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1975/05/07 第77回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第077回国会 法務委員会 第7号
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1975/05/07 第77回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第077回国会 法務委員会 第7号

#1
第077回国会 法務委員会 第7号
昭和五十一年五月七日(金曜日)
   午前十時十五分開議
 出席委員
   委員長 大竹 太郎君
   理事 小島 徹三君 理事 小平 久雄君
   理事 田中伊三次君 理事 田中  覚君
   理事 保岡 興治君 理事 稲葉 誠一君
   理事 諫山  博君
      早川  崇君    福永 健司君
      松永  光君    中澤 茂一君
      山本 幸一君    青柳 盛雄君
      沖本 泰幸君    小沢 貞孝君
 出席政府委員
        法務政務次官  中山 利生君
        法務大臣官房長 藤島  昭君
 委員外の出席者
        法務大臣官房審
        議官      鈴木 義男君
        法務委員会調査
        室長      家弓 吉己君
    ―――――――――――――
委員の異動
五月七日
 辞任         補欠選任
  佐々木良作君     小沢 貞孝君
同日
 辞任         補欠選任
  小沢 貞孝君     佐々木良作君
    ―――――――――――――
四月三十日
 民法等の一部を改正する法律案の修正に関する
 請願(沖本泰幸君紹介)(第三九七二号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出
 第二九号)
     ――――◇―――――
#2
○大竹委員長 これより会議を開きます。
 刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。保岡興治君。
#3
○保岡委員 初めに、本案の提出の趣旨、並びにこれが今国会に提出されるに至った経緯について御説明願いたいと思います。
#4
○鈴木説明員 最初に、この法案の提案の趣旨を簡単に申し上げたいと思います。
 刑事事件におきまして、起訴されて無罪になった被告人に対しましては、現在の制度のもとでも、たとえば刑事補償法という法律がございまして、身柄を拘束されて捜査、裁判を受けた上、無罪の判決を受けたという場合には、その身柄を拘束されていた期間に応じて補償が行われることになっておりますし、また、国家賠償法によりますと、検察官の故意あるいは過失によって不当に起訴をされた者が最終的に無罪になったという場合には、不当な起訴によって生じた損害についての賠償の請求をすることができるようになっておるわけでございます。しかし、被告人として無罪になった人たちの救済という面で、これらだけでは必ずしも十分ではないというふうに考えられる面がございますので、費用の補償という制度を新たに設けようとするわけでございます。
 起訴された被告人は、刑事訴訟法によりまして裁判所に出頭しなければならないわけでございまして、出頭いたしますためには、旅費等を要するわけでございますし、また効果的な防御をいたしますためには、弁護士さんにお願いして適切な防御活動をする必要があるわけでございますが、この弁護士さんに対してはもちろん報酬を支払わなければいけない、こういうことになるわけでございまして、もし被告人が無罪になったという場合には、その被告人自身が出頭するのに要した費用、あるいは弁護人に支払った報酬等について相当な額の補償をするということが公平の精神に合致する、こういうように考えられますので、無罪になった被告人に対して、ただいま申し上げましたような費用の補償をするということにいたしたわけでございます。
 こういう考え方が出てまいりましたのはここ十年ぐらい前からでございまして、国会、特に法務委員会におきまして、この種の補償を行うべきであるという御意見が従来しばしば出されておりまして、法務省といたしましても、その点を検討してまいったわけでございますが、この点については立法化を図るのが適当である、こういう結論になったわけでございます。
#5
○保岡委員 前からこの委員会でたびたび問題にされておりましたいわゆる非拘禁補償、公訴の提起によって生じた財産的あるいは精神的な損害の補償、これとの関連でどのような検討がなされたのか、それとの関係はどうなっておるのか、その点を伺いたいと思います。
#6
○鈴木説明員 ただいま御指摘の非拘禁補償というふうに申しますのは、無罪になった被告人が、たとえ拘禁されていなかった場合であっても、訴訟によって、たとえば起訴されたために大変仕事の方がうまくいかなかった、あるいは起訴されたために大変不安になって、精神的に損害を受けた、こういう場合について、その損害を国で補償するという必要があるのではないかということで問題になったのがこの非拘禁補償というものでございまして、この委員会におきましても、先ほどの費用補償とあわせてこの非拘禁補償も行うことにすべきではないかという御議論があったわけでございます。法務省といたしましては、この点についても検討を重ねたわけでございますが、この非拘禁補償まで認めるというのは少し行き過ぎではないかという結論になりまして、問題になりました費用の補償と、それから非拘禁補償のうち費用補償だけを今回立法化するという結論になったわけでございます。
 確かに、非拘禁補償というのは、起訴によってこうむった損害を補償するという点で公平の精神に合するというところも少なくないように思われるわけでございますけれども、現在の日本の法制におきましては、国が補償あるいは賠償するというのは、原則として国の機関に故意あるいは過失があってわざと損害を与えた、あるいは過失によって損害を与えたという場合に限られておるわけでございまして、故意も過失もないのに、結果的に無罪になったというだけで補償するということになりますと、そのためには相当の理由がなければいけないだろうというふうに考えられるわけでございます。刑事補償法の場合には、これはもちろん憲法四十条にも刑事補償についての規定があるわけで、当然検察官の故意、過失の有無にかかわらず行わなければならないわけでございますし、それからただいま提案いたしております費用補償の方は、要するに訴訟に勝ったか負けたかということでそのための費用を分担する。被告人が負けた、すなわち有罪になった場合につきましては、御承知のように、刑事訴訟法におきまして訴訟費用を被告人から取り立てるということになっておりますので、費用補償は、訴訟費用の負担とちょうどうらはらの関係に立つわけでございまして、有罪になれば被告人が訴訟費用を負担する、無罪になれば国の方で被告人が支払った費用を補償する、こういうようにするのが適当であるというふうに考えられるわけでございますけれども、その他の損害についての補償ということになりますと、必ずしもこれは刑事事件だけに特有の問題ではございませんで、いろんな行政処分によって有形無形の損害をこうむるということもあるわけでございますので、そういうものとの関連を考えますと、刑事事件の場合だけ、拘禁されなくてもなおかつ補償するというのは、現在の法制上はやや行き過ぎではないかというように考えられるわけでございます。
 そういうこともございますし、それからもう一つは、起訴されて無罪になった場合の精神的あるいは財産上の損害というものは、これはそれぞれの被告人によって大変違うわけでございまして、これをある程度類型化と申しますか、たとえば刑事補償でまいりますと拘禁一日につき幾ら、こういう計算が可能でございますし、費用補償については、公判期日に出頭した場合、あるいは弁護士に対する報酬ということで、ある程度一律に金額を決定することができるわけでございますが、拘禁されなかった場合の損害というものは、それぞれの事件ごとに千差万別でございまして、簡単にその額を決定することができないということも考えられますので、そういう付随的な理由もございまして、この際は非拘禁補償までいくのは適当でない、こういう結論になったわけでございます。
#7
○保岡委員 御指摘の理由はもっともであって、結論的には私もそれで結構だと思いますが、刑事の裁判の場合は、やはり一般の行政措置における場合と比べまして、精神的なあるいは財産的な損害というのは顕著なものがあるのではないか、そういうことも考えられますので、たとえば御指摘のように、国家賠償法によって損害賠償を請求されて、その審理をし、あるいは和解をしたりいろいろするんだろうと思いますが、その際には、やはり法務省もそういう非拘禁補償についての議論が当委員会でいろいろ問題になっているということを十分考慮して、その訴訟に当たって妥当な結論を出していただきたい、そのように考える次第でございます。
 これは要望としてとめまして、次に移ります。
 この法案が施行された場合の予算でございますが、どういうふうに積算をしておられるのか、そして計上しておられるか、それで十分であるかということについてお伺いをしたいと思います。
#8
○鈴木説明員 予算の点につきましては、これは裁判所の方から請求なさっておられますけれども、ごく概略的なことを申し上げますと、毎年、刑事事件において無罪の判決を受ける被告人の数が三百ないし五百ぐらいあるわけでございますが、そういう事件につきまして、一体何開廷、公判を何回行ったかということ、それからそれの事件について平均私選弁護人が何人ついておるのかということ、そういうことを基礎にいたしまして、この法案によりますと、補償されるものは、被告人が公判期日に出頭するに要した旅費、日当、宿泊料、それから弁護人が同じく公判期日に出頭するに要した旅費、日当、宿泊料、さらに被告人が弁護人に支払った弁護料、これだけが補償されるわけでございますが、先ほどのような無罪の数、公判の開廷日数、それから一件当たりの弁護人の数、こういうものを掛け合わせまして、一年間に要する補償金の額を算定したわけでございますが、昭和五十一年度の予算といたしましては、七千万余が計上されることになっております。
#9
○保岡委員 十分検討されておられると思うので、足りなくなるなんということはないと思うのですが、万が一計上予算が足りなくなった場合はどのような措置をとるのでしょうか。
#10
○鈴木説明員 裁判所から支出すべき他の補償、たとえば先ほど申しました刑事補償等がございますので、もし足らなくなった場合に、刑事補償の方が余っております場合にはそちらから流用が可能と聞いておりますし、もしそれも足らなくなったという場合には予備費から支出、こういうことになろうと思います。
#11
○保岡委員 国が費用を補償する場合の要件のうち、原則的な点について御説明をいただきたいと思います。
#12
○鈴木説明員 無罪の裁判を受けた場合の費用の補償につきましては、原則的な要件としては、刑事事件において公訴を提起されて審理が行われた結果無罪の裁判が言い渡され、その裁判が確定したということが費用補償を受けるための原則的な要件となっております。
#13
○保岡委員 被告人が免訴または公訴棄却の裁判を受けた場合、これは費用を補償しないことになるわけでしょうか。
#14
○鈴木説明員 無罪の裁判を受けた場合に限って補償することになっておりますので、免訴あるいは公訴棄却の裁判等で事件が終了した場合については、補償は行われないということにいたしております。
#15
○保岡委員 刑事補償法の場合二十五条で、同様の場合に、免訴もしくは公訴棄却の裁判をすべき事由がなかったならば無罪の裁判を受けるべきものと認められたときに限っては補償の対象とする、こういうことになっております。まさに、そのまま実体的な裁判を進めておれば無罪になったであろうと認められる場合にまで補償しないということになりますと、非常に制度の趣旨から言って公平の趣旨を全うできないものがある、そのように思いますが、いかがでございましょうか。
#16
○鈴木説明員 ただいま御指摘がございましたように、刑事補償法におきましては、免訴あるいは公訴棄却の裁判を受けました場合でも、もし免訴、公訴棄却をする事由がなくてそのまま実体裁判が進められれば無罪になったであろうというように認められる場合には刑事補償を行うということになっておるわけでございまして、今回の費用の補償についても同じような考え方をとるべきではないかということがこの立案の過程で一番慎重に検討したところでございます。
 結論的にはそういう場合にまで補償するのは適当でないという考えになったわけでございますが、その理由といたしましては、免訴とか公訴棄却の裁判というものは形式裁判と言われておりますけれども、果たして被告人が罪を犯したかどうかという事件の実体について審理をしないで門前払いの判決と申しますか、そういうことでやるのが通常でございます。そういう判決が出まして免訴あるいは公訴棄却ということになりました場合に、さらに補償をするのかどうかということを判断します場合に、もう一度今度は、――もう一度と申しますか、補償するかしないかという目的だけのために、果たして被告人は罪を犯したのかどうか、あるいは裁判を進めていったら有罪になったか無罪になったかということを補償との関係だけで審理するということは技術的にも大変困難でございますし、また補償の手続というのは簡単な決定手続でございまして、刑事裁判と違って、両当事者が出てきて、そこで互いに証拠を提出して有罪、無罪を争うという手続ではございませんので、そういう手続で有罪、無罪を決めるのと同じようなことをやるということは適当でないのではないかということから、この公訴棄却、免訴の場合には補償しないのが適当であろうというように考えたわけでございます。
 同じ問題はもちろん刑事補償についてもあるわけでございまして、刑事補償の場合につきましても、免訴、公訴棄却の場合に補償するということになりますと、場合によって、補償の手続が大変複雑かつ必ずしも正確な事実認定ができないような手続においてそういう判断をしなければいかぬ場合が出てくるわけでございますが、これは刑事補償法ができました趣旨がこの費用補償とやや違っておるということから見まして、この刑事補償の場合には免訴、公訴棄却の場合であっても、そういう事由がなければ無罪になったであろうという場合には補償した方がいいということになっているのであろうというように理解しております。
 費用補償と刑事補償の違います点は二つございまして、一つは、刑事補償というのは、刑の執行を受けた場合、あるいは未決の場合でございますと抑留、拘禁されたという大変重大な損害を受けた場合でございますので、こういう重大な損害を受けた以上、これをできる限り広く補償していくというのが適当でございまして、たとえ免訴、公訴棄却になりました場合でも、もし本来無実であるのにそういう拘禁を受けたということになった場合には、やはり補償した方が適当であろうというように考えられるわけでございます。
 それからもう一つ、この刑事補償と申しますのは、損害を補償するという点もございますけれども、同時に無実の者が起訴されたということによっていろいろ名誉等を棄損されるわけでございますが、そういう名誉を回復するという趣旨も入っておるのであろうというように理解しておるわけでございます。この点は刑事補償法におきましては、ただ単に補償金を支払うだけではなくて、刑事補償をしたときは、こういう無罪の判決があってそれに基づいて補償をいたしましたということを官報や新聞に公告することになっておるわけでございますが、こういう点も刑事補償というのが一種の名誉回復措置であるというように考えられるわけでございます。そういうものといたしますと、たとえ免訴、公訴棄却になりました場合でも、本来なら無実であるという主張がありました場合には、一応その点についても審理をして、もし審理を続ければ無罪になったであろうというように思われる場合には補償をするのが適当である、こういうように考えられるわけでございます。
 これに対しまして費用補償の方は、ある意味では、俗な言葉で申しますと、訴訟に勝ったか負けたかといいますかということで、もし国の負けと申しますか無罪になった場合にはこの費用を補償する、それから有罪になった場合には被告人に訴訟費用を負担させる、こういうような関係になるわけでございまして、ある意味では、かなりドライな割り切った制度と見ることも可能であろうというように思われるわけでございまして、必ずしもこの点で刑事補償と同じように扱う必要はない、こういう考え方になったわけでございます。
#17
○保岡委員 刑事補償法との関係については、もうおっしゃることはよくわかるのですけれども、その第一点の損害の結果が非常に重大であるということ、第二点の被告人が名誉回復をするための積極的な意味も制度にあるのだという、こういう御指摘ですね。第二の点はいささかちょっとこちらとの比較でその制度本来の趣旨以上におっしゃったような感じもするのですが、いずれにしても程度の差のような感じがするのです。
 そういうことから考えて、免訴あるいは公訴棄却の事由の中にも、たとえばはっきり無罪が他の確定判決で本人について得られている場合、あるいは共犯関係の審理を通じて明確である場合、実体的な裁判をさほどしなくても明確にわかってしまう、ほとんど形式的に処理できるような形ではっきりできるという場合もありますし、それから若干の実体的な審理をすれば被告人の名誉の回復にもなる、被告人もそれを求めて、多少時間がかかる、あるいは手続がかかることについてはやむを得ないという自認をして積極的に裁判を求める場合、そういったいろいろな場合を考えると、果たして、ドライに考えてこういう形で改正案を通していいのかということについては、私は若干疑問に感ずるわけなんです。
 そういう点から、いま詳しくお話をされましたので、重ねてお答えをしていただかなくてもいいのでありますけれども、私としては、これはむしろ刑事補償法二十五条と同じ方向で規定して、困る点については何か別の検討の余地がないだろうか、こういうふうに思いますが、いかがでございましょう。
#18
○鈴木説明員 ただいま御指摘がございましたように、免訴、公訴棄却になった場合におきましても、ほかの事件の結果等から審理を進めれば無罪になったであろうというように、比較的簡単にわかる場合もあり得るであろうというように思われます。現に、現在の刑事補償でもそういう場合がかなりあるわけでございますので、そういう場合だけということになりますと、かなり簡単な手続でやっていけるのではなかろうかというようにも思われるわけでございます。
 しかし、刑事補償法の場合には、常にそういう場合だけということに限られておるわけではございませんので、どうしても有罪、無罪を決めなければいかぬというような場合も出得る――有罪、無罪を決めると言いますとちょっと言葉が正確ではございませんけれども、無罪になったであろうかどうかということを決めなければいかぬ場合も出てき得るわけでございますが、御承知のように、刑事補償の手続にしろ、あるいは今度の費用補償の手続にしろ、検察官あるいは請求人と申しますか補償の請求をした人の意見を聞くことにはなっておりますけれども、その手続自体は裁判所と請求をした人の二面的な関係でございまして、検察官が出ていって、お互いに証拠を出し合うというような関係にはございませんので、正確な事実認定ができるかどうかということは問題でございますし、逆に、そういう請求をしました場合に、そういう必ずしも正確な事実認定のできない手続でこの事件は無罪にはならなかったであろうというような判断がされますと、かえって今度は請求した人にとって、刑事事件では免訴ということでおしまいになりながら、何かおまえは疑いの残る免訴であるという印象を与えるような結果にもなるわけでございまして、そういう点でも必ずしも好ましい制度ではないというように考えておるわけでございます。
#19
○保岡委員 それが簡単に決着がつくということが客観的にはっきりしておって、被告人がそれを求める場合、刑事罰を発動する関係の手続ではなくて、単に費用の補償のための手続でありますから、有罪、無罪ということが出て、むしろ有罪という烙印を押される結果になると被告人に酷であるというようなことをおっしゃいますけれども、それは、あえて刑事罰を科すかどうかということを判定をするということになれば、国家的にも問題があります。基本的人権のたてまえからも問題がありますが、そうでない以上、被告人が受忍すればそれでいいんじゃないかという感じがするわけです。まさに費用の補償であるからそれでいいんだ。しかも費用の補償をしてくれと、被告人の申請を待ってやるわけですから、その辺のところは、被告人が実際に判断をする、むしろ積極的に補償してもらいたいのに、しかも簡単にできる場合を、ばっとそういう理由でシャットアウトしてしまうのは、制度としてまだ問題があるのではないだろうか、私はこのように思います。
 それから併合罪の一部について無罪の裁判があった場合、その点についての補償はどのようになるのでしょうか。
#20
○鈴木説明員 併合罪、すなわち二つ以上の罪につきまして被告人が起訴されまして、そのうちの一部については無罪になった、それから残りの罪については有罪になった、こういう場合におきましても、無罪になった事件の審理に要した費用は補償する、こういう考え方で法案はできております。すなわち、たとえばA、B二つの罪で起訴されて、Aの方は無罪、Bの方は有罪ということになりました場合には、A罪の審理に要した費用を補償し、B罪の審理に要した費用は補償しない、こういうことになるわけでございますが、具体的な事件で、A罪だけの費用かどうかということがはっきりしております場合はそれで決まるわけでございますが、もしある費用がA罪のためでもあり、B罪のためでもあるというような場合には、その費用をA罪の部分とB罪の部分とに案分して、A罪の部分と認められるものについて補償する、こういう趣旨でございます。
#21
○保岡委員 被告人が責任無能力の場合に無罪になった、こういうときはどうなるでしょうか。
#22
○鈴木説明員 費用の補償は、無罪の判決があったということで補償をいたしますので、無罪の理由が責任無能力であるという場合におきましても、やはり補償するということになっております。
 責任無能力、すなわち加害行為をしたけれども、責任無能力であったという理由で無罪になった場合について補償することが果たして適当かどうかという点につきましては、常識論としてどうもそこまで補償する必要はないではないかという議論もかなり各方面から出ておるわけでございますが、現在の制度でいきますと、ある無罪の言い渡しをする場合に、たとえば犯罪行為をしていないということで無罪にすることも可能でございますし、それから責任無能力であるという理由で無罪にすることも可能で、どちらを先に判断しなければいかぬということもございませんで、たとえば責任無能力者であるということがはっきりしております場合には、犯罪行為をしたかどうかということを審理しないで無罪の裁判をするということもあり得るわけでございます。そういうわけでございまして、責任無能力の場合を除くということになりますと、技術的にいろいろむずかしい問題も出てまいります。
 それから御承知のように、刑事補償法におきましても、そういう点が問題になるわけでございますが、憲法四十条で無罪の場合に補償すると言っておること等を考慮いたしまして、これは必ずしも憲法の要請と言っていいかどうかわかりませんけれども、刑事補償法では、憲法を出発点にいたしましてそういう考え方をとっておりますので、この点で、刑事補償法と特段の差異を設けるのは適当でないというように考えたわけでございます。
#23
○保岡委員 費用補償の範囲でありますけれども、先ほど御説明いただいたように、被告人であった者、その弁護人であった者が公判期日等に出頭するに要した旅費、日当、宿泊料金並びに弁護人であった者に対する報酬に限っておられる、こういうお話であります。弁護活動をするに謄写料、調査費、こういった必要な費用というものは、このほかにもたくさん防御のためにやらなければならぬ、こういうことがあろうかと思います。それが一般的だと思いますが、そういった費用については、どのようになるのでございましょうか。
#24
○鈴木説明員 防御活動のために、たとえば証人となるべき者にあらかじめ弁護人が会って事情を聞くというようなことをする場合もございますし、あるいは私立探偵のような人を雇って事実関係を調査するという場合もございます。それからさらに訴訟記録を謄写するための費用というものも出得るわけでございますが、これらの費用につきましては、必ずしも事件によって同じように出るわけではございませんので、その点は弁護人に対する報酬についての補償の一部として、弁護人に対する報酬の補償額を決定していただきます際に、その中に含めて支給する、こういうように考えております。現在でも、国選弁護人に対する報酬につきましては、そういう費用が出ました場合には、そういうものを考慮して報酬の額を決めるということになっておりまして、それと同じように考えております。
#25
○保岡委員 説明でよくわかりましたが、国選弁護人の報酬というのは、一般の私選の場合に比べて非常に低い、こう言われておる。これはこの委員会でもたびたび問題になっているところなんで、熱心な弁護活動をやっておられる弁護人の報酬については十分考慮するという形で、この制度の運用も同様に図っていただきたい、このように思います。
 それから次に、弁護人が複数の場合、その全員に係る費用を補償することにしなかった理由、その場合の補償の基準などについてお考えをお聞きしたいと思います。
#26
○鈴木説明員 弁護人が複数あった場合に、その弁護人に対する報酬、あるいはその弁護人が公判期日に出頭するのに要した旅費、日当、宿泊料等をすべて支払うのか、あるいはその一部だけを支払うのかという問題があるわけでございます。
 この刑事事件で起訴された人が二人以上の弁護人にお願いして弁護をしていただくという場合には、それ相応の必要性があるからこそ二人以上の弁護人にお願いするわけでございますので、原則論といたしましては、弁護人が二人以上つきました場合におきましては、二人以上の弁護人についての旅費、日当、宿泊料と報酬を補償するというのが原則でございます。
 ただ、事件の種類いかんによりましては、二人以上出られた弁護人が同じようなことを公判でおやりになるというような場合もないわけではございません。そういう意味で、二人が必ずしも必要でなかったというような場合も考えられ得るわけでございますので、そういう場合につきましては、この旅費、日当、宿泊料の補償を一部の弁護人に関するものに限定いたしまして補償するということでございませんと、これは国側の故意、過失に基づく賠償ではございませんで、公平の趣旨ということからする補償でございますので、そういうある程度の制限をいたしませんと、かえって不公正なことになるのではないかというふうに考えられますので、この審理の状況、それから事件の、犯罪の性質等を考慮いたしまして、複数の弁護人が必要でなかったというように判断されます場合には、この補償を制限することができるというようにいたしておるわけでございます。
#27
○保岡委員 補償の手続について御説明を願いたいと思います。
 なお、その補償の請求期間は六カ月となっていますけれども、刑事補償の場合に比べて短過ぎないか、その点についてお伺いしたいと思います。
#28
○鈴木説明員 補償の手続につきましては、大体におきまして現在の刑事補償の場合とほぼ同様でございまして、被告人であった者から無罪の裁判をした裁判所に対して請求をいたしまして、そこで裁判所では、請求をした者及び検察官の意見を聞いた上で、この補償の要件に当たるかどうか、あるいは幾らの補償をしたらいいのかということを判断いたしまして、それに基づいて裁判をする。裁判をいたしますと、補償の裁判がありましたことによって、今度は補償の払い渡し請求権というものが発生いたしまして、その権利に基づきまして、今度は現実にお金を下さいという請求をして、これに対して裁判所が補償金を支払う、こういう手続になっております。
 それで、この補償の請求をすることができる期間につきましては、無罪の場合の費用の補償の請求については六カ月ということになっております。御承知のように、民法の不法行為については三年の時効期間でございますし、それから刑事補償法も同じく三年の出訴期間を設けておるわけでございます。刑事補償法が三年であるのに、こちらが六カ月であるという違いを設けておるわけでございますが、刑事補償につきましては、先ほどもちょっと申しましたように、大変重大な損害に対する補償である。場合によっては間違った死刑による補償というものも含まれておりますので、これは不法行為の場合に近く考えた方がいいのではないかと思われるわけでございますが、この費用の方につきましては、損害がそれほど重大ではないということも考えられますし、三年間もたってからの請求というところまで認めるだけの実質的な理由はないように考えられますので、六カ月ということにいたしたわけでございます。
 なお、上訴費用の補償につきましては、現行法もそうでございますし、それから今度の改正案におきましても二ヵ月という考え方をとっておりますが、この二カ月でも現行法について特に不都合があるということは聞いていないわけでございます。
#29
○保岡委員 検察官のみが上訴した場合に、現行刑事訴訟法の三百六十八条では、上訴が棄却され、または取り下げがあったときということになっております。そのとき直ちに上訴費用の補償をすることができるということになっています。今度百八十八条の四によると、上訴に係る原裁判の確定を待って補償することにしている、こういうふうになっておりますが、どのように具体的に違うか、その改正の理由はどうなのかということについてお伺いしたいと思います。
#30
○鈴木説明員 現行法の三百六十八条によりますと、上訴費用の補償、すなわち検察官だけが上訴をして、その上訴が取り下げられた、あるいは棄却された場合の費用の補償でございますが、この上訴費用の補償につきましては、上訴棄却の裁判が言い渡されますと直ちに補償をする、こういうことになっておるわけでございます。現行法で、この上訴費用の補償について上訴棄却になれば直ちに補償するというような考え方をとっておりますこと、あるいは現行法が無罪の場合の補償を認めないで上訴費用の補償だけを認めておるという趣旨は、どうも余り検察官が上訴をするというのは好ましくない、なるべく検察官の上訴は少なくするのが適当であると、こういう考え方に立っておるのではなかろうかというふうに思われるわけでございますが、現行法ができましてからの実際の運用を見ておりますと、検察官が上訴した事件における認容率と申しますか、検察官上訴に基づいて原判決が破棄される割合というのはかなり高いわけでございまして、六〇%あるいは七〇%という数字になっておりますが、こういう実情から見ますと、必ずしも検察官が無用な上訴をすることが多いという実情にはないように考えられるわけでございまして、恐らく現行法ができたころの、上訴をなるべく少なくさせるというような要請が多少弱まってきておるのではないかというようにも考えられるわけでございますが、それはともかくといたしまして、検察官が上訴をして、その上訴が棄却されたという場合でも、もし検察官がさらに今度は上告をいたしまして、その上告によって結局検察官の控訴、前の上訴でございますが、控訴が認容されるという場合もあるわけでございます。こういう場合につきましては、検察官の上訴というのは結局理由があったわけでございますので、その理由があった場合にまで被告人に補償するというのはやや行き過ぎのような感じがするわけでございます。そういうこともございますので、今度の改正案におきましては、検察官の上訴が結局理由がないというふうに判定された場合、すなわち検察官が上訴した原判決が確定した場合にのみ、この上訴費用の補償をするということに改めようとしておるわけでございます。
#31
○保岡委員 最後に、ちょっと前後しましたけれども、百八十八条の二のただし書きのいわゆる費用を補償しないでいい場合の、例外事項ですね。被告人の責めに帰すべき事由という場合と、同条の第二項との関係について御説明をお願いいたします。
#32
○鈴木説明員 百八十八条の二のただし書きにございます被告人の責めに帰すべき事由によって生じた費用と申しますのは、たとえば公判期日に被告人が不出頭であった、そのために弁護人だけが出頭したというような場合もあるわけでございます。正当な理由がなしに出頭しなかった、そのために弁護人についての旅費、日当、宿泊料が必要になったというような場合につきましては、その分まで補償するということになりますのはかえって公平の精神に反しますので、そういう場合につきましては補償をしないこともできるというようにしておるわけでございます。これに対しまして百八十八条の二の第二項におきまして、被告人が捜査あるいは審判を誤らせる目的で虚偽の自白をするとか、あるいは有罪になるような証拠を偽造するといったような場合につきましては、そういうことがあったために起訴されて、そのため裁判全体が無意味であったということになるわけでございまして、被告人のしたことが間接的に無用な費用を生じさせることになった、こういうことになるわけでございます。そういう場合には、その費用の全体について被告人の責任があったということにもなり得るわけでございますが、そういう場合につきまして補償の全部あるいは一部をしないことができるという裁量権を裁判所に与えておる規定でございます。
#33
○保岡委員 そうすると、責めに帰すべき事由の場合は費用ごと個別にそれぞれ見るということで、第二項の場合は全体について裁量の余地を裁判所に与えた、こういうふうに受け取ってよろしゅうございますでしょうか。
#34
○鈴木説明員 御指摘のとおりでございます。
#35
○保岡委員 これで質問を終わります。
#36
○大竹委員長 次回は、来る十一日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午前十一時六分散会
ソース: 国立国会図書館
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