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1979/04/01 第91回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第091回国会 本会議 第15号
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1979/04/01 第91回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第091回国会 本会議 第15号

#1
第091回国会 本会議 第15号
昭和五十五年四月一日(火曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程 第十二号
  昭和五十五年四月一日
    正午開議
 第一 幹線道路の沿道の整備に関する法律案
    (内閣提出)
 第二 公営住宅法の一部を改正する法律案(内
    閣提出、参議院送付)
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 日米安全保障条約及び自衛隊等国の安全保障に
  関する諸問題を調査し、その対策を樹立する
  ため委員二十五人よりなる安全保障特別委員
  会を設置するの件(議長発議)
 日程第一 幹線道路の沿道の整備に関する法律
  案(内閣提出)
 日程第二 公営住宅法の一部を改正する法律案
  (内閣提出、参議院送付)
 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一
  部を改正する法律案(内閣提出)
 国会議員互助年金法の一部を改正する法律案
  (議院運営委員長提出)
 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律
  案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑
    午後零時三十四分開議
#2
○議長(灘尾弘吉君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 特別委員会設置の件
#3
○議長(灘尾弘吉君) 特別委員会の設置につきお諮りいたします。
 日米安全保障条約及び自衛隊等国の安全保障に関する諸問題を調査し、その対策を樹立するため委員二十五人よりなる安全保障特別委員会を設置いたしたいと存じます。これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
#4
○議長(灘尾弘吉君) 起立多数。よって、そのとおり決しました。(拍手)
 ただいま議決せられました特別委員会の委員は追って指名いたします。
     ――――◇―――――
 日程第一 幹線道路の沿道の整備に関する法律
  案(内閣提出)
 日程第二 公営住宅法の一部を改正する法律案
  (内閣提出、参議院送付)
#5
○議長(灘尾弘吉君) 日程第一、幹線道路の沿道の整備に関する法律案、日程第二、公営住宅法の一部を改正する法律案、右両案を一括して議題といたします。
 委員長の報告を求めます。建設委員長北側義一君。
    ―――――――――――――
    〔北側義一君登壇〕
#6
○北側義一君 ただいま議題となりました両法律案につきまして、建設委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
 まず、幹線道路の沿道の整備に関する法律案について申し上げます。
 本案は、最近における自動車交通量の増大、車両の大型化に伴う道路交通騒音により生ずる障害の防止と、沿道の適正かつ合理的な土地利用の促進を図るため、道路交通騒音の著しい幹線道路について、沿道整備道路の指定、沿道整備計画の決定等を行うとともに、沿道整備計画の区域内の整備を促進するための措置を講じようとするものであります。
 本案は、去る三月三日本委員会に付託、同七日提案理由の説明を聴取、同二十六日質疑を終了、同二十八日日本共産党・革新共同中島武敏君より提出された土地買い取りに関する資金の全額貸し付け等に関する修正案が少数をもって否決された後、直ちに採決の結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決した次第であります。
 なお、本案に対しては、道路交通公害に対する総合的な施策の推進等三項目の附帯決議が付されました。
 次に、公営住宅法の一部を改正する法律案について申し上げます。
 本案は、収入が低額である単身の老人、身体障害者その他の特に居住の安定を図る必要がある者として政令で定める者に公営住宅へ入居することができることとするとともに、公営住宅建てかえ事業により新たに建設すべき公営住宅の戸数を、当該事業により除却すべき戸数に構造及び階数に応じ、一・二倍以上で政令で定める倍率を乗じて得た戸数の合計とすることとしております。
 本案は、参議院先議に係るもので、去る三月十九日本委員会に付託、同日提案理由の説明を聴取、同二十八日質疑を終了、討論を省略して直ちに採決の結果、全会一致をもって参議院送付案のとおり可決すべきものと決した次第であります。
 なお、本案に対しては、公営住宅建設促進のための財源への配慮など四項目の附帯決議が付されました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
#7
○議長(灘尾弘吉君) 両案を一括して採決いたします。
 両案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#8
○議長(灘尾弘吉君) 御異議なしと認めます。よって、両案とも委員長報告のとおり可決いたしました。
     ――――◇―――――
#9
○玉沢徳一郎君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。
 すなわち、この際、内閣提出、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律案を議題となし、委員長の報告を求め、その審議を進められんことを望みます。
#10
○議長(灘尾弘吉君) 玉沢徳一郎君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#11
○議長(灘尾弘吉君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加せられました。
    ―――――――――――――
 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の
  一部を改正する法律案(内閣提出)
#12
○議長(灘尾弘吉君) 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
 委員長の報告を求めます。運輸委員長古屋亨君。
    ―――――――――――――
    〔古屋亨君登壇〕
#13
○古屋亨君 ただいま議題となりました海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律案につきまして、運輸委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
 本案は、廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の実施に伴い、新たに必要となる国内法制の整備を図ることとするとともに、ビルジの排出規制の対象船舶の範囲を拡大しようとするものであります。
 その主な内容は、
 第一に、海洋環境の保全上注意を払うべき廃棄物の船舶からの排出について海上保安庁長官の確認制度を設けるとともに、航空機からの廃棄物等の排出を新たに規制する等の措置を講ずること、
 第二に、船舶または海洋施設における廃棄物等の焼却を禁止し、または一定の基準にかからしめるなど排出の規制に準じた制度を設けること、
 第三に、現在ビルジの排出規制の対象外である総トン数三百トン未満のタンカー以外の船舶のうち、総トン数百トン以上の船舶を新たにビルジの排出規制の対象とするとともに、既存船舶については経過措置及び適用除外措置を講ずることであります。
 本案は、去る二月二十二日本委員会に付託され、三月十九日地崎運輸大臣から提案理由の説明を聴取し、同月二十五日及び二十八日質疑を行い、本四月一日採決の結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
 なお、本案に対し、海洋汚染防止の実効を期するため、海運業者、船員等に対する指導監督の強化及び大型タンカーに対する監視の強化などを図るべきである旨の附帯決議が付されました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
#14
○議長(灘尾弘吉君) 採決いたします。
 本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#15
○議長(灘尾弘吉君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
     ――――◇―――――
#16
○玉沢徳一郎君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。
 すなわち、議院運営委員長提出、国会議員互助年金法の一部を改正する法律案は、委員会の審査を省略して、この際これを上程し、その審議を進められんことを望みます。
#17
○議長(灘尾弘吉君) 玉沢徳一郎君の動議に御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#18
○議長(灘尾弘吉君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加せられました。
    ―――――――――――――
 国会議員互助年金法の一部を改正する法律案
  (議院運営委員長提出)
#19
○議長(灘尾弘吉君) 国会議員互助年金法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 委員長の趣旨弁明を許します。議院運営委員会理事山下元利君。国会議員互助年金法の一部を改正する法律案
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
    〔山下元利君登壇〕
#20
○山下元利君 ただいま議題となりました国会議員互助年金法の一部を改正する法律案につきまして、提案の趣旨を御説明申し上げます。
 この法律案は、昭和四十九年三月三十一日以前に退職した国会議員等に給する互助年金について、基礎歳費月額五十六万円を、本年四月から、五十八万円に引き上げた年額に改定するとともに、納付金率を歳費月額の百分の九から百分の九・三相当額に引き上げること、及び国民年金に任意加入ができるようにしようとするものであります。
 本案は、議院運営委員会において起草、提出したものであります。
 何とぞ御賛同くださいますようお願い申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
#21
○議長(灘尾弘吉君) 採決いたします。
 本案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
#22
○議長(灘尾弘吉君) 起立多数。よって、可決いたしました。
     ――――◇―――――
 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法
  律案(内閣提出)の趣旨説明
#23
○議長(灘尾弘吉君) この際、内閣提出、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。労働大臣藤波孝生君。
    〔国務大臣藤波孝生君登壇〕
#24
○国務大臣(藤波孝生君) 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 労働者災害補償保険制度は、今日まで数次にわたり改善を重ねてまいりましたが、重度障害者その他の年金受給者等に対するきめ細かな配慮の必要性、関係制度の動向などにかんがみ、その改善について、かねてから労働者災害補償保険審議会において検討が行われてきたところであります。
 同審議会における検討の結果、昨年十二月、当面措置すべき制度の改善について労使公益各側委員全員一致による建議をいただきました。
 政府といたしましては、この建議を尊重し、必要なものを予算化するとともに、法律改正を要する部分について改正案を作成し、これを労働者災害補償保険審議会及び社会保障制度審議会に諮問し、それぞれ了承する旨の答申をいただきました。また、船員保険につきましても、同様な改正案を社会保険審議会及び社会保障制度審議会に諮問し、それぞれ同様の答申をいただいたところであります。
 これら関係審議会の審議を経て成案を得ましたので、ここに労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案として提案をいたした次第であります。
 次に、この法律案の内容の概要を御説明申し上げます。
 まず、労働者災害補償保険法関係の改正についてであります。
 第一は、遺族補償年金の給付額について、たとえば遺族一人の場合、現在、給付基礎年額の百分の三十五に相当する額を原則といたしておりますものを給付基礎日額の百五十三日分、すなわち給付基礎年額の約百分の四十二に相当する額とするなど、その引き上げを行うこととしたことであります。
 第二は、障害補償年金について、その受けた年金の合計額が一定額に達しない間に受給権者が死亡したときは、その差額に相当する額の一時金を当該受給権者の遺族に支給することとしたことであります。
 第三は、障害補償年金について、受給権者に対して一定額の範囲内で前払い一時金を支給することとしたことであります。
 第四は、年金たる保険給付等の額のスライドの発動要件について、現在は賃金水準が一〇%を超えて変動することを要することとしておりますが、この賃金水準の変動幅を六%を超えることで足りることとしたことであります。
 第五は、通勤災害に関する保険給付についても、これらに準じて措置することとしたことであります。
 第六は、年金受給者のために、厚生年金保険等と同様の年金担保融資制度を設けることとしたことであります。
 第七は、同一の事由についての労災保険給付と、それと重複する部分の民事損害賠償とを調整するための規定を整備することとしたことであります。
 第八は、最近における労働災害の発生状況にかんがみ、事業場ごとの災害率に応じて保険料を調整するいわゆるメリット制度の調整幅を拡大するとともに、その調整率の計算の基礎となる収支率の算定に関し技術的な改善を行い、労働災害の防止努力が的確に反映できるようにしたことであります。
 次に、船員保険法関係の改正について申し上げます。この改正は、船員保険の職務上の事由による保険給付の内容について、おおむね労働者災害補償保険法関係の改正に準じた改正を行うこととしたことであります。
 以上のほか、この法律案においては、その附則において以上の改正に伴う経過措置を定めております。
 なお、労働者災害補償保険法関係の施行期日は、スライド制の改善につきましては公布の日から三月を超えない範囲内において政令で定める日、遺族補償年金の額の引き上げにつきましては本年十一月一日、保険料のメリット制度の改正につきましては一般事業は本年十二月三十一日、有期事業は昭和五十六年四月一日とし、その他の改正事項につきましては同年十一月一日としております。
 また、船員保険法関係の施行期日は、労働者災害補償保険法関係の施行期日に準ずることとしております。
 以上が労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)
     ――――◇―――――
 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律
  案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
#25
○議長(灘尾弘吉君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。佐藤誼君。
    〔佐藤誼君登壇〕
#26
○佐藤誼君 私は、日本社会党を代表し、ただいま趣旨説明のありました労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案について、総理大臣並びに労働大臣に質問をいたします。
 さて、顧みれば、昨年三月、十六名の死亡者を出した上越新幹線大清水トンネル事故、いまだ生々しく、記憶に新しいところであります。さらにさかのぼれば、昭和五十一年五月、山形県最上川農業用水路トンネル工事爆発事故、続いて、昭和五十二年七月、上越新幹線湯沢トンネル工事火災事故、また、昭和五十三年六月、山形県最上川農業用水路トンネル工事爆発事故、まさに類似の事故が毎年連続して発生しているのであります。
 安全なくして労働なし、このことが叫ばれて久しいのであります。しかし、このような重大災害は後を絶たず、昭和五十三年度の労災死傷者数は百十四万二千九百二十八人を数え、一日三千百三十一人の人が職場で傷つき、病に倒れ、あるいはとうとい命を失っているのであります。しかも、これら死傷者の数は、何と驚くなかれ、交通事故死傷者数の約二倍に相当するのであります。総理大臣、この現状を何と見たらいいのか。まさに異常と言うほかはありません。失った命は再び帰らず、傷ついた体はもとに戻らないのであります。しかも、その被災者そして家族、遺族は、災害のあったその日から、一生その傷を背負って生き続けなければならないのであります。
 人間の命ほど尊厳に値するものはありません。まさに、繰り返してならないのが労災事故であり、何はさておいても優先しなければならないのが労災事故の未然防止であります。しかるに、繰り返し起こる労災事故を黙視し、見過ごしている政府の責任はきわめて重大だと言わなければなりません。(拍手)
 そこで総理大臣にお尋ねしますが、このように繰り返される労災事故に対しどのような所見をお持ちか、また対処するつもりか、御答弁を承りたいと思います。
 続いて総理大臣に伺います。
 いま日本の労働者は、EC諸国から働き中毒と言われるほど働かされ、大型労災は後を絶たず、職業病は累増の一途をたどり、その補償は先進諸国に比べてきわめて劣悪な状態に置かれているのであります。特に、低成長下にあっては、企業の減量経営によってそれが加速され、雇用不安と失業は言うに及ばず、労働災害、職業病も昭和五十年以降急速に増大してきているのであります。
 一方、日本の独占的大企業は、高度成長時代はもちろんのこと、今日低成長下にあっても減収増益、増収増益、特に昨年九月の決算ではかつてない高収益を上げているではありませんか。総理大臣、これでは労働者の命と健康を削り取り、その犠牲の上に日本の大企業は肥え太っていると言わざるを得ないのであります。(拍手)総理大臣の所見を承りたいところであります。
 次に、以下、労働大臣に伺います。
 それは、まず最近の労働災害の動向についてであります。
 確かに、昭和四十五年をピークに労働災害は下降線をたどってまいりました。しかし、昭和五十年代に入るや急速に増加の一途をたどっているのであります。しかも、その中で圧倒的に多いのが建設業に携わる労働者であり、死亡者数では全体の四七・六%を占め、しかも大規模災害のほとんどはこの建設業に集中しているのであります。それは、いみじくも昭和五十年以降政府がとった景気浮揚対策、またそれに伴う公共事業の伸びと一致しているのであります。
 これは一体何を物語るでありましょうか。確かに企業の業績は好転してまいりました。しかし、集中豪雨的な公共事業の発注は、人命軽視、労働安全の手抜きを助長し、労働災害、職業病の多発を引き起こしているのであります。まさに政府の政策は景気浮揚、経済政策を優先し、労働安全、労働政策を手抜きにしてきたと断ぜざるを得ないのであります。労働大臣の所見を伺いたいと思います。(拍手)
 また、今日の企業の減量経営は、労働者に集中的に犠牲を転嫁し、人の命を削り取り、労働災害の多発、新しい職業病の誘発など、複雑な疾病を引き起こしておるのであります。このことは今後ますます助長されていくものと見なければなりません。
 しかし、労働者は労働力は売っても命や健康を売っているのではありません。そこに使用者の人命に対する安全保障義務が存在するのであり、民事訴訟における判決はいみじくもこのことを判示しているのであります。災害が起こってからではすべてが遅いのであります。労働安全、労災、職業病の未然防止、これは労働行政にとって最優先すべき課題と考えますが、労働大臣の所見と今後の施策について伺いたいと思います。(拍手)
 次に、今回の法案の内容について伺います。
 それは、まず給付水準の問題であります。
 政府は一体、現在の労災補償給付水準で被災者、その家族、遺族の生活が守れると考えているのかどうか。今回の改正案を見ても、遺族補償年金など一部の手直しはされているものの、給付水準全般の引き上げについては全く手がつけられていないのであります。
 たとえば、自動車事故による自賠責保険ですら、その遺族に対し二千万円ないしはそれに近い一時金が支給されているのであります。しかるに労災事故の場合、死亡当時年金を受ける遺族がいなければ一千万円程度の一時金であり、自賠責保険の二分の一であります。果たしてこれでいいのか。人の命に変わりはないのであります。加えて今日、人の命に対する損害賠償額は六千万円ないしは七千万円程度支払われているのであります。そのことを考え合わせれば、今日の労災補償給付は余りにも低額と言わざるを得ません。それに、労災年金給付では、ボーナスが取るに足らない算定になっているのに、今度の健保改正案では、ボーナスからもがっちり保険料を徴収するという、これでは首尾一貫していないのではないですか。
 また、たとえば障害年金の場合、賃金月額十万円、日額三千三百円の人は、障害一級ですら百万円相当の年金しか支給されないのであります。果たしてこれで家族ともどもに暮らしていけるだろうか、まさに一家が路頭に迷うことは明らかであります。
 労働省は、しばしば日本の労災補償水準はILO水準に達したと言っております。果たしてそうだろうか。ILO百二十一号条約は、開発途上国も含めた国際的最低水準なのであります。よしんば、この条約の水準に達したとしても、経済大国を自負する日本が、胸を張って国際水準に達したと言えるだろうか。否、ILO水準をはるかに上回る西欧先進諸国に比べるならば、日本はまだまだ低水準にあると言わなければなりません。
 そこで、労働大臣に次のことを伺いたいのであります。
 第一は、労災給付水準は、労働者が人たるに値する条件を満たすものでなければならないと考えますが、その点どう考えるか。また、日本の労災給付は、被災者、そしてその家族、遺族の生活を守れる水準に達していると考えるかどうか。
 第二は、日本は主要先進諸国に学び、給付水準その他改善すべき点が多いと考えるが、その点はどうか。
 第三は、今回の改正案のように、一部手直しではなく、制度の抜本的改善を図るべきだと考えるが、その点はどうか。
 以上、労働大臣の答弁を求めたいと思います。
 さて、今回の改正の最大の焦点は、労災保険給付と民事損害賠償とを調整するという点であります。つまり、改正案によれば、労災保険制度から前払い一時金を給付した場合、事業主はその分を損害賠償から差し引くことができるとし、また、一時金相当額を超える損害賠償が行われれば、政府は保険給付をしなくてもよいというものであります。
 しかし、この改正内容は大きな誤りを持つものと言わなければなりません。なぜならば、制度目的を異にする労災保険給付と民事損害賠償とを同一レベルで調整すること自体、理が通らないのであります。
 そもそも、労災保険制度は、労働者が人たるに値する生活の最低基準を定め、業務上を唯一の要件として法定補償を行うものであり、被災者の生活確保を図る保険制度であります。一方、損害賠償制度は、市民相互間において発生した損害をてん補し、その公平な分担を行う法制度であります。したがって、両者は相互補完の関係にあるものではなく、両法律制度によって二重の利益を得ても、相互に排除する関係にはないのであります。
 そもそも、被災者が民事訴訟を提起したのは、労災給付が余りにも低いため、それを十全なものにするために起こしたものであります。仮に、そのことによって二重と目される給付があったとしても、人間の命の値打ちに上限はないのであります。しかるに、それを調整するということになれば、被災者が経済的に損失をこうむることは明らかであります。
 一方、この調整は、事業主の負担を軽減させ、あわせて、最近の判例の動向にいら立ち、労災裁判を抑制しようとする使用者側を利することは、これまた明白なのであります。(拍手)
 そこで、労働大臣に伺いたいのであります。
 先ほどから述べているように、理も筋も通らず、しかも、使用者側を一方的に利するこの制度間の調整をなぜこの時期にやらなければならないのか、明確な御答弁をいただきたいところであります。
 次に、この両制度間の調整は、民事損害賠償訴訟を抑え、ひいては、労災、職業病を誘発し、多発させていくという点であります。つまり、この調整は、被災者の民事損害賠償訴訟により経済的効果を薄め、結果的には民事訴訟を抑える役割りを果たすことは明らかだと思います。そして、このことは、今日まで民事訴訟が果たしてきた使用者側の安全配慮義務を後退させ、ひいては事業主の職場安全管理に手抜きを与え、今後一層労災、職業病を誘発し、多発させていくことは必至であると断ぜざるを得ないのであります。労働大臣の所見を伺いたいところであります。
 最後に、総理大臣に伺いたいのであります。
 重ねて申し上げますが、労災保険給付と民事損害賠償との調整は、それ自体理が通らないばかりでなく、使用者側を一方的に利する結果となり、ひいては労災、職業病を誘発していくものと断ぜざるを得ません。したがって、この際、問題の多い両制度間の調整事項については、このたび改正案の審議に当たって見送るべきだと主張しますが、その点どう考えるか、総理大臣の御答弁を承りたいと思います。
 以上をもって私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣大平正芳君登壇〕
#27
○内閣総理大臣(大平正芳君) 佐藤さんにお答えいたします。
 第一の御質問は、労災事故は毎年同じような事故が繰り返し起こっておる、政府の責任は重大であると思うが、どう対処する考えかという意味の御質問でございました。
 労働災害を防止いたしまして、働く人々の安全と健康を守り、安心して働くことのできる職場を確保することは、政治の課題であると考えております。
 労働災害は、長期的には減少傾向にございます。昭和四十四年に百七十二万件でございましたが、五十三年には百十四万件に減っております。けれども、いまなお毎年百万余に及ぶ方々が労働災害を受けており、政府といたしましては、労働災害のなお一層の減少を図るため、第五次労働災害防止計画に基づきまして、死亡災害、大型災害の大幅な減少、職業性疾病対策の充実などを重点に、具体的な施策を推進しているところであります。今後とも引き続き、企業に対しまして災害防止を図るよう、強力に対策を進めてまいることといたしたいと思います。
 第二に、労働者の方々はよく働き、しかも労災事故に遭い、しかも補償は少ない。それに引きかえて、独占企業は、低成長下にかかわらずかつてない高収益を上げているじゃないか、一体これはどうしたことかという御所見でございました。
 わが国経済が発展する中で、御指摘でございますけれども、労働者の賃金を初め労働条件は着実に改善されておると私は思っております。勤労者の生活の充実向上なくして産業の発達はないと考えておりまして、特に働く人々の安全と健康の確保は最優先に考えなければならないと考えております。したがって、政府としては、働く人々のとうとい生命が経済活動の陰で損なわれることのないよう、災害防止については、企業に対する規制を初め、各種の施策を講じておるところでございますが、今後とも、働く人々の生活に十分配慮した政策運営を講じてまいる所存でございます。
 なお、不幸にして労働災害を受けられた場合の労災補償につきましても、企業にその負担を求めて、その充実に努めたいと存じております。
 雇用者所得はこの十年間四・八三倍、企業者所得が二・六三倍というようなところから見ますと、企業がひとり太って労働者が劣悪な処遇に甘んじておる状態にないことは、佐藤さんにも御理解をいただきたいものと思います。
 最後に、御質問は、民事賠償と労災保険給付との調整には種々の問題が多い、したがって、調整規定についてはこのたびの審議から外して見送るべきではないかということでございました。
 同一の労働災害につきまして、事業主が負う民事損害賠償と労災保険給付とが重複して行われることのないよう、その間におきまして合理的な調整を行うことは、私は必要であると考えております。従来はその調整規定がなかったわけでございますので、今回の労災保険法の改正に際しまして、他の立法例にならいまして規定の整備を行おうとするにすぎないものでございます。今後の労災保険制度の健全な発達のためにも必要な措置であると考えております。(拍手)
    〔国務大臣藤波孝生君登壇〕
#28
○国務大臣(藤波孝生君) 佐藤議員の御質問にお答えをいたします。
 まず、労働災害の防止の問題についてでありますが、最近の労働災害の発生状況を見ますると、昭和五十一年、五十二年、五十三年と連続して増加が見られておりますが、ただいま総理から御答弁を申し上げましたように、四十年代から比較をいたしますと全般的には減少をしてきている、特に昭和五十四年には若干ではありますけれども減少してきている、こういうことに今日なっておるわけでございます。
 しかしながら、いまなお多数の労働者の方々が労働災害に遭われているところでありまして、労働省としては、働く人々の安全と健康の確保を図りますために、労働災害の防止につきましては、議員御指摘のように、労働行政の最優先課題の一つといたしまして従来も取り組んできておるところでございますし、今後とも引き続き、強力に対策を講じてまいりたいと考えております。
 特に、最近の建設業における労働災害の発生状況にかんがみまして、今国会に労働安全衛生法の一部を改正する法律案を提出いたしまして、その御審議をお願いしているところでありますが、この法律案に盛り込まれておりますこと等も含めまして、さらに、全般的な建設業労働災害防止対策の充実を図ってまいりたいと考えております。
 労災保険の給付水準の問題についてでありますが、わが国の労災保険制度は、被災労働者等に対する補償の迅速、確実な実施を担保するための公的保険制度として設けられまして以来、数次にわたって改善が行われてきておるところでございます。その結果、一般的な給付水準につきましては、国内のいろいろな関係各制度や、あるいは諸外国の労災保険制度と比較をいたしまして遜色のないものとなってきた、このように考えておるのでございます。
 他面、労災保険財政を見ますると、最近急速にこの財政状況が悪化をいたしまして、その健全化が急務の課題となってきておりますので、今回、労災保険料率の引き上げを図ったところでございます。
 このような事情にはありますけれども、関係審議会の建議に基づきまして、国内関係の諸制度との均衡や、特に重度障害者など、特別に手厚い措置を必要とする方々に対しましてきめ細かな配慮をするなど、当面措置すべき事項につきまして、さらに今般改善を行おうとするものでございます。
 なお、一般的な給付水準の改善等、制度の抜本的な改善を行えという議員の御指摘をいただきましたが、その思い切った改善につきましては、主要先進国の制度との比較や、さらに他の社会保険年金との関連等を中心に、きめ細かく検討すべき点が多いと思われますので、今後労災保険審議会におきまして、なお慎重な検討が行われることとなっております。その検討を見守りながら、今後対処してまいりたい、このように考えておるところでございます。
 最後に、労災保険給付と民事損害賠償との調整につきましても、総理からもお答えがございましたが、労災保険給付は、労働災害により生じました損失のてん補の機能を果たしておりまして、民事損害賠償とはその点においては同質であるというふうに広く認められているところでございます。したがいまして、同一の労働災害について事業主が民事上の損害賠償責任を負うようなケースにつきましては、合理的な調整を行うことが必要であります。
 現行の労災保険法には、この点についての規定の整備が十分でありませんでしたので、今回、給付の改善等を含む法改正をいたします機会に、他の例にならい、このような法制上の不備を補正をいたしまして、今後の労災保険制度の健全な発展を期したい、このように考えた次第でございます。
 なお、これによりまして、事業主の労働安全衛生上の義務が緩和されるものでは毛頭ありませんし、また、労働災害の誘発につながるとは考えられないのでございます。
 今後とも、労働災害の防止に努めまして、労働者の生命を尊重し、安心をして働いていくことができるような労働環境を確保いたしますために、労働行政の最も重要な課題といたしまして、全力を挙げて取り組んでまいりたい、このように考えておる次第でございます。(拍手)
#29
○議長(灘尾弘吉君) これにて質疑は終了いたしました。
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#30
○議長(灘尾弘吉君) 本日は、これにて散会いたします。
    午後一時十七分散会
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 出席国務大臣
        内閣総理大臣  大平 正芳君
        運 輸 大 臣 地崎宇三郎君
        労 働 大 臣 藤波 孝生訓
        建 設 大 臣 渡辺 栄一君
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ソース: 国立国会図書館
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