1982/03/09 第98回国会 衆議院
衆議院会議録情報 第098回国会 商工委員会 第6号
#1
第098回国会 商工委員会 第6号昭和五十八年三月九日(水曜日)
午前十時二分開議
出席委員
委員長 登坂重次郎君
理事 野田 毅君 理事 原田昇左右君
理事 森 清君 理事 渡部 恒三君
理事 後藤 茂君 理事 水田 稔君
理事 長田 武士君 理事 中野 寛成君
天野 公義君 稻村佐近四郎君
植竹 繁雄君 浦野 烋興君
越智 通雄君 奥田 幹生君
木部 佳昭君 島村 宜伸君
田原 隆君 中島源太郎君
野中 英二君 鳩山 邦夫君
宮下 創平君 粟山 明君
上田 哲君 上坂 昇君
清水 勇君 中村 重光君
渡辺 三郎君 北側 義一君
米沢 隆君 渡辺 貢君
石原健太郎君
出席政府委員
通商産業政務次
官 渡辺 秀央君
通商産業大臣官
房審議官 池田 徳三君
通商産業省産業
政策局長 小長 啓一君
通商産業省基礎
産業局長 植田 守昭君
通商産業省生活
産業局長 黒田 真君
中小企業庁計画
部長 本郷 英一君
委員外の出席者
公正取引委員会
事務局経済部調
整課長 糸田 省吾君
参 考 人
(日本労働組合
総評議会副事務
局長) 内山達四郎君
参 考 人
(全日本労働総
同盟副書記長) 高橋 正男君
参 考 人
(全日本民間労
働組合協議会政
策委員会委員
長) 千葉 利雄君
参 考 人
(日本化学エネ
ルギー労働組合
協議会事務局
長) 久村 晋君
参 考 人
(上智大学法学
部教授) 松下 満雄君
参 考 人
(経済団体連合
会産業政策委員
長) 河合 良一君
参 考 人
(日本アルミニ
ウム連盟副会
長) 林 健彦君
参 考 人
(日本製紙連合
会副会長) 河毛 二郎君
参 考 人
(石油化学工業
協会副会長) 吉田 正樹君
商工委員会調査
室長 中西 申一君
─────────────
委員の異動
三月五日
辞任 補欠選任
清水 勇君 大出 俊君
渡辺 三郎君 岡田 利春君
同日
辞任 補欠選任
大出 俊君 清水 勇君
岡田 利春君 渡辺 三郎君
同月九日
辞任 補欠選任
横手 文雄君 米沢 隆君
同日
辞任 補欠選任
米沢 隆君 横手 文雄君
─────────────
本日の会議に付した案件
特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案(内閣提出第三〇号)
特定不況地域中小企業対策臨時措置法の一部を改正する法律案(内閣提出第三五号)
────◇─────
#2
○登坂委員長 これより会議を開きます。内閣提出、特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案及び特定不況地域中小企業対策臨時措置法の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。
本日は、午前中の参考人として日本労働組合総評議会副事務局長内山達四郎君、全日本労働総同盟副書記長高橋正男君、全日本民間労働組合協議会政策委員会委員長千葉利雄君、日本化学エネルギー労働組合協議会事務局長久村晋君の四名の方々の御出席を願っております。
この際、参考人の各位に一言ごあいさつを申し上げさせていただきます。
本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。本委員会におきましては、目下、特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案及び特定不況地域中小企業対策臨時措置法の一部を改正する法律案について審査を行っておりますが、参考人各位におかれましては、両案について、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、今後の審査の参考にいたしたいと存じます。
なお、議事の順序でございますが、最初にそれぞれ御意見を十分間程度お述べいただき、次に委員の質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。
それでは、まず内山参考人にお願いいたします。
#3
○内山参考人 総評副事務局長の内山でございます。二つの法案について御意見を申し上げます。厳しさを増す国内外の経済情勢と特定産業や特定地域の動向を考えますと、特定産業あるいは特定地域に対して国が積極的な政策を進めることは必要であると思います。個々の企業が死にもの狂いの努力を行って、その中で生き延びるものは生き延び、つぶれるものはつぶれる、国の介入や援助は自由競争の原理を損ない、企業の甘えを許し、国際的な批判も浴びるという意見もございます。公平な競争は確かに必要であります。しかし、困難な状況に置かれている特定産業や特定地域での競争を放置しておくならば、まさに弱肉強食の様相を呈し、力のあるものは生き延びることができるでしょうが、犠牲のしわ寄せは力の弱いところに集中していくことは必至であると考えます。
企業の自主的な努力はもちろん大切なことでありますが、また国民経済的な視野も重要でありますが、いたずらな競争によって弱者への犠牲のしわ寄せを許さずに、産業、地域における前向きな改善のために国が積極的な政策を進めることは必要であるという立場に立って、私はこの法案を考えたいと思います。しかし、中小企業や消費者団体の中からは、そうは言っても、この法案は大企業による中小企業の切り捨て、独占化や寡占化に手をかすのではないか、あるいはそれによって消費者の利益が損なわれるのではないかという懸念も出ているところであります。こうした懸念を生むことのないよう法案を十分に審議をし、修正すべきものは修正していただきたい、このことを最初に望みます。
さて、労働団体の立場に立ちますと、今日の情勢では、雇用の安定確保とこの法案のかかわり合いを第一義的に考えないわけにはまいりません。この法案によってさまざまな措置を進めていく場合、何よりも必要なことは、その産業なりその地域で働く労働者の雇用問題を最大限に重視しなければならないと思うのであります。
特定産業について新旧法案を対比しますと、雇用の安定にかかわる部分は、現行法、一部改正法案ともに主として第十条にうたわれていますが、内容は全く異なっておりません。それらは、これも一部改正が予定をされております現行離職者二法、雇用安定臨時措置法ということで一本化されるようでありますけれども、そこで対応すると言われるかもしれません。しかし、ここ数年の経過を振り返ってみますと、特安法が結果的には首切り促進法になったのではないかという批判を全面的に否定することはできないと思います。産業政策と雇用政策は、対象とする分野が違っておりますから、その有機的な結合を図ることは確かに困難なことだと思います。しかし、私どもは、繰り返し政府に要請をしてまいったところでありますけれども、初めに産業政策があって、雇用政策はそれに従属するということでは困るのであります。産業政策で構造改善をやる過程で、離職者、失業者が出る、それを雇用政策で受けとめるという従来的な考え方はぜひ改めなければならないというふうに思います。
きのう発表されました一月の「労働力調査」の結果を見ましても、私どもは、これ以上離職者、失業者をふやしてはならないというふうに思います。しかも、特定産業で働く労働者あるいはその関連産業で働く労働者の多くは、比較的年齢の高い、いわば一家の大黒柱、世帯主であります。これらの労働者が、設備処理の過程で失業することのないような措置をぜひ考えるべきであります。そうした産業政策はきわめてむずかしいという答えが返ってくるのでありますけれども、新たな視点から検討さるべきではないかというふうに思います。たとえば、設備処理の前の段階で操業短縮を一斉に行って、雇用確保の措置を講じていくというような対応を盛り込めないものかどうか、通産省ともいろいろ話し合いをいたしました。これらの問題については、産業政策の中に、この法案の中に盛り込むことは困難であるという答えなのでありますけれども、十分に審議をしていただきたいと思います。
新しい雇用安定臨時措置法では、失業の期間を経ることなしに次の雇用機会を確保する措置がうたわれていますけれども、労働省の説明をお聞きいたしますと、やはり離職を前提にしている。それを一定期間企業内にとどめて、離職前訓練を行うというようになっている。そうならざるを得ないように思われます。しかし、訓練を受けても雇用機会のない場合も当然出てきます。不況地域の場合には特にそうであります。そこをどうしていくのか、さらに突っ込んだ審議をこの委員会でぜひお願いをしたいと思います。
次に、特定業種関連地域中小企業対策臨時措置法であります。
率直に言って、現行法がどれだけの効果を上げることができたのかどうか、地方を回って中小企業の経営者の方々から意見をお聞きしますと、余り芳しい答えは返ってきません。中には、そんな法律があったのかというふうな方もおられました。縦割り的な行政のためになかなか総合的な対策がとられない、結果として関連下請の中小企業がつぶれ、労働者は失業ということになっていきます。一部改正法では、中小企業の振興を図るための措置、新商品や新技術の研究開発、需要の開拓等について取り組まれることになっていますが、法律ができても、その運用に当たって、地方公共団体を含めて行政の積極的な姿勢がなければ実効は上がらないということになってしまう、ここらあたりをどう対応していくのか、ぜひ検討しなければならない問題であるというふうに思います。
こうしたことは、二つの法案全体についても言えるのではないかというふうに思うのであります。構造改善基本計画の策定に当たっては、関係審議会は事業者団体あるいは労働組合の意見を聞かなければならないということは現在の法律でもうたわれております。確かに十分に意見を聞かれたところもありました。しかし、必ずしもそうではなかったところもあったように思います。また、これは労働組合の側にも問題があるのかもしれませんけれども、二つの労働組合、単産がある場合は両方から聞くべきであるのに、多数派からはよく聞くけれども少数派からは余り聞かないというような運用もあったように思います。同時に、私どもは、事業者団体なり労働組合の意見を単に聞くだけではなしに、できれば労働組合の同意を得た上で構造改善基本計画を策定していく、このような対応がありませんと雇用は守れないというふうに思います。
また、雇用安定のための産業政策と雇用政策の結合という観点から言いますと、主務大臣と労働大臣との協議を義務づけるとか、あるいは雇用審議会や職業安定審議会でも基本計画の審議をしてもらって、雇用を守る観点から積極的な意見を出してもらうようにすべきではないかと思います。さらに、特定地域法の場合は、国と地方公共団体、そして地域の使用者団体と労働団体による対策協議会を設けて、積極的に意見を聞くような措置も講ずべきではないかと思います。
二つの法案とも、その性格から言いまして、単に国や地方公共団体だけではなしに、使用者団体なりあるいは労働団体の合意を形成しながら運用をしていくということでなければ、なかなか十分な効果は上げ得ないと思いますので、そうした対応についても法案の中できちっと歯どめをかけることを希望いたしまして、私の意見を終わります。(拍手)
#4
○登坂委員長 ありがとうございました。次に、高橋参考人にお願い申し上げます。
#5
○高橋参考人 同盟の高橋です。常日ごろ諸先生方にいろいろとお世話になっていることに対し、感謝申し上げます。私は、この二法案の一部改正につきまして、賛成の立場で意見を述べさせていただきたいと思うわけであります。
この基礎素材産業というのは、実は二度にわたる石油危機によりまして、原材料・エネルギーコストの大幅な上昇により国際競争力の低下が余儀なくされ、輸入の増大等によって業界の打撃はきわめて大きいものがあるわけであります。特に基礎素材産業は住宅投資や公共投資、さらには個人消費などの内需に依存度が強い産業でありますので、わが国経済の長期的な不況によりまして需要が低迷しているため、一層困難な業況下に置かれているわけであります。しかも、この基礎素材産業は過剰な設備を抱えているため、過当競争によって原材料高、製品安となって業績は極度に悪化しているわけであります。
特にアルミ製錬などにおいては、操業度の低下ばかりでなく、大型工場の中止やさらに閉鎖などが行われておるわけであります。この結果、基礎素材産業における失業者は四十万を超えようとしているわけであります。したがって、労働者の生活は危機に直面しているばかりでなく、地域経済にも壊滅的な打撃を与えているわけであります。もうすでに社会問題になりつつあります。
基礎素材産業は、わが国産業経済にとっていままで重要な役割りを果たしてまいりましたし、さらに今後も役割りを果たしていかなければならない産業だろうと私は思うわけであります。そのため、過剰設備の処理に力点を置いた現行の特安法ではもう対処できないのではないか、そのように考えておるわけであります。
改正案は、一定の期間内に過剰設備処理などを進め、国際競争力を前提とした経済性をつけることにしており、原材料・エネルギーコストの低減、活性化のための設備投資、技術の開発、事業の集約化等が盛り込まれていることは評価できると思います。設備の処理や事業の集約化には、独禁法との調整が必要になるわけであります。貿易摩擦の中に置かれる今日、厳しいわが国の環境でありますけれども、保護主義的な構造を極力排し、自由貿易の原則による開放市場体制を維持することに重点を置き、あくまでも民間の積極的な自主努力を基本とすべきであると考えているわけであります。
すなわち、産業政策と競争政策との調整を図るとともに、共存の基盤に立った基礎素材産業の救済と活性化を図るべきであり、そのためには、税制、金融、財政、予算等の措置が必要であるわけであります。産業政策と競争政策は油と水の関係ではないと思うわけであります。すなわち、共存すべきものであり、独禁法の弾力的な運用が当然必要になると考えるわけであります。このような措置をとらなくて、わが国の基礎素材産業を衰退させ、失うことになるならば、遠からずわが国産業全体の国際競争力を失うことになるだろう、こういう危機的な状況にあると思うわけであります。
国際的な分業に依拠すべきであるとの考え方もあります。しかしながら、政治的な不安というものもあるわけでありますし、さらに供給制限による一方的な値上げ要求に対し対抗できなくなってしまう、こういうこともありますし、また産業全体の知識集約化も推進できませんし、さらに内需中心の経済成長の達成もきわめて困難になると思うわけであります。
問題は、新特安法の運用の問題であります。業界の積極的な自主努力を基本とし、アウトサイダー等についても法規制や官僚統制の問題については排除しなければならないし、行政指導によって円滑な運用を図るべきだと考えるわけであります。
次に、通称企業城下町法でありますけれども、現行では企業の誘致対策、経営安定など、救済することに重点が置かれておりますが、産業構造の転換、技術革新の激しい今日、中小企業や地域振興を図ることは不十分であると考えるわけであります。改正案は、新たな振興対策として、新商品開発、需要の開拓、人材の養成を助成し、新しい事業分野の開拓の道を盛り込んでいることは評価できますが、率直に言って、遅きに失したのではないかという感じを持つわけであります。産業構造の転換は今日まで進んできましたし、さらに構造不況などの業種の関連下請企業等はきわめて厳しい環境下に置かれており、構造不況業種が核となって、地域では経済的な壊滅の状況に置かれているわけであります。
問題は、地域経済の開発には、政府、行政、さらには労働組合、経営者団体、そうして地元の大学等の学識経験者の四者構成によって委員会等を設置いたしまして、そして知恵を出し合い、潜在需要の開拓やさらに未充足分野の拡充、そして地域の特殊性を生かした産業の振興などを図らなければならないと考えるわけであります。また、先端技術を総合的に駆使するベンチャービジネスの育成と導入を図るために、地域の各レベルにおける参加体制をとり、英知を結集して対処すべきだと考えるわけであります。アメリカもきわめて厳しい経済情勢下にありますけれども、新しい雇用機会の創出というのは八〇%近くがベンチャービジネスに依存しているわけでありますから、日本も今日、技術革新の激しい中で、そのような先端技術を導入した方向へと産業構造を転換していかなければならないと思うわけであります。
基礎素材産業だけでも約四十万の失業者を出しておるわけであります。先ほどもお話がありましたように、きのうの閣議で悶着があったようでありますけれども、失業者が三十一万人も増加している。きわめて雇用が厳しい情勢にあるわけであります。産業政策と雇用政策とを結合させなければ、雇用対策というものは不十分であると考えるわけであります。
現行離職者法では、業種、地域、雇用の安定法として改正されようとしておりますけれども、新特安法の構造改善基本計画の中に、雇用の安定確保及び経営の安定に関する事項を明記することを強く要望するわけであります。この企業城下町というのは、その親会社の系列、関連、その企業グループとして極力配転などを行いまして失業者を出さないようにすることは当然でありますけれども、企業における業種転換のための職業訓練の充実、さらには雇用調整助成金の弾力的な運用を図ることが必要であると思うわけであります。
雇用安定のためには、地域振興施策と産業施策とを結びつけた雇用創出施策を絶対的な条件として講じなければならないと思うわけであります。われわれ働く者にとっては、雇用なくして定住なし、産業なくして雇用なし、こういう合い言葉でおるわけでありますから、十分な雇用面における対策を講じられることを強く要望するわけであります。
すなわち、それは、行政も経営者も労働者も、そうして地域の学識経験者も、人間の知恵を出し合うことによってその地域の振興、経済開発、それを積極的に図るべきだろう。人間の知恵しかないわけであります。その知恵を駆使して、ひとつ地域の経済開発やさらに新しい分野への転換、そういうものを推進していただきたいことをお願い申し上げて、私の意見を終わらせていただきます。
#6
○登坂委員長 ありがとうございました。次に、千葉参考人にお願いいたします。
#7
○千葉参考人 全日本民間労働組合協議会を代表いたしまして、意見を申し上げます。私が代表いたします組織は、略称全民労協と申しまして、民間産業の四十一の産業別組合、約四百二十五万人を集めまして、昨年の十二月に結成をいたしました新しい組織でございます。今後ともいろいろお世話になると思いますので、どうぞよろしくお引き回しいただくようお願い申し上げます。
私ども、そういうわけで民間産業だけの、しかもほとんどの産業を代表する組合の組織の意見でございますから、大体日本の民間の労働組合全体の意見というふうに、これから申し上げます意見をお受けとめくだすって結構だと考えるわけでございます。
結論を先に申し上げますと、私どもは、事実上、過剰設備処理だけに機能を限局されてきた現行の特安法というものを、産業政策としてより充実整備した上でさらに五年間延長するということを主眼といたしますこの法案につきましては、基本的に賛成をいたし、強く支持するものでございまして、できるだけ早期の成立を強く要請申し上げる次第でございます。
その直接の理由は、御案内のとおりでございまして、第一次石油危機以後に発生いたしました基礎素材産業を中心とするいわゆる構造不況というものが、その病いまだいえざるうちに第二次石油危機を経まして一段と深刻化し、広がってまいっておるわけでございまして、これを立て直すには、引き続き国の産業政策の強力な発動とその内容の充実が強く求められる、これは当然のことだ。だから、われわれはこのような見解をとるわけでございます。
この点に関連いたしまして、特に強調申し上げたいことがございます。それは、この基礎素材産業というものを立て直すということが、わが国経済にとって、また雇用の安定にとっていかに重要であるかという問題でございます。この問題に関連いたしまして、一部には、経済の与件の変化で産業が衰退しあるいは興隆するというのは経済の自然の流れなんだから、こんな問題の決着は市場メカニズムに任せるべきで、国の介入とか助成はもってのほか、独禁法の弾力運用などは特にもってのほか、こういう御意見があるわけでございますけれども、こういう教科書的な経済原論を生身の産業の上に機械的に適用いたしまして、ましてや一国の最も重要な基幹的産業であるこの広大な基礎素材産業の不況に適用いたしまして、結果としてこの部分の相当部分を衰退に陥れるということは、これこそもってのほかの行き方ではないかというふうに私どもは強く考えるわけでございます。
御案内のとおり、基礎素材産業というものは、製造業の付加価値生産総額の三割を占める、統計的な厳密なとらえ方では一七%の雇用量ということかと思いますけれども、広大なすそ野を引く関連を考えますと、三割を優に超える雇用がここに留保されておるわけでございます。そのような重要な部門というものを、いまのような議論でもって相当の部分をいたずらに衰退に陥れて一体何が起こるだろう。いますでに非常に重大化しておる雇用が大変なものになることはわかり切っております。地域経済に壊滅的な打撃がさらに加えられることも明白でございます。しかしながら、そうした結果としての外部不経済、社会的ふぐあいに加えまして、わが国民経済そのものにこれは大変な問題を提起することは明らかだと考えるわけでございます。
この産業部門と申しますのは、何よりもまずわが国の加工組み立て産業あるいは電力、運輸、各種のサービス、つまり、日本の全産業にとっての広大なマーケットでございまして、この大きなマーケットがこのように衰退をしてまいりましたなら、大変な巨大な国内市場の損失というものを日本の全産業に及ぼすわけでございます。当然のことながら、いま非常に重大な問題になっておる不況というものは、さらに重大化いたすでありましょう。
さらに、すでに御指摘もありましたが、そもそも高度工業国家の国際競争力というものは、強固な基礎素材とそれから非常に優秀な加工組み立て産業の有機的な組み合わせによりまして、まさに複合的な工業力というものを持ってのみ強固な国際競争力が維持されるわけでございます。そのようなことでございますだけに、その重要な一翼というものが、土台が衰退をしてまいりましてどうして長きにわたってわが国の強固な競争力が維持され得るであろうか、こういう問題を必ずや提起いたすでございましょう。
さらに、この産業部門と申しますのは、歴史的に見まして最も古くから大きな力を持って活躍してきた産業でございまして、幅が広い技術開発力というものを広範に蓄積をいたしております。このような大きな技術開発力というものが、間違った政策の結果、破壊をされていくということになったときに、日本経済の今後の命運を託すべき技術革新への跳躍力というものが著しく傷つけられることは紛れがございません。
このように考えてまいりますと、この産業を先ほどのような議論で取り扱うことは許されるわけじゃなくて、もちろん自助努力を中心としてではございますが、この産業の立て直しに対して、いまこそ国が強力な産業政策を、財政、税制あるいは国際経済との関係、事情等の制約はありながら、その限りにおいて強く導入をすべきではないだろうか。その一環として、当然ながらこの独禁政策につきましても、時限的、例外的という位置づけを明確にいたしまして、日本の市場経済の有効性を損なわない限りで弾力的な運用というものをこの際配慮する、これは当然な行き方であろう。こういうふうに考えまするがゆえに、冒頭に申し上げましたような強い立場での基本的な賛成と支持を、この法案に私どもは注ぐわけでございます。
このようなことでございますので、何はきておき、できるだけ早くこの法案の早期成立をお願い申し上げたい。今国会におきましては、大変忙しいお仕事をお抱えになりまして、時間が短いということも承っておりまして大変だと思うのでございますけれども、万障繰り合わせて、どうかこの国会においてこれが流れるということだけはないように、ぜひともお願いを申し上げたいと思うわけでございます。
まだあと五分ございますので、その前提に立ちまして、幾つかの注文を申し上げさせていただきたいと思います。
これまでの議論の過程で、われわれ労働組合側の意見と申しますものもかなりな程度取り入れられておりまして、私ども、現段階では相当にわれわれの要望も入れられた案になっておるとは思うのでございますけれども、なお幾つかあえて申し上げたいことがございます。
その第一点は、雇用にかかわる問題でございまして、個々の条文でどうこうということよりも、雇用の安定という問題を今後の日本の産業政策の展開に当たってどう位置づけるかという基本的な問題を提起いたしたいわけでございます。これまでの通産省指導の産業政策は、産業の商売をどううまくやらせていくかということにあくまでも主眼を置かれて、その結果として出てくる外部的な不経済、派生的な問題の処理、二次的処理という位置づけで雇用問題をとかくお位置づけになるという傾向が強うございました。これは、これまでのこととしては仕方がなかったのかもしれませんが、かくのごとくに世界的に深刻な経済環境になり、雇用の問題というものが一国的な最重要課題になった今日以降におきましては、雇用をいかに安定させるか、さらに将来にわたって雇用の吸収力というものをいかに産業に保持させるかということを、国の産業政策のそもそもの基本的な目的の一つにきちんと位置づけて、それに即してすべての問題を律していくということに発想を変えていただきたい。
この見地からいたしますと、この法案の第一条における目的の示し方におきまして、私どもいささか食い足りないものを感じるわけでございます。かと申しましても、このような問題にこだわりまして、いまやここまで来た法案の成立をお妨げする気は毛頭ございませんが、問題意識として強くこのようなことを御提起申し上げておきたいと思うわけでございます。
次の問題は、アウトサイダー規制という厄介な問題でございます。このアウトサイダー規制という問題を私どもが提起いたしますと、これはまるで憲法違反であるとか、あるいは一国の市場経済を根底からぶち壊すようなものであるというふうに強く印象づけられる傾向があるわけでございますけれども、私どもは、きわめて限局的な意味での一つのやむを得ざる処方として、この問題を提起しておるつもりでございます。
御案内のとおり、きわめて群小乱立、そして非常な過当競争体質が強く、非常に有力なアウトサイダーが大変エゴ的な行動をとるといったような特殊な条件に置かれておるある種の業種で、まとまっての過剰設備処理が客観的にはぜひとも必要である。にもかかわらず、そのような状況のもとでは、とてもじゃないけれども、自主的なことでは事が進まぬ。こんな条件のときに、どうしても必要なまとまっての過剰設備処理を実効あらしめるためには、限局的な意味でのアウトサイダー規制という要素を加味することは必要なのでございます。そのような位置づけで、この問題をもう少し突っ込んでお考えいただけなかったものかと考えております。これは多分無理でございましょう、ここまで来れば法案に云々というのは。しかしながら、このような事実が存在しているということを強く申し上げまして、少なくとも運用の面でソフトなあらゆる手段を駆使されて、このような問題の前向き解決を図りながらの所期の目的の達成に全力を挙げてくださるよう、ひとつ行政当局を強く御鞭撻いただきたい、これを申し上げておきたいと思うのでございます。
もう時間もございませんが、次にもう少し申し上げたいことがございます。それは、運用にかかわる問題でございます。雇用への配慮という問題は相当に入れられておるわけですが、すでにいろいろと指摘がありましたとおり、最も重要な問題でございますだけに、労働省との連携を一段と強化されて、あるいは今後別途成立するであろう、つくられるであろう新たなる雇用安定関係の諸法、こういうものとの連動を十分機動的にあんばいされて、ひとつここに特段の運用上での重点を配慮していただきたい、これが一つでございます。
もう一つは、公正取引委員会との関係でございます。法案の第十二条におきまして、八条の事業提携に係る公取との話し合い、調整の問題について、非常に多くの文言を費やして、詳しいことをいろいろ書いております。これはこれで一つの枠組みとしてりっぱであると思います。不十分ながら、りっぱであると思います。しかしながら、もしこのことがいかに法で決められましても、これを受けとめる公正取引委員会の実際の態度が、結果的には木で鼻をくくったような、たてまえだけの硬直的な受けとめ方に終始をするということになりましたら、これらの法案の文言はすべて空文に帰するという状態でございます。私どもは、独禁政策及び独禁法というものは大変大事だと思っております。競争原理が非常に有効に働く市場経済こそ、われわれが最も望ましい経済システムだと考えておるわけでございまして、その支えである独禁政策に対しては、基本的にこれを大きく尊重するものでございますけれども、独禁政策といえども、これまたそれ自体が目的ではなくて、あくまでも一国の経済をうまく発展させ、雇用と生活を安定させるという目的に即しての手段にほかならないと思うのでございます。そのような手段というものが機械的に適用される結果として、本来あっちへ行かなければならないという仕事が結果的にうまくいかないということであれば、これはおかしな話でございまして、そういう文脈の中で、ここまで問題が深刻化しているこの部門の立て直しということに限り、独禁政策というものは大局的な見地から弾力的に運用さるべきであるというふうに考えますものでございますから、運用面におきましてこの十二条をめぐる通産省、公取委員会その他行政内での処理を特段に、十分にこの法の目的に沿った方向で取り扱われるよう強く御要請を申し上げたいと思うわけでございます。
ほかにもいろいろとこの法案に欠けておる問題、申し上げたい点もございますし、われわれは何よりも自助努力でこの産業の立て直しを血を流しながらやっていく覚悟でございますが、この法案の外にあるいろいろな産業政策上のその他の御配慮をいただかなければならない問題もございます。特に電力料金の運用等の問題、要するに原料コストの相対的な突出的な割り高というものがこの産業の苦境を起こしている要因でございますから、許される範囲でこの辺の問題についても産業的な、産業政策としての別途の配慮をお願いしたいのはやまやまでございますけれども、すでに時間も参りましたので、しり切れトンボながらここで意見表明を終わりますが、どうかくれぐれも本国会での早期成立、そうすることによって――すでにみんな待っておると思うのでございます。この法案の成立と同時に立ち上がって、この産業の再建のために全力を挙げようと労使が待っておるわけでございますから、できるだけ早期の御成立をお願い申し上げまして、全民労協としての意見といたします。
どうも失礼いたしました。(拍手)
#8
○登坂委員長 ありがとうございました。次に、久村参考人にお願いいたします。
#9
○久村参考人 化学エネルギー労協の久村でございます。私たちの意見を聞いていただく時間を与えていただきましたことについて感謝をいたします。化学エネルギー労協の組織現勢あるいは若干の私のコメント並びに法制定の政策要求などは、御参考までに御許可をいただきましてお配りさせていただいておりますので、お目通しいただければ幸いに存じます。
さて、特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案及び特定不況地域中小企業対策臨時措置法の一部を改正する法律案に関しましての私の考え方を申し述べます。
まず、結論から申し述べます。
この二法案を今国会におきましてぜひとも成立させていただき、政省令などの準備も願い、現行法との間にすき間が生じないように、昭和五十八年七月一日から完全に法制が機能するようにお願いいたしたいと存じます。
なお、現在、社会労働委員会にも付託されております雇用安定法につきましても、ぜひとも今国会で成立、施行されますように、あわせてお願いを申し述べたいと存じます。
次に、私がなぜこれらの法案の成立、施行を強く望んでおるかにつきまして、いままで述べられました参考人の方々と重複を避けながら申し述べたいと思います。
それは、やはり社会の安定のためには、国民の大多数を占めます労働者の雇用の安定と労働条件の維持向上が不可欠と考えます。雇用の安定、労働条件の向上のためには、産業の安定的な発展が必要であります。基礎素材産業が直面しております構造的な転換期には、雇用と労働条件に重大な影響を及ぼします産業政策に労働者の要求が組み込まれる必要があると考えます。いわゆる伝統的な労使間交渉のみでは産業の安定、発展は望み得ません。
私たちは、昭和五十五年の定期総会におきまして、市場経済体制、開放経済体制、変動相場制、雇用関係諸制度などを一応の大前提といたしまして、国際的な均衡と国内的な均衡の調和のとれた産業を目指して、雇用政策、産業政策、エネルギー政策、競争政策、社会政策などの整合性ある政策実現に向けての政策要求の考え方を決定しまして、この実現につきまして具体的な活動を展開してまいりました。
基礎素材産業は、国際競争力の低下等から現在深刻な不況に直面しております。労働者は、雇用の不安と労働条件の相対的な格差の拡大、たとえば昨年の年末一時金などを見ますと、社会的水準の約二分の一となっております。
この原因は、幾つか考えられます。すなわち、需要の低迷、輸入の増大、輸出の減退、原材料・エネルギーコストの上昇、海外投資の増大、産業の過当競争体質などにあると考えます。この中で、私は特に産業の過当競争の問題、体制整備の必要性の点に触れたいと思います。
過当競争は、社会的な資源の浪費であると考えます。私たちの労働生産物の価値が正当に評価されないで、雇用問題の発生あるいは労働条件の相対的な低下、格差が発生いたします。したがいまして、過当競争の是正、産業体制の整備の必要性を昭和五十五年以来主張しまして、昭和五十六年の秋以降は政府、業界などに先駆けまして、お手元に差し上げておりますような法制定の運動を展開いたしました。
私たちの法案の基本的な考え方は、対外的に誤解を招かない配慮、特に国際関係においてのこのような配慮、一定の時限との前提におきまして、独禁政策の目的が独占、寡占の弊害防止にあることから、一般消費者及び関連事業者の利益を不当に害さない範囲で過当競争の弊害を排除して、産業活性化のための体制整備の実施を求めようとするものであります。
お手元に差し上げておきました資料につきまして、私たちはこの考え方を明確に出しまして、やはり公正取引委員会との間におきましては、それが必要であれば同意を得てそのことを適用除外にすべきであるというふうに考えました。
あるいはまた、少なくとも設備の処理などに関します指示カルテルにおきましては、やはりその指示カルテルに従わない者などにつきましては勧告をするとか、あるいは氏名の公表を行ってはどうかというようなことも考えました。これらの点もいろいろと申し述べたいこともございますが、いままで申されましたこともあり、時間の関係もあって省略をさせていただきます。
私たちは、以上申し述べましたような考え方、特に政策の整合性のある実施を求めまして、産業構造審議会の関係部会にそれぞれ代表が参加し、私自身も化学部会あるいは総合部会の基礎素材産業対策特別委員会あるいは小委員会などにも参加しまして、私たちの考え方を主張し、答申案の作成に積極的に参加をいたしました。私たちの考え方が完全とは申せませんが、大筋においてそれぞれの部会、特別委員会、小委員会などで理解をいただき、答申案、意見具申案としてまとめられたと考えます。
この基本的な考え方は、開放経済体制下における産業構造の改善、活性化、雇用、地域経済などに対する摩擦現象を最小化するための各種措置が含まれておると思います。また、国際的な了承を得るためには、OECDのPAPの原則にも沿ったものと理解しております。このような考え方に立ちましてこの答申案、意見具申案が法案、政府提出案となったと考え、冒頭申し述べましたように早期成立をお願いいたしたいのであります。
今後に残されました問題につきまして、一、二申し述べたいと思います。
まず、その第一は雇用の問題であります。私たちは、この産構審の基礎素材産業対策特別委員会が意見具申案をまとめられる前日、すなわち昨年の十二月七日に、私たち化学エネルギー労協と日本化学工業協会との間で設置いたしております化学産業労使会議を開催いたしまして、そこで産業構造調整に関する雇用については協議を尽くし、企業内雇用を第一義的に考えるとの合意に達しまして、その後関係各業界団体と協議を行い、この考え方の徹底に努めております。また、単位労働組合によります個別企業の実態調査とそれへの対応の基準なども決定いたしまして、個別労使協議を重視した活動を展開しております。しかしながら、万一不幸にして転勤、出向などができない労働者が発生した場合、すなわち企業内完全雇用が守られない場合には、労働省所管の雇用の安定のための各種法制度の活用は申すまでもなく、本委員会で審議が行われております特定業種関連地域中小企業対策臨時措置法と題名を改め、また、目的に「事業の新分野の開拓等を促進する」措置を講ずることを追加されております本法律を十分に生かし、当該地域における雇用機会の創出を強く要請いたします。雇用問題の解決なくして構造改善の実施はないという考え方の実行をお願いいたしたいと思います。
その他、現在の法律あるいは改正案等で出されております法第三条の五項及び六項、あるいは法第八条の二の三項の四、あるいは法第十二条の新設四項から八項などの運営につきましては、いままで三参考人が述べられましたような考え方の徹底を十分にお願いをいたしたいと思います。特に法第十二条四項から八項の公正取引委員会との関係におきましては、このような協議スキームがつくられたわけでありますから、この協議スキームが有効に活用されるように運営をお願いいたしたいと思います。
時間が参りましたが、あと一点、二点お願いいたしたいと思います。
今後、業種指定が行われます場合には、同一出発原料から製造される物品で、その用途において相互に代替性を有するものも多くあると思います。たとえば高圧ポリエチレン、中低圧ポリエチレン、ポリプロピレンなどがあります。それらの業種は一つとして指定をしていただくようにお願いをいたしたいと思います。
なお、このいわゆる特定産業構造改善法のみで特定産業が活性化できるかどうかということになりますと、次の措置が必要と考えます。
まず第一は、技術開発がきわめて重要であります。次世代産業の技術革新のためのバイオテクノロジー、新機能素子、新材料などの研究開発、さらには省エネルギー、代替エネルギーなどの技術開発につきましては、民間のみでは力が足りません。国の援助をぜひともお願いいたしたいと思います。
第二は、基礎素材産業は一般的にエネルギー多消費型の産業であります。石油を初めとするエネルギー源が原燃料として大きな比重を占めております。ところが、現在の変動相場制のもとにおきましては、原燃料価格が大きく変動し、これが国際競争力上の大きな問題となっております。原燃料価格の国内的安定を図るための政策確立が必要であると考えます。構造改善法はエネルギー政策との二人三脚によりまして、その機能が一層有効になると考えます。
もう一つ重要な問題は、国民経済の拡大再生産のための財政金融政策への転換、つまり失業創出政策から雇用創出政策への転換を図ることも重要であると考えます。これらの点も十分に御勘考いただきまして、よろしくお願いをいたしたいと思います。
最後に、われわれも六十五カ国、六百万人が加盟いたしております国際化学エネルギー労連の執行委員会が今月の十四日から十五日に開催されます。この執行委員会におきましても、これらの考え方を十分に述べまして、国際的にも理解を得る活動を展開いたしてまいりたいと存じます。
再度、今国会におきましてこの両法案が成立、施行されることを強く望みまして、私の陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
#10
○登坂委員長 ありがとうございました。以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。
─────────────
#11
○登坂委員長 これより参考人に対する質疑を行います。質疑者に申し上げます。お答えをいただく参考人を御指名の上、質疑をお願いいたします。
なお、念のため参考人に申し上げます。発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、時間の制約がございますので、お答えはなるべく簡潔にお願い申し上げます。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。清水勇君。
#12
○清水委員 最初に、貴重な御意見をちょうだいいたしました参考人の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。春闘を目前に控えられて何かと御多用の中でございますが、これから本委員会が審議をいたします新特安法並びに企業城下町法の改正等について、かねがね皆さんから御要望あるいは貴重な御意見をいただいていたわけでありますが、きょう改めてそれぞれのお立場を代表して重ねての御意見をちょうだいしたことを、社会党を代表して厚くお礼を申し上げる次第であります。
そこで、いま参考人各位の御意見を私なりにメモをさせていただきました。時間が限られておるものですから簡潔にお尋ねをいたしますが、最初に内山さんにお尋ねをしたいと思います。
先ほどの御発言の中で、率直に言うと現行特安法はともすれば解雇促進法のそしりを免れない、そういう側面があった。そこで新法の制定に当たって、最初に産業政策があって付随的に雇用対策があるなどということであってはならない、失業者をこれ以上出さない、とりわけ素材産業等の労働構成は高年齢者が多いので、一たん離職をすると再雇用の道が断たれる、そこで何とか条文の中に雇用の安定確保というものを図るための具体的な手だてが講じられないものか、こういうふうな御意見がございました。
そこで、五年前の特安法審議の際に、社会党が他の野党の皆さんの協力を得て与党側に修正を求めたわけでありますが、雇用について一定の修正を見たという経過がございます。しかし、必ずしも十分に機能していない、第十条にしてもどうも十分ではない、こういうことを重ねて御指摘をいただいているわけであります。
そこで、内山さんとしては、まあ第三条の構造改善基本計画等の策定の際にということも御意見として出されたやに承ったわけでありますが、たとえば、どこをどうすればより雇用面の確保というものが期せられるのではないか、こういうふうな御意見がありましたら、一口でお答えをいただければありがたいと思います。
#13
○内山参考人 先ほど千葉参考人も触れましたけれども、第一条の目的の中で「雇用の安定及び関連中小企業者の経営の安定に配慮しつつ」とありますけれども、率直に言って、私どもの立場からしますと、やはりこれではちょっと弱いのではないか、やはり、雇用の安定確保を図りながら構造改善を進めていくというような、もう少し強い表現になっていきませんと、たとえば第一条について言えばですね、やはり現行特安法の持つ弱点というものはなかなか克服できないのではないだろうかというふうに考えます。それから第三条の中にも、五項ですか、「構造改善基本計画は、当該特定産業に属する事業者の雇用する労働者の雇用の安定及び関連中小企業者の経営の安定」云々ということがあって、「関係審議会は、」「事業者団体及び労働組合の意見を聴かなければならない。」とありますけれども、これも単に、関係審議会において労働組合の意見を聞くということだけではなしに、まあこれは法律的に言えば、同意を得るというようなことはかなり困難でしょうけれども、ここでやはり、労働組合の意見を聞くと同時に、労働組合も納得をした上で関係審議会が基本計画を策定するというようなものが入ってくれば、雇用問題、労働組合の意向というのは十分に反映されるのではないだろうか。形式的に意見を聞くだけでは、これは先ほども申し上げましたように、なかなか実効が上がっていかないのではないかというふうに思います。
#14
○清水委員 四人の皆さんそれぞれ、産業政策の充実強化を促すという立場について理解を示されておられるわけでありますが、そのうらはらの関係で、雇用の安定をどう確保するかという点で大変強調をされておられるわけでございます。久村さんにちょっと承るわけでありますが、雇用問題の解決なくして構造改善の実効は期しがたい、こういうふうにおっしゃっておられるわけでありますが、たとえばその点では千葉さんが、ここまで来ると目的の中に雇用の安定ということを加えることは無理かもしれないが――そんなに遠慮されることはないのだと思いますが、しかし、そうおっしゃっておられる。そこで、そうした千葉さんの御発言とも関連をして、このまま放置をいたしますと、過剰設備のたとえば共同廃棄をする、あるいは、新特安法の目玉ともいうべきものは、従来の縮小のための過剰設備の共同廃棄というものに加えて、一面では素材産業の活性化を図る、そのために必要な投資であるとか新たなる産業構造をという展望があるわけですが、いずれにしても、スクラップとビルドというような関係がございまして、新たなる産業政策を通じて、どうしてもこれが、構造改善基本計画を通じて現実の問題としては雇用の縮小なり雇用の移動なり、こういうものが起こらざるを得ない、場合によれば企業内だけでの完全雇用はなかなか実現はできないといったようなことも含めて、雇用にかなり大きな変動が出てくるということだけは間違いないと思うのですね。
そこで、具体的に雇用に犠牲を出さない、雇用の安定を確保する、こういうために、今度の新特安法の中で、第十条というのもありますし、第三条もございますが、どの辺のところに、雇用安定の確保という点で少し力点を置くべきだというふうにお考えになっているか、この点少しお聞かせいただければありがたいと思います。
〔委員長退席、野田委員長代理着席〕
#15
○久村参考人 私の考えは、次のようになります。まず、法の三条で、構造改善基本計画の策定に際しまして、第五項で、当該「産業に属する事業者の雇用する労働者の雇用の安定及び関連中小企業者の」云々ということが一つございます。それからその次に、「関係審議会は、」云々「労働組合の意見を聴かなければならない。」
そこで、私たちはまず第一に、構造改善基本計画の策定段階で、計画変更可能な段階で労働組合の意見を聞いていただくということがきわめて重要かと思います。一たん計画が出されまして、この計画についてイエスかノーかということでなくして、計画策定段階、いわゆるその計画変更可能な段階におきまして自主的な話し合いができる、このような運営をするということがまず第一に重要であると思います。
それから、第二の点といたしましては、先生御指摘のように、第十条のこの規定を、個別労使、特にこれは事業主体においても労使協議するのでございますから、この労使協議というものを十分に実効あるものにする必要があるのじゃないだろうか。したがいたして、先ほど私申しましたが、私たちの組織といたしましては、いわゆる平電炉を除きましてほとんどの組織が関係あるのでございますから、構造改善計画を個別の企業がどのように考えておるのか、それはどのような速さで考えておるのかという実態調査を現在行いまして、そこで雇用に関しましてのかかわり合いのある問題が出た場合には、それぞれの労働組合が十分に単組の労使協議を生かすような指導を現在行っております。構造改善を実施するに当たりましては、すぐれて企業機密に属する問題が多かろうと思います。したがいまして、私どもは、具体的な事例はやはり個別労使の協議が重要である。このようなことを通じまして、まず企業内層用を第一義的にするということをわれわれ、日本化学工業協会との間で合意をいたしておりますので、そのベースでそれを進めてまいりたい。
しかし、万一、どうしても転勤とか出向ができない事態をなしとはいたしません。したがいまして、今度の新しい企業城下町法で「新分野の開拓」というようなこともつけ加えられておりますので、ここで十分に雇用機会の創出をお願いして、そこで雇用不安の解消を図ってまいりたい、このようなふうにお願いをいたしたいと思います。
#16
○清水委員 いま久村さんのお話の中で、実効ある労使協議、こういうことが強調されました。これまで私ども承っている限りでは、特安法上の規定等で、当該事業所における労使協議あるいは基本計画策定の過程における労働者側の意見を十分に聞く、こういう定めがあるわけでありますけれども、必ずしもこれが実りあるものになっていないというふうな御批判、御意見も承っているわけであります。そこで、もう一回内山さんにお尋ねをしたいのでありますが、たとえば意見を聞かねばならぬと規定をされているけれども、必ずしも十分ではないのだ。そこで、労働組合の側にも、意見を十分反映させるための努力その他の面で足らない点があったかもしれぬが、少なくとも新しい法制のもとでは労働組合の意見というものを十分に聴取する。欲を言えば、基本計画の策定等についても労使の同意くらいなところまでいかないものか、こういう御意見があるわけなんであります。特に多数派と少数派の組合が存在する場合に、少数派がどうもオミットされてしまうんじゃないか、こういったようなこともございますが、どうすれば基本計画策定の過程もしくは個別の雇用問題等で十分に労働組合側の意思というものが反映させ得るか。たとえば、そのために行政面に具体的な指導を通じて求める注文等があれば、これは法律の運用にもかかわりがあるわけでありますから、少しく御意見をお聞かせいただきたい。
#17
○内山参考人 労働省が所管をする、現行法ではこれは離職者二法になっておりますけれども、この離職者二法の運用に当たっては、労使同意、労使協議、同意まではいきませんけれども、たとえば雇用調整助成金を国に対して申請をする場合には、労働組合が同意をしなければ一方的に経営者が助成金をもらえないというような仕組みになっているわけですね。率直に申し上げまして、これは労働組合の側にも意見反映の努力が足りなかった面もあると思いますけれども、先ほども申し上げましたように、労働組合の関係事業者団体及び労働組合と協議をし、その同意を得ることを必要とする、こういうことになりますと、やはりかなり労働組合も一生懸命にその問題について検討し、労働組合としての意見もきちっと反映をすることになるのではないか。そこまで産業政策でいき得るかどうか。それはとてもじゃないがだめだというような意見もあるのですけれども、しかし私は、先ほど申し上げましたように、産業政策があって、その受け皿として雇用政策がある。極端に表現をすれば、この法律によって設備廃棄の過程で、万が一労働者が離職することもあり得るだろう、それは別の雇用安定臨時措置法でという考え方では、やはり雇用の安定は確保できないのではないか。したがって、産業立法であるこの法律の中でも、労働組合と協議をし、労働組合の同意を得た上で構造改善基本計画を策定していく、そういった対応ができないものかどうかということになれば、私が申し上げましたような問題については一定の歯どめがかかっていくのではないかというふうに思います。#18
○清水委員 なお承りたいことが幾つかございますが、時間が少ない状況でございますので、私からのお尋ねはこの程度でとどめさせていただき、あとは同僚委員にかわりますが、貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。#19
○野田委員長代理 水田稔君。#20
○水田委員 参考人の皆さん、御苦労さまでございます。私は、不況業種の出身なものですから、皆さん方の気持ちは痛いほどわかるわけです。しかし、批判としては、構造改善というのは効率化を図っていくことですから、当然そこでは労働者が余ってくる、職を失うということ。何で労働組合や革新政党がそういうことを積極的に進めると言うのかという批判を受けてきたわけです。
〔野田委員長代理退席、委員長着席〕
そういう中で雇用問題、いま清水委員からいろいろ御質問いたしましたように、何としても企業は活性化して生き残る。労働者は、先ほど参考人の御意見もありましたように四十万人から職を失っておる、さらにそれを進行さすことに手をかすということにならない、やはり雇用を守るということに労働組合なりわれわれとしては主眼を置いたいわゆる活性化を図るということが大事ではないか、そういう気持ちで、時間がありませんから私は一、二お伺いしたいのです。
一つは、設備廃棄については労働組合の意見を聞くというところがずっとあるわけですが、事業提携については全く新しい改正案にないわけですね。これは一番みそのところですが、その点について、これはどなたか代表で、できれば内山さんと久村さんにでも、事業提携については全く労働組合の意見を聞くシステムになってない。これは設備廃棄と同じような雇用の喪失がそこでは起こるということについて、御意見を聞かせていただきたいと思うのです。
#21
○内山参考人 これはちょっと私、言い方足りなかったのですけれども、さまざまな共同行為なり事業提携、これが現行特安法とは違って今度の新しい法律のいわば前向きの対応といいますか、積極的な対応になっていると思うのですね。したがって、この点についても、率直に申し上げまして、労働組合の意見を聞く、あるいはこれは単に労働組合だけではなしに関連する中小企業、下請中小企業とか関連業者の意見を聞いてやっていく、こういうシステムにぜひしていただきたいと思うのです。そのことは、法律的に言えば第十条の方にかかわってくるからという説明も一部受けておりますけれども、ただ、私たちが率直に心配しますのは、さまざまな事業提携なり共同行為の中で、最初に指摘を申し上げましたように、関連中小企業なり労働組合の意見が十分に反映をされませんと、中小企業が切り捨てられていくとか、あるいはその段階で過剰雇用ということで労働者の切り捨てが行われる心配を私たちは持っているということも、これは率直に申し上げまして、そうした行為についても何らかの形で関連事業者団体なりあるいは労働組合の意見を反映させるようなこと、これは法の運用になるかもしれませんけれども、このことが必要ではないかというふうに思います。
#22
○久村参考人 いま水田先生がおっしゃいました点は、私は次のように理解をいたしております。それは、私どもは個別企業労使をすぐれて重視すると言いましたのは、事業提携計画というような内容のことは、過剰設備の処理以上にそれぞれの企業間のきわめて高度な計画になるだろうと思います。したがいまして、この第十条雇用の安定の中で「設備の処理、事業提携その他の措置を行うに当たっては、」ということで、新しく事業提携が一項目追加されておりますので、私どもはこの条文を十分に生かしまして、それぞれの計画内容を個別段階から明確にして、その中で労働組合の意見は反映できる、このような運営を労働組合自体といたしましても、それぞれの組織に申し述べておる次第です。
以上でございます。
#23
○水田委員 全民労協の千葉さんと久村さんにお伺いしたいのは、現行特安法が二三%の設備廃棄を実際やったけれども、なおかつ不況は続いておる。そういう中で批判がありまして、まさにそれはすぐれて施策の問題だ、不十分だという意見もあるわけです。久村さんから先ほど、変動相場制のもとにおけるという御説明がありましたが、たとえばアルミを見れば一番よくわかるのですね。構造改善計画以上の設備廃棄をやって、なおかつ今日どうにもならない。これは電力料の問題ということになるわけですね。ですから、施策の中で一つは、原料非課税なり電力料の体系を根本的に考えなければ、設備廃棄をやっただけでは活性化できるとは私は思いませんし、もう一つは、税制上、財政上の援助が現行特安法で十分であったのか。今度の新しい法案で設備廃棄をすれば十分活性化し、雇用が将来に向って安定できるということにはなかなかならないのじゃないか。その二点を千葉さんと久村さんに、私に与えられた時間はわずかですから、簡単にお答えをいただきたいと思います。#24
○千葉参考人 おっしゃるとおりだと思っております。私どもも、この法だけで、困難な問題を抱え込んだ産業が産業として再建されるとは思っておりません。その中の重要な問題として、なかんずく電力の問題があるかと思います。原価主義に基づいて電力の料金設定をしなければならないという事情は重々わかっておりますけれども、これまでの電気事業の管理の前提になってきた日本の環境条件が全く変わっておるのでございますから、電気事業の管理のあり方についても、状況変化に適応した発想の転換による見直しが必要かと思っておりまして、原価主義による値段設定に当たりましても、原価のはかり方自体につきましてもう少し具体的に、大量消費業種向けの原価というものがどんな事情でどうなるのかという、きめの細かい配慮を加えながら筋道を通す枠組みの中で体系の再編成を可能な限り追求していただくというようなことは必要かと思います。それから、いま起っておる石油の値下がり状態、こういうものをばらまき的に料金引き下げで処理することが妥当かどうかわかりませんけれども、一国のかなりな部分が構造的に非常に困難になっている、こういうことを考えますならば、ある程度そこに得られた余裕というものを政策的な料金実施という形で投入するといったようなことも、これは法の外の話で結構でございますから、基本的な問題としてお考えいただきたいというふうに強く考えておる次第でございます。
#25
○久村参考人 私が変動相場制下における問題点として申し上げましたのは、たとえドル建て価格が値下がりするといたしましても、円安になりますと、日本への入着価格は一体どうなるのか。そのようなことから、現在の変動相場制下におきますところの資源エネルギー政策の抜本的な見直しがないことには、国内の原燃料価格は安定しない。そのような点で、特にいまもいろいろな新聞報道などを拝見いたしますと、ぜひとも今後この問題を最重点として、基礎素材産業の活性化対策の問題点としてお願いいたしたいと思います。それから、これだけでいいのかと言われますと、これとともに技術開発というものがないことには基礎素材産業の活性化は非常に困難であろう、私はこの両立てがこれからの重要な施策ではないかと思います。
以上でございます。
#26
○水田委員 時間が参りましたので、終わります。参考人の皆さん、ありがとうございました。
#27
○登坂委員長 次に、長田武士君。#28
○長田委員 本日は、春闘のさなか大変お忙しい中を私たちの委員会にお出ましをいただき、貴重な御意見をいただきまして大変ありがとうございました。まず最初にお尋ねをいたしたい点は、現在、石油化学を初め基礎素材産業の不況が非常に深刻でございます。このまま推移いたしますと多量の失業者が出るであろう、このように懸念をされておるわけであります。こうしたことから、特定不況産業の再生を目指した新特安法がいま審議されておるわけであります。先ほど御意見の開陳をいただきましたけれども、雇用面についての見通しを、四人の参考人の方から簡単にお答えいただければありがたいと思っております。
#29
○内山参考人 きのう閣議で報告をされました一月の労働力調査の結果については、政府部内でもいろいろ論議があるようですけれども、私が一番心配をしていますのは、いまのところ、まだじわじわ悪化するという状況ですけれども、雇用情勢が一定の臨界点に達しますとムード的にも急激に悪化をする危険を、私は率直に言って感じております。ですから、いまのところ景気がどうなるのか――景気がいまのような動向であれば臨界点に達する時期はかなり早く来るのではないか。これは将来のことですから断定はできませんけれども、私は率直に言って、雇用失業情勢については非常に危惧の念を持っております。#30
○高橋参考人 経済成長との関係もあるわけでありますけれども、政府の五十八年度の見通しが三・四ということであります。それも外需依存が〇・六で、内需が二・八であります。完全失業率は二%程度と言っておりますけれども、すでに二・七以上になったわけであります。したがって、経済成長が二%程度であれば大体二百万を超えるだろう。これが五年も続けば三百万か四百万くらいになるだろう。それ以外に、不安定雇用者がいるわけであります。たとえばパートタイマーとかそういうのがいるわけであります。労働省の調べでも、パートタイマーがいま四百三万人と言われているわけでありますから、これらを含めると不安定雇用者はアメリカともどっこいくらいになるのではないかという見通しであります。したがって、いまの経済政策で国会の先生方も論議していただきたいのは、国民生活、日本の経済がどうあるべきかについて、公共投資の問題もあるでしょうし、そういう経済問題を論議していただいて、がまんの哲学でなくして本当にチャレンジしていく、こういうことで雇用の安定を図っていただきたい、きわめて厳しくわれわれは見ているわけであります。
#31
○千葉参考人 マクロ的な見通しにつきましては、お二方のおっしゃるのが大筋であろうと思っておりますが、私見では、いまのような二・五%台の低成長が長期に続くとすれば、恐らく年率で〇・五ポイントずつぐらい失業率はじりじり上り続けていくという局面に入るのではないだろうかというふうに考えております。ただ、つけ加えましてこの機会にもう一つ関連して申し上げますと、この基礎素材産業というものが抱えている関連を含めたトータルな雇用量というのは、多分三百万に近いかと思っております。ここで、仮に自由放任政策の結果、かなり産業が衰退をいたしまして二割ぐらい落ちてまいりますと、恐らく単純化して言えば、それだけでいまの失業率を一・二ポイントくらい押し上げるような、非常に破壊的な雇用情勢のマイナスインパクトというものがこの産業部門から起こり得るという認識をあわせ持っておりまして、マクロ的な対応と同時にミクロの産業別の問題、産業政策の強力な展開が特段必要になっておるのではなかろうか、こういうふうに考えておる次第でございます。
#32
○久村参考人 マクロの見方につきましては、いま三人の方が述べられたのと全く同じと思います。したがいまして、私が先ほど申しましたように、拡大再生産が可能なような、国も企業も個人も、そのようなふうに政策を転換いただきまして、少なくともやはり雇用状態を改善しようとするならば、四%程度のマクロの経済成長が必要ではないかと考えます。なお、基礎素材産業の関係につきましては、このような全般的な雇用失業情勢でございますので、ミクロの問題としましても、先ほどるる申し述べましたように、産業台あるいは個別台あるいは国家政策台の整合のある政策をお願いいたしたい、このように思います。
#33
○長田委員 御承知のとおり、新特安法は、一つは設備の廃棄をすること、もう一つは事業の集約化、この二本の柱が大きな特徴でございます。これで構造改善をしようということが目的であります。そこで、私はお伺いしたいのでありますが、過剰設備の処理や事業の集約化、こういう産業政策をとりますと、どうしても雇用面が停滞をしてくるということは当然でございます。人員がふえるということは当然考えられないわけでありますから、どうしても人員の削減というところに大きなポイントを置くわけであります。短期的に見れば人員は減りますけれども、中長期的に見ると雇用の創出になるのかなという感じもするわけなのでありますが、そこらの見通しはどうなんでしょうか。
#34
○千葉参考人 私は、この第一次ショック以来の雇用調整の現実というものをつぶさに見てまいりますと、これは特安法があるとかないとかいうことは関係なしに、その産業が実際に置かれた環境条件が苛烈になっていく中で、文字どおり経済法則が力づくで貫徹するような形で、労使の厳しい葛藤の中から結果としてじりじり過剰雇用を排出されるという過程で事態が進行しているかと思うのでございます。したがいまして、この新特安法ができるから、何か設備の過剰が急速に進んで人が減っていくというふうには、私は考えておりません。むしろ、このような苛烈な環境にある産業を自由放任に任せて、泥沼の中でデスマッチ的なけんかをやらせて、過大なロスを伴いながら再編成させていくことによって、より多くの殺さなくてもいいものまで殺してしまうようなことにするのか、それとも、できるだけ秩序ある再編成のコースを通らせることによって犠牲を最小限にして、より早く産業そのものの安定化を手に入れて、雇用の安定の基盤も手に入れていくという道を選ぶのか、こういう選択の問題ではないかというふうな認識でこの問題を基本的に考えております。
#35
○長田委員 内山参考人にお尋ねをいたします。私は、この新特安法が成立いたしますと、企業は総体的に人員の過剰感というのを現時点においては非常に持っていると思います。そういう状況下にありましてこの新特安法が成立をする、施行される、こうなりますと、企業としてはやはり一つのお墨つきがあるわけでありますから、そういう点では雇用創出ではなくて、むしろ減量経営、合理化という形において企業の集約化をやってまいります。そうなりますと、そういう立場で人員の削減あるいは雇用の機会を失うみたいな、そういう点に一層拍車がかかってしまうのではないかという点を私は心配しておるのです。この点どうでしょうか。
#36
○内山参考人 実は私も、そういう引き金としてこの新特安法が企業経営者によって使われるとするならば、これは事志に反することになってしまうだろうというふうに思うのです。ですから、先ほどちょっと申し上げましたけれども、そういう設備廃棄、設備処理の過程で、一時的にもせよ労働者が職場を去らなければならないような措置だけは何とかとめることができないだろうか。そこで、たとえば一定期間、これは共同行為になるわけですけれども、操業短縮をする中で次の雇用確保、雇用安定の措置を講じるというようなことも、この法案の中に盛り込むことはできないものかどうか。これは通産当局の説明では、共同行為、独禁法とのかかわり合いがありますから、生産調整行為ですから、別途対応すべきことであるというふうに考えておられるようですけれども、そうした措置が同時に対応していきませんと、やはり設備処理、設備廃棄の過程で人員の縮小、人員の整理がドラスチックに起こる可能性はあるというふうに私は見ます。
#37
○長田委員 次に、過剰設備の処理の問題についてお尋ねをするわけでありますが、これは単に設備の量の減少ということにとどまらないように私は思います。と申しますのは、産業によっては業界の再編成あるいは中小企業の淘汰という形をとりまして、あるいは下請や関連業界にとっては経済的な必然性という形をとりまして整理がだんだん強化されるのじゃないか、そういうふうな形をとられるような感じが私はいたしております。そういう点について質的な問題を何か内包しているように感ずるのですが、高橋参考人にお尋ねをいたしたいと思います。
#38
○高橋参考人 集約化の問題もありますし、また活性化の問題もあるわけです。いまのような状態でいくならば、基礎素材産業がじり貧にいってしまうだろう。したがって、活性化のための集約化とか、そういう方法をとろうとしているわけでありますけれども、何といっても石油ショックでこの十年間で十四・四倍上がった。加工製品は十年で三倍ぐらいしか上がらないわけです。技術革新をやっていかなければどうにもならない、日本の基礎素材産業はなくなってしまうのじゃないか、そこに実は危機感があるわけです。ですから、このままでいけばじり貧になるし、それを救済していくのがこの特安法じゃないのかな。ですから、一面、設備の廃棄をやれば雇用の問題になりますけれども、それはいままででいってもじり貧でありますから、それを活性化をやって、技術革新もやって、そして雇用機会を創出するようにしていかなければならないのじゃないか。問題なのは、産業別の労使会議というものもあるわけですから、やはり産業別の労使会議でやり、個別労使の中でも雇用保障を前提としてその構造改善に取り組まなければならない、そのときを迎えたのではないか。これは日本だけじゃないわけであります。アメリカもそうですし、EC関係もそうでありますから、いずれもその課題については共通の課題を持っているわけであります。
だが日本は、日本人の知能指数は高いと言われているわけですから――いま通産がやっているような産業政策というものについては、雇用政策は実は後追いなんですね。だから、産業構造が変わったら雇用をそれで救済していこう、こういう形です。そうじゃなくて、雇用政策も産業政策にプットインする、そうして同時に解決していかなければ雇用が守れないだろう。ですから、いまの一部改正に賛成したのは、そういう活性化を図ることによって雇用機会に持っていかなければならない、構造改善を伴えば雇用にも影響するわけでありますから、それをスムーズに転換をしていかなければならないのじゃないか。労働組合も、当然経営者もそうですけれども、経営者ももっと展望を持って、積極的な自主努力が必要だと思うのです。どこの国でもやられているわけであります。日本が先陣を切って取り組まなければ、雇用の問題もより厳しくなるだろう。ですから賛成の立場で申し上げているわけです。
#39
○長田委員 時間が参りましたから、終わります。ありがとうございました。
#40
○登坂委員長 次に、中野寛成君。#41
○中野(寛)委員 まず、高橋参考人にお尋ねをいたします。この新特安法、そしていわゆる城下町法は、基礎素材産業にとって本当にカンフル剤となり得るのか、特効薬であるのか、これは、運用の面も含めてみんなで努力しなければならないことだろうと思うのです。そしてまた、同盟としても幅広い産業政策を、労働者の立場に立って立案していく必要もあるだろうというふうに思うわけであります。そうしませんと、せっかくの新特安法が意味をなさないということになってしまいはしないか。また、この業種指定のための政令改正等の猶予期間一年半、そしてあと三年半対策の期間がありますね。果たして十分なのか、こういう疑問も持つわけなんです。これが少なくともないよりましだという立場では、われわれもそういう感じがするのですけれども、しかし、より効果あるものにするためには何か欠けていはしないか、そういう危惧の念を強く持つわけであります。同盟の立場から、総合的な見解としてもう少しお聞かせいただければと思います。
#42
○高橋参考人 非常にむずかしい質問だろうと思うのですが、いずれの法案にしても特効薬にはなり切れないのじゃないか、やはり総合的な政策の中でこの法案が生かされていかなければならないだろう、このように考えるわけであります。したがって、経済の問題でありますけれども、特に基礎素材産業は住宅とか公共投資とか、さらに個人消費に結びついているわけです。だから、経済全体がマクロ的に内需拡大を進めていかなければどうにもならないのではないかというのがまず第一点なんです。通産だけの問題ではないわけですね。日本政府そのもの、国民全体の問題だと思うのです。
同盟は、すでに元福田総理時代に、雇用創出機構という案を提唱したわけであります。その案というのは、何といっても日本の経済産業構造が転換を余儀なくされるだろう、とするならば、政労使、それに学識経験者を含めて、地域ごとにもそういうものをつくって、産業経済対策というものを総見直しし、潜在需要の開拓、新技術の開発を含めて対応しなければ雇用機会が喪失してしまうだろう、そういう立場で、実は先生方の御理解と御協力を得て、雇用開発委員会というものができました。これは十五都道府県にできたわけであります。そして、今後具体的に調査研究を終わり、今度は今年度の予算で十カ所設置されまして、雇用推進会議というもの、これは行政も何もないわけであります。行政も学識経験者も、さらに労使とも四者一体になって、総参加の形で、その地域の経済開発、潜在需要の開拓を含めてどうやるのか、これをやらなければ、政党のいかんを問わず国民的課題として取り組まなければならない問題じゃないか。そうでなければ雇用創出はできないんじゃないか。ですから、そういう変化に対して機敏に対応していかなければいけない。だから、私もいま法案を見せていただいたわけでありますけれども、本当に石油危機の場合にこういう事態が予想されたと思うのです。それは十年前であります。とするならば、アルミの産業ならば電力を使わないでもっと別な製錬という技術を開発するだけの力があったんじゃないのか、私はそう思うのです。
したがって、日本の場合は中長期展望に立って産業構造がどう変化するか、それに応じた対応というものを雇用面なり技術開発の面でやらなければうまくいかないのだろう。ですから、一省庁の問題じゃない、日本全体の問題として、国民的な課題として、産業構造の転換なり雇用の問題を一緒に対応していかなければいけないのではないかと、私は率直に思うわけであります。
同盟といたしましても、これは同盟が提唱したからというわけではありません、労働四団体なり全民労協とも一緒にそういう問題に対応しているわけであります。そういうことが一番重要だろう。ですから、これが特効薬であるかということは、先生のおっしゃるとおりでありまして特効薬ではないけれども、特効薬のようにそれを運用する、これは労使一体だというふうに考えているわけです。ですから、これは特効薬かといっても、私は、これは特効薬ではない、これですべてが解決するとは思いません。これをどう活用するか、それは人間の知恵だ。では、経営者がもっと自主努力をすべきだ、こういうふうに考えているわけです。
#43
○中野(寛)委員 久村参考人にお尋ねをいたします。この運用に当たっては、労働組合の役割りというか、力も問われると思うのです。先ほどから御意見をお聞きしながら感じましたのは、総合的な対策はもちろん協議していかなければいけないけれども、個別企業労使を重視するというふうにもおっしゃっておられるわけです。労働組合があるところはそれはそれで一つの大きな役割りを果たせるだろうと思うのですが、労働組合が果たしてすべてにわたってあるのかどうかということと、もう一つは、ややもすると、こういう問題が生じますときに、中小零細企業といいますか、むしろ下請、孫請へのしわ寄せによって親方の方が生き残っていくというふうなことが往々にしてある。労働組合の方でもよほど気をつけておいていただきませんと、自分たちが生き残るために、組合のない下請、孫請が犠牲になるということにもなりかねない。ゆえに、労働組合サイドとしてむしろそのことにも十分配慮して企業と折衝をしていく。企業内雇用という話もありますけれども、これらの問題を総括的に考えないと意味をなさない。下請、孫請の皆さんは、それは大きいところはいいわな、組合のあるところはいいわなと言って、白々しい気持ちで見ているという話さえも仄聞するものですから、その辺のことの心配を含めてお尋ねしたいわけです。この法律ができたことによって企業側に悪乗りされてはたまらない、ゆえに、そのことを防止するためには労働組合の力が問われる、こういうことではなかろうかというふうに思うものですから、その点についての御見解をお聞きしたいと思います。
#44
○久村参考人 いまおっしゃいましたように、労働組合自体の力が問われる問題だと思います。したがいまして、私たちは、労働組合のあるところのみでなくて、その事業所内には当然労働組合のない下請、孫請もあるわけですから、設備処理計画なり事業提携計画なりの及ぼす影響とそれへの対応策というものは、親組合が十分に考える、このようなことで私たちの方は組織的に対応してまいりたいと思います。それからなお、先ほどございましたが、この法案が首切りの導火線になるのかどうかというようなこともあわせてあろうかと思いますが、他面、現在の特安法のもとにおきまして過剰設備の処理などを私たちの組織内でも幾つか行いましたが、その際にもこの第三条と第十条、特に第十条の規定が有効にワークをしたということをつけ加えさせていただきたいと思います。
#45
○中野(寛)委員 そういう配慮を十分、何かここで御要望申し上げるのはおかしいですが、していただきたいと思います。と同時に、やはり全民労協も発足をしたわけですけれども、やはりこの組織化といいますか、まだ未組織労働者の組織化、そのことを、やはりきょう御臨席いただいた参考人の方々にひとつ大いに努力していただいて、なお一層これを進めていただきたいなというふうにも思っております。そのことがまた、こういう政策、法律を生かすことにつながっていく、こういうふうに思うわけであります。
さて、もう一点。この国際社会の中における日本の動向というのは大変注目をされていると思います。今回の新特安法、これは千葉参考人にお聞きしたいと思いますが、こういう法律をわれわれ、こうしてオープンで論議をしているわけですね。そして、そのあり方について賛否両論、あらゆるマスコミ機関その他がやはり論議をし合っているわけですね。それでもやはり外国からはいろいろな批判の声が聞こえてくるわけです。あらゆる機会を通じて、そういう諸外国からの批判に対して十分反論をしておく必要があるというふうにも思うわけであります。
そこで、私は千葉参考人からひとつ、外国からの批判に対してどうこたえるかということについて少し詳しく御説明いただければと思います。
#46
○千葉参考人 この法案を中心とする産業政策が、わが国の対外経済関係において保護主義的な傾向を強めるものだという外からの批判と申しますものは、これはまことに事実誤認もはなはだしい、全くの認識不足に基づく間違った議論だと強く考えております。と申しますのは、この政策は、まさに市場という分野につきましては、完全に外に向かって市場を開放しながらこの産業の立て直しをやるという道を選んでおります。
それから、原料、エネルギーというコストが最も重大な問題であるわけでございますが、この分野につきましても、この産業政策においては国からの助成とか支援というものは、目下のところ、一切考慮に置かれていないという状態でございます。いわば、全く基本的な部分で裸にしながら、産業の立て直しを産業にさせていくということでございまして、これほど保護主義的でない産業再建策というのはないんじゃないだろうか。たとえば、アメリカ鉄鋼業は一九七七年末のソロモン報告に基づきまして、七八年からソロモン報告に基づく産業立て直しをやってきたわけでございますけれども、このときは御案内のトリガープライス・システムというものを導入いたしまして、数量、価格とも、外からの輸入というものを大きくヘッジしながらアメリカ鉄鋼業の再建を進める、こういう選択をいたしております。たとえば、同じ時期にECにおきましてもダビニヨン・プランというものに基づきましてベーシックプライスというものを採用いたしまして、これまた数量、価格とも外からの輸入というものを大きくチェックしながらEC鉄鋼業の再建を進める、こういうやり方をしておりますし、エネルギー面でも相当な助成というものを、各国は産業の立て直しをやるときには当然のことのようにやっているのが実情でございます。
そういうものに比較いたしまして、これほど開放的なスタンスでの産業立て直しをやる国はどこにもないだろう。加えまして、わずかながらの国の国内におけるこの産業への立て直しの助成も、財政、税制ともに実はまことに中身がささやかなものでございまして、このようなものをもって過保護的な政策の展開だというような議論は、これはナンセンスである。この辺は通産省が自信を持って、もっと徹底的に外国によく説明をしてそういう誤解を解くのみならず、むしろそういう話し合いの中でポジションをよくしながら、ダンピング的な不当な輸入などについては、自由貿易の枠組みの中でどしどしわが日本もカウンターパンチを食らわせるぞというぐらいな立場を明確におとりになって、このことをお進めいただくことの方がむしろ大事だと考えておりまして、これが過保護である、保護主義であるという迷論に対しては、歯牙にもかけずに厳しくこれを克服していただきたいと思うわけであります。
#47
○中野(寛)委員 時間が参りました。内山参考人にお尋ねする時間がなくなりまして大変失礼をいたしました。きょうはどうもありがとうございました。
#48
○登坂委員長 次に、渡辺貢君。#49
○渡辺(貢)委員 内山参考人にお尋ねをいたしたいと思うのです。新特安法の改正ということで論議がされているわけですが、やはり前提になるものは、現行特安法についてどう評価しなければならないか。五年間現実に進めてきたわけでありますし、当時、昭和五十三年のころの論議を見ましても、大体二三%くらい設備廃棄をすれば経営が安定できるのではないか、これに伴ってある程度減量経営も行わざるを得ないというふうな論議が大勢を占めていたと思うのです。その場合にも、当時総評の宝田さんから、この結果が経営の安定に中長期的につながっていく、同時に、短期的に見た場合に雇用の安定の面においてどういうマイナスが生じるか、ここをよく見ていかないと、労働組合としての判断といいますか基準がそこにあるんだ、こういうような御意見を聞いたというふうに記憶をいたしておるわけですが、これは総評だけではなくて他の参考人の方からも、ほぼ共通してそういう御意見が出されました。
さて、そうなると、五年間たって、先ほど首切り促進ではないかというふうな御批判も聞かれる、こういうようなことでございましたけれども、全体としてこの評価はどのようにお考えになっていらっしゃるのか、まずそこをお聞きしたいと思うのです。
#50
○内山参考人 これは、産業によってかなりの違いがあると私は思うのです。ただ、たとえば造船産業について見ますと、今度の新特安法からは造船産業は対象になっておりませんけれども、現行特安法によって造船産業における設備、船台の縮小、廃棄、これが進められた。それはストレートに造船産業労働者の首切りにつながっていったわけですね。そして、残念ながら造船産業は、その後一時期よくなった面もありましたけれども、現在またこの世界的な不況の中で造船産業が苦境に陥るような状況も生まれつつある。これも私、冒頭に申し上げましたけれども、その過程を見ますと、大企業を中心とするような集約化、いわば寡占化の中で中小造船所が整理淘汰されていったことも、残念ながら否定しがたい事実ではないだろうか。もちろん、造船産業だけで現行特安法の功罪を論ずることはできませんけれども、ほかの産業、業種では、それによってある程度、もっと悪化するものが救われた事例もあると思いますけれども、そうした批判的総括みたいなものを政府は踏まえて、繰り返し労働側の参考人が強調しているように、やはり雇用の安定確保というものをどうしても重視をしていかなければ、結果的には再びあの第一次石油危機の後のような状況も現出をするのではないか、そういうふうに私は考えます。
#51
○渡辺(貢)委員 五年間、必ずしもそういう面では十分であったということではないというかなり否定的な御見解だったと思いますけれども、造船は約五万人、加えて指定された十四業種で十一万ですね。さらにそのすそ野を広げていくと、こもごもお話がございましたように、三十八万ないし四十万というふうに言われているわけなのですが、現行法でもそうでありました。ところが、今回改正の中では、第一条の目的規定の中で、いままでの設備廃棄処理だけではなくて、事業の集約化の方向が打ち出されている。さらに、第三条では、構造改善基本計画は主務大臣の承認を受けることができるということで、事業の集約化あるいは共同廃棄も含めて、いままでとかなり性格が違ったものに改正されてきている。しかも、その主務大臣の承認を受けることができるということになった上で、第十条で、いわゆる雇用安定についてというふうになるわけですね。ですから、すでに主務大臣の承認を受けたそういう構造改善計画、事業計画が提起をされて改めて労働組合との中でと、こういうふうになると思うのですが、そうなると、労働組合側の意見を開陳することは大変弱くなってくるというふうな危惧を持つわけなのです。
日本の民間労使はきわめて円滑な関係にある、これが日本の産業を発展させてきた一つの大きな土台であったというふうな評価も強いわけでありますが、強権的にこういうことになった場合に、果たして雇用の安定というものが現行法に比べて新法ではどうなのだろうか、こういう危惧を持つわけなのですが、内山さん、その点についてはいかがお考えでしょうか。
#52
○内山参考人 これはもう先ほども申し上げましたように、構造基本計画の策定の段階で十分に労働組合の意見を聞き、そこで協議をし、できるならば労働組合の合意、当然労働組合は雇用を守るという立場に立たざるを得ませんから、そういう歯どめがないと、結果的には構造改善基本計画が雇用の安定に結びつかない方向で進む危惧というのは私は持っております。したがって、策定されてしまってからではなしに、策定に至る討議の中で、関係審議会だけではなしに雇用審議会であるとか職業安定審議会であるとか、そことの協議をやっていくとか、あるいは地域法に関して言えば、これは地域の地方公共団体なり地域の使用者団体なり労働団体との協議を事前にやって、単にできた後、都道府県知事の意見具申というようなことではなしに、あらかじめそういったものを反映さしていくような歯どめを講じていく必要があるのではないかというふうに思います。#53
○渡辺(貢)委員 この問題との関係で久村参考人にお聞きしたいと思うのですが、内山さんからそういうお話がございましたけれども、久村さん、いろいろ関係の審議会や産構審の部会等にもおいでになっていらっしゃるというお話が先ほどございましたが、新特安法の第三条の六項の中で、いわゆる関係審議会は関係事業者団体及び労働組合の意見を聞かなければならない、こういうふうな規定がございますけれども、このことが、意見を聞かなければならないというそういう狭いものなのか、もう少し労働組合の側として、日本の産業政策全体を俯瞰しながら御意見を出されると思うのでありますけれども、その辺については実際上携わっていかがでしょうか、お尋ねしたいと思うのです。#54
○久村参考人 率直に申しまして、計画変更段階においての審議に直接、私のみでなくて、関係小委員会なども開催されまして、その段階で意見が聞かれております。いまも内山さんから申されましたように、現行特安法の評価というのはいろいろあろうかと思いますが、産業、業種によりましては、大きな悪化が現行特安法でも防げたのではないだろうか。その場合に、雇用とのかかわり合いで申しますと、計画変更の段階、特に今後の各種の見通し段階におきましても、いろいろな内容についてこの審議会でも論議がされますし、その他小委員会あるいはまたそれぞれの業界団体の労使協議などの段階においても、かなりの実効が上がったのではないだろうか、私はこのように思います。
#55
○渡辺(貢)委員 審議会の構成メンバーその他がございまして、それはなかなかむずかしい面があろうかと思うのです。しかし、いずれにいたしましても、これからの問題としても、労働組合側の代表としてそういう点は十分な留意をしなければならないというふうに御要望しておきたいと思うのです。もう一点、久村さんにお尋ねしたいと思うのですけれども、今回の改正の中で、設備の廃棄だけではなくて、事業の集約、さらに活性化の投資というふうに、かなり全面的な法改正になっていると思うのですね。それだけに、構造改善というふうに体質そのものを変えていこうという性格づけも強いと思うのですが、あわせて、これは産構審のいろいろの答申や報告などを見ましても、これを実態として進めていく場合に、国の政策的な助成というものが必要である。直截的には、税制であるとか金融あるいはその他行政の一定の介入、お墨つきみたいなものを、最終的には構造改善基本計画を立てて主務大臣の承認を受けることができるということになると思うのです。私は思うのですが、こういう大企業の場合には労働組合もしっかりしている、そして計画を立てそれを実行していく段階で意見が反映できるわけなんですが、一方で、すそ野の広い中小企業、倒産が続出しておりますし、施策としても五十八年度予算、昨日衆議院を通過したわけなんですが、中小企業の予算は逆にマイナスです。さらに、人事院勧告の凍結あるいは恩給、年金が凍結をされるという中で、これは日本の基幹産業であるから、政策手段としても国が税制、財政、金融の面でもしかるべき措置をとらないと活性化が図れないのだ、こういう御意見が非常に強いというふうに感じるわけなんですが、最後に、その点について御見解を承りたいと思うのです。
#56
○久村参考人 次のように考えます。おっしゃいましたように、基礎素材産業は非常にすそ野の広い産業でございますから、ある業種、ちょっと特定するのは差し控えさせていただきたいと思いますが、いわゆる素材分野から加工、流通段階まで含めました構造改善を、業種によっては行うべきであるというようなことも労働組合から主張いたしております。その際に、特に労働組合のないところの問題につきましても、先ほど中野先生だったと思います、お答えいたしましたが、私の方は、個別の労働組合がその実態を最もよく把握しておるわけでございますので、個別の労使関係の中でその問題点を十分に掌握いたしたいと思います。
それから、いわゆるこの新しい構造改善法と企業城下町法とのかかわり合いで、私たちは、特に新分野の開拓ということを入れていただいたということにつきまして、両々相まって全体としてのシステムがうまく機能するような方向でぜひお願いをいたしたい、このように思います。
#57
○渡辺(貢)委員 最後に、一言だけちょっと付言したいと思うのですけれども、政府の政策的な介入の内容のお話がなかったのですが、この点大変大事な問題だと思いますし、それから雇用の面でも、単に個別の企業だけではなくて、こうした素材産業なんか見ますと、金融機関、三井、三菱、住友、芙蓉など大体六ないし七系列ぐらいにグループ化されているわけですね。そうなりますと、一定の時期には、たとえば高度経済成長で膨大な利益が上げられているときには、蓄積された資本がそのグループの中で集約をされて海外投資ということになるわけなんでして、それで厳しくなってくると海外から原材料の安いものが入ってくる。厳しくなってくると国の政策手段、助成を受けなければならないということではなくて、そういう銀行や商社も含めて企業内グループをつくるという問題も、やはり大企業としての社会責任があろうと思いますので、この問題についてもぜひ十分に、これは久村さんだけではなくて両名の参考人の方にも、きちっとその辺は押さえていただきたいということを要望しておきたいと思います。#58
○登坂委員長 以上で参考人に対する質疑は終わりました。参考人の皆様方には、貴重な御意見をお述べいただき、ありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
午後一時に委員会を再開することといたし、この際、休憩いたします。
午後零時十二分休憩
────◇─────
午後一時三分開議
#59
○登坂委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。内閣提出、特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案及び特定不況地域中小企業対策臨時措置法の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。
午後からの参考人として、上智大学法学部教授松下満雄君、経済団体連合会産業政策委員長河合良一君、日本アルミニウム連盟副会長林健彦君、日本製紙連合会副会長河毛二郎君、石油化学工業協会副会長吉田正樹君の五名の方々の御出席を願っております。
この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
本委員会におきましては、目下、特定不況産業安定臨時措置法の一部を改正する法律案及び特定不況地域中小企業対策臨時措置法の一部を改正する法律案について審査を行っておりますが、参考人各位におかれましては、両案について、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、今後の審査の参考にいたしたいと存じます。
なお、議事の順序でございますが、最初に御意見をそれぞれ十分間程度お述べいただき、次に委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
それでは、まず松下参考人にお願いいたします。
#60
○松下参考人 松下でございます。私、独占禁止法の関係の研究を中心にしておりますので、きょうは主に、このたびのこの法案と独禁法あるいは独禁政策の関係、この辺を中心に申し上げることにいたしたいと思います。
そこで、まず全体として見ました場合に、この法律案は、基本的には構造不況業種と独禁政策の調和を図ったものである、こういうことで評価できるというふうに私は思います。
この法律によります構造改善基本計画というものを見ますと、大きく分けまして二つ、政策手段あるいは法的手段が用意されておると思います。一つが指示カルテルで、もう一つが事業者による事業提携計画、これを政府が承認する、こういうものでございますが、この中で、特に事業提携計画のところは、現在の特安法にない新しい考え方が導入されておる、特に私はこの点を評価したいというふうに考えております。
この事業提携計画の方式を検討いたしますと、結局は、独禁法の範囲内で市場メカニズムをできるだけ生かそう、そして、その市場メカニズムにできるだけ乗りながら積極的な産業調整を行おう、こういうものであるというふうに私は思いますので、基本的には独禁政策と矛盾するとは言えないであろう、こう思います。
それから、もう一つは公正取引委員会との関係でございますが、公正取引委員会もいろいろな形で意見が言えるようになっておりますし、また、主務官庁も公正取引委員会と調整しながら施策を進めていく、こういう仕組みになっておりますので、私は、基本的には、独禁政策とこの法案に盛られている考え方は矛盾することはない、このように考えてよろしいのではないか、こう思われます。
それから次の点でございますが、国際的に見ました場合に、OECDの積極的調整政策、PAPというものがございます。世界各国、特に先進国におきましても構造不況業種の問題があり、どのようにこれに対処するかということは世界各国で大きな問題となっておるわけでございますが、これにつきまして、産業政策が余りにも保護主義的にならないように何とか一つのコンセンサスが必要だということで、OECDの場で積極的調整政策というものが打ち出されておるわけでございます。
この基本構想は、詳しくは申し上げませんが、簡単に申しますと、できるだけ市場メカニズムを生かす、そして最小限の政府の介入によって調整政策をやっていこう、貿易あるいは資本の移動等については自由を維持しょう、こういう精神に基づいておると思います。そこで私が思いますには、このたびのこの法案は、基本的にはOECDの積極的調整政策、PAPの考え方にも沿っておるのではないかと思います。
ここで、細かい点を一点申し上げて終わりたいと思います。
それは、この法律の運用で重要なのは、結局は産業政策と独禁政策の調和ということでございますが、具体的には、この事業提携計画というものの実施をどういう方法で行うか、こういうことでございます。
これにつきましてはいろいろ手段が用意されておりますが、この中で重要なものの一つとして、会社の合併あるいは営業の譲り受け等の問題がございます。そこで、これにつきましては主務官庁が公正取引委員会に対しまして、どういう基準で合併等の問題について独禁法上の判断をするか、これについてガイドラインを出す、こういうふうになっておるわけでございます。このガイドラインをどのように出すかということが、私はきわめて重要ではなかろうか、このように考えております。
そこで、これについて若干コメントいたしたいと思いますが、基本的には、素材産業等の構造不況業種の特殊性、こういうことを重要視すべきであろう。
ここで、たとえばアルミにせよあるいは石油化学その他、いわゆる構造不況業種と呼ばれておるものにつきましては比較劣位という問題があって、国際競争力の問題があるわけでございます。そうしますと、当然輸入品というものも入ってくる。そうすると輸入品あるいは輸入の圧力というものを加味してこの基準を立てる、こういったことも必要であろうかと思います。単なる国内における当該企業の、たとえば市場占拠率というものだけで判断するのは必ずしも妥当ではなかろう、やはりその辺は実態的判断というものがあってしかるべきではなかろうかと思います。
そこで、たとえばどういうような点を考慮すべきかということについてごく簡単に私の考えを申し上げさせていただきますと、この特定産業における事業提携の審査というものを独禁法上行う場合に、一つには、いわゆる業績不振というものがどのくらい深刻か、こういうことも、当然考慮すべきであろう。それからもう一つは、先ほど申し上げた外国製品との競争といったような、要するに国際的な環境の問題、こういった点を考慮すべきであろうと思います。それからもう一つは、当該製品の代替品が市場競争にどういう影響を与えているか、こういう点についても考慮すべきであろう。それから、当該問題となっている構造改善基本計画の対象となっております市場構造のもとにおいてはどういう競争状態が存在しているか、こういうことも考慮すべきであろう、こういうことでございます。
こういった点から見ますと、市場占拠率というものは非常に重要なメルクマールでございますが、これはやはり一つの手がかりでございまして、これに加えて、産業実態というものをよく検討した上で独禁法上の判断をする、こういうことが必要ではなかろうかと思われます。
会社の合併あるいは株式の取得などにつきましては、すでに公正取引委員会のガイドラインが出ております。このガイドラインも、市場占拠率二五%ということも言っておりますが、それだけで判断するということを言っているわけではなくて、やはり各種の経済の実態、産業の実態というものも考慮せよ、こう言っておるわけでございます。
そこで、基本的にはこの考え方を推し進めまして、この構造不況業種における特定の要因というものを加味してガイドラインをつくっていく、やはりこのようにする必要があるのではなかろうかというふうに思います。
ともかく、全体といたしまして、このたびのこの法案でございますが、一応独禁法の枠内で産業政策を実施する、こういうもので、産業政策と独禁政策の調和ということが実現されるようにできておるということで、私としては、この点でこの法案は大変結構なものである、このように考えておるわけでございます。
簡単でございますが、これで私の意見を終わらせていただきます。(拍手)
#61
○登坂委員長 ありがとうございました。次に、河合参考人にお願いいたします。
#62
○河合参考人 本日は、いわゆる特安法の改正問題を含めて素材産業問題について、経済界の立場から考えを述べさせていただきますことは非常によい機会だと思って、感謝いたしておる次第でございます。わが国の素材産業は、二回の石油危機に伴いますエネルギー・原料コストの高騰によりまして、最近急速に国際競争力を失いつつあり、多くの業界では輸入の急増に見舞われておるというのが実際の現状でございます。
また、需要が低迷する中で過当競争が激化しておりまして、これが企業の体質を弱めて、このため、多くの素材産業では工場閉鎖が相次いでおりますし、中には産業としての存続すら危ぶまれているものも出ておるのが現状でございまして、ここらの点についてはすでに御承知のとおりでございます。
経団連といたしましても、このような素材産業の現状を放置すれば、問題は当該産業のみにとどまらず、そのユーザー業界、ひいては日本経済全体に重大な影響を与えるおそれがあるということで、私が委員長を務めております経団連の産業政策委員会を中心に、一昨年の秋以来検討を続けてまいった次第であります。そして昨年五月には、「個別産業対策に関する要望」という書類を、また、十二月には「わが国経済における素材産業の重要性」と題する要望意見を取りまとめ、素材産業に対する適切な対策の実施を関係方面にお願いしてきたところであります。
経団連といたしましては、エネルギー・原料コストの低減、過当競争を自粛し、業界の構造改善を進めるための独禁政策との調整、そして業界によりましては、緊急避難対策としての輸入適正化対策の三点が素材産業対策の重要なポイントであるという考えを持っております。
今回の特定産業構造改善臨時措置法案は、そのうち、特に独禁政策との調整に焦点を当てられたものと理解しております。素材産業など構造的な不況に見舞われている業界は、慢性的な需要低迷の状態に対処いたしまして、今後業界の協調により構造改善を積極的に進めていかねばなりませんが、現行独禁法のもとでは事実上それは不可能でございます。私どもといたしましては、独禁法並びにその運用を根本的に見直し、低成長時代に即応した独禁政策を確立することが何より基本的に重要なことだということを考えております。しかしながら、当面の素材産業の構造改善は非常に急を要しますので、とりあえずの対策といたしまして、特安法を改正、延長して、時間を限って素材産業の構造改善のための条件を整備する必要があると思っております。この意味で、改正法案を今国会においてぜひ成立させていただきたいと考えておる次第でございます。
改正法案では、過剰設備の処理と設備投資の制限のための指示カルテルを現行法どおり独禁法の適用除外にいたしますとともに、新たに業界が共同販売や生産の受委託の事業提携を進めるに当たりまして、通産大臣と公正取引委員会の間で協議する制度を設けることになっております。この制度を通じて、通産省と公正取引委員会が緊密に連絡をとりつつ、独禁政策が業界の実情に即して弾力的に運用されるようになりますと、業界の構造改善もそれだけ進むことになろうと存じております。通産省と、特に公正取引委員会に期待するところが大きい次第であります。
また、改正法並びにその運用につきましては、業界の自主性を十分尊重し、官僚統制を避けることが構造改善を円滑に進める上で非常に重要であろうと存じます。この点につきましては、改正法案では、法律の対象業種への指定は業界の申し出を前提としておりますし、また、事業提携計画の大臣への提出については、これを義務づけではなく、提出するかしないかは業界が自主的に判断する仕組みになっております。また、当初考えられておりましたアウトサイダーに対する勧告制度は結局見送られることになったということでありますので、少なくとも法律の上では業界の自主性が確保されていると考えております。
しかしながら、現行の特安法でも法律の上では業界の自主性が確保されておるわけでありますが、実際の運用についてはこれを懸念する向きもないではない、そういった声もございます。
今後の新法における自主性の確保という点につきましても、その法律の運用に当たりましては、この点十分御配慮いただければ幸いと存じております。新法におきましてはいろいろその点配慮されて考慮せられておると存じますが、一層その点いろいろ御配慮願いたいと考えております。それと同時に、やはり当該産業自身が不退転の決意を持って自主的に構造改善に取り組んでいくことが基本的に大事なことであります。企業の自己責任を徹底させることが官僚統制の弊害を生じさせない前提であると思う次第であります。いずれにいたしましても、産業界といたしましては、こうした自立自助の精神で構造改善を進める覚悟でございますので、御理解、御支援のほどをお願い申したいと存じます。
次に、冒頭述べましたように、多くの素材産業では、国際競争力の弱体を反映して輸入が急増して、これが業界の構造改善にとって支障になっている面があります。御承知のとおり、ガットでは輸入が急増して国内産業に重大な損害を与える場合にはセーフガード措置を講ずることが認められております。また、ダンピングなど不公正な輸入については対抗措置をとることもガットで認められておるわけであります。わが国といたしましても、こうした要件を満たすケースにつきましては、あくまで緊急避難措置として、国際的に認められた手続に従って輸入安定化措置をとることも考えてよい時期に来ているのではないかと思われます。この点で、わが国の場合は、こうした措置を実施するための国内手続すら十分整備されておらないということを聞いております。
わが国が輸入適正化対策を実施することは、通商摩擦をますます激化させることになるとの批判もあろうかと存じますが、輸入製品に対する通関手続の簡素化や農産物等の段階的自由化、流通の合理化など市場開放を思い切って進めていくことが必要でありまして、このような努力が払われれば、国際的に認められた輸入適正化措置を実施するための国内手続のようなことは当然整備しておくものであり、国際的にも理解を得られるものではないかと考えております。先般、政府におきましても、輸出入取引審議会の場で本問題につきまして検討を開始いたしましたが、おくればせながら大変結構なことだと考えております。
最後に、エネルギー・原料コストの問題について触れさせていただきたいと存じます。
申すまでもなく、わが国の素材産業が苦境に陥っている最大の要因は、エネルギー・原料コストの高騰であります。私どもは、この問題の根本的な解決を図らない限り、素材産業の苦境は打開できないのではないかと考えておる次第でございます。
この問題につきましては、石油ショック以降、原油自体が世界的に高くなったことはやむを得ないといたしましても、問題は、わが国の場合、原油価格の安かった高度成長時代にさまざまな制度がつくられ、それが今日まで続けられてきたことによって、産業のエネルギー・原料コストが結果として人為的に押し上げられてきているということであります。したがって、これを除去、是正していく必要があろうかと存じます。
経団連では、このような観点から石油諸税の軽減、特に諸外国に例を見ない石油税や原油関税の撤廃、電力関係諸税の減免等を関係方面にお願いしておるところでございます。幸い、石油化学産業につきましては五十八年度から石油税の負担が実質的に免除される予定となっておるようでありますが、その他につきましては残念ながらわれわれの要望はいまだ実現していないのが実情であります。それどころか、むしろ原油値下げに伴い、石油税の税率引き上げというような議論も一部にあるようでありますが、エネルギーについては単に量的な安定供給の確保だけでなく、コストの削減が重要な政策課題になっております今日、石油税増徴等のエネルギー課税強化はまさに時代に逆行するものであり、私どもとしては絶対に反対でございます。
電力につきましては、これまで電力需給調整契約の拡充等の措置が講ぜられてまいりましたが、もはやこれだけでは電力多消費産業の生産の縮小に歯どめをかけることは困難な状況でございます。欧米各国に比べて電力料金コストは非常に格差がございまして、日本が異常に高い状況になっておりますので、これを何とか是正する見地から、この電力料金コストの抜本的検討並びに電気料金体系のあり方について、またいろいろ御検討願いたいということをお願いする次第でございます。
以上、エネルギーコストについて私どもの考えを述べさせていただきましたが、今後原油の値下げというような新しい情勢をも踏まえて、エネルギーコストをどのようなかっこうで引き下げていくか、経団連といたしましても積極的に検討していきたいと存じております。立法府を含め関係方面におかれましても御検討いただければ幸いと存じます。
以上、新特定産構法に賛成いたしますと同時に、また素材産業を取り巻く環境につきましていろいろなお願いをする機会をいただきましたことをお礼申し上げて、私の陳述を終わります。ありがとうございました。(拍手)
#63
○登坂委員長 ありがとうございました。次に、林参考人にお願いいたします。
#64
○林参考人 林でございます。日本のアルミ事業、特にアルミ製錬につきましては、日ごろ先生方に多大の御高配をいただきまして、まことにありがとうございます。この席をかりまして厚く御礼申し上げます。
さて、アルミニウム製錬業につきましては、過去二回にわたります石油ショックによりまして、電力エネルギーの大半を重油に依存しておったために、エネルギーコストが高騰いたしまして著しく国際競争力を失ってしまいました。こういう構造的要因を抱え込むに至りました。さらに、アメリカを中心にした長期間にわたる国際的な需要の低迷という景気循環要因が重なりまして、加えて、アメリカにおいて減産開始がおくれたということもございまして、国際間の地金の在庫量が異常にふえてしまいまして、三百万トンを自由世界で上回ってしまいました。したがって、国際市況もアルミ地金トン当たり、昭和五十四年千六百八十九ドルでありましたのが、五十七年の六月には千ドルを割るような九百五十ドルという異常な値下がりを示しております。このために、最盛期には六社十四工場で百六十四万トンという設備能力を持っておりましたわが国も、今日では五社七工場と工場数が半減いたしまして、したがって従業員も半減してしまいました。したがって、操業度も現在三五%という低操業率を維持しておるような始末でございます。したがって、各企業の採算は極度に悪化いたしまして、五十六年の累積赤字が七百億を超してしまう。今年度の決算、全部が終わっておりませんけれども、累損で一千億になんなんとするような状態でございます。
しかしながら、昨年末ぐらいから、米国を初め先進諸国で需給の関係が少し好転をしてまいりました。それは、アメリカを中心にして減産を非常に強化いたしました。そこへもっていきまして、アメリカの景気が幾分立ち直りの気配を示してきまして、本年一月における受注量も六十一万トンという、不況前のピークに匹敵するような高水準になってきましたので、自由世界の地金の需給は、価格動向とあわせて正常化の兆しが見え始めております。
さらに、最近の原油価格の値下がり動向の影響などを勘案いたしますと、わが国のアルミ製錬業にとりまして、構造改善を進める環境は、徐々にではございますけれども、好転しつつあると考えられます。
私たちは、現行の特安法のもとで構造改善を進めておりまして、御承知のように百六十四万トンを百十万トンの設備能力にし、また七十万トンの設備にまで廃棄をいたしました。しかしながら、現在のこの苦境の構造的要因というのは、まず、重油火力発電に大きく依存しておるというこの生産体系が、石油危機以降その適合性を失ったということが考えられます。またもう一つは、膨大な借入金、これは各社全体で九千億以上の借入金を抱えておりますけれども、この金利負担がきわめて大きい。この二つの問題がやはりわれわれとして、覆いかぶさっておる重荷でございます。
したがいまして、業界各社におきましては、関係グループ会社の協力も得ながら、金利負担軽減のための減資、増資あるいは遊休資産の売却等の財務対策を進めているわけでございますけれども、今後とも、この新法のもとで創設されることになっております各種の金融上の措置を活用しながら、さらに再建を加速していきたい、こういうふうに思っておるところでございます。
さらに、電力コストの問題でございますけれども、この解消を図るためには、短期対策として重油依存型の共同火力発電の石炭転換を行うとともに、中長期的には、電力依存から脱却するために、電力を必要としない新しい製錬法の開発を、現在、関係御当局並びに関係者の御協力を得ながら進めつつあるところでございます。
こうした措置によりまして、国内製錬業の活性化を図るとともに、産構審の答申にもございますとおり、比較的安価な地金供給源を確保すべく開発輸入などを引き続いて推進することによりまして、総合的な地金コストの低減を図って、国内需要家各位に対する安定供給の責任を果たしていきたいと考えておるものでございます。
このようにわが国のアルミ製錬業は、構造不況業種の中でも最も深刻な事態に立ち至っておりまして、現行の特安法下、業界一丸となり、自立基盤確立のための構造改善に取り組んでおりまして、現在はその途上にあります。
今後とも、業界といたしましては構造改善に全力を挙げて取り組む所存でございますが、そのためには旧特安法にかわる新たな指針がどうしても必要でございまして、ぜひとも新法を一刻も早く制定していただきたいと存ずるものでございます。
今回の新法は、従来の特安法の設備処理というものに加えまして、活性化投資、あるいは技術開発を促進するためのスキーム、さらにはこれらのための財務、税制、金融上の支援も盛り込まれた総合的なものとなっておりまして、われわれが構造改善に取り組む上での強力なバックボーンとなるものと期待しております。
また、関係者の支援、協力を得ていく上でも、新法のもとで、アルミ製錬業の将来像に対するコンセンサスを形成していくことはきわめて重要なことと考えておりますので、ぜひとも新法の早期成立につき御配慮いただきたいと深くお願いを申し上げます。(拍手)
#65
○登坂委員長 ありがとうございました。次に、河毛参考人にお願いいたします。
#66
○河毛参考人 河毛でございます。最初に、紙パルプ産業を代表いたしまして、非常に重要な政策課題であります構造改善について意見を申し述べる機会を与えていただきまして、厚く御礼申し上げます。
時間も限られておりますので、なるべく要点のみをお話しいたしたいと思います。
まず最初に、紙パ産業の問題点というのはどういうところにあるかということを申し上げますと、四つばかりございます。
その第一点は、紙・板紙の内需の伸びが非常に低迷しておるということでございます。数字で申し上げるとわかりやすいと思いますが、オイルショックを境にいたしまして、前の十年間で紙・板紙の需要は大体年九%伸びておりましたが、オイルショック後の十年間を見ますと、年の需要の伸びというのはわずかに一%でございます。昨年と一昨年とを比べましても、需要の伸びというのは一・八%ということでございます。先行きはどうかということがもう一つございますが、今後十年間ぐらいを産構審のいろいろな調査でやりましたが、これも大きな伸びはない、まあせいぜい二%ぐらいということで、この国内需要の低迷というのは相当長期間続く。
これにはいろいろな原因がございますが、一つは、オイルショック後の一般的な経済の減速ということと、それからやはり、紙の使用の合理化というようなことがいろいろなかっこうで起こっているということが原因である、そういうふうに考えております。
その次に、それでは供給サイドの問題はどうかということでございますが、オイルショック後の十年間を見まして紙の伸びは、先ほど年一%と申し上げましたから、九年間で九%ぐらい伸びているわけでございますが、この間に設備能力というのは約三四%伸びております。したがって、供給の伸びの方が需要の伸びをはるかに上回っているということで、この辺に一つ、需要と供給のアンバランスが出てくるわけでございます。
この間になぜこれだけ供給が伸びたかと申し上げますと、後でも申し上げますが、やはり国際競争力その他で、われわれは設備の近代化、合理化をやらざるを得ないということが一つございます。それから、コストの関係で、どうしても紙の中で高付加価値品を指向するという傾向もございます。こういう合理化投資をやりますと、どうしても量の問題が伴ってきて、やはり需給ギャップが出てきたということでございます。
そこで問題は、こういうふうな大きな需給ギャップというのは、ノーマルな形の市況メカニズムでこれを調整するというのはもう不可能な段階に来ている。現在、紙パルプの操業度は、平均的に申し上げますと、大体七〇%前後というところでございます。したがって、この過剰設備を今度の新法その他の御援助で一日も早く解消して、需給を調整した上で、需給関係を正常なメカニズムに戻していくということが非常に大事な問題だということでございます。
その次に、国際競争力との関係が一点出てまいりますが、それでは、紙・板紙のコストの中で、コスト構成を見ますと、実は原料費とエネルギー費の割合が非常に高うございます。昭和五十六年の十七社の平均で、コストの中でエネルギー費の占める割合が二〇%、それから原料費、これは木、チップとお考えいただいていいですが、これが四〇%、したがって、原料とエネルギーでコストの六〇%を占めている。
御承知のように、このエネルギーにつきましては、もう説明するまでもなく、オイルショック後、重油価格で八倍ぐらいの値上がり、電力でも五倍ぐらい上がっているということでございます。それから原木につきましても、最近の四、五年間を比べても、ピークで七割ぐらい上がっております。ちょっと下がりましたが、現在でも五割ぐらい上がっているということで、逆に、外国とのエネルギーあるいは原木の比較をいたしますと、簡単に言いまして、原木の場合、日本では原木費が外国の倍だ、そういうふうにお考えいただきたいと思います。エネルギーの場合は、大体カナダが日本の半分、アメリカが日本の七割ぐらいというところでございます。
したがって、ここに、最近値段の方がそういう需給関係でなかなかはかばかしくないということになりますと、こういう低グレードの紙、要するにコストと価格の間の差の少ない大量生産品種、われわれの方ではクラフトとか新聞とか呼んでいるそういう紙でございますが、この辺の国際競争力というのは非常に微妙な関係になってきているということでございます。
事実、ここ三年ぐらいの紙・板紙の製品としての輸入の統計を見てみますと、大体五年前の三倍ぐらいに紙・板紙の輸入品がふえてきております。幸い、日本の場合にはこの輸入品の全体の需要の中に占める割合というのはわりに低くて、四%ぐらいでございますが、それにしても五年間で三倍になるというのは非常に大きな比率で、昨年も三割ばかりこれがふえているということで、これは主として、先ほど言いましたクラフト、新聞というふうな大量生産品種でございますが、こんなような動向が今後徐々に進展していくのじゃないか。だから、国際競争力というのは今後非常に問題になる。したがって、私ども、これに対抗するいろいろな手段を講ずるときに、やはり構造改善、設備廃棄というふうな方法によってコストを下げていくというのが一番有力な手段だということを、ここで申し上げておきたいと思います。
逆に、日米間の貿易摩擦という問題がございますが、この中でも、アメリカの方から、ぜひ日本の方で市場を開放してくれという要求の中に、やはり紙パルプが入っております。これはアメリカ自身に言わせれば、彼らの方に競争力が非常にあるという意味でございますが、わが方でもやはりそういう強い品目なので、関税の引き下げというふうな措置も余儀なくされているというふうな状態でございます。
大体、現在紙パルプが抱えている問題と構造改善との関連を簡単に御説明いたしました。
それで次に、じゃ、そういう問題点に対して業界として一体どういうことをしてきたかということでございますが、実は業界は業界なりに需給均衡政策というものを幾つかこの二、三年やっております。
ちょうど昭和五十六年に、私ども紙パルプの市況が非常に混乱いたしまして、そのときに、特に不況品種を見ますと、大体二割ぐらい値下がりをいたしました。そこで、そういうような事態に対応して当然需給の均衡を図らざるを得ないのですが、やはりこれはわれわれ業界で勝手にするわけにはいきませんので、まず独禁法に基づく不況カルテルの申請というのを五十六年の五月から十二月まで、対象品種は上質コート紙、クラフト紙、一部は二月までやった。それからその後も、これは不況カルテルとしてではございませんが、いわゆる行政指導によるガイドラインということで、これは需要家の方も御参加願いまして需給協議会というものをつくって、そこで大体需要を決めて、メーカーはそれに従って生産をしていくというふうなかっこうでの需給均衡を図ってきております。同時に、一昨年の九月から二年間、新増設は一切抑制する、これも行政指導というかっこうでやられております。
一方、紙にはもう一つ板紙という大きな分野がございますが、これは昭和五十四年に現在の特安法に基づく過剰設備の廃棄をやりまして、大体そのとき一五%ぐらい廃棄をいたしましたが、そのような措置をすでにとっているという状況でございます。
一方、こういう法律あるいはガイドラインに頼る方式ではなくて、みずからの手でも故紙の利用の拡大、要するに原木が非常に高いので、いわゆる故紙を再生して使うということは非常に重要なことです。
これは御参考までに申し上げますが、昭和五十年ごろには故紙の使用率は三九%であったわけですが、いまは一〇%伸びて約四九%ぐらいになっております。それから新聞故紙だけに限りますと、同じく昭和五十年で五四%ぐらいのものが現在は八七・八ということで、故紙の回収としては考えられるだけの回収をやっているという状況でございます。
それから、やはり外国からの木がどうしても高いということになりますので、国内材へのシフトということをやっております。これもかなり大きな成果を上げております。
それからエネルギーにつきましては、単価の高いのはしょうがありませんので、これの原単位を上げるとか、重油の使用量を減らすとか、そういう努力をして、原単位については、四十八年に比べて現在約七七・八%になっております。それから重油の使用量は約六六%、オイルショック前よりも減っているということで大きな効果を上げております。
しかし、何といいましても、これらのことをやっても基本的にコストを下げる要件は、先ほど言いましたように、過剰設備の廃棄、それによるコストの上昇、あるいは陳腐な機械の廃棄と生産性の高い近代設備の活用というようなことが、今後大きな決め手としてまだやらなければならない点だということでございます。
このほか、ある程度グループ別での企業の集約化であるとか、それから大事なのは技術開発、特に省エネ関係の技術でございますが、これも製紙技術研究組合というようなものを創立いたしまして、エネルギーの使用を飛躍的に少なくするようなパルプ工程あるいは抄紙工程の新しい技術開発をやっているということでございます。
以上が最近の業界の情勢でございますが、そのような手を打ちました結果、洋紙につきましては大体小康を得てきたという状態でございます。しかし、これも小康を得たということでございまして、実は紙パルプの低収益性というのは依然としてこういう状態でも残っておりまして、われわれは製造業平均の収益率であるとか自己資本比率というものを常に見ておりますが、大体いま小康を得たといっても、製造業平均の利益率の紙パルプは半分ぐらいだ。ひどいときは三分の一ぐらいだった。それから自己資本比率も大体いま製造業平均で二〇%ぐらいになっていると思いますが、紙パルプの場合は悪いときに半分、現在でも一二、三%ということで、やはり収益性に大きな問題がございます。特にダンボールにつきましては一五%の設備処理をやって、その後非常に調子がよかったのですが、昨年あたりからやはり需要の低迷というのが設備処理よりももっと大きくて、非常に市場が混乱いたしまして、相当の会社が赤字だというふうな状態で、現在の状態は必ずしも楽観を許さない状況でございます。したがって、まず過剰設備の廃棄をやることによって市場メカニズムが働くような需給状態、需給関係にすることが一つ。それから、過剰設備を廃棄することによって市況の安定を図って、先ほど言いましたように、少なくとも世間並みの収益構造、財務構造になるような産業にすることが一つ。それから、設備廃棄をすれば当然稼働率も上がりますので、これは固定費の節減その他コストの低減につながりますし、あるいは高能率の設備を使うことによって能率が上がっていくということになって、さらに、先ほどからお話があるように、こういう環境が整えば、将来、国際競争力というものを頭に入れていろいろな活性化投資もできる、あるいは省エネ投資ももっとできるというようなことで、私どもはその問題がいま一番大事だというふうに考えております。
いま政府によって用意された新しい産構法というものは、そういう意味で、私どもにとっては非常に願ってもない機会でございますので、ぜひこの法律を一日も早く実現していただいて、われわれの念願である過剰設備の処理を一日も早く軌道に乗せて、この業界を正常な安定した業界にしたいということが私どもの願いでございます。
同時に、企業の集約化その他の問題も、紙パルプというのは実は五百八十社ございまして、一番大きいのが王子製紙でございますが、その持っているシェアも一〇%ぐらいのものでございます。したがって、ある程度のグループ化、集約化ということも同時にやらなければならないということで、これも法律によって促進されるのじゃないかと大いに期待いたしております。
それから、一部特殊な問題でございますが、実はアウトサイダーの問題がございます。これは法律的にはなかなかむずかしい問題のようでございますが、実態面ではアウトサイダーの動きというものが、私どもがやっておりますこういういろいろな対策に非常に大きな支障を来すことがございます。したがって、法律の問題というよりも、実態面で実効のあるいろいろな措置ができないものかということを私ども念願しておりますので、この機会に申し上げておきます。
それからなお、新法の運用、策定等については、業界のこういう現実というものをよく頭に置いていただいて、弾力的な運用ができるような法律であってほしいということを念願いたしております。
いろいろなことを早口で申し上げまして、わかりにくかったと思いますが、以上をもって私の説明にかえます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
#67
○登坂委員長 ありがとうございました。次に、吉田参考人にお願いいたします。
#68
○吉田参考人 石油化学工業協会の吉田でございます。平素、石油化学工業に対しまして多大の御指導、御援助を賜っておりまして、この席をかりまして厚く御礼申し上げます。
それでは、まず石油化学工業の現状について簡単に申し上げまして、後で新法に対する意見を申し述べたいと思っております。
まず、石油化学の国民経済上の位置づけでございますが、現在の日本の石油化学工業は、出荷額で言いますと約九兆円でございまして、これに、関連いたしますプラスチック製品の製造業、いわゆる加工屋さん、それから化学繊維の製造業、そういう出荷額を含めますと約十五兆円でございます。その程度の規模でございます。
それから、さらに従業員では現在十四万人を抱えておりまして、これもプラスチック製品の製造業それから化学繊維の製造業を入れますと約五十万人ということでありまして、現在、石油化学工業は化学工業の中核的存在となっておりまして、国のいわゆる基礎素材産業となっております。
ちなみに、高炉製鉄業は出荷額が七兆円、従業員数が十四万人でございますので、大体石油化学トータルと同じような規模、石油化学工業は大体鉄と同じような規模と御理解願っていいと思います。
石油化学はこういうような産業でございますが、そのほかに、地域にも非常にいろいろな役割りを果たしておりまして、石油化学コンビナートと申しておりますけれども、そのほとんどが全国各地のそれぞれの地域の中核的な市町村に存在しております。これらの地域で、雇用、それから購買力の喚起、財政等につきまして、直接間接に大きな貢献をしておると思っております。
さらにまた、石油化学工業の関連産業でございますプラスチック製品製造業、これはさらに全国に幅広く存在しておりまして、それらのおのおのの地域で大事な役割りを果たしているのじゃないかと思っております。
こういうのが石油化学でございますが、現在、日本の石油化学は非常に不況で呻吟しておりますが、その問題点を四、五述べてみたいと思います。
まず、一番大きな問題点は原料ナフサの価格でございます。石油化学工業の出発原料でございますナフサというものがございますが、これは二度にわたります石油危機で、昭和四十八年から比較いたしまして約九倍に上昇しております。これが日本の石油化学工業に非常に大きな影響を与えまして、現在では石油化学工業の製造原価に占めます原料費の比率は七割まで上昇しております。
ところが、われわれの使用いたしますナフサ価格がそういうふうに上昇したのですが、われわれ石油化学は絶えず世界と自由な競争をしておるわけでございますが、アメリカ、カナダ等の石油化学はエタンを原料としていまして、エタンはある程度政策的な値段で決まっておりますので、この格差が年々開いておりまして、それによって日本の石油化学工業の国際競争力は非常にダウンしている。そして、いま需要が減退するし不況になっているわけでございます。これがまず一つの問題でございます。
次に、こういうように国際競争力がなくなりまして需要が減ってまいりましたので、日本における石油化学製品の生産と稼働率が非常に減ってまいります。この辺の状況をちょっと申しますと、昭和五十五年の半ばぐらいから内需、輸出とも、アメリカ、カナダの輸入品の急増によりまして大幅な落ち込みを続けておりまして、石油化学の中心でありますエチレンで見てみますと、昭和五十五年度は二〇%前年度より減っております。それから五十六年度はさらにまたそれより七%と、毎年毎年生産量が減っております。こういうことで、現在、日本の石油化学の稼働率と申しますのは六〇%を下回っておりまして、完全に収益分岐点の下に参っておりまして、石油化学の収益は非常に低下しております。さらに今後の予想を見てみますと、昨年行われました通産省の産業構造審議会でも、昭和六十年度になりましても生産量は大体現在の規模であろうということでございまして、当分の間六〇%を下回る稼働率が続くというような状態に陥っております。
それから、輸出入についてもう少し申し上げますと、いま申しましたように、アメリカ、カナダの石油化学の原料は天然ガスでございまして、これは両国が政策的に低く決めております。一方、われわれの使いますナフサは国際的に自由に入ってくるんですが、非常に高くなっております。そういう点で、さっき申しましたように国際競争力がおっこちまして、まず東南アジアのマーケット、これは昔はほとんど日本が供給していたわけでございますが、これがほとんどなくなりました。と同時に、最近では、日本における需要もかなりそれらの製品で代替するようになりました。いわゆる輸入がふえてまいりました。
そういうことで、昭和五十七年の上半期ではとうとう輸出入が逆転いたしまして、現在では輸入の方が多くなって入超になっております。さらに今後の見通しを見ましても、カナダ、サウジアラビア等では、安いエタンをもとにした石油化学のプラントの大増設がございますので、今後はさらにこの傾向は続くと思いまして、昭和六十年には現在の想定では大幅な入超に陥るんじゃないかという予想を立てております。
そういうことで需要量はどんどん減っておりますので、その結果、現在、日本の石油化学工業はいわゆる生産設備が過剰になりまして、これがコストを上げ、またいろいろな意味の過当競争の原因にもなっておりますが、これも昨年の産業構造審議会の化学工業部会で明らかにされました数字を見ますと、たとえばいま申しました石油化学のベースの製品で見ますと、エチレンは過剰率が約三六%になっています。さらに高圧ポリエチレンも三六%、中低圧ポリエチレンが二七%、スチレンモノマーが二七%、アクリロニトリルが三二%、エチレングリコール二七%という過剰率でございまして、非常に大幅な過剰設備を抱えている、そういうことが言えると思います。
そういうことで、現在、日本の石油化学企業の収益性は毎年毎年悪化しておりまして、五十七年度の上期では、もうすでに半期だけで約三百億を超える経常赤字を出しておりまして、下期においてはまたそれを上回る赤字額を出す状態になっております。
そういうことで石油化学工業は非常に不振な状況になっておりまして、今回この新法によりましてわれわれ体制整備をやりまして、石油化学の日本の国際競争力をぜひ強化したいと思っておりまして、今回の新法については全面的に賛成でございますが、この新法についての考えをもう少し述べさしていただきますと、われわれとしましては、新法の中で独禁法の適用除外がされていない点がありますので、その点では必ずしもわれわれ考えておりますように十分満足する案にはなっておりませんけれども、先ほど申しましたように、現在、日本の石油化学工業の体制整備は焦眉の急でございますので、これを円滑にやるためには早くこの法案が成立いたしまして、この法案に基づきまして、先ほど申しました過剰設備の廃棄その他を早くやりまして競争力の強化に役立てたいと思っております。
昨年の産構審の提言の中には、過剰設備の処理と活性化設備の新設、それからグループ化というものをうたっておりますけれども、現在われわれ石油化学業界ではこういうことはかなり検討しておりまして、そういうことの実現を現在自主的にやりつつございます。
たとえば、グループ化で言いますと、最近共販の会社の計画を出しておりまして、公正取引委員会にも問題を出しておりますが、まずこのグループ化を実現いたしまして、販売だけではございませんで、このグループ化を軸にいたしまして生産、流通その他の分野で思い切った合理化をしよう、これが日本の石油化学工業再建のかぎだ、こう思っております。
こういうグループ化を円滑に進めるに先立ちまして、やはり独禁法上いろいろ問題があるわけでございまして、そういう点で今回の新法におきまして産業政策と独禁政策の調整が図られて、われわれが考えておりますそういう設備の廃棄、グループ化、合理化が円滑に、しかも一日も早く行われるように、ぜひこの新法の早期成立を心からお願いしたいと思っております。
それからさらに、この運用についてでございますが、われわれはグループ化による事業提携ということを真剣に考えておりまして、現在いろいろ検討しておりますが、これらの事業提携が円滑にいきますように、そういう新法に基づく運用につきましては産業政策を十分配慮した適用をお願いしたい、こう思っております。
と申しますのは、たとえば市場占拠率の検討をする場合に、われわれの石油化学製品は輸入品の攻勢にさらされておるわけでございまして、さっき申しましたように、今後は輸入がどんどんふえる状態にございますが、そういう輸入品の状況を念頭に置いて市場占拠率を考慮するとか、さらに他の素材産業との競合関係、石油化学工業がつくりますものはいろいろなものとの競合がございますが、そういう競合関係についてもぜひ勘案していただきたいと思っております。そうすることによってグループ化による合理化が順調にいきまして、この石油化学産業の過度の縮小、ひいては雇用問題、関連中小企業及び地域経済への甚大な悪影響を回避すると同時に、石油化学工業産業そのものの再生の道を早く進めたいと思っております。そういう点で、この新法の運用につきましては産業政策を十分配慮した上でお考え願いたい、こういうことでございまして、そのためには業種別の競争の実態を配慮した判断基準の公表ができましたら非常に幸いだと思っております。
以上、石油化学の現状と石油化学の立場から新法に対する意見を申し述べました。(拍手)
#69
○登坂委員長 ありがとうございました。以上で参考人の御意見の開陳は終わりました
─────────────
#70
○登坂委員長 これより参考人に対する質疑を行います。質疑者に申し上げます。
まず、お答えをいただく参考人を御指名の上、質疑をお願いいたします。
なお、念のため参考人に申し上げます。
発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、時間の制約がございますので、お答えはなるべく簡潔にお願いいたします。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。原田昇左右君。
#71
○原田(昇)委員 参考人から大変有益なお話を承りました。私は各参考人にお尋ねしたいのでございますが、時間も限られておりますので、まくら言葉は抜きでそのものずばりでお聞きさせていただきますので、失礼をお許しいただきたいと思います。まず、松下教授にお伺いいたしますが、松下先生の御指摘になりました、特に重要なのは結局公取委員会の判断と申しますか、合併等の事業提携の審査に関する基準についてでございます。
御承知のように、今度の法律では、企業の合併あるいは事業提携については公取との間の調整が図られ、現行独禁法の範囲内で通産省との協議が行われることになっております。先生が先ほどお話しいただいた件については、すでに公取から大まかな基準として私ども、説明を受けたのでございますが、問題は、いま先生のお話にもありましたように、その基準が市場占拠率がまず二五%以上となる案件についても状況によって考えよう、こういうことにはなっておりますけれども、では一体どこまでなら考えてもらえるのかという点がどうもはっきりしないわけです。この辺について先生はどういうように御判断になっていらっしゃいますか。
それから、合併以外の事業提携についても合併に準じて考えるということになっておりますが、この辺はどういうようにお考えになっておりますか。
#72
○松下参考人 それでは、いまの点についてお答え申し上げます。確かに独禁法を施行する立場から見ますと、二五%というような数字があった方が適用しやすいということはあると思うのですが、二五%という数字がひとり歩きいたしますと、これはこれで問題が出てくるということでございます。
ただいまの御指摘は、それでは一体どういう状況を検討すべきであるか、こういうことだと思うのですが、先ほど申し上げましたような、当該業種で業績不振の企業がどのくらいあるか、これはたとえばアメリカあたりの独禁法でも、業績不振の会社同士の合併であれば認める、こういう判例なんかもございます。たとえばそんな点である。それから、外国品との競争では、これなんかマーケットシェアを判断する場合に非常に重要であろうかと思います。ある会社と他の会社が合併いたしますと市場占拠率が三〇%になる、この場合におきましても、その前提となる市場は国内における市場ということであろうかと思います。そこで、もし外国との競争を考慮いたしますと、これがあるいは一〇%になるかもしれませんし、それ以下になるかもしれない。そういうことで、外国との競争、特に外国から輸入されるもの、それから輸入される可能性のあるもの、つまり先ほどもどなたかお話があったと思うのですが、たとえば外国で過剰設備が存在しているとかあるいは外国で設備投資がずっと継続していたとか、こういうようなファクターも考慮すべきであろうと思います。
大きく分けますと、当該業界における不振企業がどういう状況になっているか、これを検討すべきであろうと思いますし、それから外国品との競争、それから代替品との競争、やはりこの辺を検討して、いわゆる市場占拠率だけでなくて判断をすることが必要であろうかと思います。
これらについて、それじゃこれが具体的にどういう数字になった場合に独禁法上違法にし、どういう数字であれば違法とすべきじゃないかということになりますと、そこまではガイドラインではなかなか示せないのではなかろうか、その辺になりますと、やはり実際の運用で行われる以外にないのではなかろうか、こんなような気がいたしております。
お答えになっているかどうかわかりませんが、そういうことでございます。
#73
○原田(昇)委員 いまのお話のとおりだと思うのです。要するに上限がはっきりしないというところが、企業のグループ化をやる方あるいは合併をする方にとっては非常に安心できないところなんです。いま、石油化学の吉田さんからお話がありましたが、グループ化をしたい、徹底的にグループ化をやるんだ、こういうことですが、ところでグループ化をやっていったらだめだということでは困るであろうと思うのですね。現にグループ化でだめになった例もあるわけであります。その辺を理論的に考えて、この辺ならいいということが言えるのかどうか。なかなかむずかしい問題ではあろうかと思いますが、そういう意味で御質問したわけでございます。
#74
○松下参考人 それでは、ただいまの点につきましてちょっと簡単に申し上げますと、基準がはっきりしないのは企業にとって非常に不安だということは十分にわかりますが、やはり独禁法というものは、もともと非常に変化する経済を相手にしておりますので、なかなかがちっとした細かい数字で決めるわけにいかないだろうと思います。そこで、いまの御指摘の問題点というのは、一応このような形である程度処理できるのではなかろうかと思うのです。つまり、提携の計画などをつくります場合に、これにつきまして公正取引委員会と通産省が協議をいたしまして、そこで一定のクリアランスをとる。クリアランスをとった上で、そのグループ化なり合併なり提携なりというものを行っていく。それである程度の予測可能性というものが確保できるのではなかろうかと思います。
そこで、この基準というものをあらかじめ余りにも細かく公表いたしますと、今度はそれに縛られてしまって、また不都合が出てくるということですので、ある程度ケース・バイ・ケースの判断が必要ではなかろうか。やはりこれは官庁間の調整でとりあえずやってみる、こういうことでいかがというような気がいたしております。
#75
○原田(昇)委員 ありがとうございました。次に、河合さんにお伺いいたしたいと思います。
先ほどのお話によりますと開放経済体制のもとで輸入の急増という場合に、たとえばガットのセーフガードあるいはアンチダンピングといったような手続が必要な措置をとるのに、日本は手続もできていない、これに対して措置をすべしという御指摘でございまして、これはまことにごもっともだと思います。われわれとしても、これはぜひ政府側に検討を強く要請したいところでございます。
しかしながら、そうは言っても、それは大変大事なことだと思うのですが、現在アメリカのUSTRあたりの動きを見ておりますと、何となく、今度の法律によって産業界が相当カルテルをつくって輸入を阻止するのではないかとか、あるいは日本はグループ内の流通というものをやることによって輸入品を差別してしまうのではないかというようなおそれを非常に抱いておるように見えるわけです。
そこで、産業界としてこの辺をアメリカに対しても世界に対しても、もっとPRをしていただく必要があるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
#76
○河合参考人 ただいまの御指摘、まことにごもっともでございまして、産業界としても、もっともっとそういった点をPRしていかなければならないと思いますが、実際の日本の開放体制は、二次産業、ことに二次産業の輸出の面で非常に開放体制が先に進んだわけでございます。輸入の方も輸出の方も、製品並びに企業自体といたしまして進んだわけでございまして、それに対して狭義の産業以外の面は必ずしもまだ開放されていない面もあるわけでございます。したがいまして、われわれ産業に従事しております者としては、極力そういったPRの努力はいたさなければならないと思いますが、国全体としてもう少し開放体制になることが必要ではなかろうかと考えております。たとえば産業、企業に関連いたす分野で申しますと、金融その他の面におきまして――金融と産業とは、金融の方がまだ少し開放体制がおくれておるのじゃないか。こういった面も開放していくことによって、とかく諸外国は、日本は保護主義、保護主義ということを前提として考えておりますので、PRすると同時に、実際にまだ十分開放されておらない部面を開放していく努力をどんどん続けていくべきだと考えております。
#77
○原田(昇)委員 林さんにお伺いしたいのですが、アルミ産業も最近になって非常に需給の改善が見られるという、大変明るいニュースを伺ったのです。依然として大変な借金を抱えて苦労をされておる点はまさに同情に値すると思うのですが、今後の市況の回復の見通しというのはどういうようにお考えになっていますか。いまの需給改善というのはかなり定着してくるというお考えでございますか。#78
○林参考人 お答えいたします。先ほどちょっと申しましたように、アメリカの金利が下がってきたにつれまして住宅の着工の件数がふえてきたということ、それから自動車の購買の意欲が出てきたということで、アルミの需要が幾分よくなってきております。
アメリカの内需の受注を見ますと、去年の十一月ぐらいからふえ始めまして、十二月はちょっと落ちましたけれども、一月が五十六万トンぐらい、これを単純に十二倍いたしますと六百七十万トン、これは一九七九年の、要するに不況前のアメリカの内需でございます。したがって、その点から考えますと景気がやや戻ってきたというふうに考えます。
ただ、日本の総需要を見ますと、どうも昨年の八月以来、対前年同月当たりの総需要は必ずしもふえておりません。横ばいでございます。したがって、いまの米国の国内の動きを見ると、景気はよくなって明るい。しかしながら、日本の国内の景気を見ると、必ずしもそれと本当に並行していきませんので、そこに一抹の不安はございますけれども、それとは別にIPAIの自由世界の在庫がここにきて三百万トンを割りまして、二百九十二万トンという数字になっております。自由世界の生産は、現在の月次の生産を十二倍いたしますと一千万トン、現在予想されております自由世界の需要は一千六十万トンから一千百万トンぐらいになるだろうと言われております。したがって、IPAIの在庫が今年末におきまして二百三十万トン、あるいはうんといけば二百万トンすれすれぐらいにいくのじゃないだろうかと思っています。この前非常にアルミが高騰したときがちょうど百四十万トンでございました。いまLMEというロンドン相場がございまして少し金融相場的な動きもございますので、私は必ずしも一直線にはいかないと思いますが、いまチェース、スペクターなどの予測を見ますと、この六月が千四百五十ドル、今年末が千六百ドルぐらいになるのではないかと言われております。したがって、もし本当に千六百ドルぐらいになれば、いま日本の国内の価格は確かに高うございますけれども、いろいろ開発輸入をやっておりますので、そういうものとプールすれば何とかペイラインに近いところへいくのではないだろうか。そして、来年と再来年が恐らくもっとタイトになりまして、アルミは相当高騰するのではないだろうかというふうに言われておりますので、その時期に現在のわれわれの負債あるいは借入金、こういうものをできるだけきれいな姿にするように努力していけば明るい見通しではないか、こういうふうに私は思っております。
#79
○原田(昇)委員 時間が限られておりますので、最後に河毛さんと吉田さんに一括してお伺いしたいのです。まず、紙パルプについてお話を承りましたが、特にアウトサイダーの存在というのが相当妨げになるということを、私も前から紙パルプについてはお伺いしておるのですが、結局、設備処理とか構造改善の妨げにならないか、この法律ではこのようなアウトサイダーを規制する主務大臣の措置がないわけでございます。これについて、行政指導によらざるを得ませんけれども、どういうようにお考えになっておるか。
それから、最後に、吉田さんにお伺いしたいのですが、特に、先ほどもお話ししたのですが、グループ化あるいは企業の合併といったような場合、この前何か、ポリオレフィンの七社による販売会社の設立が公取で許可されなかったですね。そういった例がございますので、独禁法との調整の新しいタイプのスキームが今度の法律ではできたわけですが、こういった例からいって非常に危惧の念を持っておられるのじゃないかと思うのです。むしろこの辺について、合併なりグループ化のガイドラインの考え方について何かお考えがございましたらお聞かせいただきたい。
#80
○河毛参考人 それでは原田先生、簡単にお答え申し上げます。われわれの方は、アウトサイダー規制というのは実質的に何らかのものが必要だと考えておりますので、方法はいろいろあると思いますが、できますれば、たとえば国会決議に基づく行政指導、こういう方法ができれば、そういうふうに考えております。
#81
○吉田参考人 グループ化につきまして、先ほどポリエチレンの七社の共販を申請したわけでございます。これはポリエチレンとポリプロピレンと三品目で共販会社をつくるということでやったのですが、シェアが四二%でやはり過大だということで、いろいろわれわれ説明したのですが、基本的にはもう少し考え直せということで現在再検討中でございます。それにつきまして、われわれは、四二%という表面の数字は多いのですけれども、たとえば、先ほど申しましたように石油化学ではいろいろな競合樹脂がございます。競合している樹脂を勘案いたしますと二四、五%になるわけでございまして、その辺、われわれとしてはもう少し弾力的な御判断を欲しかったということと、それから、たとえば昨年のことでございますが、ヨーロッパでBPとICIが塩ビとポリエチレンでいわゆる提携をしたわけでございます。その結果、ICIの塩ビのシェアが、イギリスでは七〇%のシェアになったのです。普通ならこれはだめなんですけれども、これをECということに広げますと一〇%になるということで、現実にBPとICIのいわゆる事業交換というものは成立したわけです。そういう点から見ますと、われわれ日本の石油化学は、隣に韓国、台湾がございまして、これはほとんど日本と同じようなところにございまして、そういう点で、この事業提携、グループ化については、そういう国際的ないろいろなファクターを配慮されるとか、それから輸入だとかそういった競合の製品、そういうものをぜひ今後御勘案願って、余りしゃくし定規じゃなくて、フレキシブルな運用をぜひこの新法に基づいて行っていただきたい、これを切望しております。
#82
○原田(昇)委員 どうもありがとうございました。#83
○登坂委員長 次に、清水勇君。#84
○清水委員 参考人の皆さんには、時節柄お忙しい中お越しをいただきまして、ありがとうございました。大変これからの法案審議に貴重な御意見をお聞かせいただきまして、お礼を申し上げたいと思います。大変短い時間ですから簡潔に承ります。新特安法について松下先生から所見を承りたいと思っておりますが、今度の法案の特色は、一口に言えば、主務大臣が事業提携計画を承認するという制度を導入したというところにあると思うのです。先生の先ほどのお話を承っておりますと、市場メカニズムを生かしながら独禁法の範囲内で進めるものであるから独禁政策と何ら矛盾をしないと述べておられるわけでありますが、実はこの法案が作成をされる過程を見ておりますと、そこに推進をされた産政局長もいるのですけれども、できれば独禁法の適用除外ということを強く主張をされていたわけでありますが、公取との話し合いの中で、独禁法の枠内で、こういうことになった。ある識者の意見を伺いますと、通産はまさに名を捨てて実を取ったのだ、今後の運用の妙に期待をするところが大である、こういうような言い方をしているわけなんであります。
そこで心配になりますのは、いわゆる競争政策と産業政策の調和をどう図っていくかという過程で、一口に言いまして、競争政策という立場から見た場合に、どうも先ほど申し上げたような発想を通じて運用の妙というところで一抹の危惧が起こりはしないか。こういう点について、つまり協議スキームというようなものを通しながらどういう歯どめをかける必要があるか、この辺ちょっと承りたいと思います。
#85
○松下参考人 それでは、お答え申し上げます。まず、ちょっと一般的なことを申し上げますと、私は、産業政策と独禁政策というのは長期的にはそう矛盾しないと思いますが、短期的な局面ではある程度緊張関係にあることもある、こういうふうに思います。
そこで、今回のこの大臣の承認という、これについてでございますが、やはりいま先生御指摘のように、運用のいかんによるというふうに思います。
そこで、従来公正取引委員会におきましても、独禁法三十数年ということでかなり運用経験もございますので、その運用経験から公取としては自分の立場としてぜひこれだけは守りたいというものはやはり大いに言うべきであろう。通産省はそれなりの立場から、またこれも大いに言うべきであろう。両方が大いに言い合った結果、結局そこで何か一種の均衡というかバランスが生ずるでしょうから、やはりその辺のところでやっていただくということではなかろうかというふうに私は思います。
#86
○清水委員 次に、過剰設備の共同廃棄という作業が五年間、これまで続けられているわけですけれども、現実には、先ほど来たとえば林さんから御指摘がございますような輸入圧力、河合さんから総括しておっしゃっておられました輸入の急増という現象、こういうものと相まって、一定の設備廃棄を通じて需給のバランスを確保するということで出発をした設備の廃棄ということが、二、三年経過をいたしますと再び輸入絡みで過剰という状況を再現する。大変厳しい環境に今日、業界の皆さんが置かれているということは、私もよく理解をしております。そこで、これまた松下先生に伺いたいのでありますが、ガットでは、自国の産業を防衛するために一定の保護政策を採用することを容認していると私は記憶しております。ところが、今度の新特安法に対して、USTR、アメリカ通商代表部のブロック氏が先般わが国で、どうも保護主義的であってけしからぬという筋合いの発言をされているのであります。これは、たとえば先ほど先生が触れられたOECDのPAP、積極的産業調整政策に沿う形でわが国は産業政策を新たに進めようとしているのだというのが通産側の説明であるわけなんですが、先生としては、いまの輸入圧力という問題を含めて、将来の需給関係の適正化というものを踏まえながらこうした問題についてどう対応することがよりベターなのか、こういう点で御所見がございましたら……。
#87
○松下参考人 お答えいたします。まずガットでございますが、ただいま先生おっしゃいましたのは、恐らくガット十九条のセーフガードのことであろうかと思います。そこで、ガットで認められておりますので輸入制限ということもその限りではできるのでしょうが、できるだけ短い期間に行うべきであろう。私は、輸入制限につきましては、ガット十九条によるよりもやはりダンピングあるいは補助金の支出などがあった場合に、ダンピング法あるいは相殺関税法、こういうものの適用でいくべきであろうと思います。
それからもう一つは、先ほどのブロック代表の発言等に関係した御質問でございますが私は、構造不況の対策というのは基本的には内政問題で、輸入にももちろん関係はございますが、どちらかというと基本的には内政問題であろう、こういうふうに思っております。そこで、わが国の現在のこの法案を見ますと、基本的にはやはりPAPの考え方とそれほど遠くはない、こう思いますので、この点から問題があるかどうかというと、私は必ずしもそうは思わないのでございます。
そんなようなお答えでございます。
#88
○清水委員 実は、先ほど来承っている御意見の中で、素材産業が共通的にエネルギー、電力コスト等の重圧のもとで難渋をしている。とりわけアルミのごときは電力の缶詰と言われるぐらいに電力多消費産業である、こういうところから、かつてわが党も政策電力料金制度といったようなものが導入できないかというような議論を起こしたことがあるわけでありますが、それはそれとしておきまして、実は午前中に労働組合関係の皆さんから、そうした意味の御提言もございました。しかし、共通して強調されておりましたのは、いわゆる産業政策の二次的なものとして雇用の問題が位置づけられているのでは困る、副次的なテーマとして雇用政策が考えられているのでは困る、こういうことを非常に強く求められているわけなのでありますが、この点だけ、経団連を代表されてひとつ河合参考人から前向きな所見を承りたい、こう思っております。#89
○河合参考人 大変基本的な御質問で、私どもといたしましては、二次的な雇用の問題は、やはり産業自体を十分維持することによって雇用も十分保障されるということに持っていくべきであって、雇用だけ単独の措置をとることは、これはいろいろな事情もあると思いますけれども、一般的な施策ではないと考えておるわけでございます。したがいまして、経団連として、産業といたしましてはなるべく、できるならば世界的に日本の産業がイコールフッティングな立場に立つということと、それから日本でことに弱いエネルギーの面、エネルギーの輸入、その輸入したエネルギーによってまた製造いたします電気であるとかあるいはエネルギーを、重油を原料として使う場合には、日本の国内に全く重油が出ない、全部輸入に頼るというような制約面から、こういった原料面あるいはエネルギー面につきまして、何とか日本の不利な立場をカバーするような措置をとっていただきたい。
具体的に申し上げますと、原料課税的なものはこれはひとつ何とか排除したい。代替エネルギーその他のために費用が必要なことは十分わかりますけれども、これは別の財源でカバーして、エネルギーのためにエネルギーに課税するということがないことが望ましい。そういうことで、また企業としても当然の合理化努力、技術開発はいたしまして、この企業自体を、何とかそういった努力のもとでりっぱに存続し得るようなかっこうにして、雇用問題も積極的に解決していくということが望ましいと考えております。
#90
○清水委員 どうもありがとうございました。#91
○登坂委員長 次に、水田稔君。#92
○水田委員 参考人の皆さん、御苦労さんです。一つは、この五年間、現在の特安法で二三%の過剰設備を処理してきた。石油化学、紙パはこれには入ってなかったわけですが、実際にはその事業はほぼ達成された。今日なおかつ不況。そして基礎素材産業並びにその関連で約四十万人の労働者が職を失った。これは一面、特安法というのがそういう点では効果がなかったのではないかという批判もあるわけです。この現状をまずどういうぐあいにごらんになっておるか。それ以外の要因が何かあって、この法律が運用されて実際には設備廃棄をされたけれども効果が十分上がらなかった原因について、これは経団連の方から代表で河合さんにお答えいただきたいと思います。
#93
○河合参考人 ちょっと、ただいまの御質問の趣旨が私どもよく酌み取れなかったわけでございますが、特安法の従来の設備の実際の経過でございましょうか。#94
○水田委員 廃棄は計画どおりされた、しかし、なおかつ不況が続いておる、労働者は四十万人も外へはみ出していったということについて、なぜそういうことになったのか。法律がまずかったのか、あるいはそれ以外の要因があったとお考えなのか、その点をお答えいただきたいと思うのです。#95
○河合参考人 申しわけない次第でございますが、私、ちょっとそこら辺のことを詳しく勉強してまいっておりませんが、事態の進行が特安法の成立いたしましたときと急速に変わってまいりまして、またいろいろ手を打っても、実際に現実の経済の状況の変化の方が予想外に急テンポに進みまして、すべてがなかなか追っつかなかった。それでは、特安法で設備廃棄をしなければどうだったかと言えば、恐らくもっとひどい状況になった。したがいまして、それなりの効果はずいぶんあったと思いますが、それ以上に事態の進展が急で、予想外の事態になったというふうに私、解釈しております。
#96
○水田委員 もう一つは、先ほどの御意見の中に、経団連とそれから石油化学工業協会の方から、独禁法の適用除外もしくは独禁法の運用の問題についての御意見があったわけですが、こういう意見もあるわけですね。本来、国際間の産業調整や国内の産業構造の転換という問題は、石油危機がたとえ起こらなかったとしても、通常の経済発展過程で絶えず発生する現象である。もう一つは、市場実勢に適応するように資本、労働、エネルギー等の生産要素投入量の組み合わせを変え、新たな市場環境下で成長が可能となるような方向を模索することが必要、こういう意見。これは独禁法の運用の問題との絡みで、本来それが――私どもも、現在五年間にわたって、本当に労働者ががんばってもがんばっても職を失っていく、そういう中で何とかしたいという気持ちでこの問題に取り組んでまいったのですが、先ほどの御意見を聞きますと、どうも法律に業界が頼っていこう、頼っていこう。大事なことは、ここにいま言われておるような、自分たちでとにかく生き残っていく、自助努力というのがそこにあって初めて、政府の介入がきわめて少なくて、わずかなところで実際の効果を上げていくということが必要ではないかと思うのです。そういう点で、独禁法に対するお考え――産業界は独禁法の適用除外ということをすぐ言われるわけですけれども、そういう点は、やはり国民全体から見れば業界のエゴではないかという意見として必ず返ってくるわけですね。そういう点についての御見解を、先ほど御意見があったのですが、ちょっと私は気になるものですから、その点についての、この特安法でまとめたところで独禁法に対するお考えを聞かせていただきたいと思うのです。
経団連だけ、代表でひとつお願いしたいと思います。
#97
○河合参考人 ただいま先生の御質問でございますが、企業の態度といたしましてはあくまで自助努力、自助努力と申しましてもいろいろ種類がございますが、あらゆる自助努力、特に管理体制の強化であるとかあるいは技術開発であるとか種々の合理化問題であるとか、いろいろございますが、そういったことすべてをやって、さらにもっと、より一歩進んだことをやりたいけれども、現状として独禁法に抵触するのでそれができないという面を、この新法でひとつ何か道をつけていただきたいということが希望でございますし、また当然そうあるべきだと思いまして、最初から独禁法の適用除外だとかあるいは緩和ということにおぶさって自助努力をしないということではないつもりでございます。それから、適用除外の問題がございましたが、適用除外の問題と、今回のように一つの新しいスキームを設けましてその中で解決していくのと、いろいろ方法があるわけでございまして、経団連といたしましては、実は中で、いや適用除外の方がよかったというような一部意見もございますし、また、ほかの部面においては、今度の新しいスキームの方がいいというふうな意見もございます。
私といたしましては、適用除外も当然一つの方法でございますけれども、しかし、これはあくまでも競争政策と産業政策とを分離してやるようなかっこうでございまして、公正かつ自由な競争というものは、当然これは行われなくてはならないわけでございますので、この独禁法の大幅な見直しと弾力的な運用ということにおいて、産業、企業が育っていくのが本当の姿である。
したがいまして、本来的にはそういうことに取り組みたいわけでございますけれども、しかし、この素材産業は、もうきょう、あすの緊急な問題でございますので、こういったことをやっておるいとまはございませんので、暫定的にどう処理するかというふうに考えておりまして、そういった見地から申しますと、将来的に産業政策と競争政策とは一本でいくべきものだという見地から、独禁法の除外例でなしに、新しいスキームで進んで、さらにそれがもっと大幅な弾力的な見直しにつながっていくということを期待しておる次第でございます。
#98
○水田委員 時間がありませんから……。一つは、私、最初の質問は、もちろん、法律の適用で設備廃棄をやったけれどもだめだったのは、原料あるいは電力料の暴騰というのがあったわけですね。これは今度の特安法でやっても、なおかつその条件が改善されない限り、日本の基礎素材というのは同じような状態を続けるのではないか。これはまた別のところで私ども、やってまいりたいと思います。
一つは、石油化学工業協会と紙パルプの製紙連合会の方へお伺いしたいのですが、清水委員からいま雇用の問題でお伺いしたときに、経団連の方から、一たん設備廃棄をして、ここで新しい設備投資が起こったりこれが活性化していく、その中で雇用を全体に起こしていこう、こういうことなんです。それは確かにわかるわけです。しかし、現実にはいまおる人が、設備廃棄をすれば当然そこで余ってきますね。それらの雇用の問題を、これは出るのだから仕方がない、労働省で見てくれという態度でない形で、できるだけ構造改善の中でも雇用を守っていくということを考えてほしいということを実は言っておるわけなんです。それが午前中の労働者のね。ですから、設備廃棄なり事業提携は当然のことなんです、やむを得ぬのです、企業が生きていくためには。そこで、当然人が余る。これはこちらでということはいけません。この計画の中で雇用問題もやはり同じウエートで考えてもらいたいというのが願いなんですね。
そういうことについて、石油化学工業協会とそれから製紙連合会の方からひとつお答えいただきたいと思います。
#99
○河毛参考人 簡単にお答えいたします。現在、紙パルプ業界では雇用者数が五万五千人ぐらいでございます。それで、過去において実はかなりの減員をこの業界もやっております。大体年二千人ずつくらいの割合で減ってきておりますが、このやり方というのは、御承知のように定年制がございまして、採用と定年との関係をうまく調整するということ、それから、やはり多少の景気の波がございますから、ある程度操短が強くなるときは、職場内でいろいろな臨時の仕事を与えるあるいは教育をするあるいは関係会社その他へ出向させるというふうなことで大体原則的にはやっておりますし、今後ともそういうやり方をできればとっていきたいという方針でございます。
以上でございます。
#100
○吉田参考人 石油化学の方でお答えいたしますと、確かに設備を廃棄いたしますと、その設備に従事している人々は要らなくなるわけですが、もともと石油化学は非常に装置産業でございますので、プラントそのものに張りついている人たちはそうたくさんはいないのですが、設備廃棄して合理化するためには当然そのプラントは要らなくなりますので、それらの方々につきましては企業内における他の部門、他の場所での吸収を考えております。御存じのように、石油化学の会社は皆、高付加価値分野、ファイン分野にいろいろ計画を持っておりますので、その辺でまず吸収する。さらに各社がやっておりますことは、他の産業、他の場所、たとえば石油化学なんかは現在中近東でプラントがかなりできておりますが、そちらの方にあるいは御援助するとかいうことで、幅広くそれらの余剰の方々の吸収には努力しておりますが、今度もそのようにいたしたいと思っております。#101
○水田委員 ありがとうございました。#102
○登坂委員長 後藤茂君。#103
○後藤委員 時間がございませんので、各参考人すべてにお伺いをしたいのですが、まとめて河合参考人の方からお答えをいただければ幸いでございます。今度の改正法を見ておりまして、私は幾つかの心配といいますか、気になる点があるわけであります。
その一つは、過剰設備の廃棄、つまり構造改善基本計画、それから事業提携計画が仮に実施されたといたしましても、製品の需給の改善や過当競争の緩和にはある程度役立つのではないか、しかし、参考人の皆さん方も触れておられました、国際競争力の強化にこの改正案は一体どの程度役割りを果たしてくれるのだろうか、この点が非常に心もとないわけであります。
幸い、逆オイルショックで原油価格等が最近は下がり始めてまいりました。しかし、これの恩恵を受けるのは日本だけではなくて、これまた世界各国すべてが恩恵を受けるということになってまいりますと、原材料・エネルギー費の比率が非常に高い基礎素材産業としての基本的な困難というものは、この法律改正案からは解決をしていかないのではないだろうか。こういう国際競争力強化と一致しない面を一体どのように救済といいますか解決をしていくのか、この点が一つの問題であります。
それからもう一点、産構審の提言の中でも、基礎素材産業のあり方というものが提起されております、政策支援をしていかなきゃならない。その政策支援をしていかなきゃならない基本的な条件の一つとして、中長期ビジョンに沿った計画的実施という言葉があるわけです。これは、先般も経済企画庁長官に私は御質問申し上げたのですが、新経済社会七カ年計画が現実と乖離をしてどうにもならない、新しく新五カ年計画が提起されたがこれもお蔵に入り始めてきた。いま中曽根総理は、新しい五カ年計画を早急につくれということを言っている。これが七月ごろにできるのか秋口にできるのか、わかりません。一体そのよりどころになるべき経済の見通しなり、一般的に経済計画と言われておりますけれども、これに経済企画庁もそれから経団連の稲山会長も、数字なんか幾らはじいたってどうにもならないのだという少し荒っぽい意見を出しておられますけれども、その中で、これから目標年度における構造改善の目標というものは立てられるのかどうか、この点も私は第二の心配の点であります。これをひとつ河合参考人からお聞きしたい。
それからもう一点、松下先生にお伺いをしたいと思うのですが、私は、やはり産業政策と独禁政策というものは一定の緊張関係にある方がいいと思っているのです。先生の先ほどの御指摘だと、独禁政策と産業政策の調和を実現していく、基本的には矛盾をしていかないという形で、大変歓迎の御意見が出されました。
私は、これまでの行政をずっと見ておりますと、どうしても産業政策の優位性というものは否定し得ないのではないだろうか。しかし、現実には基礎素材産業というものが非常に大きな不況に陥っているわけであります。その苦境を一体どう解決していくかということと、この独禁政策と産業政策との緊張関係、先生は先ほど、ある程度緊張関係にというような意味のことをちょっと言われましたけれども、この点をどう見ておけばいいのだろうか。特に寡占体制のもとにおきましては、競争よりもむしろ協調に志向する傾向がどうしても生まれてくるわけであります。この今度の法律の中におきましては、競争の確保ということがうたってあります。しかし、その競争の確保というものを一体どこで、だれが担保していくのか。これはもちろん公取委が意見を出せばいいということでしょうけれども、今日の構造的不況を迎えてまいりますと、やはり産業政策がより優先といいますか、優位に立っていくのではないだろうか、こういった問題に対して先生の御意見をお聞かせいただきたい。
#104
○河合参考人 先生の第一の御質問点でございますけれども、廃棄、集約化その他のことをやったとしても、海外競争力が十分確保できるかという御質問かと思います。これは実際上、業種によりまして非常に困難なものも出てまいると思っております。それで、今度の新法も、これを全部海外競争力をつけるまでめんどうを見るということではなしに、企業として自分でできるだけの努力をして、しかし、独禁法その他に抵触して企業としてあるいはグループとして努力し切れない点があるのを努力できるようにしてもらうという補助的なものでございます。この法律によって海外競争力ができるということでなしに、この法律の助けをかりまして、さらに有効な自主的な努力を積み重ねて海外の競争力もつけたいということでございまして、全業種についてそれを行えるかというと、それはなかなか困難であろうかと思っております。
それから第二番目の、将来の長期見通しあるいはこの新法の五カ年の間の見通しについて、はっきり見通しが出るかという御質問かと思いますが、私、自分の企業は素材産業でございませんで組み立て産業でございますので、そこら辺の事情はちょっとよくわかりませんが、私ども企業の経営者といたしましては、自分の行っております業種につきましてはこの長期計画とか外部の長期計画によらないで、自社の長期計画といたしまして、業種独特の勘なりいままでの経験を持っておりまして、ある程度の見通しはつくわけでございます。しかし、それではなかなかすべてを律するわけにはまいりませんで、この点はどうしてもわからぬ、ここの辺もどうしてもわからぬという場合も出てまいりますので、そういった場合に初めて、企画庁の長期計画であるとかあるいは経団連の長期計画であるとかということを参考にしながらそこら辺の穴を埋めていくということでやっておりまして、これは当たる場合もありますし、また狂う場合も非常に多いわけでございます。今度の法律に関連いたします素材産業の方々も、その点につきましては業種独特の見通しを持っておられると思います。したがいまして、こういった制度は余り長いのも適当でございませんし、五カ年くらいの間にそれの見当をつけてやっていくというので、適正な年限ではないかと考えております。
#105
○松下参考人 それでは、お答え申し上げます。先ほど先生のおっしゃいました、産業政策と独禁政策の間には緊張があった方がいいのではないか、こういう御指摘でございますが、基本的には私もそのように思っております。
そこで、先ほどの御説明がちょっと舌足らずだったかと思いますので、もう一回私の考えを申し上げますと、むしろ調和というよりも独禁政策と産業政策がこの法案では均衡している、こういうふうに言い直す方があるいはいいのかと思います。均衡しておりますが、ただ、その中には緊張も内在している、むしろそのように説明した方があるいはよかったかなという気がいたします。いずれにいたしましても、独禁政策、産業政策のどちらか一つだけでは世の中治まらないので、やはり両方が必要だというふうに思っております。この点が一つ。
それからもう一つは、産業政策はいろんな局面があると思います。その中には独禁政策と緊張あるいは対立する面もありますし、それから、独禁政策と同じように競争という手段で産業政策をやる局面もある。そういうことで産業政策は一つのものというよりも、もっと複雑なものだろうと私は思います。
そこで、この法案ではどうかと申しますと、結局、産業政策である程度独禁法と緊張関係に立つ局面もあろうかと思います。たとえば指示カルテルなんか、そうであろうかと思います。ただその反面、構造改善基本計画の方では、一応独禁法の枠内でやるという面とか、あるいはこの法案にも書いてあったと思いますが、競争が存在する場合にこの構造改善基本計画を認める、こういうことも書かれておりますし、この法案に関しては、やはりそれほど強い対立関係ということにはなっておらないのじゃないか、こんなような印象でございます。
#106
○登坂委員長 次に、長田武士君。#107
○長田委員 本日は、参考人の皆さん方にはお忙しい中をわが委員会に御出席いただきまして、貴重な御意見をいただきましたことを心から御礼を申し上げます。まず、経団連の参考人からお尋ねをいたします。
独占禁止法の改正ということが、経団連では非常に論議されておるということでございます。具体的には三つくらいあるようでございますけれども、どういう点でしょうか。
〔委員長退席、野田委員長代理着席〕
#108
○河合参考人 われわれといたしましては、基本的に、独禁法は大幅に見直しさるべきであるということを考えておりまして、しかし、それには非常に時間がかかる。したがって、暫定的にこの新法みたいなことをやっていくのが非常に適当であるという考えでございまして、現在の独禁法でどこを重点に見直すかという御質問でございますけれども、第一番目に、独禁法の中に「公共の利益」という言葉がございますけれども、「公共の利益」という言葉があるにもかかわらず、これが実際に読まれていない、まくら言葉のようになっておるというような点がそもそもの始まりでございまして、最初のうちはこの「公共の利益」というものはもう少し実際に読まれて解釈されたわけでございますけれども、その後の進行によりまして、だんだんこれが読まれなくなってきたというような点が基本的に問題でございます。それから、具体的な運用の問題といたしまして、カルテルその他の問題がございます。われわれとして一番問題に考えておりますのは、これは独禁法の基本になるかと思いますが、公正取引委員会自体の存在が第四権的な存在になっておる、また訴追と審判が同一の個所で行われておるというような点が基本的に一番問題かと考えております。
#109
○長田委員 新聞によりますと、「独禁法見直しへ研究会」ということで、稲山経団連会長は、五十二年に独禁法改正をいたしましたその以前に戻したいという御意見のようでございます。内容的には、一つは「違法カルテルへの課徴金」、これはうまくないんじゃないか。第二番目には「営業の一部譲渡などを定めた独占的状態の規制」の問題、第三番目には「同調的値上げに対する措置」、この三つのように新聞では報道されております。きょうは私、この問題をやるつもりではございませんけれども、上智大学の松下先生、こういう経団連の動きに対して、独禁法の専門家でございますけれども、どういう御所見でしょうか。
#110
○松下参考人 お答えいたします。いま河合参考人の方からいろいろ御指摘がございましたが、まず課徴金についてから申し上げますと、課徴金というものはカルテルの禁止というものにとっては有効でございますので、これはこれ自体としては意味がある制度だというふうに私は思います。ただ問題は、対価に影響を与えるカルテルがありますと必ず課徴金を取らなければならない、こういうことになっておりますので、一定の場合には非常に苦しい状況が生ずる、こういうこともあろうかと思います。それで、私自身の考えは、課徴金という制度は、これはこれで結構だと思いますが、ただ、すべての場合に必ず取るということでいいのかどうかについて若干疑問がある、こういう意見でございます。
それから、同調的値上げの点でございますが、これは前に独禁法改正が問題となったときに、実は私も国会で申し上げた覚えがあるのですが、同調的値上げの規定というのは必ずしも競争を促進するものではないように思うのでございます。これはむしろ値上げの抑制ということでそれ自体意味があると思いますが、競争の促進ではないというふうに思います。そこで、こういうものをまとめて別な法律にする方がいいという意見を私は持っております。それが一つ。
それからもう一つは、「公共の利益」でございますが、これはただいま経団連の方から御指摘があったような状態になっております。私自身の意見は、「公共の利益」については一定の限度でこれを読むべきである、ただ、読む事項を限定すべきである、このように思います。
それから公取の組織でございますが、審判と審査の分離というか、その辺についてはさらに検討すべき問題がある、こんなような意見でございます。
#111
○長田委員 次に、吉田参考人にお尋ねをいたします。現在、石油化学業界各社が推進しておりますところの海外石化のプロジェクト、サウジアラビアとかあるいはシンガポール等では非常に注目を集めておるわけでありますが、こうしたプロジェクトはこれからの石油化学再生にとってどのような影響を与えるかということであります。たとえば、国内市場の攪乱の要因にならないかという心配も一部あるようでございますけれども、この点いかがでしょうか。
#112
○吉田参考人 お答えいたします。先ほどちょっと述べましたように、日本の石油化学はナフサを原料としておりますが、サウジアラビアは、原油を採掘するときに出ます随伴ガスでございまして、非常に安いわけでございます。たとえば日本の石油化学のエチレンのコストを一〇〇といたしますと、サウジアラビアのエチレンのコストは二〇からせいぜい二五くらいでございまして、これはよほどのことじゃない限りわれわれは競争力がないわけでございまして、たとえ原油が相当下がってもなかなかむずかしいのです。
ただ、石油化学はたくさんの品物、たくさんの品種がございますので、ああいう石油化学の後発国でありますと、やはり技術なりいろんなものが未熟でございますので、いわゆる汎用製品、だれもがどこでも使えるような製品、品質に余り差のないもの、これはやはりコストの安いところでつくらざるを得ないし、日本としては、それをもう少しひねったような高度の製品の方に向かっていかなければいかぬ、特殊な分野に行かなければいかぬと思います。
それで、現在すでに日本の石油化学は、たとえばエチレングリコールなんかを見ますと、輸入の比率がもう三〇くらいになっています。これはいまアメリカ、カナダから入っています。この辺も絡みながら、サウジがもし生産を開始いたしましたら、サウジのものを日本である程度協力して入れて、そして日本のマーケット、東南アジアのマーケット一緒になりまして、秩序あるマーケティングをやればいいと思います。これを排除いたしますと、むしろ世界のプライスに影響いたしますし、私は、やはりサウジならサウジ、海外計画はよくお互いに協力しながら秩序あるマーケティングをやればいいと思いますし、これは拒否できないのじゃないか、こう思っております。
#113
○長田委員 次に、林参考人にお尋ねをいたします。アルミ業界では、第一次オイルショック、それから第二次と、二度にわたりまして大型工場の休止や閉鎖など業界ぐるみで設備の縮小を行ってきたわけであります。ところが、こうした設備の廃棄や凍結は、逆に国際協争力を失う原因にならなかったかという点が指摘をされておるわけであります。そういう意味で、現行特安法の政策意図がこれでは達せられないという声も一部にあるようでありますけれども、この点はどうなのでしょうか。
#114
○林参考人 お答え申し上げます。いまの御質問のあれがちょっと的確でございませんので、あるいは私のお答えがちょっと違うお答えになるかもしれませんけれども、確かに四十八年と五十四年のオイルショックを経まして電力料金が二倍、三倍となってきた、これが国際競争力を失うあれになりました。これはもう間違いないところなのですけれども、そのために結局、日本のアルミニウム生産コストというのは、やはりアメリカであるとかカナダであるとかオーストラリアみたいなところのエネルギーコストにはかないませんので、結論的に言うと、そのものずばりの生産コストではどうしても太刀打ちできません。それは比例費でも負けてしまうのです。したがって、確かに設備を廃棄していくと固定費の面が高くなりますけれども、しかし絶対額として比例費の電力コストのところが非常に大きく響いておりますので、その点をやはりわれわれとしては何か考えなければいけないわけなのです。したがって、産構審のスキームとしては、昭和六十年のときに二百十五万トンの新塊が要る。しかしながら、二百十五万トンのものを全部外から持ってくるわけにはいかない。したがってそれを三分の一ずつ分けて、開発輸入を七十万トン、それから一般輸入を六、七十万トンで、残りを国産ということで六十五万トンというものを設定したわけなのです。そのプールの形において何とかやはり世界の輸入の塊に伍して闘えるような、それによって、日本ではいま現に総需要としては二百三十万トン以上ございますけれども、ユーザーさんたちに安定的に、要するにプールしたものとして競争力のあるものを提供することによってユーザーさんが国際競争に打ちかつようにするという、そういうスキームでこれは行っておるわけでございます。
#115
○長田委員 次に、河毛参考人にお尋ねをいたします。板紙業界といたしましては、現行特安法のもとで大体二割近い設備廃棄をやったわけですね。一たんは立ち直ったというような感じがしたわけでありますけれども、輸入品との競争に敗れたというのが実情だろうと思います。そういう意味で、新特安法に基づいてあるいは事業提携をやるとかいろいろ方法がありますけれども、そういうことで国際競争に勝てるかどうかという問題が私は残ると思うのですが、その点いかがでしょうか。
#116
○河毛参考人 板紙は、御指摘のように一五%の設備処理をして、その後で市況が非常に不安定になっておりますが、まず特安法によってやったそのこと自体の効果はかなりあったと思います。かなり膨大な赤字が縮小しておりますので、その限りでは効果があった。それでは、なぜ市況があれしてきたかというと、いま輸入品がふえたからということがございましたが、輸入品というのは、先ほども申し上げましたように、ふえ方は大きいのですが、全体のパーセンテージから言うと、実は日本の生産にそういう意味では量的に脅威を与えるほどのものではないということでございます。むしろ内需の見通しが一五%を想定したときよりもかなり違ってきた、そこら辺の要因が多かったと思います。
それから国際競争力の問題は、話をすると長くなりますが、日本の紙パ産業の場合は、板紙を含めて故紙の利用であるとか生産性の向上とか、そういうことをやれば水際では十分競争力がある、そういうふうに確信しております。
以上です。
#117
○長田委員 それでは、河合参考人にお尋ねをいたします。業界の共通した意見といたしましては、電力料金等の問題が出てまいりました。私も業界の皆様にはよく陳情を受けるわけでありますが、確かに電力料金は世界でも一番高い、これはもう事実でございます。業界の皆様の意見は、西ドイツ並みにしてほしいというのが大方の意見のようであります。
しかし、電力料金は御案内のとおり公共料金でございまして、原価主義ということを私たち、よく委員会等でも審議するわけであります。そうなりますと、一分野企業に対する、いわゆる素材産業に対する低廉な電力を供給する。そうなりますと、一部ではそういう形ではいいのでありますけれども、国全体から見ると、やはり消費者一般に負担をかけるという逆の効果もまた出てくるわけですね。こういう点なんかはちょっと問題だなという感じも、私、物価問題等特別委員会でよくやっておりまして、消費者保護にはここはちょっと逆行するなという感じも一つは持つわけでございます。それが第一点、疑問な点がございます。
第二点は、現在、石油税とかあるいは関税、あるいはそれに対してもう一つ促進税ですか、三つの税金がかかっておりますけれども、こういう税金が日本の場合は外国と比べて非常に高いわけですね。こういう点を何とかしなくてはいけないという感じが私はするのであります。先ほど原料税ということをおっしゃいましたけれども、そういう点についてのお考え、この二点をお聞かせいただきたいと思っております。
#118
○河合参考人 ただいまの値下げの点でございます。これは非常に広範囲の議論になりますが、ただいま、消費者にしわが寄るのではないか、同じパイの中でこっちに少し寄り過ぎれば片方にしわが寄るのではないかということでございますが、まだ現状の中でいろいろやりくりの余地が十分あり得るのではないかということは基本的に考えております。それから、一に多少関連いたしますので、取りまぜてお答えするようになりますが、税金の問題は経団連といたしましては、特に原料課税を中心に、それでなくても高いエネルギーだとか電力というものをそういったものでさらに人為的に高くしているということに対して、基本的に反対をずっとし通しておりまして、これはぜひ先生方にもお願いして、何とか御尽力願いたい。ただ、こういった税金もむだに使われておるわけでなしに、たとえば代替エネルギーの研究とか何かという面にも使われておるわけでございますが、先生方の御努力によって、ほかの財源にこれを振りかえていただくようにぜひひとつお願いいたしたいと思っておるわけでございます。
それから一の問題に戻りまして、電力の値下げの問題でございますが、たとえばフランスあたりの新しい原子力の計画等を勉強いたしましても、非常に低い目標で考えておりまして、日本のあるべき、将来起こるべき原子力の値段に対しまして単位当たり半分近くの値段になるという数字もございます。これにつきまして電力の方にいろいろお伺いしたこともございますが、いろいろ計算の誤差を詰めていけば相当部分は減るのじゃないかというお答えもございましたけれども、いろいろ事情もあるかと思いますが、全般的な合理化努力、それから電力料金につきましてはまだまだ努力の余地がいろいろあると思いまして、単に産業用の電力、エネルギー多消費産業の電力を下げるからこれが他にしわが寄るということでなしに、電力料金コストのトータル自体を下げることにもっともっと抜本的努力をすべきだろうというふうに考えております。
#119
○長田委員 時間が参りましたから、終わります。ありがとうございました。
#120
○野田委員長代理 次に、中野寛成君。#121
○中野(寛)委員 民社党の中野寛成でございます。きょうは、どうもありがとうございます。まず、河合参考人にお伺いをいたしたいと思います。
先ほども同僚議員から少し出ましたが、経団連として独禁法の緩和を考えておられる、こういうことであります。私どもは、まだなかなかそこまでは感覚的についていけない気持ちでありますけれども、ただ、この独禁法の緩和といまわれわれが審議をしている新特安法との関係なんですが、この新特安法の延長線上に独禁法の緩和という考え方があるのかどうか。それだけではありませんけれども、言うならば、そのプロセスとしての新特安法というお考え方があるかどうか。
逆に、新聞記事で恐縮ですけれども、国会で審議中の産構法案が行政の過剰介入に口実を与えることにならないかとの関連業界の強い懸念もあるという報道もなされているわけですね。皆さんにとっては、経団連にとっては、新特安法とは一体何なのかということをまずお聞きをしたいと思います。
#122
○河合参考人 一番最後の御質問の、新特安法とは一体何かという御質問でございますけれども、われわれ経団連といたしましては、素材産業を中心といたしましてマーケットあるいは原料事情その他非常に憂慮すべき状況にあることは御承知のとおりでございますが、まず第一に企業が自主的に自助努力をすべきである、それでできるだけの努力をして、たとえば企業の集約化であるとか設備の廃棄等はその企業努力の一つとして非常に大事なものである、しかし、現実には独禁法があるためにこれが実施が困難になっているというところを新特安法でひとつ救済していただきまして、そういった集約化なり廃棄なり、あるいはできればもっと弾力的な合併というようなことで、国の補助とか何かということでなしに、少しやり方を緩和していただくということによって企業の自助努力の効果をさらに増そうというのが基本でございます。したがって、そういった面で新特安法を非常に評価し、期待しておる次第でございます。それから独禁法につきましては、緩和といういまのお話でございますけれども、私ども経団連といたしましては、まだはっきりした結論までは到達しておりませんが、これの弾力的運営並びに基本的見直しということを掲げておるわけでございまして、この方面で今後もう少し経団連傘下のいろいろの業界の意見を聞きまして、もっと意見をまとめてまいりたいと思っております。
それで、この新特安法との関係でございますが、これは私見でございますけれども、独禁法の適用除外でいくよりも、今度のやり方のように新しいスキームを設けまして、競争政策の中に産業政策が入り込んでいくというかっこうが非常に望ましいかっこうである。
では、その先にあるべき独禁法の姿が見えるかという御質問でございますけれども、これは見え隠れするわけでございまして、この延長が必ずしもわれわれの望む姿ではないので、やはりこういった新法ができますと、それにいろいろとらわれてくるわけでございまして、本来から申しますと、こういった新法なしで、独禁法自体が見直された段階において企業が十分な自主努力ができるという状態が一番望ましいわけでございまして、ただいまの状況は、それにたどりつく暫定的な時間稼ぎの有効な方法であると了解しております。
#123
○中野(寛)委員 わかりました。次の質問に移りたいと思いますが、先ほど来電力コストのことが大変大きく取り上げられているわけであります。先ほど林参考人から、電力依存からの脱却について十分研究を進めていかなければならないというお話がございました。ただ、この電力依存からの脱却というのは、なかなか容易なことではないだろうと思うのです。まして、これからこの新特安法の成立を見ましても、その五年間で果たしてどれだけの効果が上がるだろうか、必ずしもこれが特効薬にはならぬだろう、一時的なカンフル剤に果たしてなるかなというふうな感じさえも私は実は持つのです。ただ、ないよりましだと思いますから、私たちは積極的に賛成しようと思っていますけれども、しかし、いろいろな観点からの努力が当然必要になってくるだろう、こう思います。
そういう意味で、この電力コストの件ですが、たとえば電力会社だけに要求をしてみてもこれは始まらないだろうと思うのです。電力会社はまたいろいろな苦労をして今日の状態を保っておられることだけは間違いのない事実であります。ただ、先ほどから河合参考人が、業界の自主性、自立自助努力ということを大変強調されているわけでありますけれども、林参考人と河合参考人にもう一回お聞きしたいと思います。
たとえば、電気事業連合会と経団連の中で素材産業との話し合い、また政府を含めての話し合い、そして何らかその中での新しいアイデア、方策、そういうふうなものについて御協議なさったことはあるのでしょうか、また今後そういう御用意はあるのでしょうか。
#124
○河合参考人 私は経団連でございますので、各業界と電事連と個々にどういうことが行われているか存じておりませんが、経団連としてやっておりますことは、素材、エネルギー多消費産業の方々からいろいろ産業政策委員会で事情を聞きまして、電事連の責任者の方とそのことについて産業政策委員会としていろいろ陳情し、お打ち合わせいたしております。#125
○林参考人 アルミの場合は、電力が非常に高くなったときに石油専焼の要するに共同火力をつくったわけですね。したがって、現在アルミの電気というのは六五%以上のものが重油専焼なんです。したがって重油が安くなるということは、それがもろにわれわれの電力料金にはね返ってまいります。したがって、このたびのようにOPECの石油が下がるということは、われわれとしては非常にありがたいことでございます。先ほど、こういう環境も、私たちの構造改善がさらに進め得る環境になったということを申し上げました。それから、今度は電力料金のことにつきましては、私のところは千葉でございますけれども、東京電力さんが管轄でございますので、東京電力さんとそういういろいろの問題を話し合ってはおります。そういう中で、要するに固定費の面で可能な限り東京電力さんが持ってくれる、そういう面によって電力料金が下がったこと、これは非常に大きなもので、ありがたいと思っております。ただ、何といっても燃費が大きゅうございますので、やはり重油が下がらなければいまのアルミ業界のエネルギーのコストを下げるわけにはなかなかいかないというのが現状でございます。
以上でございます。
#126
○中野(寛)委員 もう一つ、河毛参考人にもお聞きしたいと思います。アウトサイダー対策なんですね。これはやはり本当に困るものだと思うのですが、先ほど河合参考人の御発言の中で、私は誤解して聞いたかもわかりませんけれども、業界の自主性を尊重していくという立場から、この法案についてはアウトサイダー対策というものは必ずしも明記されていない、むしろそのことを歓迎されているような感じに私は受けとめたのです。しかしながら、実際上はアウトサイダー対策については具体的には大変困っている、むしろ法律で何か規制できるものなら、ぐらいの気持ちを持っておられる方が多いのではないかという気さえするのですね。このことについて今度の法律は触れていない。それじゃ具体的にどういうことがこれ以外にできるだろうか、私はそのことを大変心配するのですが、改めてお聞きしたいと思います。
#127
○河毛参考人 いまお尋ねになったことは、私どもの業界といたしましては非常に重要な問題だと思って、法律との関係ではいろいろむずかしい問題があるようですが、実際やるときにはぜひお願いしたいということを繰り返し申し上げております。先ほど原田先生からも御質問がございましたが、方法はいろいろあると思いますが、法律以外の方法で何か有効な行政指導その他ないかと切望いたしております。それから、他業界のことはよくわかりませんが、恐らく紙パルプの場合に非常に切実な、現実的な問題が起きたということであろうかと思います。
#128
○河合参考人 確かに先生の御質問のように、業界によってはアウトサイダーがあるために、事が九九%までいって最後の一%はどうも進まない、そのために全体がまた逆戻りしてしまうというような情勢もございます。したがいまして、そういった業界ではアウトサイダー規制ということを非常に強く願っておられるようでございますけれども、私どもといたしましては二つ理由がございまして、一つは、アウトサイダー規制までまいりますと多少統制的色彩も出てまいりまして、そのために非常に進む業界と、あるいは統制が強化されるということで多少痛しかゆしというような感じを持っておるわけでございます。したがいまして、一部の業界の方は、これはアウトサイダーで余り悩んでおられない業界だと思いますけれども、アウトサイダー規制までいかないでよかったというような考えを漏らしておられる方もあるわけでございます。したがって、私のさっきの陳述は先生の御理解のとおりな、ちょっとあいまいなところもございますけれども、そういった趣旨になっておる次第でございます。#129
○中野(寛)委員 吉田参考人にお伺いしたいと思います。吉田さんのところは、余りアウトサイダーのことについての御心配はないように聞いておりますが、それは別にいたしましてお聞きしたいと思いますが、これは五年間の時限立法ですね。これでできなければまた延長、改正ということもそのときには考えなければいけないのかもしれませんし、それまでには河合参考人の御努力で独禁法が何か変わっているかもわかりませんけれども、しかし、これには当然また大変な抵抗があるだろうと思いますね。
石油化学工業としても大変悩みが多いと思うわけなんですけれども、果たして政令改正、いわゆる業種指定に一年半、そしてあと三年半の対策、これは業種指定のことはそれぞれ業種によって全然違うことですが、現状から見てこの新特安法、果たしてどの程度の効果を上げるものだろうかというふうに想定をされ、期待をされ――単なる期待ではなくて、その見通しといいますか、御判断をお聞かせいただければと思います。
#130
○吉田参考人 お答えいたします。石油化学がいま非常に不況になっています原因は大きく二つありまして、一つは、先ほど申しましたように主原料のナフサが上がったわけでございまして、これはやはり原油が下がりませんとどうにもならぬわけでございます。もう一つの大きな原因は、いわゆる需要が減ったために設備が過剰になり、そして過当競争になったわけでございます。これについては、石油化学も三年来の赤字でございまして、業界内でそれに対する認識が非常に高まっております。さらに産構審でも約一年半議論がされておりまして、過剰設備を廃棄し、それに伴っていろいろグループ化もやり、あるいは販売やなにかも共同でやる共販思想ということで、石油化学の競争力強化に対する体制整備の方向というのは皆かなり真剣にやっておりますので、御存じの、先ほどもちょっと申しましたように共販もすでに一部、現在の独禁法下で申請しておるような状況でございますので、私は、この新特安法が成立いたしましたら業界が自主的に、またこの法律に基づく体制整備を多分、まあ必ずやるのではないかと期待しておりますし、われわれも一生懸命やろう。私は、この新特安法による石油化学の体制整備については、かなりの確率と効果があるのではないか、こう思っております。
#131
○中野(寛)委員 時間が参りまして、とうとう松下先生にお聞きする時間を持ち合わせませんでした。大変失礼いたしました。どうもありがとうございました。
#132
○野田委員長代理 次に、渡辺貢君。#133
○渡辺(貢)委員 きょうは、どうも大変御苦労さまでございます。日本共産党の渡辺でございます。新法のことがいろいろな角度から論議をされておるわけなんですが、昨年の十二月七日に、経団連で、わが国の基礎素材産業についてというふうな見解が発表されておるわけです。特安法ができて五年たっているわけですけれども、当然改正しなければならないという経団連や業界の意見というのは非常に強いわけでありまして、そういう意見も反映をされて法改正に移ってきていると思います。しかし、やはり前提としてこの五年間の評価ですね、経団連としてどんなふうな評価をされているのか。たとえば労働界などでは、結局人員の削減だけであったではないか、こういう評価もあるわけなんですけれども、どんなふうに評価していらっしゃるか、簡単に御説明いただきたいと思います。
#134
○河合参考人 まことに申しわけない次第でございますが、私、特安法成立当時の事情を詳しくわきまえておりませんが、この五カ年間の評価につきましては、第一番目に、当時の特安法は設備の廃棄並びに投資の調整しかできなかったということで、その後事態が非常に進展してまいりまして、予想外の進展をいたしまして、とても特安法の程度では間に合わなかったというのが実相ではないか。それでは、特安法がなくともよかったかということでございますが、設備廃棄並びにこの投資の調整におきまして、合繊その他いろいろの業種に見られますように、かなりな使命なり成果を果たしたというふうに評価をいたしております。
#135
○渡辺(貢)委員 一定の評価をされているということでありますが、それ以降のさまざまな経済状況の変化など、そういうものが現在の素材産業ではこれを克服するのはとても容易ではない、こういうふうな御見解だと思うのです。昨年一年間を考えてみましても、経団連ではいろいろ重要な時期に御見解を発表されて、予算の編成時には経団連として、どういう予算を組むべきであるか、あるいは第二臨調に対しても、むしろ教育、福祉などは自助努力に任せて、そして政府のやるべきことがあるのではないか、かなり立ち入った御見解も発表されておるわけなんですが、今度の問題でも、この五年間を経ながら新しい法律の中で何が一番必要か。いままでは設備の廃棄だけだった。しかし、全体として構造改善計画を立てて、あわせて税制や財政、金融の面でも政府の政策的な介入、ここでは政府の政策的な介入になりますし、あるいは構造改善計画を立てる、これも政府が各審議会、業界の意見を聞いて構造改善計画を立てる。立てた構造改善計画に基づいて、たとえば事業の集約化計画を立てて主務大臣の承認を受けることができる、そしてこれを遂行していくんだということになると、かなりいろいろの面で政府の介入を一面では求めている、こう感じるわけなんです。
一方では、もっと思い切って業界ができるようにということで、独禁法の緩和を要求する。こちらでは政府の介入の排除を要求されるわけでありまして、どうも私ども、こういう事態を見ましても、社会的に大規模産業、これは日本の経済の大きな根幹でもありますし、そういうものを否定するわけではありませんけれども、何か主張が、大企業としてはそれぞれ勝手な主張をされているのではないか。都合のいいときには介入だ、都合の悪いときは排除だ、どうもこういうような感じがするわけなんですが、この点どんなふうにお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。
#136
○河合参考人 非常にむずかしい御質問で、適当な答弁ができるかどうか疑問でございますけれども、この新特安法でも、私ども、政府の介入を期待しておるわけではございません。やはり企業が自主的に企業努力ができるような場面をつくっていただいて、その中で自主的な企業活動をしたいということでございますし、それからまた独禁法を、われわれ公正かつ自由な競争というものを決して排除するわけでなしに、それは産業政策上必要なことであろうと考えております。ただ、現行の独禁法の姿が現代の経済の段階に対して矛盾を呈しておるのではないか、したがってこれを見直す必要があろうかというのがわれわれの見解でございまして、その見直された中において、より自主的な企業活動ができるのが望ましいということで、一貫してそういった立場で考えております。
#137
○渡辺(貢)委員 きょうはお尋ねをするわけでして、議論をやるわけではありません。ただ、こういう経団連の提言などをいろいろ見ますと、「構ずべき対策」ということで一から五まであります。かなり政府の介入を求めているような印象を強くしておるものですから、ちょっとお尋ねしたわけなんです。次に、林参考人にお尋ねをしたいと思うのですが、昨年の三月、産構審のアルミ部会で国内生産を七十万トンということで、実際上はいま三十万トン、先ほどのお話ですと、昨年から幾らか需給のバランスがよくなってきたということで、六十万トンぐらいというふうなお話があったわけですが、実際上今度の計画など、どのぐらい押さえていけば国内では安定的に生産し、供給ができるのか、こういう点お考えかと思うのですけれども、その点が一つ。
それから、一九七〇年代に入って、特に海外でニュージーランドあるいは豪州、そしてアサハン、アサハンなんか政府資金が三百億円以上の出資基金、あるいは開銀、輸銀の融資など膨大な、約一千億円ぐらいになろうかと思うのですけれども、そういうものがかなり国内に逆輸入されるということで、全体のそういうものを見て、国内のアルミ生産、今後どんなふうにお考えなのか、ちょっとそのことをお聞かせいただきたいと思うのです。
#138
○林参考人 お答えいたします。確かに昨年の三月、産構審で七十万トンというのが決まったわけですけれども、七十万トンにすれば、まず大体日本の需給というのはバランスするだろうという想定のもとになされたわけなんです。
ただ一つ、非常に狂ったことは何であるかといいますと、やはりアメリカの景気なんです。いまアメリカのアルキャン、アルコア、カイザー、レイノルズという大きなメジャーが、すべてみんな現在損失を出しております。それは、アルキャン建て値というのがございます。アメリカの建て値でございますけれども、千七百五十というのがあるわけです。これが再生産ができる価格というふうに決められております。ところが、現在アメリカの売り値が一体幾らかといいますと、千三百六十なんです。現在上がってきて千三百六十。ということは、アメリカの景気が悪くて需要が落ちてしまったために、在庫が多くなり、価格がそれだけ落ちてしまったわけです。ところが、先ほど申しましたように、アメリカの景気が幾分上がってきた。そうすると、需給がある程度回復するだろう、バランスがとれてくるだろう。そうしますと、いま日本にアメリカから、去年三十万トン入っております。在来アメリカというのは輸入国であって、輸出国ではないのです。ところが、そういうわけで玉が余ったために、日本に向けて相当輸出しております。これが、アメリカの景気が回復するとともに輸出がなくなる。そうすると、日本では三十万トンに近いものがアメリカから入ってこないという事態が出てくると思うのです。そういうことになったときに、一体いまの二十五万トンなり三十万トンで、果たして日本が安定的にユーザーさんに供給ができるかどうか、これは非常に疑問でございまして、やはり六十年度を一応の見込みに、六十五万トン、六、七十万トン、七十万トンというそのスキームでいま走っておるわけですけれども、これは私は当を得たスキームであり、それに向かってだんだんに回復していくだろう、こういうふうに考えております。
〔野田委員長代理退席、委員長着席〕
#139
○渡辺(貢)委員 吉田参考人にお尋ねしたいと思うのです。これは新聞の記事で大変恐縮でございますけれども、「石化共販4系列に」、これは五日の読売新聞に出ておりましたけれども、七社が二分割をされる。当初七社ですね、シェアが四十数%ですか、それを二分割して四系列グループだということで、先ほどのお話をお聞きしていましたら、石化共販がある意味ではこれからの生産を含めて一つのかぎになるのだという趣旨のお話をされたと思うのですが、その点御真意はどういうものか、ちょっとお尋ねしておきたいと思います。
#140
○吉田参考人 いま御指摘の七社の共販の品目はポリエチレンとポリプロピレン、石油化学の一番大事な中心品目でございまして、これががたがたしますと石油化学全体がおかしくなるのですが、これの状況を、設備廃棄はその後にいたしまして、まず共販からスタートしよう。ただ、その共販をつくります前提に、共販といっても一つのグループ化でございますので、販売と同時に生産なり流通面の合理化もその共販というグループ化でやろうということで考えておるわけでございまして、いまの独禁法だと余り事前に相談できないものですから、たまたま気の合った七社が集まりまして共販の考えを出したのですが、先ほど申しましたようにシェアが四二%ということになりまして、これではやはり多いということで少し再考を促されておりまして、現在これをどういうようにするか検討中でございます。石油化学の体制整備のまず第一号になりますので、適当な形に考え直しまして、早くこのポリオレフィンの共販会社が発足するようにぜひひとつお願いしたいと強く希望しておるわけでございます。#141
○渡辺(貢)委員 ちょっと、もう少しお聞きしたいと思ったのですが、時間がありませんから、最後に上智大学の先生にお尋ねしたいと思います。独禁法の緩和問題をめぐって最近議論が大変活発になっておりまして、公取の橋口委員長が退任をされたあのときに、たとえば昭和五十二年に独禁法を改正して強化した。これは在任中、ある意味では最大の公取としての権威を確立するというか、独禁政策では一つの重要な転換点であったというふうな評価もありますし、あるいは独禁法を緩和して競争制限的な措置をとるべきではない、こういうふうな意見が強い。一方で、今度の新特案法については独禁法上かなり問題がある等、いろいろな意見が出ているわけなんですけれども、そういう点で、これは学界の意見でありますからどれがどうというふうには言えないと思うのですが、先生のこの問題についての御見解を最後に承りたいと思います。
#142
○松下参考人 それでは、お答え申し上げます。いま御指摘ありましたように、やはり大きく分けますと、独禁法五十二年改正強化は非常によかったという評価、それからこれできつくなり過ぎたという評価、二つあると思います。
そこで、私自身のこれらの点についての見解を簡単に申し上げますと、まず第一点は、五十二年の改正というのは何点もあるわけで、このどれをとるかによって違うのではなかろうかと思います。一つは、先ほど申し上げた点と若干重複しますが、課徴金につきましては、これ自体はやはり有用なものだというように思います。ただ、若干の場合に課徴金を取らないことができる、こういうような規定にすべきであったろう。こんな点もございますし、それから独占的状態の規制というものがございますが、これはやはりこれなりの一つの機能を果たしておるのではないかと思います。したがって、私自身は現在この改正論についてどう思うかと申しますと、多少部分的な改正があるいは必要かという感じもいたしますが、それほど大幅な改正は必要なかろう。改正する面といたしましては、いまの課徴金の面とか、それから審判と審査との関係の問題、この辺が一つでございます。
やはり重要な点は、現在の独禁法の解釈でございます。この解釈について再検討すべき点が幾つかある、私自身としてはこういうふうに思っております。
#143
○渡辺(貢)委員 時間ですから……。どうもありがとうございました。
#144
○登坂委員長 次に、石原健太郎君。#145
○石原(健)委員 きょうはどうもありがとうございます。松下先生と河合参考人にまずお尋ねしたいのでありますけれども、先ほど、今回の法改正に盛られている事業提携は全く独禁法に矛盾するものでないというお話が松下先生からあったわけであります。そういたしますと、これが独禁法に触れるものではないのならということで、いま話題になっている業界以外の業界にも、ほかの産業にも、グループ化あるいは事業提携というものが、そういったムードがどんどん起こってくる可能性もあると思うのですけれども、そういう他の産業でも、別に触れるものでなければこういった傾向は差し支えない、こういうふうにお考えになっていますでしょうか。
#146
○松下参考人 それでは、まず私からお答え申し上げます。先ほど、今回のこの法案は独禁法との関係では矛盾はない、こう申し上げたわけでございますが、やはりこういうことをやっていいかどうかは、その個々の業界の実態によるだろうというふうに思います。この構造不況業種におきましては、最大の問題は市場メカニズムというものがちょっと働きにくい面がある。たとえば市場メカニズムの前提といたしましては、企業の参入と退出が自由だということだと思うのですが、特にこの業界では退出がなかなかむずかしい、やめようと思ってもなかなか簡単にやめられない、こういう事情があるところに問題があると思います。そういう状況ですと、若干の緩い形での政府介入を行って、しかしながら独禁法との調和を保っていく、こういう政策がやはり必要だと思います。
今回の法案はまさにそういうものかと思うのですが、ただ、やはりこれもいまのような個別の事情があるからこういうものが認められるということで、これを全業種に波及させていいかどうかというと、若干疑問ではないか、私はこういうような感じがいたします。
#147
○河合参考人 私も松下先生と同じように、ただいま素材産業の置かれましたのは特殊な状況でございまして、また一般産業にそのまま適用されるかと申しますと、この新法に指定される業種の条件というものはかなり厳しく決められておるわけでございます。したがいまして、そういったものに該当する特別の素材産業に対する対策である。将来は独禁法の緩和、弾力的運営、見直しということでございますが、それはただいま私どもとしても具体的に勉強中でございまして、いまの延長がそのまま将来の独禁法の見直しにつながっていると言うことが正しいかどうか、もう少し勉強いたしたいと思っております。
#148
○石原(健)委員 松下参考人にお尋ねいたしますけれども、大変慢性的な不況に苦しみ、あるいは過当競争に苦しんでいるという業界は、構造不況業種以外にもずいぶんあると思うのです。退出が困難という場合には、一般に自営的に建設業をやっている人であるとか、そのほかどういう人であってもやはり退出は困難だと思うのです。そういう人たちと今回の業界とを比較するとき、国民一般の中に不公平感というものが出てくるんじゃないかと感ずるのですけれども、この辺はどういうふうにお考えでしょうか。#149
○松下参考人 それでは、いまの点にお答え申し上げます。確かに他業界におきましても、過当競争をいたしますと同じような事情がある、こういうことにはなってしまうと思います。そこで、まず先生ちょっと触れられました建設でございますが、建設は別な意味で若干似たような事情があるというふうに私は思っております。そこで、これについてはこの法律と同じ形でいいかどうかは別といたしまして、これはこれなりの手当てが必要であろう。ただ、それ以外に一般的に及ぼすかどうかということでございますが、この点については若干問題があるのではないか。
と申しますのは、素材産業の場合に特殊性が幾つかあるのではないか。さっき退出障壁と申し上げて、これはどこにでも若干はあるわけですが、この場合特に強いのではないか。もう一つは、先ほどいろいろお話があったのですが、原材料の価格であるとか電力の差であるとか、企業ではコントロールできないそういう要因もまたある、こういう特殊性。それから、素材産業というものが持っている重要性、こういう点から見て、しかもこの場合五年という一定の期限つきで、この辺のところで例外的に認める、こういうことでよろしいのではないかというふうに私は思います。
#150
○石原(健)委員 河合参考人にお尋ねいたします。経団連も、行政改革であるとか財政支出の削減ということは大分主張してこられたと思うのですけれども、今回の法改正ということになりますと、その点で多少行革あるいは財政再建と矛盾する面もあるのではないかというふうに感じられますけれども、この辺はどういうふうに整合させられたのでしょうか。
#151
○河合参考人 矛盾というお話でございますけれども、私どもは必ずしも矛盾とは考えておりません。経団連の考えは、あくまでも民間の活力によって自主的に運営していって、改善、改良を重ねていきたいということでございます。素材産業で申しますと、鉄を例にとりますと、たとえば今度の新特安法では鉄は業種に指定されてございませんけれども、現在世界で自前で、民営で鉄鋼業をやっておりますところはほとんどないような状態でございます。イギリス、フランスは国営でございますし、ドイツは相当大幅の補助金をもらっておりますし、アメリカは何もしないようなかっこうのようでございますけれども、実際にはかなり厚い補助的な助成を受けておるわけでございます。日本の鉄鋼だけがわりあいに、いまいろいろ情勢が悪うございますけれども、企業努力によって何とか比較的純粋な民営で進んでおるというような状況でございまして、素材産業の基盤産業としての重要性から申しまして、当然もっと企業努力の余地を、いろいろ新しいスキームを与えてやることは、民間の活力の発揮の線と矛盾しないと考えております。
#152
○石原(健)委員 終わります。ありがとうございました。
#153
○登坂委員長 以上で参考人に対する質疑は終わりました。参考人の各位には、貴重な御意見をお述べいただき、ありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
次回は、公報をもってお知らせすることといたし、本日は、これにて散会いたします。
午後四時四分散会