1982/02/19 第98回国会 衆議院
衆議院会議録情報 第098回国会 予算委員会 第10号
#1
第098回国会 予算委員会 第10号昭和五十八年二月十九日(土曜日)
午前九時三十分開議
出席委員
委員長 久野 忠治君
理事 江藤 隆美君 理事 高鳥 修君
理事 堀内 光雄君 理事 三原 朝雄君
理事 村田敬次郎君 理事 川俣健二郎君
理事 藤田 高敏君 理事 坂井 弘一君
理事 大内 啓伍君
相沢 英之君 今井 勇君
上村千一郎君 植竹 繁雄君
小渕 恵三君 越智 伊平君
大村 襄治君 奥野 誠亮君
海部 俊樹君 金子 一平君
倉成 正君 砂田 重民君
玉沢徳一郎君 津島 雄二君
渡海元三郎君 根本龍太郎君
橋本龍太郎君 藤田 義光君
山崎 拓君 山下 徳夫君
稲葉 誠一君 岩垂寿喜男君
大出 俊君 岡田 利春君
木島喜兵衞君 小林 進君
佐藤 観樹君 沢田 広君
野坂 浩賢君 草川 昭三君
木下敬之助君 竹本 孫一君
瀬崎 博義君 中路 雅弘君
東中 光雄君 楢崎弥之助君
出席国務大臣
内閣総理大臣 中曽根康弘君
法 務 大 臣 秦野 章君
外 務 大 臣 安倍晋太郎君
大 蔵 大 臣 竹下 登君
文 部 大 臣 瀬戸山三男君
厚 生 大 臣 林 義郎君
農林水産大臣 金子 岩三君
通商産業大臣 山中 貞則君
運 輸 大 臣 長谷川 峻君
郵 政 大 臣 桧垣徳太郎君
労 働 大 臣 大野 明君
建 設 大 臣 内海 英男君
自 治 大 臣
国家公安委員会
委員長 山本 幸雄君
国 務 大 臣
(内閣官房長官) 後藤田正晴君
国 務 大 臣
(総理府総務長
官)
(沖縄開発庁長
官) 丹羽 兵助君
国 務 大 臣
(行政管理庁長
官) 齋藤 邦吉君
国 務 大 臣
(北海道開発庁
長官)
(国土庁長官) 加藤 六月君
国 務 大 臣
(防衛庁長官) 谷川 和穗君
国 務 大 臣
(経済企画庁長
官) 塩崎 潤君
国 務 大 臣
(科学技術庁長
官) 安田 隆明君
国 務 大 臣
(環境庁長官) 梶木 又三君
出席政府委員
内閣法制局長官 角田禮次郎君
内閣法制局第一
部長 味村 治君
人事院総裁 藤井 貞夫君
人事院事務総局
給与局長 斧 誠之助君
総理府人事局長 藤井 良二君
警察庁刑事局長 金澤 昭雄君
行政管理庁長官
官房総務審議官 門田 英郎君
行政管理庁行政
管理局長 佐倉 尚君
北海道開発庁総
務監理官 楢崎 泰昌君
北海道開発庁計
画監理官 竹下 淳君
防衛庁参事官 新井 弘一君
防衛庁参事官 西廣 整輝君
防衛庁参事官 友藤 一隆君
防衛庁参事官 冨田 泉君
防衛庁長官官房
長 佐々 淳行君
防衛庁防衛局長 夏目 晴雄君
防衛庁人事教育
局長 上野 隆史君
防衛庁衛生局長 島田 晋君
防衛庁経理局長 矢崎 新二君
防衛庁装備局長 木下 博生君
防衛施設庁長官 塩田 章君
防衛施設庁施設
部長 千秋 健君
経済企画庁調整
局長 田中誠一郎君
環境庁長官官房
長 加藤 陸美君
環境庁企画調整
局長 正田 泰央君
環境庁自然保護
局長 山崎 圭君
環境庁大気保全
局長 吉崎 正義君
国土庁長官官房
長 宮繁 護君
国土庁長官官房
会計課長 金湖 恒隆君
国土庁大都市圏
整備局長 京須 実君
法務省刑事局長 前田 宏君
外務大臣官房長 枝村 純郎君
外務省北米局長 北村 汎君
外務省条約局長 栗山 尚一君
外務省国際連合
局長 門田 省三君
大蔵省主計局長 山口 光秀君
大蔵省主税局長 梅澤 節男君
大蔵省銀行局長 宮本 保孝君
厚生省公衆衛生
局長 三浦 大助君
厚生省医務局長 大谷 藤郎君
厚生省社会局長 金田 一郎君
厚生省児童家庭
局長 正木 馨君
厚生省保険局長 吉村 仁君
農林水産大臣官
房長 角道 謙一君
通商産業省貿易
局長 福川 伸次君
通商産業省産業
政策局長 小長 啓一君
通商産業省基礎
産業局長 植田 守昭君
通商産業省機械
情報産業局長 志賀 学君
特許庁長官 若杉 和夫君
運輸省自動車局
長 角田 達郎君
運輸省航空局長 松井 和治君
労働省労政局長 関 英夫君
労働省職業安定
局長 谷口 隆志君
建設大臣官房会
計課長 牧野 徹君
自治省行政局公
務員部長 坂 弘二君
自治省行政局選
挙部長 岩田 脩君
自治省財政局長 石原 信雄君
委員外の出席者
大蔵省銀行局保
険部長 猪瀬 節雄君
予算委員会調査
室長 三樹 秀夫君
─────────────
委員の異動
二月十九日
辞任 補欠選任
田中 龍夫君 山崎 拓君
藤尾 正行君 玉沢徳一郎君
藤本 孝雄君 山下 徳夫君
武藤 嘉文君 植竹 繁雄君
村山 達雄君 津島 雄二君
正森 成二君 東中 光雄君
同日
辞任 補欠選任
植竹 繁雄君 武藤 嘉文君
玉沢徳一郎君 藤尾 正行君
津島 雄二君 村山 達雄君
山崎 拓君 田中 龍夫君
山下 徳夫君 藤本 孝雄君
─────────────
本日の会議に付した案件
昭和五十八年度一般会計予算
昭和五十八年度特別会計予算
昭和五十八年度政府関係機関予算
────◇─────
#2
○久野委員長 これより会議を開きます。昭和五十八年度一般会計予算、昭和五十八年度特別会計予算、昭和五十八年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題とし、総括質疑を行います。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。岩垂寿善男君。
#3
○岩垂委員 これはある新聞の社説でございますが、「中曽根首相は、いいたいことはいうが、いいたくないことはいわない姿勢をとっている。首相就任直後の昨年十二月臨時国会と同じである。野党ひいては国会を、軽くみているというほかない。国会をみずからの宣伝の場、くらいに考えているのではないか。首相のいいたいことというのは防衛、外交、憲法などで、これらを首相が「戦後政治の総決算」の対象と考え、歴代の自民党内閣が国民世論とのバランスの中でつくりあげてきた枠すら、すべてとり払おうとしていることである。いわゆる不沈空母化発言や海峡封鎖論、米艦護衛論などによって専守防衛から一転、攻勢防衛の色合いを深め、積極防衛へ世論を引きずっていこうとしている。」云々とございます。特にその中で、「ことに首相が、政策は時の情勢によって変わるものであり、歴代内閣の言明にとらわれないといったことは、きわめて重大だ。それは、国会を通じて明らかにしてきた政府の「約束」を「情勢変化」などという誠にあいまいな理由で、いつでも簡単に反古(ほご)にするといったにひとしい。内閣と政策の継続性を全く無視するものである。」こう書いてございます。恐らく総理もごらんになったと思います。
確かに、総理大臣就任以来、今日までの総理の御発言を承っていますと、総理は国の基本法である憲法を確信を持って守っていこうとなさっておられるのかどうか、疑わざるを得ない面がございます。私は改憲論者であるという言葉や憲法改定の議論はタブーではないという御発言や、とりわけワシントン・ポストでの発言などを振り返ってみますと、全くその思いを深くするものでございます。
この十年ほど、自民党は意識的にといいましょうか、あるいは戦術的にといいましょうか、選挙に当たって憲法問題を避けてこられたというふうに思います。しかし、今度の大会では自主憲法制定について世論に訴えるという方針をお決めになりました。昨年、新聞が自民党の党員の中で憲法問題に対するアンケートをやられまして、その結果を拝見したわけですが、積極的な改憲論者というのは党内では必ずしも多くない、いやむしろ圧倒的に少ない、こういう新聞の世論調査の結果が出ているわけであります。中曽根総理をタカ派という人もいるし、新国家主義者だという人もいますが、そういう評価は評価として、とにかく総理のお言葉の一言一言の中の持っている重さが国民に対して大きな疑惑やあるいは不安というものを巻き起こしていることは事実だと思います。
けさ、ある新聞が世論調査をしておりました。これなどについても総理の見解を、感想を私はお聞きしたいというふうに思うわけですが、外交や防衛や憲法という問題、この問題などについて国会が長い間の論争を通して一つの統一見解や政府答弁というものができ上がってきているとすれば、それはまさに国会あるいは国民の英知が積み重ねられたものだというふうに思わざるを得ません。それを、一片のほごにするとは言いませんけれども、簡単に、それは時代が変わったから、状況が変わったからということでほごにされてはたまったものではないというふうに思うのであります。
その意味で、私は実は大変失礼なんですが、鈴木総理との間でこれらの問題についてやりとりをしたことがございました。したがって、それらとの関係をも含め、歴代内閣の政府見解あるいは統一見解などとの対比において、中曽根総理がどんなふうにお考えになっているのかということについて一つ一つ伺っていきたいと思いますので、御理解、御寛容を賜りたいと思います。
第一点は、これは言わずもがなでございますけれども、総理は、政治集団である自民党ということになりましょうか、政党の立場と総理あるいは国務大臣という立場というもののどちらを優先なさるのか。これはもう言わずもがなでございますが、聞いておきたいと思います。
#4
○中曽根内閣総理大臣 政党の総裁という場合は、一種のまだ私的団体であると思います。しかし、内閣総理大臣という場合は憲法上の公的機関でございます。したがいまして、やはり社会的に見ます場合には、内閣総理大臣という立場をよく考えておく必要があると思っております。(小林(進)委員「政治家中曽根には変わりはない、そんな使い分けはだめだよ」と呼ぶ)#5
○岩垂委員 揚げ足をとるつもりではございませんが、ときどきお上手に両方を使い分けられるということをいま小林先生もおっしゃっているわけですが、その傾向がございますので、念を押したわけでございます。二番目は、憲法九十九条は、憲法を尊重し擁護する義務を規定していますが、総理大臣や国務大臣は現行の法体系をみずから国民に遵守を求める立場、そして同時に自分自身がそれを守っていかなければならぬという立場でございますから、憲法を守る姿勢というものを、総理を初めとする閣僚はより積極的に国民に対して呼びかけていく責任があると思いますけれども、その点はいかがでしょうか。
#6
○中曽根内閣総理大臣 その点は、私もそのように思います。日本は法治国家でございますし、特に憲法というものは国の根本規範でございまして、国務大臣、国会議員、公務員はこれを遵守する、そう憲法でも明定されているところでございまして、誠実に守らなければならないと思っております。#7
○岩垂委員 奥野先生がいらっしゃって大変恐縮なんですが、かつて奥野先生が現職の閣僚として改憲問題に触れた御発言をなさって国会で問題になりました。このときに鈴木前総理は、政治家の信念として相入れないことであれば、閣内を去っていただく以外にないという厳しい御発言をなさいました。私は、中曽根内閣の閣僚はそういうことをおっしゃる方々はいないと思いますけれども、しかし万が一そういう場合には、鈴木前総理がおとりになったような毅然とした態度を閣僚に対して示していただけるかどうか、これも蛇足でございますが、承っておきたいと思います。#8
○中曽根内閣総理大臣 いままでの国会における御発言をお聞きいただきましてもわかるように、現内閣の閣僚はみんな私と同じ考えを持ち、同じ発言をいたしておりますから、そういう御心配はないと思います。#9
○岩垂委員 言うまでもないことですけれども、中曽根内閣は政権の立場を利用して改憲のための世論操作というふうなもの、あるいはそれに疑われるものをなさることはしないというふうにお約束いただけますか。#10
○中曽根内閣総理大臣 政権の立場を利用して、そういうようなPRがましいことをやろうという考えはございません。私が念願しておりますのは、民主主義社会においてはタブーはない、そういう一般論から見まして、言論の自由あるいは基本的人権、そういうような問題をあくまで尊重していきたいと思っておるところです。#11
○岩垂委員 民主政治といいますか政党政治のルールとして、憲法改正などの場合には総選挙で憲法のどこをどのように変える、そのことについて国民に信を問う、そういうより具体的な方針や政策内容をはっきり示して国民に信を問うのがルールだというふうに思いますけれども、総理はその辺はどのようにお考えになっていらっしゃいますか。#12
○中曽根内閣総理大臣 憲法の問題は、国政上の最大重要問題であると思います。したがって、これが改革とか変改を加えるという場合には、当然国民に信を問うということが民主的な態度であると思います。しかし、いまの現内閣におきましては憲法改正を政治日程にのせるということはやりませんから、もし万一、将来選挙がある場合でも、憲法改正とかという問題をわれわれの選挙の題目に掲げる、そういう考えはございません。#13
○岩垂委員 総理大臣は現在の憲法を高く評価して、平和主義、民主主義あるいは基本的人権の尊重、ときに国際協調主義といる言葉を言われることもございますが、を強調してこられました。その認識の中には憲法の前文及び第九条ももちろん含まれるだろうと思いますけれども、その辺の御見解を承っておきたいと思います。#14
○中曽根内閣総理大臣 いまの憲法におきまして、前文もあるいは本文も一体をなしておると思うのであります。そういう意味におきまして、この憲法全体の果たした役割り、戦後社会における役割りについては、前にここで高く評価しておると申し上げたとおりでございます。#15
○岩垂委員 もう一度申しますが、第九条も含めているというふうに理解してよろしいですか。#16
○中曽根内閣総理大臣 日本国憲法が戦後の歴史に果たした役割りを高く評価しておる。その中には、前に申し上げましたように、憲法の内包しておる平和主義という考え方も同じように役目を果たしておると考えております。#17
○岩垂委員 個人によってそれぞれ言い方があろうと思うのですが、鈴木前総理は、憲法を尊重し、擁護するということは、先ほど来強調いたしました、これは憲法九条を含め、前文も含めまして全体を尊重するという意味でございますという答弁をなさっておられます。それと同じだというふうに考えてよろしゅうございますか。#18
○中曽根内閣総理大臣 この全憲法と申しますか、いまの憲法というものは前文から全部にわたって一つの連係、連関を持っておると思っております。したがいまして、この日本国憲法そのものの価値というものについて、前に申し上げましたように、戦後史における役割りを高く評価しておる、その中には平和主義ももちろん含まれておると申し上げる次第です。#19
○岩垂委員 それでは、九条それ自身も含まれているというふうに私は理解をいたしますが、よろしゅうございますね。#20
○中曽根内閣総理大臣 私は、前から申し上げますように、何条、何条という個々の条文に対する見解はここでは申し上げておらないわけです。しかし、平和主義、民主主義、基本的人権の尊重、そういう原則については申し上げておるのでございまして、それで御了解願いたいと思います。#21
○岩垂委員 大変しつこくて恐縮なんですけれども、やはり私は戦後の日本の歴史を振り返ってみて、朝鮮戦争もあった、あるいはベトナム戦争もあった、その中で日本が戦争に直接的に巻き込まれない状態で今日まで来たということの意味は、だれが何と言っても憲法第九条の位置が厳然としてあったからだと思うのです。だから、憲法全体を評価なさるという以上はやはり九条それ自身をも評価なさっている、とりわけ平和主義ということを強調される以上は、その辺のところは総理の認識としてはっきりさせていただきたい、私はこのように思います。いかがですか。#22
○中曽根内閣総理大臣 前から申し上げますように、個々の条文あるいは文章につきましての見解の表明は避けさせていただいておりますので、この憲法に内包されておる平和主義のこの崇高な精神については、非常に私も敬意を表している、これを守っていきたい、こう考えておるわけです。#23
○岩垂委員 自民党の一部の人々が、内閣に憲法調査会をつくるべきだというふうなことを発言されておられるわけですが、これについては総理はそんな気持ちはないというふうに明言していただけますか。#24
○中曽根内閣総理大臣 いま、そういう気持ちは持っておりません。#25
○岩垂委員 総理が就任直後に外人特派員協会に配付した「私の政治生活」という英文のパンフレットの中に、自前の自衛力の保持について疑問の余地を残すような憲法は改定されるべきであるという、第九条改正論が述べられているようであります。この点、総理はいまどのようにお考えになっていらっしゃるかということを私は伺っておきたいと思います。#26
○中曽根内閣総理大臣 それは、昔そういう考えを持っておりました。現在は憲法を遵守していく、そういう立場にあることを明らかに申し上げておきます。#27
○岩垂委員 同じパンフレットの中で、「私は、真の独立は自国の領域防衛を他国の軍事力に大きく依存する道を選んでいる限り不可能だと信じている。」というふうにも書かれています。総理の現在の日本に対する認識といいましょうか、真の独立国ではないというようにさえとれるわけです。これはちょっと揚げ足取りの議論になるのかもしれませんが、その辺の御認識はどのようにお考えになっていましょうか。#28
○中曽根内閣総理大臣 私は、国家というものはやはり自分で自分の国を守るというところが本筋であり、普通であると思っております。そして、自分の主権というものの作用によってすべて自主的判断をもって行う、そういうことが独立国家の本旨であると考えております。そういう意味におきまして、安保条約を結ぶということも自主的意思の表現でありまして、これも自主防衛の一つの、自主防衛と申しますか、自衛権を発動してみずからを守るという一つの態様であると考えております。したがいまして、私は安保条約というものの機能を重視しておるわけであります。しかし、さはさりながら、自分でまずみずからを守るという精神のない国を外国が守ってくれるはずはないのでありまして、そういう意味におきましてもまず自分の国は自分で守る、そういうことを確立して、その上に立って安保条約というものを機能させる、そういう筋道のことを考えております。
#29
○岩垂委員 「真の独立は」云々ということになっていますものですから、どうも総理は安保に依存をしなければならない日本というのは真の独立国ではないというような認識に立って、安保を廃棄して、日本は日本で自前で守っていく、そういうことをおっしゃったことがあるものですから、その点を私は念のために聞いたわけでございます。続いて伺いますが、鈴木前総理は、鈴木内閣は憲法改正を全く考えていない、たとえ三分の二以上の議席をとっても国民世論が成熟しなければ改憲を直ちに発議すべきではないと国会で答弁されておられます。鈴木政治を継承なさっている、あるいはされるというふうにお考えになっていると思う中曽根総理の見解も同じだと考えてよろしいかどうか、御見解をいただきたいと思います。
#30
○中曽根内閣総理大臣 私は、憲法改正問題を現内閣は政治日程にのせることはないということをはっきり言っておるのでございますから、そういうことは起こることはないと考えております。#31
○岩垂委員 小選挙区制導入への具体的な政治手続をとるというふうなお考えはないというふうに判断してよろしいでしょうか。#32
○中曽根内閣総理大臣 選挙区制の問題というのは民主主義のグラウンドを形成するもので、そういう意味におきましては、各党各派がよく話し合って、ゲームを行う場合のグラウンドの整備ということでもありますから、協調して話し合って行うべきであると考えており、私は小選挙区制を行うといま考えてはおりません。#33
○岩垂委員 憲法の中には、国際紛争を解決する手段として、国権の発動たる戦争と武力による威嚇または武力の行使は永久にこれを放棄するという立場がございますが、それは日本の外交のみならず、内政の基本原則として貫かれるべきだと私は思いますが、総理の御見解を念のために承っておきたいと思います。#34
○中曽根内閣総理大臣 内政の基本原則という意味がよくわからないのでありますが、どういう意味でおっしゃったか教えていただきたいと思います。#35
○岩垂委員 国権の発動たる戦争あるいは武力による威嚇あるいは武力の行使、まあ武力の行使は当然のこととして、日本の国の政治の体制がそういうふうなものになっていく危険というものがやはりあると思うのです。また、心配をしている人がいると思うのです。そういう国内の政治のあり方を含めて、外交の基調と考えていらっしゃるかどうか、国政の、国内の内政の基調として考えておられるかどうか、そういう意味でございます。#36
○中曽根内閣総理大臣 そういう体質へ著しく傾いていく、また外国から誤解を受ける、そういうことは避けなければならぬと思います。#37
○岩垂委員 これも言わずもがなでございますけれども、これまでの政府の見解によってはっきりしているように、国際紛争のうち自衛権行使が認められるケースは、わが国に対する明日な侵略以外には絶対にあり得ない、これは政府の答弁でございまして、私どもの意見とそれぞれ違いがあったとしても、政府の見解としてこれを引き継いでいるというふうに考えてよろしいでしょうか。#38
○中曽根内閣総理大臣 たしか急迫不正の武力侵入というような具体的解釈があったのではないかと思います。#39
○岩垂委員 シーレーンの問題が議論されています。実はこの問題は、昭和四十七年ごろに同じような議論がございました。その際、防衛庁の久保防衛局長が、憲法のたてまえから言えば、海外における権益を自力で擁護する発想はあり得ない、相当遠くまで有効に海上能力を維持するだけの防衛力というものは日本としては持ち得ないということを、議事録を読みましたら書いてございます。さらに、当時の増原防衛庁長官も、憲法の示す専守防衛に徹するという意味を量的にもしっかりと抑え、インド洋までも伸びていくような方向はとるべきでない、武力による護衛ということ以上に外交によるそういう事態の発生防止、各国との友好関係の発展、持続、そういうことでカバーすべきであり、また、せざるを得ないというふうに答弁もされておられますが、この認識は今日も変わっていないと判断してよろしいでしょうか。#40
○中曽根内閣総理大臣 その考えは正しいと思います。#41
○岩垂委員 ときどき鈴木前総理のことを言って恐縮ですが、いわゆるシーレーン防衛について、これは実はナショナル・プレス・クラブで記者からの質問に答えて、憲法を踏まえつつ、かつ自衛の範囲内で日本の周辺数百海里、シーレーンを設ける場合には約一千海里、それを自衛の範囲内で整備していくということをしゃべっただけであって、それは対米公約ではないということを強調されておられました。中曽根総理は、今度の訪米でシーレーンあるいは三海峡封鎖をレーガン大統領に公約したというふうに私どもは理解してよろしいのかどうか、その点をはっきりさせていただきたいと思います。
#42
○中曽根内閣総理大臣 日本の防衛及び防衛のやり方というものは日本が独自に考えてやる、そういうものでありまして、シーレーンの問題にせよ、あるいは周辺数百海里とかあるいは列島防衛にせよ、それらはみんな日本人が決めることであるとかたく信じております。したがいまして、シーレーンの問題についてアメリカに対していろいろ公約するとかなんとかというようなことはやっておりません。ただ、鈴木さんと同じような表現の発言はいたしました。それは、周辺数百海里、もしシーレーンを設ける場合はこれこれである、それは共同研究でこれから勉強する課題である、そういうふうに申し上げました。#43
○岩垂委員 くどくて恐縮ですが、それは対米公約ではないというふうに判断してよろしゅうございますね。#44
○中曽根内閣総理大臣 鈴木総理の御発言や御行動が先方にどう受け取られるか、それは私は知りません。私に関する限りはいまのような発言をしたと申し上げる次第です。#45
○岩垂委員 これは防衛庁に伺っておきたいと思うのですが、総理がときどき三海峡封鎖のことを、本土防衛のためというまくら言葉を後から添えて発言をなさっていらっしゃいます。それから、シーレーンについても実はさまざまな見解を、質問がいろんな角度からあるものだからそういうふうに答えることになるのかもしれませんけれども、いわゆる通峡阻止といいましょうか、海峡封鎖といいましょうか、それとシーレーンとの関係はどうなっているのか、その目的と対応を国民の前にしっかり示してほしいのです。そうでないと、どういうことになっているのか、ある人がこう聞くとこう答える、ある人がこう聞くと違ったことを答える。したがって、実態はどうなっているのかということに関連をしていろんな不安が起こっていると私は思うのです。総理の御発言でもそういう面がございます。そういう点で、これはもう防衛庁長官ということになりましょうか、きちっとしたお答えをいただきたいと思うのです。#46
○谷川国務大臣 通峡阻止という面から、シーレーン関連についてまず御報告申し上げますが、海上交通の安全確保に当たりましては、あるいは哨戒、あるいはいろんな形の護衛、あるいは海峡、さらには港湾の防備、こういった実はいろんな形の作戦の組み合わせによる、まあわれわれこれを累積効果と呼んでおりますが、それによって確保するということを従来から申し上げてまいっておるわけでございます。そして総理は、その問題について、特に本土防衛のために海峡防備というものはあるんだ、こういうお話もございますが、これは全く一つの例示でございますが、北海道と本州の間にありまする津軽海峡などがまさに総理のおっしゃっておられまする本土防衛のためというのに、直接これは国民がそういうふうに御理解はいただけるだろうと思います。それから、それ以外の、われわれ俗に三海峡と申しておりますけれども、これも有事の場合には、あるいはそういうものについていろいろの形の周辺の武力攻撃が行われてきたときには、これについてここを防衛するためにいろいろな手だてがある、そういうことで通峡阻止もそのうちの一つ、こういうことで御報告をしてきておるわけでございます。
いずれにいたしましても、海上交通の安全確保のためにはただいま申し上げました日本の、わが国の周辺海域の安全確保、防備というものはきわめて重要な作戦だ、私どもはそう考えておりまして、総理の御発言の趣旨もそのようなことについてお触れになったのだ、こういうふうに御理解いただきたいと思いますし、私どもそういうふうに理解をいたしておる次第でございます。
#47
○岩垂委員 アメリカが勝手に通峡阻止をやるというふうなことはあり得ないというふうに、はっきり理解してよろしいかどうか。#48
○谷川国務大臣 この問題につきまして少し詳しく御報告をいたしますが、わが国が攻撃を受けております場合、わが国に対する武力攻撃が発生をいたしております場合に、海峡防備については日米の間で俗にガイドラインというものがございまして、その中において、わが国の海上自衛隊が主に行動をいたす。しかしながら、日本有事の場合でございまするから、米軍と日本とで共同対処することがあり得るわけでございますが、その場合には、わが国海上自衛隊の作戦行動につきまして、米軍がこれを援助するという形になってございます。これは確立をいたしております。それからもう一点、わが国が直接武力攻撃を受けておらない、わが国有事以外の場合にどうかという趣旨の御質問もあるいは加えておありになると思いますが、これにつきましては、わが国に相談なしに、アメリカが一方的に直ちにわが国周辺の海峡を封鎖するなんということは、日米安保条約を持っております日本とアメリカの間でそういう行為があり得るとは、とても私どもには考えは及びません。
#49
○岩垂委員 つまりそれは、日本有事以外にはやらない、あるいはアメリカの要請でやるというふうなことはないというふうに理解していいのですか。#50
○谷川国務大臣 わが国周辺の海峡におきましても、当然公海の範囲もございます。そこにおけるアメリカのみずからの自衛権の発動、それは集団自衛権であろうが個別自衛権であろうが、アメリカの作戦行動が起こるということは、理論的にはあるかもしれませんけれども、いずれにしましても、わが国周辺の海峡でございますと、この海峡を実力をもって阻止するということは、周辺の沿岸国に与える影響その他から考えましてきわめて大きな意味合いを持っておりまして、こういう問題を、日米安保条約を持ってわが国と密接な関係のございまする米軍が、日本に相談なしに行うということも考えられませんし、また、仮にただいま申し上げましたようなことで、日本有事ではない場合に米軍がそういうことを日本に要請してまいりましても、わが国としてそれに応ずるというようなことはございません。それははっきり――アメリカが一方的に、そういうことが起こり得るということはとても考えられませんが、そういうことが仮にあるようなことがあって、また、わが国有事ではない場合に、わが国がただいま申し上げましたような形で応ずるというようなことは考えられない、こう考えております。#51
○岩垂委員 きのうの新聞の夕刊にそれぞれ出ておりましたが、アメリカのレーマン海軍長官ら海軍の三高官が十七日に下院軍事委員会の公聴会で証言をして、日本の海峡防衛が、ソ連海軍力の太平洋進出を防ぐための米戦略の一環として組み込まれていることを強調して、特に、米国が機雷封鎖を実施する必要があると認める海峡がたまたま同盟国に接しているケースが多く、その代表的な例が日本だ、こういうふうに実はなっているわけであります。これはやはり集団安保というものとの関係なしに議論することができないと思うのです。だから、私は先ほどから防衛庁長官に、アメリカから要請があったからといってやるものではない、日本が主体的にそれは決めるものだというふうに伺ってきたわけですが、その点の疑念をもう一遍、昨日の新聞に出ていたことを含めて御答弁をいただきたいと思います。#52
○谷川国務大臣 ただいまのレーマン発言と称されるものは、私も新聞では拝見をいたしました。しかしながら、詳細な内容についてはまだ実は承知いたしておりませんで、この時点に、正式にこれについてコメントいたすことは差し控えたいと存じます。しかし、少なくとも私どもが知り得ている範囲の中では、御指摘のような具体的な発言は実は見当たらないわけなんでございます。それはそれといたしまして、アメリカといたしましては、過去の国防白書等におきまして、従来からもいわゆる三海峡が地理的に見て重要である旨は述べてきておるわけでございます。今回のレーマン発言にかかわらず、そういう形の発言は、アメリカの国防白書等にも述べられてきておるわけでございまして、したがって、もしレーマン発言がそういう種類のものであるとすれば、これは従来からのアメリカの認識を述べたものだ、こういうふうに考えております。
なお、くどいように申し上げますが、恐らく先生の御指摘の中でも一番重大というふうにあるいは先生はお感じになっておられるかもしれませんが、その問題は、先ほど来私が答弁さしていただいておりますように、わが国有事の場合に、わが国に必要な防衛の範囲の限度内においてわが国が行うものでありまして、わが国に対する武力攻撃がない場合に、仮にアメリカから海峡封鎖の要請があったとしても、わが国はそういうようなことはでき得ない、行い得ない。もう一遍申し上げますが、わが国は、わが国有事でない場合に、仮にアメリカからそういうような要請があっても、それは行い得ない、こういうことでございます。
#53
○岩垂委員 もう一問。いまの下院軍事委員会の問題に関連して、第三海兵水陸両用部隊の役削りについて、それは極東におけるプレゼンスだけではなくて、ペルシャ湾など南西アジア地域の緊急兵力増強や同地域有事への対応のために投入可能な前進展開戦力だというふうに述べておられます。これは沖縄、岩国ということになってくるわけでありますが、こういうケースの場合には当然事前協議の対象になるというふうに考えてよろしゅうございますか。
#54
○谷川国務大臣 この種の問題につきましては、いろいろ想定される問題もございまするし、過去、日米間においてしげしげといろいろな協議が行われてございますので、この問題については政府委員から答弁をいたさせます。#55
○栗山政府委員 御質問の御趣旨を必ずしも正確に理解したかどうかわかりませんが、御承知のように、戦闘作戦行動の基地として日本の施設、区域を米軍が使用するという場合であれば、これは当然のことながら岸・ハーター交換公文に基づいて事前協議の対象となる、しかし、それ以外のものであれば、それは事前協議の対象にならない、こういうことでございます。#56
○岩垂委員 その点はもう時間がございませんから詰めません。総理に伺いますけれども、米艦艇の護衛問題と関連をして、どうも個別的自衛権からなし崩し的に集団自衛権にのめり込んでいく危険性というものを私どもは感じざるを得ないわけです。国民の多くも、そのことは危惧していると思うのです。今後、集団的自衛権の行使というふうなことを疑われることがあるようなことは一切避けなければなりませんし、これは念のために申しておきますけれども、憲法解釈の変更というようなことは、われわれは絶対に予想する必要はないというふうに考えてよろしゅうございますか。
#57
○中曽根内閣総理大臣 御発言の御趣旨がよくわかりませんが、憲法を遵守すると前から申し上げているのでございまして、その精神に徹してまいりたいと思っております。#58
○岩垂委員 若干の学者が、特に政府周辺なんというふうに言っては恐縮ですけれども、集団的自衛権というものも憲法上認められている、そういう立論をなさる方がいます。だから私は、そういう拡張解釈がなし崩し的にやられていく心配はないんだなというふうに私自身も思いたいし、総理もそのことを約束していただきたい、こう思うのです。その意味です。#59
○中曽根内閣総理大臣 前からここでも申し上げますように、わが国の防衛は、わが国自体を防衛する、言いかえれば、民主主義を基調とするわが国の平和と独立を武力攻撃から守る、そういうことがわれわれの本旨でございまして、そういう意味におきましては、個別的自衛権の範囲にとどまると前から申し上げているとおりであります。#60
○岩垂委員 総理は、いかなる場合でも、自衛隊の海外派兵に法的根拠を保障するような自衛隊法の改正はしないというふうに判断してよろしいか。#61
○中曽根内閣総理大臣 この点も従来内閣、私及び法制局長官が申し上げたとおりでございまして、武力攻撃を目的とする武装兵力の海外派兵というようなことはできない、そう考えております。#62
○岩垂委員 昭和三十一年二月二十九日の衆議院の内閣委員会における鳩山内閣の、敵地攻撃と自衛権の範囲についての政府統一見解がございます。これはもう総理は専門ですから御存じのとおりです。私ども、これらについて意見を持っていないわけではないのですが、それはそれとして、総理も御存じだろうと思うので、それ以外に他国に対して自衛権を行使するということはあり得ないというふうに判断をしてよろしいか。何回か昔の答弁を、統一見解なり政府答弁を引き出して恐縮なんですが、やはり国民が心配をしているものですから、私自身も心配なものですから、歯どめをかける意味で念のために伺っているので、その点を御容赦いただいて御答弁を願いたいと思います。#63
○中曽根内閣総理大臣 その点は岩垂さんのお考えと同じであります。つまり、鳩山内閣の答弁以上には出ない、そういうことであります。#64
○岩垂委員 そうすると、たとえば航空母艦とか爆撃機など、もっぱら敵地攻撃を目的とする兵器というものは、専守防衛という立場や統一見解の中の必要最小限の枠からははみ出るものだというふうに考えてよろしいか。#65
○中曽根内閣総理大臣 その種の攻撃的兵器を持たないというのが、われわれの防衛の限度であります。#66
○岩垂委員 だから、総理が不沈空母だなんと言うと、やはり問題になるのです、攻撃的兵器なんですから。そういう点ではやはり不沈空母という言葉も問題だろうと思うのですが、次に進みます。国会が決議をしてまいりました非核三原則、これには領海通過、寄港ももちろん含まれています。この国会決議は今後必ず守っていくというふうに御答弁いただけますか。
#67
○中曽根内閣総理大臣 その国会決議を遵守いたすべく政府は答弁していると思いますが、そのとおり実行してまいりたいと思います。#68
○岩垂委員 総理にお願いをしたいのですけれども、非核三原則を遵守していると政府が一方的に判断をしても、たとえば巡航ミサイルみたいなものを考えてみますと、あるいは原子力潜水艦の寄港などというものを考えてみますと、これはもうライシャワー発言以来のさまざまなやりとりですから、ここでは繰り返しませんけれども、やはり非核三原則が踏みにじられているのではないかという国民の疑惑やあるいはそういう不安に対して、峻厳に政府として対応してほしいと私は思いますけれども、その点も御努力願えますね。#69
○中曽根内閣総理大臣 ただいま申し上げましたように、遵守してまいります。#70
○岩垂委員 非核三原則というのは、国会では衆参両院で四回にわたって決議をしてきましたけれども、総理はこれを国是というふうにお考えになっていらっしゃいますか。#71
○中曽根内閣総理大臣 国是という言葉がどういうことを意味するか、その定義にもよると思うのですね。非核三原則は、政府も守り、また国会でも決議がある、そういう意味における重さを持っておると考えております。#72
○岩垂委員 前の総理は、国是だというふうに歴代答えておりますが、国是ということの重さ、国民の意思、総意、そして、それを曲げない、それがやはり国是という立場だと思うのです。その意味では国是だというふうに私は思いますので、くどいようですが、もう一遍御答弁をいただきたいと思います。#73
○中曽根内閣総理大臣 ただいま申し上げましたように、国是という言葉の定義がどういう意味か、必ずしもはっきりしてないと思いますが、ともかく政府も非核三原則を守り、国会におきましても決議がある、そういう重要な政策であるというふうに重みを持っておると心得ております。#74
○岩垂委員 わが国の防衛力がどこまで大きくなっていくのか、際限のない増強を目指しているのではないかという疑問に対して、昭和五十二年、五十三年ころの防衛白書によれば、これが基盤的防衛力構想の考え方を述べたくだりなんですけれども、わが国の防衛のあり方をできる限り具体的に明示することが必要だという、実は長い説明があるのです。それは御存じだろうと思いますから、もう読みません。この立場は現在も変わっていないというふうに理解してよろしいか。また、防衛力の限界というものについて、総理はいま何を考えていらっしゃるか、その点を御答弁いただきたいと思います。#75
○谷川国務大臣 わが国の防衛力は、憲法及び基本的防衛政策に従いまして、わが国国防に必要な最小限度の範囲内で自主的に整備をする、これを最も基本的な大事なところといたしておりまして、政府といたしましては、こういう考え方のもとで、現在防衛計画に定める防衛力の水準をできるだけ早期に達成をいたすよう努力いたしておるところでございます。したがって、現在「防衛計画の大綱」によりまして、この水準をできるだけ早期に達成するために、五十八年度を初年度といたしまする、俗に五六中業と呼ばれておりまする計画を持っておるところでございます。#76
○岩垂委員 防衛白書にはっきり述べられている「防衛力整備上の国内的諸条件への配慮」として、経済財政上の制約、隊員確保上の制約、施設取得上の制約という三つのことが指摘されておりますけれども、この制約は今日も変わっていないというふうに判断をしてよろしいかどうか。#77
○谷川国務大臣 もちろん基本的に変わっていない、こう判断をいたしております。なお、もう一点付言をさしていただきますと、私どもといたしましては、一面において質の高い防衛力を着実に整備をいたしたい、こう考えておりますが、当然のことでございますが、再々答弁をさしていただいておりまするように、防衛力の整備は、そのときどきの経済財政事情等を勘案しながら、国の他の諸施策との調和を図りつつ行うものでございまして、ただいま御指摘のありました白書の中にございました経済財政上の制約とか、あるいは隊員確保上の制約だとか、あるいは施設取得上の制約だとか、こういった国内的な制約ないし条件については、これまた当然のことでございますけれども、適切に配意をしていくべきことは当然だ、こう考えながら防衛力の整備を進めております。
#78
○岩垂委員 五十八年度の防衛予算に伴う後年度負担の数字が、きのうあたりの新聞に出ているところもありますが、これ、ちょっとはっきり示していただけませんか。#79
○矢崎政府委員 お答え申し上げます。五十八年度の防衛予算の後年度負担の総額は約一兆九千七百五十億円となっております。これを今後四年間にわたりまして支出する予定にいたしておりますけれども、現在の時点での試算を申し上げますと、五十九年度が約九千九百億円、六十年度が約六千三百十億円、六十一年度が約三千百二十億円、六十二年度が約四百二十億円、以上のような見込みになっております。
#80
○岩垂委員 それは一体、対前年度比で何%防衛費を押し上げているのか。あるいは人件費、これは後ほど人事院勧告の関連で防衛庁長官にも聞こうと思っていますが、これからふえていく人件費。それから、内閣委員会で私も議論をしましたのですが、退職金の支払いを事実上繰り延べたようなかっこうの制度になっているわけです。それらのことも含めて、私は、GNPの一%というのは、どこか削らなければ来年超えてしまうのではないだろうかというふうに思いますが、その辺を含めて防衛庁長官、細かい議論、数字のやりとりはしませんから、御答弁をいただきたいと思います。#81
○谷川国務大臣 これもまた再々答弁させていただいておりますごとく、わが国の国民総生産の一%を超えないことをめどにして防衛力整備を続けていくということは、五十一年に閣議決定をいたしておる事項でございまして、防衛庁長官といたしましては、できる限りこの閣議決定は遵守し、その線に沿って防衛力の整備を進めていきたい、こう考えております。しかしながら、防衛力の問題につきましては、これは毎年の予算においてつくり上げていくものでございますが、その年度年度におきましてどういう形の防衛力整備を図るかということは、その年度年度の中で行われる事柄でございまして、ただいま経理局長、政府委員の方から答弁させていただきましたような事柄につきましても、実を申しますと、正面装備と呼ばれている問題につきましては、われわれ相当精査いたして、いろいろな考え方を持ちながら検討いたしてはおりますが、その他の問題、いまちょっと先生御指摘のございました、人件費なんかを含めましたその他の問題につきましては、実はそれほど詳しい、将来どうなるかという検討は、この計画の中にはございません。その他から言いましても、防衛力そのものの整備につきましては、少なくとも予算の面で見ますと、いろいろそのときどきの経済情勢あるいは国民の感情、それから国際情勢その他によって変わってくるものでございます。と同時に、一方のわが国の国民総生産額におきましても、これもまた御案内のごとく、経済の事情によって非常に大きくいろいろと変わってまいります。したがいまして、いま直ちにこの時点で、五十九年度予算を含め、将来の防衛庁予算がどういう形になって、したがって、この一%の閣議決定がどういうふうになるかということは、実は申し上げにくいところでございます。
しかしながら、すでに御案内のごとく、五十八年度予算において〇・九八%という、きわめて一%に近いところへ来ておることも事実でございまするし、また、わが国の経済の成長が今後どういう形になるか、私どもは存じませんが、そういう問題も一つございます。それから、最後に御指摘ございましたが、実は人件費につきましても、五十七年度におきましては少なくとも閣議決定はいたしておりますが、人事院勧告の扱いなどもございます。あれやこれやいろいろございまして、いまここで直ちに、しからば一%がどういう形になるかということはお答えしにくいのでございますが、われわれとしては、もし、そういう状態が起こったときにどうするかという場合には、これまた過去において何回か御答弁させていただきましたように、その時点において考えさせていただきたい、こう考えておる次第でございます。
#82
○岩垂委員 先ほど質問をして、いわゆる制約、諸条件ということを指摘をされました。総理に伺いますが、経済財政上の制約、これは恐らく総理の頭の中にはしっかりあるのだろうと私は思うのですけれども、その意味では防衛費の一%の枠をできるだけ守っていく、とりわけ五十九年度は、予算編成に当たって、国民生活への配慮というものを十分に考えながら、その枠を守るために努力をするというふうに御答弁いただけませんか。
#83
○中曽根内閣総理大臣 わが国の国防の基本方針におきましても、やはり外交を非常に重要視して平和政策を遂行していくということ、それから民生の安定についても十分配慮をしていくこと、そして国力、国情に応じて必要な防衛力を整備していく、そういう原則がございまして、民生やらあるいは教育そのほか一般政策とのバランスという問題も十分考えていかなければならぬと思っております。そういう努力をいたしながら、一%の枠はいま変える必要はない、そういう考えに立っております。#84
○岩垂委員 くどくて恐縮ですが、変える必要はないということと同時に、そのために努力をするという御判断を示していただきたいと思います。#85
○中曽根内閣総理大臣 守るために努力をしてまいりたいと思います。#86
○岩垂委員 歴代の総理大臣は、わが国は平和憲法に基づいて、経済大国ではあるが軍事大国にはならない、そして非核三原則はこれを堅持する、専守防衛に徹する、シビリアンコントロールを堅持していく、また、近隣諸国等に脅威を与えるような防衛はしないというふうに発言をされておられました。(小林(進)委員「いま中国も、危ないと言っているよ、二階堂さんに」と呼ぶ)いま私も言おうと思ったことを小林先生がおっしゃったのですが、きのう中国の外相も、他国に脅威を与えないような配慮をというくぎを刺したというふうに言われております。くぎを刺したかどうかというその判断は別問題でございますが、他国に脅威を与えないということは、日本の側で判断をする必要もあるけれども、相手の国もどうそれを考えるかという問題でもあるわけです。しかし、日本の立場から考えて脅威という基準といいましょうか、脅威を与えないという基準というものをどんなところに置いていらっしゃるのか、これは総理大臣の御判断を示していただきたいと思います。#87
○中曽根内閣総理大臣 中国首脳部と二階堂さんとのお話の中間報告を私はけさ読みましたが、先方におかれては、わが方の防衛政策をよく理解されて、そして日本のいまの防衛政策について脅威を感じたりあるいは異議を差し挟むということはない、よく理解していただいた、そういうふうに報告を受けております。なおまた、先般マレーシアのマハティール首相がおいでになりましたときに、マラッカ海峡問題等も出まして、私がよく日本の防衛政策を説明いたしましたら、それならば十分安心で心配はありません、そういう点については自分もマレーシアの国内はもとより近隣諸国にも日本の理解を得るように協力しましょう、そういう御発言もいただいております。
私は、日本の世界に対する役割りというものを考えました場合に、軍事的貢献というものは考えていない。むしろわれわれは、経済力あるいは工業技術力をもって発展途上国に対する経済協力あるいは文化交流、これがわが国の対外政策の国是である。これは国是という言葉を使っていいと思うのです。(岩垂委員「ここで国是を使ったのじゃ困るじゃないですか」と呼ぶ)私の意味における国是です。要するに、国の重要基本政策という意味ですね。また、現内閣の重要基本政策である、そう申して差し支えないと思うのです。いま岩垂さんは岩垂さん流で国是という言葉をお使いになったけれども、あなたがそうおっしゃったから、私は私なりに国の重要なる基本政策である、そういう意味で申し上げているわけです。やはり発展途上国に対する技術や経済協力あるいは文化協力という面がわれわれが世界に向かって貢献すべき一番大事な仕事である、軍事的な貢献というものは考えてはいない、そういうことをこの際はっきり申し上げておきます。
#88
○岩垂委員 言わずもがなのことですけれども、国の重要な政策、それが国是だとおっしゃるならば、非核三原則は国の重要な政策ではないということになっちゃうのです。だから、私、戻って恐縮なんですが、非核三原則というのはやはり国是だ、国の重要な政策だと、もっと素直におっしゃったらいかがでしょうか。御答弁をいただきます。#89
○中曽根内閣総理大臣 いまのような意味において申し上げるならば、ともかく国の最も重要な政策である。しかも、内閣及び国会においてそれを実行していくということを決めている問題でございますから、岩垂さん流に申し上げれば、国是と申しても差し支えないと思います。#90
○岩垂委員 岩垂さん流にと言われても困るのです。総理自身が、国の重要な政策だから国是というふうに、いま中曽根内閣の外交方針のいわばスタンスというかドクトリンを示されたわけですから、やはり国是というふうに言ってもらわぬと、歴代総理との間にむしろ何か違ったニュアンスがあるのじゃないかというふうに疑われる。そこがレトリックの使い方などの問題でしばしば問題になることなんです。もっと素直に非核三原則は国是であるというふうにおっしゃっていただきたいと思いますね。#91
○中曽根内閣総理大臣 いまの私が申し上げました日本の世界に対する役割りというものは、軍事的貢献よりも発展途上国に対する経済協力あるいは文化協力というものが第一義で、これが最大の大きな仕事であると申し上げましたが、これは国会の決議とかそういうものはなくして、現内閣がとっておる最大政策、そういう意味で申し上げたわけでございます。したがいまして、基礎が違うわけです。そういう意味におきまして、いま内閣がとっておる政策ですから、日本国政府がとっておる政策、そういう意味においては国是というふうに申し上げたわけであります。そういう強い意思を持ってこれを遂行していく、そういう意味であります。また、非核三原則は、国会というものもお入りにもなっておりますし、それから内閣もそれを遵守するという意味におきまして、基礎が違うわけであります。しかし、ともに重要な国の政策である、これを歴代の内閣も守ってきたし、現内閣も守っていく、そういう非常に重い重要政策であるというふうに申し上げているわけです。
#92
○岩垂委員 国是だというふうに私ははっきり申し上げたいのです。そこのところをちょっとごまかすというか、ごまかしていらっしゃらないと思うけれども、やりとりを聞いているとごまかしている、そこは逃げたい。だって、内閣の政策が国是で、国会をも含めた国民の意思が国是でないというのは、これは主客転倒です、総理。だから、私もくどくて大変恐縮ですけれども、非核三原則は日本の国是として守っていく、そうした決意であるという御答弁をいただきたいと思っております。#93
○中曽根内閣総理大臣 国是という言葉の定義によると前から申し上げておるのでありまして、いま日本がとっておる最も重要な政策、基本政策であるというふうに申し上げます。#94
○岩垂委員 そこのところはやりとりをしてもなんですから、次に進みます。事前協議の問題がございますけれども、たとえば米ソの関係が非常に緊迫をした、暗雲が漂ってきたという場合、あるいは有事の場合、アメリカが日本に核を持ち込みたいという事前協議の申し入れがあったときにはどう対処なさいますか。
#95
○谷川国務大臣 従来どおりの姿勢でございまして、これは拒否をいたします。#96
○岩垂委員 これは防衛庁長官よりも私はむしろ総理に伺いたいのですが、かつて防衛庁の官房長をお務めになった竹岡勝美さんが、その論文の中で、「ソ連に日本への核をも含む「本格的」攻撃の口実を与えぬよう、平和憲法を標榜し、専守防衛・非核三原則を世界に公約し、極東における米ソ有事と云えども日米安保条約の「事前協議制」を生かして日本からソ連に戦争を仕掛ける意図の全くないことを鮮明宣明し、この決意をたとえ不信感を抱かれようとも一億国民の生死にかかる問題として、今や日本への核の傘もゆらいでいる米国にも充分に理解させる日本の政治・外交の努力を衷心より希わざるを得なかった」というふうに指摘しておられます。防衛の専門家の考え方として、私は一つの見識だと思います。もともとこの事前協議条項というのは、日本を自動的に戦争に巻き込まない保障ということの中から生まれた知恵でございます。私もそう理解したいと思います。そういう事前協議条項というものを、たとえば、三つの条項があるわけでございますけれども、その三つの条件を含めて、国民の生命や財産を守っていくという立場で、日本に直接関係がない紛争に際しては、日本の基地やあるいは施設、そして日本からの直接戦闘作戦行動などについて積極的な姿勢、つまりノーと言う姿勢をとり得る、そういう道もある、そのことを総理に御答弁をいただきたいと思います。
#97
○谷川国務大臣 先ほども委員長から御指名でございましたので私が答弁に立たせていただきましたが、委員長、実は事前協議の問題につきましては防衛庁の主管ではございませんので、もしお許しいただければ、主管官庁からの御答弁を指名していただきたい、こう考えております。#98
○栗山政府委員 事前協議につきましては、委員御承知のとおりに、三項目が事前協議の対象になっておりまして、核の持ち込みについては常に拒否をするということは、政府が従来から明確に申し上げているとおりでございます。事前協議の対象になっております三項目以外の問題になりますると、これは安保条約全体、特に六条の問題になろうかと思いますが、これは当然極東の平和と安全のために日本の基地を使うということが安保条約の大前提でございまして、その枠を超えての基地の使用というようなことは認められない、これも従来から申し上げておるとおりでございます。
#99
○岩垂委員 「防衛計画の大綱」とその思想的な背景となっている基盤的防衛力構想というものを変更する意思はない、総理、そのように考えてよろしいですか。私はこれは総理にぜひ御答弁をいただきたいのです。#100
○谷川国務大臣 わが国の防衛力は、憲法及び基本的防衛政策に従ってわが国防衛に必要な最小限度の範囲内で自主的に整備をいたしておるわけでございます。こういう原則の中で、政府といたしましては「防衛計画の大綱」に定める防衛力の水準をできるだけ早期に達成するように努力いたしているわけでございます。したがいまして、現在「防衛計画の大綱」ないし基盤的防衛力構想を変更する考えはございません。#101
○岩垂委員 かつての国会で、有事立法については国民の間に非常に多くの疑問や不安というものを巻き起こしたことは事実なんですが、総理はその立法化をお考えになっていらっしゃるのかどうかという点を聞きたいと思います。#102
○谷川国務大臣 有事立法の研究につきましては、すでに国会に中間御報告を申し上げた第一分類の問題はある程度のところまで作業が進んでございますが、いかんせんこの有事立法の問題につきましては関係する範囲がきわめて多うございまして、その他第二あるいは第三分類につきましてはまだ検討が続いておる、こういう状況でございます。#103
○岩垂委員 これも歴代の総理は、わが国は仮想敵国をつくらない、全方位外交を貫く、こういうことを明言されてこられましたけれども、これは総理もそのように考えていらっしゃるかどうか。――これは総理答えてください、歴代の総理の言葉ですから。#104
○中曽根内閣総理大臣 わが国は専守防衛の精神に徹しまして、憲法の範囲内において防衛を行うものでありまして、仮想敵国は考えません。#105
○岩垂委員 これは外務省にちょっとお尋ねしますが、ニュージャージーあるいはカール・ビンソンなどの日本の寄港について連絡があるかどうか、あるいはその可能性があるかどうか、その点どなたか答えていただきたい。#106
○栗山政府委員 ニュージャージー、カール・ビンソンについては何も連絡を受けてないというふうに承知しております。#107
○岩垂委員 これは防衛庁長官かもしれませんが、最近の新聞で、アメリカの予算局がAWACS六機を日本に対して売却するということを提案をしたようでございますが、これは五六中業の中には入っていないことはもちろんなんですけれども、これを購入するという意思が防衛庁内部にあるのかどうか、御答弁をいただきたいと思います。#108
○谷川国務大臣 現在そのような意思はございません。#109
○岩垂委員 総理、この間の国会で、日米の防衛関係のことについて同心円という言葉をお使いになりました。私は同心円というのはおかしいと思うのです。これは、こういう二つの輪を考えてみて同心円というふうに考えざるを得ないのですが、それだとやはり集団的自衛権の行使だという議論に発展をしかねないと思うのです。お言葉遣いとして正確ではないと思うのです。その点について御見解を承りたいと思います。#110
○中曽根内閣総理大臣 私は、同心円という言葉を、あのときにやりと盾の関係だという日本の防衛の話をたしかしたと思っていますが、つまりアメリカはやりであり日本は盾である、そういう意味においては私は同心円だと思うのです。盾の日本列島防衛という部面は日本がやる。その日本列島防衛のために、やりはさらに外縁の遠いところまでやる。攻撃性という質的性格も変わっておる。そういう意味において、日本列島を中心にして考えた場合に、日本の円があり、さらに攻撃性を持って侵略を防止してくれるというやりの面においては、これはアメリカの力を援用する、そういう形になるので、そういう意味で同心円と申し上げたのであります。#111
○岩垂委員 誤解を受ける言葉遣いではないかと私は思いますが、それは総理の判断ですから、それ以上追及をしようと思いません。アメリカのエンタープライズが佐世保に寄港をするということがはっきりしていますが、これは、これからも繰り返してといいましょうか、横須賀におけるミッドウェーと同じような反復寄港の可能性というものを持っているのかどうか。これは外務大臣でしょうか、御答弁をいただきたいと思います。
#112
○安倍国務大臣 エンタープライズの寄港につきましては、まだ正式には協議の段階に人っておりません。#113
○岩垂委員 防衛問題、憲法問題の質問を締めくくる前に、中曽根総理の、ソ連のバックファイアに対して日本列島を不沈空母化するというような御発言、かつてこれは全斗煥大統領がレーガン大統領の賓客としてホワイトハウスを訪れたときに、やはりプレスセンターで、韓国は特に太平洋における日本とアメリカ防衛の防波堤である、協力してソ連の脅威に当たりたいという記者会見で述べた言葉がございます。こういうふうに結びつけて考えてみますと、韓国は防波堤で第一線で、日本は不沈空母で第二級と、両方協力して、太平洋の向こうのアメリカを守るための役割りを分担をしたのではないかという解説が述べられています。また、運命共同体という言葉も、核戦争に勝ち抜く戦略を掲げて、核戦争も辞さないと言っているレーガン戦略と心中をしようとする言葉ではないかというふうにさえ言われています。アメリカは生き残っても、日本国民の大多数はまず生き残れないのではないかという言葉もあるわけです。
また、三海峡封鎖というかコントロールでも、宗谷海峡では幅四十キロのうち北半分はソ連の領海、ここに日本の飛行機が機雷を投下したり日本の潜水艦が入ったりすれば、疑う余地のない敵対行動となって、ソ連から攻撃を受けても文句の言いようがないというようなことになりかねない。
一方、韓国の領海と接する対馬海峡西水道を独立して勘定をすると確かに四つになります。これは総理はお取り消しになりましたけれども、中曽根さんほどの人が三つと四つを間違えることはないだろうという意味では、やっぱり集団自衛権という問題が出てきます。有名な韓国の新聞である朝鮮日報も、大韓海峡まで含まれるとすれば見過ごすわけにはいかない。大韓海峡は博国の領海である。日本は韓国の軍事同盟国ではないと強く批判しています。
そして、このような総理の御発言が、余り申し上げたくはないのですが、マンスフィールド大使が、彼は新しいタイプの日本の指導者である。貿易、防衛問題で、中曽根首相は野党ばかりでなく、自民党内部の各派閥とも闘わねばならない。中曽根首相は日本の市場自由化と防衛力強化で迅速な予備的決断をしたことで大きな危険を冒した。そして、こうした中曽根首相の動きは、米国人の間に、中曽根首相が将来もスピーディーに思い切った措置をとる能力があるだろうという点に関し、非現実的で過大な期待を抱かせることになったというふうに述べられている言葉。あるいは先日、私、NHKのニュースをちょっと見ましたら、ロング・アメリカ太平洋艦隊司令長官が、中曽根総理大臣の不沈空母という言葉に関連をして、日本が防衛力を増強する方針を示したものだろう、私たちは言葉だけではなくてその実行を見守るというふうに語っておられました。
私は、総理の一言一言の重さというものは大変なものなんだなということを実は改めて自分自身も感じたわけでございますけれども、いずれにせよ、総理が一度口に出した言葉を引っ込めることはお嫌でしょうけれども、これらのいわばレトリックといいましょうかあるいは比喩という言葉がございますけれども、批判に対して、反省といいましょうか真意を国民の前に示す必要があるのではないだろうか、それは日本国民のためにもまた総理のためにも、私はそのように思います。
そういう意味で、この際、総理の御見解を承っておきたいと思います。
#114
○中曽根内閣総理大臣 マンスフィールド大使の御発言を論評する気持ちはありませんが、私は、あの文章を読みまして、アメリカ人があんまり過剰期待するなと、そういう意味でアメリカ人に対して警告をしてくれた言葉である、まあ隣国の大使が自国の国民に対してそういう意味の注意というか姿勢を示した言葉である、私そう思っております。それから、日本の防衛につきましては、憲法の範囲内で、専守防衛に徹して、非核三原則を守って、そして他国に脅威を与えるような軍事大国にならない、そういう基本線は厳として私は守ってまいりますし、今後も守っていくつもりでございます。
そういう点は、アメリカに行きましてもはっきり申し上げてきまして、向こうとの会談の中におきましても、防衛についてもあるいは経済摩擦問題についても、やれることとやれないことがある、そういうことをはっきり言ってきたのであります。それはわれわれが自主的に判断することですと、そういうこともはっきり言ってきたのでございます。
しかし、いまの御発言の私の種々の言葉につきましては、舌足らずの点もございまして、大いに反省しておる次第でございます。
#115
○岩垂委員 人事院勧告問題に移りたいと思います。人事院勧告問題は、昨年の国会でも、わが党の大出予算委員を含めて、議論をやってきました。政府の行った凍結の撤回を求めてきたことも、御理解のとおりでございます。この問題は結局今国会に持ち越されているわけでございますけれども、この問題についての現在の政府の考え方をお示しいただきたいと思います。
#116
○竹下国務大臣 人事院勧告の問題につきましては、よって立つ法律の精神、また四十五年以来今日に至りますまでの間におけるよき慣行、そういうものに基づいて、あらゆる財政面からの努力も重ねてきたわけでございます。その上に立って、やはりこの際、国民各界各層に難局の打開を求めておるという状態からいたしまして、まず公務員のお方が率先してみずからの給与の凍結を甘受して行財政改革への道を開くべきである、こういう意見もその中にもちろんあったわけであります。したがって、今回の措置が、公務員のお方のみに痛みを強いるという結果にならないように、すなわち、五十七年度においてはもちろん従来を上回る経費の節減を図りますとともに、御審議いただいております五十八年度予算におきましても、歳出全般について厳しい抑制をしてそういう結論にこたえておるということで御理解を賜りたいと思います。
#117
○岩垂委員 財政危機、とりわけ未曾有の財政危機だというふうに言われておりますが、きのう総理が本会議でも御答弁なさっておられましたけれども、財政再建期間というのは五年か十年という、かなり長期に、あるいは中長期にわたるものだというふうに思います。そういう意味では、財政危機という状態はずっと続くわけであります。しかし、それがどうしてそうなったかといえば、やはり歴代政府の責任が非常に大きい、こう思います。公務員諸君は、実は別にその責任があるわけではございません。財政運営の失敗というものをベースアップの凍結という形で公務員に押しつけるということは、何としても私は納得ができません。昨年の国会で大出さんに答えた言葉、日本の公務員の評価を伺いましたら、総理は、「私は行管長官のときにも申し上げたことでございますが、日本の公務員システムというのは、フランスと並んで非常にりっぱな制度になっておる。そして、公務員の能力、特に先見性とかあるいは仕事のやりぶり等につきましては、世界的にも高いレベルにある。」というふうに述べておられます。こういう、まじめに一生懸命に働いている公務員に対して、何らの責任もない公務員だけに一方的な犠牲というものを強制することは、私はやはり忍びないと思います。その点についての責任というものを総理はどうお考えになっていらっしゃるか、御答弁を煩わしたいと思います。
#118
○中曽根内閣総理大臣 岩垂さんが御指摘になりましたように、私は、日本の公務員のレベルというものについてはかなり評価をしておる者でございます。公務員の数にいたしましても、イギリスやアメリカやドイツに比べまして、人口等から見れば少ない。それから、公務員の質につきましても、政策に対する先見性とかあるいは非常な勤務に対する忠勤性とか、そういういろいろな面から見まして、外国にはひけをとらないいいものがある、そう思っております。しかし、国内的な企業その他との生産性を比較してみると、これはやはり日本の経済を支えている国内企業の生産性には及ばない。あるいは公務員のみならず政府関係機関、国鉄やその他を見ましても、よく私鉄と対比されるわけであります。その国内的な基盤をなしておる企業そのほかというものは、税金を出してくれて国家を支えてくれておるわけでございますから、この税金を出して公務員の給与源をつくってくだすっておる国内の企業や民間の力というものに対して、やはりわれわれは考えなければならぬところがある、政府としてはそういうふうに考えなければならぬ、そう思っておるわけでございます。
しかし、一方においては国家公務員法がありまして、その労働権の代償として人事院制度というものも設けておる、これもまた一方に考えなければなりません。
そういうような間をどの程度で調和をとるかということが政府の苦労でございますが、最近のしかかってきた問題が財政窮迫という問題がございまして、そして、この財政窮迫及び行政改革を実行していくという二つの面からまいりまして、公務員の皆さんにははなはだお気の毒で申しわけないと思いますが、この際はがまんしていただく以外にない、そういうふうに、いわば断腸の思いでそういう措置をやっておる、そういうふうに御理解願いたいと思うのでございます。
#119
○岩垂委員 きょうは人事院総裁もお見えをいただいておりますが、去年の夏に出された人事院の勧告がこのような扱いになっていることについて、総裁はどのようにお考えになっていらっしゃるか。また、去年もおととしも、ことによったらことしもというようなぐあいに、人事院勧告の制度自身が実は踏みにじられてきています。公務員労働の労使の関係というものの改善のために御努力いただいた総裁の見解をこの際承っておきたいと思います。#120
○藤井(貞)政府委員 いままでも機会のあるごとに繰り返し申し述べておりまするように、人事院勧告は、いま総理もおっしゃいましたように、公務員の労働基本権が制約をされておることの代償措置として設けられております非常に重大な、重要な意味を持つ制度であるというふうに思っております。したがいまして、これの取り扱いについては、各方面の理解もどんどん進みまして、四十五年以来完全実施ということで今日まで来ておるわけでございます。このことが公務員の士気あるいは労使関係の円滑な推移ということに大変貢献をしてまいっておることも事実であろうと思うのであります。この点、財政的ないろいろの事情がございまして、いまも御指摘もございましたように、だんだんその制約の度合いが強まってまいりまして、五十七年度の勧告については、遺憾ながらこれがいわゆる見送り、凍結という措置が講ぜられたわけでございます。いろいろ財政状況のことは私も重々承知をいたしておりますので、それに無理解であるというわけではございませんが、ただ、やはりこの制度の持つ意味合いというものから考えますと、私といたしましては、やはり財政云々というよりも制度のたてまえを尊重していただかなきゃならぬというふうに強く考えております。したがいまして、これの凍結その他の措置が講ぜられましたことにつきましては、大変遺憾であるということを申し上げてきております。ただ、この勧告は、内閣のみならず国会に対してもお願いを申し上げておることでございまして、これを受けて国会でもいろいろ御心配をなさり、また協議も続行をされておるということでございまして、この点、制度のたてまえから申しまして、いろいろの検討の結果、適切な御判断がいただけることを期待をいたしておるというのが私の立場でございます。
#121
○岩垂委員 これは通産大臣にお願いを申し上げたいんですけれども、昭和四十五年の十二月九日の衆議院の内閣委員会で人勧問題について御答弁をなさったりっぱな言葉がございます。きのうの本会議以来ちょいちょい通産大臣の所管外のことで発言をすることになって大変恐縮なんでございますけれども、このときに、「私たちは、ことしの人事院給与に関する勧告については、完全実施をすることを国民に対しても、国会に対してもお約束をいたしたつもりでおりますから、これは今後のルールが確立したとお考えいただいていいと思います。したがって、人事院給与の勧告の前提が何月からということの基本的な線が変わりましょうとも、また内容においていろいろ手直しがされましょうとも、これは完全実施をしていく、財政事情その他によって今後特殊な措置はとらないというルールを、私たちは国民の前に明らかにしたものと考えております。」大変ごりっぱな答弁でございますが、大臣はそのときの気持ちとお変わりございませんか。
#122
○山中国務大臣 それまで人事院勧告制度が打ち立てられて勧告が行われてきながら、十月実施あるいは九月実施とかいろいろと内容、時期等について議論があって、その合意がなかなか得られなかった。そこで、私が担当大臣になりまして、このようなことは人事院制度が設けられたたてまえから考えて、この勧告とその実施についてのトラブルは基本的にあるべきものでないと考えてそのような決断もいたしましたし、しかも勧告を受けたその翌週の閣議でそれは最終決定をする。そういうルールを打ち立てましたが、基本的に違うのは、現在の情勢は、財政事情だけでございます。#123
○岩垂委員 基本的に違うのは財政事情というのは、全部違うということになってしまうのです。いまの文章を読むと、財政事情に関係なく今後やっていく、こうおっしゃったわけですから、これは所管外のことでいろいろそれ以上申し上げませんが、そのときの政府の公務員労働者あるいは国民に対する約束事というのはずっと守られてきたわけですね。だから、その点はこれからもきちんと尊重していただかなければならぬ、このように私は思います。ところで、総理、この間行われた産労懇の席で、五十七年度の人勧凍結の方針を変えるわけにはいかない、五十八年度は人事院の勧告を受けてから改めて態度を決めるというふうに述べておられますね。これがもし事実だとすると、この前の国会の与野党の合意の中で、一、五十七年度については結論を得るよう引き続いて努力をする。五十八年度については尊重し、これを実施する、こういうふうになっている合意事項との関係はどうなるのでしょうか。この辺ははっきりさせていただきたいと私は思うのです。
#124
○中曽根内閣総理大臣 産労懇における発言が正確に伝えられていないと思います。私はたしかあのとき、政府の立場は、勧告につきましてはベースアップは見送っていただくという決定をしておる、しかし、与野党におきましていまなおその問題については話し合いが進められておるわけで、政府はそれを見ている、そういうような趣旨の発言をしたと私の記憶にはございます。それから、五十八年度のものにつきましてはそれを尊重する、そういう態度を持っておるということをこの前も申し上げた次第であります。
#125
○岩垂委員 凍結という言葉よりも見送りという言葉が、閣議あるいは政府の文書にございますね。見送りというのは、ここははっきり申し上げるのですが、一年、つまり昨年度一年を見送るということですか、それとも今後その見送りという言葉が意味を持っているのですか。#126
○中曽根内閣総理大臣 その決定をしますときに私は行管長官でございましたが、たしか原案に凍結という言葉があったのです。この凍結という言葉は適当でないというので、私から発言しまして、「見送る」という言葉に変えてもらったのです。その意味はいま申し上げたようなニュアンスがあります。つまり、これは毎年毎年人事院から勧告が出てくるので、その人事院から出てきたものについては、これはそのたびごとに白紙の立場から検討をすべきもので、前年がどうであったからどうというような流れを持ち越すべきではない、そういう発想がありまして、これは見直しということにして、凍結ということにしない方がいい、そういうふうに申し上げて直したわけであります。#127
○岩垂委員 公務員の諸君がいま求めている課題というのは、これはもう時間がございませんから余りやりとりできませんけれども、たとえば予算の組み方でもそうなんです。最初は、最初というか四十四年には五%を計上しました。そして、それが二・五%になり一%になっています。これでは、つまり来年度からの公務員の賃金というものも、予算に縛られれば人事院勧告の完全実施はできない、こうなってしまいます。予算の組み方自身に整合性を持っていない、私はこんなふうに思うのです。政府統計だって、民間給与は春闘で五・二%くらい上がるというふうにさえ示しているところがございます。こういう点から考えて、人事院勧告の完全実施、五十七年度実施を含め、五十八年度どう対応なさるおつもりか。やはり政府の方で、あるいは総理の方でどうしたいものだという決意を示していただかないことには、何回会合を開いても余りいい結論が導き出されない、こんなふうに思いますので、ぜひ総理の御見解をいただきたいと思います。
#128
○竹下国務大臣 いま特に財政当局的に、いわゆる給与改善費の計上の問題を例に引いての御質問でありました。確かにおっしゃいますように五%、そして二・五%、一%、年々この給与改善費を計上してきたところであります。それはやはりことしの五十八年度予算編成にあってもずいぶん考えたことでございますが、やはりその給与改善費というものがそのときの経済財政事情の中で組み込まれておるという事実が、いわゆるよって来る経緯の中で法の精神そのものを尊重しておる一つのあかしではないか、こういう考え方でこの一%の計上をいたして御審議をいただいておるわけであります。したがって、五十八年度をどうするか、こういう考え方は、いま総理からもお答えがございましたように、その勧告が出された時点の状態において判断すべきであって、去年、すなわち五十七年度、ただいまの五十七年度どうであったからということではなく、まさに白紙で、法の趣旨を尊重し、四十五年以来のよき慣行を念頭に置き、あらゆる努力をして対応すべきものである、このように考えております。
#129
○岩垂委員 これは給与が改定になったとすればということを前提にして、改定されない場合との差で、特に退職者の退職金といいましょうか退職手当といいましょうか、開きがあるのです。いま申し上げますけれども、三十年勤続、細かくは言いませんけれども、改定前だと千六百七十六万円、もし改定されれば千七百五十万円、七十四万円の開きがございます。また、三十五年勤続、これは二千九十四万円、もし改定されれば二千百八十六万円、九十二万円の開きがあります。こういう人たちに対して、現実に火変な金額になるわけですが、三公社五現業などはそれなりにきちんと処置がされる、公務員はだめだ、これでは余りに片手落ちではないか、こんなふうに思いますが、その点について御答弁をいただきたいと思います。#130
○竹下国務大臣 ただいまの問題でございますが、これもいわゆる各党協議とかそういう場等で私も従来とも御議論をする立場にあったわけでございます。率直に申しまして、いま素朴な、岩垂さんの感じからするいわゆる片手落ちとでも申しましょうか、そういう感じはあろうかと思います。ただ、これを制度的に見ますと、たとえば昭和三十二年、そういう当時、確かに三公五現の方は完全実施になって、そして一般公務員のお方は十月実施であったという、当時その期間のことをどうするかという議論もした経緯がございます。しかし、結局制度的にその問題についてはやはりきちんとその趣旨に沿うべきであるということで、当時もいわゆる回復措置というものはとられていないわけであります。したがって、今年度こういう措置を行った際には、やはり法の趣旨にのっとっていわゆる退職金問題には対処すべきであるということと、いま一つは、もっと別な角度の世論の中で、いわゆる退職金の官民格差が余りにもひどいではないか、これを逐次縮めていくべきであるという議論にこたえて、それの格差を縮める措置が行われておるという状態を考えますと、やはりこのたびは見送る、単なる現象面だけをとらえた片手落ちの議論ではなく、見送らざるを得ない、こういうふうに考えるわけであります。
#131
○岩垂委員 五十八年度は尊重するという各党間の約束というものを総理は重く見て対応いただくというふうに考えてよろしいですか。#132
○中曽根内閣総理大臣 そのように考えております。#133
○岩垂委員 最後に一つだけ、減税問題。先国会での議長裁定もございます。それから、各党協議の経過もございます。いま労働四団体を初め多くの働く人々が減税の問題を、賃金が厳しいからという面もございますけれども、求めていることは事実です。臨時行政調査会でもこの問題についてはっきりした方針を示しております。臨時行政調査会の答申を尊重なさるという総理は、減税について積極的な姿勢を示していただきたい。新聞などでいろいろなことが書かれておりますけれども、総理のお口から予算委員会の席上で減税問題について、勤労所得税の減税問題について明確なあなたの気持ちをお示しいただきたいと思います。
#134
○中曽根内閣総理大臣 御指摘の減税につきましては、昭和五十三年以来課税最低限というものは据え置きになっておりまして、事実上増税になっておる、そういうこと等も考えまして公務員の立場というものはよくわかっているつもりでございます。また、減税を求める一般の国民の皆さんの声も私らにはひしひしとよくわかっております。だから、できるだけ御希望に応じてあげたいという気持ちがございます。ただ、残念ながら一方において財政事情というものがございまして、その財源をどうするかということで行き悩んでおるわけであります。公債をもって財源とするということは、これは一面において行革の精神にも反するという結論が出てまいりますが、また一面においては金利に影響してきて、金利の暴騰と申しますか、騰貴を誘発しかぬまじき問題でもある。そういうようないろいろな要素も考えて、しかし、とにかくいま与野党の皆さん方がお話し合いをなさっておりますから、われわれはそれを注目してまいりたい、そう思っておる次第です。
私個人といたしましては、できるだけ減税をやる道を模索してまいりたい、そう考えております。
#135
○岩垂委員 終わります。ありがとうございました。#136
○久野委員長 これにて岩垂君の質疑は終了いたしました。次に、坂井弘一君。
#137
○坂井委員 総理は、戦後政治の転換点とか、あるいはまた民主主義にタブーを設けちゃいかぬ、こうおっしゃいまして、それかあらぬか、日本列島不沈空母あるいは日米運命共同体、果ては三海峡完全支配等々、大変勇ましいことをぽんぽんおっしゃる。戦後三十有余年、もう間もなく四十年になんなんといたします。日本民族が、平和国家の理念というものを、この間常々と築き上げてきたと私は思います。総理の本予算委員会におきます一連の論議の中から御答弁を伺っておりまして感じますことは、一体この日本を総理はどこへ持っていこうとお考えになっているのか。少なくとも私には、国民の気持ちとは全く逆に、どうやら防衛力の増強あるいは軍拡路線、そういう方向に足を突っ込むといいますか、同時にまたそのことは、アメリカの世界戦略、とりわけ極東軍事戦略の一翼を担うような、あるいはまた積極的にそれを補完していこうというような、そんなお考えが総理におありなのではなかろうか。ということになってまいりますと、憲法が禁止いたします集団的自衛権の行使に踏み込んでしまうおそれなしとしない。
そんなことを実はこの論議を通じて考えながら、今日のアメリカが置かれたその地位と責任に比べまして、他方わが国が戦後平和憲法のもとに、国際社会の中における地位と責任、そこにはおのずから違いがある。それを考えないで単に条約であるとか協定であるとか、その双務性とか片務性、それだけでもってわが国の立場を考えるということは非常に大きな危険が伴う、私はそう思います。
そこで、本日は特に武器技術の供与をめぐる諸問題についてお尋ねをしてまいりたいと思いますが、その前に、先ほどのやりとりを聞いておりまして、一点どうしてもはっきりしておいてもらいたい、お尋ねをしたいことがございます。
三海峡封鎖、通峡阻止の問題でございますが、わが国が武力攻撃を受けていない、つまり日本が有事でない、そういう場合に、たとえば中東有事、米第七艦隊がペルシャ湾、インド洋に向かって作戦行動を開始した、しかし日本は有事ではありません、直接武力攻撃は受けていない、そういう場合、そういうときにアメリカから三海峡封鎖の要請があったならば、その要請に対してはことごとくこれを拒否する、すべてお断りをする、全部ノーである、そう明言できますか。
#138
○谷川国務大臣 海峡の封鎖ということはきわめて各般の問題を引き起こす問題でございます。したがいまして、従来から御答弁申し上げておりますように、わが国が武力攻撃を受けましたときに、わが国の自衛の範囲の中でそういう作戦もとり得べしという答弁をいたしております。なお、アメリカから、わが国が有事でないときに要請を受けましても、わが国は実力行使をもってこの海峡を封鎖するようなことはできません。
#139
○坂井委員 ですから、そこのところを、くどいようですけれども、なお確認をしておきたい。できませんということは、アメリカに対してノーと明確にすべて断る、こういうことですね。#140
○谷川国務大臣 日米関係というよりも、わが国の自衛の概念から申し上げまして、そういうことはあり得ません。#141
○坂井委員 わが国はあり得ない。ですから、アメリカから要請があったとしたならば、お断りしますか、こう聞いているのですから、それに対するお答えを正確にちょうだいしたい。#142
○谷川国務大臣 わが国としてはそういう実力行為はできません。したがって、ノーということでございます。#143
○坂井委員 わかりました。日本が有事でない、わが国に武力攻撃が行われていない、そういう段階でアメリカからいかなる強い三海峡封鎖の要請があろうとも、すべてわが国はノー、ことごとく断るという御答弁を明確にちょうだいいたしました。そのとおり受けとめておきます。武器問題について、供与問題でお尋ねをしてまいりますが、まず総理にお伺いいたしますけれども、今回の対米武器技術供与、これは私は政府の重大な政策変更だと思います。このような重大な政策変更に当たって、これは行政権の範囲だから、政府が、行政側が、まあ言うなれば独自の判断でこのような重大な政策変更をやっていいのであって、いささかも事前に国会に対して相談する、そんな手順、手続というものは要らない、こういう御判断で対米武器技術供与に踏み切られたのでしょうか。
#144
○中曽根内閣総理大臣 この問題は、一年有半にわたりまして鈴木内閣のころから検討してきた問題でございます。来歴を申し上げますと、たしか大村防衛庁長官が訪米しましたときに、ワインバーガー長官と相談したときから発していると思います。それで、長い間いろいろ検討してまいりまして、その検討の結果、国会決議を尊重して、そして、そのもとにこれが行い得る、そういう判断をいたしまして、政府の責任においてそのような措置をいたした。したがいまして、官房長官談話を発表して、その趣旨を国民の皆様方にもお示しをし、かつまた、この間の施政方針演説におきましても、このことを私の正式の演説の中に組み込みましてわれわれの考えとして申し述べた次第なのでございます。
#145
○坂井委員 どうもそこのところがよくわからない。国会決議を尊重してとおっしゃる。では、国会決議を尊重して、国会決議の意思も対米武器技術供与はよろしい、こういう国会の意思を国会決議にしておったんだ、こういう御判断ですか。だから、国会に対しては事前に何ら相談もなくこの重大な政策変更がなされたんだ、こういうことですか。#146
○中曽根内閣総理大臣 いろいろな角度からいろいろな研究を行いまして、そして国会決議制定の由来等もよく調べまして、その結果、国会決議には違反しない、その範囲内においてこういう措置をとる、そういう範囲内における措置としてわれわれは決定した次第なのでございます。#147
○坂井委員 官房長官が後でいらっしゃったら、この問題についてなおお尋ねをしたいと思います。重ねて総理に伺いますけれども、そもそもアメリカがわが国に対して武器技術の供与を強く求めてきたその背景、目的ということについては、一体総理はどうお考えでしょうか。
#148
○中曽根内閣総理大臣 恐らくアメリカは、日米安保条約のもとに、日本の防衛力漸増方針について非常に協力をしてまいりました。特に武器技術の面におきましても、P3CであるとかF15であるとか、そのほかさまざまな相当な高度の機密にわたる兵器類も日本にライセンス生産等を許しまして、向こう側からすれば相当なサービスをして協力をしておる。日本がまだ経済力も弱く、技術力も低い段階ならやむを得ないけれども、これだけ高度の技術を持ってきた、経済力も強くなってきた、そういう段階においては、一方通行というのでは、これはアメリカの国民あるいは議会に対してもなかなか通りにくい。そういう意味で、日本側も憲法やあるいは法律等の許す範囲内において協力してもらえないか、そういう趣旨で申し出があったものと考えております。#149
○坂井委員 総理がいまお述べになったようなことも当然私はあると思います。それから同時に、もう一方では、アメリカ側にしてみれば、ここで日米共同の兵器開発をやりたい、あるいは生産体制の技術的な基盤をつくり上げたい、また、そのことは行き着くところ、この軍事技術交流の背景には日米共同作戦体制あるいはその基盤強化、そこに一つの大きなねらいがある。技術交流は、先般来総理も御答弁をされておりますが、共同研究開発、ことまではよろしいんだ、こうおっしゃるが、それから先はやはり共同生産、そのことは何かと言いますと、兵器の標準化、これをねらいとしない技術交流というものは元来あり得ないだろう、私はそう思います。共同研究開発は国際協力の最も高度な段階でありますことは、これは世界の常識であります。アメリカにおきましては、すでにNATO諸国と百五十以上の協定を結んで兵器の共同研究開発、さらに生産まで踏み込んでおる。ネジ一本の規格まで統一をしておる。これは何か。相互の支援が可能でありますし、共同作戦基盤が強化される。集団安全保障に不可欠だからこそ、そのような二国間あるいは三国間において同盟諸国が兵器の共同開発、共同生産、そして標準化、それをねらって一生懸命になっておる。それを今回日本に参加を求めてきたのだ、私はそうとらまえております。このことにつきましては、具体的にそうした問題についてお尋ねをしてまいりたいと思いますが、その前に、今回のアメリカに対します武器技術の供与は、MDA第一条、「装備、資料、役務その他の援助」、こうございますが、これは武器と武器技術を特に区別はしていないわけですね。今回の対象というのは、武器及びその技術と一体になっておるところの試作品までは禁じていない。ということになりますと、理論的には武器自体の供与も可能ではないか、また将来その方向に進んでいくのではないかということがおよそ一般的に懸念されるわけでございますけれども、武器にわたらない試作品というのは一体どういうことでしょうか。その限界を示してください。
#150
○山中国務大臣 当席で一遍お答えいたしておりますが、技術の終局点は試作品である。その試作品は、とらえようによっては武器への第一歩でもある。そこで、総理の方から、共同生産はやらない、こういう御言明があったわけでありますから、試作品は武器技術の終結点、そしてまた、その試作品をアメリカ側に渡すことによって技術の物的なあるいは形の上での最終的な協力という形もあり得ると思いますが、したがって、その限界というものは共同生産の手前でありますから、それを武器たり得べき段階にまで生産をやるとか、あるいは大量の生産を向こうに渡してすぐ何かちょっとつけ加えたらそのまま武器になるというような形にまでいかないとか、いろいろな制約がなければならぬと思いますが、しかし、何しろアメリカ側の方から何のどういうものが欲しいとも何も防衛庁の方にも来ておりませんし、外務省も知っておりませんので、これは私どもがケース・バイ・ケースで判断しなければならぬと思いますが、少なくとも日本の立場は、国会において政府の立場を明確に限界を示しておく必要はある、そう考えるわけでございます。#151
○坂井委員 わが党の黒柳明参議院議員に対します政府の答弁書がございますが、この中で、「その相互交流の一環として米国に武器技術(その供与を実効あらしめるため必要な物品であって武器に該当するものを含む。)」ここで言う「武器」は、いまおっしゃる試作品といいますか、それを指して言っているのでしょうか、これが一点。それから、後藤田長官にお尋ねをいたしますが、同じくこの答弁書の中で、「その供与に当たっては、武器輸出三原則(昭和五十一年二月二十七日の武器輸出に関する政府方針等を含む。以下同じ。)によらないこととしたものである。」同じく後藤田官房長官の一月十四日の談話、この中でいまの同じ趣旨が述べられております。「武器輸出三原則(昭和五十一年二月二十七日の武器輸出に関する政府方針等を含む。)」ここで言う「等」とは、これは何でしょうか。
#152
○山中国務大臣 先ほども申しましたけれども、技術の終結点が試作品、試作品にはいろいろな形があると思うのですね。部品もあればあるいは完成品もあるでしょう。そうすると、私が言いましたのは、次に、そこから日本で大量生産してアメリカへ送るとか、そういうことになると、共同生産はやらないとおっしゃっていますから、しかし形は武器の入口にもとらえられる。ですから、その試作品たとえば一個とか数個とかいう常識でしょうが、それは、これは武器じゃないかと言われるものになる可能性はある。しかし、それは武器として日本で生産してアメリカへ出すものではない。技術の設計図とか頭の方で持っていく技術等はありましょうけれども、それがその品物を持ってきてもらわないと、武器技術のアメリカ側が求める完成品にならないという点があるだろう、そこのことを申し上げているのがさっきのその表現だと思います。#153
○後藤田国務大臣 従来から武器輸出の三原側、その中には武器のみならず当国会における答弁等で武器技術も含む、こういうことがありましたので「等」と書いたわけでございます。#154
○坂井委員 そうじゃないんじゃないですか。ここで言っているのは三原則、それから「(昭和五十一年二月二十七日の武器輸出に関する政府方針等を含む。)」と、こう言っているのですね。従来、武器輸出三原則がございます。昭和四十二年四月。それから、ここで言う五十一年二月二十七日、政府方針がございます、この二つが。それを二つ並べて「等」というのは一体何ですか。これは国会決議のことを意味しているんじゃないですか。これは何ですか。そうじゃないんですか。この「等」が技術ですか。#155
○福川政府委員 その点に関しましては、国会等で、たとえば五十一年に、武器技術につきましては武器に準じて扱うという国会の答弁を指しているものでございます。#156
○坂井委員 わかりました。国会の答弁を指しているのであり、その国会答弁を受けながら国会決議をしたわけですよ。したがって、少なくとも国会決議を意図しながら「等」と書かれたのだろうというように私は理解いたします。ですから、やはり国会決議の修正を求めなければならぬだろうというお考えが出てきたということは私わかるわけですよ、常識的に。それを国会決議に反しないんだ、尊重しているのだと言うに及んでは、これはもう何をかということでございまして、よくわかりました、政府の意図は。ですから、これに対しましてなお突っ込んだ論議もあるかと思います。私は、いまこの問題はこれ以上は触れません。そこで、アメリカに対します武器技術供与、これは安保体制の効果的な運用のためにその関連規定の枠組み、つまりMDA、それで行う。そうしますと、安保条約に関連しない武器技術は供与しないというのが政府の見解のようでございますけれども、この判断の基準を設定することはきわめて困難だろうと私は思うわけですが、アメリカ側の判断で安保関連技術ということで要請があった場合には、日本政府はその要請に対して、まず受けて、出すか出さないかは別としても、そういう要請があればそれはとりあえずはその要請に応じましょう――応じましょうといいますか、アメリカの要請、アメリカがこれは安保関連技術だ、こういって指定してきたときには、それに対して、日本政府は検討いたします、こういうことでしょうか。
#157
○安倍国務大臣 武器技術に関しましてアメリカから供与の要請があったときは、これに対しては同意するかしないかは日本政府の判断でございますが、もちろん検討するわけであります。#158
○坂井委員 その問題、さらに具体的なことでお尋ねを進めていきたいと思います。アメリカに提供されました武器技術の第三国への移転問題についてお尋ねをしたいと思いますが、このことにつきましてはMDAの規定には具体的な監視事項がないように私は思います。したがって、日本側からの阻止というものがきわめて困難であって、その実効性に疑問がある。先般矢野質問に対します総理の御答弁を伺っておりましても、わが方から提供した技術が何%か、数%、アメリカの技術の方がうんと多い、そんな場合に果たして阻止できるか、きわめて常識的なお答えだろうと思います。
したがって、ここで確認をいただきたいのは、MDA一条四項に基づきアメリカに供与した武器技術の第三国への供与についてアメリカから協議を求められた場合には、わが方は一〇〇%ノーとは言えないと私は思います。イエスもあればノーもある、こういうことでしょうか。
#159
○安倍国務大臣 わが国から米国に供与された武器技術の第三国への移転につきましては、米国より要請がなされた場合には、具体的な事例に即しまして米国に対して当該の武器技術供与を認めた趣旨、すなわち、米国の防衛能力の向上に寄与することにより安保体制の効果的運用を図るということがいわゆる対米武器技術供与の趣旨にあるわけでございますから、この趣旨、さらにまた武器輸出三原則は依然として現存しておるわけでございますから、この武器輸出三原則等を踏まえて慎重に対処をするということが基本的な考えであります。#160
○坂井委員 したがって、その基本的な考え方からすれば、確かに慎重に対処するというわけですから、軽々にはイエスとは言いませんということでしょう。しかし、一〇〇%ノーとは言えませんね、こうお尋ねをしたわけでございまして、イエスという場合もあり得る、こういうことでしょうね。#161
○安倍国務大臣 これはその場合その場合について、具体的なケースについて検討しなければなりません。その際に、いま申し上げましたようなMDAの趣旨もあります。あるいは安保条約の効果的運用という立場もあります。さらにまた、武器輸出三原則ということもございますので、そういう点を十分踏まえながら判断をするということでございますから、この点はいろいろと歯どめをかけております。そういう中で慎重に判断をして決めていきたいと考えております。#162
○坂井委員 じゃ、具体的に聞きましょう。日本とアメリカだけじゃございません、世界は。とりわけアメリカを中心にしましては、西側諸国との同盟関係の中で条約、協定というのはたくさんあるわけですね。
代表的なものを一、二引っ張ってまいりました。たとえば、アメリカ・西ドイツ相互防衛援助協定第三条「両政府は、いずれか一方の政府の要請があったときは、防衛のための特許権及び技術上の知識の交換に関する適当な取極であって、その交換を促進するとともに、私人の利益を保護し及び必要な秘密の保持を図るものとする。」仮訳でございます。同じく米韓相互防衛援助協定第四条「両政府は、いずれか一方の政府の要請があったときは、この協定に従って供与される装備、資材又は役務に関して法律で保護されている考案、製法、技術上の知識又は他の形式の財産の使用に基く特許権又は類似の請求権についての責任に関して、両政府の間で適当な取極を締結するために交渉する。そのような交渉に当っては、各政府が自国民のそのような請求権及びこの協定の当事国でないいずれかの国の国民のそのような請求権で自国の管理区域内で生じたもののすべてについて責任を負うという約束を含めることについて考慮を払うものとする。」云々となるわけでございますが、いずれもこれは武器技術、技術上の知識等についてこの両国間において相互に取り決めを行いまして交流をいたしますという明確な国際上の約束でございます。
こういうものがある限りは、安倍外務大臣にもう一度重ねて伺いますけれども、慎重に対処する、ケース・バイ・ケース、そのときのと、こうおっしゃるが、やはりアメリカに提供された技術そのものが、たとえば生の形というのではなくてその技術がさらに次の新しい技術を生む、そういう技術になるかもしれませんが、いずれにいたしましても第三国に移転をしていく、あるいは明確な武器の形で移転する場合もあるでしょうね。あるいは技術が新しい技術を生んだ、そういう技術で移転する場合もあるかもしれません。もちろん武器技術でございます。そういう場合はあり得るということでしょうね。
#163
○安倍国務大臣 アメリカを通じての第三国への移転ということは、この場合はきわめて慎重に対処しなければならぬわけでありまして、この武器技術の供与をいたす場合は、御承知のように、MDAに基づきまして細目取り決めを結ぶわけでございますが、その細目取り決めにおいて具体的に日本の立場といいますか、そういうものがはっきり盛り込まれるわけでございますから、あくまでも安保条約の効果的運用であるとか、あるいはまた国連憲章の精神の堅持であるとか、そういうことが細目取り決めの基本的な趣旨になるわけで、そうしたことから日本の場合は同意がなければできないということになっておりますから、日本としては具体的な問題としてそうした趣旨、精神あるいはまたMDAの基本的な趣旨、安保条約、そういうものを踏まえてこれは判断をしていかなければならない課題である、こういうふうに思います。#164
○坂井委員 ですから、大変くどいように聞いて恐縮なんですけれども、それではお答えになっていないわけで、そんなことは百も承知の上で私はお尋ねをしているわけでありまして、アメリカがアメリカ以外の国、西側諸国あるいはNATO諸国でしょうね、特に。そういうところと結んだ協定、条約、いま明確にその一、二の例を挙げたわけですけれども、それまでわが国は拘束できないでしょう。しかも、わが国から持っていった技術について、それが第三国に移転することについては一〇〇%わが国はノーと言えるかというと言えないのじゃありませんか。もう一度お尋ねいたしますけれども、アメリカから協議を求められた場合、この問題につきましても一〇〇%お断りいたしますと明言できますか。
#165
○安倍国務大臣 まず、私から答弁いたしますが、細目取り決めの問題にもなりますから後で条約局長から補足させますけれども、あくまでもこれは日本の同意がなければ第三国への供与というのは認められないということであります。その同意の基準というのは、これは安保体制の効果的運用であるとか、あるいは武器輸出三原則の趣旨とか、あるいはまた国連憲章の精神だとか、そういうものに絡むかどうかということが、同意を与えるかどうかということの基準になるわけでございますから、この基準に反する場合はもちろんノーであることははっきり言えるわけでございます。
#166
○坂井委員 もちろんノーである場合は、それはあるのですよ。こんなものは無条件にイエス、イエスなんて言われたらたまったものじゃないですよ。総理、お伺いしますけれども、こんなやりとり余りしたくないのですよ。全部断るなんてことはできないでしょう、やはり。安保条約の効果的な運用でありますとか国連憲章でありますとか、あるいは事前同意事項があるわけですから、歯どめはどんどんかかっている、わが国は、武器輸出三原則もあります、これを今後とも堅持する、こう言っておる。慎重な対処をしなければならぬ、ようわかりますよ。だけれども、現実的に実際的にアメリカから要請があった場合に、すべてノーとはこれは言い切れないでしょう。物によってはやはりイエスと言わざるを得ない、そういうものもあり得るであろう、これは常識的なお答えじゃありませんか、いかがですか。
#167
○中曽根内閣総理大臣 第三国に対する移転というような問題につきましては、両方でよく相談する、そういうことが基本であると思います。したがいまして、日本のいままでの政策に違反しない、そういうような場合には、それはイエスということもあります。しかし、違反する、わが方の政策と背馳する、そういう場合にはノーということもあると思います。#168
○坂井委員 よくわかりました。そうでしょうね。非常に実態に即した御答弁だと承りました。ただ私は、このことは、三原則の例外をアメリカのみに認めるという政府の立場、これからやはりはみ出すことになってしまうという実は認識を持っております。これは非常に議論の分かれる大事な一つのポイントだろうと思いますので、なお深めたいと思いますが、機会を改めたいと思います。
さて実は、一体、技術の特性というようなことで、後でこの議論も深めていきたいと思っておるのですけれども、大変困ったことだと思うのは、技術自体が持つ発展性の問題がある。どうも、どんな技術がありましても、その技術が一代限りで終わってしまうということはまずあり得ない。つまり技術が次の技術を生む、常に進化していく、それが今日の先端技術ですね。そういう進化していく技術、言うなればワンクッション置いたような技術、そういう技術が民生用に――アメリカに提供されたそういう技術ですよ。次の新しい技術を生む、進化していく技術ですね。そういう技術が民生用に使われたりあるいは第三国に移転される、実態的にはそういうことだろうと私は思うのです。その場合には、いま総理がおっしゃったような本当に厳重にやりたいお気持ちはわかりますが、しかし、なかなかすべてノーとは言い切れないということだろう、こんなように私は思っております。
今日の軍事力、これは技術集約型と言われるわけですが、どうも兵器と兵器技術、この差が事実上なくなってきているのではないか。兵器技術というものを考える場合には即それがもう兵器である、それほど兵器技術というものが進化してきた。一昔前の技術と兵器は別だという考え方、軍事技術観、そういうものはもう通用しない、そういう観念、とらまえ方で軍事技術を見ますと、私は軍事技術の持つ重要性というものは見失ってしまうと実は思うわけでございます。
さらに、今日の産業構造の変化、これとも絡まっておりまして、汎用技術か民用技術か軍事技術かというむずかしい問題もまた起こってきます。どうも最近の産業というものが、これまた一昔前の鉄鋼からエレクトロニクス産業に大きく軸が変わってきた。こういうことも見逃せないことでございまして、そういうこと等もあわせ考えて、技術の持つ特性と、一体軍事技術とは何ぞや、汎用技術とは何ぞや、民用技術とは向ぞや、それらが及ぼす軍事力への影響あるいは民間産業への影響、そういうものを慎重に見きわめていかなければ大変な過ちを犯してしまう危険がある、私は実はそう思っているわけでございます。
そんな考えを持ちながら、なお具体的に伺ってまいりたいと思いますが、共同研究開発、日本における共同研究開発とアメリカにおける共同研究開発、場所を二つに分けましょう。
まず、日本におきまして日米共同研究開発がなされまして、その開発された成果、つまりアイデアでありますとか技術資料でありますとか、先ほど御答弁のございました試供品、これがその成果だろうと思いますが、そういう成果、一口で言えば武器技術あるいは武器に準ずる試作品ですかね、それを米国に移転する、それは可能ですか。
#169
○山中国務大臣 それを可能ならしめるのが今回の政府方針であります。#170
○坂井委員 そうすると、もし、ここで完全な形としての武器だと認定されるものであればアメリカといえども移転は不可能、こういう判断でしょうか、いかがでしょうか。試作品じゃありません、武器。#171
○山中国務大臣 武器の形態をなすものというものも試作品には当然含まれることがあるだろう。しかし、それはアメリカに移転したとしまして、そして、それをもとにしてアメリカがそのものそっくりのものをつくることがあるかもしれませんが、エレクトロニクス分野等といっても、エレクトロニクス技術そのものが武器として存在するわけじゃございませんから、どういうものを外務省を通じてやるのかわかりませんが、しかし、そのようなものがたとえばアメリカに行ってそのままそっくり大量生産されて、メード・イン・ジャパンというそういうような刻印が打たれて、アメリカはおろかNATOまでというようなことは、私はあり得ないのじゃないかと思うのですけれども、そういうふうにいまのところは想像するしかないです。#172
○坂井委員 そうすると、日本におきまして日米共同研究開発がなされまして得られました成果、つまり武器技術あるいは試作品、これはアメリカに移転する場合にはすべてのMDAを通しますか。#173
○安倍国務大臣 MDA、さらに細目取り決め、そういうもので具体的にきっちりと取り決めをいたしまして出すわけであります。#174
○坂井委員 場所をアメリカに変えまして、米国において日米共同研究開発がなされまして開発された成果、つまり、いま申しますアイデアでありますとか技術資料あるいは試作品、武器技術ないし試作品ですね、そういうものを米国から第三国に移転することにつきましては、これは先ほどの御答弁どおりでありまして、基本的にはやはり非常に慎重な対処だけれども、イエスと言わなければならない場合もあり得る、確認をいたしておきますが、そういうことでしょうか。#175
○安倍国務大臣 これは、先ほどから総理が答弁をいたしましたように、わが国から供与したいわゆる趣旨、精神、政策、そういうものを踏まえて慎重にやるわけでございますが、その範囲内においては、いまお話しのように、第三国への供与というものも完全にないということは言えないわけであります。#176
○坂井委員 一九八四年度アメリカの国防報告がここにございます。特に日本に関係する部分について抜粋をいたしました。ここで「日本は、共同ないし補充的な研究・開発を行う能力を有している。我々は、技術の両面交通を可能にし、この地域における合意された自衛隊の防衛任務上の役割を支援する形のしっかりした兵器共同計画を日本との間に設けることを期待している。」こうございますが、これは共同研究開発から共同生産までアメリカは期待している、こういうことではございませんか。わが方の意思は別としてですよ。ここで言うところの兵器共同計画、これはやはり共同研究開発から共同生産までアメリカは期待している、わが方の意思は別としましてですよ。そういうことでしょうね、これは。#177
○安倍国務大臣 この武器技術の供与の目的が、アメリカのいわゆる自衛力の向上ということ、さらに安保条約の効果的運用という趣旨にのっとってやるわけでございますから、アメリカにおいてアメリカ自体の国防力の充実のための生産を行う、武器生産を行うということは当然あり得るのじゃないかと思います。#178
○坂井委員 共同研究開発から共同生産まであり得るということになりますか。#179
○北村(汎)政府委員 国防報告の中で言われておりますことは先ほど先生からございましたとおりでございますが、これは、強調しておりますところは、技術の両面交通を可能にしたという今回のわが政府の決定というものを踏まえて、いままで一方通行であったものが両面通行になるんだ、そこで今後いろいろコオペレーションプログラムというようなことでやっていくということでございまして、何も武器の共同生産をやっていくというようなことまで書いておるわけではありません。#180
○坂井委員 アメリカ側の期待とか意思とかについては、やはりそこまで願望が込められているのだろうと私は思う。それはそれとしまして、アメリカから共同生産の申し入れがありました場合には日本政府は断りますか。
#181
○山中国務大臣 これはたびたび申しますとおり、総理が共同生産はやらないと明言されておりますから、はっきりしております。#182
○坂井委員 日米以外のもう一つの国、三つ以上の国が集まりまして共同研究開発、これは可能でしょうか。#183
○安倍国務大臣 そういうことはあり得ません。#184
○坂井委員 そうしますと、いまアメリカとNATO諸国の間において共同研究開発あるいは共同生産まで踏み込んでおる。そこに日本が参加をする、仲間入りをする、そういうことはあり得ない、こういうことでしょうか。#185
○安倍国務大臣 今回の武器技術供与の趣旨から見まして、そういうことはあり得ないわけであります。#186
○坂井委員 よくわかりました。もし、それがあり得るとすれば、これはまさに集団安全保障体制、集団的自衛権というようなところまで現実的に踏み込むということだろうと私は非常に危惧したわけです。明確にそういうことはないということでありますので、それはそれなりに受けとめておきます。しかし、現実問題としては、技術の持つ特性からいたしましてそれが非常に至難になっていく、そのところを私は非常に強く実は心配するわけでございます。なお、具体的にお尋ねをいたしますが、東京電気化学工業、これは防衛庁の委託で研究開発いたしましたフェライト、前のときに私はお尋ねをいたしましたが、いわゆる電波吸収塗料、この技術につきましては防衛庁が特許権を持っております。この技術は汎用技術ですか、武器技術ですか。
#187
○木下政府委員 防衛庁が東京電気化学に委託いたしまして広帯域の電波吸収塗料についての研究をいたしましたが、その結果は、先生おっしゃいましたように、防衛庁の特許として持っております。ただ、この技術に基づきましてつくりました塗料を輸出する問題が起こりました際、通産省の方におきましては汎用品であるという判断をされまして輸出を認めたという経緯がございますので、技術につきましても私どもは汎用技術だと考えております。
#188
○坂井委員 あたりまえのことをお尋ねしますが、汎用技術でありますと、米国以外の国に対してもこれは輸出することは当然可能ですね。その場合、共産圏に対しても可能ですね。#189
○山中国務大臣 汎用技術であれば共産圏は除外されません。ただし、それがココムに関与するものであると明確であれば、それは拒否せざるを得ないというたてまえでございます。本音でございます。#190
○坂井委員 安保条約及びその関連規定に基づきまして、つまり、いま言う今回のアメリカにお約束をいたしましたその取り決めに基づきまして、アメリカからこのフェライトの技術の提供要請があった場合には、つまりMDA、これに基づいて提供要請があった場合には、日本政府は断りますね。#191
○木下政府委員 いま御質問ありました技術が防衛庁の持っております技術でございますので、防衛庁の方から答弁させていただきますが、先ほど御説明いたしましたように、これは最終的に通産省の方と協議いたしまして判断することにはなりますが、汎用技術だと私ども思っておりますので、汎用技術でございますと、本来、今回の取り決めの範囲の外に出たものだと考えております。#192
○坂井委員 したがって、アメリカから要請があった場合には、それは外のことですからということでお断りいたしますねと、こうお尋ねしたわけです。#193
○木下政府委員 国際取引は原則自由ということになっておりますので、汎用技術でありまして特に障害がないものであれば輸出を認めていくということではないかと考えております。#194
○坂井委員 質問に的確にお答えくださいよ。MDAで求めてきた場合には断りますね。これは汎用技術だから、武器技術ではないのですから。それはMDAの話じゃありませんよ、アメリカさんと。これは汎用技術ですよ、MDAを通す問題じゃありませんよと、こういうことでしょう。#195
○木下政府委員 先生おっしゃいましたように、汎用技術でございます場合には、このMDAに基づく細目取り決めを結んで供与する必要はございませんので、これは一般の基準に基づいて通産省が判断されるものだと思います。#196
○坂井委員 重ねて伺っておきますが、このフェライトは武器技術ではなくて汎用技術ですね。#197
○山中国務大臣 そのとおりです。#198
○坂井委員 川崎重工が開発したレーザー式の対戦車ミサイルの技術、これは武器技術ですか。#199
○木下政府委員 現在、防衛庁では、中対戦車誘導弾につきまして、川崎重工に対し、レーザー光線を使ったものにつきましての研究開発の委託をしております。したがいまして、できましたものは当然防衛庁としては防衛庁の用に供したいと考えております。したがって、その個々の技術がすべて武器技術かという点はそれぞれの中身を見ないと言えませんが、全体としてでき上がったものにつきましては武器だというふうに考えていただいてよろしいかと思います。#200
○坂井委員 ここにその特許公報があるわけです。これを見ますと、やはり武器技術だなという感じでございます。私は素人でございますからわからないのでお尋ねしているので、いまの御答弁のとおり、これは素直に武器技術だろうというように受けとめておきます。そこで、そうであれば、米国政府あるいはアメリカ国防総省からこの技術の提供要請、この技術というのは武器技術、この技術の提供要請、これがなされた場合――あるいはもうなされているのですかいないのですか。あるいはまだなされていないで、もし、なされた場合には、当然検討の対象になり得る技術でしょうね。同時に、川崎重工が拒否すれば、政府は、これは川崎重工がだめだと言っていますからだめですよとアメリカに断られますか。
#201
○木下政府委員 本件につきましては、先日新聞等で報道されましたので、川崎重工に対してそういう事実があったのかということを聞きましたところ、全くなかったということでございますし、それから防衛庁におきましても、本件の技術につきまして、特にアメリカの方から関心を持って、欲しいということを言ってきた事実は全くございません。#202
○坂井委員 もし提供要請があったときには、検討の対象にはなり得る、こういうことでしょうか。#203
○木下政府委員 仮定の問題でこざいますが、今回の措置に基づいて提供要請が将来あった場合には、当然検討の対象になると思います。#204
○坂井委員 まあそうでしょうね。やはりこれは汎用技術ではない、武器技術ですから、検討の対象になり得る、御答弁は正確だろうと思います。総理がアメリカに行かれましてワインバーガーさんとお会いになりました。軍事技術がどうもソ連に流れて困る、やはり流れないようにしたいものだ、こういう要請がなされたやに報道では伺うわけでございますが、どんなお話だったのでしょうか。
#205
○中曽根内閣総理大臣 それは要請というほどではなくして、向こうの感想を述べた。軍事技術でない普通の工業用技術、作品等は、向こうへ渡った場合に、それが向こうの武器として非常に使用されているというケースが多い、そういうものは非常にアメリカとしては関心を持っている、そういう趣旨の話がありました。#206
○坂井委員 わかりました。非常にアメリカは関心を強く持っているということだろうと思いますね。それはこれ以上申しませんが、やはりアメリカにしてみれば、日本の技術というものが、これは汎用技術、軍用技術を含めまして、先端技術というものがソ連に流出をするということについては、非常にこれを危惧をしておる、これは紛れもない事実だろうと思いますね。したがって、アメリカからすれば、日本の技術、これをできるだけ多くMDAでもってアメリカに提供してもらいたい、ソ連に流れないようにもしたい、こういう願いが一つ込められていると私は見ております。
ただ、その場合に、日本の技術といいましても、ほとんど汎用技術が技術の主流をなすものであって、いわゆる軍事技術と称するものは数少ないだろう。そういう中で、いま申しましたようなアメリカの要請が一つありますね、対ソ戦略の一環として。日本の技術をできるだけアメリカが抱き込んで、アメリカは、後で申しますけれども秘密特許制度、これは強大な権力のもとにこれを保護する、アメリカ政府の監督下に置くというわけですから、これはなかなか漏れない。片や日本は公開特許制度、これはきわめてオープンで、私の手元にも次から次から、アメリカが日本でとった技術もここにありますがね。ですから、心配で心配でしようがない。これはやっぱり本音だろうと思います。そういうことで、日本の汎用技術と目されるものが、軍事技術という名のもとに、MDAの枠組みの中でアメリカにどんどん吸収されてしまう。この言い方はよくないかもしれませんが、そういう心配はないのか。その辺はいかがでしょうか。これはどなたにお尋ねしていいのかわかりませんが……。
#207
○福川政府委員 先生御指摘のとおりに、武器技術輸出につきましての三原則、これにつきましては、いわゆる輸出貿易管理令の別表第一の一九七から二〇五項までに掲げられるもののうちで、軍隊が使用するもので直接戦闘の用に供されるもの、こういうことで私どもは運用いたしておるわけでございまして、それの設計、製造、使用、こういう技術にかかわるものを運用いたしておるわけでございます。今回供与をいたします場合、これはMDAで供与をいたしますわけでございますが、先ほど累次政府側から御答弁申し上げていましたように、いろいろ目的外の使用の禁止とかあるいは目的外使用につきましての事前の同意とかあるいは第三国へのいろいろの同意、こういうことがございます。したがいまして、武器技術ということに関します限りは、私どもとしては十分歯どめがかかっておるというふうに思っておるわけであります。
また汎用技術、いわゆる一般の民生用の技術、これにつきましては武器輸出三原則の対象として取り扱っておらないわけでございまして、これはもちろん企業の自主的な判断を尊重して従来取り扱ってまいり、これも今後もそのような方針で対処をいたしたい、こういうことで考えております。
#208
○坂井委員 総理、総理にこんなことを申し上げるのは釈迦に説法かもしれませんが、ただ、私が前の予算委員会におきましても申し上げたのは、一体、技術というのは何なのだろうか。武器技術とか汎用技術とか民用技術とか、言葉では皆さんそうおっしゃるが、これは一体何なのだろうか。技術の特性というものを、これは汎用技術、これは軍事技術、そんなに簡単に、たとえば竹を二つに割って、右は民用でございます、左は軍事用でございますと、そんなものではない、技術の特性からしましてね。技術というのは、もとをただせば人間の頭の中にある。もし、この技術の表現形態、形づくって目に見せようと思えば、それは記号であり、数式であり、あるいは文字、文章でしょう。あるいはまた、一つの図式であり、設計図でしょう。そんな技術を一体、これが武器技術でございますと。今回は武器技術だといま御答弁いただきましたが、この技術の定義というものをもっとしっかりしませんか、基準づくりをいたしませんかということを私は前の国会、予算委員会において提言をいたしました。そんな必要はない。なぜか。いまの御答弁どおりでありまして、従来、貿管令において適用されておりましたそれを武器技術にそのままはめた、言うなれば、武器技術というのは、その技術の性状、内容からしてもっぱら武器に使われるであろうとする技術をもって武器技術とするのだ、こういう政府の武器技術に対する基準と申しましょうか、定義と申しましょうか、これじゃ弱いじゃありませんかと、こういう問題提起を実はいたしたわけでございます。今回の武器技術の対米供与ということになったこの段階で、私はなおさらいまの感を実は深くしながら、はてさて困ったものだなあと、正直にそんな気持ちがするわけでございます。お伺いいたしますけれども、対米武器技術供与、わが方が踏み切った。わが方が、日本政府が主体的に自主的に考える武器技術供与、武器技術、今回アメリカに対して、向こうから提供要請があれば検討に値する、検討の対象になり得る武器技術がいま一体どれぐらいあるのか、政府は把握されておりますか。
#209
○冨田政府委員 ただいま防衛庁としてどういうふうなものを持っているかというようなお尋ねでございましたが、これはただいまの段階ではまだアメリカ政府からも具体的な要請はございませんので、どういうものが該当するかということについて明確に私どもは判断することはできない状態でございます。#210
○坂井委員 じゃ、なお具体的にお伺いいたしましょう。いま防衛庁が研究開発をいたしまして、これは民間に委託した分も含めまして、防衛庁が持っております特許権、五十七年十二月末現在でたしか三百三十二件あると思います。防衛庁が取得しておる特許権、これが三百三十二件あると思いますが、この三百三十二件の技術の内容、性状から見まして、これが客観的にこの三百三十二件の何件が武器技術で、それ以外は民用あるいは汎用技術だということになりますか。三百三十二件の中で武器技術は何件ございますか。
#211
○冨田政府委員 特許権及びその特許権があらわします技術の性格から申しまして、先ほど先生もお触れになりましたように、非常に技術に広がりのあるものでございまして、どれが武器技術であるかないかというような明確な仕分けはきわめてむずかしいと思います。#212
○坂井委員 そんな御答弁ですと、じゃ一体なぜアメリカに対して武器技術を供与しますと、こう言ったのか。武器技術、少なくともいま防衛庁が持っている三百三十二件、しかも、これは防衛庁が研究開発をして特許までとっているのですね。その中で武器技術は何件ありますか、それもわからない、アメリカから提供要請がないから。じゃ、武器技術を提供する国はどこなんですか。日本でしょう。そんなことになりましたら、アメリカの言うままになるんじゃありませんかということを私は危惧するからお尋ねをしているわけであります。先ほどの東京電気化学工業が開発をいたしまして防衛庁が特許権を持っているフェライトにつきましては、明確に汎用技術である。じゃ、この三百三十二件、これを汎用技術と軍事技術に分けてください、答えが出ない。これは一体どういうことですか。#213
○木下政府委員 防衛庁で持っております特許の中には、それが一般の民生用にも使い得るという可能性があるということも考慮して、それは公表ということで特許にしたものもございますので、当然汎用品、汎用的なもの、両方あるわけでございます。したがいまして、具体的にアメリカから技術提供の要請がありましたときに、それが防衛庁の持っておりますす技術ということになったときに、初めてそこで通産省の方と御相談いたしまして、それが武器技術に該当するかどうかということを決めていく以外に、いま具体的にこれが武器だということを示すのはなかなかむずかしいことでございます。
#214
○坂井委員 防衛庁と通産省、二省の間だけでそのときそのときに、これは軍事技術だ、じゃ提供いたしましょう、いや、これはそうじゃありません、提供しません、これを決める、そういうことですか。#215
○福川政府委員 先ほど申し上げましたように、それが武器技術であるかあるいは汎用技術であるか、これは、武器技術ということになりますと、その耐久性あるいは精度等におきまして通常の民生用のものとは異なった特殊な機能が要求されるわけでございまして、したがいまして、そういったものの製造に当たりまして特別の技術、こういうものをケース・バイ・ケースで判定をいたしておくということでございます。防衛庁の持っております特許がどういうものであるか、私どもは承知をいたしておりませんが、いま申し上げましたような観点から、それが武器技術であるのかどうかということを、先ほど先生御引用になられました貿管令との関係を踏まえながら、それをケースごとで判定をいたしていく、こういうことでございます。
#216
○坂井委員 総理にお伺いしておきたいと思います。防衛庁と通産省の間だけで判断するんじゃなくて、まあ国会にまで事前に相談するということはあるいは言えないかもしれませんが、それも含めまして、これはやはり政府としてその場合には慎重に対処しなければならぬわけですから、やはり何らかの歯どめといいますか、慎重な検討機関と申しましょうか、何かが欲しいのじゃないでしょうか。いかがでしょうか。
#217
○中曽根内閣総理大臣 この問題は非常に慎重を要するというお言葉、そのとおりであると思います。したがいまして、単に両省あるいは事務当局だけの相談ずくでなしに、あるいは官房長官が介入するとか、何らかのそういう形によりまして、十分な慎重な措置を講ぜられるように考えておきたいと思います。#218
○坂井委員 防衛庁がいままでたくさんアメリカから軍事技術をいただきましたね。これが全部秘密保護法、その対象になっておりますね。その件名及び件数、これを報告してください。私は前回このことを申し上げました。もらっているはずだと言ってお答えがなかった。秘密保護法の対象になってアメリカからいただいた軍事技術、どれぐらいありますか。#219
○木下政府委員 防衛庁が過去におきまして、アメリカから兵器の生産をするためにたくさんの技術の提供を受けてきております。それで、たとえばF15という戦闘機をつくります場合にはたくさんの技術をもらうわけでございますが、それを何件というふうに数えるのは非常にむずかしゅうございます。したがいまして、防衛庁の方といたしましては、秘密を要するものとしてアメリカが指定いたしまして技術資料を日本によこした場合、その場合の件数を資料の数ということでまとめてみますと、過去いろいろな形で生産しました兵器十一種類につきまして、資料の数で合計いたしますと千三百九十件ございます。#220
○坂井委員 要撃戦闘機F104J七十件、対空誘導弾ナイキJ八十件、同じくホーク百七十件、要撃戦闘機F4EJ五十件、空対空誘導弾AIM7E百三十件、対空誘導弾改良ホーク百九十件、短距離艦対空誘導弾シースパロー百六十件、要撃戦闘機F15J百三十件、空対空誘導弾AIM7F百七十件、同じくAIM9L六十件、対潜哨戒機P3C百八十件。間違いないでしょうか。#221
○木下政府委員 アメリカからもらいました技術資料の件数ということでまとめました数字は、いま先生がおっしゃったとおりでございます。#222
○坂井委員 今回、アメリカにもし仮に提供いたしますとするならば、日本からアメリカに持っていった軍事技術はどういうふうな保護になるんでしょうか。#223
○北村(汎)政府委員 MDAの協定の枠組みの中で、私どもからアメリカ側に供与いたします技術であって、わが国政府が秘密指定したというものにつきましては、これは国家安全保障情報に関する大統領行政命令というのがございます、そこで言う外国政府の情報として取り扱われまして、米国の秘密として保護されることになります。#224
○坂井委員 実は先ほどちょっと触れましたが、あるいは前国会予算委員会で、私は彼我の特許制度の違いについてずいぶんお尋ねをしたわけでございまして、本日も、この特許制度の違いからくる困難性、あるいはそのことが、やがてはアメリカに提供されました武器技術というものが彼我の制度の違いからほとんどしり抜けになってしまうのではなかろうか。それを具体的にお尋ねをしながら、今日わが国は、昭和二十三年以来、かつての秘密特許制度から民主的な公開制度に切りかわった。これが今日の日本産業の育成発展のために非常に大きな役割りを果たしたと私は高く評価しているわけでございますけれども、一つ心配なことは、いままでアメリカからもらった技術が、先ほど申しましたように、秘密保護法の対象になって厳に保護されてきた。今度アメリカに持っていく技術につきましては、アメリカ政府の管轄のもと、保護のもとに厳重に保護されるということだろうと思います。そこで、一点だけお尋ねをしておきますが、いまの公開特許制度、これを改正するとかなんとかというようなお考えはありませんか、どうですか。
#225
○山中国務大臣 全くございません。#226
○坂井委員 よくわかりました。特許制度の問題、具体的な中身について議論を進めたいと思いましたが、別の機会に譲りたいと思います。時間が追っておりますものですから、大型間接税の導入及び直間比率の見直しの問題につきまして、一、二点総理にお伺いをしておきたいと思うのです。
財政再建に関する決議、いわゆる国会決議がございます。国会決議の中では「一般消費税(仮称)」こうなっているわけでございますけれども、その言わんとするところは、やはりEC型の付加価値税でありますとか、あるいは税調が言いますところの広く消費に注目した税でありますとか、ましていわんや大型間接税の導入、そういうものは一切拒否するという考えがあの国会決議の精神だと私は思っておりますが、総理はどうお考えでしょうか。
#227
○竹下国務大臣 これは私が大蔵大臣でありました当時、決議をいただいたものでございますから、私からお答えをさせていただきます。確かにあの御決議がなされまして、そのときに私どもが答弁をいたしますときには、私は財政当局の責任者でありますし、また御質問いただく方はそれぞれ党の責任者でございますので、言葉を大変に選びまして、注意していつでも御答弁を申し上げておるわけでございますが、ただ、理論的に、学問的に言って、消費一般にかかる税制そのものを否定してしまった場合には、税制体系そのものを否定することになりはしないかというお答えを申し上げ、あの際、この「いわゆる一般消費税(仮称)」の手法を国民の理解を得られなかったからとるべきでない、こういう御決議と、真っ当にこれを受け取っておるわけでございます。
ただ、これは当然のことといたしまして、絶えず、三年目ごとの任期で成立いたしております政府税調に対し、一般的に税制全体についての諮問をしておりますので、したがって、その諮問を申し上げる中にこの税目は外へ出しておくとか、これは中へ入れておくとかいうべきものではなく、ただ国会決議でありますとか、国会におけるこのような問答でありますとかという問題はすべて御報告申し上げておりますので、特にこれは入り、これは入らないという性格のものではない、したがって、消費一般にかかる税制そのものを否定するものではないという立場は、やはり財政当局者としては貫くべきものではなかろうかというふうに考えております。
#228
○坂井委員 大蔵大臣、そうしますと、これは減税との絡みで議論になるのでしょうが、大蔵大臣の頭の中に、やはり一般消費税(仮称)、いわゆる一般消費税という呼称がなければ大型間接税の導入も一概に拒否するものではないのだ、そういうお考えは頭に、少し片隅にはあるのですか。#229
○竹下国務大臣 これはいわゆる大型間接税、こういうことになりますと、私もこれをずいぶん整理してみたわけでございますが、定義は何ぞや、こういうことになりますと、確かに明確な定義があるわけではございません。一般的に課税ベースの広い間接税であり、ある程度まとまった税収の得られるものを意味するとでも定義づけるべきではなかろうかというふうに思います。さればとて、この課税ベースの広さとか税収の規模とか、それにまた一定の基準があるわけではございません。ただ、いま念頭にあるかということでございますが、学問としてはそれはだれも念頭からぬぐい去るわけにもいかぬでございましょうが、大型間接税の導入については総理から具体的に検討を命ぜられたこともございませんし、私もまた検討していることはございませんし、また指示もしていないというのが現状でございます。
#230
○坂井委員 じゃ、総理に伺いますが、わが党竹入委員長の本会議の質問に総理がお答えになりまして、いわゆる一般消費税は導入はしない、こう答弁された。そうは答弁されましたが、所得税減税との兼ね合いで、総理は、所得税減税は、税制調査会の答申では、五十九年度以降税制全体の見直しの中で根本的に検討するとなっており、検討を加えるべき問題だと考える、加えて、税の直間比率のバランスは国民の合意と選択に任せる問題だ、こうも言われたわけですね。こうした総理の答弁がありまして、そしてまた一方、臨調の土光さんが、増税なき財政再建、これは堅持するんだということを強く言われている。したがって、臨調最終答申では、増税なき財政再建、これを一層明確にするよう、そういう方向が確認されたということが言われているわけでありまして、部会報告にあります大規模な歳出を伴う政策を実施する場合には国民負担の増大で賄うというところはもう削除するという非常に強い増税なき財政再建路線がさらに確認をされた、こういうことですね。
そういたしますと、総理のいまの御答弁とあわせ考えまして、やはり増税ということを総理は頭の中に描かれているのかなという実は危惧をしながら、減税と抱き合わせならば、大型間接税の導入につきましては増税なき財政再建の許容範囲である、総理はそういうお考えでしょうか、どうでしょうか。真意のほどをお伺いしておきたい。
#231
○中曽根内閣総理大臣 減税と大型間接税を抱き合わせでやるとかやらぬとか、まだそういう点は考えてはおりません。ただ、臨時行政調査会の答申の中に、五十六年の七月答申でございましたか、増税なき財政再建とは、ということに対する定義が載っていたと思います。その定義は、全体としてまず見るということと、それからGNPに対する租税負担割合というものは動かないということが前提で、そして新しい税金をつくるということでなくして、その中の範囲内において移動やら調整があり得ることは認めておる、基本的にそういうことをやることは認めておる、そういうふうに書いてあったと私、記憶しております。それは、臨時行政調査会の委員の皆様方がそういうふうにお考えになって決定したことであって、増税なき財政再建と臨時行政調査会が言われるのは、こういう解釈のもとに言ってきているということを私は理解しているということでございます。大型間接税につきましては、いま竹下大蔵大臣が申し上げましたように、検討も命じてもおらず、指示もしておりません。
#232
○坂井委員 時間がございませんので、また日を改め、機会を改めて論議を深めたい、質問をいたしたいと思います。最後に一点、関西新国際空港の問題で伺っておきたいのですが、実は総理の御発言で、大変積極的なこういう見出しがあります。今回、五十八年度予算を見ますと、着工準備費が三十二億円計上されておりますが、この着工準備費の性格ですね、総理は記者会見等でお述べになったようでございますので、関西新国際空港の必要性と今回の着工準備費三十二億円、これは一体どういうことを意味するのか、総理から御答弁を賜りたい。
#233
○長谷川国務大臣 御案内のように、五十八年度の予算に関西新空港四十億円予算をつけてあります。これは二十四時間空港がまだ日本にないということ、関西もまた非常にジェット機の増便、各国からの乗り入れ要請等々がありますので、ここで泉州沖に関西空港をつくる。着工準備費というのは、いままでの調査費もありますけれども、着工するということを前提にして四十億円つけた、そういうふうな一歩前進ということでございます。#234
○坂井委員 運輸大臣から大変明確に泉州沖と、その場所、位置につきましてもはっきり御答弁ございましたし、さらに着工まで含むのだということでございますので、一歩も三歩も十歩も前進だろう、こう私は受けとめておきます。そこで、この計画を今後どう推進するのか、関係閣僚会議なんかつくりますか、その見通しなんかも含めて、あるいは同時に、成田空港の反省から、これは環境問題もあるわけですが、それはそれとしまして、交通アクセス、これは大丈夫だろうか、あるいは地域整備、これは一体どうなるのか、大変な関心事でございまして、その辺も含めて御答弁をちょうだいしたいと思います。
#235
○長谷川国務大臣 おっしゃるように、成田は、夜は明かりはついておりますけれども飛行機は乗り入れできません。そういうことも教訓にしまして、関係予算が通過した後には関係閣僚会議を開き――そしてまた、いろいろな問題、道路等々、アクセス等々についてもそれぞれ研究をしております。フェリーで来る地方もございますし、あるいは高速道路を使うところもございますし、既存の鉄道を使うところもありますので、これは関係各省庁、各県の御協力体制を得るように、いま諸般の準備を整えております。#236
○坂井委員 総理に、最後に、いまの問題でお尋ねをしておきたいと思います。これはきわめて積極的に二十四時間空港、本格的な空港として推進するんだという強い総理の御決意がおありであろうと私は思いますが、また一方におきましては財政事情が大変逼迫している、困難な状況にある。そういう段階の中で、大型プロジェクトについてはこの際控えたらどうだというような意見も一方にあることは無視しがたい。しかし、運輸大臣の御答弁どおり、この泉州沖に建設を予定いたしました関西新国際空港の必要性につきましては、非常に大きな必要性がある、私はそう思っております。したがって、まず総理として、この国際空港建設に当たる御決意のほどを最後にお伺いをいたしまして、質問を終わりたいと思います。#237
○中曽根内閣総理大臣 関西国際空港につきましては、泉州沖につくるということを前提にいたしまして、そして今度一歩前向きの姿勢をとった次第です。着工を目標にして今後諸般の準備を行う。その中には、どういう経営形態がいいであろうか、あるいは地元との協力関係についてどういうような協力関係をすることが適当であろうか、あるいはアクセスの問題もございますし、あるいは財政負担の問題もございます。いろいろ国家財政窮乏の折から非常に問題になった点ではございますが、やはり関西全体及び二十四時間空港の必要性という面から見まして、希望の灯を消してはならない、そういう考えもありまして、一歩前進という姿勢をとったわけでございます。ここで特に関西地方の皆さんにお願いしたい、坂井さんにもお願いしたいと思うのですが、地元の協力ということが今度は非常に重要になってまいりました。成田の例を見まして、いかに地元との調整、調和というものが必要であるかということを痛感しておりまして、その点につきましては、坂井委員の積極的な御協力もお願いいたしたいと思う次第でございます。
#238
○坂井委員 終わります。#239
○久野委員長 これにて坂井君の質疑は終了いたしました。午後一時四十分より再開することとし、この際、休憩いたします。
午後零時四十六分休憩
────◇─────
午後一時四十一分開議
#240
○久野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。質疑を続行いたします。木下敬之助君。
#241
○木下委員 早速質問させていただきます。一月二十九日に出されました政府の今後の財政改革に関する基本的考え方並びに試算によりますと、赤字国債発行のゼロ時期を「できるだけ早期に、できうれば数年を目処に、その達成を図ることが望ましいが、」と述べておられます。またその後、この点につきまして大蔵大臣は、二月九日の大蔵委員会の答弁で、その時期は五年から七年と言っておられます。また、きのうの本会議におきまして総理は、五年以上十年ぐらいの間が目算と答えられました。中期試算が出された段階では、最大期限は七年先と受けとめていたのですが、それよりも先に目標を置くこともあり得るということですか、一体どういうことですか、統一したお考えをお伺いいたしたいと思います。
#242
○竹下国務大臣 財政改革についての基本的考え方、そして赤字公債脱却の目標年次、そういう問題についての御質問でございます。現下の財政をめぐります環境は、きわめて流動的なものとなっておりますので、特例公債依存体質からの脱却年度については、まさに経済の将来展望の検討、経済情勢等を勘案をいたしまして、今後具体的に検討する、こういうことにいたしておるわけであります。したがって、具体的に何年というめどを必ずしも確定しておるわけではございません。ただ、臨調の部会の答申を見ますと、財政の機動性、弾力性の回復には、六十年代を通じて努力が必要であるというふうな旨述べられておりますが、しかし、これは全体の財政再建の目標でございますので、特例公債依存体質からの脱却目標ということになりますと、やはり二、三年では短過ぎる。それで、お示しいたしました試算は、確かに五年、七年というものをお示ししたわけです。ひとつ木下委員に御理解いただきたいのは、されば七年以上の設定を置いて等率、等差で試算するというのは余りにも不確定要素が多くはないか、したがって、やはりこの五年、七年というものを試算したわけでございます。
総理がお答えになりましたのは、やはり当初申し上げましたような考え方に基づいて、なかなかその見通しの困難さを認識された上で、五年あるいは十年の間というようなところへ設定すべきではないか、これからそれはやはり慎重に検討すべき課題である、こう申されておりますので、私が申しましたのは、たとえばお示ししておる指針からいたしますならば、その二、三年というのは現実問題としては困難ではないか、やはり五年とか七年とかというようなことを念頭に置きながら、これから、試算にそういうものを示しておるわけでございますので、具体的に検討してまいりたい。したがって、五年、十年の間というようなところでやはりめどを置くべきではなかろうかということについては、意見は全く一緒であるというふうに認識いたしております。
#243
○木下委員 ということは、試算を出されたときに、七年後が最大期限というつもりではなかった、十年後が最大期限になることもあり得る、しかも、それもはっきり約束しているわけではない、こういう状況でございますか。そういう状況でこの審議をさせるわけですか。#244
○竹下国務大臣 やはり試算というものをお出しする限りにおいては、どこの先進国の計画を見ましても、大体その辺までが限度になっておりますものですから、それ以上になりますと、なお不確定要素をたくさんにすることになりはしないかという意味で、この五年、七年ということをお出ししたわけでございますので、七年以後十年もあり得るかとおっしゃいますれば、その試算というものが七年しか出ておりませんので、七年以後あり得るかとおっしゃれば、それは可能性として全くないとは言えませんけれども、私は、それ以上のいわば歯どめなしということになりますと、これからの財政運営自体にも歯どめがなくなりますので、おおむねその試算としてお示し申し上げる可能性の範囲内で、努力目標はこれから検討するといたしましても、置くべきではなかろうか、こういう考え方であります。#245
○木下委員 大蔵大臣のお考えとしては、七年後を最大期限に考えてやっていきたいという考えのようにお伺いいたしました。総理のお考えはどういうことでございますか。
#246
○中曽根内閣総理大臣 大蔵大臣と大体同じですけれども、いま政府は、例の経済社会七カ年計画を五カ年計画に変えましたのを、さらにこれを経済展望あるいは指針として長期的な弾力的なものに練り直しをしていただいているわけです。それによって大体経済の展望が出てきまして、それに基づいて財政改革の構想、数字というものがある程度輪郭が出てくる、こういう相前後して裏打ちされておると私は考えておるのです。そうしますと、例の経済展望あるいは指針というものが何カ年計画ぐらいになるであろうかということを考えてみますと、十年では長過ぎるということは私も感じております。五カ年を七年にするのか八年にするのか、あるいはその辺を見当にして考えているのではないだろうかと私は想像しております。
その場合に、じゃ財政の改革の方はそれに見合ってやるというようなことになると、七年とか八年という程度になるかもしれません。しかし、経済展望の成り行きいかんによっては、もし長期的に不況が持続していく、あるいは低成長時代がこのままずっと長引いて波乱が出てくるというようなことになりますと、これは七年で済むものかなという気もしておるわけです。あるいはいま日本が持っておる相当膨大な公債の償還を考えてみますと、これは試算でこざいますけれども、六十三年、六十五年ごろになると十数兆というお金を返さなければならぬ。その十数兆というお金を返していくめどが果たして立つかどうか、これから経済展望を裏打ちとして考えつつ検討していかなければならぬところです。
したがって、いま何年ということを予言することはきわめて危険である。一応私は、大蔵省や経済企画庁のお立場も考えて、私が余り拘束的なことを言うことはまずい。だから、まず十年以内のどの程度にポイントを置くかということは、企画庁や大蔵省で御自由にお考えなさい。しかし、少なくとも十年以上に延びてはいかぬ。しかし、その範囲内のどの辺の点にポイントを置くかということは両省庁でよくお考えになって決めたらいい、そういう意味で申し上げたのです。
#247
○木下委員 それでは総理は、大蔵大臣が七年をめどに、目標として、先のことは不確定要素もあるかもしれないけれども、現在七年を最大限度としてやろうというお考えに異存はないということでございますか。#248
○中曽根内閣総理大臣 もし、両省庁で話がそういうふうにまとまれば、もちろん異存はございません。私は、どちらかと言えば、大蔵大臣に対して余り重い荷を課さない方がいいんじゃないか、そういう気持ちもありまして、自由に選択してください、そういう意味で申し上げているわけです。#249
○木下委員 その問題、では、そういうことで質問を先に進めさせていただきます。それでは、試算によりますと、一応六十三年ゼロから六十五年ゼロを目指していくということにしまして、五十九年度ですね、来年度は四兆二千億円から四兆六千億円の財源不足額を生じることとなると思います。竹下大蔵大臣は、二月五日の矢野書記長への答弁で、赤字公債依存の財政を改めていく方法として、歳出カット、増税、借換債を含む新たな公債発行の三つに求めざるを得ない、財政改革を進める過程で国民の選択に帰する問題であり、経済財政状況を見て、また各方面の意見を聞いて判断すべきことだ、いずれを選択するか、また混合する選択もあると述べられました。今後の財政不足を打開するために、理論的には三つの方法、すなわち歳出カット、二つ目に増税、三つ目に借換債ということであります。
そこで私は、お伺いいたしますが、まず第一の歳出カットでございますが、五十八年度の五%カット案で削減されたものは二千七百五十億にしかなりません。また、補正予算における既定経費の節減を見てみましても、五十四年度七百四十六億、五十五年度七百三十九億、五十六年度六百億、五十七年度三千二百五十四億といった程度のカットしかできておりません。こういうふうに見てみますと、五十九年度政府が最大の努力をしても、さきに挙げました試案の中で示されております財源不足分四兆幾らをこれによって埋めるということはとうてい期待できないと思いますが、大蔵大臣の見通しはいかがでしょうか。
#250
○竹下国務大臣 この中期試算におきまして、いわゆる特例公債の減額幅については、一定の仮定のもとに、まさに複数の試算を行っておりますので、要調整額につきましても、このような仮定のもとで算出されたものであるということをまず御理解をいただきたいわけであります。そこで、このように複数の試算をお示しすることといたしましたのは、まさにわが国経済社会の将来につきましては流動的な要素も多いし、そして財政の将来については定量的な見通しを策定することはきわめて困難だ。現段階で特定の年度までに特例公債をゼロとしておくということは適当でない。そこで、三つのケースを出した、こういうことになるわけです。したがって、歳入歳出ギャップ、これにつきましては今後の経済情勢等も踏まえて、また特例公債の減額をどうするかという点について、それこそ国民の合意を得ながら処理方法の検討を進めていかなければならぬ。したがって、いま前もって具体的にそれは幾らを何でやりますとかいうことを申し上げる状態のものではないということを御理解をいただきたいわけであります。
したがって、五十九年度予算はどうするかということになりますと、予算編成の過程で検討をしていくということを申し上げることになるわけでございますが、これは一つの、これも当時出しました財政収支試算にしても、あるいは財政の中期展望にいたしましても、仮定に基づいた試算でございますが、たとえば五十五年にお出ししたものの姿で見れば、歳出は五十八年は五十九兆一千億になるだろう、それが現実五十兆四千億というように、やはりあくまでも一定の仮定のもとに出しておりますだけに、それは私は歳入ギャップというものは必ずしも予定しただけのものになるとは思えませんし、まだそれだけに切り込む余裕は十分ある、こう見ております。
ただ、矢野委員にお答えいたしましたことで申しますと、矢野委員にいわゆる原則として三つということでお答えいたしましたのは、要するに赤字公債の償還期が来る、その償還については、歳出カットか、あるいは増税か、あるいは公債発行の一形態としての借りかえによるかというような議論をいたしました。その際、私もいま省みて申しますのは、やはり歳出カットかあるいはいわゆる負担増かと申し上げる方が適当かと思います。負担増の中に自然増収も入りますし、また社会保険料等の増加とかいうこともございますので、いきなり増税と言ったのは、いささか私、みずからを省みて言葉の選び方に配慮を欠いたな、こう思っております。
だから、具体的に申しますと、まさに理論的には歳出カットか負担増かあるいは借りかえか、こういうことになるわけでございますが、理論的にはそうなるといたしましても、やはり私どもとしましては、まず歳入歳出構造の見直しによりまして、いわゆる財政改革というものを念頭に層いて、切るべきものは切っていくということで対処しなければならない課題である、このように考えております。
#251
○木下委員 時間もありませんから、できるだけ簡潔な御答弁をお願いいたしたいのですが、話があっちこっちになりました。私の方は、三つ言われて、その中のまず歳出カットについて、いままでの過去のやり方を見ていると、いまの政府は、非常にむずかしいんじゃないかと思いますが、実際にどれだけのことをやろうとしているのか、そんな遠い先のことを聞いているのじゃないのです。来年のことなんです。来年一体具体的に何をやれば幾らカットできるというふうに考えているのかをお聞きいたしたいわけです。
大蔵大臣に聞いていてもあれですから、総理にお伺いいたしたいと思いますけれども、二月九日に臨調の土光会長は総理にお会いになりまして、増税含みの発言に不満を持たれ、改めて増税なき財政再建を求め、この際補助金の思い切った整理合理化など思い切った歳出カットを求めておられます。これに対して総理は、「増税なき財政再建はかんぬきだ。これを外したら行革の仕事はできない。基本方針は守っていく。最終答申が出たら、行管庁長官に行革大綱をつくってもらい、閣議決定する。各大臣も行革大綱を受けて行革実行に取り組む心づもりだ」と答えておられます。
お伺いいたしますが、いまの大蔵大臣の歳出カットに対する答弁はお聞きになったとおりでございますが、総理の臨調への約束を五十九年度段階でどのように実現される方針なのか、総理のお考えをお聞きいたしたいと思います。
#252
○中曽根内閣総理大臣 行政改革を推進して、不退転の決意でやるということは一貫した態度でございまして、いまももちろん変わっておりません。誠心誠意努力してまいるつもりでございます。その一つの大きな要綱は歳出カットということでありまして、このためにもいままでいろいろ苦労もし、ゼロシーリングであるとかマイナスシーリングであるとかいうことで各方面にも御迷惑をおかけしておるところでございますが、来年度予算におきましても、同じように、経費の削減ということは重点の中の一つの大事な重点ではないかと思います。ただ、具体的に幾らほどするかというようなことは、これは予算編成の現実に会いませんと、いろいろな条件もございますからいまは申し上げませんが、抽象的にそのように決意を申し上げる次第です。
#253
○木下委員 赤字国債が多量にたまってきている、これを財政再建していこうという目標のもとに、いまの五十八年の予算も当然その考えのもとにやられているわけですから、一体これをどういうふうにするのか。そのためには歳出カットでやろうとすれば、五十九年度はどのくらいの規模の歳出カットをしていこうと考えているかが明らかにされないと、聞いているわれわれは、やはりそこはする気がないんだ、不可能と考えているというふうにとれると思います。次のもう一つの借換債の発行についてお伺いいたしますが、借換債の発行は、財政再建の最も大きな目標であります赤字国債依存からの脱却に逆行するばかりでなく、それは当然法改正が必要であります。すでに大蔵大臣は二月五日の答弁で、期限の来たものには現金で支払うのが基本だ、基本的に言って、借りかえを念頭に対応するのは不見識のそしりを免れないと思うと言っておられますし、また十四日の当委員会におきましては、国債の償還は現金で間違いなく返すと述べられました。大蔵大臣は、政策選択の可能性としては理論的には考えられるにしても、できるだけやりたくないということでございましょう。それとも、相当考えなければならないと思っておられるのか。どっちなのかをお伺いいたしたいと思います。
#254
○竹下国務大臣 これは、御指摘になりましたように、私が明瞭に申し上げておりますのは、国民の保有する国債についてはその償還は必ず現金で行います、この大原則を申し上げております。そこで、先般お出しいたしました国債整理基金の資金繰り状況についての仮定計算にございますように、償還のために大量の予算繰り入れが必要となります六十二年度、これが一つのポイントになりますが、その償還財源につきましては、それまでに、すなわち四年後でございますので、それまでに今後の経済事情や歳入歳出の動向を踏まえて検討いたします、これが一応の大原則でお答えいたしておるわけであります。
しかし、それをさらに御質問いただきますと、当然のこととして、理論的には先ほど申しました歳出カットとか負担増とか借りかえとかいうものがございます。しかしながら、やはり大体特例債そのものを一年刻みでお出ししておりますし、そしてまた、いわゆる定率繰り入れをやめる場合、去年、御審議いただいていることしにしましても、やはり一年ごとにお願いしておるというのは、ことほどさようにやはり予算繰り入れをしておくべきものであるということが原則として念頭にあるから、おずおずしながらという表現は適当でないかもしれませんが、緊張してそういうことをお願いをしておる、だから、やはり借りかえに安易に頼るべきものでない、こういう考え方を基本的に堅持すべきであると思っております。
#255
○木下委員 当然のことで、こんなことをやれば財政の原則は崩れて、財政再建そのものがだめになってしまうと思いますので、その辺は安易にやらないというどころか、全く原則を守ることを信頼申し上げておきたいと思います。したがって、大蔵大臣が挙げた三つの手段のうち、二つはなかなかむずかしいということになると思います。そうすると、負担増と申しましたけれども、この負担増も、その一番大きなものを占めるものは、一番大きいというか、ほとんどは増税でしかできないと思います。増税しか残らないと思いますが、ほかに何か手がありますか。
最近の大蔵大臣の大型間接税検討についての発言はそのことを意識したものじゃないか、こう思われます。増税しかなくて、しかも、その規模は、要調整額の規模からいっても数兆円にならざるを得ない、こういうふうに思います。まして減税も同時に行うとしたら、その規模はもっとさらにふくらんでくると思います。五十九年度の財政不足四兆二千億から四兆六千億の財源確保はどうやって解決するつもりですか。政府の考え方でいけば五十九年度は増税は必至だと思われますが、いかがでしょうか。
#256
○竹下国務大臣 これは、御指摘のように、国の歳出というものは租税等の経常的歳入で賄うということが基本でございます。それがいま公債発行になったりしておるわけでございます。したがって、負担増ということになりますと、これは理論的にいけば、いわば増収もございましょう。あるいは社会保険料とか、そういう問題もございましょう。あるいはさらには、今度お願いしております専売納付金をふやしていただきまして、たばこの値上げでございますが、そういう点もございましょう。そういうようなものを総合的に検討をすべきことでございますが、やはり増税ということを念頭に置いたら財政改革そのもののかんぬきがなくなる。これが基本でございますので、まずは財政改革を断行する、安易に増税を念頭に置かない、こういうことで貫いていきたい。したがって、制度、施策を現行の水準のままにしておいて、そして、これ以上絶対制度、施策は現行水準を落としてはならないぞというような問題ということに対しましては、さればいわゆる受益と負担の関係でどうするかというような問題は、それこそきょうのような国権の最高機関たる国会の問答、そういうものを通じながら十分各方面の意見を聞いて対応すべきものであって、あらかじめ予断すべきものではない、このように考えます。
#257
○木下委員 大臣、安易に増税を念頭に置いているとは思っておりません。安易にやるなどと、とてもそんなことは考えておりませんけれども、歳出カットを一体何をどうするのかと言うと、何も念頭に具体的なものはない。負担増も、増税以外のものには具体的なものがなかなか浮かんでこない。何を念頭に置いているかと言えば、やはり増税を念頭に置いているとしか思えないというのが率直なところでございます。大蔵大臣は、直間比率の見直しについては機は熟していると、相当な意欲を示されております。しかし、臨調の昨年七月の基本答申では、増税なき財政再建については明確な原則設定をしております。ちょっと先ほど総理も言われましたが、もう一度読んでみます。
「「増税なき財政再建」とは、当面の財政再建に当たっては、何よりもまず歳出の徹底的削減によってこれを行うべきであり、全体としての租税負担率の上昇をもたらすような税制上の新たな措置を基本的にはとらない、ということを意味している。」こうありますが、確認させていただきますが、この原則は守りますか。
#258
○竹下国務大臣 守るべきものであると思っております。#259
○木下委員 重ねてお伺いいたしますが、第二次臨調の土光会長は十六日の定例委員会で、「増税なき財政再建は鈴木前首相、中曽根首相とも約束した。五十九年度赤字国債脱却にしても、臨調答申どおり政府が実行していればできた。答申どおりやらなかったのは政府の責任だ」と政府を非難し、さらに、最終答申の取りまとめに当たっては「政府が責任を持って「増税なき財政再建」を実行していくことを迫るものでなければならない。政府に積極的な対応をやらせるためには、逃げ場のない書き方をしなければならない」、こう強調されております。このような主張に貫かれた最終答申が出された場合、その答申を厳重に守っていきますか。遵守していくことを明言していただきたいと思います。総理、御答弁をお願いします。#260
○齋藤国務大臣 この三月十五日が最終でございまして、三月十四日に最終答申が出るわけでございますが、その最終答申には、先ほどお述べになりましたような増税なき財政再建ということを基本として、省庁の再編成の問題あるいはまた補助金の整理の問題、許認可の問題等々が答申になるわけでございます。臨調の答申につきましては、前内閣、中曽根内閣を通じまして、これを最大限に尊重するという基本方針を決めておるわけでございますので、答申が出た暁には、その答申を尊重してこれを実行に移すという決意でいくべきものであると考えておりますし、私も、総理の指示のもとに、そうした方向で努力したい、こう考えておるわけでございます。
#261
○木下委員 行管庁の立場でやられることはそれですが、私がお伺いしたいのは、この増税なき財政再建ということの逃げ場のない歯どめに対して、それを遵守するかということを総理にお伺いしておるわけでございます。#262
○中曽根内閣総理大臣 増税なき財政再建、基本線は堅持してまいりたいと思います。#263
○木下委員 そこで、お伺いいたしますが、五十九年度は直間比率の是正に手をつけるのでしょうか。これをお聞きいたしたいと思います。#264
○竹下国務大臣 この直間比率という問題でございますが、直間比率の見直しということを具体的に検討しておることもございませんし、また御指示をいただいたこともございません。いわゆる直間比率という問題は非常にむずかしい問題でございまして、あらかじめ予見を持って決めるべき比率ではなく、結果として今日の税制の中で景気の変動等から出てくるものでございますので、したがって、私も、正確に申し上げるならば、直間比率という言葉よりも、税体系そのものの見直し、こういうことが本当じゃないかな。ただ、臨調でも、また税制調査会でも直間比率の見直しという言葉をお使いになっておりますので、それを念頭に置いて考えるといたしますならば、そういう問題を税調とかで御論議いただいてはならないという問題としてこれを引き外すわけにはいかぬ、しかし、現在、直間比率の問題について具体的に検討しておるわけでもなければ、指示を受けたこともない、こういうことであります。#265
○木下委員 ずいぶん何か後退したような発言でございますが、二月七日の本委員会の答弁で、大蔵大臣は、税の直間比率を是正する機は熟している、絶対的なガイドラインではないが五対五ということも念頭にあることも確かである、こう言っておられますし、また別の機会にも、仮に五対五あるいは六対四が念頭にあったとしても目標値とすべきではない、こういう表現もしております。どうも先ほどから一貫性がないと思うのですが、結局、大蔵大臣はどういう比率に是正することを考えておられるのか、どういう比率がよいと考えておられるのか、聞かしていただきたいと思います。#266
○竹下国務大臣 若干整理する必要がございます。いわゆる私どもがかつて、客観的な推移として申し上げますならば、五十四年当時はまさに直間比率の見直しと言えば直ちに一般消費税か、こう言われた時代であります。そこで、税制調査会は五十五年十一月の中間答申、そのときに幅広い間接税は今後の検討課題だとされて、五十六年、五十七年、これはまた税体系の見直しという言葉において検討課題として指摘されておる。そして、臨調の七月の第三次答申におきましても、直間比率の見直しを検討すべきである、こうされておるわけであります。
このように、本問題がいわば権威ある税調とか臨調とかの機関で広く議論の俎上に上ったということは、当時に比ぶればまさに幅広く勉強する上での環境がずいぶん違ってきたという意味で私は申し上げたわけであります。したがって、税調等で御審議いただく際に、私といたしましては、現在結果としてなっております七、三とかあるいは五、五とかいうようなものを検討の外に置いてはいけないということを申し上げておるわけでございまして、現実、直間比率というものは、原則的に申しますと、初めから先験性を持って確定すべきものでなく、結果として生ずるものであるというふうに理解をすべきではないかと思っております。
#267
○木下委員 いろいろな答弁をされておりますけれども、いままでそういうふうに考えてやってきたというふうには思いません。機は熟していると言えば、見直す時期に来た、こうとるのがあたりまえだと思いますし、五対五も念頭にあることだと言えば、五対五ぐらいが望ましいと思っておられることもある、そういうふうにとるのがあたりまえではないかと思います。五対五について一応念頭に置くとかつて言われております。ちょっと試算してみたのですが、それをやってみると、五対五の場合は間接税の増税八兆五千億、こんな大きな増税をしないと五対五にはなりませんし、いまの七対三を六対四にするとしましても五兆三百億、こういった間接税の増税が必要となる、こう思います。もし、五十九年度の財政不足をこの直間比率の見直しによってやろう、そういうふうにしますと、その間接税引き上げの規模は数兆円に達しなければならないということになります。大蔵大臣は先ほどからいろいろな否定の言葉は使っておりますけれども、さんざん言ってこられたお立場に立って、この直間比率を見直す機が熟したという、こういう立場から考えてみますと、これだけの、数兆円規模の間接税引き上げを考えておる、そういうふうに思いますが、大蔵大臣の明確な御答弁をお聞きいたしたいと思います。
#268
○竹下国務大臣 重ねて申し上げるようでございますが、直間比率という問題につきまして、これは現行制度そのものが、国民の合意と選択の中から形成されてきた集約の結果が現行制度であるという意味におきまして、あらかじめアプリオリにこれを決めておくべきものではないという考え方が基本にあります。ただ、いろいろ議論がなされて、かつての時代よりはいわゆる検討する環境は熟しておるだけに、税調等にこれを度外視して諮問するわけにはいかぬ、こういう趣旨で申し上げたわけでございますので、いまどれぐらいが適当かということを申し上げるべきものでもなければ、また、諸外国で見れば五対五のところも確かにございます。アメリカは、地方税を除きますと、国税で言えばもっと直間比率の直の方が高い。しかし、これはそのときの情勢によって結果としてあらわれるのが直間比率でございますから、その結果としてあらわれた数字を勉強の中の念頭に置く、これは当然のことでございますが、初めから何対何ぼがいい、こう言うべきものではないではないかと思います。#269
○木下委員 わかりやすい政治ということを言われた政府の大蔵大臣の御答弁が、念頭に置く、しかも頭の中のことで、しかも、それがまたいまのような表現をされたのでは、国民にとって何にもわからない、本当にわかりにくい内閣じゃないかという感じがいたします。お伺いいたしたいと思いますが、間接税で検討の対象になっているものはどんなものがあるかということをお聞きいたしたいのです。
導入を前提に検討されているかどうか、これはわかりませんけれども、検討の対象となり得るという点について、EC型付加価値税については検討の対象になるとかつてお答えになっておりますが、たとえば庫出し税、卸売売上税、小売売上税、取引高税、こういったものについてはどうでしょうか。
#270
○竹下国務大臣 木下委員は、間接税というものについての学問的な意味において検討の対象になるものは何か、こういうお尋ねでございますと、これはEC型付加価値税も、あるいは取引高税、庫出し税等々、いろいろ種類はあるわけでございます。端的に申し上げまして、これはやはり課税ベースの広い意味の、指摘されている広い意味の間接税の諸類型として申し上げますならば、製造者売上税あるいは卸売売上税、小売売上税、それから多段階課税では累積型あるいは非累積型というようなものが一応は学問的な類型の中では当然対象になることじゃないかと思います。#271
○木下委員 たった一時間しかない質問の時間ですから、そんな話を持ち込まないでいただきたいと思います。当然、政治的にやる気があるのかないのか、政策として検討させておるのか、そういうことを聞いたわけでございます。もうあまり長く取り合っていても時間がありませんので、次に移ります。
大型間接税という言葉がよく使われてまいります。その大型というのはどこまでのものか、この概念を明確にしていただきたいと思います。
#272
○竹下国務大臣 これがまたむずかしい問題でございまして、率直に申しまして、大型間接税について、木下委員の御質問があるように、私もみずからに自問自答してみました。明確な定義といえば、それはありません。しかし、一般的に考えれば、課税ベースの広い間接税である程度まとまった税収の得られるものを意味する、こういう定義になるかな。ところが、されば、課税ベースの広さとか税収規模とかについてまた一定の基準と言われるとそれはないという意味でございますので、具体的に検討もしておりませんが、よくいま日本の国民の議論の中で行われるのは、かつての「いわゆる一般消費税(仮称)」というようなものが念頭にある概念ではないかなというふうにも思ってみております。#273
○木下委員 定義がない。定義がないということを前提にこういう重要な場で大型間接税ということを使われるというのは非常に無責任だと思います。ないということを前提にして大型間接税はやるんだとかやらないんだとかいうことを言っているというのは、これは大変国民に対する欺瞞な態度だと思います。これは強く訂正することを望みます。特に、この問題はこれからだんだん重要視されてくるとしまして、はっきりとした定義をした上での発言をしていただきたいと思います。特に発言についても閣僚間にいろいろな不統一も見られるようでございますから、その辺も、定義がないということを前提にしたら何にも議論が先へ進みませんので、どうか責任ある言葉遣いをしていただきたいと思います。次に移ります。
臨調答申では、「租税負担率の上昇をもたらすような税制上の新たな措置を基本的にはとらない、」と答申してありますが、ここで問題になりますのは、第一点として、租税負担率の基準をどこに置くかが大きな問題となると思います。この点について、大蔵大臣の考えを明らかにしていただきたいと思います。たとえば、五十七年度は補正後で二三・七%です。また、かつて出されました七カ年計画による六十年度想定は二六・五%となっていました。一体どこにその基準を置いて、上昇したとかしない、こういう判断をするのか、はっきりとお答えいただきたいと思います。
#274
○竹下国務大臣 これは、いま御指摘にございましたように、かつての新経済社会七カ年計画でございますか、二六カ二分の一ということを想定しておりました。しかし、私は、今日新しく経済審議会等で将来の展望なり指針を明らかにしていただく際、その想定そのものが生きて継続するというふうに断定する状態にはないのじゃないか、こういうふうに思うのです。また、租税負担率というのは、御案内のように、いわゆる分母たるGNP、そして分子と分母が景気等々によりまして年々変わっていく、されば現行の租税負担率というものは、あくまでも概念的には存在するが、それは二六カ二分の一ですとかいうように固定した数字でとらえるのは非常にむずかしい。したがって、経済審議会の将来の展望とか指針とかいうものの審議を見ながら、これはやはり私どもとしてかちっと、何テン何ぼと言えなくてもおよそのものは持っていなければならぬな。きょう直ちに何ぼですと言える状態にはございません。#275
○木下委員 大蔵大臣、確認さしていただきますが、臨調答申にある租税負担率の上昇をさせない、これを、上昇したかしないかという判定をするためには、いま言われたように、どこかに基準を置かなければならない、その数字をもとに上昇したとかしないとかいう判断をしなければならないという点はどう考えますか。#276
○竹下国務大臣 それが、結局分子、分母ともに経済の変動によって変わりますので、やはり一つのめどというものを立てても、それが絶対値にはなじまないものではないかな。しかし、考え方は私にもよく理解できます。#277
○木下委員 では、そのめどを出して、それをオーバーしないようにやっていこうとするのが臨調答申の真意である、こうお伺いしてよろしいですか。#278
○竹下国務大臣 私もその点は同感でございます。#279
○木下委員 では、そのめどはいつまでに出されますか。これをはっきりさせていただかないと、審議を進められないときが来ると思います。どうかいつまでにはっきりさせるということをおっしゃっていただきたいと思います。#280
○竹下国務大臣 これはやはり経済審議会でもお願いしておるところでございますし、経済成長率を幾らに見るかとか、なかなか問題があるでございましょう。だから、私から政府全体としてお願いしておる、企画庁で作業していただいておるわけでございますが、およそいつまでに出してくださいと言えるものではございませんが、やはり国会審議の手がかりとしてお持ちいただくためにももちろん必要でありましょうし、また私どもが財政運営をするためにもめどとして頭の中へたたき込んでおくことも必要でございましょうから、その御趣旨を十分私から各方面へお伝えをする、こういうことで御勘弁を願います。#281
○木下委員 本当は、これをはっきりさせないと審議ができないとか言いたいところですけれども、そういうこともあれでしょうから、できるだけ早急にはっきりめどを出していただきたいと思います。しかも、そのめどは大きな幅じゃなくて、臨調の答申の精神に沿うようなできるだけはっきりしたものにしていただきたいと思います。二つ目の問題点につきまして、答申では、先ほど申しましたように、「租税負担率の上昇をもたらすような税制上の新たな措置を基本的にはとらない、」こう言っていますが、たとえば大型新税を導入すれば租税負担率が上がることが十分考えられますが、それでもいたし方ないと考えるのか、あるいはそれを避けるために他方で減税を行うことによって租税負担率の上昇をさせないようにするのか、減税と増税は抱き合わせにするのかどうか、政府の考えをはっきりお伺いいたしたいと思います。
#282
○竹下国務大臣 これは、答申にもございますように、五十九年度以降――今日、減税に対する国民の要請は強い、したがって、歳入歳出両面において十分検討をしろと言われております問題でございますので、いわゆるあらかじめ抱き合わせで考えるという性格のものではないというふうに理解しております。#283
○木下委員 総理はきのうの本会議で、また本日の岩垂委員の質問に対する答弁でも、減税に対しては前向きのお考えを述べられていると思います。また、それに先立ってきのうの二月十八日午前中に、所得税減税について、やりたいんだと減税実施への意向を示されるとともに、財源がなくてむずかしいが、大蔵省の専門家に聞いてみると語られた、こういう新聞報道がございました。総理は、この報道にありますように所得税減税の五十八年度実施を決意されたのかどうか、お伺いいたしたいと思います。#284
○中曽根内閣総理大臣 実行すると決意したわけではございません。何とかならないものか、特に財源問題が一番大きなネックでございますから、その辺について何とかならぬものかと思って模索しているというところであります。#285
○木下委員 やりたいという前提のもとにやっておられるわけですか。#286
○中曽根内閣総理大臣 これは、前から申し上げますように、五十三年から課税最低限据え置きでありますし、各方面からの御要望もございますし、また与野党のお話し合いも進んでおる、そういう過程でもございますし、私個人としては何とか方法を見つけてやってあげたいものだという念願を持っております。#287
○木下委員 では、重ねて確認させていただきますが、その与野党間の話し合いで合意に達した場合には実施なさいますか。#288
○中曽根内閣総理大臣 それは尊重いたさなければいけないと思います。#289
○木下委員 時間もございませんし、増税問題についていろいろと論じてまいりましたが、この問題は、大蔵大臣も述べられましたように、国民の選択に帰する問題であると考えます。その国民の選択というのは、結局、当然選挙で問うしかないと思います。増税をやる場合には当然選挙をすべきであると思いますが、解散権をお持ちの総理、この点をどうお考えになりますか。#290
○中曽根内閣総理大臣 選挙のことは考えておりません。#291
○木下委員 現在選挙を考えてないというのと、増税を争点として選挙を考えてないというのと、ちょっと質問と答弁と食い違っているような感じがいたします。重ねてお聞きいたします。この次の総選挙は、増税を争点にしますか。
#292
○中曽根内閣総理大臣 私は前から、任期満了が本筋だ、そういうことを言っておるのでございまして、いま増税とかなんとかというものを中心にして選挙をやろうというようなことは考えてはいないのであります。#293
○木下委員 国民の選択についての発言で、もう一つだけ言っておきたいと思います。大蔵大臣が直間比率の見直し等に触れられまして、一般消費税にすぐ結びつくとのアレルギーも薄らいだ、こういう表現をされておりますが、このアレルギーだというきめっけも独善的だし、それが薄らいだというのも独善的だと思います。こういった何となくの感覚で国民の選択と言われたのではかないませんので、こういった重大な問題は、やはり信を問うということを基本にやっていただきたいと思います。
時間が大分来ましたので、次の問題に移らせていただきます。
基礎素材産業対策に関して通産大臣にお伺いいたします。
国民経済に占める地位が大きく、雇用、地域経済、加工組み立て産業と密接に関連し、さらに将来の先端技術、素材革命の分野を担う重要な基礎素材産業を、開放経済体制下において再活性化するために、特定産業構造改善臨時措置法案が今国会に上程されたことは大きな意義を持つものと考えます。
そこで、この法案の具体的な内容、問題点についての質疑は他の機会に譲ることといたしまして、基礎素材産業対策を進めるに際しては、雇用政策、産業政策、競争政策、エネルギー政策などを総合的に整合性を持って進めることがきわめて重要であると私は確信いたしております。構造改善対策を実施する場合には、各種の摩擦現象を極力回避することがきわめて肝要であると考えます。特に、雇用問題への対応が最も大切であります。現行特安法の第五十七条には、労働大臣との連絡及び協力の規定がありますが、この運営面において、雇用不安を解消するため、主務大臣すなわち通産大臣が労働大臣と緊密な連絡をとり、実質的な協議ができるような運営をしていただきたいということであります。
この点について通産大臣の御意見、そして、労働大臣の御意見もあわせてお伺いいたしたいと思います。
#294
○山中国務大臣 法律の中にも、それはちゃんと新しい法律にも明示してございます。ただし、新しい法律は「不況」という字を取りましたけれども。一方、それに対応する労働大臣が答弁される方は「不況」を入れなければまた対応できないという法律の整合性が、言葉の上では違いますが、しかし、それは整合をしたものとして同時に延長をいたしておるわけであります。それで、私どもは産業政策で活性化し、そして立ち直らせるために、国家経済、国民経済のためにそれを貢献させようというのが目標でありますから、なるべく労働省の方にお世話にならないで、いわゆる失業者をそのために続出するという、そういう再建の方法でなくて、なるべく労働省の法律のお世話にならない手前の方でそれを私たちが政策で活性化させながら、しかも、自主的な力で立ち上がらせて、できれば失業者を出さないようにしたいという念願は持ってやっておりますが、最悪の場合は労働大臣のお世話になります。
#295
○大野国務大臣 ただいま通産大臣から答弁がございましたが、私ども労働省といたしましては、新特安法に基づいて基礎素材産業等の構造改善を進めるに当たりましては、関係労働組合の御意見を承り、関係労働者の雇用の安定ということが最重要であると考えておりますので、この点につきましては、今日までも事業所管の省庁、通産省等に、また関係者にもるる申し述べております。特に今国会で、いまも通産大臣からお話がございましたが、労働省といたしましては、特定不況業種及び特定不況地域の関係労働者の雇用の安定に関する臨時措置法というものを出しておりますから、それに基づきましてより一層雇用の安定、充実強化というものを推進していくために、今後とも関係省庁と緊密な連絡をとってやっていく所存でございます。#296
○木下委員 特定産業構造改善臨時措置法に基づいて業界が事業提携を行おうとする場合、公正取引委員会との関係において、構造改善に支障がないよう、その協議運営が適切かつ速やかに行われるよう政府に強く要望いたしまして、次の問題に移りたいと思います。五十八年度予算は、税外収入をいろいろな方面に求めているようでございますが、その一つであります自賠責特会より二千五百六十億が一般会計へ繰り入れられることになっている問題についてお伺いいたしたいと思います。
自賠責保険は、自動車事故による被害者の保護を図るため設立されたものであり、その運用益の使途について、自賠責審議会では救急医療体制の整備及び交通事故の防止対策への助成、そして保険収支改善のバッファーとすべきであると答申していますが、今回の措置はその趣旨に反するのではないか。どうお考えでございましょうか。
#297
○長谷川国務大臣 委員御案内のように、五十八年度の予算編成は大変苦労したと、私は大蔵大臣の苦労を思っております。そこで、自賠責特会の中から二千五百六十億円、こういうときであるから繰り入れしてもらいたいということでした。委員のお話のようなことが支障を来すかどうか、私の方で調べました結果、そういうこともないような手配をできますから、これは三年据え置き、そして後ずっとお返し願うということで話をつけて、運用の支障のないようにはやっております。
#298
○木下委員 三年据え置きで、その後どう返すのですか。#299
○長谷川国務大臣 七年で返していただきます。#300
○木下委員 ちょっと試算してみたのですが、三年据え置いて七年で均等に返したときに、この十年後、その間の利息というのが千三百億円近くになります。これが本来の目的と別のところで使われている。私はやはり非常におかしなことであると申し上げます。まして、一部の新聞情報によりますと、大蔵省は自賠責保険料の引き上げを検討している、こういう記事が出ましたが、一方で二千五百六十億も取り上げながら、他方、保険料の引き上げをするというのは、ユーザーにとってとうてい納得がいくはずがないと思いますが、この点についても明確なお答えをお願いいたします。#301
○竹下国務大臣 これは、正確を期するために、事務当局からお答えさすことをお許しいただきたいと思います。#302
○猪瀬説明員 私の方から御説明さしていただきます。自賠責保険の収支が悪化してまいっておりますことは先生の御指摘のとおりでございまして、昭和五十三年度から単年度ベースで見ますと赤字になってきております。しかも、その赤字幅がなお拡大の傾向にございます。しかし、料率を引き上げるかどうかという場合には、単年度の赤字傾向も重要でございますが、同時に収支の累計もあわせて考慮する必要があろうかと存じまして、そういった観点から見ますと、収支の累計は現在なお若干の黒字が見込まれておるわけでございますので、今後たとえば自動車の事故が急増するとか、あるいは支払い限度額が引き上げられるといった、いわばその支払いが急激に大幅に増加する要因といったものでも生じますればこれは別でございますが、そういったことでもなければ、いま直ちに料率を引き上げなければならない、そういった状況にはございません。
#303
○木下委員 いずれにしても、本来の趣旨の目的と違うことに転用しておる、こういったことはできるだけなくすようにして、できれば早く利子をつけて返されることを望んで、この問題に対する質疑は終わりたいと思います。時間も来ましたけれども、最後に一問、人勧問題につきましては、これまでいろいろと論議されてきておりますが、大変重要な問題でありますので、わが党の立場から一つ、二つ質問をいたしたいと思います。
政府の五十七年度人事院勧告の見送り決定は、人事院勧告制度を根底から揺るがすものであり、国家公務員の労働基本権制約の代償機関としての人事院の存在理由そのものが問われているわけであります。しかし、長年にわたって人事院勧告制度は完熟した制度として労使関係の安定、職場秩序の確立に大きく寄与してまいっております。これにかわり得る制度はいまのところないと考えます。そうとすれば、人勧制度を尊重し、勧告の実施に最善の努力をするのが民主社会の基本ルールではないでしょうか。人勧制度の見直しも言われておりますが、総理はどうお考えになっておられますか。また、人事院総裁は、五十七年度勧告が見送られていることと、見直しが言われていることに対してどう考えておられるか、お聞かせいただきたいと思います。
#304
○中曽根内閣総理大臣 現在の人事院制度を変換させる、そういうような考えはいまありません。#305
○藤井(貞)政府委員 五十七年度の人勧の見送りについては、いままで申し上げておりますように、これは大変遺憾なことであるというふうに考えております。なお、制度の見直しにつきましては、私といたしましては、この制度自体は大変りっぱにいままで作用してまいった制度でございまして、これにかわる制度はいまのところ考えられないのではないかというふうに考えております。
#306
○木下委員 時間が来ましたので、これで終わります。#307
○久野委員長 これにて木下君の質疑は終了いたしました。次に、稲葉誠一君。
#308
○稲葉委員 私は、前から総理に質問をいたしておりまして、そして同時に、中曽根さんと東郷民安がロ特で、ここで証人尋問がありましたからね、そのことに関連をしていろいろお聞きをいたしてまいりたいというふうに思います。まず、戸栗亨という人の所得税法違反被告事件の判決が東京地裁で昭和五十六年の六月二十九日にございました。その中でまず戸栗亨の起訴事実と、それから判決、一部無罪になりましたけれども、判決を、これは簡単で結構ですが、それと、その中に国際興業社主小佐野賢治の名前が出てきますね。それから、中尾栄一代議士の名前も出てまいるわけでございますので、まず戸栗亨の逮捕が四十八年五月三十一日、六月二十日の起訴、五十六年六月二十九日一審判決。判決の結論は、懲役二年及び罰金六千万円ですね。懲役二年は執行猶予三年、こういうことですが、いま私がお尋ねしました点について、法務省の方から簡単に御説明ください。
#309
○前田(宏)政府委員 お尋ねの所得税法違反事件の処理状況でございますが、先ほど稲葉委員が仰せになりましたような経過を経まして、五十六年の六月二十九日に東京地裁で有罪の判決がなされておるわけでございます。金額的に判決で認められましたものは、昭和四十六年と四十七年の両年分について合計四億円余りの脱税ということでございます。それから、第二のお尋ねでございますが、いま申しました事件との関係で小佐野氏の名前が出ておるわけでございますけれども、それはその事件の被告である戸栗氏が、昭和四十六年じゅうに行いました株の売買取引の一つといたしまして、合計二百五十一万株を小佐野氏に売却したということがその中に出ておるわけでございます。(稲葉委員「金額、二十四億円」と呼ぶ)一株九百八十六円ということになっております。
それから、次の中尾栄一氏の名前は確かに出ておるわけでございますが、これは戸栗被告がいろいろと株の売買取引をしておったわけでございますが、その中で小堀という銀行員に頼んでやっていた取引があるわけですけれども、その小堀という人が一種の空売りといいますか、そういうものをやりましたために損害を生じたということで、戸栗被告との間でその結末といいますか、そういうことの話し合いが行われた。その話し合いが行われた席に中尾栄一氏が同席していたということが一言触れられているわけでございますけれども、それ以上のことは何も詳しく出ていないわけでございます。
#310
○稲葉委員 判決は確定しておるわけですが、その中に出てくるのは、国際興業の社主小佐野賢治に対して、買い集めていた殖産住宅の株式合計約二百五十一万株、これは昭和四十六年一月十九日ごろ、約二十四億円で売却しているのです。そして結論的に、借金を返したりなんかして十億円を通知預金にしていた。第一点はこういうことですね。確認しますよ。それから、第二の質問は、東郷民安氏に対する所得税法違反被告事件の審の冒頭陳述の第四のところで証拠隠滅工作、こういうふうなことが出て、そこに上和田義彦という名前が出ておるわけですが、これはどういうふうなことが冒陳の中で言われている人ですか。
#311
○前田(宏)政府委員 第一点は先ほどお答えしたとおりでございますが、第二点の上和田氏ということが出てまいりますのは、先ほども申し上げた東郷被告がいろいろと株の取引をやっていたようでございますけれども、その中に上和田氏の名義を借りて行った取引があるということでございまして、その取引が実際にあった、上和田氏との取引であるということを外形的に整えるために東郷被告が上和田氏に四億円余りを貸し付けたという、いわば内容虚偽の金銭消費貸借証書というものをつくったという点が御指摘の点であろうと思います。#312
○稲葉委員 どうもあなたの方で答えにくいのでしょうけれども、上和田義彦氏の証拠隠滅工作というのは、これが昭和四十八年の五月上旬ごろに東京地検からいろいろ捜査が入ってきた、そのことに関連をして上和田が、いいですか、これは日にちが問題なんですね、四十七年十一月十一日、被告人から、被告人というのは東郷ですよ、東郷から四億一千二百七十九万四千四百円を借りたような証書を殖産住宅の本社に行って、そこで書いた、こういうことですね。そのときにまたもう一人の高富という人のあれも出てくるわけですけれども、そういうことですね。あなたは、重要なところは言いづらいのか、ちょっとあれですから……(「上和田ってだれだ」と呼ぶ者あり)上和田というのはどんな人か、僕はよく知りませんが、後からわかってくるでしょうが、それをお聞きするわけです。#313
○前田(宏)政府委員 別に言いにくいからお答えしていないわけじゃありませんで、要点のところは申し上げているつもりでございますし、いま稲葉委員が仰せになったとおりの冒陳になっております。#314
○稲葉委員 私の言っている要点というのは日にちですね。四十七年十一月十一日であることと、金額が五億円ではない、端数のある別の金額であるということを私としては言いたかったわけです。それから小佐野に対しては、前の年、四十六年の売買で約二十四億円、そのうち約十億円をこの戸栗という人がもうけているわけですね。ただ、計算の回数の仕方が違いますから、そこで一部無罪になってきた、こういうふうなことになるわけです。
そこで中曽根さん、あなたにお聞きするのですが、ひとつ記憶を呼び戻していただきたいのですよ。余り失礼な質問はするななんて言われているので、私も……(「昔の話じゃないか」と呼ぶ者あり)昔の話じゃないです。
そこで、殖産住宅に工友会というのがありましたね。下請業者の会合。そこへあなたと石原慎太郎さんが呼ばれて、石原慎太郎さんは何か用があって行かなかったそうですが、あなたが行かれて話をされた。そして、その後で別のところへ行って、つまり、業者の人たちや何かと集まったという記憶があなたの中にはあるのじゃないでしょうか。どうでしょうか、ちょっとよく考えてくださいよ。
#315
○中曽根内閣総理大臣 東郷君は私の旧制静高の同級生で、仲のよかった間柄でありましたから、あるいは呼ばれて行ったかもしれません。それから、そこへ出た高富云々という名前も、同じ同級生、同窓生であります。
#316
○稲葉委員 記憶を呼び戻していただきたいのですよ。その講演が終わりまして、別のところへ行ったわけですね。別のところへ行って、そこで皆集まって、殖産住宅の重役連中もいるわけですね。それから、下請協力業者もいるわけです。そこへ集まって、そこであなたが隠し芸で歌を歌われたというのですよ。海軍予備学生の鶴田浩二、知っているでしょう、鶴田浩二の歌で「古いやつだとお思いでしょうが」という歌を歌われたというのがあるのです。聞いている人がいるわけだ。失礼な話なんだけれども、記憶を呼び戻してくれませんか。
#317
○中曽根内閣総理大臣 鶴田浩二の歌は歌ったことがありますから、あるいは事実かもしれません。#318
○稲葉委員 「古いやつだとお思いでしょうが」という歌なんだけれども、歌の名前はどうでもいいけれども、それはあなたは古いわけじゃないから、名前はいいのですが……。それでは委員長、写真のコピーなんですが、お示しをお許し願いたいと思います。
#319
○久野委員長 はい。#320
○稲葉委員 ちょっとこれを見てください。どうですか。その写真を見て、真ん中に写っているのがあなた、左側が東郷ですね。ちょっとリコピーだから悪いけれども、仲居さんも写っていますけれども、それを思い出しになりませんか。
#321
○中曽根内閣総理大臣 ちょっと思い出せません。#322
○稲葉委員 私が調べたのでは、それは協力業者の集まりでして、それが「中川」の集まりなんです。不動産協会やなんかの集まりがあって、東郷がロンドンへ行くという話があったのです。ロンドンへ行く前だというので、ロンドンに五月に行くので、その前ですから、四月の二十八日の「中川」の集まりということなんですよ。そこでその写真を撮って、その中に協力業者も写っているのですよ。どこから手に入れたかということは、ちょっと言うのは御勘弁願いたいのですが、そういうことですから、その「中川」での集まりについて御記憶があるのではないでしょうかね。どうでしょうか。#323
○中曽根内閣総理大臣 ちょっと思い出せません。私が思い出すのは、木部代議士の政務次官就任祝いに「一条」でしたか、そこでお祝いをやった、それは覚えております。
#324
○稲葉委員 それではお聞きいたしますけれども、野村証券の社長ですか、北裏さんという方がおられたということについては、それで、あなたと非常に親しい間柄であるということについては、どうでしょうか。#325
○中曽根内閣総理大臣 北裏さんは長い間の友人です。#326
○稲葉委員 長い間の友人であって、その人のせがれさんか何かのことであなたがお骨折りをされたことがあるんじゃないでしょうか。ありますね。#327
○中曽根内閣総理大臣 それはいわゆる中曽根学校というのがありまして、若い人たちを集めて勉強したりあるいは旅行したり、そういう会のメンバーの一人であります。#328
○稲葉委員 そうですね。そこで、東郷があなたのところに行って、それで、野村証券の北裏さんを紹介してほしいという話をされたことがあるのじゃないでしょうか。
#329
○中曽根内閣総理大臣 それは思い出せませんね。記憶にありません。#330
○稲葉委員 思い出していただきたいと言ってもあれですが……。ここにあるのは、東郷の公判での本人がしゃべったことの書類なんですが、その中で東郷は、砂防会館のあなたのところに行って、そして北裏さんに紹介をしてほしいというようなことをお願いをしたら、「北裏君の息子の面倒をみたことがあるし、最近北裏君とは、特に懇意な間柄であり、北裏君自身も中曽根ファンになり、よきスポンサーになってくれているのだ。僕からもよく頼んでおくから、君からも、よく頼んでくれ」、こういうふうないろいろな話が出て、北裏さんをあなたが東郷に紹介をされたというようなことはあるのじゃないでしょうか。
#331
○中曽根内閣総理大臣 そういうことはないと思います。北裏さんに東郷君を紹介したという覚えは、ちょっと思い出せません。#332
○稲葉委員 東郷は法廷の中で、はっきりいま言ったようなことを言っているのですがね。その日時まで言っておるのですよ。そこで、行って帰ってきて、その結果についてあなたに対して報告をしているのですが、それはこういうふうになっていますよ。これは東郷の公判廷の調書ですよ。手帳があるのですね。
昭和四十七年度の手帳の八月二十四日の欄に、「午後二時三十分、中曽根 砂防会館」と書いてありますが、その時、中曽根氏に対して、前日北裏社長との会見結果を報告しました。
どのように報告したのですか。
昨日北裏社長にお願いしたところ、君の口添もあったのか、大変好意的だった。どれだけの株数を君に都合してくれるのかは、判らないが、野村証券から何か君の方にか、或は僕の方にか、連絡があるだろうから、待っていて貰い度い。近く公開値が決定したら、払込代金を準備して貰わねばならぬが、その用意も心掛けて貰い度い。払込の時期は、大体九月中旬と思う、という話をしたら、中曽根氏は大変喜んでくれました。
こういうふうにあるのですよ。
だから、行って頼んで、あなたが北裏氏に話をして、北裏氏のところへ行って話をして帰ってきて、あなたにその結果を報告した、しかもそれは、手帳の中にちゃんと日にちまで書いてある、時間まで書いてある、こういうふうに東郷は法廷で言っているのです。その手帳はいま押収にはなっているのです、こう言っているのですけれども、どうでしょう、御記憶は。
#333
○中曽根内閣総理大臣 どうも記憶にありません。#334
○稲葉委員 それでは、こういうふうにお尋ねいたしましょうか。あなたがこの前私の質問に対しまして、ある議員から戸栗氏を紹介してもらったようなことを言われていますね。「私の友人の議員であります。しかし、名前は特に申し上げません。」と。戸栗という人だと言ったら、それはだめだ、自分の会社をねらっているやつだから、そういう話でその話はだめになった、そういうふうなことを言って、私がその人はだれですかということを聞いたら、あなたは、議員だけれども、名前は特に申し上げません、こうおっしゃられましたね。これは議事録にあるのです。それは、私が質問している間に私のところに電話がかかってきました。それはいまこの戸栗亨の判決の中にも出てまいりました中尾栄一代議士ですね。
#335
○中曽根内閣総理大臣 いまお話をずっと聞いておりまして、ああ、なるほどそういうことがあったのかと思ったのは、戸栗氏が脱税でやられた、前の年に。それで、それが小佐野氏との関連であった。そういうことであったということを、いま聞きまして、それで、そういうことがあったのかと思ったのは、正直に言えば中尾代議士が言ってきたわけです。〔委員長退席、村田委員長代理着席〕
それで、その株式の時価発行について株を相当買いたい。それで私から東郷に話してくれ、そういう話を私のところへ持ってきた。そこで、私が東郷君にそういう話を伝えたら、波は、考えるとちょっと言っていましたけれども、だれだという話であったので、実は戸栗という人だ、そう言ったら、それはだめだ、それはおれの会社をねらっているやつだ、そう言いました。
で、いまお話を聞いて、なるほどそれは前の年にそういうことがあったので、彼はそういうことをすぐ警戒したのだなと、後で、それは小佐野さんの手先かあるいは何かで、あれは殖産と何とか健という両方で対立している住宅会社がありましたが、おれの方をそれでねらっているやつなんだ、そういう意味のことを言ったので、ああ、なるほど、前の年にそういうことがあったのかということをいま気がついた次第です。
#336
○稲葉委員 しかし、それは最初の話、「一条」で、あなたの記憶ではありましたね。それから大分たってからの話ですね。そうですね。その間の経過ですね。中尾代議士の方から言ってきたのかどうかよくわかりませんけれども、その間の、どういうわけで中尾代議士があなたのところに来られたのですか。どうしてそんな話が、戸栗の名前が出るようになったのでしょうか。#337
○中曽根内閣総理大臣 それは全くある日突然そういうことを言ってきたのです。恐らく殖産の時価発行があるということが世の中にだんだん知れてきて、それで東郷君と私が同級生だ、そういうことを知っておって、それで私の友人の中尾君を通じてそういう話が来たのではないかと、そういうふうに自分では想像いたします。#338
○稲葉委員 それは大分たってから、後であって、この総裁選挙があったのは七月五日ですね。あなたが立候補を取りやめられたのが六月の十一日ごろですか、声明されたのが。だから、それを目途としてあなたは「一条」で東郷氏に対して金の話を、何かをしたのではないのでしょうか。#339
○中曽根内閣総理大臣 それは総裁選を意識した話ではないのです。「一条」では、木部代議士が経済企画庁政務次官になったので、そのお祝いがあって、そのときに東郷君も来ておって、そして、その場でいろいろな話が出て、同窓生や同級生の会では、東郷君はわれわれの同級生に、中曽根をもっと応援しろ、君は野田卯一君ばかり応援していて同級生をやらぬじゃないか、そういうことを大分言われておって、私もぜひ応援してくれと頼んで、特に一朝有事の際はぜひ頼む、そういうことを言いまして、一朝有事とは何かと、これは国会の証言でも申し上げましたけれども、これは新党運動もあるし、あるいは解散、選挙もあるし、あるいは総裁公選というような場合もいろいろある、そういう意味のことを申し上げたと記憶しております。#340
○稲葉委員 東郷の手帳が押収されておりまして、時間から何から全部細かくついておるのですよ。その手帳だと、いま言ったように、北裏さんのところに行って、そして、きのう北裏さんのところに行ってきたと言ってあなたに報告されて、その足でまた実際のいろいろな取引といいますか、それの手順を踏むためにあなたのところに来られたのは二時半、そして四時には野村証券の豊田常務というのに会っておるのですよ。だから、あなたのところで私がもうさっきお話をしたようなことがあって、あなたが払い込み代金のことを準備してもらわねばならなくなった、心がけてくれということを言われてあなたが喜ばれて、九月下旬になるだろうということを言われて喜ばれて、その足ですぐ野村証券へ東郷は行っておるのです、時間的にそうなるのですよ。それを受けて、八月二十九日に実際の実務をやっておる大森という部長たちが殖産住宅に――そして大森部長からこういうふうな話があったわけですね。「先日北裏にお話しのあった中曽根代議士の株のことについて、明日朝お打合せをしたい」、こういうふうな話があって、そしてそれが、八月二十九日の朝八時半にみんなが来るというふうなことで、渋谷常務やそれから榎本株式次長も列席をした。「この時、野村証券が、中曽根氏のために分けてやれる株は、百万株であるということが、はっきりしました。」こう言っておるのですね。
だから、一朝有事なんとかという話は、単に政治献金をしてくれという話ではなくて、元手をどこかから借りてきて、その金を使って株の値上がりを待って全体の利益を上げ、その借りてきた金を返して残った金が政治資金になる、こういう形の仕組みであったのではないですか。経過は全部そういうふうになっておるのですよ。時間がそういうふうに小刻みに進んでおるのですから。
#341
○中曽根内閣総理大臣 野村証券と東郷君の間にどんな話があったか、私は一切関知しておりません。また、私が野村証券にそんなことを頼んだこともございません。#342
○稲葉委員 あなた、北野アームズの四階に砂防会館とは違った事務所をお持ちでしょう。これはどういう事務所か知りませんが、私設事務所というのですか、お持ちですわね。そこへ東郷民安が訪ねてきたことがあるんじゃないでしょうか。ありますね。あるとすれば、どういう用件で訪ねてこられたのですか。#343
○中曽根内閣総理大臣 それはある経済研究会の事務所で、私がときどき使わしてもらっておる事務所ですが、たしかそこへは東郷君も来ました。それは、いまの戸栗君のことで私が話をした、そのときではないかと思うのです。それで、それは研究すると言って、それはだめだと言った、そういう場所ではないかと思うのです。#344
○稲葉委員 じゃ、どうして砂防会館の方へ、公の事務所へ行かないで、私的な北野アームズの四階にある事務所へ来るようになったのでしょうか。#345
○中曽根内閣総理大臣 それは、恐らくいまの想像では、片方の私の砂防の方には人は大ぜい来ますし、それから、いまのような人から頼まれた株の話や何かを友人に頼む、そういうことは余り人の目につかないところでやるのが適当である、そういうふうな意図があったのではないかと想像いたします。#346
○稲葉委員 だから、私がお話ししましたように、八月二十九日に百万株の話や、中曽根さんに分けてくれるような株は百万株であるということがはっきりした、八月二十九日に。そして、八月三十日にあなたの北野アームズの事務所に訪ねていった。四階にあるそうですね、何か秘密に人と会う私設事務所が。それはどうでもいいんですけれども、そういうふうなことのようなんですね、日にちは、経過として。そこで、実はあなたが言い出したのは、「「実は、黙っておく積りだったが、私に二十五億円出してくれるのは、東京相互銀行の頭取の長田君で、戸栗亨が口をきいてくれたのだ」と言いましたので、腰をぬかさんばかりに驚いたのです。」「なぜ、あなたは、中曽根の話を聞いて、そんなに驚きましたか。」「それは、戸栗は、殖産住宅の旧役員や、長富、梅村などの指定建設業者から殖産住宅株を安く買い集め、国際興業の小佐野賢治氏を通じ、二五〇万余株も持込んだ張本人で、会社としても、迷惑していたところだったからです。」それはもうさっきの戸栗の判決に出てくるところですね。「そして戸栗がどういう関係かは分らないけれども、中曽根氏と絡んでいる」と言うと言葉は悪いのですけれども、「絡んでいるということは、何かまた、悪企みを行っているのではないか、と思ったからです。」「それで、あなたは、そのようなことを、中曽根に話しましたか。」「私は、中曽根氏に対して、「戸栗という男を、あなたは、よく知らないだろうが、この男のおかげで、会社は、さんざん苦労している。この男からの金だったら、断って貰いたい」といいましたら、中曽根氏も諒解してくれました。」こういうようなことですね。それは八月三十日ということになっている。
だから、その前にあなた名義の百万株のことでずっと話が進んでいて、野村証券北裏さんに会って、そして話はつけて、実際、大森部長というのが事務をやって、話がついて、そして、やあできましたよと言ってあなたのところへ行ったところが、そういう話が突然出てきたというので、意外な話が出てきてびっくりした、こういう経過になって、日にちがずっとこうなってきて、ちゃんと話が合っているのですよ。だからどうしても、常識的に考えても、手帳にもはっきり日にちが書いてあるようですし。北野アームズですね。
だから、あなたが言われたのは、私が言ったとおり、「一条」の話から見るとずっとたってからの話、四カ月、五カ月くらいたってから後の話ではなかったのか。私がいま言ったことは、ことに東郷が言っていること、このこと自身は間違いないですね。
#347
○中曽根内閣総理大臣 それは私が国会の証言でも、それから前の議会であなたから御質問があったときにも申し上げましたように、中尾君から、いまの東郷君を訪ねて頼んでくれ、そういう人がいるという、そういう話で、それで名前を聞いたら戸栗だというので、戸栗だと言ったら東郷君が非常に驚いて、それは小佐野氏の手先で自分の会社をねらっているやつだ、そう言って、それはだめだと言うので、ああそういうことがあるのかと言った。それは合っている話だと思います。#348
○稲葉委員 その後の接触は一体どうなっているのですか。そこで切れちゃって、その後あなたは全然接触がなかったのですか。そこがどうも違うのですね。東郷氏の言うことと全く違うのですよ。その後、例の週刊新潮の記事が出るわけですけれども、そのゲラ刷りを持ってあなたのところに行ったということになっておるのですがね。それで、九月一日には三井銀行の小山社長を訪ねて、中曽根さんから頼まれてお願いしてある百万株分けてもらった云々ということを話をしているわけですね。三井銀行の小山という人は、あなたと同じ静岡高校の御出身の方でしょう。あなたの親しい団体でありますAF会のメンバーでもありますね。四、五日前にもお会いになりましたね。そういう方ですね。これはどうでしょうか、三井銀行は。――そうですね。そこで最終的には三井銀行へ金が集まるようになるのですからね。いいですか。そうすると、東郷の言っていることは全部うそだというふうなことになるのですか、あなたのおっしゃっていることは。
#349
○中曽根内閣総理大臣 野村証券に東郷君がどういうことを言ったか、どういう関係を持ったか、私は一切知りません。それから東郷君は、先ほど申し上げましたように、みんなに言われ、また私からも頼まれて、いざというときには政治資金若干応援しよう、そういう気持ちはあったと思いますし、また会社防衛のためにいろいろな措置をやってきた、そういうように思います。それで、われわれの同級生の名前を相当使って、それは事前に許可を求めたかどうか知りませんが、同級生、相当おる人たちの名前、名義を使って株の売買をおやりになった。私の場合は、私の名前は使わないで、上和田という秘書の名前を使って、そして上和田と会って、名前貸してくれ、そういうような話もあった。同級生が相当みんな貸しているんだからおまえも貸してくれという話だとかなんとかいうことをちょっと耳にしたことがあります。そういうことで、東郷君がその後どういうふうに操作したか、私は知らないのであります。
#350
○稲葉委員 全く話が違うのですね。東郷が法廷で言っていること、そして、そのときはロッキード特別委員会でしたけれども、言っていることは全く話が違う。東郷が法廷でどういうふうに言っているかといいますと、こういうふうに言っているのですね。
私の昭和四十七年度手帳によりますと、十月四日中曽根大臣砂防会館五時三十分となっておりますが、この日、この時間に、この場所に、中曽根氏を訪ね、依頼を受けていた百万株を操作することにより、金が出来たから、五億円だけ、政治献金をすることを話しました処、中曽根氏は「今すぐ金が必要でないから、預かっておいてくれないか」と言いましたので「それでは誰の名義で預るようにすればよいのか」と私が聞きました処「上和田の名義で預金しておいてくれ」との依頼をうけたのです。「それでは、秘書室長の陽真也から上和田君の方に連絡させるから、君から上和田君の方の諒解をとっておいて貰い度い」
こういうふうに言ったというふうに東郷が法廷で言っている。ここでも言いましたよ。議事録に載っていますね。法廷で言ったことは、あなたは御存じないかもわかりませんけれども、議事録にそういうふうに載っていることは、あなたは御存じでしょう。
#351
○中曽根内閣総理大臣 議事録にどう裁っているか忘れてしまいましたが、上和田が私のところへ来て、東郷さんに名義を貸してやっていいか、そういう話がたしかあったという記憶があるように思います。それはいいだろう、そういう話をして、その後のことは私はよく知らないのであります。上和田に後で聞いてみたら、名義を貸して何か預金通帳もつくる、それで判こも貸した、だけれども、自分はその後預金通帳を見たこともない、そういうようなことを言っておりました。#352
○稲葉委員 預金通帳をつくって判こも貸したということ、これは事実です。二つあるのですよ。私がもうさっき戸栗亨の判決の中で言ったとおり、それは上場が十月二日なんですね。上場して上がったのが下がったのです。下がったから、買い支えのために上和田氏に来てもらって、上和田氏が殖産住宅に行って、そこで借用証書をつくったような形にしてカムフラージュしているのが証拠隠滅工作、これは金額が違うのです。四億幾らなんです。私の言っているのはそれと違う。前のときの金額ですね。そこではっきり言っているんですよ。金ができたから五億円だけ政治献金することを話したんだ。そうしたら、あなたは、いますぐ金が必要でない、預かっておいてくれと言った。そのときはもう総裁選挙は終わっているのですから。田中さんが総理になっちゃったんだから。だから、金が必要でないというので預かっておいてくれないかということで、これは理論に合うのです。筋が合うのです。だから、そういうふうな形で、そういう話をして、じゃだれの名義にしたらいいかと言ったら、あなたは、上和田の名義にしておいてくれ、預金しておいてくれと言うから、上和田の名義にした、こういうのですね。いいですか。十月の四日ですね。あなたの例の問題の日は十月五日でしょう、コーチャンの何とかかんとかというのは。これはあなたがどこかに行っておられて、いたとかいないとかいう話がある。ソニービルのどこかから入ったとか入らないとか。あなたじゃないですよ。だれかが入ったとか入らないという話は別として、それは十月四日に訪ねている、こういうふうになっているんですね。そして、五日に当座用の口座をつくるというので上和田名義の三井銀行銀座支店、三井銀行というのは小山五郎、あなたのAF会のメンバーでしょう。そこで三井銀行に千円を預けて口座をつくって、そして十月六日に五億円の口座が上和田義彦名義でできておる。これは客観的事実ですね。千円で口座ができて、次に五億円ができたことは事実です。これははっきりしているでしょう。しかもそれは、あなた自身が、もう総裁選挙が終わった後だから、いま要らないから、とにかく自分の名義じゃぐあいが悪いかどうか知らないけれども、上和田名義にしておいてくれと言って、そこで上和田の名義になったんだと東郷ははっきりここでも言い、法廷でも言っているんですよ。どっちが本当かということをちゃんとやはり調べなければいかぬのじゃないですか。一国の総理の言っていることですからね。これはだれが見たって、あなたの一身上の名誉にも関係することですから。
まだ出てくるのですよ、まだ。余りあれして悪いけれども。
三井銀行銀座支店上和田義彦名義の普通預金の勘定計算書をみますと、十月五日に新約として千円入金されてますが、これは、何ですか。
こう言う。普通預金口座をつくるために、最初上和田氏の了解を得た上で陽秘書室長が立てかえて入金したんだ。陽秘書室長から、間もなく上和田氏から千円を返してもらったというふうに聞いておるんだ。そして、預金通帳や印鑑や何かどうしたかと言ったならば、それは上和田氏の依頼でつくって、預金通帳は上和田氏の了解のもとに陽が保管をしておりました。六日になってこの口座に五億円が入金しておる。こういう時間的な経過をとっておる。こういうことなんですね。
だから、日にちの上でも合うのですよ。だから、東郷の言っていることはうそだというふうにも私はとれないのですよ。日にちがちゃんとずっと出てきて順序を追っているわけですから。やはりあなたの承諾を得て五億円を預金したというふうにとれる、こういうふうに私は思うのです。これはあなたの言うことと東郷の言うことが違うわけですから、上和田氏にも来てもらって聞いていただかないとわからぬわけです。これは後で私はあれします。
そこで、後で週刊新潮という週刊誌に出ましたね。私はその週刊新潮というのをその当時後からとって見たのです。大した記事ではないですよ。P代議士と出ているけれども、そんなにでかくなくて後半にちょっと出ている程度の記事なんです、御案内のとおり。そこで、それが出て、それをあなたのところへ見せに行った、こう言うのです。十一月十七日一時半、北野アームズの中曽根事務所、中曽根さんに会って、週刊新潮に取り上げられるようになったからすべてを白紙に戻したい、そしたら中曽根氏も納得してくれました、こういうふうになっているんです。だから、あの週刊新潮の記事が出たときに、それに関連して東郷からあなたに話があったんじゃないですか。だから、前のところで戸栗の名前が出たときに話があったかもしれぬけれども、その後にもあるいは出てから後にもあなたのところへ行って話があったんじゃないですか、どうですか。
#353
○中曽根内閣総理大臣 その貯金通帳のお金のことを後で聞いてみますと、それをまた先方では自由に使って株の操作か何かに使っておった、上和田はそんなことは全然知らなかった、そういうことを上和田から聞いておりました。完全に先方が管理して、上和田は知らなかったという状態だったと思います。それから、週刊新潮のことは聞きました。それで向こうから、たしか、こういういきさつでこうでこれはもう廃棄するとかなんとか、そういうことにするということを上和田から聞いたことがあります。
#354
○稲葉委員 確かにその五億円の金を一部使ってしまったのは本当です。その金が本質的にだれの金だかということがわからなかったから、陽が間違って使っちゃったというので、あわててこれは東郷の自由になる金ではないということでまたもとに埋め合わせをしたり何かしています。こういう経過があるのは事実ですね。そこで、さらに問題になってまいりますところの一番大きな部分になってくるわけですけれども、そのときに、それでは済まない、結局その週刊誌の記事が出て、もうあなたもごらんになって、全部パアになってどうも済まないということで、せめてこの際献金でもしたいという話があって、そして東郷はあなたに対して三百万円を渡された。では、それは帳簿としてはあなたの名前を出すのはぐあいが悪いというので、上和田義彦名義に三百万円をして、そして、それは陽真也の持っている金銭出納帳に記載されておる。その金銭出納帳はいまは裁判所の方に押収になっております。もうさっきの東郷の手帳も押収になっておる、こういうことなんです。
だから、私がお聞きをいたしたいのは、その手帳に書いてあるように、東郷が言っておるように、あなたのところへ、もうこれで全部終わった、あなたに迷惑かけて済まなかったというので三百万円をお渡ししたという事実は一体あるのですか、ないのですか。
#355
○中曽根内閣総理大臣 上和田から、たしか東郷君から政治献金があった、そういうことは聞いたような気がします。#356
○稲葉委員 上和田から聞いたような気がする、政治献金。あなたが直接東郷に会って東郷から受け取られたのと違いますか。もし、上和田氏から後から聞いたとあなたがおっしゃるならば、私は上和田氏もこの国会の権威においてここでお調べを願う以外にないと思うのですよ。よく記憶を呼び起こしてくださいませんか。あなたのお話を聞いているとちょっと、本当というか、らしいというか、何か全然うそではないように考えられますね、東郷の言っていることは。#357
○中曽根内閣総理大臣 大体政治資金のことは上和田に任しておきましたから、私が余りタッチすることは少ないのです。しかし、あるいは、先方がそう言っているのなら私のところへ来たのかもしれません。しかし、その記憶は定かではありません。#358
○稲葉委員 私は、率直に言うと、こういうことを質問するために国会議員になったのじゃないのですよ。そうなんです。だけれども、こういうふうにこの国会で、ロッキードの特別委員会、そこで証言をしておるが、あなたの証言が先なんですね。東郷が後ですけれども、一月おくれですけれども、いずれにしてもそのことは非常に食い違っておる。しかも、東郷の方は手帳もあり出納帳もあって、時間までちゃんと細かく書いてある。そういうふうなことから言って、しかも法廷でも言っているということから見ると、東郷の言うことが全部うそだとも私は考えられないのですよ。考えられないし、そこで上和田という人が出てくるけれども、いま言ったようになってくると、あるいはそういうようなこともあったかもしれないというようなことを言われ出すと、私は、あなた自身の名誉というかな、と同時に、全体の政治倫理ということをはっきりするためにも――とにかくあなたの言うことと東郷の言うことが違うことはわかってますわな、だれが見たってわかるのですから。上和田氏がどういうふうに言っているかはこれはよくわからぬけれども、一つのポイントを上和田氏が握っていることも事実なんです。だから、私はこれはやはり明らかにする必要がある、こう思うのです。それはだれが見たって明らかにする必要がある。ロッキード委員会の偽証というのは三カ月以上十年以下ですから、これは以下ですから、未満ではありませんから七年なんですよ。刑事局長いいですか、私の言うことを聞いておいてください。ここでの偽証は七年ですから、まだ偽証は期間は過ぎてないのですよ。五十九年四月ごろまでまだあるのです。そのことから見ても、また政治的道義的に明らかにするためにも、私はここでわれわれ自身がしっかりしなきゃいけない、こういうふうに考えるのです。そこで刑事局長に聞くのは、この偽証の時効というのは一体、三カ月以上十年以下、刑法でもそれから議院証言法でも同じですが、公訴の時効は何年ですか。
#359
○前田(宏)政府委員 公訴の時効期間につきましては刑事訴訟法に決められているところでございまして、稲葉委員の仰せのとおりでございます。#360
○稲葉委員 私、もうさっき、あなたの総裁選の不出馬の表明を六月十一日と申しました。これは間違いです。六月二十一日でした。失礼しました。七月五日が総裁選。こういうふうなことになってきております。〔村田委員長代理退席、委員長着席〕
私は、余りにも違いますから、この際やはりはっきりとすべきものははっきりしなければいけないのじゃないか。これはあなたが総理大臣だから影響が大きいということで、あなたはいやかもわからぬけれども、これはしようがないのじゃないですか、法の前に平等なんだから。
そこで、私は、中曽根康弘、そして東郷民安、上和田義彦、三名を当委員会において証人として喚問願って、事実関係というものを明らかにしていただきたい。それでないと、こんなに言い分が違うのですから。しかも、それはここの委員会で証言をして、宣誓をして述べたことなんですから、お二人とも。それが全く違うのですから、この三名を証人としてぜひお調べを願いたい、こういうふうに私は考えます。これはもうぜひ委員会の中で解決をしていただきたい、こういうふうに思います。
#361
○久野委員長 理事会に諮って協議いたします。#362
○中曽根内閣総理大臣 私が申したことは間違いありません。したがって、私はそういう必要はないと思っております。#363
○稲葉委員 あなたの言うことは間違いがないと思ったって、いま私が三百万円の献金の話をしたら、あなたはあるいはあったかもしれないというようなことを言い出したじゃないですか。そのことから見ても、とにかく東郷の言うことと違うことはいま私が説明しましたから。しょっぱなから違うのですから。しょっぱなから違うのでしょう。では、あなたは最初のとき一体何を頼んだのですか、東郷に。話は二つありますね。一つは、単純な政治資金をもらいたいということで頼んだのですか。あるいはあなたの方で出す金を元手として、そして株の売買による利益を全体で上げて、私が申し上げましたように、そのうちの一部を払って残ったものをあなたの方の自分の資金にしたい。二つ方法が違いますね、全然。どっちをあなた頼まれたのですか。
#364
○中曽根内閣総理大臣 私が申し上げたとおりであります。しかし、東郷君は、同級生として一面において私を応援したい、そういうことで東郷君が自分でいろいろ苦労してくれたこともあるだろうと思っております。#365
○稲葉委員 あなたの話を聞くと、あなたが何を頼んだのかわからないじゃないですか。では、一朝有事のときに一体何を頼んだというのですか。東郷は四月二十八日の料亭「中川」の件で、「工友会の幹部連中と中曽根氏を中心とする親睦会の席上、私に座を外させて呼び「この間の話だが、将来総裁選に出るのに、どうしても二十五億円位必要なのだ、何とか上場の前に、公開値で買わしてくれ。そうすると、それで、上場の時売れば、相当な利益が出る。」二十五億利益が出るとは言っていませんよ。「相当な利益が出る。政治資金は、皆そのようなことで作るそうだ。買う資金としては、二十五億円迄出してくれると言っているのだ。何とか考えて、協力してくれ」と再度頼まれたのでした。私は、ヨーロッパ出発前でもあり、」これはロンドンへ行くときです。五日にロンドンに行っているのだから。「帰って来てから、大石君」これは新日本常務の大石、「大石君とも相談してみようと答え、その日は別れました。」と言っているのですね。
相当な利益が出る。だから、単純に政治資金をつくってくれというのではなくて、上場の前に公開値で買わしてくれ、それを上場のときに売れば相当な利益が出るので、政治資金は皆そのようなことでつくるそうだ、だから二十五億円を出してくれると言っているのだ、買う資金としては二十五億円まで出してくれると言っているのだ、こういうふうに言っているのですよ、東郷は。法廷で言っているのですから、そううそは言わないと思いますよ。ここでも同じようなことを言っています。
だから、あなたに金を出してくれるという人は、あなたが買う元手じゃないのですか。元手と言うと言葉は悪いかもわからぬけれども、俗に言う、あなたが買う金をほかから出してもらって、その金であなたが買うんじゃないですか。あなたの名前でやるかどうかは別として、そこで相当な利益を上げようということじゃないのですか。単純な政治資金を頼むということじゃないんじゃないですか。だからこそ新日本証券の大石常務が出てき、野村証券の北裏社長なんかの名前も出てくるのですよ。それでなければ筋が通らないですよ、これは。私にはそういうふうに考えられるのですね。どうなんですか、話は。どうも最初の話がよくわからぬ。
#366
○中曽根内閣総理大臣 さっきから申し上げたとおりです。#367
○稲葉委員 では、話は幾らやっても同じですから、私はこの程度にします。ただ私は、この事件についてはやはり証人としてしっかり調べてもらわなければいけないと思いますよ。こんなに違うのですからね。あんまり違い過ぎるのですからね。これは委員長、何派か知らぬけれども、そんなことどうだって、何派だって関係ないからね。やはりちゃんとしなければいけませんよ。
では中曽根さん、一応これはこの程度にしておきましょう。私も余りこういうことは聞きたくないのですよ。また変なことを聞かなければならないので、私も迷っているところなんですよ。迷っているところなんですけれども……(「次元の高い議論をしてもらいたい」と呼ぶ者あり)次元の高い議論をこれから始めるのですけれども。
そこで、私はいろいろお聞きをいたしたいことは、あなたのところの「自由民主」という雑誌がありますね。これは三月号です。タイムとニューズウィークのあれが出ているのは二月号ですね。これはあなたの方の雑誌ですが、私読んでみました。
そこで、いろいろな疑問というか、あれが出てくるのですけれども、この中であなたは不沈空母論というものを展開されておられますね。展開じゃない、そういう話をしたということを言われている。それは比喩だということ、そのことについては私は比喩でいいと思うのです。これは比喩でいい。だけれども、あなたがこの「自由民主」の三月号で言っておられることは、こういうことですよ。いいですか。竹村健一とね、これはいつだか、ちょっと日にちが書いてないのですけれども、まあ遠くないでしょう。
国会という機関は、そういう「不沈空母」とか「運命共同体」というものを説明して、国民の皆さんによくわかってもらう、PRの機関だとも思うんです。
竹村 そうでしょうね。
中曽根 絶好のチャンスなんでね、これで進めることができるんです。難問題を出されて、それを解いていく過程を国民の皆さんが見るわけですから、どっちの答えが正しいか最後に出ますよ。そう思ってるんで、まず問題を先に出しておいたんだと……。
竹村 なるほど。だけど、中曽根さんとしては「ワシントン・ポスト」のときは、そう意図して出されたんですかね。
中曽根 意図したと言えば意図したんで、
こう言っていますね。
そこで、私がお聞きをいたしたいのは、ソ連のバックファイアから守るというのですか、それに対するあれはどういうふうに言うのですか、ブルワークというのですかね、防護壁というのかな、ブルワークという言葉を使うのでしょうかな、そういうことでまずソ連のというふうなことをはっきりあなたがおっしゃったのでしょうか、どうでしょうか。
#368
○中曽根内閣総理大臣 ソ連のという言葉を言ったかどうかわかりませんが、バックファイアとかバジャーとか、そういうようなことも一緒に言ったと思っております。それはソ連の飛行機です。#369
○稲葉委員 いや、私が聞いているのは、ワシントン・ポストにはソ連のとちゃんと書いてあるから、あなたがソ連のということを言ったふうにとれるのですが、これはどうも要領を得ないですね。そうすると、バックファイアならバックファイアでも、それを守るためには一体日本はどれだけの金が要るのですか。どうしたらいいのですか。
#370
○中曽根内閣総理大臣 私が申し上げましたのは、ともかく比喩として、日本は自分で自分の国を守る、それで、もし侵略があった場合、有事の際に、外国のどの国の飛行機であれ日本を侵略しよう、そういうものについては日本はまずそれを入れないように備えなければならぬ、入らないように抑止力も持っていかなければならぬ、そういう意味のことを言ったのであります。それはみんな、日本が武力攻撃を受けたときの話であります。#371
○稲葉委員 不沈空母が比喩だという話はわかります。ソ連のバックファイアが入ってきたときにそれを防護しなければならないということ、これも比喩なんですか。#372
○中曽根内閣総理大臣 それは比喩というよりも、外国の飛行機によって侵略されるとき、それを意味しているわけであります。これは一朝有事の際に、どの国の飛行機であろうが入ってきたら、自分で自分の国を守らなければならぬし、侵略を排撃、起こさせないようにしなければならぬ、そういう決意を表明したのであります。#373
○稲葉委員 あなたのお話は、私は不沈空母だけは比喩だというふうに聞いていたのです。みんなもそういうふうに聞いたと思うのですがね。まあそれはそれでいいでしょう。全部が比喩になってしまって、何が本体だかわからなくなってしまうのですね、あなたの話は。そうすると、あなたはお話の中で、安保条約の効果的運用ということを盛んに言われますね。これも比喩ですか。
#374
○中曽根内閣総理大臣 それは比喩じゃなくて、日本の自衛力というものはまだまだ十分ではない、非常にまだ整備を要するところがある、そういうような状態のもとでは、やはり一朝有事、日本が侵略されるという場合には、いかに安保条約を有効に動かして、米国の救援軍と申しますか、米軍をして一〇〇%日本のために活躍してもらう、そういう機能を一〇〇%発揮させることが政治家の腕前である、そういう趣旨のことを言ったと思っております。#375
○稲葉委員 そうすると、安保条約の効果的運用ということは、具体的にはどういうふうなことになるわけですか。#376
○中曽根内閣総理大臣 日本が侵略を受けた場合には、アメリカが安保条約を忠実に実行して日本防衛の約束を守ってもらう、常にそれが行われるような状態に維持していくことが、日本の政治家として大事な仕事であると考えております。#377
○稲葉委員 武器技術輸出の問題について、幅を広げて、国会の決議に抵触すると私どもは考えますけれども、あなたの方は抵触しないと考えるのですけれども、それを輸出することも安保条約の効果的運用の一つですか。#378
○中曽根内閣総理大臣 それは、日本はアメリカから、P3CでもあるいはF104でもF4でも、今度はF15でも、相当高度の機密をもらってライセンス生産をしております。先ほどの説明でも資料件数にすると千三百件にわたる米軍の機密をこっちはもらっておる。日本が工業的にも弱く経済的にも弱い、そういう時代はやむを得ないけれども、これだけ日本が経済大国になり高度の技術を持ってきたら、アメリカの方にも、一方通行じゃなくて日本も交流して技術を渡してくれ、そういうことをすることがアメリカのこの問題に関する防衛力を強める、アメリカが防衛力が強まっていけば日本の防衛にそれが活用できる、それはひいては日本の防衛目的達成のために役立つ、そういう点も見逃すことはできないと思っています。#379
○稲葉委員 私が聞いているのは、あなたが安保条約の効果的運用ということを言うから、いかにもいままでそれが効果的に運用されてなかったのでしょう。そういう意向なんじゃないですか、あなたの言われる意味は。だから、効果的運用ということならば、今度の武器技術の輸出の問題についてもそれは効果的運用の一つのポイントなんですかと、こういうふうにお聞きをしているのです。そうならそう、違うなら違うと、どちらでもお答えください。#380
○中曽根内閣総理大臣 それは効果的運用を図るということも一つの内容になっていると思います。#381
○稲葉委員 いやいや、話はくどくなりますが、違うのです。効果的運用を図るのじゃなくて、効果的運用の中の一こまとしてこの武器技術輸出もあるのですかと私は聞いているのですけれども、あなたの答えと何か話が合わないのです。では、私はさらにお聞きいたしますと、集団的自衛権と個別的自衛権との問題の中で、こういうふうにお聞きしましょうか。一見集団的自衛権の行使のように見えるけれども実は個別的自衛権の行使である、こういうようなものはどんなことがありますか。
#382
○夏目政府委員 私どもはあくまでも個別的自衛権の枠内で行動するということをたてまえにしておりますので、一見集団的自衛権であって個別的自衛権であるものがどういうものかということを考えたことはございません。あくまでも、わが国に対する武力攻撃があった場合に個別的自衛権の範囲内で行動するというのが自衛隊の精神でございます。#383
○稲葉委員 そんなことはわかっているのです。じゃ、一見個別的自衛権の行動のようにとれるけれども逆にこれは集団的自衛権の行使だ、こういうふうに見えるものはありますか。#384
○夏目政府委員 仮定の問題としてそういうことがあるかどうかということをお答えする立場にございませんが、私どもとしては、そういう誤解のないように個別的自衛権の範囲内で行動するということでございます。#385
○稲葉委員 そんなことはあたりまえの話なんで、じゃ具体的にお聞きいたしましょうか。それでは、もうさっきからあなたの場合、有事有事という言葉が出てきますね。有事というのは一体いつから有事になるのですか。いや、防衛庁じゃないのだ。あなたが言うから……。
#386
○谷川国務大臣 自衛隊法七十六条によって防衛出動が行われるような事態のときが有事でございますが、その中には、当然でございますが、法制上はみなす行為もその中に含まれております。#387
○稲葉委員 集団的自衛権というものと個別的自衛権というもの、これはもう解釈の方法によって幾らでも幅が縮まったり広がったりすることは御案内のとおりですね。いまはいろいろな問題があるわけですけれども、それでは、たとえばわが国の来援に向かっている米艦艇が第三国に攻撃されたときに自衛隊は救援できるか、一つ問題ですね。これはどうなんですか、結論は。#388
○谷川国務大臣 艦艇に限定してお答えをさしていただきますが、わが国有事の場合に、つまり、わが国が武力攻撃を受けておるときにわが国に来援をする米艦艇をわが国が守りますことは、攻撃を受けておる米軍を守りますことは、わが国のとりまするわが国を防衛するという意味合いからこれは個別的自衛権ではございまするけれども、わが国が攻撃を受けておりまするときに来援する米艦艇を守ることはあり得る、こう考えております。#389
○稲葉委員 それでは、日本向けの重要な物資を積んだ外国籍の船舶が攻撃されようとしたとき護衛できる、こういうふうになるのですか。#390
○谷川国務大臣 この問題につきましては法制局あるいは外務省から御答弁なさることが正しいかもしれませんが、わが国に向けてわが国のための何かの品物が日本へ届けられているさなかにその国のその船が攻撃を受けましても、実を申しますと、一義的には、その船を防衛をするのは、その国に対する攻撃に対してその船を自衛するのは、その船の船籍のある国ということになるわけでございます。#391
○稲葉委員 この問題は、非常にむずかしいといいますか、理解、解釈の仕方でどうにも変わる問題であって、これはまた別の機会に時間をかけてゆっくりお聞きをしなければならぬ問題だというふうに思っております。そこで、総理にお聞きをいたしたいのは、ちょっと順序がひっくり返っちゃったかもわかりませんけれども、さっきの「自由民主」の五十八年の二月号の中で、あなたに対するアメリカの記者、十二月十四日ですね、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者のインタビューがあるわけですね。私これを読みまして、最後のところでアメリカの記者からこういう質問が出ているのですね。いいですか。
「アメリカの防衛関係官たちは、日本に対して、戦争が起った場合に、ソ連の太平洋艦隊を日本海に閉じこめるれるよう、日本が、宗谷、津軽、対馬の三海峡に機雷を敷設するよう、おだやかにではあるが要請している。これは日本にとって、適切な防衛役割であると考えますか。」こういう質問が出ていますね。それは「自由民主」の二月号に載っている。
それに対してあなたはお答えになっておらないですね。その問題について直接なお答えはしておられませんね。そこのところはどういうふうなことになるのでしょうか。
#392
○中曽根内閣総理大臣 答えないのはどういう理由であるかよく私もわかりませんが、その質問を忘れて答えなかったのかもしれません、ほかのことを答えておるとすれば。しかし、それに対する答えは、日本が武力攻撃を受けた場合に日本の自衛の一環として三つの海峡をコントロールする、そういうことは私もかねがね申し上げたところで、それはアメリカが要請するとしないとにかかわらず日本が自主的判断に基づいてやり得ることであります。#393
○稲葉委員 そこで、あなたは、「十三年前に防衛庁長官でした。その時から私は、この三海峡の防衛改善の問題には、大きな関心をもっていて、私の見解は変っていません。」こういうように答えているのですね。あなたの方の機関誌ですからぬ。そうすると、三海峡の防衛改善の問題というのは具体的にはどういうことなんですか。
#394
○中曽根内閣総理大臣 それは昭和四十五年、私が防衛庁長官を拝命していたときから海峡問題というのは問題であったのです。そこで、機雷を用意しておくとか、あるいは潜水艦はどういうふうに使えるのであろうとか、あるいは空の守りをどういうふうにするとか、そういうようないろいろな点を防衛庁は検討しておって、そのころから海峡防備という問題は日本防衛の中の一つの重要な項目であったので、それを言っているわけであります。#395
○稲葉委員 それはわかるのですけれどもね。わかるというのはあなたの言うことはわかるという意味ですよ。具体的にはどういうことなんですか。だって、あなた、これは改善をするというのじゃないですか。改善の問題というのは、どういうところをどういうふうに改善するという意味なんですか。具体的に御説明くださいよ。#396
○中曽根内閣総理大臣 恐らく機雷を整備するとか、あるいは機雷を敷設する、道具を使う、どういうふうにするとか、船をつくるのかあるいは飛行機でまくのか、そういうようないろいろな問題を改善するという意味であったのではないかと想像いたします。#397
○稲葉委員 いいですか。この質問は、戦争が起こった場合には「機雷を敷設するよう、」――機雷を敷設することができるということですか。#398
○中曽根内閣総理大臣 日本に対する武力攻撃があった場合に、日本の自衛の一環として海峡防備を行うことはできるという意味です。#399
○稲葉委員 あなたのお話で、これはちょっと古いかもわかりませんけれども、例の栗栖さんがやめられた直後にやはり竹村健一と対談をしていることがあるのですけれども、あなたはタブーに挑戦していく、こういうふうなことを言っておられる。これはそのとおりですね。それは政治家として勇気のあることなんですが、その中で「具体的には、自衛隊法百三条(防衛出動規定)の中にあるいろいろな法体系の整備の問題」、これを一つやるんだ、こう言っておられますね。具体的にはどういうことですか。#400
○中曽根内閣総理大臣 それは防衛庁の研究題目になっておりまして、たしかその条文は、日本が武力攻撃を受けた場合にどういうふうに民間との関係、あるいは交通関係とかあるいは船舶運用の関係とか、そういう問題に関する法制整備も含めたいろいろな対策を講じなければならぬ、そういう意味のことであるのではないかと思って、それはいま自衛隊も研究しているところであると思います。#401
○稲葉委員 「日本の防衛体系の再点検、いわゆる危機管理の問題」がいま重要だというような意味のことを言っておられますね。それは具体的にはどういうことですか。危機管理というのはどういうことですか。#402
○中曽根内閣総理大臣 危機管理と言えばいろいろあると思うのです。防衛出動を下令する、あるいはその予備、そういう問題についてどういう対策を講ずるか、そういう予兆が見えた場合に国防会議を開くのか開かないのか、閣議はどうするのか、そういう諸般の問題に対する体系を整備するという意味ではないかと思います。#403
○稲葉委員 それは現在はどの程度進んでいるのですか。この後どういうふうに進めるのですか。#404
○谷川国務大臣 ただいま、総理の御答弁の中には広範な面もございますが、そのうちの俗に有事立法と呼ばれているところに限って御報告申し上げますと、三つの分類に分けておりまして、第一の分類につきましてはすでに中間御報告を国会にさせていただく程度まで進めました。その他の二つの分類につきましては、かかわる範囲が非常に広範でございまして、目下いろいろ検討を加えつつあるところでございます。#405
○稲葉委員 そこで、結局タブーに挑戦するという意味の中で、あなたは、「アメリカがソ連に追いつかれて、安保条約は機能的に変質しておるわけです」、こう言っておられますね。ちょっと意味がわからないですがね。安保条約が機能的に変質しているというのはどういう意味なんでしょうか。#406
○中曽根内閣総理大臣 それは、安保条約ができたころは日本は全く脆弱で、無防備と言ってもいい状態であった。しかし、そのころはソ連は非常に弱くて、アメリカがほとんどワンサイド的に力を持っておった。このときは日本はほとんど何もしないでもアメリカにおんぶできたという時代です。しかし、最近のようにアメリカもくたびれてき、ソ連はSS20とかあるいはそのほかで極東艦隊も増強されてきておる。こういうような状況のもとにおいては、日本が自分の国土を防衛するためにいままで以上の努力をしなければならなくなってきた、そういう客観情勢の変化を意味しておると思います。#407
○稲葉委員 あなたは憲法の問題についていろいろ言われておりますね。この前お聞きいたしておりましたら、フランスの憲法制定権力のお話をあなたの方からされましたね。だれの質問か忘れましたけれども、されましたね。憲法制定権力、ことにフランスの学説の問題点というのはどこにあるというふうにお考えになっておられますか。なぜ憲法制定権力のお話をされるようにあなたはなったのですか。#408
○中曽根内閣総理大臣 それは、あるところで私が講演しました中に、憲法をつくる力という言葉を用いたわけです。それが質問の中に出まして、そこで、なぜ憲法をつくる力という言葉が出たかという根拠を申し上げるときにそういう話をした。稲葉先生のことですからもう御知悉のことと思いますが、釈迦に税法を申し上げますが、フランスのデュベルジュという学者が、プーボワール・コンスティチュアンという言葉とプーボワール・コンスティチュエという概念の差をつくっておる。プーボワール・コンスティチュアンというのは憲法をつくる力といいますか、つくる力、それからコンスティチュエというのはつくられた形、つまり、憲法典あるいは制度を意味します。しかし、この態法典をつくり制度をつくる根源は人民の主権の力であります。それがプーボワール・コンスティチュアンです。この国民の力がみなぎっているときに国は栄え、国民の力がしぼむときに国は栄えなくなる、そういうこともあり得ると思うのです。そういう意味において、その憲法典も大事だけれども、民主主義を躍動させて、その根源になっておる憲法をつくる力あるいは憲法を守る力、憲法を維持する力、憲法を改革する力、すべてこれは国民の意思によって決まるものでございます。そういう意味によってプーボワール・コンスティチュアンというものを非常に重要視する、法哲学的な考えを述べたわけであります。
#409
○稲葉委員 憲法制定権力の話の中心は、私はそこにあるのではなくて、もちろんそこにあるかもわかりませんけれども、むしろ――これは瀬戸山さん、お聞きになってくださいね。憲法制定権力というのは憲法改正の限界問題なんですよ。国民主権であって、主権者である国民が憲法をつくる力をお持ちなんですから、だから、主権者を変えるということは憲法改正の限界を超えることなんだというところに憲法制定権力論の議論の筋があるわけじゃないでしょうか。だから、あなたが憲法改正を考えられる、これはあなたの自由ですけれども、国民主権を変えるということはできない、それは改正ではない、こういうことになるのではないでしょうか。#410
○中曽根内閣総理大臣 プーボワール・コンスティチュアンというのは憲法をつくる力で、それは国民がやることですから、国民主権というものが原動力になっておるわけです。#411
○稲葉委員 それは、ここで議論してもあれですけれども、私どもが習ったときには、日本では京都大学の黒田覚さんが持ってきた、持ってきたというと悪いけれども、学説ですよ、弘文堂から出た本で。あのときに一番問題になったのは、憲法改正の限界の問題です。だから、国民主権であって、それをやめて別の主権にするためには、憲法改正ではないのだ、新しい憲法をつくることになるのだというころに憲法改正の限界論が問題として出てきた。だから、憲法改正の限界というのはおのずからある、国民主権のもとにおいてある、こういう理解の仕方で、そこに問題があると私はいまのところ理解しているのです。そこで問題となって出てくるのは、あなたがそういうふうに二つの力を言うなら、それはそれとして、竹村健一との対談で、「このままの憲法では生存できないというふうになってきたら、変えるのがあたりまえですな。」「あたりまえであるし、可能なかぎりそういうふうに解釈していい。憲法第九条も、」ずっと省略しますが、芦田さんがどうとかこうとか、「自衛隊の存在は当然合憲であるし、これを違憲だというのは、憲法そのものを知らない人たちの考え方です。流浪の民の解釈なんだ。」こう言っておられますね。流浪の民というのはシューマンの歌に出てくる流浪の民なのかどうか知りませんけれども、これはどういう意味なのですか。
#412
○中曽根内閣総理大臣 もう一回読んでもらわないと、こっちもよく理解できない。(稲葉委員、資料を示す)この意味は、いわゆる清瀬論というものが根底にあるわけです。独立国家というものが存在する以上は、これは自衛権はある。これは国家に本源的に附属しておるものだ。つまり、緊急事態が生じた場合に、ちょうど人間が自衛権を持っておる、それと同じように国家は国家として独立して存在する以上は自衛権は持っておる。自衛権というものが本源的にある以上は、自衛権を保障するために必要最小限度の防衛力は持ち得る、そういうふうに清瀬さんが昭和二十八、九年ごろ解釈を出しまして、それから芦田さんがそのちょっと前に、その前後でありましたか、同じように芦田学説というのを出しまして、「前項の目的を達するため、」というのを芦田さんが芦田修正で入れた。それは、侵略戦争にあらざる防衛戦争、自衛権発動の場合においては持ち得るために「前項の目的を達するため、」というのを入れたのです。したがって、自衛隊は合憲なのだ、そういう意味のことをここで指摘しておるわけでございます。
#413
○稲葉委員 いろいろ理解の仕方があるでしょう。そうすると、あなたはあれですか、選挙に不利だからというので憲法改正論者であることをやめてしまったのですか。#414
○中曽根内閣総理大臣 前からここで申し上げるとおりであります。#415
○稲葉委員 いや、ちょっとわからないのです。説明してください。#416
○中曽根内閣総理大臣 内閣総理大臣である間は憲法を遵守する仕事が非常に重加されてきていると思っております。一議員であるときの立場と違います。したがって、憲法問題に関する態度というものは慎重でなければなちぬ。それで、現内閣におきましては憲法改正問題を政治日程にのせることはございませんと、そう明言しているのでありまして、そういう立場から言動については注意しておる次第なのでございます。その考えはずっと各閣僚も一致していると思います。#417
○稲葉委員 ここでその議論をしても、あなたの方も大分トーンがダウンしてきまして、いろいろなことの原因かもしれませんけれども、じゃないかというふうに思うのです。これも余り聞きたくないことなのですね。聞きたくないので、僕も迷ってはいるのですがね。(「聞きたくないことは聞かないの」と呼ぶ者あり)いや、良心的なものだから迷ってはいるのですがね。(「嫌らしいことは言わない」と呼ぶ者あり)嫌らしいことかどうかわからぬけれども、大平さんが亡くなられましたね。そのときにあなたが、どなたかに頼まれて、目白へ行って、自分を総理大臣にしてほしいという意味のことを、どうかということの瀬踏みというか、あるいは依頼というか、それをされたことがございますね。
#418
○中曽根内閣総理大臣 目白へ行って、そういうことを頼みに行ったということはございません。#419
○稲葉委員 いや、あなたが行ったのじゃないのですよ。あなたが行ったのではなくて、佐藤孝行よりも上のクラスの人に頼んで、そして、あなたが目白へ行ってもらったのか、あるいは何かの用のときにそれを頼んだのかどうか知りませんけれども、そういうふうなことがあったのではないですか。雑誌にちゃんと出ていますよ。#420
○中曽根内閣総理大臣 私は、そういう運動をした覚えはありません。大平さんが亡くなったときは、われわれは喪に服しよう、そういうので、みんなじっと喪が明けるまで、お葬式が終わるまではわれわれの仲間はみんな動かないでじっとしておった。#421
○稲葉委員 いや、あなたがそういうふうなことを言われると、それはお葬式が終わってからかどうかわかりませんよ、終わってから後かもわかりませんけれども、あなたは目白へ、人に頼んで、その人が行って、そして自分が総理大臣になりたいという意味のことを言われたのじゃないですか。それで、まあいいだろうということになったんじゃないですか、目白の方では。そうしたところが、宏池会の方ではあれよという間に鈴木さんにまとまってしまった、こういうことではございませんか。――ちょっと待って。全部言ってしまいましょう。余りあわてなさんな。そこで、これも余り聞きたくないことだけれども、そこであなたは、鈴木内閣ができた後に――いいですか、なぜ私がこういうことを聞くかというと、あなたはほかの重要なポストを要求されましたよね。希望されましたね。行管庁長官を希望されたのではないですね。いいですか、希望された。ところが、行管庁長官になった。そうしたらあなたは、副総理にしてくれということを言われた。ところが、副総理は河本さんとのバランス上困るからというので、じゃ臨時代理だけにしようということになって臨時代理になった、こういう経過ではないのですか。
だから、私が聞きたいのは、その一連の事実関係の中で――それはあなたであるかないかは別として、ちゃんと出ているのです。言っている人がいるのですから、そういうことを。あなたのよく知っている人で。事実、僕は確かめたのですけれども。だから、あなたは目白の影響がなければやっていけないと言うと語弊があるけれども、内閣を持てないというふうな、総理大臣になかなかなれなかった状況にあって、現実もそう、いまでもそういうふうに続いておるということ、大変失礼だけれどもそうではないでしょうか。そして、行管庁長官になるということも、別にあなたが希望されたわけでも何でもない。むしろほかの重要ポストを希望されたのだけれどもそこへ行ったということで、あなた自身の一つの性質というか、そういうものを非常にあらわしておるのではないかということを、私は、失礼だけれども言うのです。
聞きたくなかったけれども、しようがないですね、あなたがそういう事実を否定されるなら聞かざるを得ないということです。
#422
○中曽根内閣総理大臣 大平さんが亡くなった後に、私が目白に総理大臣にしてくれと頼んだということはございません。それから、私が内閣について、入るか入らないか、どういう立場をとったかということはここで明言する限りのことではない、おせっかいな質問ではないかと思っております。
#423
○稲葉委員 確かにそうですね。あなたが総理大臣、あなたの内閣のときに、確かにおせっかいな質問ですよ。だけれども、おせっかいな質問だけれども、それは私が言っていることが事実だから、あなたがそういうふうに答えているということになるのじゃないですか。まあ、それはしかし余りよけいなことかもわかりませんからあれですが……(「一体、何を聞きたいんだ」と呼ぶ者あり)何を聞きたいって、あなたがだから目白を意識して、目白の庇護がなければ、コントロールがなければ中曽根内閣というのはやっていけないのだということを私は言いたかった。国民はみんなそう思っているわけですから、それを私は聞いておる、こういうようなことですね。
余り変なことというか、別なことになりますけれども、では、お聞きをいたしてまいりますと、まだ時間が多少ありますからお聞きいたしますと、私は今度の問題の中で、実はあなたもお読みになった、私も読んだ、文芸春秋に加瀬俊一さんが「「中曽根訪米」随行記」を書いておられる。あなたも日の出の山荘でお読みになった。私もその前の日に読んでみた。そうすると、これはポイントは二つありますね。あなたが行かれたのは、鈴木内閣によって、鈴木総理によって日米関係はめちゃくちゃになっちゃったんだ、これははっきり言っているじゃないですか、加瀬俊一さんは。それを修復するために行かれたということが第一段階に出ていますね。
鈴木さんが日米関係を非常に悪くしてしまったということは、一体あるのですか、どうなんですか。
#424
○中曽根内閣総理大臣 それは、私がそう言ったのではなくて、その著者がそう感じて書いたことで、私に聞かれるよりも、著者にお聞きになっていただきたいと思います。#425
○稲葉委員 そのとおりですね。だから、あなたに聞いたってわからぬことだ。だけれども、あなたが、特使か何か知らぬけれども、一緒に行った人、これは特に頼んだのでしょう。頼んだ人がそういうふうに言っているのですよ。その後はアメリカの大使館無能論をやっているわけです。ですから、これを読むと非常に何か誤解されるのですよ。鈴木さんは一生懸命やったのだろうと思うけれども、まるで鈴木さんが日米関係をめちゃくちゃにしてしまったようなことにこれは書いてあるんだから。それをあなたが修復しに行ったようにとれるから、私はどうも非常に疑問に思っておるのですけれども、これもまたあなたの方の内部のことだと言うのならば、余りよけいなことばかり聞いて、何も私の方でかれこれ言うべき筋合いじゃないかもわかりませんから、この程度にしておきます。そこで、ロッキードの問題は直接ここでは聞きませんけれども、お聞きをいたしたいのは、このごろ政治献金だということを言うなちば、それはまるで犯罪にならない、涜職罪にならないかのようなことを言う人が一部にあるものですから、だから政治献金というものと涜職罪というものとがどういう関係にあるのか、こういうことについて、これは法務省の方からお答えを願いたい、こういうふうに思います。
#426
○前田(宏)政府委員 政治献金という言葉自体がいろいろな意味で使われるわけでございますから、それと賄賂罪とを対比して議論するというのもいかがかと思います。したがいまして、賄賂罪が成立するかどうかということは、その金の授受がどういうふうにやられているかということとは直接関係がなくて、賄賂罪の要件に当たる場合に賄賂罪になるということでございます。#427
○稲葉委員 そうすると、私の聞いているのは、政治献金だというふうに言われておっても、それは賄賂罪の要件に該当する場合には賄賂罪に該当する、あたりまえのことですけれども、それはそうなんですよ。政治献金ということと涜職罪とがまるで違うように言う人が一部にいるんです。だから、私は聞いているのです。名前は政治献金であったとしても、それは涜職罪に該当する場合はあるんだ、こういうことですね。これはあたりまえのことですけれども、そのとおりですね。もう一遍念を押します。#428
○前田(宏)政府委員 先ほどもお答え申し上げたとおりでございますし、稲葉委員のおっしゃるとおりでございます。#429
○稲葉委員 そこで、これはいろいろな問題がこの中から出てくるんですね。政治献金だという名前の中で犯罪が成立する場合、しない場合、いろいろ問題が出てくるのですけれども、これは別の委員会でやらしていただきたいというふうに思います。そこで、多少時間がまだありますので、私がお聞きをいたしたいのは、一つは、私はいつも疑問に思いますのは、F16を三沢に配備することになった。それは日本の方から言い出したことなのですか、アメリカの方から言い出したことなのですか、どっちなんですか。
#430
○谷川国務大臣 これは昨年、アメリカの側から日本の側にそういう話が参ったわけでこざいます。#431
○稲葉委員 何のためにF16を日本に配備したいという話であったわけですか。そして、日本は何のためにこれを受け入れたということなんですか。#432
○谷川国務大臣 昨年六月ごろでありますが、在日米軍司令部を通じまして、米側から三沢にF16を配備したい旨の説明がございました。わが方といたしましては、まず関係省庁間において検討を進めたわけでございますが、この措置が日米安保条約の信頼性を高め、抑止力を強化し、かつまた、わが国及び極東における平和と安全の維持に寄与するものである、こういう判断をいたしましたが、その判断の基礎になりましたのは、実は米側からただいま申し上げたような形の線にのっとって配備したい旨の要請があったわけでございます。#433
○稲葉委員 だから、それを日本としてはどうして簡単に引き受けてしまったのですか。#434
○谷川国務大臣 いろいろ協議をした結果でございますが、米軍が配備の目的として申しました軍事バランスの改善に努め、かつまた米軍のコミットメントの意思を明確にすることによって日米安保体制の抑止力の維持向上を図るということを目的とする、こういう事柄につきましてわが方といたしましては、三沢におけるF16の配備は、ただいま申し上げましたような日米安保条約の信頼性の問題とかあるいは抑止力あるいは極東並びにわが国の平和と安全の維持に寄与する、こういうふうに判断をいたしたので、配備の決定をいたすことにいたしました。なお、この問題につきましては、米側と目下さらに地元協議その他につきまして詰めを急いでおるところでもございます。
#435
○稲葉委員 この問題が非常に大きな問題になっておるわけですね。だから、どうも北方領土に、あなた方の方では、総理は何かミグ21と23の両方がそこにあるように言われたのですか、どうもはっきりしないのです。23が飛来をしているというのですか、あるいは21と23を間違えて言われたのですか、どうなんですか、ここのところ。また、21と23によってどういうふうに違うのですか、日本の場合は。#436
○谷川国務大臣 現在北方領土と呼ばれる地域は、気象その他いろいろな条件がございまして、実は飛来をいたしましたときの機数あるいは機種その他についてはっきりわかり切らなかった問題点もございました。したがって、この問題につきましては、事務当局から、今日に至るまで明らかになったことについて御報告をいたさせます。#437
○稲葉委員 細かい点は別の機会でいいです。私がお聞きしたいのは、ミグ21と23じゃ全く違うのですよ。それを間違えて日本の方じゃとっておられるのじゃないかと思うから聞いておるわけです。その点も説明の中に入りますか。#438
○谷川国務大臣 ミグ21とミグ23の間では、御指摘のように、航続距離あるいは装備その他において違うことは事実でございます。それから、機種、機数その他についてということを申し上げましたのは、それが果たして俗に言われますところの北方領土に常駐するための飛来であるのやら、あるいは航空訓練上その他の用で飛来しているものやら、そういう問題もいろいろございましたので、ただいまそういう答弁を申し上げたわけでございます。#439
○稲葉委員 時間も参りましたので、以下一般質問に譲りたい、私はこう思うのですが、一つだけ大蔵省にお聞きをしておきたいと思うのです。私が疑問に思っていますことの一つ、日本銀行法の問題です。昭和十七年にできた法律ですね。その第二条に「国家目的」云々というのがありますね。「使命」ですか。これは一体何なのですか。どうしてこれをいままで変えなかったのですか。どういう点が日銀との間に問題点があるのですか。特に二十二条の第二項もありますね。
きょうは大蔵の場合一つだけ聞いておきますが、これはナチスが戦争中につくったライヒスバンクをそのまま翻訳した日本銀行法でしょう、昭和十七年の法律。戦争目的遂行のためにできた法律じゃないですか。そんな法律がどうしていまそのままの形であるのですか。そこら辺のところをちょっとお答えください。詳しいことはまた別の委員会で聞きますけれども。
#440
○竹下国務大臣 これは私も内閣官房におりましたときに常日ごろ感じておった問題として、いまだ行政の中に生きておるものとして太政官があり、ポ勅あり、それから、いまおっしゃいましたかたかなの法律とでも申しますか、たくさん残っております。その中の日銀法につきましても、従来も国会の立場で検討すべきだとかいう議論が何回か行われておる。しかしながら、この問題は意見はございますものの、実際いろいろやってみますと、それこそ当面、現行日銀法が政策遂行上特に支障となる問題は必ずしもない、したがって、何分わが国経済全体のあり方に対して深い関係を持つ問題でございますので、これに対しては非常に慎重にならざるを得ない。しかし、御案内のように、指摘がありまして、銀行法の改正もかたかなの法律を直しましたですね、実際。したがって、私はそういうことは絶えず念頭にはなくてはならぬと思っております。御指摘のように、いわゆる第二条の「国家目的」、この問題につきましても、いまや、国家目的は現在においては国民生活の安定と向上と解して差し支えないという判断をわれわれは持っておりますし、それから日銀の運営の理念は、通貨価値の安定を図り、これを通じて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とすべしというようなことに理解をしておる。だから私も、昭和十七年というとき、お互い学生時代であったでありましょうが、知っております。しかし、業務の遂行上いま支障があるとは言えないというふうに考えます。
しかし、この問題は、これは私的な考えで申しますと、太政官とかポ勅とか、そういうものが生きておると同じように、社会情勢の推移の中で検計を加えるべき課題ではある、しかし、きわめて慎重を要する問題ではないか、こういうふうに理解をしております。
#441
○稲葉委員 これは日銀の中立性の問題に関連してくることでしょう。公定歩合の引き上げの問題、引き下げの問題のときいろいろ関連してくる。ドイツのナチスの法律ですよ、これは。山際さんが銀行局長でいろいろ説明している法律でしょう。ナチスの法律がそのままの状態でいまも残っているなんて、そんなことは常識で考えられないですよ。これは条文だけでも何とかしなきゃならない。それで、同時に、中央銀行全体のあり方をめぐっても考えなきゃいけないというふうに私は思っているので、この点については、これは一般質問なりあるいは別の何なりでやりますけれども、これは私は非常に大きな問題があるというふうに考えております。ライヒスバンクですからね、これは。翻訳したのですから、これは。それがひとつ問題ですね。それから、税制の中で、いまさっきも減税の問題が出ていましたけれども、これは一般質問なり何なりでやりますけれども、考えられてくるのは、いまこういうこと考えていませんか、あなたの方で。いいですか、聞いてください。所得税の税率が十九段階になっていますね、日本は。アメリカはそうじゃありませんけれども、十五ぐらいかな。
そこで、一般質問に譲りますけれども、最低の税率が一〇%でしょう。これを一二%に引き上げるということを大蔵省は考えていませんか。そういうことはやらないならやらないとはっきり言ってください。その点どうでしょうか。それから、法人税の問題、単一比例税率の問題なんかありますから、この問題は別にしますけれども、いまのその点だけはっきりさせておいてください。
これで終わります。
#442
○竹下国務大臣 いわゆる十九の税制区分というのは、昭和四十三年度の長期答申、それから昭和四十五年度の所得税の税率構造の抜本的な見直しを行いました結果、結果的にそうなっておるわけであります。最低税率の問題等、今日検討しておるような事実は、全くございません。
#443
○久野委員長 これにて稲葉君の質疑は終了いたしました。次に、東中光雄君。
#444
○東中委員 私は、最初に、総理の政治姿勢といいますか政治倫理ということに関連をしまして、公共事業、国または公共企業体からの受注企業からの献金、とりわけ選挙資金の寄附問題、違法問題についてお聞きしたいと思っています。昨年の通常国会で、わが党の村上副委員長、私も、渡辺議員も質問をいたしましたが、当時の鈴木総理、それから中曽根行管長官あるいは櫻内外相、こういった閣僚の方々を含めて四十七人について、公選法違反の違法選挙資金の受領問題について質問をいたしました。
その後の経過を調べてみますと、中曽根さん以外は、大体一議員当たり一、二件、金額にしても百万までというのが多かったのですけれども、中曽根総理の関係では実に十八件、千百八十七万円というふうな違法選挙資金だと思われるものが出てきたわけであります。
そういう点でこれをただしたいのでありますが、まず最初に、警察庁にお伺いしたいのですが、昨年の質問の後、調査なり捜査なりされたと思うのですが、その結果をお伺いしたい。
#445
○金澤政府委員 お答えをいたします。御指摘の事案につきましては、昨年以来、関係の都道府県警察におきまして、当事者、関係者等からの事情聴取、それから関係資料の点検、こういったことを行いまして調査をしました結果、十五件、二十二名、これを公選法百九十九条違反等の容疑で送致をしております。
以上でございます。
#446
○東中委員 送検を受けられた法務省は、その後の処置はどうなりましたか。#447
○前田(宏)政府委員 ただいま警察庁の方からお答えがございましたように、送致を受けたのが十五件、二十二名でございますが、検察当局におきましては、さらにもう一名いわゆる立件と申しますか手続をいたしまして、合計二十三名になるわけでございますが、その二十三名につきまして、いろいろな点を十分調査をいたしました結果、結論的には全員が不起訴ということになっております。内訳的に申しますと、亡くなられた方が二名ございますし、証拠上嫌疑不十分な者が二人ありますし、その他はいわゆる起訴猶予という処理でございます。
#448
○東中委員 いまお伺いしますと、十九名の方は十五件――何件か知りませんが、十九名の人は犯罪行為はあった、しかし起訴猶予にした、諸般の事情を見て起訴しなかった、まあ検察庁どまりでとめてしもうたということになるわけでありますが、はなはだこの処置は、検察審査会にでもかけてはっきりしなければいかぬような性質のものではないかと思います。それにいたしましても、その中で、中曽根総理関係の五十五年選挙について私たちが昨年指摘したのは、東急建設の五十万、それから佐田建設の百万、富士通の百万、日本製鋼所の九万、三井建設の九万、合計五件、二百六十八万であったわけです。一番多かったわけですが、それについて、先ほどは件数だけ言われたのですが、中曽根候補者の選挙事務所関係の案件については捜査をされたのか、幾ら立件をされたのか、その経緯を警察庁にお伺いしたいと思います。
#449
○金澤政府委員 去年御指摘のございました件につきましては、すべて捜査をいたしまして、その結果、先ほど申し上げた十五件、二十二名を送致をいたしたわけでございます。#450
○東中委員 中曽根さんの分については、昨年指摘した分だけで五件あったということを言っているわけです。だから、すべてやって、そんなら五件全部送検した、で、何人送検したのかということについてはどうなんですか。#451
○金澤政府委員 公選法の違反の事件につきまして任意で処理をしておりますものにつきましては、従来から警察といたしましては個別の内容につきまして公表いたしておりません。したがいまして、トータルで十五件、二十二名ということで申し上げたわけでございます。#452
○東中委員 公選法関係でも、形式犯で、追っかけ回して、ビラ配ったと言ってとっつかまえたり、いろいろするわけですね。ところが、こういう実質的な違法問題についてはそういう形でカバーをされるというのは、非常に遺憾なことだと思うのです。その後私たち調査しまして、この一覧表をお渡ししておりますが、調べてみましたら、私たちが指摘をした東急建設と佐田建設は、二月の二十二日に政治資金だったということで届け出を変えたという処置をとられた。その後で指摘したら、また富士通と日本製鋼所については、三月一日に今度は選挙資金の届け出だけは外してしまった。しかし、政治資金の方の届け出は今度はしていない。その後また三井建設が、五月の八日になると、同じように選挙資金の届け出の方は削除訂正をする。それから、しばらくして七月の二十七日になると、この表で高砂熱学工業から住友セメントまで九件、これについては、今度は中曽根事務所自身が、これは国と契約している企業より受けた寄附で、それは通常の政治活動のものだ、誤っておったからといって訂正を出しています。これは恐らくこのころに捜査がされたのじゃないかというふうに私は推測をしているわけです。そして、届け出を変えたらそれでもう選挙資金が単なる政治資金になるのか。そういう性質のものじゃないわけですね。
ところが、そうした後、さらにことしになってから調べてみますと、一番最後に書いてある勝村建設二十万円、ユニオン土木百万円、石田建材株式会社百万円、三井東圧化学九万円、これがまだそのまま残っておるわけです。建設省へ行って調べてみると、ここに書いてありますように、大蔵省あるいは国鉄あるいは東京防衛施設局あるいは東北農政局でこの選挙の期間中にやはり国との受注契約を結んでいるわけです。
こういうことになりますので、これは全く公職選挙法百九十九条なり二百条なり二百五十条なりを無視した無法状態が、しかも総理の選挙事務所で起こって、いまなおほうってある、こういう状態であります。
総理、この点についてどう思われますか。
#453
○中曽根内閣総理大臣 この前御指摘を受けましたときにすぐ選挙区の事務所に連絡いたしまして、調べた上、間違っていれば是正するように指示をいたしました。それで、いろいろ調査をいたしまして、間違っているものは間違っているで届け出、いままで御指摘を受けないものでも、調べた結果これは間違っておると思われたものはさらに追加して直しました、そういう報告を受けて、ああそれでよかったな、そう思っておりました。いましかし、ここでまた新しい四件がまだ未訂正であるという御指摘をいただきまして大変恐縮に存じまして、早速調べてみます。#454
○東中委員 これは中曽根さんの選挙の収支報告書を見ますと、支出が九百三十一万七千五百五十二円となっておるんです。ところが、私たちがここで調べました、国からの受注企業からもらった選挙資金として届け出られたものだけで、何と十八企業から千百八十七万円です。そうしますと、総支出額よりも多い金額ですね、それをこの受注企業からもらっておったということを届け出ておられるわけです。それは知っておられたのか知っておられないのか知らぬけれども、私は警察じゃありませんから、一々捜査しておるわけじゃありませんからわかりませんが、届け出とそれからその会社のやっている事業だけを見ればはっきりそういう結論になってくる。これは余りにもひどいじゃないか。ちょっとこういうのは前代未聞だと思うのですね。大体こういう届け出をされているということ自体が前代未聞だと、この前警察の人たちも言うておったのです。ところが、ここまで来ると、一国の総理になる資格である、前提条件である衆議院議員、その衆議院議員になる選挙のときの選挙事務所の体制がこうなっておった。これじゃどうにもならぬじゃないか。この前は自治大臣が、こういうことのないように周知徹底せにゃいかぬと言うたという。警察も調べたと言う。そして、調べた結果が、まだなお残っておるんです。こういう事態というのは、一体総理そのままでいいんでしょうか。
警察にお伺いしますが、ちゃんと調べるべきじゃないでしょうか。どうですか。
#455
○金澤政府委員 先ほどもお答えいたしましたとおり、昨年いろいろと指摘がありました点につきましては捜査を遂げたわけでございます。ただいまのお話しの点は、まあこれからでございます。#456
○東中委員 これは親告罪なら、指摘があって告訴があるまでやりません、そうでしょう。これは、この件について一つ言うたら、その関係のものを調べるのはあたりまえじゃないですか。われわれみたいに関係のない者でも、ちょっと見てみたらこれはおかしいぞと言うたち、ずるずる出てくるのですよ。警察は調べると言う。言われたことだけやりました。それから、検察庁も調べると言って、残っておる。訂正もしていない。大体どうしてこういうことになるんだろうか。本当に公選法の、要するに国から仕事を受けている企業が、その国会議員になるための選挙に金を渡すというのは、これはもう本質的に言うと贈収賄的性格を持っているということで禁止をしてあるわけですね。その禁止を今度は被ってやった。そうしたら今度は、政治資金というふうに名前を変えたらそれでいいのか。そんなことないです。選挙に当たって、選挙に関して出した寄附は、政治資金であってもそれは選挙資金なんですから、選挙資金は全部政治資金だと思うのですよ。だから、そういう点で言うと、これは本当に襟を正さなければいかぬ問題だと思うのですが、もう一回総理、はっきりした答弁をお願いしたい。#457
○中曽根内閣総理大臣 この前御指摘いただきまして、すぐ選挙区に連絡しまして、いろいろ精査して、御指摘以上こちらで見つけた分も全部直しました、そういうことで報告を受けておったわけでございますが、いままだ漏れがあるということをお聞きいたしまして、大変恐縮に存じておる次第です。早速その事実の有無等を調べまして必要な措置をとりたいと思っております。#458
○東中委員 この問題はこれで終わりますが、憲法問題につきまして総理にお伺いしたいのですが、この国会で現職の総理大臣が、私は改憲論者でありますという発言をされたのは、中曽根総理が初めてだと思うのでありますが、私は、どうもそれはちょっと適うのじゃないかという感じを持っています。中曽根さんは決して改憲論者というようななまやさしいものじゃないと思っているのです。いままで言われてきた経過をずっと見てみますと、自主憲法制定論者であります。自民党の今度の決議にも自主憲法制定ということが書いてあるわけですよ。自主憲法制定論者と憲法改正論者とどう違うのかということでありますけれども、法律手続的に改正をするかしないかということとは別に、現行憲法とは異質の憲法をつくるということが自主憲法制定なんじゃないでしょうか。
法制局長官にまず聞いておきたいのですけれども、憲法制定というのと、それから憲法改正というのはどう違うのか。日本国憲法は新憲法制定と一般に言われております。しかし、法律的には明治憲法の改正憲法であります。日本国憲法は明治憲法の改正憲法だ。あれは改正だったのだということを中曽根さんは言われることはないと思うのです。法律的にはそうなっているけれども、やはり日本国憲法はマッカーサー憲法だとかいろいろ言われるぐらいに新憲法が制定された、こう言っているわけですね。それでは今度はどうかといったら、日本国憲法を改正するのじゃなくて自主憲法を制定する、こう言っているのでしょう。
そういう点で、まず法制局長官に聞きますが、憲法改正と憲法制定とどう違うのですか。
#459
○角田(禮)政府委員 憲法も法律も同じだと思いますから、普通法律で制定すると言います場合には新しい法律をつくることであり、それから法律の場合には改正というのは既存の法律の一部ないし全部を改める、こういうことだろうと思います。それで、御質問に戻りますが、いま御指摘のように、日本国憲法というものは明治憲法の改正手続によって形式的には改正されましたけれども、一般的にはあるいは常識的には明治憲法とは非常に違った性格のものを持つために新憲法が制定されたというのが一般の言い方だろうと思います。
しからば、自主憲法の制定と憲法改正とどう違うかということですが、これは自民党の方のお決めになったことでございますから、私がお答えする限りじゃないと思います。
#460
○東中委員 そこで、中曽根さんにお伺いしたいのですけれども、中曽根さんは、たとえば青雲塾の宣言によりますと、明治憲法、マッカーサー憲法、そして昭和革新、第三の憲政の時代、そして新日本国民憲法の創定ということが言われております。そういう精神は昨年の九月二十五日に、救国政治を実現するためにいま新たによみがえらせる、こういうふうにあなたが言われておる文章であります。ただ、「自主憲法の基本的性格」というあの古い着物で蔵へしまってあると言われたその本では、やはり「自主憲法のための改正」ということで、自主憲法ということを常に言われておる。それから、内閣の憲法調査会でのあなたの発言を見ましても「日本国民としての独自の憲法」をつくる、いまの憲法はとにかく「特異な憲法」だ、マッカーサー憲法とは言われておりませんけれども、「特異な憲法」だ、「占領憲法」だ、だから「日本国民としての独自の憲法」をつくる。こう言っておられるわけでしょう。
それから、自主憲法期成議員同盟、これは一貫して自主憲法の制定一点張りですね。この前私が鈴木さんに質問したときには(改正)というのを入れるようになりましたよ。しかし、自主憲法制定だ。
自主憲法制定国民会議も自主憲法制定なんですね。日本国憲法は諸悪の根源だとまで言っている。これに全部入っておられるわけでしょう。そして、ことしの自民党の大会でもそうだ。
いま言われたように、明治憲法から日本国憲法に変わるのは異質の憲法だから普通制定と言っております。法制局長官の言われたとおりです。今度は自主憲法制定ということを公然と掲げ、公然と言ってこられたのは、それなら手続的に改正かどうかは別に、異質のものをつくるということをあの中に含めているのじゃないのですか。
そういう点で言うならば、あなたは改憲論者でありますと言われた。広い意味の改憲論者でしょう。しかし、その中での自主憲法制定論者でありますとはっきり言われたらどうですか。言われないのはなぜなのでしょうか。
#461
○中曽根内閣総理大臣 いま御指摘になりました青雲塾綱領とか決議、宣言というのは昭和二十二年につくって二十七年か八年に迫補した、そういうもので、マッカーサー元帥が日本を占領していた当時のわれわれのかなりマッカーサー占領というものに対する憤激のあった青年としての情熱がほとばしった文章であった、そう思います。それから、憲法調査会がその後開かれましたが、憲法調査会のときにはわりあいに今度は法律論議をやるようになっております。その創定とかあるいは自主憲法制定とか、そういうのは大体法律的用語というよりも政治的表現の方法なんですね。東中さんが演説なさるときに、街頭でやるときとここで演説なさるときは表現が違う。それと同じように、政治的表現を使うわけです。これは政党はどこでも使うわけです。そういう意味で解釈していただいたら結構ではないかと思います。
#462
○東中委員 昭和二十二年のとおっしゃいますけれども、確かにそう書いてますよ。これは昨年の九月二十五日「三十五周年教書」、そこであなたが書かれているのは、「私が担当している行政故革は、この救国政治を迎え、断行する呼び水であり、国の改革への血路である。昭和二十二年に制定した青雲塾の綱領、原理、宣言、決議の精神は、再びこの救国政治を導く原動力として甦らなければならない。」だから、いまによみがえっているわけでしょう。大きな精神を言っているのですよ。細かいことを言っているのじゃないのです。だから、改正か自主憲法制定か、全然意味が違うわけですよ。そういう点は本音を言うのだったらもっと本音を言われたらどうかというふうに思うが、まあそのことを指摘しておきたい、こう思うわけであります。それから、この憲法改正についてことしの一月の毎日新聞の座談会で、あなたが継承すると言われた鈴木内閣の官房長官だった宮澤さんがこういうふうに言っていますね。「いま、自立するためには憲法を改正しなければならないという短絡発想も少なくはないわけです。これは時代錯誤の一つだと思う。第六回国会で「軍備を持たないことこそわが国の独立と安全にとって唯一の道であります」という解説をしたのは吉田茂さんですが、この吉田さんの考えというのは必死に考えたことだ。そこらに私は今の経済的繁栄と保守主義の源流があったのではないかと考える。それをとことんまで突き詰めずに、オポチュニスティックに憲法を改正したり、軍事費を増やしたりすることで切り抜けようとしたら、これはもう全くだめなんだ」ということを言われておるわけですね。
あなたが継承すると言われた自民党の鈴木派の会長代行がそういうふうに公に言っておられる。こういうことについて中曽根さんはどうお考えでしょうか。
#463
○中曽根内閣総理大臣 昭和三十九年ごろだったと思いますが、私がある大先輩からお聞きした話によると、吉田さんは、朝鮮戦争勃発前後マッカーサー元帥に対して憲法を改正しようと申し入れた。ところがマッカーサー元帥は、自分はもう近くやめて帰るから、後任者リッジウェー大将が来るからその人に相談したらいい、そう言った由です。リッジウェー大将に今度また吉田さんがこの話をしたら、もう占領も終結されるから終結した後でやった方が適当でしょう、そういうことを言われたという秘話をある政界の大先輩から、直接吉田さんから聞いた話として私は聞きました。ですから、吉田さんも晩年はいろいろなお考えがあったのではないかという気がしておるのです。しかし、そのことの真偽は御当人が亡くなっておりますからわかりません。しかし、そういうことも実は聞いております。それから、ただいまの宮澤さんのお説等につきましては、これも一つの御見識ではあると思いますけれども、自由民主党は立党の政策綱領におきまして自主憲法の制定ということを言い、それはいまでも持続されておるのでありまして、党員はそういう気持ちで党を形成しておる。ただ、時期とかやり方とか方法、内容、こういう問題については時代に合うように、国民のコンセンサスに合うように努力していこう、そういうことでもまた一致していると思っております。
#464
○東中委員 一つの見識だと思っていらっしゃるわけですね。それはそうとして、あなたは、私は改憲論者でありますということを言われて、同時に現行憲法の民主主義、平和主義、基本的人権尊重主義等は非常にすぐれた理念だ、今後もこれを堅持して、将来にわたってもわれわれはこれを護持していくべきであると考えておりますという答弁をされました。
それで、お伺いしたいのです。現行憲法の平和主義は将来にわたって護持すべきものだとおっしゃったのですが、現行憲法の平和主義というのは専守防衛、海外派兵はしない、徴兵制はできない、そして集団自衛権の行使は許されない、そういう内容を盛った平和主義であります、その平和主義は将来にわたって護持すべきものであると考えますというふうに言われているんだととっていいのかどうかということをお伺いしたいのであります。
#465
○中曽根内閣総理大臣 私は憲法の個々の条文、内容について具体的な所見の表明は避けさせていただきますと、そう申し上げまして、その原理については発言をしまして、いまのように基本的人権の尊重あるいは平和主義、民主主義、主権在民あるいは国際協調主義、こういうものは不抜の金字塔であって、これを消してはならない、この原則はあくまで護持すべきである、そういう原理原則については明確にこれを申し上げておるし、また自由民主党もその原理原則は守るべきであると言っておるのでございまして、私はそれで一貫してまいりたいと思っております。#466
○東中委員 現行憲法の平和主義、民主主義、これを将来にわたって堅持するということは言われたのですが、現行憲法は広い意味の平和主義とは言われてないのですよ。だから、私は聞いたのであって、しかし、あなたの言われておるのは、そうすると、条文じゃなくて現行憲法の平和主義、先ほど言ったような集団自衛権を行使しない、徴兵制はしない、海外派兵はしない、そういう現行憲法の平和主義は将来にわたって堅持するというふうにあなたが言われたのではないんだということなんですね。#467
○中曽根内閣総理大臣 いまの御指摘の中で、徴兵制度は現憲法にはなじまない、現憲法では認められていないのではないか、認めないというのは多数説である、そういう考えに立脚しております。それはやはり憲法に背反する原理、いまお言葉がありましたから、そういう点は明確にしておく必要があると思って申し上げたのです。#468
○東中委員 ちょっとその言われている趣旨がよくわからないのですが、あなたは現行憲法の平和主義というふうに言われておるから、その平和主義というのは私が先ほど言ったような内容を盛ったのが現行憲法の平和主義だ、日本国憲法の平和主義というものはそういうものなんだというふうに、これは通説的ですよ、法制局長官、首を縦に振られましたけれども、そういうものでしょう。それを将来も堅持するという意味なのか、そうじゃなくて、一般に平和主義を堅持するということであって、集団自衛権を行使することを禁止する、そういう平和主義まで言っているんではないんだということなんですかということをお伺いしているのですから。#469
○中曽根内閣総理大臣 現行憲法に盛られておる平和主義、現行憲法に盛られておる民主主義、現行憲法に盛られておる主権在民あるいは国際協調主義、そういうようなことは、こういう原理についてはあくまで護持すべきものである、そう申し上げておるわけです。#470
○東中委員 ということは、現行憲法の平和主義と言われておったのですから、いまは現行憲法に盛られている平和主義と、これは意味がごろっと変わりますね。(中曽根内閣総理大臣「変わらない」と呼ぶ)同じだったら、現行憲法の平和主義は、法制局長官にお伺いしましょう、集団自衛権を行使しない、専守防衛でなければいけない、海外派兵はできない、そういう平和主義、これが現行憲法の平和主義ではないのですか。#471
○角田(禮)政府委員 現行憲法の解釈としては、いま御指摘のようなことが私どもの解釈でございますけれども、どうも御質問の趣旨がよくわかりませんので……。現行憲法の平和主義――要するに、わかりません。#472
○東中委員 現行憲法の平和主義は解釈としてはそういうものでありますとあなたが言ったのだから、そういう解釈の平和主義を将来も堅持するということを中曽根総理は言われておるのか、そうではなくて一般に平和主義ということを言っているのであって、そこまでのことは言うてないんだということなのかということを聞いているわけですから……。#473
○角田(禮)政府委員 私は現行憲法の平和主義の解釈をしたのじゃなくて、現行憲法の各条文の解釈としては集団的自衛権は行使できないとか徴兵制は実施できないとか、そういうことを申し上げたわけです。次に、現行憲法の平和主義というものは、これは現行憲法全体についての理念的なものとしてとらえるべきで、現行憲法の平和主義の解釈というのがどうしても私には意味がわからないので、わからないと申し上げたわけです。
#474
○東中委員 それでは、現行憲法の平和主義は将来にわたって護持するというふうに言われたけれども、その中には専守防衛、海外派兵許さず、集団自衛権を行使できない、そういう憲法の制度を護持するという意味までは含んでいないのか、それも含んでおるのか、その点だけ答えていただきたい。#475
○中曽根内閣総理大臣 前から申し上げますように、個々の条文の解釈等については私は申し上げませんと前から申し上げているとおりでございます。しかし、現行憲法に盛られておる現行憲法の平和主義というものはあくまで堅持すべきである、そういうふうに重ねて申し上げておきます。
また、憲法の解釈論として、いま法制局長官が申し上げましたように、集団的自衛権とかあるいは海外派兵を行わないとか、そういうようなことは憲法の解釈論としていま法制局長官が申し上げたとおりであります。
#476
○東中委員 あなたが将来にわたって護持すると言うことの中には、私の言う日本国憲法の平和主義の内容は含まれていないという趣旨のようにお伺いをしました。と同時に、もう一点だけ聞きたいのですが、現行憲法の民主主義ということも言われているのです。ところがあなたは、先ほど言った青雲塾の綱領的文書によると、「我等はアジア的民主主義を建設する。」ということを宣言されているわけですね。それがいまよみがえらされているわけです。アジア的民主主義と現行憲法の民主主義とは、これは条文の問題じゃなしに主義の問題ですから、同じなんですか、違うのですか。
#477
○中曽根内閣総理大臣 アジア的民主主義というのも一つの理念を申したと思います。つまり、日本固有の日本の水に合った民主主義、西欧の民主主義をそのままうのみにして植えつけたものではない。よくそのころの話でイギリスのバラが非常にいいにおいがすると言っているけれども、日本に持ってきて植えれば色香もうせ、においもうせてしまう、やはり水に合ったものでなければ長続きしない、そういう話をよくいたしました。そういう意味で申し上げておる。われわれはアジア人としてアジアの心情、アジアの文化、アジアの国民としてのさまざまな諸条件、そういうものに立脚した民主主義をつくっていこう……(東中委員「憲法の民主主義とは違うのですか、一緒なんですか」と呼ぶ)いま日本国にある民主主義も、実践されている過程においては日本的民主主義にもなり、アジア的民主主義的性格を持っているのではないかと思います。
#478
○東中委員 いまのは明らかにちょっと詭弁ですね。主義というのですからね。民主主義一般じゃなくて、日本国憲法の民主主義は護持すると一方で言われておって、一方ではアジア的民主主義を建設する、そしたらアジア的民主主義と現行憲法の民主主義とは一緒なのか違うのかというようにお聞きしたら――一緒だったら何もアジア的とつける必要はないわけですから、そういう点だけ指摘をしておきたいと思います。いずれにしましても、私は、こういう形での憲法改憲論者であるというふうに言われることによって、実際上憲法改正論議をやるのだということで、中曽根内閣が、私たちから言えば憲法改悪の準備内閣になっていくことを、このことを、私たちの考え方として強くそういうことに対しては反対をしていきたいということを申し上げておきたいと思います。
次の問題に入ります。
武器輸出供与の問題に関連しまして、国会決議が非常に問題になっております。私は、あの国会決議を議運で論議するときの当事者の一人でもありますし、同時にまた提案者の一人でもあります。その点で、国会決議がなされまして、決議の前文がいまやどこかへおっぽり出されて変な議論がされているように思いますので申し上げておきたいのですが、「わが国は、日本国憲法の理念である平和国家としての立場をふまえ、」憲法の平和的立場を踏まえて、それから「武器輸出三原側並びに昭和五十一年政府統一方針に基づいて、武器輸出について慎重に対処してきたところである。」主語は「わが国は、」であります。政府ではなくて「わが国は、」であります。それが第一項であります。
それから第二項は、「しかるに、近時右方針に反した事例を生じたことは遺憾である。」国会の意思として、右の方針に反していることが起こっているのは遺憾であるとはっきり言っているわけであります。
その上で二点を言っています。「よって政府は、武器輸出について、厳正かつ慎重な態度をもって対処する」べきである。同時に「制度上の改善を含め実効ある措置を講ずべきである。」この二項目を言っておるわけですね。
それで、これが提案されて、当時の通産大臣は、「政府といたしましては、ただいま採択されました御決議の趣旨を体し、今後努力をしてまいる所存であります。」こうなっているのです。
そこで、通産大臣にまずお伺いしたいのですが、「制度上の改善を含め実効ある措置を講ずべきである。」制度上の改善はどういうことをされて、実効ある措置はどういうふうにとられたのか。
#479
○福川政府委員 先ほどの御決議に従いまして、まず私どもといたしましては審査体制の強化ということをいたした次第でございます。そのために輸出の審査に係ります通商産業省令を改正をいたしまして輸出承認の申請書の様式に改善を加えまして、武器等と紛らわしい貨物に対します通関の審査を的確に容易ならしめるような考え方を導入する立場から、輸出承認の不要証明制度ということも改善をいたした次第でございます。さらに、大蔵省におかれましては関税審査の充実を図るということから輸出申告書の様式の改善ということもいたした次第でございます。そのほか、連絡指導体制を強化をするということで、審査業務に従事いたします職員の一層の資質の向上を図る、内部体制の強化を図るというようなこともいたしております。さらに、内部に武器輸出管理官というようなものを置きまして、また税関には武器専門官を置く、こういうようなことをいたしてございます。さらに、業界に対しまして、こういった違反事例が生じたことを遺憾といたしまして、今後ともそういう武器輸出につきましてはその趣旨を体して慎重に対応するように業界にも指導をいたした次第でございます。
#480
○東中委員 この武器決議に至る前の段階での国会論議で、安保条約、地位協定に基づいて、地位協定の十二条で物がアメリカ軍、在日米軍を通じてどんどん出ていくというようなことになったら全くのしり抜けじゃないかということの論議がありまして、当時の安倍通産大臣が武器技術については、いまお話し申し上げたように、これは米軍を通じるという場合においては、米軍を通じて外へ出る、こういうときには外為上の許可を必要とする、チェックができる、こういうように答弁されているんですね。それは安保条約の効果的運用かどうか知りませんけれども、地位協定で出していこうとしても、それは武器技術についてチェックをするんですということを言われているのです。それはきちっとチェックをしているのですか、していないのですか。体制を強化したというなら、実効ある措置をとったんですか、とらなかったんですか。
#481
○福川政府委員 御指摘の地位協定に関しますことにつきましては、現行の外国為替管理令によりますと、在日米軍につきましても許可を要するということになっておりますが、現実に現在までのところそういった事例が生じておりませんので、在日米軍に技術の供与というようなことで審査をするという事態には立ち至っておりません。#482
○東中委員 現実にやっていないけれども、チェックをする体制をとってきたら、当然そう言うはずであります。そういうことを前提にしておきまして、これは安保条約絡みですがね。それでやはりこの武器輸出三原則でチェックをするということをはっきり言うていたわけであります。
それで、この決議についてお聞きするんですが、中曽根総理は二月四日の矢野議員の質問に答えられまして、国会決議に違反しておらぬというふうに言われるならその理由を示してほしいということを矢野さんから何の前提もなしにお聞きになった。それに対して中曽根さんの答えはこうなっておるんですね。「一つは、この国会決議ができる過程におきまして社会党さんの方から案が出てまいりました。あの案の表題が、まず、武器輸出禁止に関するという「禁止」という言葉があったのです。それは最終的には自民党の反対がありまして武器輸出に関するというふうに変わった。それから、社会党さんの案では、政府の三原則をそのまま案文の中で確認する、そういう点があったのを、今度の最終的にまとまった案は、自民党の反対によりまして、ある歴史的な経過規定を述べておる、経過を述べておるということで、ストレートに三原則を載せて禁止しているということはないわけであります。」こういうふうに言われて、「その文章もたしか慎重にかつ厳粛に対処する、そう書いてあるのでありまして、われわれの解釈におきましては、慎重に厳粛に対処し」て今度政策変更したんだ、だから国会決議に反しないんだ、こういう答弁をされたんですが、それはそのまま維持されるわけでしょうね。
#483
○中曽根内閣総理大臣 この国会決議ができる経緯並びにこの国会決議に対する解釈、それから政府が、いま貿易局長が申されましたように、とった諸般の対策等々総合的に考えまして、そのように判断をしたわけでございます。#484
○東中委員 そのことで挙げられている三点というのは、これは全部全くのインチキだということを私は申し上げたい。まず第一に、経過、過程を言われておりますけれども、経過、過程は、社会党案が出て、それで反対してというようなものじゃないのです。この決議案を提案したときは、提案者の山下元利さん、当時の議運の委員長が議長裁定に基づきと言っております。各党が協議をして、そして六党全部で提案するのでありますとはっきり言っております。
議長裁定はそれじゃどう書いてあったのかと言えば、議長裁定は、議長裁定の第四項、五十六年の三月六日ですが、「武器輸出禁止法の問題については、さきの予算委員長の発言に沿って、国会の意思を確定し、引き続き各党間で協議して、今国会終了までに結論を出す。」この「予算委員長の発言に沿って、国会の意思を確定し、」ということを言われて、これは自民党も含めて全部この点は受けたわけでしょう。
それで、予算委員長の発言は一体どうなっているのかと言えば、これはきわめてはっきりしているのです。理事会の協議に基づき、武器輸出に関する問題について委員長より所見を申し上げます。武器輸出三原則及び政府統一方針を貫徹するという御質問の趣旨を踏まえ、政府は制度上の改善をするとともに、なお新たな実効ある措置をとるべきである。三原則と政府方針を貫徹するそのために輸出禁止法をつくれという要求があったのだけれども、それを輸出禁止法と言わないで「制度上の改善」、こうなっている、だから、それを受けて論議をしたわけです。自民党が出してきたそのときの案というのは、中曽根さんがこの間言われ、先ほど私が読んだと同じような案を出してきたのです。これは三月の十七日に出してきましたけれども、「政府は平和国家としてのわが国の立場を踏まえ、武器の輸出については慎重に扱うべきである。」これだけだったのです。
それで、いままでの経過から言っても全く違う。ほかの党はみんな案を出していた。そういう中で、さすがに自民党はこれを出したけれども、直ちに撤回をして文書を回収したのですよ。回収する前に私は写したのですよ、その場で。そこへいま持っていっているんでしょう。決議はそうじゃないじゃないですか。はっきりと、先ほど言ったように、三原則及び政府方針に基づいてわが国は処置してきたものである、それに違反をしたんだ、だからけしからぬ。今後は厳正にやれ。この論理はきわめて明快ですよ。中曽根さんの言うように慎重かつ厳粛になんというのは、厳粛というのは慎重というのと一緒で心情、態度の問題でしょう。厳正というのは基準があって、それに対して厳正に適応する、ルーズにしたらいかぬ、こういうてやっておるものをこう変えたのではまるっきり違う。余りにも詭弁に過ぎるんじゃないですか。その点はどうでしょう。
#485
○中曽根内閣総理大臣 各党樽俎折衝の結果、ああいう案文にまとまって一致して行った、そう聞いております。樽俎折衝の過程等につきましては、安倍外務大臣が当時政調会長で関係していたと思いますので、外務大臣からも御説明願うことにいたします。#486
○東中委員 政調会長の問題じゃなくて、私が言っているのは、国会の会議録に載っておることについて言っているのですよ。(中曽根内閣総理大臣「自民党側のいろいろな立場、経緯を知っている」と呼ぶ)自民党がどうであろうと、この提案のときに提案理由で、本決議案の提出に当たりましては、去る三月六日の議長裁定の趣旨に沿って議運委員会の理事各位の間で鋭意協議を重ね、そして共同提案したんだ、だから、もう議長裁定だ、各党の問題だけじゃないですよ。議長裁定で枠があるんですよ。それをのんだでしょう。その議長裁定の中身は何かといったら「予算委員長の発言に沿って、」と書いてある。だから、当然この三原則、政府方針を守れ――守れということは、国はそういう態度をとってきたということを決議の中で確認をして、近時この方針に反するものが出てくるから遺憾だというのだから、国会の態度はきわめてはっきりしているじゃないか。そして、今度は厳正にやれと言っているのに厳粛、慎重にやったと言って、あなたは厳粛という言葉を二回も使っておられるんですよ。厳正という言葉は一つも使ってない。矢野さんは厳正にと言っているけれども、あなたは厳粛にと言うのです。全然意味が違うじゃないですか。そういう点では、これは詭弁を弄して国会決議をじゅうりんしてくる。厳正に適用するどころか、よらないとするというのですから、これはもう言語道断だと思うのです。総理、これは後へ残ることですからね。余りにも筋の通らないことを一国の総理大臣が言われたのでは、これはおかしいんじゃないですか。その点、どうでしょう。
#487
○安倍国務大臣 私の名前が出ましたからちょっと申し上げますが、当時の武器輸出に関する決議案をつくるとき、私が政調会長をいたしておりまして、副会長の加藤国土庁長官が党の責任者として樽俎折衝に当たったわけであります。それで時間がかかりまして、最終的にいまの決議案に六党合意で決定をしたわけでありますが、その間の過程のいろいろの経過説明を受けた中で、野党からいわゆる武器輸出三原則をそのまま国会の決議としろ、こういう強い要請が出たけれども、自民党としていろいろと検討もいたしましたが、それはできない。安保条約との関連もある。だから、そういうことは、それをそのまま決議案とすることはできない。運営について厳正になお慎重にこれを行うべきである。こういうことで、堀田ハガネに関して起こった決議案でございますが、厳正に慎重に行うということで、これを最終的に自民党も同意をして決めたわけでございます。ですから、その過程におきましては、武器輸出禁止三原則をそのまま国会の決議にしろ、こういう要請があったことに対して自民党でいろいろと議論があって、そこまでは自民党としてこれに応ずることができない、こういうような経過があって決定をしたわけであります。
#488
○東中委員 全然すりかえなんですよ。初めは、だから議長裁定にも出ていますよ。「武器輸出禁止法の問題については、」ということから入るんですよ。だから、武器輸出禁止法をこの際つくれ、貿管令と外為だけじゃだめだということが問題になって、社会党も武器輸出禁止法の案を出されたんですよ。わが党も出しました。公明党も出された。民社党は何か要綱のようなものを出された。私も直接やったからよく知っているんですよ。こういう中で加藤さんが、この禁止法はあかんのや、法はあかんのやということに力点があったんです。だから、禁止法じゃなくて、国会の意思を確定するということで、そして制度上の措置をとっていく、実効ある措置をとる、こういうことになった。その大前提には、武器輸出三原則と政府基本方針を貫徹するためと言って、予算委員長がここで言うたじゃないですか。ずいぶんもめて、ずいぶん論議をして、それで、そういうことで審議が進んだ、こういう経過でしたね。そういうものを無視して、国会の中で論議をして、そして積み上げてきてできた決議でしょう。その決議の案文を、第一に書いてある、わが国はこういう方針できたものであるということを国会決議に書いてあるのは、それは単なる経過だ、こんなことを総理、言われておったのでは、国会決議を何と思っているのかと言いたくなるんです。絶対にそういうことでは許されない。近時この方針に反した事例を生じたことは遺憾であると言っているのに、反するも何も、外してしまうという決定を政府がやっているんでしょう。こんなむちゃなことがありますかな。余りにもひどいことだから、違反でないような感じがするとしたら、それはヒトラーの論理ですよ。うんと大きくうそを言ったら、一般の人はそうかいなと思ってしまうというこの論理になってきますよ。私はこれは絶対に許せぬ。だって、鈴木内閣のときは、これがあるからだめなんだということを言ってきたんでしょう。それを、なぜことしの一月になって訪米を前にしたらくるっと変わるんですか。これは許されないと思うのです。
総理、これは後世の人が見て笑われないように、そんなへ理屈が日本の国会で通るんだ、詭弁が通るんだ、そんなことのないようにはしたい。事は憲法上の問題であり、国会決議の問題であり、そういう問題でありますから、はっきりとしていただきたい。
#489
○中曽根内閣総理大臣 やはり、趣旨を踏まえて、いま政府がとろうとしている態度も、安保条約の適用に関する部分を考えてやっておる。安保条約の問題は、その当時から歴代の政府及び政府委員が答弁をしておりますときに、安保条約の問題については検討を要しますと、留保してきておるのです。それは歴代の、速記録に載っておると思います。そこで、自民党といたしましても、その点は十分考えてこの決議をおつくりした、参加した、そういうことであると私は聞いておるのでございまして、特に国連憲章とかあるいは平和目的というようなことは安保条約にも明記しておるし、その精神で行う、そういうことであります。そして、アメリカの安保条約関係のみに限ってそれを行うというふうに限定的にやっておるのでございまして、御了承いただきたいと思うのでございます。#490
○東中委員 アメリカで言うてしまったことだから、いまさら撤回できないんだという理屈がありますけれども、これはとんでもないことだと思うのですね。条約を調印してきて国会で批准しなかったら、これは発効しないんですよ。アメリカでどう言うてこられようと、国会決議に反していないと思って言うてとられたんだったら、現実に反しておるんだから、そうしたら効力は発生しない。効力が発生しないことをはっきりさせるために撤回という行動をとりなさい。これが私たちの要求であります。その点はどうでしょう。本当に謙虚に考えていただきたいと思います。国会を尊重するというなら、国会決議を尊重するというならそうしていただきたい。#491
○中曽根内閣総理大臣 国会決議の精神、趣旨をよく踏まえまして、そして安保条約との調整を図った、そういう点でぜひとも御了承いただきたいと思っているわけでございます。#492
○東中委員 どうしてもそれは承服できません。そのことだけはっきり申し上げておきます。次の問題に移りますが、中曽根総理の例のワシントン・ポストでの発言の問題であります。
わが国の防衛についての三つの目標ということを言われた。それは国会においては防衛の基本方針だとも言われました。内容はもう改めて繰り返しませんが、日本列島全体が巨大な防壁となり、バックファイアの侵入を阻止する、いろいろありますけれども、そういうバックファイア侵入阻止作戦方針ですか。それからもう一つは、四海峡を完全かつ全面的に管理し、ソ連の潜水艦の通航やその他の海軍の通航を許さない。これは三海峡封鎖作戦方針ですかね。それから、海上艦艇の輸送路を確保して維持する、そのためにシーレーンをつくる。これは三作戦目標だというてもいい性質のものだと思うのです。
防衛庁は、その点については防衛白書ではっきりと「基本的な作戦」という項目を設けて三つの場合を書いています。この三つの場合は、着上陸侵攻に対する対処方針、それから海上または航空戦力によるわが国の産業基盤等の攻撃に対する対処作戦方針、それから海上または航空戦力をもってする海上交通の妨害に対する対処方針。全然これとは違うのですね。しかも、それは防衛の基本方針だと言われている。第三項だけはどっちも似ている面があるわけです。しかし、バックファイア阻止作戦基本方針なんというようなものはどこにもないわけですよ。それからもう一つは、四海峡封鎖ということを言われましたけれども、これは第三の、海上交通の安全を確保する作戦の中の港湾、海峡防衛という形で入っているだけなんですね。これは防衛庁の基本方針です。あなたが言われた三目標、三基本方針というのは、だからまるっきり違うわけです。
しかも、それは個人的な見解だがということだったので、ワシントン・ポストの側は、あなたはそういうことを述べたが、あなたの政府がこれを日本の防衛体制の任務として受け入れると考えているのか。だから、個人的見解だけれども日本政府の方針として受け入れると考えているのか、受け入れるというのはアメリカの要求を受け入れるという意味も含まれているように見えますけれども、そういうふうに聞いたのに対して、あなたは、いままでの政府ははっきりせんかった、わが内閣は、わが政権はきわめて明快である、こう言ったのです。あなたは、個人的見解だけれどもそれは中曽根内閣の明快な方針なんだ、こう言ったわけですね。
それならいま防衛庁の方針と違うわけですから、これを修正するとか何とかということをやっているのかやっていないのか、まず防衛庁長官に伺いましょう。何か言われましたか。
#493
○谷川国務大臣 わが国といたしまして現在進めておりまするわが国防衛のための必要最小限度の自衛力の整備の一環としましては、すでに御存じのように、特に有効な防衛能力を増強しようとか、あるいは海峡防備能力を含める海上防衛力の整備を進めるとか、こういうふうに考えてまいってきておりまして、その意味におきましては、先ほど来総理が御発言になっていることが、何かいままでわが国がやってまいりました防衛力整備の基本原則と違っておるような御発言がございましたが、私どもはさようには理解はいたしておりません。#494
○東中委員 総理、どうですか。着上陸に対する対処、それから海上または航空からの産業基盤もしくは防衛施設等に対する攻撃があった場合の作戦の基本方針、それから海上輸送確保のための基本方針、これが防衛庁の方針である。あなたの言われたのはそういうかっこうでは出ていない。だから、あなたがこれが防衛の基本方針だというふうに言われた以上は、それは単なる個人的な見解にしかすぎないのだというわけにはいかぬのじゃないかと思って聞いているわけです。#495
○中曽根内閣総理大臣 私は防衛庁が考えている防衛の方針と大差ない、要するに含まれている、そういうふうに考えておるのです。たとえば、着上陸阻止といえば何といったって防空が主でありまして、それはもし日本に武力攻撃が発生した場合にはいかなる国の航空機も侵略するものは認めない、着上陸阻止のまず最初の要諦で、これは海軍にいた東中さん、すぐおわかりになるだろうと思います。やはり空をコントロールする力がなければすぐ着上陸を許してしまうだろうと思います。そういう意味において防空というものは非常に大事である。それから日本の、最後にありました輸送路と申しますか、生活物資の流入を確保していく、そういうことも非常に大事なファクターでございますし、それから海峡の問題も同じように、もし本土が攻撃された、本土と申しますか日本列島が攻撃された、そういう場合には海峡をコントロールするということは非常に重要な作戦になってくると私らは考えております。
そういう意味において、日本の防衛の中身の中の私が大事だと思った数点を拾い上げて申し上げたのだ、そういうふうに御理解いただきたいと思います。
〔委員長退席、村田委員長代理着席〕
#496
○東中委員 三つの防衛の目標、それは防衛の基本方針である。その三つはいずれもアメリカ側から要求してきたものばかりをあなたは全面的に受け入れるように言われた。ここに問題があるのであって、向こうはそういうふうにとっていますからね。それをあなたの方は、今度は、大して差はないのだ、こうおっしゃった。大して差はないと言うて、やはり差は少しはあるのですね。そういう点で、対外的に言うたことについての責任をやはり持たなければいかぬと思うのですが。不沈空母の問題ですが、あなたは日本列島不沈空母、これは比喩である、形容詞である、こういうふうに言われたのですけれども、あなたはいままで日本の防衛について比喩的に何回も言うてこられていますね。一九七〇年の三月五日に、防衛庁長官のときでありますが、外国特派員クラブであなたが講演をされて、その後質問があった。それについて、日本の防衛政策の原則は、比喩的に言えば長い耳を持ったウサギとハリネズミである、こういうふうに言いましたね。これは拓大総長としての講演集を見ても同じようなことを言われている。あちこちで言われているのが印刷に残っています。これは日本の防衛政策の原則だと言って、ずっと言われてきたわけです。ウサギというのは攻撃的な動物ではない。だから、長い耳を持っておって情報をキャッチして逃げる。こういうウサギと、それからハリネズミは、攻撃的なものではなくて、攻撃をされたときにはそれこそ毛を針にして守る。こういう攻撃的でないということの比喩なんですね。だから、それだったらあなたの言われるように、自分の国は自分で守る専守防衛、その比喩には一応当たっているのです。
ところが、今度は航空母艦だと言うのでしょう。航空母艦というのは、前線展開をして、一番戦闘力を発揮する攻撃的な機動部隊の中核ではないですか。その航空母艦に日本列島全体をたとえたわけですから、これは質的に全然違うのです。だから、比喩だ、形容詞だから何でもいいんだということにならないので、比喩した内容が非常に問題になっておるので、ハリネズミと航空母艦は一緒ですか。そういう発言というのは、これは不沈空母だと言うから、だからソビエトも攻撃する、東南アジアは恐怖さえ感ずるということを言っている。国内だってえらい問題になっている。
これはなぜそういうふうにわざわざ不沈空母、航空母艦というものを比喩に出してきたのですか。
#497
○中曽根内閣総理大臣 比喩であり、形容詞であるというふうに御理解をいただきたいと思うのです。つまり、日本の列島自体というものは、外国の飛行機に対しましては、もし武力攻撃があった場合には侵略、侵入を許さない、そういう意味において、戦闘機が直衛をして、そして外国機の侵入があるのを防いでいる、そういうような印象が私にはありまして、そういう列島全体の上に直衛の戦闘機隊を持っておって、入ってくる外国の飛行機を侵略の際には排除する、あるいはナイキとかホークとか、そういうミサイル群を持つておりまして入ってくるものを排除する、そういうようなイメージが、私、昔海軍におった関係でありまして、そこで防空という意味においてそういう名前が出たのであって、全く比喩であるように御理解いただきたいと思うのです。〔村田委員長代理退席、委員長着席〕
#498
○東中委員 比喩であることはわかっておるのですよ。比喩であって、その比喩は、いままでハリネズミだったのが、事もあろうに何で航空母艦になったのかということを聞いているのですよ。それを聞いているときに比喩だから了解してくれ、こんなものが通りますか。これは理屈にならぬですよ。なぜ航空母艦が出てきたか。それなら、あなたはいま、私は昔海軍におったからと言うが、それは海軍主計大尉だそうですけれども、私も海軍におりましたが、その海軍で言うた不沈空母論というものは一体どういうものだったのか。それをあなたは知っているでしょう。あの日本が初めてアメリカの空襲を受けた、そういう状態の中で、ミッドウェー海戦で日本の空母が相当損失をこうむった、そういう中で昭和十八年の九月三十日、大本営・政府連絡会議、御前会議を開いて、「今後執るべき戦争指導の大綱」というのを決めた。そして、作戦要領を決めた。そこで、あの千島から小笠原から、いわゆる昔の内南洋諸島、それぞれの島を不沈空母のようにするということで、それは国防圏、絶対国防圏ということで、そこで四万機の航空機生産を決めますよ、そういう線で出発したのでしょう。その結果はどうなったのかというたら、サイパンの玉砕でしょう。硫黄島の玉砕でしょう。
だから、ここに「大本営機密日誌」、種村佐孝さんと言うのですか、何か参謀本部におった大佐だそうですけれども、この人が、サイパンが逆襲されてひどい目に遭っているところでこう言っていますよ。昭和十九年六月二十日の項ですが、「開戦前からわが統帥部が堅持していた不沈母艦の思想は根底から覆えされた。われわれの考えた絶対国防圏の思想は、遂にこの時をもって瓦解せざるを得なくなったのである。」こう言っているのですね。これは絶対国防圏ということでそこを不沈空母にするんだ、本土へ来させないためだ、こういうわけです。それは瓦解をして全滅をした。
今度は、中曽根さんの言われているのは日本列島を不沈空母にするのですよ。では、どこを守るのですか。だって、空母というのはもともと最前線で戦う戦術ユニットなんだから。ところが、どこを守るのかというたら、アメリカを守ることでしかないじゃないですか。あなたは海軍におったから使うたんだと言う。海軍で使うた不沈空母というのはそういう意味を持っておるのだということをあなたは知らぬでやっておったのだったら、それは海軍におったからというようなことは言わぬでおいてほしいですね。知っておってやったんだったら、これはいよいよもって問題じゃないですか。どうですか。
#499
○中曽根内閣総理大臣 もし侵略、外国からの武力攻撃があった場合に、日本の北海道から沖縄に至るまで外国機の侵入を許さない、排除する、そういう頭がありまして、そういう意味においては日本列島が航空母艦、不沈空母みたいに、これは動きません、島ですから。ただし、北の方には北海道に航空隊があります。それから沖縄にもありますし、その途中におきましても三沢であるとか新田原であるとか築城であるとか小松であるとか、みんな航空自衛隊が展開しておる。そして、外国機がもし万一侵入しようという有事の際に、そういう場合にはみんな舞い立って、そして外国機の侵入を許さない。また、ナイキあるいはそのほかのミサイルも有効に機能して、いま外国の飛行機が日本へ接近してきたときでも年間に約三百何十回スクランブルをやっている。これは領空侵犯を認めないために予防措置としてスクランブルをやっているわけでありまして、そういう日常の自衛隊の苦労等も頭に浮かべておって、そして、それらの日本の航空部隊あるいはミサイル群がいざというときに外国機の侵入を許さない、そういう意味のイメージを持っておって言った次第なのでございます。#500
○東中委員 あなたがどういうイメージを持っておられたかは、それはほかの者は知る由もないですけれども、あなたの言われたことから受けるイメージは、あなたがいま言われているようなものとは全く違うということだけははっきり言えますよ。だって、普通に使っている不沈空母というのは、太平洋戦争に使った言葉として言えばさっき言ったような意味ですし、それから沈まない、なるほど日本列島は沈まないから、それを沈まない航空母艦と言うたら、航空母艦というのは第一線で戦う最も攻撃的な機動部隊の中核じゃないですか。それを持ってきておいて、それで来たら守るんだ、そんなことを思っておったんですと言うて、それで結構というわけにはいかぬじゃないですか。それだったら、ここで取り消したらどうですか。あれは不沈空母と言うたけれども、実はネズミの間違いでしたと言うて取り消したらどうですか。まさか総理大臣があの首脳会議に行って、向こうでやって、そういったことを思いつきで言うたんで後で取り消しましたとは言えないでしょうが。それじゃ、取り消しますか。#501
○中曽根内閣総理大臣 その話の中にも、われわれは盾の役割りをし、また米軍はやりの役割りをする、攻撃的性格は米軍だけれども、われわれは防御的性格だ、そういうことも言っておりまして……(東中委員「ここにはないんだよ」と呼ぶ)言っておるのです、それは。その中で不沈空母ということも使っておるのです。その意味は、いま申し上げましたように、北海道の千歳から、あるいは新田原、築城、小松あるいは沖縄に至るまで航空隊やらあるいはナイキ群を持っておって、武力攻撃があって外国機がもし万一侵入するというときには、入るのを許さない、それが日本の防空であり、防衛の一番大事な一つであると、そういう意味でこれは申し上げたのでありまして、御理解を願いたいと思うのです。#502
○東中委員 何びとも理解することはできない。だって、不沈空母なんというような概念は、だれが考えたって私が言うているような概念でしかないわけですから。それで、もう一つ聞いておきますが、バックファイアのいわゆる侵入問題というのは、これは昨年の二月三日付の「WING」で、ドネリー中将が在日米軍司令官として赴任して最初のインタビューでこういうことを言っているのですよ。「バックファイアの攻撃については、六機程度の攻撃ならF15で十分防御できる確信を持っている。ただし、これが一度に五十機ということになると迎撃から洩れがでてくる可能性がある。F15の性能は十分信頼できるが、保有する数にもよる。また自衛隊は装備の近代化にさらに力を注ぐべきである。」その後「バックファイアはグアム島まで飛来するし、水平線の向うまで攻撃できる能力を持っている。日本は空母の建造、保有をすることが望ましい」、こう言っているのです。まだあと続きますけれども。バックファイアを、グアム島まで来る能力を持っておるのだから、日本のところでとめてくれと、こう言っているわけです。ところが、六機ぐらいならいけるけれども、五十機というのはちょっと無理だろう、日本はどうやる、空母を持つのが望ましいと、こう言っているのです。
あなたは、空母を持てないから日本列島を航空母艦にします、こういう筋になっていくじゃないですか。そうとしか考えられません。日本はいわゆる攻撃型航空母艦は憲法上持てるのですか、持てないのですか。
#503
○中曽根内閣総理大臣 持てないと理解しておりますが、やはり私が申し上げているのは、日本に対する侵入があった場合と、そういう武力攻撃と侵入という言葉をあのときは使っておるのでありまして、そういう意味で、バックファイアが寄ってきたという場合には、これはナイキでもやれますし、あるいは陸上基地から飛び立つF15とかファントムでも、侵入するという場合には戦えます。遠距離で、二、三百キロの向こうからミサイルを放たれて折り返されたら、それはなかなかむずかしい点がありますけれども、侵入ということを私は言っておるのでありまして、これはわが航空自衛隊やそのほかの諸部隊が全力をふるって撃攘しなければならない、だからこそ自衛隊があるのだ、そういうふうに考えておる次第です。#504
○東中委員 私の言うているのは、攻撃型航空母艦というのは、一九七〇年、あなたが防衛庁長官のときに出された初めての防衛白書の中で、憲法上の限界として「たとえば、B52のような長距離爆撃機、攻撃型航空母艦、ICBM等は保持することはできない。」というふうにはっきり書いているわけですね。(発言する者あり)だから、その見解を言われたのだと思うのですが、いま隣からいやそれは憲法上の制約じゃないんだなんというようなことを言われるから念のために申し上げておきますけれども、持てないから、だから日本を航空母艦にするじゃこれはどうにもならぬ。ここでドネリー中将が言うているのは、「日本は空母の建造、保有をすることが望ましいが、それに制約があれば、南へ伸びる離島の防衛力を検討すべきだ。例えば硫黄島の近代化装備が望ましい。同島は有事の際の非常に重要な拠点となる筈だ。」と、こう言っているのですね。だから、これはあくまでも、南へというのですからね、あなたの言う侵入から言ったって、グアムへ侵入してきよるから硫黄島でとめてくれと、こう言うているのですよ。だから、前の太平洋戦争における硫黄島は、日本本土へ米軍が反攻してくるのを硫黄島で絶対防衛圏ということで不沈空母ということを言うた。今度はグアムの方へ行きよるのを、硫黄島を近代化し、別の言葉で言えば空母を持てないのならそうせいというのだから、不沈空母にせいと、こう言っているのですよ。それに対してあなたは今度は日本列島全体を不沈空母にと、こう言われるから、これは文脈から言って、それはいろいろ弁解されますけれども、何で唐突に不沈空母なんてものが出てくるのか、常識から言ったら出てくるわけがないのが出てくるのは、こういう経緯があったからじゃないですか。どうなんです。
#505
○中曽根内閣総理大臣 アメリカの軍人さんがどういうことを言っているか知りませんが、日本は日本本位の立場に立って、憲法及び自衛隊法に従って防衛を全うしていく、それであります。#506
○東中委員 アメリカの軍人さんがとあなた簡単に言いますけれども、この人は在日米軍司令官ですよ。現に部隊を指揮している、そして日本におる五空の司令官であり、在日米軍司令官じゃないですか。それが言うておることを、一軍人が言うておるというようなことで済みませんよ。はっきりと、ハワイ会談なんかになったらこれは出てくるのでしょうが。そういう相手方の当事者でしょう。それが就任して最初に言うたこと、それにぴったりとあなたが合うておるのだから、そういう形でごまかすというのは、私はほんまにごまかしだと思いますね。これははっきりと米軍の意見であり、米軍の意見にさらに輪をかけてこたえるという発言をされたのが中曽根発言なんだということを言わざるを得ないと、こう申し上げておきたいと思います。もう時間が余りないので、次の問題に入ります。
海峡封鎖の問題ですけれども、その前に、情勢として、日本だけが孤立した形で攻撃されることはあり得ない、日本だけが攻撃され、単独で対処しなくてはならないような事態はあり得ない、日本へのソ連の限定攻撃は米ソ世界的対決の中でだけあり得る、米ソ戦の中でのみ日本が戦争に加わるということがあり得るのだという見解が、アメリカの議会で何回か証言されております。
それについて、参議院の本会議でわが党の宮本議長が代表質問でお伺いしたところ、総理は、世界じゅうでわが国のみが武力攻撃を受けるような事態が生じる可能性は少ない、わが国が攻撃を受けるような状況では世界の他の地域においても武力攻撃が発生しているだろう、こういう見方はアメリカで支配的であるというふうに答弁されました。アメリカでは支配的である。中曽根総理はどういうふうにお考えなんでしょうか。
#507
○中曽根内閣総理大臣 これは戦略としての、戦略論の中で、アメリカ側におきましては最近は同時多発的戦争ということが想定の中に大分入ってきている、そういうことを私は聞いておってそういうことを申し上げたと思います。日本の場合は、ともかく日本の憲法及び自衛隊法等に基づきまして、日本の列島防衛というものを中心に、一貫してそれに徹して考えておる、こういうことを申し上げる。どういう状況が起きてくるかということは、いまのところ予断を許しません。アメリカはアメリカでいろいろな情報をとって、偵察衛星まで使っていろいろやっておるのです。しかし、日本の場合にはわりあいに情報はアメリカに比べて不足でございますね。日本の列島防衛に全きを期す、そういう考えに立って努力しておるという次第でございます。
#508
○東中委員 いや、どういう努力をしているかということを聞いているのじゃないのですよ。それはようわかっている中曽根さんが、そういうすりかえをやるのは、やめたらどうですか。日本だけが攻撃を受けるというような可能性はきわめて少ない、もし日本が戦争に入るということがあれば、それは米ソ間の対決の中でのみあるんだという考え方をアメリカ側は支配的にしている、支配的だということをあなたは認められたんだから、そうしたら日本はどうなんだ、あなたの考えはどうなんだと言えば、そうは思うてないと言うか、そうと思うているか、どっちかしかないわけでしょう。どういう努力をしているかということは聞いてないわけですから。たとえば、日本だって制服の諸君は、たとえば左近允元統幕事務局長ですね、彼なんかははっきりと言うていますね、考えられないと。直接日本だけが攻撃を受けるというようなことは考えられぬ。どこかで戦争があって、米ソ戦があって、それが波及してくるというときにおいてのみあり得るのだということを言っていますよ。総理はそのことについてどう思うているかということを聞いているんですからね、真っ正面から答えてください。あなたは何だか奥歯に物が挟まったような逃げの答弁をされないで、きっちり言ってください。
#509
○中曽根内閣総理大臣 そういうことを専門的にやっているのは防衛庁でございますから、長官から答弁してもらいます。#510
○谷川国務大臣 ただいま御指摘になりましたことに答弁させていただく前に、一点だけ申し上げさせていただきたいと存じますが、あくまで私どもは抑止力の効果というもの、その信頼性を高めるということを一つ考えておるわけでございます。それから、第二点といたしまして、直接的な侵略ということは当然武力攻撃でございますが、これを阻止するためにはやはり日本の力だけではない、アメリカと日米安保体制の中でこれを守っていく、これが第二でございます。
そういう考え方で考えを進めておりますが、私は、あらゆる形の侵略、これに常に対処できなければならぬと思っておりますので、果たして日本だけに攻撃があり得るかどうかというのは、国際事情その他の態様から、いまにわかにここでは断じ切れない、こう考えております。
#511
○東中委員 中期業務見積もりをつくるにしても、防衛見積もりというのをやるでしょう。防衛見積もりをやるときに、どういうことで戦争が起こるか起こらないか、起こるとすればどういうことになるかというふうな見積もりをやるわけでしょう。それで、細かいことをいま言えといったって、それはそれこそ軍機だと言って言わないでしょうけれども、アメリカでしょっちゅう言うておる支配的な見解に日本は異論を持っておるのか、あるいは同じ考えなのかということについて聞いているのに、まるっきり違う返事しかしない。これはためにする答弁じゃないですか。答弁回避ですよ。アメリカでそういう考え方というのは支配的だと総理大臣が言うているんですよ。日本はどうなんだ。異論があるんだったら異論があると言えばいいじゃないですか。異論がないんだったら同感だと言えばいいじゃないですか。そのどっちかしかないじゃないですか。全然違うことをなぜ答えるんですか。防衛庁長官、どうです。#512
○谷川国務大臣 特に日米の直接的な現在の環境につきましては、事務当局から答弁をいたさせます。#513
○久野委員長 防衛庁新井参事官。#514
○東中委員 委員長、そんなことは聞いてないです。#515
○久野委員長 政府委員の答弁をいま許可いたしました。#516
○新井政府委員 お答えいたします。まず最初に、アメリカの判断でございますけれども、私が理解するアメリカの判断は、次のようでございます。
すなわち、ソ連の戦力がグローバルに展開している。他方、アメリカは四十以上の集団安全保障条約で結ばれて、これらの国を防御しなければならない。そういう意味でグローバルな対応を余儀なくされるということから、世界的な、一カ所で起きた戦争が波及する可能性というものを比較的大きく見ているということが言えると思います。
他方、防衛庁長官がいま日本についてお答えした見解については、私も同様でございます。
要するに、一点だけ申し上げれば、私は、単純に言えば、抑止力が破れたところでは武力攻撃があり得る、紛争があり得る。政界について、私、大変おこがましい比喩でございますけれども、一寸先はやみということが言われますけれども、国際情勢についてはまさにそのとおりであって、ちょうどたまたま去年のいまでろ、去年のいまころの時点でわれわれ、フォークランド紛争が発生するということは……(東中委員「質問してないことに答えるな」と呼ぶ)何びとも予期できなかったことだろうと思います。
#517
○東中委員 時間つぶしみたいなことをやめてください。政府が、アメリカでそういう見解が支配的である、それに対して日本は同じ考えであるのか、異論があるのかということについても答えない。だから、本音は一切言わないということじゃないですか。それなら、次のことを聞きます。ああいうのが日本を大変なところへ持っていくのですよ。さきの質問で、三海峡封鎖は、日本が攻撃を受けていないのにアメリカから一緒にやろうということの要請があっても、共同作戦の要請があっても、それは日本が武力攻撃を受けていない限りはノーと言うということを先ほど答弁されましたね。
それで私、お聞きしたいのですけれども、日本は共同でやろうということを言われてきたらノーと言うけれども、日本がノーと言うのでやむを得ずアメリカは単独でやるということを決めて、そして日本側にその了解を、同意を求めてきたという場合は、日本の主権にかかわる問題ですから必ず向こう側は聞いてくるだろう。いままでの答弁もそうですね。聞いてきた場合は日本は、日本有事でないときですよ、アメリカが単独でアメリカの自衛権の行使上必要なんだということで言うてきた場合に、日本はそれをノーと言うのか、イエスと言う場合もあるのか、その点はどうでしょう。
#518
○夏目政府委員 日本が有事でない場合に、アメリカがわが国の関連する海峡の通峡阻止についてアメリカみずからそういうことをやることがあるかどうか、そして、その場合どうなのか、こういう趣旨の御質問だと思いますが、わが国に隣接する三海峡というものはわが国の領海が含まれておりますし、そういう意味合いから、わが国の主権に非常に影響の大きい問題でございまして、そういうものを、たとえて一般的に言うならば、領海についてわが国の主権を侵害するような、そういうことをやるということは考えられない。公海部分につきましても、わが国と密接な関係のあるいわゆる国際海峡ということでございますので、わが国の了解なくアメリカが勝手にそういうことをするということは考えられない。いずれにせよ、日米安保体制ということでアメリカとわが国の関係を考えますと、アメリカがそういうことについて相談なく独自にやることも考えられませんし、そういう場合、わが国について言うならば、そういうことがもしあったにしてもお断りするだろうというふうに思っております。
#519
○東中委員 アメリカの単独作戦であっても日本はお断りするだろう、こう言うのですね。これは防衛局長はそれしか言えないですから、総理大臣どうでしょうか。非常に重要な問題ですから。(中曽根内閣総理大臣「防衛庁長官に」と呼ぶ)それなら防衛庁長官、どうです。断るとはっきり言うべきじゃないですか。
#520
○谷川国務大臣 先ほど私からも御答弁申し上げましたように、国際法上のたてまえ、それから、日米安保条約を締結いたしております日米両国の関係その他から、そういうことはあり得ないということを私は答弁をいたしました。私は防衛庁長官として答弁をいたしたわけでございます。なお、ただいま御質問のございました、そういう事態が生じたときにどう政府として対処するか、これは政府全体の事柄でございまして、私一人がここで答弁申し上げる問題ではない、こう考えております。
#521
○東中委員 この二月十七日の米国の下院軍事委員会の公聴会でワトキンズ海軍作戦部長が証言をした。その報道を検討しますと、米国の同盟国は、われわれが機雷封鎖をしたい海峡に存在している。その機雷封鎖をしたいところですね、海峡封鎖、日本がその顕著な例だ。日本の三海峡というのは、われわれが機雷を敷設し、海峡封鎖をしたい、そのところなんだ。それでわれわれは、米国の戦略は、同盟国のみずからの地域で機雷作戦のために責任を果たすように求めたい。これは日本には、日本が封鎖するように求めたい。これがわれわれの戦略だとアメリカは言っているわけです。特に日本は非常に重要なのだ、日本海に封じ込めるのだということは前から言っておるわけですから。日本が攻撃を受けていない段階じゃ断るというのですからね。そうしたら、非常にわれわれのやりたいところだからやりますということを言うてきたという場合に、それを、日本が攻撃を受けてなくても、断るか断らないかはそのときになってみなければ、政府として判断しなければわからないというのがいまの防衛庁長官の答弁でしたね、いま言えないと。そうしますと、その事態で日本が戦争に入ってないのに認めることもあり得るということじゃないですか。認めないというのじゃなしに、認めることもあり得るからこそ政府で決めるのだ。
それで、認めたらどうなりますか。日本は攻撃を受けてなくても、アメリカが公海なりあるいは日本の領海なり、とにかく封鎖に来る。結構ですと、それは言えませんよ。戦場になるじゃないですか。そうしたら、日本は必ず戦争に巻き込まれていく。巻き込まれるのじゃなしに、そこで日本が武力攻撃を受けたということで参戦していくということになるじゃないですか。いまなら防衛庁の方針としてそういうことは断じて承認できないということをなぜ言えないのですか。
#522
○谷川国務大臣 日本周辺の海峡において行動をいたそうといたすアメリカが、日本の周辺の海峡について特別に関心を持っておるということは、ただいま御指摘になりましたような一事例のみではございませんで、先ほども私、御報告さしていただきましたように、すでにアメリカの国防白書等でも明らかになってきておる問題でこぎいます。別にいま新しく、最近になってレーマン海軍長官の発言とかいうことで出てきた問題ではございません。それから、さらに申し上げますが、日本が武力攻撃を受けていない、日本有事でない場合に、アメリカがアメリカの自衛の行為から日本の周辺の海峡に対して何らかの実力行使をいたすというような場合に、日本に全然相談なしに何かそういうことをやるということは、それもあり得ないだろうということも答弁をいたしました。
それから、先に、もしアメリカがそういうことを日本に要請してきたときにどうするんだというような場合に、純条理的に申しましてそういうことはまずあり得ないだろうと思うということも御答弁いたしましたが、それが来た場合にどういうような答えをするのかということがございまして、これについては私は、私はノーだというふうに申し上げましたが、最終的には改めてお尋ねをいただきましたので、この手の問題につきましては一防衛庁長官が決定する問題ではないということを、改めていまここで御答弁を加えたわけでございますけれども、私は質問を受けまして、それは私はノー、こう申し上げました。
#523
○東中委員 総理大臣はどうでしょう。#524
○中曽根内閣総理大臣 まず第一に、日本に対する武力攻撃が発生していない、そういう場合に限定いたしますが、発生している場合はもう別です、発生していないという場合に当たっては、もし、そういうようなことを米軍がやろうとする場合には必ず日本の同意を求めてくるはずである、また求めてこなければならぬ、そう思っております。これを確保することが第一。それから第二番目は、もし、そういう事態が起きる場合に、日本はイエスかノーかという御質問でございますが、私は、日本に対する武力攻撃が発生していない、そういう場合には原則ノーだ、そういうことであると思います。ただし、そのときの情勢によりまして、日本に対する武力攻撃の発生が非常に緊迫性を持って出てきておるというふうに判断されるような場合とか、あるいは日本の船舶が国籍不明の船等によって非常に甚大な被害を受けてき始めているとか、そういう場合には考慮を要する場合もあり得る、それはそのときの状況による、そういうことであるだろうと思っております。
#525
○東中委員 非常に大変なことをおっしゃったと思うのです。日本は武力攻撃を受けていないけれども、日本の領海を含めて、たとえば対馬なら対馬海峡にアメリカが単独で行動を起こすことは、情勢によっては、緊迫した情勢であればそれを認めることもあり得るということをおっしゃったと思うのですが、それを認めることは、アメリカの戦闘行為によって日本は完全に戦場になる、日本は参戦を強要されるということになっていくわけで、これは非常に大変な問題だと思います。
それから、もう一つ聞いておきたいのですが、もう時間がありませんけれども、アメリカは航空母艦で日本海を第一線としてこれから演習すると言っていますね。日本海でアメリカが米ソ戦を仮に第一線としてやる場合があるわけですね。日本は戦争外です。日本有事でないときに日本海でやるというふうになった場合に、防衛識別圏というのはずいぶん広いですね。公海もずっと広くまでいっている。そういう中で、その中に入ってくる国籍不明機が――それはもう戦闘ですから、米ソ戦になったら国籍不明機ばかりですね、日本から見れば。そういうことで、この広い防衛識別圏の中、そこへ国籍不明機がおるからといって、八十四条による、たとえばF15によってスクランブルをかけるというふうなことをやるのかやらないのか。
領空侵犯措置だということで、いままではやっていますね。そういう緊迫した状態になった、日本は圏外だというときに、日本の自衛隊は、そらあらわれた、国籍不明機が来て、F15が二機編隊でぶうっとスクランブルをかけるというようなことをやるのかやらないのか。もし、やったとしたら、これは参戦行為になりますね。そういう事態になった場合は、それでは、平時と違うから、危険があるからやめますということになるのか、そこのところを聞いておきたい。
#526
○谷川国務大臣 どういう状況でどういうことをお考えになって御発言になっておいでになるかが、私ちょっとよくわかりませんが、この問題については、特にいろいろ制度上、法令上の問題もございますので、政府委員より答弁をいたさせます。#527
○夏目政府委員 なかなか考えにくい想定での御質問でございまして一概に申し上げられませんが、われわれは、対領空侵犯というのはあくまでも平時におけるいわゆる警察任務でございまして、このことと日本海での米ソ戦というものとは直接関係がございませんで、私どもが領空侵犯対処のために必要であればやるだろう。ただし、そのときの状況がどういうことなのか、いま先生の御指摘になったような事態というのは私の想像の域を絶していますので、なかなか簡単に申し上げるわけにはいかないと思います。#528
○東中委員 言うていることがわからぬと言われたのじゃ困るのでぬ。第一線だということをアメリカは言うておるわけでしょう。今度の新しい国防方針で、アメリカの戦略からいって日本海は米ソ戦の第一線だと言っているのですよ。だから、アメリカの空母を日本海で演習をさせるんだ、こう言っているのでしょう。だから、日本海が戦場になることがあり得るということをアメリカが言うておるわけです。そういう状態を想定して、必ずあるとは言ってないです。近くあるとも言ってない。あり得るから、そういう事態が起こった場合には、日本海といったら広いようですけれども、そのほとんどの部分が防衛識別圏の中へ入り得るから。ところが、いままでの、平時はスクランブルをかけるんだといま言った。ところが、日本は戦争に巻き込まれていないから平時でしょう。平時で、この防衛識別圏の中で戦争をやっておるときに、米ソ戦があるときに、日本はスクランブルをかけるのか、かけないのかと。いままでどおりやるというのだったら、かけるということになる。そのときになったらやめますというのだったら、それはまあそれで一つの方針でしょう。そこのところを聞いているのだから、私の言っていることがわからぬということはないじゃないですか。#529
○中曽根内閣総理大臣 非常にむずかしいケーススタディーの問題でございますが、日本の基本方針は、わが国が直接武力侵攻、侵略を受けてないという状態のもとにおいては、できるだけ戦争に巻き込まれないように注意する。それは、さっき申し上げた海峡の場合においてもあるいはスクランブルをかける場合においても、政府としては最大限に戦争に巻き込まれないように注意する、そういうことが基本原則であると思います。#530
○東中委員 時間ですから、終わります。#531
○久野委員長 これにて東中君の質疑は終了いたしました。次回は、来る二十一日午前十時より開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後六時十二分散会