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1982/01/24 第98回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第098回国会 本会議 第2号
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1982/01/24 第98回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第098回国会 本会議 第2号

#1
第098回国会 本会議 第2号
昭和五十八年一月二十四日(月曜日)
    ─────────────
    開 会 式
午前十時五十八分 参議院議長、衆議院参議院の副議長、常任委員長、特別委員長、議員、内閣総理大臣その他の国務大臣、最高裁判所長官及び会計検査院長は、式場である参議院議場に入り、所定の位置に着いた。
午前十一時 天皇陛下は、衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。
衆議院議長は、次の式辞を述べた。
    …………………………………
  天皇陛下の御臨席をいただき、第九十八回国会の開会式を行うにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。
  現下、わが国をめぐる内外の情勢はまことにきびしく、解決すべき幾多の問題があります。
  このときにあたり、われわれは、わが国の現状と国際社会における立場を深く認識し、外に対しては、諸外国との相互理解と協力をいつそう深め、世界平和の維持増進に寄与するとともに、内にあつては、政治、経済の各般にわたり、今日の時局に即応する適切な施策を強力に推進して、国民生活の安定向上をはかり、もつて国運の隆昌を期さなければなりません。
  ここに、開会式にあたり、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もつて国民の委託にこたえようとするものであります。
    …………………………………
次いで、天皇陛下から次のおことばを賜った。
    …………………………………
  本日、第九十八回国会の開会式に臨み、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。
  国会が、永年にわたり、国民生活の安定向上と諸外国との友好親善の維持増進のため、たゆみない努力を続けていることは、深く多とするところであります。
  ここに、国会が、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。
    …………………………………
衆議院議長は、おことば書をお受けした。
午前十一時六分 天皇陛下は、参議院議長の前行で式場を出られた。
次いで、一同は式場を出た。
    午前十一時七分式を終わる
昭和五十八年一月二十四日(月曜日)
    ─────────────
 議事日程 第二号
  昭和五十八年一月二十四日
    午後一時開議
 一 国務大臣の演説
    ─────────────
○本日の会議に付した案件
 中曽根内閣総理大臣の施政方針に関する演説
 安倍外務大臣の外交に関する演説
 竹下大蔵大臣の財政に関する演説
 塩崎国務大臣の経済に関する演説
 裁判官弾劾裁判所裁判員辞職の件
 裁判官弾劾裁判所裁判員の選挙
 検察官適格審査会委員の選挙
 国土開発幹線自動車道建設審議会委員の選挙
 国土審議会委員の選挙
    午後一時二分開議
#2
○議長(福田一君) これより会議を開きます。
     ────◇─────
 国務大臣の演説
#3
○議長(福田一君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説、外務大臣から外交に関する演説、大蔵大臣から財政に関する演説、塩崎国務大臣から経済に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣中曽根康弘君。
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#4
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 第九十八回通常国会の再開に当たり、内外の情勢を展望して私の施政の方針を明らかにし、国民の皆様方の御理解と御協力を得たいと思います。
 近年、世界は、東西の軍事的対立や南北問題という現代の構造的問題に加え、先進国、開発途上国、自由圏、共産圏を問わず、未曾有の経済的社会的困難に直面しており、失業と生活の不安は世界を覆っている感があります。各国がそこからの出口を求めて必死の努力をしているのが今日の世界の姿であります。
 わが国もまた、程度の差こそあれ、このような世界の中にあって苦悩を抱えている一員であります。国際社会における相互の依存関係が深まった今日、世界の運命はまた日本の運命でもあります。
 その中で、われわれはいかにわが国のあすの進路を開拓していくべきでありましょうか。
 私は、日本が、戦後史の大きな転換点に立っていることをひしひしと感じます。いまこそ、戦前戦後の歴史の中から、後の世代のために何を残し、何を改むべきか、そしてわれわれはどこに向かって進むべきかを真剣に学び取り、新しい前進のための指針とすべきであると思います。(拍手)
 戦後日本の繁栄は、自由と平和、民主主義と基本的人権の尊重を高らかにうたった現行憲法、わが国の長期にわたる平和と安全のための基盤となったサンフランシスコ平和条約と日米安全保障体制の上に花開いたのであります。その間にあって、低廉で豊かな原油供給、技術革新の進展、IMF、世銀、ガットなど世界の金融、経済システムの確立など多くの要因が、わが国民の営々たる努力を助けました。
 ところが、二度の石油危機を経て、いまや事態は一変し、世界は容易に回復しがたい病弊に悩んでおります。
 そうした中で、貿易摩擦の激化に見られるように、世界の荒波は容赦なくわが国に打ち寄せております。その対応を誤れば、わが国は一転して、世界の孤児になることを覚悟せなければなりません。かつての高度成長を支えてきた諸要因はすでに衰微し、前途には、どの国も経験したことのない急速な高齢化社会が待ち受けております。このような時代の激変に対応して、われわれは、従来の基本的な制度や仕組み等についても、タブーを設けることなく、新しい目で素直に見直すべきであると思います。(拍手)
 このような時代認識に立って、以下、国政の各分野について私の基本的考え方を申し述べます。
 今日、国際社会においては、戦後最悪とも言われる失業の増大を背景に、保護主義の圧力が日増しに高まっています。このような保護主義に代表される安易なナショナリズムが横行すれば、世界経済は衰退の道をたどり、再び一九三〇年代の恐慌の悲劇を繰り返すことにもなりかねません。
 このような情勢下で、自由世界第二の経済大国であるわが国への世界各国の期待と要求は、一層多面的かつ日を追って厳しく、切迫したものとなってきております。わが国の対応いかんが世界の国々とわが国の運命に大きく影響を及ぼします。もとより、わが国に対する外部からの要請や批判の中には、国情の違いを無視し、誤解や一部の偏見に基づくものも少なくありません。わが国の実情を理解させる不断の努力を心がけるとともに、守るべき国益については断固としてこれを守ってまいります。(拍手)しかし一方、世界におけるわが国の役割りを大局的に考えるとき、世界に開かれた日本の認識に立って、わが国の立場のみにとらわれることなく、世界全体との調和を図っていくことが、ひいてはわが国益に沿うゆえんでもあるのであります。世界に目を開き、独善や利己主義に陥ることなく、世界の人々と相ともに生きるとの立場に立つことが必要であると考えます。
 すでに、先進工業国の中では、日本に照準を当てた、保護主義的立法の動きも活発化しております。もし、これが現実のものとなれば、わが国が深刻な不況に見舞われることはもとより、ひいては世界経済も衰退へ向かうことは必至であります。われわれは、このような動きを阻止するためにも、外に対して自由貿易の維持強化を強く主張するとともに、みずから率先して、さらに世界に開かれた日本へと前進していかなければなりません。
 このような見地から、政府は一連の市場開放対策を進め、最近においても、新たに関税率の引き下げ、輸入検査手続の簡素化等の思い切った措置を講じたところでありますが、今後とも合理的な市場開放対策の一層の推進に努めてまいる決意であります。
 一方世界、経済が直面している困難の根本的解決の道は、世界各国、特に先進諸国が相協力して世界経済の活性化と着実な拡大の方向を目指すことであります。
 このため、貿易、金融面における国際機関の機能の十全な発揮を図り、科学技術の分野における研究開発の国際的共同歩調を整えることによって技術革新の波を呼び覚まし、さらに、各種国際投資活動の活発化や資源エネルギーの安定的供給確保の体制を整える等、各方面にわたる国際協力の拡充の可能性が探られなければなりません。また、国際経済の均衡ある発展のためには、開発途上国の成長の確保が不可欠であり、新中期目標のもとで経済技術協力の一層の充実を図るとともに、現在多くの国に見られる金融上の困難を、国際協調のもとに解決する努力が必要であります。
 わが国は、こうした方向への国際的努力に、積極的に参加していきたいと考えております。(拍手)
 国際社会でのわが国の対応において、米国との友好協力関係がその基軸となってきたことは、戦後一貫して変わらざるところであります。同時に、それはまた、アジア、さらには世界の平和にとっても不可欠の条件となっております。
 私は、このたび米国を訪問し、レーガン大統領との間で、国際情勢や両国間に存在する諸問題について、率直な意見交換を行ってまいりました。この会談を通して、両国間の信頼のきずなをさらに確固としたものとするとともに、太平洋地域の希望に満ちた将来について認識をともにした次第であります。このような成果を踏まえ、私は、今後とも両国の友好関係を一層強固にし、それを出発点として世界各国との外交を展開してまいります。(拍手)
 特に、私は、日本に近接するアジア及び太平洋地域との外交を重視してまいります。その第一段階として、私は、訪米に先立ち、国交正常化後、わが国の総理大臣として実質的に初めて韓国を公式訪問し、全斗煥大統領との会談において、今後幅広い国民的基盤に基づき、両国間の関係を発展させていくことに合意いたしました。(拍手、発言する者あり)このような平和と友好の輪を、さらに力強くアジア全域に広げ、世界に広げてまいります。このような見地から、私は、できるだけ早い機会に、ASEAN諸国を訪問したいと念願しております。
 また、重要な隣国である中国に対しては、現在の良好で安定した関係の基礎の上に、友好協力関係の一層の発展を図るべく努力してまいります。
 重要な課題となっているインドシナ等の難民問題につきましては、昨年来、大規模救援施設の設置を進めているところでありますが、今後とも人道的な立場から、国民の皆様の御協力を得て、対策の推進を図ります。
 西欧諸国とは、自由主義諸国の連帯強化の観点から、各般にわたる協力関係を一層緊密化すべく努力してまいります。
 ソ連との関係につきましては、北方領土問題を解決して平和条約を締結し、真の相互理解に基づく安定的な関係を確立するため、新指導部との間で、今後粘り強く、対話を続けてまいります。
 中近東地域においては、最近、米国及びアラブ関係当事者による和平実現への動きが活発化しており、わが国としても、このような努力に対しできるだけ協力していく所存であります。
 核兵器の廃絶を目指し、軍縮を推進して、その余力を開発途上国の発展のために振り向けることは、世界の人々のだれもが抱く願いであり、私の強い念願でもあります。(拍手)しかし残念ながら東西間において、平和の維持、侵略の抑制のための確たる保障が成立していない現状のもとでは、世界の平和と安全は、核兵器を含む力の均衡によって維持されております。極論すれば、恐怖による均衡によって、辛うじて維持されているとも申せましょう。このような恐怖から脱却することが、全人類の念願であり、軍縮は、この均衡の水準を、確実な保障のもとに、可能な限り引き下げる現実的な努力であります。私も、わが国の使命として、国連活動等を通じて、軍縮の一層の推進を強く訴えてまいりたいと思います。(拍手)
 一方、現実における世界の軍事情勢、特にアジアの状況を見るとき、北方領土を含む極東におけるソ連の軍備増強などわが国周辺の状況は、憂慮すべきものがあります。
 この厳しい現実を踏まえれば、わが国としては、総合安全保障の観点からの各種施策の積極的推進に引き続き努めるとともに、日米安全保障体制を堅持し、自衛のための必要な限度において、質の高い防衛力の整備を図っていく必要があります。
 もとより、わが国の防衛力の整備は、憲法の許す範囲内で、みずからを守る必要性の限度において自主的判断のもとに行うものであります。その際、非核三原則を堅持し、専守防衛の姿勢を貫き、近隣諸国に軍事的脅威を与えないという従来からの方針を守るべきことは当然であります。
 私は このような見地に立って、わが国防衛力について、「防衛計画の大綱」の水準にできるだけ速やかに到達するよう整備に努めてまいります。昭和五十八年度予算における防衛費については、きわめて厳しいわが国の財政事情の中にあって、世界におけるわが国の占める位置、国を守るための必要性、さらには他の歳出項目とのバランス等各方面から慎重に検討したところであります。
 政府は、防衛分野における米国との技術の相互交流を図ることが、日米安全保障体制の効果的運用を確保する上できわめて重要となっていることにかんがみ、このたび相互交流の一環として、日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みのもとで米国に対し武器技術を供与する道を開くこととし、その供与に当たっては、武器輸出三原則等によらないこととすることを決定いたしました。(拍手、発言する者あり)同協定においては供与される援助について、国際連合憲章と矛盾する使用、第三国への移転等に関し、厳しい規制を課しているところであります。したがって、この措置は、国際紛争等の助長を回避するという平和国家としての基本理念を確保しつつ行われるものであります。政府としては、今後とも基本的には武器輸出三原則等を堅持し、国会決議の趣旨を尊重していく考えをいささかも変更するものではありません。(発言する者あり)
 わが国の戦後の発展は、何よりも新憲法のもたらした民主主義と自由主義によって、日本国民の自由濶達な進取の個性が開放され、経済社会のあらゆる面に発揮されたことによるものであります。
 しかし、戦後三十七年を経過した今日、われわれはややもすれば、終戦直後この民主主義と自由を手にしたときの感激を忘れ、その恩恵を当然のものとし、これをさらに守り育てていくみずからの努力を怠っているものではないでしょうか。また、当時、われわれが新鮮な感動をもってつくり上げ、戦後の繁栄を支えてきた各種の制度の中には、いまや硬直化し、みずみずしい活力を失いつつあるものも少なくないのではないでしょうか。
 私は、国民の間で、民主主義の基本に立ち返り、既成の観念にとらわれない活発な論議が行われることを期待し、二十一世紀に向かって新しい展望のもとで諸制度の改革、運営の改善等に積極的に努力していきたいと思います。(拍手)
 民主主義において、政治は国民のものであります。主権者たる国民の政治への不断の関心と活発な働きかけが基本でなければなりません。これによって、代議制度は、国民の負託に誠実にこたえ、その意思を吸い上げる有効な回路として機能いたします。もとよりそれを支えるものは、国民の政治に対する信頼であります。政治に携わる者が、その使命を深く自覚し、常に国民の模範となる行動を心がけなければならないことは当然であります。私は、各党各会派そして議員各位の御協力のもと、清潔な政治を目指し、政治の倫理の確立に努めるとともに、国民の不信を招くことのないよう行政の適正な運営に努力してまいります。(拍手)
 私が、内閣総理大臣就任以来、最重要課題の一つとして行財政改革に取り組んでまいりましたのも、それが国政の基本的見直しと新しい進路への出発に際しての大きな課題であり、国民の一致した要請であると考えたからであります。また、活力ある経済社会を説き、「たくましい文化と福祉の国」づくりを目指しておりますのも同じ思いによるものであります。
 行財政改革の目標は、新たな経済、社会情勢の進展に即応し行政の見直しを行い、また、財政のあり方を再検討してその適正な対応力の回復を図ることによって、民間の活力を引き出し、国、地方を通じ、公的部門と民間との新しい関係をつくり出し、明るい未来の展望を開こうとするものであります。
 行政改革については、特に急務である国鉄の事業の再建を期し、日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法案について審議をお願いしておりますが、今後さらに、電電、専売両公社の事業の改革、公的年金制度の見直しなどを初め、臨時行政調査会のこれからの答申を含め、諸問題に真剣に取り組み、国政全般にわたって着実かつ強力な改革を推進していく所存であります。(拍手)
 また、財政の改革については、まず当面の昭和五十八年度予算編成に当たって徹底した歳出の見直しを行った結果、昭和三十年度以来初めて一般歳出の規模を前年度以下に圧縮いたしました。また、税外収入等歳入面においても増収努力を重ねて公債発行額をできるだけ抑制いたしました。これにより、きわめて厳しい環境の中にあって、増税なき財政再建の基本理念に沿いつつ、財政改革に向けて新たなる一歩を踏み出すことができたものと考えております。(拍手)
 さらに今後、新しい観点に立った長期的な経済展望のもとに、歳出歳入構造の徹底した合理化適正化を進めることによって、できる限り早期に特例公債依存体質からの脱却、さらには公債依存度の引き下げを図り、財政の健全性を回復してまいります。
 このようにして、財政の対応力を確保することにより、今後予想される経済社会の変動に弾力的に対処し、経済の活性化に貢献し得る新しい時代の財政を実現することができるものと考えております。
 また、国の財政と同様、厳しい状況に置かれている地方財政についてもその健全化を図ってまいります。
 政府は、当面の経済運営に当たっては、物価の安定を基礎としつつ、国内民間需要を中心とした景気の着実な拡大を実現し、雇用の安定を確保するため、引き続き適切かつ機動的な政策運営に努めてまいる所存であります。
 さらに、今後の長期的な経済社会の運営のあり方につきましては、政府は、昨年、経済審議会に対し、新しい経済五カ年計画の策定を諮問し、審議をお願いしてきたところでありますが、内外の経済社会の先行きの変動要因の大きさにかんがみ、これを、より長期的視野に立ち、かつ、弾力的で自由主義経済における民間活力を十分生かしていくような指針として検討策定していただくべく、先般、改めてお願いをしたところであります。
 こうした指針に基づき、将来における産業構造の転換と社会システムの変化を展望し、真の技術立国を目指した創造的な新技術の研究開発とその導入、基礎素材産業の再活性化などの政策を進め、また生産性の向上を基本とする農林水産業の体質の強化、中小企業の近代化等の振興対策を講ずることによってわが国経済社会の基礎を確固たるものにしてまいります。また、労使関係の安定に十分配慮しつつ、適正な労働政策によって人的能力の完全な発揮に努めるとともに、婦人の持つ豊かな能力を引き出し、一層の社会進出を図るなど、婦人問題に積極的に取り組んでまいります。
 この場合、その基礎条件として、物価の安定、為替レートの安定、資源エネルギー及び食糧の安定的確保、社会資本の充実、さらには環境汚染の未然防止、地震、災害や交通安全対策等に配慮を払うべきことは言うまでもありません。
 私は、政治目標の一つとして「たくましい文化と福祉の国日本」をつくることを掲げました。
 戦後の経済社会の発展と個人尊重思想の浸透は、一面において、村や国、家庭や企業といった、それまで日本人の心のよりどころとなっていたものの変化する過程でもありました。いま人々は、繁栄の中でともすれば孤立感と不安感を覚えるような状況に陥っております。そうした中で、長い老後への不安、子供のしつけや教育に対する悩みなど物質的豊かさのみでは解決し得ないさまざまな問題が生じております。人々の孤立感と不安感を取り除き、こうした問題を解決していくためには、社会的連帯の中で新しい生きがいと安心とを見出させ、能動的な自己開発の力を導き出すこと、そのための環境づくりが、最も必要であると考えます。政治の光を家庭に当てることも、同じ考えに基づくものであります。
 われわれは、個人の尊重という基礎の上に立ちつつ、もう一度、個人をはぐくんでくれる家庭、コミュニティー、国について思いをいたすべきではないでしょうか。(拍手)
 覚せい剤や非行、暴力といった青少年をむしばむ現象も、社会の原単位たる家庭の基盤が揺らぎ、礼儀、責任感、正直さ、兄弟愛、隣人への親切、奉仕の精神等、人間として生きるために必要な基本的な要素についての青少年に対する教育が、不十分となっていることと無関係ではないと思われます。(拍手、発言する者あり)このような見地からも家庭の役割りの充実は急務であり、政府においても、住宅や身近な生活環境施設の整備等行政の各分野において、その基礎条件づくりを進めてまいります。
 過激な国家主義が国民を戦争に追いやったという暗い思い出から、われわれは、ともすれば国そのものを意識の外に置こうとしているのではないでしょうか。しかし、戦後のわが国の繁栄も、国を基盤に、共通の目的に向かって共同の努力を傾注した輝かしい軌跡であったと思うのであります。(拍手)
 われわれは、国という長い歴史の中で形成された文化的、社会的な共通の基盤の上に生き続けております。わが国の長い伝統もまた目に見えない力となって、われわれの心の持ち方、生活のあり方を規定しております。個人の生きがいの積み重ねが国をつくり、国の歩みの選択が個人の運命を左右します。
 私は、個人の充実を基礎に、その活動の方向を、積極的に、家庭に、社会に、そして国にと振り向けさせることこそ、人々の孤立感を克服する道であり、「たくましい文化と福祉の国」建設のかぎであると考えます。(拍手)そのためには、国のレベルで、地域のレベルで、そうした人々の積極性を引き出すいろいろな試みがなされる必要があります。たとえば、社会福祉、青少年の健全育成、環境美化などに対するボランティア活動のより幅広い展開であり、各種教育、社会福祉事業に対する支援活動へのできるだけ多くの人々の参加であります。さらに、個々人が、外へ向かって能動的に働きかけ得る能力を養うための生涯教育、各種教養学習活動の充実であります。
 また、地方を重視し、国土の隅々にまで伝統産業、芸術、スポーツの各分野にわたって、特色ある地方文化の花を開かせることに重点を置きたいと思います。
 自立自助や、社会連帯の気風も、このような外なる世界への積極的な働きかけに目覚めた人々が構成する社会から醸成されます。そこに生まれる福祉は、たくましさと人間的なぬくもりを兼ね備えたものとなるでありましょう。(拍手)私は、社会保障制度等についても、このような福祉を実現するという見地から見直しを進めていく考えであります。その際、障害者、母子家庭、寝たきり老人など社会的に弱い立場にある人々に対しては、できる限りの温かい配慮が払われていなければなりません。私は、このような分野に対しての施策の充実に特に意を用いてまいります。(拍手)
 わが国は、国際的に見れば、なお恵まれた状況にあるとはいえ、景気、雇用等の当面する問題を抱え、中長期的には、高齢化社会に向けての社会保障制度等の整備、総合的な安全保障面での充実、農林水産業や中小企業分野を含めた各産業分野の長期的発展の基礎づくり、技術、産業の振興等による地域開発、環境問題への対応等、国内的にも多くの課題を抱えております。しかもそうした対策の重要な裏打ちとなるべき財政はきわめて苦しい状況にあり、有効かつ機動的な対応力を欠いております。
 加えて、いま、世界経済の一割を占め、自由世界第二の経済大国日本に対する世界の目は、われわれの想像する以上に厳しくなり、貿易、防衛、経済協力等の各分野でのわが国への期待と要求は、一層強くなってきております。
 政治の責任は、こうしたわが国の現時点での内外における立場を、国民に十分理解していただくとともに、その協力を得て、個々の課題について長期的視野に立った適切な解決を、一つ一つ図っていくことにあります。特に国際問題の多くは、当面の負担を受け入れることが、どのように国益に結びつくかを目に見える形で示しがたい性格のものであるだけに、その対応をめぐって、いろいろな考えや利害の対立が生じやすいものであります。しかし、いま必要なことは、それぞれの困難な問題を適切に処理し、世界から孤立することなく、世界に開かれた、世界に受け入れられ、そして敬愛される日本として、新生面を開いていくことであります。それがまた、われわれの子孫の繁栄を確保する道だと考えるのであります。(拍手)
 内外の政策の実行に当たって、政治に求められるものは思いやりと責任であります。公正に喜びも苦しみも分かち合って、すべての分野にきめ細かい配慮と対策を実行し、国民とともに前進することを心がけたいと思います。(拍手)
 われわれの祖先や先輩たちは、難局に遭遇したとき、常に団結して偉大な力を発揮し、これを乗り切ってまいりました。当面する困難に対しても、わが国民は、民主主義体制のもと、伝統的な底力を発揮してこれを克服し得るものと確信しております。(拍手)
 私は、国民の皆様の御鞭撻を得つつ、その先頭に立って全力を尽くすことを誓うものであります。
 重ねて国民の皆様の御理解と御協力を切にお願いいたす次第であります。(拍手)
    ─────────────
#5
○議長(福田一君) 外務大臣安倍晋太郎君。
    〔国務大臣安倍晋太郎君登壇〕
#6
○国務大臣(安倍晋太郎君) 第九十八回国会の開会に当たり、わが国外交の基本方針につき所信の一端を申し述べます。
 わが国を取り巻く現下の国際情勢は、依然として厳しいものがあります。
 ソ連指導部の交代や中ソ間の話し合いの開始などの動きも見られまするが、米ソ両大国を中心とする東西関係は、不安定な状況が継続しております。
 第二次石油危機を契機とした世界経済の低迷は依然続き、そのような中で、失業の増大、貿易収支の不均衡等の諸困難から保護主義的な対応をしようとする動きが欧米諸国を中心に台頭してきております。また、開発途上国及び東欧諸国における債務累積問題も、世界経済の直面する困難を増大させております。
 中東、アフリカ、中米、インドシナの地域を見るまでもなく、開発途上地域の紛争と混乱は継続し、また、南北関係の改善の歩みは、世界経済の停滞の影響も受け、遅々としております。
 このように厳しくかつ流動的な国際情勢のもとにおいて、わが国外交の使命は、きわめて重大であると言わざるを得ません。
 相互依存関係の深まった今日の国際社会においては、世界の平和と繁栄なくしてはわが国の平和と繁栄もあり得ません。また、現在のわが国の平和と繁栄は、世界各国の直接間接の協力があって初めて可能であったと言えるのであります。
 このような認識に立てば、単にみずからの目先の利益を追求するのではなく、各国とともに繁栄するために痛みを分かち合いつつ、わが国の発展を長期的に確保するとの視点がますます要求されております。わが国として、国際社会の直面する課題を自分自身の問題としてとらえていくことが、従前に増して重要となってきていると考えます。
 いまや、世界は、その平和と繁栄を構築するために、わが国の積極的な行動を求めており、わが国が各国の期待にこたえてみずからその国力にふさわしい役割りを果たし、世界の信頼をかち得ていかない限り、国際社会において孤立する事態を招きかねないと言っても過言ではないでありましょう。
 私は、いまこそ、わが国が世界の信頼にこたえる日本を目指して、特に以下の点を中心に、主体的かつ積極的な貢献を行っていかねばならないと考えます。
 わが国は、先進民主主義諸国との間に自由と民主主義、市場経済と自由貿易といった政治経済上の理念を共有しております。世界が直面する諸困難に有効に対処していくには、これら民主主義諸国が互いに協力、補完し合っていくことが大切であります。また、現在の東西関係をより安定した軌道の上に乗せるためにも、西側諸国が結束を維持して、力の均衡を確保しつつ対話と交渉を推進していく必要があります。
 世界の平和と安全を確保する上で、国連の果たす役割りには大きなものがあり、わが国は、その平和維持機能の改善強化に積極的な協力を行っていく考えであります。また、わが国は、現下の厳しい国際環境のもとで、国際社会を長期的により安定したものとするよう、核軍縮を中心とする具体的な軍縮措置の着実な実現に向けて、国連、軍縮委員会等の場を通じ、引き続き貢献していく所存であります。さらに、我が国は、戦略核兵器及び中距離核戦力に関する米ソ間の交渉の実質的進展を期待いたします。特に、中距離核戦力交渉については、世界的な観点に立って、わが国を含む極東の安全保障が損なわれないような形で解決が図られることを強く求めるものであります。
 自由貿易体制を維持強化しつつ世界経済の健全な発展を図ることは、わが国の対外経済政策の基本であります。わが国は、かかる観点より、一昨年来、一連の市場開放措置を決定し、その実施に努めてまいりました。政府は、昨年十二月には八十六品目に上る関税の撤廃及び引き下げ、さらに、一部農産物の輸入枠の拡大を決定するとともに、一月十三日には輸入検査手続等の改善を初めとする対外経済対策を決定しました。
 わが国は、今後とも、率先して自由貿易体制の発展のために貢献していく所存であります。同時に、かかるわが国の努力に応ずる形で、各国においても保護主義を排する施策が講じられることを強く期待いたします。また、科学技術の分野における国際協力についても、わが国に対する期待にこたえて、積極的に協力を推進していく考えであります。
 開発途上国との相互依存関係がとりわけ深いわが国は、これら諸国がその抱える諸困難を解決し、みずからの発展を図り得るよう、二国間及び国際機関を通ずる協力をさらに進めるとともに、南北間の建設的対話と協調を促進していく必要があります。
 開発途上国の発展と繁栄に寄与する経済協力の推進、とりわけ、政府開発援助の拡充は、わが国の国際的な責務であります。同時に、このような経済協力を通じて開発途上国の発展が図られることは、当該地域ひいては世界の平和と安定に貢献するものであり、わが国の長期的な国益にもかなうものであります。わが国は、こうした認識に基づき、引き続き新中期目標のもとで政府開発援助の着実な拡充を図るとともに、世界の平和と安定の維持にとって重要な地域に対する援助を強化していく方針であります。
 以下、各地域との関係について基本的な考え方を申し上げます。
 日米安保体制に基盤を置く日米間の友好協力関係は、わが国外交の基軸であり、この関係が良好に保たれ発展していくことは、ひとりわが国の安全を確保するためのみならず、世界的視野に立った外交を進めていくために欠くことができません。
 このような考え方から、今般、中曽根総理大臣は訪米し、私もこれに随行いたしました。首脳会談を初めとする今回の話し合いでは、国際情勢や日米間の諸問題について忌憚のない意見交換が行われ、その結果、同盟関係にある日米両国の信頼関係は、一層強化されたものと確信をしております。この成果を踏まえ、私は、近く来日するシュルツ国務長官との間で長期的かつ全般的な視野に立った話し合いをさらに深めるとともに、今後とも、個々の問題の処理のみにとらわれず、日米間の積極的な協力面を見失うことのないように配慮して、日米両国の発展のため一層の努力を行っていく所存であります。
 先進民主主義諸国間の結束を図る上で、日欧関係の一層の緊密化は、不可欠であります。私は、この認識に立って、本年早々、西欧諸国及びEC委員会を訪問いたしました。今回の訪欧を通じて、日欧間の相互理解を一段と深めることができたものと考えております。今後とも、日欧間において、産業協力及び科学技術協力に見られるような新たな分野における関係の発展を図るとともに、政治面での協力を一層充実して、建設的な協力関係を築いていくよう尽力したいと考えます。
 さらに、太平洋地域の先進民主主義諸国であるカナダ、豪州、ニュージーランドとの幅広い友好協力関係の強化に努めていきたいと考えます。
 わが国がアジア諸国との間に相互信頼に裏づけられた緊密な友好関係を発展させていくことは、アジアの一員として、また、わが国が積極的な外交を展開するための基盤としてきわめて重要であります。私は、アジア諸国との相互理解の増進に努め、これら諸国の信頼と期待にこたえてその発展と繁栄に寄与し、もってアジアの平和と安定に資するよう努力していきたいと考えております。
 韓国との関係につきましては、先般の中曽根総理大臣の訪韓によって首脳レベルにおける相互信頼関係が確立し、日韓関係安定の基礎が固められました。今後とも、各層の幅広い対話と交流を促進し、両国国民の相互理解をさらに深めるため、互いに努力することが重要であると考えます。同時に、政府は、朝鮮半島における対話再開に向けての関係者の努力を見守りつつ、朝鮮半島の緊張緩和に対しわが国なりの立場から貢献し得ることがあれば、努力を惜しんではならないと考えます。また、北朝鮮との関係については、今後とも、貿易、経済、文化等の分野における交流を漸次積み重ねていく考えであります。
 日中関係は、国交正常化後の十年の間に着実に発展し、現在両国間には友好協力関係の安定した基礎があります。わが国は、この基礎の上に両国関係の一層の発展を図るべく、引き続き努力する決意であります。最近、中国の対ソ姿勢に変化が見られまするが、中国は、従来どおり、対外開放政策を堅持し、わが国を初め西側諸国との協力関係を促進をしていく旨明らかにしております。わが国は、今後とも、中国の近代化への努力にできるだけの協力をしていく所存であります。
 ASEAN諸国が連帯意識を深めつつ着実な発展を遂げていることは、東南アジアひいてはアジア全体の重要な安定要因であり、心強い限りであります。わが国は、アジアの長期的な平和と安定を確保するため、ASEAN諸国のこのような努力を引き続き支援するとともに、これら諸国との協力関係の一層の発展に努力していく考えであります。
 インドシナにおいては、カンボジア問題が依然未解決であり、アジアにおける不安定要因となっております。残念ながら、ベトナムは、いまだ話し合いによる包括的政治解決を求める国際社会の声にこたえておりません。わが国は、今後ともASEAN諸国等関係各国と協力し、また、ベトナムとの対話を維持しつつ、問題解決のためにあらゆる努力を続けてまいります。
 インドシナ及びアフガニスタン難民問題は、依然としてアジア諸国、なかんずく、タイ及びパキスタンに多大の負担を強いております。わが国は、資金協力やインドシナ難民の受け入れなどを通じて、問題の解決に引き続き寄与してまいる所存であります。
 南西アジア地域では、インド・パキスタン関係の改善などこの地域の安定にとって好ましい動きがあらわれてきております。わが国は、これらの諸国との伝統的な友好関係を一段と強化し、この地域の安定に貢献していく所存であります。
 近年、アジア・太平洋地域に対する世界の関心が高まっております。多様性に富み、活力にあふれる太平洋地域は、将来へ向けての発展の大きな可能性を秘めており、わが国としても、この地域の各国と協力して、太平洋協力促進のための努力を今後とも支援していきたいと考えます。
 わが国の重要な隣国であるソ連との関係は、北方領土における軍備強化、アフガニスタンへの軍事介入、ポーランド情勢などにより、遺憾ながら引き続き厳しい局面にあります。政府は、新しく誕生したソ連指導部に対しこのような事態の是正を求めていくとともに、日ソ間の最大の懸案である北方領土問題を解決して平和条約を締結し、真の相互理解に基づく安定的な関係を確立するため、あらゆる機会をとらえてソ連側と粘り強く話し合っていく所存であります。
 他方、わが国は、従来より、ソ連の極東における軍備増強について懸念を表明してきておりますが、今般、ソ連指導部が現在欧州地域に配備されている中距離ミサイルをシベリアに移動する可能性を明らかにしたことは、この地域の平和と安定を脅かすものとして強く遺憾の念を表明せざるを得ません。(拍手)
 ソ連側は、日米首脳会談等をとらえ種々の論評を加えておりますが、わが国が日米安保体制の円滑な運用のために一連の措置をとることは、わが国の平和と安全を確保するため当然のことであり、かかるソ連側の批判は、全く根拠のないものであります。(拍手)
 東欧諸国との関係については、政府は、それぞれの国情及び各国の政策を十分勘案の上、相互理解の増進と友好関係の発展のため、引き続き努力してまいります。ポーランドの事態については、昨年末の戒厳令停止の措置が名実ともに事態の改善につながり、真の国民的な和解が速やかに達成されることを希望しております。
 中近東地域の安定にとって、とりわけ中東和平問題の公正、永続的かつ包括的解決の実現が不可欠であります。そのためには、パレスチナ人の自決権とイスラエルの生存権が相互に承認されなければなりません。レーガン米国大統領の和平提案が発表されて以来、アラブ首脳会議において統一的和平提案が採択されるなど、関係諸国の間に和平の機運が芽生えつつあります。
 わが国は、現在米国を中心として行われている和平努力を高く評価するとともに、イスラエル及びPLOを含む関係当事者が、この機会を逸することなく和平に向けての努力を強化することを強く希望しており、これら当事者に対してこの旨を呼びかけてきております。
 レバノン情勢に関し、わが国は、今後、イスラエル軍及びレバノン政府が認めないその他の外国軍隊の撤退が早期に実現し、国民和解が達成されることを希望いたします。
 イラン・イラク紛争の継続は、両国民の犠牲と苦痛を増大させておるのみならず、この地域の平和と安全にとっても憂慮すべきことであり、わが国は、イラン・イラク両国が大局的判断に立って、早急に紛争を終結するよう強く願うものであります。
 わが国は、今後とも、西側諸国や関係当事者との協力関係を強化しつつ、この地域における和平の実現、平和維持や民生安定のための諸活動に積極的な貢献を行っていく考えであります。
 わが国と中南米諸国との間には、多数の日系人社会の存在及び経済面での相互補完関係を背景にして、伝統的に友好関係が保たれてきております。近年においては、経済関係にとどまらず、文化交流、科学技術等多岐にわたる分野においてわが国との協力関係が深まりつつあります。わが国は、引き続き、これらの諸国との友好協力関係の増進に努めてまいります。
 アフリカとわが国との関係も、近年、ますます緊密の度を加えてきております。アフリカ諸国は、厳しさを加える経済的困難の中で国づくりに懸命の努力を傾けております。また、ナミビアの早期独立達成に向けて、国連や関係諸国の協力を得つつ真剣な努力が行われております。わが国は、アフリカ諸国のかかる努力に対してできる限り協力していきたいと考えております。
 国際社会における相互依存関係の深まりと交通、通信手段の飛躍的な発展により、いまや地球全体がいわば一つの共同体となっていると言っても過言ではないでありましょう。諸外国の事象は、直ちに国民生活の隅々に影響を及ぼすと同時に、わが国の施策も国際政治あるいは国際経済の動向に少なからざる影響を与えるに至っております。
 こうした中で、私は、世界の平和と繁栄に積極的に貢献するというわが国の立場と責任を深く認識し、わかりやすい外交を展開することによって国民の理解と支持を求めていきたいと考えます。同時に、諸外国との相互信頼関係を促進するため、あるいは相互理解の不足から生じる摩擦を防止するためにも、わが国の真の姿が正確に認識されるよう、文化交流や広報面の努力を一層強化していく考えであります。
 これからの厳しい国際環境の中で、私は、言うべきことははっきり言うとともに、約束したことはあくまでも実行するという姿勢を貫くことによって、世界の信頼にこたえる日本を目指して外交を進めていく決意であります。
 皆様の御理解と御支援をお願いをする次第であります。(拍手)
    ─────────────
#7
○議長(福田一君) 大蔵大臣竹下登君。
    〔国務大臣竹下登君登壇〕
#8
○国務大臣(竹下登君) ここに、昭和五十八年度予算の御審議をお願いするに当たり、その大綱を御説明申し上げ、あわせて当面の財政金融政策の基本的考え方について、私の所信を申し述べたいと存じます。
 わが国は、昭和三十五年以降の十年間、二けたの目覚ましい高度経済成長を行ったのでありますが、これは一バレル二ドルという低廉で豊富な石油に支えられた時代でもありました。この間にあって、昭和四十年、深刻な不況を迎え、政府は公債の発行に踏み切ったのであります。
 多年の努力により高度工業化を達成した日本は、昭和四十五年に二けたの高度成長時代に別れを告げました。昭和四十六年の国際通貨制度の動揺に続いて、四十八年には石油ショックが世界経済を襲い、日本社会も厳しい試練の時を迎えました。狂乱物価と言われたインフレとその後の戦後最大の不況に、国民は実に真剣に対応いたしました。そして経済がようやく自律的回復軌道に乗りかけたときに、第二次石油危機が発生し、さらに国民は厳しい試練に直面したのであります。
 この二度にわたる試練の中で、日本人は、環境問題に取り組みつつ、省エネルギーを推進し、生産性の向上を達成するなど、すぐれた成果をおさめました。こうして、わが国は世界の優等生と言われるように、社会経済の構造変化に伴う新しい安定成長時代に対応してまいりました。この間、政府においても巨額の公債発行に踏み切り、景気の回復と国民生活の安定を図ったのでありますが、これは後に大きな財政問題を生むことになります。
 今後の課題は、この安定成長経済を確実なものとし、二十一世紀に向かって、ゆとりと活力のある安定社会を築き上げることにあります。
 国民は物の豊かさの中に心の豊かさを求めており、量的拡大よりも質的向上を目指した国民生活の一層の充実を図っていくことが必要であると考えます。社会経済構造の変化に適合しなくなった制度や慣行は、思い切ってこれを変革していかなければなりません。すでに民間企業においては厳しい減量経営が行われ、新しい時代への対応が進みつつあります。公的部門におきましても、特に昭和五十五年度以降の予算編成を通じて、厳しい経費の圧縮を行ってまいったことは御承知のとおりであります。この際さらに一歩を進め、時代の変化に適合した行財政を築き上げていくことが求められております。
 石油危機後の不況に対応するための巨額の公債発行は、財政に大きな後遺症を残しました。これは日本だけの問題ではなく、先進諸国に共通する大問題でありますが、特にわが国の場合、国債残高は約百兆円に達し、経済全体が比較的良好な中で、財政の困難が際立っております。
 日本社会の高齢化は急速に進展いたしております。国際社会において、わが国の果たすべき役割りと責任もますます大きくなってきております。
 このような中で、財政の立て直しは、単に財政赤字の解消にとどまるものではありません。それは、社会経済の進展に合わせ、歳出歳入構造の見直しを行うことにより、新しい時代の要請に即した財政の対応力を回復する財政改革でなければなりません。
 このためには、まず歳出面におきまして、現下の諸情勢と将来への展望を踏まえ、国、地方、企業や家庭の役割り分担など行財政の守備範囲を見直し、歳出の徹底した洗い直し、一層の合理化を行うことであります。また、歳入面におきましても、社会経済構造の変化に対応して、歳入構造の合理化、適正化に努めるとともに、行政サービスの受益と負担のあり方という観点から、基本的見直しを行う必要があります。このような方針のもとに、特例公債依存体質からの脱却とさらには公債依存度の引き下げに努め、財政の対応力の回復を図ってまいる所存であります。
 内外経済情勢は今後ともなおきわめて流動的なものと考えられ、財政改革への道は険しく容易ならざるものがあります。しかし、私は以上のような考えに立ち、国民の真の理解と協力を得つつ、一歩でも二歩でも前進していく所存であります。
 このような観点から、昭和五十八年度予算におきましては、まずもって前年度より一段と厳しい歳出の削減を図りました。
 概算要求の段階におきましては、画期的なマイナスシーリングを採用し、各省庁に対して所管予算の厳しい見直しを求めました。その後の予算編成に当たりましては、聖域を設けることなく、並み並みならぬ決意をもって徹底した歳出の削減を行いました。この結果、一般歳出の規模は三十二兆六千百九十五億円と、前年度を下回るものとなっておりますが、これは高度成長期以前の昭和三十年度以来のことであります。
 補助金等につきましては、すべてこれを洗い直し、従来にも増して積極的に整理合理化を行うことといたしました。
 また、食糧管理費の節減合理化、医療費の適正化、国鉄経営の合理化等を、一層推進したところであります。
 国家公務員の定員につきましては、定員削減計画を着実に実施するとともに、増員を厳しく抑制することにより、国家公務員総数の縮減を図ることといたしております。
 なお、昭和五十六年度の決算上の不足に係る国債整理基金からの繰り入れ相当額、二兆二千五百二十五億円につきましては、法律の規定に従い、同基金に繰り戻すこととしております。
 これらの結果、一般会計予算規模は、前年度当初予算に比べ、一・四%増の五十兆三千七百九十六億円となっております。国債整理基金への繰り戻し額を除いた実質的な一般会計予算規模は、対前年度三・一%のマイナスとなっているのであります。
 歳入面におきましては、きわめて厳しい財政事情にかんがみ、特別会計、特殊法人からの一般会計納付、たばこの小売定価の改定等を実施することにより、税外収入について、格段の増収努力を行いました。
 また、最近の社会経済情勢にかんがみ、税負担の一層の公平化、適正化を図るとの観点から、租税特別措置の整理合理化等を推進することといたしました。一方、中小企業の基盤強化、住宅建設の促進等に資するため、所要の税制上の措置を講ずることとしております。
 なお、税の執行につきましては、国民の信頼と協力を得て、今後とも一層、適正、公平な税務行政を実施するよう、努力してまいる所存であります。
 公債につきましては、さきに申し述べました歳出歳入両面の努力により、その発行予定額を前年度補正後予算より一兆円減額し、十三兆三千四百五十億円といたしました。その内訳は、建設公債六兆三千六百五十億円、特例公債六兆九千八百億円となっております。この結果、公債依存度は、二六・五%となっております。
 この公債につきましては、その円滑な消化に配慮し、国債引受団による消化は六兆六千億円、中期国債の公募入札による消化は三兆四百五十億円、資金運用部資金による引き受けは三兆七千億円とすることとしております。また、今年四月から、金融機関による長期国債の窓口販売が実施されますが、これにより国債の個人消化の拡大が図られるものと考えております。国債管理政策につきましては、今後とも、その適切な運営に努めてまいる所存であります。
 特例公債の発行等につきましては、別途、昭和五十八年度の財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。
 財政投融資計画につきましては、これまでになく厳しい原資事情にかんがみ、対象機関の事業内容や融資対象を厳しく見直し、真に緊要な事業に重点化を図ることにより、その規模を抑制する一方、民間資金の活用を図り、対象機関の円滑な事業執行の確保に配慮したととろであります。
 この結果、昭和五十八年度の財政投融資計画の規模は、二十兆七千二十九億円となり、前年度当初計画に比べ二・〇%の増となっております。
 次に、主要な経費について申し述べます。昭和五十八年度予算は一段と厳しい財政事情のもとにありますが、その中にあって、中長期的観点から充実を図る必要があるものや真に恵まれない人々に対する施策等につきましては、特に配慮いたしました。
 まず、経済協力費、防衛関係費、エネルギー対策費等につきましては、他の歳出とのバランスをも考慮しつつ、極力財源を重点的に配分することとしております。
 社会保障関係費、文教及び科学振興費につきましては、今後の高齢化社会への動きや、児童生徒数の減少などを踏まえつつ、必要な合理化を図る一方、老人や心身障害者に対する福祉施策の充実、医療供給体制の整備、高年齢者の就業機会の確保、基礎科学研究の充実など、重点的、効率的な施策の推進に努めております。
 中小企業対策費につきましても、人材養成、情報化促進対策など、その近代化、構造改善を促進していくための措置を講じております。
 農林水産関係経費につきましては、需要の動向に即応した生産の再編成と生産性の向上を図ることを基本に、施策の重点的、効率的な推進に努めております。
 公共事業関係費につきましては、厳しい財政事情の中で、前年度同額を確保するとともに、住宅対策、下水道事業、公園事業など、国民生活に直接関連する事業には、きめ細かな配慮を行っております。
 昭和五十八年度の地方財政につきましては、約三兆三千億円の財源不足が見込まれますが、所要の財源措置を講じ、その適正な運営に支障の生じないよう配慮しております。地方団体におかれましても、歳出の節減合理化を推進し、より一層有効な財源配分を行うよう要請するものであります。
 以上、昭和五十八年度予算の大要について御説明いたしました。何とぞ御審議の上、速やかに御賛同くださるようお願い申し上げます。
 次に、最近の経済情勢と当面の経済運営の基本的な考え方について、申し述べます。
 第二次石油危機の後遺症は、いまなお世界経済に深刻な影響を与えております。世界的なインフレはようやく鎮静化しつつあるものの、世界景気の回復はおくれており、多くの先進諸国はマイナス成長やゼロ成長に近く、軒並み一〇%前後の失業率を抱える厳しい状況にあります。
 このような中にあって、日本経済は、国民生活安定の基本である物価がきわめて落ちついているとともに、毎年三%以上の成長を遂げ、現在も、個人消費に支えられた内需中心の成長に移行し、諸外国と比べ格段の実績を示しております。しかしながら、世界経済の回復のおくれから、輸出の減少が見られ、生産、出荷も伸び悩むなど、経済社会構造の変化の中で厳しい対応が迫られている分野も見られます。このような状況に対応して、政府は、昨年総合経済対策を決定し、その着実な実施に努めているところであります。
 外国為替相場につきましては、これまでの行き過ぎたドル高・円安が次第に是正され、わが国のすぐれたファンダメンタルズを反映して、円高方向へと修正されつつあります。国内金融面でも、公社債市況の好転により、昨年十二月に続き、現在も一連の長期金利の引き下げが進んでおり、今後の景気回復の明るい材料になるものと考えられます。
 世界経済は、インフレの鎮静化と米国を初めとする高金利の是正の動きを背景に、徐々に回復するものと見られ、日本経済も、内需を中心とした自律的な回復の道を歩んでいくものと期待しております。
 今後とも、経済情勢を見守りつつ、適切な財政金融政策の運営を行ってまいる所存であります。
 国際協調のもとで、調和のある対外経済関係を形成することは、自由貿易に多くを依存するわが国の安定と繁栄のための不可欠の条件であります。
 さきに述べたような厳しい経済情勢を背景として、諸外国では、保護貿易主義的な動きが高まってきております。自由貿易体制は、国際分業の精神のもとに市場経済を運営する基本的な原則であり、この維持強化は、国際社会の有力な一員としての日本の責務であります。
 このような観点から、政府は、一昨年以来二度にわたり、関税率の撤廃、引き下げ、輸入検査手続の改善等を内容とする市場開放対策を決定し、着実に実施してまいりました。
 さらに、わが国の市場開放を一層推進するとの見地から、今回、新たな対外経済対策を決定し、欧米の関心が強い、たばこ、チョコレート、ビスケット等の関税率の思い切った引き下げ、輸入検査手続の一層の改善措置等をとることといたしました。
 これらの措置が着実に実施され、世界貿易の拡大に資することを、強く期待するものであります。
 また、経済大国である日本にとって、開発途上国の経済発展のための自助努力を支援することは、大きな国際的責務となっております。開発途上国に対し、経済協力を行うに当たりましては、今後ともその効率的実施に十分配慮してまいる所存であります。
 私は、先日、パリで行われました十カ国蔵相会議に出席し、また、その際主要国の蔵相と個別に会談いたしましたが、これらの意見交換を通じて、経済問題に対する国際協調の必要性を改めて痛感いたしました。債務累積問題に端を発する国際金融不安の問題については、債務国、債権国、IMF等がそれぞれ適切に対応することによって、これを回避できるという共通の認識が形成されつつあります。また、今回の蔵相会議において、IMFの資金基盤の強化の問題につき大きな前進が見られたことは、国際金融の安定に貢献するものと考えております。
 今世紀も、残すところあと十数年となりました。二十世紀初頭、わが国は極東の小国でありましたが、その後幾多の試練を経て、今日、世界有数の経済大国に成長したのであります。
 今後の最大の課題は、二十一世紀に向けて、経済社会の成熟化への対応を進め、国際社会により一層貢献し得る日本を構築することにあります。それは質的に充実した、調和のとれた社会を築き上げることにほかなりません。
 財政改革を行い、真に均衡のとれた経済の姿を実現することは、この課題に向かっての第一歩であり、将来の発展の基礎を築くものであります。もとより、内外の情勢には厳しいものがあります。しかし、財政についての国民の関心は盛り上がり、その理解は深まりつつあります。財政の受益者は国民であり、その負担者もまた国民であります。財政は、まさに国民のものにほかなりません。財政改革をなし遂げ、将来に明るい展望を開くことができるか否かは、ひとえに国民の英知と努力にかかっているのであります。(拍手)
 道は険しくとも、この困難な問題を、次の世代に残すことなく解決し、世界に誇り得る日本を、未来を担う若者たちに引き継いでいきたいと念願するものであります。
 国民各位の御理解と御協力を、切にお願いする次第であります。(拍手)
    ─────────────
#9
○議長(福田一君) 国務大臣塩崎潤君。
    〔国務大臣塩崎潤君登壇〕
#10
○国務大臣(塩崎潤君) わが国経済の当面する課題と経済運営の基本的な考え方について所信を申し述べます。
 戦後三十余年、わが国経済は、幾多の困難と試練を乗り越えて、目覚ましい発展を遂げ、早くも一兆ドル経済の規模に達し、世界経済のほぼ一〇%のシェアを占めるに至っております。さらに、二度にわたる石油危機の後にも、欧米諸国に比べて、高く、安定的な成長を遂げ、失業率、物価、国際収支のいずれの点においても、際立って良好なパフォーマンスを示していると言えましょう。
 しかし、このようなわが国経済も、世界の同時不況の影響を受け、輸出の減少等により、景気の回復は緩慢となり、経済の現状は厳しい状況にあります。財政は、大幅な税収不足の発生により一段と困難を増しています。
 世界経済は、第二次石油危機の後遺症から十分に脱却し切れず、長期間にわたり激しいインフレと失業に悩んでまいりました。西欧諸国では、経済問題が政権の交代を伴うような最も深刻な政治問題とすらなっております。各国は、インフレ抑制に最重点を置き、通貨供給の抑制と財政支出の削減の努力を一貫して続けてまいりました。このような努力の結果、インフレはようやく鎮静化の実を上げるに至ったのでありますが、反面、高金利という傷跡を残し、経済活動の停滞を長期化させ、戦後最高の失業率を生むに至りました。しかも、このことは、欧米諸国の対日貿易赤字とも相まって、保護貿易主義の高まりとなってあらわれているのであります。
 また、発展途上国も、先進国経済の停滞を反映して、輸出の減少、一次産品価格の低落等から経常収支が悪化し、債務累積の問題が顕在化するに至りました。
 ただ幸いなことに、欧米諸国のインフレの鎮静化に伴い、世界金利は低下に向かいつつあります。そのため、わが国でも、為替相場は円高の方向に改善されつつあり、金利水準も低下傾向を示し、景気回復の条件が整ってきました。
 このような内外の経済動向を考えますと、財政上の困難など、政策手段の選択の幅はきわめて狭いのでありますが、私は、ここ当面の経済政策の基本的方向は、物価の安定を図りつつ、内需を中心とした経済の着実な成長を図る一方、世界各国と協調しながら、自由貿易を維持するために粘り強い努力を払うとともに、発展途上国への経済協力を積極的に進めることにより、わが国が経済力によって世界経済に貢献することを目指すべきものと信ずるのであります。
 このような基本的方向のもとで、私は、次の三つの柱を打ち立て、五十八年度の経済運営に当たって具体化したいと考えております。
 その第一の柱は、国内民間需要を中心とした経済の着実な成長の実現を図ることであります。
 内需中心の経済の着実な成長は、外で、いわゆる貿易摩擦の解決のためにも、また、内で、現在の最重点課題である行財政改革を円滑に進め、雇用の安定を図るためにも肝要であります。
 このため、まず第一に、昭和五十八年度予算においても、この点を配慮いたしました。すなわち、きわめて厳しい財政事情の折から、他の五十八年度本来の歳出項目全体の伸びがマイナスにもかかわらず、公共事業関係費については、前年度同額の予算額を確保し、その配分に当たっては、経済効果の高い事業に重点を置くこととしております。
 第二は、金利低下のもとで、中小企業の設備投資促進のための税制等の施策を推進することにより、民間投資の喚起を図ることであります。特に、マイクロエレクトロニクス、バイオテクノロジー等の先端技術の投資については、その促進に努め、産業構造の一層の知識集約化、高度化を図り、経済の生産性の向上に役立てたいと考えるのであります。また、円高傾向の定着も、企業経営の先行きに明るさを与え、設備投資意欲の促進に資するものと考えております。
 第三は、金利の低下と相まって、住宅取得控除の引き上げ等によって、住宅ローン利用者の負担軽減を図る一方、増改築や住宅の質的向上に対する国民のニーズを取り入れて、引き続き、住宅建設を促進することであります。
 第四は、基礎素材産業や農林水産業、中小企業について、構造政策的な観点を取り入れながら、活性化、経営の安定化を図るため、実情に応じた対策を実施することであります。
 このような政府の諸施策の推進により、世界経済の回復と相まって、国内民間需要は次第に回復し、五十八年度のわが国経済は、実質で三・四%程度の成長を達成するものと見込んでおります。
 第二の柱は、わが国経済の孤立化を避けて国際協調を推進し、世界経済に貢献することであります。
 近年、経済の停滞と雇用情勢の悪化を背景として、欧米諸国を中心に、わが国との貿易不均衡の是正を求める声が高まり、保護貿易の動きが真に警戒すべき状態になってまいりました。そして、相互の経済、社会の認識に大きなギャップがあることが指摘されるようになってきました。
 戦後のわが国は、段階的に、貿易、資本の自由化を進め、自由貿易体制の仲間入りをしつつ、目覚ましい成長を遂げてまいりましたが、いまやわが国は、この自由貿易体制の維持のため他国に積極的に働きかけねばならない立場に立ち至っております。
 このような観点から、政府としては、一昨年末以来、わが国市場の開放のための対策を講じてまいりました。さらに、今般、関税率の思い切った引き下げ、基準・認証制度等の根本的見直し、OTOの機能強化等の一層の市場開放措置や集中豪雨的輸出の回避、産業協力の推進等を決定しました。これらの措置は、最近の世界の保護貿易主義的傾向を阻止するためにも、わが国が率先してとったものであります。今後、関係各国に対して、このような努力について理解を得るとともに、相互の認識のギャップをなくすよう一層の努力をしてまいる所存であります。
 また、わが国と発展途上国の相互依存関係が一層深まってきている今日、わが国が経済協力によって発展途上国の経済社会開発への自助努力を支援することは、世界経済の調和ある発展に貢献し、国際社会の期待にこたえるとともに、わが国経済の安定的発展に資する道でもあります。
 このような考え方に立ち、発展途上国の経済社会開発により資するよう発展段階に応じたきめの細かい援助という点に配慮しながら、今後とも、政府開発援助の新中期目標のもとで経済協力の拡充に努めることとしております。
 第三の柱は、物価の安定基調を維持することであります。
 物価の安定なくして、ゆとりのある安定した福祉社会の実現は期待できません。
 このため、欧米諸国は、この二、三年、失業の大幅増加という大きな犠牲を払いながら、物価の安定を目指して悪戦苦闘してまいりました。これに対し、わが国は、より小さい犠牲のもとで物価の安定化に成功し、消費者物価は、最近では二%台という近年にない安定ぶりを示しております。また、幸いこのところ為替相場は円高方向へと修正されつつあります。過去二度にわたって世界にショックを与えてき石油も、現在、需給は緩和し、価格は弱含みに推移しています。こうした動きは、物価安定の見地から好ましいことであります。
 政府としては、今後とも、物価の動向に細心の注意を払いながら、機動的な政策運営に努めることにより、物価の安定基調を維持することとしております。この結果、五十八年度は、卸売物価が一・一%程度、消費者物価が三・三%程度の上昇率になるものと見込んでおります。
 次に、中長期の経済運営の基本的方向について申し上げます。
 われわれは変化の時代に位置しております。国際的には、多極化の進展等世界経済秩序の変貌が見られる一方、国内的にも、産業社会の知識集約化、サービス化、労働市場の構造変化が進むなど、内外経済環境の変化には著しいものがあります。さらに、二十一世紀までの期間を展望しますと、国際化、高齢化、成熟化といった大きな流れが指摘されております。
 このような転換期にあって、当面の諸課題を解決しながら、来るべき二十一世紀への備えを進めていくためには、これまで以上の長期的な視野に立って事態の変化に弾力的に対応し得るような経済社会の展望、経済運営の指針が求められていることが特に痛感されます。また、中長期の展望、指針を明らかにし、企業や家計の先行きの不透明感を払拭することは、現下の景気回復のために欠くことのできない条件であります。正しい海図があって初めて船は確信を持って航路をとることができるのであります。
 このため、長期的視野からのわが国経済社会の展望と経済運営の指針について、新たに経済審議会に御検討をお願いしたところであります。
 今後、この検討の結果をよりどころとして、長期的な経済運営を行ってまいる考えであります。
 以上、今後の経済運営の課題と方向について申し上げました。
 外にあっては五十年ぶりの世界同時不況、内にあっては未曾有の財政困難の中で、景気の回復を図っていくことは決して容易ではありません。しかし、溶けそうに見えない根雪の下にも春の兆しが芽吹いていることを忘れてはなりません。海外の動向を見ますと、長期にわたった米国の高金利も是正され、世界経済は今後次第に回復に向かうとの見方が一般的であります。また、このような事情を受けて、国内においても、円相場や金利面で昨年とは違った明るい動きがあらわれてまいりました。そして何よりも、わが国経済は、当面する諸困難を克服していく旺盛な活力を有しているのであります。
 一歩一歩、着実な前進を図ろうではありませんか。
 国民がその英知と総力を結集すれば、それは可能だと私は確信しております。
 政府は全力を尽くします。
 国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。(拍手)
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#11
○保利耕輔君 国務大臣の演説に対する質疑は延期し、来る二十七日午後一時より本会議を開きこれを行われんことを望みます。
#12
○議長(福田一君) 保利耕輔君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#13
○議長(福田一君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。
     ────◇─────
 裁判官弾劾裁判所裁判員辞職の件
#14
○議長(福田一君) お諮りいたします。
 裁判官弾劾裁判所裁判員古屋亨君から、裁判員を辞職いたしたいとの申し出があります。右申し出を許可するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#15
○議長(福田一君) 御異議なしと認めます。よって、許可するに決しました。
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 裁判官弾劾裁判所裁判員の選挙
 検察官適格審査会委員の選挙
 国土開発幹線自動車道建設審議会委員の選挙
 国土審議会委員の選挙
#16
○議長(福田一君) つきましては、裁判官弾劾裁判所裁判員の選挙を行うのでありますが、ほかに検察官適格審査会委員、国土開発幹線自動車道建設審議会委員及び国土審議会委員に欠員がありますので、この際、あわせてその選挙を行います。
#17
○保利耕輔君 各種委員等の選挙は、いずれもその手続を省略して、議長において指名されんことを望みます。
#18
○議長(福田一君) 保利耕輔君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#19
○議長(福田一君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。
 議長は、裁判官弾劾裁判所裁判員に羽田野忠文君を指名いたします。
 次に、検察官適格審査会委員に唐沢俊二郎君を指名いたします。
 なお、予備委員熊川次男君は、唐沢俊二郎君の予備委員といたします。
 次に、国土開発幹線自動車道建設審議会委員に吉田之久君を指名いたします。
 次に、国土審議会委員に長谷川四郎君を指名いたします。
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#20
○議長(福田一君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後二時三十二分散会
ソース: 国立国会図書館
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