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1947/10/16 第1回国会 参議院 参議院会議録情報 第001回国会 労働委員会 第14号
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1947/10/16 第1回国会 参議院

参議院会議録情報 第001回国会 労働委員会 第14号

#1
第001回国会 労働委員会 第14号
  付託事件
○職業安定法案(内閣送付)
○労働基準法の適用除外規定設定に関
 する陳情(第二百五十二号)
○失業手当法案(内閣送付)
○失業保險法案(内閣送付)
○企業再建整備その他に関する陳情
 (第三百四十三号)
○労働基準法第四十條の特例に関する
 陳情(第三百四十四号)
  ―――――――――――――
昭和二十二年十月十六日(木曜日)
   午前十時三十四分開会
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した事件
○一般労働問題に関する件(末弘嚴太
 郎君の証言)
  ―――――――――――――
#2
○委員長(原虎一君) 只今より開会いたします。本日は一般労働問題に関する調査のうち、中央労働委員会より見た労資問題につきまして中央労働委員会会長代理末弘嚴太郎博士に証人の形において御出席を願つたのであります。宣誓をお願いいたすことにいたします。
    宣誓書
  良心に從い眞実を証言することを誓います。
         証人 末弘嚴太郎
#3
○証人(末弘嚴太郎君) 本日お呼出しによりまして、只今御指定のような事柄についてお話をいたすのでありますが、どういう点がこちらで特に重要視される点でありますか、必ずしも我々に分りませんので、一應予定したお話をいたしまして、あと御質問に應じまして何なりお答えいたしたいと思つております。
 初めに、これはもう御承知の方には釈迦に説法でありますが、労働委員会というものの仕組とどういう職能を持つておるかということを一應極く簡單に申し上げます。労働委員会は労働組合法及び組合法の施行令で以てこの組織もでき任務も決まつておるのでありますが、この任務が二種類に分かれておりまして、一つは労働組合法の第二條、いわゆるその組合の適格の審査をする。從つてその適格に当らないものは解散せしめられるというような、こういういわゆる御用組合を防止するための審査をする。それからもう一つ大きいのが、労働組合法の十一條違反について審査をして、そうして檢事に起訴すべきものであれば檢事に請求をするという、この二つが大きな役割でありますが、その他三、四の事柄が労働組合法にそういう審査をする職能として出ております。そうしてこの審査的な役割は、現行法によると全部地方の労働委員会の任務になつておりまして、中央労働委員会は関係がないのであります。私は昨年から一年偶然のことで中央労働委員会と東京都の地方労働委員会と両方に関係しておりました関係上、その審査的な方の仕事もいたしましたので、その面から皆さんにお話したらよいと思うことを後に申上げますが、それは東京都の地方労働委員会として得た体驗からお話いたします。
 それからもう一つは爭議の調停、斡旋というようなことをやる役割でありまして、これは労働組合法及び労調法で以て決まつておる仕事であります。それで世間からは、この調停、斡旋をやる方の役割というものが主たる仕事のように見られておりますが、先程申しました審査的な役割というものが、地方の労働委員会には非常に重要なものとして現在あるわけであります。この調停の方の役割は、地方労働委員会も中央労働委員会も双方共権限を持つておりますが、この権限の関係が各都道府縣内に限る。爭議はその都道府縣の労働委員会、それから二府縣以上に亘る場合及び労働大臣が必要と認めたときには、適宜に管轄を指定して変えることができるということになつております。それから、地方の労働委員会に一應掛かりました事件が、そこで調停がなりません場合に、中央労働委員会にこれを更に調停に掛けるという規定が労調法にあります。そういう関係から、本來ならば地方でやるべき事件が中央へ出て來るということが出て参ります。例えばこの夏やりました別子の鉱山の調停、あれなどは愛媛縣の労働委員会がやつたが、結局調停が成立たない。その結果縣知事から中央労働委員会に請求をして來まして、それで再調停をやつたようなことになつております。それから現在労働委員会で非常に困つております遞信省関係即ち全遞の爭議及び國鉄の爭議、これなどは組合内部の何らかの事情に基くんだと思いますが、本部は中央に、つまりこれは全國的の爭議ですから、中央労働委員会に提訴する。然るに同時に各地方でその地方毎に地方委員会に調停の申請をする。例えば東京都のごときは本省の支部というのと新橋管理部の中の新橋支部というのが二つが東京都に出しております。そうして調停申請の内容を見ますと、やはり例の二千四百カロリーを本にした審議とか、或いは赤字補填金として本人二千円、家族千円といつたような、つまり本部が要求しておると同じようなことをやはり地方で要求して出て來ております。そのために地方では非常に扱いにくい。それで東京都の労働委員会では、例えばそうしますとこれはとても東京都だけでは扱えないから、労働大臣に申請して中央に移して呉れという方法を取りまして、それで東京へ本省支部の事件は今移つておる。それから全遞の関係も、東京に中央地方協議会という、いわゆる中央、地方というものの事件をやはり中央労働委員会に移しておる。こういうようなわけで調停の管轄は非常に実際上は窮屈なことになつております。
 そこで只今のようなことで、労働委員会に二種類の仕事があるということですが、先ず初めにこの審査的な事務の問題がどういうように動いており、又どういう意味を持つかということを一應申します。昨年は全國各地方の地方労働委員会は、大体組合法第二條による組合の審査という事務に一番忙殺されたのであります。これは法律を施行して、そうして法律に基いて組合をつくり、そうしてまあ届出をして來ましたから、各地方いずれもこの審査に忙殺されたわけでありますが、もう大体設立の届出をするものが済んでしまつておりますので、この頃は新設された届出についての審査の事件というものは殆んど出て來ないようになりました。ところがたまたま組合が最近分裂する傾向があります。つまり急進分子と比較的穏健な分子が組合のやはり権力爭いをする結果出て來るのだと思います。そのために一方の組合が相手の組合を、彼は御用組合だ、こう言うわけであります。つまり第二條違反だというようなことを言います。現に最も極端な例で、最近に宮内省の大膳職の何といいますか厨房の料理を作る人が罷められたのは十一條違反だと言つて要求して來、同時に宮内省の中に今懇話会という形の一種の労働團体がある。それは御用組合だということで提訴して來ておる事件が東京都にありまして、到る所にそういうような事件があるのでありますが、つまり今日二條による適格審査問題というのは、そういう爭議的な、つまり労働関係の粉爭に聯関して方々に起つておりますことが一つ、それからもう一つ十一條違反というのは、これは今もう全國的に非常に多いのであります。それでこの原因はいろいろありますが、一つは根本的には雇主がだんだんに、殊に中小工業においては経営が苦しいということとそうして去年あたりは、組合がまあ相当活躍しても目をつぶつて大体大目に見ておつた。それに対して近頃ではこの対抗手段というような傾向が現われたということが一番大きな原因だと思います。これは最近にはもうどの府縣にも十一條違反というものが出て來ております。ところが、この十一條違反の事件というのは御承知のように、労働委員会で調べて、そうして裁判所に起訴する。そのためには檢事の喚問を受けることになつております。そこで労働委員会でこれは十一條違反で罰すべきものであるといつて檢事局へ請求をする。檢事が更に調べてそうして初めて裁判所に事件が出る。こういうのが法律の仕組であります。
 ところが今のところ、その点でだんだんに不都合が発見されて來て、檢事局と労働委員会、つまり檢察関係と労働委員会との関係をもう少し調整しなければいけないという問題が最近に起りつつあります。それはどういうことかと申しますと、檢事局から見ると労働委員会は弁護士とかその他司法事務に訓練された人が必ずしも労働委員会の委員中におるわけでない、素人のやつたことでありますから、いわゆる証拠の蒐集などが十分にできておらない。これを檢事局に出しますと、檢事局は在來の頭と同じ頭で調べるものですから、どうも労働委員会から出て來たものが皆証拠不十分な感じがして仕様がない。大体十一條というものが証拠の非常に取りにくい犯罪であります。つまり解雇するとか、或いは不利益の取扱いを與える、これは証拠が取れるのであります。ところがこれは労働組合を結成したとか、加入したとか労働組合の正当なる行爲をなしたることの故を以て解雇したことの動機を証明するということは非常にむずかしい。何故かというと雇主は頭からそんなことは言いません。彼は怠けて仕様がないとか、必ず外の理由を附けて解雇して來ます。そこでこれを労働組合員たるの故を以て罷めたのだということを立証するということは非常に困難であります。ところが檢事局に言わせると、その点がはつきりしないと起訴するわけには行かない。こういうので方々ですでにその点で、問題になつたものもあり、又問題になりそうな問題があるのであります。これは何か法律を改正しなければならないのじやないかというふうにも考えられます。
 殊にまずいのは、そういうことで檢事局が起訴すべきかどうかについて手間取るというようなことがありますと労働者の方は一應解雇されておりますから給料を貰えません。それで裁判が決まるまでは解雇されつ放しで困つておるわけであります。食えないわけであります。それはどういう結果になるかというと、結局我々が十一條違反の事件を労働委員会で扱つておりますと食えないものでありますから、労働者側が遂に中途で以て折れて妥協をするつまり飽くまでも十一條違反でこれなどは徹底的にやつたらいいじやないかと我々が思つておりますと、労働者側が折れてしまうのであります。それで何故折れるかというと、金が続かんから妥協してでも金を貰えばいいということであります。妥協であとの労働関係がよくなるならばそれは結構でありますが、そこに食えないがために妥協してしまつたというような事件が起るのであります。それで九月の八、九、十日の三日間東京に全國の労働委員会の委員が集まりまして協議会を開きましたときにも、この十一條違反の問題が一番やかましい議題になりまして、それでこれにつきましては、その協議会から政府に対して決議しましたものを提出しました。それで政府でもこれについても考慮するというようなことを言うておりますが、これは何らか立法的措置を要する点については、政府というよりはむしろ参議院及び衆議院即ち國会議員にお考え願う材料としてお役に立てばいいことじやないかと思うので、協議会の方でも、両院に、その点に関する立法的措置を要すると思う点については、協議会の意見を何らか國会法によつて認められた形で提出をしたいということを考えておるような次第であります。
 それから、審査の問題はそのくらいにいたしまして、あと調停の問題でありますが、調停の問題は、最近には中央は無論のこと地方も非常に殖えております。これは若しも御要求がありますれば、労働省で取れば一番早く全國の統計が取れると思いますが、あれは檢閲の関係で近頃新聞に余り載らんから、皆様一般に御存じないのですが、全國的に非常な数だと思います。それでひとり中央労働委員会のみならず、地方も非常に忙殺をされておる状況であります。それでこれについては例えば私東京都の世話をしておるのですが東京都にどのくらい事件があつて、どんなふうに裁かれておるかというようなことは、いずれ表にしてお目に掛けたいと思うくらい皆が忙殺されております。それから中央労働委員会としても、今すでに調停進行中のものが國鉄全遞及び電氣産業いわゆる電産、この三つでありまして、つまり殆んど百二三十万くらいの関係労働者の数があつて、その調停をやつております。その外に教員組合の関係とかその他全官公とか、その種のものが今月中には全部出揃つてくれるのじやないかというような予想をいたしておるような状態であります。
 それでその点について特に皆さんにお話をして置いていいと思いますのは実は労働委員会というものが使用者及び労働組合から信頼があれば調停の申請が多いわけであります。信頼がなければ調停の申請はないわけであります。担し公益事業の場合には調停に掛けなければ爭議行爲ができないものですから、信頼如何に拘わらず出て参ります。公益事業以外の場合には、一方からだけ申請しても、相手が應じなければ調停が始まりませんので、要するに信頼があるかどうかということで動くわけであります。それで去年の三月一日に労働組合法ができましてから中央労働委員会では、結局十月に電産の調停の事件が出て來るまでは、中央には調停事件が一つもありませんでした。これは一つは全國的の爭議がその時代には大体ありませんでした。むしろメーデーから食糧メーデーといつたような調子で、ああいう労働組合の経済的闘爭というような方法以外の闘爭形式が取られたりなんかしていたような時代でもあつたのでありましよう。
 労働委員会としては、初めて調停らしいことをやりましたのは、九月に國鉄の爭議がありました。これは今度又非公式に出て参りまして、斡旋的なことをしたのであります。初めて十月に電産のストがありました。このときには吉田内閣があれを公益事業である、電氣ですから公益事業であるということにして、そうして爭議行爲に持ち出せないようにというので、非常に急いで、法律案が議会を通りましたのが十月の七八日だと思つておりますが、法律の施行を議会ではなかなかしないといつたような附帶決議があつたにも拘わらず、十三日施行いたしまして、それがつまり労調法によつての初めての事件でありまするが、全國からいつてもあれが初めての事件であります。
 それで労調法というものは、公益事業については、抜打ちの爭議を極力防ごうというために、御承知の三十七條に規定があります。それで公益事業における労働者は、この調停の申請をしてから三十日経たなければ爭議行爲はできない。即ち先ず調停に掛けて、それで十分事を調べて、そうしてできれば無事に收める方法によつて爭議行爲を防ごう、こういうので三十七條ができているのであります。ところが去年から今年に掛けての経驗からいうと、あれを立案したときの目的の半分は、どうも没却されているのじやないかというような現状であることは特に申上げて置きます。それは去年最初の電産の爭議のときには、この労働委員会も組合側も使用者も、いずれもこの一ヶ月間に何とか片付けようというつもりで一生懸命にやつたのであります。それで施行令に書いてある大体の段取に從つてやつて行つたのであります。ところが先ず第一に当時の政府が横槍を入れて、政府は調停案には賛成しないということをぽんとやつたものですから、それで話は脱線をいたしまして、その結果組合側も雇主側も受けないということになつたものですから、到頭三十日の期日が來るまで事は解決せずに行きました。だからいよいよ爭議行爲ができる段取に入りまして、それで初めて委員会が更に斡旋をして、十一月の二十九日にどうやらこの仮協定を結ぶというようなことになりました。こういう現象を見ておりましたのがあの当時の國鉄と全遞でありました。あの二つの組合は、十一月の下旬に、我我後で分つたのですが、頭から法定の一ケ月以内の期間に調停で事を纒める精神はなくて、ただ一ケ月経てば爭議行爲はできる状態になることを期待して、いわば爭議行爲のためのパスポートを貰うために、爭議行爲を労働委員会に提訴するということがあつたわけであります。
 これは労働組合の人々にいわせると尤もだという理由があります。つまり労働組合というものは、爭議行爲ができるということで、初めて自分らの取引能力が十分あつた。それを公益事業だからといつて、法律で以て仰えることは、自分らの取引能力が弱いということになる。だから爭議行爲を仰えられておる三十日の間は取引したつて損だ。結局弱いから十分目的を達することができない。一ケ月経つて爭議行爲をしたければいつでもできる状態になつてやれば、初めてよい取引ができるだろう。法律が大体惡いのだから、我我はそういう戰術を取るのだということを後に、はつきり言うようになりましたが、最初は十一月の末に出して來ましたときには、殊におかしかつたのは、國鉄などはまだ大臣の方に要求書を出して、大臣の方の囘答もないうちに、我々の所へ調停を申請して來た。そうすると爭議はなしじやないか、爭議がなければ調停はできない。從つて申請しても受理しないと我々言いました。御承知のように労調法の規定によりますと、申請をしたときから、三十日、こういうものですから、申請が來た以上、受理せざるを得ない。そこで受理すれば三十日はどんどん進行する。こういうことになつているので、受理すべきかどうか非常に問題になつて、それで十一月のあの國鉄、全遞のことが例になりまして、その後凡そ公益事業に関する爭議が発生せんとするに際しては、労働組合の側から労調法十八條の第一項第三号、即ち組合側から一方的に申請するという事件が非常い多いのであります。
 それから公益事業の関係上、全國的な爭議が多いですから、中央労働委員会に持ち込んで出て來るものは公益事業の爭議であります。但し去年の秋、そういうことで二つの大きな公益事業である官廳の労働組合の調停事件が出ましたが、爾來今日に至るまでそういうのでないものも、例えば全國の金属鉱山の調停でありますとか、その他、新聞に出ませんものですから一般に知られておりませんけれども、四月五月六月等に掛けて、全國の港湾の労働者の爭議でありますとか、或いは全國の金属鉱山の調停でありますとか、それから全國の私設鉄道の爭議の調停でありますとか、そういう大きな調停を中央委員会としてはやつて参りまして、そうして八月に先程言つた別子の爭議をやりました。その後に今度の調停が九月から十月に掛けて引続けて出て來ているというような状況であります。
 それで今度の爭議の問題は、これはいずれ後に具体的に何か御質問があればお答えしたいと思いますが、要するに中心け政府の千八百円案というものを基礎とした賃金ベース、あれに対して労働組合の不滿というものが、根本の動機になつておるようであります。そのために特徴としては、どの組合をも通じていわゆる理論生計費というものを出しまして、即ち軽労働をする人間にとつては二千四百カロリーの栄養の攝取がなければならない。これに尚蛋白質が幾らなければならないということを附けておるものもありますが、要するに二千四百カロリー取るという点を申しております。そうしてそれが全生計費の中の何%ぐらいであらねばならない。例えば六十%ぐらいであらねばならないということを言つております。そうしてそれから算出した賃金をよこせ。それで何でそういうことを言うかというと、今のようにこの物價が安定しない状況では、名目賃金を貰つても何にもならない。だから適正價格で物資をどんどん配給して呉れればこれは勿論問題ないのですが。それを無論前提としながら、ともかく二千四百カロリーというものを軽労働者としては呉れる。そういう食物を買えるだけの賃金、而もそれは全生活費の中では六十%程度ということを言うてる要求、これを中心としたものが今我々の所に出ております。調停の申請及び今後出ようとしておる申請の殆んどすべてを通じている要求の中心であります。
 この他にいろいろのものがちよいちよい別々にくつ附いておる点があります。この他に附いておるもので大事な問題は、政府が閣議で今年の一月、二月、三月ごろにかけて、労働組合つまり官公吏の労働組合と結びました労働協約、あれに対して閣議で決定をしました。そして各省申合せて、今後労働協約有効期限が切れて新らしく結ぶときには、この方針で参ろうという協定をした。これが今問題になつて來ております。例えば今現実に國鉄なぞは、すでにこの間の八月で前の労働協約の期限が切れておりますから、それで新らしい労働協約について、政府側は閣議で決定された線に沿う、組合としてはそうでないというので、相当これはむずかしい問題を孕んでおります。
 それからこの二千四百カロリーということを基にした理論生計費の問題であります。この問題につきましては今労働委員会といたしましては、或いは栄養学者を呼んだり、或いは安定本部の係官に來て貰つたりして、いろいろ現実の事実というものを調べているような状況でありまして、まだ労働委員会としては何らかくあるべきだというような結論に達してはおりませんが、非常にむずかしい問題があるのだということは当然であります。
 それでここらの点につきましては、御質問に應じまして後に申上げるといたしまして、今ここに申しましたように、中央は無論のこと、全國の労働委員会というものは、非常に多忙を極めており、而もこの労働委員会がいかに動くかということが非常に重要なことになつておるのであります。この重要な役目を果すために、労働委員会は中央は無論、地方でも大いに努力いたしておりますが、先程申しました九月の初旬三日間やりました協議会のときに各地方から申立てられた事柄、これをだんだんに纒めてみると、各委員会の要求が現われておりますが、その要求の裏には今の委員会の欠点がある。その欠点を直したいという自分の要望が現われておる。それでこれは取纒めたものがすでに印刷してございますのでいずれこちらに資料として提出いたしますが、その中から一二重要なことを申し上げます。去年一年の間は労働委員会というものを、在來の役所が方々に置いた諮問委員会と同じように考えておつたものと見えまして、委員の手当とかいうものが、在來の役所の諮問的な委員会と同ぞようなことであります。それから事務局の事務員というものが最初は殆んど役所の役人の兼任、労政局労政課の兼任であるような状況で初めは動いておつたわけです。それで初め余り忙しくない状況で、どこも驚かなかつたのでありますが、今年のように忙がしくなつて参りますと、少くとも会長或いは会長を相当助ける何人かの人間は、殆んど專務になつてやらなければ事が片付かないというような状況が、忙がしい所については明瞭に出て参りました。そうなりますと、今まで與えられておるような待遇では到底十分に働いて頂くことができないということが分りました。殊に御本人の待遇の問題もさることながら、地方の労働委員などになりますと、旅費が丸でなくて、そのために手弁当で集つたり、方々に出掛けて行くというような実例があるようなひどい状況であります。この間集りましたときにもその点が一番やかましうございまして、最近には多少改善されつつありますけれども、表面に予算が幾ら取れたと書いてあるが、実情はもつと惡い状況で、これでは到底労働委員会の十分な活躍を全國的に望むということは到底できないような状況にあります。そうしてその問題はひとり委員の待遇及び委員の活動する費用が足りないのみならず委員会の仕事の大部分というものは事務局の局員が優秀であつて、そうして且つこれが忠実に懸命に動くかどうかということで決まると思うくらい事務局というものは極めて重要であります。然るに事務局の予算が非常に不完全で、殊に事務員の待遇が惡いのであります。これは労働者に言わせると、官吏なみに扱うということは言うておるのでありますが、実際はそう行つておりません。これはあとに御質問があれば、現実の数字は持つて参りましたが特に我々の方の幹事の馬淵部長に一緒に來て貰いまして申上げることにいたします。それでそのためにいい人を採ることが事実できないのであります。それで地方の労働委員会などにいたしましても、成るたけ役人でない民間の人で、そうして労働問題に熱意を持つておる人を採ろうとするのですが今では労働組合の方の給與の方が労働委員会の給與よりもいいという現状にあるものですから、もう人は採れないような状況であります。最も惡いことは、役所にこれについて要求しますと何か予算を立てる技術上だということになるのだと思いますが、人を殖やすことだけをやるのであります。そうして定員は殖えるが、定員というのは安月給のただ人間の頭数を殖やすだけのことで、そういうものを幾ら採つて見ても事実上駄目なんであります。実は少人数でも一人々々にもつと待遇をよくするような途が考えられると私共思うのですが、何かそこらに予算技術に不都合があるのではないか。それからやはり予算技術の問題では、予算を立てる問題でなくて、今度施行する問題になりまして、会計法で会計官吏にあらずんば出納を扱えないというあの規定になつておるものですから、労働委員会に折角予算で金を與えてあつても事実財布を握つておるのは会計課なのであります。そうして会計課というものは、役所にお仕事をなさつた方はどなたも御存じだと思いますが、これは頭から金を少し頭刎ねる。金を五分くらい刎ねるのが慣習だと思います。その他又労働委員会のことでいろいろ実際に出そうという段になつて、いかに予算があるからといつて、取りに行つても何とかかんとか言つて呉れない。これは全國労働組合は皆困り切つておることです。そのために先日の連絡協議会では労働委員会の独立性ということを主張し、それから労働委員会の予算のやはり自主性というようなことを全國が要望した事実があるのであります。この点は今日労働委員会の仕事が非常に重要になつて参りましたこの機会に是非何とか一般にお考えを願わなければならんことというふうに考えておる次第であります。
 お尋ねの労働委員会から見た労資の問題という課題には、どうもそぐわないようなお話を申上げたのでありますが、一應このくらいで話を打切りまして、あとはむしろ御質問に讓りまして申上げた方がよろしいかと思いますが……。
#4
○委員長(原虎一君) 只今のお話ではむしろ委員各位から質問をされることを御希望のようです。御遠慮なく御質問願います。
#5
○山田節男君 今末弘博士のおつしやつた通り、労働委員会の過去一年有余に亘る実績から見てのいろいろのお話がありましたが、これは労働組合法も近く訂正しなくちやならんという個所が多々あります。そういうことから考えまして、やはり労働委員会も変えなくちやならんことは我々も考えておるのでありますが、只今の労働委員会というものが非常に弱い。從つて何と言いますか、不正労働慣行の摘発という方面にも、これがどうも我々が予期したほどの十分な実績が挙つておらない。それにはいろいろ事由があるだろうと思いますけれども、只今おつしやつたような委員会の機構を動かすための諸種の障害、例えば委員会の手当が少い、職員の優秀な者が少い、その他現制度の会計法の下に縛られておる、こういうようなことがいろいろあるだろうと思いますが、こういうような、殊に中央労働委員会の過日の連絡協議会でもいろいろ議論になつたということを我々は了承しておるのでありますが、これはやはり労働大臣の任命するものではなくて総理大臣の任命にしてそうしてこれはアメリカ式になりますけれども、やはり一つの飽くまでヴオート式にして行く。これが私は根本的に必要でないかと思うのですが、これに対しまする末弘博士の御経驗からこの構想に対する何かヒントをお與え願うことができましようか。
#6
○証人(末弘嚴太郎君) 申上げます。只今の点は私共も大体そのように考えまして、何か労働委員会をやはり法制化する。今は労働委員会のことは法律にはちよつと簡單に書いて、あとは施行令になつておるのですが、丁度公正取引委員会のような程度にするというならば、日本にも先例があるので、ああいうような程度にするということが考えられます。ただ非常に実際上むつかしい問題といたしまして、中央はそれでよいのですが、地方労働委員会との関係をどうするかということにむつかしい問題が出て参ります。つまり中央は内閣総理大臣が任命されるという形で、そうして地方をそれと連絡のついたものにしようとすれば、中央地方むしろ一本の労働委員会制度というものができるような形のものになりますし、それが一番理想的なものですが、それをやりますと、各府縣廳と出先の労働委員会との関係がうまく参りません。なかなか在來でもいけなかつた。殊に今度の地方自治制になつて來ると地方廳と無関係な役所を地方に作ることは、相当実際上うまく行かない面が出て参ります。それで考え方によつては、同じく法律を作るにしても、地方はやはり各府縣今の通り、今の府縣に属するもののような労働委員会にしてただ両方の関係を法律でどうするとか或いはその点予算の問題などで地方と中央の関係をつけるとか、或いは人事を交流させるような点で何か考えるとか、いろいろな方法は考えられますが中央に関する限りは今のお話の通りで私共もよいと思つておりますが、地方との関係がむつかしい。それで今も外國の例のことをちよつとおつしやいましたが、御承知のアメリカで最近問題になつておるタフトハートレー法、あれでは在來のあそこの國の労働委員会というのは、これは日本でいえば、最初私が今日の話で申方げました組合法の第二條及び第十一條、いわゆる不正労働行爲の審査をやる部分がありますが、これがあの國の労働委員会で、これは在來のいわゆるワグナー法というものとほぼ同じ制度を残しておるのですが、これは大統領が任命した全國一本な役所があるのであります。併し御承知のようにあそこでは聯邦で、各ステートの権限が非常に強いのですから各ステートはステートで又そういう労働委員会を持つておるので、それで中央が地方に多少出店を持つておりますけれども、日本と事情が違うので、州内だけの事件は州内の委員会がやる。それから今度のタフトハートレー法の非常な違いは、在來の分では調整の仕事はこの委員会制でなしに政府がやつておつたのであります。政府に調停斡旋局みたいなものがあつて、役人がやつておつた。ところが、これは日本のようにやはり民間の人を入れた委員会の方がいいということに氣が付かれたらしくて、今度は調停についての委員会にそういう民間の者を入れた委員会を作つた、これは最初の不正労働行爲に対する審査をする部門と全然別になつて独立したものであります。それでいずれも局長及び委員長或いは会長は、大統領がセネートの同意を得て任命する、こういうあの國で一番最高の取扱いをしております。後の調停の方の委員会も、必要があれば全國に出店を出せるということに法律ではしております。併しこれもやはりあの國には、各ステートにそれぞれ調停の仕組が沢山ありますので、結局中央がやる必要があるのは、全國的若しくは二ステート以上に亙つた場合にあるのでありますが、日本の場合には、日本の府縣というものはあの國の州のような歴史を持つておりませんし、あの國の州のような独立性を持つべきでもないように私は考えております。現在は厚生省、GHQでも、何か府縣内の労働爭議は府縣の責任でやるべきものだという思想になつております。ところが現実に我々事件を扱つておりますと、今日はどんな小さな爭議と雖も全國的な意味を持つておる。政治的にのみ解決できる。だから府縣の爭議は府縣内の問題だという思想そのものに誤りがあるのじやないか。そうだとすれば、先程山田さんからおつしやつたような方式で、中央で総理大臣が任命するような形の委員会を作る。そうして地方も全部それの支部のような恰好にするという考え方というものも成立つて行くのだろうと思います。こんなふうに考えております。実際は先程言いましたように、各府縣廳と中央の出先機関との関係はなかなかうまく行かないという難点があるということだけ御承知願いたいと思います。
#7
○山田節男君 今のお答えに関聯してでありますが、アメリカにおきまして二州以上に互る場合に、何といいますか地方事務所、レジョナル・オフィスというものでやつております。これは過日の職業安定法案の審議の際にも私はその必要を述べたのでありますが、要するに労働委員会の仕事はサービスである、サービスが本体であるという建前から考えて見ますと、やはり日本が領土は小さくても、そうして日本の都道府縣というものがアメリカのステートのように独立性がない、こう言いますが、博士もおつしやるように、地方におきまする爭議がやはり全國に影響があるのみならず、單なる爭議の斡旋仲裁、調停ということは賃金問題にも関し、労働時間にも関し、その他労働條件にも関するものが多いのであります。そういう意味から申しまして、どうしても私職業安定法で今度とり得るような中央と都道府縣との中間的な地方的なものができて、そうしてそこに必ず中央から直接いろいろ折衝その他についてのルートができるようにしてそうして各都道府縣の地方事務所管内の情報を漏れなく蒐集して、それを中央に送つて行く。ですから現在の日本の今の考え方によりますと、地方における労働状態、いわゆる爭議の虞れがあるというようなことは、これはなかなか中央では分らない。ですから中央は常にそれを察知しておる或いはいろいろな情報でこれを知つておるというふうなことにするためには、やはり中間的な、一つの地方事務所的なものを持つて、それを中央委員会が又握つておる。そうして中央と都道府縣との、先程おつしやつた現制度上の困難な点はこれは地方事務所と都道府縣との関係において何か調整する途があるのじやないか。こういうように私は存じております。殊にこれから我々が予想される労働不安ということを考えますとこの労働委員会の中央、地方の構成というものはこれは一つ是非速急に我々は考えなくちやいかんと考えておりますが、そういうために中間地方事務所を置きまして、そうして只今末弘先生のおつしやつたような現実における困難な点を除くことはできないのですか。
#8
○証人(末弘嚴太郎君) 我々の仲間にも、今おつしやつたような、地方は府縣にやつて頂いて、全國幾つかの区域に分けて、その地域ごとに中央の出先機関を置いて、それでその連絡を十分図る、こういう考えがいいのじやないかという考えの人もあります。
#9
○天田勝正君 先程來十一條の問題をお話下さいましたが、実際この十一條違反の問題は、誠に困つた問題で、一体これをどうして防遏するか、これが問題であります。確かに違反をしたと我々がはたから見ておつても思えるのに証拠がないのにやたらに檢挙するというわけにも行きませんし、それではどこで証拠とするかということになつて來ると、先程御指摘のように、今日ではまごまごしておるうちに、労働者の方が折れざるを得ないようなことになつてしまいまして、私たちはどうしても一方的に何らかの措置を講じなければならないと実は考えておつた。本日は私、そうしたうまい措置が、例えば外國のこうした立法例があるとか、或いは博士は特に法律の方の專門家なんで、そうした專門的な立場からしてどういうようなことを講じたらいいかというようなことが、若し腹案とでも申しますか、そういうことのお考え付きのことがあれば、一つお伺いして置きたいと思います。
#10
○証人(末弘嚴太郎君) 只今のお話の点は二つ方法があると思います。一つは、アメリカのワグナー法が考えておるように、日本の法律と違つてむしろ罰則を止めるのです。罰で臨むことを止めまして、そうして労働委員会が違反と認めたら、それにすべて原状囘復を命ずるわけです。つまり解雇した者を元へ戻すとか、全部原状囘復を労働委員会が命ずる。併し労働委員会は裁判所でありませんから、憲法上法律的拘束力がありませんから、そこで調節をとるために、労働委員会のその指示に対して不服ならば裁判所へ異議の申立ができるということにして、但し異議の申立は、この委員会の指示の執行の効力を停止しないということにして後に裁判所がいけないということを言えば指示が覆えるが、それまではとにかく労働者を後に戻す。この程度の権限を委員会に與えて、そうしてそれに應じなかつたならば、裁判所に申立てて罰して貰うというようなことで、要するに民事の原状囘復を主とした、こういう方法でやつて行く。これはアメリカのワグナー法的なやり方で行けば今の刑事問題を逃げてしまうのです。刑事問題の厄介になつていない。
 それからもう一つの方法は、私少し乱暴のようですが、御承知のように、イギリスなどの刑事訴訟では、何も檢事というものが間になければ刑事訴訟ができないというのではないので、つまり被害者が原告になつて刑事訴訟が起るというのがむしろイギリスでは根本の建前である。英米の刑事訴訟というのはそういうものです。そうすると十一條の違反のごときはむしろ原告になつた被害労働者、これに弁護士がついて、これが刑事訴訟における原告、檢事の立場にあつて、檢事抜きにして公判に掛けたならばどうだという見解を私共として持つておる。それはなぜかと申しますと、檢事局へ持つて参りますというと、檢事局は自分の成績、昔からの考えである成績を考える。殊に日本の檢事局は世界的に有名なほど成績がよいのであります。成績がよいというのは自分の起訴したものが無罪にならない。というのは檢事がいつまでも事件を握つているということなのです。つまり誰が見ても有罪だということがはつきりする場合でなければ、起訴しないから、結局成績がよいのであります。ところが、それは普通の犯罪の場合には、疑いなくば起訴しないという、軽きは起訴しないという、こういうことです。ところが今の第十一條違反の場合には、とにかく労働委員会で、公開の席上でさんざんやりまして、そうして労働委員会のあの十五人の人間が、これを起訴すべしと決めた事件であります。これを公開されていない檢事局の中で調べて、そうしてそれがうやむやに、これは証拠不十分だということで、不起訴になるということになると、労働者は納得いたしません。公開の席で、十五人もで、これは一應起訴すべきだと言つたものが、檢事局で、公開しないところで、起訴処分をしない場合は、少くない。それで私は檢事局が間に入るということは非常によいようだが、この事件の性質は檢事局が中に入らなくて、むしろ被害者に労働組合あたりが弁護士を附けてそうして事件を公開の席ではつきり言う。このやり方がいいんじやないか。もう一つこの方式がいいと思いますのは、今のままで行くとこうなる虞れがある。檢事がいよいよ起訴いたします。そうしますと、刑事訴訟であるに拘わらずその被害者である労働組合或いは労働者を弁護するのは檢事だけです。職務上檢事は熱心にやつて頂くでしようが、檢事はその性質上弁護士ほど熱心ではあり得ません。然るに被告の方は会社の方でどんな優秀な弁護士でも傭つて、それで被告のために弁護士が一生懸命に弁護する。片方は職務上檢事が主張してやる。こういうことだと非常に無罪になるチヤンスがそこから出る。無罪になるべき者が無罪になつてもいいのですけれども、これはやはり労働組合の建前というものを我我は考えなければならない。であの十一條違反というものが出て來るところを見ておりますと、違反だとか、臭いところが非常に多いのであります。然るに立証が取れない。なかなか証拠が掴めないというのが現実なんです。ですから元來証拠をやかましく言えば無罪になり易い事件であります。それが今のような手続でありますと、尚更無罪の機会が殖える。殊に最近にありました事件で、まだ起訴処分になつておらないのですが、起訴処分になるということがこの間大体内定したようですが山形の仁丹体温計の事件、これは私共結局調べて見ると、この証拠の程度では不起訴より仕様がないと思つている。私は不起訴処分そのものはそれでもいいと思うのだが、私共あれが檢事局の中だけで、結局外には公開されない。在來の刑事訴訟法及び檢事の習慣では不起訴処分のときには発表しない。当人の名誉を守るためだということになつておりますが、発表していないのであります。不起訴のときにはその不起訴の理由を、そこで例えば山形縣の仁丹体温計の事件など仮りに不起訴でいいとしても、なぜ不起訴であるということは、余程親切に檢事局が説明してやらないと組合の人は納得しません。そのことを私共檢事の方に特に注文したのです。この十一條の事件は不起訴の場合には何故不起訴になるかということを極力説明をしてくれないと、労働組合の方が困る。それから山形のあの事件では非常に困ることは、一方労働組合の方は、爭議のときにやはりちよつと乱暴をしておる。併しこれは有名な埼玉縣の上尾事件のような乱暴じやない。穩当な乱暴……というのはありませんが、大して不穩当でない。ところがこの方は、一つは業務妨害、一つは傷害罪、その中の全治二日というような傷は傷害の中に入らんと思うのですが、その全治二日の傷害、それから業務妨害というので、それは一審はすでに有罪で、そうして控訴審が仙臺でやる。そうすると労働組合の方は十一條違反というのは何だかちつとも進行しないで、それで結局不起訴になると、片方は仙臺に行つて二審をやる。一審は有罪であるが二審も有罪になるかならんかということになりますと、労働組合は、よく我々が説明すれば分るでしようが、そんな理窟はなかなか分らないのですから、何となく日本の司法制度に対する不信を持つ、これが私は非常に危險だと思う。そうでなくても警察だの裁判所というものは、今まで日本の労働組合に非常に不信用のものです。で、日本の今後の労働と司法の関係をよくやつて行くためには、裁判所はすべて信用できるということが非常に大事なことだと思います。これに対して私は現在起つている山形の仁丹体温計の事件それものについて、檢事局若しくは裁判所に対していいとか惡いとかいう批評を具体的にここでは申しません。併し組合の者にはそういう誤解が非常に起り得るような扱いに自然になつて來る。それで労働委員会ではこの間協議しましたので最高裁判所の長官にも檢察廳の長官にもお目にかかつて特にお話をしたのですが、すでにそういう労働問題と國民の司法政策という微妙な問題もありますので、在來のような考え方ではいかんと考えるのであります。お答えになりますか、なりませんか、そういうことであります。
#11
○栗山良夫君 先程末弘博士のお言葉の中に、地方における小規模の爭議においても、國の政策に関係する面が多分に包含される状況にあるので、全國的な規模において考えなければならない、こういうことがございましたが、ここで今後の爭議の調停におきましては、ますますその勢いが地方においても中央においても濃くなると思います。そこで労働者側から出しましたところの或る程度理論化されたところの要求というものは、正しいということを確認された場合に、國の政策に相当に同調し得ない部面が沢山出て來るだろう。こういう問題についての労働委員会のお考え、御所信というものを伺いたいのであります。と申しますのは、先程のお言葉にもありましたが、昨年秋の電産の爭議の場合におきましても相当に理論的に正しいと確認されたところの電産の組合の要求に対しまして中央労働委員会もこれを確認せられまして、そうして調停案ができたときに当時の吉田内閣はこれに、國の政策に反するというような考え方から相当な干渉を加えて、そうしてこれが爭議解決に好ましくない影響を與えた。こういうことが事実でございますが、今度の只今起きておりますところの、千八百円の問題にいたしましても、組合側はそれぞれ昨年の経驗に基きまして、現段階においてどうして生きて行くかという理論的な生計費の実体からそれぞれ要求を出しておるわけであります。こういう問題の解決については、ただ生きるということを主体にして考えますならば、恐らくあの生計費はその百%であるか九十%であるかは別といたしまして、相当な正しさを以て確認せられざるを得ないのではないか、こういう工合に考えておりますがそれが現政府の持つております千八百円ベースの線とがつちりぶつかりましてそうして労働委員会は非常にお困りになる点が出て來るのではないかと思います。昨年はあの吉田内閣の干渉に対しまして、労働委員会は実に毅然たる態度をお採り願いまして、そうして当時輿論は労働委員会の正しさを認め、且つその独立性、更には労働委員会の権威をお護り下さいましたことについて相当な敬意を表しておつたのでありますが、今後この問題については非常に困難な問題が起きて來ると思います。この点についてお答えを願いたい。
 それから更に、賃金問題を離れまして、これは極めて重要な問題でありますが、最近の各組合の要求を見て参りますと、いわゆる産業平和を通じて、労働者が生産を復興したいというような考え方から、いわゆる資本主義経済の一つの修正とでも申しまするか、企業の社会化といつたような線に向いまして、相当大きな、純経済要求でないところの企業の運営に対するところの意見を要求をして出しておるのであります。こういうものも企業整備と馘首の関係その他に考えましても、非常に國の政策と大きな繋がりを持つところの高度の政治性を持つた要求が出ておるわけであります。こういうことにつきましては、これは経済闘爭の枠とは相当に隔りがありまして、中央労働委員会で調停せられましても、それが実行されるためには、國会との関係も生じましようし、或いは更に占領政策との関係も生ずることと思いますが、こういうものについてどういうようなお考えを以て今後の調停にお臨みになるかその御所信を伺いたいと思うのであります。
#12
○証人(末弘嚴太郎君) 非常にむずかしいお尋ねでありますが、具体的には結局労働委員会というものが、労働者側、使用者側及び中立の合議制の委員会でありますから、結局どういう結論になりますかは、私はこうしたいと思うておると申しましても、そうならんかも知れませんし、それから私の立場として、今自分はこうしようと思うのだと言つてはいけないのだと思いますので申せません。ただこれだけは申せると思います。去年の電産のときには政府に殆んどいわゆる経済計画というものがなかつたのであります。つまり安本が八月にできたにも拘わらず、今の内閣で示しておるような経済計画というものがないのであります。ですから我々としては、労働組合側からどうしても生活にはこれだけかかるということを要求され、そうして雇主の側もその事実を認めた以上、それに基く賃金を認める。これが日本の全体の政府の経済計画にどういう関係を持つのかということを考えると我々は何ら材料がないわけでありますから、政府はあの当時依然としてインフレの方が経済を復興するのだということを大藏大臣が公言しておつた時代でありますからこういう時代では國の経済復興の全体の計画にいかなる影響を及ぼすかということを考えることのできないような状況でありました。
 これに反して、現在においては、先ず第一に政府が去年から生計費の調査その他可なり信用すべき統計資料を與えて來ております。それに應じて組合側の要求を批判するにしても、我々はもう組合はこう言つておるからといつても、それをそのままに受けません。つまり組合の出しておる生計費調査なるものを批判する材料を一つ持つております。
 それからもう一つ大きいことは、事のよし、惡しに拘わらず政府が千八百円というベースを基礎にした新物價体系というものを作つて來ておるわけであります。それでこれによつては労働者は実際上これでは食えないという実情にあるということを労働者は言つている。その点を我々が目下調べております。そしてどうしてもあれでは無理だということを、我々調べた結果、自信がつけば、その点について政府に具体的な進言をするというようなことになるかも知れません。その前に非常に大事なこととしては、去年の七月以來聯合軍側の指導によつて官吏の給與制度というものが非常に單純化したということは、現在の実情からいつて非常に困ると思いますことを考えるべきじやないかと思います。例えば國有鉄道とか、遞信省の仕事なんというものは、あれは企業官廳というよりは、いわゆる企業なんでありまして、この企業官廳の給與制度が普通の役人の給與制度と同じようなことになつておる。元ならばいろいろな形で手当などをやるような考えを持つておつたのです。例えば元は通勤費など或る程度以上掛かるものには通勤費をやつておつた。そういう特殊のものは去年の七月以來取れちやつた。そうして成るたけ方々の違う給與体系というものをなくなして來ております。それから地方差、地方による差なども非常に單純になつておるのです。一体去年から始めておる、單純化されたるあの給與制度が果して現在のような実情に適するかということも非常な疑問を持ております。更に徹底的にいえば、國鉄でも、全遞でもああいう國営であるというような、そして又今度独立採算制なんという、あれは言葉だけで、本当の独立採算制でない。ただ今までのように赤字が出たからといつてやたらに大藏省から金を貸さんという独立採算制で、本当をいえば、本当の企業と同じで、國家が投資した一つの株式会社みたいで経営される形になつて行けば、そうすればあすこの現業員の給與というものは、官吏の一般給與で縛ることは間違いで、経営の方で、千八百円ペースを作つておるが、能率を挙げたところはそれより余計やつてもいい。その点は比較的民間は官吏の場合ほどひどくなつていない。國有鉄道でもそういう方式の経理であれば行くのであります。官吏なみで、そうして一々國会のお世話にならなければ金が取れない、こういう状況であります。あの五十万とか、六十万の人間を扱つておる運輸大臣は非常にお氣毒で、責任ばかり重くて、実に自由にならない人間を使つて、そうしてやつてる。何か給與制度そのものに……或いは國鉄だの全遞だのの今の経営方法というものでは、今までより良くして行けないのじやないかということも考える。変えれば問題の解決はやさしくなるのじやないか。こういう面があるということを申上げたいと思います。
#13
○竹下豐次君 甚だ漠然たるお尋ねですけれども、労働爭議は沢山お取扱いになつているのでお感じがあるだろうと思つております。大変漠然たるお尋ねで又お答えにお困りになることかと思いますが、現在この頃の状況で、労資双方の主張をどつちの方に無理のある場合が多いとお感じになりますか。
#14
○証人(末弘嚴太郎君) 非常にむつかしい問題であれですが、非常に目立つことは雇主が苦しくなつて來たなということ、去年あたりに較べて、殊に東京あたりの小さい企業になると、苦しくなつて來たなということは非常に目立ちます。ですから組合も少し下手まごつくと共倒れになる虞れがあるから何とかして会社を倒さん程度で妥協して欲しいというような事件が東京都あたりにも殖えて來ました。そのために労働委員会の調停が進んでは丸でそこの工場の経済復興会議みたいなものに変形する場合がときどきあります。銀行の世話までしてやつた実例なんか出て参ります。ですから労働委員会では少くとも中立委員の中あたりに、会社の経理のことなんかに相当詳しい人が一人くらいおりますと、東京とか大阪とか事件が多いところでは非常に役に立つ有様であります。どうも法律家ばかりだの、学校の先生だとか、理窟を言う人の外に、やはり一方には会社の経理なんかに詳しい人とか、いろいろなバラエティーを持つた人が中立委員として選ばれることが非常に必要でありますが、どうも今まで地方では殊に人を得るのが非常に困難なものですからそういう点が考慮されていません。非常に偏つた人を入れるものですから……理想的にいうと、そういう問題は非常に大事な点であります。
#15
○竹下豐次君 それからもう一つお尋ねしたいのですが、私の申しますことは古くなりますけれども、爭議の場合に労働者側の代表者として交渉に來る人は、どういう人が選ばれるかというと、まあ過激な思想を持つたということは当つておるかどうか知りませんが極く急進的であるとか、或いは弁舌の極めて爽やかな人というような人が好んで選ばれていたような傾向があつた時代があつたかと思いますが、近頃はその点は余程よくなつているだろうと思います。中央あたりで問題になるような人はこれは問題ないだろうと思いますが、地方の小さい爭議ではどういう傾向でございますか。
#16
○証人(末弘嚴太郎君) 調停に出て來た場合と、我々が間に入らないで團体交渉をやるときとは余程お行儀が違うらしいので、我々の上の方へ出て來ると余程お行儀がよくなつて出て來ているから、今の尋ねのようなことはちよつと分りませんね。併し去年と今年と較べてみて分ることは、去年より大きな声を出さなくなつたことや、余り沢山來なくなつたこと、大体において眞面目な態度になつて來ました。去年はやたらに沢山來て騒ぐような傾向があつた。一番ひどかつたのは、私最初にぶつかつた一昨年の暮の読賣の正力君を追出した爭議、あれなぞは最後の日に組合員が廊下に來て革命歌を歌うのです。そんなことはやりきれない。そんなことは全くなくなりました。それから出て來る委員もこの頃は大きな声をして役員を呶鳴りつけるようなことは殆んどやりません。そういうことは大分減りました。
#17
○松井道夫君 先程主として刑事関係からいろいろ裁判所に対する御意見がありました。民事の角度からその点はどうでありますか。例えば仮処分が労働爭議に関して使用者側から申請されて行われる。それがどんな場合に行われるのか。それに対する先生の御註文、御意見というものを伺いたい。それから生産管理といつたような形式の爭議これに関聯いたしまして、いつぞや問題になつて横領罪とか何とかいうて処罰されたという新聞記事が見えておりました。生産管理といつた爭議の方式で適法に行われるものもあり得ると私は信じておるのであります。その爭議のルールといいますか、そういつたものを労働関係調整法が適当であるかどうか分りませんが、法律的にルールを決めるという必要がありはしないかと私共存じますが、その点先生の御意見をお伺いしたい。
#18
○証人(末弘嚴太郎君) 民事の問題も非常に重要な問題があると思います。殊に生産管理のことに聯関して或いは雇主は生産管理を予防するために仮処分をやつたり、或いはすでに生産管理をやつたのに対して仮処分を申請して來るような事件があります。これはですね、やはり大正の終り頃の小作爭議に聯関して、地主が仮差押、仮処分を使つたのと同じようなことで、最初は裁判官が慣れないものですから、何でも保証金さえ積めばどんどん仮差押、仮処分を許す、こういうことになるのです。ところが小作爭議にしても、労働爭議にしても、そのものを一体押えられるかどうかということが、殆んど事の勝敗を決するような事柄を、ただ保証金を積んだということだけで仮処分なり仮差押を食つては勝敗を決してしまう。そこで裁判所が実際その仮処分、仮差押をするかどうかについて、爭議の実情を調べてよく考えて処置をするということでなければならないと思う。それで曾ての小作爭議のときには、沢山問題を起した挙句、組合側の抗議若しくは我々民間の輿論というものが反映して、裁判所でも仮差押、仮処分をするに非常に手心をして、やがて或る程度の基準ができて來たりしまして、今度の裁判所の仮処分などでもまだ全國的にいうと余り事件がありませんけれども、非常にまずいと思うものが今見えます。併し或る所ではむしろ裁判所が一應仮処分で押えた上、第三者にその管理を委ねたり、それから或るものは労働組合に管理を委ねる、つまり労働組合は勝手に管理をしてはいかんが、裁判所が押えた上でお前に管理させる、そうすれば收支その他をお前が責任をもつてやられるのだからという例なんかあります。それで今のところで行くと裁判所がよう考えて呉れればいいと思います。様子によつては何らか立法しなければいかん。丁度アメリカあたりでいわゆるインジャンクションというものが非常に問題になつた。つまり一種の仮処分、それと同じような仮処分めいたことが日本で今事実上起るというようなことになると実は立法措置まで行かんといけないのじやないか。それで裁判所は去年吉田内閣が生産管理は違法だということを明言されて以來、刑事の裁判所もそうですが、民事の裁判所も多少やはり勇氣がついたものと見えて、あの以後そういう点は激しくなつた傾向があるのであります。最近も地方的には仮処分、仮差押的なことが多いようであります。それのみならず、延いては今度は暴力で本当に雇主と物を取りつこするというようなのがあります。現にこの間など神奈川では、組合の方で以て押えておるところへ、雇主が暴力團を雇つて來て窓を壊して中から機械を持ち出した。そうしたら労働組合の方から、これを強盗だといつて檢事局に申出たような事件があります。甚だよくない事柄が今のような点についてあります
#19
○天田勝正君 もう一つお伺いしたいのですが、これは法律のことではございませんが、何としても爭議の原因の多くは結局賃銀の問題なんです。ところが賃銀を決めるのには、私は二十年の間労働運動をやつて、実に不思議な点が一つあるのであります。それは今でも言われておりますが、都会におれば生活費が余計にかかるというようなことで余計要求するのが当然であるし田舎で勤めておる者は少なくてもよいんだということは当然だという考えに支配されて、要求する方も要求される方もそういうふうにやつておるだろうと思います。私はちよいちよい議論するのですが、このくらい私の経驗からなればおかしい理窟はないのであります。同じ生活をするということであるならば、むしろ田舎へ行けば行く程実は高くかかるのです。これは卑近な例を挙げて見ても、昔物があつた当時と比較して見ても、東京で刺身を食うのに十錢で済むのが田舎へ行けば同様な刺身を食うのに二円かかる。これはすべての物に共通なもので、ただ一つ例外は「りんご」なら「りんご」の産地に行けば安いが、他の物は東京よりもすべて高い。これは食の方でもそのようであるし、衣のごときも、田舎からわざわざ東京へ出掛て來て買つてもその方が安い。現在でも輸送賃だけ余計かかる。住はどうかということになれば、成る程高い高いというけれどもどうにか割込める隙はある。けれども田舎では借りた場合、都市ほど高くないが、さて借りるまでの見付けるということについての努力というものは、現在でもとても大変なものであります。場所によつては全然ないといつてよいくらいのことで、そこで私が朝鮮におりました時、私の関係しておりました会社では、そうした極地に行けば行くほど給料を特別によくしたわけであります。これでも例えば文化生活……本一册買うにしても京城まで出るか或いは人頼みをしてそれだけ余計かかる。それですら田舎へ行くのを喜ばないというような状態なんですが、労働爭議の調停などを通じまして、そういう賃銀についての今考えられておるのと全く逆な面がございましたら一つお話願いたいと思います。今のは極端な例を挙げたのですが……。
#20
○証人(末弘嚴太郎君) それは御尤もで、地理的区分だけで地方差を簡單に甲地と乙地というようなことで付けておるのは非常に不合理だと考えております。それで現に全國的に労働者をばら撤いておるような所では僻地手当というようなものを相当重要視しておるものがあります。現に國鉄などは現在でも僻地手当を出しております。電産などもそうでありまして、要するに私先程申しましたように、官吏だという故を以て、多少の特殊性を認めながらも、ともかくも汽車を動かしたり、電車を動かしたりしておる現業の人と本省のお役人とを同一扱いにするような賃金制度、ここにどうも根本の欠陥がある。特殊性を認めるといつても考えの根本は一本だから特殊性は大して出て來ない。今おつしやつたように東京は田舎より高かろうといつたようなことで簡單に決まる、これはいけないのじやないかと思います。こういう点があると思います。
#21
○姫井伊介君 ちよつと速記を止めて頂きたいと思います。
#22
○委員長(原虎一君) ちよつと速記を止めて。
#23
○委員長(原虎一君) 速記を始めて……。本日はこの程度で散会いたしたいと思います。
   午後零時二十七分散会
 出席者は左の通り。
   委員長     原  虎一君
   理事
           堀  末治君
           栗山 良夫君
   委員
           天田 勝正君
           山田 節男君
           平野善治郎君
           川上 嘉市君
           竹下 豐次君
           姫井 伊介君
           藤井 丙午君
           松井 道夫君
           岩間 正男君
           紅露 みつ君
  証人
   中央労働委員会
   会長代理    末弘嚴太郎君
ソース: 国立国会図書館
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