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#1
第096回国会 法務委員会 第12号
昭和五十七年四月九日(金曜日)
    午前十時十一分開議
 出席委員
   委員長 羽田野忠文君
   理事 太田 誠一君 理事 熊川 次男君
   理事 中川 秀直君 理事 横山 利秋君
   理事 沖本 泰幸君 理事 岡田 正勝君
      今枝 敬雄君    上村千一郎君
      木村武千代君    高村 正彦君
      佐野 嘉吉君    下平 正一君
      広瀬 秀吉君    鍛冶  清君
      安藤  巖君    林  百郎君
      田中伊三次君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 坂田 道太君
 出席政府委員
        法務大臣官房長 筧  榮一君
        法務大臣官房司
        法法制調査部長 千種 秀夫君
        法務省民事局長 中島 一郎君
        法務省入国管理
        局長      大鷹  弘君
 委員外の出席者
        警察庁警備局外
        事課長     吉野  準君
        法務大臣官房審
        議官      當別當季正君
        法務省入国管理
        局登録課長   亀井 靖嘉君
        外務省国際連合
        局専門機関課長 佐藤 裕美君
        大蔵省銀行局保
        険部保険第二課
        長       松田 篤之君
        運輸省海運局総
        務課長     山本 直巳君
        高等海難審判庁
        総務課長    木村 敬宇君
        法務委員会調査
        室長      藤岡  晋君
    ―――――――――――――
四月九日
 刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提出
 第五〇号)(参議院送付)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一
 部を改正する法律案(内閣提出第六六号)
 裁判所法等の一部を改正する法律案(内閣提出
 第七七号)
 外国人登録法の一部を改正する法律案(内閣提
 出第六八号)
     ――――◇―――――
#2
○羽田野委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。岡田正勝君。
#3
○岡田(正)委員 まずお尋ねいたしますが、この法律で言いますところの「船舶」の範囲というのは、どこからどこまでですか。
#4
○中島政府委員 法律の第二条に用語の定義がございますが、その中には「船舶」として「航海の用に供する船舶で、ろかい又は主としてろかいをもつて運転する舟及び公用に供する船舶以外のものをいう。」こういう規定がございます。
#5
○岡田(正)委員 関連いたしましてお尋ねをいたしますが、この「航海の用に供する」というのは、どういう範囲でしょう。
#6
○中島政府委員 船舶を船舶の本来の目的である航海に使うということでありまして、たとえば長期的に係留をしておるというようなものは含まれないという意味でございます。
#7
○岡田(正)委員 ということになりますと、小さな問題を出しまして恐縮でありますが、たとえば釣り舟なんてありますね。内海じゃありませんよ、内航の関係ではなくて、釣り舟を借りてあるいは釣り舟を出してお客さんを乗せて外洋で豪快な釣りを楽しむというようなことがよくありますね。ああいうことはこの中に入るのでしょうか。
#8
○中島政府委員 「ろかい又は主としてろかいをもって運転する舟」でなければ、この「船舶」の中に含まれます。
#9
○岡田(正)委員 次にお尋ねいたしますが、たとえば軍艦ですね。軍艦と言ってはおかしいが、日本で言ったら自衛隊の艦艇ですね。こういうものと民間の船とががちゃんとぶつかった場合、いろいろのケースがあると思います。双方に過失があるという場合、あるいは民間の方に過失があった、あるいは自衛艦の方に過失があった、いろいろなケースがありますが、そういう場合は一体これはどうなるのか、ひとつ詳しくお答えいただきたいと思います。
#10
○中島政府委員 自衛艦につきましては、先ほど申し上げましたように「公用に供する船舶」でありますから、この法律に言う「船舶」ではないことになります。したがって、この法律の適用を受けないことになりますので、自衛艦側に故意、過失があった場合にも国は無限責任を負う。したがって、この法律によっては責任制限をすることができないということになります。
 いろいろなケースがあり得るかと思うわけでありますけれども、自衛艦と民間の船と両方ともが有責であるという場合が一つ考えられますが、その場合は両方が責任を負うことになります。しかし、自衛艦側と申しましょうか、国は責任制限ができません。民間の船は一定の限度で責任制限ができるということになります。
 それから、自衛艦のみが有責という場合があろうかと思いますけれども、この場合には国側は責任制限ができません。それから、民間の船は責任が全くございませんので損害賠償義務を負わない、したがって制限の問題が起こらないということになろうかと思います。
 それから、民間のみが有責のとき、この場合は民間が責任を負うことになりますが、これは責任制限ができるということになろうかと思います。
#11
○岡田(正)委員 航海をしておりますときに、積み荷を縛っておくというような関係では常識的にはできておった、ところが、何かの原因をもって積み荷が崩れたために、船が事故を起こすことがよくありますね。こういう場合は一体どういうふうになるのですか。
#12
○中島政府委員 通常期待されるような積み方をしておった、固定も十分にしてあった、にもかかわらず船主側の責任に基づかない何らかの外力が加わって積み荷が崩れた、そのために事故が起こったという場合には無責任、あるいは過失があるということになりましてもそれは責任制限ができる、こういうことになろうかと思います。
#13
○岡田(正)委員 外航船がどうかというのは私は実態を知りませんけれども、内航船でよく見受けられることでありますが、旅客船の場合に定員が決まっておりますね。定員が決まっておるのに定員を超過して乗せておることがないとは言えないと思うのですね。そういう場合には補償の関係は一体どうなるのでしょうか。
#14
○中島政府委員 乗客の人損の場合であろうかと思いますけれども、その乗客を乗船させておりました船舶の責任について申し上げますと、いま定員超過というお話がございましたので、それが損害の発生を知りながらあえて行った無謀な行為ということに当たるかどうかという問題が一つあろうかと思います。その定員超過の具体的事情によりましては無謀な行為になることもあり得るわけでありまして、その場合には責任制限はできない。全額無限責任を負うことになろうかと思います。
 そうではなくて、無謀な行為に当たらないという場合につきましては、まず内航船の場合でございますが、内航船については、乗客の損害については、乗船させておった内航船側は責任制限できません。したがって、無限責任ということになります。
 それから外航船でありますが、外航船の場合には約千二百六十万掛ける定員ということで、責任制限ができるわけであります。したがいまして、定員以上に乗客が乗っておって、しかもその者が損害を受けたという場合には、一人当たりの賠償額が千二百六十万を下回るということもあり得るということでございます。
#15
○岡田(正)委員 次にお尋ねしたいと思いますのは、この責任制限の対象となる債権といたしまして、この中に「船舶の運航に直接関連して生ずるその他の損害(契約違反によるものを除く。)」というくだりがありますね。これは一体どういう意味なのでしょうか。
#16
○中島政府委員 法律の三条一項三号についてのお尋ねであろうかと思いますけれども、人損なりあるいは物損ということになりますと、この一号によりまして、生命または身体が害されることによる損害あるいは物の滅失もしくは損傷ということで賄われるわけであります。たとえば漁業権が侵されたとか、あるいは船舶の上で売店を経営しておりましたところが、その船舶が沈没いたしましたために売店が営業できなくなった、その営業権が滅失したというような場合には、漁業権とか営業権とかいう権利は物、有体物ではございませんので、それについて特別に三号の規定を置いたわけでございます。
 ただ、この括弧内で規定しております「契約による債務の不履行による損害に基づく債権を除く。」とありますのは、たとえば売店の営業権でありますと、自分の船の上の売店の営業権というものは契約に基づいて売店をやらせておるわけでありますから、その契約が履行できなかったことによる損害ということになりますので、これは責任制限できません。相手の船の売店の営業権の損害については責任制限ができる、こういう規定でございます。
#17
○岡田(正)委員 私の物わかりが悪いのだろうと思いますが、船が衝突しますね、そのときに、いまの売店の例でありますが、売店が上で営業しておる、向こうの船の上でも売店が営業しておる、その場合に、たとえば船が沈没したあるいは大破したというようなことで営業ができなくなるという場合に、自分の船に乗っけておるところの売店については責任制限は無制限であるということですか。その制限があるのですか。それとも相手の方が無制限、あるいは制限があるのですか。ちょっとそこのところをはっきり……。
#18
○中島政府委員 相手の船の売店の営業権の分につきましては、責任制限ができるわけでございます。自分の船の売店については、それは「契約による債務の不履行による損害」でありますから、この括弧の中で除かれるわけでありますから、責任制限ができない、無制限の責任を負う、こういうことでございます。
#19
○岡田(正)委員 はい、よくわかりました。
 続いて、それに関連いたしまして、同じように「制限債権を生ずべき損害の防止又は軽減のために執られる措置により生ずる損害」という言葉がありますね。これは恐らく、船が難破しそうになったときにたとえば積み荷を海にやむを得ずほうり出すとか、何かそういう関係ではないかと思うのでありますが、思っただけではいけませんので、間違いのない説明をお願いします。
#20
○中島政府委員 たとえば、損害の発生を防止するということのために作業中に積み荷に与えた損害でありますとか、あるいはオイルフェンスを張るという際に漁網に被害を与えた、あるいは油の処理剤によって漁業に被害を与えた、そういう場合の損害賠償債権というものが考えられるかと思います。
#21
○岡田(正)委員 先ほどの御説明、それからいままでの御説明の中で、旅客の死亡時の支払い金額が千二百六十万円ということでございますが、これが自賠責や航空機に比べましてどうも金額が少ないのじゃないかということにつきましては、皆さん方からいろいろ質問も出てお答えもありましたので、このことについてはもう言及をいたしませんが、ここで私、聞いておきたいのは、お客さんが死亡されましたときに一人当たり千二百六十万というのは、これは全部コンスタントですか。大人の場合、子供の場合、男の場合、女の場合というような区別はないわけですね。
#22
○中島政府委員 この船舶の場合の責任制限は総額で制限するという形になっておりまして、航空機のように一人幾ら以内という制限ではないわけであります。でありますから、総額が約千二百六十万掛ける定員分ということになるわけでありまして、それを現実に被害を受けた人々で分ける、こういうことになるわけでありますが、その現実に被害を受けた人々の損害額というものは個々具体的に算出をされるということになります。でありますから、年齢でありますとかあるいは収入でありますとかということによって区々となるわけであります。その請求額の割合によって総額で抑えられておる基金を案分比例で分配する、こういうことになるわけでございます。
#23
○岡田(正)委員 そうすると、千二百六十万掛ける定員で総額を決めておるのであるというところは、どこかに算式か何か載っておりますか。
#24
○中島政府委員 これは新旧対照表の十七ページでございますが、その上の欄に七条の五項という規定がございます。その規定によりますと、「一単位の四万六千六百六十六倍に船舶安全法第九条第一項の船舶検査証書に記載された旅客の数を乗じて得た金額」、こうなっております。四万六千六百六十六倍、一ユニット二百六十円として計算いたしますと、これが大体千二百六十万になるということでありまして、それに掛ける「船舶安全法第九条第一項の船舶検査証書に記載された旅客の数」というのが定員でございます。それを乗じて得た金額が総額における責任額であるということになります。ただ、例外がございまして、「一単位の二千五百万倍の金額」が次に二として書いてございます。このどちらか「いずれか少ない金額」ということになりますので、通常の場合は千二百六十万掛ける定員ということになろうかと思います。
#25
○岡田(正)委員 この例外というのは、どういう場合のことでどのくらいのものになるのですか。
#26
○中島政府委員 二百六十円の二千五百万倍ということになりますので、六十四億円ということになろうかと思います。損害額が余りにも大きくなって六十四億円になったときには、一号の数字にかかわらず六十四億円で頭打ちになるということでございます。
#27
○岡田(正)委員 これは定員がいっぱいに乗っておった場合と素直に考えまして、そうすると一人当たり千二百六十万というその千二百六十万というのは、先ほどの御説明を聞きますと、いわゆる年齢の差、老若男女、それから収入というようなものにいろいろ計算式があって計算をされて出てくるようでございますが、そうすると、千二百六十万というのは一人当たりの平均単価であって、人によっては五千万も六千万ももらう人もあるし、人によっては五百万か二百万しかもらわぬ人もある、こういうように理解していいのでしょうか。
#28
○中島政府委員 ただいまおっしゃったような大きな数字の開きがあるかどうかはわかりませんけれども、人によって現実に受け取る金額には開きがあるということは申し上げられると思います。(岡田(正)委員「平均と思っていいのですね」と呼ぶ)そうでございます。
#29
○岡田(正)委員 次にお尋ねしたいのでありますが、今回の金額の改正というのは昭和五十年六月以来七年目ということになりますね、国内法でございますから。そうすると、いろいろこの委員会の論議の中にもありましたように、自賠責や航空機の損害賠償と比べて一はなはだしくという言葉が適当かどうかわかりませんが、千二百六十万という平均金額は大変低いじゃないかという御意見が圧倒的でございますね。今回これを可決いたしましたならば、また恐らく常識的には五、六年は改正がなかろうと思うのですね。こういうときに、物価にスライドするというような方法はとれないものでございましょうか。
#30
○中島政府委員 物価スライドの問題でございますけれども、現行法が金を基準にして責任限度額を定めたというのも、その辺のところを考えてやったことであろうかというふうに思うわけでございます。それから、改正法が金によることができなくなったというときのためにSDRというような単位を準備した、そういうものに準拠するようにしたということも、若干はそういう意味もあろうかと思うわけでありまして、この乗客について、その乗客を乗船させております船舶が、乗客の損害について別枠の制限額を設けるということは現行法にはないことでありまして、今回の新条約、したがって改正法によって新しく乗客についての特別の保護ということで設けられた制度でございます。
#31
○岡田(正)委員 ここで、これは私も自信がないのでありますけれども、いままで金で評価されたものが今度はSDRで計算されますね。それで、それの一単位の何千倍とか何万倍とかいう計算の仕方をするのでありますが、そうすると、たとえば円の価格が落ちているようなときには、いわゆる日本の国内の経済事情からいったら、国内で事故を起こして無制限に賠償するというような極端な場合じゃないのですよ、責任制限があるものと考えた場合の金額ですね、これははなはだしく不利益になるというようなことがありませんかね。そういうことはまず心配ありませんか。
#32
○中島政府委員 円がSDRに対して非常に弱くなっておるという場合には、むしろ国内的には多くの円がもらえるということになりますので、不利にはならないと思います。むしろ円が高くなっておるときが問題であろうかと思いますけれども、これは為替一般について起こり得ることでありまして、SDRというものがかなり安定をしておるということから、これに準拠することになったというふうに思われます。
#33
○岡田(正)委員 それから、この中にしばしば人または物の損害という言葉が出てきますね。この物の損害というのは、これはもっぱら積み荷のことを言っておるのだろうと思いますけれども、その範囲というものはどこまでなんですか。
#34
○中島政府委員 物と言います場合には、この条約なり法律では人と旅客以外すべてを指しております。でありますから、有体物その他すべてのものを指す、こういうふうに理解しております。
#35
○岡田(正)委員 そうすると、いまおっしゃいました物の損害というのは、いわゆる人と荷物を除いたその他の携行品を指すのであると考えていいのですか。
#36
○中島政府委員 現行法では、人の損害と物の損害というふうに二つに分けておったわけでございます。今回、人の損害に含まれておりました乗客の損害というものを別枠に取り出して、独立の枠を設けた。したがって改正法では、乗客の損害とそれから人の損害と物の損害、こういう三本立てになるわけであります。乗客と人と、それ以外のものはすべて物の損害、こういうことになるわけでございます。
#37
○岡田(正)委員 どうも私、のみ込みが悪いのでありますが、人と乗客と物とに分けてあるということですね。この場合に言う人とは何ですか。
#38
○中島政府委員 これは普通の用語のいわゆる人でありまして、たとえば乗客を見送りに来ておった岸壁の人が、船が岸壁にぶつかったために死傷したというような場合もございましょうし、あるいは相手船の乗組員その他の人というようなものもあるわけでございます。
#39
○岡田(正)委員 大変くどくて恐縮でありますが、人というのはわかりました。乗客もよくわかりました。それで、人と乗客と物というその物は何ですか。
#40
○中島政府委員 それ以外のものはすべて指すということであります。でありますから、積み荷も含まれましょうし、あるいは船体そのものも含まれましょうし、あるいは構築物その他のものも含まれるということでございます。
#41
○岡田(正)委員 それでは、こういう場合はどうなのでしょうか。たとえばお客さんが手荷物を持って入ったり、それ以外に携帯品がありますよね。それから、私どもには縁なきものでございますけれども、ダイヤの何カラットというすごいものをはめておる。よく旅行なさる方はそういう癖があるようですね。現金をとられたり失ったりしたときの緊急避難措置として、たとえば金無垢の時計を持っているとか指輪を持っているとか、あるいはもう宝石を体じゅうにいっぱいつけて旅行するというような人をたまたま見受けるのですが、そういう身についておるものとか、あるいはかばんの中にたとえばキャッシュを入れる。日本のお札が世界で一番重たいそうでありますが、一万円札が一番大きいので、これを一億円入れて持っておっても四・三キログラムしかないのですから、軽いものですね。特にフランスの金とかアメリカの金なんかだったら、もっとたくさん詰められるわけですね。だから、そういうふうに考えて現金などを携行しておったというような場合、それから、それ以外の貴金属品をデッキの中へほうり込むのはどうも不安心でいかぬから、自分の身から離さぬようにしようというので携行品として船室に持ち込むなんというのはよくあることですね。こういうようなものの被害というのはどうなるのでしょうか。
#42
○中島政府委員 手荷物その他につきましては、一般的には物ということになろうかと思われますけれども、人の損害と一体性のあるもの、これは船舶関係ではございませんけれども、自賠責の場合によく問題になりますのは、たとえばめがねの損傷による損害というのは、人と一体性と申しましょうか、そういうものが認められる場合にはどちらに入るかというむずかしい問題があるわけでありますが、一般的な議論としては、人の損害と一体性のあるものについては人の損害に入るという解釈でございます。
#43
○岡田(正)委員 そういたしますと、船に持って入りました携行品とか、それからいまおっしゃっためがねのようなよくわかる話は別といたしまして、それ以外のたとえば万年筆だ、指輪だ、宝石だ、現金だというようなものなどは全然対象にはならない、あるいは対象にしようと思えば、前もってこういう手続をしておけばなるとかいうようなことがあるのでしょうか。
#44
○中島政府委員 手荷物等はすべて物として対象になるということでございます。
#45
○岡田(正)委員 時間がないから次へ進ませていただきますが、こういう場合はどうなりますかね。船が走っておりますね、それで自殺をしたのなら別でございますが、よくあることでありますけれども、過って船から転落するというようなことがありますね。これは拾い上げてみないと自殺かどうかわかりませんけれども、とにかく自殺の意思は全然持たないのに過って船から落ちてそのために死んだというような場合、それから、拾い上げられたけれども死体になってしまった、あるいは捜したけれども行方不明でわからぬようになった、こういうような場合は、この法律には全然関係ありませんか。
#46
○中島政府委員 船舶所有者側あるいはその被用者側に何らかの加功といいましょうか、関与したということであれば別でありますけれども、もっぱらその本人の行為、本人の不注意によって起こった事柄でありますから、そもそも船舶所有者側の責任の問題を生じないのではないかと思われますので、この法律のらち外にあるということになります。
#47
○岡田(正)委員 次にお尋ねいたしますが、船舶所有者の有限責任の制度そのものについて、理論上からもいろいろと批判がありますね。たとえて言いますならば、公害などの関係で言いましたら無過失責任を追及されるということがありますね。恐らくこれは、船会社が非常な危険を冒して営業しておりますから、その責任を無限にどこまでも追及するということになったらだれも営業ができないというようなことから、いわゆる責任制限という制度を採用しようとしているのだろうと思うのですけれども、その点、なぜ有限責任にするのかということについて説明をいただきたいと思います。
#48
○中島政府委員 この船舶所有者の責任を制限するという制度は、海上企業が多額の資本を投下して船舶の運航をするという非常に危険性の大きい企業であるということにかんがみまして、古くから各国において認められてきたところでございます。その形、主義はいろいろありましたけれども、古くから認められてきた制度であります。また、海上企業が国際的性格の非常に強いものであるということから、わが国だけが責任制限の制度を採用しないということは、実際上困難であるというような事情もございます。そういうことで、この責任制限制度を維持しながらその内容を改善していくということが重要ではないかと思うわけでありまして、今回の改正法によりましてその点の配慮が行われておるというふうに考えるわけでございます。
#49
○岡田(正)委員 説明はよくわかりました。そういう多大の投資をしなければならぬ、しかもリスクは大きいというようなことで、各国がいわゆる有限責任という形をとってこの条約に加盟をしておるというようなことから考えて、わが国としても当然ではないか、こういうことであります。
 そこで、私が確認しておきたいのは、この条約に基づいて各国が国内法をつくりますときに、いわゆる補償の単価としてSDRを採用している。このSDRを採用してあるのは各国皆一緒なのでしょう。それでそのSDRを採用しますが、日本では、先ほどありましたように、一単位の四万六千六百六十六倍あるいは一単位の二千五百万倍、このいずれか少ない方の金額とする、こういう決め方をいまこの法律に出しているわけですけれども、この数字は各国皆同じですか。
#50
○中島政府委員 この条約に即してと申しましょうか、この条約に準拠して国内法をつくるわけでありますから、全く同じでございます。
#51
○岡田(正)委員 この責任限度額の改正は、具体例から見て十分なものかどうかということにちょっと疑問があるように思うのですね。それで、事故の態様によっては不合理なものとなることもあり得るのではないかというふうに思うのでありますが、その点については心配はございませんか。
#52
○中島政府委員 十分かどうかというその十分の意味でありますけれども、実損は常に全額賠償を受けられるのかという意味でありますれば、そうではないと申し上げざるを得ないわけでございまして、制限制度がある以上は、全額賠償されない場合、これはあり得る、非常にまれなケースとしてはあり得るということは否定できないわけでございます。
#53
○岡田(正)委員 その次にお尋ねをいたしたいと思いますのは、責任の制限に関しまして、旅客の被害についての責任の制限とそれ以外の債権とに区別をしましたね。今度はいわゆる人と物とを区別をいたしましたね。その理由は何でしょうか。
 それから、たとえば人と物と両方積んでおるわけですから、その損害が起きた、それでその計算をいたしますときに、私がちょっと心配しますのは、人の方の損害額が大きいのに荷物の損害額も大きいというために、四角四面にここにありますような定員掛ける千二百六十万以外はどうにもならないということで、ぴしゃっとそこで打ち切られてしまうのかどうか。たとえば、物に対する損害という分についても損害額、補償額が出てきますね。その場合に、積み荷は大したことはないけれども、沈没した船価についてはずいぶんな評価があったというので、ずいぶんそこに金が出てくるという場合があっても、船体の方についてはたっぷり金があっても、片方の人の方については定員掛ける千二百六十万の平均だから、それ以上超えてこっちの方へ手は入れさせませんよということになるのかどうか。その点と、人と物と区別した理由とをひとつお聞かせいただきたいと思います。
    〔委員長退席、中川(秀)委員長代理着席〕
#54
○中島政府委員 先ほど申し上げましたように、従来は人の損害という枠と、それから物の損害という枠と、二つしがなかったわけであります。それで、それではいわゆる旅客というものの特別の立場というものを考えてないじゃないか、人の損害に含まれてしまいますので、旅客の保護が十分でないということもありましたし、あるいは自分の船に乗せておる旅客の損害ということになりますれば、定員も決まっておりますし、もし事故があった場合にどれくらいの損害が起こるかということの予測も可能でありますから、それをあらかじめ保険その他によって準備しておくというようなことも可能でありますから、それを別枠にいたしまして、旅客の損害というものを別に立てたわけであります。でありますから、旅客の損害は旅客の損害として責任制限をして、その中で解決をするということになります。
 それから、人の損害と物の損害との関係でありますけれども、人の損害の枠、物の損害の枠というものが一応はございます。それで、人の損害についてその枠内で賄い切れない場合には、物の損害の分に入っていきまして、物の損害と同順位で物の損害の枠から救済を受ける。人の損害に対する救済をできるだけ十分にしようということから、そういう措置がとられておるわけでございます。
#55
○岡田(正)委員 今回、このSDRの責任額の決定方法ですね。いわゆる金から乗りかえてSDRに切りかえるわけですけれども、これによりますところのメリットというのは、わかりやすく言ったら何になりますか。
#56
○中島政府委員 従来は金を単位にして計算しておった、これは先ほど申し上げたとおりでありますけれども、それはIMF体制のもとにおきまして、金が基軸の通貨として価値を持っておった、認められておったということがあったからであります。ところが、一九七一年に米国がドルと金との交換を停止してしまったということがありますし、一方、各国が変動為替相場制に移ってまいりましたために、それからもう一点、金が投機の対象になってその価値が乱高下するというような実態もございますために、金が基軸の通貨となり得なくなったということで、それにかわる何か万国共通の基準ということになるわけでありますが、それに一番ふさわしいものはSDRであろうということになったわけであります。ただ、SDRを認めない国、IMFに加盟していない国というのがございますので、そういった国については若干特別の扱いをしておるということでございます。
#57
○岡田(正)委員 これをもって私の質問は終わらせていただきます。ありがとうございました。
#58
○中川(秀)委員長代理 安藤巖君。
#59
○安藤委員 最初に、外務省にお尋ねをいたしたいと思うのですが、今度のこの新しい条約の採択会議ですか、そこでわが国はどういう主張をしたのか、そしてその主張をした理由は何か。これは全部お尋ねしておる時間的余裕がありませんので、責任制限阻却事由と責任限度額についての関係でお尋ねしたいと思います。
#60
○佐藤説明員 お答えいたします。
 わが国が一九七六年十一月にロンドンで開かれましたこの条約を採択するための会議に出席いたしましてどのような対応をしたかという御質問でございますが、基本的には、一九五七年条約がその作成以来十九年でございますか、大変な年月がたっておりますために、責任の限度額というものが、途中のインフレ等がありましたりしまして、必ずしも適当な額ではないということがありましたので、妥当な範囲まで引き上げるということには賛成する。それから、先ほども御説明がありましたけれども、その間に国際通貨体制が大幅に変革いたしましたので、その限度額の計算単位をSDRにするということにつきましても、これは賛成するという基本的な姿勢で対応したわけでございます。
 それで、各種積極的な参加をしたわけでございますけれども、責任制限の阻却事由ということでございますけれども、それには後ほど触れるといたしまして、それ以外に一般的にどう対応したかにつきましても、若干御説明させていただきたいと思います。
 まず第一でございますけれども、一般的な限度額につきまして、責任制限のシステムに関してでございますけれども、一つの基金の中で人損について優先弁済を認める第一案と、それから人損と物損とで別の基金を設けて、人損の基金からの弁済が不十分な場合には物損の基金に同順位で参加し得ることとする第二案、この二つの案がございましたけれども、わが国といたしましては、第一案では、人損と物損とともに生じた場合に物損が全く補償されない事態も生じかねないということで、これは不合理であるという理由によりまして、第二案を支持したわけでございます。
 それから二番目に、具体的な限度額についてでございますけれども、人損に関しましては一九五七年条約の約二倍、それから物損に関しましては一九五七年条約の一・五倍から二倍程度が被害者保護の充実を図るという観点から望ましい、こういう基本的な立場を示したわけでございます。
 さらに、最低限度額に関してでございますけれども、人損、物損いずれにつきましても、可能な限り高くすること、具体的に申しますと、五千トンから三千トンの船舶に相当する限度額の間で決定されるように主張したわけでございます。結果的には、この条約では五百トンというラインで決まったわけでございますけれども、そのような主張をいたしました。
 さて、お尋ねの責任制限阻却事由についてでございますけれども、草案には重過失が括弧書きで入っておりました。しかし、わが国といたしましては、責任制限阻却事由として船主自身の故意の場合のみとすることにつきましては、これは非常に狭きに過ぎるという問題がありますために、被害者保護の観点等からも重過失が取り入れられるべきであるという主張をいたしました。これは西独等も同じ意見を主張いたしたわけでございます。これに対しまして、アメリカとか北欧の諸国でございますが、保険を安いコストで最大限に利用できるようにする必要がある、こういう方向で対処すべきであるとの観点から、括弧内の規定というものは削除すべきだという主張を行いました。最終的には、括弧内を削除した形で条文が採択されまして、わが国といたしましては、条文の採択に当たりまして、それまでの主張の関係もございますので、棄権という態度を示したわけでございます。
#61
○安藤委員 いまの括弧の中に入っておった重過失が除かれるということでは、わが国の意向は通らなかったということですね。重過失を入れてほしいという要求をしたが、通らなかった。これは運輸省の海運局の総務課の川上五郎さんがレポートを書いておられるのですが、それによると、いま棄権をしたというお話ですが、これは条約の四条の関係ですね。棄権をしたというのは、条約の六条、七条との関係で、先ほどからも答弁をいただきましたけれども、責任限度額との関係でいろいろ異論がある、意見があるというので棄権をした、こういうことになるわけですか。
#62
○山本説明員 お答え申し上げます。
 実は、国際会議の場での具体的なやりとりは詳しくございませんけれども、先生のおっしゃった二点、特に最低限度の問題とそれから責任制限阻却事由の問題でございますが、最低限度の問題は、確かに日本提案よりも今度の七六年条約の方が低い額になったということでございますが、実は日本提案は最低限度だけでなくて、全体の大きな船のトン数まで見ますと、二千数百トン以上は逆に今度の七六年条約の方が高くなっております。したがいまして、そういう全体的な判断というのが一つございます。
 それからもう一つは、確かにわが国の主張をしたのに比べれば低くなりましても、現在に比べまして六倍強ということで大幅に改善されておりますので、この辺は最後は総合的に判断したというふうに聞いております。
    〔中川(秀)委員長代理退席、太田委員長
    代理着席〕
 それから、責任制限阻却事由でございますけれども、これが故意または重過失ということに対しまして、今度の七六年条約によりますと、故意と無謀な行為ということでございますけれども、これは現在の一九五七年条約に比べますと、船舶所有者に比べましては責任制限ができない場合が狭くなる、すなわち、できる場合が広くなる点が若干ございますけれども、船長とか船員、いわゆる乗組員について見ますと、現在の条約では故意のみが責任制限ができないというふうに狭くなっております。それで今回の七六年条約は、船長、船員につきましては故意よりももっと広く、いわゆる無謀な行為ということについても責任制限ができないということで広くなっておりまして、特に実際上は船舶所有者の故意、過失ということは、わりにケースから言いますと少ないものですから、船長、船員、そっちの方が広くなっておりますので、総合的に言いますと現在よりも大幅に改善されたというふうに判断して、全体的な総合判断をしたわけでございます。
#63
○安藤委員 いまの責任制限阻却事由の問題についてですが、これは現行法では船舶所有者等の故意または過失の場合も責任制限されないということになっておるわけですね。だからこの際、重過失なんということを言わないで、案がもともと重過失というのが括弧の中に入っておったのかもしれませんが、過失も入れるべきだというような主張をなぜしなかったのかというふうに思うのですが、だから、そういう点からすると改悪になる。そういうことで重過失なんということではなくて、現行法どおり、責任制限されない方に過失も入れるべきだ。そういうような主張はなぜされなかったのでしょうか。
#64
○山本説明員 お答え申し上げます。
 先ほど外務省から答弁がありましたように、これは全体的な判断をもってやったわけでございますけれども、特に外国の中には、保険マーケットその他を配慮して別の意見があったということは聞いております。それで過失まで広げるのが適当かどうかというのは、いろいろ意見があるところでございますけれども、特に乗組員、要するに今度の七六年条約によりますと、船舶の所有者だけでなくて乗組員とセットというか、同じ要件で軽くしております。それで乗組員の過失というのは、御承知のとおり海難というのは大部分が乗組員の過失にかかわるものが多いわけでございますけれども、そういう保険マーケットの問題、それから各国の反応、それから総合的に実際船舶所有者の故意、過失ということは先ほど申し上げましたようにわりに少なくて、乗組員の問題が多いものですから、そこで大幅に改善されたということで、全体的にこの程度で適当だということで、わが国は先ほど申し上げましたわが国の主張をしたわけでございます。
#65
○安藤委員 重過失を入れろという要求については、前々から経団連は重過失を入れてほしい、重過失にしてくれというような要求をしておったというのが、経団連の発行している文書でも出ているのですが、その経団連の意向を酌んで重過失、括弧内はそのとおり、草案どおり入れるべきである、こういうようなお考えに基づいておられたのではないのでしょうか。
#66
○佐藤説明員 責任制限阻却事由についての考え方でございますけれども、船主自身の故意の場合のみとすることにつきましては、わが国の法制上非常に狭きに失する、先ほど申し上げたとおりでございますけれども、今度は軽過失までに範囲を広げますと、多くの事故についてその責任制限が認められない可能性が生じて、条約そのものの意味が薄れてしまう。したがって、重過失についてその阻却事由という考え方が出てきたわけでございまして、先生がおっしゃられた経団連の関係者の考え方というのは、恐らくこれに似た考えだと思いますけれども、わが国が対応いたしましたのは、この条約そのものの意義、意味ということから判断いたしまして対応したものと承知しております。
#67
○安藤委員 先ほど私が過失まで入れるように主張しなかったのかという質問をしましたときに、そこまで責任が無制限になるというようなことを広げるのはどうかというお話があったのですが、広げるのではなくて、もともと現行法は過失が入っているのですから、広げるわけではないのですよ。現行法を守る立場なんですよ、過失は責任を制限されないのですから。だから、広げるという方じゃないのですよ。その辺のところがどうもよくわからない。だから、重過失だけはせめて入れてほしいというのは、やはり経団連の意向を酌んだのじゃないかとしか思えない。そういう感じがするのですが、どうですか。
    〔太田委員長代理退席、委員長着席〕
#68
○佐藤説明員 一九五七年条約で言いますと、船舶所有者だけがその対象だったわけですけれども、乗組員につきましての場合を考えますと、過失、軽過失を入れますと、それは広げるという解釈が成り立ち得ると考える次第であります。
#69
○安藤委員 それはこれまで法務省の中島民事局長がいろいろ言っておられるところなんですが、しかし、船舶所有者等の関係でいって、過失が除かれてしまうということになれば、責任制限される範囲がぐっと広がってしまうということを私どもは心配し、おそれるわけなんですね。
 そこで、この問題はそう長いことやっておれませんが、結局は賛成をして、賛成をした後で特に発言を求めて意見を表明されたようなんですが、この意見を表明された中には、先ほど責任限度額の問題についてわが国が主張しておったところよりも低いものであるというお話があったのですが、特に発言をされた中身としては、責任限度額についてわが国の主張と大幅な隔たりがあるというふうに不満を表明しておられるわけですね。そして、責任制限阻却事由についての四条については棄権、こういうような態度をとられたわけですが、賛成をしてからあれこれ言ったって始まらぬかもしれませんが、そこまで言うんなら、なぜこれに堂々と反対の態度を貫かなかったのかというふうに思うのです。そして、何もこういうような、私どもに言わせれば、被害者の方の実損を弁償することができないような、船主等の責任を制限してしまうような、こういうのに無理に入らなくたっていいのじゃないか。アメリカのように自主独立でりっぱに被害者の被害を弁償することができるような制度をちゃんとつくる、こういうような態度をとってもよかったのではないかと思うのですが、どうですか。
#70
○佐藤説明員 お答えいたします。
 確かにこの条約の採択後にわが国は発言をいたしまして、まず、その重過失が責任制限阻却事由に含まれなかったことに不満であるという点、それから、小型船についての最低責任限度額がわが国の主張に比べて低過ぎる結果となったことは残念であるとか、そういうような点につきまして発言したわけでございますけれども、ただ、この条約そのものが長い時間かかりまして、主要海運国を中心といたしまして、IMCOの場におきまして法律委員会で審議されてまいりましたわけでして、大方の意見というものがこの条約に定められたような方向で固まったわけでございますので、わが国がこの条約に賛成いたしました理由といたしましては、全体としてやはり海運国としてのわが国の責任、それから、商船の船腹量で申しますと一〇%にも達する大海運国でございますから、わが国のみが自己の主張に非常に固執して最後まで押し通すということは、国際協調という面から考えましても問題であろうということでございまして、いずれにいたしましても、一九五七年条約に比べましてこれまで議論されてきたような種々の改善点があるわけでございますから、そういう総合的な判断に立ちまして、わが国はこの条約の採択に際しまして賛成したということでございますので、御理解いただきたいと思います。
#71
○安藤委員 一面としては海運国云々ということもわからぬではないですが、だからといって、海難による被害者の損害を責任制限というようなことで実損よりもはるかに低い弁償額でもって済ましてしまうというのこそ、日本の国民に対する基本的権利を侵害する、とんでもないものだというふうに思うのです。
 そこで、結論的にお尋ねをしたいのですが、条約の第四条、先ほどの責任制限阻却事由の問題、重過失を入れなかった問題、これは棄権された。そして、先ほど来お尋ねしておりますように、そして答弁もいただきましたように、責任限度額についても不満であるということですね。だから、そういう不満があったけれども、先ほどおっしゃったような理由でもって賛成をしたのだ、これには不満があるのだ、こういうふうに理解してよろしいですか。
#72
○佐藤説明員 先ほど私、最低責任限度額に不満があると申したのは、小型船につきましてわが国の主張は、五千トンから三千トンくらいのところに引いて、できるだけ高いレベルで最低限のところに引きたいということで主張したわけですが、その当時の世界的な、恐らく経済情勢とかいろいろなこともございましたでしょう、それで三百トンという現行の水準よりも二百トン上に上げた五百トンというところでやりましたし、それからトン数の算定の仕方につきましても改善が加えられて、その責任制限限度額というものが全体としては二倍から五倍というような数字で大幅に引き上げられて、被害者保護という観点からも、その当時の状況におきましてはきわめて合理的、妥当な線で結論が得られたということでございますから、採択に当たっては賛成したわけでございますし、そのときの不満の表明というのは、それまでの議論との関係での表明でございますので、将来にわたって考えた場合には、わが国としてはやはりその被害者保護の観点を考慮して、さらにこの限度額というものについて検討を加えなければならないという基本的な姿勢を示すという意味からも、この発言を不満ということで御理解いただきたいと存じます。
#73
○安藤委員 それじゃ、そのことばかりやっておるわけにいきませんので、次に移ります。
 ところで、いよいよ法務省にお尋ねしたいのですが、現在の現行法ができてから幾つかの海難あるいは沈没その他の事故があったと思うのですが、この責任制限手続事件というのがあったのは、全部で十件ですね。この十について、時間の関係もありますが、たとえば昭和五十二年に神戸地裁に申し立てをされた汽船が桟橋に衝突した事件です。昭和五十二年(船)一号ですか、この関係についての実損額とそれから責任限度額というのは、どういうふうになっておりますか。
#74
○中島政府委員 制限債権の額が六千九百七十七万二千百八十八円でございます。それに対する責任限度額が九百五十三万千六百六十円ということになっております。
#75
○安藤委員 いまおっしゃった制限債権の額というのは、実損額のことですね。それはいいですね。
#76
○中島政府委員 そのとおりでございます。
#77
○安藤委員 そうしますと、これは計算すればすぐ出てくることですが、責任限度額は実損額の一三・七%にすぎないという実態が出ておりますね。
 それから、次は静岡地裁下田支部、ここへ申し立てをされた汽船が機船と衝突をした事件、昭和五十二年船一号の事件ですが、これの制限債権の額と責任限度額との関係はどういうふうになっておりますか。
#78
○中島政府委員 制限債権の額が二億二千六百七十六万三千四百五十四円でございます。それに対して、責任限度額が六百九十万円となっております。
#79
○安藤委員 これでいきますと、まさに責任限度額は実損額の三%にすぎないというのが実態ですね。
 それから、時間の関係もありますから飛ばしますけれども、旭川地裁、昭和五十四年船一号、これは汽船が貨物船と衝突した事故ですが、これの先ほどからお尋ねしておる関係はどうなりますか。
#80
○中島政府委員 制限債権の額が一億八千十三万七十五円でございます。それに対しまして、責任限度額が六百九十万円ということになっております。
#81
○安藤委員 これも実損額に対する責任限度額、いまの金額の割合でいけば三・八%にしかすぎない、こういうのが実態ですね。
 それから、松山地裁今治支部へ申し立てられた昭和五十五年(船)一号、これも機船が機船と衝突した事件ですが、これの関係はどういうふうになっておりましたか。
#82
○中島政府委員 制限債権の額が九千百七十一万二千八百四十八円でございます。それに対して、責任限度額が千四百六十六万千百二十円となっております。
#83
○安藤委員 最後に水戸地裁、昭和五十五年(船)一号、これは漁船の関係ですが、漁船がレジャーボートと衝突した事故ですが、これについての先ほどからお尋ねしている金額の関係はどういうふうになっておりますか。
#84
○中島政府委員 制限債権の額が一億五千百二十五万二千九百三十五円でございます。それに対して、責任限度額が二千百三十九万円となっております。
#85
○安藤委員 これも実損額に対する責任限度額は一四・一%、こういう状態になっておるわけですね。
 大臣、よく聞いておってくださいよ。この責任制限制度というのはこういう状態なんです。ですから、こういう言葉もあるぐらいなんです。これはこの事件をいろいろ担当しておられる弁護士の人の言葉ですが、この船舶の所有者等の責任の制限に関する法律というのは、人呼んで「加害船主を守り、善意の船員遺家族を切り捨てるための法律」だ、こういうふうにきめつけられているんですね。だから、こういうような状態というのがこの法律の本質だと思うのです。
 そこで、先日来、法務省の方は、今度は責任限度額を相当程度引き上げたんだ、だから、私がいま言いましたようなパーセントというようなことでは今後はなくなるんだみたいなお話をなさったのですが、いま私がお尋ねをいたしました個々の事件の関係で、今度改正された場合の責任限度額はどのくらいになるのかということを試算されたことがありますか。あったらお示しいただきたいと思います。
#86
○中島政府委員 試算をいたしておりますので、申し上げます。
 一番最初にお触れになりました神戸地裁の事件でございますが、新しいトン数測度の方法で約二〇%アップするという仮定のもとに計算をいたしましたが、責任限度額が四千五百九万円でございますから、現行の四・七倍ということになります。
 それから、静岡地裁の下田支部の事件でございますが、これは責任限度額が四千五百九万円ということになりますので、現行の六・五倍ということになります。
 それから、その次は旭川の事件でございましたか、これは責任限度額が四千五百九万円ということになりますので、現行の六・五倍ということになります。
 それから、松山地裁今治支部の事件は、限度額が五千七百三万八千八百五十円ということになりますので、現行の三・九倍ということになります。
 最後に水戸地裁の事件は、限度額が一億三千五百万円ということになりますので、現行の六・三倍ということになります。
#87
○安藤委員 これまで私がお尋ねしてきたのは、現行の法律が施行されてから申し立てられたすべての件数十件、そのうちの五件についてお尋ねをしたのですが、いま改正案に基づいて試算をしたところの責任限度額というのを答弁していただいたわけです。
 これは私がいまお尋ねした件については、いわゆる責任限度額を引き上げるという、トン数の測度なんかもすべて改正されたものに基づいてやられたのですが、それでもなおかつ、たとえば神戸地裁のもので言いますと、実損額は六千九百七十七万円であるのにもかかわらず、新しいのでも四千五百九万円だ。それから、静岡地裁の場合でも、これは実損額が二億二千六百七十六万三千四百五十四円であるにもかかわらず四千五百九万、こういう状態ですね。それから、全部は言いませんが、松山地裁今治支部の関係のものも、実損額は九千百七十一万何がし、ところが新しい試算によっても五千七百三万、こうですね。
 となると、今度責任限度額を上げたからいいじゃないかということには決してならないケースが、いまここで見ただけでも半分はあるということなんですね。これをやはり問題にしなければならぬと思うのです。だから、これは被害者の側の権利保護に大きく欠けているとしか言いようがないと思うのですが、そういうふうに思いませんか。
#88
○中島政府委員 この法律が施行されましてから制限手続が申し立てられた件数というのは、十件よりはもう少し多くて、たしか二十八件ぐらいあったかと思っておりますが、終結まで至ったというのがこの十件でございます。制限債権の額と責任限度額が非常に大きく開いておるという事件が取り上げられておるわけでありまして、特にこの下田支部の事件というようなものは、責任制限手続の違憲性をめぐって最高裁判所まで争われた事件でありますが、加害船舶の方が九十何トンの船でありまして、被害が物損だけでありましたために、限度額が六百九十万という低い額であったという事件であります。今回の改正によりまして、先ほどから御質問にもあり、また私も申し上げましたように、この十件のうちの五件は責任制限の限度額におさまることになります。残りの五件は確かに改正法によりましても制限債権の額が責任限度額を上回るというケースでありまして、中でも先ほどの下田支部の事件は一九・九%ということで、かなり低いということは御指摘のとおりであろうかと思います。
 しかし、制限制度というものがあります以上は、全額の賠償を受けられないケースがある、これはやむを得ないということでありまして、結局問題は、船舶所有者等の立場とそれから被害者等の立場の調整をどう図っていくかというような問題であろうかと思いまして、しかも事柄は海上企業という国際性の非常に強い企業に関係することでありますので、国際的な考慮、配慮というものも必要になる。これが内航船の乗客の損害ということでありますと、責任限度を取っ払って、船舶所有者等には無限の責任を認めるというようなことも可能になっておるということでありますから、私どもは、この条約なり改正法なりということで今回はいきたいと考えておるわけでございます。
#89
○安藤委員 いま答弁にもありましたように、こういう制度があるからこれは仕方がないんだというようなお話ですが、やはり仕方がないんだでは被害者の方は救われないと思うのです。どうしてもがまんができないと思います。だから、いまおっしゃったように仕方がないで、言葉は悪いかもしれませんが、もっと大義名分みたいなこともおっしゃったのですが、もうがまんしてもらおう、泣いてもらおうというようなことではやはりいけないと思うのです。
 いま内航船の場合は云々、旅客の場合は全然制限の枠を取っ払ってということをおっしゃったのですが、内航船の場合でも、たとえば沖繩航路、それから瀬戸内海航路、太平洋沿岸フェリーというのがありますね。ああいうのが外航船とぶつかった場合はだめですね。その外航船がこの条約に加盟している国の船だということになれば、この責任制限にひっかかってくるのじゃないですか。
#90
○中島政府委員 内航船側に故意、過失がなければ別でありますが、少なくとも被用者の過失でもあれば、これは自船の旅客の損害に関する限りは、この法律によって無制限ということになるわけであります。
#91
○安藤委員 そういう場合はそうですけれどもへ外航船の方に、これによれば船長の云々というのもありますけれども、船舶所有者の方のたとえば艤装上の問題だとか何やかんやとあって、そしてそういう衝突事故が起こったというような、あるいは台風なんかの情報の連絡がおくれたとかというようなことになってくれば、これは陸上側いわゆる船舶所有者側の過失というようなことが出てくるわけでしょう。そうなったら、そちらの方の関係で責任限度額というようなことになってきて、その内航船の旅客の人たちに対しては満額支給されることにはならない、こうなるんじゃないですか。
#92
○中島政府委員 内航船が自船の旅客に損害を与えた場合には、内航船は自船の旅客に対しては無限責任を負うということでございます。衝突の相手方である外航船等はまた別の責任を負うということでございます。
#93
○安藤委員 どうもようわからぬですね。その内航船が自分の責任において、故意あるいは今度の改正案による認識しながら無謀な運転をやったというようなことで座礁して、沈没して旅客が死んでしまったという場合はそうだろうと思うのです。私が言っているのはそうではなくて、ほかの外航船、外国の船とぶつかったというような場合、これは沖繩航路だとか太平洋沿岸フェリーだとか、あるいは瀬戸内海だって外国の船が入ってくるのですから大いにあり得ることだと思うのです。そういう場合はやはり責任限度額に抑えられてしまうんじゃないですかと言っているのです。
#94
○中島政府委員 内航船側に、船舶所有者のみならず被用者にも一切の責任がないという場合は別であります。たとえば不可抗力というような場合は別でありますけれども、船舶の所有者に故意、過失がある場合はもちろんのこと、被用者に故意、過失がある場合でも、内航船は自船の旅客については無限責任を負うということであります。
 相手方が外航船であります場合には、その外航船が責任を負う場合には、これは責任制限の対象になる、こういうことでございます。
#95
○安藤委員 そこで、高等海難審判庁の方からも来ていただいているのですが、ここにありますのは運輸省の大臣官房情報管理部がおつくりになった「海難統計年報昭和五十五年」、これは「昭和五十五年に発生し海難審判庁に報告された海難事故を集計したもの」だという説明書きがあるのです。この中の六ページから七ページにかけて「第三表 海難種類別原因別隻数表」というのがありますが、ここにいろいろ原因が分けられておりますけれども、この一つ一つについて、全部は時間の関係もありますからあれですが、お尋ねをしていきたいと思うのです。
 たとえば「運航管理」というのが一番最初にあるのですが、これはどういうような内容のものを言うのですか。
#96
○木村説明員 お答えいたします。
 本統計は、統計法に基づきまして運輸省で作成いたしまして、行政管理庁長官に報告しております届け出統計でございます。この中のお尋ねでございますが、「運航管理」と申しますのは、船舶の運航そのもの、配船とか時間とか、そういった運航管理全般のものでございます。そういった原因によるものでございます。
#97
○安藤委員 これは乗組員の人たちの過失なんかは入っておるのでしょうか。
#98
○木村説明員 これは海難が発生した件数をこういう形で分類したものでございます。この中には故意または過失によって発生したものが含まれているわけでございます。
#99
○安藤委員 いま「運航管理」というのは艤装の関係ということもおっしゃったのですが、その次の「船舶の安全性」というところに「船体の安全性」「機関の安全性」「ぎ装の安全性」、これが原因になって海難事故が起こった、こういうことだと思うのですが、この「ぎ装の安全性」というのは、また「運航管理」とは別のジャンルに入るのですか。そのこととあわせて、「船体の安全性」「機関の安全性」「ぎ装の安全性」、これは一体どういうような内容のものをここに入れておられるのか、ついでにお答えをいただきたいと思います。
#100
○木村説明員 それでは「船舶の安全性」につきまして、三つに分類してございますが、それぞれについて御説明いたします。
 まず、「船体の安全性」でございますが、これは船体自体の安全性に問題があったかどうかということ、そういう原因を推定して分類したものでございます。したがいまして、船舶の設計とかあるいは強度とか復原性、そういったものに原因があるものと推定して分類したわけでございます。それから「機関の安全性」でございますが、これは機関の安全性にもいろいろ原則がございますので、設計、工作、構造、検査、こういったものの問題でございます。それから「ぎ装の安全性」でございますが、船舶の艤装の中でたとえば消防設備とか無線設備、救命設備、こういったものを含んでおります。
#101
○安藤委員 そうしますと、たとえば「船舶の安全性」の中のいま御説明いただいた「機関の安全性」、これは設計、構造というのもあるのですが、検査というのもあるわけですね。そうしますと、これは船舶を運航するについてあるいは運航を開始するに当たって機関が正常に作動し得るものかどうか、あるいは航海に耐え得るものかどうかということを検査するわけですね。そうすると、この検査に関しては、実際は検査する担当の人が検査するだろうと思うのですが、どういう点をチェックしろとか、だれが検査をしろとか、その結果を報告しろとかというのは、船舶所有者の方がやることになるわけなんですか。
#102
○木村説明員 これは船舶所有者の義務として決められておるものもございますし、あるいは検査という制度もございますし、あるいは実際の船舶職員の点検整備という責任の問題でもございます。
#103
○安藤委員 「ぎ装の安全性」の関係につきましては、消防設備とか救命具というようなことですから、これは言うまでもなく、船主の方がそういう設備を調えて支給しなければ船に乗っけられないわけですね。うなずいておられるから、特にお尋ねをいたしません。
 その次に「安全運航」というのがあって、その中に「航海準備」というのがありますが、これはどういうようなケースですか。
#104
○木村説明員 お答えいたします。
 これは航海準備の問題でございまして、そのことが海難の原因になっているかと考えられるものをここに分類したわけでございまして、航海そのものの計画、船員の配乗、それから気象、海象あるいは資料、情報の収集、それから船体、機関、諸設備の点検、そういった事項でございます。
#105
○安藤委員 それから「安全運航」の中の「服務規律」というのがありますね。これはどういうような場合なんでしょうか。
#106
○木村説明員 「服務規律」と申しますのは、たとえば船長の甲板上の指揮の問題あるいは報告が適正であったかどうかという問題でございます。それから、船長の部下に対する指導監督、そういった問題でございます。
#107
○安藤委員 そういう場合は、船舶所有者あるいは船会社の監督責任者、そちらの方からの服務規律についてのいわゆる命令下達といいますか指示といいますか、そういうようなものがしっかり行われていたかどうかというようなことなんかも入るのでしょうか。
#108
○木村説明員 これは船員法で言っていますそういった船内における服務規律でございますので、直接船舶所有者というものの責任にはつながらないものと考えます。
#109
○安藤委員 その次の「労働条件・労働環境」というのは、どういうような場合なんですか。
#110
○木村説明員 お答えいたします。
 これは労働条件に関するいろいろな条件の問題でございまして、労働とかあるいは休息時間とか、船内の作業設備あるいは作業環境、つまり、換気とか照明とか温度、湿度の管理、それから危険物の運送、貯蔵に対する適正な措置、それから安全衛生管理、そのほか特殊な危害の防止ということでございます。
#111
○安藤委員 だから、たとえば正規の乗組員が百名なら百名というところを、合理化と称して八十五人とか九十人とかというふうに、人減らしというようなことも労働条件に関係があるのじゃないかと思うのですが、それとの関連で過酷な労働条件にあったというようなことも、この「労働条件・労働環境」に入っておるわけですか
#112
○木村説明員 船舶に配乗する職員の数につきましては、ここでは含まれておりません。これは制度上決まっておるわけでございます。ただ、この「労働条件」と申しますのは、たとえば内航船の場合非常に長時間の当直を必要とするような航海計画があったとか、そういうふうなものとかあるいはそういう環境衛生問題について問題があったかどうか、そういうことでございまして、定員の問題はここでは含まれておりません。
#113
○安藤委員 勤務の内容の問題、当直勤務の問題とかどうとかいまおっしゃったですね。そういう問題は入っておるということですね。
 それから、ずっと右の方へいきまして「情報」というのがあるのですが、これはどういうようなケースなんでしょうか。
#114
○木村説明員 「情報」と申しますのは、気象あるいは海象につきまして、安全運航に必要なものにつきましてその収集、伝達が適正であったかどうかということでございます。
#115
○安藤委員 本当はまだ細かくお尋ねをしたいのですが、いろいろ各項目についてお尋ねをいたしましたが、船に乗っている船長あるいは航海士あるいは機関士などの故意、過失というような事例もあるのだろうとは思いますけれども、いま御説明いただいたことからすると、たとえば労働条件とか労働環境の問題、それから艤装の安全性の問題、機関の安全性の問題、それから運航管理とか情報等々というようなことで、船に乗っている人の問題ばかりではなくて、船主あるいは船舶所有者あるいは法人の場合ではその関係の管理責任者といいますか、そういう人たちの故意または過失――故意というのはちょっと考えられないのじゃないかなとも思います。にせの気象情報を連絡して遭難させたなどということはちょっと考えられませんからあれですが、そういう過失責任が問われるというようなものも幾つかあるということは言えるのでしょうか。
#116
○木村説明員 そのような船舶所有者の側の責任によって海難が発生した場合も、この統計表の中に含まれているという可能性はございます。ただ、個別的にそういうものを認定しているわけではございません。
#117
○安藤委員 海難審判の仕事というのは損害賠償責任とは違うわけですから、実際には、この海難はどういうような運転の仕方によってとかいうことから出てくるのじゃないかと思いますね。しかし、いまおっしゃったように、審判の直接の対象ではないけれども、船主の方の過失というような場合もこの中には含まれておる、こういうお話です。
 そこで、たとえばカーフェリーのような場合、フェリーボートと言った方がいいのかもわからぬですが、私は余り乗ったことはないのですが、あれはダイヤがわりと厳密に組まれておって、そのダイヤどおりに運航するというようなことになっておるのじゃないでしょうか。
#118
○木村説明員 カーフェリーにつきましては、そのような運航ダイヤにつきまして認可を受けて、ダイヤどおりに動いておるわけでございます。
#119
○安藤委員 だから、もし海難があったとすれば、そのダイヤが無理な組み方であったかどうかというようなことが原因の一つになる場合もあり得る、こういうことになりましょうか。
#120
○木村説明員 運航ダイヤにつきましては、いろいろな条件を考えて申請が行われまして、海運局から認可が行われておるわけでございます。それについての安全性につきましては、たとえば発着時間のセット、つまり発時間と着時間、これは貨物の集荷と配送といったものがあります。それから、公共埠頭なら公共埠頭の利用時間というものが制限されます。その中であらゆる条件、たとえば狭水道の運航速度といったものにつきまして全部検討した上で、安全性を確認して認可されているわけでございます。
#121
○安藤委員 たくさんお尋ねしたいのですが、それぐらいにしておきます。
 そこで、中島局長さん、昭和五十五年度だけで全部で一万五千五百十件の海難事故が発生しておって、幾つかの項目について統計をとって仕分けをされた中身についていまお尋ねをしたのですが、もちろん乗務をしている人たち、船長等の過失もあるかもしれませんが、船舶所有者の方の過失がある場合もあるのだということになると、今度の改正によって責任限度を取っ払われる、無限に責任を負うというところから過失が除かれてしまうということになると、いま私がお尋ねをしたような海難事故の原因というようなものも、過失だということになると責任制限をされてしまうということの中に全部含まれてしまうのではないかという気がするのですが、その点はどういうふうに考えておられますか。
#122
○中島政府委員 海難審判庁の方の統計のとり方その他詳細を承知いたしませんけれども、いま御質問と御答弁を聞いておりました限りでは、確かに船舶所有者等の過失も含まれておるように伺いまして、そのうち、現行法では過失ということで責任制限ができなかったのにもかかわらず、改正法のもとでは無謀な行為ということになったために責任制限ができるというケースがふえるのではないかという御質問も一つの見方かなと思いながら伺っておったわけでございます。
 確かに、現行法の表現と改正法の表現とを形式的に比較してみました場合に、船舶所有者等に関する限りは、理論的には責任制限できない場合が範囲として減るということはそのとおりであろうかと思いますけれども、実質的にどうかということを考えてみますと、現行法のもとにおきましても、船舶所有者に過失があって責任制限できなかったという例は、私ども聞いておらないぐらいでありまして、あったとしても非常に微々たる数であったのではないかというふうに考えておるわけでございまして、改正法になりましてもその実態は変わらないのではないかというふうに考えております。
 むしろ、先ほど外務省や運輸省の係官から御答弁ありましたように、船長等について従来は故意の場合以外はすべて責任制限ができたわけでありますが、今回は故意の場合に加えて、船長その他の自己の無謀な行為の場合に船長その他が責任制限をすることができないということになったわけでありまして、その方が心理的にと申しましょうか、船長等に慎重な行動をとらせる面で大きな働きをするのではないかというふうに考えるわけでございます。
#123
○安藤委員 私のいままでお尋ねしたこと、それからそれに基づいた話も一つの見方かな、理論的にも責任を制限されない場合が減るということはあり得るだろうなということでありますが、私がいま言うておるのは一つの見方どころではなくて、海難審判庁に具体的に起こった海難事件の統計のそれぞれのケースの原因についてお尋ねしたら、船主等の過失に基づく場合も含まれておるというお話でしょう。そうなると、これは一つの見方あるいは理論的な問題ではなくて、現実にそうなるに違いないとしか思えないわけですよ。ですから、実際に責任が制限されないというようなことでなされた場合が少ないのではないかな、微々たるものではないかなというふうにおっしゃるのですが、この「海難統計年報」の一ページに「海難船舶の推移」というのがあるのです。これは昭和五十年から五十五年までその隻数が載っておりますが、一万八千三百二十から一万九千三百八十五とかいうことで、大体毎年一万八千隻ぐらいですね。
 こういう事故が起こっておるのですが、実際に責任制限の申し立てがなされたのは全部で二十八件で、結論が出たのが十件ということになってくると、やはり責任制限の対象になるのが少なかったということは言えるのですが、今度は過失というのが無制限ということから除外されることになって、責任制限の対象になるということになると、これはぐんとふえてくるのじゃないかという気がするのですよ。だから、責任限度額がある程度上がったからいいのじゃないかという問題も、先ほど言いましたように、改正されてもまだ実損額に至らない場合があるのじゃないかということと、さらには責任制限の申し立てをする件数が、過失の場合も入ってくるわけですからずっとふえてくるのではないか。ひいては被害者の損害を賠償するという機会が、あるいは額も少なくなってくるのではないかということを私どもはおそれるのですが、その心配はないでしょうか。
#124
○中島政府委員 この統計表を拝見いたしますと、確かに年間約一万何千隻、二万隻前後の海難事故が隻数にして起こっておるということでありますが、その具体的な内容を調べてみませんと、事故原因というものが果たしてどの辺にあるのか、船長の過失あるいは船舶所有者の過失と申しましても、それと事故との因果関係がどういうふうになっておるかということがまず一つ問題であります。
 それはそれといたしましても、これだけ数多く起こっておる海難事故のうちで、そもそも責任限度額を超える損害額が発生しておるものが、数量的に申しますと非常に少ない。しかも、そのうちの一部のものが制限手続の申し立てがあるわけでありますけれども、今回の改正法によりまして責任限度額が大幅に引き上げられますために、責任限度がそもそも理論的に問題になるというケースというのがぐっと減るということが一つございます。といいますのは、従来は限度額におさまらなかった事故が今度は限度額におさまる。先ほどの十件の内訳を見てみましても、従来限度額におさまらなかった十件のうち五件は、今後は限度額におさまるということでありますから、責任限度額を超える事故というものがそもそも少なくなる。そのうちに、またさらに故意なりあるいは無謀な行為なりということで責任制限の可否が争われる事件というものが幾つかあり得るわけでありますが、その辺は現行法においても過失によって責任制限されるというケースが少なかったわけでありますから、今回はそのうちについて、それは全く違いがないかと言われれば、そうだとは申し上げられませんけれども、非常に軽微なものではないかということを申し上げておるわけでございます。
#125
○安藤委員 どうも局長の認識は甘いのじゃないかと思いますね。責任限度額を超える場合というのが非常に少ないのじゃないかとおっしゃるのですが、本当にそうなのかどうかという問題。それから、先ほど十件のうち五件は責任限度額に入るのじゃないか、それは私どももそうだろうと思います。しかし、五件が救われないということになれば、そこにやはり問題がある。それから、先ほど言いましたように、過失が除かれることによって、過失も責任限度の対象にされていくということによって、先ほど言いましたような場合の海難事故が、みんな責任制限の対象になっていくということをおそれるわけです。だから、その点については一つの見方だ、理論的にはそうだとおっしゃったのですが、私は具体的な話を申し上げているのです。
 そこで、そういう関係についていろいろ争われるケースが多くなるのではないかというふうにおっしゃったのですが、故意または認識しながら無謀な行為をしたとかいうようなことの、そういう制限の申し立てがなされたときの裁判上の挙証責任、これはどちらにあるのですか。
#126
○中島政府委員 これは被害者側が立証することになるだろうと思うわけでありまして、この点は現行法のもとにおきましても、船舶所有者等に故意または過失があるということは、被害者側が立証しなければならないのと同様であろうと思います。
#127
○安藤委員 この故意、過失の関係について、その挙証責任がどちらにあるのかという点については、いろいろ議論がなされておるということは御承知だと思うのですが、ちょっと時間的な余裕がないのですが、こういうようなことは言えるのじゃないかと思うのですね。少なくとも責任が制限されることによって利益を得るのは加害者側ですね。船舶所有者等ですね。それが利益を得る。そしてそちらの方こそが、制限された責任の範囲で損害賠償を支払えばいいという、これは一つのそういうことを主張する権利といいますか、そういう主体でしょう。そういうことを一つ考える。
 それから、林委員が先回質問いたしましたけれども、五百億円も保険を掛けておったという第七金宝丸の場合ですね。これは乗組員は全員死んでしまっているのです。制限債権者というのは遺族の人たちですね。その人たちが、先ほど言いましたように、船舶所有者等の故意、過失があったとか、艤装上に問題があったとかどうとかいうような、先ほどのケースのようなことですよ。情報上どうだったとか、情報の伝達が悪かったとか、運航の仕方が悪かったというようなことを、どのように主張、立証ができるのですか。だから、そういう点からいうと、公平の点からいっても、挙証責任は債務者の方、船舶所有者等の方に課すべきではないかと思うのですが、どうですか。
#128
○中島政府委員 立証責任ということになりますと、原則に従って被害者側ということになるのではないかと思いますけれども、運航についてのいろいろな資料を持っておるのは加害者側ということになるわけでありますから、被害者側が一応のことを立証すれば、加害者側において故意もしくは無謀な行為でなかったということを積極的に立証しなければならない、立証の必要というものは少なくとも生ずるのではないかというふうに考えております。
#129
○安藤委員 立証の必要ということをおっしゃるのですが、挙証責任ということになってくると、先ほどの御答弁によってもいろいろの議論のあるところだ、そしていま私が言いましたように、これは実際問題としてだれが考えてもおかしいですね。乗組員の遺族の人たちに、その沈没の原因について、船主等に故意あるいは認識しながら無謀な行為をしたかどうか、とてもじゃないが、これは主張もできないし、立証もできません。だから、そういう点から考えても、挙証責任ははっきり船主等の側、制限債務者の側にあるというふうに考えて、これは裁判所の方の問題にもなりますけれども、そこは位置づけていただく必要があるということを申し上げておきます。
 そこで、大蔵省からも来ていただいておりますのであれですが、これはPIの関係ですがね。これは昭和四十九年の四月十二日未明、和歌山県の潮岬灯台西南西のところで衝突事故が起こった。これは第十一昌栄丸と三光汽船の用船をしておったリベリア船籍の貨物船とが衝突をした事件ですが、この当時の新聞の報道によりますと、リベリア船の船主に損害賠償の請求をしたところが、幽霊会社で交渉がはかどらなかった。やむを得ずイギリスのいわゆるPI社に対して直接交渉したところからちが明かなくて、それで三光汽船を相手に損害賠償の訴えを起こした、こういうケースなんですが、このイギリスのPI社との関係が、交渉がどうしてだめになってしまったのかという経過について、大蔵省はPIの関係で日本のPIに対しても指導、監督の責任を持っておられるわけですから、そのいきさつについて答弁をしていただきたいと思います。
#130
○松田説明員 いまお話のございましたリベリア船籍の貨物船オーシャン・ソバリーン号並びに衝突いたしました第十盲日栄丸、いずれも日本のいわゆるPI、日本船主責任相互保険組合の加入船舶でございませんので、私どもの方でどういう事情があってどういうことになったか調べてみましたが、一切わかっておりません。新聞の報道、眺めさせていただきましたが、わかっておりません。したがって、日本のPIが交渉に応ずる立場になかったということであろうかと思います。
#131
○安藤委員 その関係で、そんなことわからぬことないと思うのですが、大蔵省は日本のPIの定款ももちろん知っておられると思うし、それから、その責任保険をやっておる保険会社であるイギリスのPIの定款、これも知っておられると思うのですが、この関係について、私どもの方からまず日本のPIの定款も見せてほしいと言ってもなかなか渋って、結局出してこられたのは一部抜粋を下さったのですが、そして、イギリスのPIの定款については出していただけないわけです。だから、その定款の関係でこの交渉がだめになったのじゃないかと思うのですね。だから、たとえばこれは日本のPIの関係ですが、責任の制限の関係で、組合員が制限手続をしない場合も組合のてん補額はこの制限額または保険金額のいずれか少ない額を限度とする。だから、何かここに近いようなのがあってそんなものはだめだ、実損額なんかとうてい支払えるものではないというふうにけ飛ばされたのではないかというふうに思うのですが、その辺もっと調べていただきたいと思うのですよ。きょうは幾らお尋ねしても、それ以上わからぬとおっしゃるのですか。
#132
○松田説明員 私どもは日本のPIについて監督しておりますけれども、外国のPIについてまで監督をしておりませんので、そこの約款なり定款がどういう内容かは承知していないわけでございます。
 ただ、日本のPIが再保険を掛けるということで再保険を掛ける場合に、相手との間に再保険契約がございますが、そういった契約の内容がどうかというのは、日本のPIにかかっている契約に関するものとして承知する必要があるわけでございますが、本件の場合には日本のPIとの再保険関係でもございませんし、直接外国のPIの約款が船主との関係でどうであったかという問題でございますので、私どもは外国のPIの約款まで承知をしていないということを申し上げたわけでございます。
#133
○安藤委員 これはこの前、林委員が質問したときに、提出することはできないけれども、調査することはできるというふうに大蔵省の方は答弁なさったというふうに私、記憶しておるのですが、そうすると、話が大分違うのです。
#134
○松田説明員 ただいま申し上げましたように、日本のPIにかかわる契約について、その契約と再保険会社の関係でどういう再保険契約があったかという点につきましては、できる限り調査をしたいと思っておりますけれども、本件の場合には、外国のPIに外国の船籍の船が入っているケースでございまして、そういったケースについてまで調べることはむずかしいだろうということを申し上げたわけでございます。
#135
○安藤委員 再保険の関係もありますので、そうすればイギリスのPIの定款なんというものも知っていなかったら、再保険、責任保険、それだってできないのじゃないかというふうに思うのですよ。だから、その関係では調査できるし、実際は手に入れておられるのじゃないかと思うのですが、これはまた後の話にします。
 そこで、法務省にお尋ねしたいのですが、今度の改正案の九十八条ですが、これは文字通り読みますと、保険会社も責任制限ができる権利を持つことができる、そういうふうに読めるのですが、そうじゃないですか。
#136
○中島政府委員 わが国の法制はそういう制度をとっておりませんけれども、準拠法のいかんによっては、被害者が直接保険会社に請求をするということを認めておる国もございますので、そういう制度のもとにおいては保険者も被保険者と同様に適用する、そういう意味でございます。
#137
○安藤委員 そうしましたら、これは日本の法律に要らぬものじゃないかというふうに思うのですが、そしてそれなら、そのように直接保険会社に請求できる場合というふうに何か書かぬと、どうも最初に私がお尋ねしましたように、保険者いわゆる保険会社も制限債権についてのいろいろ申し立てをすることができるとか、その範囲に損害額を抑えることができるとか、そういうような扱いを受けるように同様に適用するというのが読めるのですが、どうでしょう。
#138
○中島政府委員 日本の国内法といたしましては、国内のことだけ決めればよいというのが原則でありますけれども、この法律の場合には非常に国際性のある事件が申し立てられる可能性があるわけであります。ですから、日本の裁判所で取り扱います事件にも、その当事者のいかんによりましては準拠法が外国の法律を適用しなければならない場合がある。その外国の法律によれば、被害者が保険会社に直接請求することを認めておる法律もあるだろう。これは条約で決まっておるわけでありますから、あるだろう。その場合にはこの法律を適用して、保険者を被保険者と同様に扱う、こういう規定でございます。
#139
○安藤委員 どうも余り釈然としないのですが、時間が来ましたので、もう一つお尋ねしまして……。
 よく釣り舟で事故が起こって乗客が全員死んでしまった、特にことしの一、二月、あれは熊野灘なんかでよくあったのですが、あの釣り舟の場合も、釣り舟の釣り客、これはこの法律で言う「旅客」という扱いになりますか。
#140
○中島政府委員 櫓やかいをもって運航する場合あるいは主として櫓かいをもって運航するものは除かれますが、それ以外のものはこの法律に言う「船舶」ということになろうかと思います。
#141
○安藤委員 時間が来ましたので、終わります。
#142
○羽田野委員長 これにて本案に対する質疑は終了いたしました。
 午後一時二十分再開することとし、この際、暫時休憩いたします。
    午後零時十九分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時二十一分開議
#143
○羽田野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 内閣提出、裁判所法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 まず、趣旨の説明を聴取いたします。坂田法務大臣。
    ―――――――――――――
 裁判所法等の一部を改正する法律案
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
#144
○坂田国務大臣 裁判所法等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、経済事情の変動及び民事訴訟の実情にかんがみ、簡易裁判所の取り扱う民事訴訟の範囲を改めるとともに、その管轄に属する訴訟のうち、複雑困難な一定の訴訟を地方裁判所において処理することができるようにするために必要な措置を講じようとするものであります。
 以下改正の要点を申し上げます。
 第一に、簡易裁判所の取り扱う民事訴訟の目的の価額の上限を引き上げようとするものであります。この上限は、昭和四十五年の改正によって三十万円に引き上げられ、今日に至っておりますが、その間、経済事情が大幅に変動し、統計によりますと、国民の所得や消費にも著しい増大があったほか、物価についてもかなりの程度の上昇を見たことが知られるのであります。そこで、かような経済事情の変動の状況を勘案して、簡易裁判所が取り扱う民事訴訟の目的の価額の上限を九十万円に改めることとしたものであります。
 第二に、訴訟の目的の価額が九十万円以下の不動産に関する訴訟を地方裁判所と簡易裁判所の競合管轄とするとともに、簡易裁判所に訴えが提起された右訴訟について、被告からの申し立てがあれば、地方裁判所に移送しなければならないものとする制度を新設しようとするものであります。不動産に関する訴訟は、訴訟の目的の価額が小さいものでも、一般的に複雑困難なものが多いため、訴え提起の段階で、少なくとも一方の当事者が地方裁判所における審理を望む場合には、必ず地方裁判所で審理できるようにするのが相当であると考えられます。そこで、この競合管轄及び必要的移送の規定を置くこととしたものであります。
 第三に、簡易裁判所で審理中の訴訟について、当事者双方が地方裁判所への移送を希望する場合に、これを地方裁判所に移送しなければならないものとする制度を新設しようとするものであります。不動産に関する訴訟以外にも、時として、複雑困難な訴訟が起こり得ますが、これに対処するためには、民事訴訟法第三十条第二項の要請受理や同法第三十一条ノ二の裁量移送の制度のみでは十分とは申せないと思われますので、この必要的移送の規定を置くこととしたものであります。
 第四に、簡易裁判所の取り扱う民事訴訟の目的の価額の上限の引上げに伴いまして、民事訴訟法及び民事訴訟費用等に関する法律に所要の改正を加えることといたしております。
 以上が、裁判所法等の一部を改正する法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
#145
○羽田野委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 本案に対する質疑は後日に譲ることといたします。
     ――――◇―――――
#146
○羽田野委員長 次に、内閣提出、外国人登録法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。太田誠一君。
#147
○太田委員 外国人登録法の一部を改正する法律案につきまして、まず初めに、ちょっと長くなりますけれども、私がきょう質問をする趣旨を御理解をいただきたいので少し考え方を述べさせていただいて、それから質問に入らしていただきたいと思います。
 従来、わが国の出入国管理政策というのは大変厳しいと言われておりましたが、それはこれまで国会の論議の中で否定的な側面ばかりが論じられた嫌いもありますけれども、むしろ肯定すべきところもあったのではないかという印象を持っております。とりわけ、日本が移民あるいは外国人労働者を積極的に受け入れてこなかったということは、少なくとも最近時の段階では評価されていいことではないかということが指摘をされるわけです。これは外国人労働者を大量に導入をして経済発展を遂げてきた西ドイツを初めとする欧州諸国あるいはアメリカのような国々は、経済が成長をしている段階では非常に有効に外国人労働者を活用できたわけでありますけれども、ついここ二、三年、西ドイツ病というふうな言葉にあらわされるように、主としてトルコ系の外国人労働者というものが西ドイツ経済にとって大変な大きな負担になっているという事実があるからであります。
 そこで、外国人に頼らない日本というのはどういうふうなよいところがあったかというと、ヨーロッパの場合のように外国人労働者を大量に入れて自分たちは汚い仕事はしない、汗を流す仕事はしない、そして嫌な仕事は全部外国人労働者にやらせるんだというふうなことをせずに、日本人が汚い仕事もきれいな仕事もすべてやるんだ、いわゆる勤労の基本といいますか、額に汗を流して働く、あるいは汚いものでも手で扱ってやるという勤労の基本精神というものを日本人は忘れずに今日まで来たのは、やはり出入国管理政策というのが厳しくあったことの一つの貢献でもあったというふうに理解をするわけであります。
 ただ、こうした肯定できる側面があるということは強調をいたしますけれども、しかしながら、もっと最近時、つまり昨年、一昨年あたりの鈴木内閣が成立して以後、外交あるいは内政にわたって大きな政策転換が行われているわけでございまして、政府がすでに二つの政策転換にコミットをしてしまっているということを、ここで指摘しなければならないわけであります。
 この政策転換というのはどういうことかといいますと、一つは、行政改革の理念というものからくるものであります。もう一つは、難民条約の締結からくるものであります。つまり、行政改革からくる考え方というのは、簡素で効率的な政府を目指すんだというところが、これが鈴木内閣が成立して以後、あるいはその前の大平内閣時代からの一つの政府内の合意として成立をしているということに注意を払わなければならないわけであります。もう一つの難民条約の締結ということは、これは外国人であることを理由に福祉あるいは人権の尊重といった枠組みから自国民と区別をするということが許されなくなってきたという、この点であります。
 もう少しこの辺を、この二点について詳しく述べさせていただきますと、第二臨調の一回目の答申で言われている行政改革の理念というのはどういうことかといいますと、従来は、ある政策目的に沿った施策というものは、それが手段として効率的であるかどうかということは問わずに是認されてきた嫌いがあるわけであります。ところが、そのような行政のあり方が仮に政策目的に沿っていたとしても、その施策が必要な限度を超えた公的な介入であるかどうかということは、これからは問われなければならない。効率的なやり方であるかどうか、過剰な公的介入ではないかどうかということが、今後は問われてこざるを得ないわけであります。すなわち、必要最小限度の公的な介入あるいは公的な管理というものが認められて、必要以上の介入というのは、わが国の自由主義体制、つまり人々の自由な活動から得られたであろう成果を損うものとして、これは許されないという考え方に変わってきているものということに注意をしなければならないと思うわけであります。
 ただいま議題となっております外人登録法につきましても、法務省による外国人を公正に管理をするという政策目的に照らして必要最小限度の公的介入であるのかどうか、その最小限の公的介入を超えていないかどうかということは、やはり問われなければならないと思うわけであります。
 特に、在日韓国人あるいは在日朝鮮人の方々に対する過剰な管理制度に対する反発というものは、幾ら否定してもやはりあるわけでありまして、それらの人々とわが国の国民の間にそういう公的な過剰な介入がもしなかったとすれば、もっといまよりも好ましい在日韓国人、朝鮮人の方々と日本人との間のアイデンティティーというものがあったはずのものが損われている、あるいは無用の亀裂や摩擦を生じさせているということがありはしないかということは考えてみなければならないわけであります。
 もう一つの難民条約の加盟ということがいまの外国人登録法にどういうふうに関係をしてくるかといいますと、難民条約に調印したこと自体は、私にとって大変驚きであったわけでありまして、世界人権宣言みたいな、どちらかといいますと非常に甘いヒューマニズムに乗っかった考え方というものを非常に大幅に取り入れた条約が成立をして、しかもそれにわが国政府が加入をしたということに実は大変驚いたわけでありまして、いわばコペルニクス的な発想の転換をここでせざるを得ないのではないか。このことは法務省当局は恐らくわかっているかわかっていないか、それは私もわかりませんけれども、大変大きな発想の転換を結果的にはしているんだということをここで強調をいたしたいわけであります。
 もちろん、難民条約そのものが外国人登録法を直接的に規定をするということは少ないわけでありますけれども、それにもかかわらず、これはかつて出入国管理当局の方が言われたというせりふがあるわけでありまして、外国人というのは煮て食おうと焼いて食おうと自由であるというふうな考え方が、かつては出入国管理当局者の方々の間にあったようでありますけれども、難民条約の加入によってこれまで外国人を福祉制度から排除していたというふうなことを見直さざるを得なくなったことに象徴されるように、外国人の権利義務に関して可能な限り自国民並みの待遇をせざるを得ない、そういう難民条約の精神というものは非常に強く生きているわけでありまして、もはやいまの段階では、外国人は煮て食おうと焼いて食おうと自由ではないということが言えると思うわけであります。
 以上の二点から、つまり現在の出入国管理制度あるいはきょうの議題であります外国人登録制度について、以上のような時代の変遷あるいは今日的な鈴木内閣のコミットメントということを踏まえた上で、ひとつこの改正案が提出されるに至ったいきさつを大まかに御説明をいただきたいと思います。
#148
○坂田国務大臣 外国人の登録制度は、制定以来三十数年を経過いたし、この間に外国人登録制度は比較的に定着をして、安定した運営がなされてきたように思うのでございますけれども、しかしながら、最近における外国人登録制度をめぐる諸情勢は、いろいろの面におきまして変化をしてきている。
 その一つは、わが国に入国、在留する外国人の数が著しく増加をし、その目的も多様化をしてきておる、あるいは第二点といたしましては、わが国の経済あるいは社会の拡大発展に伴いまして、在留外国人の居住、移転あるいは職業変更等が活発化してきたということ、三点といたしましては、わが国の難民条約への加入、ただいま先生御指摘のとおりでございますが、出入国管理令の大幅な改正あるいは国民年金法等における国籍要件の撤廃などに伴いまする長期在留外国人に対する在留実態を把握する必要性が生じてきたということ、四点といたしましては、国家、地方自治体の財政事情が悪化をしてきた、いま行政改革のことにお触れになりましたけれども、チープガバメント、そしてまた財政再建を図るというようないろいろな施策が行われようとしてきたこと、こういうことで、外国人登録法を制定いたしました当時とは著しい変化が行われてきておるという背景があるわけでございます。
 このような情勢の変化に伴いまして、事務の簡素合理化、外国人の負担軽減等各種の要請が生じまする一方、不法入国者あるいは不法残留者等非合法在留者は決して後を絶っておるわけではございません。資格外活動その他の犯罪を犯す外国人はやはり増加をしております。外国人の管理の上から見ましても楽観を許さない状況にあるということなども一つの要素でございますが、当局におきましては、外国人登録制度をめぐりまするこのような諸情勢を踏まえまして、長年この制度の見直しを行ってきたのでございますが、これにつきましては、昭和五十五年四月二十三日の衆議院法務委員会におきまして、当時の倉石法務大臣が、違反態様に応じた罰則の軽減化、あるいは登録証明書の携帯、提示義務を課する最低年齢の引き上げ、登録証明書の切りかえ期間の伸長、指紋押捺制度の簡素合理化等について今後の課題として検討を進めていきたい、こういうような御答弁をなされておられるわけでございまして、この間、昭和四十九年の行政監理委員会から出されました「許認可等に関する改善方策についての答申」の趣旨に沿いまして、新規登録の申請期間の延長など外国人登録事務の簡素合理化を図るために、昭和五十五年第九十一回国会におきまして外国人登録法の一部を改正する法律案を提出をし、同国会での可決成立を見、さらに昭和五十六年には、外国人登録事務の簡素合理化を図り、厳しい国家財政のもとにおける財政支出の効率化に資するための、都道府県知事が行うことになっておる登録写票の分類整理事務の廃止などを内容とする外国人登録法の一部を改正する法律案を第九十五回国会に提出をし、また同国会での可決成立を見たところでございますが、先般、これまで長い期間をかけて検討してまいりました外国人登録制度の見直し作業が終了いたしまして、今回の改正法案を提出するに至った次第でございます。
 この作業におきましては、いま申し上げましたような諸情勢の変化に応じまして網羅的、多角的な検討を加えますとともに、この改正法案にその結果を反映させまして、前に申し述べました法務大臣が国会で御答弁された事項も盛り込まれておるのでございますけれども、たとえば登録証明書の切りかえ期間の三年から五年への伸長、登録証明書の携帯、提示義務を課する最低年齢等の十四歳から十六歳への引き上げ、登録証明書不携帯罪等についての自由刑の廃止、指紋押捺個数の軽減を図ることとしております。
 この改正法案によりまして、これまでの見直し作業の結果を取りまとめて、外国人登録制度の基本的制度の運用上の基盤を堅持いたしますとともに、制度の合理化を初め、事務の簡素化による財政支出の効率化、外国人の負担の軽減を図ろうというような考えを持って、この制度を、法律案をまとめ上げたような次第でございます。
#149
○太田委員 大鷹局長にお尋ねをいたしますけれども、難民条約の精神というものと今回の改正というものがどういうふうに関係をしているのか、もう少し詳しく御説明をいただきたいと思います。いま大臣の御説明では、難民条約というのも一つの時代を踏まえたものだというようなお話がありましたので、お伺いします。
 あと、今度の改正案に出てくるのは、いわば小金を節約するというふうな結果になるわけでありますけれども、いわゆる行革の理念というのは、必ずしも官庁の側の人手あるいは経費を節約するということではなくて、民間に対する公的な介入というものが必要最小限度になっているかどうか。つまり、民間というのはこの場合には外国人でありますけれども、外国人の方が一つのめんどうくささとか、あるいは屈辱的であるというふうなコストを支払っている、むしろその不必要なコストを外国人に払わせないというところが行革の側から見た本来の出入国管理行政のあり方ではないかというふうに思うのですけれども、その二点についてお願いします。
#150
○大鷹政府委員 わが国はことしの一月一日に難民条約の批准を行いましたが、それに関連して、昨年入管令の改正を行っております。こういう情勢も踏まえて外国人登録法の改正の中身を検討してきたわけでございますけれども、難民条約の批准、参加と外国人登録法の改正は、特に直接つながっている面はございません。しかしながら、一応背景にある情勢として私どもは頭に置いて検討したということでございます。
 それからもう一つ、コストの節約ということについて、太田委員から、これは必ずしも行政費用の節約だけじゃなくて、在留外人の負担の軽減ということも含めて考えるべきじゃないか、そういう御発言がございました。この二つは必ずしも同じものではございませんで、別々なことだと考えております。
 私どもといたしましては、今度の改正法案をお諮りするに当たりましては、外国人登録法の基本的な目的、つまり在留外国人の身分関係、居住関係を明確にすることによって在留外国人の公正な管理に資する、この目的が確保される限り、できるだけ行政面でも費用も節約したいし、また在留外国人の負担の軽減、さらには外国人登録法の実施に当たっておられる市町村の人たちの負担の軽減、こういうものも配慮したいということで検討してきたわけでございます。今度お諮りいたしますのは、そういう意味で外国人登録法の基本的な目的を達成できるということが確保される限り、私どもが考えられるいま申し上げましたような意味でのコストの節約を中に盛り込んだものでございます。
#151
○太田委員 「在留外国人の公正な管理に資することを目的とする。」というのは非常にわかりにくい言葉でありまして、これを私なりに理解をいたしますと、「公正な管理に資する」ということはどういうことかといいますと、むしろ入管法の方にこの中身が書いてあるのではないかというふうに思っております。
 入管法の第四条に規定されているような在留資格をチェックするとか、つまりこれはどういう資格でこの人が日本にいるのかということを厳しくチェックをするということは、冒頭私が申し上げましたいわゆる外国人労働者として外国からどんどん人が流入をしてくるというふうなことを防ぐ目的があるわけでありますから、これはまさにわが国の出入国管理行政の基本からいたしまして、在留資格をチェックするということは必要なことだと思っております。それともう一つは、密入国の防止。あるいは在留資格が何らかの意味でない者を排除をするとか、あるいは退去強制に該当する者をチェックをするとかいうことも含めまして、密入国の防止と在留資格のチェックということ、つまり「公正な管理に資する」ということの中身は、この二つが主要な内容であろうかというふうに理解をしておるわけであります。
 とりわけ、犯罪捜査のためにいまの外国人登録制度があるのではないということは間違いがないと思うわけでありますけれども、最初の二点は、これが主要な目的であるという私の理解は合っているか、間違っているか、ちょっと教えていただきたい。
#152
○大鷹政府委員 外国人登録法で「在留外国人の公正な管理に資する」ということを言っているわけでございますけれども、この場合、在留外国人の公正な管理に関係のある法律の中の一番重要なものは、太田委員御指摘のとおり入管法であろうかと思います。しかし、入管法だけではございませんで、そのほかにもいろいろございます。たとえば徴税関係の法律であるとか、そういういろいろなことにもこの外国人登録制度というものは生かされているわけでございます。
 しかし、その最も重要な入管法に言う外国人の公正な管理とどういうふうにこの外国人登録がかかわってくるのかというお尋ねにつきましては、太田委員のおっしゃいましたとおり、まず第一に、外国人の公正な管理とは、規制的な面があるわけでございます。それは外国人がわが国に入る場合には、在留資格、在留期間について許可を受けて入ってこなければならないということのほかに、不法入国を防止し、摘発するということ、それからまた、資格外活動者を防ぎ、発見する、こういうことに外国人登録が有効に生かされるという面がございます。
 しかし、入管法による外国人の管理は、そういう規制的な面だけではなくて、これは非常に重要な面でございますけれども、そのほかに、いわば行政サービスとでも言いましょうか、そういうこともあるわけでございます。たとえば外国人の再入国許可の問題であるとか、あるいは在留資格の変更であるとか、いろいろなことがございますけれども、そういう場合にもこの外国人登録制度というものが非常に深くかかわってきます。つまり、そういう手続をする場合には、関係の在留外国人は、外国人登録証明書を提示して、そしてそういう手続を容易にすることを可能にするという面があるわけでございます。
#153
○太田委員 そこで、私がこの外国人登録制度の中で最も関心を持つのは、登録証明書の常時携帯義務ということなんですけれども、ただいま申し上げました在留資格のチェックでありますとか密入国の防止ということのためにこの登録証明書を常時携帯をさせるということはどういう役に立っているのかというところが、まだ具体的によくわからないわけであります。つまり、そのような目的に対して、在留資格のチェックであるとか密入国の防止であるとか、あるいは先ほど局長が言われましたいわゆる再入国を可能にするというふうなアイデンティフィケーションカードを発行するということは、すなわちその人に対するサービスにはなるわけでありますから、もちろんそういう面も含んでいるわけですけれども、登録証明書を常時携帯するということと外国人登録法のそういう具体的な目的どの間にどういう関係があるのかというところを、少し御説明をいただきたいと思います。
#154
○大鷹政府委員 不法入国者の摘発をするに当たりましては、その人が正規に日本に在留している外国人でないということが確認されなければならないわけであります。別の言葉で言いますと、在留外国人はすべて登録をして、そしてその登録証明書を常に携帯していることによって、そういう手続を終えていない不法入国者あるいは不法残留者の発見が可能になるわけでございます。言うなれば在留外国人の身分関係、居住関係を即時的に、即座に把握できるという制度が必要なわけでございまして、この見地から在留外国人に対しては登録証明書の携帯義務を課しているわけでございます。
#155
○太田委員 いわゆる法律百二十六号第二条六項該当者というのですか、この該当者はいま日本に何人ぐらいおられるのですか。それと、永住資格を持っている外国人は何人ぐらいおられるのですか。
#156
○大鷹政府委員 法律百二十六号二の六関係者は全部で現在約十四万名おります。この法一二六―二−六該当者の子供に当たります入管法四条一項十六の二の資格を持った人も、ほぼ同数の約十四万名おります。
 それから、永住資格を持った人でございますけれども、いわゆる協定永住の資格を持っている人は、現在約三十五万名おります。
 ただいまのはすべて朝鮮半島出身者でございますけれども、そのほかに、日本における一般永住の資格を持った外国人というのは、約一万七千名おるわけでございます。
#157
○太田委員 そういたしますと、いま在日外国人の数は八十万ぐらいですから、永住資格を持った外国人というのは、全部で約三十六万七千人ということになるわけですね。
#158
○大鷹政府委員 五十六年の入管法の改正で、法一二六−二−六該当者とその系列にある方々、子孫の方々につきましては、いわゆる特例永住制度というものを設けました。こういう方々が永住を申請された場合には無条件でこれを認める、そういう制度が導入されたわけでございます。合わせて約二十八万名おりますけれども、こういう特例永住の有資格者の中で今日まですでに永住資格を申請されている方は、九万名を超えております。
#159
○太田委員 つまり、かなりの部分が永住資格あるいは潜在的に永住資格者であるわけでありますけれども、この永住資格を持っているかなりの数の、あるいは永住資格をこれから取ろうとしているかなりの数の外国人の方々、仮に永住資格を取ったとした場合に、外国人登録証に記載をされている記載事項の中で必ずしも要らないものがあると思うわけでありまして、二十項目あるのですけれども、たとえば在留資格をチェックするということは、これはまさに永住資格が在留資格なんですから、これはその人がどういう状況にあるかということは大して問題にならないわけです。在留資格のチェックという観点からすると、永住資格そのものが在留資格なんだから、このチェックを携帯をすべき外人登録証に書いておく必要はないのではないか。あるいはその職業についても、入国しての中での活動に職業上の制約はないと思われますので、これも書く必要はないのではないかというふうに思うわけであります。
 この二十項目に及ぶ外国人登録証に記載すべき項目のうち大半のものは、密入国防止であるとかあるいはその在留資格のチェックというふうな目的に照らして、その目的に直接関係のある項目というのは非常に少ない量になるのではないか。たとえば、数でいいますと、半分以上はこれは要らないのではないかというふうな気もするわけでありますけれども、いま指摘した二点も含めまして、たとえば世帯主の氏名とか世帯主との続き柄とか勤務先住所とか、そういうものは実際に在留資格のチェックをするとかあるいは密入国を防止するという目的のために、何かこれは役に立つのかどうかということをお伺いしたいのです。
#160
○大鷹政府委員 在留資格とか在留期間とか、こういうものは不法入国者とかそういう人たちを発見するために非常に重要な事項でございます。たとえば、不法入国者の場合には当然これは在留資格がないわけでございまして、ただいま太田委員おっしゃいましたように、法一二六−二−六あるいはその子で永住資格を取った者につきましては、永住ということが登録証明書に書き込まれるわけでございます。したがって、そういう方々は不法入国者ではないということが、そういう形で証明できることになります。したがいまして、永住あるいはその他の在留資格というものを登録し、登録証明書の中に記載するということは、不法入国の摘発のためにどうしても必要な点でございます。
 それから、職業あるいは勤務先、こういうものは特に永住者の場合には職業活動に制限はないはずだから書く必要はないじゃないか、こういう御意見でございますけれども、これも不法入国者の摘発にはきわめて重要な面がございます。と申しますのは、ある外国人がいかなる職業を持ち、どこに勤務しているかということがわからないと、実際にそういう摘発に当たっている者が即座に行動をとることができないという場合があるわけでございます。つまり、たとえば日中その外国人の生活の場というのは、勤務先も含めてそういうところを知っていないと、不法入国者であるかということがすぐには確認できないという場合があるわけでございます。職業と勤務先につきましては、不法入国者の摘発に非常に関係がございますけれども、その他にも、たとえばわが国の労働政策を定めるに当たってこれは非常に重要なデータを提供するものであるという面があるわけでございます。
#161
○太田委員 いまおっしゃったのは、登録原票のことを言われているのじゃないかと思うわけであります。つまり、それが現住所がどこかに登録されていなければいけない、あるいは職業がどこかに登録されていなければならない。これはわかります。わかりますけれども、ただ、それを何も常時携帯をしておくものに記載する必要はないと思うわけであります。常時持っていることによって、つまり、いま使っているカードというか登録証をあくまでも頭の中でこだわられると困るわけでありますけれども、これはいわばアイデンティフィケーションカードなんですから、アイデンティフィケーションカード一般の話として考えたときに、永住許可を持っている人が持つべきアイデンティフィケーションカードというものは、永住という判がぽんと押してあれば、そしたら密入国者か永住者であるかという区別がつく。そして、永住者であるということの区別がつくのであれば、これは外国人登録をきちんとしているということがそこで証明をされるわけでありますから、常時携帯をしているものの中に職業やあるいは世帯主というものを書き込んで、そこで密入国者と区別するという目的には直接には関係がないのじゃないですか。
#162
○亀井説明員 いまお話しのアイデンティフィケーションの問題でございますが、人を同一性を確認するという場合は、アイテムと申しますか、確認する事項が多ければ多いほどよろしいのじゃないか。たとえば、アメリカでわれわれの外国人登録証明書と同じような、グリーンカードと一般に称されておりますけれども、このカードの中にはとてもわれわれが読めない複雑な数字を打ち込んであるわけでございます。これはアメリカの場合は、この打ち込んだ数字によってセンターのコンピューターとつなぎまして、そこで同一性を確認するというふうに、同一性を確認するという点におきましては、そういう事項というのは永住というスタンプが一つあればいいのじゃないかというように簡単にはいかない。要するに、こういう二十項目の項目があることで同一性の確認ということができるのだというふうに申し上げることができるかと思います。
 それと、在留資格につきまして、永住というものがあれば職業とか、そういうお話がございましたけれども、この永住という資格は、この証明書を持っている人たちにとりまして、ここに永住という書き込みがあるということが社会生活を行う上に非常に利益を得るところが多いわけでございます。ということは、外国人の管理におきまして、在留資格と職業、在留期間、勤務地というのはワンセットのものとしてわれわれは考えておりまして、その資格の外の問題ということだけではなくて、要するに、との登録証明書は別にまた利用される面があるわけでございまして、いま先生は特に不法入国の摘発ということで申されたわけでございますが、先ほど局長からもお話がありましたけれども、この登録制度というのは、現在におきましては、利用される分野というのは非常に広いわけでございまして、先ほどちらっと世帯主の氏名、続き柄というものもございましたけれども、これなんかも現実には利用される面から申し上げますと、国民年金であるとか児童手当という市町村の行政ではこれは非常に役に立つところでございまして、ということは、この項目はいま申しましたように、一つには不法入国とか不法滞在ということのためのアイデンティフィケーションを確かにするというためのものと、ここにあることによってわが国のあらゆる行政の分野で利用される面もあるのだということを申し上げて、永住があれば、ぽんとスタンプがあればほかの項目は不要ということには結びつかないのじゃないかというふうに考えております。
#163
○太田委員 そのたくさんのものを、いわゆる小冊子を持って歩くということと、簡単な一枚のカードを持っておるということでもって、これは原票みたいな、もとになる帳面みたいなものをうちに置いておけば、いま言われたような社会保障関係のものに役に立てるときは、その原票を持っていけばいいわけであって、常時携帯をしておくということは、つまりなぜ常時携帯をしておるかというと、これはあるところでお巡りさんに尋問されたときに、すぐぱっと出さなくちゃいけない。お巡りさんにぱっと見せなくちゃいかぬという意味は、密入国者かそうではないかということを確認するということの目的以外には、永住者の場合に在留資格をチェックするわけじゃないのだから、これは何したっていいのですからね。それはキャバレーで歌っていようが、どこかで道路工事で働いていようが構わないわけですから、そこは永住者の場合チェックできない、チェックする必要がないわけですから、もっぱら永住者がしかも常時携帯をしておくということの目的は、密入国防止が主たる目的、主たるというよりも目的のほとんどではないかというふうに思うわけですね。
 ですから、ほかにいろいろメリットがあるよというふうなことを言われましても、いろいろというのはちょっといまの答えにはならないわけでありまして、それじゃいろいろ何があるのですかということになるわけですね。たくさん書き込まなくちゃいけない。そして小冊子を持って歩かなくちゃいけないということ自体が、これは法務省はそう考えないかもしれないけれども、外国人の方はこれはコストとして考えているわけで、それは民間に対するコストを支払われる精神的な苦痛を与えている。あるいはそういうものを、私なんか特に物を持つの嫌いだから、そういう気持ちはわかるのですけれども、物を持つのが嫌いな人間というのは結構多いわけでして、あの十何ページかのものを常時持って歩かなくちゃいかぬというのは、これはやはりそれだけたくさんの項目を書かなければいけないということが決まっているから、それだけのものを持って歩かなくちゃいけない。これはやはり民間の――民間のというよりも外国人に対して、コストを支払われているそのコストを支払うに値するだけのメリットがここにあるのかどうかということがいま質問をしている趣旨であります。
#164
○大鷹政府委員 外国人登録法というのは、太田委員が御指摘のとおり、不法入国者の防止、摘発、それから資格外活動者の摘発、こういうことを非常に大きな目的にしております。もちろんそれだけではございません。ほかにもいろいろございます。しかし、この段階で不法入国者に焦点をしぼってお話ししてみますと、二十項目のこういう非常に数多い項目を登録証明書の中に記載して携帯されることが必要だろうか、こういうお尋ねなんでございます。
 ところで、在留外国人はすべてが永住者じゃございません。そのほかに、ある職業を持って、その職業のために在留している人、それは長期の商用であるとかいろいろな方がおられると思います。あるいは大学の教授であるとかそういう資格の方もいらっしゃいます。そういたしますと、そういう方の在留資格、期間だけでは、その方の身分関係というものを広く把握することはできないわけでございまして、職業、勤務先、こういうものもすべて全体として把握することによってその方の身分関係がわかる、こういうことになるわけでございます。
 いずれにいたしましても、ある外国人の身分関係、居住関係を把握するためには、現在設けられております二十項目の記載、それからこれを登録証明書の中に同じように書いて携帯してもらうということは必要なことであると私どもは考えております。
#165
○太田委員 いや、だから何で必要なんですかということをさっきからお尋ねしておるのです。いわゆる外国人がそれだけのコストを支払っていることに見合うだけの具体的な目的といいますか、具体的な必要性というものが挙げることができればいいのですけれども、なかなか説得力のある項目というのは、先ほどから伺ってもないわけでありまして、いまのいわゆる永住者以外の在留資格については幾ら書いても構わぬと思うのですよ。それは職業も書いた方がいいだろうし、いつまで旅券が有効であるか在留期間とかいうものも書いた方がいいだろうし、勤務先の住所も書いた方がいいだろうと思います。
 しかし、永住者は一応自由な身になっているわけでありますから、永住者の場合に持って歩くということの具体的な必要性というのは、まだお答えとしてはいただいてない。その二十項目のうちの全部が要らないと言っているわけじゃなくて、いわゆる上陸許可の年月日とか旅券発行の年月日はいいですけれども、在留資格、在留期間とかは要らないでしょう。
#166
○亀井説明員 先生は、先ほど一応この項目につきまして原票と申しますか、そこに登録することは必要であろうというふうにお話がありました。現在の登録法の第五条にございますけれども、これは原票に書いてある事項をそっくりそのまま登録証明書に記載するんだ、これが現在の登録法の考え方でございます。これはやはりアイデンティフィケーションといいますか登録を厳格に考えまして、原票に記載される事項はそのまま鏡のごとく登録証明書に記載する、そのことによってアイデンティフィケーションを確かなものにする、これが現在の登録法五条の考え方であろうと思うのでございます。先生が登録原票に記載するという必要性が一応あるだろうということになれば、携帯していただく登録証明書もそれを鏡のごとく写しているということが必要になるのじゃないかというふうに考える次第です。
#167
○太田委員 まだお答えには全く満足できないのであります。つまり、そういうことがそっくりそのままのミニチュア版を持って歩かなければいけないという規定があるというけれども、ある規定そのものが、最近時の行政改革の理念からいいますと、これは過重な負担を外国人に対して押しつけるものではないかということを言っているわけであります。
 それから、次の質問に移らしていただきますけれども、登録証が本人のものであるかどうかを確認するために指紋の押捺を義務づけているのでしょうか、どうでしょうか。つまり、常時携帯する外国人登録証に指紋の押捺を義務づけているということは、登録証を本人のものであるかどうかを確認するために押させているわけでしょう。
#168
○大鷹政府委員 登録法は、新規登録等の申請に際しまして外国人に対して指紋の押捺義務を課しているわけでございます。これは指紋が申請人の同一人性を確認する上で絶対的な資料であるということにかんがみまして、指紋制度を採用することによって登録の正確性を維持するとともに、登録証明書の不正発給や偽造、変造等を防止することにしているわけでございます。
#169
○太田委員 私は、原票の方に指紋を押されるのもまた理由のあることだと思いますけれども、常時携帯をするものに指紋を押しておかなければいけないということの意味がわからないわけであります。指紋をそこに押しておくことに、何か政策目的に照らしてメリットがあるのかというのがわからないのであります。
 もうちょっと具体的に言いますと、一般の警察官が不特定の場所あるいは不特定の時刻にいわゆる密入国者と疑わしい人に出会った。そして、そこで外国人登録証を出せと言ってその人が出した。そうすると、現場の警察官というのは、その人の指紋がここに押されているかどうかということを確認する手段というのを常時持って歩いているのですか。
#170
○大鷹政府委員 もちろん、警察官はその場合、その外国人が所持している登録証明書の指紋が本当のものであるかどうかということをチェックするために、あらかじめその本人の正しい指紋を持っているわけじゃございません。ただ、登録原票に書いてある人と登録証明書を携帯している人が同じ人物であるということを最終的に確定するには、指紋しか方法がないわけでございます。
#171
○太田委員 指紋は、いつも自分の手そのものを持って歩いているわけですから、本人と原票をあれするのはいつでもできるわけです、登録証明書を持っていなくても。ただ、現場で警察官が証明書を出せと言って、そこに拇印が押してある、その拇印が本人のものであるかないかということを確認するのは非常にむずかしいわけです。つまり、この人が持っている登録証はこの人のものであるかどうかということをアイデンティファイするということは非常にむずかしいわけです。というのは、たとえば警察官が印肉というのですか何というのですか押す相手を持っていて、紙か何かに押して二つ比較して、これはおまえのものじゃないということを確認できれば、それだけの訓練を警察官が受けているとか、そういうふうなものをいつも携帯しているということならば、常時携帯しているものに拇印を押さなければいけないということはわかるのですけれども、実際はそうではない。実際には一般の警察官にそれだけの識別の能力もないだろうし、そういうものをふだん持ち歩いているという話も聞かないわけでありますから、すなわち常時携帯するものに拇印を押しておくということについては、ほとんど意味がないというふうに思うわけでありますけれども、どうでしょう。
#172
○大鷹政府委員 その外国人が携帯している登録証明書は本当のものであるかどうか、つまり、これが偽造ではない、あるいは他人のものを携帯しているわけじゃないということを確認する必要があるわけです。したがって、警察官はその場で指紋を鑑識することはむずかしいかもしれません。しかし、その本人が携帯している証明書に押捺してある指紋と登録原票に押してある指紋とを比較することは、その場ではできなくとも可能なわけでございまして、その結果、この本人が正規に登録した外国人であるかどうかということを確定することができるわけでございます。その意味でどうしても登録証明書には指紋は押されている必要がある、こう考えております。
#173
○太田委員 結局またさっきの話と同じことをやりとりしていることになったのですけれども、私が暗黙のうちに頭の中に描いていることは、自分の家にはちゃんとしたものが置いてある、そしてちゃんと自分が持っているものは自分のものだということを常時確認できるということになっていればいいので、指紋を押したものを持って歩く必要はないのではないか。先ほどと同じ趣旨の質問になるわけですけれども、そういう第一線の一般の警察官が不特定の場所でもって、この人は密入国者じゃないかという疑いを抱いて登録証明書の提示を求める、その行為でもって本人かどうかということをアイデンティファイするのに一番いい道は、指紋よりも、指紋を識別するのは非常にむずかしいわけですから、むしろ顔写真を張ってあれば、その方が効果的なアイデンティフィケーションの手段ではないかということを言いたいわけなんです。
 余り時間もなくなってきましたので、いまの質問はさっきの質問と同じようにお答えがまだ十分理解できないわけでありますけれども、外国の場合はこの指紋制度というものに対して、新聞でもかなり批判的な記事がたくさん出ています。外国の場合も方々の国が指紋制度を採用しているというふうなお答えを多分されるのでしょうけれども、その方々の国が採用している指紋制度というのは、日本がやっているような指紋制度ではなくて、これは新聞の知識ですから正確じゃないのですけれども、たとえばアメリカの場合は相互主義をとっていて、相手の国が指紋を要求している場合に、自分のところのその国の国民に対して指紋を要求するというふうなことになっているのではないか。それだけではなくて、各国がやっていることは、必ずしも全面的に指紋を押させるという制度をとっているわけではなくて、ごく限定された対象に対して指紋の押捺を義務づけているのではないかというふうに思うわけでありますけれども、日本のような全面的な制限のない指紋押捺制度というものをとっている国は少数ではないかということをお伺いしたいのです。
#174
○當別當説明員 お答えいたします。
 ただいまの外国人登録する際の指紋の押捺でございますが、わが国の外国人登録法は、委員御案内のとおり、法の十四条によりまして、一年以上わが国に在留する外国人に限って指紋の押捺の義務があるわけでございます。一年未満の在留者は、指紋の押捺義務はございません。そういうことで、わが国の法律は、わが国に在留する外国人のうち九十日を超えて長期に在留する外国人についてのみ登録の義務を負わしておるわけでございますが、九十日未満は登録の義務はございません。旅券さえ携帯しておればいいということに出入国管理法上なっておるわけでございます。そういう九十日以上の長期在留外国人のうち指紋の押捺義務を課せられておりますのは、さらに、一年以上わが国に在留する人に限られておるわけでございます。そういう意味で、外国人登録をする外国人がすべて指紋を押捺しなければならないというわけではございません。
 なお、先ほど太田委員から、諸外国における指紋制度のことが取り上げられましたので、ちょっとお答え申し上げておきますと、たとえば、先生先ほど御指摘になりましたアメリカの法制でございますが、アメリカの法制は新聞で相互主義の原則がとられておるという御指摘がされたわけでございますが、アメリカの相互主義というのは、一年以上アメリカに在留する外国人にはすべて指紋の押捺をする義務があります。一年未満の在留外国人については相互主義の原則を適用いたしまして、当該外国人の所属しておる国がアメリカ人に対して指紋を要求する場合には、指紋を要求しておるわけでございます。そうでない場合は要求しておりません。したがって、わが国の法律は、一年未満の場合はすべて指紋の押捺義務がないわけでございますから、アメリカの法制に比べるとまだわが国の法制の方が緩やかではないかというふうに考えております。
 そのほか、お隣の韓国でございますが、これを一つの例に挙げて御説明させていただきますと、指紋を押捺いたしませんと在留を認めません。したがいまして、指紋の押捺を拒否したという人たちは、在留が認められないということになっておるわけでございます。そのほか、いろいろ国情によって差がありますが、わが国の法制は、指紋の押捺を要求しておる諸外国の法制に比べまして、比較的緩やかな法制をとっておるというふうに考えるわけでございます。
 それから、先生よろしゅうございましょうか、先ほど御質問について十分納得するに至らないということでございましたので、この機会に先ほどの点についてちょっと触れさしていただきます。
 まず、先生御質問の点は、主として永住の在留資格を与えられておる外国人については、二十項目の登録事項をすべてについて要求するだけの必要性がないんじゃないだろうか、主として永住外国人についてでございますが、こういう御質問だったと思うわけでございます。
 先ほど来、この登録事項がなぜこれだけ必要かということについて、一番理解しやすい、御説明申し上げやすい例といたしまして、不法入国者であるとか不法在留者であるとか、あるいは資格外活動者であるというような例が取り上げられたわけでございますが、この外国人登録法を全体として眺めました場合に、たとえば提示要求はだれができるのか。外国人登録法の十三条は、ここに入国審査官であるとか、警察官であるとか、海上保安官であるとかということを規定しておるわけでございますが、「その他法務省令で定める国又は地方公共団体の職員」ということになっておりまして、これは外国人登録法施行規則によって定められておるわけでございますが、その中に、外国人登録の業務に従事する公務員、これは市区町村の地方公務員でございます、あるいは職業安定法に規定する公共職業安定所の職員というような規定を置いているわけでございます。
 こういう規定との関係で全体的に見ますと、先生が一番最初に取り上げられましたように、最近におきます各種の給付行政、たとえば雇用保険でありますとか、あるいは医療保険でありますとか、あるいは健康保険でありますとか、こういう点につきましても、いろいろ国籍要件の撤廃などがなされまして、外国人を同一の取り扱いにしておるわけでございますが、こういう行政に従事する職員が直ちに外国人に登録証明書の提示を求めて、その外国人の各種の行政を行いますときに必要な資料をとりたいという場合には、たとえば職業とか勤務先の住所とか所在地とかいうような規定がございませんと、たとえば雇用保険の上での問題とか、そういう給付行政上いろいろ支障が生じてくるわけでございます。
 同じこの外国人登録制度を、それぞれの行政施策に応じて同じような制度をあちらでも設ける、こちらでも設けるということになりますと、外国人により以上の負担をかけるわけでございますし、国家行政の上でも負担が大きいということになりますので、この外国人登録法に基づく登録というのがいろいろな方面に利用されておるというような点がございまして、この二十項目を永住外国人について幾つかの分についてしぼるというようなことは、そういう外国人登録というものの果たしておる役割りというようなことを考えますと、かえってこの事務を錯綜させるのじゃないかという感じがするわけでございます。
#175
○太田委員 時間が来ているわけでありますけれども、ちょっとまとめてやりますので、お許しをいただきたいと思います。
 いまのお答えについてもう一回反論をいたしますと、自分の用でもってこちらから役所に出向いていくときに、いろいろな書いたものを持っていく、これは自分にとってメリットのあることですから、当然これは原票といいますか、本来のものを持っていけばいいわけですけれども、それが義務であって、うろうろしているときに、不特定の場所を歩いているときに提示を要求されるという性質のものであるというところに、これはそれだけの項目が必要ないのではないかということを言っているわけであります。社会保障の問題とか職業安定の問題は、これはむしろ自分の方が持っていけばいい。特定の場所に出かけるわけですから、それはちっとも構わないと思うんですよ。ということがいまおっしゃったことに対する一つの反論であります。
 それで、まだ質問が半分ぐらいしかいっていないのですけれども、当初から一時間しかもらっておりませんので、ざっとまとめて言いますので、ちょっとお聞き取りをいただきたいと思います。
 残された質問のまず一番目は、密入国とかあるいは在留資格をチェックするという目的に照らして旅券の所持をしているかどうかということと、それから外国人登録証を所持しているかどうかということ、登録証を所持していないということの問題点、旅券を所持していないということの問題の事柄の重要性といいますか、事柄の深刻さというものが果たして差があるのかどうかという質問が第一点です。何でこんなことを聞いているかといいますと、御想像できると思いますけれども、罰金が旅券が十万円で、登録証が二十万円だ。何でこんな倍も違うのかという素朴な疑問があるわけです。これが第一点です。
 それから、次の二番目の質問は、私がさっきから言っておるのは、アイデンティフィケーションカードとして日本で一番ポピュラーなものは学生証であったり、あるいは運転免許証であったりするわけであります。それでは、運転免許証といまの外国人登録証を比較した場合に、運転免許証は何をチェックするかというと、その乗り物の運転資格を持っているか持っていないかということ、つまり無免許運転を防止することが目的であるわけです。外国人登録証を持っているか持っていないかをチェックするのは、密入国をする者かあるいは在留資格外の活動をする者を見きわめるために常時これを携帯させているわけでありますので、この二つのアイデンティフィケーションカードが排除しようとしている目的は、片方は無免許運転者であり、片方は密入国者あるいは在留資格外の活動をする者であります。この二者の間に、社会的に見てどちらが危険だということの判断が下せるかどうか。片方の無免許運転をする人は、社会にとって大変危険であります。そして密入国者も、危険と言えば危険かもしれない、国家安全保障にとって大変危険かもしれないけれども、それほどわかり切ったほど、こちらの密入国者の方が無免許運転をする人よりも危険かどうかということの判断は、即座にはつかないはずであります。にもかかわらず、片方が罰金が二十万円で片方が一万円ですか、というふうに二十倍の差があるのは一体どういうわけなんだろうかというのが第二の疑問点。
 それから、きょうは警察庁の吉野課長さんですか、来ていただいて申しわけありません。実はさっき聞こうと思ったことを局長がお答えになりましたので、最後に一つしか質問が残っておりませんけれども、職権乱用、つまり、外国人登録証を持っているか持っていないかということをきっかけにして、非常に厳しい取り締まりといいますかチェックがなされるということに対して、いろいろ苦情なり何なりが在日外国人の方から寄せられているわけであります。私の親しい友人の中でもそういうことを言う人がいるわけでありまして、そういうことはたびたびいろいろな印刷物なんかにもなっておりますので、恐らく警察の方でも御存じであるはずでありますけれども、警察官がその辺を乱用しない、つまり、その提示義務というものにつけ入るといいますか、そういう形でもって職権を乱用しないようにということに対して、何か警告なり注意を常時しておられるのかどうかということがお聞きしたい第三点であります。
 そして、また同じような問題に戻りますけれども、もし仮に学生証みたいなものがアイデンティフィケーションカードとして信頼するに値するとすれば、これはたとえば十四歳から十六歳というふうに引き上げるときに、実はむしろ十八歳でもよかったのではないか。つまり、独立して生活を営んでいるというにしては、十六歳というのは余りにも低過ぎる年齢でありまして、いずれにしても、いまの進学率からいいますと、ほとんどが高校に進学するわけでありますから、十八歳未満の子供というのは決して親から独立しているわけではないので、十四歳から十六歳に引き上げるという恩恵的な措置をとられるなら、どうせのことなら十八歳から二十歳にすればいいじゃないかというのが第四点であります。
 そして、最後に申し上げたいことは、これまでいろいろ外国人登録法そのものについて申し上げてまいりましたけれども、常に私どもの頭の中にあるのは、外国人一般というよりも、在日韓国人あるいは在日朝鮮人の方々の問題であるわけであります。私のように戦後生まれた者は、偏見がないといいますか、日本で生まれた二世、三世の韓国人あるいは朝鮮人の方々と机を並べて一緒に勉強してきているわけでありまして、われわれの世代の感覚で言えば、二世とか三世というのは、特質、慣習あるいは言葉の面からいってもほぼ日本人であり、お互いに同一の、共通の空間を共有する相手として、十分にアイデンティティーといいますか一体感を有し得る間柄であると思っているわけであります。そうした在日韓国人あるいは朝鮮人の方々が、ある日突然われわれと全然違う扱いを受けているのだということについて、非常に不自然な感じを私自身が持つわけであります。
 一つの例を挙げますと、私の友人の一人が、大学を卒業すると同時に、自分は故国に帰るのだ、故国で活動するのだというので、勇んで帰国をしてしまったわけでありますけれども、半年くらいすると、自分は韓国社会に同化することができないということに気がついて帰ってきて、自分はもはや日本人になってしまったというふうに告白をしたことがあるわけであります。そういう在日韓国人、朝鮮人の方々は、言語、習慣あるいは文化の面で、韓国あるいは朝鮮民主主義人民共和国、そういった母国の方々とのアイデンティティーを本当に持っているかどうかということよりも、わが国国民とのアイデンティティーの方をより一層強く持っているのではないかという気がするわけであります。
 考えてみれば、日本の歴史の上でも帰化人が、文化的にもあるいは民族的にといいますか、われわれの血の中にも、韓国あるいは朝鮮半島からの帰化人の血が恐らく入っているだろうし、それらの人々が日本の歴史の形成に大きな役割りを果たしていることは間違いがないと私も思うわけでありまして、いずれはこの二世、三世の人々がわが国に帰化をしていくというのが自然の流れであろうかと思うわけであります。その帰化をするということが、むしろ現在抱えている外国人登録法が非常に苦痛であるということに対する最も正当な解決方法ではないかというふうに私は思っているわけであります。そして、その面からいいますと、外国人登録法の大半を占める在日韓国人、朝鮮人の方々の抱えておられるいろいろな問題というのは、むしろ本来の解決方法、つまり国籍法の運用をもっと弾力的なものにする、あるいは簡単に国籍が取れるようにするということが、本来やるべき方法ではないかというふうに私は考えておるわけであります。
 そしてこれはまた、先ほど冒頭に言及をいたしました難民条約の三十四条によって、難民に対しては帰化をできる限り容易なものとすること、あるいは社会的な適応をできるだけ容易なものとするように政府が努力すべしという一項があるわけでありまして、これはひとり難民にとどまらず、在日韓国人あるいは在日朝鮮人の方々に対しても、やはりそういう便宜が図られてしかるべきではないかと思うわけであります。これは民事局の方にお伺いしたい。つまり、国籍法の運用あるいは国籍法の条文そのものについて、少し再検討をするお気持ちはないかどうかということを最後の質問といたしまして、終わらせていただきます。
#176
○大鷹政府委員 ただいま先生からございましたいろいろな質問のうち、私どもに関係のあることについてお答えさせていただきます。
 まず、旅券の携帯義務と外国人登録証明書の携帯義務との関係でございますが、いわゆる九十日以内の在留期間を持って日本に滞在している外国人は、短期滞在者ということでございます。こういう人につきましては外国人登録の必要がございません。こういう方々は、旅券を携帯していればいいわけでございます。他方におきまして、九十日以上日本に滞在される外国人につきましては、登録の義務が生じますし、その結果、登録証明書も携帯しなければなりません。もっとも、登録証明書を携帯する場合には、旅券の携帯は免除されます。
 この二つのカテゴリーの外国人、つまり短期滞在者と長期在留者の間におきましては、私どもは外国人の在留の公正な管理という見地から、やはり重要性に軽重があるものと考えております。つまり、短期滞在者の場合には、九十日以内にもう日本を去っていく方々でございます。他方におきまして長期在留者の場合には、長い間わが国社会とのかかわりを持たれる方でございますので、こういう方々に対する管理というものは、やはりそれだけ重要さがあるわけでございます。したがいまして、外国人の登録証明書の携帯義務違反の罰則と旅券の携帯義務の罰則との間に差があるのも当然のことと私どもは考えているわけでございます。
 質問の第二点で運転免許のことを太田委員がお挙げになりました。運転免許証の不携帯と外国人登録証明書の不携帯と、どちらが危険と考えているかというお尋ねでございました。実はこの両者、どちらが危険かということは、なかなか比較がむずかしいだろうと思います。しかし、私どもが特にここで強調したいと考えておりますのは、運転免許証の場合と外国人登録証明書の場合は、目的が違うのじゃないだろうかという点でございます。したがって、外国人登録証明書で記載されるべき事項と運転免許証に記載される事項との間に現実に差がございます。これはそういう両者の間にございます目的の差からきているというふうに考えております。
 第三の御質問でございますが、登録証明書の携帯義務、提示義務を履行しているかどうかを警察官等が職務上チェックする場合、その対応について入管当局は十分に警察当局に対して話し合い、意思の疎通を図っているかどうか、こういう御質問でございました。私どもは折々警察当局等の方々と接触を持ちまして、その点については十分に話し合いをいたしております。現在までのところ、私どもも警察当局のやってこられたことは適正な職務の執行であるというふうに考えているわけでございます。
 それから最後に、太田委員は、いろいろな点についての義務年齢を今度改正法案では十四歳から十六歳に引き上げておりますが、十六歳というのはなぜか、十八歳でもいいのじゃないか、ことに外国人の大部分も高校に行くのだから、十八歳までは独立した社会生活を実際にやってはいないのじゃないか、こういうお尋ねでございました。しかし、実は私どもいろいろこの点慎重に検討いたしたのでございますけれども、十六歳が独立した社会生活を営むかどうかということの境目ではないかというふうに考えております。
 その例証として、いろいろな立法例があるわけでございますけれども、たとえば労働基準法上の深夜業の規制も男子については十六歳を基準にしております。逆に、十六歳に達すれば二輪免許等一定の運転免許を取得することができますし、それから女性の場合には、十六歳に達すれば婚姻が可能になります。その結果、民事上完全な行為能力を有するに至るわけでございます。
 それから、これは参考的なことでございますけれども、ほかの国の立法例を見ましても、フランスでも十六歳を基準にして滞在許可証の所持義務を発生させておりますし、西ドイツにおきましても、十六歳以上の者に対して、氏名、身体的特徴等が記載され、写真を貼付された身分証明書が交付されております。さらに、国際民間航空条約の第九附属書修正第八版によりますと、旅券制度に関連して、十六歳未満の者につきましては父母の旅券に併記することを勧告しているのでございます。こういう事実は、国際社会においても独立して社会生活を営む者の年齢が十六歳を基準にしているということを示すものではないかと考えておるわけでございます。
#177
○中島政府委員 帰化の点についてお答えを申し上げます。
 法律の規定ということについて申しますと、韓国人二世、三世の方をその他の外国人と区別して帰化の許否を決するというような規定がないことは御存じのとおりでありまして、現在全面的見直しをいたしております法制審議会の審議においても、法律の規定を変えるということは問題になっておらないわけでございます。ただ、この規定を適用して個々具体的な帰化申請の事件の許否を決するという運用の面について申しますならば、韓国人の二世、三世の人は親族なり友人なども日本人が多い、あるいは日本の社会での生活が長くて同化が進んでいるという人が多いわけでありまして、具体的な事件の処理に当たっては、当然ながらこの点について最大限の考慮がされておるわけでございます。
#178
○吉野説明員 警察関係のお尋ねでは、第一線の警察官が外登証の提示要求権を乱用しているのではないか、それについて警察庁ではどういう指導をしているか、こういう御趣旨だったと思いますけれども、私ども一般的に申し上げまして、警察法にもありますように、不偏不党、中立公正ということを執行の理念として一般的に指導しているわけでございますが、特に外国人につきましては、先ほど来御指摘のように、言語、習慣、風俗、いろいろ違う点もございますので、特に慎重にやって、無用の紛議を起こさないようにということを指導しておるところでございます。
 いろいろ不愉快な声が寄せられているというお話でございます。これは私、察しまするに、職務質問というのは犯罪捜査をやって被疑者を発見するのに大変有力な武器であるのは否定できない事実でございまして、これは日夜外勤警察官を中心にやっているわけでございますけれども、どうしても疑われたとなりますと、これは外国人に限らず、内国人でもそうでございますが、不愉快になるという事実があるわけでございます。
 私どもの指導としましては、その場合には、とにかく職務質問については御協力いただくのだという方針でやっておりますし、それから用事が終わったときは、丁寧に御協力に感謝してお帰りいただくというふうにやっているわけでございますが、なお一層御趣旨を体しまして一線を厳しく指導してまいりたいと考えております。
 それから、先ほど外国人登録証の指紋押捺が余り意味がないのではないかというお尋ねがございまして、よろしければ、ちょっと私の方で例がございますから御説明申し上げたいと思いますが、よろしゅうございますか。
 昨年警視庁で検挙した例にこういう例がございます。北朝鮮から密入国してきた男を検挙したのでございますが、この人は酒に酔い過ぎまして救急車で病院に運ばれたのでございますけれども、どうも挙動におかしいという点がございました。見たところ外国人である、調べましたところ、外国人登録証を所持しておったのでございますけれども、実はこれが真正な他人のものを何らかの方法で入手いたしまして、写真を張りかえて、しかもさらに精巧な刻印を偽造して押してあったのです。ちょっとおかしいということがわかりましたので、指紋を照会いたしまして、これが決め手となりましてこの人はこの証明書の持ち主でないということがわかりまして逮捕したという事案がございますので、御参考に御承知おきいただきたいと思います。
#179
○太田委員 どうもありがとうございました。
#180
○羽田野委員長 次回は、来る十三日火曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後二時四十八分散会
     ――――◇―――――
ソース: 国立国会図書館
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