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1981/10/15 第95回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第095回国会 本会議 第7号
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1981/10/15 第95回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第095回国会 本会議 第7号

#1
第095回国会 本会議 第7号
昭和五十六年十月十五日(木曜日)
  昭和五十六年十月十五日
    午後一時本会議
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 下平正一君の故議員前尾繁三郎君に対する追悼
  演説
 議員請暇の件
 老人保健法案(第九十四回国会、内閣提出)の
  趣旨説明及び質疑
   午後一時十分開議
#2
○議長(福田一君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
#3
○議長(福田一君) 御報告いたすことがあります。
 議員前尾繁三郎君は、去る七月二十三日逝去せられました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。
 同君に対する弔詞は、議長において去る九月八日贈呈いたしました。これを朗読いたします。
    〔総員起立〕
 多年憲政のために尽力し特に院議をもってその功労を表彰された議員従二位勲一等前尾繁三郎君はさきに本院議長の要職につきまたしばしば国務大臣の重任にあたり終始政党政治の確立につとめ議会制民主政治の進展に貢献されまし
 た その功績はまことに偉大であります
 衆議院は君の長逝を哀悼しつつしんで弔詞をささげます
    ―――――――――――――
 故議員前尾繁三郎君に対する追悼演説
#4
○議長(福田一君) この際、弔意を表するため、下平正一君から発言を求められております。これを許します。下平正一君。
    〔下平正一君登壇〕
#5
○下平正一君 ただいま議長から御報告のありましたとおり、元本院議長前尾繁三郎先生は、去る七月二十三日、心筋梗塞のため、七十五歳の生涯を閉じられました。
 私は、ここに、各位の御同意をいただき、議員一同を代表して、謹んで哀悼の言葉を申し述べたいと存じます。(拍手)
 さきの通常国会でも、しばしばこの議場で、先生のお元気な姿に接した私は、今後も政界の長老として、長く御活躍を続けられるものとかたく信じておりました。しかるに突如前尾先生急逝のお知らせを受けた私は、大きな衝撃と深い悲しみに打たれたのであります。
 いま改めて、ありし日の先生の偉大な足跡と、重厚にして滋味あふるる人間性に思いをいたし、哀惜の情ひとしおなるものを覚えます。(拍手)
 前尾先生は、明治三十八年十二月、京都府与謝郡宮津町に生をうけられました。丹後の宮津は、日本三景の一つ天の橋立を擁し、古くから名勝の地として知られておりますが、素朴で頭脳明晰な前尾先生の資質は、この美しい自然環境のもとで形成されたものでありましょう。
 しかし、当時の町の環境や御家庭の事情から、先生は大阪に奉公に出される運命にありました。このような状況にありながら、先生が宮津中学に入られ、さらに第一局等学校から東京帝国大学法学部へと、最も恵まれたコースを歩むことができたのは、先生のお話によりますと、中学進学を勧めた恩師が、「もし学資ができないなら、自分の月給から出させてもらう」とまで言われ、両親を熱心に説得してくださったたまものであると感謝し、この御恩は、世のため、人のためにお返ししたいと語っておられます。
 先生は、大学在学中、高等文官試験に合格され、昭和四年、卒業と同時に大蔵省に入省、主として税務畑を歩まれました。戦後は池田勇人事務次官のもとで主税局長を務め、GHQとの折衝を重ねつつ税制の立て直しに尽瘁し、多くの辛酸をなめられました。
 その後、造幣局長として大阪に赴任された先生は、政界に入る決意を固め、昭和二十四年一月の総選挙に民主自由党公認として、京都府第二区から立候補、みごとに当選を果たし、政治家としてのスタートを切られたのであります。
 やがて、岸内閣の通商産業大臣として初入閣されましたが、時に戦後十二年、最大の悲願でありました貿易収支の赤字を一挙に黒字に転ずるという至難のわざをなし遂げ、次いで昭和三十六年には、池田総理からの再三にわたる懇請により自由民主党の幹事長に就任をされ、党の近代化に全力を傾注する一方、寛容と忍耐の精神を持って国会に臨まれ、池田総理の期待によくこたえて、その成果を上げられました。幹事長を三期務められた後、総務会長、佐藤内閣の北海道開発庁長官、法務大臣など、引き続いて党と内閣の枢要の地位を歴任され、自由民主党に欠くことのできない領袖として、ますます重きを加えられたのであります。
 昭和四十八年五月、先生は、本院議長に推挙され、議長の重責を担うこと三年八カ月の長きにわたりました。顧みれば、先生の議長在任中には、筑波大学法案、防衛二法案、靖国神社法案、酒税法改正案、たばこ定価法改正案など、与野党が鋭く対立した法案が相次ぎ、さらに昭和五十一年には、ロッキード問題が発生し、四十日間にわたって国会審議が空転するという異例の事態もあり、まことに多難をきわめた時期でありました。
 事態がどのように紛糾しようとも、先生が常に期待したものは、徹底した話し合いによる解決でありました。そして、その話し合いによって得られた議長の判断は最高のものであり、万一それが間違ったり、受け入れられなかった場合には、潔く職を賭すべきであるという気概を持って事に当たられました。ロッキード国会において、前尾議長は、河野参議院議長と相はかり、各党の党首を議長公邸に招いて両院議長裁定を提示し、この事態をみごとに収拾されたことは、私どもの記憶に新たなところでございます。(拍手)
 先生の著書「政の心」は、語源を通じて、政治の本質を説いたものでありまするが、「政」は、字源をたどれば正義と力の調和を意味し、換言すれば理想と現実の調和であると述べられております。先生の政治に対する基本理念は、まさにここに存すると思うのであります。
 先生の遺稿となった「政治家の方丈記」の一節を私なりに要約させていただきますと、「最終的には、多数決によって物事を決しなければならないにしても、国会はあくまでも話し合いの場である。十分論議を尽くして与野党とも熟慮反省の機会を持ち、互いの長所を吸収し合って、よりよい案をつくり、また常に世論に耳を傾け、これを政治に反映するように努めなければならない。」こういうことになろうかと存じます。これは先生の政治観であると同時に、国会運営に対する指針でありまして、私どもは議会人として、党派を超えて、この言葉を深く銘記しなければならないものと存じます。(拍手)
 かくして、前尾先生は、本院議員に当選すること十二回、在職三十二年に達せられ、さきに永年在職の表彰を受けられた経験豊かな政治家でありましたが、その識見といい、風格といい、議会人としての存在は、まさに完成された名器をほうふつさせるものがありました。(拍手)そして、そこに先生の誠実さと人間愛を基調とする深い人間性を見ることができるのであります。
 先生は、また、著書の中で、「性来の愚鈍さのために、人さまには如何にも呑気そうに見えたかも知れないが、私は、私なりに悩みもし、苦しみもして来た。ことに私は政治家となる前に先ず人間でなければならないと信じている。従って人間として人格の完成に精進したいと努めては来たが、生れつきの性癖や欠点はなかなかなおらない。」とも述べられておりますが、この謙虚な言葉の中に、最期までみずからの人格の陶冶を怠ることのなかった、人間前尾繁三郎先生の限りない誠実な姿が如実に示されているように思います。(拍手)
 また、先生は、人との触れ合い、心の触れ合いを大事にされる方でありました。人を楽しませ、皆と一緒になってみずからも楽しむことを無上の喜びとされました。自在につづる酒脱な文章をもって人間の機微に触れる随筆を物し、酒を愛し、玄人はだしといわれた三味線の弾き語りで、小うたを歌い、興に入れば演歌も歌うという、いかにも人間らしい一面ものぞかせました。先生の豊かな感性とともに、人間の尊厳さを守るという理性が渾然一体となって、先生の深い深い人間愛が形成されたものでありましょう。
 政治家にとって一番必要なものは健康だとも言われております。前尾先生が必ずしも健康に恵まれなかったということは、私もある程度は承知はいたしておりました。しかし、御逝去の後に、側近の方々から承ったところによりますと、先生は幹事長時代の重度の糖尿病を初め、幾つかの重い病を患っておられ、ことに晩年は病のために、議員生活の三分の一は病院から国会に通うという、そういう実情であったとのことでございます。先生が政治家なるがゆえに人知れず病と闘い、言うに言われぬ苦悩を背負いながら、党務に、国務に、そして議長として、その職責を全うされたことを思い起こし、胸に痛みを感ずるのであります。(拍手)
 また、政局が混迷するごとに、前尾政権が取りざたされましたが、先生がこれを固辞したのは、病人が政権の座につくことは国民に迷惑をかけることになるという信念に発したものであり、決して世に言う権力からの逃避ではなかったことを知ったとき、私は、改めて先生の崇高な使命感に深い感動を覚えたのであります。(拍手)
 先生は、あすの日本を案じ、次代を担う青年に大きな期待をかけておられました。
 去る七月十八日から四日間、前尾先生主催による恒例の青年研修会がことしも比叡山で開かれました。全国から思想や職業を超えて集まった青年たちを前に、前尾先生みずから講師となり、現下の政治課題と文化国家の建設について長時間講演をされ、若人と寝食をともにしながら、ひざを交えて討論に加わり、日ごろ寡黙と言われた先生が、このときばかりは時のたつのも忘れて語り合われたとのことであります。先生の御逝去は、それからわずか二日後のことでありました。
 先生は、愛する青年たちに別れを告げるかのように、御自身の信念と抱負のすべてを吐露し、静かにこの世を去っていかれました。前尾先生らしい大往生であったと思うと同時に、痛恨やる方ないものを覚えるのであります。(拍手)しかし、先生の精神は、必ずやこの青年たちの心に深く刻み込まれ、あすの日本の進展と世界平和の実現のための大きな原動力となることを信じて疑いません。(拍手)
 ここに、謹んで先生の生前の御功績をたたえ、心から御冥福をお祈りして、追悼の言葉といたします。(拍手)
     ――――◇―――――
#6
○議長(福田一君) 御報告いたすことがあります。
 元本院副議長中村高一君は、去る七月二十七日逝去せられました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。
 同君に対する弔詞は、議長において去る七月二十九日贈呈いたしました。これを朗読いたします。
    〔総員起立〕
 衆議院は多年憲政のために尽力しかつて貿易振興に関する調査特別委員長の任につきまたさきに本院副議長の重職にあたられた中村高一君の長逝を哀悼しつつしんで弔詞をささげます
    ―――――――――――――
#7
○議長(福田一君) 元本院議長石井光次郎君は、去る九月二十日逝去せられました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。
 同君に対する弔詞は、議長において去る十月十二日贈呈いたしました。これを朗読いたします。
    〔総員起立〕
 衆議院は多年憲政のために尽力しさきに本院議長の要職につきまたしばしば国務大臣の重任にあたられ終始政党政治の発展につとめられた従二位勲一等石井光次郎君の長逝を哀悼しつつしんで弔詞をささげます
    ―――――――――――――
#8
○議長(福田一君) さきにノーベル物理学賞を受けられ、特に院議をもってその栄誉をたたえた日本学士院会員理学博士湯川秀樹君は、去る九月八日逝去せられました。まことに哀悼痛惜の至りにたえません。
 同君に対する弔詞は、議長において去る九月十九日贈呈いたしました。これを朗読いたします。
    〔総員起立〕
 衆議院は物理学の分野においてすぐれた業績をのこしさきにノーベル物理学賞を受けられた日本学士院会員理学博士湯川秀樹君の長逝を哀悼しつつしんで弔詞をささげます
     ――――◇―――――
 議員請暇の件
#9
○議長(福田一君) 議員請暇の件につきお諮りいたします。
 石原健太郎君から、十月十六日より二十四日まで九日間、武藤嘉文君から、十月二十日より二十八日まで九日間、右いずれも海外旅行のため、請暇の申し出があります。これを許可するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#10
○議長(福田一君) 御異議なしと認めます。よって、いずれも許可するに決しました。
     ――――◇―――――
 老人保健法案(第九十四回国会、内閣提出)の
  趣旨説明
#11
○議長(福田一君) この際、第九十四回国会、内閣提出、老人保健法案について、趣旨の説明を求めます。厚生大臣村山達雄君。
    〔国務大臣村山達雄君登壇〕
#12
○国務大臣(村山達雄君) 老人保健法案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。
 現在、わが国は、諸外国に例を見ない速さで人口の高齢化が進んでおります。このような本格的な高齢化社会の到来に対応し、人間尊重の精神を堅持し、社会的公正を確保しつつ、効率的に機能し得る社会保障制度の確立と既存制度の見直しが喫緊の課題となっております。
 わが国の老人保健医療対策は、昭和四十八年以来、医療保険制度及び老人福祉法による老人医療費公費負担制度を柱として推進されてまいりましたが、その後年々、老人医療費は増高を続け、一方、対策が全体として医療費の保障に偏り、予防から機能訓練に至る保健サービスの一貫性に欠けていること。医療保険各制度間、特に被用者保険と国民健康保険の間に、老人の加入率の差により老人医療費の負担に著しい不均衡があるなどの問題が指摘されるに至り、制度の基本的見直しについての要請が高まってまいりました。
 政府といたしましては、このような要請にこたえて、長期的な展望に立って制度の基本的あり方について数年にわたり鋭意検討を続けてまいりましたが、このたび、疾病の予防や健康づくりを含む総合的な老人保健対策を推進するための制度を新たに創設することとし、この法律案をさきの第九十四回国会に提出し、今国会において引き続き御審議を煩わすこととした次第であります。
 以下、この法律案の主な内容につきまして御説明申し上げます。
 第一は、この法律の目的及び基本的理念であります。
 まず、この法律は、国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保を図るため、疾病の予防、治療、機能訓練等の保健事業を総合的に実施し、国民保健の向上と老人福祉の増進を図ることを目的とするものであります。
 また、国民は、自助と連帯の精神に基づき、みずから健康の保持増進に努めるとともに、老人の医療費を公平に負担すること、年齢、心身の状況等に応じ、適切な保健サービスを受ける機会を与えられることを基本的理念としております。
 第二に、老人保健審議会でありますが、この審議会は、保健事業の関係者及び老人保健に関する学識経験者二十名以内をもって構成し、老人保健に関する重要事項について調査審議していただくこととしております。
 第三に、保健事業につきましては、市町村が、健康手帳の交付、健康教育、健康相談、健康診査、医療、機能訓練、訪問指導等の各種保健事業を総合的に、一体的に行うこととしております。
 このうち、医療につきましては七十歳以上を対象としておりますが、医療以外の保健事業は、壮年期からの健康管理が、老後の健康保持のためにきわめて重要でありますので、四十歳以上の者を対象として行うこととしております。
 医療についての診療方針及び診療報酬は、老人の心身の特性等を考慮して、老人保健審議会の意見を聞いて定めることとしております。
 また、老人の方々に健康についての自覚と適切な受診をお願いするため、医療を受ける際、外来の場合一月五百円、入院の場合四カ月を限度として一日三百円の一部負担をしていただくこととしております。
 第四は、保健事業に要する費用であります。
 保健事業のうち医療以外の保健事業については、国、都道府県及び市町村がそれぞれ三分の一ずつを負担することとしております。なお、その対象となった者から費用の一部を徴収することができることとしております。
 医療に要する費用につきましては、国が二割、都道府県及び市町村がおのおの五%を負担するほか、医療保険各法の保険者が七割を拠出することとしております。保険者の拠出金の額は、当該保険者の七十歳以上の加入者に係る医療費の額と当該保険者の加入者の総数を基準として案分し、保険者問の負担の均衡を図ることとしております。
 なお、現在、医療保険各法により療養の給付費について国庫補助を受けている保険者に対しては、拠出金の一部について、その補助率を基準として国庫補助を行うこととしております。
 第五に、保険者から拠出金を徴収し、市町村に対し交付する業務は、社会保険診療報酬支払基金が行います。
 第六に、関係法律の改正であります。
 この法律の施行に伴い、老人福祉法の一部を改正して、老人医療費の支給に関する規定等を整理するほか、医療保険各法においては、七十歳以上の加入者について療養の給付等を行わないこととする等の改正を行うこととしております。
 最後に、この法律の施行期日でありますが、老人保健審議会に関する規定は、公布の日から三月を、保健事業の実施等に関する規定は、諸般の準備が必要でありますので、公布の日から一年六月を、それぞれ超えない範囲内で政令で定める日とし、できる限り速やかに施行することとしております。
 以上がこの法律案の趣旨でございます。(拍手)
     ――――◇―――――
 老人保健法案(第九十四回国会、内閣提出)の
  趣旨説明に対する質疑
#13
○議長(福田一君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。戸井田三郎君。
    〔戸井田三郎君登壇〕
#14
○戸井田三郎君 私は、自由民主党を代表して、ただいま趣旨の説明のありました老人保健法案につきまして、総理並びに厚生大臣に若干の質問をいたし、御所見を伺いたいと思います。
 戦後、わが国は、経済の発展と相まって医療保険制度の充実、公衆衛生対策の推進等により国民の平均的寿命が著しく伸長し、世界有数の長寿国になったことは、われわれ国民にとって実に喜ばしいところであります。しかし他方、出生率は年々低下し、人口構造の高齢化は、世界に例を見ないほどのスピードで進行をいたしております。したがって、今後の社会保障における最大の課題は、何といっても、この超スピードで到来する高齢化社会への対応でなければなりません。
 しかも、この老齢人口の量的拡大に対して生産年齢人口は、二十一世紀には四対一になると言われております。当然、老人扶養の国民的負担は増大の一途をたどることが予想されます。
 しかし、わが国の経済は、もはや従来のような高度成長は望めません。一方、わが国の社会保障は、給付の面では欧米先進国に遜色のない水準に到達しておりますが、負担の面では、はるかに低い水準にとどまっております。すなわち、資源を海外に依存する日本で、高度成長は望みがたい、高齢化社会は急速に来る、出生率は低下し、生産人口は減る、社会保障の水準は欧米並みに達したが負担の水準は低いというわが国の現状で、これからの社会保障を後退させないという至上命題を維持するためには、どうしても異常な決意で対応しなければなりません。まさに、国民総ぐるみの課題と言わなければならないのであります。それには、厳しい事態を率直に訴え、きれいごとではなく本音で勝負する努力をしなければならないと思います。
 本来、自由社会は、自由競争を原理とするかわりに、そこには当然弱い者を助ける相互扶助の精神と責任がなければならないのであります。もしその責任を果たさなければ、自由社会はまさに弱肉強食の社会になるからであります。だからといって、相互扶助に無原則に頼って自助の努力を放棄するならば、その社会は没落の一途をたどります。そこでもし、高度成長の夢捨てがたく、安易に過大な給付を求め続けるならば、わが国の社会保障に明るい未来はありません。
 私は、高齢化社会の対応を目指して、より堅実な社会保障制度の実現のためには、新たな負担の国民的合意を求めることさえ考えなければならないのではないかと思います。総理の率直な見解を求めてやみません。
 老人保健法案は、総理の諮問機関である社会保障制度審議会においても、「医療に傾斜しすぎたこれまでの制度の欠陥を改善し、公費を中心とした予防等の事業を拡大強化しようとしていること」に一応の評価を与え、また、社会保険審議会においても、「老人保健制度を創設し、壮年期からの健康管理を推進することにより、健康な老人づくりを目指しているもので、評価に値する。」と答申をいたしております。
 私も、老人保健法案は、高齢化社会に対応して総合的な老人保健対策を推進するものであると同時に、行政改革の基本理念に沿うものであると評価をいたしております。ただ、その内容については議論を尽くすべき問題もありますので、それらの諸問題につき、厚生大臣の見解をお伺いいたしたいと思います。
 まず第一に、診療報酬の支払い方式についてであります。
 診療報酬支払い方式については、種々なる議論がなされております。現行出来高払い方式には、医療費の歯どめがない、医療費のむだを誘発するといった欠陥があるので、これを基本的に見直すべきであるという議論がある一方に、出来高払い方式には、医学の進歩や社会の変化に対応できる、患者の個性に応じた医療を行えるといった長所があるので、これを変えることは適当でないという考え方もあります。
 私は、医師との信頼関係のない医療制度はナンセンスだと思っております。それだけに、その信頼を裏切るような医師は、また断固糾弾されなければならないとも思っております。したがって、診療報酬の支払い方式も、医師と患者の信頼関係を前提に、患者の症状に応じて最もよい医療が行われるようなものでなければならないと思っております。
 現行支払い方式が、一部の悪質な商業主義的悪徳医師に乱用されたからといって、制度そのものを否定することは妥当でないと思います。もし仮に老人保健の支払い方式が変わるとすれば、一人の医師が二つの支払い方式で患者に対応しなければならなくなります。全く不合理であります。したがって、支払い方式の基本を変えることは慎むべきことであると思うが、厚生大臣の御所見を伺いたいと思います。
 次に、老人保健審議会の設置についてであります。
 私は、本来、審議会は行政府の独走を戒めるものであると思っておりますが、一部には、審議会は行政府の隠れみのであるという不安と意見もあります。
 老人保健審議会は、医療に対する専門家が大局的な見地から、法の運用に誤りなからしむるものであると思うが、行政改革が叫ばれている現在、既存の審議会を活用することを考えられないものか。
 また、すでに保険医として登録されている医療機関を、さらに老人保健取扱機関として新たな登録指定をすることはいかがなものであろうか。これも含めて大臣の御所見を伺いたいと思います。
 第三に、老人医療費の問題を考えるに当たり重要なことは、その負担の仕方であります。
 老人保健法案においては、保険者から徴収する拠出金を、老人医療費の実績のほか各保険者の加入者数によって案分していることは、現行制度の費用負担の不均衡を是正する意味で有効な方法であると思いますが、一方、お年寄りの方々に、従来無料であった老人医療に一部負担を導入したことは、十分国民の理解を求める努力をしなければならないと思います。
 われわれは、財政が苦しいからといって安易に負担を求めることは慎まなければならないし、常に国民の過重な負担を避ける努力と社会保障全体についての計画的、体系的な合理化、効率化を進めていかなければならないことは当然でありますが、私は、より高い保障を求め、より広範な社会保障制度を実現するためには、常に自助の努力と適正な負担に対する新たな国民的合意を定着させることが、高齢化社会に対応するための大きな要件であると思っております。
 また、このことが、一部の人々の中に、福祉の後退であると指摘する者もありますが、無自覚な無料化は、かえって堅実な社会生活を保障するゆえんのものではないと思います。高齢化社会に向かって堅実な活力のある社会保障制度を定着するためには、新たな社会秩序を求めていかなければなりません。厚生大臣の率直かつ真摯な御所見をお伺いいたしたいと思っております。
 最後にお伺いしたいことは、保健事業についてであります。
 この制度の目玉の一つである予防から治療、リハビリテーションに至るまでの一貫したサービスの供給は、治療偏重の現行制度を改めようとするものであり、評価すべきものであると思います。ただ、制度がいかによくても活用されなければ絵にかいたもちになります。
 ここ十数年の老人健康診査の受診率を見ると、全老人人口のわずか二二%前後というのが実情であります。多額の金を使って実効が上がらなければ大変であります。保健事業を実施する側においても、必要な施設やマンパワーが確保されなければ、せっかくの保健事業も十分実施することはできません。
 このように、保健事業を効果的に実施するためには幾多の問題があります。厚生大臣の見解を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕
#15
○内閣総理大臣(鈴木善幸君) 戸井田議員の御質問にお答えをいたします。
 御指摘のとおり、今後の人口の高齢化、年金制度の成熟化などにより社会保障給付費の増大が見込まれますが、それに伴い国民の費用負担の増大も避けられないところでありますので、高齢化社会にふさわしい給付の実現と負担の公平を図っていく必要があると存じます。
 すなわち、真に給付を受ける必要のある人々に対して充実した給付が適切に行われるよう、給付の重点化、効率化を進めるとともに、負担面においては、世代間の負担の公平にも配慮しながら、負担能力と受益に見合った適正な負担が行われるようにすることが必要であると考えます。今後とも、給付と負担の両面について国民の合意が得られるよう、努力してまいる所存であります。
 その他の御質問につきましては、所管大臣から答弁をいたさせます。(拍手)
    〔国務大臣村山達雄君登壇〕
#16
○国務大臣(村山達雄君) 戸井田議員の御質問にお答えいたします。
 最初の御質問は、老人保健の診療報酬支払い方式について、いまの出来高払いを変更するということは適当じゃないのじゃないか、こういう御質問でございます。
 これは実は、今度できます老人保健審議会で、この問題を含めて慎重に検討してもらおうと思っておるのでございます。
 いま、いろいろおっしゃいましたが、確かに支払い方式には長所短所たくさんあるわけでございまして、やはり患者に対するサービスという面からいいますと現行制度は非常によろしい。そのかわりに、ともすると過剰診療とか不正診療があるというようなことが言われるわけでございます。考えてみますと、老人の疾病というものは、どうしてもいろんな疾病が併合しやすいということ、それから機能低下と一緒になってくるということ、それからリハビリテーションその他が非常に大切であるという特質を持っておりますので、今度できます審議会で、この問題をもあわせまして御審議をお願いしたいと考えておるところでございます。
 第二番目は、いま申し上げた審議会そのものが設ける必要があるのか、既存の審議会ではやっていけないのか、こういうお尋ねでございます。
 われわれも、この点はいろいろ考えてみたわけでございますが、考えてみますと、今度の老人保健法というのは、もう壮年時代から健康な老人づくりを目指しまして、健康手帳の交付から始まり、それから日ごろの健康相談あるいは健康教室、それから健診、それからさらに治療、それからリハビリテーション、家庭訪問、こういう一貫した健康事業、保健事業そのものをやろうというわけでございまして、いわば高齢化社会に向かって本格的な制度を始めようとするわけでございます。
 そういう意味からいいますと、従来の審議会はそれぞれ扱ってはおりますけれども、総合的に考えるということになりますと、従来の審議会ではいずれも少し足りない。そこで、この審議会をつくらせていただいて、そこでひとつ本格的な高齢化社会に向かっての御論議を願えないだろうか、これが審議会をつくらせていただきたいということを提案している理由でございます。
 第三番目は、今度の老人保健の診療部面で一部負担導入を患者に求めているが、それはよほど理解を求めなくちゃいかぬのじゃないか。まさかサービスの低下、福祉の低下につながるとは思わないが、その辺の心配もあるのでどうか、こういうお尋ねでございます。
 今度、老人保健につきましては、従来の全額負担のほかに高額負担分も含めて、国民が持ち寄って全額持つという制度にいたしたのでございます。高額医療費分ももう保険には持たせないで、全部ここで持つことにいたしました。
 従来からよく言われているのでございますが、無料ということのよしあしが幾つか言われております。その中の一つといたしまして、無料にいたしますと健康に対して自覚をしてもらうという点でいかがなものであろうか、あるいは、ともすれば行き過ぎた受診もなしとしない、こういう指摘が行われておりますので、私たちの案では、実際にかかりました医療費の本当に一部分を実費負担していただく。それはもとより負担可能な範囲でございまして、外来の場合は月に五百円、入院の場合は四カ月を限度として月三百円ということをお願い申し上げたらどうか、こう言っておるのでございます。
 これによって福祉の低下にならないかという御疑問に対しては、そういうことはございません。
 今度の保健制度は、御承知のように壮年期からずっとやるわけでございますので、医療費が全体として一生を通じてはるかに安くなるわけでございます。したがいまして、その意味で申しますと、一部負担を考慮いたしましても、その人の一生を考えますと、全体の医療費が生涯を通じて見れば安くなるという点、それからいろいろな保健サービスが行われますので、サービスの低下につながることはないと思っております。
 それから最後のお尋ねは、医療以外の保健事業について、そのアイデアはいいのだが、いろいろな用意をしなくちゃいかぬが、準備は大丈夫か、こういう御指摘でございます。
 もとより、そのように考えておりまして、保健婦であるとか看護婦、准看護婦あるいはOT、PTのような人たちを整備してまいらなければなりません。マンパワーを確保せねばなりません。また保健所それから保健センター、さらには市町村の施設の整備が必要でございますので、私たちは六十一年度を目標に、まず基礎的な基盤整備をやりたいと考えております。そういうことをやりまして、徐々にこの体制に持っていく、そうして必要な運営費につきましては財政援助を徐々にふやしていきまして、この制度が円滑に施行せられるように図っているところでございます。
 以上でございます。(拍手)
    ―――――――――――――
#17
○議長(福田一君) 田口一男君。
    〔田口一男君登壇〕
#18
○田口一男君 ただいま議題となりました老人保健法案につきまして、私は、日本社会党を代表し、総理初め関係大臣に質問いたします。
 私は、常々、健やかに老いた幸福な老人たちをわれわれの周囲に持つことは社会全体の利益である、こう考えております。
 その思いから、まず総理のお考えをぜひとも明らかにしていただきたいと思います。
 それは、この臨時国会で、わが国の年金受給者にとって直接、間接大きな影響のある法案が二つ審議されておるのであります。
 その一つは、いわゆる行革関連特例法案でございます。いろいろ性質、目的の異なっているものを、ただ金減らしのために、文字どおり玉石混淆でない石々混淆ともいうべきもので一本となって出ておりますが、その中に「厚生年金保険事業等に係る国庫負担金の繰入れ等の特例」があります。
 もちろん、国庫負担率が五%減ったからといって直ちに年金額が引き下げられるとは申しません。しかし、年金財政に重大な悪影響をもたらすであろうことは、すでに本議場等を通じて指摘されておりますように必至であります。
 私は問題としたいのは、そのあおりを受けて、来年の年金改定実施時期が、厚生省の概算要求で切り込まれていることであります。昭和四十八年の法律改正以来、年金受給者の強い要求にこたえて、与野党合意のもとに続けてまいりました実施時期の繰り上げ措置を、来年は厚生年金、福祉年金は五カ月分、国民年金については半年分、切り捨てようとしているのであります。
 もう一つは、この老人保健法案でございます。費用負担の公平化をうたって患者に一部負担を強いるばかりか、現に三十七都道府県で実施をしておる老人医療費支給対象年齢の繰り上げに対してすら、悪意に満ちた批判と、その措置の取りやめを要求していることでございます。
 総理は、しばしば、二十一世紀を展望してと言われておりますが、そのために政治生命をかけようとする真の行財政改革は、高齢化、都市化、国際化という未来社会へ向けて、国民のニーズに即応した行政の見直しであり、国民生活の一層の向上を目指した行財政の民主化と、公的、社会的部門の拡充でなければなりません。
 高齢化社会という、わが国にとって避けて通れない問題への対応として、老人福祉が単に物質的側面にとどまってはならないことはもちろんでありますが、いま指摘をいたしました老人医療費の有料化や、年金の物価スライド時期の延伸措置は、その根底に、老人を社会の進展に寄与した者として処遇しようとする考えもなければ、健全で安らかな生活を保障する意図もない、言うならば、物質的生産に寄与しない老人たちを、お役御免の、社会の負担物としかとらえていない発想がまかり通っていると思えてなりません。(拍手)
 総理、いかがでございましょうか。そうでないと言われるのならば、少なくとも年金支給時期の切り捨ては再考すべきではないでしょうか。現状どおりとするため、通常国会に特例法を出すと明言していただきたいのであります。
 次いで、本法案の内容に沿って、問題点を指摘しながら質問いたします。
 まず、厚生大臣にお尋ねします。
 きょうは大蔵大臣お見えでありませんけれども、大蔵大臣はかつて厚生大臣当時に、私どもの質問に答えて、医療保険制度改革のスケジュールを積極的に示され、また日本医師会長との関係についても歯に衣を着せない御発言等もあり、関係団体の中で、渡辺大臣の話なら木戸銭払っても聞く価値があるとさえ評価をされておったのでございます。そういったことを思って、いま厚生大臣、どうお考えでしょうか。
 その一つは、経済の基調が低成長に移行しているにもかかわらず、医療費のみは所得の伸びを上回って急激に上昇を続けているということについてでございます。
 さきの臨調答申にも具体的な提言がありますが、それを待つまでもなく、このことは現下の国民医療が抱えている最大の課題であります。私は、明後年には二十兆円余にも達するであろうと言われている国民医療費の伸びは、薬づけ、検査づけ、こういった不安を拡大し、果てしなく医療費の肥大化をもたらす主要な原因となっている現行出来高払い方式を改めなければならぬと思うのですが、いかがでございましょうか。もしこのまま推移をするといたしますと、各医療保険への国庫負担額はどのくらいになるでしょうか。
 私は、この老人保健法案を見る場合に、いま申し上げた医療費の上昇によって、老人医療費の負担に、わが国の医療保障制度が耐えられなくなったからというふうにとれるのでありますが、どうでしょうか。そうではなくて、問題は、いま述べた急激な医療費上昇に医療保険全体が対応しがたくなっている、とのことにあるのであって、老人医療費はそのごく一部にすぎない、こう考えておるものでありますけれども、厚生大臣、どうお考えでしょうか。
 大臣は、この老人保健法案の成立を急ぐの余り、現行の出来高払い方式は新設の老人保健審議会で見直すと言いながら、すでに日本医師会長との間で、出来高払い方式は維持し、老人保健でも適用することで合意したと言われておりますけれども、真意のほどを明らかにしていただきたいのでございます。
 同時に、臨調答申も述べておりますように、「老人医療の特性を踏まえた合理的支払方式」を老人保健審議会での結論を得た後、老人保健制度を実施すべきではないかと思いますけれども、御見解を承りたいと思います。
 いまさら申し上げるまでもなく、老人医療の現状は、医療保障に偏って保健サービスの一貫性を欠いていることは、関係審議会等からつとに強調されておりますように、施策の中心は老人が健やかに老いることを可能とするものでなければなりません。にもかかわらず、政府案は、薬づけ等の不安と医療費の高騰をもたらす原因をそのままにして、患者一部負担の導入と各医療保険制度からの共同拠出によって大衆負担の増大を図り、結果、老人の受診を抑制することだけしか考えていないと言わざるを得ません。
 七十歳以上の疾病動向にはっきりと出ておりますように、老人特有の慢性疾患や老齢化に伴う心身の機能低下のすべてを病気として診療を加えてみても、その効果は限られているでしょうし、現状のままで推移すれば、将来の負担は膨大なものとなるのみならず、医療資源の適正かつ効率的な配分を大きくゆがめることになるでしょう。
 私は、老人医療費を無料化して受診しやすくすれば十分なのではなく、老人病の予防や健康管理が伴わなくてはならないと思います。したがって、日常生活の中で食事、運動、休養のバランスを改善することにより、疾病をコントロールすることを目指し、かかりつけの医師及び保健婦の連携を中心とした一貫性のある包括的なサービス、特に在宅者への訪問サービスを確保することが重要であると思います。私たちは、このような方式を「薬剤依存から生活療法へ」と言っております。そうなれば、医療施設への診療報酬は、現行の点数出来高払いの方法でなく、日常的な健康管理や慢性疾患に対する生活療法の評価を基本とした、たとえば登録人頭払いを採用することが適当となるのではないでしょうか、どうでしょう。
 さらに、このようなかかりつけの医師制度を円滑に進めるためには、医師、医療施設の適正配置や、病院と診療所の機能分化、高額医療機器の共同利用等が行われなければなりません。また、今日なお未解決の僻地、無医地区、休日、夜間診療等の隘路解消のためにも、本案提出と相まって具体的計画の提示がなければならないはずでございます。厚生大臣、いかがお考えでしょうか。
 私は、このような従来から問題になっておることを指摘をいたしましたけれども、本法案の特徴とも言っております四十歳からの保健事業と関連をしてさらに申し上げたいと思います。
 私は、先ほど、診療報酬支払い方式についてのはっきりした御見解についてお伺いをいたしましたけれども、もう一つ本法案の致命的欠陥と言わなければならないものは、保健医療サービスを担う人員及び施設の確保、整備について、展望もなければ、現状を改善しようとする意図すらないことでございます。
 たとえば、国民健康保険事業のための保健婦をいまだ置いていない市町村があり、設置市町村でも、本来の業務は片手間で、他の一般行政事務に使われておるということは周知の事実でございます。そこで、このような現実を踏まえて、それぞれの制度に分かれております保健婦、看護婦、ホームヘルパー、ケースワーカー等が健康と福祉に関するサービスに従事しておりますけれども、この充足計画と、医師の協力を得て地域保健サービスといったものを統合して、住民の必要に応じて家庭に派遣するなどしてはどうでしょうか。自治大臣としての御見解を承りたいと思います。
 四十歳からということにつきましても、最近の健康上の諸指数が示す傾向から、これを三十五歳からとすべきではないかと思いますが、厚生大臣の御見解を承りたいと思います。
 次に、退職者医療についてお伺いいたします。
 定年退職後、被用者保険から国民健康保険に移ると、にわかに七割給付にダウンすることや、一方で被用者健保にある任意継続給付制度は、期間は二年しかない上、労使双方分の保険料を月々納付しなければならないことなどは、先刻承知のはずでございます。政府案は、このような矛盾を放置したままで、悪名高い財政調整まがいの共同拠出を企図しておりますけれども、負担の公平を唱えるならば、国民健康保険の給付率を引き上げて、給付の平等を実現すべきではないでしょうか。
 また、地方公共団体の単独事業である老人医療費支給対象の繰り上げ措置について、これを取りやめさせようとのことでありますけれども、これは問題であります。むしろ、老人医療費負担軽減が重要課題となった老人福祉法制定の経過からも、全国一律に六十五歳からとすべきでないでしょうか。地方自治の立場から見て自治大臣の御見解を、そして厚生大臣のお考えを承りたいと思います。
 私は、繰り返し申し上げていますように、問題は老人福祉の観点から接近すべきであって、単純な財政対策論だけでは事は済まないのであります。そうはいっても、老人医療対策の財源は問題であることは私ども認識しています。ただ、診療報酬支払いの方式一つをとってみてもわかるように、国民健康保険や健保のあるべき姿のビジョンを欠いたまま、老人医療だけを先行させることは、老人の権利を抑圧し、生命の尊厳の軽視につながるとの批判を免れ得ません。
 臨調答申の要望もあって、政府は本法案の成立を至上課題として取り組む姿勢は、それなりに首肯できますけれども、成立を焦るの余り、本法案の焦点ともいうべき支払い方式の見直し、老人保健医の指定も行わず、現行の点数出来高払いのままでこの法案が成立すれば、新しい保健事業の実施と相まって、老人医療費問題はさらにどろ沼化することは必定であります。
 行財政改革をもって国家百年の計と気負ってみえる鈴木総理、大山鳴動してネズミ一匹の老人保健法とさせないことを、きっぱりと内外に宣言していただかなければなりません。(拍手)その御決意のほどを伺って、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕
#19
○内閣総理大臣(鈴木善幸君) 田口議員にお答えをいたします。
 私は、子供たちに未来の夢を託し、また、今日を築き上げた老人たちに素直に感謝できる社会はよい社会であると思います。また、日本人の社会はそのような社会であると信じております。したがって、長い間社会に貢献されたお年寄りが、健康で不安のない生活を送ることができるよう願っておりますし、そのような環境を整えることに全力を尽くしたいと存じておりますので、老人の保健対策と、老後生活の支柱である年金制度の安定充実には一層努力してまいる考えであります。
 しかし、そのような施策を本当に社会に根づいたものにするためには、その他の各般の施策とほどよいバランスが保たれることが必要でありまして、現在行われている予算編成作業が、ゼロシーリングというかつてない厳しい状況にあり、また、そのような厳しい過程に耐えて、わが国の将来の基盤を確かにしようとする努力のさなかであるという事情も十分考え合わせなくてはならないと思います。
 この十年余の間、わが国は息せき切って福祉充実を急いでまいりましたが、お尋ねの物価スライドの実施時期の問題などについても、一度立ちどまってよく考えてみることが必要であろうと存じます。御意見もよく踏まえまして、今後、予算編成の過程で十分論議を尽くし、政府としての成案を固める所存でございます。
 最後に、老人保健法に対する私の決意をお尋ねでございましたが、本格的な高齢化社会の到来を控え、総合的な老人保健対策を推進するための制度を確立することは喫緊の課題でありますので、活力ある福祉社会を実現のため、ぜひとも今国会において老人保健法案の成立をお願いいたしたいと存じます。
 以上、御質問にお答えいたしましたが、その他の問題につきましては、所管大臣から答弁をいたさせます。(拍手)
    〔国務大臣村山達雄君登壇〕
#20
○国務大臣(村山達雄君) 田口先生に対するお答えの前に、先ほど戸井田先生の答弁漏れ、それから、一部違いますので、ちょっと申し上げます。
 入院の負担の問題で、四カ月を限り一月三百円と言ったそうですが、これは一日三百円の間違いでございます。
 それから、もう一つお尋ねの、老人保健の医療取扱医の指定と保険医の指定というのは二重じゃないか、必要ないのじゃないか、こういうことでございます。
 これは法案を見るとおわかりのように、法制整理上、取扱機関にはしてありますが、辞退をされなければ当然なるという仕掛けでございまして、実際には、従来の保険取扱機関がそのまま老人医療の取扱機関になるような法律構成になっておるということを御理解願いたいと思います。
 それから、田口議員の御質問に対してお答えいたします。大変たくさんありましたので、若干順序不同になるかもしれませんから、また落としたら御指摘願いたいと思います。
 一つは、医療費がどうして上昇しているのか。検査づけ、薬づけはどうか。それから、出来高払い制度について、すでに医師会と合意しているという話があるがどうか。こういうことでございます。
 医療費の上昇の状況は、昭和五十三年までは確かに一七%ぐらい、ひどいときは非常にたくさん、もっと高いときもありました。五十四年、五十五年それから今年度でございますが、大体九%台、最近は八%台ぐらいとなっておると思います。しかし、何よりもこの医療費が増高した最大限の実体的の理由を考えてみますと、やはり疾病構造が変化してきておる、それから高度の医療がどんどん保険に盛り込まれてきた、それから年齢の高齢化がどんどん進みまして入院その他がふえたということがございます。薬づけ、検査づけということも確かにあったかと思いますが、この点につきましては、もうこの前の改正で薬につきましては一八・六%縮減しております。検査につきましても一括方式であるとか、あるいは定額方式とか取り込みまして、そういうことのないようにしているわけでございます。
 それからお尋ねの、現在の出来高払い方式、支払い方式について医師会とすでに合意しているんじゃないかというお話でございますが、そういう事実はございません。
 それから、支払い方法について関連してのお尋ねでございますけれども、先ほど戸井田議員にもお話し申しましたように、やはり老人の疾病というものには普通の人とは違う非常に特性があるわけでございます。そういう意味で、支払い方式につきましても、今度できます審議会に御審議をお願いしておる、こういう次第でございます。
 それから、かかりつけの医者のシステムを制度化するために、医療機関の適正配置、それから高額医療機器の共同利用とか、あるいは救急医療、僻地医療等についての御指摘がございました。
 これもおっしゃるとおりでございまして、一方におきまして高齢化社会を迎えておりますので、老人医療対策を確立するというような今度の法案を出しているわけでございますが、同時に、地域医療の整備につきましては計画的に、いま進めているわけでございます。また、僻地あるいは休日、夜間の緊急医療等につきましても、これも計画的に進めていっておりますので、両々相まって御要請にこたえてまいりたい、かように思っているのでございます。
 それから、順序は若干不同になるかもしれませんが、今度の壮年期から保健事業をやるということになれば、保健婦、看護婦、ホームヘルパーあるいは医者の協力を得てやらなくちゃならぬが、そういうことを十分やるべきではないか、こういうお話でございます。
 これもさっきお答えしたとおりで、まず六十一年度までは基礎的なマンパワーの確保、大体保健婦でいいますと八千人強を目途にしているのでございますけれども、そういうマンパワーの確保、それから施設の整備もそこまで進めてまいりまして、それから本格的にこの事業を進めてまいろう、こういう非常に実務的な考え方を持っているわけでございます。
 それから、その次のお尋ねが、医療以外の保健事業について、四十歳というのでなくて三十五歳まで下げたらどうかというお話があったかと思いますが、この点につきましては、われわれは、いろんな疾病状況、死亡状況を見ておりますと、やはり成人病にかかってくる一番大きなウエートを占めますのは大体四十代でございます。したがいまして、この案では四十から始める、こういうことにいたしているのでございます。
 それから、定年退職者の医療、つまり七十歳以下の高齢者で退職した人。七十歳以上は今度は老人医療制度でカバーできるわけでございますが、退職者についてどうするんだ。
 今日では、もう御承知のように任意継続制度があるわけでございますが、保険料は本人持ちになっておるところに恐らく御指摘があるだろうと思うのでございます。私たちは、とりあえずこの案によります医療制度を実施してみまして、それで各保険会計がどうなるか推移を見守りたいと思っております。なお、高齢者の退職者の医療というものは、平均よりは大分よけいかかっておりますので、そういうもの等を見合いながら将来検討してまいりたい、こう思っておるところでございます。
 それから、六十五歳以上七十歳までについて現在単独事業で地方がやっておるんだが、これについてどう考えるか、こういうお尋ねでございます。
 これはもとより地方自治の原則でございますので、どうこうということではございませんが、しかし私たちがお願いしておきたいのは、この老人保健法が七十歳にしたという趣旨をひとつよく理解していただきまして、そして地方団体の方でもこの趣旨を理解して、そして適切な運用をお願いすべきではなかろうか、そのように考えておるわけでございます。
 それから、一部負担が医療費の節減に通じないんじゃないかという趣旨の質問もあったやに思いますけれども、先ほど申しましたように、その一部負担の額は非常に軽微なものでございますし、それから一生を通じて考えて本人の負担ということになりますと、非常に少なくなりますので、この程度のことはひとつごしんぼう賜りたい、こういうことでございます。
 以上でございます。(拍手)
    〔国務大臣安孫子藤吉君登壇〕
#21
○国務大臣(安孫子藤吉君) 地域保健医療の総合化の点についての御質問があったように承知をいたしました。
 この問題は、地域の実態に即しながら、関係しておりまする従事職員等の、そうした方々の有機的な連携というものを、それぞれの地方においてひとつ工夫してもらって、そしてこれを進めていくという態度でいくべきものだろうかと考えております。
 なお次に、ただいま厚生大臣からも御答弁ありましたが、地方団体の単独事業として行われておる老人医療の無料化等についてのお尋ねでございますが、現在、地方自治体が行っておりまする所得制限の緩和、対象年齢の引き下げ等の措置というものは、単独事業として各地方団体が自主的な判断によって行っておるものでございまするが、このような単独事業につきましては、その必要性、行政効果、将来にわたる財政負担、国の施策の動向等を総合的に勘案して、慎重に行うべきものであると考えておる次第であります。(拍手)
    ―――――――――――――
#22
○議長(福田一君) 大橋敏雄君。
    〔大橋敏雄君登壇〕
#23
○大橋敏雄君 私は、公明党・国民会議を代表いたしまして、ただいま趣旨説明がありました老人保健法案に対し、若干質問をいたします。
 初めに、総理大臣にお尋ねいたします。
 わが国の医療保険制度は、九種類にも乱立し、負担も給付もばらばらという欠陥だらけの制度であります。当然、野党は政府・自民党に対し、抜本改正を厳しく追及してまいりました。
 いまから四年前、昭和五十二年十一月、当時の渡辺厚生大臣は、野党のこの追及に答える形で、「医療保険制度改革の基本的考え方について」と題して十四項目の柱を立てて、抜本改正への具体的公約を提示したことは周知のとおりでございます。
 その後、付添看護、差額ベッド、歯科差額など保険外負担の解消問題あるいは薬価基準の改定等々、不十分ながらも対処してきてはおりますが、あの十四項目中、目玉と高く評価された、予防、治療、リハビリテーションと一貫性を持つ老人保健制度の創設につきましては、約束の時期が大幅におくれており、その責任はきわめて重大であります。
 わが党は、かねてから医療保険体制は地域保険、職域保険、老人保健の三本立てを主張してまいりましたが、総理は、現在の問題だらけの医療保険制度に対し、どう対処していかれるのか。また、この老人保健制度の創設に関係して、いかなる御見解をお持ちなのか、承りたいのであります。
 老人保健法の創設は、その趣旨の重要性にかんがみ、法案の内容については慎重かつ十分に審議する必要があります。とかく医療保険をめぐります審議は、医師と患者と支払い機関の三者の利害が相反する立場にあることから、一致点を見出すことはきわめて困難であります。最終的には三者三泣き、痛み分けといった形で決着が図られたケースが多いのであります。しかし、医師会寄りとか支払い機関寄りというのではなく、まさに国民寄りの立場から英断を下していくべきであります。
 この法案の重要ポイントの一つに、老人保健審議会の創設や支払い方式に関する問題などがありますが、これらに対して自民党と医師会との間では、すでに医師会寄りの修正話が約束されたとか、されなかったとか、うわさが飛んでおりますが、これが事実ならば重大問題であります。このポイントこそ慎重かつ大いに論議を重ねねばならぬところであり、国会軽視、国民不在の姿勢は断じて許されません。
 この点について、自民党総裁という立場も含めまして、総理の責任ある御答弁を求めるものであります。
 さらに、本法案の特徴は、医療部門のほかに予防、リハビリといった総合的な保健事業があります。
 当局の説明によれば、実に広大な構想を描いているようでありますが、それを支える施設整備並びにマンパワー等の対策はきわめて重要な課題となってまいります。機構の充実強化、要員の確保は避けて通れませんが、この点、行政改革の方針との絡みをどう考えておられるのか、総理の御所見を承りたいのであります。(拍手)
 次に、厚生大臣にお尋ねいたします。
 その第一は、老人対策の基本的な考え方であります。
 病院のサロン化が言われ、入院、通院等、医療問題のみにその責めを負わすことはできません。高齢化に向かって急増する老人対策は、単なる施設福祉のみではなく、在宅福祉としての在宅看護そのほか福祉サービスが十分でなく、あるいは自立できる生活環境に整備されていないなどが主な理由に挙げられます。要するに、特別養護老人ホームや、病院と家庭との中間施設の整備や、訪問看護の制度化など、早急に整備する必要があります。
 そこで厚生大臣に、総合的な老人対策の展望と、この老人保健法案の位置づけについての御見解を承りたいと存じます。
 次に、本法案に関する医療費の負担内容が、その全体の約三割を国、県、市町村の公費負担とし、残り七割相当分については各種医療保険の保険者から拠出を求め、運営することとなっております。一口に言えば、現在の各種保険制度が抱えております老人関係部分における、いわば相互連帯、財政調整であります。
 したがって、比較的財政の豊かな組合健保や共済保険制度からは、かなりの拠出金の持ち出しとなるわけであります。それだけに、保険者にとりましても、持ち出しがいのある、魅力ある法律として運用されていかねばならないと考えます。
 しかし、この法律案では、各保険者に対する費用分担のあり方は具体的に明示されておりますものの、持ち出しがいの裏づけになると思われる老人保健審議会の機能につきましては、ただ診療報酬に関する事項、その他この制度運営に関する重要事項の調査審議を行うというだけで、具体性に欠けております。これでは片手落ちです。せめて重要事項とはどんなことを想定しているのか、説明をお願いしたい。
 なお、診療報酬に関する審議は現在中医協で行われているわけでございますが、この関係性はどうなるのか、あわせて御答弁をお願いしたいのであります。
 次に、現行の老人医療費の支給制度では、公費負担を七十歳、寝たきり老人は六十五歳以上としておりますけれども、この法案では、健康手帳の交付対象を、七十歳以上と、もう一つは四十歳以上七十歳未満のうち必要と認められる者と二段階に分けております。いかなる理由によるものか。また、六十五歳以上の寝たきり老人はどうなるのかなど、「必要と認められる者」の範囲について、この際明確にしていただきたい。
 次に、一部負担についてであります。
 当局の試算によれば、約九百億円が浮く計算になっておりますが、その金額は結果的には、そのまま保険者の負担の軽減につながるわけではありますが、この点について、老人医療の無料化の大幅後退という厳しい批判が集中しております。いわば制度の大転換であり、これは断じて反対であります。
 この一部負担の導入について、外来初診時五百円、入院一日三百円で四カ月間とした理由と、その根拠は一体何なのか、明確な御答弁を求めるものであります。
 次に、この法案の目的の中に「疾病の予防、治療、機能訓練等の保健事業を総合的に実施し、」云々とあります。この趣旨には大いに賛同をしたいところでありますが、その費用は国、県、市町村がそれぞれ三分の一ずつ負担することになっております。しかし、健康診査、健康教育、健康相談等の予防の面から、これらの事業はどのように、またどのくらい行われるのか。この点、職域では労働安全衛生法あるいは労働基準法の規定に基づいて手厚い保健対策の恩恵に浴するなど、健康管理が行われ、医療費にその効果が顕著にあらわれているところからも、一層の強化が望まれるところであります。具体的な説明をいただきたいのであります。
 次に、保健事業の事業効果を高めるためには、現在の保健所の機能では不十分であると考えます。医師の確保から保健婦、理学療法士等々、マンパワー対策が事業推進のかぎとなると考えますが、いかなる方針、計画で対処をされる考えか、お聞きしたいのであります。
 さらに、健康相談や健康診査に関してでありますが、従来、成人病の検診やがん検診など、その受診率が低いとの指摘があります。これを高める行政努力、また目標数値並びに財政措置などについて、その考えをお聞きしたいのでございます。
 また、保健事業を推進するに当たり、現実の対応において市町村間においてはかなりの格差があると考えられますが、この格差解消の方策など承りたい。
 最後に、自治大臣にお尋ねいたします。
 この老人保健法案の実施主体は市町村であります。保健事業では、費用の三分の一を負担し、健康教育を初め健康相談、機能訓練施設の整備など、市町村の事業量が急激に増大するものと予測されますが、その受け入れ体制についてどのようなお考えをお持ちなのか。
 また、言われております自治体における上積み福祉について、現行の老人医療費支給制度における都道府県の単独事業として、すなわち、六十五歳以上七十歳未満の方に対する老人医療無償化措置等を実施していることについて、その御見解を聞きたいのでございますが、絶対に後退させてはならないと思うのでございます。
 今後の方針についての御見解を賜りますよう、誠意ある御答弁をお願いして、私の質問を終わることといたします。(拍手)
    〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕
#24
○内閣総理大臣(鈴木善幸君) 大橋さんにお答えをいたします。
 まず、医療保険のあり方についてお尋ねがございました。
 老人保健法案は、高齢化社会に対応して、お年寄りに健康な生活を暮らしていただくため、国、地方公共団体のほか、各保険者が公平に老人医療費を負担することをねらいとするものであります。医療保険制度は、今後も現在の基本的な枠組みは維持してまいる所存でありますが、今回の老人保健法の制定を契機に、今後とも、給付と負担の均衡に配慮しながら、制度の改善のため努力を続けてまいりたいと存じます。
 また、日本医師会と自由民主党との間で、老人保健法案における支払い方式や老人保健審議会について、何か合意がなされたのではないかという御指摘がございましたが、そのようなことは承知いたしておりません。
 その他の御質問につきましては、所管大臣から答弁をいたさせます。
    〔国務大臣村山達雄君登壇〕
#25
○国務大臣(村山達雄君) お答えいたします。
 最初の御質問が、総合的な老人対策とこの法案との位置づけはどうなるか、こういうお話でございます。
 高齢化社会を迎えまして、老人の福祉という問題は、種々の角度から考えなければならぬことは当然でございまして、たとえて申しますれば、やはり就職の問題であるとか生きがいの問題であるとか、こういった各般の問題があるわけでございます。
 特に、御指摘のありました在宅福祉との関係につきましては、これは密接な関係を有しているわけでございまして、今後、やはり寝たきり老人のようなものが出ないようにすることが第一。また、出ました場合にも、その福祉のあり方というものは、家庭なり職域と連携をとりながらやっていかないと、なかなかうまくいかないというのがこれまでの実感でございます。
 しかし、それよりも何よりも増して大事なのは、そういう老人をできるだけ少なくするように、健康な老人づくりを急ぎたい。そしてまた、その人たちの医療費につきましては、あるいは医療費以外のものにつきましてもそうでございますが、国民が等しく分かち合う、こういう考えで、この高齢化社会に対処しようといたしておるのでございます。
 それから、保険制度が分立したままやるのはどうか、こういうお話でございますが、老人保健、これは一本化いたしますので、その意味ではかえってすっきりするわけでございます。むしろ御主張のような趣旨に従って提案をしておるつもりでございます。
 それから、審議会の設置は必要ないのではないか、行革の折からいかがか。
 これは先ほど戸井田先生にもお答えしたのでございますが、われわれもいろいろ考えてみたのですが、一部一部については確かに審議会がございます。しかし、新しい高齢化社会を迎えて、これを総合的に審議するというものがございません。そういう意味で何とかひとつ総合的にやる機関として設けたい、これが法案のねらいでございます。
 それから、支払い方式にお触れになりましたが、これは先ほど申し上げましたように一長一短あるところでございます。それから、老人の疾病という特性について考えていただいて、そして何かいい案が出るか出ないかお願い申し上げたい、こう思っておるわけでございます。
 それから、審議会の審議の重要項目とは何ぞや、こういうお話でございますが、余りたくさんありまして一々挙げられませんが、ごく要約して申しますと、健康対策の大綱、これは先ほど申しました七つか八つぐらいありますが、これをどういうふうにしていくか、それぞれの問題点、われわれも詰めておりますけれども、なお審議会で詰めていただきたい。それから保険者の拠出金に関する事項、これがやはり大きな問題でございますので、これを詰めていただきたい。それから診療報酬の問題、これを詰めていただきたい。こういうことでございます。
 なお、これに関連しまして、もし違う答え、いまの出来高払い方式を変えるということになると、中医協との関係がどうなるのか、こういう御質疑でございますが、これは仮定の議論でございますので、どうなるかわかりません。
 そういったことも十分踏まえながら御審議が行われるものとわれわれは期待いたしているわけでございます。
 それから、職域におけるものとの格差の問題でございますが、これにつきましては、先ほど高齢者の方についてお答えしたので、省略させていただきたいと思います。
 それから、地域衛生との関係はどうなるのか、ここは吸収されるのかどうか、こういうことでございますが、成人病の検診については本事業で吸収したいと思っております。その他の点については、やはり従来どおり、それぞれ地域保健に関する制度の中で消化してまいりたい。
 それから、受診率を高めるためにどんな目標を持っているのか。それからマンパワー、それから施設の整備についてはどうか、こういうことでございますが、たとえて申しますと、がん検診等については、一応のところ、われわれは目標年次までに五〇%ぐらいに上げたいという目標を立てまして、それに達するためには、健康教育、いろいろな方法がございますが、そういうことを考えておる。
 それから、マンパワーの確保につきましても、それぞれいま計画を立てておりますが、これも基礎的な整備目標を六十一年度に置いております。必要な財政措置は、講じてまいることは当然でございます。大体そんなことだと思います。
 以上でございます。(拍手)
    〔国務大臣安孫子藤吉君登壇〕
#26
○国務大臣(安孫子藤吉君) 老人保健事業の市町村における受け入れ体制についてのお尋ねでございますが、これは、市町村の実情に応じて逐次行うことができるようにされておるのでございまするので、市町村の判断に基づいて計画的に実施、充実していくべきものであると考えております。
 この場合に、要員の養成とか、あるいは施設整備に対する国の財政措置等につきましては、今後、厚生省とも十分協議をいたしまして、事業が円滑に実施できるように努力をしてまいる所存であります。
 なお、老人医療無料化措置についてのお尋ねでございまするが、これは単独事業でございまするので、各団体の自主的判断にまつべきものではございますが、このような単独事業につきましては、その必要性、行政効果、将来にわたる財政負担、国の施策の動向等を総合的に勘案して、慎重に行うべきものであると考えておる次第であります。(拍手)
    ―――――――――――――
#27
○議長(福田一君) 塩田晋君。
    〔塩田晋君登壇〕
#28
○塩田晋君 私は、民社党・国民連合を代表して、ただいま御説明のありました老人保健法案について、内閣総理大臣並びに厚生大臣、文部大臣に質問をいたします。
 今日ほど不透明な時代はないと言われておりますが、その中で最も確実なことは、日本が間もなく世界に例を見ない高齢化の社会を迎えることであります。
 すでに、わが国は国連の定める高齢者社会に入っており、今後、人口の高齢化は欧米諸国の三ないし四倍の速度で進んでいき、やがて六十五歳以上の人口比率は一八・八%と、世界でもまれな高齢化の社会を迎えることは必至の情勢であります。
 このことは、わが国現在の福祉はもとより、産業、雇用、労働、さらには生活文化の全般にわたって、きわめて大きく、かつ多様な衝撃を与えるものであり、いまにしてその対応を誤れば、将来に大きな禍根を残すことになりましょう。
 民社党は、結党以来、福祉社会の実現を目指して、常に具体的、建設的な施策を提言し、その推進に精魂を傾けてまいりました。
 これにより、今日まで福祉水準の向上に一定の成果を得てきたところでございますが、政府の高齢者対策は、医療、住宅、雇用、福祉サービスの面で、いまだ高齢者のニーズに十分適切に対応しているとは言いがたく、高齢者は不安な日々を送らざるを得ないというのが実情であります。特に、高齢者が最も関心を寄せている健康に対する不安は深刻なものがあります。
 厚生大臣経験者の鈴木総理は、現在これらの深刻な高齢者問題をどのように認識し、考え、そして今後どのように対処しようとしておられるか、お尋ねいたします。
    〔議長退席、副議長着席〕
 人間だれしも健康でなければ、生きがいある老後生活は不可能であります。老人に対する健康保持の対策としては、現在、老人福祉法に基づき、医療費の支給、健康診査、健康教育などの施策が行われていますが、これらは疾病の予防から治療、リハビリテーションに至る一貫した対策とは言えず、その改革が急がれています。
 今回の老人保健法案は、治療に偏重して種々の問題を起こしている現行制度を改め、老人の健康保持のために一貫したサービスの供給、すなわち、保健と医療に一貫性を持たせることを目的としており、その目的、趣旨は評価できるものであります。
 しかしながら、これを実効あらしめるに必要なマンパワーの確保、保健所の機能強化、各種医療機関、地方公共団体などの心からなる協力は十分に得られるものか。また、その運営の円滑化のために必要な財政的裏づけはあるのか。財政再建の折から、今後十分な予算確保が可能か、厚生大臣から御説明をいただきたいのであります。
 本法案は、その基本的考え方、具体的中身を審議会の審議にゆだねるものであり、運用のいかんでは実のない作文行政に堕するものではないかとの疑念を起こしておりますが、これに対する御所見をお伺いいたします。
 さらに、年齢を四十歳、七十歳で区切ったのはどのような根拠か。歯の予防については二十歳前後で勝負がつくと言われていますが、どうですか。
 また、健康保険制度の中から老人を別枠とすることは、医療財政の観点が余りにも強く前面に出たものであり、将来、幼児とか青少年などといった年齢による輪切りのばらばら医療体系への移行とならないかという危惧の念を持つ向きもあり、この点、明確にお答えいただきたいのであります。
 最近の老人医療の内容を分析いたしますと、第一に、一般に比べ三倍の注射が行われ、第二に、投薬も約二倍、第三に、入院も一般に比べ三倍になっています。
 注射、投薬がなぜそうなるか、老人特有の疾病によるものか、明確でありません。私は、老人医療のサービスはいかに供給されるべきであるか、これを基礎的に研究し、その成果に基づき、本格的な高齢者医療体制を充実する必要があると考えますが、その具体的施策について政府の方針を伺いたい。
 また、入院医療の多い原因の一つは、在宅サービスなどの不備ではありませんか。特別養護老人ホーム、在宅ケアなど、関連福祉サービスを充実強化し、医療と福祉サービスを連結統合することが大切であり、その推進について政府の明快な御答弁を願います。
 次に、財源確保の問題につきまして、医療費実績と加入者数を半分ずつ案分する二分の一調整方式と加入者数だけで案分する方式と二案あるようでありますが、現行時点で厚生省は前者の方式を採用し、これを今後厳守していく方針であるかどうか、御答弁をいただきたい。
 さらに、現在、老人保健医療に係る診療報酬支払い方式の改正が論議されていますが、政府案では、支払い方式については老人保健審議会が決めることになっています。これは医療保障の根幹をなすものであり、関係各層の合意が不可欠の問題でありますが、政府は、現行出来高払い制を改正するという前提で審議会にゆだねるのか、全く白紙の状態でこれに臨むのか、お伺いいたします。
 次に、地方自治体のいわゆる上乗せ給付でありますが、厚生省は、これを行政指導で禁止することを決定したと伝えられ、自治体が、福祉の後退につながるとして強くこれに反対しております。上乗せ給付を禁止される理由、並びに大臣は禁止の方針をあくまで貫くおつもりか、明確に御答弁をいただきたいのであります。
 さらに、一部負担の導入については、高齢者の方々が最も関心を持ち、最も強硬に反対しているものであります。高齢者に対する温かい思いやりの心を持って、一部負担の撤廃並びに修正を含めて再検討される考えはないか、お答えいただきたいのであります。
 最後に、病院経営の悪化、さらに医師の問題について質問いたします。
 最近は、病院なかんずく中小病院の経営は著しい苦境に立つものがあり、例年になく多数倒産していると言われております。政府は、これに対してどのような対策を考えているか、御答弁をいただきたいのであります。
 これにも関連いたしまして、近い将来、医師の過剰が言われています。現に医大、医学部等の相次ぐ新増設によって、医師の資格を取得しても、なかなか新規の開業ができないという事実があります。過疎、離島での不足が一方でありながら、明らかに全体としては過剰が予想されております。これらの将来状態を見越して、適切な措置を講ずべき時代に入ったと思うのでありますが、文部大臣のお考え及び対応策をお伺いいたします。
 今後における不可避的な高齢化社会の到来に対応するためには、政府は、思い切って従来の縦割り行政の枠を外すべきであります。現在総理府にある老人対策本部や、各省庁に分散している関係審議会等を発展的に解消し、国民各層の代表者を構成員に含む高齢者対策国民会議を設置して、医療保障はもとより、所得、雇用、福祉サービスなどの保障、さらには住宅の確保に至る総合的な福祉計画を樹立し、実効ある高齢者対策を着実に推進すべきであると思いますが、鈴木総理の明確な御所見を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕
#29
○内閣総理大臣(鈴木善幸君) 塩田さんにお答えをいたします。
 まず、高齢者の健康の問題についてでありますが、今後本格的な高齢化社会を迎えるに当たりまして、国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保は、きわめて重要な課題であると考えております。
 このため、政府としては、ここに老人保健法案を提案しているところでありまして、この法律に基づく保健事業の実施により、国民が壮年期から、年齢や心身の状況に応じて、予防から治療、リハビリテーションに至るまでの一貫した保健サービスを総合的に受けられるようにいたしたいと考えている次第でございます。
 次に、総理府に設置されている老人対策本部を発展的に解消し、高齢者対策国民会議を設置せよとの御意見でありますが、老齢人口の増大に対応して必要となる諸般の施策につきましては、それぞれの行政を所管する省庁が、必要に応じ、国民各層の御意見を聞きながら、その推進を図っております。
 今後も関係省庁が相互に連絡を密にし、老人対策本部を活用しつつ、施策の総合的な推進に努めてまいりたいと考えております。
 以上、お答えいたしましたが、残余の点につきましては、所管大臣から答弁をいたします。(拍手)
    〔国務大臣村山達雄君登壇〕
#30
○国務大臣(村山達雄君) お答えいたします。
 一つは、目的とか趣旨はよろしいが、関係者の協力が大事だ、あるいは財政的な裏づけは大丈夫か、こういうことでございます。
 マンパワー、施設については、われわれは計画を持ってやるつもりでございますが、市町村であるとか医療機関の協力を得なければならぬことは当然でございまして、法案が成立いたしますれば、大いに努力してまいりたいと思っております。財政措置は、必要に応じて講ずることは当然でございます。
 それから、審議会にみんな任せるのじゃないか、こういうお話でございますが、これはお諮りいたします。もちろん、しかし、われわれはある程度具体案を持ちながら御相談申し上げる。そしてまた、広く、やはり老人にも関係ある人にも何とか入っていただいて、本当に国民的合意を得てやっていきたいと思っておるのでございます。
 それから、四十歳にしたのはどうか。歯は二十歳前後が勝負どころだ、こういう話でございますが、四十歳、これは寿命に関係のある一番大きな――成人病を中心に考えているわけでございますので、やはりこの辺からしっかり固めていかないと健康な老人づくりはむずかしいというところから、四十にしているわけでございます。
 ただし、歯につきましては、健康相談その他で、二十であろうが幼児であろうが、十分御相談にはもちろん応ずることは当然でございます。
 それから、いろいろな保険医療から老人分だけ切り離すのは年齢ごとの輪切りではないか。
 そんなことは考えていないのでございます。高齢化社会を迎えまして、これから日本は恐らく世界一の、現にそうでありますし、これからもまた一番長生きの国民になりましょう。これに対して、健康な日本人をどういうふうにつくっていくか、それをみんなでひとつ支えようじゃないか。もう予防から最後のリハビリテーションまで、それから医療についても国民全体で持ち寄ろうじゃないか。こういうことでございますので、これは高齢化社会に備えての問題でございまして、年齢ごとに輪切りをして、何歳から何歳までは別の制度をつくるなどということは全然考えておりません。
 それから、薬づけの問題等の話でございましたが、これはもうこの間一八・六%下げましたが、今後とも薬価基準につきましては、実勢価格の調査等、十分にやりまして、むだがないようにしてまいるつもりでございます。
 それから、医療体制の整備につきましては、すでにお話し申し上げたので省略させていただきたいと思います。
 それから、在宅福祉サービスとの関係。入院が長いのはそういうせいじゃないか。医療と福祉の連携が必要じゃないか。
 もうおっしゃるとおりでございまして、先ほど言いますように、われわれもその方向をねらっておるわけでございます。
 それから、費用分担のあり方について、いま拠出金の出し方、費用分担のあり方の調整方式というのがありまして、医療費の実績主義と、それから全体の加入者に対する老齢者の比率、その二つを使うことにしているわけでございますが、試算IとIIがあることは御承知のとおりでございますが、大体、厚生省としては、それぞれ二分の一の比率でやっていくのが適当ではないかと現在考えているところでございます。
 それから、出来高払い方式については、すでに述べましたので省略させていただきます。
 それから、単独事業でございますが、これもお答えいたしたので省略させていただきます。
 一部負担はどうか。
 これももう申し上げましたが、これは私は、実際にかかったあれからいいますと、ごく一部でございますし、また、全然無料ということにつきましては、いろいろなことが考えられまして、また指摘もございますので、この程度の御負担は何とかお願いしたいものであると考えておるわけでございます。
 それから病院経営の悪化、これはどう見るか、こういうことでございます。
 われわれは、めったに聞かぬのでございますが、大体聞きますと多くの場合は過剰投資、あるいは、言葉は適当でないかもしれませんが、経営が放漫であるということの報告を受けておるわけでございまして、そういうことがないように、われわれは都道府県等を通じまして十分指導してまいりたい、かように思っておるわけでございます。
 以上でございます。(拍手)
    〔国務大臣田中龍夫君登壇〕
#31
○国務大臣(田中龍夫君) お答えいたします。
 ただいまの御質問の最終の要点は、医師の過剰という問題に対してどう対処するかという問題でございましたが、国立、公立、私立を通じまして、医大並びに医学部の新設やあるいはまた定員増加という問題を行わないということにいたしまして、これに対応いたしつつあります。
 なお、昭和四十五年からの無医大県解消計画、人口十万人当たり医師の百五十名と歯科医師の五十名、これは昭和五十四年に至りまして、歯科医師におきましては目標を達しております。なお、医師の場合におきましては、五十四年が百四十名でありますから、間もなく、一両年のうちに計画どおりになります。
 なお、老齢化とともに診療の多様化という問題がございますが、これは厚生省とも御相談をいたしながら、これに対応いたしてまいりたい、かように考えております。
 以上であります。(拍手)
    ―――――――――――――
#32
○副議長(岡田春夫君) 栗田翠君。
    〔栗田翠君登壇〕
#33
○栗田翠君 私は、日本共産党を代表して、老人保健法案について、総理並びに関係閣僚に質問いたします。
 一九七〇年代に全国のお年寄りや住民の強い要求と運動によって、老人医療費無料化制度は革新自治体を中心に燎原の火のように広がり、八割以上の地方自治体で実施に移されるところまで進みました。そして、住民の集めた要求署名の一つ一つが何十万、何百万という数になって政府を動かし、ついに七三年一月、国の制度として実施されるに至ったのです。さらに、現在でも全国三十七都道府県、一千二百を超える市町村で、国の基準を上回る無料化制度が独自に行われていますが、これは国の制度の不十分さを補って、大きな成果を上げています。まさに、これらは国民の要求と運動が闘い取った制度です。
 それにもかかわらず、政府は、本法案によって、この老人医療費無料化制度を打ち壊そうとしています。これは国民の長年にわたる努力とその願いに対する挑戦ではないでしょうか。
 しかも、いまのお年寄りは、明治、大正、昭和という激動の時代を生き抜き、戦争の犠牲に耐えながら日本社会の建設に大きな貢献をしてこられた方々です。この方々に医療費の負担を再び負わせて、国庫負担の削減を図るなど、断じて許されるべきではありません。(拍手)
 またこれは、お年寄りに対する国の責務を定めた老人福祉法の精神にも反するものではありませんか。総理は、これをどのように認識されているのか、まず最初に伺います。
 第二は、患者の一部負担が診療抑制に直結し、福祉を大きく後退させる問題です。
 政府は、外来は月五百円、入院一日三百円とし、この程度なら老人にも重い負担にはならないと言っています。しかし、月五百円で済むという説明には誤りがあり、実際には、高血圧、リューマチ、白内障とたくさんの病気にかかりがちなお年寄りが、内科、外科、眼科とかかるたびに五百円ずつ取られるということです。
 入院についても、決して月九千円が四カ月間で済むというものではありません。さらに差額ベッド、付き添い料など、多額の保険外負担がかかるのが現状ですから、月額二万円台の老齢年金と比べて、一部負担はお年寄りにとって決して軽い負担とは言えません。その結果、病気になっても医者にかかりにくくなり、特に低所得世帯のお年寄りほど、その被害を強く受けることになります。
 こうして見たとき、今回の一部負担導入のねらいがお年寄りの受診抑制にあることは明らかですが、それは、政府が宣伝しているように医療費の節減につながるどころか、逆に病気を重く、長期化させ、医療費の支出をふやしかねないものです。
 たとえば、広く知られている岩手県沢内村、総理の御出身県でありますが、この村の例をごらんください。ここでは、すでに二十年前から六十歳以上の老人の医療費無料化を実施し、住民の健康管理に力を入れてきた結果、受診率は高いけれども一人当たりの医療費は県下最低となり、今年度から保険料を一世帯当たり一万二千円余も引き下げています。
 老人保健医療についての、このすぐれた実践例は、健康管理をきちんとやり、病気が重くならないうちに医療を受けることが医療費節減にもつながることを実証しています。これこそ、高齢化社会へ向かう長期的な老人医療費対策としては最も基本的かつ有効なやり方です。(拍手)ところが、政府案は、これとは逆のことをしようとしているのです。
 総理、お年寄りの福祉を大幅に後退させ、しかも長期的に見れば財政支出増につながる患者の一部負担は直ちに撤回すべきです。明確な答弁を求めます。(拍手)
 第三は、健康管理の充実についてです。
 政府案は、国民の求めている予防、リハビリテーションを含む保健医療の体制の確立を、形ばかり取り上げてはいますが、これを実施するためには、新たに八千名の要員増を初め、体制の整備が急務となっています。しかし、政府案は、市町村に必要な要員及び施設が整わないときは逐次行えばよいことにしています。これでは保健事業は絵にかいたもちになることは火を見るよりも明らかです。国は、この事業を完全に実施するため、要員の養成及び施設設備の計画を策定し、市町村に必要かつ十分な援助をすべきであると考えます。厚生大臣、自治大臣に見解を伺います。
 第四は、地方自治体がすでに行っている老人医療費無料化の対象年齢引き下げ等の単独事業についてであります。
 臨調答申は、その廃止をうたい、政府も、廃止するよう強く干渉するとの態度を表明しています。そのような強要は、憲法で定められた自治権に対する重大な侵害ではありませんか。政府がいまなすべきことは、自治体での単独事業を尊重することであり、また、六十五歳に引き下げることとした国会決議に基づき、対象年齢を引き下げるとともに、退職者医療制度を確立することだと思います。総理並びに厚生大臣の答弁を求めます。
 第五に、これから高齢化社会を迎え、医療費の増加は避けがたいところですが、その費用負担をどうするか、お尋ねします。
 世界各国の社会保障財源に占める企業の負担率は、フランス七〇・二%、イタリア六一・八%、西ドイツ四二・九%に対し、わが国のそれは二九・五%にすぎません。保険料の適正な負担割合を、たとえば事業主七、労働者三というように改正し、世界的に見て低い事業主負担をふやし、今後の医療費の増加に対処すべきであると考えますが、総理の見解をお聞きします。(拍手)
 先日の東京都議会は、自民党を含む全会一致で、老人保健法案に反対する意見書を採択しています。総理、厚生大臣、このように国民は本法案に強く反対しているということを篤とお考えいただきたいのです。
 すでに世界には、揺りかごから墓場までと言われるように、生涯、医療費が無料になっている国々は数多くあるという現実を見るとき、この国民の反対の声は当然と言うべきではありませんか。(拍手)だからこそ、多くの国民は、今次行政改革を、福祉、教育を切り捨て軍備拡大を推進する政策と批判しているのです。
 日本共産党は、この臨調路線に沿って老人医療を後退させる老人保健法案に反対し、お年寄りが安心して、予防を重視した医療が受けられる制度を確立するために奮闘することを表明し、質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕
#34
○内閣総理大臣(鈴木善幸君) 栗田議員にお答えをいたします。
 老人保健法案は、国民の老後における健康を確保するため、予防を含む総合的な保健対策を実施し、もって国民保健の向上と老人福祉の増進を図るとともに、その費用について、国、地方公共団体のほか、保険者が共同で拠出し、公平に負担しようとするものでありまして、高齢化社会における老人保健医療対策の基本となるものと考えております。したがって、国民の負担増や国庫負担の削減をねらった財政対策であるという見方は当を得たものではありません。
 また、この法案は、御承知のとおり去る五月十五日に国会に提案し、継続審査となっているわけでありますが、七月十日の臨調第一次答申においても、活力ある福祉社会という行政改革の長期理念を踏まえ、老人保健制度の早期実施を図るべきであるとされているものであります。
 現行の老人医療制度の根拠となっている老人福祉法では、御指摘のとおり「国及び地方公共団体は、老人の福祉を増進する責務を有する。」とされております。老人保健法案は、この精神をも踏まえ、予防や健康づくりを含む総合的な保健事業の推進を図るものであります。
 次に、老人保健法による医療の対象年齢の問題でありますが、老齢人口の推移、老人医療費等の状況、国の財政及び国民の負担などを総合的に勘案をし、現行の老人医療費支給制度に合わせて、七十歳以上の者といたしております。
 都議会の決議にお触れになりましたが、老人保健法案は、本格的な高齢化社会の到来に対応するため早急にその実施を図る必要があるものでありまして、今国会における成立をぜひお願いいたしたいと存じます。
 以上、お答えいたしましたが、残余の点につきましては、所管大臣から答弁をいたさせます。(拍手)
    〔国務大臣村山達雄君登壇〕
#35
○国務大臣(村山達雄君) お答えいたします。
 要員の確保、施設の整備、それから市町村に対する財政援助でございますが、要員の確保、施設につきましては十分計画を立てております。
 ただ目標を、基盤整備を六十一年度に置いているわけでございます。無理なことをやろうとしているわけではございません。
 それから、一部負担の問題でございますが、再々申し上げたように、われわれは、実費のごく一部であるからひとつ御負担願いたい、こういう案を出しているわけでございます。おっしゃるように、日本の各地で非常に長生きをされ、そして医療費の少ないところはございますが、これは一部負担とは関係ないのでございまして、われわれが提案しておるようなことを早くから実施しているところ、予防から始めてやっているところが、そういうことになっているわけでございます。
 それから、地方自治体が行っている六十五歳以上の無料化でございますが、今度本格的な高齢社会が参りますので、われわれはやはりすべての制度というものを見直しまして、そして活力ある福祉社会をやるためには重点的にやらなければならぬ、ここにわれわれはあるわけでございます。そういう意味で、地方団体においても、今度の法案の趣旨また地方における整合性をひとつ十分御理解願って、進めていってもらいたい、こう思っているわけでございます。
 それから、保険料の持ち方につきまして、労使折半というのをやめて七、三ぐらいにしたらどうか、こういうことでございますが、この五割という制度、これはわが国の社会ではすでに定着しているところでございます。したがって、私はいまのところ、そんなことを考えておりません。
 それからなお、医療保障に対する国庫負担という点から申しますと、先進国の中でわが国ほど国庫負担をやっている国は非常に数少ないと思います。そのこともあわせ御報告申し上げておきます。
 以上でございます。(拍手)
    〔国務大臣安孫子藤吉君登壇〕
#36
○国務大臣(安孫子藤吉君) 保健事業を実効あらしめるためには、要員の養成等について国の援助が必要であろうという御指摘でございますが、要員の養成とか、あるいは施設整備に対する国の財政措置等につきましては、今後、私といたしましても、厚生省と十分に協議をいたしまして、事業が円滑に実施されるように努力をいたしてまいるつもりでございます。(拍手)
#37
○副議長(岡田春夫君) これにて質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
#38
○副議長(岡田春夫君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後三時三十分散会
     ――――◇―――――
 出席国務大臣
        内閣総理大臣  鈴木 善幸君
        文 部 大 臣 田中 龍夫君
        厚 生 大 臣 村山 達雄君
        自 治 大 臣 安孫子藤吉君
 出席政府委員
        厚生大臣官房審
        議官      吉原 健二君
ソース: 国立国会図書館
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