くにさくロゴ
1976/05/24 第80回国会 参議院 参議院会議録情報 第080回国会 法務委員会 第9号
姉妹サイト
 
1976/05/24 第80回国会 参議院

参議院会議録情報 第080回国会 法務委員会 第9号

#1
第080回国会 法務委員会 第9号
昭和五十二年五月二十四日(火曜日)
   午前十時二十一分開会
    ―――――――――――――
   委員の異動
 五月二十日
    辞任         補欠選任
     羽生 三七君     安永 英雄君
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         田代富士男君
    理 事
                大島 友治君
                平井 卓志君
                寺田 熊雄君
    委 員
                斎藤 十朗君
                高橋雄之助君
                佐々木静子君
                橋本  敦君
                下村  泰君
   委員以外の議員
       発  議  者  寺本 広作君
   政府委員
       法務政務次官   塩崎  潤君
       法務省人権擁護
       局長       村岡 三郎君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        二見 次夫君
   説明員
       労働省労働基準
       局監督課長    倉橋 義定君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○検察及び裁判の運営等に関する調査
 (職場における人権侵害問題に関する件)
○刑法の一部を改正する法律案(寺本広作君外一
 名発議)
    ―――――――――――――
#2
○委員長(田代富士男君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 検察及び裁判の運営等に関する調査を議題といたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#3
○橋本敦君 法務省に人権擁護ということで、日ごろから人権問題について御尽力を願っておるわけですが、きょう、局長にお越しいただきまして、私は労働者の職場における人権問題ということで、一体人権侵害について法務省としてどのような人権侵害防止の機能が果たし得るだろうかということなども含めて質問をさしていただきたいと思っております。
 まず最初にお伺いしたいのですが、法務省の中で、ともすれば人権擁護の関係の仕事が軽視されているのではないか、予算及び人員、その他の関係。私が人権擁護局へ大阪で参りましても、いろいろお話ししても、職員の方が大変な苦労をなさっているお話は伺いました。一つは人員不足の関係、予算の関係、そして即時に調査機能が果たせないという法的権限が十分に付与されていない問題、そういった苦情をしばしば聞くこともあります。
 こういう観点で、まず最初に法務省の人権擁護というのを、現在の機能が一体どうなっているか、そして現在の機能で十分人権擁護の機能が果たせているというような立場でお考えになっていらっしゃるか、改善するとすればどのような点の改善が必要とお考えになっていらっしゃるか、その点、まず御見解を承らしていただきたいと思います。
#4
○政府委員(村岡三郎君) ただいま仰せのように、人権擁護局傘下には法務局、地方法務局に、人権擁護部、人権擁護課がそれぞれ設けられておりまして、総人員といたしましては、約二百名の定員を持っております。これは人権擁護の仕事を処理していきます上に必ずしも十分とは思えませんで、例年、人員の増員の要求をいたしておるところでございますが、わずかながらでも充実はされておりますけれども、現状は必ずしも十分とは言えない状態でございます。
 それから、権限の点でございますが、これはあくまでも現行法のたてまえは人権侵犯事件の調査、処理等について、あくまでも強制力は認めない。人権侵犯事件の調査をいたしますにつきましても、関係者にいろんな事情を聴取いたしますけれども、これはあくまでも任意の協力を求め、任意の供述を求めるということでございますし、また物的な調査をいたしますについても、捜査機関が持っておりますような、たとえば押収捜索というような権限を持ちませんで、やはり関係者の協力のもとに調査するということでございます。それで、調査の段階で強制力を持たないのみならず、事件の終局といいますか、処理につきましても、これはあくまでもその人権の尊重さるべきゆえんを説得いたしまして、その説得の結果、人権侵犯の状態の排除、それから今後そのような状態が起こらないような予防と、こういう機能を説得によって果たすということになっておりまして、ある種の処分をいたしまして、それを強制する、これに従わない者はたとえば罰則を科するとか、強制的にこちらの処分の効果を実現するというような強制力は認められない、あくまでも説得によって事案の解決を図るということとされているわけでございます。そのために、人権擁護機関の機能というものは、あくまでもこれは啓発であるというふうに言われておるわけでございまして、人権擁護機関としましては、そういう個々の人権侵犯事件をとらえて調査、処理するということのほかに、一般的に自由人権思想の普及高揚のための啓発を図るという機能を持っておりますけれども、そういう一般的な啓発と並んで、先ほど申しました人権侵犯事件の調査処理も、これはそういう人権侵犯事件を契機として、そういう特定の個個の関係者に対して啓発を図る、これを特別啓発と申しておりますが、一般啓発と特別啓発を含めまして、これは人権機関の機能はあくまでも啓発なんだというふうに言われておるのは、先ほど申しましたような現行法のたてまえをもとにしてのことであると考えておるわけでございます。
 まあ、それで果たして目的を達せられるかと、機能を十分発揮し得るかという御質問でございますが、どうしてもそういう説得に応じない、あるいは調査を拒否するという事案が生じますと、現行法のもとではいかんともしがたいというのが遺憾ながら実情でございます。
 しかし、私ども、法律的に見ますと、強制力のないものが何ができるかというふうな意見もございますけれども、実際にこの事務を担当してみますと、まあ、法務局職員の熱心な職務の遂行ということもございますが、事理を根気よく説いて説得を試みるということによって、関係者がそのみずからの非を悟って事案の円満な解決を見るということも、まあ、普通法律家が考えますよりは非常に多いのでございまして、多くの事件がそれによって非常に円満に解決しているということでございます。まあ、強制力でもって押しつけて解決するよりも、かえってその説得による解決の方が事案の根本的な解決になるという面もございまして、こういう強制力を伴わない制度というものもなかなかそれなりの機能を発揮しているのだというふうにも思えるのでございます。
 ただ、これにある種の強制力、まあその処分の結果、処分の効果自体にある種の強制性を持たせるということには、これはちょっと国民の自由の保障という関係から問題があろうかと思います。
 つまり、人権侵犯の事件というのは、あるいは刑事法におきます犯罪のように定型化して法律で決められておるわけではございませんで、非常に概括的といいますか抽象的といいますか、広く基本的人権尊重の精神から好ましくないという状態を一般的に人権侵犯と称しておりますために、そういう事件の処理について行政機関の処分にある種の強制力を持たせるということは、これはちょっと国民の自由の保障という観点から問題があろうかと思うのでございます。
 ただ、私ども考えますには、調査の過程で、場合によってはある種の強制力を持っていればもっと徹底的な調査ができるかなというふうな感じがすることはないのではございません。ただ、これにつきましては、やはり調査の過程といたしましても、いまの国民の自由の保障ということの兼ね合いもございまして、慎重に検討しなければならないところだと思います。現在その点は局内ではございますが、検討しているところでございます。
#5
○橋本敦君 いまおっしゃった機能なり調査権限の問題は後で若干また御意見を伺いますが、最近の統計で見ますと、人権侵犯事件の申し立ては、大体ここ三年ぐらいとってみますと、統計的にはどうなっておりますか。
#6
○政府委員(村岡三郎君) 人権侵犯事件として取り扱っておりますのは、大体年間一万三千件ぐらいでございまして、毎年微増の傾向にあるというふうな状態でございます。
#7
○橋本敦君 減ってはいないということで、一万三千件ということになりますと、いま局長がおっしゃった二百名内外の人員では、それぞれによく調査をし、よく説得をし、啓蒙するということは、これは並み大抵のことじゃない。一件当たりの平均処理日数はどのくらいになっておりますか。平均で結構です。
#8
○政府委員(村岡三郎君) これはちょっと統計上その数字を出しておりませんのでお答えできません。御了承いただきたいと思います。
#9
○橋本敦君 人権侵犯事件というのは、現に人権侵害が行われているという申し立てですから、だから速やかで、かつ迅速で的確な処理が要るという課題があるわけですね。だから、年間一万件を超える事件の申し立てがあって、大体どれくらいの日数で処理されているかということは、これは平均で、事件の性質が違うけれども、大体どれぐらいで処理しているかというのは局長おつかみになっていらっしゃらないと、仕事が現実にどう進んでいるのか、これはわからないのじゃないですか。これは統計はないのですか、おわかりにならないというのは、そういう統計は。
#10
○政府委員(村岡三郎君) 先ほど申しました人権侵犯事件の数というのは、非常に軽微なものから非常に複雑なものまで多種多様のものがございまして、非常に軽微なものでは、相談に対するこちらから指示を与えると、回答をするということで即日片づくものもございます。そういうことで、なかなか平均的、標準的な観察というのはむずかしいのでございますが、一つの目安といたしまして、私どもは人権侵犯事件を一般事件と特別事件というふうに分類しておりまして、特に重要な事件につきましては特別事件といたしましてこれを本省にも報告させるという制度を採用いたしております。その特別事件になりますのが、年間大体三百件から五百件程度ということでございまして、これにはかなりの手数を要するのでございまして、この特別事件の処理日数ということになりますと、大体六カ月前後というところになろうかと思います。
#11
○橋本敦君 いまおっしゃった特別事件というのは、これは言ってみれば重大な人権侵犯の可能性があるということで慎重な調査を遂げるということでおやりになるわけですね。それはやっぱり平均して半年だというのは長過ぎる。現に、人権侵害事件というのは日々刻々起こっているという継続性の問題ですから、この点は何としてももう少し速やかな処理ができる方法について内部でも御検討願い、制度的にも検討する必要があると私は思うのですね。私がこういう問題をここで提起さしていただく趣旨は、まず第一は、国民の側から見れば、人権侵犯事件の申し立てを法務省に行えば速やかに調査をして人権侵害を救済してもらえるという期待感が国民にある。同時に、その期待にこたえてこれはやらなきゃならぬという責務が法務省にある。まあ、そういうことで十分かどうかということで問題提起しているわけですね。
 私は、きょうはワシントン靴店の事件を例にとりながらその問題を指摘をしたいと思うのですが、ワシントン靴店というのは、有名なくつ屋さんですから御存じかと思いますが、東京では銀座、大阪では心斎橋という目抜き通りにりっぱな大きなお店があります。ここで労働組合ができて以来労使紛争が続きまして、単なる労使間の紛争という以上に、人権問題にまで発展する大きな問題に発展したわけですね。労使紛争ということになりますと、たとえば組合事務所を経営者側が実力で奪い取った、大阪の地方裁判所が仮処分で組合に組合事務所の占有をこれを保障したというような問題もありまして、労使紛争が激化をしていることは間違いないのですが、その中で労働者個人に対する会社側の暴行とか侮辱とかいうことがずうっと続いたという大きな事件がありました。まさに今日の民主的な憲法体制下でこんな職場があっていいだろうかという、職場の人権問題として東京でも大阪でも取り上げられてきたわけです。で、この問題について大阪の法務局に人権擁護の観点から、こういう不な法暴力を即時停止すること及び侮辱的な言辞、職場における村八分的な行為をやめるようにという申し立てをしたのですが、そういう申し立てが昨年あって、その処理がどうなっているか、局長報告受けていらっしゃいますか。
#12
○政府委員(村岡三郎君) この事案につきましては、昨年とことしと二回にわたって人権侵犯事件としての救済の申し立てがなされておりますが、……
#13
○橋本敦君 昨年の分を説明してください。
#14
○政府委員(村岡三郎君) ただいま委員の御指摘の昨年の分は、こちらが正式に人権侵害救済申し立て書を受理いたしましたのは五十一年の六月二十六日になっております。その後調査を遂げました結果、本年の一月二十日に説示ということで処理を終えております。その内容につきましては、これは人権侵犯として申し立てのありました事実はかなり多岐にわたりますが、この中で、暴行傷害等につきましては、これは刑事事件として告訴をなされている。刑事事件としてもう処理されているということも勘案しまして事情を聞くにとどめまして、私どもの人権擁護機関としてその固有の守備領域と申しますか、刑事事件に至らない人権侵犯、人権紛争という点を主眼にとらえまして、具体的にはこれは何か組合事務所の明け渡しに発して起きた紛争であるというふうに了解しておりますが、裁判所の仮処分で組合事務所の占有を引き続き組合に認めなければならないというのを、いろんな形で会社側から妨害やいやがらせがあったということで、その例といたしましては、組合事務所の入り口付近であるとか、その事務所に通じる廊下などに専用のテレビカメラを設置しまして、その組合事務所への出入りの状況を会社側が監視しておる、あるいは録音をしたり写真を撮ったりするというようなことがあり、またいろんないやがらせ、それに関連したいやがらせがあったという事実が認められたのでございまして、この点につきまして法務局といたしましては、会社の幹部に対しまして、そういうことは人権擁護の観点から許されないことであると、著しく妥当性を欠く行為であるといたしまして、中止を勧めました結果、そういうテレビカメラで撮影する等の行為はやめるに至って、また組合側が何か上部団体の役員を派遣していたのを会社側が非常に異議を持っていたということでございますが、組合側でもそれはやめるということで、一応平静さを取り戻すに至ったというふうに法務局の調査では認定いたしまして、事件は一応その範囲では落着するに至ったということで、この人権侵犯事件の処理は一応説示による終結ということにしております。これに対して、また本年申し立てがありましたことは御指摘のとおりでございます。
#15
○橋本敦君 いまの説示というのは、だれがだれに対して具体的に文書かもしくは口頭かどういう説示が行われたのか、ちょっと明確にしていただけますか。
#16
○政府委員(村岡三郎君) これは、大阪法務局の人権擁護部の所属の職員が、ワシントン靴店の心斎橋店の店長であります出嶋準雄ほかの会社幹部に対して説示したということでございます。
#17
○橋本敦君 文書ですか、口頭ですか。
#18
○政府委員(村岡三郎君) 口頭で説示したということでございます。
#19
○橋本敦君 そういう場合に文書で説示をするということも行われた例がありますか。文書で説示という例はありませんか。
#20
○政府委員(村岡三郎君) 文書で説示することもございます。
#21
○橋本敦君 この場合に、文書を会社あてに交付をして説示するというようになさらなかった理由は、どういうところにありますか。
#22
○政府委員(村岡三郎君) これは当該管轄の大阪法務局長の判断で終局をしたわけでございますが、従来からの処理基準では比較的重いものに対して文書説示をすると、一般には説示は口頭で行うということにしておりますので、円満な解決を一応見たという認識のもとに、そういう重い文書説示という処分をとる必要はないという判断のもとで、そういう処分にしたのではないかと思います。
#23
○橋本敦君 その判断が、私は実は本当に人権侵犯を職場からなくすという観点にもっと立っておれば、文書で説示をし、厳重にやるということをやるべきであったということになると思うのですよ。
 その証拠に、その後このワシントン靴店において人権侵犯事件が絶えたかというと、その説示が終わった直後からまたもや新たな激化を始めたのです。これはまさにそういう不法者が、法務省が行う人権侵害取り扱いの状況を甘く見て、口頭で説示をされたという程度で終わったということから、新たな攻撃をまた始めたということに私は受け取りかねないわけですね。ここにやっぱり法務省として人権侵犯事件をもっと重視をして、根絶をするという気概でもって現場の局長が判断をして処理をしなければ過ちを犯すということになるということをまず指摘しておきたいのです。
 その、せっかく説示をなされたということですが、個々の労働者にいろんな暴行、脅迫に類する行為が激化をした中で、その資料にも御存じと思いますが、大阪地方裁判所は五十一年五月三十一日に異例の仮処分決定を出しているのです。その主文はどういう主文かと言いますと、「被申請会社は、従業員又は第三者をして申請人らに対し有形力の行使をしてはならない。」――御存じですね。まさに有形力の行使というのは、脅迫、暴行等ですね。これはまさに刑法上の犯罪にまで至る可能性がある不法な暴力行為に類する行使をしてはならぬということです。これはまさに裁判所が労働者それぞれ一人一人の人権を被保全権利として、その権利があることを認めて妨害排除の仮処分をやっておるわけですね。異例の仮処分まで出ているのですよ。裁判所がこういう異例の仮処分を出すということは、これは私も長い労働事件関係の弁護士をやってた経験がありますけれども、異例です。まさに裁判所は人格権を、人権を尊重してこういう仮処分を出した。そういう仮処分まで出されている事案で、法務省に人権擁護の申し立てがなされているその結末が、いま局長がおっしゃったように会社側がテレビカメラでの撮影その他、人権侵犯行為をやめるからということだけで円満に解決したと、こう考えて単なる口頭説示にとどめられた結果一体どうなったか、こうなるわけですね。私はこのワシントン靴店にも行って調査をしてまいりましたが、いま当面二人の労働者が会社側の心斎橋支店長あるいは店長代理その他の者から数々の不法な暴行を受けています。しかも、私はこの実情を本人からつぶさに聞き、会社にも調査に行ったのですけれども、この実情というのは、私はこれはいま局長がおっしゃった人権問題について二つの問題点があるという観点で指摘をしたい。一つは職場で加えられた暴行ですね、傷害。これについて、これは本人が警察へ告訴しているので、それは告訴事件として扱って、人権擁護局の方ではその問題について特段の説示配慮をするということはしないということをおっしゃいました。果たしてそれでいいかどうか。まさにこの一月の説示が行われて以後、岩崎君という労働者、そしてもう一人の芝尾君という労働者に対して不法な暴行が加えられて、ここに診断書がありますけれども、七日間の加療、あるいはもっとひどいのは鎖骨の擦過創だけじゃなくて関節炎、これを起こすようなひどい暴行まで加えられている。引きずり倒す、けり上げる、いろいろなことがやられている。こういう暴行事件というのは、これは刑法上の犯罪になる疑いがあると同時に、公然と多数の従業員がいるそういうところで加えられる暴行というのは、文字どおりこれは人格権に対する不法な侵害、そのこと自体人権侵害という観点でなぜとらえないのか、これはいかがですか。文字どおり人権侵害事件ではありませんか。いかがですか、法務省はこういう暴行は警察まかせで人権問題とはお考えになりませんか。
#24
○政府委員(村岡三郎君) そのような暴行傷害なり、極端な脅迫行為等が刑事犯罪になると同時に人権侵犯の最たるものであるということは仰せのとおりでございまして、私ども人権擁護機関として、そのような事態に対して重大な関心を持つことは当然のことでございます。ただ本件の場合、それらの行為に対しましては、警察に対して告訴がなされておるということでございまして、その告訴に基づく事件の処理が行われているということでございまして、そのように刑事事件としてすでに処理が行われておりますときに、人権擁護機関としてどのように対処すべきかという問題、私どもは常に抱えている問題でございますが、先ほども一般論として申しましたように、人権擁護機関としては格別の強制権を持たない機関でございまして、捜査、処分について強力な強制権を持っております犯罪の捜査機関が、すでにこの問題に着手しておりますときに、あえて人権擁護機関がさらに競合的に調査をするということは必ずしも適切でない場合がございます。一応捜査機関の捜査の成り行きを見守るという方針をとるのが通常の場合でございます。ただ、常にそうしているというわけではございませんで、補充的にと申しますか、人権擁護の観点から同じ事実について調査するということは事例としてはございます。ただ本件の場合には、その暴行、脅迫の事実を積極的に人権擁護機関が認定して、それに対して格別の処理をするということはしておりません。これは犯罪捜査機関の捜査の結果を待つということであったと思うわけでございます。
#25
○橋本敦君 いま局長がおっしゃったように、暴力の行使というのは、その相手方に対する文字どおり人権侵害そのものだという考え方は局長がおっしゃったとおり、これは当然ですよね。ただ告訴というのは、それが刑事犯罪になるかならないか、あなたも法律の専門家でいらっしゃるから多、くは申しませんが、諸般の事情を勘案をして起訴するかしないか、不起訴処分ということもあって、捜査というのは過去の事件に対する取り扱いなんですよ。ところが私が取り上げるのはワシントン靴店ではほとんど連日のごとくに軽微な暴行が継続的に行われているという状態があるのですよ。告訴というのはその中で重大な一部を取り上げて告訴するということに過ぎないのですよ。そういう事件がいまおっしゃった説示の中で、暴行事件は別だという扱いをなさった甘さの中で、説示が行われたことしの一月に一体どれだけ激化をしているかということに耐えかねて、この二人の労働者はことしの五月十二日付で大阪法務局の人権擁護部に対して申し立て書をいたしました。これは、局長お手元にごらんのとおりですね。これは読んでいただきますと、中わかりますように診断書もつけておりますが、ほとんど連日のようにけり上げるとか、羽交い締めにして突くとか、あるいは顔をなでるようにして殴るとか、あるいはひどい場合にはくつを修理する包丁を顔の近くに突きつけるとか、いろんなことを人がこもごもかわってこの二人に対していやがらせをやっているわけですね。これはまさに継続的暴力行為の、軽微な暴力行為の常態化という問題は職場の人権侵犯事件の重大な要素ですよ。これも告訴しましたよ、余りにひどいから。この場合でも法務省の人権擁護局としては、そういう暴力行為の継続的な行使は人権問題そのものだという観点に立って犯罪の成否とは別に調査を遂げ、それが人権侵害の本質を持っているという、おっしゃるとおりの認定ができれば、厳重な注意をするという方向で調査をすべきではありませんか。これまた告訴事件に任すということで、これはそのままになされてしまうということであれば、これは人権擁護という観点で大きな抜け穴ができることになりませんか。いかがですか。
#26
○政府委員(村岡三郎君) 仰せのように今月十二日に芝尾武利、岩崎四郎の二人の方からワシントン靴店の心斎橋店長出嶋準雄君ほか十四名を相手方とする人権侵犯救済申立書が大阪法務局に提出されましたので、同法務局ではこれに基づきまして、まず被害者側から事情を聞くということにいたしました。同日、被害者芝尾武利から事情を聴取いたしました。さらにもう一人の申し立て人であります岩崎四郎からも近日中に事情を聴取をする予定でございます。
 先ほど御指摘のように、同じ日にこの件につきましても刑事事件として告訴がなされたというふうに伺っておりますけれども、人権擁護機関としては、これはやはり人権擁護の観点から人権侵犯事件として調査し適切に処理してまいりたいと考えているところでございます。
#27
○橋本敦君 ぜひ、昨年の過ちを犯さないように、人権擁護問題という観点を厳重に踏まえて、いまおっしゃったように処理していただきたい。
 このワシントン靴店における人権侵犯事件は、そういう継続的、常態的な暴力行使だけじゃありません。暴力を伴わない場合でも、東京でも大阪のお店でも、積極的な組合活動家あるいは共産党員と目されている人に対してどういうことが公然と言われているか。たとえば、おまえらのアカは会社をつぶすやろうだとか、編みがさかぶって赤い着物を着て女子トイレの掃除をしろとか、それがおまえによく似合うのだとか、おまえはばかだ、精神異常者だ、精神病院に入れとか、あるいは、おまえみたいなやつは荷物をまとめてさっさと田舎へ帰れ、おまえの顔は指名手配の写真によく似てそっくりの顔だ、公衆の面前で、たくさんの人たちがいる真昼の職場で、こういうことを職制が申し向けるというそのこと自体、私はこれは重大な人権侵害の疑いがある行為だと思いますが、局長の御見解いかがですか。公然たる侮辱ですね、これは。
#28
○政府委員(村岡三郎君) いま御指摘のような事実があるといたしますと、これは正常なる労使関係というものを全く理解していない、非常に労働者の労働基本権というものに認識を欠いた、ちょっと時代離れのした事実ではないかというふうに感じます。
#29
○橋本敦君 労使関係上正常でないということはおっしゃるとおりですが、それ以上に私は公然たる侮辱行為であり、名誉棄損行為であり、人権侵害行為だと思いますよ。たとえば申し立て書にも書いてありますが、おまえは赤虫かゴキブリか、こういうように聞かれる。これはいかがですか。侮辱じゃありませんか。こういう言動は正常な労使関係を逸脱しているだけじゃなくて、個々の労働者に対する人権侵害行為だと私は思うのですが、局長の御見解はいかがですか。
#30
○政府委員(村岡三郎君) いま御指摘のありましたような行為が刑法上の侮辱に当たるかどうかということは、ちょっと所管でございませんので、そういう観点からのお答えはできませんけれども、人権擁護の観点から非常に望ましくない行為だと思います。
#31
○橋本敦君 なぜこういうことがこの職場で行われるかという実態を究明してまいりますと、一つは会社のいやがる労働組合をしっかり活動しようという活動家であるということ、あるいはこの岩崎君や芝尾君が共産党の支持者もしくは共産主義者であると会社が認定しているという問題にもぶつかってくるのですね。こうなりますと、明らかに思想差別です。こういう思想差別は人権侵害問題ではありませんか。いかがですか。思想差別自体は。
#32
○政府委員(村岡三郎君) 労働者の思想、信条によって労働条件その他の雇用関係において差別をすることはこれは人権侵害になる差別行為であると思います。
#33
○橋本敦君 だから、そういう点の本質も踏まえれば、人権侵害となる可能性のある思想差別だとおっしゃったとおりですから、この点の調査も遂げていただかねばなりません。
 きょうは労働省にもわざわざ御多忙の中来ていただいておりますが、こういう思想差別、人権侵害と目されるような職場での憲法じゅうりんの事実が、労使間で名だたる大企業でも行われることもあるのですけれども、いま、あちらこちらで問題になっている。日立のガラスのおり事件というのは新聞でも書きましたが、私はワシントン靴店というところで、労使関係という関係から見ましても、労働基準法三条がうたっている労働者を思想、信条によって差別してはならぬということが、これが犯されているように思うのですね。こういう憲法無視、労働基準法無視の差別的な労使関係が激化をするということに対して、労働省は何らかの指導なり、これをなくして近代的な労使関係、民主的な労使関係ができるような配慮をするような指導なり方法なりはありませんか。
#34
○説明員(倉橋義定君) 私、具体的なワシントン靴店の事案につきましては現在承知してございませんが、先生からお話のありましたような状態におきまして、職場におきまして信条のためにいろいろな取り扱い上の差別があるということは、個別の労働関係から見ましても好ましいことではございません。労働基準法では労働条件につきましての差別につきまして禁止いたしておるところでございますから、もちろん労働条件につきましての差別がありました場合につきましては、監督機関といたしましてもそれの是正につきまして強く行政指導ないしは監督をいたしてまいります。それ以外の問題につきましては労使関係の安定と申しますか、良識ある労使関係の成立を期待いたしまして、まあ所管ではございませんが、たとえば労政事務所等におきまして所定の指導等をしてまいることになっております。
#35
○橋本敦君 いまのお話でわかりましたが、このワシントン靴店における労使関係の実態がいかにいまの憲法なり労働組合法なり労働基準法の実態からかけ離れているか。東京、大阪にも店がありますし、いろいろな事情については、いまあなたがおっしゃった労政事務所を通じても指導を強めるというようにしていただきたいということを希望して労働省関係はこれで質問を終わります。わざわざ御来席ありがとうございました。
 そこで人権擁護局長にお伺いをしたいのですが、実際調査をどんなふうに早く遂げるかという問題ですね。これは申し立て人二人を早く呼んでお調べいただくということに着手していただいているということはわかりました。問題は相手方をどう調査するかなんです。私は大阪で人権擁護局へ参りましていろいろ局長とも話し合ったのです。検察庁が任意の捜査の場合に呼び出し状を出しますね、参考人に、あるいは被害者に、あるいは加害者に出します、任意捜査。ああいう呼び出し状を出して、公然と人権擁護局に呼んで、そこで事情を聞くということをやるのか、やらないのか。私が聞きますと、そういう手続は余りやらないで、そして相手方が仕事が終わったころに相手方のおうちへ行って、帰ってきたところを話を聞かせてくださいということで、さんざん苦労をして職員は調査をやっておられるということで、それじゃ調査する方も大変だし、調査の権威もない。これじゃ本当のことを調査でつかみ出すこともむずかしい、私はこう思ったのです。こういう関係人の調査というのは役所に来てもらって事情を聞くと、呼び出し状をきちっと出すという手続でやったらいかがですか。
#36
○政府委員(村岡三郎君) ただいまの人権擁護機関の取り扱いといたしましては、関係人から事情を聴取しますときは法務局に出頭を求めまして、法務局で事情を聴取するというのがあくまでも原則でございますが、この場合に文書でもって呼び出しをするというのを原則的な方法としております。ただ、なかなかその協力が得られない。先ほど申しました任意調査ということと関連があるわけでございますが、警察、検察庁から呼び出された場合と必ずしも同じに受け取ってもらえないことがございまして協力が得られない。協力が得られなければ調査を打ち切るというわけには法務局としてはまいりませんので、何とか協力を得るために、先ほどちょっとお話しのような勤務時間外にこちらから赴いて事情を聞くというようなこともやむを得ない例外的な方法としてはとっておるような次第でございます。
#37
○橋本敦君 わかりました。だから、したがってその原則の立場に立って本件申し立てについても、被申し立て人である関係者は文書で法務局に呼び出して調査をするということは速やかにやっていただくと、これは間違いないですね、手続として。
#38
○政府委員(村岡三郎君) 先ほど申しましたように、一応被害者側から被害の状況を聴取いたしました上で加害者側の事情聴取をする予定でございます。
#39
○橋本敦君 現場で立入調査という必要もしばしば私は生ずる場合が多いと思いますね。そういう場合に、この現場に行きまして、そして現場で事情を聞きながら、そして現場で加害者も被害者も調査するというような調査方法、立入調査、これはおやりになった経験がありますか、ありませんか。
#40
○政府委員(村岡三郎君) 立入調査というのに当たるかどうかは別といたしまして、法務局職員が現場に赴きまして、そこにおられる関係者の方々から事情を聞くということはやっております。
#41
○橋本敦君 本件の場合でも、私はそういう現場に臨んでの調査ということも併用する必要があると思う。たくさん訴えられていますから、その場所、状況等も調査なさる必要がある。これは現場へ行ってそういう調査もあわせて行うという御決意はおありでしょうか。
#42
○政府委員(村岡三郎君) 本件につきまして、もしそういう調査が必要適切であるということになりますれば、やることになると思います。
#43
○橋本敦君 さきの申し立てが全く効果がなかったということで、引き続きワシントン靴店における人権侵害を取り上げて私は法務局の人権擁護の仕事を一層進めていただくという観点でお願いをし、質問をしているわけですが、いま言ったような調査をおやりになる上で必要なのは、私は人員の問題と、それから法務省の人権擁護のための調査が、これが公的にもっと権威を持ったものとして国民の前にどういうように反映させることが可能であるかという問題ですね。いま局長もおっしゃったように、呼び出し状は出すけれども、検察庁の呼び出し状と違って軽くあしらわれて来てもらえないことが多いという場合があるという実例があるわけですね。これは私は、この調査というのは、調査自体が人権侵害起こしちゃいけませんから慎重におやりになるということは、これは大事ですけれども、法務省の人権擁護調査機能が国民の前に信頼と権威を持ち得ないというのは、今日までの果たしてきた役割りが十分でなかったという、そういうところに一つの大きな原因がありはせぬかと私は考えておるのです。過去を振り返ってみて、もっともっと人権擁護調査を充実させ、機能を発揮させ、国民の信頼にこたえるということで、予算その他の措置も含めて抜本的に法務省として前向きに御検討なさる御決意があるかどうか、最後にこれを伺って終わりたいと思います。
#44
○政府委員(塩崎潤君) 橋本先生の御質問、大変重要な意味を含んでいるように思うわけでございます。刑事事件によらないで人権侵犯の事実をどのように救済していくか、本当に根本的な問題を御提供なされているように思うのでございます。ロッキード事件でも御承知のように刑事責任の方は簡単でございましたが、道義的、政治的責任の問題が大変むずかしかったように、この人権の侵害の事実はなお私はむずかしい問題だと思うのでございます。で、私は過去の歴史をよく知りませんけれども、人権擁護に関して法律があるのは人権擁護委員法だけだと思うのでございます。これが昭和二十四年にできましたのでございますが、この法律の趣旨を私なりに読んでみますと、どうもこの人権擁護の問題に関しては公務員に直接よらない、つまり行政権力にいきなりよらないで、素人と申しますか、レーマンコントロールによってアメリカ式にひとつ救済していこうというような立法理由ではないかと想像いたします。したがいまして、おっしゃったように隔靴掻痒の感があり、さらにまた公務員、法務省の人権擁護局の人たちにどの程度の権限を与えるかというような問題についてはこれからひとつ研究していただく、国会でよほどのこれは議論をしていただいて、私はいま生成過程にありますところの人権問題、これはもう非常に重要な問題になってきたと思うのでございます。そしてまたプライバシーの侵害などというものがもう各方面でこんなに広く行われてまいりますと、いまの問題をよほどひとつ議論をしていただいて、やはり法治国家でございますから、新しい法律でもひとつつくっていただいて、活動ができるようにしていただくと。さらにまた、予算等につきましては、法務省も力を入れてやってまいりたいと、こんなふうに考えておる次第でございます。
#45
○橋本敦君 いまの政務次官のお話はよくわかりました。
 それじゃ時間が参りましたので、局長に重ねてお願いいたしますが、まさに労働者が安全に、平和に、安んじて仕事に従事できるように、さっき労働省も指導ということをおっしゃいましたが、この申し立てについては、ワシントン靴店の人権侵犯事件について断固たる調査をお進めいただくということを重ねてお願いして、きょうの質問を終わります。どうもありがとうございました。
#46
○委員長(田代富士男君) 本日の調査はこの程度にとどめます。
    ―――――――――――――
#47
○委員長(田代富士男君) 刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 発議者寺本広作君から趣旨説明を聴取いたします。寺本広作君。
#48
○委員以外の議員(寺本広作君) ただいま議題となりました刑法の一部を改正する法律案についてその提案理由を申し上げます。
 最高裁判所は昭和四十八年四月に、違憲立法審査権の初めての発動として、刑法第二百条について違憲の判決を下しました。違憲立法審査の二度日の対象となった薬事法は判決後一カ月余りで改正されましたが、刑法第二百条は判決以来四年有余を経過した現在でも、なおそのままに放置されています。このような事態は、単に司法軽視の風潮を生むだけでなく、守られない条文がそのまま刑法の中に存在することは法治国としての矛盾であると思います。
 刑法改正の議案は、政府から提案されることが望ましいとされていますが、最高裁判所判決の趣旨が、それ以前に発表された改正刑法草案中の尊属殺重罰規定の取り扱いと異なるものであるところから、政府としては、その提案に相当苦心してこられたようであります。私どもも刑法のような基本的法典は、議員立法で改正すべきではないという意見には傾聴すべきものがあると思いますが、今度のような場合には、議員立法もまたやむを得ないところであると思います。行政優位の立場をとっていた旧憲法下でも、大正デモクラシーのころには、議員立法によって刑法改正が行われた先例があるそうであります。国会が唯一の立法機関とされておる日本国憲法のもとで、刑法改正が議員立法によって行われることがあっても許容さるべきことではないかと思います。
 最高裁判所の違憲判決に伴う刑法改正に当たって、判決理由の少数意見をとるか、または多数意見をとるか、それは立法者の自由であるという主張があります。その主張は間違ってはいないと思いますが、少数意見を法律化して世の中を急速に変えていこうとするのは革新的な立場であり、多数意見を法律化して世の中を徐々に改めていこうとするのは民主主義の立場であると思います。少数意見は、尊属に関する加重規定の存在そのものが、法のもとの平等に反するというのでありますから、その立場に立つ人々は、刑法第二百条だけでなく、尊属に関する刑法の一切の規定を削除すべしと主張されるのであります。私どもは、尊属殺加重規定の存在そのものは違憲ではなく、法定刑を死刑または無期懲役という極端に重いものに限定し、どんな情状があっても執行猶予にすることができないようになっていることが違憲であるという多数意見に賛成する立場に立つものでありますから、刑法第二百条を修正して存置するだけでなく、合理的根拠に基づく差別的取り扱いの域を出ない他の尊属規定は、これをそのまま存置すべしと主張するものであります。
 最高裁判所の判決理由では、社会生活上の基本的道義の維持は刑法上の保護に値するといっていますが、刑法上の保護とは条文を残すことと、裁判上これを適用することにほかならぬと思います。現存する条文を削除すれば反対解釈が生まれるだけでなく、裁判上これを適用すべき根拠を失うことになるのであります。条文を削除してもなお多数意見を生かすことができるという説明は全くの詭弁であります。
 多数の学者を包容する法制審議会と最高裁判所の意見が異なるときは、立法者は法制審議会の意見を尊重すべしとの主張があります。しかしながら、法制審議会がいかに著名な学者を包容しているにしても、結局は行政部内の一諮問機関にすぎないのであります。最高裁判所判事は国民審査によって国民に対して責任を負い、憲法によって違憲立法審査権を与えられている存在であります。両者の意見が対立矛盾するとき、立法者として後者の意見を尊重すべきは当然の理であると思います。
 さて、刑法第二百条を修正存置するとして、法定刑の下限をいかに定めるかということでありますが、最高裁判所の判決は、情状最も憫諒すべき事件について二年半の刑を科して執行猶予としております。したがって下限を五年としてもよいわけでありますが、同時に出された他の未遂事件について二年の科刑を行い執行猶予とした判例がありますので、私どもはその軽い判例をとって下限を四年といたしました。殺人における尊属と一般人の違いがわずかに一年とは少な過ぎるとの議論もありましたが、傷害致死における下限一年の違いや、遺棄、逮捕監禁における下限三カ月の違いなどを考慮に入れると、この程度で尊属殺加重規程の趣旨は十分達成されるものと思います。
 なお、法案作成の過程で論議された若干の問題についてこの際触れておきたいと思います。
 その一つは、不敬罪が削除された結果、天皇に対する罪すら刑法第百九十九条によって処理されるのに、尊属に対する特別の規定を残すのは矛盾であるという意見であります。最高裁判所の判決は、この点に関し、第一回国会において憲法の理念に適合するよう刑法の一部が改正された際にも、刑法第二百条がその改正から除外された事実を指摘しております。私どもは初期占領政策の嵐に耐えて生き残ってきたこの条文を、いまになって削除しなければならぬ理由の理解に苦しむものであります。法務省の資料によれば、フランス、イタリア、ルーマニア、ブルガリアなど天皇も皇帝もいない多くの国々でいまなお、尊属殺加重規定の刑法を持っていることが明かにされております。ここにその事実を指摘しておきたいと思います。
 次に、尊属のみならず子殺し事件が頻発しつつある最近の世相にかんがみ、卑属、配偶者等の殺害に対する規定をあわせて立法すべしという意見であります。これについても最高裁判所判決は近親殺という加重要件を持つ立法例があることを指摘しています。これらの問題はいずれも、急を要する違憲立法判決の後始末とは切り離して、来るべき刑法全面改正の一環としてその際に改めて検討さるべき問題であると私どもは考えます。
 今回の国会には、第七十一回国会に提案された改正案と同一の議案が、議員発議によって衆議院に提出されています。刑法第二百五条第二項につきその後四回も合憲の判決が出されているにもかかわらず、これをあわせて削除するというのはいかにも客観情勢を無視した提案であると思われます。
 以上が、この法律案を提出する理由であります。私共は議員各位が十分両案の内容を御検討の上、速やかに本案に御賛成くださるようお願いを申し上げます。
#49
○委員長(田代富士男君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。
 本案に対する質疑は後日に譲ることといたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午前十一時二十一分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
姉妹サイト