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1982/02/03 第98回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第098回国会 予算委員会 第3号
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1982/02/03 第98回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第098回国会 予算委員会 第3号

#1
第098回国会 予算委員会 第3号
昭和五十八年二月三日(木曜日)
    午後一時一分開議
 出席委員
   委員長 久野 忠治君
   理事 江藤 隆美君 理事 高鳥  修君
   理事 堀内 光雄君 理事 三原 朝雄君
   理事 村田敬次郎君 理事 川俣健二郎君
   理事 藤田 高敏君 理事 坂井 弘一君
   理事 大内 啓伍君
      相沢 英之君    石井  一君
      上村千一郎君    小渕 恵三君
      越智 伊平君    大村 襄治君
      海部 俊樹君    金子 一平君
      倉成  正君    栗原 祐幸君
      澁谷 直藏君    正示啓次郎君
      白川 勝彦君    砂田 重民君
      田中 龍夫君    渡海元三郎君
      根本龍太郎君    橋本龍太郎君
      藤尾 正行君    藤田 義光君
      藤本 孝雄君    武藤 嘉文君
      森   清君    稲葉 誠一君
      岩垂寿喜男君    大出  俊君
      岡田 利春君    木島喜兵衞君
      小林  進君    佐藤 観樹君
      沢田  広君    野坂 浩賢君
      平林  剛君    草川 昭三君
      草野  威君    正木 良明君
      木下敬之助君    竹本 孫一君
      安藤  巖君    瀬崎 博義君
      中路 雅弘君    楢崎弥之助君
 出席国務大臣
        内閣総理大臣  中曽根康弘君
        法 務 大 臣 秦野  章君
        外 務 大 臣 安倍晋太郎君
        大 蔵 大 臣 竹下  登君
        文 部 大 臣 瀬戸山三男君
        厚 生 大 臣 林  義郎君
        農林水産大臣  金子 岩三君
        通商産業大臣  山中 貞則君
        運 輸 大 臣 長谷川 峻君
        郵 政 大 臣 桧垣徳太郎君
        労 働 大 臣 大野  明君
        建 設 大 臣 内海 英男君
        自 治 大 臣
        国家公安委員会
        委員長     山本 幸雄君
        国 務 大 臣
       (内閣官房長官) 後藤田正晴君
        国 務 大 臣
        (総理府総務長
        官)
        (沖縄開発庁長
        官)      丹羽 兵助君
        国 務 大 臣
        (行政管理庁長
        官)      齋藤 邦吉君
        国 務 大 臣
        (北海道開発庁
        長官)
        (国土庁長官) 加藤 六月君
        国 務 大 臣
        (防衛庁長官) 谷川 和穗君
        国 務 大 臣
        (経済企画庁長
        官)      塩崎  潤君
        国 務 大 臣
        (科学技術庁長
        官)      安田 隆明君
        国 務 大 臣
        (環境庁長官) 梶木 又三君
 出席政府委員
        内閣審議官   林  淳司君
        内閣法制局長官 角田禮次郎君
        内閣法制局第一
        部長      味村  治君
        内閣総理大臣官
        房管理室長   菊池 貞二君
        総理府人事局長 藤井 良二君
        警察庁警備局長 山田 英雄君
        行政管理庁行政
        管理局長    佐倉  尚君
        防衛庁参事官  新井 弘一君
        防衛庁参事官  西廣 整輝君
        防衛庁参事官  友藤 一隆君
        防衛庁参事官  冨田  泉君
        防衛庁長官官房
        長       佐々 淳行君
        防衛庁防衛局長 夏目 晴雄君
        防衛庁人事教育
        局長      上野 隆史君
        防衛庁衛生局長 島田  晋君
        防衛庁経理局長 矢崎 新二君
        防衛庁装備局長 木下 博生君
        防衛施設庁次長 森山  武君
        防衛施設庁総務
        部長      伊藤 参午君
        経済企画庁調整
        局長      田中誠一郎君
        経済企画庁総合
        計画局長    谷村 昭一君
        法務省刑事局長 前田  宏君
        外務大臣官房審
        議官      藤井 宏昭君
        外務省アジア局
        長       橋本  恕君
        外務省北米局長 北村  汎君
        外務省欧亜局長 加藤 吉弥君
        外務省中近東ア
        フリカ局長   波多野敬雄君
        外務省経済局長 村田 良平君
        外務省経済局次
        長       妹尾 正毅君
        外務省条約局長 栗山 尚一君
        外務省国際連合
        局長      門田 省三君
        大蔵大臣官房審
        議官      吉田 正輝君
        大蔵省主計局長 山口 光秀君
        大蔵省主税局長 梅澤 節男君
        大蔵省国際金融
        局長      大場 智満君
        文部大臣官房長 高石 邦男君
        文部大臣官房会
        計課長     國分 正明君
        厚生大臣官房審
        議官
        兼内閣審議官  古賀 章介君
        厚生大臣官房会
        計課長     坂本 龍彦君
        厚生省環境衛生
        局長      竹中 浩治君
        農林水産大臣官
        房長      角道 謙一君
        通商産業大臣官
        房審議官    斎藤 成雄君
        通商産業省通商
        政策局長    中澤 忠義君
        通商産業省貿易
        局長      福川 伸次君
        通商産業省立地
        公害局長    福原 元一君
        通商産業省機械
        情報産業局長  志賀  学君
        運輸省鉄道監督
        局長      永光 洋一君
        郵政省電気通信
        政策局長    小山 森也君
        労働省労政局長 関  英夫君
        労働省労働基準
        局長      松井 達郎君
        建設大臣官房会
        計課長     牧野  徹君
        建設省計画局長 永田 良雄君
        建設省住宅局長 松谷蒼一郎君
        自治省行政局公
        務員部長    坂  弘二君
        自治省行政局選
        挙部長     岩田  脩君
        自治省財政局長 石原 信雄君
        自治省税務局長 関根 則之君
 委員外の出席者
        予算委員会調査
        室長      三樹 秀夫君
    ─────────────
委員の異動
二月三日
 辞任         補欠選任
  大村 襄治君     石井  一君
  奥野 誠亮君     森   清君
  村山 達雄君     白川 勝彦君
  沢田  広君     平林  剛君
  正森 成二君     安藤  巖君
同日
 辞任         補欠選任
  石井  一君     大村 襄治君
  白川 勝彦君     村山 達雄君
  森   清君     奥野 誠亮君
  平林  剛君     沢田  広君
    ─────────────
本日の会議に付した案件
 昭和五十八年度一般会計予算
 昭和五十八年度特別会計予算
 昭和五十八年度政府関係機関予算
     ────◇─────
#2
○久野委員長 これより会議を開きます。
 昭和五十八年度一般会計予算、昭和五十八年度特別会計予算、昭和五十八年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。
 総括質疑を行います。平林剛君。
#3
○平林委員 昨日、私は、政府の対米武器技術供与の問題につきまして、国会決議との関連から質疑を展開いたしましたが、政府の見解と私どもの考えとは対立したままでございます。
 私は、昭和五十六年三月二十日の衆議院の本会議における決議は、「日本国憲法の理念である平和国家としての立場をふまえ、武器輸出三原則並びに昭和五十一年政府統一方針に基づいて、」「政府は、武器輸出について、厳正かつ慎重な態度をもつて対処すると共に、制度上の改善を含め実効ある措置を講ずべきである。」という国会議員全員一致の決議でございますから、これは日本国民の意思であると主張いたしました。この決議を行政府が一方的に変更することは、三権分立の原則からできないというのが私の主張でございます。
 もし、政府の考えのように、日米安保体制の効果的運用を確保するためにアメリカはこれを除外すると決定することは、たとえ行政権が内閣に属するといえども許されないことであります。もし、これを許せば、非核三原則もその他の国会決議も、政府が勝手に歪曲した解釈で何でもできるということになりかねません。私は、これは国会の軽視だと思います。
 政府は、予算委員会の理事会等で、あの決議は武器輸出だけで、技術の方は含まないなんというような答弁をいたしておりましたけれども、武器に準じて取り扱うというようなことを補足訂正されたという話は聞きましたが、私はこの政府の見解は認めることができないのでございます。しかし、各党間の協議の結果、この問題の取り扱いは今後継続協議することとして、審議を再開するということになりましたので、以上、私の見解だけを申し上げました。政府の弁明は求めません。
 この問題で再び質疑を繰り返しますと、きのうと同じように審議中断、審議ができなくなりますから、私は、政府の方針はこれを撤回すべきである、この基本的態度は堅持するということだけを言明いたしまして、この問題の質疑の継続は留保いたしたいと思います。
 そこで、財政経済問題の質疑を続行いたしたいと存じますので、御了承願いたいと存じます。
 昭和五十八年度の政府予算を見ましてだれでも気がつくことは、まず防衛費の伸びが対前年比六・五%ふえまして、二兆七千五百四十二億円にふくれ上がっているということでございます。その一方で、福祉関係の予算は、前の年に比べまして戦後最低の伸び率〇・五%に落ち込んでいることでございます。政府は、絶えず防衛費は聖域にしないと言いながら、中曽根総理は、対米関係からも七%台は守ってあげたいとアメリカに対する配慮の発言を続けまして、防衛努力は鈴木前総理が日米共同声明で約束済みのことであると前総理にもげたを預けまして、防衛費は日米貿易摩擦の保険料の意味合いがある、日本経済も大きくなったのだから、家が大きくなれば保険料も高くなると説明をされておりましたことを私承知しております。
 一体、防衛費の増加というのは、アメリカという保険会社に支払う保険料なんでしょうか。何のために、何を何から守るのか。つまり防衛の本質的な議論もなしに、アメリカの意向に沿うように日本の防衛予算が組まれている。一体それでよいのでしょうか。私は、この点につきまして総理大臣の御見解を承りたいと存じます。
#4
○中曽根内閣総理大臣 防衛は、みずからの国の、特に国民の生命、財産をお守りするために、政府の責任におきまして、国民の御協力を求めまして、みずから行うべきことであります。そういう観点から政府は「防衛計画の大綱」という大綱を決めておりまして、それをできるだけ早い期間に達成するようにいままで努力してきたところでございます。
 じゃ、なぜ「防衛計画の大綱」を達成するのかと言えば、万一の際に侵略を起こさせないように日本としての抑止力、外国が手を出したらひどい目に遭うぞ、日本に戦争を仕掛けたり侵略することはそろばんに合わないことだ、そういうことをあらかじめよく知らせるために抑止力をつくっておく、そういう意味において「防衛計画の大綱」というものをつくって、いままで努力してきたところでございます。
 そこで、「防衛計画の大綱」を実行していくためにはまた幾らかお金がよけい要ります。しかし、じゃ、なぜよけいお金がそんなふうに要るのか、必要なのかと言われれば、昔と違って日本経済は非常に大きく成長いたしましたし、日本が貧乏であった、苦しい時代であった時代よりも多少経済力もついてきて、そして世界的地位もまた日本は非常に向上してきたわけでございます。
 そこで、自由世界の国々は、最近特に北大西洋同盟条約やアメリカ等は、ソ連のアフガニスタン侵入そのほかの事例を見まして、防衛力をある程度強化してソ連の急速な軍事膨張に対する抑止力をつくろう、戦争を起こさせないために、それは引き合わないということを知らせるための抑止力をつくろうというので、非常に防衛努力をしてきたわけです。これはアメリカがベトナム戦争ですっかり萎縮してしまって、その間にソ連が相当な軍事力を強化した、それに対してあわてていま抑止力をつくっているというのが西欧側、自由主義陣営の現状でございます。
 そういう状況を踏まえまして、日本も憲法の範囲内で専守防衛を貫いて、しかも非核三原則を守りながらそれ相応の努力をするということが日本としての抑止力、戦争を起こさせないという一つの力にもなってくる。つまり経済力がある程度強くなり、世界情勢がこういうふうに変化してくれば、日本もそれ相応の努力をするということは、世界から孤立しないためにも日本は必要なのでございます。そういう意味において保険料も高くなるということを申し上げた次第でございます。
#5
○平林委員 わが国の経済力が世界の中で大きくなってきたという場合に、総理は、したがって、保険料のごとく、世界の孤児にならないために防衛費をふやす。しかし私は、もし、わが国が経済の面において国際的に優位な立場に立ったとすれば、その余力を使ってむしろ経済協力、どこの国からも尊敬をされる、どこの国からも、ああ、日本はよくやってくれるな、やはり経済大国になったので、そういうことを考えて世界の貧困とか飢餓とか、教育のないところにお金を使ってくれる、ああいう国を侵略するのはよくない、こういうような立場で日本の安全と平和を守るというのが私たちの立場であります。私は、そういう意味では総理の御見解と全く見解を異にするということを申し上げたいと思います。
 そこで、実は二月の一日にワインバーガー・アメリカ国務長官が、アメリカ上院軍事委員会の公聴会におきまして、議員の質問に答え、アメリカ政府が日本に対して防衛力の充実、質的な増強を求めざるを得ない根拠を明らかにしたという報道がございました。この報道によりますと、戦争放棄を規定した日本の憲法は、第二次大戦後のアメリカの軍事的優位の環境があったからこそ成り立った、しかし、いまはアメリカの軍事的優位が失われていると述べております。
 このアメリカの国務長官の発言は、日本の憲法を改定しろと直接求めたものではございませんが、しかし、それにいたしましても、アメリカの軍事力が相対的に低下したことに伴い、日本の防衛力増強に関する憲法の制約が現在の国際環境にそぐわなくなったとのアメリカ政府の見解と見ることができます。この発言は、とりようによりましてはわが国の憲法を改定することを暗に求めているとも受けとめられますし、もし、そうだとすれば、重大な内政干渉になりかねません。また、少なくとも、憲法の枠を超えてでも戦略的な防衛を自力で行うことを示唆しているのではないかとも思われるのでございます。この問題につきましていま総理からお答えがございましたけれども、自発的というよりは、こうしたアメリカ側の意向に沿う形で軍備の膨張をしておるのではないか、総理の御見解を承りたいと思います。
#6
○中曽根内閣総理大臣 この問題にお答えする前に、いま経済協力のお話がありましたが、私も全く同感でございまして、今回の予算におきましては、外国に対する経済協力の予算は、昨年度に比べて約七%よけい出しておるわけです。防衛費は六・五%、あとエネルギー開発が約六・一%でございました。ともかくそういうわけで、経済協力を最重要視しまして、防衛費の伸びよりもさらに大きく伸ばしたというのがわれわれの立場でございまして、この点は平林さんと同じ考えでございます。
 それから、ワインバーガー長官の発言は、恐らくアメリカサイドの考え、あるいはワインバーガー長官の個人的意見として歴史的考察を述べたのである、私そう見ております。別に日本憲法を改正してくれとかなんとかということは言っておりません。また、憲法問題というのは日本独自の内政事項でございまして、人の国から言われるような問題ではない。日本人が自分で独自に決むべき問題であるということはもちろん当然のことでございます。
#7
○平林委員 総理大臣が、私の平和への考え方につきまして、この点については同感であるというお話がございました。ただ、経済協力は防衛費よりも少しふえて七%だとおっしゃいましたけれども、私はまだまだ日本の努力は足りないと思っております。世界の国の、国際的な政府開発援助を行うような各国の状況から比べましても、まだまだ日本の努力は足りません。そういう意味では、七%だからふえているということにつきましては必ずしも私は納得いたしません。これはまた別の機会に改めて議論をしたいと思います。
 いまアメリカのワインバーガー国務長官の発言につきまして総理のコメントがございましたけれども、それでは私、伺います。
 昭和五十八年度の政府予算がまとまったときに、谷川防衛庁長官は、厳しい財政事情の中でようやく六・五%増までこぎつけたことについてアメリカ側の理解を求めたいと記者会見で強調した記事を読んだことがございます。あなたに答弁は求めません。中曽根総理は、一月訪米を控えまして、防衛費の七%はアメリカのために守ってあげたい、防衛力増強の積極的姿勢を示すことで日米のぎくしゃくを避けるためにそうしたい、こう発言をしたことも実は承知をしておるわけでございます。自発的に日本がいろいろなことを考えて、その判断でお決めになったと言われますけれども、私は、やはり総理の頭の中には日本とアメリカとの関係を考慮して、アメリカに顔を向けて防衛費だけはふやしていったのじゃないのか、こういう感じを否定することができないのでございますが、もう一度ひとつお答えをいただきたいと思います。
#8
○中曽根内閣総理大臣 小さなことですが、ワインバーガーさんは、国務長官じゃなくて国防長官でございます。
 それから、アメリカのことも考えたいと申し上げましたのは、全くそのとおり事実でございます。それは、アメリカ上院におきまして、日本の防衛力をさらに増加してくれという決議がありました。アメリカの上院が、たしかあれはほとんど満場一致だと記憶しておりますが、そういう決議が出てくるということは全く異例なことでありまして、そういう意味において日米関係がかなり摩擦を生んできているという状態でございました。そういう面から、また鈴木・レーガン共同声明の中におきましては、日本はより一層の防衛努力をすると約束しておるわけでございます。約束は守らなければなりません。そういう面からいたしまして、アメリカの上院がやきもきして、自分の方はこれだけ努力しているのに日本が余りしないというのじゃ困るじゃないかという、そういう苦情といいますか、国会は独自の見地でいろいろ御意見を出しますから。日本の国会でもアメリカの国会でも同じです、国民の意思を代表して独自の意見を出してくる。そういうことで、アメリカ上院がそういう決議をしましたものですから、これはアメリカのことも考えて国際外交をやっていかなければいかぬ、日本だけで独善に陥ってはいけない、それじゃ孤立になってしまう、そういう意味で、アメリカのことも考えてあげるというのは外交の一つの条件であると考えて、そういうことを言ったわけです。しかし、幾らにするかということは、これは日本政府が独自に決めることでございまして、六・五%増とした次第でございます。
#9
○平林委員 総理は、日米の共同声明が鈴木さんのときにあったから、その約束を守らなければいけない、また、アメリカのことも考えなければいけないとお話しになったわけでございます。しかし私は、どうしてもその点については同意しかねるのでございます。あなたは、安保条約があるから、安保体制のもとで日本は西側陣営の一員として果たすべき役割りを認識すべきであるとしばしば国民に向かってお説教をいたしております。それなら、私は伺いたいことがあるのです。
 一月三十一日にアメリカの政府は、予算教書を議会に提出するとともに、国防報告を発表いたしました。この報告は、今後重視する軍事政策として、日本、欧州などの同盟国との軍事的一体化を強める集団防衛、日本、韓国を対ソ第一線とする前進戦力の配備、世界のいかなる地域の緊急事態にも対処できるようにするためアメリカ戦略の柔軟構造化の三つを挙げております。つまりこの報告は、日本がアメリカの世界戦略の一員として位置づけられていることでございます。
 中曽根さんはこの間訪米をいたしまして、レーガン大統領との首脳会談において、アメリカとの間は運命共同体だという言葉を使われました。総理はこのアメリカの国防報告のとおり、運命共同体であるから日本はアメリカの世界戦略の一員に位置するもの、こういうふうに認識をされておりますか。
#10
○中曽根内閣総理大臣 アメリカの世界戦略に使われるような日本ではありません。われわれ日本の政府は、日本人の生命と財産を守る、そのために自衛隊もつくり、国民の皆さんにも御協力をお願いしておるのであります。アメリカ側が、あるいは片方でNATO、北大西洋同盟条約機構を抱え、あるいはさらに日米安全保障条約でアジアにおいてわれわれと手を結び、あるいはANZUS、オーストラリア、ニュージーランドと手を結んで、世界的な安全保障体系を彼らは持っておる。そして、ソ連との間に戦争を起こさないように細心の注意を両方で行いながら、戦略核兵器制限交渉とかあるいは中距離核ミサイル制限交渉とか、そういうことをいま行っておる。これはやはりアメリカの首脳部もソ連の首脳部も核戦争が起これば両方吹っ飛んでしまうぐらいのことは知っておるのです。そんなばかな人ではない。われわれだってもちろん核戦争を絶対に防止する努力をしなければいけません。同じ考えにアメリカもソ連も内心は立っているとわれわれ思いますよ。だけれども、その均衡点をどこに持っていくかという駆け引きを両方がしておると思うのです。アメリカ側は、ベトナム戦争以来怠ったのでずいぶんソ連に引き離されちゃった、ソ連の方は、いやアメリカがこれからまた強化されるというとまた追い越されて大変だと思うでしょう。そういう中の駆け引きでいま両方はにらみ合っていると思うのです。しかし、核戦争を起こしたら両方だめになっちゃうということはもう当然知っていると私は思います。だから、両方が良識を出して、できるだけ早く両方で了解をつくって、全世界が安心もし、日本もヨーロッパも安心するような合理的な堅実な核兵器の削減あるいは兵力の引き離し、そういうことを実行してくれることを私は一番熱望しております。私ら戦争へ行ってみまして、戦争ぐらいくだらない、ばからしいことはないとしみじみ思っておる一人であります。
 そういう観点に立って、私たちはやはり日本人の生命、財産を守るという立場に立っておりますので、アメリカ側はアメリカの考えがあるでしょう。しかし、われわれは日米安全保障条約という条約の規定に忠実に従ってこれをやっていけばいいのであって、日米安全保障条約の趣旨は、国連憲章の精神にのっとり平和と安定のために行っている、そういう基本線をあくまで堅持して日本独自の道を進んでいくということを申し上げたいのでございます。
#11
○平林委員 総理大臣のお話を聞いておりましても、そのまま素直に受け取ることができないことは、私は日本の政治のために非常に残念なことだと思っております。あなたがもし本当に核の戦争の時代のことを認識しておられるならば、たとえば国連におきましても、核の軍縮の問題についてやはり一生懸命に、日本は唯一の被爆国なんでありますから、そういう立場に立って堂々と発言し、そして賛否についてはもう明らかにして、日本は特殊な立場であるということを世界に向かって主張するべきであります。ところが、それと反対なことや棄権をなさっておる。だから、あなたの言葉どおりに受け取れないというのが非常に残念に思います。同時にまた、あなたは、核戦争やその他米ソの対立が深まることがないように熱望しているとおっしゃいますが、言葉はよい、しかし実際の行動は何もしない、そういうところに国民のあなたに対する不安があるということを私はつけ加えておきたいと思います。
 もう一つ、私はこの報告についてちょっとお尋ねしておきたいと思いますが、この国防報告というのは、また日本とか韓国、フィリピン、つまり二国間の安全保障体制について、西側同盟による共同防衛を実現するために集団的安全保障体制の戦略を導入するような重要性が強調されております。総理は、この複雑な国際情勢の中におきまして、日本は憲法上集団自衛権は許されないけれども、しかし、あるべき姿としては、あるいは理想としては、アメリカを中心にした西側陣営の集団安全保障体制はきわめて重要だというふうに、本当は考えているんじゃないんですか。本音はどうですか。
#12
○中曽根内閣総理大臣 私は、吉田さんがいまの日米安保条約を締結いたしましたけれども、あれをつくった当時の安保条約の内容は必ずしもわれわれ満足するものでなかった。きのうも申し上げましたように、裁判権において日本が非常に不当な地位を受けたり、期限がなかったり、そのほかいろいろございました。しかし、これが岸さんのときに直されまして、そして昭和三十五年の国会で安保条約が改正されました。これで大体いいものになったと思っております。しかし、これを結んだ吉田さんのあの当座における見識というものは相当なものだったと、私は非常に評価しておる。内心は、あのころはいろいろ言いましたけれども、かなり実は評価しておる。現に日本がこれだけ経済的大発展をしたのも、やはり安保条約というものの力が背景にかなりあったということは認めざるを得ません。そういう意味において、この条約は日本側としてはいまのところ不満を言うべきものではない、これでよろしいと、そう私は考えております。
 そのポイントはどこにあるかと言えば、要するに個別的自衛権というものの範囲内で物をやるということであります。つまり日本を防衛する、それが主眼になっていて、外国を防衛したり、それに参加するということは禁止している。そこがやはり一番われわれとしては吉田さんの見識を評価しているところなんであります。
 しかし、アメリカ側においては、上院その他において、これはとってもわれわれかなわぬじゃないか、われわれだけで日本は守る、しかし日本はアメリカは守らぬでもいい、ちょっと虫がよ過ぎやしないか、アメリカ側にこういう議論が起こってきているのは、アメリカ人の立場から見ればあるいはそうかもしれません。
 しかし、私は、日本のいままでの歩み、それから日本の現在の繁栄、いままでの繁栄状況、それから平和主義の徹底、そういうことを見ますと、やはり個別的自衛権の範囲内で、そして、いまの憲法のもとにこの体系を維持していることが日本としては非常にいい選択である、こう考えておりまして、どうぞ御心配に及ばないようにお願いいたしたいと思います。
#13
○平林委員 総理大臣は、私の質問に対しまして用心深く答弁し、本当の腹は明かしませんでした。しかし、あなたがいみじくも申されたように、吉田内閣総理大臣のときの安保条約に対する評価といまとは違ってきた。私は、あなたはきっとこれからの国際情勢の変化によってまた独走を始めるような、そういう人だと思っておるわけであります。あなたの憲法第九条を改正したいという考えの中には、恐らく西側陣営の安全保障のために集団安全保障体制の道を開きたい考えがあるのじゃないのかと私は疑っておるわけであります。しかし、それはわが国にとって最も危険な戦争への道であるということを申し上げておかなければならないと思います。
 総理、最近イギリスのエコノミスト誌で、日本の防衛力増強の問題について非常にうまい皮肉を述べておるのを私は読んだのです。日本はソ連の脅威というよりも怒れるアメリカを抑えるために、つまり、ソ連の脅威で自分の国を守るというのでなくて、怒れるアメリカのために自分の国を守るために防衛費をふやしているのだ。どうも皮肉な観察をしておるようでございまして、まあこれはひとつ、あなたも世界の人たちがどういうふうに日本の防衛費突出を見ているかということを頭に入れておいていただきたいと思います。
 ただ、防衛庁はことし五十六年度中期業務見積もりの実施に着手することになっております。一九八三年、ことしから一九八七年までの五年間を対象にいたしました陸海空の防衛力整備計画でございます。五年間に投入されるところの金額は、正面装備だけで四兆四千億円から四兆六千億円と伝えられております。人件費や施設費あるいは弾薬など後方支援を加えますと十五兆六千億から十六兆四千億円かとも言われておるわけでございます。しかも、これは後年度負担、頭金は払うけれどもツケは後に残すというような、いわゆるむずかしい言葉で言うと後年度負担というものは含まれておりません。ことしの国家予算の防衛費は二兆七千五百四十二億円でございますが、しばしば日本は軍事大国にならない、こう言いますけれども、日本の防衛費はこれからふえるばかりになるだろうと思います。
 中曽根総理がアメリカと約束してまいりましたシーレーン防衛とかあるいは日本列島不沈空母というような問題の言葉の裏側にあることを考えますと、一体、今後予算における防衛費の膨張はどうなるのだろうか、これは国民の大きな心配でございます。これについてはどうお考えでございましょうか。
#14
○中曽根内閣総理大臣 防衛庁長官から御答弁願います。
#15
○谷川国務大臣 五十九年度以降の歳出化の問題について御質問がございました。
 御案内いただきますように、防衛庁の予算というものの中には何年もかかって支払っていかなければならないという種類のものがございまして、五十八年度の防衛予算の後年度負担額が約一兆九千七百五十億円、これは今後四年間にわたって歳出予算化されるものでございますが、現時点でその年割り額を確定することは大変困難でございますけれども、これを一応の試算をいたしますと、それぞれの年度に相当の金額になることは、これは事実でございます。
 ただし、防衛庁の予算は、ただいま申し上げましたような種類の予算だけではございませんで、その年その年にその他の経費もございます。したがいまして、防衛庁の関係予算の総枠につきましては、五十九年度以降どうなるかは、いまこの場所では直ちにはお答えできかねる、こういう種類のものでございます。
#16
○平林委員 総理大臣、私は、わが国の財政は、百兆円に達する、百兆円を超える国債に依存する借金財政になっておると思います。膨大な歳入欠陥が出たり、あるいは政府の経済見通しの誤りと粉飾的な歳入見積もりによりまして、去年もおととしも巨額の歳入欠陥が出ました。鈴木内閣、前の内閣は国民に約束した、五十九年度までに赤字国債に依存する財政から脱却をすると公約いたしましたけれども、その約束を実行することができなくなりました。財政非常事態宣言というものを発しまして、財政再建の責任を放棄した形でにわかに退陣したことは御承知のとおりでございます。その後を襲って内閣総理大臣に就任したのが中曽根さんでございます。私は、鈴木内閣の重要な閣僚として、政治的には共同の責任者であったと思います。したがって、あなたはまずこの行き詰まった財政と破綻に瀕した経済の再建を図るということが国民に対する重大な義務であり、内閣を担当した者の最低の責任だと思います。
 しかし、いまおやりになっておりますことは、福祉関係予算の伸び率を縮小したり、国家公務員に対しましては法を曲げてまで一方的に、権力的に賃金を凍結をしたり、国民年金、厚生年金等の受給者に対しましては物価が上がっても物価スライドは認めないという措置をとったり、国民の生活に対しましては冷酷な予算を組みながら、防衛費だけはふくらましている。そういうことは、私は多くの国民が納得しないと思うのでございます。本当にお互いにがまんして痛みを分かち合うと言うならば、私は防衛費の削減こそ優先課題にすべきではないかと思っておるのでございます。
 私どもの見解では、当面の国際情勢から見まして軍備の拡張は決して日本の安全に寄与しないと考えています。歯どめを失ったような防衛費の拡大は、財政上の大きな浪費につながる。福祉あるいは教育、国民の生活を犠牲にして、これを冷遇しながら国民の税金を浪費するということは財政再建の考え方とは逆行するんじゃないのか、こう思っておるわけでございます。私どもはそう考えるのでございますが、いかがでございましょうか。
#17
○中曽根内閣総理大臣 平林さんがおっしゃいましたことは社会党の年来の御主張で、書記長としては堂々とそれをお述べになる立場はわかりますけれども、しかし、われわれ自由民主党は社会党のように非武装中立論の立場をとらないわけであります。自分の国は自分で守るべし、そして中立は行わない、そういう考えに立って自衛隊をつくり日米安全保障条約をつくって守っておるわけでございます。そういう基本的考えに立っておりますから、どうしても考えが食い違ってくるのはやむを得ない。これは結局国民の皆さんに御判断願うという形になると思いますが、しかし、われわれはこれで、いままで苦しい経済状態の中におきまして、いかに歳出をバランスのとれた、国民の皆様方がまあと言って納得いただけるようなものにしていくかという点で努力してまいりました。歴代内閣みんな努力してまいりました。
 そこで、いまわれわれが当面しておる問題は、いまの内閣ができまして対外的には孤立化を防ぐということと、対内的には行政改革と財政改革がまず急務に上ってきておると申し上げております。
 行政改革につきましては、もう申し上げるまでもなく私はいままでこの責任者としてきた人間でございまして、政治の中でも一番優先順位をもって断行していかなければならぬものである。
 それから、財政改革につきましては、鈴木さんの時代に五十九年度に赤字公債から脱却するということはもう事実上できなくなったと私見ておりまして、そして、もう少し伸びやかな、新しい観点に立った、弾力性のある、より長期的な考えに立って計画案のつくり直しをいまやっておるわけでございます。これは経済審議会に、この間私出まして策定をお願いし、それに基づきまして今度は財政改革の大体の輪郭が出てくるわけでございます。いまその作業中でございますので、その結論を申し上げることはできませんが、しかし、そういうようなちゃんと道をつくりまして、そして国民の皆様方にそのプログラムをいずれお示ししたい、こう考えていまスタートを切ったということを御了承いただきたいと思うのでございます。
#18
○平林委員 中曽根さんは、私の質問の立場は社会党の書記長だからそう言うのだろうとおっしゃいました。私は、きょうは多くの国民の不安を代表して質問しておるということを申し上げておきたいと思います。そして、いまお互いに論じ合っておりますことは、非武装中立の是非を論じておるのではございません。ことしの五十八年度の国家予算の中においてこれ以上防衛費をふやすという理由はどこにあるのかという点を問うておるわけでございまして、無理に問題をそらしてその責任を回避するということは、私は適当ではないと思っています。このことはこのテレビを通じて国民の皆さんにきっとわかっていただけると思うのでございます。
 しかし、いま総理は、いずれにいたしましても国民全般のバランスを考えるとおっしゃいましたけれども、果たしてそうでしょうか。政府は福祉につきましても配慮をしたと言わんばかりのお答えがございましたけれども、この福祉関係の予算というのは、先ほども申し上げましたように、前年対比わずか〇・五%ふやしたにすぎません。つまり私は、弱者切り捨て、福祉後退の批判を総理は免れることができないと思っております。特に厚生年金とか国民年金の受給者に対しまして物価スライドを認めないということは、一体、中曽根内閣は、たくましい文化と福祉というものをどういうふうに考えているのでしょうか。
 あなたの施政方針演説を聞きますと、これからは、たくましい文化と福祉ということは自立することだ、なるべく政府に依存するような考えを捨てろというような趣旨のことを発言されております。でも、いまわが国の経済において、わが国の保守党の政権に対しまして一番すがりついて、そして一番頼りにしておる、そして、できるだけ政府の政策の中からうまい汁を吸っておるのは、国民なんでしょうか、それとも財界や大きな企業でしょうか。もし自立と言うならば、少なくとも産業界や財界の人は、不公平な税制だとか、税制上に含まれておるいろいろな恩典を全部財政再建のために放棄するという立場に立つべきであります。一番政府にいろいろなことを物欲し気にねだってくるのはこれらの人であるということを、ひとつ頭に入れてもらいたいと思うのでございます。
 しかし、いずれにいたしましても、私は厚生年金や国民年金の物価スライドを認めないということはどういう影響があるかということを考えますと、いま全国でこれらの受給者は一千六百万人に達しておると思います。六十歳以上の世帯の八八%は年金か恩給を受けておりまして、厚生年金の老齢年金では、受給者の約八〇%が年金を主な収入財源としておると承知いたしております。政府がこの年金や諸手当を物価スライドさせないと言うけれども、もっと思いやりを持って物価にスライドすることを認めたと仮にいたしましても、国庫で負担をいたしますのは三百六十五億円程度でございます。ちょうど潜水艦一隻に相当するお金でございます。一体、潜水艦一隻を購入する予算でもって、なぜこういうようなことに対して思いやりの政治がとれないのか。世間の人たちは言っています、防衛費はぽんぽん気前よく出すけれども、こっちの方はどんどん削っているじゃないか。あなたにはその声が聞こえませんか。
#19
○中曽根内閣総理大臣 やはり税金を出している人のことも考えなければいかぬと思うのです。いろいろ御批判いただきましたが、中小企業にしてもあるいは普通の大きな企業にいたしましても、鉄鋼なんかはまだ非常に不況でございますし、素材産業で不況なものもございます。しかし、みんな苦労して経営なすって、そして税金を納める、あるいは株式を配当する。株式配当する場合には、その同じ額くらい税金を納めることになるから、そのお金を用意しなければならぬ。そういうことで、経営者はみんな御苦労なすってこの不況の中でがんばっていただいている。私はそういう意味において企業罪悪視ということをしていない。やはり国の活力を生む大事なもとだと思います。
 しかし、一面において、国政全般を考えてみた場合に、弱い人たちのために政治が特に力を入れなきゃならぬということは、もとより当然でございます。ですから、「文化と福祉」と、私は福祉という言葉をわざわざ入れておるのはあたりまえのことなのであります。しかし、その中でも、いわゆるばらまき福祉とかあるいはお金持ちも困っている方々も一律に扱うというようなやり方はよくない。今度の予算は非常に厳しい予算でございましたが、たとえば重度身体障害者あるいは子供さんを持つ未亡人、そういう方々については、非常な努力をいたしまして大体八%くらいの増の予算をつくっておるわけです。防衛費よりも多いのです。しかし、福祉予算全般から見ますと、皆さんに一律に均てんするという部分はがまんしていただく、そういう形になっておるわけでございます。ですから、福祉も重点的に今度は行ったというふうにお考えいただけばありがたいと思うのでございまして、具体的な点は厚生大臣から御答弁申し上げます。
#20
○平林委員 総理大臣のお考えはよくわかりました。つまりあなたは、税金を納める人のことも考えなければならぬ、こう言って福祉に対する姿勢を示しました。
 しかし私は、社会的にも経済的にも福祉という問題を考える場合に、税金の問題が、税金を負担しているからやるとか、してないからやらないとかというような考え方は福祉の理念に反する、あなたの考え方はそこに根本的な間違いがあると考えています。
 それから、いま例をお挙げになりました。いろいろな障害者だとかあるいはまた母子家庭だとかいうものについては十分配慮したよ、こうおっしゃっております。確かに、五十八年の国家予算の最終的な復活折衝のときに一部そうした問題の是正を図られたことは事実でございます。
 たとえば月額二万五千円の老齢福祉年金、これは受給者が約二百六十万人おりますけれども、ほとんどが七十歳以上の人たちでございます。所得制限をやりましたものですから、その受給資格を失う人がたくさん出てまいりました。同じように、障害福祉年金でも二千人、あるいは離別母子世帯の児童扶養手当でも三千八百人、児童手当で八万人。こういうのは物価スライドを認めないというのと違いまして、受給の資格が失われるわけでありますから、まるまるそれを受けることができなくなるわけでありまして、大きな衝撃を受けられたと思います。これは障害者や老人やあるいは母子家庭、この対象からはみ出すすべての人が心配をいたしました。
 総理は、こういうことに手当をしたからよく理解をしてくれと言いますが、このために予算を新たにつけたのは幾らだと思いますか。二十五億円ですよ。二十五億円のお金を節約して政府予算を組まれた。世論が高くなったのでそれを復活したというにすぎないのでございまして、そのことで福祉を大切にするなんということを言うことは、私は全く納得できないと思うのでございます。この問題につきましては、私は政府においても猛省を促したいと思います。
 そこで、私ども、いま日本経済はどうなっておるかという点について少し触れてまいりたいと思います。
 今日のわが国の経済は停滞が続いておりまして、失業者がふえてまいりました。生活は悪くなり、企業間の格差は拡大をし、中小企業は不振で、構造的な不況業種の危機など、これからの経済に展望が持てない、不況色が深まっておるというのが私どもの観測でございます。これはきのうでしたか、大蔵省におきましても経済分析をいたしまして、同じような見通しを立てております。
 私は、これは一つには、世界不況の長期化とか貿易摩擦の増大によりまして輸出が伸び悩んだというような海外要因というものもあると思いますけれども、政府が財政再建と称して緊縮型の国家予算を編成し、景気対策には熱意を示しておらない、そして国民生活の水準を抑制するような政策を進めておるというところに大きな問題があるんじゃないのかと思うのであります。がまんしておればやがて景気がよくなる、経済の見通しも明るくなるというなら話は別なんです。しかし、私どもは、いまの国民経済は、長い間の不況によりまして、病人にたとえますれば、体力が衰えてしまって、やっと歩いているというような状態なんじゃないかと思います。ひとつ元気を出してもりもり働くというためには、この際少しでも栄養剤を飲んでもらう。栄養剤を飲んでもらって、そして活力を出していく。問題はそういうところにあると思います。
 もし、このことが認められるならば、私はこの際内需拡大政策をとるべきだと思っております。それには個人消費をどのようにしてふやしていくか。個人消費をふやすためには、まず国民の所得がふえなければなりません。国民経済が徐々に回復してまいりますれば、政府の悩んでおります歳入は少しずつふえてまいります。財政の赤字国債依存というような割合は縮めていくことができると思います。そして、財政の再建というものが進むのじゃないでしょうか。財界では、ことし勤労者の賃金などは実質的ベースアップ・ゼロというような厳しい方針をとっておると聞いておりますけれども、こういうような考え方をとりますと日本経済そのものがさらに冷え込んで、病人で言えば死んでしまうのじゃないのかと思うのであります。
 そこで、政府にお尋ねいたしますが、政府は、五十八年度の経済運営に当たりまして、内需拡大による成長を図ると言葉ではお話しになっております。しかし、その具体的根拠は何か、また、現在の経済見通しでは、雇用所得の伸び率を五十七年度の六・三から五十八年度は六・六%に高まると見ておりますけれども、数字は高くなっているのですけれども、一体その理由はどこに置いているのかという点が明確でございません。この際、簡単で結構でございますが、ずばり真髄のところをお答えいただきたいと思います。
#21
○塩崎国務大臣 お答え申し上げます。
 平林委員のおっしゃるように、五十八年度の経済運営の基本的な方針は内需の拡大によって経済の安定的な持続的な成長を図ることでございます。しかしまた、これも御指摘のように、財政が非常に困難な状況でございますので、財政面からそのことが期待できません。
 しかしながら、内需拡大の大きな方向といたしまして三つ私どもは考えております。その基本的な方向は、言うまでもなく、世界経済の回復に伴いますところの日本経済もまた回復の過程に乗るという大きな前提がございます。それに基づきまして民間の最終消費が伸びていく、これが三・九%程度寄与する。そして、その次は、民間住宅投資が二・六%程度寄与する。さらにまた、民間企業設備投資も五十八年度は回復の過程に向かって二・九%程度の伸びが見込まれる。これを合わせますと大体二・九%程度の内需の拡大、経済の成長が見込まれる、こんなふうに見ているところでございます。
#22
○平林委員 いまお答えの半分程度は他力本願ですね。私は、個人消費を拡大をして景気を回復させる一つの道としては、所得税の減税という問題があると思います。
 政府は、財政が苦しい、財源がないという理由で六年間も所得税の減税を見送ろうといたしております。私は、五十兆を超えるような予算案を編成しながら一兆円程度の減税を実施する財源かないというようなことはだれも信じないだろうと思います。政府は減税をする考えがないから予算に組まないのだと思います。
 もし、六年間も減税をしないとすれば、サラリーマンにかかる税金はどうなるのか。昭和五十二年度に比べますと二倍から四倍にふえていく。税の自然増収の形で実は五兆円を超えるような税収が、税金が重くなっておるわけでございます。ですから、私が一兆円減税ぐらい三年間ぐらい続けたらいいと申し上げる根拠は実はここにあるわけでございます。たとえば年収四百万円の標準世帯の税負担は、仮に六%程度のベースアップがことしあったといたしましても、税金は四万四千円もふえるわけであります。六年前に比較いたしますと税金は二・七倍にふえてしまいまして、この間の年収の伸びは四三%でございますから、税金は実に二七〇%にふえたということになるわけです。物価は三〇%程度上昇いたしておりますから、私は、このままでは生活水準がどんどん下がっていくのはあたりまえだと思うのであります。これは、政府が課税最低限をそのまま据え置きまして減税をしないから実質的な増税になっていると思うのでございます。臨調の土光さんはこのサラリーマンの苦しみを御存じないのじゃないだろうか。増税なき財政の再建を看板にしながら、それは企業の増税は困りますよということで、一般の国民は毎年のように税金がふえているということは知らぬ顔をしておるように感ぜられます。
 それにしても消費不況の深刻な被害を受けるのは単にサラリーマンだけじゃございません。零細企業のためにも所得税の減税は必要であるということは言うまでもないと思います。
 大蔵大臣、あなたは財政再建のためにも所得税減税は必要であるとお考えになりませんか。
#23
○竹下国務大臣 いわゆる所得減税に関する問題でございますが、昭和五十三年以来、御指摘のように、所得税の課税最低限の据え置き等によりまして所得税負担が上昇しているとして減税を望む声が強いということは、これは総理の御答弁にもございますように、十分承知をいたしております。しかしながら、また本会議等でも御答弁ございますように、いわゆる税収による歳出のカバー率は六四・一%、異常に低い状態にある。また、課税最低限の据え置き等によって個人所得に対する所得税負担の割合が上昇しているとしても五十六年度でなお四・九%、国際的に見れば低い水準にある、こういう実態であります。
 そこで、いわゆる減税による消費の拡大というものが景気回復に資するということは、原則的に私もこれを否定するものではございません。しかしながら、減税問題そのものにつきましては、御存じのような昨年の議長見解に基づく小委員会等の御議論をいただきましても、やはりそれには減税に伴う財源等についてもそれぞれ合意に達する必要がある、このような考え方でずいぶん御熱心な議論をいただいたわけであります。しかし、残念ながらその結論を見るに至らなかった。と同時に、仮にもしこの所得減税を行うとして、そのことがまた国債増発につながるというようなことになったとしますならば、これは当然金融市場に大きな影響を与えます。これは長期プライムレートの上昇等にも影響を与えることは事実でございますので、したがって、そういう金融市場に与える影響等の観点からは、現時点においてそのような措置をとることは結局景気回復につながらないおそれもあるというふうに考えられますので、その辺を総合的に勘案して御審議賜っておるのが五十八年度予算の歳入であり歳出である、このように御理解いただければ幸いであります。
#24
○平林委員 いまの大蔵大臣のお話は、国債増発によるところの所得税減税を前提にして景気の回復にはつながらないというお話をなさったわけであります。しかし、私はそういうことを言っておるのではないし、大蔵委員会の税の小委員会というものもそういう結論は出しておらないのであります。ですから、あなたがいまお断りになった理由、根拠というのは失われております。そのことを最初に指摘しておきたいと思います。
 それよりも、大蔵大臣、昨年野党がそろって一兆円の減税を要求いたしまして国会が紛糾いたしました。そのときにあなたが自由民主党の幹事長代理ですか、その資格で出てまいりまして、まあ次の臨時国会では景気回復のために政策手直しがあろうから、そのとき補正予算で所得税の減税もあり得べし、玉虫色の話をされまして対立を収拾する役割りを果たされたことは、お忘れでないと思うのであります。その後衆議院議長のあっせんで議長見解が出され、大蔵委員会の税の小委員会で各党のメンバーによる協議が進められましたが、結局そのときの結論は、きょうおいでになる通産大臣の山中貞則さん、減税の必要性は認めるという結論に達したわけであります。ただ財源の問題と実施の時期で最終結論は出ませんでしたけれども、少なくとも昭和五十八年度の減税は実施しなければならない。五十八年度の減税は実施しないなんということは決めてなかったのですよ。五十七年にやるか五十八年にやるか、とにかく減税の必要性は認めますよというのがあのときの結論なんです。五十八年度は実施しないという結論はないのであります。これは、私が当時大蔵委員会の税の小委員会のメンバーの一人でございましたからよく承知をいたしておりまして、決して間違ったことを言っておりません。
 しかるに政府は、昭和五十八年度予算に減税の実施を取り入れませんでした。これは大蔵大臣の竹下さんは、私は、去年のあっせん者としての責任と、五十八年度は実施しないとは決めてないのにかかわらずこれを含めなかったという意味では、二重の政治責任があると思います。どういたしますか。
#25
○竹下国務大臣 確かに、五十七年度本予算を議了いたしますに当たって、昨年の三月六日でございましたか、幹事長、書記長会談が開かれまして、私が自由民主党を代表してその会合に出かけたことは事実でございます。
 その間のやりとりにつきまして、政党同士のやりとりでございますから、相互の立場を述べ合ったり、そういう問答は当然あるわけであります。その問答というのは、信頼感の中で、文書にするとか、そういう性格のものではない。しかし、前提として申し上げましたのは、およそ一般論として、なお仮説として申し上げるならば、減税等を行うためには三つの機会が想定されます。
 すなわち、剰余金等が出て、これをいわゆる戻し税の形で検討する場合とか、あるいは大きな政策転換等が行われて、あるいは公共事業による景気の刺激とかまたは消費拡大のための減税が行われる場合、そして三つ目のケースとしては、政府税調等々で議論が重ねられ、新年度の予算編成の前にそういう環境が整備したとき、このような三つの仮説の上に立って検討していただく手がかりとしての柱を申し上げた記憶がございます。その結果、種々なる議論を重ねまして、それを政審、政調会の実務者会議におろして、その中でいわゆる議長見解なるものの骨子が文書として作成されたわけであります。
 その文書で最も私が重要視いたしておりますのは、とにかく小委員会で専門の方々にお集まりをいただいてこれを検討していただこう。が、それだけに、専門家の方でありますだけに、「五十七年度予算成立をまって、直ちに衆議院大蔵委員会に小委員会を設置し、中長期的な観点に立って、所得税減税を行う場合における税制の改正並びに適切な財源等について検討を行うこと。」このような議長見解の骨子作成のお手伝いをしたのも、私もその一人でありました。それに基づいて小委員会が重ねられました。そして、御案内のように、いま通産大臣であります山中小委員長の中間報告となり、そして村山小委員長の報告となる、こういう経過を今日経ておるわけであります。
 そして、私どもといたしましては、過去における答弁を見てみましても、実に確然と申し上げておりますことは、とにかく今日のこの政府自身の考え方は、いわゆる歳出歳入両面にわたる徹底した見直しによって財政再建の明白なめどがついたことが一つ、そして二番目が、所得税減税の適切な財源の手当てが可能であること、この二点が前提にある場合でないと所得減税は困難であるということ。しかしながら、減税小委員会で、財源問題等を含めて、与野党合意の結論が得られれば、これを尊重してまいりたいというお答えを、終始正確にこの場で申し述べて今日に至っておる。
 以上が、まことに正確な私の記憶に基づく御報告であります。
#26
○平林委員 貴重な時間の中で、大蔵大臣にかなり長い答弁の時間を許しましたのは、私の友情のしるしでございます。しかしながら、あなたは将来大成さるべき有能な政治家でございます。私は、昨年以来のあなたのいろいろなあっせん、大蔵大臣としての立場等を考えますと、これはひとつこの際は、昭和五十八年度の予算の審議中の段階におきましても、ぜひ減税が実現をするように、私の希望ではございません、これは国民の名において、減税は実施してほしいと強く希望いたすのでございますけれども、そういうひとつ御努力をなさっていただきたいと思いますが、いかがでございましょうか。
#27
○竹下国務大臣 今日の時点で、政府の責任を持って編成した歳入歳出両面にわたる予算を御審議いただいておる際に、その可能性を包含してのお答えは慎むべきことであるとは存じておりますが、いつも総理からお答えになっておりますように、五十三年度以来今日まで据え置きにされておって、そして、その減税を望む声が強いという認識そのものは私どもも持っておるということをもってお答えといたします。
#28
○平林委員 まあ、きょうはこの辺でとめておきますが、あなたが将来の大成を期するならば、この国民の声にこたえるという態度をとるということが私は一つの踏み絵になると思います。
 総理も、ひとつぜひこの国民の声を体しまして、あなたもこのために御努力なさっていただきたいと思いますが、いかがでございましょうか。
#29
○中曽根内閣総理大臣 昭和五十三年以来課税最低限が据え置きでございますから、減税を望む声が高いことは私もよく承知しておりまして、でき得べくんば五十八年度予算編成の際にもそういう方向にやれないものかと非常に努力をした次第でございますが、それができなかったのははなはだ残念でございます。
 問題は財源の問題でございまして、衆議院の小委員会におきまして、山中貞則小委員長以下、平林さんも御参加になって、いろいろ御苦心願いましたが、やはり芽を出すことができなかったというのは財源問題が絡んでおった、そう思います。ひとつ財源を見つける努力を今後とも継続してまいりたいと思います。
#30
○平林委員 私の許された時間が迫ってまいりましたから、ひとつ私の提案をお聞きいただきたいと思うのです。
 いまお話しになりましたように、私は、減税の財源は、発想の転換をすれば、必ずしもないとは言えないと思っておるわけであります。特に政府は、所得税減税の実施ということと引きかえに大型消費税の導入をねらっているように考えますが、これは私は、決して国民は納得しないと思うのであります。
 わが国の税の仕組みとかあるいは不公平な税の制度とかというものを考えますと、ここにはまだ大きな問題がございます。わが国の財政に含まれております巨額な補助金を考えてみましても、私は、その中にかなりばらまきな補助金があると思いますから、こういうものに着目することも大事なことだと思います。租税特別措置のような隠れた補助金というのがございまして、私は、財政緊急事態というようなときにおきましては、一方に国家公務員の給与をストップしておきながら、年間三兆六千億円もの交際費を民間の企業が使っておるというようなこと、つまり一日に百億円のお金が湯水のように交際費として使われているというようなことについて、財界は一体どう考えるのかということも考えてもらわなきゃならぬ、そういうこともあると思います。つまり、私はこのような不公平な状態を温存しながら、いきなり大型消費税というようなことを押しつけるということは、これは承知できません。
 確かに、臨調の言葉で言えば、破綻した財政のもとでどこにその財源があるかということは言えると思いますけれども、かなり思い切った発想の転換をすれば、幾らでもそのお金は出てくると思うのであります。私どもは、そういう意味で幾多の税制改革案を提出をいたしておりまして、その実施を迫っておるわけでございます。
 政府にも検討してほしいなと思いますことは、私は、資産の再評価という問題があると思います。たとえば、経済企画庁が国民経済計算によりましてわが国の土地の市場価格、つまり時価総額を調べてみましたところが、昭和五十四年の末で六百二十八兆円もあるんですよ。それで、帳簿価格とそれから時価との比較をいたしてみますというと、十八倍もの違いが出てきております。
 私は、この間も東京証券の一部上場八百二十九社の所有地を調べてみたわけでありますが、簿価でいきますと五兆四千百九十一億円。しかし、それが時価に換算をいたしますと九十九兆円もございまして、九十三兆円程度の含み資産があるというわけでございます。私はこれ、八百二十九社と同じようにわが国の企業の地価総額に掛けてみますというと、全般で含み資産は五百兆を超えると思うのです。それに一〇%をかけるとか五%をかけろと言うと、目玉をむいてしまう人があるかもしれませんが、五百兆円を超えるようなこの含み資産の中には、あのインフレでふくれ上がった利得もあると思います。土地を持っている人と持っていない人との比較を考えてみましても、そこには大きな開きがあると思います。せめて一%どうでしょうか。財政緊急事態で財政再建をしなければならぬ。この際、国民の期待にこたえて減税もしなければならぬというときに、一%もし課税をお願いしたとすれば、それだけで五兆円の財源が出てくるわけであります。
 私は、こういうことを考えたならば、つまり政府が本当に減税をやろうと考えたならば、どこにでも財源は転がっておるということを考えないわけにはいきません。いずれ私どもはそういう立場におきまして、政府に、ここに財源がありますということをお示ししながら、減税の実施を求めたいと考えておりますので、どうかひとつ総理も大蔵大臣も、このことを頭に入れて、しっかりと御検討くださることをお願いしてやまない次第でございます。
 時間も過ぎたようでございますから、最後に私は申し上げておきたいと思いますが、実は私、質疑を十分展開できませんでしたので、大型消費税導入に関する政府の考え方をもう少し聞きたかったのでありますが、ここに一つの国会決議がございますから、それをちょっと読み上げてみます。
  国民福祉充実に必要な歳入の安定的確保を図るとともに、財政によるインフレを防止するためには、財政再建は、緊急の課題である。
  政府が閣議決定により昭和五十五年度に、導入するための具体的方策として、これまで検討してきたいわゆる一般消費税は、その仕組み、構造等につき十分国民の理解を得られなかつた。従つて財政再建は、一般消費税によらず、まず行政改革による経費の節減、歳出の節減合理化、税負担公平の確保、既存税制の見直し等を抜本的に推進することにより財源の充実を図るべきであり、今後、景気の維持、雇用の確保に十分留意しつつ、歳出、歳入にわたり幅広い観点から財政再建策の検討を進めるべきである。
 右決議する。
 これは、国会議員全員によるところの決議でございます。それゆえに、これは国是であります。私はそのことを考えますと、政府は将来にわたりましてこの決議を尊重し、いやしくも国民の期待、国民全般の意思に背かないような措置をとることを要求いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
#31
○久野委員長 これにて平林君の質疑は終了いたしました。
 次に、橋本龍太郎君。
#32
○橋本委員 私は、中曽根内閣発足以来約二カ月余りの足取りをたどりながら、本予算案に関連して幾つかの点について政府側の見解をただしたいと考えております。
 そこで、まず第一にお尋ねを申し上げたいのは、本年新春早々総理が韓国に行かれました。この総理訪韓についてお尋ねを申し上げたいと思います。
 日本と韓国の関係は、昨年教科書問題等もありまして波風が立ちました。しかし、先般の総理の訪問の結果として、首脳レベルの間における相互信頼関係が築かれ、そして両国間における幅広い忌憚のない意見交換のできる雰囲気が醸成されたと考えておりまして、私はこの点は高く評価したいと思います。むしろ今後こうした雰囲気の上に、もっと広い国民的な合意に基づく新しい相互信頼と相互理解の芽が吹いていくことを、そして、より両国間が安定発展した友好関係を築くことが一番大切であると私どもは考えております。
 ことに、私どもの世代は戦前の日本を知りません。そして、独立国韓国との関係において今日まで物事を考えてまいりました。私どもの世代からすれば、戦前の日本と朝鮮半島の間の関係というものは、歴史の中で学んだことのみであります。それだけに、過去にとらわれない両国の関係を築いていく必要があると一層考えております。政府として、今後の日韓関係というものをどのように築いていかれるおつもりでありましょうか。
 同時に、今回の総理訪韓で、従来からの懸案でありました経済協力問題が妥結をいたしましたことは、当面の日韓両国の関係の安定には非常に資したと考えております。この機会に、韓国に対する経済協力について政府の基本的な考え方を承りたいと思います。
#33
○中曽根内閣総理大臣 韓国は、一番近い、しかも自由世界圏に属する隣国でございまして、日本にとりましても一番大事な国の一つであると考えております。その間がややぎくしゃくしたものがございましたので、幸いに全斗煥大統領と会談の機会を与えていただき、私一行の訪韓を実現さしていただきまして、非常に感謝しておるところでございます。
 そのせいもございまして、日韓両国の首脳部の間には完全にわだかまりは解消いたしまして、相互の信頼関係は確立したと思いますし、また現実問題といたしましても、経済協力に関する話し合いが成立いたしまして、事務的レベルの接触はすでに開始されておるという状況でございます。これを今後誠実にフォローアップいたしまして、実りあらしむることが、われわれの努力であり誠意の対象であると思っております。
 なおしかし、日韓両国の間はもう長い千数百年の間のおつき合いをしている間でございますし、その間における文化交流というものは、わが国に対しても非常に裨益しておるわけでございます。今後も、民間の幅広い交流をさらに促進するように努力いたしたいと思っております。日本側の国会議員筋におきましても、そのための交流の文化財団をつくる議がいま進められておりますが、これは非常に時宜に適したことであると思いまして、政府といたしましても、政府の立場から御協力できるものは御協力申し上げたいと思っておる次第でございます。
#34
○橋本委員 続いて、総理訪米について議論を移します。
 自由主義世界の中心的なメンバーであります日米両国が幅の広い分野で相互に協力し、力を合わせていきますことは、世界の平和と繁栄にとってきわめて大切なことであることは言うまでもありません。また、日本としても、十分な相互理解と信頼関係の上に基づいた緊密な対米関係を維持していくことが、また発展させていくことが、わが国の外交上最も重要な課題であることも論をまちません。
 ところが、最近の日米関係というものは、日本の防衛努力に対するアメリカ側の不満でありますとか、貿易面における摩擦の増大など、きわめてぎくしゃくした面のみが目立ってまいりました。そして、一昨年五月の日米共同声明で高らかにうたい上げられた日米両国の同盟関係というものは、一体、実態と一体しているのだろうかという疑問さえ国民の中に起こしております。
 こうした空気の中で、総理は今回就任早々訪米をされ、レーガン大統領との会見を初め各界指導者との会談を精力的に続けてこられたわけでありますが、私がお尋ねを申し上げたいまず第一点は、今回の訪米の成果、意義というものはいかなるものであったのか、同時に、総理は従来の同盟関係という言葉を運命共同体と置きかえられましたけれども、日米間の同盟関係は修復されたとお考えでありますか。自信を持って言い得るでありましょうか。さらに、アメリカ側は十分日本の立場というものを理解するに至ったとお考えでありましょうか。これらの点について総理の御見解をお尋ねをいたしたいと思います。
 あわせて、日米安全保障条約に基づく日米安保体制というものがわが国の安全保障の基軸であることは間違いがありません。そして、日米安保体制というものを確固たるものにしてこそ、日本の平和と安全を確保できるとわれわれは考えております。総理が今回の訪米における安全保障分野においてのレーガン大統領との会談をどのように評価をしておられるかを、あわせてお答えをいただきたいと思います。
#35
○中曽根内閣総理大臣 レーガン大統領との間におきましては隔意なき懇談をいたしまして、両国首脳部の相互信頼関係は完全に回復したと思います。それから、日米間にわだかまるいままでのいろいろな摩擦等もこれでかなり解消し得た、今後防衛問題やあるいは貿易問題等につきましては、その話し合いの筋に基づきまして両国が誠実にこれをフォローアップしていく、そういう関係を持続していけば問題はない、このように考えました。
 運命共同体という言葉でございますが、これは本会議場でも申し上げましたように、日本とアメリカは太平洋を隔てて世界の平和及び繁栄のために重大な使命をしょっておる二つの民主主義国家でございまして、その間におきましては、一面において自由と民主主義という共通の価値観を持ち、かつ膨大な文化、経済協力関係の連帯性を持ち、かつ日米安全保障条約等を持って、相互安全保障体系を保持しているという同盟関係にある、そういう国であります。これら全体を含めまして、運命をお互いが分かち合うという深い緊密な連帯関係にある、そういう意味でこれを申し上げたのでございます。
 アメリカ側ももちろん、安保条約というものは存在し、それは個別的自衛権の範囲内であり、日本は憲法のもとに独自の道を歩んでおるということもよく理解しておりまして、その前提の上に立ってお互いが緊密に協力していこう、特にアジア・太平洋の繁栄と安定のためには協力していこうという点において、意見が完全に一致したと考えております。
 以上、大体日米間にあった問題、わだかまりは解消いたしまして、今後のわれわれの努力によって着実にそれを実りあらしむるものにしていく、こういう問題が残されていると考えております。
#36
○橋本委員 そこで、総理に少々嫌なことをお尋ねしなければなりません。
 本会議においてもすでにたびたび御議論がなされており、総理のお立場からの御発言はありましたけれども、今回の訪米に際して、総理のワシントン・ポスト紙との会談における不沈空母発言また海峡防備発言等が、特に国内において種々論議を呼んでおります。この発言の真意というものを改めてこの場で明確にしていただきたい。ことに、言った、言わぬ、言ったと一転二転いたしました政府側の態度というものが、国民の中に何か秘匿されたものがあるのではないかという不安を招いてしまったこともこれは事実であります。
 また、この問題をめぐって国内では、総理が米国において従来のわが国の防衛政策の枠を超えたような何かコミットをされたのではないかというような発言をしておる方々もあるわけであります。(発言する者あり)いまのように、ああいう御議論をしている方もあるのです。ですから、こういう点について、こうした誤解を解くように明らかにしていただきたい。こういう問題でいたずらに訪米の成果を傷つけたり、両国の友好関係というものを損なうことがあってはならないわけでありまして、ここにおられる方々も含めて誤解を解くようなお答えを願います。
#37
○中曽根内閣総理大臣 私はアメリカ大統領との会合におきましても、日本の防衛の本質及びたてまえをはっきり申し上げてまいりました。すなわち、憲法のもとに平和国家として日本は生きる、そして、非核三原則及び専守防衛、こういう原則は崩さない。そして、われわれがやり得る範囲は個別的自衛権の範囲です、その上に立って両国協力してまいりましょう、そういう話をはっきり申し上げまして、われわれは努力はするけれども、できることとできないことがある、できないことはわれわれはできないのだ、そういうこともはっきり申し上げてまいりました。
 そして、例の不沈空母という発言は、ワシントン・ポストとの朝飯会で言いまして、それを記者団との会見で、アメリカ大統領との会見で言ったのではないかという錯覚を私は持ちまして、それは言わなかった。しかし、後でその点がはっきりしましたから、それは訂正した次第でございます。
 アメリカ大統領との会見では、この海峡問題は発言いたしました。日本の防衛というものは、憲法に基づいて、まず第一に、自分の、日本の本土、国土防衛、つまり列島防衛という言葉を私使いましたが、それをまず第一にやる。つまり、いかなる侵略に対しても侵略させないという体制をつくり上げていくことが第一だ。日本の国土といえば、日本の領海も含め、領空も含めまして、そして、まず自分の国を守る。ですから、外国がもし万一侵略しようという場合には、日本の領域、領空、領海に対する侵犯を許さない、そういうための備えはしておきます。その中には海峡も含まれます、アメリカ大統領に対して海峡コントロールという言葉を使いまして、これは当然、日本列島防衛ということが万一侵略その他で行われる場合には、海峡防衛することも考えられる、そういうふうに申し上げまして、海につきましてはいままでどおり周辺数百海里、もし万一航路帯を設けるという場合には千海里程度をめどに、この航路帯についてはアメリカと具体的にどういうふうにやるのか相談を始めます、そういう話をした、これがすべてでございまして、いままでの防衛論の枠内にとどまっておって、これ以上はみ出そうという考えはございません。
 しかし、自分の国を守るという点については、なるたけむだを省いて、そして質の高いきりっと締まった防衛力、近代化された防衛力をつくっていきたいということは申し上げてまいった次第でございます。いわゆる集団的自衛権というような考えに基づいて、われわれが外まで行って外国を守るとか、あるいはいままでの枠を超えた、その個別的自衛権を否定する、そういうような考えは毛頭ない、そのこともはっきりしてきた次第でございます。
 いろいろ誤解があったといたしますれば、私の不徳のいたすところでございますが、しかし、真意はそういうことでございますので、いままでどおりのことである、そういうことで御了承願いたいと思います。
#38
○橋本委員 そこで、昨日も本委員会で論議がありました対米武器輸出供与問題について、私は与党の立場から政府側についての見解を求めたいと思っております。
 今回、政府が、アメリカ側から要請のあった防衛分野における技術の相互交流というものにこたえ、その一環として行われる対米武器輸出供与の実施に当たっては武器輸出三原則によらないということを決定をされました。私は、同盟関係にある両国として、防衛技術における相互交流を図ることがいかぬとは考えておりません。従来アメリカ側から防衛技術の供与を受けておったわが国として、むしろ当然のことではないかと思いますし、それがむしろわが国の平和と安全を守る、わが国の安全保障体制の確保につながるものであると考えております。
 そこで、昨日の御論議とは視点を変えて、この問題についての国民の御理解をいただくために幾つかの点についての御所見を承りたいと思うのであります。
 まず第一点は、今回の政府の決定というものが、わが国の平和と安全の確保の観点からいかなる点で積極的な意義を有するものであるのか、これについてまず明らかにしていただきたいと思うのであります。
 なお関連して、従来、安保体制のもとにおいて、わが国が米国から防衛分野における技術の面でどのような協力を得てきたのかをあわせて明らかにしていただきたい。
 同時に、国会決議の話はちょっとおきまして、今回の政府の決定と武器輸出三原則との関係について考えてみますと、そもそも武器輸出三原則というものはわが国の重要な政策の柱の一つであります。しかし、同時に、これはわが国の平和と安全を確保するという基本的な国益を確保するための政策、すなわち安全保障政策の円滑な遂行との間は矛盾があってはならない性格のものであります。本来、武器輸出三原則と安全保障政策は矛盾することなく両立すべきものであります。ですから、今回の政府の決定は、そのため当然行われるべき調整を行ったもの、私はそう理解をいたしておりますが、政府の認識はいかがですか。
#39
○中曽根内閣総理大臣 私も橋本議員のいまのお考えと全く同一でございます。武器輸出の原則等は、やはりわが国の平和国家としての基本方針から来ておる原則でございまして、政府はこれをいままで保持してまいりましたし、国会でもそういう平和政策という面からこれらの決議が行われておるものであります。しかし、平和国家、平和政策というこのたてまえと、それから日米安全保障条約というものとのたてまえは決して矛盾していないと思います。日米安全保障条約におきましても、国連憲章の精神にのっとり、そして、たとえば極東の平和及び安定維持に寄与する、こうちゃんと書いてありまして、平和、安定というものがその目的になっておるわけでございます。したがって、これは矛盾するものではない。そういう考えに立ちまして、おっしゃるように、この武器輸出の原則あるいは国会決議というものと日米安全保障体制というものを矛盾させないように遂行していくことが政府の根本的政策である、それを今回確認したのである、そのように申し上げたいのであります。
 一方におきまして、日米安全保障条約等に基づきまして、アメリカからは、たとえばP3Cという対潜哨戒機のライセンス生産とか、あるいはF15というアメリカが外国にはなかなか輸出しない武器を日本は供与あるいはライセンス生産を受けるとか、あるいはバッジシステム、日本の防空をやる上について、もし国籍不明機あるいは外国機が日本に近寄ってきた場合に直ちにこれを発見する大事な諸設備、これも非常に重大な機密のあるものでございますが、これらもアメリカ側から供与を受け、われわれはその生産にもあずかっておる。こういうようにして、普通の国にはなかなか渡さないような大事な武器も日本には渡してくれておる。それは安全保障条約に基づく取り決めによってこれが行われておる。アメリカ側におきましては、アメリカがこれだけいろいろサービスしておるのに、日本は武器技術ですらわれわれに渡さないのかという議論がずいぶんございまして、特にアメリカ議会がやかましかったわけでございます。
 そこで、おととし大村防衛庁長官がアメリカへ参りまして、ワインバーガー国防長官とお会いしましたときに、この問題の話が出て、原則的に承知しましたという返事を多分してきたと考えております。そこで、それに基づきまして、これをいかに具体化するか、過去約二年近い間、この具体化について検討を政府は加えてきたわけでございます。いよいよその具体化につきまして決断すべき時期が来たとわれわれ考えまして、今回、昨日来あるいは本会議開会以来申し上げ、あるいは官房長官の政府の声明を発出いたしましたが、そういう考えに基づいて内外にわたってわれわれの考えを明らかにした次第でございます。
 もし、私の御答弁の足らざるところは、防衛庁長官によって補足させていただくことにいたします。
#40
○橋本委員 広範に伺いたい問題がありますので、いまの総理の御答弁で、この点については私は結構であります。
 そこで、昨日もこの五十六年三月の武器輸出問題等に関する国会決議との関連で論議が行われたわけであります。
 私どもは、この国会決議はその文言からも明らかでありますけれども、堀田ハガネという武器輸出三原則そのものに真っ向から違反する事例が生じたことを契機として、今後このような違反事例が生ずることがないように、武器輸出について、厳正かつ慎重な態度をもって対処するとともに制度上の改善を含め実効あるべき措置を政府に求めたと解しております。私は、決してこの国会決議を否定するものではありません。しかし、当時の関係者からも聞いてみますと、いま申し上げた問題点の中で、一昨年のこの本国会決議案を作成する過程における与野党の論議というものを踏まえてみて、一つ考えてみなければならない点がございます。
 すなわち、この調整の過程において、野党の一部から、「よって、本院は、右三原則・政府方針を本院の意思として確定する。」という文案が提示されたものが、調整の結果として先刻申し上げたような文章に変わったわけでありまして、この経緯から見ますと、逆に三原則そのものが院の意思として確定されたとは考えられません。「本院は、右三原則・政府方針を本院の意思として確定する。」旨を提案されたものが、文章が変更されておるわけでありますから、われわれはこの三原則が院の意思として確定したものだとは考えておりません。日米安保体制というものは、わが国の平和と安全にとって必要不可欠な基盤をなすものであります。五十六年三月の国会決議というものが、このような安保体制の堅持に必要な努力を進めていく上で、必要な限りにおいて三原則の一部訂正をすることを禁じるという趣旨で採択をされたものとは私どもは考えておりません。この点は党として申し上げておきたいと思うのであります。
 あわせて、一点私は政府にお尋ねをいたしたい。
 先般来、私どもは新聞を見ておりまして非常に神経をとがらしておることがあります。それはソ連のさまざまな軍備拡大につながる動きであります。ソ連のSS20の増強を初めとする軍備の拡大、アフガニスタンに対する軍事侵攻、さらに軍事衛星の打ち上げなどを考えるときに、数々の軍縮提案のポーズとはうらはらに、ソ連の行動というものは現実には軍縮を進展させるための環境を悪化させるだけの役割りしかしていないのじゃないのか、私どもにはそう思えてなりません。(発言する者あり)
 ことに、今般グロムイコ外務大臣は、欧州における中距離核ミサイルの削減について合意が成立した場合には、このミサイルの一部を極東に移転配備するということを可能性として示唆をいたしました。さらに、一月十七日付の西独ディー・ウェルト紙の報道によれば、ソ連のアンドロポフ書記長は、こういった考え方が出てきたゆえんというものは日本の新たな拠点に対抗するものとして極東に移転すると語ったと報じております。私は、これは大変驚くべき発言であると思いますし、隣人かこういう考え方でわれわれの隣にいるということだけは皆が忘れないようにしていただきたいものだと思うのです。われわれがソ連に求めるものは、まず北方領土を返還することです。われわれが一番必要とすることは……(発言する者あり)余り応援してくださるから多少言いたくなった。われわれは、これは本当に驚くべきことだと思います。そして、これは西独を初めとする欧州諸国の世論に対して平和的な姿勢を何となく印象づけながら、アメリカとヨーロッパの間の離間を図る。さらに、わが国に対しては軍事的な圧力をかけ、力ずくのおどしをかけてきたとしか言いようがないものだと私は思います。日本として、ソ連に対してはこうした点にきっちりとした遺憾の意を表明していただきたい。
 同時に、アメリカに対しても、日本を初めとするアジア諸国の安全の犠牲の上にこの中距離核戦力交渉というものがまとめられることのないように、わが国の姿勢というものを明らかにしていただきたいと私は思います。先日の安倍・シュルツ会談で、この点について外務大臣、どのような内容がありましたでしょうか。
 また、中東和平問題に関連して、レバノンに駐留する多国籍軍への協力問題について、私は個人的には日本はこういう問題には積極的に協力すべきであると思っておりますけれども、どのような論議が行われたか、差し支えのない範囲内で、この点についてもお答えをいただきたいと思います。
#41
○安倍国務大臣 いまお尋ねの、ソ連の中距離核戦力の極東における配置の問題でありますが、政府といたしましては、従来から極東を含むソ連全域においてのSS20に代表される中距離核戦力の撤廃をソ連に対してしばしば強く要請をしてきたところであります。特に、最近のソ連指導者の発言にありますような、極東に現存する中距離ミサイルに加えて新たなミサイルを同地域に移転をする、そういう発言に対しましては、われわれとしても極東の不安というものが増大をするわけでございますので、これに対してソ連のパブロフ大使を先般も招致をいたしまして、わが国としての強い抗議をいたしたわけでございます。このソ連の中距離核戦力の配置につきましては、いまINF交渉が行われております。先般の米国における中曽根総理とレーガン大統領との首脳会談におきましても、わが国はやはり中距離核戦力というものを全廃をする、いわゆるゼロオプションというものを強く支持するということをアメリカの大統領を初め首脳者に強く訴えました。また、先ごろシュルツ国務長官がお見えになりましたときは、中曽根総理も、また私も、最近のINF交渉、これはソ連といわゆるアメリカとの二国だけで行われる交渉でございますが、ヨーロッパ並びに極東、全世界に対しては非常に大きな問題を投げかけておるわけでございまして、もし欧州のSS20が極東に交渉によって移転をされるということになれば、欧州は安全になるかもしれないが、しかし極東はさらに脅威に脅かされることになるので、やはりこうした交渉というものはソ連全土的といいますか、世界的というグローバハルな立場に立ってこれを進めていただかねばならない、これが日本の立場であるということを強く申し述べまして、シュルツ国務長官も、米ソの中距離核戦力の削減撤廃交渉に当たってはこうした日本の立場も踏まえてこれに対処していくということを述べられたわけでございます。
 なお、今後ともわれわれ日本といたしましては、この中距離核戦力の米ソ交渉というものをこれからも注意深く見守っていかなければなりませんし、また、その際シュルツ長官ともお約束をしたわけですが、この交渉についての内容、具体的な進展の状況については、詳細にそのときそのとき日本に対して説明をするということでございました。
 さらにまた、レバノンにおける多国籍軍に対する協力の問題でございますが、アメリカ政府も日本に対してこれを要望いたしております。また、ヨーロッパの諸国も日本に対して要望をいたしておるわけでございます。これはやはり中東の和平、さらにまたレバノンの安定の確保という立場からも、日本としても中東に重大な関心を持っておりますし、何とか協力をしたいということを申し上げておるわけでございますが、しかし、日本の立場がございますから、どういう形でどういう方法で協力するかということについては検討をさしてほしいということで、これから検討を始めたいと考えておるわけであります。協力という基本的な方向は決めておりますが、その具体的な方策についてはまだ決定をいたしてない、こういうことであります。
#42
○橋本委員 続いて、貿易摩擦絡みについてお尋ねをいたしたいと思います。
 世界経済の低迷を背景として、欧米諸国の多くが低成長、高失業率、経常収支の悪化など深刻な経済的困難に直面しておることは周知の状態であります。そうした中で、アメリカは昨年十月、ローカルコンテント法案が通過をし、欧州では、大幅な対日貿易赤字を背景にして、フランスのVTR通関の制限措置などに見られるような保護貿易主義の動きが台頭してまいりました。そして、わが国の市場開放、輸出の自粛を求める声も高くなってきております。総理はちょうどこの日米経済情勢の最も困難な時期に訪米をされたわけであります。特に、世界経済の再活性化、自由貿易体制の維持強化のために日米両国が協力をして力強い役割りを果たしていく点について、レーガン大統領との間で意見の一致を見たと聞いております。私どもはこの点は評価をしたいと思っておるわけであります。
 また、ことに総理が、一連の農産物を初めとする市場開放要求に対してレーガン大統領に、できることとできないことがある、国情に応じて日本としての責任を従来以上に果たしていきたいと述べられたと聞いております。こうしたはっきり物を言う姿勢で今後とも日米経済問題の解決に取り組まれるということであれば、これはきわめて心強いことであります。
 また、外務大臣が新春早々訪欧される、そして通産大臣もECを訪問される、欧州各国及びBC首脳との間に日本とヨーロッパの貿易問題について十分な意見交換を行われたと聞いております。この折にも、保護主義の蔓延を防ぎ、日欧ともに自由貿易体制の維持が必要であるという点で意見が一致したと報ぜられております。
 党としても、江崎真澄先生を会長とする国際経済対策特別調査会、私もその副会長の一人でありますけれども、この調査会を中心にして経済摩擦の解決に政府と一体となって真剣に取り組んでおるわけでありますが、今後の日米、日欧の貿易摩擦の解決のために、政府は一層の決意を持って取り組んでいただかなければなりません。この点についての総理の御所見を承りたいと思います。
 同時にあわせて、世界経済の再活性化の観点から、先年のベルサイユ・サミットにおいては、科学技術の振興などについて首脳間の合意が見られ、現にその作業は進捗中であります。しかし、より短期的には世界経済の底上げを一層求めておるわけでありまして、そのためには先進諸国が協調しながら経済回復のための金融と財政措置をとる必要があります。世界経済再活性化というその目的のためにわが国が果たすべき役割り、それを踏まえて、今年のサミットに臨まれる総理の決意もあわせて御表明をいただきたい。
#43
○中曽根内閣総理大臣 貿易摩擦を解消するということは、現内閣成立時における最大緊急課題の一つでございました。そこで、内閣全体といたしましてもこれに真剣に取り組むということにいたしまして、また党の絶大な御協力をいただきまして、昨年十二月は重大な問題の関税率の低下を行いました。特に、たばこの問題については党に大変御迷惑をおかけいたしましたが、終局的に御協力をいただきまして、あれが内外に非常にいい反響を呼んだようでございます。
 それから、農産品につきましては六品目についてクォータを広げるとか、あるいはそのほかの工業製品等につきましても、約七十五件でございましたか、関税率を引き下げる。昨年の五月から計算いたしますと三百二十三件にわたる関税率の引き下げを行いまして、これを非常に外国は評価してくれたようであります。
 そのほか、いわゆるOTO、経済摩擦を、税関その他における貿易の輸入手続等を簡素化してもっとスムーズにする、その苦情処理等につきましてもいろいろ手続を進めておりますが、今回はその苦情処理の仕事はうまく進んでいるかどうか、それを監視するための特別の諮問委員会をつくりまして、本田技研の本田さんやあるいはソニーの盛田さん、そのほか有識者にお願いをいたしました。
 こういう一連の努力をいたしましたので、外国もかなり日本の努力を認め、また外務大臣には新年早々から一番むずかしいヨーロッパへおいでいただいて苦労され、また通産大臣もベルギーへECの会議に行く等の努力をしてもらい、私もまたアメリカへ参りまして、内閣挙げて実は努力をしてきた次第でございます。
 そこで、問題はオレンジと牛肉の問題、それから輸入手続の簡素化等の問題でございます。
 オレンジと牛肉の問題については、やれることとやれないことがあるとはっきり申し上げまして、オレンジ、牛肉は完全自由化はできません、これについてはいままでの約束で来年三月までは割り当てが決まっている、それ以後については事務レベルで静かに検討するのが適当であるということで、先方もそれに同調してもらったと考えております。残りの問題は輸入手続及び製品安全検査等の標準の問題でございまして、これについては内閣はこういう処置をとっておるという話をして、非常に向こうはそれを了として期待しておるところでございます。
 現在の情勢を見ますと、関税については世界的に全製品等を考えてみると、日本は一番関税率を安くしている国になりました。これは、東京ラウンドの最終年を繰り上げて実行しているからでございまして、日本は一般的に見て三%前後、アメリカが四%強、ECが五%弱、関税率は日本が一番安くしてしまったわけでございます。そういうことも外国は最近承知してきまして、日本の努力を大いに了解するに至ってまいりました。
 残された問題は、やはり牛肉とオレンジについて静かに合理的な話し合いをしていくということと、それから、その輸入手続等について思い切った措置を次に実行していくということであります。三月末までにその輸入手続あるいは製品の安全検査標準という問題について解決案をつくってもらうべく、官房長官を長とする特別のタスクフォースをつくりまして、いまそれが懸命な努力を始めたところでございまして、これを確実に実施していくということによって日本の貿易問題に対する見方は非常に変わってくる、こういうふうに考えておりまして、努力してまいるつもりでおります。
#44
○橋本委員 官房長官、どうぞ国益を損なわぬようしっかり御努力をお願いをいたします。
 そこで、今度はちょっと予算の方に話を移してまいります。
 本年三月末で九十七兆円という巨額な公債発行残高を抱える厳しい財政事情のもとで昭和五十八年度予算が編成をされました。近年、例を見ない厳しい歳出抑制を中心としたものであります。一般歳出が昭和三十年度予算以来二十八年ぶりに前年同額以下となっている。私どもが高校生のころのことであります。これを考えてみれば大変なことであります。ことに五十八年度の歳出総額から昭和五十六年度決算不足補てん繰り戻しという特別な要因を取り除いて、五十八年度本来の財政運営に必要な歳出額を昭和五十七年度当初予算に比して三・一%減額をさせているということに、私は実は象徴的な意義を感じておりました。実は、この三・一%という数字は、それこそ私がちょうど中学生になった年、わが国がまだ戦後の混乱期からようやく抜け出し得たか得なかったかの昭和二十五年度予算、それ以来実に三十三年ぶりの減少率であります。
 当時の池田大蔵大臣の財政演説を読み返してみますと、その中で昭和二十五年度予算というものを正常化予算への第一歩という位置づけをしておられましたが、まさに私はこの昭和五十八年度予算というものも正常財政に向かうその第一歩としなければならない、将来のわが国の新たな発展への第一歩となるべき予算でなければならないと考えております。この昭和五十八年度予算というものをどのような位置づけ、どのような基本的な考え方で政府は編成をされたのかをお答えいただきますと同時に、あわせて行政改革との関連についてお答えをいただきたいと思うのであります。
 財政改革を進めていくためには、国の行う施策を根底から見直して、高度経済成長時代の甘えをぬぐい去って新たな時代にふさわしいものにしていかなければならないことは言うまでもありません。そのためには、これからも行政改革を引き続き着実に実行していく必要があります。国民もまた行政改革を求めておられます。
 行政改革そのものについては後刻また私は改めて論議をいたしたいと思いますけれども、この昭和五十八年度予算の編成に際し、臨時行政調査会の答申に基づく行政改革はどのように反映をされておりますか。また、常に論議の対象となります補助金の整理合理化というものがどの程度行われたのか、大づかみで結構でありますけれども、あわせて御報告をいただきたいと思います。
#45
○竹下国務大臣 まず最初に、五十八年度予算をどのような位置づけに考えたかと。私はいろいろな工夫をもたらし、そして与党の御協力を得ながら、また野党の批判にもこたえながら、この予算が財政改革への第一歩というふうな位置づけの予算と評価していただければ幸いである、このように基本的に考えておるところであります。
 委員御指摘のとおり、まず五十四年以来、五十九年度特例公債依存体質から脱却すること、これを目標に掲げてまいったことは御承知のとおりであります。しかし、第二次石油ショックを契機といたします世界経済の停滞等からいたしまして、税収の伸びが鈍化するなど、わが国財政を取り巻く環境は大変厳しいものとなりました。したがいまして、五十九年度特例公債からの脱却、これはきわめて困難になったというふうに今日まで総理からも私どもからもお答えをいたしておりますが、まさに今度お示し申し上げましたいわゆる財政改革に関する基本的な考え方、そうして、それに伴う資料としてお届けをいたしましたところの中期試算等において、数字の上でも五十九年脱却ということはできなくなったということを明らかにしたわけであります。
 したがって、そういう考え方の上に立ちながら、まず予算編成当時からいわゆるマイナスシーリング、こういうことをめどに、御指摘のとおり二十八年ぶりの、一般歳出を前年度以下に圧縮するという厳しい抑制を行いました。
 さらに、御指摘のとおり臨調答申等の改革方策を一体どういう趣旨に織り込んだか、こういうことでございますが、とにかく五十八年度予算で、御指摘いただいたものについてはそれぞれ何らかの形で具体的な芽を出すと同時に、そして実現を見なかったというものにつきましても、将来にわたっての改善のための具体的手続等をそれぞれ定めました。したがって、ほとんどすべてについて何らかの形で具体的措置を講ずることができた、このように考えておるところでございます。
 そうしてさらに、いわゆる補助金等の問題でございます。その前に具体的な例示を若干申し上げますならば、たとえば社会保障につきまして、医療機関に対する指導監査の強化、薬価基準の改定等各般の医療費適正化対策を強力に推進いたしますとともに、国民健康保険助成費や社会保険事務費国庫負担の合理化等を行うこと、それから文教につきましても、私学の経常費助成の総額を縮減するとともに、適切な教育・研究プロジェクトへの助成を重視する趣旨から、新たな研究装置等施設整備に対する補助金を創設する等を講じたこと、また次に、食糧管理費の節減合理化、国鉄経営の合理化等の一層の推進等々の問題に加え、国家公務員の定数の縮減等各般の施策について、具体的御指摘をいただいた事項について答申の趣旨に沿って織り込んできたわけでございます。
 さらに、委員御承知のとおり、たとえば育英奨学金について改善のための具体的手順を定めるとか、児童扶養手当等の見直しについて具体的な期限をめどに検討するための場を設けるとか、あるいは義務教育教科書無償給与制度等について五十九年度概算要求までに徹底的な議論をして解決をするとか、そういう手順を定めたわけでございます。
 さらに、いま御指摘のいわゆる補助金問題でございますが、従来にも増して積極的に整理合理化を推進いたしまして、個別検討項目についての合理化措置、そして原則一割削減措置については目標額を上回った達成、それから地方公共団体等に対する各種人件費補助の合理化措置、零細補助金の基準額の引き上げ、件数整理計画についてこれまた目標件数を上回っての整理、それから民間企業、公益法人の民間団体に対する補助金の削減、したがって、五十八年度の補助金等予算総額十四兆九千九百五十億円は対前年度当初と比較して伸び率等で近来の最低基準になった、こういうことが大づかみな御報告でございます。
    〔委員長退席、村田委員長代理着席〕
#46
○橋本委員 いま述べられました項目の中には、これから先お互いに検討を加えていかなければならない項目も多々あるわけでありますが、今後のその財政改革の進め方についての政府のお考えを伺うに際して、私は、政府・与党一体となって過去数年間にわたり進めてきた歳出削減の努力というものを、もう一度振り返ってみたいと思うのであります。
 昭和五十年代の前半まで、再度にわたる石油ショックの後の経済の下支えをすべく、財政は大いに働いてきました。しかし、その結果として公債残高は累積を続け、財政の力にも限界が出てきたわけであります。このため政府は、財政再建を最重要の政策課題として、厳しく歳出の抑制に努めてこられました。一般歳出の伸び率だけを見てみましても、昭和五十五年度予算案では五・一%、五十六年度予算で四・三%、五十七年度は一・八%、さらに現在審議中の五十八年度予算では、二十八年ぶりのマイナス予算となったわけであります。
 このマイナス予算は、これ自体を見ても大変厳しい中身のものであります。しかし、過去数年間にわたって圧縮の上に圧縮をしてきたその上に積み上げられたものであることを考えれば、実態は見かけ以上に一段と厳しいものであることは間違いがありません。それだけに、直接間接に個々の御家庭に対してもいろいろな影響が出てきておるはずであります。いわゆるぜい肉落としという観点からは相当程度の成果が進んできたと言えるでありましょう。それだけに、今後さらに積極的に社会経済情勢の変化に対応して、歳出の中身の切りかえを図っていくべきであります。
 これまで政府は、主として特例公債に着目をし、その発行額を減額することを目指して、それで財政再建を果たすのだという手法をとってこられました。しかし、現在の不透明かつ流動的な経済情勢のもとで、特例公債をどう減らすかのみに着目した財政運営というものは、私は必ずしも適当なものではないと思います。むしろ、何よりも歳出歳入構造それ自体を社会経済情勢に即応したものとするような徹底的な見直しを行い、その結果として公債減額、公債発行依存度の引き下げにつなげていくことによって財政の対応力の回復を図るべき、それが私は本筋だと考えております。
 その限りにおいて、本委員会に提出されております政府の財政改革に関する基本的考え方も、私は適切なものだと評価をいたしております。しかし、このような財政改革を進めるためには、何よりもまず国民各位の理解と協力を得なければなりません。財政改革を進めるための必要な国民の理解と協力を求め、その力強い支えが得られるよう政府が今後においても最大限の努力をされることを私は期待をいたします。
 同時に、財政改革を進めるに当たって、歳出構造の見直しと同時に歳入構造の合理化、適正化の努力というものは、これは欠くことができません。特に税制については先刻も御論議がありましたが、国民の中には所得税減税を求める声が大変強くなっておりますし、税負担の公平化を求める声も同様であります。直間比率の問題等も論議をされておりますけれども、税負担や税体系のあり方について幅広い検討を行っていく必要がありますが、この点についての所見はいかがでしょうか。
    〔村田委員長代理退席、委員長着席〕
#47
○竹下国務大臣 まず、橋本委員が御指摘になりました、総理が御就任以来いわゆる財政改革という言葉を使われております。そして、ややもすれば今日まで財政再建とは即特例公債からの脱却、それを何年次に行うかということをさらに一歩進めて、いわゆる歳出構造そのものの見直しを行っていく、これが御指摘のとおり財政改革としての位置づけではなかろうかというふうに思っております。したがって、それは当然のこととして歳入の面においても合理化、適正化が行われなければなりません。それがまた税制におけるところの公平の確保、こういうことにもつながるわけであります。そしてまた、本日、かつての財政再建に関する国会の決議が前質問者によって朗読がございましたが、その趣旨もまた、歳入歳出両面にわたり広く国民の意見を聞きながら総合的に勘案してこれに対応すべきであるという趣旨でございます。したがって、いわゆる歳入面におきましても、まさにその公平化、適正化を構造の上にもメスを入れて行うべき課題である、こういうふうに自覚をいたしております。
#48
○橋本委員 お尋ねを申し上げたい点が多くありますので、簡潔に御答弁をいただきたいと思うのでありますが、予算の中身でちょっとお尋ねをいたしたい。
 先刻も防衛費突出というお話が出ておりましたが、確かに伸び率を見ますと、単純に言えば、防衛費は経済協力費に次いで伸び率の高いものであります。しかし、わが国を取り巻く国際情勢を考えるとき、ことに先ほど申し上げたような物騒な隣国を控えているようなわれわれの立場で、わが国が安全を確保し、自由主義国の一員としての国際的な責務を果たしていくための精いっぱいの努力、しかもGNP一%以内というその枠を国民的なコンセンサスとしてとらえてきた中身であることを考えれば、防衛庁長官から言えば必要最小限の予算と言われるかもしれません。最小限かどうかは別として、この予算について防衛庁長官はどうお考えになりますか。
#49
○谷川国務大臣 私どもは、現下のわが国の財政事情がきわめて厳しい状況にあるということは重重承知でございまするが、わが国を取り巻く国際環境も、これまた非常に厳しい状況でございまして、こういったところから、五十八年度予算につきましては、五六中業の初年度にも当たりますので、財政当局とその問題についてぎりぎりいっぱいの調整をいたしまして取り決めをいたしました予算でございます。したがいまして、現在、われわれといたしましては、この予算をこの国会でお認めいただきましたら、最大限効率的に使うことに努力をいたしたい、こう考えておる次第でございます。
#50
○橋本委員 同時に、今度は逆に福祉、文教切り捨てという批判に対して主管閣僚がどうお考えになっているかについてお答えをいただきたいと思います。
 確かに社会保障関係費の伸び率は低い。文教予算はマイナスであります。しかし、一方では児童数の減ということも事実でありますし、高齢化社会が進みつつあるということも逆に言えるわけであります。中身を丹念に見てまいりますと、従来から行ってまいりました政策の柱で、その柱が倒れてしまったようなものはない、むしろある程度新規施策もそれなりに取り上げられておるわけでありまして、確かに厳しい内容ではありますけれども、私は全体としての水準は確保されているというふうに見ました。しかし、これは主管閣僚がもし福祉切り捨てであると言われ、あるいは文教置き去りであると言われれば、これは大変な問題でありまして、行政についての責任の最高の所在であるそれぞれの主管閣僚、どのような印象をお持ちでありましょうか。
#51
○林国務大臣 お答え申し上げます。
 先ほど来、橋本議員からいろいろとお話がございました。大変厳しい財政の状況でありますし、歳出構造をやはり是正していかなければならないという御意見がありまして、私もそういったことを真剣に考えてこの問題に取り組んだわけでございまして、基本としては、真に必要な福祉施策というのはどうしても確保していかなければならない、また、削減をしなければならない点もありますし、合理化をしなければならない点もある。先ほど竹下大蔵大臣からいろいろとお話もございましたが、私の方といたしましては、単に削減をするだけでなくて、国民年金の国庫負担の平準化措置というものも工夫をいたしました。そうした結果、予算上では社会保障関係費は五百四十九億円の伸びを確保いたしましたし、いま申しました平準化措置を入れますと、これで約三千二百億円の伸びを確保したところでございます。
 内容的に申しましても、デーサービス事業における寝たきり老人の家族介護者教室の新設、二番目に、身体障害者社会参加促進事業におけるメニュー事業の追加、三番目に、母子等福祉貸付金原資の追加等の在宅福祉対策を充実してまいりましたし、また、老人保健事業を初めとする健康づくり対策の推進、及び五番目といたしまして、難病対策の対象疾患を追加いたしました。六番目といたしまして、中国帰国孤児定着促進センターの新設等、中国孤児対策の強化も図りましたし、七番目といたしまして、戦没者の遺族等に対する特別給付金の継続支給等をいろいろと行ったところでございます。大変厳しい状況でございましたけれども、全体としての社会保障の水準は維持されており、福祉切り捨ての予算であるというような御批判は当たらないというふうに考えております。
 最後になりましたけれども、橋本議員には予算の編成その他に当たりましては大変に御協力をいただきましたことを、この機会をかりましてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
#52
○瀬戸山国務大臣 お答えいたします。
 文教予算について非常に困ったのではないかという趣旨のお尋ねでありますが、結論を申し上げますと、橋本議員御承知のとおり、文教予算は総体において昨年度と比較して五百十億の減でございます。しかし、その内容を見ますと、先ほどお話にありました児童生徒の減少等に関するもの、これが一番大きいのですけれども六百三十九億の減、これは当然減と言えば当然減であります。それから、私立大学等の助成については、これはある程度しんぼうをしていただける面がある、こういうことを検討いたしまして、こういうものを含めて百七十四億、これは減になるのが八百十三億でございますが、そのほかに新しい項目として、時代の変遷に応じての教育が必要だという項目かたくさんありますが、申し上げませんけれども、その中が三百三億の増になっておる、こういうものを計算いたしまして五百十億となっておりますが、多々ますます弁ずというわけにはまいりません。やはり財政の状況も勘案しながらやっていく、教育の最低限を守るという姿勢でやっておる、こういうことでございます。
#53
○橋本委員 いまなぜこの二つの役所を例に挙げましたかと言えば、マイナスシーリングという手法、マイナス予算という手法が、本年はいま出ましたような幾つかの手法によって対応ができたわけであります。仮に来年度同じ手法をとろうとすれば、相当な中身の切りかえを図らない限り、この両省について予算編成が不可能になるような状態もあり得るわけでありまして、政府側として、現時点においてむしろ将来に心をいたして十分な対応をお考えおきを願いたい、この点を申し添えておきます。
 同時に、特定不況業種についてお尋ねをいたしたいと思います。
 現在の世界同時不況の中で、とりわけ石油化学あるいはアルミ製錬など基礎素材産業を初めとした構造不況産業は依然悪戦苦闘を続けておりますし、雇用への影響、関連中小企業、地域経済への影響も深刻であります。ことに基礎素材産業は、国民経済の中で優秀な素材を提供することによって川下の加工組み立て産業などを支えていると同時に、わが国の経済の中で国際的変動の影響を緩和する、いわば緩衝地帯の役割りを果たすような大変重要な位置にあります。それだけにこの状態をほうっておくわけにはまいりません。数年前、私は、ここにおられる川俣理事等と御相談をしながら、超党派で特定不況業種離職者臨時措置法というような法律を議員立法をせざるを得なかったような事態に直面もいたしました。わが国の基礎素材産業を初めとする構造不況産業の将来、これはいまいかなる構造不況対策を行うかにかかっておると私は思います。
 これらの産業の活性化のためには税制、財投、さらには予算上の措置などのインセンティブを与える必要がありますし、さらに、本年の六月末をもって期限切れとなります現行特安法を、独禁法との調整を含む総合的な法的措置に切りかえていくことも必要であろうと思います。政府も当然お考えのことと思いますので、いかなる法的措置をお考えでありますか、当面の不況産業対策と本年度予算における措置をあわせて簡潔に御答弁をいただきたいと思います。
#54
○山中国務大臣 簡潔に答弁しますから。
 いま言われたことは全部同感であります。そのためにとった措置としては、期限切れは改正を施しながら延長する。しかし、これをだらだら延ばすわけにはいきませんので、自助努力、そしてまた目的の達成年限というものをはっきりするために、一応時限立法の五カ年と考えております。指定する業種も、一応は法定は七業種としておりますが、政令指定業種等については、法施行後二年を経過した後、いわゆる残り三年になってから新しく申し出るなどということは認めないというような方針をとろうと思っております。
 それから、独占禁止法という公正なる競争を保持し、公正なる競争によって国民が豊富、低廉、良質なるものを得られるような産業競争政策の促進という立場を持った法律がございますから、これは独立して存在する職権行使の機関でもありますし、通産省として、いま申されたような内容の重要性にかんがみて、独禁当局と対決するということは避けなければならない。したがって、きのうの段階まで相当深く議論を詰めまして、おおむね独占禁止法というもののたてまえを阻害せず、そして目的とする基礎産業、素材産業の活性化、再建、集約等の、合同あるいは共同出荷、そういうもの等に実行に支障のないという、いままで私が国会で見たりあるいは自分で変えたりした法律の中では、行政実務当局の行政立法と監督監視法である独占禁止法と非常にうまくかみ合った法律にでき上がったような気がいたします。
 もちろん、双方で了解を進めてきたことは当然のことでありますが、それをもって国会に提案し、御審議を願い、そしてもって関連する中小企業や地域の、ある一種の城下町法的な性格もありますから、そういうものが安心して五年間に再活性化して新しい展開を進められるように、あくまでも民間の自主努力を助けていく、税制、金融、予算の措置等は、すでに御承知のとおり全部済ましてございます。
#55
○橋本委員 次に、経済運営について総理の御所信を伺いたいと思います。
 大分時間が詰まってまいりましたので、幾つかの問題点をあわせてお尋ねを申し上げますので、簡潔な御答弁をいただきたいと思います。
 現在、世界経済が先進国、発展途上国ともに同時不況の状況にあり、特に先進国においては、多くの国でマイナス成長という状態の中で、雇用情勢が第二次世界大戦以後最も深刻な状況にあると言われております。こうした厳しい経済情勢の中で保護貿易主義の高まり、貿易への悪影響というものもすでに出てきておるわけであります。先刻申し述べたとおり、他の先進諸国と手を結びながら世界経済の再活性化、自由貿易体制の維持というものの強化を図ることは、わが国の急務でありましょう。
 ところが一方、国内の経済においても、財政赤字が深刻になると同時に、景気は、世界経済の停滞のあおりを受けて輸出の減少等もあり、だんだんだんだん厳しい情勢になってきております。世界経済の約一割を占めている日本、他の諸国からは内需を中心とした経済成長の実現が強く求められておるわけであります。
 こうした厳しい内外情勢の中でどのような基本姿勢で経済運営を進めていかれるのか。特に国内経済について、国内の景気について詳しく伺いたいと思うのでありますが、政府は、昨年十月の総合経済対策によって約二兆円の公共事業追加を含む景気対策を決定をされたわけであります。ところが、輸出の停滞と国内需要の回復の鈍化というものが重なって、景気の回復は盛り上がりに欠けておる状況でありますし、加えて、五十八年度予算においては、厳しい財政事情の中とはいいなから、公共事業関係予算は前年度並みの据え置きとなっておるわけであります。このため、昭和五十八年度のわが国経済については、失速あるいは底割れという心配もなされておるわけでありますし、不況の深刻化、長期化に伴って企業の体力が衰え、中小企業の経営の安定が損なわれてきているということも、一面否定はできません。
 この際、政府は、さらに積極的な景気対策を講ずることによって、わが国の経済を安定成長軌道に乗せていくための、定着させていくための努力が必要であると私は考えておりますけれども、総理の御意見はいかがですか。
#56
○中曽根内閣総理大臣 経済政策の基本につきましては、私も橋本委員と同感でございます。まず当面の仕事は、これ以上底割れしないように、ずり落ちないように手当てをすることだと思います。
 いままでの問題点で心配しなければならぬ要素は、国際経済、世界経済の中で、発展途上国で多大の債務を抱えている国々の中で問題の出てきた国がございました。これらの国々に対しては、各国協力いたしましてとりあえずカンフル注射を打った、こういうことでこれらの国から波及することをとめたというところがまずございます。今後国際経済社会の中でこういうことが起きないように、さらに各国協調して努力していく必要があると思っております。
 特にOPECにおきまして、石油の価格を上げることが非常にむずかしい情勢でありますので、いろんな反応が出てきております。これが世界における流動性を阻害してきて、いままでその流動性によって金融を得ていた部面が阻害してくるということになると、これまた困った問題が出てまいります。こういうような点につきましては深甚の注意をして、国際的協調のもとにまず世界経済に結滞を起こさないような措置をやる。
 それから、国内経済につきましても、不況特定産業、まあ不況という名前は避けたいという山中通産大臣の御意見がございましたが、やはりこの問題についてわれわれとしては当面のあるいは長期的な対策を講じていく必要があると思います。
 それから、物価の安定をてこにいたしまして、幸い昨年は実質賃金は黒字になっております。いかにして消費を誘導していくかということがわれわれのこれからの努力の一つの対象になると思います。物価を安定させるということをますます力強く、決定的に行っていくということがまず大事ではないかと思っております。
 それから、財政が非常に厳しい状況でございますから、金融に活躍を願うという年になってきているだろうと思います。これにつきましては、民間関係の活動に刺激を与えるような措置をやはり中長期的にわたっても考えていかなければなりません。それと同時に、昨年実行いたしました補正予算に伴う二兆円に上る景気政策につきまして、これを着実にフォローしていくということをまた実行していく必要があると思います。
 これらの諸般の政策を総合的に考えながら、機動的に手を打っていくということを今後実行いたしたいと考えておる次第でございます。
#57
○橋本委員 そこで、企画庁長官にあわせて二点お尋ねを申し上げたい。
 一つは、いま総理に申し上げたことにも関連しますが、公共事業と景気の関連であります。
 公共事業が、景気対策として政府のとり得る手段の中で最も景気浮揚の効果の大きいものであることはもう言うまでもありません。しかし、来年度予算案では公共事業費は伸び率ゼロであります。昭和五十五年以来四年据え置きが続いてきました。その結果、来年度の政府経済見通しにおいても、公共投資は、国民経済計算上の固定資本形成からいけば名目で前年度比マイナス一・六%となっておりますけれども、公共投資がマイナスになれば、当然、経済成長に与える影響もマイナスになるわけでありまして、景気の足を引っ張るはずであります。そのようなことで内需中心の安定成長が可能なのか。ことに、政府経済見通しの三・四%成長というものは本当に実現できますか。これがお尋ねをしたい第一点であります。
 同時に、住宅投資と景気についてもう一点お答えをいただきたい。
 住宅建設が経済への波及効果に大きい、内需の拡大による景気の回復に非常に大きな役割りを果たすものであることも周知の事実であります。ところが、しかるに、最近住宅建設は低水準で推移をし、民間住宅投資の今年度の実績見込みは実質で〇・五%増程度と言われておりますね。本年度についても相当の対策を講じない限り住宅建設の早急な回復には相当困難があると思われるわけであります。来年度経済見通しにおいて実質二・六%の増加を見込んでおられる。景気の回復について公共投資などの財政効果が期待できないとなれば、民間需要の盛り上がりを確保して景気の拡大を図っていく必要があり、住宅投資についても最低限度、政府経済見通しの見込んだ程度の伸びは確保する必要があるわけでありますが、現状から見て企画庁、本当にその伸びを実現することができるとお考えでありますか。
#58
○塩崎国務大臣 お答え申し上げます。
 経済回復の手段といたしまして、いま二点から大変心配な点がある。一つは、公共事業費の関係、もう一つは、住宅投資の関係、この二つから成長率が果たして予定のとおり達成できるかという御質問でございました。
 大変私も心配しているところでございまするけれども、まず第一点の公共事業費につきましては、もう御案内のように、公共事業関連費は前年同額確保していただいた。しかしながら、財投関係あるいは災害関係でこのように一・六%のマイナスになったわけでございまするけれども、先ほど御説明申し上げましたように、民間最終消費支出が三・九%、さらにまた民間住宅投資が二・六%、さらにまた民間企業設備投資が二・九%、つまり来年度は世界経済の回復に伴って日本の経済も回復していく、こういう前提に立ちますとこのような計算ができるわけでございます。いずれも細切れのような伸び率でございますが、それを合わしますと三・四%になる、こういうところでございます。
 第二点の住宅投資につきましては、確かに御指摘のとおりでございまするけれども、今年度は新しい要素あるいは政策が幸いに講じられました。五十七年度は百十四万戸ぐらいであろう、当初の百三十万戸の予定は狂いましたけれども、百十四万戸ぐらいの住宅着工ができ上がると見ておるところでございますが、五十八年度もこの程度の戸数は大体実現できるのではないか。
 その方法といたしまして、まず第一に、公的資金の活躍が五十七年度に大変成功した。五十七年度は、御案内のように、民間自力資金が七・四減ったけれども、住宅金融公庫の公的資金による住宅建設が七・四ふえた、こんなようなところに着目しまして、例の用地費を四百五十万円から五百万にするといった貸付条件の緩和、引き上げが行われてきたのが第一であります。第二には、住宅取得控除が五万円から十五万円に上がる。それからまた第三には、昨年大変御苦労されてつくっていただきました土地税制が功を奏してきて地価が安定してきた。さらにまた増改築、昨年の補正予算で緩和していただきました増改築に対する援助、これをひとつ期待する、こんなような四つの要素からまずまず、名目では四・三%、実質では二・六%程度のわずかな伸びでございまするけれども、この程度は可能であろう、こんなふうに見ておるところでございます。
#59
○橋本委員 同僚委員の関連質問がありますので、私はまだお尋ねをしたい点がありますけれども、これで終わらせていただきたいと思います。
 そこで、最後に一点、私は総理並びに各閣僚に申し上げておきたいと思うわけであります。
 総理は、就任されてからも、行政改革については鈴木前内閣の路線を承継、発展をさせる、国政の最重要課題として取り組むという姿勢を明らかにしてこられました。私も、その総理の実行力というものに期待をいたします。しかも、前内閣の行政管理庁長官として臨時行政調査会をつくられ、今日まで歩んでこられたわけでありますから、行政改革の必要性についていまさら私が申し上げるまでもありません。政府自体がわが身を徹底的に引き締めて努力をしていかない限り、歳出削減について国民の理解を得ることも、これは困難でありましょう。今日まで政府・与党一体となって私どもは行政改革に取り組んでまいりましたけれども、本年の三月半ばをもって臨時行政調査会はその任務を終わられるわけであります。その直前に提出されるでありましょう最終答申についても、われわれはその具体化に全力を挙げる責任があります。私は、その点について総理の決意が従来と変わらない強いものであることを心から願ってやみません。
 また同時に、臨時行政調査会の任務が終了した時点でいわゆる行政改革の推進体制というものがなくなることから、一体これから先政府は本当に臨時行政調査会の答申の実現に取り組んでくれるだろうか、その答申の中の都合のよいところだけをつまみ食いをすることによって結果的に行政改革をうやむやにしてしまうのではないかという国民の疑問も残されております。
 われわれは、その臨時行政調査会が任務を終了された後にも、一日も早く新たな行政改革の推進体制というものを確立することによってそのような不安を払拭することに努めなければなりません。党の行財政調査会として去る一月二十四日の総会において、われわれは臨調の任務終了後における新たな行政改革推進体制を一日も早くつくるということについての一致した合意を見ておりますが、政府においてもそれだけの覚悟を持って臨んでいただきたい。
 先国会以来、国鉄再建監理委員会設置のための法律はまだ審議をされておりません。今国会に政府が提出される予定案件としても、国家公務員共済と公企体共済の統合の法律案、これは年金一元化の第一着手としての位置づけにあるものでありますし、また国家行政組織法の組織規制の弾力化についての法律案も提出をされるはずでありまして、これらの法律案が政府の今日までの言明どおり提出をされることを心から期待すると同時に、われわれもまた行政改革の推進に向けて全力を尽くすということを最後に申し述べて、同僚委員に譲ります。
#60
○久野委員長 この際、石井一君より関連質疑の申し出があります。橋本君の持ち時間の範囲内でこれを許します。石井一君。
#61
○石井委員 ソ連の国家保安委員会いわゆるKGBの元少佐であるレフチェンコ氏が、日本でスパイ活動を行った後に米国に亡命をいたしました。そして、日本におけるいろいろの問題について証言をいたしておる。このことは、前の臨時国会の予算委員会でも議論をなされたところでございます。
 私は、一月の中旬から下旬にかけまして米国を訪問し、問題になっております下院情報特別委員会のチャールス・ローズ議員、また、秘密会等にすべて出席をしたと言われますプロフェッショナルスタッフのハーバート・ロメインスタイン氏、この出版をすべて受け持っております、すでにもうマニュスクリプトはできておりますけれども、リーダーズダイジェストの編集責任者であるM・J・フレーミア、それからもちろん、大統領特別補佐官で国家安全保障を担当いたしておりましたリチャード・アレン氏、さらに、レフチェンコ氏の周辺、CIA関係者等と会見をいたしまして、私なりにいろいろの調査をいたしてまいりました。
 ところで、問題はたくさんあるわけでございますが、かなりの資料を集めてまいりましたけれども、結論から申しますと、わが国で行われたレフチェンコ氏以下のKGBの活動というもの、まことに広範なものがございます。いわゆる国家の基本にかかわるような問題もある。そして、日本におけるこの組織というものは世界最大だというふうに言われております。KGBの関係者が少なくとも五十名や六十名は日本にフルにこの活動に従事いたしておる。また、わが国の中には二百名以上の、エージェントと言っておりますけれども、これらの人々が存在し、公的、私的に情報を流しておる。この中には、元閣僚という名前もございますが、政党名もたびたび出てきております。この資料の中にも、どれだけ出てきておるかわかりません。また、ジャーナリストあるいは学者、具体的な名前が出ておらないものも非常に多いわけでございますが、しかし、これに対してはすでにアイデンティファイしたということをCIAは言っております。その後その情報を調べた、こういうことも言っておるわけでございますが、こういう重要な事態に関して中曽根総理大臣はレーガン大統領とお話しになりましたか。まず、これが私の質問の第一点です。
#62
○中曽根内閣総理大臣 レフチェンコ氏の問題についてレーガン大統領と話したことはございません。しかし、この問題につきましては重大な関心を持っております。
#63
○石井委員 この問題に関して外務大臣は外交ルートを通じて要求をなさいましたか。また、警察庁長官はCIAその他治安当局に対してこういう要求をされたかどうか、お伺いしたいと思います。
#64
○安倍国務大臣 いわゆるレフチェンコ証言につきましては、外務省としてもその証言の内容を取り寄せまして詳細に検討、分析をしたわけでありますが、これはソ連のわが国に対する工作というものが非常に広範な立場で行われておるということから、この証言というものを非常に重要視いたしたわけであります。さらにまた、外務省としても、日本の国益の立場からもっと詳細にこれらの具体的な内容等について入手することが必要である、こういうふうに判断をいたしまして、いわゆる外交ルートを通じましてアメリカ政府に対しまして具体的な内容等についてさらに入手したいということを照会をいたしておるわけでございますが、現在のところは米国政府からまだ返事がないというのが今日の実情であります。
#65
○山田(英)政府委員 お答えいたします。
 レフチェンコ証言につきましての警察としての受けとめ方と対処の姿勢をお答えしたいと思います。
 レフチェンコは、昭和五十年の二月から五十四年の十月まで四年八カ月、新時代社の東京特派員として在日したわけですが、在日当時から政治工作担当のKGB機関員であるとわれわれ見ておったわけでございます。こうしたソ連の情報機関員の活動についてはわれわれ大変重大な関心を持ってその実態の把握に努めておりますが、過去にもコノノフ事件とかマチェーヒン事件、コズロフ事件といったように機関員のいわゆるスパイ罪というものを検挙してまいったわけでございます。ただ、今回のレフチェンコ証言の内容を見ますと、彼の任務、活動は、従来警察が検挙してまいりました国家的機密を探知収集するといういわゆるスパイ活動とは異なりまして、いわゆるアクティブメジャーズと彼らは言っております、訳せば積極的な政治工作活動ということであろうと思います。西側諸国の政治家とかマスコミ関係者、世論などに対して公然、非公然の各種工作、働きかけを行ってソ連の外交目的の達成を図るという政治工作活動であろうと思います。
 この種のソ連機関員の活動は、かねてからわが国内においても展開されていたことは警察としても承知いたしておったところでございまして、証言の内容では工作をかけられた対象というものは具体的に特定されてはおりませんが、一般論としては十分あり得ることだと考えております。したがいまして、ただいま外務省当局におきまして本証言に関連する詳細を米国に照会中とも伺っておりますので、その結果をも得まして、違法行為が関連する場合にはこれを看過しないというのが警察の立場でもございます。いかに対処すべきかを、詳細な結果を得ました上で検討してまいりたいと考えております。
#66
○石井委員 総理大臣は非常に関心を持って見守っていきたい、外務大臣はすでに外交チャネルを通して要求をした、警察庁の立場は、やや、刑事的には問題ではないけれども今後注意する、こういうことでございますが、実はこの問題は非常に政治的に意味の深い、大きな問題だと私は思います。
 ここにソ連のこれらのグループがやっております目的というのが十項目にわたって書いてございますけれども、これは十項目全部読み上げませんが、第一に書いてありますのが日米政治軍事協力の妨害、第二に書いてあるのが日本の政界、財界、軍事関係者の中での日米間の不信を増幅さすこと、これは国家の基本にかかわる問題をこの国の中でやっておるのですよ。その他、日中関係の妨害、反ソ・トライアングル、ワシントン・北京・東京をいかにブレークするか、日本の中に親ソ・ロビイストをどれだけつくっていくか、さらに、北方領土返還の運動が無意味であるということをいかに浸透するか。こういう問題が列挙されておることに関して、これは少し古い問題であるとかあるいは刑事的に多少問題であるというふうなことでは許せない。これは国家の基本的な安全の問題として政治家が真剣に取り組んでいくべき問題ではないかと思います。
 しかも、これに関連をいたしまして、CIAの海外担当部長であるポートマン氏が、議会で宣誓をした後に、このレフチェンコ証言がいかに重要であり、内容が正しいものであるかということを証言いたしております。これはレフチェンコ証言が真実であるばかりでなく、アメリカ政府は、ソ連のKGBの組織活動がどういうものであるかということをすべて掌握したのみならず、KGBの日本におけるエージェントをほとんど全部確認した。そして次に、それをわれわれは、CIAは、別の方法で点検をしたけれども、間違いのないことを認めた。チェックアウト・スルー・バリアス・アザー・ミーンズという言葉を使っています。私はこれに対しまして質問をいたしました。バハリアス・アザー・ミーンズとはどういう意味か。これは、彼らが言っておりますのは、恐らくこの資料に基づいてこれに該当する何十名か何百名の人人を日本の国内においてチェックしたはずだ、アメリカ人がですよ。そうして、その結果、これが正しいということをCIAの海外担当部長が宣誓をして議会で証言しておるのですよ。これはどういうことですか。CIAはどうか。日本は実質的な観点から、これだけの重要な問題を、アメリカが資料を持っておって、アメリカの議会でそれをやっておって、日本の国会は、われわれ政治家は、これだけ反国家的行為というものを放置するというわけにはいかないと私は思うのであります。
 私は、そういうふうな意味で、外交チャネルからの資料の要求だけでなく、CIA、アメリカのFBIに対しまして、正式に日本政府として資料の要求を求めたいと思います。
 官房長官、お答えいただきたいと思います。
#67
○後藤田国務大臣 私も、先ほど総理大臣が御答弁なさいましたように、この事件は重要視しなければならぬ、かように考えております。同時にまた、石井さんいまお話しのように、相当広範なKGBの活動が東京を中心に行われているということも、これは間違いがない事実。それで、石井さんがおっしゃるようなことは私も承知はいたしております。それだけに現時点においては、先ほど外務大臣がお答えをいたしましたように、外交チャネルを通じてアメリカ政府に対して照会をいたしておる段階でございます。ただ、これは私の推測でございますが、こういった事案についてはアメリカとしては恐らくやCIAあるいはFBI、こういうところが詳細な資料を持っておる。普通の外交チャネルで果たして日本に回答が来るかどうか、いまの段階ではにわかに断定をしがたい。しかし、事柄が重要でございまするから、外交チャネルで回答が得られないといった場合に、その段階になって政府としてどう対応するか、これからしばらく模様を見た上で検討をさしていただきたい。私どもとしては放置をするというつもりはございません。
#68
○石井委員 私は、いまの官房長官のお答えでは必ずしも納得をいたしません。このポートマン氏の証言によりますと、これほどの重要な資料というものはない、これはソ連の日本の国内における情報活動に壊滅的な打撃を与えるであろうということを言っております。モースト・ダメージング・インフォメーションという言葉を使っております。そういう資料に対して、まあ外務省が要求したんだからしばらく様子を見ようでは、私はこれは困ると思う。現に私が調べてまいりましたところ、レフチェンコ氏は何回にもわたるCIAでの事情聴取、これはもう膨大な資料になっております。それから、同じようなことがFBIの観点からやられております。それから第三に、ステートデパートメントにおきましても同じことが行われておりますが、これはアメリカの外務省が関心を持っておりますのは、よその国でどういうことが起こっておるかという外交的観点です。われわれが求めておるのは、日本の中の組織ということです。そういうことになりますと、CIAなりFBIというふうなところにメスを入れていかなければいかぬ。もう一つ、われわれの中山外務委員長が資料を要求しております。これは議会関係でございますが、議会関係は、公表されたもの以外にごくわずかの資料がございます。申しますと、四つの資料があるわけでございます。したがって、現在外務大臣がおやりになっております要求のみならず、私が具体的に指摘しました資料、あと三つのものを国家安全の重要な立場から、総理もそう答弁されておるのですから、しっかりとこれと取り組むということをひとつ総理からお答えいただけませんか。
#69
○中曽根内閣総理大臣 日本の国益を守るという意味から、われわれは重大な関心を持っております。従来、日本はスパイ天国である、こういうようなことを外国から指摘されておりました。まあ、警察その他におきましてもその点はよく注意していることとは思いますが、今回こういうようなことが公表されました以上は、看過するわけにはまいりません。したがって、日本の国内的な情勢を知る上からも重大な資料でもあると思っております。先ほど申し上げましたように、御趣旨に沿いましてできる限りの手を尽くして資料を収集し、また、それに対するわれわれの検討を加えていきたいと考えております。
#70
○石井委員 総理からしっかりした前向きの答弁をいただきましたので、しばらく事態を静観いたしたいと思いますが、私自身が調べた問題でも、かなりの問題が提起できるだろうと思います。しかし、本日は時間がございませんので、これ以上、これの資料については申し上げません。しかし、今後この問題については、国家の基本にかかわる問題として十分見守ってまいりたい。
 そこで、たとえばこういうふうな資料が出てまいりまして、具体的な二百名の名前が出てくる、こういうことになりますと、これは大変な、日本人の人権にかかわる問題になってくるのですよ。(「結構、結構」と呼ぶ者あり)これは結構だという場合には、これまで先例があるように、免責をして嘱託尋問をやり、そうして、最高裁はこれに対して宣明書を出すのか。言うなれば、海の向こうでだれかの名前が出たら直ちに――日本人は、これはある政党の議員なんて物すごく出てきますね。(発言する者多し)これがすべて灰色になるというふうな行為を一体やるのかどうか、これをお答えいただきたいと思う。法務大臣。これだけある政党の名前が出ている。(「そこにあるのだったら出せよ」と呼び、その他発言する者多し)いやいや、過去の経過は聞いておりませんよ。
#71
○久野委員長 御静粛に願います。
#72
○石井委員 今後の場合にそういうことをやるのかということを聞いておるのです。
#73
○前田(宏)政府委員 ただいまお尋ねがございました、いわゆる嘱託尋問でございますが、やはり嘱託尋問を裁判手続の一環として行います場合には、それなりの犯罪事実といいますか、彼疑事実といいますか、そういうものが前提でございますし、それを裏づけるある程度の資料がないと、そういう手続は行われないわけでございます。(発言する者あり)
#74
○石井委員 確たる資料がない限り、はっきり申し上げられない、それはまあ当然そうでしょう。
 それでは、もし確たる資料が出た場合にはそれは行われると、私は本席におきましてはそのように理解をいたしておきたいと思いますが、法務大臣、一言答えていただけませんか。
#75
○秦野国務大臣 確たる資料が出れば、それに対応することは当然でございます。
#76
○石井委員 そういう意味からも、強く資料の要求を求めておきたいと思います。
 そこで、次の問題に移らしていただきたいと存じますが、いわゆる法務大臣と検察庁の権限の問題についてお伺いをしたいと思います。
 実は秦野大臣は、非常にいまマスコミでも注目をされておる大臣になっておられます。私、この点につきまして、一体法務大臣は検察庁の人事に対してどれだけの権限を持っておられるのか、多少疑問を持っておるのですけれども、たとえば検察の人事に関しましては、法務大臣というのはめくら判を押して一切口出しをしないのか、それとも、それなりの権限を持っておられるのか。あるいは、あなたが大臣に就任されましたときに安原検事総長は、だれが法務大臣になったって検察は変わらぬ、こう言っておるのですが、こういう発言に対してどういう感触を持っておられるか、お答えをいただきたいと思います。法務大臣。
#77
○秦野国務大臣 人事というのは、各省とも皆同じようなことだと思います。別にとりたてて変わったことはないと思いますが、実際問題として膨大な組織だし、正直言って、私の目の届くというのはたかが知れている。よく実情を聞いて、実情に沿うような方向で人事をやるということは、これは普通のことを普通にやるということで、余り変わったことじゃない、こう思っております。
#78
○石井委員 私の質問に直接答えておられませんが、まあ言わんとしておることは、お互いに政治家ですから理解をすることにいたします。
 ただ具体的な問題として、一つ法務大臣の職務上まことに重要な問題が提起されておると思いますので、お伺いをしたいと思うのでありますが、ここに最高検の次長検事の伊藤榮樹氏の「検察庁法」という著書がございます。これをめぐる大きな論争というものが起こっておる。
 そこで、これの六十三ページでございますが、私は一般論として聞いておるのです。これは御承知のとおり指揮権発動の条項でございますが、不幸にして、終局的に法務大臣と検事総長が意見の対立を見た場合は、検事総長のとる態度として「(1) 不服ながらも法務大臣の指揮に従うか、」(2)を飛ばしまして(3)ですが、「官職を辞するか、」あるいは、この(2)が問題なんであります。(2)は「指揮に従わず、自らこれに反する取扱いをし、または、部下検察官に対して法務大臣の指揮に反する指揮をするか、」こういうことをこの著書で言っておるわけです。その次に説明がございまして、法務大臣の指揮が不相当と検事総長が認めたら法務大臣の指揮を拒否せよと言わんばかりの解釈がここに書いてある。
 三権分立の中で、検察というのは行政府の中にあるはずだ。法務大臣の指揮監督の中にあるはずだ。そうして、法務大臣が民主主義のルールである検察に対する指揮監督というのはこの条項でしかできないはずです。それに対して、自分たちが不相当と考えた場合にはこれを拒否するということができる。検察官がみずから法を破っていいということを言っている。しかし、これはまことに重要な問題だと思うのでありますが、法務大臣の御意見をひとつ伺いたいと思うのです。
#79
○前田(宏)政府委員 伊藤現次長検事の著書につきましていろいろと教授の方が批評しておられることは承知しておりますが、伊藤次長検事のその見解と申しますのは、いわば伊藤次長検事の個人的な著作物におきます見解でございまして、その当否につきまして公の立場で論評する立場にないと思いますけれども、私の理解しておりますところでは、伊藤次長検事としましては、要するに検察庁法の十四条の解釈に関連いたしまして、いろいろなことを想定して一般論として述べているというふうに理解しております。
#80
○石井委員 これは具体的な指揮権の発動が云々ということを言っているわけではないのです。しかし、法理論として非常におかしい問題だ。いまの御答弁だと、これは個人的な著書だと言いますけれども、いまの伊藤さんの立場というのは検察を代表する立場です。そういう立場で、法治国家であってこの法は破ってもいいんだというふうな記述、これは非常に問題だと私は思うのであります。
 次の記述をひとつ聞いていただきたいと思うのでありますが、「いずれの態度をとったとしても、ことは、当然政治問題化し、国民の批判にさらされることとなろう。いいかえれば、庁法第一四条のねらっている効果は、最悪の場合には、検察全体の代表者としての検事総長が、政党内閣の代表者としての法務大臣と正面から立ち向かうことにより、いずれの判断が是かを、広く国民の批判にさらし、長い目でみた適正な検察権の行使を担保することにあるものと考えられるのである。」
 これは政党内閣の代表者に対決する検察のひとりよがりの解釈と言わなければなりません。検察が行政府の一部であるということであれば、それをチェックするためにこの法律があるはずです。シビリアンコントロールが防衛にあるのと同じであります。何のためにシビリアンの防衛庁長官が防衛庁に座っておるのか、何のためにあなたが法務省に行って座っておるのかという基本的な問題をこれは取り上げておると思うのでありますが、法務大臣のお答えをひとつしていただきたいと思うのであります。
#81
○秦野国務大臣 いまの御質問の問題は、この前の臨時国会でもたびたび申したように、要するに検察庁法十四条によって、法務大臣には法律上そういう権限があるということは間違いない。しかし、そこに書いてあることの中で私もいまちょっと感じますことは、私も役人の経験が長いのだけれども、役人というものの何か心意気みたいなもの、法律の解釈と、それからまた、むちゃなことを言ったらけつをまくってやろうみたいな気分は、私も役人経験で多少あるんですよ。だから、そういう役人の心意気みたいなものと権限法というものを多少ミックスしちまったような感じがせぬでもない。何かいま聞いてみると三十年も前に書いた法律だというものですから、よくひとつ私も検討してみます。余り御心配は要らぬと思います。大丈夫です。私に任してください。
#82
○石井委員 問題はすべてあなたの御答弁に尽きておるとは思いません。たとえば、最近この論争に関しまして早稲田大学の松原教授は大きな反論を唱えております。そして、三十年前に書いたからいま関係ないと言うならやはり訂正されなければいけないでしょうね。中曽根総理大臣の言われておる憲法発言に関しても、何十年前の問題でも、個人が言ったのならそうだ、在野の学者が言ったのなら別といたしまして、最高検の検事の一番上におる立場の人がこの主張をしておるのでありまして、役人の気質を言ったというふうなことでは済みませんよ。これは法務大臣、法務大臣が持っておる唯一のチェックする権限の条項であるはずなんです。これは日本の民主主義の根幹にあるべき問題だと私は思います。それに対して、これだけの意見が出ておるものに対しましてそれで済むというわけにはいかないだろうと私は思います。このことについて、いまここできっちりお任せいただきたいというのでありますから、法務大臣の指揮監督権というものからこの十四条に対してきっちりしたけじめをつけていただきたいということを申し上げておきたいと思います。
 それでは次に、時間がございませんから、議員の辞職勧告決議案に関して私の所見を申し上げたいと思います。
 この問題に関しましてはすでにいろいろ議論がされておりますけれども、司法権介入するような行為を、立法府であるわれわれ衆議院がするべきでないということを私は主張したいと思うのであります。憲法第七十六条にも、裁判官は良心に従ってその職権を行うというふうに書いてございます。これは憲法の最重要の条項だと思います。宮沢俊義先生の著書の中にも、裁判については、国民の直接のコントロールが及ぶことは、過去の経験から見て公正な結果を招かない、そういうふうにまで言っております。私は、一番この議員の辞職勧告決議案の問題点は、いわゆる立法府が司法権に対して介入をする、こういう結果になると思う。そういう意味では、これはいわゆる憲法の基本にかかわる問題ではなかろうかというふうに私は思います。この問題につきまして法制局長官の御意見を伺いたいと思うのでありますが、きょうは時間がございませんから、これは多くを申し上げません。
 さらに、過去のいろいろの例を見まして、こういう事態はわが衆議院には起こっておりません。イギリス、アメリカその他のすべての議会を調べましても、アメリカの上院におきましてウイラー議員のケースがございますが、そのときには、いわゆる議員が起訴された段階において投票権を剥奪する、そういう法律がございました。ところが、ウイラー議員が無罪になった時点においてアメリカの上院はこの法律を変えまして、刑の確定がなされるまでは投票権を行使するということを認めて、現在もアメリカの上院においてそれが行われております。外国から見ましても国内的に見ましても、こういう前例というものは全くないということを今回やろうとしている、これは私は大変な問題だということを指摘しておきたいと思います。
 政治倫理という問題がございますけれども、政治倫理というものはわれわれ大いに心しなければいかぬと思いますが、一体それは何なのか。人を攻撃するために政治倫理を使うというふうなことになってくれば、その政治倫理は、声が大きくなればなるほどそのモラリティーというものは低いというふうに言ってもいいと思うのであります。医者の倫理というのは、お医者さんが人を治すためには、その病人に対して厳しい処置をしても、非常に苦い薬を飲ましてもそれを治すというのが医者の倫理でなければならない、人を攻撃するための政治倫理であってはいけない、政治家の政治倫理の基本は何か、国家ということだ、国家に対してその政治家がどれだけの貢献をし、将来国家に対してどれだけのことができるかというのが政治倫理でなければいけない、みずからの、みずからによって政治倫理というものは決まるものだ、そういうふうに思うわけでございます。
 そういうことから考えますと、議員の身分というものは選挙にゆだねられるものである、みずからの意思で決定されるものである、法治国家であるなれば法を守ってその筋を通すべきである、私はそのように思いますけれども、総理大臣の御所見を一言お伺いしたいと思います。
#83
○中曽根内閣総理大臣 石井さんの貴重な御意見として拝聴いたす次第でございます。
 私の考えは、先般来、民主主義国家における主権を構成する大事な国会の構成員である議員の地位に関していかにあるべきかということを、私かねがね自分の所信を申し上げているのでございまして、これはよく御理解いただきたいと思っている次第であります。
#84
○石井委員 最後に、時間が参りましたので一言金大中事件について申し上げまして、私の質問を終わりたいと思います。
 ワシントンに滞在いたしておりますときに、私は金大中氏に個人的にお会いいたしました。恐らく日本の議員としては初めてではないかと思います。私は旧知の間柄でもございましたししたわけでございますが、彼は、アメリカに亡命といいますか、自由な身になりまして、非常に心境が変わってきております。まさにイエス・キリストのような気持ちになっておると言ってもいいだろうと思います。二時間近い私との話の中で、私はもうだれも恨まない、特に日本の政府に対しては、あのとき自分が命を絶たれようとしたときに、鈴木総理が、伊東外務大臣が強い要請をしてくださった、そういうことに対しても非常に感謝をしておるということを言いました。また、朴大統領がみずから命令をしてこの拉致事件を起こしたということに対しても、もう亡くなってしまった人に対して自分は恨みつらみを言うような気持ちはない。ただ一つ問題は、まだこの問題は決着してないんじゃなかろうか、政治的には決着をしておるけれども、その点に関して筋を通してもらいたいということを彼は強く私に個人的に訴えておりました。
 それはそれといたしまして、私は、最後に総理にお願いをしておきたいと思うのでありますが、日韓関係というこの両国の間、近くて遠い国、これまでいろいろな歴史がございましたけれども、その中でいまほど両国の良好な関係はないと言ってもいいだろうと思う。それは、あなたがそれを達成されたと申し上げても過言でないかもわかりません。私はただ、日本の国民、韓国の多くの国民の中にあります感情としては、あの事件はこれまでの両国の政治決着という形では少し問題があるんじゃなかろうか、やはり少し軌道を修正し、その辺のけじめをつけるべきではなかろうか、私はそういう気持ちがあるだろうと思います。
 私は、そういう意味で、具体的にはいろいろな考え方も持っておりますけれども、この際、過去のいろいろな問題にとらわれずに虚心坦懐に、ある意味においては正々堂々と全大統領と話し合いをされて、金大中氏もそういう心境になっておるのですから、この両国の大きな問題についてけじめをつけられるのがいいんじゃないか、私はそのように思いますので、この点につきまして、もし御所見がありましたらお伺いをしておきたいと思います。
#85
○中曽根内閣総理大臣 金大中氏にお会いになりまして、直接の御心境をお聞きしまして、いまここでお伝えいただきまして感謝いたす次第でございますが、石井議員の御意見は一つの貴重な御意見として拝聴いたすことにいたしておきます。
#86
○石井委員 時間がやってまいりました。
 私は、レフチェンコ問題、そうして今後の政府の厳しい対応、国家の基本にかかわる重要な問題について、この予算委員会を発端にして、国民が納得する政府の対応をお願いいたします。
 それからまた、法務大臣にもいろいろむずかしい、微妙な問題をお伺いいたしましたが、法務大臣の見識においてこの問題を、この場で何となくごまかした、何となく答弁が終わった、こういうお考えでなくて、これはあなただけが永遠の法務大臣じゃありません。われわれ国会から法務大臣が出ていって、これに対して正当に法的にこれをチェックし、コントロールするという機能がなくなったらどうなるのですか。この問題についても問題の提起をいたしておきたいと思います。
 議員の辞職勧告決議案につきましては、私は、それなりの法的手続をとり、後世の人々が、感情的に走ったんだなとかあるいは何とヒステリックな行為なのかなということの批判のないようにしていきたい、国会の権威においてやりたいということをお訴えしたいと思います。
 そうして最後に、金大中氏の問題に対しまして、同じように筋を通した解決を強く求めて、私の本日の質問を終わります。
#87
○久野委員長 これにて橋本君、石井君の質疑は終了いたしました。
 次に、大出俊君。
#88
○大出委員 初めに、いま石井さんからお話がございましたが、後藤田さんが、たしか警察庁長官でございましたかね、私も、CIAの国内の活動等につきまして七点ばかり、これはCIA、KGBのぶつかり合いとか、いろいろな事件がございました。田園調布にお住まいになっておりましたローランツ夫妻という方は、香港を出まして、出た記録はございますけれども、羽田に入管の手続がないままに行方不明になった事件などもありまして、自衛隊にかかわるものもございました。これはエージェントの松本さんという方も出てきまして、最後の決着に私も困りまして、ソビエトとアメリカ、両方の諜報機関がかみ合っておりますから、警察庁長官の御出席を求めて、決着をつけたことがございます。御記憶だと思いますがね。
 ですから、この種のものは、主権国家日本でございますから、いかなる国のこの種の活動もあってはならぬことだと私は基本的に思っているわけでありまして、あのときの現職長官の御発言、後藤田さんの御発言もありまして、今後はその種のものはきちっとそういうことのないように処理するという議事録が残っておりますが、きょうは官房長官でございますので、いずれの国のものであっても、そういうことがあってはならない、この点をひとつぜひ、しかと心におとめいただきたい、こう思うわけであります。
 かつまた、お互いに天下の公党でございますから、よほどのものがございませんと、不用意に特定の政党の名前を挙げるということは気をつけなければいけないだろうというふうに思って、私もよくこの種のことを取り上げることがありますので、いつもそう思っておりますけれども、ぜひその点は御配慮いただきまして、予算の理事会等もございますから、委員長さんにもひとつお願いをして、しかるべき意見があれば話し合いをしておいていただきたい、お願いをしておく次第でございます。
 そこで、新聞に発表されました、アメリカの国防報告なり軍事情勢報告なりというものがございます。気になる点がございますから、これは一つだけ冒頭に申し上げますが、兵器の共同開発というのが、きわめて端的な表現でこの中に、原文を読んでおりませんからわかりませんけれども、載せられておりまして、きのうの質問等と絡みまして、大変気になるわけでありますが、中曽根さんがアメリカにおいでになって、あるいは外務大臣初め皆さんがおいでになって、この共同開発という方は一体どういうことになったわけでございましょうか。決着がつかぬままに、三原則によらないことにするというのがあって、国会決議の関係でもめておりますが、それはそれとして、ここで言う共同開発、これはアメリカとの間では何か話が出たんですか。日本が受け入れたがごとく書いてありますが、いかがでございましょうか。
#89
○安倍国務大臣 アメリカにおける首脳会談、また、私もシュルツ長官との会談を行ったわけでありますが、武器技術の供与の問題につきましては、これは総理から、日本が決めました基本的な方針を簡単に伝えられただけでありまして、その内容をどうする、こうするというふうな問題については一切出ておりません。
#90
○大出委員 ここには、「軍事技術交流から一歩進めた、武器の共同研究開発への協力関係の確立を」云々と、こうなっておりますね。いまの外務大臣のお話からいたしますと、ここに一つ問題が残ります。四十一年に、各紙がお書きになりました、共同開発に関する、これは日米というのが上についておりますが、覚書というのがございます。これが一昨年大変問題になりまして、私も再三質問をしたわけでありますが、その決着はどういうことになっているかといいますと、この覚書をどうしても出してくれ、関連取り決めも出してくれ、再三私、お願いをいたしましたが、皆さんは何とかそれは御勘弁を願いたい、こう言う。それじゃ中身いかんによっては大変なことになるんだということで詰めましたら、結論は、武器技術というものについて、この輸出は三原則、統一方針に基づいてできないんだから、武器技術の輸出ができないというその点で共同開発もできないということになるんだから、そこでひとつとどめていただけぬかというお話に実はなっているわけであります。しかし、これがアメリカ側が共同開発までと受け取っているんだとすれば、私はこれは大変なことでございますので、四十一年の日本とアメリカ両方でこしらえました共同開発に関する覚書、当時新覚書と言われておりますが、これをお出しいただかなければならぬことになるのですが、いまの御答弁以上に何もございませんですか。念のためにもう一遍承っておきます。
#91
○安倍国務大臣 今回の首脳会談におきましては、武器技術の供与といいますか相互交流、これは武器輸出三原則によらないこととするという決定を政府がした、こういうことを簡単に述べただけでありまして、それ以外のことは何もありません。
#92
○大出委員 この問題をもう一歩踏み込みますとまた進行にいろいろ支障がまいりますから、両理事の私に対する御命令もございますから、きょうのところはひとつこの点は先に譲らしていただきまして、中身に入らずにおきます。
 さて、次の問題でございますが、中曽根さんがアメリカにおいでになりまして、大変どうもにぎやかな騒ぎが起こりまして――にぎやかという言い方が不穏当かもしれませんけれども、まあアメリカの戦略がわからぬわけではないし、皆さんの考えがわからぬわけではないけれども、まさに開戦前夜の様相と言った人があり、書いた人がいますけれども、どうもいきなり、あっと言う間に一億余の日本人が戦闘要員になっちゃったりしましてね。航空母艦というものは、海軍でいらっしゃるからよくおわかりでしょうが、乗っている者は全部戦闘員でございましてね。日本列島を航空母艦にしちゃいますと、乗っかっている者は全部戦闘員ですから、一億何千万かの国民一人残らずこれ戦闘員になった。これは驚くのはあたりまえであります。あなたは海軍の大尉殿かどうか、私詳しくは知りませんが、私は陸軍の少尉殿でございますが、海のことはわかりません。もっとも陸軍の方は主計とか経理とかいうのは兵隊じゃないことになっておりましたけれども。
 どうも最近の新聞を見ますと、主婦の方が投書を新聞にされておるんですね。いろいろな新聞に載っておる。びっくりして、これは子供を持っていかれるんじゃないかとか、それだけはやめてくれなんて年配の方が、御年齢も書いてありますが、新聞の投書欄に載っている。そうしたら、外務省の方は今度、日本の国民はもっと冷静になんて――冷静にと、外務省勝手なことを言うなという気がしましてね。そんなことを言えば、事を起こしたのはだれだ。何もわれわれが起こしたんでも国民が起こしたんでもないんだが、この騒ぎが起こって世の中大騒ぎをしたら、冷静に。そんなら初めからそんな騒ぎを起こしなさんなと、こういうことになるのですが、総理、御心境はいかがでございますか。
#93
○中曽根内閣総理大臣 あの言葉は、国会でも申し上げましたように、一つの比喩であり形容詞である。昔、ハリネズミという言葉が出ましたが、じゃ日本人をネズミにするのか、同じ論理で言えばそういうふうに言われるわけで、つまり、一つの形容詞である、そういうふうにお考え願いたいと思うのです。
#94
○大出委員 これは決して私は言論の府で冗談を申し上げたいのじゃないのであります。
 それじゃ、もう一つ承っておきますが、海軍のお立場で、日本の旧帝国海軍の時代の航空母艦というのは何隻ぐらいございましたですかね。それで、浮いていたものはございますか。つまり、不沈空母というものはありましたですかね。私の調べております限りでは、どうも一隻も不沈空母はなかった、全部沈んでしまったことになっていると思っているのでありますが、ただ、私は海軍じゃございませんので、海軍御出身の総理にひとつその点を承っておきたいのです。いかがでございますか。
#95
○中曽根内閣総理大臣 軍事的知識は、先生の方が私より深いんではないかと思っております。
#96
○大出委員 私は、根拠なしにというのは嫌いでございまして、ここに私がかつて読んだ記憶がございましたのであげてみましたら、実は日本の帝国海軍、まさに世界に冠たる帝国海軍は、開戦のときに十隻空母を持っておりました。この十隻の中に「赤城」があるわけですね。「蒼龍」とか「飛龍」とか「加賀」とか、あのとき四隻ございましたけれどもね。で、十隻で始めまして、途中で十七隻を加えた。ただ、その後の二隻は軍艦の後ろの方に飛行機が発着できる甲板をくっつけただけですから外しますと、合計二十五隻あったわけです。ところが、この二十五隻、名前も全部ここにありますけれども、実は不沈空母は一隻もない。いとも頼りなく簡単に全部沈んでしまった。
 そこで、念のためにちょっとここで申し上げておきますと、日本は開戦時に十隻の空母を保有していた。このうち六隻が一九四二年の諸海戦で撃沈された。日本は戦時中の新造や、他の艦船の改装により、十七隻の空母(内五隻は護衛空母)を加えた。改装のうち一隻「信濃」は「大和」級戦艦の船体を改装したものである。ところが、これが一九四四年の二回の大海戦において、日本海軍は何らの見るべき戦果も収めずにむざむざと七隻の空母を失った。戦果なしで七隻の空母が続いて沈んだ。戦果全くないですね。さらに七隻、名前も書いてありますが、さらに七隻の空母が、本土付近の水域で潜水艦と空母機の攻撃によって沈められた。日本の空母は一隻残らず米空母機か潜水艦のために撃沈されたが、例外として、そのうち一隻「赤城」だけが空母機により徹底的に損害を与えられた後、水上艦、友軍の駆逐艦によりとどめを刺された。かくてここに不沈空母「赤城」かく戦えり、「亦城」の最期とくる。これは皆さんのところの、私の大先輩源田さんがここにお書きになっている。ついに一隻残らず、最後の一隻は僚艦が撃沈した。
 こういうことになりますと、どうも不沈空母とうっかり言っていただいたのだが、一体、不沈空母というものは日本にあったとお考えでおっしゃったのかどうか。私は、戦い敗れても山河は残りましょうけれども、そっちの方を向いて走った場合に、日本という国、国土は焦土と化したというのでは、これは政治の責任を果たし得ないという前提に立ちたいと思っている。だから申し上げたのですが、いま私が例に挙げたのは間違いございますか。
#97
○中曽根内閣総理大臣 私があの言葉を使いましたのは、もし万一、日本に対して侵略があった場合には外国機の侵入も許さぬ、また本土は自分たちで守る、わが日本の国土は日本人が守る、そういう意味のことを自分の決意としてこれを述べたので、不沈空母という言葉は、たまたまそういう形容詞、比喩として用いたのであります。いわば幻の不沈空母を追っかけても余りせんがないので、やはり本質的なお話をぜひお願いいたしたいと思っております。
#98
○大出委員 その幻で日本国民に大変な不安を与えたという責任を、私は正面から申し上げても仕方がないから、おわかりをいただけるだろうと思って申し上げたので、決して冗談やいいかげんで言っているのじゃないのです。
 そこで、ひとつ承りたいのですが、言ったと新聞にたくさん載った。ところが、さらに新聞を読みますというと、そんなことは言っていなかったと否定をされた。そのうちに、帰りの飛行機の中で記者席に、夜中大分遅い時間のようでございますが、わざわざ総理がおいでになって、いや実はうっかりミスだ、実はポストにはそう言った、こういうふうに経過が明らかなんであります。
 私は、総理の言動に対する信頼性ということにかかわりますので、二、三これは確かめておきたい。
 内外記者会見で、質問の意味の取り違えとおっしゃって、それはうっかりしたと言う。ところが、どうも私が調べてみると、記者会見内容を詳細に調べた結果として、余り勘違いの余地がないように思う、勘違いを生ずる余地がないように思う。はっきりしている。なぜ一体、これはミスとおっしゃったのですか。あなたは防衛問題逃げないとおっしゃっているのだから、本音なら本音とおっしゃっていただいた方が明らかになるのですが、いかがでございましょうか。
#99
○中曽根内閣総理大臣 あのとき、邦人の皆さんの記者会見をいたしましたが、レーガン会談の話で大体流れておったものですから、レーガンさんとの話ではそういう話は私はしなかった、そういうふうに申し上げたのですが、しかし、後でいろいろ状況を聞いてみますと、それはそうでないという話でありましたから、それは、もしミスリードしたら申しわけありませんでしたから、直したわけでございます。
#100
○大出委員 そうすると、いまお話が出ましたが、レーガンさんとの会談では、飛行機の話も何か、しなかったとおっしゃるのですけれども、じゃソビエトのバックファイアの話は、レーガンさんとの会談ではしなかったとおっしゃるのですか。
#101
○中曽根内閣総理大臣 いたしません。
#102
○大出委員 まあいいでしょう。いまは聞いておきましょう。
 もう少し先からにしましょうか。
 ワシントン・ポストはテープに録音してある、こう言っているんですね。そうして、トランスクリプト、つまり記録をとってあるとも、こう言っているわけですね。つまりテープを起こして記録にした。だから、それが両方ともある。日本の方も相当多数の外務省の方がお出かけのようで、日本の方もテープをとっていると言うんですね、向こう側に言わせれば。私は、ある私の知り合いを通じて聞いてもらったのですけれども、ちゃんとあると言うんですね。ということになると、テープがあったのがわかって、あるいはトランスクリプトがあるのがわかって、中曽根さん、これはいかぬというのであわてて取り消されたのじゃないか、実は言ったのだというふうに変えたのじゃないかという気もするのですが、そうじゃないんですか、本当のところは。
#103
○中曽根内閣総理大臣 ワシントン・ポストの会食は、グラハムさんという女性の社主の自邸で行われまして、そして丸い大きなテーブルに朝飯の食卓ができておりまして、それでワシントン・ポストの優秀な部長さんとか編集長さんがおいでになって、私の目の前にテープレコーダーは二、三台あったと思って、ちゃんと私、それを知っていながらやったので、そういうことでございます。
#104
○大出委員 さて、もう一つここに矛盾があるのですけれども、ポスト紙の報道と、日本側の同行した方々の背景説明がここにありますが、それはどうやら一応筋が通る。しかし、レーガン会見では、やれ海峡防衛云々だとか、ソビエトのバックファイアだというような防衛構想には言及していない、こう総理あるいは同行筋は言った、こう言うんですね、強調したと。ところが、ワシントン・ポスト側がアメリカの、つまり高官ですな、アメリカの当局者、こちらに当たっていくと、首脳会談で、ちょうどポスト紙にお話しになったような、やれバックファイアだというようなことあるいは海峡のこと等々をお話しになったということをアメリカの当局の側は認めている、そう書いてある。また、いろいろとやってみるとそういうことのようであります。
 外務省の方も二十一日になって、どうやらそういうことのようである、つまり、バックファイアというところは別なところにありますが、どうもノーコメントと言っているんですね。総理はいま否定なされました。外務省は海峡問題の話はしたと。アメリカの方は、まず十九日、首脳会談の中で、首相がワシントン・ポスト紙のインタビューに答えたと同様に、バックファイアや海峡封鎖に言及していることを認めている。同行筋は、つまり外務省の方は、少なくとも首脳会談ではそうした発言はなかったと否定した。首相も否定した。中曽根さんは否定した。しかし、この日の外務省筋の発言は、実はこれを裏返すことになった。覆すことになった。バックファイアについては外務省はノーコメントと述べた。しかし、この部分についてもノーコメントと言うんだから、否定をしないのだから、言ったのではないか。
 さて、そこで一つ念のために承りたいのですけれども、ワシントン・ポストに対して抗議をしろというお話が出てまいりましたね。この抗議はしたのですか、しないのですか。
#105
○中曽根内閣総理大臣 正確に申し上げますが、私は本会議かあるいは委員会でも申し上げたと思いますが、レーガンさんとの会談では海峡防衛の話はした、それはコントロールという言葉を使った、そう申し上げておる。で、バックファイアの話はしなかった。これははっきりしたことであります。
 それから、抗議したとかしないとかということは、私は存じません。外務省はどういう態度をとったか……。しかし、事実は事実として明らかにする必要はあると思いましたから、そのように申し上げたわけでございます。
#106
○大出委員 私は、これも意味があるから質問しているので、むだな質問しているつもりはないのであります。しかし、これだけ騒ぎになった。なぜ一体総理はこういうふうに変わってきたのだろうか、だれしも疑問に思いますよ、私も。総理の発言の信頼性という問題も絡みます。
 そこで外務省、私が調べて、かつ、新聞にもありますが、調べた限りで言うと、外務省は逆にワシントン・ポストに対して釈明をしているのじゃないですか、抗議じゃなくて。私のところへ入った話によると、ドン・オーバードーファーなるインタビューをなさった記者にある人が当たったようでありますけれども、抗議はもらってない。で、二十一日に――皆さんは十八日ですね、ポストは十九日の新聞に書いてある。ポスト紙の信用性、名誉を傷つけ迷惑をかけたという趣旨の釈明を日本側大使館を通じてでございましょうが、口頭で行った。後から文書で釈明をする、こういうことだった。こういうわけでございますが、外務省、いかがでございますか。これも違うのですか。
#107
○北村(汎)政府委員 お答え申し上げます。
 ワシントン・ポストの会見のときに、総理が海峡問題のところで、いざという場合ということをおっしゃいました。これは有事のことを指されて、そして、いざという場合には海峡を防衛するということをおっしゃった。ところが、これは通訳の手違いでそこが落ちておりまして、そこで私どもは、そういうことを、直後でございましたから、いざということを総理はおっしゃったけれども、ワシントン・ポストの方には出てないので、これはワシントン・ポストの方にはっきりと言うべきである、こういうことを言っておりましたのですが、後刻ワシントン・ポストの方から、これは通訳のあれであったので、事実総理はいざという場合のことを言われたということを言っておりましたので、そこで特別にこれを取り上げて抗議をするということはいたさなかった次第でございます。(大出委員「釈明はどうなんですか」と呼ぶ)
 釈明の点は、これは私どもは聞いておりませんけれども、とにかく総理が、四海峡というところは三海峡のつもりであったということを言われたことについて、それはワシントン・ポスト側にワシントン大使館から説明したということは聞いております。
#108
○大出委員 私もいいかげんに調べたのじゃないんですよ。これは調べればわかること。あなた方だって調べればすぐわかることです、出先じゃないですか。私はいいかげんなことを言っているのじゃないんです。なぜここに私が固執するかというと、後の問題と絡むから実は申し上げているわけであります。いまの問題は、それでは少しおいておくことにいたします。
 さてそこで、このワシントン・ポストの記事を総理はお読みでございましょう。いかがでございますか、読んでおられますか。
#109
○中曽根内閣総理大臣 あのころは非常に忙しくて、四時間ぐらいしか寝てなかったので、その朝は読んでおりません。後でゆっくり読みました。
#110
○大出委員 それでは、英語のよくおわかりになる総理のことでございますから、このワシントン・ポストの記事について、私は総理ほど別に英語が堪能なわけではございませんが、読んでみまして、どうも私自身も大変に驚いたものですから、いいかげんな訳を私がやりますとまた、かつてちょっと違いはせぬかというお話が外務省からありましたが、したがって実は気をつけてその道の確たる専門の方にそれなりの方法で訳していただきました。だから、ここに原文もございますし、それから訳をつけましたものが全部ございます。
 ワシントン・ポストの方は十二面ですね、ここにいまの、バックファイア問題その他載っておりまして、それからもう一つ、別な面にオーバードーファー氏の署名入りの記事がございまして、そしてもう一つ、日本の指導者が、リーダーが、バックス・ワイター・ディフェンス・ロール、つまり非常に幅の広い防衛問題について話した、こういうふうに説明をしております。この中に、これはお読みになったらおわかりですが、一番最後のところにきちっとやはり物をまとめて書いておいでになります。これもそれなりに私は確かめております。
 そこで、いいかげんなやりとりは困るので、はっきりひとつ――というのは、将来、一つ間違うと鈴木さんの例もある。昨年の五月の八日に鈴木・レーガン会談が行われまして、翌日の九日にナショナル・プレス・クラブで、日本の庭先だから一千海里のシーレーンというのは自分で守っていきたいということを言った。それがずっと引き続き、公約、公約、公約ということです。私がアメリカに行ったときに聞いたら、やはり公約だと言う、向こうは。そうすると、今度のポストのこれは明らかに、アメリカ側にとってみればアメリカ国民全部見てるわけです、公約であることになる、紛れもなく。しかも、レーガンさんに何を言ったか、立ち会ったわけじゃありませんからわかりませんが、ポストは、レーガン氏とこういうことを言ったということまで書いてある。そのままに見捨てるわけにはいかない、われわれ日本の総理がおいでになったのですから。そういう意味で、まず質問をしているのですね。
 これは間違いのない訳でございまして、その方は、余り引き合いに出したくないから、官職にございますから、この席では申し上げませんが、まずオーバードーファー氏の質問は、「あなたの前任者である鈴木善幸氏が一九八一年五月、当地を訪れたとき」つまり、ワシントンに行ったときですね。「防衛について次のように述べています。日本は憲法によって大幅に制約されており、したがって、別の役割りを果たすために」、別の役割りというのは、聞いてみますと、防衛をもっと拡大をするために、「別の役割りを果たすために憲法を改正することは、ほとんど期待できない。日本は本土」ここにホームアイランズというふうに括弧して入っておりますが、「本土及び一千マイルまでのシーレーンの防衛に努めたいと言っていますが、あなたの御見解はいかがなものでしょうか。」というのが第一問ですね、このポストによりますと。鈴木さんは、憲法の制約があって、憲法改正はほとんど期待できない、だから防衛費をもっと上げるあるいは集団防衛というふうなことになるについて憲法改正することはできない、だから、みずからの庭はみずからで守るという意味のことを言っているのですね。「一千マイルまでのシーレーンの防衛に努めたい」こう言う、中曽根さんはどうですか、こういう質問。
 中曽根さんは答えて、「まず申し上げたいのは、憲法問題は、非常にデリケートな問題であり、いわば、非常に長期的な日程として考えております。」この表現は、憲法はなかなか改正できないというんじゃないですね。「非常にデリケートな問題であり、いわば、非常に長期的な日程として考えております。」つまり、レーガンさんにも言ったのではないかという疑いまで僕は持たざるを得ぬのですよ。いま憲法改正すると言ったら、ちょっと骨が折れる。しかし私は、本来憲法改正論をお述べになった中曽根さんですから、長期的な、つまり、この日程で憲法改正を考えております。考えております、こういうことになるのですから、この原文を見ても。そうでしょう。
 そうすると、鈴木さんが言ったのは憲法九条なんですよ。ここで中曽根さんが言っているのもやはり憲法九条なんです。なぜかといいますと、あなたの持論がその次に出てまいります。「憲法改正について語り、あるいは憲法を批判することはタブーと考えられてきました。民主主義の社会では、そのようなタブーはあるべきではないというのが私の信念であります。」あなたの持論。そして「私は、かつて防衛庁長官を務めたことがあり、日本の防衛については、自分自身の考えを持っております。」マイ・オウン・ビューとあるから間違いない。あなた自身の考えと言っておられる。「自分自身の考えを持っております。私の防衛についての見解は、全日本列島」、アーキペラゴーを使っていますが、その後にアイランズを使って、すなわち「日本の島々」というのでしょう。要するに、日本列島と言っていいのでしょう。「全日本列島あるいは日本の島々が、ソ連のバックファイア爆撃機の侵入に対する巨大なとりでとなる不沈空母のようなものであるべきだということであります。」これがまず第一だという。この辺は、これはおっしゃったのでしょう。
#111
○中曽根内閣総理大臣 憲法問題はデリケートな問題である、それは言いましたね。しかし、この問題の扱いというのは非常に長期を要する。憲法問題、憲法改正というふうに私は直接はクォートはしておらない。これは、ここでも申し上げましたように、明治十四年の政変ということが私にはいつも頭にあって、そして長期的なプログラムのもとに国民的合意を形成する努力をしている。憲法問題で国が二つに割れるということは幸せでない。そういう意味で、明治十四年の政変が起きたときに長期計画をつくって与野党合意して、そして日本は太政官制度をやめ、内閣制度に入り、二十二年に憲法をつくり、二十三年から議会政治を始めた。あれは国民的コンセンサスを与野党でつくったから、平穏に日本は前進することができた。今日の問題についても、そういう努力を私たちは考うべきである。そういう考えが基本にありまして、長期的なプログラムというように申し上げたのが第一点。
 それから第二点は、簡単に申し上げれば、もし万一侵入、侵略というようなことが行われる場合には、いわば航空母艦、不沈空母のように外国の侵入は許さない。防空力も強化して、そしてバックファイアあるいは、バジャーというような外国の飛行機の侵入を許さない。そしてまた、列島防衛の一環として海峡のコントロールもやる。それから、海については周辺数百海里、もし万一航路帯を設ける場合には南西と南東の二航路帯、こういうことを申し上げたのです。
 それから、たしか別の場所では、同じ朝飯会の中で、やはり憲法を守り、そして非核三原則で専守防衛でやるんだというようなことを言ったような気がいたしております。
#112
○大出委員 余り用心してお答えにならぬでも、きょうはそういうことになっておりますので。
 自分自身の考えを持っている。「全日本列島あるいは日本の島々が、ソ連のバックファイア爆撃機の侵入に対する巨大なとりで」、巨大なとりでと、こう言っておられますね。この表現も、通訳どういうことでおやりになったかわかりませんが、これはトリメンダスと言っているのですね。トリメンダスなブルワーク。トリメソダスというのは、これはだれでもどこかで英語をやってきた人間だからわかるのですけれども、身ぶるいするような、こんなべらぼうな、おっかないというわけですな。そういうブルワーク、この訳はとりでと訳しています。これは防壁という意味もありますが、新聞を見ますというと、とりでと訳しているのが幾つもあったり、塁壁と訳しているのがあったりしますけれども、これは日本列島をそれこそふるえ上がるような巨大な、べらぼうに大きなとりでにする、そういう不沈空母のようなものであるべきだ、そうして「この壁を通してバックファイアを侵入させないことが私たちの最初の目標であるべきであります。」最初の目標、これが第一。だから、バックファイアはもう人れないというわけですね。
 「第二の目標は、ソ連の潜水艦が通過したり、また、その他の海軍の活動がなされないように」、これはソビエトの極東艦隊が何隻、何トンあるか、私は現在は知りませんが、過去の調べによりますと大変な水上艦艇の数であり、潜水艦の数なんですけれども、「日本の島々を貫流する四つの海峡を完全かつ十分にコントロールすることでなければなりません。」コントロールという言葉はシーレーンにも関連いたしておりまして、シーコントロールという言葉はアメリカの軍事文書によく出てまいります。防衛庁に言わせますと、一番最初に衆議院の委員会でシーレーンという言葉を使ったのは大出さん、あなただと指摘をいただきましたが、これは中曽根さんが、四十五年の二月でございましたかね、防衛庁長官におなりになった佐藤内閣のときでございますが、アメリカに行ってお帰りになったころの中曽根防衛庁長官と私の議論などが実はあるのであります。つまり、この貫流する四峡海、これを「完全かつ十分にコントロール」、シーコントロールというのは制海権のことでございますから、まさにこれは、全くもって万全に四海峡をソビエトの潜水艦も水上艦艇も一切通さない、活動させない、こういうようなことですね。
 「第三の目標は、海上のコミュニケーションラインを確保して維持することであります。海上については、われわれの防衛は数百マイルまで延ばすべきであり、もし、われわれがシーレーンを確立すべきであるならば、われわれの希望はグアムと東京間、台湾海峡と大阪間」と、こう言っているんですが、私は、いままで余り台湾海峡というような名称が出てきた防衛庁の御答弁を聞いたことがないんですよ。なぜならば、台湾海峡と固有名詞をぴたり使いますと、台湾にはやはり台湾の、中国の一部だといいながら、一つの政権がある。そこには、その政権が主張する領海もある。日本でもADIZという防空識別圏があるのと同じ意味の識別圏もある。そこで競合してしまう。そういうことになると、これは一体どういうことになるのだという問題が出てくる。日本は専守防衛の国のはずであります。
 これなども大変に問題でありますが、まずもって私が承りたいのは、トリメンダスなブルワーク、こんなべらぼうな、日本列島を防壁、とりで――とりでとなるとこれはまた別な意味もありまして、辞林を引いてみますと、とりでという言葉は昔、本城を離れて築く小さな城、日本がとりで、城ならば本城がなければならぬが、じゃ本城はアメリカかということになるので穏やかでないのですけれども、それはそれとして、一体こんなことができるとあなたはお思いなんですか。現状の防衛力、そして持っておる目標、それに照らして一体どういうことになるのですか。
#113
○中曽根内閣総理大臣 まず、海峡防衛の問題は、日本列島防衛、もし万一外国が侵略してくるという場合には、日本列島防衛の一環として海峡防衛をやる、そういうことで申し上げまして、そして、いまのようなコントロールという言葉を使いました。コントロールという言葉は微妙な言葉で、支配力とか、そういうようなものの意味ではないかと思うのですね。それで、それはいま申し上げたようなわけで使いました。これはもし侵略があった場合のその話であります。侵略もないのに第三国のために海峡をコントロールするということは、もちろん考えてはおらない。これは大事な点でありますから注意してその点は言ったわけです。日本がやられた場合にわれわれの国を守る一環として海峡をやるんだ、コントロールするんだ、そういう意味で申し上げたわけです。
 それから、台湾海峡方面、もし航路帯を設けるという場合には台湾海峡及びグアム、これは方面、方向を示した言葉です。あるいはバシー海峡と言ったり台湾海峡と言ったりしております。その場合の台湾というのは、地域の意味であります。その方面、こちらの方面。しかし、行ってもせいぜいそこまでですよ、つまりマラッカ海峡には行かないんです、そういう意味において、日本のもし万一シーレーンを設ける場合の長さというものを示しておきたい、それから方向を示しておく、そういう意味ですね。それから、グアムというのも、これは方面であります。これは南東方面及び南西方面、二つの方面を示した、そういうふうにお考え願いたいと思うのであります。
#114
○大出委員 それぞれ問題ありますが、たとえば四海峡と三海峡は違うのでありまして、これも問題がありますが、まずもって、このバックファイアの侵入を許さず。オーバーフライトをしてくるというふうに片っ方の方に書いてありますけれども、そういうものは一切入れないんだと、こう言う。飛んでくるんですから、入れないことにするのなら、落とすよりしようがないわけですね。こちら側にそれだけの正面装備がなきゃいかぬことになる。
 そうすると、防衛庁に承りますが、いま極東ソビエト軍の飛行機というのはどのくらいございますか。私が前に調べたのは二千百機ぐらいですけれども、バックファイア、バジャーその他どのくらい、戦闘機、作戦機は何機ぐらいありますか。
#115
○谷川国務大臣 ただいま先生のおっしゃられたように、全体の機数はほぼ二千百二十機ないし三十機ぐらいだと思いますが、機種についての細かい問題については政府委員から答弁をいたさせます。
#116
○新井政府委員 お答えいたします。
 極東ソ連軍に配備されている飛行機は約二千百二十機、そのうち戦闘機が千五百五十、爆撃機が四百五十、その他が哨戒機等でございます。
#117
○大出委員 戦闘機が千五日五十機もあって、四百五十機も……。
 ところで、もう一つ承りますがバックファイアと名が出ているから聞きますが、バックファイアというのはいまAS4を積んでいるのだと思いますけれども、AS6だと射程がうんと長くて六百キロぐらいありますが、AS4なら三百何十キロかになるのだろうと思うのでありますが、何機ぐらいあって、どんな装備をしているんですか。核ミサイルを積んでいるんですか。何機ぐらいありますか。
#118
○夏目政府委員 現在、極東に所在すると思われるバックファイアの数は、七十磯前後だというふうに聞いております。
 なお、装備につきましては、通常AS4、いわゆるミサイルを積んでいるというふうにわれわれ承知しております。(大出委員「AS4の性能もついでに言ってください」と呼ぶ)AS4は、大体長さが約十二メーター近くのものでございまして、速度は二マッハ以上、射程が三百から八百キロぐらいというふうに聞いております。
#119
○大出委員 核の搭載はできますか。
#120
○夏目政府委員 核、非核両用というふうに聞いております。
#121
○大出委員 そうしますと、いま総理お聞きのようなことなんだが、バックファイアは一機か二機でのろのろやってきますか。のろのろといっても、マッハ二近くありますから速いんだけれども、いざというときとおっしゃるんだが、どういういざというときでございますかね。これはわが国の方針もございますが、どういうことを想定しておいでになるのですか。いざというときは、想定があるはずですね。
#122
○中曽根内閣総理大臣 要するに侵略があった場合です。しかし、そういう場合には日米安保条約が発動されて、そして米軍と一緒になって共同でわが日本列島を守る、そういうことが出てくるので、自衛隊だけで単独で独力で守るというものではございません。
#123
○大出委員 この「防衛計画の大綱」、これができるときは、基盤防衛力構想が出てまいりまして「防衛計画の大綱」が決められまして、これは限定小規模と限られているんです。これは飛んでなくなったんじゃない。国防会費が決めて、閣議で決定した。限定小規模の戦闘、専守防衛の上に立ってそうなっているわけじゃないですか。
 あなたは、集団防衛をお考えになってない、いざというときと、こう言っている。そうなると、あなたの構想でいくと、すぐアメリカが飛んでくるんじゃないんだ。そうすると、これらの飛行機が来たときに、これはアメリカのことは何も触れないのですから、日本をバックファイアに通過させない、あるいは飛来させない、そういうびっくりするほど巨大な不沈空母のようなもの、とりでにしようというのですから、そうなると日本列島要塞化ですな。そんなものは一機も入れないというわけだ。飛んでくるのだから、落とさなければ入ってきちゃうのだから。そういうことになると、これは一体どのくらいの兵力をあなたはお考えになっているのですか、いかがでございますか。
#124
○中曽根内閣総理大臣 大出さんのお考えの基礎には、日本は自分で自分を守れないんだ、あるいは守らなくてもいいのだ、そういう非武装中立論のお考えが根底にあると思うのです。しかし、われわれは、日本は自分で守らなければならぬ、そういう基本的考え方を持っておって、そのために必要最小限の自衛力を整備しよう、足りない場合はアメリカと連携して日米安全保障条約を有効に機能させよう、そのために基地も提供しておるし、あるいはアメリカからもF15とかあるいは将来は三沢にF16を展開させる、そういうような、日本列島防衛に十全なように機能させるようにわれわれは安保条約を運用し適用していく、こういう考えに立っているわけであります。
#125
○大出委員 総理、勘違いしたり間違っては困るのですよ。私は、何もいま非武装中立論を述べているのじゃないので、質問をしているわけでございまして、総理、私の豊橋第一予備士官学校の同期は群馬県高崎の連隊から出てまいりまして、私もあなたのふるさと群馬県高崎連隊ですから、ほとんど死んでしまっているわけですから、また日本が廃墟になるなどということは何が間違ってもさせたくないという気持ちを持っておりますから、その限りでは同じでしょう。だから、やはりまともに答えてくれなければ、そう答弁をはぐらかしちゃいけません。
 日本には、国防会議も決め、閣議でも決め、国会で、衆議院で議論してこうだとなっている方針があるじゃないですか。ここにございますけれども、「防衛計画の大綱」というのがございまして、「目的及び趣旨」から始まりまして書いてある。「限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処し得るものを目標とすることが最も適当」である。それが総理が守らなければならない、今日これは批判があっても、なくなったわけじゃないじゃないですか。「防衛計画の大綱」を守らないということになるとすれば、総理は一体どういう責任をおとりになるのです。そうでしょう。
 つまり、ここで言っておられる総理の発言は、私の見解と言っておられるのですよ。あなたは衆議院のこの席では、憲法なんかになりましても、総理大臣になったんだから私の見解は一切申し上げないと、こう言う。アメリカに行ったら、今度はいきなり私の見解、昔防衛庁長官をやったのだ、私の見解、私の見解と言って、ここまで言われれば、これは日本列島を大変なことにしなければバックファイアは防げやしません。そうでしょう。
 だから、日本の装備というものは「限定的かつ小規模な」ということになっている。それが「防衛計画の大綱」なんです。これを逸脱するとすれば、今日の総理の立場からいってこれは守らなければいかぬのですから、そういう意味で防衛庁に承りたいのですが、この「防衛計画の大綱」は死んだわけじゃないでしょう。目標は一体どういうふうにお考えになっておられるのですか、ちょっと答えてください。
#126
○中曽根内閣総理大臣 「防衛計画の大綱」はできるだけ早期に達成すると私かねがね申し上げて、この席でも申し上げた、そういうことになっております。
#127
○大出委員 そうしますと、ここに「防衛計画の大綱」、五六中業というものもございますけれども、一体この五六中業――現在と、五六中業は本年入れて五年先になりますか、作戦機は何機になりますか、海は一体何トンを考えておられますか、隻数とトン数をこの際明らかにしておいてください。
#128
○夏目政府委員 現在、五六中業によりまして、大綱の水準を達成することを基本として五六中業の初年度としての予算をいまお願いしているわけでございますが、簡単に申し上げますと、要撃機の数につきましては、現在、すなわち五十七年度末の姿を見ますと、要撃戦闘機は約二百三十機でございます。これが五六中業が完成いたしますと、約二百四十機ということに相なるわけでございます。また、水上艦艇について言えば、現在、五十七年度末の見込みは五十三隻でございますが、これが六十隻、これは大綱の水準と同じでございます。
#129
○大出委員 中曽根総理は、この「防衛計画の大綱」というものは踏まえておいでになるわけでございますね。間違いないですね。そうすると、現状、日本列島を巨大なとりでにしてバックファイアの侵入を許さず。これはあなたの見解を述べているのですから。私は、あなたの見解をなぜ述べるか。本当を言うと、総理が自分の見解などをこんなところで述べられちゃ困るんだけれども、とりあえず聞きたいのだが、一体どういう想定をもって――抽象的に言われても困る、これは最近明らかにされたのだから。「防衛計画の大綱」がここにあるのだが、いま話があったとおりなのだが、一体、総理みずからは、こういうことをおっしゃるについては、あなたの見解として具体的にどういうことを考えておっしゃったのですか。
#130
○中曽根内閣総理大臣 それは、新聞記者との会見におきまして私の見解を述べるのは自由であり、日本の防衛政策というものを述べるということもまた自由である、悪いこととは思っておりません。それは、日本の実情をよくPRしてアメリカ側に理解も求め、協力を求める。特にワシントン・ポストのような重大な影響力を持っておる新聞に対しては、そういうPRをすることも政府の責任の一つであると私は考えておるわけです。
 それから、御存じのように、たしか去年ですか、能登半島の仲にバックファイアが来たという情報がありましたですね。なぜ来たということがわかるかと言えば、こっちがスクランブルをかけて飛び出ていって、そして、ここから入ってはいかぬ、そういうことを暗に示して、バックファイアは回れ右して向こうへ帰っていった、そういうことを私聞いたことがあります。現に新聞にも載っておった。
 そういうように、独立国であり主権国であれば、外国の飛行機が、それがバックファイアであれ何であれ、不法に領空に侵入するあるいは侵略をするということは、断じて許すべきではないのです。そのためにこそわれわれは自分で自分の国を守る、厳しい中でも努力をしておるのです。そういう意思まで放棄したら防衛は成り立たない。そこはあなたと私の考えが基本的に違うポイントだ、そう思っておるのです。
#131
○大出委員 それはあなたの間違いだと思うのですよ。というのは、あなたは総理なのだから、総理として訪米されておるのでしょう。そうすると、日本の防衛についての計画は、いま申し上げたように大綱がある。これは国防会議も決めている、閣議も決めている、国会でも議論をしている。それはそれとして自分の考え方があるのだから自由に言うのだ、それが許されますか。総理という立場で行っておられるのですよ。個人じゃない。だから、新聞の記事だって中曽根総理というふうに扱っておいでになる。そうすると、日本政府を代表しておいでになったのなら、国防会議、閣議決定があり、日本の議会で議論をしてきた経過がある。この枠内で物を言うのでなければ、自分の見解、好きなことを言う、それが許されるとお思いですか。
#132
○中曽根内閣総理大臣 もちろん枠内で言っておるわけです。私はこの話の中でも、日米安保条約を有効に適用する、活用させるということもたしか言っておったと記憶しております。日本の防衛は日本単独では、相手方の情勢によってはできない。だからこそ日米安保条約というものを結んで、そして日本は大体自分の力の方は盾の方だ、アメリカの方はやりをやる。相手に対する、そういう外に対する攻撃的役割りは、安保条約に基づいてアメリカが担当する。日本は盾の役割りを担当する。そういう一般的な方針に基づいてやっているということは、私もよく知悉しております。そういう意味において、日米安保条約を有効に働かせるということも防衛の大事な一つのポイントであり、重大なポイントである。それを心がけておるわけでもあります。
#133
○大出委員 それじゃ、あなたは先ほど個人の見解を言うことは自由だとおっしゃったが、そうじゃないじゃないですか。やはり日本の方針を踏まえてきちっと物を言わなければいかぬわけでしょう。それならば、先ほどの憲法問題でもそうですけれども、鈴木総理がこう言ったというのが質問の中にありますけれども、現在憲法は改正されてはいない。ことに総理である。それならば、その枠内で物を言わなければいかぬじゃないですか。
 つまり、あなたの真意は、ようやくいま「防衛計画の大綱」に基づいてとおっしゃったが、先ほどは、大綱は大綱として私の見解を言うことは自由である、事もあろうにワシントン・ポストと言われる新聞ではないかというお話がありましたが、PRすることも必要だと言うが、向こうの新聞が大変に驚いている。しかも、アメリカ政府も、これは後から申し上げますけれども、考えていた以上とんでもなく大変なことをおっしゃるので、向こうもびっくりした。つまり、この表現はだれが考えても、いまの「防衛計画の大綱」の中にとどまる筋合いの発言じゃない。日本列島を巨大なとりでにしてバックファイアの侵入は一切許さない、こう言うのですから、そうなると、これは一体どこまでの防衛力整備をお考えになっているのかと聞かなければならぬじゃないですか。
 あなたがだんだん戻ってこられて計画の大綱で物を言っているとおっしゃるのなら、初めから計画の大綱というものを踏まえて考えたのだ――しかし、それにしてはこの表現というものはいささかオーバーに過ぎる。単なるリップサービスじゃ済みませんよ、これは。そこのところを明確にしておかなければいかぬと私は思うのですが、いかがですか、あくまでも国会もあるのですから。つまり、国防会議も決めた、閣議も決めた、国会で議論をした、当時坂田防衛庁長官でございますが、いろいろお互いに大変真剣な議論を続けている。このことを踏まえて物を言うということにしていただかなければ困るのだが、いかがでございますか。
#134
○中曽根内閣総理大臣 そのとおりやっているつもりであります。「防衛計画の大綱」をできるだけ早く達成する、そういうことも言っておりますし、そうして日本の防衛については、先ほどもおっしゃいましたように、まず空については、それはバックファイアであっても何であっても、ともかく領空侵犯を許さぬし、侵略があった場合には、日本列島に対するインフィルトレーションという言葉を通訳が使っておりましたが、それを許さない。これはあたりまえのことであって、そういうことを挟手傍観しておるのだったら、自衛隊も何も要りゃしません。やはり自分で自分の国を守る、そういう決意でそれに合う体制をできるだけ努力してつくっていくところに抑止力が生まれる。抑止力を得るためにわれわれはいまそういうことをやっているのですよ。
 日本を戦場にしたいと思っているのではない。戦場に青年を送るなと言われるけれども、われわれの方は、日本を戦場にされるなという方が先なんです。戦場にされてはいかぬのです。そのためには自衛力をつくって、そうして相手がそういうことをやったらひどい目に遭うという形で、戦争をさせないような体系をつくっていくために一生懸命皆さん汗を流しているわけなんです。そういう点はぜひ御理解を願いたいと思います。
#135
○大出委員 先ほど来申し上げているように、あなたの見解はいまお述べになった。しかし、私の考え方は、べらぼうに巨大な不沈空母というようなとりでをつくる、そこまでやろうというなら、まさに基地日本列島です。要塞化ですよ。ということになるとすれば、浸透してくるバックファイアを全面的に阻止するということでそういうことをすれば、一つ間違えば、バックファイアは、さっきから申し上げているとおり、核も搭載していれば大変に長距離なミサイルも搭載をしている。ということになると、気がついたときには日本列島が廃墟になったのじゃ困るという心配をしているのです。そこのところは同じじゃないですか、方法論の相違が出てきても。
 そこで問題は、しからば何がポイントかと言えば、違う立場で議論をしてきて決めたこと、あるいは議論をしてきてそれなりのやりとりが行われて今日日本の方針になっていること、これを守ってくれなければ困る。あたりまえじゃないですか。私は別のことを言っているのじゃない。そこを聞いているのだ、あなたに。あなたは総理なんだから。この表現ではそれを飛び越してしまうじゃないかと言っている。
 もう一つ言いましょう。四海峡。あなた四海峡と言っておられる、三海峡だと言うけれども、そして、あわてて取り消しておられるけれども。まずもって、この四海峡ということになるというと、防衛庁、しきりに対馬の西水道を指しておられるようであります。ここのところは、まずもって、全斗煥さんにもお会いになったようでありますけれども、どういうふうに西水道はお考えなんですか。
#136
○中曽根内閣総理大臣 対馬海峡の話なんか、全斗煥さんとは全然いたしません。しかし、ロ本が関係している三つの海峡、宗谷海峡、対馬海峡及び津軽海峡、これは万一侵略があったという場合には、日本列島防衛の一環としてわれわれはコントロールしなければならぬ、それが日本列島を守る大事な作戦の一つであると私は考えておる。
 その対馬について、東水道と西水道があります。これに対する法的解釈については、防衛庁から答弁させます。
#137
○夏目政府委員 わが国の本土を防衛する場合あるいはシーレーン防衛に関しても、海峡防備というものはきわめて重要な作戦の一つであろうというふうに理解しております。その場合、三海峡というのは、通常われわれは対馬海峡、宗谷海峡、津軽海峡というものを指しておりますし、その対馬海峡の中には東水道と西水道を含めておる。ただし、海峡防備といいましても、念を押して申し上げますが、、必ずしも海峡を封鎖するということではございませんで、有事の際、われわれが自衛のために必要な範囲で艦艇あるいは航空機、必要があれば機雷をまくこともあり得るという意味で、海峡防備を重要な作戦の要素と考えているということでございます。
#138
○大出委員 いま防衛庁で出しております白書の中に「通峡阻止」という言葉を使っておりますね。そして、いまあなた方の方ではその点についての検討を進めている。
 それで、大体皆さんの御検討いただいている中身からすると、「第一に、機雷を敷設する。第二に、ソ連潜水艦が通過しようとしたら水中固定のソーナーを初めP3C対潜哨戒機、護衛艦などで探知する。三、潜水艦の位置をしぼっていき、P3Cや護衛艦、潜水艦、HSS2対潜ヘリなどで攻撃する。」ずっとあるのですが、あなた方の検討しておりますのは一体なんですか。
 それで、宗谷、津軽、対馬、三海峡といまおっしゃるが、一体、防衛庁のいまの物の見方で、三海峡封鎖というのは自衛隊独力でできますか、有事の際に。
#139
○夏目政府委員 私どもが通峡阻止というものを行うに当たっての考え方は、大体いま先生がお読みになったものの考え方と同じでございます。すなわち、有事の際に、自衛のために必要な範囲で、相手方の潜水艦が通峡しようとする場合にそれを阻止するということが、翻ってわが方のシーレーン防衛のために寄与し得るものというふうに考えております。
 その場合どういうことをやるかということになりますと、まず、潜水艦あるいは水上艦艇によって相手の潜水艦を偵知する、あるいは水中固定機器を設けて潜水艦を察知する、あるいは対潜ヘリあるいはP3C、P2Jという対潜哨戒機を飛ばして相手の潜水艦を捕捉し、必要があればそれに対して攻撃を加えるというふうな段階を経て、最終的には海上交通すなわちシーレーン防衛に寄与させるというふうに考えております。
 以上でございます。
#140
○大出委員 できますか、それは。
#141
○夏目政府委員 この能力については、私ども一〇〇%この通峡阻止が可能であるかということであれば、それはなかなか困難な作戦であろうと思いますが、要は、私どもがそういった能力を持つことが、すなわち先ほど来総理も申されておる抑止につながるというふうにわれわれは理解しておりますし、そういうことがわが国の防衛にとって非常に意味のあることであるというふうに認識しております。
#142
○大出委員 そうすると、現状は、これは昨年の三月のアメリカにおける公聴会の中身でありますが、これはウエスト国防次官補。彼が言っているのは、「今日、不幸にも、日本は、これらの役割を遂行できない。日本自らが公表した分析でも、弾薬、魚雷、ミサイル等の補給品が極めて限られているため、自衛隊は戦闘において、その師団、護衛艦及び戦術航空機に補給を維持することができない。日本の航空自衛隊、海上自衛隊は、その規模と近代化のペースから見て、今や日本政府でさえ潜在的脅威とみている一九八〇年代のソ連軍の戦力水準に対し、」云々、要するに、きわめて不十分であるということなんですが、これが現状ですね。
 もう一つ、自衛隊は依然小規模で限定的な通常戦力による攻撃に対しても効果的に対処し得ない。」いっぱい書いてありますけれども、つまり、もう一つこれは、アメリカの専門家の学者の方なども言っておりますように、四海峡封鎖、三海峡封鎖という言葉、いずれにせよ、日本にそれをやらせようということ、ところが、その能力はない。
 そうなると、私はやはりできること、できないことをこの際はっきりしておかなければいかぬと思うのですね。現状こういう状態で完全にコントロールをする。一体これは目標を持つということになるとすれば、完全にコントロールするまでに持っていくのには大綱でできるのか、一体その先はどうなるのか、そこらまで明確にしてくれぬと、できること、できないこと、憲法がある、したがって、これは飛び越えて物を言われても迷惑なんで、そこのところは一体どういうふうに考えればいいですか、お示しをいただきたい。
#143
○中曽根内閣総理大臣 まず、「防衛計画の大綱」達成に努力をいたします。しかし、いまの海峡管制能力というようなものは、日本はある程度は力を持っております。しかし、どの程度の維戦能力があるかというふうな点になると、補給やその他の点で遺憾の点があることは私は認めざるを得ない。だから、アメリカ側から見て、日本の防衛力が自分の国を守るについてすら不足しているという指摘は、私は当たらずといえども遠からずという点が、アメリカ側から見たらあると思っております。さればこそ「防衛計画の大綱」をつくって、いま一生懸命努力しておるのです。そういう努力で、しかも安保条約でアメリカと共同で守るというその意思とその力が、外国の侵略を起こさせない力になっておる。その抑止力、戦争を起こさせないで日本を戦場にしないために自衛隊をつくり、アメリカと安保条約を結んで予防しておるのですから、その点をよくお考えいただきたい。
 これは何にもしないで真空状態にしたら、アフガニスタンみたいになりますよ。あるいはポーランドやチェコの例でもすでに、東ドイツですらそういう例がありました。やはり真空状態にして何にもしないということぐらい危険なことはないのであって、国力、国情に応じ、憲法のもとででき得る限りのことをしていくということが国際責任を全うするゆえんでもあると私は考えるのであります。
#144
○大出委員 ここでもう一、二点申し上げておきますが、私が申し上げているのは、私どもから見ると、現状非常に不可能である。これは日本の基本方針からいって、国力、国情というものもございます。だから不可能である。限界がある。そこに基盤的防衛力計画ができた。所要防衛力計画から変わった。向こう岸が高くなったらこっちも高くするというのなら、限りなく高くし合わなければならぬ。それは戦争につながる。そうすると、不沈日本列島、不沈空母日本とあなたがおっしゃるけれども、そのことが戦争に突き進むという結果にしかつながらない。そうであってはならないから、日本がこれらの問題に巻き込まれない立場を日本国憲法のもとにとるべきだという考え方を僕らは持っている。そのためには、日本の尽くすべき役割りというのは一体何だ。この防衛力をお互いに高め合う所要防衛力構想というもので続いていけば戦争にいくということになるとすれば、歯どめが要る。ここに長い議論の上に基盤的防衛力構想が出てきて、「防衛計画の大綱」ができた。これからまだ五年間やらなければいかぬ。
 そうすると、現状のこの通峡阻止にしても、バックファイアを入れない防壁をつくるにしても、そう簡単にできる性格のものではない。生田目空幕長が言っているじゃないですか、ここで。航空自衛隊の航空幕僚長が二十一日の記者会見で、訪米中の中曽根さんの発言に対して、バックファイアだけが飛んでくるのではない、ほかに戦闘機やその他の飛行機も飛んでくる。そうすると、有事にバックファイアが来襲したときには日本の上空で戦闘が起こる。空戦が起こる。それによって日本の作戦機が相当消耗してしまう。だから、バックファイアの阻止というのはおのずから限界があると責任者が述べているのですよ。あなたの話でいけば、バックファイアの侵入は一切許さぬと言うのだが、そこまでやろうということになるとすれば、それは一つ間違えば戦争に巻き込まれる、大変な脅威を与える、こういうことになるとすると、これは戦争が始まっては困る。始まっては困る。したがって、おのずから限界がある。その限界はどこかと言えば、大綱なんでしょう。だから、そこのところに総理としての立場をきちっと据えておいていただかなければ困るというのが私の言い分で、考え方の相違があっても、その点は明確にしておかなければいかぬ。
 バックファイア阻止について、空幕長はこう言っているのですけれども、総理はどうお考えになりますか。
#145
○中曽根内閣総理大臣 先ほどから申し上げておりますように、戦争を起こさせないということがまず第一なのであります。戦争を起こさせないには何が大事かと言えば、起こさせないだけの力をある程度こちらが持たなければ危険が出てくる。それは先ほど申し上げたように、アフガニスタンを見てもどこを見てもそういう事例がある。そういう意味でアメリカと提携し、また、みずから国を守る、そういう複合的な考え方に立って自衛を全うしよう、そういう力が出てくれば先方だって手をかけるようなことはやめる、これが戦争抑止力であり、戦場にしないコツであります。何にもしないでいたら何か起こるかわからぬ。よく言われているとおりであります。
 そういう点で、大出さんと私の考えは基本的に違うのです。バックファイアであろうがバジャーであろうが、もし侵略があるという場合には、全力を尽くして、われわれは侵略を認めるわけにはいかない。そのために「防衛計画の大綱」もつくり、アメリカとの共同防衛もやっておる。そして、アメリカとの共同防衛というものを最大限に効果的にやるということが政治家の仕事であるのだということを私は申し上げて、それは戦場にしないためのことであって、あなたは戦場になってからの話をしていらっしゃる。もっと先にやることがあるのだ。それは外交であり、かつ、自分で自分の国を守る。そして、われわれはアメリカと提携してともに守る、そういうことだということを申し上げているわけなんです。
#146
○大出委員 戦争にしないようにしようというのは、そんなことはあたりまえのことじゃないですか。何も違っていない。ただ、あなたの考え方でいけば、大変に危険な状態になる。巻き込まれる危険、間違いなくそうなる。それをさせない、私どもはそういう考え方を持っているだけのこと。
 さて、ここで一つ承っておきたいのですが、あなたは先ほど個人の意見、自分の意見とおっしゃいましたが、これを「防衛計画の大綱」に引き戻しましたけれども、これはレーガン大統領との会談における公約ですか。このドン・オーバードーファーなるインタビューに当たりました記者の書いておりますことによりますと、同じ防衛構想をレーガン大統領との間でも総理はお述べになったように書いてありますけれども、先ほどはバックファイアの話をしたことはないとおっしゃられた。オーバードーファー氏の書いたこの記事によりますと、署名入りで、「日本が幅広い防衛役割りを計画する」と。ドン・オーバードーファー、ワシントン・ポスト・スタッフライターと署名入りで、「日本の中曽根康弘首相は昨日レーガン大統領に対し、ソ連の長距離爆撃機バックファイアの飛来を探知し、これを阻み得るまでに日本の対空防衛を築き上げることを目指すと語った。」明確な文章ですがね、これ。あなたはおっしゃらないと先ほど私にお答えになった。人が書いた文章と言ったって、アメリカの記者が当局者に聞いているじゃないですか。
#147
○中曽根内閣総理大臣 私は、レーガン大統領との間でバックファイア云々ということは言っておりません。しかし、日本の防衛はこういうふうにやるんだ、つまり防空、それからいざという場合の海峡のコントロール、それから周辺数百海里の海域、海の問題、それから、もしシーレーンを設ける場合は南西、南東の二航路帯、そういう一般的な話を私はして、しかも憲法及び非核三原則及び専守防衛という考えに立って行うのだ、そういうことを言ったと記憶しております。バックファイアというような言葉を使ったことはありません。その記事は何かの間違いであろうと思います。
#148
○大出委員 間違いであるかないかはいずれ確かめますが、ここにもう一つ。「中曽根首相は拡大した防衛任務を率直に裏づけたが、それは米国高官の期待にはなかった。」これは表題は「日本の指導者、幅広い防衛役割りを裏づける」、ポストの記事です。克明に解説をしています。(発言する者あり)黙って聞いてくださいよ。「バックファイアに対抗する意図について触れた上、本土近くのシーレーンをパトロールする」云々というところから、「バックファイアの飛来を探知し、これを阻むために、日本がより強力なレーダー能力と大幅に増強された迎撃力を必要とするであろう。そして、F15型機を入手するであろうが、発注される機数ではこの任務に不十分であると考えられる。倍増しなければならぬだろう。」というふうに分析をしている。
 そこで、私は、やはり言った、言わないということは、向こうの新聞にこう載っている。この点は明らかにしておいていただかぬと、私自身がこれは疑問を持ちます。
 もう一遍、これは公約ではないというわけですな、それじゃ。この同じ防衛構想を話したというのだが、総理の公約ではない。くどいようだが、鈴木総理の例の発言が公約で最後まで尾を引いておりますから、もう一遍念を押しておきますが、公約ではない。
#149
○中曽根内閣総理大臣 いままでの日本の防衛構想、防衛政策を述べたので、それ以上のことは言っていない。それ以上のことは公約ではありません。
#150
○大出委員 そうすると、以上のアメリカに行って発言をされてきた総理なんですが、昨日アメリカの国防報告も出ておりますけれども、将来、名指しでソ連のバックファイアこう述べているわけでありますけれども、私はここのところ、いままでいろいろなことがございましたけれども、名指しでというのは私は余り聞いたことがない。いままでにそういうことはありましたかね。
#151
○中曽根内閣総理大臣 私は、防衛庁長官のころ防衛白書をつくりましたが、あのころはバジャーというソ連の飛行機の名前なんか白書に出ていたんじゃないかと思います。ソ連の保有する極東における防衛力の中には、バジャーとかベアとか、そういうものはたしか名前が出ていたんじゃないかと思います。
#152
○大出委員 私は、いまの記事にもありますけれども、一番最後に何と書いてあるかといいますと、「ソ連の艦隊を日本海に封鎖するには、日本が現在保有しているものよりももっと多数の機雷と、さらに進歩した機雷敷設用の航空機及び艦艇が必要であろう。能力はさておき、このような意図はソ連の海上兵力にとってゆゆしい問題を提起することとなり、モスクワから新しい抗議と圧力を招きそうである」と分析をしてまとめています、この記事は。
 いみじくもその結果、抗議をソビエトがしてきているわけですね、名指しで。あなたはアメリカに行ってしゃべっておいでになるのだから。そうすると、この抗議の根源は、あなたがアメリカでおっしゃったことに原因があることになるのですけれども、この抗議に対して、あなた方は抗議をされていますね。どういう考え方で抗議をなさったわけですか。
#153
○安倍国務大臣 これは、わが国としてソ連からいわれのない指摘を受けておる、こういうのが基本的な立場であります。
 同時にまた、先ほども答弁いたしましたけれども、ソ連がSS20を極東方面に配備を増強するということにソ連指導者が触れたと言っていることともあわせて抗議をしたわけであります。
#154
○大出委員 総理がアメリカでお述べになったことに対して抗議が行われたということ、これはやはりその原因はつくられたのだから、そういう意味では極東の緊張を高めるという意味にしかつながっていない。だから、これは「防衛計画の大綱」ということが明確にされて、憲法、「防衛計画の大綱」、その上でお話しになっているのならこういうことにはならない。だれが考えても、この発言はそれ以上のものに映る。そこに問題があるわけでありまして、そこで一体、米ソの戦いが起こるという想定がなければ、こういう発言にならぬわけですから、起こるとすればどういうことなんですか。ギン前在日米軍司令官、三月の十七日、アメリカの公聴会で、「日本だけが攻撃され、単独で対応しなくてはならないような事態はあり得ず、日本へのソ連の限定攻撃は、米ソの世界的対決の中だけであり得る」、こう証言をしていますが、いかがでございますか。
 皆さんの考え方は、アメリカの戦略の一環として起こる戦争というものはどう考えておられますか。つまり、中東で戦争が起こる、これは一昨年のハワイの日米事務レベル協議のときにもいろいろな話題をまきましたが、まずもって、このギン在日米軍前司令官の述べておりますこの点についてどうお考えでございますか。
#155
○中曽根内閣総理大臣 アメリカの将校はアメリカの見解を述べたのでしょう。私は、アメリカとしてはやはり同時多発を予想している向きが非常は多いと思います。日本だけをソ連が攻撃して侵略してくるというようなことは、アメリカの計算としてはまず少ない、そう見ておるのではないかと思っております。しかし、中近東とかあるいはヨーロッパとか、いろいろな面で騒擾みたいに、あるいはそのほかの内乱、革命までも一緒に起こるような形で物が起こるという可能性をアメリカは見ておるのではないかと私は予想します。
#156
○大出委員 そうしますと、「日本だけが攻撃され、単独で対応しなくてはならないような事態はあり得ず、日本へのソ連の限定攻撃は、米ソの世界的対決の中だけであり得る」というこの見解は、そうではない。そうだとアメリカは思っているでしょう。そうすると、日本はこれ以外に米ソの争いが起こるという分析ができるのですか。それはどういう場合に……。
#157
○夏目政府委員 ただいまのギン司令官の記者会見の内容については私も承知しておりますが、わが国に対する武力侵攻の態様というのは、いろいろな場合が想定し得ると思います。その蓋然性が高いか低いか、いろいろ御議論があろうかと思いますが、私どもとしては、いずれにせよ、わが国に対する武力攻撃があった場合に備えて防衛力を整備しているということで、具体的にどういう形で日本に対して侵攻が行われるかということについては、そのときの態様によって異なることであり、いまここで一概にどうであるということを言うのはなかなかむずかしいことではないかというふうに考えております。
#158
○大出委員 そこに問題があるのですね。先ほどの「防衛計画の大綱」というのは、一体どういう想定をしているのですか。これは総理でも防衛庁でも構いませんが、「防衛計画の大綱」というのは想定があるじゃないですか。限定的かつ小規模な侵略までの事態、これは、もしもわが国と何かあるとすれば、それが国際的な関連を抜いて言えば、当時何遍も答えている。もう議事録を挙げて言う気がないからきょうは申しませんが、限定的かつ小規模な侵略事態しか考えられないという前提で、日本独力でということになっている。枠が決まっているのです。そうでしょう。それが大綱なんでしょう。
 そうすると、先ほどのギン司令官の物の分析、つまり、こういう場合における、もし中東で米ソ戦争が起こったとする、それが欧州、極東へという想定ができていますが、これも読み上げませんけれども、そういう場合には、集団自衛と絡んでまいりますけれども、日本が攻撃をされていない状態で、三海峡あるいは四海峡の完全コントロールということはお考えにならぬでしょうな。
#159
○谷川国務大臣 あくまでも、わが国の自衛力は自衛のために保持するものでございまして、その意味では、ただいま先生の御指摘のような事態においてわが国の自衛力が出動することはございません。
 わが国がこの海峡防備について考えておりますことは、あくまでわが国が武力攻撃を受けたときに、必要がある場合に、あるいはそのこともあわせて考える必要があらう、こういう考えに立っておるわけでございます。
#160
○大出委員 このアメリカの今回の国防報告によりますと、日本海に空母をインド洋から三分の一を展開する、まあ二隻ぐらいになるのだろうと思うのでありますけれども、この点については、八月のハワイ協議もあるわけでありますけれども、一体日本側は、これは初めからわかっておりましたですか。
#161
○新井政府委員 お答えいたします。
 二点申し上げます。
 第一点。ただいま大出議員から、アメリカの国防報告によれば、日本海に二隻空母を展開するというふうにおっしゃいました。これは確かに日本の新聞にそのような報道がございます。しかしながら、国防報告の原文は当たりますと、そういうことではございません。詳細は、お時間があれば私お答えいたしますけれども……(大出委員「原文はどうなっていますか、その部分だけ」と呼ぶ)原文ではこういうことでございます。
 ソ連のグローバルな海軍力の展開に対応して、アメリカの海軍力も柔軟な運用を考えなければならない、これが第一点。(発言する者あり)ちょっとお待ちください。
 それから、その結果としまして、従来アメリカが空母を展開していた地域、海域、これは具体的には地中海と太平洋、これについてはその空母の数は現状維持でございます。
 それから、他方インド洋につきましては、一・五を常時、一年平均でございますけれども、これを一にする。そうしますと、全体として二以上の空母に運用性の柔軟性ができる。これは世界的な規模においてその訓練活動に従事させる。そこでセンテンスが切れております。
 そして、同時にといって、他方日本海、そこで日本海が出てくるわけですけれども、それからカリブ海、それから北西太平洋において、要するに訓練の増加も今後考えていきたい、これが原文に忠実な私の訳でございます。
 それから第二点は、すでに日本海には、これは先生にはもう釈迦に説法でございますけれども、昨年の秋においてもミッドウェー等その訓練を実施している、そういう事実はございました。これは別に変わったことではございません。
 以上でございます。
#162
○大出委員 そうすると、私は原文を見ていませんから、その点は承ることにいたします。
 きょうは考え方を聞こうと思っておりますから時間のかかる反論はしませんが、承るだけにしていきたいと思っておりますけれども、私の手元で、昨年の八月以来あるのでありますけれども、神奈川県に逗子市という市がございます。知っている方は多いと思うのでありますが、ここに池子という、具体的なことを申し上げますが、弾薬庫がございます。これは一部返還をした後ずっと遊休地になっていた。ところが、昨年の八月にここに千三百戸に余る住宅を建てたいということを防衛施設局から申し入れがあった。この背景をいろいろ当たってみましたが、どうもオーストラリア、フィリピン、グアム、佐世保、横須賀、ここを候補に挙げてアメリカ側は選定作業を進めてきたようであります。そして、ほぼ横須賀に決まったと考えられます。また、第七艦隊というのは、いま一隻の空母は、御存じのように、私の足もとでありますが、ミッドウェーが横須賀におります。約五万トン。大変これは老朽化した古い船でございます。そこで、新しい空母を入れてきようという。エンタープライズ、約八万トンですが、最近のカール・ビンソンを入れるという話まで出てくる。カール・ビンソンというのは九万トンございまして、大型のまさに新鋭原子力空母になるのでありますけれども、ミッドウェーをこれらの船にかえる。そういうことになると一緒に入ってくる船もふえますし、どうしても住宅が必要になる。これは五万数千の逗子市の中に千三百戸を超える、約五千人近い米軍関係者が入ってくることになるので、地元ではこれは大変な関心を持っているわけでありますけれども、この裏づけをいろいろ当たってみてそういう感じが非常に強い。これは皆さんが全く知らないなどというはずはないので、ミッドウェーの横須賀空母基地の問題のときにも私の質問で、当時大平外務大臣が、御指摘のとおりという答弁を初めてここでされたのでありますけれども、私は先の質問の関係もございますから、わからぬければわからぬでも結構でございますが、ここまでやっておいてその背景がわからぬということはないので、地質の調査をさせろの云々というわけでありますから、こちら側に空母が回ってくるという想定がなければ考えられないことが幾つも起こっている。いまここで全部言ってしまうわけにいかない問題がございますから申しませんが、一体この点をどういうふうにとらえておいでになりますか。
#163
○谷川国務大臣 この問題につきましてはすでに私も報告を受けておりますが、現在の時点におきましても米軍に提供いたします住宅はなかなか思うようになっておらないので、最も近くでございます池子の弾薬庫の活用のことがいま浮上しておるのでございますが、事実関係については政府委員から答弁いたさせます。
#164
○伊藤(参)政府委員 池子弾薬庫といいますか、米軍の池子基地の住宅建設についてのお尋ねでございますが、横須賀地区におきましてはかねてから米軍はかなりの住宅不足ということで、私どもが米側から承知しておりますのは、横須賀基地に現在置かれております米軍の、まあ横須賀と厚木と含めまして現状においてすでに千三百戸ほど足りない。これにつきましてわれわれとしては横須賀基地、厚木飛行場に通勤可能な現在あります米軍基地の中で適地選定ということで考えておりまして、先般来現在の池子弾薬庫が、現在弾薬庫としては使用されていないということで、同弾薬庫地区に住宅建設可能かどうかということの調査に入っておるわけでございまして、先ほど来先生おっしゃっておりますような新たな軍事力展開といったような内容に対応するものとしては承知しておりません。
#165
○大出委員 確かめようと思ったわけでございますから、承っておきます。
 最後に二つばかり韓国に対する協力、援助の問題について、経済援助と政府は言っているわけでありますが、どうも経済援助とは受け取れない。これも考え方をただしておきたいわけでありますけれども、四十億ドルの借款供与、この出だしは六十億ドルだったわけでありますが、明らかに当時二個師団分云々といういろんな問題がございました。日本側もさすがに当初は防衛援助になりはせぬかということでなかなか問題があったわけでありますが、これは全斗煥政権の今日の内容を調べてみますと、経済が余りどうもうまくいっていない。軍事政権でございますが、軍事費の削減という問題が非常に大きな韓国の問題になっていまして、韓国の軍事費というのは総予算の三三%を占めていることになっています。ところが、八四年度予算というところでこれが一%落ちてしまう、三二%ぐらいに下げざるを得ないという状況にある。あわせて、これは大変な債務を負っているという国でございますから、そういう意味で五十億ドルぐらいの第二次韓国軍大増強計画というのがございますが、大は要らないのかもしれませんが、韓国軍の第二次増強計画。そうすると、この面で予算外におおむね五十億ドルの金がないと予算の削減等の関係でこれが推進できない、こういう事情が背景にあるわけでありますけれども、一体そこらのところは、非常に不明確な皆さんの方のこの援助問題については、日本というのは単年度主義の予算を組んでいますから、そういう意味で総額四十億ドルといってもそれは約束をしていない、こう言う。十一項目片一方に項目が出てきていますが、一体先の方はどうなのかと言われれば、約束をしていない。しかし、約束をしなければにこにこして話がつく筋合いのものではないのでありますが、ここらの背景はどういうふうに、これは外務大臣の所管でございますかな、おとりになっておられますか、とりあえず聞いておきたいのです。
#166
○安倍国務大臣 韓国への経済協力はあくまでも経済協力、韓国の民生の安定とかあるいは経済の安定を目的としたものでありまして、軍事的な目的といいますか、そういう役割りは一切ないわけであります。六十億ドルの要請もあったわけでございますが、日韓間でいろいろと協議をいたしまして、結論的には四十億ドルをめどということでこの問題を処理したわけでありますけれども、しかし、御承知のように、わが国には経済協力の基本方針があるわけで、これは積み上げ方式、いまお話しのような単年度方式でやっておるわけですから、その基本方針に基づきまして毎年毎年韓国との間でプロジェクト等について協議をしてこれを積み上げていく、こういうことでわれわれこれを処理したわけでございます。五十七年度については、いま事務的な会談も終わりまして、これから本格的に決定を行う、こういうことになっております。
#167
○大出委員 大体時間のようでありますが、一言申し上げて終わりにいたしますけれども、韓国という国は、ここに数字がございますけれども、対外債務が三百八十億ドルあるんですね。これは八兆円超えますかね。デフォルトを引き起こしかねない、つまり債務不履行を引き超こしかねない懸念のある国の第三位と言われているのですね。そうなると、今回の四十億ドルのみならず、アメリカとの関係もあるのかもしれませんけれども、これは一つ間違うとどこまでも日本がてこ入れをしていかなければならなくなる可能性が多分にある。そうお思いになりませんか。もう一つだけそこを聞いておきたいのですが。
#168
○安倍国務大臣 確かに韓国も第二次石油ショック以来いろいろと経済的にも問題が出ておることは事実でありますが、しかし韓国のこれまでの発展の過程から見まして、私は韓国としてのこれからの努力というものが続けば韓国の経済というものは持ち直していくんじゃないか、こういうふうに考えております。
#169
○大出委員 きょうは総理と突っ込んだ論争をするつもりは初めからなく、考え方を承ってまいりましたが、最後でございますから一言申し上げておきますが、二人のジョージが東と西に別れてワシントンを飛び立った。一人はジョージ・シュルツ国務長官、もう一人はジョージ・ブッシュ副大統領なんですね。私は、やはりアメリカの今日までの物の考え方というのは、ソビエトとのデタント政策をとってきたと思うのですね。これはニクソンのときに、ニクソン・キッシンジャー時代につくられまして、歴代大統領が後をこうやってきたわけでありますけれども、レーガンで非常に大きな変化を起こしたわけであります。そのことが、欧州を歩いてみましても、非常にアメリカとの関係は、核問題を含めましてもぎくしゃくぎくしゃくしている。また、イスラエルの問題等におきましても、大変抑制型でアメリカは進めてきたわけでありますけれども、ここにも一つ大きな、御存じのとおりな問題が起こってきている。ということになりますと、これは何とか修復しなければならぬ立場にアメリカはなる。
 もう一つ、中国との問題もございますけれども、台湾との関係が出てまいってもおりますし、中国が後ろの方に少しずつ下がっていく、そこに中ソの修復という問題も出てくる、これも何とかしなければならない問題。そういう意味で、私は、アメリカの外交政策というのは次第に孤立をしてきていると見なければならぬと思っているのです。
 したがいまして、幾つかの戦略核その他を含めての交渉がございますけれども、やがて、アメリカ自体の国内の財政事情等から見ましても、変化を起こさなければならぬ要因が幾つもあるというふうは私は思っているわけでありまして、ソビエトの側にも同じような要因が幾つも横たわっていることは間違いない事実であります。
 そうなると、二つのこの核大国を中心にいたしまして、ここで大きな変化が次第にまた出てくることになる。そうなると、やはりこれは国際的な緊張を緩和していくという方向にわれわれも、それは日本の政府も努力をしなければならぬ時期に来ていると痛切に実は思っている。
 ところが、どうも中曽根さんが向こうへ行っておしゃべりになったことが、逆の方向に走っている感じがどうしてもする。だから、考え方をただしておこう、いずれ質問を続けるつもりでおりますけれども、とりあえずどうにもならぬ争点をなるべく避けまして、お考えを聞いておきたい、こういうふうに思いましたが、私はここで、やがてそういう変化が出てくる。それを日本がいまの中曽根方式で突走れば、日本がやがて孤立をする、こういうことになる。このことを申し上げて、御見解をひとつ承って、終わりたいと思うのです。
#170
○中曽根内閣総理大臣 ようやく終末に至りまして大出さんと考えが一致する部分が出てきたように思います。つまり、私はレーガン大統領に会いましたときには、レーガンさんの毅然たる政策はある程度私は成功していると思う、それはアメリカの財政の苦しい中をああいうふうに毅然とした政策をとってきたというのは、考えがあるからだろう。それで、ソ連の方も大分経済的にもくたびれてきて、そして、いまやアンドロポフ新政権が出て、政策形成期に入ってきている。模索していると思う。したがって、米ソ首脳会談のチャンスは、私は将来出てくるだろうと思っておるのです。そういう意味において、レーガンさんに、この核軍縮についてせっかく御努力を願いたい。全世界がそれをこいねがっているし、日本もそれをこいねがっておる。あなたがいままで苦労してきた、その大きな苦労、つまり力の均衡を回復して平和の話に入る、ソ連はその方向に模索して出てくる可能性もないとは言えない。そういうことで、首脳会談をチャンスをつかんでやったらいい、自分はそう思う、そう言いましたら、レーガンさんは、自分は大体あなたの考えにも似たような考えを持っている、核軍縮については非常に熱心なところがあるんだ、それには確たる保証がなければいかぬ、したがって、ジュネーブにおける両国の軍縮交渉がどのぐらい実ってくるか、そういう情勢を見た上で、いずれ外務大臣相互の話になり、そして、その過程を経てからトップの話にいける、そういう考えを自分は持っておる、そういうことを言いまして、私は、そのラインでトップ会談を開くチャンスをつかんで、そして軍縮をやってもらいたい、そういうことを強く言ってきたのであります。
 しかし、日本に対しても同じであって、われわれが自分で自分の国を守る毅然たる態度をとらなければ、ばかにされるだけであって抑止力にはなりません。戦場にしないためにこそ自分で自分の国を守り、しっかりやるという決意を表明しておる。これがやはり戦争を回避する道なのであります。そういうような自分の哲学に基づいて言動もしてきているということを御了承願いたいと思います。
#171
○大出委員 中曽根方式で逆にいきますと大変なことになりますので、さらっと承りましたが、争点は避けましたが、改めて質問いたします。
#172
○久野委員長 これにて大出君の質疑は終了いたしました。
 次回は、明四日午前十時より開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後六時六分散会
ソース: 国立国会図書館
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