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#1
第096回国会 法務委員会 第11号
昭和五十七年五月十三日(木曜日)
   午前十時八分開会
    ―――――――――――――
   委員の異動
 四月二十八日
    辞任         補欠選任
     山中 郁子君     宮本 顕治君
 五月四日
    辞任         補欠選任
     宮本 顕治君     山中 郁子君
 五月十一日
    辞任         補欠選任
     山中 郁子君     宮本 顕治君
 五月十二日
    辞任         補欠選任
     宮本 顕治君     山中 郁子君
 五月十三日
    辞任         補欠選任
     安井  謙君     仲川 幸男君
     八木 一郎君     川原新次郎君
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         鈴木 一弘君
    理 事
                平井 卓志君
                円山 雅也君
                寺田 熊雄君
                小平 芳平君
    委 員
                臼井 莊一君
                戸塚 進也君
                中西 一郎君
                真鍋 賢二君
                川原新次郎君
                仲川 幸男君
                小谷  守君
                山中 郁子君
                中山 千夏君
   国務大臣
       法 務 大 臣  坂田 道太君
   政府委員
       法務大臣官房長  筧  榮一君
       法務省民事局長  中島 一郎君
   最高裁判所長官代理者
       最高裁判所事務
       総局民事局長兼
       最高裁判所事務
       総局行政局長   川嵜 義徳君
       最高裁判所事務
       総局刑事局長   小野 幹雄君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        奥村 俊光君
   説明員
       大蔵省銀行局保
       険部保険第二課
       長        松田 篤之君
       運輸省船舶局検
       査測度課長    石井 和也君
       運輸省航空局監
       理部監督課長   土坂 泰敏君
       海上保安庁警備
       救難部航行安全
       課長       鈴木 正明君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法
 律案(内閣提出)
○船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一
 部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
    ―――――――――――――
#2
○委員長(鈴木一弘君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 まず、委員の異動について御報告いたします。
 本日、安井謙君及び八木一郎君が委員を辞任され、その補欠として仲川幸男君及び川原新次郎君が選任されました。
    ―――――――――――――
#3
○委員長(鈴木一弘君) 民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 前回に引き続き質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。
#4
○寺田熊雄君 訴訟が裁判によらずして完結した場合の証人調書を省略、これは検証調書なども同様でありますが、いままでも最高裁の民事局長の答弁をお伺いしますと、あるいは法務省の民事局長の答弁をお伺いしますと、省略は和解の成立した当該の期日に行われた証人調書等の作成ということなのだと、ただし、集中審理が行われ、連続してたとえば三日証人尋問、証人調べが行われたという場合には、それはやはりその三日の証人調書の作成も省略ということになるでしょうと。というのは、これは民事訴訟法の百四十二条でしたか、当然当該の期日に調書が作成せられるということなので、それよりずっと一月も二月も前に行われた証人調書の作成まで省略するというようなことはないでしょうと、こういうお話だったですね。それはないでしょうということでなくて、やっぱりそういうことはないようにいたします、それは裁判官なり裁判官の書記官に対する指導監督といいますか、それを十分にする、書記官も民事訴訟法の調書は速やかに作成するという法の趣旨を踏まえて努力する、したがってそういうことは万々ないと思うけれども、ないように自分たちも努力するんだ、そういう決意を一遍お伺いしないと、事実としてないでしょうということですと、ちょっと私どもまだ懸念があるものだから、それでお伺いするんです。どうでしょうか。
#5
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 証人等の調書の作成につきましては、この改正法律案とは無関係に、従前からただいま御指摘のとおりの作成要領といいますか、作成の方法が法律で決めてあるわけであります。したがいまして、次回期日が来ているのに前回期日の調書がまだできていないというようなことは、現在の実務の慣行からいきましてもノーマルな状況とは言えないわけであります。このことは、この改正法ができるかどうかということとは関係なしに、現在の状況においてそういうことが言えるわけであります。したがいまして、調書作成事務につきましては、さらにただいま御指摘のような御懸念がないように、私どもといたしましても司法行政上できる限りの措置はいたしたい、かように思っておるわけでございます。
#6
○寺田熊雄君 私どもが多少しつこくこういう点を指摘しますのは、いままでにも私、質問のときに申しましたように、戦前の裁判官の書記官に対する指導監督といいますか、それと戦後、現在の裁判官の書記官に対する指導監督というのが、やっぱり多少程度に差があるように見受けておるわけです。
 一つの例は、この間もお話ししたけれども、裁判官は書記官の調書をよく見る、自分の手控えと違っておる場合には遠慮なく直すということを、私どもまだ左陪席の当時からかなり古参の書記官が作成する証人調書に対してもそうしてきた。ところが、現在はやはり裁判官が御遠慮になっておられる。書記官の地位が上がるということは私どもも大賛成で、これは年来われわれが主張したところであるけれども、そのことのゆえに裁判官が遠慮をして、書記官の事務処理に適切な指導監督をしないということはこれはいけないことであると私どもは考えておる。
 後で討論のときにこれをお話しする時間的余裕があるかどうかわかりませんが、たとえば弾劾裁判所で私が谷合判事補の弾劾裁判をしたときに感じたのでありますけれども、東京地裁の破産部の事務処理というようなものは、あの部長が心を細やかにして見ておれば、これはどうもちょっとおかしいぞ、少し書記官が当事者となれ合いし過ぎているぞということは当然監督し得る、監督というのは感じ取ることができるのではなかったかと私は考えておるわけですね。谷合君は、書記官のそうした雰囲気に引きずり込まれたという感がある。ですから、部長はもうちょっと書記官のそうした事務処理、雰囲気、そういうものに遠慮なく指導監督をすればよかったし、またその責務があったと私は思うんですね。私どものいろんな経験から、そういうことを老婆心でお話をするわけです。
 調書の作成でも、東京地裁の書記官、簡裁の書記官などを呼んで聞いてみると、やはり調書の作成がおくれることがあります、おくれた場合に、和解が成立したのをさかのぼって一生懸命書くでしょうかと、やっぱりそれは書きたくないというような気持ちを否定はできませんということも私、直接書記官から聞くわけですね。そういうことがあるから、だからやっぱり裁判官は事務処理に関しては書記官に余り遠慮する必要はないので、書記官の地位を尊重することはいいけれども、そこのところを考えているわけです。
 これはよけいなことだけれども、最近裁判所で見受けるのは、陪席はもちろん、部長も時としては記録を抱えて書記官室に記録を持っていくというようなことも廊下で見ることがある。だけれども、昔は裁判官はベルで書記官を呼んで、じゃ、これを調べてくれと言って記録は書記官に調べてもらう。これは左陪席でもそうしておったわけです。そういうベルの施設なんというものがなくなっちゃったのかもしれないけれども、やはりその業務に関しては裁判官はそういう事務の細かいことまで自分でやらなくてもいいんだから、そういう点で労を省いて、判決を書く労なんというものを省くというようなそんなことに思いをいたさないようにしてもらいたい、これが私が考えておるところであります。
 それから次に、就業場所においてする送達の問題でありますが、これは訴状に、たとえば住所不明、就業場所どこそこと、こういうふうに書いて訴状が提出されましたときに、これは書記官としてはどの程度住所不明という点について原告に証明を要求するのか。これは民事訴訟法百七十八条の公示送達の規定の場合も同じ問題が起きると思いますが、その証明を求める度合いについては民訴法第百七十八条の場合と同様なのか、それともやっぱり多少異なるものがあるのか、そういう点について御説明をいただきたい。
#7
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) ただいま御指摘の、勤務先はわかっているけれども住居所がわからぬというケースは確かにあり得ると思うのでございますけれども、実務上はまずそういうケースはきわめてまれであろうと思います。
 そういうまれなケースが出てきた場合どうするかという問題でございますが、御指摘のように、住居所が知れざるときという同じ表現が百七十八条の公示送達のところに用いられておりますから、この証明につきましては、全く同じ証明を要求する扱いになるというふうに考えております。
#8
○寺田熊雄君 念のために、百七十八条の場合どの程度の証明を求めるという、いま局長がおっしゃるその証明というのは、具体的には実務ではどの程度求めておりますか。それをちょっと伺いたい。
#9
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 受訴裁判所の扱いが一様でございませんので、およそこういうものという程度にしか申し上げられませんけれども、住民票の謄抄本、最後の住居所の近隣の者による証明書、原告あるいは原告代理人の調査報告書、実務上はいま申し上げましたこの原告代理人の事務所の事務員の調査報告書というのが私の個人的な体験から言いますと多いと思いますが、こういうもの。あるいは民生委員とか町会の役員の証明書、こういったものを利用して証明の資料というふうにしておるのが実情のようでございます。
#10
○寺田熊雄君 その場合、いま近隣の者とか何とかというのは、もとその男がおったと思われる当該の住居所の近隣とか、あるいはそのあたりを管轄する民生委員の証明とか、そういうことを意味するわけですか。
#11
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 公示送達の場合は、最後の住居所というのを表示して、現在住居所不明というふうに表示してくるわけでございまして、その最後の住居所は住民登録ではっきりわかるわけであります。その場所の周辺で、ただいま言ったような証明をとるということになっております。
#12
○寺田熊雄君 それから、これは実際はそうなさるんでしょうが、できれば、その原告代理人などがその就業場所に電話して、本人の住所を教えてくれと言ったけれども就業場所が教えてくれないんだ、教えることを拒んだというようなそういう点についても配慮すべきではないかと考えるんですが、それはどうでしょう。
#13
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) これは、新法施行後の実務がどのように動くべきかということは軽々に申し上げるわけにはまいりませんけれども、勤務先はここだという表示が訴状にしてある、そこの電話番号も書いてあるというような場合に、裁判所の方でその勤務先に電話をかけて、この人の住居所がわかりませんかということを問い合わせることになるのではないか。少なくともそれを一遍やってみないと、本当に住居所不明と言えるかどうかわからぬということになるのではないかと思います。
#14
○寺田熊雄君 次に、「送達ヲ為スニ付支障アルトキ」と、これは事前に必ず通常の送達をなすことが前提となりますという、たしかそういう趣旨の御答弁だったと思うけれども、その点をちょっと両民事局長にもう一度確認したいんです。この点、いかがでしょう。
#15
○政府委員(中島一郎君) 裁判所の扱いといたしましては、住居所における送達がこれが第一次的なもの、原則的なものでありますから、裁判所といたしましてはその原則的、第一次的な送達方法というものをとるというのが、これが通常の場合、恐らく例外なしに行われるであろうというふうに申し上げるわけでありますけれども、法律の解釈として、それじゃ必ずそういう前提が必要かと言われますならば、それは法律の解釈としてはそういうふうに限るものではないというのが、この法律の条文の表現でございますということを申し上げたわけでございます。
#16
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 私どもの考えも、ただいま法務省の民事局長の御説明と同様でございます。実務上は、原則として必ず一回は住居所への送達を試みる、これが功を奏しなかった場合に初めて就業場所への送達を行う、こういう扱いになると思います。
 ただ、これはあくまでも送達の取り扱い者である書記官の判断、裁量にゆだねられるところでありますけれども、事柄の性質上、画一的処理というものがむしろ望ましいものであると思います。したがいまして、いま申し上げましたような方向での画一的な処理が行われるように司法行政上対処したいというふうに考えております。
#17
○寺田熊雄君 そこで、そういうふうに、これは最高裁判所で画一的に行われるように十分留意していただきたいと私は考えるのだけれども、ただ、それを担保する方法ですね。そういうふうに実際扱って、書記官の恣意的な運用でぽっと就業場所にいきなりやってしまう。そういう恣意的判断がないように、必ず一回は通常の送達を住居所にやってみる。そういう事務手続を担保するためには、どうしたらいいんでしょう。あなた方がその趣旨の徹底を図る方法として、どういう方策をおとりになります。
#18
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 先ほども申し上げましたとおり、司法行政上とり得る最善の措置を講じたい、こういうことでございますが、具体的に申し上げますならば書記官の会同、研究会、研修、いろんな機会を通じて、いわばそういう画一的処理がコンセンサスとしてでき上がるように持っていきたい、こういうことでございます。
#19
○寺田熊雄君 これは日弁連の司法制度調査会の委員長などは、そういう点を担保するために一回は必ず通常の送達をするんだ、そういうふうに修正していただくことが一番いいんじゃないでしょうかということで、私どもに修正案をお持ちいただいたような経緯もあるのです。
 それから、願わくは、これはやはり最高裁判所規則とか、何か疑いのないようなものを目で見えるようなものにしていただくと一番いいんだけれども、それは無理だろうか。どうでしょう。
#20
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 御趣旨は、規則あるいは通達でそのことを書けないかということであろうと思いますが、この法律の百六十九条の二項に勤務先、就業先送達の要件として「支障アルトキ」と書いてあるわけでございますが、この「支障アルトキ」とは、一回住居所への送達を試みたけれども功を奏しなかったことをいうというような規則、通達を仮につくるといたしますと、これは法律の解釈を規則で、あるいは通達で書くということになるわけでありまして、いささか適切を欠くことになりゃせぬかというふうに思うわけでございます。
 したがいまして、先ほども申し上げましたとおり、そういう画一的な、処理がされるようなコンセンサスをつくる措置をとりたい、またそれは十分とり得るというふうに考えておりますので、その点につきましては裁判所のそういう措置を御信頼いただきたいというふうに思うわけでございます。
#21
○寺田熊雄君 それはそれで結局私どもも承諾はするけれども、法の解釈を書けということじゃなくて、この条項の適用に当たっては事前に通常の送達をなすものとするという、手続をそうしなさいというそういう規則の書き方を念頭に置いておったわけで、解釈を書けという趣旨ではなかったんですね、私は。これは民事局長がそこまで言われるんだから、民事局長の答弁を信頼して見守ることにしましょう。これが守られないような事例が起きるとしますと、やっぱり民事局長の答弁の信用にかかわるから、ひとつしっかりやっていただきたいと思います。
 それからもう一つ、ちょっと私がこの問題で嫌だなあと思ったのは、この提案理由の説明、これは大臣がおっしゃったことなんですね。昼間不在者の増加によって送達をすることが困難になったと、こういうたしか提案趣旨の説明がありますね。ですから、夜間送達をすればいいんじゃないかということがだれでもひょっと浮かぶんですね。それを局長にお尋ねをすると、執行官の地位が非常に上がりました、そういう機械的な事務を執行官にさせるということはどうでしょうかという、事実上やっぱり支障があるということの中にそういうものも入るでしょうというたしか趣旨のお答えだったと思うんです。それに少なくとも私どもは抵抗を感ずるんですね、それが。そもそもそういう機械的事務を卑しむ気持ちが、やっぱりそこにあるんじゃないだろうか。
 われわれ公務員は大衆のため、あるいは法の秩序を守ろうということのために仕事をするんだから、機械的事務だから地位の高い者はやらないんだというそういう考え方にやっぱり抵抗を感ぜざるを得ないので、その辺のところが実はこの法律の審議に当たって私どもがひっかかっちゃったんですね。それは気持ちとしてはわかるんですよ。でも、やっぱり何か理論的にはどうも一貫しないじゃないか。夜間送達制度があるんだから、それをやったら送達できるじゃないか、いやそれはこういう事情でこうあるんですと、それじゃその制度はやめるというのかというと、いややっぱり置いていただかないと困りますと、こう言うんでしょう。だから、そこのところがちょっと何かすうっとのみ込みにくいものがありますよ、これは討論のときにもお話ししたいんだけれども。
 それから、私が、事前に就業場所に送るぞということを書記官からはがきで本人に連絡できないだろうかということをお尋ねしたときに、たしか民事局長は、書記官の事務が非常にふえてくるからという反対の趣旨をお答えになったですね。だけれども、裁判所書記官なんかを呼んで聞いてみますと、こういうことはめったにありませんのでそうその事務が激増するというようなことはないでしょうと言うのですね。そういう意味で、これは私は固執はしません。
 というのは、通常の送達をしますと、それが郵便局にとめ置かれる。それを取りに行くことをサボるといいますか、そういうサボるような受送達者の利益をそこまで裁判所が守らなきゃいけないのかということを言われると、それも一理あるから、私は余りこだわらないんだけれども、ただそういうことを質問していく過程で、ちょっとやっぱり民事局長の答弁に少し無理があるのじゃないかと感じたんです。それは私の意見がちょっと無理だろうか。民事局長、どうでしょう。
#22
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) まず、執行官による休日、夜間の送達の問題でございますが、機械的な仕事だから高い任命資格が定められた執行官について適切でない業務だというふうに申し上げた趣旨ではございません。あくまでも制度として執行官による送達というものはあるわけでありますので、これは裁判所から命ぜられました限りはやるわけであります。現実にも年間休日、夜間の送達は二万五、六千件くらいはやっております。でありますから、今後もそういう必要があると裁判所側が考えて執行官送達という指示があれば、これはやらざるを得ないわけであります。ただ、申し上げましたのは、いろんな経過からして、執行官はできるだけ執行事務に専念できるような体制が望ましいのだということを申し上げた次第であります。
 それから、あらかじめ書記官が警告的なはがきを受送達者の方へ出すということでございますけれども、これは前にも申し上げましたとおり、特別送達が参りますと、郵便集配人が不在配達通知書というものを入れておくわけであります。しかも、それは裁判所から来た書類を郵便局で預かっておりますということが書いてあるわけであります。でありますので、そのような措置がとられている上に、さらに書記官による警告はがきを出さなきゃならないかという点、それから書記官の仕事の増という点を考えますと消極にならざるを得ない、こういうふうに考えておるわけでございます。
#23
○寺田熊雄君 この間は、民事局長が刑事局長にかわって、この就業場所への送達は刑事事件の場合の送達、たとえば略式命令の送達というようなものをこれはするつもりはありません、それは最高裁判所規則で明らかにするつもりでありますと、こういうお答えがあったけれども、民事局長のそういう答弁を私、疑いを持つというようなことはありません。それはお二方の十分な連絡の上でそういうお答えになったと思うけれども、しかし所管はやっぱり刑事局長が所管だと思うから、だから刑事局長からもその点を明らかにしていただきたい、こう思います。
#24
○最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) 御承知のとおり、刑事訴訟法の五十四条は「裁判所の規則に特別の定のある場合を除いては、民事訴訟に関する法令の規定を準用する。」と規定しております。今回の改正に際しまして、刑事手続について何らの手当てもしないということになりますと、この就業場所への送達も全面的に刑事事件についても準用になると、こういうことでございます。
 そこで、刑事局といたしましては、この民訴法の改正問題が起きましてから、刑事事件についてはどうすればいいのかということで内々で調査検討してまいりました。刑事事件につきましても、確かに民事事件と同様でございまして、昼間不在者というものがかなりありまして、送達に困難を来しているという事例が少なくないようでございます。
 そういう意味では、就業場所への送達の必要性というのはございますが、ただ刑事事件につきましては、その性質上、やはりプライバシーというような点につきましては格段の配慮が必要であろう、必要性から民事事件と同一に論ずることはできないのじゃないか、そういう点があるというふうに考えまして、今回の改正に当たりましては、いま全然やらないということではなくて、この民訴法の改正に関する法制審議会の法律案の要綱がございます。これはお手元に行っていると思いますが、要綱案の第二の一の1というところの一番最後のところに「送達を受けるべき者に異議がないときも、同様とする」というのがございます。刑事の場合には、この異議のない場合に限って準用するということは相当ではなかろうかと、私どもとしてはそういうふうに考えたわけでございます。
 そこで、法務省の刑事当局といろいろ御相談いたしました結果、法務省の方でもそういうことであるならばよろしいであろう、また、その手当ての方法につきましては、これは法改正ということではなくて、裁判所の規則でそれを手当てをすればよろしいのじゃないかということになりましたので、目下私どもとしては刑訴法規則の改正ということで、異議がないときに限るという原則でいま作成を準備中であると、こういうことでございます。
#25
○寺田熊雄君 それで、判決書において事実摘示の中の証拠関係部分、この中で証拠の標目を引用することを許す、そういう趣旨の改正が今回なされておりますが、これは本来優秀で、われわれがもうその心構えであるとか、あるいは能力であるとか、そういう面でもう一点非の打ちどころがないという裁判官がやっぱりありますね。そういう裁判官が判決する場合には、本来、余り詳しい証拠説示も理由もそう実際問題としては要らないという考え方もありますし、イギリスの裁判官など、きわめてえりすぐられた裁判官で、何といいますか、手控えが調書以上の信憑力を持つといいますか、信用力を与えられているということを聞きますが、裁判官の資質、能力等によってはそういうこともあり得るわけでしょう。
 ですから、よき裁判官が私を信用してほしい、そして一々甲何号証であるとか証人だれだれであるとか、そういうものを書かなくてもいいじゃありませんかという気持ちは理解できないわけではないけれども、しかし、また一面、余りその心構えとしてもどうだろうかと思われる人もありますし、能力的にもどうもこれはちょっとなあと思う人がやっぱりあるんですね、裁判官の中には。それから、一生懸命やらないで、転勤のときには変な判決を書いて行ってしまう人もあるんです。ですから、やっぱりそういういい裁判官、それほどでもない裁判官、時には余りよくない裁判官、そういう全部を考えますと、判決というものはよく当事者の主張を述べ、その判断に至った経緯というものを明らかにしてもらわないと、やっぱり困るんですね。これは皆さんも御存じと思うんです。
 そこで、なるべく判決はその記録を見なくても、その判決自体で、ああそうかとわかる度合いといいますか、その説得力の大きさといいますか、そういうものがあった方が望ましいわけです。それで、私どももこの問題については多少ちゅうちょを感じたんですが、すでに判例でそういう場合を最高裁判所は救済をしておる。したがって、裁判官はそれにずっとならっておられるという実務上の問題がありますから、これは目くじらを立てて反対することもなかるまいということなんであります。しかも、その引用という方法による省略、それをするのは公害事件等では当事者も非常に多い、書証なども膨大なものが出て、それを書くだけで大変な労力だ、送達にも非常な困難を来すということであれば、これはそれなりの理由は確かにありますね。
 そこでお伺いしたいんだけれども、一体、当事者が非常に多い、したがって証拠の引用などを一々やっておれませんよと、時には原告が千人もあって、こんな事件を判決するということが適当でしょうか、これは和解ですよということをおっしゃった裁判官も実は私、直接お会いして話したことがある。その裁判官はまことにりっぱな裁判官で、この裁判官ならもうそう言われてもしようがないと私は感じたんだけれども、確かにそういう事件もある。そういう当事者が非常に多くて、判決するのはどうだろうかとか、証拠を一々引っ張れませんよというような事件は現在どのくらいあるんだろうか。その正確な数はいま資料がなければ無理におっしゃらぬでもいいけれども、大体そのためにたとえば裁判官を増員する、書記官を増員するというふうなことをいままでやってきましたね。大体どのぐらい全国にありますか。
#26
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) ただいま手元に統計の数字を持ち合わせておりませんが、公害事件その他医療過誤、薬害事件等々、特殊損害賠償事件と私ども呼んでおりますけれども、これが大体三、四千件係属していると思います、全国的に見まして。こういう事件は、確かにすべて証拠の量は多い事件だといってよろしいかと思います。
 そのほか、民事事件ではなくて行政事件あるいは労働事件等も相当数係属しておるわけでありますが、こういう事件につきましても、やはり証人の数あるいは提出される書証の数等もかなりの量に上るというのが一般的でございます。
#27
○寺田熊雄君 それから、その場合判決は永久に保存する、記録は十年で廃棄すると。記録の部分を援用をした判決だけを見ますと、援用部分はさっぱりわからないという結果になっては困るので、その記録の中の援用された部分を一部抜き出して判決にくっつけて保存してくれという要求は当然起きますね。これはどういうふうに処理なさいますか。
#28
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 実は、裁判所のいろいろな事件記録につきましては、事件記録等保存規程という規程によりまして処理をいたしておるのが実情でございます。
 この規程の六条に、「事件書類のうち別表第一の下欄に掲げるものの内容を明らかにするため必要な書類は、当該事件書類とともに保存しなければならない。」、これを判決に当てはめてみますと、判決の内容を明らかにするため必要な書類はともに保存しなければならない、こういうことになるわけであります。
 御指摘の証拠に関する記載、引用するということになりますけれども、その引用した証人等目録が、ここにいいます判決の内容を明らかにするために必要な書類かどうかということになるわけであります。そもそも今回の改正につきましては、きわめて証拠関係の記載というのは形式的なものである、かたがたそれに費やす労力は相当なものであるというようなことがありまして、こういう形の改正法案になっておるものと理解しておるわけでありますが、したがいましてその形式的な記載であるということと、ただいま内容を明らかにする必要があるということとのつながりがどうなるかということになるわけであります。
 考え方といたしましては、判決の機能というのは、だれとだれとの間でどういう争いについて裁判がなされたか、いわば既判力の人的、物的限界を明らかにすることにあるというふうに普通言われておると思います。したがいまして、証拠関係の記載がなくても、いま申し上げました要請は十分満たしているはずだと思うわけであります。そういう考え方もございますので、ひとつ十分検討をさせていただきたいというふうに考えております。
#29
○寺田熊雄君 そうすると、この規程によって、証拠関係目録というものは保存されなくなるかもしれないですね、あなた方の解釈次第で。さっきもお話したように、たとえば採用すべかりし証拠を採用せずに、あるいはそれをネグレクトしてしまったというような場合も、あしき裁判官の場合は考えられるわけですね。だから、われわれとしましては、本来判決書自体で当事者がどの程度の証拠を出し、どんな証人を繰り出したかということは、これは本来判決書自体でこれを明示することが望ましいと考えておるわけですね。それが保存期間を過ぎて全くわからなくなってしまうということになると、本来その判決は後で検討を求められるというような事件は、概して何らかの重要性を持った事件と思われますね。
 だから、やはり援用した部分は判決にくっつけておいてもらいたいと私ども考えるんだけれども、何かよほど裁判所の庁舎のスペースとか、あるいは事務処理とか、そういうことでそれは困難があるのでしょうか。もしなければ保存の趣旨を貫いてもらいたいと思うんだけれども、どうでしょう。
#30
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) ただいま申し上げましたことは、こういう考え方もありますのでなお検討させていただきたいと申し上げたわけでございます。
 いろいろ後になってそこの証拠の記載欄が意味を持ってくる場合というのが具体的に考えられるだろうかということをひとつ考えてみるわけですけれども、考えられるのは再審のような場合に何かひっかかりが出てきはせぬかというふうに思うわけでありますけれども、これも記録自体が残っているかどうかが再審のケースでは重要なことでありまして、記録がなくなっておりますと、証拠関係の記載が判決とともに残っているというだけでは余り意味がない。特に再審で証拠関係が問題になりますのは、出された書証が偽造されたものであったとか、あるいは証人の証言が偽証であったということになるケースが多くあると思うのであります。それは判決に採用された証拠がそういう場合は再審事由になるわけでありまして、そういう場合は理由中にどういう証拠によって認定したかというのは明らかにされておりますから、これも余り証拠関係を残す必要性を根拠づけることにはならないようにも思われるわけであります。ただ、それを取っておくことがそんな手数もかからぬし、収容能力の点からも余り問題がないのじゃないかという御指摘も確かにございます。その辺も勘案いたしまして、御趣旨を体しまして前向きで検討をさせていただきたいというふうに思います。
#31
○寺田熊雄君 大体よくわかりました。そうあってほしいと思うが、私がお尋ねするのは、さっきもよくお話ししたように、心構えとか能力とかという点で遺憾のない裁判官であれば、こんなことも一々言う必要がない。ところが、中に感情に走って裁判をしたり、いいかげんに裁判をしたりする裁判官も少数ではあってもないわけではない。だから、こんなに証拠があるのに、理由を見ると、その証拠というようなものをほとんど深く検討してもらえなかったというようなものはないわけではない。それだけに、いま上級審があるから上級審のレビューというものはかなりそういうものを減殺するだろうということはわかるけれども、しかし、中には上級審にいかないものもあるし、上級審でも救えない場合もあるでしょう。それを考えると、やっぱりこういうものは取っておくのだとした方が、裁判官が証拠の検討を十分やってくれる一つの担保になりはしないだろうかと、そういう老婆心がありますね。
 ですから、できればやっぱり事務処理が大変困難なんです、あるいはスペースがないんですというときが来たならば、そのときはまた考えましょう。しかし、そのときまではやっぱり保存してもらいたい、こう思います。
 それから、最後に大臣にお尋ねをします。
 今回の五百十三条の改正につきましては、これは日弁連との協議が全くなかったようであります。そこで、日弁連はこれに対して強い遺憾の意を表明し、同時に、この規定については賛否を明らかにできないというようなかなり強硬な意見を表明しておるようであります。私は、元来、訴訟法の改正などは、これによって行動を律せられるものは裁判所関係者だけでなくて、訴訟の当事者、とりわけ代理人である弁護士があると、そういうふうに考えます。これは当然でしょう。
 そこで、こういう訴訟法の改正などについては、これはもう法制審議会の議を経るだけではなくして、それに先立って十分な時間的余裕を与えて日弁連と協議をしてほしいと、こう思います。また、そうしていただかなければ困ると思います。これは司法制度全般について言えることでありまして、今回の監獄法の改正なども日弁連との協議が十分であったとは申せないようであります。いわんや、これに便乗して提出せられた留置施設法案、これはいま衆議院に係属しておりますが、これなどは警察庁が立案したということで、重大な司法制度関連法案であるにかかわらず法制審議会の議も経ないと、いわんや日弁連などは全く没交渉であるということなんです。
 私どもとしては、そういう司法制度に関する法律は全部日弁連との十分な協議をしてほしいと思いますが、それはこの場合はひとまずおきまして、中でもとりわけ訴訟法の改正のごときは、問題なく日弁連と事前に十分の協議をしてから提案してほしいと思います。そうあってほしいんですが、大臣いかがでしょう。
#32
○国務大臣(坂田道太君) 法務省といたしましては、今回の民事訴訟法の改正のような司法制度に関しまする基本的な法律案を国会に提出するような場合には、日弁連に十分な検討の時間的余裕を与えて協議すべきことは御指摘のとおりだというふうに考えますので、今後とも十分配意をしてまいりたいというふうに考えます。
#33
○小平芳平君 前回に続いた質問になりますが、最初に、証人調書等の記載の省略について当事者の意思を確認した上で行うというふうな趣旨で私は申し上げました。それに対して最高裁民事局長からは、実際の運用の面では当事者の意思を確認した上で行うようになるであろうというような具体例の御説明がありました。
 私は、実際問題、そういうふうに行われていけばという希望を持っておりますが、しかし、法律の条文では、あくまで当事者の申し出がなければ一方的に裁判長の許可で省略されてしまうということになろうかと思いますが、その点、民事局長が実際の運用でこういうふうにカバーできるのだということはどのように徹底されますか、お伺いしたい。
#34
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 法律の条文によりますと「記載ヲ為スベキ旨ノ申出ヲ為シタル場合ヲ除クノ外」省略することができると、こういうふうになっておるわけでありますが、前回も申し上げたとおり、和解が成立いたしますと、その和解が成立したことによって事件は一切終了するわけでありますので、書記官と当事者、弁護士さんが代理人としてついておれば弁護士さんといろいろ打ち合わせをすることがございます。たとえば和解調書の送達申請をするとか、あるいは予納関係をはっきりと精算するとか、いろいろございます。そういうときに当然省略の対象になる調書がまだできてないという場合、それも一括して話の中身に入ってくることになるだろう、こういうふうなことを申し上げたわけでございます。
 和解で終わります限り、そういう扱いは一般的に通常行われることになると私は思いますし、またこういう法律ができて調書を省略する場合には、念のためそういう運用をする方が望ましい、そういう運用に持っていこうということ、そういうコンセンサスを得られるように会同、協議会等でそういう趣旨を徹底していきたい、こういうふうに考えております。
#35
○小平芳平君 ちょっと最後のところが聞き取れなかったのですが、どういう会合等で徹底していかれることになりますか。
#36
○最高裁判所長官代理者(川嵜義徳君) 調書の作成は書記官の権限と義務に属することでございますから、書記官の会同、協議会あるいは書記官研修所という書記官の養成研究の機関がございますけれども、そこにおける授業の中身で取り上げると、こういうようなことを考えておるわけでございます。
#37
○小平芳平君 次に、送達についてですが、ビル所有者と警備保障会社の間で当該ビルの受付業務が委託されている場合、そういう場合に、当該ビルに入居している会社の従業員に対する補充送達は、警備保障会社の請け負っている受付ではできないというふうに解せられますか。
#38
○政府委員(中島一郎君) いまの場合は、就業場所における送達ではなくて、住居所等における送達というふうに考えましたが、そうではございませんのでしょうか。
#39
○小平芳平君 就業場所です。就業場所における送達で、ビル所有者と警備保障会社の間で契約されている、当該ビルの受付業務が委託されているという場合、補充送達が、この警備保障会社というものが就業場所に一枚加わってくるような形になりますが、いかがでしょう。
#40
○政府委員(中島一郎君) 私どもは、法律の条文といたしましては百七十一条の二項によって補充送達がされるべきものであるというふうに考えておるわけでありまして、その場合に補充送達をすることができる者は、まず、その他人たる本人であり、それからその法定代理人であり、「事務員若ハ雇人ニシテ事理ヲ弁識スルニ足ルベキ知能ヲ具フル者」でありますから、ただいまの御設問の場合には、それには含まれないというふうに理解をしておるわけでありまして、先日、郵政省の係官が、この席でありましたかお見えになって、郵便の取り扱いの実際について御説明がございましたけれども、それは住居所における送達でありましたけれども、ただいまのビルの管理会社との関係について申しますと、この特別送達の補充送達については非常に厳格に解釈しておられる、私どもの期待しておるような運用が行われておるというふうに伺ったような次第でございます。
#41
○小平芳平君 次に、就業場所における補充送達を認めるようになった場合、この補充送達を受ける人が係争当事者であるというケースがふえると思います。それで、係争当事者が、このような場合、送達を受け取ってしまうような場合に、送達の効力はどうなりますか。
#42
○政府委員(中島一郎君) 現在の住居所等における送達の場合についても同様な問題があるかと思うわけでありまして、夫婦が離婚訴訟を起こしたけれどもまだ同居しておるという場合に、夫に対する送達書類を、夫が不在のために妻が形式的にその同居者として受け取るというような場合もありましょうし、あるいは家主が間借り人に対して明け渡しの訴訟を起こして、書類を送達をして、間借り人にかわって家主が書類を受け取ることができるかどうかというような問題もあるわけでありまして、そういうふうに訴訟の当事者、むしろ敵対――相手方である場合には、これは民事訴訟と言いますよりも、むしろ私法に関する基本原則からいたしまして代理権限が否定されるというようなことになろうかと思います。受領権限がないわけであります。
 したがいまして、そういう場合は補充送達が許される場合から除かれるということになりますので、就業場所における補充送達についても同様の解釈になろうかと思います。
#43
○小平芳平君 実際にどういうふうに行われるであろうかということをお尋ねしたいのですが、夫婦が離婚というような場合のいまの例について御説明なさいましたが、そういう場合は係争当事者であるということが判別しやすい例だと思いますが、就業場所に対する送達となりますと、そういう判別がよりむずかしくなるんじゃないかと思いますが、実際にはどういうふうに判断して行われるのでしょうか。
#44
○政府委員(中島一郎君) 気がつきますれば、その補充送達を受ける者が、私がこういうものを受け取っていいのでしょうかということを尋ねましょうから、その事情によって、それは困りますということで、その者には書類は渡さないというような扱いになろうかと思います。気がついておったにもかかわらず、あるいは事実関係は知っておりましたけれども、そういう法律上の理屈がわからなくて受け取ってしまったという場合も理論的には考えられるわけでありますけれども、それが、受け取った態様によりまして送達の効力というものが、ケースによっては責問権の放棄というようなことが考えられる場合もあろうかと思いますが、やはり受領した者と送達を受けるべき者との関係でありますとか、あるいは文書の内容でありますとかいったようなことによって、送達の効力あるいはその後の取り扱いをどうするかというようなことが分かれてこようかと思われます。
#45
○小平芳平君 先ほど御説明の中にあった「事理ヲ弁識スルニ足ルベキ知能ヲ具フル者」という、これはどういう程度の人になりますか。
#46
○政府委員(中島一郎君) この補充送達の何物たるかを理解するという知能程度が必要であろうかと思われます。と申しますのは、決してこの民訴の送達に関する詳細な規定を知っておる、あるいはそれを理解するという意味ではありませんで、裁判所からの重要な書類が来た、これをこの受送達者本人に渡してやらなければならないのだ、自分はその人にかわって受け取ったのだ、こういうことが認識できれば十分であろうかと思うわけでありまして、一般的に申しますと、未成年者であっても十分に、年齢によりましてはそういう弁識能力はあるというふうに言われておるわけでございます。
#47
○小平芳平君 未成年者でも十分そういう能力はあるという、それは年齢によりまして十分あると思いますが、たとえば小学生、中学生あるいは何歳以上というふうに分けてお答えいただけますか。
#48
○政府委員(中島一郎君) 何歳ぐらいとか、あるいは小学校、中学校どの程度の学校に行っておればということを一般的に申し上げるのはむずかしいかと思いますけれども、やはり郵便集配人といたしましては、子供が出てきて少し話し合いをしてみた、郵便だけれども判こを持ってきてくれと、こう言ったところが、判この所在も知っておったし、それも持ってきて応答がよどみがなかった、お父さんが帰ってきたらこれを渡してくれるねと言ったら、十分それも引き受けたということであれば、補充送達をするのではないかというふうに思うわけであります。
#49
○小平芳平君 それは、確かに表現するのはむずかしいと思います。
 次に、事務員のほか雇い人に対してもできるというふうになっておりますが、事務員のほかに雇い人というものを別出しなければならない理由はどういうことでしょうか。
#50
○政府委員(中島一郎君) 事務員もやはり雇い人の中に含まれるわけでありまして、雇い人の中には事務員と呼ぶには必ずしも適当でないというような仕事をしておる人もあろうかと思うわけでありまして、古い民訴の解説書などを読んでみますと、あるいは人使さんとか給仕さんとかいうようなものが事務員でない雇い人に含まれるのだというふうに書いてあるものを見たことがございますけれども、現在でどういう例になりますかわかりませんけれども、事務員と限ってしまわないで、広く雇い人というふうにしたものというふうに御理解いただきたいわけであります。
#51
○小平芳平君 書記官が郵便に付する送達を行った場合、あわせて普通郵便で送達を行った旨を本人に通知する制度を設けて、普通郵便送達の改善を図るべきであるという意見がありますが、これについてはいかがでしょうか。
#52
○政府委員(中島一郎君) 御質問を正しく理解しなかったのかもしれませんが、百七十一条の四項によって住居所あてに通知をするということとは別の何か制度を御提案になっておるのでしょうか。
#53
○小平芳平君 今回の改正で、就業場所において本人以外に書類を交付した場合は本人に通知いたしますという制度が設けられます。それと同じように、郵便に付する送達を行った場合、普通郵便で本人に通知するという制度を考えるということはありませんか。
#54
○政府委員(中島一郎君) 失礼しました。
 百七十二条で現在書留郵便に付する送達というのをいたしておりますが、その場合に、今回新設されます百七十一条の四項のような普通郵便等による通知を重ねてするということであろうというふうに理解いたしました。
 確かに意味のあることでありまして、現在の裁判所の送達の実務においてもそういうことが行われておるようであります。これを法律上の制度として取り入れるかどうかということにつきましては、将来の検討課題にさしていただきたいと存じております。
#55
○小平芳平君 在監者に対する送達は監獄の長に対してなすとなっておりますが、これはどういうことになりますか。在監者に対する送達は本人に対してなすということは、何か支障がありますか。
#56
○政府委員(中島一郎君) これは監獄の長に対して送達をいたしまして、そして監獄の長がその書類等を検閲と言っていいのかどうかわかりませんが、内容等を検討いたしまして、本人に渡すべきものは渡すということでありますから、本人あてに送達するのではなくて監獄の長あてに送達するという制度になっておるわけでございます。
#57
○小平芳平君 いや、そういう制度になっております点が、本人に直接送達するということは支障がありますかというお尋ねをしているわけです。
#58
○政府委員(中島一郎君) 本人のプライバシーということから言えば、本人に対して送達をするということが好ましいのかもわかりませんけれども、一方、在監者でありますので、その処遇の問題等を考えて、その本人の通信の秘密というものを犠牲にしてまでも在監者に対する処遇という面を優先させておるのだといううふうに考えます。
#59
○小平芳平君 それから、寺田先生からいろいろ御質問のあった、判決書の事実摘示欄に証拠に関する事項を記載するには、訴訟記録中の証拠の標目を引用することができるという点についての改正でありますが、この点についてはいろいろと質問したい点もあったんですが、最後になりますので、簡単で結構ですから、この改正の趣旨を説明していただきたい。
#60
○政府委員(中島一郎君) 判決書の事実欄に何を書くかということでありますが、裁判所が当事者の主張をどう認識したかということを、これは必要最低限度書かなきゃならぬだろうということはもう争いがないことであります。当事者によってどういう証拠が提出をされ、それに対してどういう認否がされたかということを書く必要があるかということについては、これは必ずしも反対説がないわけではないわけでありますけれども、一般的な考え方としては証拠に関する提出認否も書く、裁判所がそれをどう認識したかということを書くべきであるという解釈で現在まで来ております。
 しかし、昭和三十一年でありましたか、記録の編綴方式が改められまして証拠の目録というものがつくられまして、その訴訟においていかなる書証が提出されたか、それに対してどのような認否がされたか、どのような証人の申請があり、その援用がどうなっておるかというようなことが非常に整理された形で記載されるようになったわけでありますから、これを判決の事実欄に書く証拠の摘示として引用するという方法が許されるのじゃないか。むしろ、それを判決書に改めて裁判官が書き写す、引き写すという作業は非常に機械的になってしまっているのじゃないかという議論がかねてから出ておったわけでございます。
 もうすでにそういう意見が出まして、私ども承知しておるのでも二十年以上になろうかというふうに思うわけでありまして、だんだんそういう新しい記録に裁判所もなじんでまいりましたし、当事者もなじんでまいりましたというようなことを考えますと、そういった記録の一部であります証拠の目録を引用するという形で証拠の摘示をするということがいいのじゃないかということが、今回の百九十一条の一部改正の趣旨でございます。
#61
○委員長(鈴木一弘君) 他に御発言もなければ、質疑は終局したものと認めて御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#62
○委員長(鈴木一弘君) 御異議ないと認めます。
 それでは、これより討論に入ります。
 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
#63
○山中郁子君 私は、日本共産党を代表して、民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法律案について反対の討論を行います。
 まず第一に、改正案は、訴訟に関する書類を住居所へ送達するのに支障があるときは就業場所へ送付してもよいこととし、また、就業場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、その者の使用者など一定のかわりの者に書類を交付することができるようになっています。
 確かに、近年、共働きの家庭等がふえて昼間不在者が多くなり、そのために送達がおくれ訴訟が遅延する傾向が生じているのは事実であります。この点については、わが党がこれまでも繰り返し主張してきたように、まず裁判所の人的、物的体制の充実強化を図って、正面から対処すべきであることは当然であります。にもかかわらず、最高裁、政府が便宜的な省力化の方向で対処しようとしているところに問題があります。
 勤務先への送達によって、送達を受ける者のプライバシーが侵害され、職場での信用低下を招き、また債権者によって債務者に対する心理的圧迫の手段として悪用されるおそれがあることは、私の質疑などによっても明らかになったところであります。
 すなわち、現在裁判所から勤め先に送付される書類は封筒に入っていますが、この封筒の裏には受領書がつけられており、そこには「支払命令」とか「略式命令」と明記されていて、かわりに受け取った人が容易に内容を推察し得るものである上に、実際にはその封筒でさえ、ホチキスでところどころとめただけのもので、簡単に開封できるようになっています。このような改正案が実施された場合に、国民のプライバシーが侵害される危険性が生じることは余りにも明らかではありませんか。
 第二に、証人調書、検証調書などについて、事件が判決によらないで終了したときに調書の作成を省略できるものとする点についてであります。
 司法統計によりますと、民事通常訴訟事件の約半数は、和解、取り下げによって終局しており、これらの事件について調書の作成を省略することができるとすることは、確かに裁判所の負担を相当経減することにはなります。
 しかし、翻って考えると、証人の陳述等を訴訟の各段階で調書にとっておくというのは、まさに民事訴訟の基本であります。ところが、このような改正が認められると、あらかじめ和解、取り下げを予想して、裁判所が調書の作成を怠るおそれも生まれてくると言わなければなりません。
 第三は、判決書のいわゆる事実摘示欄に、証拠に関する事項の記載を省略できることとしている点についてですが、これは証拠裁判主義の見地から問題であるのみならず、このような省略によって、一体どれだけ裁判所の負担を軽減することになるのかは、はなはだ疑問のあるところです。
 以上、要するに今回の改正は、近年の最高裁判所が推し進めている裁判の公正、国民の権利確保をないがしろにして、いたずらに裁判の迅速さのみを追求する訴訟促進政策以外の何物でもなく、裁判を受ける国民の権利を重視する立場から、日本共産党は本改正案に強く反対することを表明して、討論を終わります。
#64
○寺田熊雄君 民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法律案に対して、社会党を代表して賛成の立場から討論をいたします。ただ、この賛成は、いわば消極的賛成とも言うべきものであります。
 と申しますのは、この法案は民事訴訟手続の適正、円滑な進行を図るためのものとせられるのでありますが、その中身は、罰金額の引き上げは別として、書記官の事務に関するものが三、裁判官の事務処理に関するものが一であり、また当事者に関するものが一であります。
 その中身を見ますと、国民の要望に沿うものであるとか、あるいは国民の利益を増進させるものであるとかいう立場ではなくして、むしろ裁判官や書記官の立場に立ってその労を省く目的のものであります。私どもは今後もこのような傾向が進むのではないかという懸念を抱かざるを得ませんし、また、これらの改正は、他の訴訟上の諸制度との整合性に若干そごを来すのではないかという感じがするからであります。
 しかしながら、日弁連の事務総長に来ていただきまして直接確かめましたところ、この法案に対しましては、すでに日弁連も大筋において同意しております。また、裁判官や書記官の事務上の負担がきわめて重く、その労を省く必要も否定し得ませんので、ある程度の心理的な抵抗は感じつつも、あえて賛成の立場をとった次第であります。
 それゆえ、次に、この法案に対して抱く私どもの懸念や不安に関して若干の意見を申し述べたいと存じます。
 第一に、訴訟が裁判によらずして完結した場合の証人調書等の省略、民事訴訟法第百四十四条ただし書きの問題でありますが、これは実際問題としては、訴訟が和解によって解決した場合に最も大きな効用を発揮し、書記官の調書作成の労を省くものであることは、たれしも異議がないと存じます。
 これらの調書は、もともと民訴法第百四十二条、百四十九条等により、その都度、迅速に作成せらるべきものでありますが、裁判官中には、きわめて少数ではありますが、強引な訴訟指揮により、訴訟の初期の段階で当事者に和解を強要する裁判官もないではありません。また、事務の繁忙のために調書の作成が遅延する場合もないではありません。したがって、いわゆる和解含みの事件におきましては、そうした期待のゆえに調書作成が遅延せられ、その結果として、調書作成の省略が当該和解の成立した日に行われた証人調書等にとどまらず、相当以前にさかのぼるおそれもないではないという懸念を抱く次第であります。
 それゆえ、この制度の運用に当たりましては、裁判所が当事者に対して調書の作成を求める意思があるかどうかを明確に確認する必要がございます。また、裁判官の書記官事務に対する適切な指導監督が必要であることを指摘いたしたいと存じます。
 第二に、就業場所においてする送達、すなわち民訴法第百六十九条第二項の新設等については、その要件として二つの理由が掲げられております。
 その一つは、被送達者の住居所等の知れないとき、その二は、その場所に送達するについて支障があるとき等であります。右のうち、住居所の知れないときの証明方法は、民訴法第百七十八条の公示送達をなす場合と同様であるという政府の答弁でありますが、これは今後の運用においてかたく守らるべきものであると考えます。
 問題は、送達に支障あるときの解釈でありますが、政府の説明は、主として昼間不在の場合を指すというのであります。ところが、昼間不在、夜間在宅であるといたしますと、夜間送達の制度を活用すればよいのではないかという疑問がたやすく生ずるのであります。ところが、これに対する最高裁の答弁は、執行官は現在裁判所の首席書記官級の待遇を受けておりますので、送達のような機械的事務に携わるのは好まないし、裁判所としても執行官には差し押さえ、競売等の本来的事務に精進してもらいたい、執行官代理がおればこれに送達させることも考えられるが、現状ではこれがいないところが大部分である、それゆえに、この夜間送達が困難であるというのであります。
 それでは、執行官による書類の送達制度、なかんずく夜間送達制度は廃止してもよいのかと反問いたしますと、いや、それは存続させてほしいというのであります。
 このあたりにも裁判所の自己中心的論理が支配しておりますし、送達をあたかも下級公務員の職務とするがごとき考え方もうかがわれるのでありまして、にわかに同調し得ないものを感ずるのであります。
 また、そのことをひとまずおくといたしましても、この就業場所への送達は、一たん被送達者の正規の住居所に送達し、それが受理せられない場合に限るべきものであると考えます。この点につきましては、最高裁当局もそうした事務処理を行うことを明言しておられますので、今後の運用においてそれが励行をされることを強く希望するものであります。
 また、送達する書類が他人によってたやすく開封されないよう配慮することが、プライバシーの保護上必要であると考えます。この点も、最高裁はそうした運用を約束しておられますので、その徹底を望むものであります。
 第三の問題は、判決の事実摘示中の証拠説明を省略し、記録中の証拠の標目を引用することを得せしめる問題であります。これは公害事件等、当事者が多数であり、おびただしい書証等が提出せられる場合には、やむを得ない措置であると考えられます。しかし、そうでない一般の事件にあっては、従前の判決のように書証を証人についてのあらましの説明をした方が、これを読む国民にとって望ましいということは言うまでもありません。
 さらに、この改正は、かかる引用を違法とする上告理由に対して、なるほど証拠の摘示はないがそれは別段判決に影響を及ぼさないという理由で原判決を救済した最高裁判決の後追いをし、かかる事実摘示を合法的のものたらしめるものでありますが、訴訟当事者の立場に立って考えますと、これには釈然としないものが残るのであります。
 次に、五百十三条の改正については日弁連との協議が全くなかったようでありますが、訴訟制度の運用に当たる者は裁判所関係者と弁護士でありますので、その改正に当たりましては、必ず事前に弁護士会の意見を徴し、その了承を経て行うことが当然であると考えます。この点は大臣の誠意ある御答弁がございましたので多くは申しませんが、今後はその点に十分留意して誤りなきよう法務当局に望むものであります。
 最後に、この法案は、小範囲のものとは申せ、いろいろな示唆を与えてくれます。
 その一つは、裁判官の書記官事務に対する指導監督の問題であります。先ほども質問の際に申し上げましたように、私個人としても、弾劾裁判所において谷合判事補の事件を裁いてみますと、東京地裁の破産部における当事者と書記官との癒着はついに谷合判事補をも巻き込む結果を生じたものでありますが、これは部長判事がもう少し書記官の事務処理に対して注意深く観察し、適切な指導を与えていたならば防ぎ得た事案であったと考えます。戦後、書記官の地位が向上いたしましたことはまことによいことであります。私ども年来の主張に沿うものでありますが、そのゆえに裁判官のこれに対する指導監督が後退してはならないと私は考えております。
 いま一つは、証人調書の作成に関する書記官事務に関するものでありますが、このうち実は一部はもうすでに速記官によってかわられております。また、東京地裁などは、証人の証言を録音して民間の反訳センターなるものに反訳さして、その納められたものをそのまま調書とすることが行われているかに聞くのであります。
 今後、書記官の事務処理は、録音がそのまま文字になってあらわれる科学技術の発達などにより影響を受けるのではなかろうか、またそれが書記官の事務にどういう影響を与えるのか、これがその人員削減等につながるおそれはないのか、そういうような諸点について、最高裁において、現在の事務処理と将来の見通しに関連する問題で、訴訟関係者の意見を十分に徴して慎重に検討をなすべきであると考えております。
 以上、意見を述べまして、討論といたします。
#65
○小平芳平君 ただいま議題となっております法律案に、私は公明党・国民会議を代表して、賛成の立場から討論いたします。
 本法案は、民事訴訟手続等の適正、円滑な進行を図るための改正でありまして、基本的にはその趣旨に賛成するわけであります。しかし、本委員会における質疑を通じまして感じました点を、若干指摘しておきたいと思います。
 まず第一点は、証人調書等の省略についてであります。
 すなわち、本法案は、訴訟が裁判によらないで完結した場合には、証人調書等の作成を省略することができることにしております。しかし、この証人調書等の作成の省略は、裁判所の負担の軽減と引きかえに当事者に不当に不利益を及ぼすことにならないでしょうか。遺憾ながら私には、質疑を通じまして、当事者に不利益とならないことの確証を得ることができませんでした。せめて、証人調書等の作成の省略は、当事者の明確な意思の確認を得て行うべきではないでしょうか。この点についての運用を強く希望いたします。
 次に第二点は、就業場所への送達手続の新設に関してであります。
 就業場所への送達手続につきまして、本法案は、送達を受ける者の住居所等が知れないとき、または住居所等に送達することについて支障があるときに行うものとしております。しかし、ここでの、支障があるときの意味は必ずしも明確でなく、かつ、これまでの最高裁判所及び法務省の説明によれば、送達を受ける者の支障の有無よりも、むしろ裁判所側の支障の有無にその判断の重点が置かれているようであります。国民の側から見た場合に、まことに遺憾なことと言わざるを得ません。また、この就業場所への送達は、その運用いかんによっては、送達を受ける者のプライバシーの保護に欠けることとなるおそれが内在していると言わざる得ません。
 以上、指摘いたしました点が私の杞憂にすぎないかどうかは、この法案が成立した後の運用いかんに大きくかかっているものと思います。かような観点から、本法案の運用には十分に慎重を期していただきたいと念願いたします。
 最後に、この法案をめぐって、法務省と日本弁護士連合会との間において若干の意見の食い違いがあったようでありますが、今後はこのようなことのないように切望いたします。
 以上の点を申し上げまして、賛成討論といたします。
#66
○委員長(鈴木一弘君) 他に御意見もなければ、討論は終局したものと認めて御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#67
○委員長(鈴木一弘君) 御異議ないと認めます。
 それでは、これより採決に入ります。
 民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#68
○委員長(鈴木一弘君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、寺田君から発言を求められておりますので、これを許します。寺田君。
#69
○寺田熊雄君 ただいま可決されました民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法律案に対し、自由民主党・自由国民会議、日本社会党、公明党・国民会議、日本共産党、一の会の各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。
    民事訴訟法及び民事調停法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
 一 最高裁判所は、訴訟が裁判によらないで完結した場合における証人調書等の作成省略の運用に当たっては、調書の速やかな作成を求める法の趣旨にかんがみ、その運用に遺憾なきを期するとともに、当事者の訴訟上の利益を損なうことのないよう配慮すべきである。
 一 最高裁判所は、就業場所への送達に当たっては、あらかじめ住居所等への送達をする等その運用に慎重を期するとともに、当事者のプライバシー保護に欠けることのないよう配慮すべきである。
  右決議する。
 以上でございます。
#70
○委員長(鈴木一弘君) ただいま寺田君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#71
○委員長(鈴木一弘君) 全会一致と認めます。よって、寺田君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
 ただいまの決議に対し、坂田法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。坂田法務大臣。
#72
○国務大臣(坂田道太君) ただいま可決されました附帯決議につきましては、最高裁判所に十分その趣旨をお伝えし、運用上遺憾のないように配慮いたしたいと考えます。
#73
○委員長(鈴木一弘君) なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#74
○委員長(鈴木一弘君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 午後一時再開することとし休憩いたします。
   午前十一時五十一分休憩
     ―――――・―――――
   午後一時八分開会
#75
○委員長(鈴木一弘君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
 前回に引き続き質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言を願います。
#76
○寺田熊雄君 まず、海難事故が最近どの程度発生しておるのか、その原因、規模、損害額、これを主管の官庁の方に御説明をいただきたいと思います。
#77
○説明員(鈴木正明君) 私の方で持っておりますのは、救難を要すると認められた海難の数でございますが、その数で最近五年間を申し上げます。
 五十二年が二千三百六十九隻、五十三年二千三百五十七隻、五十四年二千百四十五隻、五十五年二千三百八十六隻、五十六年二千六十七隻で、大体傾向としましては、横ばいからやや減少ぎみという傾向を示しております。
 それから、その原因でございますが、この五年間のトータルで申し上げますと、一番多いのが乗り上げでございまして、これが全体の一九%ぐらい、それから二番目に衝突でございますが、これが大体一六%ぐらい、その次、三番目が機関故障、エンジンのトラブルでございますが、これが――順番が逆になりましたが、エンジントラブルの方が二番目でございまして一七%ぐらい、大体こんな感じでございます。
#78
○寺田熊雄君 それで、あなた方が救助せられた船舶というのはどのくらいの規模のものであったのか、大小さまざまであろうと思うけれども、大体のところを説明してください。
#79
○説明員(鈴木正明君) 海難の規模を何ではかるか、ちょっと手元の資料がございませんので、たまたま持っております損害の見積額、と申しますのは、海難を起こした人から、その船がどのくらいの価格するものであろうか、こんな額を一応参考のために聞いております。その額で申し上げますと、年によって変動はございますが、大体毎年五百億ぐらいの感じでございます。
#80
○寺田熊雄君 いま座礁が一番多く、その次が衝突であるということを言われたですね。その衝突したり座礁したりするのは、これは外国船と日本の船舶と大体どの程度の割合を占めておるか、それはわかりますか。
#81
○説明員(鈴木正明君) 全体の海難の中で申し上げますと、非常に少ない率になりますが、外国船はわりと大型船が多うございますので、たまたま千トン以上に区切って申し上げますと、千トン以上の中では、これは年によってまた変動がございますが、千トン以上の海難の件数の中では、外国船の割合が五〇%から七〇%ぐらいという見当でございます。
#82
○寺田熊雄君 私どもがこの船舶所有者の責任制限ということを考えますと、同じような危険性を伴うものは航空事故なのであります。大体船舶の事故と航空機の事故と、常にこの事故発生による損害の処理、賠償問題、こういう問題を扱う法理というものはその両者が相互に関連をし、またその制度を模倣しておるというふうなようにも見ておるんでありますが、航空機事故に関する国際条約、これはどうなっておるのか、この点をちょっと御説明いただけますか。
#83
○説明員(土坂泰敏君) 航空の損害賠償制度は、国際運送と国内運送で違っておりまして、さらにまた、旅客と貨物で取り扱いが違っております。
 いま御指摘のありました条約でございますが、条約の適用がございますのは国際運送の部分だけでございまして、国内は条約と関係がなく約款で取り扱いが決められております。
 そこで、順番に申し上げますと、まず国際運送のうちの旅客でございますが、旅客につきましては、批准しております条約といたしまして一番新しいものはヘーグ条約でございます。これによりますと、責任限度額は二十五万金フラン、換算額にもよりますが、約四百六十万円でございます。それから責任原理でございますが、過失推定ということになっております。ただ、現実の取り扱いは約款でこれよりもさらに責任が航空会社に強化された形で決まっておりまして、責任限度額は十万SDRでございます。これも換算額によると思いますが、一応換算をいたしますと約二千七百万円、それから責任原理は無過失責任でございます。
 それから次に貨物でございますが、同様にヘーグ条約で決まっておりまして、責任限度額は、別に申告をいたしますとその申告額ということでございますが、そうでない場合は一キログラム当たり二百五十金フランでございます。これも一応の換算をいたしますと、一キログラム当たり約四千六百円でございます。それから、責任原理の方は過失推定ということで決まっておりまして、これは条約上も約款上も同じ扱いでございます。すなわち、約款上も同じような内容で決められておるわけでございます。
 以上が条約でございますが、念のために国内関係について申し上げますと、国内は、旅客につきましてはこの四月から責任限度額が撤廃になりました。責任原理は過失推定でございます。それから、貨物につきましては、これも別に申告をした場合はその額によるわけでございますが、そうでない場合は、貨物一口につきまして三万円というのが約款上の取り扱いでございます。
#84
○寺田熊雄君 いま御説明のあったヘーグの議定書、それから五十年九月に成立をしておるモントリオール第三議定書、これはわが国はまだ批准してないんですね。
#85
○説明員(土坂泰敏君) 御指摘のとおりでございまして、へーグの議定書は先ほど御説明しましたように四十二年の七月に批准をいたしましたが、モントリオール第三議定書というのは、成立はしておりますけれども批准はまだしておりません。
#86
○寺田熊雄君 ただ、わが国の国民が外国の航空機によって旅行をする、あるいは日本航空に乗って外国へ旅行をするという場合に、批准はしていないけれども、やはりこのモントリオール第三議定書の責任限度額による処理を余儀なくされるというわけでしょうね。その点はどうなんだろうか。
#87
○説明員(土坂泰敏君) まさに御指摘のとおりでございまして、批准はしておりませんけれども、モントリオール第三議定書は成立しておるわけでございます。
 先ほど約款上の取り扱いが十万SDRであると申し上げましたが、モントリオール第三議定書はまさに責任限度額を十万SDRと決めておるわけでございます。いま批准しておる条約はヘーグでございまして、これは二十五万金フランでございますが、それを上回る十万SDRの額を、現実に批准はしていないけれども、その内容を先取りした形で約款上定めて、実務上それによっておるというのが現実でございます。
#88
○寺田熊雄君 ただ、その場合は無過失責任の過失がない場合の処理であって、これはたとえば飛行機会社にその使用者責任を負担せしめ得るような場合、いわば飛行機の整備が不良であったための事故であるとか、あるいは搭乗員の重大なる過失によって事故が起きた場合、したがって使用者責任を問われるような場合、こういう場合は、この責任の制限というものは適用がなくなるのではないかと考えられるけれども、その点はどうでしょう。
#89
○説明員(土坂泰敏君) 条約の取り扱いは、批准しておりますヘーグの条約によりますと御指摘のようなことでございまして、航空会社の方で責任がなかったという立証ができれば責任を負わないわけでございます。そして、国内の旅客運送約款では、現実にそういう取り扱いになっております。
 ただ、先ほど申し上げました国際旅客でございますけれども、国際旅客だけはここを、やはりモントリオール第三議定書を先取りしたかっこうで無過失責任ということを決めておりまして、旅客、貨物、国内、国際と四つ区分があるわけでございますが、四つのうち三つは御指摘のようなことでございますが、国際旅客だけは、モントリオール第三議定書を先取りして無過失責任という姿になっておるのが実態でございます。
#90
○寺田熊雄君 その点がちょっとまだ私の方で十分そしゃくできないんだけれども、つまり過失がない、無過失であるという場合でも損害の賠償はしなきゃいかぬ。ただ、その場合の限度額を十万SDRとするという趣旨だと思うんですよ。そして、もしも無過失でない、たとえば故意はもちろん問題ないが、故意でなくても重大な過失があればこの責任制限は適用はなくて、つまりそれ以上の賠償責任を負わなければいけないということになるのではないかと、こういうことをお尋ねしているわけです。
#91
○説明員(土坂泰敏君) 失礼いたしました。
 故意があった場合などにつきまして責任限度額が不適用になるといういわゆるブレーカビリティーのお尋ねであったと思いますが、これにつきましては、御指摘のとおり、そういうことがあった場合には、これはその限度額にこだわらずにそれ以上出さなければならないという定めになっております。
#92
○寺田熊雄君 そうすると、日本航空など、全日空や東亜国内航空も右へならえでしょうが、こういうわが国の航空会社の国内の飛行、これについてはもう責任の制限というものはなくて、現在ではいわば無制限というか、損害の実額を賠償しなければいけないという立場に立っておると、こう伺ってよろしいですね。
#93
○説明員(土坂泰敏君) 先生御指摘のとおりでございます。
#94
○寺田熊雄君 この船主責任、今回この責任限度額の引き上げを実施するというものでありますが、これは被害者である漁業者等にいたしますと、あるいは船舶の衝突の際は被害をこうむるのはえてして小さい方でありますからして、そういうトン数の少ない船舶の所有者、こういうものはこの責任限度額の引き上げによって大変利益を受けるのではないかと、かように考えておるわけであります。しかし、その反面、船舶の所有者の方は責任限度額が引き上げられた関係上、かなりな額を賠償しなければいけないということになりますと、これに対してどうしても保険制度を活用しないと乗り切れないという事態に遭遇する、これは明らかであります。
 そこで、こういう場合に備えての保険制度、これはどういうふうに運用されておるのか、また制度はどうなっておるのか、これをお伺いしたいわけであります。何か過去の国会の会議録等を調べてみますと、船主が相寄って相互保険の制度を活用しておるという面も出ておる、また船舶の関係は多分に国際的な規模で行われますので、英国は常に長い歴史を持って保険制度を運用しておるということも聞いておるわけであります。そういう国内、国際の両面にわたる保険制度の活用、こういうことをちょっと御説明いただきたい。
#95
○説明員(松田篤之君) 仰せのとおり、保険制度の発足のきっかけ自体が船舶に始まると言われておりまして、古くからイギリスを中心とした世界をめぐる保険の仕組みがございます。したがいまして、飛行機にしろ船にしろ、こういった乗り物につきましては、世界じゅうどこの船が沈んでも、どこで船がぶつかっても、その責任を保険会社あるいは後から御説明いたしますが、船主の相互保険組合といったところが負担をし合いまして、責任の分散を図るということによって、巨額の負担をごくわずかずつの負担で済ませるという仕組みが発達をいたしております。
 御指摘の、船主相互保険組合といった船主のかぶります損害につきましての仕組みでございますが、日本におきましては二つの仕組みから成り立っておりまして、船と船とがぶつかった相手の船に対する損害、船が沈んだというような場合につきましては、いわゆる民間の保険会社が船舶保険というもので、自分の船の損害とともに衝突した船につきましても、相手の船の損害までも担保するという仕組みがございますが、それ以外の部分につきましては、船主相互保険組合と申します船主さんたちの集まりの助け合いの組織ができておりまして、大体四千六百人ぐらいの組合員がおりまして、八千七百隻といった船をカバーしております。
 したがいまして、平均的には一人で二隻ぐらいしか持たない小さな船主さんが多いわけでございますけれども、こういった方々が相互に助け合いの組織として組合をつくっている。そこに船の危険によります三つの危険をカバーをする保険をかけている。
 三つと申しますのは、船主の危険といたしますと、まず船舶の所有者として持つべき責任、たとえばいま申し上げました船がぶつかったということもございますし、それから船が油を出して海面を汚してしまったと、そういう場合にみずからその汚れを取り去る、あるいは沈んだ船を撤去する事業といったものもございまして、今回の法律に関係のございますような、衝突によって相手の船の人命を傷つけたり、あるいは岸壁等を壊してしまったといった船主の責任の分がございます。これが一つは船主の所有者としての責任。
 二つ目は、船員の雇用主としての責任がございます。ですから、自分の船に乗っている船員が病気になって船をおりなきゃいけないといったときに突然かかる費用であるとか、あるいは海難によりまして船員の所有物を流してしまったといったいわゆる船員に対しての責任もございます。
 それから三番目のものが、貨物の運送人としての責任でございまして、たとえば仕向け地を間違ってしまったためによけい回送の費用を要したといった場合もございます。こういった三つの立場からの危険をお互いに助け合いでカバーをし合うというのが、船主相互保険組合というのが日本で一つございまして、そこが引き受けているわけでございます。
 そこでは、毎年保険料といたしまして百十億程度の保険料を集めまして事故が起きた場合に備えているわけでございますけれども、ともかく大変大きな事故が予想されますので、自分の保険組合の中の保険料で賄えるということが必ずしも約束できないということで、その組合では一定の金額の範囲内、たとえば船の大きさによりまして、船のトン数でございますが、たとえば千五百トン未満の船につきましては船の責任を三千万円まで、あるいは六千トンから三万トンといった普通の大きさの船でございますと六千万円までをその相互保険組合の中のいわゆる保険金として支払うことにいたしまして、それを超えます損害が出ます場合には、超過損害を担保するという形で、再保険という形で外国の同じような相互の保険組合に出すわけでございます。
 実際には、日本の場合にはイギリスにございますPIクラブに出しまして、そこに出しました保険が、さらに同じようなPIグループと申しまして十ぐらいあるようでございますけれども、そこの組合に分け持つ、それでまだ済まない場合には、ロイズと申しましてイギリスにおきますシンジケートでございますが、個人で財産を持った約二万人近い方が個々に危険を引き受けましょうという約束で、最終的にはそこに責任がいくというかっこうで、いわば無制限に近い危険を各層にもわたって分散をして、どのような事故にでも対応できるような形でこういった危険をカバーをするという形になっているわけでございます。
 簡単でございますが、以上でございます。
#96
○寺田熊雄君 いまPIという言葉をおっしゃったですね。これはプロテクション・アンド・インデムニティーであるというふうに言う人があるが、これは間違いないですかね。これは過去の会議録にはPI、PIといって詳しく載っておらないから、明らかにしたい。
#97
○説明員(松田篤之君) おっしゃるとおりでございます。
#98
○寺田熊雄君 それで実際問題として、この船主の組織しておる相互保険組合、これがいま現にどの程度の実際に保険金額の支払いをしておるのか。また、わが国の船舶がこのPIとか、あるいはロイズとか、そういうものから支払いを受ける保険額というのはどの程度のものがあるのか。その金額などおわかりになったら、ちょっと御説明いただきたいと思います。
#99
○説明員(松田篤之君) 私どもの手元にございます比較的新しい例で申し上げますと、昭和五十五年度の一年間の例でございますが、PIで組合員四千六百人余りから集めております保険料は全部で百十二億円でございます。その百十二億円の保険料のうち自分のところで、正味収保と申しておりますけれども、保有している保険の額が四十五億でございまして、六十六億円ぐらいは再保険として先ほど申し上げましたイギリスにございますPIクラブの方に出してしまいます。そして、四十五億円のうちから保険金として事故によりまして支払われる額が約四十二億円でございまして、約三億円程度が備金に積まれるとか損益になるとかいった形の処理になります。
 六十五億円出されました再保険料に見合いまして入ってまいります再保険金は、昭和五十五年度はたまたま事故が少のうございまして十一億円程度、このときには保険料の持ち出し分が五十億以上になっているわけでございますが、これは先ほど来申し上げておりますように、大変に巨額の無制限に近い事故が起きました場合には、この六十億円の保険料によりまして大量の損害がカバーされるという可能性を秘めているわけでございますので、こういった形で事故の少ない年には常時保険料として外国に支払う形になる、大きな事故が発生いたしますとその分を一遍にカバーをする、こういったかっこうで運営がなされているわけでございます。
#100
○寺田熊雄君 その制度はよくわかりました。
 これはおわかりにならなければ、また外で御説明いただくことにして、いままでにわが国の船舶が大きな事故を起こして損害の賠償をしなければならないのに、いまあなたが御説明になったような保険制度の運用で、その支払うべかりし損害賠償を保険金によって賄うことができたというような事例ですね、非常に巨額な保険金を受領したというようなことがあったら、あなたの御記憶にある程度で結構だから、いつどのぐらいの額のものがあったかということをちょっと説明していただきたいと思いますがね。
#101
○説明員(松田篤之君) 個別の例といたしまして、具体的に巨額の損害の例がどういうものがあるか、私ども具体的な手持ちでは持っておりませんので、後刻調べまして、過去におきます巨額の例を先生の方に御説明に参りたいと思います。
#102
○寺田熊雄君 それから、この法律の制定時の会議録に「IMCO」、これがよく出てきますね。これは何の略なのか、またどういう機能を営んでおるのか、ちょっとそれを説明してください。
#103
○政府委員(中島一郎君) IMCOは、政府間海事協議機関というふうに訳されておるようでございますけれども、海運に影響のあるすべての事項に関する国際協力を推進することを目的といたしまして一九五八年三月に設立をされた国連の専門機関でありまして、本部をロンドンに置いております。一九八二年二月一日現在の加盟国は百二十一カ国ということになっております。それから、IMCOは総会、理事会、海上安全委員会その他の補助機関、たとえば海洋環境保護委員会、法律委員会等があるようでありますが、こういった機関によって構成をされております。
 わが国は、一九五八年三月の十七日に加盟をいたしました。わが国の加盟によってIMCO条約は発効要件を満たしまして、わが国が加盟した日に発効したという経過になっております。わが国は、設立の当初から今日まで理事会のメンバーとしてIMCOにおいて重要な地位を占めておるというわけでございます。
#104
○寺田熊雄君 いま大体局長の御説明でよくわかりましたが、過去の会議録でもIMCO、IMCOと、こう称して、何の略であるかなんということを全然触れていないわけです。私の調べたところでは、インターナショナル・マリタイム・コンサルタティブ・オーガニゼーションであるというふうに承知しておるんですが、これはそういうふうに聞いて間違いないでしょうね。
#105
○政府委員(中島一郎君) そのとおりでございます。
#106
○寺田熊雄君 それから、いま大蔵省の方から御説明のあった船主相互保険組合、これは何年から、どういう法律に基づいてできた組織であるか、ちょっと御説明いただきたいと思います。
#107
○説明員(松田篤之君) 昭和二十五年にできたと聞いておりますが、船主相互保険組合法というのがございまして、昭和二十五年、法律第百七十七号という法律に基づきまして設置された組合でございます。
#108
○寺田熊雄君 この法律は、船主それから用船者並びに船長などの故意、過失の有無とどういう関連を持つのか、その点をちょっと御説明いただきたい。
#109
○政府委員(中島一郎君) 船舶所有者あるいは用船者、船舶賃借人というふうに申し上げた方がいいかもわかりませんが、ひっくるめて船舶所有者等と申しますと、船舶所有者等におきましては、自分の故意、過失によって事故が発生した場合はこれはもちろんのことでありますけれども、船長その他の船員の操船ミスその他の故意、過失によって事故が発生した場合にも、その損害賠償の責めに任ずるというのが商法の六百九十条の規定でございます。そういうことになっておりますけれども、通常の場合は、船舶所有者等はその責任の限度を制限することができるというのが原則でございます。
 ただ、特別の場合には制限することができない。制限することができないのは、現行法では船舶所有者等に故意または過失がある場合でありますし、それから改正法案では、船舶所有者等に故意がある場合及び無謀な行為による場合というのが責任制限のできない場合であります。
 それから次に、船長その他の船員につきましては、船長その他の船員は、自分の故意、過失によって事故が発生いたしました場合には、その責任を負うわけでありますけれども、通常の場合にはその責任限度額を制限することができる。しかし、責任制限できない場合があるわけでありまして、その責任制限できない場合というのは、現行法のもとにおきましては、船長その他の船員自身に故意がある場合でありますが、改正法案のもとでは、故意がある場合及び無謀な行為による場合ということになるわけであります。
 でありますから、船舶所有者等については責任制限できない場合が今回狭められたということになりますし、船長等については責任制限できない場合が広げられたということになるわけであります。
#110
○寺田熊雄君 結局わかりやすく言うと、いずれにしても、船長や船舶所有者等の側に故意または重大な過失があった場合は責任制限の規定を援用できない、こういうふうに聞いてよろしいですか。
#111
○政府委員(中島一郎君) 改正法案では、先ほど私無謀な行為というふうにつづめて申しましたけれども、正確に申しますと「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によって生じた損害」ということになるわけでございます。
 船舶所有者等について申しますと、自分に故意がある場合、それから無謀な行為による場合には責任制限することができないわけであります。船長等についても同様ということになるわけであります。
#112
○寺田熊雄君 だから、その無謀な行為云々というのは、他の法律によく出てくる故意または重大な過失という表現があるけれども、それと同一なのか、それともその概念と異なるものなのか、そういう点をお尋ねしているのです。
#113
○政府委員(中島一郎君) 先ほど申しました「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした」という部分がありますので、重過失という場合に、多くの場合にはその損害発生のおそれのあることを認識しておるのが通常であろうと思いますけれども、重過失という場合に必ずしもその要素を必要しないということになりますれば、重過失プラス損害の発生のおそれの認識ということに理論的にはなろうかというふうに思います。
#114
○寺田熊雄君 そうすると、局長のいまの御説明によると、重大な過失の方が包摂するいろいろな場合が広い、結果の発生を予想しつつ無謀な行為をした方が重大な過失よりは狭いというふうに、そんなようにも聞こえるけれども、そういうふうに理解してよろしいですか。
#115
○政府委員(中島一郎君) 両方が一部重なり合い、一部重なり合わない部分があるのではないかというふうに考えておりますけれども、実はこの法律案のもとになりました条約採択の過程において、この「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」、括弧してこれは重過失だというふうに明らかにしたいという提案があったわけでありますけれども、それが取り入れられなかったというようないきさつもありますので、若干そこに一部重なり合わない部分があるのではないか。
 どちらが一方的に広くて、どちらが一方的に狭いかということにつきましては、これは具体的な場合一つ一つについての検討を十分にいたしませんと軽々に結論を申し上げるわけにもいかないかと思うわけでありますけれども、先ほども申しましたように、重過失という場合に、私どもが認識ある過失ということを一方において申しますが、その認識ある過失の認識あるという部分が、必ずしも重過失という場合に包摂されているとは言えないのじゃなかろうかということを考えますと、この重過失プラスおそれの認識というものが、「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」ということになるのではなかろうかと考えておるわけでございます。
#116
○寺田熊雄君 大体わかったんですが、その重過失の中には結果の発生を認識しない、認識すべかりしであるのに認識しなかったという場合が含まれるから、だから、あなたのおっしゃるように、結果の発生を認識しておる場合だけだということになると、認識すべかりし場合に認識しなかったという場合が除かれるからね。そうなるでしょう。だから、重過失という一般的な概念で処理しようとすると、その方が広いということが言えるのじゃないでしょうかね。
 まあ、余り法律解釈ばかり論じてもいかぬから、一応これで終わりにします。
#117
○小平芳平君 いまの重過失の問題について若干質問したいわけですが、「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」という場合ですが、たとえば濃霧中の運航とか、あるいは救命ボートを備えておかなかった場合とか、救命ボートを備えておかないということは余りないかもしれないが、それが緊急の場合使用できなかったというような場合、あるいは船舶所有者が定員をオーバーして旅客を乗船させた場合というようないろんなことが考えられますが、その「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」という場合はどういう場合が当たりますか。
#118
○政府委員(中島一郎君) ただいまお挙げになりましたように、濃霧中の運航である、あるいは私どもよく申し上げるのは、あらしが来ておる、暴風雨が来ておる、その暴風雨も程度によるわけでありまして、またこの船舶の性能と申しましょうか、堪航能力にもよるわけでありますから、これはやはり個々具体的なケース・バイ・ケースで考えなければならないわけでありますが、客観情勢をいろいろ考えました結果、通常人とすればこういう状態のもとでは航海することを思いとどまったであろう、出航を思いとどまったであろうというようなそういう一般的な事情がある場合に、これをあえてしたというのがこの「無謀な行為」というのに当たるのではないかというふうに考えておるわけでございます。
#119
○小平芳平君 それで、前回の委員会でもそういうこれに対する局長の御答弁があった、また先ほども御答弁があったんですが、括弧書きで重過失が入っていたのが、条約の制定経過で削られたということについて、どういう意味を持っているかということをちょっと御説明いただきたい。
#120
○政府委員(中島一郎君) 私どもその条約採択の現場におりませんでしたので、その当時のことを聞いたり、あるいは物の本で読んだりするわけでございますけれども、実はそういう提案をしたのはわが国であったわけでありまして、わが国としてはこの「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」というようなこういう表現によって示される過失と申しましょうか、過失の態様というものについては従来余りなじみがなかったわけでありますから、故意か過失、過失にしてもそれは軽過失か重過失か、あるいは認識ある過失か認識のない過失かと、こういうわれわれとしてなじみやすい概念によってこの事柄をあらわしてほしかったということもあったろうと思うわけであります。
 しかし、故意とか過失というようなそういう一つの言葉、その言葉によって一つの概念をあらわすということは、これは国際的な考え方、国際的な問題を処理する場合においては、国々それぞれにおいていろんなもの、事柄を考える。それを、こういう「損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為」というふうに具体的に書きますれば、その点が国によって、その使う言葉のいかんによって余りいろんなことを、区々たることを考えないというようなこともあったろうかと思います。
 それから、先ほどから問題になっておりましたような国際運送条約、モントリオール議定書でありますとか、ヘーグ議定書でありますとかというものにはこの「無謀な行為」という表現が採用されまして、この場合には責任制限できないのだと、こういうようなことで徐々にこういった取り扱いが国際的な処理の方法として定着をしつつあったというようなこともあったのだろうと思います。結局、そういったことから条約の条文としてはこれに近いものが採用されたと、こういうふうに理解しておるわけでございます。
#121
○小平芳平君 したがって、重過失はあるが結果の発生は認識していなかったという場合の方が多いのではないかというような疑問に対してはいかがでしょうか。
#122
○政府委員(中島一郎君) これは認識という心理、心のうちの問題でありますので、実は事実認定としても、あるいはその評価をどうするかということにしても非常にむずかしい問題なのでありますけれども、外から見ることのできない問題でありますから、やはり客観的な事実から認識の有無というものを判断せざるを得ない場合があるのじゃないかというふうに思うわけでありまして、この辺のところは事実認定の問題、ケース・バイ・ケースというふうに申し上げざるを得ないかと思うわけでございます。
#123
○小平芳平君 わが国は重過失が責任制限の阻却事由とされなかったということについて、御説明いただきたいと思います。
#124
○政府委員(中島一郎君) 条約の表現が重過失ということが外されまして、先ほどから申し上げておりますように、この無謀な行為ということになったわけでありますから、それに準拠して国内法をつくるということになりますと、これと違った規定を置くというわけにもまいりません。それを日本文の表現として最もふさわしいものというふうに考えまして、法の三条三項のような表現になったわけでございます。
#125
○小平芳平君 法務省としまして、被害者を保護していくという観点から見て、重過失がある場合でも船舶所有者は責任を制限できるということは、問題が大き過ぎるのではないかというようなことは言えないんですか。
#126
○政府委員(中島一郎君) 先ほどから申し上げましたように、この無謀な行為と重過失とが違うということになりますと、重過失がありながら無謀な行為に当たらないということで責任制限することができる場合があるのじゃないか、こういうふうになるわけでありますけれども、実際問題といたしましては、重過失という以上は結果の発生のおそれでありますから、結果の発生そのものでなくても結果の発生のおそれを認識していたということが通常であろうかと思うわけでありますし、それから国内に関して申しますならば、これによって責任制限することができるかどうかということを判断するのは日本の裁判所であるというようなことを考えますと、故意あるいはそれに準ずるような重過失があるにもかかわらず責任制限ができるというようなそういうケースは、実際問題として起こることを心配しなくてもいいのじゃないかというふうに私どもは考えております。
#127
○小平芳平君 その結果、改正法が施行されますと、船舶所有者は責任限度額までしか保険を掛けないということになるのではないでしょうか。
#128
○政府委員(中島一郎君) 保険のことを私の方からお答えするのは適当かどうかわかりませんけれども、船舶所有者としてはどういう事故が起こるかもわからない、この条約あるいは国内法の適用のない場所で事故を起こすこともあり得るわけでありますから、どんな損害が起こってもいいような保険を掛けておるのが通常であるというふうに私どもは聞いております。たまたま起こった事故がこの法律の適用があり、しかも責任制限できるケースである場合には、その限度額において責任を負担する、保険会社もその限度でしか保険金を支払ってくれないと、こういう取り扱いになっておるように聞いておるわけでございます。
#129
○小平芳平君 今度の新条約によりまして、エアクッション船あるいは海底天然資源開発のための浮き施設などは対象にならない、適用されないと思いますが、いかがでしょうか。改正法ではどう扱われておられますか。
#130
○政府委員(中島一郎君) 今回の条約、七六年条約の十五条の五項におきまして、エアクッション船等についてはこの条約の適用対象外というふうにされておるわけでございます。それは、このエアクッション船等に関しましては、各締約国がこの条約を適用する義務を負わないという意味でありまして、この条約と同じような責任制限を認めてはならないという趣旨ではないわけであります。
 わが国の取り扱いでありますけれども、エアクッション船はその運航の実態等に照らしまして、海上運送法等の事業規制法規あるいは船舶安全法等の安全関係法規、船舶職員法等の船員関係法規など、一連の海事関係の法令におきましては、船舶として従来取り扱ってきておりますし、現在の船主責任制限法においても船舶の範囲に含まれているものというふうに解してきておるわけであります。したがいまして、改正法においても、従来の制度との整合性あるいはわが国におけるエアクッション船の運航実態に他の船舶との差異がないというようなことも考えまして、一般船舶と同様に責任制限権を認めるということにしておるわけでございます。
#131
○小平芳平君 改正法においても人損と物損が生じている場合において、物損のみの責任を制限することが認められておりますが、これについて御説明をいただきたい。
#132
○政府委員(中島一郎君) 責任制限をするかどうかということは、船舶所有者等の意思によるわけであります。船舶所有者等が制限が許される場合でありましても制限することを潔しとしないということであれば、それに従って処理して差し支えないわけでありまして、その場合に人損と物損が起こっておる、人損については責任制限をしない、物損については責任制限をするということの選択と申しましょうか、自由をも認めておるというわけでございます。
#133
○小平芳平君 その場合に、物損については保険から補てんを受けることになりますが、人損については確実に支払われるという何らかの配慮がなされておりますかどうか。
#134
○政府委員(中島一郎君) これは損害額が責任限度内である場合も全く同様の問題が起こってくるわけでありまして、被害者としては自分の救済、自分の債権の満足のためでありますから、船舶所有者等の財産その他を絶えず注意しながら、その散逸等によって自分のせっかくの債権が満足させられないような結果にならないように努めるということが、これは一般論ということになるわけであります。
#135
○小平芳平君 つい最近もあった例ですが、船が座礁して燃料の重油が大量に流れ出した、そういう場合には海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に基づいて船舶所有者は排出油の防除措置を講じる義務があり、また海上保安庁長官はこれを命じることができるのですが、もし船舶所有者が命令に従わなかったために漁業損害が生じたという場合、船舶所有者はその責任を制限することができますかどうか。排出油が大量に流れ出した、防除措置を講じなければならないという段階にある、そのときに船舶所有者がやらなかった、そのために、防除措置を講じないために漁業損害が生じたという場合の責任についてお伺いしたい。
#136
○政府委員(中島一郎君) やはりこれは事故による損害の延長として発生をした損害でありますから、本来は責任制限の対象になるということになるわけでありまして、そういう場合には、先ほどおっしゃいました海上保安庁等において適切な措置をとって損害の拡大を防止して、そしてその費用等について船舶所有者等に求償するということになろうかと思います。
#137
○小平芳平君 海上保安庁が命令してもやらなかったというような場合、むしろ故意に基づく損害として責任制限ができないというふうなことになりませんでしょうか。
#138
○政府委員(中島一郎君) 代執行等の方法によって第三者にその防除措置をとらせると。海上保安庁等の命令にも従わないような船舶所有者等は、もうこれは責任制限ができないと言ってみても、実際の実効は上がらないわけでありますから、その場合は代執行等によって適切な防除措置をとるということになろうかと思います。
#139
○小平芳平君 そうしてその代執行に要した費用については、国の債権は制限債権になりますか。
#140
○政府委員(中島一郎君) 国が直接やるということではなくて、第三者等にやらせるというようなことにもなろうかと思いますけれども、そういった費用につきましては制限債権になるということになります。
#141
○小平芳平君 何か、納得できないような気がしますね。
#142
○政府委員(中島一郎君) もともとの損害の発生について責任制限を認めるというのが基本原則でありますので、その機会にその被害が拡大をするということになるわけでありますから、船舶所有者等にとっては、その一連の損害の発生というものをこの事故による損害発生と見て制限の対象にするというのが基本的な考え方でございます。
#143
○小平芳平君 次のような場合、油が流れ出しつつあるし、また大量の被害が発生するおそれがあるというときに、自発的に防除措置を講じて一生懸命被害の発生を防ごうとして努力したという船舶所有者と、それから先ほど局長から御答弁のあったような代執行に任せてしまった、その船舶所有者との間に不均衡になりはしませんか。
#144
○政府委員(中島一郎君) 船舶所有者等が防除措置を怠った、そのために適切な防除措置がおくれたと、それが先ほどから問題になっております三条三項の「無謀な行為によって生じた」という要件に当たるということになりますと、これはその債権については制限できないという場合も出てくるということになるわけでありまして、その辺は場合場合によって考えなければならない問題であろうかと思います。
#145
○小平芳平君 いまお尋ねしている点は、流出する油の防除措置を講じている船舶所有者、その船舶所有者と、それから防除義務を履行しない船舶所有者、油が流れて被害が発生することがわかっている、油が流れ出すと被害が発生するであろうということはわかっているんだけれども、あるいは海上保安庁から命令も受けているというにもかかわらず、その防除措置を、一生懸命とらないと、そういう二者の間に不公平が、不均衡が生じはしないでしょうか。
#146
○政府委員(中島一郎君) さきにおっしゃいました懸命になって流出油を食いとめるような作業を続けておるという場合には、仮にそういうものによってさらに第二次的な災害が起こったということになりましても、それは責任制限の対象になるわけであります。しかし、それを怠って放置をしたということによって新しい債権、損害賠償債務を負担したと、その債権につきましては、また別途この三条三項の適用の有無を判断をいたしまして、この要件に当たるという場合であれば責任制限をすることのできない債権になると、こういうことを申し上げておるわけでございます。
#147
○小平芳平君 それでは運輸省の方にお伺いしたいのは、「わが国は、この採決の後、特に発言を求め、重過失が責任制限阻却事由に含まれなかった点、及び最低限度額についてわが国の主張と大幅なへだたりがある結果になった点については、依然不満であり、今後の改善を望む」というように運輸省の人が雑誌に書いておられますが、こういう点はどう考えていらっしゃるんですか。
#148
○政府委員(中島一郎君) わが国の提案は、もう少しこの責任限度額を大きく引き上げるというようなことであったわけでありますが、多くの国の入れるところとならなくて、今回の条約のような限度額の改善にとどまったということでありますので、その点についてはわが国としては十分満足しておるわけではないということを結論として明らかにした、今後の改善の努力を期待するという趣旨の発言をしたというふうに聞いておるわけでございます。
#149
○小平芳平君 では次に、国際総トン数によるということにされておりますが、その理由と、それから現行とどういうふうな、どのくらいの違いになるかということを御説明いただきたい。
#150
○政府委員(中島一郎君) 国際総トン数という測度になりましたいきさつにつきましては、これは国際的な統一をとってそういうはかり方をするのだという条約ができまして、わが国もそれを批准するということになったことによるわけでありまして、従来のトン数等からどういうふうに変わるのかということにつきましては、運輸省の所管の方が見えておりますので、そちらから御説明をさせていただきます。
#151
○説明員(石井和也君) 一九六九年のトン数条約というのがございますが、これがIMCOで決められる前の状況を申し上げますと、各国それぞれトン数の算定の仕方が少しずつ違っていたという状況がございます。したがいまして、国際的にトン数のはかり方、それから算定の仕方というのを統一しようという動きがございまして、トン数条約が決まったわけでございます。国際的に統一したトン数でございますので、これを使えば国際的に同じ大きさの船は同じトン数が出るということになるわけでございます。
 それから、これは私どもでちょっと試算した結果がございますが、現在使われております責任トン数と、新しく条約トン数を責任トン数にした場合の違いというのを試算したものがございますが、これにつきましては、船の種類によってかなり幅がございます。多いものですと、新トン数が旧トン数に比べて一・四二倍というのもございます。大体一・二倍とか、そういうものが多いかと思います。
#152
○小平芳平君 この総トン数についてもわが国は別の意見を持っていたと、しかし国際的にやむを得ずそういうふうに決まったというようないきさつがありますか。
#153
○説明員(石井和也君) 一九七六年の海事債権責任条約を採択する会議で、責任限度額の算定の基礎となるトン数として、一九六九年のトン数条約で定める総トン数を採用するということになっておりましたけれども、トン数条約そのものが当時わが国を含めて主要な海運国の多数がまだ締約国となっておらない状況でございます。また、そういう状況でございまして、この条約が発効する以前にトン数条約が発効するという見通しが得られていない状況であった。そのために、トン数条約によるトン数を当時採用するということについては不適当であると判断したためでございます。反対したのはそういう理由でございます。
#154
○山中郁子君 先日の質問の続きになるわけですけれども、前回に申し上げましたことをちょっと整理して前置きをさしていただくと、今回の法改正案は、海運企業を一口に言って一層保護するところにポイントがあって、被害者の救済という点では問題があるということを申し上げました。
 その一つの問題として、一九七六年の十一月ロンドンで開かれましたIMCOの会議で日本郵船の藤代和雄氏が出席されていたと申し上げましたけれども、これは後でまた正確に調べましたら、先日はオブザーバーというふうに聞いていたんですけれども、正確には政府代表の代表顧問という肩書きで出席されておられたんですね。その辺は把握なさいましたか。
#155
○政府委員(中島一郎君) 十分承知いたしておりません。
#156
○山中郁子君 これは外務省の方で調査しましたらそういうことだそうですので、法案の私が指摘している問題点の関連もございますので、そのように承知していただいておきたいと思います。
 それで、今回の改正案が海運業界、船主協会でも歓迎されているということも同時に申し上げました。その歓迎している中身というのが船舶所有者等、つまり船主の責任制限ができる範囲が拡大されたという点であるということを申し上げたのですけれども、答弁で、今回の改正は被害者の保護をも図っているんだということを強調されておられたと思うんです。
 それで、そのことについて引き続きちょっと明らかにしたいと思っているんですが、法務省は今度の改正で船舶所有者等の責任制限できる範囲は拡大するけれども、従来から船舶所有者等の故意、過失は問題に余りならないで、被用者、船長などの故意、過失による使用者責任を問われていたのがより多い。今回の改正で被用者、船長等の責任制限できる範囲は逆に狭くしたので、むしろ被害者の立場からするならば有利になるのではないかと、こういう趣旨のことを言われておられたと思いますけれども、その点については、実際に過去の事例がそうであったというデータがどうもおありにならないようなんですけれども、そこをもう一度、何をもってそういうことが言えるのかという点を、ちょっとお示しいただきたいと思います。
   〔委員長退席、理事小平芳平君着席〕
#157
○政府委員(中島一郎君) 私申し上げましたのは、規定の、条文の形式的な対照、新旧対照ということから申しますならば、船舶所有者等については確かに責任制限することのできる範囲というものが広くなったわけであります。しかし、従来から、ただいまもおっしゃいましたように、船舶所有者が自己の故意、過失によって責任制限することができなかった、自己の故意、過失が問題になったケースというのはわれわれは耳にしていないわけでありまして、もっぱら船舶所有者等は無過失であったというケースが通常の事態であったわけでありますから、今回条約が変わり法律の条文が形式的に変わったからといって、それが実質的に影響を与えるということはそれほど実は考えていないということを第一段階で申し上げたわけであります。
 むしろ、今回の改正で、そういう意味で形式的に条文を新旧対照するという意味で問題がある、問題になるというのは、船長等の責任制限することのできる範囲というものが狭められたのだという点ではなかろうか。これは過去において船長等が責任主体になり、したがって責任制限主体になったというケースはないわけでありますけれども、もっぱら心理的な問題として、船長等の無謀な行為というものも船長等にとっては責任制限することのできない事由として加えられたわけでありますから、心理的な面で船長等に慎重な行動を促すという意味での機能は期待できるのではなかろうかということを申し上げたわけでございます。
#158
○山中郁子君 そうしますと、やはりあれですか、今回の改正でどう分析評価するかというならば、依然として被害者にむしろ有利になるということの方がウエートがあるんだという御見解ということになりますか。
#159
○政府委員(中島一郎君) 私どもは、被害者保護ということから申しますならば、責任限度額を引き上げ、トン数の測度の方法を改めて、同一船舶でもトン数は従来に比べると約二割アップするというような点、あるいは三百トン未満ということで切っておったのを今度は五百トン未満と、みなす五百トンということで統一いたしますために、非常に小型な船舶による事故の場合にも相当な責任限度額というものが認められるというような点、
   〔理事小平芳平君退席、委員長着席〕
あるいは旅客の損害については別枠で責任制限をしなければならないと、旅客の損害についての別枠を認めたという点、そういった点で非常に大きなメリットがあったというふうに考えているわけでありまして、一面において、従来から御指摘になっております三条三項の問題があるにはあるわけでありますけれども、これは一方的に船舶所有者等に対して有利という言い方もできないので、これはいろいろ見方があるのではなかろうかということを申し上げたわけでございます。
#160
○山中郁子君 この前は局長は、船舶所有者等の責任制限できる範囲の問題と船長等の責任制限できる範囲のその二つの問題の関連で、むしろ実際上は船長等のケースの方が多いのだから、その責任制限できる範囲が狭くなったことはむしろ被害者にとっては有利なんだと、この問題でですよ、別のことはちょっと別にして、いまおっしゃった幾つかのことは別な問題として、そういうふうにおっしゃったんですけれども、それはちょっと違うわけですね、そうするといまの御答弁は。それは何とも言えないと、だけれども、別な金額の問題その他でもって有利にできるようになっているんだと理解していると、こういうことですか。ちょっとこの前の御答弁とニュアンスが違うように承りましたけれども、どうですか。
#161
○政府委員(中島一郎君) 問題を三条三項の問題に限って申しますならば、これは非常に企業者といいましょうか、船舶所有者にとって有利な改正でないかと、こういう御質問がございましたので、それは表現だけを比べてみればそういう見方もあるいは可能でありましょうと、しかし表現だけということになれば、今度は船長等についても同様な問題があるわけであって、そこは何とも言えないという意味で、非常に船舶所有者にとって有利な改正だという御意見を打ち消す意味で申し上げた趣旨でございます。
#162
○山中郁子君 わかりました。ということは、この前の御答弁のニュアンスとはちょっと違いますね。私はこの前は、そうおっしゃるならば、それはそうじゃないだろう、次に詰めるよと、こう申し上げたんですけれども、つまり実態を見ますとそういうふうにはならないのですよ。そのことをお気づきになったから多少変わった答弁になったんだと思うのですけれども、現実の問題として船長等の責任制限ができる範囲が狭くなったといっても、三条三項の条文をよく読めば、わずかな部分が加えられるだけで、そして片方、船舶所有者等の方はというと、結局現行の過失の私は実質的には大部分だと思いますよ。先ほどから重過失であるのか、あるいは無謀なというところに表現される別な範囲のものであるかということの比較がどうなのかという議論がありましたけれども、大部分は責任制限できる範囲に加えられるという形になります。
 ですから、故意といわゆる無謀な云々という部分が故意に近いもの、この前の論議にもありましたけれども、そういうものが残されただけだということになりますし、もっとわかりやすく申しますと、被用者、船長等には、故意に近いそういう無謀な行為を慎まなければならないというそういうことが先ほどおっしゃった心理的なという点ではありましょうけれども、それだけの話であって、他方で言えば、船舶所有者等は被用者、船長等に対する指導監督、注意、労務管理等、船体や気象その他の状況判断等、実際問題としてほとんど過失が問われなくなると、こういう状態になると思います。
 それで実際、事実の問題として、結局船舶所有者等は責任制限範囲が広くなって、ほとんどの場合がPIやその他の保険で損害賠償できるというふうになってくるわけで、被害者側にとってみると、責任制限できる範囲が改正によって一層広くなって、逆にだから失うものが多くなるというふうに考えるのが、いまの御答弁を踏まえた上でもなおやはり自然な結論だと思うんですけれども、もう一度この点について確認を求めたいと思います。
#163
○政府委員(中島一郎君) 私はその点につきましては、これは将来のことでありますけれども、過去の実績から見るならば、船舶所有者等にとって従来は責任制限できなかったのに、これからは責任制限できるというケースがそれほどふえるとは思わないということを申し上げておるわけでございますけれども、事柄は将来の問題でありますので、どういう形になるのかというお尋ねであれば、確言はいたしかねるということにならざるを得ないかと思います。
#164
○山中郁子君 最低でも私が指摘する危険はないとは言えないということになると思うんですけれども、私どもはもともと船主等の責任限度額を決めて、加害者が被害者の実損額のすべてを賠償しなくてもよいということになる現行法には反対をしたわけです。それで、いろんな理由を言われていますからここでそれを一々繰り返していただくつもりはないんですが、海運業の特殊性だとか危険性だとかそういうことも入っていますけれども、今日では無線電信などの技術が相当発達していますし、船舶所有者等はいつでも基本的には船長に連絡や指示などができるし、それからそういう面からの監督権行使の困難さを言われるならば、多数の被用者、つまりたくさんの人を使って、そしてまた、高度な専門職につく者を使用している他の陸上企業でも同様な条件なので、海運業に固有のものとは言えないと思うんです。また、いろいろな業務態様の変化は、一層そうした固有なものという要素を低めつつあるということが言えると思います。
 このほかに、保険制度も進んでいる状況から考えて、オーナーは被用者の故意、過失の程度に関係なく被害者に対しては人命尊重、被害者救済の立場に立って実損額のすべてを賠償すべきものだと考えているんですけれども、この法律がそもそもそういう責任制限の法律ですから、そしてそれを今回変えるということの議論ですから、その出発点に戻ることは避けますけれども、そういう立場、この見地からも今回の改正による賠償額の引き上げは、私は引き上げることによってそのメリットというのは実際上はもちろんあります。それを否定はしません。しかし、いま局長もお答えになりましたけれども、被害者の保護という点から言うならば、いま申し上げました見地に立って、よりそれにふさわしいものかといえば、決してそうではなくて、余りに不十分であると言わざるを得ないというふうに思うんですけれども、そういう基本的な立場に立って今回の法改正の賠償額の引き上げの問題についての見解を伺いたい。私は不十分であると思っているわけですけれども、いかがですか。
#165
○政府委員(中島一郎君) やはり船舶所有者等の責任制限制度の必要性というものはだんだん薄くなってきているじゃないかという御意見でありますけれども、その点についてはあるいはおっしゃるような面も一面においてあろうかというふうに思いますけれども、やはり海運業の国際性ということから考えてみますと、わが国だけが船主責任制度を認めないということはこれは困難だというもう現実の問題があるわけであります。
 今回はその根本方針はそのままとして、被害者の保護に向かって前進をするという改正をお願いしているわけでありまして、それで十分かと言われれば、これは採択会議の過程においても日本からもいろんな意見が出まして採用されなかったというような項目もあるということは先ほどからも問題になっているとおりでありまして、一〇〇%満足しておるのかと言われれば、これは必ずしもそうでないというふうに申し上げざるを得ませんけれども、少なくとも現在の制度よりは一歩も二歩も数歩も前進である、そして全体としてこの際これを改正するに十分なメリットがあるのだと、こういう評価でございます。
#166
○山中郁子君 制限金額の引き上げについての一歩前進は認めますよね、もちろん当然のことながら。先ほど提起しました制限範囲の問題について基本的な問題があると私は申し上げておりますので、それは重ねて指摘をしておきます。
 この引き上げの問題につきましても、現行法が施行されてから今日までの船舶所有者の責任制限手続がなされて終結した事件が十件あって、この十件とも実損額を相当下回っているわけで、これは法務省にもお伺いをしているところですのではっきりしているんですが、この十件について物価の値上がり等無視して今回の改正案で試算してみましても、十件中五件は責任制限額は実損額をやっぱり相当下回ると、こういう結果になるんですね。
 しかも、これが実損額自体非常に大きいいわゆる大事故で、すべて責任制限額が相当下回っているということがわかるんですけれども、そういうことも申し上げて、いま局長ももちろん万全だとは思ってないと、こう言われたんですけれども、二割増しになったとしても、かなり実損額を補てんするという上では相当な開きがあるんだということは御認識いただいておかなければいけないと思いますけれども、その点はよろしゅうございますか。
#167
○政府委員(中島一郎君) 責任制限制度というものがあるわけでありますから、実損の全額がてん補されないという事件もあるわけでありまして、たまたまここでいまお挙げになりました十件、なかんずくそのうちの五件についてはそういうケースになるということになるわけでありまして、被害者の保護という面だけから言えば、これはこの限度額で不十分じゃないかと言われれば、そういうことでありましょうし、あるいは責任制限制度そのものがあるからこういう結果が起こるのじゃないかと言われれば、それはそのとおりでありますけれども、それと一方、船舶所有者等の側の立場と申しましょうか、海上企業の安定的な発展という面をも考えてその間の調整を図ると、しかもそれはわが国だけで考えることではなしに国際的な立場で考えると、それにわが国が協調していくという立場で今回の改正案ができ上がっておるというふうに申し上げざるを得ないわけでございます。
#168
○山中郁子君 次の問題ですけれども、改正案の第三条三項についてですけれども、ここでいう「自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によって生じた損害」ということをだれが判断するのかと、この問題なんですが、いかがでしょう。
#169
○政府委員(中島一郎君) これは、責任制限手続を進めます裁判所が判断をするということになります。
 船舶所有者等の側で責任制限をしたいということになりますと、責任制限の開始決定の申し立てという手続をとるわけでありまして、裁判所はいろいろ事実を調査しまして、この要件を満たしておるかどうか、満たしておる場合には、まず供託命令を出して基金を積ませた上で開始決定をするということになるわけでありますが、そのいろいろな段階で債権者側としては、この債権は船舶所有者等の無謀な行為によって生じたものであるから責任制限できないのだということを言って裁判所の判断を争う、あるいは決定がなされた場合には即時抗告という方法によって争うということもできるわけでありまして、そういった機会に裁判所が判断するということになるわけであります。
#170
○山中郁子君 裁判上の立証責任ですね、これは被害者側が立証することになるだろうと思うということを局長は衆議院の法務委員会で述べておられるんですけれども、その点はいかがですか。私どもは、これはやはり被害者でなく船主が、そうではないんだということを船主側が立証をするのが筋であろう、それは被害者側が立証するというのはなかなかむずかしい問題だと思うんですけれども、その点いかがですか。
#171
○政府委員(中島一郎君) この点につきましては、条文の立て方が、まず船舶所有者等はかくかくの場合に責任を制限することができるということで幾つかの要件が書いてありますので、その要件については船舶所有者等が立証する、立認責任を負うということになります。
 この三項は、それにもかかわらず船舶所有者等が一定の場合に責任制限することができないということで、原則に対する例外という形で規定を置いておりますので、これはこれによって利益を受ける側、すなわち被害者側と申しましょうか、債権者側が立証責任を負う、立証責任ということに限定して、しかも伝統的なわが国の考え方に従えば解釈上はそうならざるを得ないというふうに考えるわけであります。
 ただ、具体的な場合として、それでは被害者側に酷じゃないかという御質問でありますけれども、立証責任は転換をいたしませんでも、立証の必要というものはこれは船舶所有者等に生ずるということは十分考えられるわけであります。事故が起こったということはこれまたもうすでに一つの非常に異常な事態でありまして、何らかそこに事故原因がなければ事故は起こらなかったというのが通常でありますから、じゃ事故原因は何だと、こういうことが調査の対象になる。そうしますと、事故原因についての資料を持っておるのはこれは船舶所有者側ということになるわけでありますから、船舶所有者側が事故の帰責事由がないということの立証をしなければ、実際問題として不利益を受けるという可能性はこれは否定できないわけでありますが、立証責任という法律上の概念から言えば、それは被害者側にあるというふうに言わざるを得ないのではないかと思います。
#172
○山中郁子君 局長も、それは被害者にとって酷であるということは認めておられるんですけれども、法律的な概念の問題より以前に、実際問題として、現行でいう過失を被害者が立証するということだって大変ですよね。しかも、今度それがまた一層こういう無謀な行為という形に新たな問題になってくる。船舶所有者等といま言われるのはほとんど企業ですよね、大型船であればあるほど大企業なわけで、会社の規模も大きく複雑で、この責任を問うことは大変容易じゃないわけですね、被害者が。そうすると、そういう点はどういうように救済されるべきであるとお考えになっていらっしゃるのか、簡潔で結構なんですけれども、お尋ねをいたします。
#173
○政府委員(中島一郎君) 被害者に酷ではないかというのは私の意見ではなくて、御質問がそういう趣旨であろうかということでお答えをしたわけでありまして……
#174
○山中郁子君 それじゃ、酷じゃないと思っていらっしゃるわけだ。
#175
○政府委員(中島一郎君) 被害者側が無謀な行為ということを立証いたしますわけでありますが、これはまさにケース・バイ・ケースということになるわけでありますが、私どもが申し上げておりますたとえば暴風雨が近づいておったのに出航をしたというこの客観的な事実は、これは被害者側でも立証することがわりあい容易ではないか、気象官庁その他にデータがあるわけでありますから容易ではないか。それにもかかわらず出航したということであれば、今度は船舶所有者側においていろいろとその間の事情を立証してもらわなければならないという、そういう立証の必要が生ずるのではないかということを申し上げているわけでございます。
#176
○山中郁子君 被害者が、複雑な大規模なシステムを持っている企業である船舶所有者等に対して立証するということのむずかしさということを私は申し上げて、それはやはりなかなか被害者にとっても酷であるということで、先ほど局長もそういうことを言われたと思いますけれども、いずれにいたしましても、普通でもそうなのに、いまいわゆる外国船籍の便宜置籍船、この問題になりますとよけいややこしい話になってきて、私はぜひこれはちょっと大臣にもお願いをしたいと思うんです。
 余り時間がもうありませんから細かいことは申し上げませんけれども、たとえばこれは三月二十一日の事故なんですけれども、パナマ船籍の石炭運搬船のアカデミー・スター号が千葉の千倉町の千田海岸の浅瀬に座礁して、四百五十キロリットルの重油が流出して、また積み荷の五万三千トンの石炭ですね、これも流れ出て、漁民の方々に大変大きな損害を与える事故が起こったんですけれども、これをちょっと具体的に調べてみますと、ややこしい話になっているんですね。
 これは船籍がパナマ、そして形式上の所有者がリベリアのペーパーカンパニーでアカデミー・スターシッピングという会社なんですね。それで、実質的なオーナーは、リージェントシッピングS・Aといって、香港の船なんですね。そして、用船主はジャパン・ラインなんですよ。それで、これは損害賠償の件は一応決着がついているんですけれども、実際に損害賠償の衝に当たったのが実質的なオーナーのリージェントシッピングS・Aという会社の管理会社であるクレイト・インベストメントという会社なんですね。
 これは何が何だかわからないと、こういう状態になって、結論的に言いますと、一億八千万でこれはけりがついているんですけれども、実質上の被害は数十億に上るだろうと言われて問題になっていたケースですね。このうち、ジャパン・ラインは三千万見舞い金で出しただけなんですよ。それで一億五千万をオーナーが出していると、そういうケースなんです。ですから、これに伴う、千葉県ですか、地方自治体の出費も大変大きいわけですね。
 それで、こうなりますと、実際にはだれにその損害賠償をしていいのかもわからないし、ごちゃごちゃしちゃうから、結局はやむを得ずこういうところで手を打たざるを得ないといって大変な実害が被害者に加えられる。この場合、漁民も含めてですね。私は、こういう問題をやっぱり何とか整理をきちんとして、法的措置も含めてということになると思うんですけれども、政府としてもやっぱり考えていただかないと、こういう外国籍の便宜置籍船の事故というのはふえる一方なんですね。これは運輸省の調査でもはっきりしていますし、それからいままでの事故につきましても調査をして整理をしてもらったんですが、これでも相当程度が外国船籍、便宜置籍船の事故で、これは法務省の方でも資料をおとりになっていらっしゃると思いますけれども、海上災害の主な事例ということで、船籍、船舶所有者及び用船主というものをずっと調べてもらったんですけれども、最近の二十二件のうち十件までが外国船籍の便宜置籍船なんですよね。だけじゃありませんけれども、主として便宜置籍船を内容とする外国船籍の船なんですね。
 ですから、この点についてはぜひとも考えていただかないと、これから先、こういう問題がさらにふえてくるわけでしょう。その場合に、今回の船主責任制限法の改正とも関連しつつ、被害者の被害というのは一層大きくなってくるということなので、法務大臣にぜひ実情を一層リアルに認識もされつつ、運輸省とも協議されて、用船主が責任を逃れることができないようにする、実質的には被害者の被害を食いとめるという点での法改正も含めて御研究をいただきたいということをお願いをしたいわけですけれども、法務大臣の御見解をいただきます。
 大事なことは、こういう実態が大変複雑になっているということに対してメスを入れるということもそうですし、そういう複雑な中で実質的な責任がかなりある用船主が責任逃れできるようになっているという、この事実により着目もしていただきたいと、こういうことです。
#177
○政府委員(中島一郎君) 便宜置籍船の問題につきまして、まず私からお答えをさしていただきますけれども、いわゆる便宜置籍船の事故というものがかなりあるということでありますけれども、私の方は直接の所管の官庁でございませんのでその詳細は把握いたしておりませんけれども、確かに問題のあるところでございますので、今後関係官庁とも十分に協議をいたしまして、その対策につきましても私どもとしてできる限りのことはしたいというふうに考えております。
#178
○国務大臣(坂田道太君) 船舶を長期間用船いたしましたものの責任につきましては、現行法制上、明文の規定を欠いておる。したがいまして、解釈にゆだねられておるのでございますけれども、海運界の今日の実情、また諸外国の法制というのをよくしんしゃくをいたしまして、今後立法化を含め慎重に検討してまいりたいというふうに思います。
 また、特に便宜置籍船を定期用船いたしました場合の法律問題につきましては、国際的に統一されました解決によることが望ましいと考えるのでございまして、国際協調の精神にのっとりまして問題が解決されるように今後努力してまいりたいと、かように考えております。
#179
○委員長(鈴木一弘君) 他に御発言もなければ、質疑は終局したものと認めて御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#180
○委員長(鈴木一弘君) 御異議ないと認めます。
 それでは、これより討論に入ります。
 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。――別に御発言もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
#181
○委員長(鈴木一弘君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#182
○委員長(鈴木一弘君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後三時二分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
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