1982/01/28 第98回国会 衆議院
衆議院会議録情報 第098回国会 本会議 第4号
#1
第098回国会 本会議 第4号昭和五十八年一月二十八日(金曜日)
─────────────
議事日程 第四号
昭和五十八年一月二十八日
午後二時開議
一 国務大臣の演説に対する質疑 (前会の続)
─────────────
○本日の会議に付した案件
国務大臣の演説に対する質疑 (前会の続)
小林進君の故議員早川崇君に対する追悼演説
午後二時三分開議
#2
○議長(福田一君) これより会議を開きます。────◇─────
国務大臣の演説に対する質疑 (前会の続)
#3
○議長(福田一君) これより国務大臣の演説に対する質疑を継続いたします。竹入義勝君。〔竹入義勝君登壇〕
#4
○竹入義勝君 私は、公明党・国民会議を代表して、中曽根総理の施政方針演説及び当面する重要課題に対し、総理に質問をいたします。今日、諸般の情勢は、半世紀前のわが国とは、憲法を初め、政治、経済、産業、また社会構造と国民生活、そして世界におけるわが国の立場に大きな変化はあるものの、一九三〇年代、すなわち昭和初期のあの悪夢に似た戦争前夜ときわめて類似点の多いことに、私は懸念いたすものであります。いま国民が漠然と感じている不安と危惧は、恐らく私の懸念と同じでありましょう。
総理の認識は、単に世界的不況と保護主義台頭のみに限られておりますが、そのほかにも重大な類似点があります。
国内において、政界の腐敗が国民の政治不信を増大していることに加えて、失業と倒産累増の様相であります。
一方、当時わが国の軍部が、満州は日本の生命線であると強調して、大陸侵略への軍備を着々と進め、ついに悲惨な戦争の時代に入ったのに対し、いま、総理は、シーレーン防衛が日本の生命線であるがごとく、また、仮想敵国を設けて、わが国土を不沈空母と形容する発言をされました。
のみならず、総理の座につくや、満を持していたかのように、みずからを改憲、自主憲法制定論者と宣言して、自民党の改憲作業を鼓舞し、平和憲法体制の確立に対する怠慢な自民党の政治姿勢に何ら反省をせず、ただ国家意識への復帰を国民に訴えておられるのであります。
国民の多くは、総理の言葉に疑問を持ち、総理の一連の言動にその強権的姿勢を感じ取り、総理の訴えとは逆に、不安の念を深くしていることを認識されるべきであります。
私は、そうした国民の声を代弁し、最初に、総理の基本的な政治姿勢についてお尋ねをいたします。
その第一は、政治倫理の確立であります。
去る二十六日、東京地検がロッキード事件丸紅ルートの公判で行った田中元総理への論告求刑は、改めて国民に強い衝撃を与えました。それは、時の最高権力者を頂点とした自民党政権の汚職、腐敗の構造がまざまざと浮き彫りにされたからにほかなりません。
清潔な政治こそ民主政治の基本であります。
総理は、今回の東京地検の論告求刑の持つ意味をどのように認識しておられるのか。
また、実刑五年の求刑を受けた田中元首相は、それが論告求刑の段階であっても、首相在任中の事件であり、国民の政治に対する信頼を著しく失墜させたことを深刻に受けとめ、みずから政治的道義的責任を明確にするため、潔く国会議員を辞職すべきではないかというのが大半の国民の一致した考えであり、私どももその立場に立つものであります。自民党の最高責任者である総理のお考えを改めてそれぞれお示しを願いたいのであります。(拍手)
総理、あなたは、「清潔な政治を目指し、政治の倫理の確立に努める」との決意を先ごろの施政方針の中で述べられた以上、まず政治の浄化に着手し、その具体策を実行することであります。
かねてから懸案になっている議院証言法の改正、証人喚問、議員辞職勧告決議案、政治倫理委員会の設置及び政治資金規正法改正などに対して積極的に推進する意思があるのかどうか、この際、明確にしていただきたいのであります。(拍手)
政治姿勢の第二として、憲法に関する総理の基本的考えを改めてお尋ねいたします。
総理は、私は改憲論者である、しかし現内閣では改憲は政治日程にのせないという趣旨の発言を繰り返しておられますが、中曽根内閣の誕生を機に自民党内の改憲運動が一気に加速し始めていることは否定しがたい事実であります。恐らく、自民党が改憲に必要な議席を獲得するため、小選挙区制導入の画策さえ行われる状況にあることを私は危惧いたします。
わが国のとるべき道は、平和・軍縮路線であり、その基軸となるものが平和憲法であります。私は平和憲法を土壌に国際社会に貢献できる道を真剣に考えるべきであると思うのであります。それぞれについて総理の御所見を伺うものであります。
総理、訪米によるレーガン米大統領との首脳会談においては、私は、軍縮を愚直なまでに米側に訴え続けていただきたかったのであります。多くの国民もそう願ったに違いありません。残念なことに、結果は逆に中曽根内閣のタカ派的外交、防衛政策の本質を如実に示したに終わったと言わざるを得ません。それは、一昨年の日米共同声明の同盟関係の再確認にとどまらず、日本がみずから米国の極東戦略の補完勢力としての共同責任を負い、より危険な軍事同盟関係の強化に踏み込んだからであります。
政府が、きわめて深刻な財政難を国民に訴える中で、防衛費を六・五%増という異常突出をさせ、わが国の重要な平和原則である武器輸出禁止三原則をなし崩しにし、国会決議を公然と無視する対米軍事技術供与の決定などがそのことを実証いたしております。こうした対米追随政策の強化、軍拡志向はわが国の前途を危うくするものであって、私どもはとうてい容認できるものではありません。
そこで、以下の諸点について伺うものであります。
その第一は、米国と再確認した日米間の軍事同盟関係とはいかなるものか、また、総理はレーガン米大統領に、日米は運命共同体であると述べたと言いますが、一国が他国と運命共同体であるなどということは本来あり得ないことでありますが、あわせてしかとお答えをいただきたいのであります。(拍手)
第二点は、ワシントン・ポスト紙との単独会見において、総理は、日本を不沈空母とし、バックファイア爆撃機の進入を阻止することが日本の第一の目標であり、四海峡の封鎖が第二の目標であり、第三の目標はシーレーン防衛であると述べたとされております。この発言は事実でありましょうか、また、この三つの目標を日本の防衛目標とすることに、あなたはいかなる手続を経てお決めになったのでありましょうか。
さらに、総理の発言は、極東の軍事的緊張、核軍拡競争の激化をもたらし、デタントへの期待に水を差すものと言わざるを得ません。この目標は、私どもから見れば集団自衛権の行使につながると思われますが、それぞれ総理の所見を明確にお示しをいただきたいのであります。(拍手)
第三に、日韓の首脳会談についてであります。
総理の訪米と相まって日米韓の三角安保体制が強化されたのではないかと言われておりますが、この点は、絶対にあり得ないとあなたは明言できるのでありましょうか。また、日本の対韓経済協力が軍事目的に使われないとする歯どめはどこにあるのでありましょうか、ぜひ明らかにしていただきたいのであります。
総理、政府・自民党の選択が軍拡志向であるとするその裏づけは、日米首脳会談による日米同盟体制の確認と五十八年度防衛予算の突出に明らかであります。国民生活に密着した社会保障費、文教費等を大幅に削り込んでまで防衛費の大幅突出を図ったことは、だれの目にもそれが軍事優先の予算と映ることは明白であります。
総理は、財政再建が叫ばれている中で、このような異常な防衛費突出について国民にどのように説明をされるのか、ここで国民の前に明らかにしていただきたいのであります。(拍手)
しかも、五十九年度の防衛費は、対GNP一%を突破することが必至となりました。中曽根内閣は、従来の政府方針を変更しようとされておりますが、私は防衛費のGNP一%以内という従来の政府方針はあくまでも堅持すべきであると強く主張いたしますが、総理はこれら防衛費の際限ない拡大に対する国民の不安にどうこたえられるのか、納得のいく答弁を求めるものであります。(拍手)
次に、対米軍事技術供与の問題であります。
政府は、総理訪米直前に、官房長官談話として、対米軍事技術供与に関する統一見解を発表いたしました。この見解は、米国を武器輸出禁止三原則の枠外とし、紛争時を含め全面的に軍事技術の対米提供への道を開いたものであります。いかなる理由にせよ、三原則を形骸化した政府見解は、政府みずからが武器輸出への道を開いたことを意味するものであり、平和に徹する日本の姿勢を崩したその根底にあるものは、平和憲法への重大なる挑戦と言う以外にありません。
そこで、第一の問題は、佐藤内閣、三木内閣により確立されてきた武器輸出禁止三原則という従来の政府統一見解を完全に形骸化させたと言わざるを得ないと思いますが、いかがお考えでありましょうか。
第二には、一昨年三月、衆参両院本会議での武器輸出等に関する決議をこれまた完全に踏みにじったことは、国会の権威をじゅうりんするものと思いますが、どのような見解をお持ちでありましょうか。
第三には、武器輸出禁止三原則は、非核三原則と並び日本の平和政策原則の重要な柱であり、この二つの原則によって平和に徹する日本の姿勢を内外に明らかにしてきたわけであります。その平和政策の原則を変更することになると思いますが、それぞれについて総理の所信をしかと伺いたいのであります。(拍手)
中曽根内閣は、官房長官談話による政府統一見解を速やかに撤回し、国会決議、武器輸出禁止三原則を厳守すべきであります。総理のお考えを明確に示されたい。
戦後日本の発展が、憲法で守られた国民の安全と自由による活力によって築かれ、平和と福祉を政治の価値とする国民的合意が形成され、定着いたしております。したがって、その国民的合意の上に立って時代の変化に対応すべきであると私は考えます。
しかし、五十八年度予算案は、展望なき福祉後退の姿勢を示しており、それを顕著にあらわしているのが年金生活者等の生計実態を無視した物価・賃金スライドの見送りであります。公務員給与の定期昇給を除く五十七年度人事院勧告の見送りと連動させたこの措置は、全くの筋違いであり、総理の言葉とは逆に、非情の政治としか言いようがないのであります。(拍手)
総理は、いかなる理由でこれを見送ったのか、年金等受給者、とりわけ年金等で生活している人たちの実態をどのように認識されておられるのか。私は、速やかにスライドの措置をとられることを要求し、これらの諸点について総理の答弁を求めたいのであります。
活力ある福祉社会の実現は、わが党が経済成長を至上のものとした政治目標にかわるものとして第一次石油危機の直後に主張し、そのために必要な国民福祉の領域を定め、国民福祉中期計画を提言をいたしました。中曽根内閣が福祉の国日本づくりを掲げるのであれば、その展望である国民福祉計画を早期に策定し、国民の前に示すべきであります。
また、現行の福祉水準については、医療を初め、行政運営の適正化、公正化を前提にして是が非でもその維持を図るべきと考えます。すでに国民生活の間に定着し、生涯の生活設計に組み込まれている社会保障は、それなしでは国民の生活設計が成り立たないところにまで浸透してきております。したがって、一方的な福祉切り捨ては、国民の生活設計そのものまで大きく狂わせることになります。当面は福祉水準の維持を、今後については経済、財政、国民負担の制約等を踏まえ、国民の納得のいく国が行う保障基準、すなわちナショナルミニマムの目標を定め、計画的に、着実にその達成を図るべきであると考えます。国民福祉計画の策定とあわせて総理の御所見を承りたいのであります。
私は、日本経済の活力が社会保障制度の前進によって支えられてきたことを重視すべきと考えます。単に財政支出を削減し、自立自助を国民に強制して負担の増大と行政サービスの低下を招きながら、なお活力ある福祉社会の創出をしようとする発想は、現実と大きくかけ離れたものであります。
もちろん、高福祉低負担の要求のみをよしとするものではありません。国が行う保障基準を一定の応能負担によって行い、その上に自立自助を生み育て、生きがいと活力を生む安定した社会保障制度を国民の納得を求めて確立すべきであると私は考えますが、総理の御所見を伺いたいのであります。(拍手)
眼前に急迫する高齢化社会は、六十歳以上の平均余命が約二十年になっていることを見ても、活力ある福祉社会は活力ある高齢社会を形成しなければならないことを意味しております。その中で老人の雇用開発を初め、生きがい対策とともに、国民の将来に不安を与えている公的年金制度の安定化は急務であります。私どもは、早くから老後生活の家計実態と就労期間の負担能力を勘案し、年金のナショナルミニマムを保障する基本年金構想を提言いたしました。老後生活の柱となる年金問題について総理ほどのような構想と改革手段で取り組まれようとするのか、具体的にお示しをいただきたいのであります。
さて、教育の現状を見れば将来の社会がどのようなものになるかが予測できると指摘する人もおります。その意味で、子供の成長発達にふさわしい教育制度を行うことは、国の重大な責務であります。
いまや六・三制は、中等教育を中心に多くの問題が明らかとなり、改革を具体的に進めなければならない段階に至ったと判断するものでありますが、総理の所見を伺いたいのであります。
さらに、義務教育教科書の無償配付を五十九年度以降も存続するかどうか、総理のお考えをこの際明確にお示しをいただきたいのであります。
さて、次は国民の最大関心事となっている経済問題について伺います。
総理の責任は、直面する戦後最長ともいうべき不況を克服し、同時に財政再建をいかに図るか、その方途と手順を明確に示すことにあると言わなければなりません。しかし、私は、政府の五十八年度予算案に見る景気対策には大きな疑問を抱かざるを得ません。
政府は、景気回復を、世界経済の立ち直り、特に米国の景気回復に期待しておりますが、これは他力本願的発想であり、より懸念されるのは、不況の色を一層濃くしているわが国経済が、世界経済の回復まで持ちこたえることができずに失速し、潜在成長力をも崩壊させることであります。景気回復は、国民生活を守るとともに、わが国経済を安定成長の軌道に乗せるための基本的条件であり、かつ財政再建への基礎的要件でもあります。
そこで、私は、景気回復を実現するため、総理が思い切った内需拡大策を実施されることを強く求めるものであります。
まず、総理は、強い国民的要求であり、与野党がそろってその必要性を合意した所得税減税を実施することであります。政府が人勧を見送り、年金の物価・賃金スライドを停止し、財界の賃上げ抑制攻勢が強まり、可処分所得のマイナスさえ見込まれる中で、負担の不公平を是正し、個人消費を支えるためにも、いまや思い切った大型所得税減税の実施は待ったなしの状況にあります。(拍手)
政府は、不公平税制の是正でも、長年の懸案である所得捕捉率の格差是正にも全く手をつけようとしない、政府税調が不公平是正の観点から取り上げた退職給与引当金の縮小などの制度改正すら見送ってきたのであります。総理の決断を強く要求し、所得税減税に対する総理の見解をしかと承りたいのであります。(拍手)
また、政府は、景気対策の拡充ができない理由として、財源難を繰り返しております。国債残高が百兆円を超える中とはいえ、総理が景気回復を重視すると言うならば、何ゆえ思い切った手が打てないのか、疑問であります。納得のいく理由を示されたい。
公共事業が景気浮揚に大きな効果をもたらすことは周知のところであります。しかるに、五十八年度予算案を含め公共事業関係費は、ここ四年連続して据え置かれております。しかも、五十七年度補正予算で国庫債務負担行為として先食いされた二千五百億円と物価上昇分を差し引きますと、五十八年度は大幅なマイナスであります。さらに、逼迫した地方財政の現状から、五十八年度には、五十七年度のような地方単独事業の伸びはそれほど期待できません。一体政府は、五十八年度の公共事業費でどの程度の景気浮揚効果を期待しておられるのか、しかとお答えを願いたいのであります。
また、住宅建設は依然として低迷を続ける中で、五十八年度も施策に効果の期待できるものは見当たりません。国民の住宅に対する根強い潜在需要を踏まえて、この際、老朽化した公共住宅の計画的建てかえや、低利用や遊休の公有地の有効的活用など、政府主導による効果的な抜本策が必要と考えますが、それぞれ総理の御所見を伺うものであります。(拍手)
さて、内需低迷、輸出不振による長期不況の中で、中小企業はこれまでにない厳しい環境に直面し、中小企業の倒産も増大し続けております。中小企業がこれまで日本経済の活力を支えてきた力であったことは多言を要しません。中小企業サミット主催国であるわが国が各国に中小企業施策を誇るのであれば、倒産の危機から中小企業を守り、有効な景気回復策を講ずることが先決であります。中小企業向け官公需の大幅増額、下請代金支払遅延等防止法の強化改正、構造不況、地域不況で落ち込んでいる地域中小企業の活性化対策、倒産防止策等に積極的に取り組むべきであると考えますが、これらの諸点について総理の考えを伺いたいのであります。
また、私は、中小企業向けリース設備投資を対象に含めるなど、中小企業投資減税を拡大すべきであると考えますが、あわせて御答弁をいただきたいのであります。(拍手)
さらに、国民経済と国民生活の重要な要素である雇用問題であります。
長期不況の中で、五十七年の完全失業率は二・六%となり、有効求人倍率も大幅に落ち込み、特に高年齢者は〇・一となっております。そして、本年に入り、石油ショック以来の第二次雇用調整期と言える動きが本格化し、新卒者の求人数は激減をいたしております。こうした中で景気回復策とともに、不況業種、不況地域の雇用対策を、雇用の継続、雇用開発、離職者対策等から多面的に充実させる必要があると思いますが、総理はどう考えておられるのか。また、総理は、急迫する高齢化社会を展望して、中高年齢者の雇用対策をどう強化されるのか。定年延長法の制定を決断すべき時期に来ていると思いますが、総理の見解をあわせて伺うものであります。
さらに、弱い立場に置かれている身障者の雇用確保、寡婦雇用促進の法制化、また、男女雇用平等法の制定やパートタイマーの雇用安定等について総理はどう認識し、どうお考えになっておられるか、御答弁を願いたいのであります。(拍手)
次に、財政再建であります。
総理は、赤字国債の脱却の方途を明示せず、そればかりか、財政再建の基礎的要件である中期経済社会計画すら長期展望にすりかえ、財政再建を棚上げしようとしているのが今日の実情であります。赤字国債発行に陥った昭和五十年度以来、歴代自民党内閣は、政権交代のたびに財政再建を引き延ばし、放棄してまいりました。
特に中曽根内閣は、赤字国債の償還が六十年度から始まるために、財政再建は至上課題であります。財政再建への具体的方途を何ら示そうとしないことは、財政再建に対する責任を放棄したものと言わざるを得ないのであります。こうした総理の姿勢が国民に先行きの不安を強め、国民経済の活力を弱めているのであります。総理はまず財政再建に対する政治責任とは何かを明確にすべきであります。
同時に、総理が真剣に財政再建に取り組まれるというのであれば、財政再建の指標、すなわち、再建のめどを何年度に置くのか、赤字国債の減額計画などはどうなるのか明らかにしていただきたいのであります。
さらに重要なことは、いかなる方途と手順をもって財政再建を進めていくかであります。この財政再建に対する方途と手順が示されない限り、国会審議は不毛のものになりかねません。総理、財政再建の方途と手順をはっきりと示されることを強く要求をいたします。
また、政府は、財政再建のめどを明示しないまま、直間比率の見直しを理由に大型間接税導入をもくろむなど、「財政再建なき増税」を進めていると言わざるを得ません。総理は、国民の強い要望である「増税なき財政再建」を実現する決意であるかどうか、私は、大型間接税の導入は行うべきではないと思いますが、しかと御答弁をいただきたいのであります。(拍手)
なお、われわれは、これまで再三にわたり財政再建は景気回復による税収の確保、行財政改革、不公平税制の是正の三本柱によって進めることを提案してまいりました。総理、経済企画庁の「昭和五十七年経済の回顧と課題」でも、今日の財政赤字のうち四割、たとえば昭和五十七年度では約六兆円が循環赤字、すなわち不況による赤字であると報告いたしております。まず五十八年度は、速やかに景気回復に取り組み、不況による赤字を解消させ、その後の行財政改革や不公平税制の是正が円滑に進む財政再建の基礎づくりをすることを改めて提案いたすものでありますが、総理の所信をお聞かせ願いたいのであります。(拍手)
最後に、重要な国民的課題であり、財政再建の一つの柱となっている行政改革についてお尋ねをいたします。
第二臨調は、三月の最終答申提出を目指し、各部会報告はすべて出そろいました。しかし、その内容は全般的に見て後退が目立ち、国民の期待を裏切っております。行政改革の最も重要な視点の一つは、機構減らし、仕事減らし、人減らし、金減らしにありますが、総理は、臨調最終答申に向けての官僚等の抵抗にどのように対処をされるのか、まず、この点に関する総理の御決意を伺うものであります。
また、現に、昨年七月の基本答申に基づく政府の行革大綱はいまだ具体的実施を見ておりません。ただ一つ例外的に断行されたのが総経費の抑制を名分にした人勧見送りであり、国鉄監理委員会設置法案の国会提出であります。その他については一向に進展していないのが実情であります。
総理は、行革大綱の誠実な実施についてどのように考えておられるのか、また、自民党内、官僚等の抵抗の中で、行革大綱どおり行革を実施する方針に変わりはないのか、明確な答弁を求めるものであります。(拍手)
総理、最後に私はあなたに申し上げたい。
国会の再開を前にして、国会が混乱すれば解散もやむを得ないとの発言をされました。私どもは解散を恐れるものではありません。この発言は、一つには解散権の乱用であります。二つには景気、雇用、国民生活のすべての分野に一刻を争う課題が山積している国政の現状を顧みない反国民的言動であります。まことに不謹慎な言動であることを私はあえて申し上げたい。
それぞれの質問について誠意ある答弁を求め、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#5
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 竹入委員長の御質問にお答え申し上げます。まず、政治倫理の問題でございましたが、先般の論告求刑につきましては、厳粛な気持ちで受けとめております。今後、裁判の行方を冷静に見守ってまいりたいと思っております。
議員は、国権の最高機関である国会の構成員でございまして、この議員の辞職という問題は慎重を要すると私は考えております。これは先般、臨時議会で申し上げたとおりでございます。最終的には、進退の問題は御本人の御判断に任せるのが適切ではないかと考えております。
また、御質問にございました議院証言法の改正、証人喚問、議員辞職勧告決議案、政治倫理委員会の設置及び政治資金規正法改正等の問題、これはきわめて重要な問題であると認識しております。いずれも政治の基本にかかわる問題であり、あるいは政党政治の基本にもかかわる問題でございまして、各党で十分協議を重ね、早期に適正かつ妥当な結論が得られることを期待しておる次第でございます。
私は、小選挙区制についていま質問がございましたけれども、このような政党あるいは民主政治の基本である問題のルールづくりの問題につきましては、十分各党で話し合う必要があると思っております。十分な論議をお願いをいたしまして、それらの動向を踏まえてゆっくり判断すべきものであると考えております。まだこれらの問題を実行するとかあるいは法案に出すとかというような時期が熟しておるとは全然思っておりません。
また、憲法につきましては、先般来申し上げますように、これを研究し、検討し、見直していくということは諸制度一般と同じでありまして、そういう考えに立ってこの問題に対処していきたいと思っております。現段階におきましてはそれ以上のことは考えていない。憲法改正問題を政治日程にのせることはいたしませんと申し上げているのはそういう意味でございます。
さらに、自由と平和、民主主義あるいは基本的人権の尊重をうたいました憲法の精神は、私は、今後とも大事な政治の原則として厳守してまいりたいと思っております。日本の外交も、このような平和の精神に徹した平和外交に基づくべきであると確信しておりまして、この点は竹入委員長と全く同感でございます。そういう意味におきましても、わが国は仮想敵国を設けるということは、従来もしておりませんし、私もしておりません。
アメリカにおける発言につきまして、運命共同体あるいはそのほか一連の発言について御質問がございました。
先般も申し上げましたように、日本とアメリカとの関係は、自由主義あるいは民主主義という政治信条、生活信条において一致している大事な関係を持っております。それからさらに、文化や経済の膨大なる交流と相互依存関係を持っております。あるいは日米安保条約を通じまして防衛問題についても重大な連携を持っておる。こういうようなさまざまな問題について運命を分かち合うという連帯性を持っているという意味において運命共同体という言葉を使ったのでございまして、そのように御理解願いたいと思うわけであります。(拍手、発言する者あり)
さらに、ワシントン・ポストとの会見におきまして不沈空母という表現をいたしました。これは日本列島を守る、そういう意味における関連で申し上げたのでございまして、私は、日本の防衛というものは、前から申し上げますように、まずみずから自分の国を守るということ、第二に日米安全保障条約によってアメリカと提携してともに守るということ、第三に軍縮やあるいは発展途上国に対する援助あるいは食糧燃料の備蓄あるいは国際世論の喚起このような環境整備、こういうような組み合わせで総合的に行うべきであると申し上げておりますが、そういう考えの基本に立って申し上げたものであります。
要するに、われわれはアメリカとの間で日米安保条約を締結して、ある段階においてはアメリカの来援を期待して防衛を保っておるという状態でございますけれども、まず日本国民自体が自分の国を守るというかたい決意を持たずして、どうして緊急の場合に外国が守ってくれるか、(拍手)これは当然のことであると思っておるのであります。そういう意味におきまして、一国の首相としてみずから自分の国を守るという決意を明らかに表明しておくことは大事であると思いまして、そういう意味において申し上げたのであります。(拍手)
あるいはバックファイアとかシーレーンとか海峡防衛という言葉が出たと御指摘でございますが、確かに日本をめぐる極東情勢について話し合いをいたしまして、北方四島に一個師団程度のソ連の軍事力が強化されているとか、あるいはバジャーとか、あるいはバックファイアとか、あるいはミンスクとか、そういうものが日本の周辺に来ているとか、そういう情勢はもちろん話した次第でございます。
海峡防衛につきましても、本土防衛の一環として、万一侵略が行われた場合には、われわれの関連する海峡はまたわれわれは断固として守らなければならない、そういう意味のことで、海峡のコントロールという表現でこれにも言及した次第でございます。
いずれもこれらは、いままでのとおり憲法の範囲内で非核三原則を守り、専守防衛という精神に徹し、軍事大国になって外国に脅威を与えることがないようにと、そういう従来の方針に沿って言及しているということを申し上げる次第でございます。(拍手)
次に、日韓関係でございますが、韓国訪問の際に、私は韓国の全斗煥大統領と懇談をいたしまして共同声明を出してきたことは、御指摘のとおりでございます。
日本は独自の立場から東アジアの平和と安定及び繁栄のために努力するというわが国の従来の考え方を表明いたしました。日米韓三角安保があるというようなことは全然ございませんし、そういう話もなかったのでございます。
わが国が韓国側に協力いたしました経済協力は、たとえば上下水道事業とか社会開発部門を中心として第五次経済社会発展五カ年計画を中心とするものに対する協力であって、軍事援助は毛頭ないということを明らかにいたしておきます。これは、わが国の経済協力が相手国の経済社会開発や民生安定、福祉向上への寄与という目的に沿って行われるように実施しておるのでございまして、韓国についても同様なのでございます。
次に、五十八年度防衛予算が突出ではないか、こういうお話でございますが、これは憲法の許す範囲内におきまして自衛のため必要最小限の防衛力を自主的に整備する、そういう考えのもとに五十八年度予算を考えた次第でございます。しかし、非常に厳しい財政事情のもとにおきまして、みずからの国を守るという必要性あるいは国際環境、こういうような諸般の問題を考えて、先般申し上げましたように、海外経済協力等につきましては七%増、防衛については六・五%増、資源エネルギーにつきましては六・一%増、こういうふうに配慮いたしまして、国際関係についても注意をいたしました。防衛費につきましては、防衛の必要最小限の限度と、それからこの苦しい財政状況とのぎりぎりのバランスを六・五という線に求めたのでありまして、別に特に突出していると私は考えている状況ではございません。(拍手)
GNP一%の問題でございますが、わが国の防衛力整備については、「防衛計画の大綱」に定める防衛力の水準にできるだけ早く到達するべく努力しておるところでございます。五十九年度以降の防衛費の対GNP比がどの程度になるかということは、今後の経済状況によるGNPの上昇度あるいは防衛費の必要度、こういうような不確実な要因がございまして、ただいま見通しを申し上げることは困難な状況でございます。いずれにせよ、防衛費の対GNP比一%に関する五十一年の閣議決定は、現在のところ変える必要はないと考えております。
対米武器技術供与について御質問がございました。
対米武器技術供与は、対象を日米安保体制の効果的運用を確保する上で重要となっている防衛分野における技術の相互交流の一環としての武器技術に限り、かつ、日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みのもとで実施するということにしておりまして、これにより、国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出三原則等のよって立つ平和国家としての基本理念は確保されることになっております。なお、政府としては、今後とも基本的には武器輸出三原則等を堅持していく考え方でおります。
なお、御指摘の国会決議の趣旨は、武器輸出について厳正かつ慎重な態度をもって対処すべし、こういうところにございます。これは昨日申し上げましたように、堀田ハガネの事件につきまして、もっと厳重によく取り締まれという問題から出てきたものでございます。政府としては、本件処理に当たりましては、慎重に検討を重ねました結果、対象を日米安保体制の効果的運用を確保する上で重要となっている相互交流の一環としての対米武器技術供与に限り、かつ、先ほど申し上げました日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みのもとで実施するということでありまして、国会決議の趣旨は十分尊重していると考えております。
政府としては、国会決議が、武器輸出三原則等について、わが国自身の平和と安全を確保するため必要不可欠な基盤をなしている日米安保体制の効果的運用のために必要な調整をも禁じたものとは考えていないというものであります。なお、政府としては、今後とも国会決議の趣旨は尊重していく考え方でございます。
なお、武器技術供与は、日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みのもとで行うことにしておりまして、国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出三原則のよって立つ平和国家としての基本理念は確保することになっております。政府としては、今後とも基本的には武器輸出三原則等を堅持していく考え方であります。
なお、政府として今回、三原則等のよって立つ平和国家としての基本理念を確保するとともに、国会決議については十分尊重したものであると考えておりまして、この決定を撤回する考えはございません。
次に、年金のスライド制について御質問がございました。
年金等のスライドにつきましては、人事院勧告の凍結、ベースアップ見合わせという厳しい現下の財政事情、それから物価が比較的安定しているという状況等を考えまして、痛みを分かち合うという精神から、この見送りはまことにやむを得ないものと考え、忍び得ないと思うところもございますが、がまんをしていただきたいとお願い申し上げるものであります。
なお、国民福祉計画を策定せよという御主張でございます。
公明党が、年来国民福祉中期計画を御策定になりまして、私たちにもお示しをいただきました御労苦には、敬意を表しておるところでございます。社会保障の将来展望に従いましてこの施策の推進を図るべきとの御趣旨については、全く同感でございます。
この社会保障の将来展望につきましては、厚生省の社会保障長期展望懇談会が提言を行っております。また、現在、経済審議会が新しい経済展望の策定作業を進めております。その中で社会保障の基本的な施策の方向を明らかにすべく検討中でございまして、われわれはその成案を待って参考にいたしたいと思っておる次第でございます。
また、社会保障につきまして、ナショナルミニマムの目標を定めて着実にその達成を図るべしという御提言は、趣旨としてはまことに理解できるところであり、傾聴に値する御提言であると思っております。しかし、社会保障の役割りは、国民が生涯のどの段階においても不安なく生活設計を立て得るような基礎的条件を整備することにありますが、わが国の社会保障は、すでに西欧諸国のそれに比べまして遜色のない水準に到達しております。今後とも長期的な展望に立った社会保障の推進に努力してまいる考えでございます。
また、安定した社会保障制度を確立せよという御指摘でございます。
今後の高齢化社会等を活力あるものとしていくためには、個人の自助努力や社会連帯の仕組みを生かしながら、それに安定した社会保障制度を組み合わせていくことが必要であると考えます。そのため、今後とも給付と負担のバランスを配慮しながら、施策の効率化、重点化を進め、将来にわたって安定した社会保障制度の仕組みの確立に努めてまいりたいと思います。
年金改革の問題でございますが、高齢化社会の到来を控えて、公的年金制度の重要性は一層高まってまいっております。このため、わが国社会が高齢化のピークを迎える二十一世紀におきましても、制度が健全かつ安定的に機能し得るように、いまから改革して準備しておくことが必要であると考えます。
このような見地に立ちまして、厚生大臣を年金担当大臣といたしまして、制度全般のあり方について見直しを進め、昭和五十八年度末までに改革の具体的内容、手順等について成案を得るようにいたしておる次第でございます。
教育制度の改革を御指摘いただきました。
現行の学校制度の改革につきましては、それが児童や生徒、さらには社会全般に対する影響がきわめて大きく、わが国の将来に深くかかわる重大な問題でありますので、これは慎重に対処していく必要があると考えております。御指摘のように、確かに検討の必要があると思っております。受験地獄とか、あるいは学校教育の硬直性とか、そういうような問題を考えますと、確かにそういう段階に来ているように思うのでありまして、政府といたしましても検討してまいりたいと思っております。
義務教育教科書の無償供与について御指摘がございました。
昭和五十八年度予算におきましても、これは存続しております。
今後のあり方については、臨時行政調査会第一次答申におきましては、廃止等を含めて検討すること、こういうふうにされております。自由民主党の中におきましても、今回予算編成に際しまして、来年の五十九年度予算の要求ぎりぎりまでに、基本的に徹底的に、これを単に教育関係だけでなくして政策全般として見直す、そして議論せよ、こういうことになっておりまして、わが党内におきましても検討は続けられている、こういう状況でございます。
所得税の減税について御指摘がございました。
確かに昭和五十三年以来課税最低限の据え置き等によりまして所得税負担が上昇している、減税を望む声が非常に強いということは私も承知しておる次第でございます。しかしながら、五十八年度におきまして歳出削減等によりまして相当な予算の圧縮をやった次第でございます。にもかかわらず、税収による歳出のカバー率は六四・一%と非常に低い数字になっておるのであります。また、個人所得に対する所得税負担の割合は四・九%、五十六年度の数字でございますが、これも国際的に見れば低い数字であります。
以上のような点も踏まえまして、昭和五十八年度において所得税減税を見送ることは、税制調査会の答申においてもやむを得ない措置として指摘されておりまするので、御了承をお願いいたしたいと思います。
なお、税調答申におきましても、昭和五十九年度以降、できるだけ早期に税制全体の見直しを行う中で、この課税最低限度や税率構造等について根本的な検討を行うことが必要であると指摘されておる次第でございます。
実質可処分所得の対前年同月比を見ますと、実際は昭和五十五年、五十六年度はマイナスでありました。しかし、五十七年度に入りましてからは物価が非常に落ちついてまいりまして、一貫してプラスになっておる、こういう事情もまた一面御了承いただきたいと思う次第でございます。
さて、本年度の予算と景気対策でございます。
わが国の経済を展望いたしますと、世界経済は、まず米国の高金利が次第に是正されまして、インフレもおさまってまいりまして、次第に立ち直りの傾向に向いてきつつあるように思います。また一方、国内経済につきましては、物価が非常に安定しているということと在庫調整がある程度進んでいる、こういうような関係から、やや次第に回復に向かう見込みが出てきつつあると考えております。
こういうような状況のもとに、財政改革を推進いたしまして財政の対応力を回復していくということは重要な課題でありまして、五十八年度予算はその第一歩として強く進めたところでございます。
この景気の問題につきましては、以上のような情勢を踏まえまして、公共事業関係費については前年度同額を確保いたしますと同時に、民間資金の活用等により事業費の確保を図る、景気にも配慮したところでございます。今後も物価の安定を基礎にして、国内民間需要を引き起こす、景気の着実な拡大を図ってまいるために努力してまいるつもりです。特に金融関係、財政と金融とを適切に融合させながら政策を進めていくということが大事になってきつつあるように思います。
公共事業につきましては、先ほど申し上げましたように、実は四年連続同額ということでございまして、物価騰貴等を考えますと、実質的にはマイナスという効果を生んでいるということは、実際は残念なことでございます。しかし、五十八年度の経済運営に当たりましては、ただいま申し上げましたようなことで、民間需要を起こす、あるいは金融政策を適切に行う、こういうことによりまして着実に景気を回復いたしたいと思っております。物価が非常に安定していることと円が強くなってまいりますということは、景気に対しては、今日の段階におきましては非常にプラスになるのではないかと考えております。
住宅対策につきましては、昭和五十八年度において公共賃貸住宅の建設の推進、金融税制上の措置改善、それから持ち家取得の促進等、総合的な施策を実行いたしました。また、老朽化した公共住宅の建てかえ等に関しましても、従来から公営住宅について計画的な建てかえを実施して、今後ともその推進を図るつもりであります。
公有地の処分に当たりましては、良好な住環境の整備に資するように配慮してまいりたいと思っております。
中小企業諸施策について御指摘がありましたが、官公需につきましては大規模な工事等、中小企業に発注することは必ずしも適当でないというものもございますが、政府としては、全力を尽くして中小企業の枠を拡大していくように努力をしております。次第に着実に受注比率を上昇せしめておりまして、この努力を継続してまいります。
そのほか、下請代金支払い遅延防止とか下請に関する問題について、行政指導とも相まちまして、適正に運用しつつその効果を高めてまいりたいと思います。
構造不況業種に大きく依存している地域の中小企業者の経営の安定と振興を図ることは、また現下の急務でございます。特定不況地域中小企業対策臨時措置法の拡充延長等、所要の施策を検討しておるところでございます。
なお、倒産防止対策につきましても、政府系中小企業金融機関による特別貸し付け、信用補完措置、倒産防止共済制度、さらには商工会議所、商工会等による特別相談事業等、きめ細かな対策を実施しておりまして、相当成果を上げております。今後とも最大限配慮してまいるつもりでございます。
なお、中小企業の設備投資促進のために、今回いわゆる投資減税を実行いたしました。企業関係租税特別措置について一層の整理合理化を行うこととしておる中にありまして、このような精いっぱいの配慮をいたしましたので、御了承願いたいと思います。
次に、雇用対策でございます。
不況業種、不況地域の雇用対策につきましては、失業の予防、再就職の促進等を中心とする雇用安定のための施策を充実強化してまいります。
高年齢者の雇用対策につきましては、当面、行政指導による六十歳定年一般化の早期実現による雇用の確保等、総合的な対策の推進に努力をいたします。
身障者の雇用確保につきましては、重度障害者に最大の重点を置きまして、障害者の特性に応じたきめ細かい諸対策を推進して、身障者の雇用促進を図る考えでございます。
寡婦等の雇用促進につきましては、雇用のための環境、条件の整備を図ることが先決であります。このため、職業相談あるいは職業訓練の充実に努力してまいります。
雇用における男女平等法制につきましては、雇用における男女の機会均等及び待遇の平等を確保するため、諸方策について関係審議会において検討中でありまして、その検討結果を待って対処してまいります。
パートタイマーの雇用安定について御指摘になりましたが、就労希望者に対する求人情報の提供、職業相談、職業紹介機能の強化、求人者に対する労務相談等の実施により、その実現に努力してまいります。
次に、国債からの脱却等、財政再建の手順について御質問がございました。
来るべき高齢化社会や国際化の進展に対処するために財政の対応力を図るということは、目下の急務であります。このため、五十八年度をまず出発点としてきつい予算の査定を行いまして、一般歳出につきましては、三十年度以来初めて前年度以下に圧縮をいたしましたし、税外収入の確保にも努めたところでございまして、公債発行額を五十七年度補正後に比べて一兆円減らしたところでございます。そうして、「増税なき財政再建」の基本理念に沿いつつ、財政改革に向けて新たな一歩を踏み出すことにいたしました。
今後、新しい観点に立った長期的な経済展望のもとに、歳出歳入構造の徹底した合理化、適正化を進め、できる限り早期に特例公債依存体質からの脱却、さらには公債依存度の引き下げを図りまして、財政の健全性を回復するということで責任を果たしていきたいと思います。
なお、財政改革に当たって、基本的考え方についてはできる限り明らかにしたいと考えておりまして、近くとれをお示しすべく検討しておるところであります。
また、御指摘のように、「増税なき財政再建」は行財政改革の理念であり、安易に増税を念頭に置くということでなく、行財政の守備範囲を見直すという見地から、まず歳出の見直しを徹底して推進する、こういう意味で「増税なき」という基本理念を堅持してまいります。
なお、歳入歳出構造の見直しを行う場合は、受益と負担の関係や、直接税と間接税とのバランスをどうするか等の問題があり、究極的には国民の合意と選択に任せらるべき問題となると思いますが、いわゆる一般消費税を導入する考えはございません。
財政再建の基盤としての景気の回復の問題でございます。
先ほど来申し上げましたように、財政の対応力を回復することがやはりその基軸である。そのために社会情勢の変化に応じて、歳出の見直し、合理化の徹底をやっておりまして、先ほど来申し上げました努力をしてきたところでございます。特に、五十八年度予算におきましては、ゼロシーリング、マイナスシーリングというところまで実行したところでございます。
今後、新しい観点に立った長期的な経済展望のもとに、歳出歳入構造の徹底した合理化、適正化を進めて、できる限り特例公債依存の脱却、公債依存度の引き下げを図って、財政の健全性を回復していく予定でございます。
行政改革につきまして強い御支援をいただいておりますが、行政改革は全国民的課題であり、現内閣の大きな責任課題であると考えておりまして、政府全体として強くこれを推進してまいるつもりでございます。公務員諸君の積極的な協力が必要であることはもちろんでございます。
定員管理につきましては、昨年に続き、ことしもかなり厳しい定員管理をやりまして、実質的削減をいま推進中でございます。そして、臨調の答申をいただきましたならば、従来の線に沿って最大限尊重してこれを実行に移したいと考えております。
官僚の抵抗について御発言がございましたが、私は、組閣のときに閣僚を任命いたしますときに、一人一人につきまして、この行革大綱を初め、行政改革に協力してくれるか、あなたの省はあなたが責任を持ってくれるかという質問を発しまして、それに賛成していただいて閣僚を任命した、こういう事情があることを御了承願いたいと思うのであります。(拍手)
そして、先般決めました行革大綱を、これを実施するという決意は不動であります。特に国鉄再建、年金改革を初め、諸般の改革を軌道に乗せてまいりたいと思っております。そのために、いま提出しておりまする国鉄再建臨時措置法案のほか、次々に出てまいるであろうと思いまする共済関係の統合の法律案、あるいは行革関係法案についてぜひ御支援をお願いいたしたいと思う次第でございます。
最後に、解散について御発言がございましたが、国会議員は原則として任期いっぱい務めて選挙民の負託にこたえるのが望ましいと考えておりまして、解散は考えておりません。(拍手)
─────────────
#6
○議長(福田一君) 春日一幸君。〔春日一幸君登壇〕
#7
○春日一幸君 総理、あなたは長年にわたり日々に切磋琢磨を積まれ、ここに内閣総理大臣に就任されました。たとえ、その地位は自民党一党の手で、しかも派閥間の激しい角逐を経て得られたものとはいえ、いまやあなたは、全国民の安危をその一身に担われております。この上は、あの選出の経過がいかがあれ、あなたは日本国の総理大臣として、心機一転、もはや党利党略にとらわれることなく、全国民を同列に、国政の運営に厳に公正を期せられんことを望みます。
以下、私は民社党・国民連合を代表し、わが国政が当面する重要問題について逐次質問いたします。(拍手)
その第一は、外交、防衛についてであります。
今日、わが国を取り巻く国際情勢は、世界的な経済不況の中、それにソ連極東軍事力の荒々しい増強など、外交、防衛ともに暗雲が深く立ち込めております。
ここに、わが国のGNPは全世界のGNPの一〇%に当たる二百六十七兆円に達しているが、それはエネルギーの八五%、食糧の六七%、鉄鉱石等鉱物資源の一〇〇%、その他諸原材料の大多分を他国に依存するものであり、しかもそれによる輸出力が米欧の産業基盤を脅かしているという、思えばこの構造ははなはだ不安定なものであります。
かくて、いま日本が国際的に問われている問題点は、経済大国、貿易大国としての国際的責任と、あわせて、西側陣営の一員としての対ソ防衛上の連帯責任を今後どう果たしていくか、このことにあると考えます。現に、わが国は、欧米からは貿易不均衡の是正と西側の一員としての防衛強化を迫られており、一方、開発途上国に対する開発援助の低さなど、国際的な非難を集中的に受けております。いまにして、わが国が、その経済力にふさわしい役割りを誠実に果たすのでなければ、ときに石油OPECの例に見るがごとき辛らつな対抗措置を招くおそれなしとはいたしません。
したがって、わが国が直面する外交、防衛上の急務は、まず自国の防衛にみずから責任を持つこと、そして貿易摩擦の解消、経済援助の拡充を図ること、もって世界の平和に渾身の努力を傾注する、このことにあると確信いたします。(拍手)
私は、この前提を踏まえ、次の諸点について政府の見解とその対策を伺いたい。
その第一は、わが国周辺におけるソ連の継続的な軍事力の増強と、中ソ両国の和解への動きについてであります。
政府の防衛白書によれば、極東に配備されたソ連軍事力は、地上兵力三十九個師団、航空兵力二千二百十機、海上兵力八百十隻、百六十万トン、核兵器はソ連の全保有量の三〇%、それにSS20の相当基数が近く西欧から極東アジアに増配されるという、それは物すさまじいばかりの布陣とあります。わけても、わが国の北方四島には昭和五十三年来約一個師団の兵力が進駐しているが、最近の情報ではこれがますますエスカレートして、択捉島にミグ21戦闘機が、色丹島には海岸砲が新たに据えつけられたと伝えられております。
百聞は一見にしかずと言うが、わが国は四面が海に隔てられ、ために、それらの状況は国民の眼に生々しくは映り得ておりません。すなわち、この一見がないので実感がなく、かくて、それらの兵力を示すアラビア数字だけが無感覚に日本国民の上のそらに浮かんでいるといった心もとない現状であります。
共産主義の戦略ターミナルは全世界の共産化にあることを真剣に考えるとき、われわれはこのようなソ連共産軍の動向に深刻な脅威を感じざるを得ません。(拍手)いまこそ、わが国は、平和共存の願望に徹して、対ソ平和外交を推し進め、かかる軍事局面の緊張を取り払うべき極限のときであると考えます。
すなわち、それは最も速やかに北方領土問題の解決を図りつつ、日ソ平和条約を締結することであり、そのためには、当面、それに向かってあらゆる手だてを尽くすことにありと考えるが、対ソ平和外交展開の方途について、総理が抱かれるその道筋をこの際率直にお示しを願いたい。(拍手)
いずれにいたしましても、これら現実の動静は、政府の現行「防衛計画の大綱」が前提にしている国際情勢に変化のない状態とは、もはや大きくかけ離れていることは明白であります。これらの諸問題を総合されて、総理の情勢分析はどのようなものか、あわせてこれに対する政府の対策、方針をこの際明確にお示しを願いたい。(拍手)
次は、有事法体制の整備について質問いたします。
従来政府がとってきた防衛力整備なるものは、兵器、艦船など、それは正面装備の充実を図るだけで、防衛に至大なかかわりを持つ法体制の整備はほとんど等閑に付されております。これではシビリアンコントロールが機能いたしません。
私は、第九十一国会の代表質問で、奇襲対処を初め有事に備えるための諸法令整備の必要性を強調して政府の善処を求めました。その後、政府は、有事立法の研究に着手し、五十六年四月、本院の安保特別委員会に中間報告を行っておりますが、それは、わずかに防衛庁所管法令のうち有事の際の初歩的な問題を事務的に列挙したにとどまっております。
およそ安全保障の第一義は、まず平和外交を推進して極力有事の発生を防止することにありますが、それにもかかわらず有事が勃発した場合は、国は自衛のために必要なあらゆる手だてを尽くさねばなりません。それには、防衛庁だけが所管法令を整備しておくだけで足るものではなく、国として、憲法を踏まえ、法体系全体にわたって必要な措置を講じておかなければなりません。
しかるに、現行自衛隊法は、かつて時の統幕議長栗栖弘臣氏が職を賭して指摘したごとくに、幾多の欠陥を持つものであるにもかかわらず、それすらもいまだに整備されていないばかりか、ましてや有事における国民の協力体制については何一つ法上の措置が講じられておりません。
有事に備える体制とは、それは外敵の侵略に対する国家としての毅然たる自衛体制を平時において完備しておくことであると考えるが、総理の御見解はいかがでありますか。ここに政府の有事に対する対策、方針を伺っておきたい。(拍手)
次は、今回の日米首脳会談について質問いたします。
従来の首相は、ともすれば米国向けの発言と国内向けの発言を使い分け、一昨年の日米首脳会談のごときは、そのために時の外務大臣と外務次官の引責辞任という醜態を内外にさらしました。
このたび、あなたもまたその轍を踏んで、米国では、日本は米国の運命共同体だとか、四海峡を封鎖するとか、ついには日本列島を不沈空母にするなどと、ミリタリーラッパを吹き鳴らして米側の喝采を受けられたが、これが国民に大きな衝撃を与えたと知るや、あなたは、早くも帰国途次の記者会見で、あれは勘違いであったとか、その意味はああだ、こうだと言いつくろっておられます。
これら総理の言動は、たちまち関係諸国に不穏な衝動を呼び起こし、わけても日本国民は慄然たる思いで不安に駆られております。
そもそも総理の真意は何であったか。この際、あの日米首脳会談を通じて両首脳間で新たに合意した事項は何々か、また、意見が食い違ったのは何々か、あわせて、あの不沈空母等防衛力増強に対する総理の積極的な発言が米国に過大な期待を植えつけて、これが後日災いを招くことになるおそれはないか、これらのことどもを含め、首脳会談の詳細を明確に御報告願いたい。(拍手)
次は、防衛費のあり方についてであります。
政府が国防会議で決めた五六中業を達成していくためには、あの防衛費のGNP一%枠なるものは、早ければ五十九年度予算で変更せざるを得ないことはもはや必至の情勢であります。かくて、防衛庁では、GNP一%枠にかわる新たな防衛費の歯どめとして、たとえば、今後五年間に必要な防衛費総額及びGNP比の見積もりをあらかじめ閣議決定し、これを国民に示すという、五年ごと提示方式を検討していると伝えられておりますが、政府としての対策はいかがでありますか。
防衛力整備に対する内外の不安、焦燥を解消するためには、政府はこの際、国際情勢、周辺軍事力の動向、財政事情などを勘案し、かつ憲法の規定に即した確たる歯どめ措置を示すべきであると考えるが、総理の御所見を承りたい。
次は、わが国が西側の一員として防衛の責任を果たしていく上において特に重要なことは、アジア善隣諸国、わけても韓国との間に理解と協調を深めることにありと考えるが、総理の御見解はいかがでありますか。
総理は、日本の防衛は日米安保条約の堅持にありと述べられております。私どももそれに異論はございません。だがしかし、わが国が米国とのみ防衛協力を推進し、アジア諸国の意向や懸念に意を配っていないことについて、それら諸国には根強い不満が横たわっておることを政府は真剣に反省せなければなりません。現に韓国は北鮮の脅威に備え五十二万の兵力を常備し、そのためにGNPの六%、年次予算の三六%を防衛費に計上しております。
ここに日韓両国は、地理的にも歴史的にも、さらには思想的にもきわめて密接な関係にあるにもかかわらず、従来の日本政府は、韓国との間に平和と安全保障についてことさらに交流を避けてまいりました。かくて韓国では、朝野を通じて多くの人士が、日韓両国民の明暗を比較して、日本の人々は日米安保の傘の中で、そして韓国という防共の防波堤の内側で、右の人々は繁栄を満喫し、左の人々は自由を存分に堪能しておられる、われわれ韓国人は、自由と民主主義の辺境で自由と民主主義の寝ずの番をしている、もしそれ、韓国の防衛費が日本の限度にとどめ得るならば、われわれの暮らしは左うちわの太平楽でありますと、その苦衷を述べておられました。われら国民はこのことを率直に理解し、誠意を尽くして、東北アジアの平和と日韓両国の安定を図るべきであると考えるが、総理の見解ほいかがでありますか。(拍手)
折しもこのとき、総理の訪韓はまこと時宜を得たものであり、特に両国首脳がその友好を確認し合い、かつ懸案の経済協力問題に合意を得たことは、とうとき成果として率直に評価いたします。
しかしながら、新聞報道によれば、その共同声明第四項の安全保障条項については、両国政府間の理解に相当の乖離があると伝えられておりますが、もし事実とすれば、それは両国間に新しく相互不信の種を植えることになるおそれなしとはいたしません。
そこで、この際、次の諸点について質問いたします。
その第一は、共同声明第四項にいう「朝鮮半島における平和と安定の維持が日本を含む東アジアの平和と安定にとって緊要である」という認識は、従来の政府の認識と同じものなのか。違うとすれば、どう違うか。
第二は、朝鮮半島の平和と安定のため日本がなすべき協力には軍事面は包含されているのかいないのか。そして、この点について両国政府間の解釈に食い違いはないか。
第三に、共同声明第五項は「日本が世界平和と繁栄のため、その国力に相応する役割を遂行すること」とあるが、その役割りは具体的にはどのようなことを意図するものか。
以上の三点について、総理の明快なる御答弁を求めます。
また、シーレーン防衛問題については、いずれにせよ航路帯周辺諸国の理解がなくては、これは実施できません。したがって、政府は、これらASEAN諸国に対し、日本の防衛問題について深く理解を求めるべきであると思うが、総理の御方針を伺いたい。
次は、貿易摩擦について質問いたします。
ここに、日本と米欧間の貿易は日本に大幅黒字が続き、これが保護主義の傾向を世界的に強め、現に米欧ともに情勢は険悪であります。中には相手方の誤解に基づくものもあり、それには明確な説明と反論を尽くすべきでありますが、しかし、自由、互恵、無差別を主眼とするガットの規定に照らして、わが国の貿易体制が明らかに保護主義的と見られるものについては、思い切ってこれを改善すべきであります。資源小国たる日本がここに経済大国として発展し得たのは、一にかかって自由貿易体制によるもので、もしも国際社会にこの体制が崩れますならば、日本経済はたちまちその基盤を失いましょう。
総理より、ただいま米欧が提起しているいわゆる貿易摩擦問題に対する対策、方針をそれぞれ具体的にお示し願いたい。
次は、行政改革について質問いたします。
総理、あなたは鈴木内閣の行革大臣として、事あるごとにここに政治生命をかけると呼号してこられましたが、この二年有半にわたるあなたの実績にはほとんどそれらしい成果は見られません。
たとえば、五十六年度における歳出削減額は五十兆円台の予算規模の中で実質五百億円にすぎず、また、五十七年度予算では、権力腐敗の導体とも目すべき政府補助金が前年度比二千億円も逆増し、この間公務員の実数ほほとんど旧態依然たるありさまであります。ましてや、中央省庁の統合、地方出先機関の大幅廃止、特殊法人の廃止統合等、すなわち、機構改革の根本的課題はほとんどたなざらしのままであります。
政府は、行政改革という緊急焦眉の大々事をもっぱら臨調にゆだね、あたかも受け身のていにすら見受けられます。この問題こそは本来内閣自体の責任であり使命であって、じんぜんとして臨調の答申を待っておれる筋合いのものではありません。(拍手)
そもそも行革の必要が国民的規模で噴出している最大の理由は、いまや国の財政が破綻に瀕しているからであり、すなわち財政の破綻はインフレの暴発、円価値の暴落に連動し、それはそのまま国民生活の破綻に直結するからであります。
ここに国債の累積額は五十七年度末で約百兆円、この利子を含む国債費は年間八兆円を超えるが、これに加えて五十八年度からは償還が始まり、かくてその負担は年々さらに累増していくのであります。これは放漫経営と手形乱発で破綻寸前の会社同然の姿であります。こんな財政にだれがした。本来ならば、その当事者たる自民党政権がここに平然とその地位にとどまっていること、これ自体がすでにおかしなことと申さなければなりません。(拍手)
総理はこの反省に立ち、責任を痛感するならば、いまこそ行政組織の全般にわたり敢然として縮小簡素化の大なたをふるうべきだと思うが、この際所信のほどを、あわせてその具体策をお示し願いたい。
なお、かかる財政事情にあるとはいえ、公務員給与に対する人事院勧告は、画然として別個の問題であります。すなわち、この制度こそは実に公務員の労働基本権制約に対する代償措置であります。したがって、政府はすべからく手段を尽くしてこれを実施すべきであると考えるので、総理の御再考を求め、改めて御方針を伺いたい。(拍手)
次は、財政再建について質問いたします。
ここに五十八年度予算案は、国債整理基金への定率繰り入れを停止したほか、補助貨幣回収準備金の取り崩し、たばこの値上げ、それに電電公社からの納付金や外為資金特別会計の剰余金の繰り入れ等々、税外収入を最大限にかき集めて、辛うじて歳出歳入のつじつまが合わされております。
かくて五十八年度予算案は超緊縮予算となり、これでは景気の回復も税の増収を図り得るわけがなく、このままではわが国財政は早晩パンクせざるを得ないことは、もはや算術的必然であります。総理は、これでもなお「増税なき財政再建」「五十九年度での赤字国債からの脱却」というあの公約を実行できるとお考えか。
いずれにしても、破綻の危機に直面するわが国財政は、最も速やかに万難を排して再建せなければならないが、総理よりその方策を具体的にお示し願いたい。
なお、ここに、私見ながら一素案を提起して、政府の御検討を願いたいが、それは、この際、国有土地を一挙大量に民間に放出し、その代金を国債償還の原資に充当することについてであります。
ここに、行革も税制措置も、現実には総論賛成、各論反対で、しょせん今日の役に立ちそうもありません。
ここに、国有の土地は、行政財産分が八百八十四億八千万平米、普通財産分が十二億六千万平米とあるが、このうち、行政財産といえども行革の精神でこれを縮小して普通財産に転籍すれば、膨大な地積を処分可能な対象になし得ましょう。国有土地の台帳価格は、五十五年度評価で平均一平米当たりわずか二千円程度とありますが、これを市価で売却すれば、相当巨大な額に達します。膨大な含み資産を持ちながら、これを捨ておいて、もっぱら借金の返済に四苦八苦しているのは、むしろ愚劣であります。他に有効的確な手段がないなら、いっそこの手で死中に活を求めることは考えられないか。あわせて、総理の御見解を伺っておきたい。
次は、所得税減税について質問いたします。
所得税の課税最低限は、五十二年度以降六年間も据え置かれております。この間、物価の値上がり、住民税、社会保険料などその他負担増のために、サラリーマンは生活諸経費の圧迫に苦しんでおります。このような可処分所得の減少が個人消費を低下させ、これが個人消費に依存する中小企業の不況を招く結果となり、かくて、この悪循環が景気の足を強く引っ張っております。この際、勤労者の生活防衛のためにも、そしてまた、個人消費を拡大して景気を回復し、もって税の増収を図るためにも、政府は、この際、思い切って本年度一兆円程度を目標に所得税減税を断行すべきだと考えるが、総理の御見解を伺いたい。
次は、景気対策について質問いたします。
ここに、日本経済は一進一退の低迷を続け、現に失業者は百三十万を超え、特に素材産業の深刻な不況と中小企業の倒産が日ごとに激化しております。ここに、わが国として経済運営上の急務は、それこそいちずに景気の回復を目指してあらゆる施策を尽くす、このことに尽きましょう。そのためには、前段で述べた所得税減税の断行とともに、生活基盤の強化を中心に公共事業を拡大することであります。
もとより、この政策は初年度に財政赤字を増大いたしますが、それは景気の上昇がもたらす税の増収によって後日おのずと解消されましょう。政府は、決断をもって所得税減税とともに公共事業の拡大に踏み切り、速やかに所要の予算措置を講ずべきであると考えるが、総理の見解はどうか。政府の景気刺激政策が他にあるなら、あわせてそれをお示し願いたい。
次は、教育問題について質問いたします。
その第一は、教科書法制定の必要性についてであります。
教科書は、青少年教育に中心的役割りを担う、学校教育の中心的器材であります。かかる教科書が、一昨年は中学用公民教科書の内容の偏向問題、昨年は高校用歴史教科書の記述が国際間に問題を惹起するなど、内外から厳しい抗議や批判を受けております。それは、教科書検定に明確な法上の根拠がなく、ただに文部省の行政措置によって、これを文部省の一部局と教科書会社及び教科書関係者たちによる特殊の取り決めに任せているところにありと考えます。
およそ、教科書検定という重大な国事を一片の文部省令に託し、これを国民不在の密室の作業にゆだねておくこと自体が、法体制上、重大な欠陥と申さねばなりません。すなわち、検定の指針、検定の手続は、全国民を代表する国会が法律によってこれを定むべきであり、それは民主国家として国会が担う当然の責務と考えます。(拍手)
われわれは、このような見地に立ち、速やかに教科書法を制定すべきであると考えるが、政府の見解ほいかがでありますか。(拍手)
次は、教育憲章制定の必要性について伺います。
戦後の教育は、戦前への逆コースを警戒するの余り、道徳や倫理など人格形成の基本的教養をことさらに回避してきた嫌いがあります。これがため、現憲法の根本にある人間尊重の精神が正しく生かされず、かくて、教育がともすれば個人の権利や利益の強調に偏向し、これがエゴイズムや権利の乱用を助長して、現に学校暴力、家庭暴力が頻発するなど、かくして教育の荒廃や青少年の非行増大を招いたと言っても過言ではありません。(拍手)
よって、この際、たとえば教育憲章のごとき国民モラルの基準を明定し、これをもって家庭や学校や、さらには社会における国民教養の指針に生かすことは、教育国家、モラル国家建設のためにきわめて有益なことと思うが、この問題について総理の御見解を伺っておきたい。(拍手)
次は、憲法改正について質問いたします。
総理は、さきの臨時国会において、矢野絢也氏の質問に、現在総理大臣たる別の重い地位におり、憲法遵守の義務を重視しているので、この問題について発言は差し控えておるが、総理をやめたら、多分再び憲法改正を発言するだろうと答弁されております。
ここに、議員たる者の生命線は、その信念と政策にあり、議院内閣制のもと、その議員の政策が議会にあるときと内閣にあるときとでそこに疎隔を生ずるということは、政治モラルの本義に照らし、許されることではありません。(拍手)わけても、あなたはいまやその憲法に基づく行政府の長にあられます。
そこで、ここに重ねて質問いたしますが、年来改憲論者たるあなたが引き続き憲法の改正を強調されてきた理由並びにその対象条項は何々か、この際、それを率直にお示し願いたい。
なお、ここで改めて御答弁願いたいことは、さきの臨時国会でわが党佐々木委員長が行った、現行憲法第九条は改正の必要なしと考えておられるのかという質問についてであります。
あのとき総理は、個々の問題について個人的意見を述べることは差し控えたいと、理不尽にも答弁を避けられました。言うまでもなく、国会は個々の問題に論議を尽くし、真実をきわめる国権の最高の機関であります。ましてや、憲法第九条という平和と安全に対する基本問題について総理が答弁を拒否するなど、承服できることではありません。(拍手)
何はともあれ、あの臨時国会における佐々木委員長が質問の趣旨、すなわち、総理は憲法第九条は改正の必要ありと考えておられるか、それともその必要なしと考えておられるのか。改正の必要ありとするならば、それは何ゆえか。私もここに重ねて質問いたしますので、総理より改めて明確なる御答弁を願いたい。(拍手)
特にこの際、あなたを初めとして改憲論者に篤と御理解を勧めたいことは、憲法第九十八条第二項は、外国と締約した条約を誠実に遵守する義務を定め、そして、この制約のもとにある日米安保条約第三条が、締約国は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。」ことを明定していることについてであります。
すなわち、憲法第九条が保持しないと宣言しているものは戦力であって、決して自衛力ではなく、現にそれは憲法が遵守の義務を明定している安保条約第三条がそのような自衛力の保持を義務づけていることによって明白であります。言うならば、自衛力なるものは刑法第三十六条が規定している正当防衛に匹敵するものであり、それは独立国家に保障された自然権であり、国家固有の権利であります。
しかるに、自民党は憲法第九条にあらぬ疑義を投げかけて改憲を呼号し、かつ、その内閣も、これに対しあいまいな態度を装っておりますが、このことは、そのまま自衛隊違憲論者に対し、ことさらにその論拠を与え、これがいたずらに国論の分断を招いているのであります。このことこそがわが国の安全保障政策を混迷に陥れておる諸悪の根源と言っても過言ではありません。(拍手)
すなわち、専守防御に徹した自衛力を堅持することは、憲法上、いささかの疑義はないと確信するが、総理の御見解はいかがでありますか。
なおまた、この際特に指摘しておきたいことは、内閣には憲法改正の発議権がないというのが学界の定説であるということ、かつ、自民党は現に衆参両院とも、それぞれ三分の二という憲法改正に必要な議席を保持していないということ、それにもかかわらず、総理・総裁たるあなたが、できもしない、かつ、その必要もない改憲論を、いかに言論が自由たりとはいえ、軽々しく口にされることは、わが国政に百害あって一利ないという、このことであります。総理は、これらのことどもを深く再検討されて、今後みだりに憲法改正など口外なさるべきではないと思うが、総理の御所見はいかがでありますか。
以上、質問の諸点に対し、総理より、良心と信念に即した、確たる御答弁を願いたい。
最後に、政治倫理の確立について質問いたします。
総理はさきの国会で、私は政治の倫理を確立し、清潔な政治を目指すと言明されました。にもかかわらず、あなたは、わが国会が直面する政治倫理確立に要する諸懸案について、いずれも国会の判断にゆだねるとして、国会第一党の総裁でありながら、もっぱら逃げの一手に終始しておられます。
言うまでもなく、政治に倫理が乱れたら国民の信頼は失われ、国民の信頼なくして政治の進展は望み得ず、すなわち、政治倫理の確立こそはまさに民主政治の根幹であります。しかるに、このような政治の基本に関する総理・総裁たるあなたの言動は、依然として党利党略にとらわれて、何一つけじめをつけ得ておりません。
たとえば、秦野法務大臣の議員当時におけるロッキード裁判違法発言については、法相の立場に立てばその見解が変わるのは当然と擁護されました。芝居の舞台の役者なら、役柄に応じてその都度せりふは変わりますが、議員が大臣になると、そこで見解を変えるのは当然という答弁は、いかにもうそっぽくて、私どもは聞くだに恥ずかしい思いがいたしました。(拍手)
また、有罪判決を受けた佐藤孝行議員に対する議員辞職勧告決議案については、総理は、その地区の主権者が選んだ議員の身分を国会が遮断するのは妥当ではないと弁護されましたが、そんなお説を類推すれば、議員の身分を制約する国会法、衆議院規則の議員懲罰条項はことごとく不当、不法なものに聞こえましょう。「大義親を滅す」と申しますのに、あなたの選択はことごとくその逆であります。
あなたの弁舌はさわやかで、その論理は明快だとの風評がありますけれども、このようにして肝心な問題の瀬戸際では、あなたのそれは言葉の手品、論理の軽わざを巧みに組み合わせたもので、不実なものとしか聞こえません。こんな遁辞や詭弁で、この先々、わが国政の大事がずる賢くあしらわれるときは、わが国の政治モラルはますますむしばまれていくことにならないか、心配されてなりません。
わけても、自民党員にあらざる田中角榮氏が、田中派議員百十名の威力をもって実質上自民党を支配し、現にその力で中曽根内閣が出現したことは、天下周知の事柄であります。あなたはそれに対して、何人の支配も受けておらぬと突っぱねておられますけれども、現に見る人脈の顔ぶれでは、国民がそのように判断するのは当然であります。
その田中角榮議員は、この二十六日、ロッキード裁判の刑事被告として懲役五年の論告求刑を受けられました。本件は、わが国政治史上最大の疑獄事件であり、しかも、それが元総理大臣の政治犯罪であるだけに、いまや国民世論は政治に対する不信の思いに重苦しく鳴動しております。
あなたがいかに抗弁されても、あなたがよって立つその地位こそは、刑事被告人にしてしかも自民党の党員でもないこの田中氏の力によるものと、国民はひとしくその実体を見きわめております。
古語に「人皆忍びざるの心あり」とありますが、これぞまさに、見るに忍び得ざるのはなはだしきものと言っても過言ではありません。徳に従えば栄え、徳に逆らえば滅ぶとの戒めもあり、いまや内外ともに多事多端のとき、われら国会は、何事にも先んじて国民の政治不信を取り除かねばなりません。
あなたは、一国の総理、一党の総裁として、この役割りの中心に立たれております。
ここに、ロッキード疑獄事件に対する論告求刑が行われたのを天の契機と受けとめ、あなたは総理・総裁たるのリーダーシップとその使命感に徹し、いまこそ勇断をもって、田中角榮氏の衆議院議員引責辞任を含め、政治倫理にかかわる諸懸案を一挙に解決し、失われた政治信頼の回復に身を挺してお取り組みなさるべきであると考えるが、御心境はいかがでありますか、責任ある御答弁を期待して、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#8
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 春日前委員長の御質問にお答え申し上げます。まず、対ソ外交、国際情勢の認識の問題でございます。
ソ連は、一方的に軍縮を唱えておりましたが、しかしここ数年来、軍事力を東西にわたって増強してきて、極東におきましてもそれがかなり顕著に見えてきていることはお説のとおりでございます。
日ソ関係におきましては、特に北方領土におきまして軍事力が強化され、あるいは国際政治の問題におきましても、アフガニスタン問題やポーランド問題等がございまして、引き続き困難な局面にございました。
政府といたしましては、従前申し上げているとおり、仮想敵国ということを設けていることはございません。ソ連との間におきましても、北方領土問題を解決して平和条約を締結し、真の相互理解に基づく安定的な関係を確立するために粘り強く努力していきたいと考え、今後とも日ソ外相間協議等を通じ、ソ連に対して問題の解決を求めていく考え方でございます。
最近の国際情勢を見ますと、ソ連におきまするアンドロポフ政権の出現等もありまして、国際関係にはやや流動性の兆しが見えないこともございません。ヨーロッパにおきまする核兵器の削減問題等々を見、あるいはこれに対するレーガン大統領の反応等々を見まするというと、かすかながら何かの底流が動きつつあるのではないかという予感もしないではない状況でございます。われわれはこれらの状況を真剣に見つめ、かつソ連のわが国に対する出方を見守ってまいりたい、このように考えております。
しかし、一般的に見ますれば、世界情勢あるいは日本を取り巻く状況というものは従前のとおりの厳しさで取り巻かれ、動いている、このように考え、西欧陣営、自由主義陣営との連帯、団結のもとに私たちは行動していかなければならない、このように考えております。
中ソ関係におきましては、例の三つの問題がございます。国境における膨大な兵力の撤去の問題、カンボジアからのベトナムの撤退、ソ連の援助の停止、アフガニスタンからの撤退、こういうことを中国側は要求しておりまして、この問題が解決する見通しはそうはすぐ出てくるとは思いません。したがいまして、中ソ関係が、ある限度以上接近するということは、いまのところは予想できません。しかし、国際関係というものはいついかなることが起こるかわかりませんから、われわれは注意深く見守ってまいりたいと考えておる次第でございます。
いずれにしましても、わが国は対共産圏、特にソ連を相手にする場合は、われわれは相手の情報はほとんどないと言っていいぐらいないわけであります。しかし、ソ連側は、いままでいろいろなケースがありましたように、最近はレフチェンコ事件というようなものがありましたように、かなりの情報を向こうは握っていると見なければなりません。こちらの情報は向こうにあるのに対して向こうの情報がわからないというもとに外交を行うという状況から見ますれば、われわれの方は相手の出方を見るというのは、賢明かつ安全な見方であります。そういう慎重な態度を持しながらも、しかし、この一番頑強な手ごわい相手に対しましては、特に対話と話し合いのルートを開いて、そして粘り強く行っていくということは、また大事なことでございます。そういうような態度をもって対ソ外交を私たちは進めてまいりたいと考えております。
それから、有事に備える体制につきまして御質問をいただきました。
有事に際しての自衛隊の任務遂行に必要な法制は、現行の自衛隊法によりまして、その骨格は整備されております。なお、残された法制上の不備はないかなどにつきまして、防衛庁においていま検討、整理を行っておるところでございます。
わが国の防衛につきましては、しかし国民の協力が不可欠でございます。防衛の成否は、まさに国民の支持と協力が得られるか得られないかという点がキーポイントでございまして、国民の皆様に対して状況の御認識をいただくようによく説明を申し上げる、そして心からなる御支持をいただく、こういう防衛基盤を強化していくということが今日非常に大事ではないかと思っておる次第でございます。
さらに、日米首脳会談の内容につきまして御質問をいただきました。
今回の首脳会談におきましては、日米両国間の信頼関係を強化し、友好同盟関係を再確認したということがまず言えます。
経済問題につきましては、日米両国が世界経済の再活性化、保護主義の防遏と自由貿易体制を維持強化するためにともに努力していくべきであるという点において、見解が一致いたしました。
また、日本の貿易の問題、両国のいわゆる貿易摩擦と称する問題につきましてはいろいろなレベルで話が行われまして、できることとできないことをはっきり言明をいたしてまいり、また引き続き継続協議していくことは継続協議していくこととして話し合いをつないでいく、こういうことになっておるものでございます。
不沈空母につきまして御質問がございましたが、これは先般来申し上げておるとおり、自分の国は自分で守る、そういう強い決意の表明であるとお考え願いたいと思うのであります。不沈空母というこの名前が適当であるかどうか、いろいろ御批判をいただきましたが、私は昔海軍におりましたかげんでそういう名前が出た次第でございますが、言いかえれば、これは比喩であり、不沈列島とも称すべきものである。自分の国は自分で守るというかたい決意を表明しなければ、いざというときに安保条約があってもアメリカが本気で守ってくれるかどうか、こういう点を特に強調してまいりたいと思っておる次第なのでございます。(拍手)
運命共同体についての発言も、これは首脳会談で行ったと申し上げたとおりでございまして、これは、日米は自由主義、民主主義という意味において信条をともにする関係であり、あるいは文化や経済において膨大なる交流を持つ相互依存の関係にあり、安保条約を通ずる防衛についても深い関連を持つ関係にある。そのほか、いろいろな深い連帯関係を称しまして、運命を分かち合うと言いまして運命共同体という言葉が使われたのでございまして、御了承いただきたいと思います。
海峡防衛につきましては、これは本土防衛の一環として申し上げたのでございます。本土が侵されたという場合には、当然海峡も本土防衛の一環として守らるべきは当然でございまして、その関連で申し上げたのでございまして、春日さんなら御了承いただけると確信しておる次第でございます。
次に、防衛費一%の問題でございます。
今後のGNPの推移の状況あるいは防衛費の動向に不確定な要素がございまして、これが一%をいつ超すかという見通しは、申し上げることは困難でございます。当面、われわれが努力しておりますことは、「防衛計画の大綱」達成をできるだけ早目にやるということでございます。そして、防衛費のGNP一%に関する昭和五十一年の閣議決定は、現在のところ変える必要はないと考えております。
なお、いわゆる新しい歯どめの問題につきましては、具体的な必要が生じた事態におきまして検討してまいりたいと思っております。
韓国との関係について御質問をいただきました。
わが国は、西側先進民主主義諸国との連帯と協調をもとに、近隣アジア諸国を初め各国との相互理解、友好平和の関係を拡大しておる立場でございます。このような見地から、今後とも、韓国を初めアジアの近隣諸国との間に相互理解と友好協力関係を一層発展さしてまいりたいと思っております。特に、韓国との関係におきましては、幅広い民間の交流というものが非常に重大であると感じております。
先般来、教科書問題その他でぎごちない関係が若干ございましたが、この間におきまして、日韓議員連盟、韓日議員連盟、両国の議員連盟の皆様方の誠意がこれをつないでいただきまして、私の訪韓をつくるチャンスも実はつくっていただいたのでございまして、議員連盟の役割りにつきましては、高く評価し、感謝いたしたいと思っております。
そして、朝鮮半島が厳しい状況にあることはわが国としても認識をいたしております。また、韓国の防衛努力が南北対話への努力と相まって朝鮮半島の平和維持に寄与していることも評価しておる次第でございます。
しかし、わが国には憲法の制約があり、まず、わが国の防衛、これを自国の力で足りない部分は日米安保条約により協力して行う、そして東アジア地域の平和と安定に寄与する、こういう基本方針を持ってまいりましたが、今後もこのような考えに立って行うつもりでございます。
御指摘の共同声明第四項は、従来からのわが国の立場を確認したということで新しいことではございません。日本としての国際的立場、憲法上の制約を踏まえつつ、東アジアの平和と安定と繁栄のために努力する。朝鮮半島との関連で申し上げれば、たとえば、韓国の民生安定と福祉の向上のために協力する、そして、同半島の緊張緩和のために関係国と話し合うことなどについて側面からも協力し得る、こういう考えに立っております。
共同声明第五項に言う役割りにつきましては、わが国の国情、国際社会における立場、憲法上の制約等を踏まえつつ、わが国として適切と考える役割りを行いたい、こういうことでございまして、解釈上に食い違いはございません。
私は、韓国におきまして全斗煥大統領と会談をいたしましたが、この北との平和統一話し合いの問題についてかなり熱意を抱いておられる。特に八八年のオリンピックを控えまして、韓国のそのような精力的努力を行おうとしておる熱意に打たれたのでございます。
全斗煥大統領は、一九八二年一月に北の方に対して次のような提案をしておられると言っておりました。
それは、統一国家樹立のための統一憲法草案を討議する民族統一協議会議を設置しよう。第二に、統一実現までの暫定措置として、南北基本関係に関する暫定協定、すなわち、休戦体制の維持、軍備競争の中止、ソウル、平壌に常駐連絡代表部設置などの締結、それから南北最高責任者会談、いわゆる両方の大統領あるいは金日成氏に当たりますか、最高責任者の会談実現のため南北代表予備会談の早期開催、こういうような呼びかけをいたしておるのでございます。
北朝鮮は、これに対しまして、八二年二月十日の平和統一委員会の声明におきまして、南北の政治家による百人連合会議の呼びかけを行っております。しかし、この名前を出した中には韓国の政府関係者の名前はほとんど含まれていない、こういうことで、不調の状態になっているのでございます。
しかし、この南と北が懸命に平和統一に向かって今後お互いに話し合いを持続していかれるように希望しておいてきた次第でございます。
シーレーン防衛及び対ASEANの問題につきましては、昨年十月来日いたしましたスハルト・インドネシア大統領につきましては前内閣が、また、最近来日いたしましたマハティール・マレーシア首相につきましては私からも説明をいたしまして御理解をいただいたところであり、ASEANその他の諸国に対しても、今後とも精力的に理解をいただく努力をしてまいるつもりでございます。
貿易摩擦の問題に御質問をいただきました。
世界経済の停滞、雇用情勢の悪化等を背景に欧米に保護主義の傾向が強く台頭していることは、きわめて遺憾であります。自由貿易秩序の維持は、世界経済及び日本経済にとって不可欠の要素でございまして、わが国としては、保護貿易の台頭の防止に努めるとともに、世界経済の再活性化を図るべく積極的に努力してまいりたいと思っています。
わが国の市場の開放についてもかなり思い切っていままでやってまいりました。昨年の五月から、関税の税率引き下げを見ますと、実に三百二十三品目にわたる引き下げ等を行ってまいりまして、関税率は、世界の各国と比べてみますと、一般的に日本が四%台、アメリカが五%台、ヨーロッパが六%台でありまして、世界でも日本は一番安い、低い関税率を持っている国になっています。
それで問題は、今後は輸入手続とか製品安全検査とか、そういうような手続問題が問題となってきているわけでございまして、そこで、官房長官を長とするタスクフォースをつくりまして、三月までに全部を洗い直してみて、直すべきものは直す、そのような作業に入った次第でございます。
次に、行政組織の縮小簡素化の問題の御質問をいただきました。
簡素合理化につきましては、従前から臨調の御方針を受けまして努力しておるところでございます。いよいよ三月に向けまして最終答申の努力をいまやっていただいておりますが、この答申をいただきまして思い切った措置を私たちもやらなければならぬと思っておる次第でございます。
人事院勧告につきまして御質問をいただきました。
人事院勧告の取り扱いにつきましては、労働基本権の制約あるいは労使関係の良好な維持等に配慮しつついろいろ努力してまいったところでございますが、この危機的な財政状況のもとに、やむを得ずベースアップにつきまして給与改定の見送りを決定いたしました。五十七年度でございます。まことに忍び得ないところでございますが、公務員も国民に対して率先して忍びがたきを忍んでいただきたいとお願いしておるところでございます。
さらに、財政再建につきまして御質問をしていただきました。
特例公債依存体質からの脱却については、五十九年度を目標に努力してまいりましたが、最近の情勢から見まして、この五十九年度脱却ということの実現はきわめて困難になったと思っております。そして、来るべき高齢化社会や国際化の時代に備えまして、財政の対応力を整えるということはきわめて重要な課題にいまやなってきております。そこで、五十八年度におきましては、相当思い切った予算の編成を行いまして、また関係各方面の御協力をいただいたところでございます。そして、公債発行額も、五十七年度補正後に比べまして一兆円減らしたところでございます。
今後とも、新しい観点に立った長期的な経済展望のもとに、歳入歳出の徹底した合理化、あるいは早期に特例公債依存体質からの脱却、さらには、公債依存程度の引き下げ、これらの政策を推進いたしまして財政の健全化を図りたいと思っております。
財政改革につきまして、基本的な考え方につきましてはできる限り明らかにしたいと考えており、近くこれをお示しすべく検討させているところでございます。
次に、国有地の処分について御質問をしていただきました。
国有地の大半は、直接または間接に国の行政や公共の用途に使っておりまして、直ちに処分可能な国有地は実はきわめて限られております。国有地の大部分は、九五%は国有林であります。そして、このほかの国有地につきましても、いままで年間六百億円から七百億円ぐらいいろいろ売却して、一番多いときが、たしかおととしあたりが八百億円ぐらいであったと思います。
一方、公共用地に対する需要は根強く、再取得が困難なので、国有地は長期的視野に立って、今後も公用、公共用に優先的に活用していく必要があります。が同時に、国有地の効率的な使用に努め、極力その適地を捻出いたしまして、売り払い収入の増加に努める所存でございます。
所得税減税につきまして御質問がございました。
実に昭和五十三年以来課税最低限の据え置きをやっておりまするので、所得税減税の声をわれわれは各所でまことに正当な声としてお聞きしておる次第で、できるだけ努力したいと思っておるところでございます。
しかしながら、先ほど申し上げましたように、五十八年度におきましては、財政上の事情に基づきましてなかなかむずかしい結果が出ました。現在、財政を見ますと、租税による歳出のカバー率は六四・一%と、非常に外国に比べて低い率になっております。また、個人所得に対する所得税負担の割合は四・九%、昭和五十六年度でございます。これも国際的に見れば低い水準でございます。
景気対策として所得税減税を行うというお考えがございますが、問題は財源であります。これを公債に求めるということになりますと、一面におきましては、金融市場を圧迫して金利を引き下げることはむずかしくなる。高金利というようなことは、結局不況のもとにもなります。いろいろな点からその反応を考えておりますが、今回は以上のような措置をとった次第なのでございます。
なお、この点は税制調査会の答申におきましても、五十八年度において所得税減税を見送ることはやむを得ないというふうに答申いただいております。
しかし、五十九年度以降におきましては、税調答申におきまして、税制全体の見直しを行う中で課税最低限や税率構造等について根本的な検討を行う必要があると指摘されておりまして、われわれは、これは検討を加うべきものと考えております。
景気対策につきまして、景気の回復を図り、雇用の安定を図るということは大事な政策であると思っております。そして、そのために総合経済対策を昨年十月決定いたしまして、目下これを推進しておるところでございます。この中には、公共投資の追加投資等も入っておるわけでございます。
五十八年度予算においては、厳しい歳出削減の中で、公共事業関係は前年度と同額ということにし、さらに民間資金を活用するという、いろいろなアイデアも中に含めまして予算編成を行ったのでございます。今後もこの面につきましては努力をいたすつもりでございます。
さらに、教科書法制定の御質問がございました。
教科書の検定を含めて教科書の基本的あり方については、現在、中央教育審議会におきまして検討をされております。その結論を待って適切に対処していくのが適当であると考えております。
現在の教科書の検定は行政措置ではなく、学校教育法、文部省設置法等の法令の規定に基づき、適正に行われておるものであります。
教育憲章の制定について御提言をいただきました。
教育の基本理念につきましては、憲法及び教育基本法に示されておるところでありますが、このほか、さらに御提案のような教育憲章を制定するということにつきましては、わが国の教育の基本問題にかかわる重大な問題でありまして、その制定形式、内容などについて国民的合意が必要であり、慎重に対処する必要があると考えております。
憲法改正について御質問をいただきました。
私は、前から申し上げておるように、民主政治下においてはタブーはない、そういう意味から、いかなる制度も、あるいはいわゆる社会的ないろいろなインスティチューションと言われるようなもの、あらゆる問題についてタブーをなくそうと研究し、そして検討し、常に見直していくという態度が正しい態度である、憲法についてもその例外ではない、こういうふうに申し上げてきたところでございます。
憲法第九十九条におきましては、やはり憲法遵守の義務があります。私は、この憲法にのっとって内閣総理大臣という地位にあるわけでございます。したがいまして、憲法を遵守するということは当然のことでございますが、しかし、また一面におきまして、国民諸君あるいは政党がこの憲法についていろいろ自由活発な論議をするということは、民主政治の上からも奨励さるべきことである、このように考えております。
さらに、私はただいま内閣総理大臣という公的地位、行政府の最高責任者の地位に立っておりますが、議員であったときとほ立場が違うわけであります。したがって、憲法改正に関する具体的な条項に関する意見を申し述べることは、どうしてもこれは個人と公的地位が混淆される危険性は十分あるのであります。そういう混乱を考えますれば差し控えるのが正しい、こう考えて申し上げておるのでございます。
しかし、憲法第九条に対する解釈につきましては、従来より、自衛のため必要最小限度の実力を保持することは憲法上許されることである、専守防衛を基本として防衛力を整備することは憲法上全く疑義がないと考えております。この点は、春日前委員長と全く同じ考えを持っているということを申し添える次第でございます。
政治倫理の確立の問題についていろいろ御質問と御意見を承りました。
私は、議員辞職決議という問題の取り扱いは非常に重要な問題であると思っておるわけでございます。議員の進退につきましては、懲罰であるとかあるいは資格の争訟であるとか、こういうことで法律で決められております。しかも、これらを採決する場合は三分の二の多数を必要とするわけであります。しかし、国会の決議の場合は二分の一で済むわけでございます。そのような進退という重大な問題を扱う場合に、果たしてそれを決議でやることが妥当であるかどうか、そういう点についても十分検討を要するところがあると思っております。
秦野法相の議員当時の言論に対するお話がございましたが、私は、参議院議員として疑義をただすということは、議員としての職責に入ると思うのでございます。国民にかわって疑義をただす、そうして、法の番人としての法務省なり法務大臣のあり方について議員としてただすということは、私は、職責の中に入る、また大事な仕事をやっておると考えております。しかし、法務大臣という立場になりますと、これまた別の立場になる、こういうふうに申し上げておりまして、秦野法相はその限度を逸脱しておらないと私は考えておるわけでございます。
また、自由民主党につきましていろいろ御批判をいただきましたが、自由民主党は合議制の近代的組織政党でございまして、一人の人の影響によって党が動くというようなことはございません。総務会もあれば、議員総会もあれば、代議士会もあれば、政調会もある。そういうような機関、機関によって党は動かされておるのでございまして、特定個人によって動かされておることはないということをここで申し上げる次第であります。(拍手)
─────────────
#9
○議長(福田一君) 金子満広君。〔議長退席、副議長着席〕
〔金子満広君登壇〕
#10
○金子満広君 私は、日本共産党を代表して、当面する国政の重要問題について、総理に質問をいたします。中曽根内閣が成立して二カ月がたちました。この間の経緯は、中曽根内閣がいかに危険な内閣であるかということをますます明らかにしてまいりました。それは、みずからを改憲論者として宣言したことを初め、日米軍事同盟の強化と軍備の拡張、国民生活の圧迫と腐敗政治の擁護などに端的に示されています。
中曽根内閣は、一体あれは何をやるかわからない内閣だ、日本はますます危険な方向に引き込まれていくのではないかということは、国民の多くが現実に抱いている不安であります。その最たるものが、今回の日米首脳会談及びそれと関連して行われたあの日米運命共同体あるいは日本列島不沈空母論あるいは四海峡封鎖などの発言であります。
そこでまず最初に、今回の日米会談では何が新しく約束されたのか、また、これまでの外交、防衛政策がどのように変わることになるのか。施政方針演説でも先ほどの答弁でも、内容が全く報告をされておりません。タブーはないということを言われる総理でありますから、ここで明確に内容を説明していただきたいと思います。
さて、その上で具体的な問題について伺います。
きのう総理は、この議場での答弁で、あの不沈空母問題について、これは国を守る決意を表明したものだとか、一つのたとえであるとか、形容詞であるなどと述べました。きょうもまた同じ答弁を繰り返しました。
しかし総理、あなたが訪米中ワシントン・ポストのインタビューで述べたあのことは、きのうの答弁とは全く違っております。この不沈空母問題について総理は、これはソ連のバックファイア爆撃機の侵入を阻止することであり、四海峡を封鎖することであり、さらにシーレーンを防衛するという三つの目標だと明確に言い切り、同時に日本列島を防波堤にするとまで発言しているではありませんか。
総理、みずからの発言には責任を持たなければならないのは、政治家としての最も初歩的なイロハであります。使い分けをすることは許されません。
この三つの目標発言こそ、昨年のハワイ協議でアメリカ側が日本に強く要求した内容そのものであります。さらに、日本によるシーレーン防衛とは、アメリカ本土からの大規模な軍事力投入とその長い補給路確保のために不可欠な要素だとアメリカ側が明確に述べていることは、すでに報道されているとおりであります。
実態は一目瞭然であります。それは、総理がアメリカの要求にこたえて、アメリカを守るために、日本列島そのものをまるごと不沈空母化してソ連からの防壁にするということではありませんか。ワシントン・ポストに掲載されている総理の発言と、その意味するところが何であるかを明らかにしていただきたいと思います。(拍手)
次は、総理のいわゆる四海峡封鎖の発言についてであります。
この四海峡を封鎖するという問題は、かねてからアメリカ側が対日軍事分担要求の中心の内容の一つとして求めてきたことであります。それがソ連の太平洋艦隊を日本海に封じ込めることが目的であることは説明を要しません。四海峡封鎖が日本有事のためということなら、どのような場合を想定して言っておられるのか、総理の見解を承っておきたいと思います。
かねてからアメリカ政府は、日米安保、日米共同作戦については周知のようにいろいろのことを言ってまいりましたが、それは同じことであります。昨年三月、アメリカ議会でも、アメリカの政府当局者は次のように述べています。日本だけが攻撃をされ、単独で対応しなくてはならないような事態はあり得ず、日本へのソ連の限定攻撃は米ソ対決の中でだけあり得ると証言をしております。
さらに、ドネリー現在日米軍司令官は次のように述べています。米ソ対決で日本の中立はあり得ない、このように断言をしております。これは、日米共同作戦におけるアメリカの基本認識を示したものであります。総理の言う不沈空母も、このアメリカの基本認識の中に位置づけられているものであることはもはや明白であります。
また、総理は今回の訪米で、日米同盟には軍事を含むということを述べました。そして、その同盟を日米運命共同体としてうたい上げたのであります。では、一体この運命共同体というのはどういうことか。総理自身が解説をしてみせてくれています。これは日米が一蓮托生で運命をともにすることだ。これが政治や経済やその分野にとどまらず、軍事的にも一体であることを示したことは、あらゆる角度から見て全く明らかではありませんか。(拍手)
これは、総理が言うところの自分の国は自分で守るなどという、そういうものでないことも明らかであります。アメリカの有事を日本の有事とみなして、アメリカが第三国と戦争した場合にも、日本はアメリカ側に立って共同してそれに当たるということではありませんか。
総理は、そうでないとするならば、いかなる形にせよ、アメリカの第三国との戦争に、日本は軍事的な協力は絶対にしないということをここで約束できるかどうか、伺っておきたいと思います。(拍手)
次に、アメリカに対する武器技術の提供問題について伺います。
総理は、訪米するのに先立って、武器輸出の禁止を決めた国会決議を無視して、軍事技術をアメリカに提供するということをあえて行ってまいりました。
この技術提供をやるという決定後、早くもアメリカ側は、わが国の企業に対して、レーザー誘導式の対戦車ミサイルの技術提供を求めてきたことが報道されています。
このように、軍事技術の提供の決定は、わが国の軍事技術はもちろんのこと、民間の技術も含めて、全面的な軍事利用に道をあけ、わが国産業の軍事化、それを日米共同で大きく促進することは明らかであります。総理は、このことを考えてやってきたのかどうか。
また、この決定は、アメリカが行う武力行使にわが国が軍事的に協力をしていくことであり、これは憲法の基本的立場及び紛争の武力による解決を禁止している憲法第九条に明白に違反することになります。このことは、これまで政府の答弁からも明らかでありますが、中曽根総理はこの立場を変更したのかどうか、明確に答えていただきたいと思います。(拍手)
次に、総理の訪韓と日韓共同声明及び四十億ドルに上るいわゆる対韓援助の問題についてお伺いをいたします。
あの共同声明では、両国の関係を新しい次元で発展させるということを約束しております。この新しい次元の日韓関係とは一体どういう内容のものか、韓国政府の金副首相は、これを北東アジア安保に対する日本の新しい認識によるものと説明をしていますが、先ほどの総理の答弁で、韓国と日本政府との間には食い違いがないということを申されましたけれども、この金副首相の認識は、そのまま中曽根首相の認識と同じであるか、この点も伺っておきたいと思います。
総理と全大統領との会談では、問題となっている対馬海峡の封鎖問題あるいは日韓の軍事協力の問題、韓国の安全保障に関する問題などで意見交換があったと思うけれども、これも、タブーはないということでありますから、どのような内容の話があったのか。そして、総理は韓国の防衛努力が日本の平和と安定に寄与していることを高く評価をする、そしてまた、この声明の中では、日本を含む東南アジアの平和と安定について互いに努力するということが約束をされています。これはわが国が韓国の防衛努力を支援することが義務となったことを意味するものであると考えますが、この点についても伺っておきます。
四十億ドルに達すると言われるあの対韓援助もこれに沿ったものと言わなければなりませんが、そこで、この四十億ドルの援助は、総額として額を正確に約束したのか。つまり、四十億という金額をそのまま約束したのか。それとも、一年ごとの契約で、結果として四十億ドルに達しないことも時としてはあるのか。重要な問題であるので、伺っておきたいと思います。
総理、いまわが国に求められていることは、日米軍事同盟の強化ではなく、核兵器も軍事同盟もない平和の道こそ積極的に追求すべきであります。私は、以下、具体的な問題で総理の見解をただしてまいりたいと思います。
その一つは、核兵器の完全禁止及び使用禁止の問題であります。
いま、わが国を含む諸国民の前には、アメリカとソ連、米ソ両大国を中心とした軍事ブロック間の果てしない核軍拡競争という重大事態が引き起こされています。そして、核戦争の危険をつくり出していることは、周知のとおりであります。であればこそ、核兵器をなくせという声と運動は全世界に広がっているのであります。このとき、世界でただ一つの被爆国である日本の政府は、当然世界に向かって、核兵器の完全禁止を訴えるべきであります。
ところが、中曽根内閣は、国民のこの強い要求にもかかわらず、昨年十二月、組閣早々ということでありますが、国連総会で、核兵器使用禁止決議が百十七カ国の圧倒的多数で可決をされたにもかかわらず、アジアではただひとり、日本政府だけがこれに賛成をせず、棄権したのでありますが、事は重大であります。まさに許せぬ態度と言うべきであります。
政府は、この態度を直ちに改めて、核兵器の完全禁止、使用禁止実現のために、まず、核兵器を持っている五つの国、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連、中国にそれを要請すべきであると考えますが、総理の見解を承ります。(拍手)
その二は、核兵器をつくらず、持たず、持ち込ませずという非核三原則の厳守の問題であります。
すでに指摘をされておりますように、グアム島を基地にし、沖縄を足場にしているアメリカの核戦略爆撃機B52、これに対する核ミサイルの装備、米第七艦隊への巡航ミサイルの実戦配備、F16核爆撃機の青森県三沢への配備計画などは、わが国への核持ち込みが現実の危険となっていることを示しています。
総理、この重大な危険に際し、非核三原則が国是であると言うならば、その国是にふさわしく、核兵器の持ち込みは、航空機、船舶による通過、寄港、発着も含まれるということを公式にアメリカ政府に通告をし、アメリカにそれを約束させるべきであります。その措置をとることを強く求めます。(拍手)
同時に、在日米軍の核基地、核部隊の撤去、核巡航ミサイルの配備計画の中止、及びソ連が極東に配備し、また増強しようとしているSS20戦域核ミサイルの撤去及び中止を求めること、さらに進んで、アジア・太平洋地域を非核武装地帯にするために努力することを求めますが、この点についても見解を承りたいと思います。(拍手)
広島、長崎の犠牲を世界のどのような地域でも繰り返させないために、被爆国日本の総理として、以上の諸点についてはっきりと答えていただきたいと思います。(拍手)
次に、国民生活、経済、財政政策のあり方、行政改革について伺います。
臨時行政調査会、いわゆる土光臨調が設置されてから二年たちます。間もなく任期切れを迎えようとしております。政府は、この臨調の答申の実行を、財政危機を打開するあるいは経済再建の切り札、特効薬のように言ってまいりました。しかし、結果はいまどうなっていますか。知られるとおりであります。不況は克服されるどころか、ますます深刻になり、倒産も失業も危機ラインを大きく突破しているではありませんか。この春、中学、高校、大学を卒業する若者たちの多くが、就職先も決まらないまま不安の毎日を送っているのであります。
「増税なき財政再建」、どうなっていますか。全くかけ声だけではありませんか。そして、国民にはこの六年間連続の所得減税の見送りということで、実質の大増税が押しつけられているのであります。
また、この六年間に、国民の所得税の負担は三倍から四倍にふくれ上がっています。しかも、最近では、悪名高い大型の間接税の導入さえ公然と言われているのであります。
総理の言うところの自立自助、あの自立自助とは一体どういうものなのか。来年度予算案でも明らかなように、福祉も教育も削るだけ削っています。福祉、教育に国は責任を持たない、年をとっても病気になっても自分でやれ、大学に行きたければ自分で金を出せ、そういうことになっているじゃありませんか。
老人医療は、全国のお年寄りのあの強い反対にもかかわらず、この二月一日から有料化されます。そして、老後のただ一つの生活の糧である年金も恩給も、物価が上がっているのに据え置かれようとしていることは御承知のとおりであります。私学助成の切り下げのため、四月には授業料が一斉に大幅値上げされようとしています。
しかも、これだけの犠牲を国民に押しつけながら、財政は再建されるどころか、逆に、ますます破局の泥沼に落ち込んでいるじゃありませんか。
総理、現実を直視しなければなりません。財政危機を口実にした福祉の切り下げ、家計の圧迫が、消費不況を深刻かつ長期化させて、それが税収を落ち込ませて財政危機を拡大するというこの悪循環を率直に認めて、その根を断ち切る立場になぜ立たないのですか。国民の購買力、その購買力を高め、個人消費を盛り上げること以外に、不況を打開し、財政再建を軌道に乗せる道はありません。
私は、そのためには、国民生活を圧迫している臨調行革を根本的に見直して、何よりもまず国民生活の防衛の緊急対策として、次の諸事項を提起します。その中には、金をかけなくとも国民の方に目を向けるだけでやれることが数多くあります。
たとえば、国や地方自治体の中小企業への発注をふやすことであります。政府自身が中小企業に対する優先発注の品目として決めている印刷や製本、業務用の制服などをなぜもっと中小企業に回さないのか。いま国の物品購入、建設工事の三七%にとどまっている中小企業への発注比率を五〇%に上げるだけで一兆七千億に上る仕事を新しく保証することができます。
貿易摩擦やアメリカの経済不振の犠牲を日本の農業に押しつけるようなことを絶対にやらしてはならないと思うのです。やってはなりません。牛肉、オレンジの自由化や輸入枠の拡大をきっぱりと拒否しただけでも、農家経営に希望の光が当たることは自明のことであります。これには一円の金もかかりません。行政上の措置でやろうと思えばできることであります。全国の関係者が重大な関心を持っている問題でありますから、総理としての見解を改めて伺っておきたいと思います。(拍手)
同時に、軍事費の異常な突出、生活犠牲の政府予算案を抜本的に組み替えなければならない、そういう問題について、次の点を申し上げたいと思います。
まず第一は、国民が切望している一兆円減税を行うことであります。第二は、人事院勧告の完全な実施、雇用の確保を初め、勤労者の所得をふやすことであります。第三は、年金、恩給の物価スライドの実施を初め、福祉や教育予算を増額することであります。第四に、中小企業、農業に対する援助を強めることであります。これは不況克服の道でもあります。この四点を実施するかどうか、総理の見解を求めます。(拍手)
よく財源がないと言います。財源がないと頭から国民的な要求を拒否する態度は、絶対に許されません。総理、あなたが土光さんと二人三脚で進めてきた臨調行革の路線に根本的に欠けているのは、国民の立場から行財政を見直す、国民の目でむだや浪費、不正を点検し、なくしていくということであります。そうすれば、財源問題の解決、財政再建の展望もおのずから開かれます。
何よりも強調しなければならないのは、軍事費であります。シーレーン防衛とか四海峡封鎖のために大量に購入することを決めている一機百二十五億円もするF15戦闘機、百二十六億円もするP3C対潜哨戒機、これらを初めとする正面装備費だけでも六千百億円を超えているのでありますから、これらは当然削るべきであります。(拍手)アメリカ軍との共同訓練のための費用、基地建設の費用などは九千億を超えておりますので、これも大幅に削減することが当然できます。
さらに、在日米軍へのいわゆる思いやり、義務的でない、あの思いやり予算も何と六百八億円もつけているのであります。国民が現実に住宅難で苦しんでいるときに、核戦争態勢を強化するために三沢に配備する米軍のあのF16の要員のために、なぜ国民の税金を使って一千戸に上るような豪華な住宅をつくらなければならないのですか。こういう点は当然削減するのがあたりまえであります。(拍手)私は、ここで、軍事費の一兆円以上の削減を強く要求をいたします。総理の答弁を求めるものであります。(拍手)
軍事費と並ぶ臨調行革のもう一つの聖域は、歳入歳出の両面にわたる財界優遇の手厚い措置であります。五十五年度から五十八年度の三カ年間に中小企業対策予算がマイナス〇・五%になっているのに、臨調会長の土光氏が役員をしている東芝への通産省の補助金が何と七割もふえています。一社だけで毎年四十億円を超えているのであります。この事実を総理は一体どのように説明をされるか、具体的にお聞きしたいと思います。
まだあります。国と政府機関による膨大なむだ遣いも後を絶ちません。たとえば国鉄の成田新幹線であります。あの田中列島改造論のもとで計画され、着工されたこの路線、どうなっていますか。線路は一センチもできていないのに、終着駅だけが成田にできているというのは、一体これはどうなんです。百億円の地下駅ができています。これは浪費でしょう。この責任は一体だれがどのようにとるのですか。この点についても明確に答えていただきたいと思います。(拍手)
また、一昨年来あれだけ世間を騒がせた公共工事をめぐる大手業者の不正談合問題であります。メスが入らないまま今日に至っています。もともと入札制度の原則というのは、一般競争入札をやらなければならないわけでありますが、なぜこれをやらないのです。受注企業による政治家への不明朗な献金をなぜ禁止しないのです。皆さん、これは国民のだれしもが抱いている疑問ではありませんか。(拍手)もし政府がこれらの点についてメスを入れないで、なに最後には大増税があるなどということを考えているとしたら、事はまことに重大であります。
そこで総理に伺いますが、竹下大蔵大臣は、一般消費税は国会決議との関係でだめだが、名前や仕組みを変えれば大型間接税も認められるという解釈を示していますが、これはとんでもないことです。そこで、総理もこういう考え方と同じなのか、それとも中曽根内閣としては将来にわたって大型間接税の導入はしないということを約束できますか、どうですか、この点についてもはっきりと答えていただきたいと思います。
軍備をどんどん拡張し、軍事予算を優先させて、経済やそしてまた国民の生活が安定するなどということは、古今東西その例を見ないのであります。私は、重ねて総理が、軍事費を削って暮らしと福祉、教育の充実をという国民の声にこたえることを強く望むものであります。(拍手)
次は、政治倫理、金権腐敗政治の一掃の問題についてただしていきたいと思います。
戦後最大の疑獄、ロッキード事件が発覚してからすでに七年、元総理田中角榮君を中心とするこの事件で、わが党は、訪米調査団の派遣を初め、わが国政治の浄化のために党独自の調査を系統的にやってまいりました。そして、関係者の政治的道義的責任をも追及してまいりました。そして、田中君がアメリカのロッキード社から巨額の資金を受け取り、時の政権を支配し、航空行政や自衛隊機購入の方針などでこれらの企業の利益を図った事実とその政治的犯罪性は、裁判の結果を待つまでもなく明白であることを指摘してまいりました。
一昨日田中被告人に対して検察側が行った論告求刑は、わが党の調査と主張の正しさを裏づけたものでもあります。そして、現に自民党、財界に対し、抜きがたい影響力を駆使している田中被告人に対する求刑の持っている意味はきわめて重大であります。
しかもこの事件は、過去の犯罪の解明にとどまらず、現にいま、ロッキードの賄賂工作を背景にして田中内閣のとき導入を決定したあのP3C対潜哨戒機が、今日、日本をアメリカの不沈空母とする主要な柱の一つとして大量の導入が進められているという事態はまさに重大と言うほかありません。だからこそ、わが党は六年前、田中議員の起訴段階から田中角榮議員の議員辞職を要求してきたのであります。私は今日、この国会が国民の前に公約をしてきたところの政治的道義的責任を果たすためにも、国会の名において田中角榮議員に議員辞職の勧告を行うべきことを改めてここに提起するものであります。(拍手)
この辞職勧告要求に対してどのような態度をとるか、それはそれぞれの党派はもちろんのこと、議員一人一人の政治姿勢、その良心にかかわる問題であります。天下周知のように、総理は田中軍団の支持を得て今日の座に着いております。したがって、問われているのは、田中議員のみならず、中曽根総理自身の政治姿勢にもかかわる問題であります。あなたが田中議員の議員辞職要求にどういう態度をとるか、それは田中議員本人の自由意思などという問題ではありません。総理自身、反対なのか賛成なのか、あいまいさを残さずに明確に答えていただきたいと思います。(拍手)
総理、私はここで秦野法務大臣の指揮権発動に関する発言について、内閣の責任者としての総理に伺います。
法相が指揮権発動するのではないかという懸念は依然として強く国民の中に残されていますが、報道によれば、一昨日、かつてのあの造船疑獄事件で当時の自民党佐藤榮作幹事長の逮捕を妨害した時の法務大臣犬養法相の指揮権発動を正当化し、悪であったかどうかわからない、法相が辞任したのはまずかったなどの重大発言をしております。中曽根総理、あなたはこの発言をどう考えますか、秦野法務大臣の発言を弁護されますか、はっきりと答えていただきたいと思います。(拍手)
さらに私は、金権腐敗政治の根絶のためにまず手をつけなければならないのは、企業、団体からの政治献金の禁止、そうして政治献金は個人に限るということを改めて提起をいたします。総理はこれを断行するかどうか、決意のほどを承っておきたいと思います。
最後に私は、総理の言われるところの戦後史の大きな転換点ということについて触れたいと思います。
いま中曽根内閣のもとで、国民の前には、戦争と反動、国民生活の圧迫と腐敗政治の道か、それとも、平和と民主主義、国民生活の擁護と清潔な政治の道か、この二つの道の対決がすべての分野で鋭く提起をされています。そのときに、国民の平和の願いに挑戦するいわゆる中曽根軍拡、そしてまた生活擁護と民主政治の制度を次々に破壊していくところの中曽根行革、田中軍団直結と言われる中曽根直角政治、この軍拡、行革、直角政治の強行と憲法の改悪、これが総理の言うところの戦後政治の大転換であります。
いま、わが国にとって必要なことは、このような転換ではありません。戦後政治の原点である現憲法の平和的、民主的条項の完全実施ではありませんか。中曽根総理による憲法改悪、戦争への道、歴史の逆転を断じて許してはなりません。(拍手)
かつてあの十五年戦争の際、国会のこの演壇は、国民に耐乏生活を強要し、自由と民主主義を弾圧し、国民をあの侵略戦争に動員する演壇として使われたのであります。われわれは、いまそれを想起して、歴史の苦い教訓に学んで、この演壇を再び軍拡と戦争、国民生活圧迫の演壇に断じてしてはならないのであります。(拍手)
わが国憲法がその前文で明記しているところの、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう決意し、ここに主権が国民に存することを決意し、この憲法を確立するとの原点に立って、これに反する一切の逆流を国民の総意によって退けることは、われわれに課せられている崇高な責務であります。
私は、憲法改悪のあらゆる企てに反対し、日米安保条約の廃棄、非核・非同盟・中立の日本を目指す日本共産党の決意を表明して、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#11
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 金子書記局長の御質問にお答えをいたします。まず第一に、アメリカにおける発言の問題でございますが、私がワシントン・ポストの朝飯会で話しましたのは、日本防衛の基本的な方針について、まず話しました。まず防空、この防空の話をしますときに、不沈空母という言葉が出たのでございまして、外国機、侵略機の浸透を許さない。それから、本土防衛、本土防衛の中には、万一の際には海峡のコントロールも含む。次に海域、海域については周辺数百海里。それからもし航路帯を設けるという場合には南東及び南西の二航路帯について検討する、この航路帯の問題については日米で近く共同に作業、勉強を開始する、こういうことを言ったのでございまして、その内容につきましては、いままでこの議場で御説明申し上げたとおりで、いままでの、憲法を守り、専守防衛の枠の中で非核三原則を守って、軍事大国にならずに他国に脅威を与えるようなことはしない、そういう従来の線の中で申し上げているということを御理解いただきたいと思います。
それから運命共同体という御質問がございましたが、これも申し上げましたとおりでございまして、個別的自衛権の範囲内の話であり、集団的自衛権に参加しようということは憲法が許さない、こう私は申し上げておるのであります。
運命共同体という言葉は、日本とアメリカの関係が、自由、民主主義という理念において同じ価値を分かち合い、また文化や経済の膨大な交流で相互依存関係があり、かつ安保条約を通じて防衛関係でかたく結びついておる等々のこの深い連帯関係をもって運命を分かち合う関係にある、そういう意味で運命共同体ということを申し上げたのでありまして、集団的自衛権の中に没入しようとか埋没しようという考えは毛頭ないのであるということを明らかにいたしておきます。
日韓関係について御質問がございましたが、この新たなる次元とは何ぞやという御質問でございました。
私から申し上ぐれば、初めて私が公式に韓国を日本の総理大臣として訪問さしていただいた、ソウルの地に韓国の軍楽隊が日本の国歌を吹奏してくれた、あるいは日章旗を立ててくれた。これは終戦後初めてのことでございます。これは全く新しい次元とも言えるでしょう。そういう意味において、いままでなかったような友好親善の関係に日韓関係は上昇したと私は思うのであります。しかし、先般来申し上げますように、日韓関係に日米韓を通ずる軍事同盟のような、そういう関係はありません。これは前から申し上げておるところでございます。
次に、日韓関係の経済協力の問題でございますが、わが国の外国経済協力は財政法等に基づきまして毎年毎年積み上げていくものであります。長期の数字を確定的に予約する、外交文書で予約するということはできない関係になっておる。このことも先方によく申し上げて、大体四十億ドルを見当に、それを目標にお互いに将来やり合おうというような一方的な、われわれはそう言い、向こうはそれを聞く、そういうような様子で話し合いがあった。そういうことでございまして、一年一年われわれは財政法に従って話し合いをしていく、こういうことで話をしたということを申し上げる次第でございます。
次に、核兵器の不使用の問題でございますが、核が二度と使用されないようにするために核軍縮措置を着実に積み重ねていくということは大事なことであります。しかし、これを行うためにはやはり具体的な安心できる検証措置を伴ったそのような着実な保障措置が含まれることが望ましいのであります。一方的に演説で不使用と言ったところで、果たしていざというときに使用されるかどうかはなはだ危険な状態にあります。したがって、本当の意味の軍縮というものは、お互いが現場へ行って検認し合って安心し合うというところまでいかなければ安心できない状況でしょう。そういう着実な核軍縮という方向へ進めていかなければならないと考えております。
昨年の核不使用国連決議につきましては、核兵器の削減等の具体的軍縮措置のない限り実効性を欠き、国際的な安全保障上問題があるが、軍縮委員会で検討することには応ずべきであると考えて棄権をした次第でございます。
わが国としては、米ソ間の核軍縮交渉、核実験全面禁止等の核軍縮の進展を図ることにより、核の惨禍が繰り返されないように今後とも努力していくつもりでございます。
核の持ち込みにつきましては、非核三原則を厳守するということは不変でございます。
なお、わが国に対して米国の核兵器が持ち込まれているようなことはあり得ません。したがって、核基地部隊を撤去するという問題の生じる余地はないのであります。
次に、非核地帯の設置の問題でございますが、遺憾ながらそのための現実的条件が整っているとは思ってはおりません。しかし、一般的構想としてそのような考え方は十分理解できるところでありまして、今後、適切な具体的条件が整えられるということを希望しておる次第でございます。
次に、財政改革の問題でございますが、目下の急務は、財政改革を通じて財政の対応力の回復を図ることが将来のわが国の経済発展と国民生活安定の基礎になると考えております。
膨大な国債を抱えておりますけれども、外国の場合は、国債を出さないで重税でいきました。この重税の結果、いまのような失業を生み、不況を呼んでおるわけです。わが国の場合は、そのかわりに公債を使いました。その結果、政府はいま公債に悩んでおりますけれども、外国に比べれば失業に悩む率は非常に軽く、景気も外国から見ればまだまだいいという状態にあるわけです。どちらを選ぶか。私は、日本のやり方は賢明であったと思います。しかし、いまここでとの公債の処理に悩んでおるのでございまして、この公債の処理を適切にやっていくということで財政の緊縮を図り、その第一歩を踏み出したということを国民の御協力をいただきたく申し上げておる次第なのであります。
臨時行政調査会の行っておりまする行革は、明るい日本の未来を開くために新しい政府がどうあるべきか、行政がどうあるべきかというところをいま検討して改革案をつくっていただいておるのでございまして、この臨時行政調査会の意図と作業は、国民一般から深く信用され、支持されておるところであります。したがいまして、臨調答申を尊重して私たちはこれを誠実に実行していきたいと考えておる次第でございます。
所得税減税については、先ほど申し上げたとおりでございまして、残念ながらことしは行うことができません。現実問題といたしましても、税収による歳出のカバー率が六四・一%と、税の構成が日本の場合には非常に低くなっておるわけでございます。また、個人所得の所得税負担の割合も四・九%、昨年、五十六年度の数字は、そういうわけで国際的に見ればまだ低い水準であります。
以上のような点も踏まえ、昭和五十八年度においては所得税減税を見送ることはやむを得ない、こういうふうに税制調査会の答申にもございました。しかし、税調答申にも、昭和五十九年度以降できるだけ早期に、税制全体の見直しを行う中で、課税最低限や税率構造等について根本的な検討を行う必要があるとは指摘されておるのでございまして、これらは検討する必要があると思っております。
金子議員からいろいろ、私らの立場から見ると耳寄りな話が大分聞かされておりますが、財源はないかという話に対して財源は防衛費を削れとかいろいろなお話がありましたが、およそ非現実的な話ではないかと私は考えております。
農産物の貿易問題、牛肉、オレンジの自由化の問題について御質問がありましたが、これらにつきましては、関係国との友好関係に留意しつつ国内農産物の需給動向等を踏まえ、食糧の安定供給の上で重要な役割りを果たしているわが国農業の健全な発展と調和のとれた形で行われることは基本的に重要であり、今回の日米協議におきましても、これは現在はできないということをはっきり言ってまいりまして、引き続いて米国側と協議をしていく、こういうことにした次第でございます。
防衛費一兆円以上削減せよというお考えでございますけれども、わが国の防衛は憲法の範囲内において自衛のために必要最小限の限度で行っており、NATOやアメリカから見ても、防衛努力は日本は少ないと指摘されるような情勢でもあるわけであります。
およそ独立国においては、自分の国は自分で守るべきものであります。その守りを怠るということは、国際的に見れば批判されるのはやむを得ないところであります。そういう意味において、自分の国ぐらいは自分で守ったらどうかと私は申し上げたいのであります。(拍手、発言する者あり)
次に、技術開発に関して御質問がございましたが、これは先端技術その他の重要な技術につきまして、政府は、民間企業が構成している公益法人や研究組合等に補助金等を交付して奨励しておる。特定企業を支援しているというような考えではございません。
先端技術の開発は非常に長期的な時間を要する、あるいは非常に危険なかけの要素もある、危険負担の部分もある、しかし、国全体としては非常に大きく裨益する点も出てくる。そういう意味におきまして助成、推進策を講じておるものであります。もっともこれらの補助金につきましても、今回の予算につきましては若干の引き下げ、削減等をやったところでございます。
それから、新東京国際空港の駅の問題でございますが、成田の場合は非常に離れておるものでございますからやはり駅が必要であると考えておったわけでございます。この地下駅は、良好なアクセス構想の一環として必要なのであり、有効に活用できる施設であると考えております。
入札合理化対策につきましては、現在中央建設業審議会で検討が行われており、その結論が得られ次第改善措置を講ずる考え方でおります。
それから、間接税の問題でございますが、財政の対応力を回復して今後の事態に備えるというのが財政改革の基本目標であると申し上げましたが、その場合、受益と負担の関係や直接税と間接税とのバランスをどうするか等の問題は、究極的には国民の合意と選択にゆだねらるべき問題である。いわゆる一般消費税を導入する考えはありません。
次に、議員辞職決議の問題を御提起になりました。この問題は、先般来申し上げますように、国会議員の身分に関する重要な問題でありまして、これが提出された場合には各党間で慎重に協議さるべき問題であると思います。
さらに、秦野法相の発言について御質問がありましたが、これは、近代裁判や指揮権の問題について、物の考え方、思考の論理を述べたものでありまして、裁判や検察批判の発言をしたものではないと考えております。
企業の政治献金禁止の問題につきましては、これは、選挙制度のあり方、政党活動のあり方等とも非常に関係がある問題でございます。したがって、各党間で十分論議を尽くして、合意を形成すべき問題であると考えております。
なお、憲法の問題あるいは私の政治姿勢についていろいろ御批判をいただきましたが、私は、いつまでも民主社会においてはよりよき制度を目指して、よりよき社会を目指して、限りなき前進を目指して進む、これがやはり民主社会のあり方であると思っています。われわれは自由民主主義を奉じておるものでございまして、右や左の独裁主義については断固として反対するものであります。(拍手)
─────────────
#12
○副議長(岡田春夫君) 河野洋平君。〔河野洋平君登壇〕
#13
○河野洋平君 私は、新自由クラブ・民主連合を代表して、総理の基本的な政治姿勢を中心にお伺いをいたします。総理、先ほど来、先輩、同僚議員に対する総理大臣の答弁の中で、私にはどうも納得ができない、気になる点が二点ございます。最初に、その点をまず申し上げたいと思います。
総理は、議員のときの発言と大臣になってからの発言は、立場が違うから、異なることがあってもそれはやむを得ないのだ、こういうふうに答弁をなさいました。
私は、少し詰めてお尋ねをいたしたいと思います。
総理、あなたが自民党の総裁選挙において総裁選の候補者として発言をした発言と、その後、当選をして総理大臣になってからの発言と異なっても、それはやむを得ないのか、やむを得なくないのか。その点ははっきりしていただきたい。一議員としての発言と大臣になってからの発言が違うのはやむを得ない、何となくそう言い切ってしまって、それでいいと思っておられるかもしれないけれども、自民党の総裁選挙に出て総裁になり、総理になる、そういうつもりで候補者として発言をしている、あるいは候補者である中曽根康弘氏の発言が、その結果総理になって行っている発言と食い違うというのであれば、これは問題ではないのか。候補者として発言をした、国会議員に当選をした、当選してしまえば、候補者時代の発言と違うのはやむを得ない、こんなことでまかり通るとは私には思えない。どうぞひとつ、その点は明快にお答えをいただきたい。
あなたは、自民党総裁選の際に、憲法九条は現実に即して正確に規定しなければならない、そう述べているじゃありませんか。先ほどの春日議員の質問に対するあなたの御答弁とは――私は、あの答弁をそのまま納得して聞くわけにはいかない。どうぞ、もう一度御答弁がいただけたら大変ありがたいと思います。
さらに、もう一点お尋ねをいたします。非核三原則についてでございます。
非核三原則は、総理はただ、これを厳守するとだけおっしゃる。私には少し心配だ。武器輸出禁止三原則、国会の決議、これを守るんだ、守るんだと言いながら、アメリカに対しては、運命共同体だから、日米安保条約が存在するから、武器輸出禁止三原則は守っていくけれどもこれだけはいいのだという総理の御答弁が、もしそのまま通用するのであれば、非核三原則についても、運命共同体であるから、日米安保条約があるから、アメリカの艦船だけは別だという論理につながってしまうのではないのか、そういう心配があるから、私は、総理からこの際、そうではないと明確にこの壇上から言っていただきたい。この二点をまず申し上げたいと思います。(拍手)
総理は就任以来二カ月足らずの間に、国会決議に触れる軍事技術の対米供与、突出した防衛予算の編成、四十億ドルに上る不透明な対韓援助、これはいずれもみずからの主導権でお決めになりました。日本の進路の基軸にかかわるこうした問題を、まだ国民の信任を直接得ていない現内閣が強引に転換しようとしている、そんなふうに私には見えるのです。この世界不況、厳しい貿易摩擦、東西両陣営のとどまるところを知らない軍拡競争の中で、総理が日本民族をどこへ連れていこうとしているのか、私たちは少なからぬ危惧の念を抱かざるを得ないのであります。責任ある実行を掲げられる総理の政治理念、理想像がもう一つはっきりしないからであります。
一体総理は、戦後のわが国を心底どう見ておられるのでありましょうか。あの敗戦の衝撃と虚脱状態から脱け出したときに、多くの国民の心の中に沸き上がってきたものは、民族の犯した過ちを二度と繰り返してはならないという強い自責の念と、真に平和を願う心情ではなかったのでしょうか。だからこそ、世界に類を見ない平和憲法を国民が進んで受け入れて、三十年余も定着させてきたのではないでしょうか。ところが、総理の場合は、無謀な戦争に突っ走って悲惨な結果を招いたという反省よりも、戦争に負けたくやしさの方が、その後の政治行動の原点になっているように見えて仕方がないのです。それが占領期間中の黒いネクタイであり、日米安保条約批准国会の欠席などに示されたのではないのでしょうか。
そこで、明確にお答えをいただきたいと思います。
総理は、憲法を初めとする戦後日本の枠組みと進路を基本的に好ましいと認識されているのか、弊害の目立つ体制と見ておられるのでしょうか。私たちは、あなたが機会あるごとに、戦後の運命を決する重大な時期であるとか、戦後政治の総決算などと説かれる、説かれるからには、中曽根政治の基軸をなす時代認識をまずここで国民の前に明らかにするのが政治家として当然の義務だと考えます。御答弁をお願いをいたします。
次に、外交についてお伺いをいたします。
わが国の経済は、自由世界第二位、世界総生産の一割を占めるに至りました。かつてのようにひたすら国内の経済発展に専念すればよかった時代とは異なって、経済力に見合った国際的責任が強く問わています。ところが総理は、アメリカの要請もあって、防衛力の強化でこれにこたえようとしておられます。安保絡みが懸念される日韓関係や、防衛費の突出だけでなく、アメリカ訪問の際に、バックファイアの侵入阻止や四海峡封鎖を語られた事実が、軍事力重視の基本姿勢を雄弁に物語っています。自国の領域は、他国の手を煩わせず、なるべく自力で守る気概はいいとしても、それは力の信奉、つまり防衛力の増強だけで達成されるのでしょうか。核の傘に対する懐疑も、欧州への中距離核ミサイル配備の問題でクローズアップされたばかりです。わが国が、国民の生命と財産を究極的に守ろうとするなら、現実には、米ソの核戦争が起きないようにする努力が最善の道であります。
総理は、「世界の平和と安全は、核兵器を含む力の均衡によって維持されている」と述べられました。現在の米ソの軍備の状況は、お互いの攻撃を思いとどまらせるのに必要な水準をすでにはるかに超えているのではないでしょうか。したがって、もし総理が軍縮の推進を真に念願されるならば、今後は、常に軍事力が縮小均衡の方向に推移するように行動していただかなければなりません。あちらがふやしたからこちらもふやすという姿勢をとり続ける限り、軍備競争はとどまるところを知らないでしょう。そのために、私たちは、ソ連の、ミサイルSS20の極東への移動に強く反対しなければなりません。同時に、アメリカのF16戦闘爆撃機の三沢基地配備や巡航ミサイル・トマホークの太平洋艦隊配備をも認めるべきではないと考えるのですが、総理の御所見はいかがでしょうか。(拍手)
すでに全世界の軍事費は年間百五十兆円にも達しており、米ソ両大国にも重荷になっております。全人類を十回以上も殺せる狂気の備蓄が、経済の停滞、不況につながっていることを疑う人は、いまやないでしょう。国際社会で日本の果たすべき役割りは、求められるままにアメリカの対ソ戦略に加担することなどではなくて、軍縮を追求し、世界経済に活力を呼び戻し、東西のデタントに資することではないでしょうか。
ところが、総理は、今回の訪米で、私たちの希望と全く逆の道を歩まれたのではないかと疑わざるを得ないのです。不沈空母を初めとする総理のアメリカでの一連の発言が、ソ連やアジア諸国を刺激して、日本をめぐる国際緊張が高まったことに多くの国民が心配をしているのを御存じでしょうか。戦後、わが国の総理が、公の場でこれほど露骨に特定の国を仮想敵国扱いした例はあったでしょうか。
外交の成功とは、日本と世界を平和により近づけることができた、そう確信できるときに初めて口にする言葉だと私は思います。今回の訪米で高まった国際緊張を解きほぐすためにも、せめてあなたが招請されたレーガン大統領の来日される機会をとらえて、パルメ委員会の提案に沿って、人類初の被爆地広島を案内されて、軍縮と緊張緩和について一層の理解を求めるお考えはないか、お尋ねをいたします。(拍手)
他方、わが国は、世界貿易の一三・二%を占めて、資源と農産物では指折りの輸入大国であります。しかし、その輸入の背後には、地球規模で進む森林破壊と砂漠化があることを知らなければなりません。かけがえのない地球の緑、森林は毎年、日本の広さの半分ほどが姿を消し、砂漠が九州と四国をすっぽりのみ込む広さでじわじわと広がっています。このままいきますと、今世紀中に動植物の豊庫である熱帯樹林は半減し、農地も砂漠化して、三分の一が失われると言われております。人類が節度を見失い、消費文化と軍拡に狂奔している間に、その生存基盤は確実にむしばまれているのです。いまこそ先進諸国は、他国に軍隊を送って力と抑圧の覇権を競うのではなく、地球の緑を守る技術と資金と奉仕で途上国を潤す緑の覇権をこそ競うべきだと考えますが、総理の御所見はいかがでしょうか。(拍手)
昨年六月、ロンドンで開かれた環境問題国際公聴会において、ケニアの代表は、樹林の乱伐を防ぐ世界森林保護条約の制定を緊急提案いたしました。地球の緑を守るために、途上国がOPEC並みに一致して木材価格を適正な水準に上げ、乱伐を避けようというねらいは、途上国側の賛成意見が相次いだと言われています。木材の七〇%を輸入に頼っているわが国が、手をこまねいていていいはずがありません。そうした危機意識と使命感から、昨年、東京でも民間団体の緑の地球防衛基金が発足したのを総理は御存じだと思います。そこで、この種の運動を政府として積極的に支援するお気持ちはないか、お尋ねをいたしておきます。緑の環境を保全して次の世代に引き継ぐ事業に協力することこそ、日本が果たすべき責務であり、国際社会で生きていく道ではないかと考えるからであります。
財政逼迫下とはいえ、来年度の開発援助予算が八・九%増にとどまり、新中期計画の達成が危ぶまれる事態になったのは問題にしなければなりません。この新中期計画は、六十年度までに実施額の倍増を目標にしており、サミットや南北サミットでわが国が、国際協力のシンボルとして世界に公約してきた計画であります。その達成に早くも赤信号がともったとなれば、国際的な風当たりはなお一層強まるばかりでありましょう。この際増額を検討するとともに、相手国の民意に真に沿うよう、援助の方法を見直すお考えはないか、お尋ねいたします。
次に、減税問題についてお伺いをいたします。
来年度予算案には、幾つかの重要な問題があります。すでに申し上げました防衛費の異常な突出や行政改革の不徹底、景気への配慮の不足などがそれであります。
中でも課税最低限の六年連続据え置きがもたらした課税の不公平の拡大は、見逃すことができない大きな問題であります。五十八年度税収の自然増全体に占める所得税の割合は五六・七%となり、その八割は、サラリーマンを中心とする源泉所得税であります。民主政治の基本の一つは公平であると思います。特に、課税の不公平は直接家計に響く問題として国民の不満はきわめて強く、特に給与所得者は不公平を切実に感じております。税の不公平を放置することは、政治の責任放棄であり、国民の政治不信を増大させる一因でもあると思うのです。この意味からも、所得税減税の実施は、財政の事情に優先する緊急な課題とは言えないでしょうか。(拍手)総理は所得税減税をどのようにお考えになるか、お伺いをいたしておきます。
次に、行政改革について伺います。
行政改革の本旨は、社会の進歩につれて変化する行政需要に柔軟に対応できる効率的な行政機構へといかに脱皮するかであり、中央と地方の行政権限、財源の再配分も大きな眼目であるはずであります。地域の開発、快適な生活環境づくりは、地域の創意工夫にゆだねて、国税と地方税の区分を再検討し、地方行政を原則として自主財源で裏打ちする制度が必要だと思います。地方財政に対する国の役割りは、自治体間の財政力のアンバランスを調整する平衡交付金的な機能にしぼって、補助金を極力なくすのが改革の基本方向でなければなりません。(拍手)三割自治の悲哀を追放し、地方の時代にふさわしく、中央政府と自治体のバランスのとれた体制を目指すべきだと考えるのですが、まず、総理の基本的な御見解をお尋ねをいたしておきます。
〔副議長退席、議長着席〕
素朴な質問があります。
国民が常日ごろ不満を感じているのは、官民の格差です。国民の目には、強大な許認可権を手にして、官舎を初めとする福利厚生施設に恵まれて、気の遠くなりそうな退職金があって、有利な年金があって、叙勲のときには圧倒的に待遇がいい、まさに官僚の世界は庶民とはかけ離れたものだ、そんなふうに映っております。総理は、この庶民感覚についてどうお考えになりますか、御認識をお答えいただきたいと思います。
情報公開について伺います。
中央と地方を通じ、四百万人近い公務員が収集する膨大な情報を行政だけが活用しているということに、国民は割り切れなさを感じています。本来、こうした情報は、広く主権者たる国民にもできるだけ公開し、活用できるようにすべきだと思います。これが原則でなくてはなりません。その点、伝えられる第二次臨調の最終答申はやや消極的な内容だと言われておりますが、この情報公開について総理はどう対処されようとしているのか、お聞かせを願います。
鈴木前内閣当時、行革三昧を広言しておられた総理は、鈴木内閣の継承を言いながらも、事実上、五十九年度赤字国債ゼロの旗をおろしてしまわれました。そして、施政方針演説に見る限り、行革についても、具体的には国鉄、電電、専売公社の改革だけが語られておるのでございます。大赤字の国鉄は別としても、行政機関でもない公社を行革の主役に据えるのは、行政機構の統廃合、中央と地方の行政権限の見直し、補助金の抜本的改革といった行革の本流に手をつけられなかったことを糊塗するものだと言われても仕方がないのではありませんか。補助金の整理を初めとする歳出の合理化もできないで、不公平税制の是正も行わないとするならば、財政の再建は大増税によって果たそうとしているとしか思えません。この点について、総理の明快なお答えをお願いをいたしておきます。(拍手)
行政改革は、やはり政治に直接責任を持つ者が率先して取り組むべきではないでしょうか。国会議員が、まず定数是正であるとか、あるいは国鉄パスなどの特権返上に踏み切って、国民と痛みを分かち合う姿勢がこの際必要と考えますが、あわせて総理の御見解をお伺いをしておきます。
次に、わが党が立党以来基本政策の一つとして掲げております教育政策についてお伺いをいたします。
教育現場の荒廃については、受験偏重教育が大きな原因の一つであることは紛れもありません。入試制度の改革こそ、教育環境正常化にとってきわめて重要な課題の一つであります。そこで、学校教育の最後の関門になる大学入試、それも五年目を迎えて、過日行われたばかりの共通一次試験についてお伺いをいたします。
共通一次が最大のねらいとしたのは、受験競争の緩和であり、それによる高校教育の正常化であり、二期校コンプレックスの解消であり、難問奇問の追放などでありました。結果はどうでしょう。二期校コンプレックスの解消どころか、受験産業の出す自己採点方式が威力を発揮して、全国百二十八国公立大学に完全な序列ができ上がってしまいました。入りたい大学より入れる大学へ、コンピューターのお告げだけで、目的意識のはっきりしない入学、無気力な大学生の誕生と、青春をゆがめやすい構図ができ上がってしまったのです。
しかも、国会決議や文部省のガイドラインが生かされない、二次試験の配点比重を高める大学が相次いだ結果、受験生の負担は少しも軽減されておりません。この事態を改めるには当初のねらいどおり、共通一次は、高校学習の成果が一定のレベルに達しているかどうかを見る資格試験的性格に徹して、各大学が二、三教科の二次試験で入学者の選抜をする方向に持っていくしかないと考えますが、文部大臣の御所見をお願いいたします。
共通一次の資格試験化がすぐにはむずかしいと言うのなら、とりあえず試験科目を五教科七科目から、せめて五教科五科目に減らすなどという問題、及び私立大学の参加を求めるためにも特定の科目を指定して受験することができる、いわゆるアラカルト方式の採用などを検討されるおつもりはないか、お尋ねをいたします。
ところで、総理の言われる「たくましい文化と福祉」論は、私たちにとりましてはきわめて難解であります。文部大臣は、一体これをどう理解しておられるのでしょうか。総理だけの判断で「たくましい文化」論だけがまかり通ってしまってはならないと思います。文部大臣は、現在の日本の文化がたくましいと思っているのか、たくましいと思っていないのか、あるいはことさらに「たくましい文化」論をいま提起しなければならないような状況なのか、日本文化への文部大臣の御認識をお答えをいただきたいと思います。
最後に、政治倫理についてお伺いをいたします。
ロッキード事件に見る政界の現況は、茶の間の常識が全く通用しないままに経過してきております。受託収賄罪に問われ、この二十六日に懲役五年・追徴金五億円を求刑された人物が、事件から七年たっても政権党へ陰に陽に影響力を持ち続け、衆議院の解散の時期であるとか内閣の命運を公言してはばからないという現状は、異常と言うほかはないではありませんか。
政治的には中立であるべき官僚が、元総理大臣とはいえ、求刑目前の刑事被告人の新年会に大挙列席して平然としているのは、まさに官界の節度が地に落ちたと言わなければなりません。(拍手)国民の不信を招かぬ行政をと述べておられる総理大臣は、昨今のこうした許しがたい事態をどう見ておられるのか、まずお伺いをいたしておきます。
総理は、民主主義にタブーがあってはならないと述べておられます。しかし、総理には、多くの国民からすれば許しがたいタブーがあなたにはあるのじゃありませんか。(拍手)田中元総理の内閣への影響力を語ること、政治倫理について語ること、それはあなたにとってタブーではないのですか。(拍手)あなたが倫理観をお持ちなら、まずあなたの派閥に属し、すでに有罪判決を受けている佐藤孝行議員に対して直接辞職を勧めること、さらに内閣総理大臣のいすを汚し、国民の政治に対する信頼を著しく傷つけた田中元首相に対しても同様の行動をとるべきだと思いますが、いかがですか。(拍手)政治にとって、いまほど国民の信頼と協力が必要なときはないと思います。
ここで私は、中曽根総理を初め自民党の議員の皆さんにも聞いていただきたいことがあります。政治が自浄力を発揮する上で一番大事なことは、権力者が不祥事を起こしたときに、与党の議員が党利党略を離れて、良識と信念に従って行動することだ、こういうことであります。(拍手)私たちはその実例を、ウオーターゲート事件におけるアメリカ議会の対応に見ることができます。
総理、あなたがおっしゃる運命共同体、自由主義、民主主義、ともに共通の理念を分かち合っているというアメリカにおいては、ニクソン氏を支える共和党の重鎮であり、七二年の大統領選挙ではニクソン指名の賛成演説を行ったバックレー上院議員が、七四年三月十九日、ニクソン辞任を求めて記者発表をした声明をいま思い起こすべきだと私は思います。(拍手)彼はこの声明で、ニクソン氏の友人として、また共和党の党員としての悲しみと、マスコミや政敵へのくやしさをも込めつつ、祖国と選挙民のためにみずからの信念を明確にしなければならないときが来たと真情を吐露しました。
ウォーターゲート事件は、政治的対立や政策上の問題とは次元を異にしており、権威への倫理的不信感から来る政治体制そのものの危機であると彼は強調し、(拍手)名誉ある大統領職を傷つけ政治の荒廃を招くものであると断じて、弾劾よりも自発的辞任こそが、政治危機を救い国家を泥沼から浮かび上がらせる唯一の道であると彼は訴えています。(拍手)
今国会には、田中、佐藤両議員の辞職勧告が提案され、審議されるはずであります。ぬぐいがたい疑惑を受けた議員に私情を抑えて辞職を勧告するのは、そうした人たちが大手を振ってまかり通る政界であることを同じ国会議員として認めるのか認めないのか、(「議長、時間だ」と呼ぶ者あり)そのけじめを……
#14
○議長(福田一君) 河野君、申し合わせの時間が過ぎましたから、なるべく簡単に願います。#15
○河野洋平君(続) 国民の前に明らかにする厳粛な機会であるはずであります。この問題は、私を含め議員一人一人の倫理が問われています。総理が、この問題にあくまでもほおかぶりをして、数の力で国会を押し切ろうとされるならば、せめて民主主義国家の総理として最後の責任だけは果たしていただきたいと思います。それはあなたの政治理念と姿勢を民意に問うという民主主義の基本原則であります。そうでなければ、大方の国民は日本の政治に絶望するしかないということを申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
#16
○内閣総理大臣(中曽根康弘君) 先ほど金子書記局長の御答弁の中で答弁漏れがありましたので、御答弁申し上げます。まず、わが国産業の軍事化という点でございます。
対米武器技術供与については、防衛分野における日米間の技術の相互交流を図ることが日米安保体制の効果的運用を確保する上で重要となっていることにかんがみ、かかる相互交流の一環として供与する道を開いたものであります。政府としては、今後とも基本的には武器輸出三原則等を堅持していく考えでございます。したがって、日米でわが国産業の軍事化を進めるという御指摘は当たりません。
また、御指摘の国会決議は、武器輸出について厳正かつ慎重な態度をもって対処するということを言っているものでありまして、政府としては、同国会決議が、武器輸出三原則等について、わが国自身の平和と安全を確保するために必要不可欠な基盤をなす日米安保体制の効果的運用のために必要な調整をも禁じたものとは考えておりません。したがって、政府としては、今回の決定は国会決議に反するものとは考えておりません。そして、政府としては、今後とも国会決議の趣旨を尊重していく考え方でございます。
次に、憲法第九条との関係でございますが、憲法第九条はわが国自体の戦争の放棄や戦力の不保持等について規定したものであり、武器の輸出や武器技術の対外提供を禁止する旨定めたものではありません。したがって、米国との防衛分野における技術の相互交流の一環としての対米武器技術供与に道を開くこととした今回の決定は、憲法第九条に抵触するものではないと考えます。これは、従来から政府がとってきている考え方を何ら変更するものではございません。
次に、中小企業への官公需の発注の問題でございますが、官公需については、従来から中小企業者の受注機会の増大に最大限の努力をしております。本年度の国の契約の方針におきましても、中小企業向け契約目標を金額で三兆九千百八十億円、比率で三七・二%としております。これは金額、比率とも過去最高の水準でございます。政府としては、今後とも中小企業者の受注機会の増大に最大限努力してまいるつもりでございます。
以上でございます。
次に、河野議員の御質問にお答えをいたしたいと思います。
まず第一に、議員と大臣との立場における発言の相違という点をお尋ねになりました。
これは、前から申し上げますように、議員と大臣とは立場が違いまして、したがって、議員では言ってはいいけれども大臣では言ってはならない、そういう問題は多々政治的にもあり得ると考えておるわけであります。この辺は河野さんは篤と御存じのことと存じております。
次に、総裁公選のときに発言した内容の問題についてお話がございましたが、私は、総裁公選というのは政党の仕事でございまして、政党の党員に対する約束である、一般国民に対する約束とはちょっと性格が違う。(発言する者あり)しかも、政党の党員に対する約束ではありますけれども、しかし、これは大体党の政策綱領にのっとってやっておるものでございます。したがって、それらを今度は公的地位についた場合にどの程度実行していくか。緩急、順序、選択というものは、そのときの政治情勢に応じて行っていくべきものである、そういうふうに考えております。
「たくましい文化と福祉の国」を建設するという考え方は、私は先般から申し上げているとおりでございます。この考え方は、私は現在に即して正しい考え方であると考えております。
非核三原則につきましては、厳守すると申し上げておりまして、厳守すると言ったら厳守するのであります。(発言する者あり)
また、時局に対する認識について伺いました。私は先般来、戦後日本を支えて発足させた土台は、いまの日本国憲法、サンフランシスコの平和条約、それから日米安保条約という基礎の上に立ち上がったと申し上げまして、憲法についても、その歴史的役割りについては高く評価している点でございます。しかし、いかなる制度といえども完全なものはないのであって、常によりよきものへ改正をし、改革を求め、見直していくという態度はとるべきであると考えております。
現在の日本の立場からいたしますと、戦後三十八年目になりまして、やはり世界に向かって窓を開く日本、世界に向けて窓を開く日本という方向に一面においては国際的に持っていく。国内的におきましては、この三十八年の過去を振り返ってみまして、制度その他において改むべきものは改める、維持すべきものは維持する、そういうふうに取捨選択をすべき重大な段階に来ておる。特に、行財政改革の問題は新しい日本を発足させるための基礎工事であって、非常に重大な仕事であると考えておる次第でございます。
次に、安全保障政策の問題でございますが、現在の世界の平和が、まことに遺憾ながら抑止力によって維持される、力の均衡によって維持されているということは、現実としてこれは否定できない事実でございます。さればこそ、米ソ両国間等におきましても、核の抑止力、削減、SALT、そういうような形で努力を積み重ねておるわけです。現にパーシングIIとSS20の間の交渉が持たれている、こういう状況で、これは目を覆うわけにまいりません。
そういう厳しい事態をわれわれは正直に受け取りつつ、いかにわが国は平和国家として生き抜いていくかということを考えることは正しいと思います。そういうような事実を踏まえまして、日米安全保障体制を堅持する、そして憲法のもとに必要最小限の質の高い防衛力を整備する、そういう基本方針をとっておる次第でございます。
私の立場が何か軍拡ばかり言っているように思われていますが、(発言する者あり)これは私の演説をよく聞いていただけばわかるところでございまして、同じ飯を食い、一緒に生活したことのある河野さんはよく御存じであると確信しておる次第でございます。(拍手)政治は軍事だけではないのでありまして、政治に一番大事なことは文化と福祉の国をつくることだ、しかもたくましいものをつくることだ、こういうふうに感じておるわけであります。
それから、SS20とトマホークへの対応の問題を御質問になりました。ソ連が極東を含む全域においてSS20を展開しておる、こういう状況でありまして、わが国は従来、このSS20が極東方面についても配置されているということを聞きまして、中距離核戦力の撤廃をソ連に要請してきておるところであります。
最近のソ連指導者の発言にあるように、ソ連が極東に現存する中距離ミサイルに加えてさらに新たなミサイルを同地域に移転するという場合は、この地域の平和と安定を脅かすものであって、先日、ソ連側に対して強い遺憾の意を表明したところでございます。
米ソ間の核軍縮交渉は、今後とも息長く進められるということが望まれますが、米国の巡航ミサイルの太平洋艦隊への配備は、SS20のみならず、ソ連の核戦力を含む軍事力の一貫した増強という状況の中で、米国の有効な抑止力確保との観点よりとられる措置と考えておりまして、かかる措置については理解し得るところであります。
次に、軍縮とレーガン大統領の訪日について御質問がございました。
私は、先般の日米首脳会談におきましては、東西関係、経済問題あるいは日米相互関係の問題を話しましたが、ここでも御報告申し上げましたように、核軍縮につきましてレーガン大統領も非常に真剣な態度をとり、私も重ねて強くそれを要望してきたのでございます。私は、米国のゼロオプションの提案を支持するということを申し上げてまいりましたけれども、やはり中距離ミサイルの処理等についてもゼロオプションという形で一挙に全部なくしてしまう、そこへ持っていければ一番いい、中途半端なことをやるよりも、そこまでいけばなお結構だ。ただし、それには検証を行う、現場をお互いが見合ってそれを確認するという、そういう保障措置が必要でございましょう。そういうところまで一挙に進む方が私は適当であると考えておった次第であります。
レーガン大統領に対しましては訪日を要請いたしましたが、大統領も訪日を実現したい希望を持っておられるようでありましたが、日程や場所等は、外交チャンネルを通じ、先方の意見も聞いて決めなければならない問題でございます。
地球の緑について御質問がございました。これは非常に重大な、いい問題を提起していただいたと思っておりまして、私も賛成でございます。国連の機関あるいはそのほかの機関等も通じまして、こうした協力を積極的に進めてまいりたいと思います。
次に、政府開発援助の新中期目標についてお話がございましたが、われわれといたしましては、かねて自民党政府の公約に基づいて、この経済技術協力を一層拡充していく方針でございます。なかなか財政的には苦しい情勢にはございますけれども、この公約をぜひ実現するように今後とも努力してまいるつもりでございます。
所得税の減税について御質問がございましたが、これは先ほど申し上げましたような事情で、本年度はなかなかむずかしいということでございます。先ほども申し上げましたように、税のカバー率等を見ますというと、日本は世界的に見ても低い率にあります。そういう点からしても、また物価の安定ぐあい等からいたしましても、この際はぜひ忍んでいただきたい、こういうふうに考えておるところでございます。
景気対策についてもお触れになりましたが、所得税減税を行うとそれが景気対策になる、確かにそういう面はございます。しかし、その財源をどうするかという問題が起きてまいりまして、これは赤字公債や公債に求めるということは、また金融市場に大きな影響を持ってきて、金利を高くして不況の原因にもなる要素もございます。そういう点におきまして、やはり慎重に総合的に検討していかなければならぬところであると思います。
行政改革と地方行財政のあり方について御質問がございました。
地方自治の尊重及び国、地方を通ずる行政の簡素合理化の観点から、行政の仕組みを弾力的、効率的に変えていく必要、これは同感でございます。臨調答申を踏まえまして、これらの点については、特に努力してまいりたいと思う次第でございます。
あわせて、補助金の整理や国と地方との税源の配分、財源配分等の問題についても、十分検討していくべき課題であると思っております。
官民の格差について御指摘がございました。
官民の格差は、ある部分においてはまだ残っておるが、ある部分においてはなくなっておる。あるいはある部分においては官の方が低い水準にある。さまざまなでこぼこのラインを描いているのではないかと思っております。
給与等につきましても、給与改定を今度は見送りました。これは、公務員の皆さんには非常にお気の毒なことであったのでございますけれども、痛みを分かっていただいたのでございます。日本の公務員は、外国の公務員に比べますと、フランスと並んで非常に能率もいいし、また、必ずしも数は外国に比べて多いとは言えない数字にはなっております。しかし、民間の効率から見れば、公務員の効率はそれほど高くないし、むしろ低い。国鉄やそのほかの公社に至ってもそういうことが指摘されておるのでありまして、これらにつきましては、現実的に具体的に改革をしていく必要があると思っております。
情報公開の問題につきましては、私は、行政管理庁長官のときから前向きの姿勢をとっておりまして、いまでも同じでございます。答申を待ちまして、前向きに取り扱ってまいりたいと思っております。
三公社等の改革等につきましては、今度国会におきまして国鉄関係の法案を提出いたしましてお願いしておりますが、さらに電電や専売についても改革案をつくり、あるいはさらに公的年金の統合の問題、あるいは中央省庁の内部編成がえの問題、あるいは出先機関の問題、あるいは公務員制度の問題等々、さまざまな問題が臨調答申には最終的に出てくるのでございまして、それらの答申を受けた際によく検討いたしまして、最大限に尊重して、逐次実行していくつもりでございます。
また、「増税なき財政再建」というこの理念は、あくまで堅持して、努力してまいるつもりでございます。
国会議員の定数改正の問題は、各党の共通のルールづくりの問題でございますから、各党がよく協議して、合意して行うべきものである、このように考えております。
次に、議員の身分に関する問題について御質問がございました。
国会議員の辞職というような問題あるいは辞職勧告決議というような問題は、これは議員の身分に関する重大問題でございまして、国権の最高機関を構成している国会の機能というものを考えてみますと、これは慎重に行うべきものであると考えております。
ウォーターゲート事件におけるニクソン氏との比較をお話しになりましたが、これは国情が違うのでありまして、アメリカにおきましては、たとえば訴訟で取引が行われるというようなことがあります。日本の訴訟関係においては、取引を行うというようなことはありません。アメリカにおきましては、ごらんのように、これを言えば起訴はしないと、そういう約束で、起訴しないという条件で言わせるというような制度もあります。日本にはそういう制度はありません。つまり国情が違うのでありますから、アメリカの言うことを必ずしもまねする必要はないし、具体的に考えていかなければならない。(拍手、発言する者あり)しかし、政治の倫理性をわれわれ議員が心していかなければならぬという点は、これは共通の問題であると考えております。
解散は考えておりません。(拍手)
〔国務大臣瀬戸山三男君登壇〕
#17
○国務大臣(瀬戸山三男君) 私に対する御質問は二つありました。一つは、現在言われておりますように、まさに青少年の受験地獄みたいなことを言われておりますが、非常に私自身が心配しておりますが、いわゆる共通一次試験は、河野さん御存じのとおり、もう五回目が実施されました。それ相当の成果が上がっておるといいますけれども、しかし、現状を見ますると、もう少し五教科七科目というのを減らしたらどうかとか、あるいは一月の中旬というのは高校の三学期の勉強に支障があるからもう少し繰り下げたらどうかとか、あるいはさっきお話しのように、もう少し受験科目をアラカルト式に選択させたらどうかとか、いろいろな意見が出ておることを承知いたしております。
この受験地獄という状態を見ておりますと、これはいろいろな要素があると思います。先ほど「たくましい文化」という言葉をよく言われましたけれども、やはりたくましい文化を求めるという日本の国民性が非常に強いと私は思っております。そこに受験地獄があると思いますが、いずれにしてもこの問題は、御指摘のようなことがありますから、現在、国立大学協会あるいは文部省の入試研究会等で高校等の意見を聞いて、何とかうまい方法があるかということで検討中でありますから、検討が済みましたら進めていきたいと思います。
もう一点は、「たくましい文化」というこの問題は、もうすでに総理からお答えがありましたから御理解願ったと思いますが、「たくましい文化」というだけでは何か珍しい表現だなという感じがいたします。ただ、ごらんになればわかりますように、「たくましい文化と福祉の国」を建設することに努力したい、こういうことであります。たくましい文化だけで切りますと珍しい表現でありますけれども、しかし、「たくましい文化と福祉の国」をつくるということであれば、これは非常に味のある表現だと私は思います。その内容は詳細に総理から前に述べられております。所信表明演説の中をごらんになれば、いかにわが国を平和で物心両面にわたって豊かな国にするか、また、自分の国だけでなくて、国際的に人類の平和に貢献する日本の国をつくりたい、こういうことに尽きると思いますから、内容は細かく書いてありますから、ごらんいただきたいと思います。(拍手)
〔国務大臣梶木又三君登壇〕
#18
○国務大臣(梶木又三君) お尋ねの地球規模における環境問題、特に緑の問題でございますが、先ほど総理からも大事な問題だというお答えがございましたとおり、われわれも積極的に取り組むことは、大変重要な課題だ、こう考えておるわけでございまして、そういうことで、緑の地球防衛基金が昨年発足したわけでございますが、これに対しまして、昨年の十一月、発展途上国の森林破壊と砂漠化、これについて緑の地球防衛国際シンポジウムを開かれたということでございますが、大変意義深いと考えておりますし、そういうことで、環境庁としましても、同基金の活動に対しましては、専門的な見地から助言等でできるだけのお手伝いをさしていただきたい、かように考えておる次第でございます。(拍手)#19
○議長(福田一君) これにて国務大臣の演説に対する質疑は終了いたしました。────◇─────
#20
○議長(福田一君) 御報告いたすことがあります。議員早川崇君は、昨年十二月七日逝去せられました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。
同君に対する弔詞は、議長において昨年十二月二十一日贈呈いたしました。これを朗読いたします。
〔総員起立〕
衆議院 は多年憲政のために尽力し 特に院議をもつてその功労を表彰され さきに大蔵委員長の要職につき またしばしば国務大臣の重任にあたられた議員正三位勲一等早川崇君の長逝を哀悼し つつしんで弔詞をささげます
─────────────
故議員早川崇君に対する追悼演説
#21
○議長(福田一君) この際、弔意を表するため、小林進君から発言を求められております。これを許します。小林進君。〔小林進君登壇〕
#22
○小林進君 私は、皆様の御同意を得て、議員一同を代表し、故衆議院議員早川崇先生に対し、謹んで追悼の言葉を申し述べたいと思います。(拍手)早川先生は、ただいま議長から御報告のありましたとおり、昨年十二月七日御逝去されました。九月の初め胆嚢炎治療のため入院されましたが、まさか死に至る重病であったなど、夢想だにしなかっただけに、この訃報に接し全く驚天動地の衝撃を受け、深い悲しみに打たれたのであります。
早川先生は、大正五年八月、和歌山県田辺市で、医学博士早川与一郎氏の次男としてお生まれになりました。三人兄弟いずれも東京帝国大学を卒業するというすぐれた家庭の中ですくすくと育てられ、先生もまた秀才の誉れ高く、田辺中学四年から第三高等学校に進学されました。
しかし、先生はいわゆる青白い秀才ではなく、青雲の志に燃ゆる多感多血の若者でありました。その三高在学時代、一高・三高の対校庭球試合があり、審判の判定について両校が衝突し、試合が中止されたことがありました。三高の応援団長を務めておられた先生は、直ちに責任をとって退学届を出し、郷里に帰ってしまわれたのであります。
このみずからを律することの厳しさと決断の早さに驚嘆の声が起こるとともに、期せずして両校の間から復帰運動が起こり、先生は再び母校に帰られたのでありますが、この問題を通じて、先生が青年時代から不屈の正義感と責任感を持った非凡の人格者であったことを知ることができるのであります。(拍手)
昭和十二年、高校を卒業、東京帝国大学法学部に入学されました。時代は日中戦争の最中であり、先生は、勉学と研究にいそしみ、特に矢部貞治教授に私淑し、その薫陶を受けながら、悔いのない青春を過ごされたのであります。
在学中に高等文官試験行政科に合格し、昭和十六年、卒業と同時に厚生省に入省されました。しかし、在職わずか十八日にして召集を受け、その後四年有半軍務に服し、終戦のときは海軍主計少佐として復員されたのであります。
そして、昭和二十一年四月、戦後初めての衆議院議員総選挙が行われるや、先生は、同志友人に推されて立候補し、四十八名の候補者が六つの議席を競う大激戦の中で、みごと栄冠をかち取られました。時に弱冠二十九歳でありました。
終戦直後の選挙に当選してきた若い議員たちは、戦前の亜流をなす政党に属することを好まず、新しい酒は新しい杯に、新しい政治は新しい政党にという理想に燃えている時代でありました。
そのころ先生は、常に指導的立場に立ち、新党樹立に精魂を傾けておられました。しかし、政党の離合集散もようやく鎮静し、やがて先生は新保守党へ、私は革新へと政治の進路を分かつことになりました。
小林君一緒に行こうと先輩として最後まで引きとめてくださった先生と変わりない友情を誓い合って、私は中野にある先生の御自宅を辞去いたしましたが、そのときの夜道のさびしさがきのうのことのように思い出されるのであります。
しかし、自来三十年、先生との交遊は絶ゆることなく、先生に対する敬愛の念は、年々歳々深まって今日に至っているのであります。
かくのごとくして、先生は、国民協同党、社会革新党、民主党と進み、昭和三十年、保守合同による自由民主党結成に参加され、これによって先生の政党所属は生涯を通じて不動のものとなったのであります。
やがて先生は、与党自民党において幹部となり、二十七年の歳月にわたり党の重要なるポストの責任者を務め、問題の処理に当たってこられました。
すなわち、党治安対策特別委員長、党倫理憲章起草委員長、田園都市構想特別委員長など、十数にわたる委員会の責任者となられたのでありますが、そのいずれもが、国民のニーズにより新しく提起された困難な問題を取り扱う委員会であり、先生は、特に選ばれてその任務につき、そしてその期待にこたえてりっぱに処理してこられたのであります。
先生の三十五年にわたる議員活動は、何人もまねのできない充実したものでありました。先生が所属された委員会は実に三十五、そのいずれの委員会においても八面六臂の活動をなされているのであります。
すなわち、先生は、大蔵委員長、予算委員など、いずれもその会期において最も重要な法案を抱えている委員会に配属され、あの円熟した人格と柔軟な対話で、先鋭化している委員会の空気を一変させ、円満裏に法律を通過させた例は幾つもあり、政府と国家に貢献された功労は実に偉大なものがありました。(拍手)
先生は、昭和三十年、鳩山内閣に自治政務次官に就任されたのを皮切りに、三十八年、池田内閣には自治大臣、国家公安委員長となり、四十一年、佐藤内閣には労働大臣、そして五十一年の三木内閣には厚生大臣の重責に任ぜられたのであります。
これらの重職を通じて、先生は、自己の政治哲学の実現に情熱を燃やし、最高の知性と経験を駆使して、それぞれ後世に残る治績を残しておられるのであります。
これに関連し、ここに申し述べておかなければならぬことは、先生が公安委員長在任中、ライシャワー駐日アメリカ大使が精神異常者に刺傷されるという事件が起きたことについてであります。
事件が起きるや、先生は一切の慰留を避け、直ちに辞職して、外交問題に発展する余地を残さず、手早くすべての処理を終わり、曇り一点ない晴れ晴れしい解決をされたということであります。(拍手)三高時代に見せたあの決断と勇気を持って国家の大事を処理されたこの先生の毅然たる姿勢こそ、もって政治家の範とすべきものでありましょう。(拍手)
先生はだれよりも郷土を愛し、郷里の発展のために骨身を惜しまず尽力されました。白浜有料道路を実現して、郷土和歌山県の観光に大きく貢献されたのを初め、高野竜神スカイラインの建設、南紀白浜空港の開港、そして県民憩いの場所として、独創的な紀南文化会館の建設等々、すべて先生の強い郷土愛を物語るものであります。
こうして、地方と国政との太いパイプ役を果たされた先生に対し、和歌山県民は、郷土振興の父と呼び、先生を失った哀惜の声がいまなお紀南の山に海に満ち満ちているのであります。(拍手)
かくして先生は、本院議員に当選すること十四回、在職三十五年の長きにわたり、中央に、地方に、国政に、自治体に不滅の功績を残されました。昭和四十八年には本院から永年在職議員の表彰を受けられました。
先生の著述は「新保守主義の政治哲学」等数十種類に及んでおり、特に「英国の議会史」については、日本有数の学究者でもありました。そして、東京医科大学病院に入院中も読書に親しみ、遺稿となった「ジョセフ・チェンバレンの生涯と業績」の執筆に情熱を傾け、政治家でありながら学者としての反面を遺憾なく発揮せられ、その生命のともしびを燃焼し尽くされていたのであります。(拍手)
先生のこの偉大な生涯を顧みて、われらは一体、先生を何と呼ぶべきでありましょうか。人は、先生を偉大な政治家あるいは理想の政治家、または真理を追う哲人、学者、思想家、新保守主義者などと評するでありましょう。しかし、これを総合して先生の正しい映像を描き出すとすれば、終生理想の政治を追求したヒューマニズムの偉大なる政治家ということになりましょう。(拍手)
先生は、党の倫理憲章起草委員長になったとき、繰り返し、政治家として最も必要なものは高度の倫理性であると説かれていたのであります。
また、要望もだしがたく、昭和五十七年四月、亜細亜大学の学長に就任された先生は、千八百名の新入生を前にし、「自己に責任を持つ真の国際人たれ」と説き、ディズレリー宰相の「英国の富は物質的な富にあらずして国民の人格なり」というこの言葉を引用し、「最近の日本の風潮は」と言って、政界、財界のモラルの低下を痛烈に批判され、全学生に深い感動を与えられたのであります。(拍手)
先生は、理想の政治のためには、何物も恐れず、妥協もせず、大胆率直に事の道理を説かれたのでありまして、この厳然たる姿勢とその気迫こそは、後に続く後輩政治家に対する永遠の警告であり、不滅の教訓であると言うべきでありましょう。(拍手)
早川先生のこの崇高なる倫理観は、ひいては内外の弱い立場にある庶民大衆に対する温かい政治となってあらわれているのであります。
アジアの貧しい国バングラデシュに対する先生の情熱の行動は、打算と常識を超えた誠実そのものでありました。一九七〇年、有史以来と言われる暴風雨の襲来による一大惨事がバングラデシュに起きた際、先生は、みずから進んで街頭に立ち、募金活動を続けられました。日本バングラデシュ協会会長として、自後、同国を訪問すること数回、ますます同国との連帯を強めるとともに、日本政府を督励して、数々の支援協力の実を上げてこられたのであります。
かくして、先生の訃報を知ったバングラデシュでは、テレビ、ラジオ、新聞等を通じて、九千万国民に先生が同国に与えられた大きな功績を伝え、国民挙げて哀悼の意を表したというのであります。(拍手)
このことは、先生の大きな愛の政治が遠く海外に及び、不滅の光を放っている何よりの例証であります。(拍手)
先生は、また、教育に最も熱心な政治家でありました。剣道六段、範士の資格を持つ武道の達人でありました。礼をもって始まり、礼をもって終わる剣道こそスポーツの真髄であるという哲理に立って、先生は、この日本固有の武道を国際的に普及することと、国内においては小中高校など学校教育に取り入れることを強く要望しておられました。
そのため、国会内に超党派の武道議員連盟を創設し、みずから会長となって、教育の理想実現に努力されました。その努力が政府を動かし、いまでは全国の小中高校に武道の教育が行われ、青少年の心身の育成に絶大なる成果を上げ、全国津々浦々の父兄から大きな感謝の声が寄せられているのであります。(拍手)これもまた精神と身体の調和、均衡する真の教育に寄せられた先生の偉大なる業績を示す例証でありましょう。
顧みますれば、先生の六十六年の御生涯は、余りにも短いものでありました。内外の情勢がきわめて厳しく、日本もまた重大な時局に遭遇しており、今日ほど先生を必要とするときはありません。
国会における最高古参の議員として、その貫禄、経験、知能、手腕のすベイを、いまこそ国家国民のために投入していただきたいとき、忽然として御逝去されたことは、ひとり自民党のみならず、本院にとっても、国家国民にとっても最大の損失と言わなければなりません。(拍手)巨星落ちたり、何物にもかえがたい巨星落ちたりの実感がひしひしと胸に迫ってまいります。
先生、早川先生、呼べどもあの慈顔に再び接することはできません。この寂寥、この痛恨、何をもって補うべきでありましょう。
こいねがわくは、先生の御魂魄よ、この議場にとどまり、わが国の健全なる民主政治を擁護されるとともに、後に続くわれらに、永遠の御教訓と御指導を賜らんことをひとえに祈り上げ、ここに早川先生の御功績をたたえ、その人となりをしのんで、謹んで哀悼の言葉といたします。(拍手)
────◇─────
#23
○議長(福田一君) 本日は、これにて散会いたします。午後六時三十一分散会