐藤委員のお話の中で触れておられましたけれども、歳出削減のことでございます。大蔵は甘いというふうな表現もされておりまして、どうぞ先生のお考えを、どのくらいの規模の削減が可能かとかスケジュールはどうあるべきだとかいうお考えがあったら、聞かせていただきたいと思います。
#102
○石田公述人 さっきちょっと言い過ぎじゃなかったかとちょっと心配しておりますが……。予算編成のあり方というのがございまして、これは御承知のように、アメリカなどはOMBといいますか、行政管理予算局、これは大統領の直轄であるわけですね。しかしまた議会予算局というのが別にありますから、それ一本で決まるわけじゃないのですけれども、しかし大統領の下におりますから、大統領、あの教書以来見ておりますと、相当思い切ったことをどんどん発表しますね。防衛費なんというのも相当、三〇%も伸ばすようなこともやりますけれども、一方ではまた社会福祉事業をカットするとかというような、いろいろな思い切った政策がどんどんやれるわけですね。
 ところが、これはドイツもそうですけれども、大体日本の予算制度というのは大蔵省にあるわけですね。大蔵省というのはやはり各省と並んでいるわけですね。ですからほかの省の分に対して、まあ国鉄の問題なんというのは、あんな二兆円も赤字を出しているのは大蔵省はとうに知っていたと思うのですよ。それが、こういうことは困るじゃないかというようなことを大蔵省がやればいいけれども、それはできないわけですよね。これは何でかというと、やはり大蔵省というのは各省並びの制度ですから、毎年予算を組むときに、前年度比五%マイナスとか、それから一〇%増しとか、いわゆる増分主義というのですか、そして総額を抑制する、そういう制度になっているのですね。たとえば補助金の問題についても、補助金が十五兆と言われるのですけれども、その一々についてこういうのは困るじゃないかということを言わないのですね。各省並みですから、各省平均に減らすこととか平均にふやすようなことばかりやっているのですから、その制度そのものの内容に突っ込んでいないのですね。突っ込めないのですね、大蔵省では。
 だから、第一臨調のときには総理直轄の機関に持っていったらどうかということをやったのですけれども、しかしそれは行政管理庁の中に入れてしまったものですから結局働かなかったということで、やはり大統領、アメリカ式に、総理が本当の指揮権を発揮しまして、そうしてこの制度は問題だとか、ここの法律を変えるべきだというようなことを大胆にやらないことにはできないわけですね。私たちは、臨調のあの報告も、先ほどからもたびたび申しますように、臨調もあんな報告だけ出さずに、もっとこれをやれば幾らになるのだ、そういう数字も含めて出しますと、われわれは検討しやすいですし国民にもよくわかると思うのですけれども、どうもその辺が足りないというのが私たちの不満ですね。
 以上でございます。
#103
○木下委員 続けてお聞きいたしたいと思います。
 やはり先ほどのお話の中で直間比率の見直しについて触れられまして、やったとしてそれ以後の増税に歯どめがない、そういう御表現をなさったと思うのです。その辺のお考えを、どういった観点から見ると、その後の歯どめがないように見えるのか、ちょっと教えていただきたいと思うのですが。
#104
○石田公述人 これはもうすでに外国で、ヨーロッパでそういうふうになっているわけですね。歯どめなく進められるわけですね。ああいうパーセンテージというのは、次に伸ばすことは非常に簡単ですし、そういう歯どめがない。
 大体もう少し考えてみると、いま新聞あたりもずいぶん出ていますけれども、国民みんないまの大蔵大臣のあの返事やら聞いてみて、果たして増税しないのだろうかというような、先ほども出ておりますように二百一万円ですか、あれを少し上げたらいいじゃないかというふうな話、ずいぶん出ておりますけれども、それと抱き合わせに間接税をやって、それはまだいいかもしらぬけれども、一応そういうことでつられてやってみたら、あと間接税ふやされる、そういう前例があるから油断ならぬというのが私たちの考え方でございます。
#105
○木下委員 最後にもう一つお聞かせください。
 歳出の伸びをゼロに抑えたこの予算、評価されておられる。私ども、いろいろ評価する面もあるでしょうけれども、公務員の給与改善費を一%しか見込んでないとか、この辺非常に疑問があるのじゃないかと思っておるのですが、人勧制度をどういうふうに考えておられるのか、お聞かせいただきたい。
#106
○石田公述人 これは率直にわれわれの意見を申し上げますと、第一次ショック以後、民間というのは相当給料をカットしましたね。それから人を減らすというようなこと、いわゆる減量経営というようなものによって乗り切ってきたわけですね。ところが政府の方は、あの高度成長で伸び切って、それをちっとも減らしてないですね。それが結局、いろいろな歳出をふやしていくような方にばっかり、そういうファクターがたくさん残っているわけですね。だから、そのぜい肉を落とさぬといかぬというのが歳出カットと言っているわけなんですが、ほかのところがそういうふうに変わった状況のときに、公務員の方に凍結というようなことはちょっとひどいような気がしますけれども、いままでのあれから見てみますと、いままでわれわれ民間の方はいろいろな試練を経て相当減量経営やってきたのに、役所の方は、大体役所の組織そのものが、これはもうふえることにはなっているけれども減ることにはなってないのですね。そこら辺に問題があるというふうに考えております。
#107
○木下委員 われわれは人減らしをやれば人勧実施しても十分やっていけるというふうに思っておるわけでございます。どうぞ御理解をお願いいたします。
 どうもありがとうございました。
#108
○久野委員長 山原健二郎君。
#109
○山原委員 三人の先生方、どうも御苦労でございます。
 私が最後の質問者になりまして、遅くなって大変恐縮ですが、予算案に対して賛成のお二人の大熊先生、石田先生、ちょっとお休みいただきまして、反対の立場で公述をされました春山さんに御質問いたします。
 春山さんの本日のお話は、一兆円減税の問題あるいは人事院勧告問題、第二臨調の問題、軍事費の一兆円以上の削減問題、それから五十八年度予算における大企業、大資産家優遇税制、隠し利益などについて全面的に改善すべきであるという立場でお話をされ、そして最後に雇用対策についてお話をされておったわけです。それで、私もその意見に賛成の立場でございますが、最初に減税問題についてお聞きしたいのです。
 これは各党ともそうだと思いますが、わが党の場合も、全日本民間労働組合協議会、全民労協ですが、そこから減税に関するアンケートを受けました。この中身はもう御承知だと思いますが、一つは五十八年度所得税、住民税減税の実施、二つ目はいわゆるクロヨンなどの税の不公平についての見解を求めたものでございました。そこで私どもの党としましては、これに対するアンケートの回答を次のように申し上げたわけであります。
 一兆円以上の所得税減税をわが党としては一貫して強く要求してきております。そのために、まず第一番に世論の総結集、各党の共同、第二に代替財源の提示が求められていること、そして軍事費の削減、大企業に対する優遇税制の是正を要求すべきであって、国民の前で公然とこの減税問題が論議されるべきであるという立場を回答いたしました。そして、わが党は減税、予算問題でどの党とも協議し、共同する立場を表明していることもあわせて回答しました。
 また、第二点の税の不公平について、税制上の不公平の最たるものは株式時価発行プレミアム非課税など、大企業、大資産家優遇の仕組みであり、執行上の不公平もタックスヘーブンなどを利用した大企業の悪質な脱税の放置に典型的に示されている。これらの点を主張せずして、実態のあやふやないわゆるクロヨン論のみを強調することは、税制の民主的改正を求める国民世論の分断をねらう政府、財界に手をかす結果となりかねない。申告納税者に対する税務行政が適法、適正であるべきことは言うまでもないけれども、しかし中小企業者は所得の六割、農民は所得の四割にしか課税されていないというような事実は認められない。また、中小業者に対する個人事業税の課税など税制上の厳しさも見なければならない。重税の重荷は労働者あるいはサラリーマン、業者、農民を問わずすべての勤労国民にのしかかっており、だからこそ国民各階層の共同の闘いが必要である、こういう回答をいたしたのでございます。
 同じ労働組織といたしまして、統一労細懇の幹部をされております春山さんは、このわが党の回答に対してどういう見解を持たれているでしょうか、簡明にお答えをいただきたいのです。
#110
○春山公述人 所得税、住民税の減税ということでは、私も先ほど考え方を発言させていただきました。ただいまの全民労協、全日本民間労働組合協議会の質問に対する共産党のお答えの内容につきましても、過日新聞紙上で拝見をしておりまして、大筋は私どももそのように考えているところでございます。
 ただ、私どもといたしましては、その税金問題について、全民労協というのは私どもが参加をしていない組織でございますし、いわばよそ様のことですから立ち入ったことは申し上げにくいのですけれども、すでに昨年の十二月十四日の結成総会議案でその辺の考え方が文書で公にされております。その考え方の中に、私どもは大変不安な内容、懸念を感じるのでございます。
 それは、先ほど中小企業の減税問題をちょっと先生も触れられましたけれども、二月二日に私が日比谷公会堂で開かれました中小商工業者の集会へ伺いましたところが、その中小商工業者の方々が申告納税制度の改悪に反対をするということで、いろいろ全国から集まった代表が物を言っておられました。ところが、その中小商工業者の方々が反対をしている中身を全民労協の方々は政府にやれと言っておるようでございます。それから、今度の直間比率の問題その他の税制にかかわりまして第二次臨時行政調査会が答えを出しておりますが、その問題との関連でも、なぜ財政赤字ができたのかについて、その全民労協の出されている議案の内容では肝心のところがぼやけておるような気がしてしようがありません。それは、不公平税制是正というあいまいな言い方ではなくて、やはり予算の執行やあるいは租税特別措置法などで莫大な利益を受けている大企業に対する課税制度の見直しをはっきりと打ち出すべきではないのかと思いますし、そういう点も含めまして考えておるところでございます。
#111
○山原委員 第二問ですが、先ほど公平にひとしく痛みを分かつというお話もございました。また、社会保障のばらつき問題、医療あるいは教科書有償問題、農業問題などにつきましても、日本経済にはそういう余裕はないんだというお話もあったわけです。
 ところが、五十八年度の予算が昨年末に閣議で決定しましたときの日本の大新聞の論調を見てみますと、たとえば朝日新聞の場合は、その社説におきまして「軍備増強に傾斜した予算案」と題しておりまして、「復活の過程で最も鮮明になったのは、軍備増強の姿勢である。中曽根内閣のタカ派的性格をみせつけられ、不気味さを覚える。首相は、防衛費の増加を訪米の手土産にするつもりかも知れない。だが、レーガン政権の要求にこれほどまで積極的にこたえることが、長期的にみて真の日米友好になるのだろうか。わが国が軍備増強にはずみをつけることは、結果的に世界の軍備拡張競争に加担し、促進することになろう。正しい道ではないと思う。」と述べております。
 毎日の社説は「国民に背を向けた予算案 臨調路線を浮き彫りに」と題しまして、「今回の予算政府案を全体としてみると、よくもここまで国民に背を向けたな、といわざるを得ない。そこには、国民の願いとは違った方向へ走っていく中曽根政権のなり振り構わぬ姿勢が改めて浮き彫りにされたということではないか。具体的には、防衛突出の半面、福祉・国民生活冷遇というタカ派路線の選択である。かねて予想してきたこととはいえ、やっぱりそうか、という思いがつのる。」「いまの臨調路線は、国民に背を向ける要素が多すぎる。」「「乏しさを分かち合った予算」という評価が自民党、大蔵省にあると聞く。しかしこういう悪い冗談がまかり通る政治がいつまでも続くようでは夢も希望もわいてこない。」こういう論調ですね。これは先ほども私は申し上げましたけれども、予算案ができて、これほど痛烈な批判が大新聞の社説によって次々と表明されたことは、いままで私の経験では初めてです。
 そして、春山さんもおっしゃいましたが、同時にNHKの世論調査では、今度の軍事費問題を契機にしまして、また中曽根訪米を契機にしまして、国民世論の七九%がアメリカの戦争に巻き込まれるという危険性を感じている。この国民感情、これは無視することができないと私は思うのです。これに対して正当にこたえる論議がなされなければ、痛みを公平に分かつといっても、痛みを受けているのは一体だれか。
 私は、ここへ私の県の新聞の投書を持ってきています。これは非常に有名な病院の事務を担当している人ですけれども、いまや老人医療有料化の問題を含めて、病院からの老人の追い出しが始まっているということを書いているのです。深刻な事態がはやすでにあらわれているわけですね。そして、四十人学級の中止、あるいは奨学金制度の改悪、あるいは私学助成に対する削減、あるいは授業料の値上げというふうになってきますと、結局しわ寄せを受けておるのは弱い人たちであります。
 しかもその反面、たとえば技術開発の名によりまして、土光さんの関係しておられる石川島播磨を含めて六社が、七二年から八二年までに一社大体百億から三百億の技術の開発の補助を受けているわけです。ところが中小業者に対しては、この同じ期間に日本全体を含めて百五十億しか出ていません。しかも、その補助金については、臨調の第三部会はこの大企業に対する補助金は切るべきでないという結論を昨年末に出しています。痛みを分かつなどと言うなということが出てくるのは当然じゃないでしょうかね。
 税制の問題でもそうでございますが、そういう点から考えますと、一つは、やはり私は今日のこの状態の中で軍事費の突出を削らずして日本経済の再生はあり得ないと思っています。この点について春山さんの見解を伺いたいのであります。
#112
○春山公述人 私ども労働組合の立場でございますけれども、平和と民主主義を守る上で、わが国の予算の中で軍事費がどういうような傾向を持っているのかには重要な関心を持っております。第一次防衛力整備計画以降の四次あるいは五次、五六中業、ここに至ります間の増額の傾向を見てまいりますと、五年ごとに倍、倍となっているようでございます。当初を一としますと二となり、四となり、八となり、一六となり、将来三二となる。これは年代が変わっておりますから、ある意味での同じ内容であっても額がふえるのはあるかもしれませんけれども、それにしても突出をし過ぎていると思っております。
 なお、GNPの一%前後というのを、もしたとえばNATO並みの三%に広げるなどということになりましたら、それこそ今日の財政赤字のもとで国民生活を圧迫するもはなはだしいと思っております。基本的には、軍備を増強することで、いわば軍事力均衡論の立場に立って平和を守るということはできないという国際的な歴史に私たちが学ぶべきではないかという考え方を持っておるところでございます。
 先日、偶然でありましたけれども、広島へ飛行機がおりられませんで岩国の基地へおりました。あの膨大な、私どもが外へ出るまでジープやタクシーで何か十分近くかかったように思います、広大な国土がアメリカの軍事基地になっているということや、青森県の三沢にF16という核を装備できる戦闘爆撃機が勝手に配置をされるということや、あるいはワインバーガー国防長官がたしか一昨年アメリカの軍人の学校で、日本はアメリカの核の傘に入る義務があるというふうに述べたことや、あるいは今年度太平洋艦隊、アジア艦隊に核配備がされる、加えてここの国会のどこかの場で、たしか一九八〇年の十月十六日に、百五十五ミリりゅう弾砲に核砲弾をつけても憲法違反にはならないだろう、使わない、持っているというふうな御答弁が政府側からあったやに聞いておりますが、その百五十五ミリあるいは二百三ミリりゅう弾砲、自走砲は、いま自衛隊には全国にたしか百門近くあると思いますし、それにぴたり合うような直径十五センチ、長さ八十センチの82号核兵器がアメリカで開発をされていると聞きますと、なおさらのことでございます。
 軍備の増強によって核抑止論の中に巻き込まれながら日本を核戦場の危険に持っていくような方向ではなくて、先ほども申し上げましたように非同盟中立、平和の政策で、米ソ二超大国の、お互いに全面的な核攻撃能力を上回ろうとするようなむちゃな戦略の中に、その陣営の中に日本が入っていくことはやめて、経済的な自立の問題とも考え合わせた平和な方向を考えるべきであるし、打ち出すべきであると考えております。政府にも強くそのことを求めたいと思っておるところであります。
#113
○山原委員 この数年来の予算に占める伸び率ですけれども、これはもう申し上げる必要もないと思うのです。しかし、私はずっと国会へ出まして、この十数年、教育のことに関係している文教委員会におりますけれども、今度初めて軍事費の伸び率が六・五%に対して文教費の伸び率はマイナス一・一%、これはもうまさに重大な事態だと思っているのです。
 前に中曽根さんが行管庁長官をしておりますときに、この予算委員会で私は一つの質問をしました。というのは、これは全国の父母、教師、子供たちが願っている例の学校における四十人学級の問題です。国民の世論の前に政府もやっと、十二年間という長さではありますけれども、これに乗り出した。そのときに年間の経費がたしか五十六億円であったと思うのです。その五十六億円で年次的に四十人学級が実現をしていく。落ちこぼれ、非行の問題、こういう問題を解決していく一番重大な要素としてこの問題が進もうとしたときに、これがストップになった。金額はわずかに五十六億円でございました。ところが一方、学校の先生方の主任手当というのが、たしか八十六億円であったと思います。その方は全額残して、全国の子供や父母の要求であるわずか五十六億円をゼロにカットしてしまった。そんな不公平なことがあるかといって中曽根さんに私はこの場所で質問をしましたら、いや、そこがあなたの党と私どもの考え方の違いだと言うのですね。痛みを公平に分かつなどと言いながら、まさに政治優先の立場で今度の行政改革が考えられており、さらにその上に、今回の訪米、訪韓によりまして、まさに日米韓の軍事同盟の強化というような形の中で、新しいファシズムといいますか、そういう危機が私は迫っておるということをそのときもひしひし感じたのですが、ことしになりましてから一層そのことを強く感じております。
 最近の情勢は、この予算委員会の質疑応答を聞いておりましても、もう財政再建ではなくて財政破綻の道を促進する予算である。そして、五十九年度から大型間接税を導入するということを公然と言い出した。増税なき財政再建ではなくて、財政再建なき大増税がもうすでに論じられ始めているのです。憲法改正問題が堂々と出てくる。その上に不沈空母、運命共同体、海峡封鎖、こうなってまいりますと行政改革とこういう危険な戦争への道行きといいますか、そういうものが一つになって、いわば日本の国土と国民に襲いかかっておると言っても間違いではない。そういう危機感を持っておる人はずいぶん多い。きょうの午前中の質問の中でも、たとえば川田教授のようにそのことについて触れられた方もおいでになるわけですが、これに対してどう労働者階級がこたえていくかということが、いま深刻に皆さんの中でも討論をされておると思うのでありますが、統一労組懇の代表といたしまして春山さんなどは、これから日本国民とともに、この国の経済再建あるいはこの国の平和の道をどう探求していこうとされておるか、簡単で結構ですから、最後にお話を伺いたいのであります。
#114
○春山公述人 私どもの運動のささやかな経験から恐縮ですが触れさせていただきますと、主権在民を憲法でうたっている日本でありますから、労働者、国民の声を最大限集約してそれを国政に反映させる、この基本的な道を私は着実に進めてまいりたいと考えておるところです。
 昨年の九月から三カ月間の間に軍拡臨調反対、暮らしと平和を守る全国縦断大行動というのを私どもが全県的に推進をしましたとき、二十九の県で約千近い地方自治体へお伺いをしましたけれども、その中の保守、革新を問わず多くの市長さんやあるいは知事部局の方々が、日本の将来について、国民の暮らしについて、不安感を表明をしておられました。また、全国七千の労働組合に私どもの仲間が伺いましたが、同じように日本の労働者、国民の将来の生活やあるいは平和、民主主義はどうなるのかということで不安感を表明をしておられましたし、そこでは、必ずしも全部とは申し上げませんけれども、大変多くの方々との共同連帯を確認をしたところでございます。
 また「軍事費を削って暮らしと福祉、教育の充実を」という国民署名では、すでに申し上げましたけれども、この二年余りの間に二千六十万人分の署名を政府あるいは国会請願ということで提出をしてまいりましたし、この活動はもっともっと国民的な支持を、現に受けているし、広げる道だろうと思っております。
 こういうふうな国民の暮らしと平和を守る気持ちを率直に理解していただけるような広がりを国民的な規模でつくり出して、その中で国政の正しい方向への推進を求めてまいりたいというふうに考えておるところでございます。
#115
○山原委員 時間が参りましたので、これでおきます。
 石田さん、そして大熊さん、時間の関係で省略して申しわけありません。
 どうもありがとうございました。
#116
○久野委員長 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。
 公述人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 これにて公聴会は終了いたしました。
 次回は、来る十四日月曜日午前九時三十分より開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後三時五十八分散会
ソース: 国立国会図書館
姉妹サイト