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#1
第075回国会 法務委員会 第13号
昭和五十年六月十九日(木曜日)
   午前十時六分開会
    ―――――――――――――
   委員の異動
 六月十七日
    辞任         補欠選任
     福井  勇君     迫水 久常君
 六月十八日
    辞任         補欠選任
     迫水 久常君     福井  勇君
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         多田 省吾君
    理 事
                大島 友治君
                高橋 邦雄君
                白木義一郎君
    委 員
                岩上 妙子君
                柴立 芳文君
                福井  勇君
                町村 金五君
                中村 英男君
                矢田部 理君
                安永 英雄君
                橋本  敦君
   国務大臣
       法 務 大 臣  稻葉  修君
   政府委員
       法務大臣官房長  香川 保一君
       法務省刑事局長  安原 美穂君
   最高裁判所長官代理者
       最高裁判所事務
       総局刑事局長   千葉 和郎君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        二見 次夫君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提
 出、衆議院送付)
    ―――――――――――――
#2
○委員長(多田省吾君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#3
○矢田部理君 このたびの刑事補償法の一部改正で補償金額の引き上げが行われるわけでありますけれども、まず最初に、その引き上げの理由、根拠、基準みたいなものについて概括的に法務省の方から御説明をいただきたいと思います。
#4
○政府委員(安原美穂君) もう御承知と思いますけれども、この補償の金額の改定の経緯を御参考までに申し上げてまいりますと、現行の刑事補償法が制定されました第六回国会におきます審議経過にかんがみますと、その当時補償金額が、算定の基準日額が一日二百円以上四百円以下というふうに定められたのでございますが……
#5
○矢田部理君 その辺はわかっておりますから、今回のを中心にお願いします。
#6
○政府委員(安原美穂君) 要するに、旧刑事補償法当時には一日五円以内という基準であったのを、現行刑事補償法制定当時におきますところの賃金とか物価とか、あるいは刑事訴訟における証人の日当の額等を勘案して、この程度であれば一応補償したと言えるという常識的判断で、当時一日二百円以上四百円以下とされたものと承知しておるのでありますが、その後数回にわたりますところの改正は、すべてその後におきます改定当時と旧法当時との賃金や物価の平均上昇率を考慮して逐次改正をしてまいったというふうに考えられるのでございまして、今回の改正も、そういう意味におきまして、最近におきます経済事情を考慮したものにほかならないのでございます。
 そこで今回の改正でございますが、昭和四十八年にこの前の現行法ができておりまするが、その後におきますところの賃金及び物価の変動を見てまいりますと、昭和四十八年を一〇〇といたしました場合の昭和五十年の推定指数は、賃金の関係では全産業常用労働者の一日平均現金給与額が一四七・四となりますし、物価の関係では、推定でございますが、全国消費者物価が一三九・二となるという推定をいたしまして、これらの賃金と物価の平均上昇率を平均いたしますと一四三・三となるということで、上限につきましては大体この一四三・三を掛けて、数字を丸めまして三千二百円ということに引き上げることといたした次第でございます。
#7
○矢田部理君 そうしますと、四十八年の六百円から二千二百円という金額に物価上昇率あるいは賃金上昇率一四三前後を考慮して今回の数字をはじき出した、こういうことですね。
#8
○政府委員(安原美穂君) はい。
#9
○矢田部理君 現在、昭和五十年段階の賃金の平均日額はどのぐらいとお考えになりましょうか。
#10
○政府委員(安原美穂君) 資料を見るのに手間取りまして申しわけございませんが、私どもの調査によりますと、全産業常用労働者の平均一日当たりの賃金の日額は、五千九百十七円というふうに推計いたしております。
  〔委員長退席、理事白木義一郎君着席〕
#11
○矢田部理君 そうしますと、昭和四十八年からの賃金、物価等の上昇率を掛けたということはそれなりにわかるわけですけれども、同時に、現在の賃金の日額といいますか、そういうものは全く考慮をされなかったのでしょうか。
#12
○政府委員(安原美穂君) なお、ただいま申し上げましたのは全産業常用労働者でございまして、日雇い労働者の一日平均日額は、推計では三千五百四十八円であるということもつけ加えさせていただきたいと思いますが、いま矢田部委員御指摘のように、平均賃金の日額にも満たない金額ではないかという御指摘であろうと思うのでございますが、そこはいわゆる刑事補償とは何であるかという本質に戻ってお考えをいただく必要があろうかと思うのでございます。
 これは要するに刑事補償は、一般に学者の間でも言われておりますが、定型化された平均的な補償であるということが言われておるのでありまするが、要するに、刑事手続におきまして抑留、拘禁された者が、典型的な例として無罪の裁判を受けたという場合におきまして、抑留、拘禁という事実が非常に重大な問題でございますので、その抑留、拘禁をしたということ自体に国側の故意過失がなくても、受けた損害というものをある程度国家が、さらにその底には国民全体がと言ってもいいと思うのですが、抑留、拘禁を受けた人一人の負担にせずに、その他の国民全体でその負担をある程度分かち合うという公平の観念から、その抑留、拘禁が国家機関の故意過失でなくても、ある程度平均的な補償をすることが公平の原則にかなうということで、刑事補償法あるいは憲法四十条というものはできたというふうに理解いたしておりますので、故意過失に基づく不法行為における賠償とは違いまして、いわば全損害を補償するということは必ずしも必要ではない。
 いわば、そういう意味において故意過失のない場合においても、その負担を抑留、拘禁を受けた人自体の負担にせずに、国民全体で負担を分かち合おうという公平の原則によるものであるから、必ずしもいま御指摘のように労働者の平均日額に満たなくても、故意過失のない場合の平均的な補償であるから、この程度で補償としてはしたことになるというふうに考えるべきではないかということでございまして、従来から裁判所の判決でも、全損害の補償ではないということはその制度としては理解し得るという判決もございまして、そういう意味において、日額に当たらなくても、これでまあ刑事補償としてはしたことになるという金額だというふうに私どもとしては考えておる次第でございます。
#13
○矢田部理君 その説明は私もわかっておるわけでありますけれども、要するに現在の平均賃金等は考慮に入れなかったのかと、こう聞いているのです。何か物価上昇とか賃金上昇にスライドしたという説明はあったわけですけれども、現在の賃金などは金額を算出するに当たって全く考慮しなかったのかどうかということを実はお尋ねしたのです。
#14
○政府委員(安原美穂君) 先ほど申しましたように、必ずしもいわゆる全損害の補償でなくてもいいということは御理解いただいていると思いまするが、その反面において、じゃ全然無視したのかという御指摘に対しましては、やはり主として考えましたのは、出発当時から全損害の補償という制度ではございませんので、ある程度日額よりも低くスタートしておりまして、その後の上昇は常に、先ほど申しましたようにその後における経済事情の変動としての物価、賃金の上昇率ということに目を向けながら上げてきておりますので、そういう意味では、いつまでたちましても御指摘の賃金に追いつかないということではございますが、著しく差があるということも問題でございまして、そういう上昇率を掛けました結果を見てみて、著しく低過ぎないかということは当然に考えておるわけでありまして、その意味におきまして一つの物差しになりますのは、一人当たりの国民所得というものを考えました場合に、国民総所得の統計年報によりまして国民一人当たりの所得を考えました場合の平均の日額が三千二百九十七円である。これはそれを目指したわけではありませんが、上昇率を掛けていった結果として国民一人当たりの日額の所得にも一応見合うということで、著しく不当ではない、著しく不当ではないどころか、相当ではないかという結論を持っておる次第でございます。
#15
○矢田部理君 当初、たとえば二十五年に決めた二百円ないし四百円という金額とか、その後何回か上げておりますけれども、もともと土台が相当であったかどうかが一つ問題があるわけですね。それが相当だという前提で物価上昇率等を掛けるというやり方は、必ずしも今日的な補償の状況としては私自身は適切ではないのではないかというように考えるわけですが、いま御指摘になった国民総所得平均日額にしましても、これは何もそれを考えてはじき出したのじゃなくて、どうも私が聞いたところではたまたま偶然一致したということのようでありますし、仮に国民総所得平均日額が三千二百円だとするならば、平均値がその辺に置かれてしかるべきである。それよりも多い金額を考え、全体的には裁判所の裁量にゆだねるというのも一つの考え方、あり方ではないかというふうに思われるわけですが、その辺はいかがでしょう。
#16
○政府委員(安原美穂君) この辺はいささか水かけ論のようなことに相なるかと思いますが、何と申しましても、全損害の補償ではないということは御理解いただいておるとしても、低過ぎないかという御指摘でございまして、私どもといたしましては可能な限りにおいて高くするということに何ら異存はございませんが、従来の立法の改正の経過等にかんがみますと、これは従来のパターンに同じてやってきたことでございますとともに、裁判所の運用の実態を見ますると、現行法におきましても、昭和四十九年における刑事補償の実態を見ますると、五十七件のうち十六件が、つまり二八%が最高限の二千二百円の支給がなされておるということでございまして、すべて頭打ちという状態ではないということは、裁判所の判断といたしましても、必ずしも低過ぎるということではないという裏づけにはなるのではないかというふうに考えております。
#17
○矢田部理君 いまの答弁には必ずしも賛成するというわけではありませんけれども、ちょっと次の質問に変えてみたいと思うんです。こういう金額を試算したのは、法務省が中心になってやられたのでしょうか、それとも最高裁が中心になって出されたものでしょうか。
#18
○政府委員(安原美穂君) 矢田部委員御案内だと思いまするが、司法に関する法律は、それを提案する政府の所管省は法務省でございますので、裁判所に関連する法案はすべて法務省で立案して提出するのでございますが、もとより裁判所の運営される法律でございますので、裁判所当局の御意見は十分に聞いて立案をしておるわけでございますので、本件の金額の算出に当たりましても裁判所と十分の協議を遂げた結果でございます。
#19
○矢田部理君 そこで最高裁にお尋ねをしたいと思うのでありますが、最高裁もこの金額を出すに当たって御意見があったかと思いますね。私が承ったところでは、むしろ最高裁が中心になって実際は金額を出された。それを大蔵省と詰めてこういう金額になったという話も伺っておるわけですが、最高裁は当初からこういう金額を考えておられたのですか。それとも別の考え方、別の要求みたいなものがあったのでしょうか。
#20
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) ただいま安原刑事局長からお話ございましたように、実際の問題としましては、予算を要求するのは最高裁判所になりますので、法務省と十分協議した上で大蔵省と予算額を詰めていくわけでございますが、私どもの考え方としましても、先ほど安原刑事局長が御説明になったような積算の仕方で出発しております。その基本的な考え方は違っておりませんが、最終的にこうなるにつきましては、金額の差は若干ございます。というのは、それは物価の上昇率というものの統計のとり方について大蔵と詰めなければいけませんので、それが変わったということ、それからもう一つは、私ども最初はそういうふうにしてできたものにプラスアルファを何かつけたいということで、特に費用の点といいますか、現に裁判を打っていますので、裁判に要する何らかの費用をつけ加えたいという考え方で三千二百円というよりは多い額で要求しましたが、その費用の点はやはり別途考えるべきではないかということでそれをはずしまして、そのほかは統計のとり方で物価指数が先ほどの説明のようなもので落ちついた、こういうかっこうでございます。
#21
○矢田部理君 まあ小さい話になるかもしれませんが、最高裁が考えた物価のとり方といいますか、上昇率はどんなふうになっておったのでしょうか。
#22
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 四十九年の四十八年に対する賃金と物価の全体の上昇率といいますのは、先ほど刑事局長がおっしゃったのは規模三十人以上の全産業常用労働者の賃金給与、それをもう少し広げまして一般的にしますと、大体一・二九四というふうになりますので、それを自乗するわけでございますが、そういうかっこうで考えたわけでございます。
#23
○矢田部理君 どういう物価上昇率なり賃金上昇率をとるかというのは、いろいろやり方はあると思うのですが、私もその現在出されている物価上昇率等のとり方が妥当かどうかということについては疑問なしとしないわけでありますが、いずれにしても、最高裁としては現在提案された金額よりももう少し多い金額を大蔵省筋には要請をしたということになりましょうか。
#24
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 御案内のとおり、裁判所の予算は結局、最終できまったところで要求するというかっこうになっております。折衝の過程で、概算要求と申しますが、その過程で大蔵とはいろいろ折衝はございますが、最終的に大蔵と意見が一致した形で要求する。したがって、現実の要求はまさにこの三千二百円ないし八百円、これで要求になっておりますが、それに至る過程で御案内のとおり折衝があるわけでございます。
#25
○矢田部理君 そうしますと、最終のまとまった金額が要求額だというのも妙な話なんでありますけれども、少なくとも当初最高裁が考えたのはこの金額よりも多いものであったし、さらに付け加えて、費用といいますか、そういうものも出してほしいという考え方があったわけですね。しかし最終段階ではこの程度に落ちつかざるを得なかったというのが事の真相、内容である、こういうことでしょうか。
#26
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) そのとおりでございます。
#27
○矢田部理君 そこでもう一つ伺いたいのでありますが、これは法務省と最高裁の両方からお伺いしたいと思いますが、この八百円ないし三千二百円という金額の中身ですね、これは言ってみれば財産的損害というか、逸失利益みたいなものを中心に考えておられるのか、精神的損害なども思想としては込められているのかどうか、その点はいかがでしょうか。
#28
○政府委員(安原美穂君) いまのお尋ねでございますが、補償の対象といたしましては、矢田部委員御指摘のとおり、抑留拘禁によりますところの財産的損害と精神的損害とあわせて平均的に補償するというたてまえでございます。
#29
○矢田部理君 最高裁も同じ考え方ですか。
#30
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 同じでございます。
#31
○矢田部理君 といたしますと、たとえば四十八年の金額を土台にして賃金、物価の上昇率だけをスライドさせるのでは不十分なのではありませんか。御承知のように、精神的損害、慰謝料などもなかなか定型化はむずかしいと思いますけれども、たとえば交通事故の際の慰謝料などの金額が御承知のように年々上がってきておりますね。そういうことは考え方の中で金額的には何か考慮に入れたのか、入れないのか。この金額には財産的損害のみならず、精神的損害も込められているとするならば、そういうことも考慮してしかるべきだったのではなかろうかと思われるわけですが、その点いかがでしょうか。
#32
○政府委員(安原美穂君) まことに御的確な御指摘であると思うのでございますが、要するに先ほど申しましたように、財産的損害と精神的損害との双方についての補償をするという、たてまえは非常に幅の広い、いわば欲の深い補償でございます。そうでございまして、したがってその補償金額の中にはどちらも入っておるわけでございますが、どの部分が財産的損害の補償であって、どの部分が、どの割合が慰謝料と申しますか、精神的損害の補てん分かということは区別でき得ない、いわば混然一体でございます。
 そこで、慰謝料については賃金とか物価の上昇というように考えるよりも、もう少し裁判の実態、特に最近の交通事件における民事裁判の慰謝料の高額化というようなことを考えながらアップ率を考えていくべきではなかったかという御指摘なんでございますが、確かに御指摘のように慰謝料は漸次高額化しておりまするが、まだ御指摘のような、どれだけアップしているかというアップ率というのはどうも捕捉しがたいという実態でもございますし、また慰謝料と申しましても、いずれは金銭に換算するものでもございますので、この際におきましては、慰謝料につきましても物価、賃金のアップ率と同率程度のアップ率があったものといわば擬制して、みなして、そして物価、賃金の平均アップ率を精神、物質両損害のアップ率として、現行法の金額に乗じて改定額をはじき出したというのが実際でございます。
#33
○矢田部理君 かなりこじつけなんじゃないかと思われるわけですけれども、実際問題として、裁判所は交通事件の民事の損害賠償ともあれば、慰謝料を幾らということを出さざるを得ないわけです。しかも、それも最近ではほぼ定型化してきている状況、実情にあるだろうというふうに思われるわけですが、そういうものを具体的にデータを取り寄せる、全国的な統計をとってみるとかという作業はやられたのでしょうか、やられなかったのでしょうか。これは最高裁にお聞きしてもいいと思うし、法務省もあわせて答えていただきたいと思います。
#34
○政府委員(安原美穂君) 矢田部委員御指摘のような、慰謝料の全国的な状況というものの統計はとっておりません。ただ、交通事故の死亡の場合について、どれぐらいが天井かというようなことについては若干の情報は持っておりまするけれども、全体的な慰謝料の判決の状況というものについては、私ども法務省としては承知いたしておりません。
#35
○矢田部理君 最高裁、どうですか。
#36
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 本件の作業につきましては、その辺のデータはとっておりません。ただ、今回の死刑の執行についての補償額の増額の関係では、交通事故の死亡事故の場合の慰謝料のデータをとってはございますが、一般的にはとりませんでした。
#37
○矢田部理君 死刑執行の場合の問題については後で伺いたいと思っていたわけですが、そうでない、身柄拘束をし、かつ無罪になった場合の問題点をいま伺っているわけですけれども、そうしますと、慰謝料的な内容もこの金額の中には含まれているんだという説明にもかかわらず、そういう慰謝料がどの程度アップされてきているのかというデータなしに、単純に物価、賃金の上昇率だけで金額を出した。しかも出した額が相当だという説明は、少しく説得力のある説明とは言えないのじゃないでしょうか。いかがですか、最高裁。
#38
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 御指摘のとおりに、大変適切な御質問で、かつ大変答弁に苦しいわけでございますが、ただ、慰謝料のアップ率というものが必ずしもどういうふうな率で上がっているかということは、まだ正確には率としては出ないのではないかというふうに思います。御承知のように、民事の慰謝料といいますのも必ずしも正確な根拠ではなくて、相当に裁判所の裁量に基づく部分がございまして、その場合には、現実の物的損害と慰謝料とを加えた総額というものをやはり頭に置きまして、そのうちで慰謝料はどの辺がいいかというような、これは実務上の実際だと思いますが、そのような算定の仕方をする場合もありまして、確かに慰謝料の額が少しずつ上がってきていることは確かでございますが、まだアップ率というものを正確に把握し得ない状況にあるのではないか、さように思いましたので、先ほど法務省の刑事局長がおっしゃいましたように、まだこの段階では従前のやり方でいいのではないか、かように考えた次第であります。
#39
○矢田部理君 精神的損害のアップ率があることは事実だけれども捕捉し得ないというのは、これまた捕捉し得ないのではなくて、捕捉する努力すらしなかったのじゃないかというふうに思われるわけですが、そこで大臣にお尋ねしたいと思いますが、これは弁護士会などでも年々、こういう金額では相当でないというようなことで、いろいろな根拠を挙げながら指摘をしてきた経過があるわけでありますけれども、今回の件についても、財産的補償としても相当の問題がある。しかも内容的には慰謝料も込められているんだという御説明にもかかわらず、慰謝料については考慮した形跡すらないというような実情にあるわけでありますが、大臣ちょっと席をあけられた途中で、最高裁はもう少し大きい金額を大蔵省に要求したんだ、しかしまあこういう金額で最終的には落ち着かざるを得なかったという御説明もあったわけですが、そういう全体的な答弁を総括をして、現在法律の改正で出されてきておる八百円ないし三千二百円という金額は、大臣としてはどういうふうにお考えになっているのか、お伺いしたいと思います。
#40
○国務大臣(稻葉修君) どうも矢田部委員と政府委員の質疑応答のやりとりからして、歩はあなたの方にあるように拝聴しました。まことに恐縮千万でございますので、今後、人権尊重の立場から、この引き上げにつきましてさらに一段の努力を続けたいという感じを強く抱いた次第でございます。
#41
○矢田部理君 そうしますと、確認的に伺いたいと思いますが、この刑事補償というのは御承知のように憲法上の根拠を持つ重要な補償でありますだけに、後でまた各論的にはいろいろ伺いたいとは思いますが、少なくとも来年からは、そういう精神的損害なども込めて上昇のために努力をする、こういうふうにお約束いただけるでしょうか。
#42
○国務大臣(稻葉修君) さように御理解いただいて結構でございます。
#43
○矢田部理君 そこで、次の質問に入りたいと思いますが、身柄を拘束して無罪になった場合には、いまの金額が出されておるわけでありますが、もう一つ非常に重要な問題点として、身柄を拘束しないで裁判が続けられ、その結果無罪になったという場合の補償が全く現在の法体制のもとではないわけですね。これについてはかねてから、そういうものについても費用等も含めて補償すべきではないかということが要求されてきたわけでありますが、この辺の検討はいまどういうことをなされているのか。あるいはどういう考え方に立っておられるのか。その点をお尋ねしたいと思います。
#44
○国務大臣(稻葉修君) ただいまの御質問の、無罪の裁判を受けた者に対する刑事補償の範囲を非拘禁者にまで拡大することの当否につきましては、かねてから検討を行ってまいりました。その間、最高裁判所事務当局とも協議を重ねてきたところでありますが、いろいろの理由からその立法化は相当でないという結論に達しております。
 その理由の詳細についてお尋ねがありますならば、これは専門的な事柄でありますので、事務当局から答弁をさせたいと思っております。
#45
○矢田部理君 もうちょっと詳しく御説明をいただきたいと思います。
#46
○政府委員(安原美穂君) いわゆる非拘禁のままで裁判を受けて無罪になった者に対する補償、俗に非拘禁補償を行うべきではないかという議論は、たびたび国会で指摘され、社会党ではさような法案も用意されたということは承知しておるのでございますが、いま大臣の申されましたように、結論といたしまして、非拘禁補償というものを一般的に行うことは、後に刑事訴訟費用の補償ということについては若干別のお話を申し上げたいと思いますが、いわゆる非拘禁の刑事補償ということについては、結論としては、いまだそれを立法化することには相当ではないという考えを持っておるのでございます。
 その第一の理由は、刑事補償というものの本質にかかわるわけでございますが、一般に国の公権力によります損害の補償というものは、その本質が損害賠償であるという以上は、やはり憲法十七条にもありますように、本来損害の発生について当該公務員に故意過失がある場合に限って行うべきものでございまして、無過失による場合を含む補償というものは、それを必要とするだけの特別の理由がある場合でなければならないという考えを持っておるわけであります。
 そこで、刑事事件によりまして起訴されました場合に、身柄の拘束を受けました場合とそうでない場合とでは、同じく無罪を言い渡されたといたしましても、その損害の程度が著しく異なることは申すまでもないところかと思われるのでございますとともに、現行刑事補償法が前者の場合、すなわち拘束をされた場合のみ補償することとしておりますのは、やはりこの身柄の拘束というものが国の各種の公権力の行使の中できわめて特殊のものである。すなわち、身柄の拘束は刑事手続の性質上その必要性が肯定されるものである反面におきまして、拘束を受ける者の側にとっては他に例を見ない高度の不利益な処分であり、損害が重大であるということを考慮したことによるものと考えられるのであります。いわゆる特別の理由がある場合であるというふうに考えられるのであります。その点は非拘禁の補償というものとは大いに違うのではないか。
 それから、刑事事件によりまして起訴されました場合に、被告人が、御指摘のように物質的精神的な損害を含めて、現実に種々の不利益を受けることがあることは否定できないと思いますが、身柄の拘束を受けました場合は別といたしまして、その他の不利益というものは、国が制度として公権力の行使というものを認めております場合に、およそ公権力の行使によって通常生ずべき不利益の範囲に属するのではないか。たとえば国民の権利義務に重大な関係のあります海難審判とか特許審判とか、あるいは許認可処分の取り消し等に誤りがあって、その結果国民に損害を与えることもあり得るわけでありまするが、これらの場合について直ちに国がその損害を補償するという制度は設けておりません。当該公務員につきまして故意過失がある場合に限って、国家賠償法による賠償請求が認められているにすぎないのでございます。
 そこで、検察官としては十分な根拠に基づいて適法に公訴を提起した場合につきまして、裁判の結果無罪となったという理由だけで、拘禁を受けなかった非拘禁者に対して当該検察官等公務員の故意過失の有無にかかわらず損害を補償するということは、いま例を挙げましたような行政処分の場合との均衡上、その均衡を失するのではないかというふうに考えられるのでございます。したがいまして、非拘禁に対する補償は国家賠償法の手続により行うのが相当であるというのが理由の第一でございます。
 それから、理由はいろいろございますが、もう一つは、実際の問題といたしまして、ひとしく無罪の裁判を受けました場合でございましても、身柄を拘束した場合に受けます損害というものと、そうでない場合におきます損害とは、質的に大きく違っているのではないか。誤って公訴を提起された者が受ける損害や程度は、身柄拘束の有無を問わず人によって千差万別でございますけれども、身柄拘束の場合はこれによって生ずる直接の損害をいわば明確な形でとらえることができ、これをこの現行刑事補償法のように定型化することもできるのでございますが、非拘禁の場合につきましては、公訴を提起されたことによる不安とか苦痛とか、社会的名誉の低下とか、失職その他得べかりし利益の喪失などが考えることができるのではございますが、果たしてそういう損害があったかどうか、またどの程度の損害を生じたかということについては、訴追された犯罪の軽重あるいは公判審理の長短等の要素も絡みまして、個々の事件ごとに具体的な判断をする以外に方法はなく、現在の刑事補償法のように補償額の定型化がきわめて困難であるという、技術的な制度化する上での困難な問題点もあるというようなことが主な理由といたしまして、現在では非拘禁補償につきまして刑事補償というものを立法化することは相当ではないという結論を持っておるのでございます。
 一面、社会党御提案のように、現在は検察官の控訴をした二審において検察官の主張が通らないという場合のいわゆる訴訟費用の補償につきましては、訴訟費用を補償するということになっておりますが、これを二審のみならず一審から、無罪の場合一般について、現実に被告人が出費いたしますところの、法廷に出頭いたしますところの旅費とかあるいは宿泊料とか、あるいは弁護人に対する報酬とか弁護人のための日当旅費というようなものについては、無罪になったものについてはいまの現行制度を広げまして、およそ一審からすべて費用を補償すべきではないかということにつきましては、現実の出費でもございますので、今日それを無罪になった者の負担にしておくということは、国選弁護人の場合においては国が負担するということとのバランスからいって、果たして現行の制度は適当であるかどうかは疑問があるというような議論で、ただいま法務大臣から法制審議会に対しまして、訴訟費用の関係について、現行の刑事訴訟法の費用の負担のところの規定の改正が必要ではないかということで諮問をいたしておりまして、すでに総会一回、それから技術的なことでございますので刑事法部会で審議を二回重ねておりまして、近く三回目の審議をするという状況になっております。
#47
○矢田部理君 時間が来ましたので最後の質問にしたいと思いますが、これはかねてから議論のあったところで、いま法務省からの説明で私は納得するわけではないし、法務省自身の説明の中にも、拘束、非拘束にかかわらず、被告人であった者にとっては大変な損害を受けるということは少なくとも理解しているのだろうと思うのですね。その点で、相当でないということではなしに、さらに改めてやっぱり検討課題としてひとつ残しておいていただきたいということが一つと、それから最後にお話になりました、いわば費用の補償は少なくともやるべきだということを、これまたわれわれとしては問題提起をしているわけですが、最後にその費用の補償の点について、もうかなり前から問題提起はされておるわけですが、その後の進み方が非常にスローペースじゃないかという感じがしないではありません。この辺はいつごろをめどに具体化を考えておられるのか、あるいは答申を求めようとしておるのか、その点だけきょうは伺って、あとの質問は次回に留保しておきます。
#48
○政府委員(安原美穂君) 刑事法部会で審議をすでに二回重ねまして、近く三回目でございますが、さてそれを法案化するということになりますと、専門家のお集まりでもございまして、いろいろと技術的な点についての意見が出ておりまして、方向としては、補償制度を考えるべきだという方向は異論のないように、一部反対もございますが、方向としてはそういう方向に向いておりますが、技術的な問題として、除外事由をどうするかとかいうようなことを含めまして若干いろいろな意見がございまして、そういう意味で審議を重ねておるわけでございますが、これは刑事法部会、法制審議会の審議でございますから、私の方で何回でやめてもらいたい、あるいは何回目で答申してもらいたいということは言っておりませんが、抽象的には、現実の立法に深くかかわる問題でございますので、国会の審議にも使う言葉で恐縮でございますが、迅速に慎重にひとつ御答申をいただきたいということを申し上げておるわけでございます。
 私の見込みでは、恐らくあと二回ぐらいで刑事法部会の審議を終わりまして、総会に答申をいたしまして、総会で恐らく一回の審議があるというようなことになるのではないか。したがって、秋ごろには御答申いただけるのじゃないかというふうに思っておりますが、御答申を得た上はその結果を十分に尊重いたしまして、事務当局としては立案作業を急ぎたい、かように考えております。
#49
○矢田部理君 ですから、慎重さもさることながら、迅速に答申を求めて、早急に立法化を図るということをひとつぜひ大臣としてもお約束をいただきたいと思うのですが。それで終わります。
#50
○国務大臣(稻葉修君) ただいま安原刑事局長のお答え申し上げたとおりに考えております。
#51
○矢田部理君 迅速に答申を求めて立法化を急ぎたい……。
#52
○国務大臣(稻葉修君) 迅速に答申を得るよう、立法化のため迅速な御答申を期待しております。
#53
○高橋邦雄君 ただいま補償金の性格でありますとか、あるいは補償金の額の問題についていろいろ御質疑があったわけでございますが、この刑事補償法では、拘束された日数一日において幾らと、こういう額の決め方をいたしておるわけであります。聞くところによると、外国では余りこういう定型化した補償の仕方をしている例は少ないということを伺っておるわけでありますが、これにつきましてはいろいろと沿革があるわけでございますから、いまどうこう言うわけでもありませんが、そうした点を、定型化された補償という点についてどういうふうなお考えか。また、額を定型化して一日幾らというようなことに決めないという方法も多いということでありますが、それらの制度の比較といいますか、そうした問題について法務省の御見解をひとつ承りたいと思います。
#54
○政府委員(安原美穂君) 高橋委員御指摘のように、日額を決めないでやっている諸外国の制度もあるようでございますが、刑事補償というものの本質が、先ほど申しましたように、故意過失の有無を問わない一種の定型化された平均的補償であるということになりますと、特に抑留、拘禁による損害ということでございますので、やはり日数を基準にし、かつ一日幾らというふうに基準額を決めることが迅速な補償という意味においても適当ではないかということが、日額で決めた理由であろうというふうに私どもは理解をいたしております。
#55
○高橋邦雄君 刑事補償法の第四条によりますと、死刑の執行による補償につきましては、一千万円以内の補償金のほかに「財産上の損失額が証明された場合には」さらに加算をされるという規定になっておるわけでありますが、抑留または拘禁による補償については、そういう「財産上の損失額が証明された場合」という項目がないわけでありますが、これはどういう理由によるものか。同じ扱いにしてもいいのではないか、こういう考えもあるわけでございますので、その点についてのお考えをひとつ伺いたい。
  〔理事白木義一郎君退席、委員長着席〕
#56
○政府委員(安原美穂君) 幸いにしてこの条文を使うような不幸な事態は起こっていないわけでございますが、結論から申しますと、誤って死刑の執行をしてしまった場合の補償については、故意過失の有無を問わず、やはり手厚く補償すべきであるという思想のあらわれではないかと思って理解しておるのでございますが、御指摘のように、死刑の場合におきましては四条の三項によりまして、いまは五百万円以下でございますが、「裁判所の相当と認める額の補償金を交付する。」といたしまして、さらに「但し、本人の死亡によって生じた財産上の損失額が証明された場合には、補償金の額は、その損失額」プラス五百万円、損失額プラス五百万円、損失額はそのまま実際の損失額を補償をし、そうして五百万円については裁判所でいろいろの二項に書いてあるような事情を考慮して決めるということでございまして、これを見まするならば、現行法の五百万円、いま変えようとする一千万円というのは、いわば死刑の執行による慰謝料であるというふうに考えられるわけでございまして、慰謝料については裁判所の裁量にある程度任せ、財産上の損害については現実の損害を全部補償するというのがこの死刑の場合における補償でございますが、それは一般の死刑以外の場合の抑留、拘禁による補償よりもその補償を手厚くしたんだというふうに御理解いただければいいのではないかというふうに考えております。
#57
○高橋邦雄君 補償金の性格につきましてはいろいろお話がございました、質疑応答がありましたので、重ねてお伺いいたしませんが、この刑事補償の制度とほかの補償制度とのつり合い、こういうことも考えなければならぬのじゃないかというふうに思われるのでありますが、聞くところによると自動車損害賠償保障法では、自賠法の審議会から、死亡者一人について保険金額を一千五百万にする、こういう答申があった。しかもこれが七月から実施をすべきだと、こういうようでございますが、この自賠法などとの関係と比較してどういうふうにお考えになるか、その点をお伺いをしたい。
#58
○政府委員(安原美穂君) もっともなお尋ねだと思うのでございますが、結論から申しますと、自動車損害賠償保障法におきます保険の金額と、死刑の執行の場合の補償金額とは、直接の関係はないというふうに理解しておるのでございます。したがいまして、自賠法の保険金額の引き上げがあっても、直ちに死刑の補償金額を引き上げることにはならないと思うのでございますが、と申しますのは、御承知のように、死刑の場合の今度引き上げようとする一千万円というのは、いまも御説明申しましたように慰謝料のみの額でございまして、自賠法の保険金額は、いわば慰謝料と物的損害双方を含んでおるものでございます。死刑の場合には、したがいまして物的損害を生じたら、いま申しましたように、それは証明された限度において加算をされるのでございます。そういう意味で、必ずしもその保険金額の中身とこの死刑の執行の場合における一千万円なりあるいは五百万円というものの中身とは違うということでございます。
 そこで、この一千万円に引き上げようとする理由は、したがいまして自賠法の保険金額にパラレルに、あるいは比例して上げるというよりも、むしろ先ほどから御指摘のございますように、一般に死亡を伴う事件の損害賠償事件において裁判所が認定する慰謝料の額が漸次高額化しておるということをにらみながら、一千万円に引き上げるのが相当であろうという政府としての考え方をこの改正案に盛ったというのが実態でございます。
#59
○高橋邦雄君 この補償の性格について、これは精神的な、あるいはまた財産的な全損害の賠償というのがたてまえだろうと思うわけでありますけれども、勾留あるいは拘禁、刑の執行また拘置、こういうふうな事柄、しかもそれが何ら過失を伴わない、無過失な結果生じたものであるということでありますが、やはり該当者等においては非常な苦痛を受けたわけでありますので、ほかの補償制度との均衡、つり合い、こうしたものも相当これは考える必要があるのじゃないか、こういうふうに思うのであります。先ほど大臣も、こうした補償額につきましては将来さらに引き続いて増額するように努力をしたい、こういうふうなお話もございましたので、そうしたつり合い、均衡、こうしたものも大いに考慮に入れる必要があるのじゃないかという気がいたすわけでございます。
 それから、心神喪失者が無罪になったという場合にでもこれは補償されるのかどうか、また、そうした例がありましたならば、どれくらいな金額が補償されておるのか。その点を承りたいと思うのでございます。
#60
○政府委員(安原美穂君) 憲法の四十条は刑事補償の規定でございますが、「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」という規定でございまして、憲法の規定をそのまますんなり読みますと、「無罪の裁判」というものにはどういう理由で無罪になったかという区別はいたしておりませんで、したがいまして、いま高橋委員御指摘のように、刑法の心神喪失を責任能力がないということで無罪とされた場合も、やはり憲法四十条による「無罪の裁判」の中に入るということと理解せざるを得ないのではないかという意味におきまして、責任無能力を理由とする無罪の場合のみを補償すべき範囲から除外するということは、憲法の趣旨から見て適当ではないのではないかというのが現行法制定以来の考え方でございます。
 しかしながら、一面の国民感情といたしまして、客観的な行為は違法な行為をやったのではないか、ただ責任能力がないということで無罪になった者に補償をするということは、いわば何と申しますか、広い意味での公平感と申しますか、国民感情として何となくすんなりとは受け取れない面があるということも事実でございまして、そのような考え方も反映いたしますとともに、そういう制度を前提としたことのゆえと思いまするが、実際の補償の金額におきましても、昭和三十三年から四十八年までに判明しております責任無能力による無罪の場合の補償は二十四件ございますが、そのうちの十七件はいわばその補償当時における最低額で、最下限の補償がなされておるというのが現状でございます。
 なお、旧法当時にはおそらくこういうものは補償の対象にならなかったのでございますが、その後も国会で、特に公明党方面の御主張が強いのでございますが、こういう心神喪失というような責任無能力の場合は補償しないようにすべきではないかという立法論がございまして、私どももその点は、憲法の解釈として許されるかどうかということを含めまして、おっしゃることにも一応もっともな理由もあり、国民感情としてもそういうことが受け入れられるのではないかとも思われまして、法制審議会の審議の過程でもそういうことをおっしゃる方が訴訟費用の補償についてございますので、今後の検討の課題として今後考えていきたいというふうに考えております。
#61
○白木義一郎君 初めに、大臣に基本的な点についてお伺いしておきたいと思いますが、前回の昭和四十八年度の補償法の改正の際に、田中前法務大臣はこの補償制度に関して次のように述べております。「こういう制度が、どの制度も似ておるんです。当然権利が主張されなければならぬのにかかわらず、請求をしなければやらないんだという立場をとっておりますのは、あらゆる制度にそういうことが出ておる。これはまあ何と申しますか、遠慮をせずに申し上げますと、わが国の官尊民卑の思想から出ておるものと思います。国民を大切にして、人権を真に尊重するというたてまえからならば、請求の有無などにかかわらず出すという方針をとっておかしくないもの、こういうふうに考えるのでありますが、現行法は官尊民卑の思想から出てきたものではなかろうか、こういうふうに私は反省をするのであります。」これが前田中法務大臣の私の質問に対する答弁でございます。またさらに、「熱心に、この請求の有無にかかわらず、賠償金は補償はすべきものではないかという御意見に対して私はそのとおり思う、どうしてこういう現行法の制度があるのかと言えば、官尊民卑の思想の残滓であるというように実は私は考えておるので、そのままを申し上げたのでございます。」
 この二カ所の田中前大臣の部分を引用した理由は、被害者が刑事補償を受けるに当たっては請求手続をもっと簡素化したらよいのではないか、この制度をまたずして、国家が義務を果たすという制度に変えていかなければならぬものではないかという私の質問に対しまして、前田中法務大臣が率直に現行法の制度に不満足の意をあらわしているわけです。この点について稻葉法務大臣の御所見を伺いたい。
 まず、官尊民卑の残滓である、そういう思想から起きてきた、そういう前大臣は解釈をされております。ですから、無罪になった、こういう法律があるから請求をしてきなさい、そうすれば補償しますというのは、まことに私どもは、まあ理論的にあるいは法律の解釈から言うと無過失というような表現で、これを補償すべきであるというようなことになるわけですが、私どもから言わせると、まことに失礼をいたしました、いろいろ調査し裁判したところが全くあなたは無罪でありました、長い間御迷惑かけましたという性質のこれは法律ではないか、こういう立場から私どもはこの補償法について感じておるわけであります。田中前法務大臣は、同感だ、これは官尊民卑の思想から起きているんだということをはっきり言われているのですが、大臣はその点について、どのようにこの補償法についてお考えを持っているか、最初にお伺いしておきます。
#62
○国務大臣(稻葉修君) 無罪の判決を受けた後、その物的な損害を補償するというのでありますから、補償を受けるか否か、国の側から言えば補償するか否かを本人の意思にかからしめるといういまの制度で、別に官尊民卑思想であると断ずるわけにはいかないのではないかと思うのでございますが、むしろ、一方的にその人の意思にかかわらず、ばしっとこれだけの補償をするといったようないき方の方が官尊民卑的であるかもしれないような気がしまして、なかなかむずかしいですな。むずかしいです、これは。ちょっと専門的になりますから、刑事局長に答弁させます。
#63
○政府委員(安原美穂君) 私も大臣以上の知恵はございませんので、同じことでございまして、要するに旧法が一種の恩恵として補償金を交付したわけでございまして、いわば一方的に意思にかかわらず支給する方が、あるいは意思にかかわらずやる方がむしろ恩恵的色彩が出てくるというふうにとられる恐れもございますし、やはりこれは憲法上一つの権利として認めておるわけでありますから、しかも財産上の権利として憲法が認めておるわけでございますので、その権利の行使を権利を持っておる者の意思にかからしめるという制度が最もなじみやすいというので現行の補償法ができたのではないかというふうに思いまして、白木先生せっかくの御指摘でございますが、毛頭官尊民卑の考えはなかったもの、むしろ民主主義的憲法下における最もふさわしい制度として、請求にかからしめるようにしたのではないかというふうに思います。
#64
○白木義一郎君 大臣、議事録を見ますと、大変衆議院の方では活発に率直な御意見を述べられているわけです。どうも参議院の方は非常に控え目に先ほどから――(「鬼門だからだよ」と呼ぶ者あり)決してそういう委員会ではございません。参議院の性格上、良識豊かな委員会でございますので、ひとつ活発に率直な御意見を承りたいと思います。
 日弁連の方々は、この刑事訴訟手続と補償手続がどのようになっているかということが一国の文明のバロメーターである、こういう考え方を持っていらっしゃるわけです。私は、これはそのとおりでありますけれども、そんな理屈っぽいことを言わなくて、人間の暮らしの中であたりまえだ、間違ってつらい思いをさせた、それについてはどうかこれでということであたりまえじゃないかと、こう思うのですが、そこで、前法務大臣ということを申し上げるとどうかと思うのですが、同じ自民党の大臣ですので引用いたしますが、この補償制度は人権尊重ということが最大の眼目だ、わかりやすく言えば、人権尊重のたてまえから国家のおわび料なんだ、そういうように法務大臣が受け取っているわけです。国家のおわび料。私は今度の改正案の金額が高いとか低いとかと論ずる以前に、この法律をどう生かしていくかという基本的な考え方、思想がないと、この制度がかえって国民に政府に対する不信あるいは政治に対する不信を静かな渦となって巻き起こしてしまう、そういうことを非常に心配するわけです。そこで、おわび料というような受け取り方を現法務大臣はおとりになるか。刑事局長になんて言わないで、率直にひとつおっしゃっていただきたい。
#65
○国務大臣(稻葉修君) おっしゃるような、道義的なそういう面ももちろんございましょうと思います、私。ただ、法律でございますからやっぱり権利、義務という関係にするので、単なる道義上のおわび料というような不確かなものじゃなくて権利、義務と、こういうふうにするので、請求し、これに払う義務、国家の義務、こういう形をとっているのじゃないかと思うのでございます。その根底には、やっぱり間違ってそういう拘禁したりいろいろやって、そして無罪と、こうなったのですから、そういう権力側に道義的な良心の償いといったような面もそれはあるでしょうと思います。ただ、法律上の義務ということにする上において請求権、これに支払い義務、こういうふうに法律を定めたものというふうに思うのでございます。
#66
○白木義一郎君 いまのようなお答えは、刊事局長さんの方から伺って、まあ法務省の立場とすればそう言わざるを得ないんだなと、こう了解しますが、法務大臣は官僚の出身ではないわけです。純粋な民衆の中から選び出された政治家であり、政党人でありますから、田中さんのように率直にそうだと、こういうお考えを伺えると思ったのですが、一生懸命伺っていたところが、どうも刑事局長の答弁のような、わかったようなわからないような御答弁でまことに残念でございます。
 そこで、そういう国家のおわび料なんだという考え方から、前回のこの法案審議について、法務大臣は検討する、こういう約束をなさっております。と同時に、やはり当時、それ以前に社会党から提案されまして、不拘束の無罪の方々にも当然補償すべきであるという趣旨の提案がなされて、それに対しても田中法務大臣は全面的に賛成をされて、ぜひともその方向へ努力をしたいと明確に述べられて、われわれは非常にまあ当然のことながら意を強くしたわけですが、先ほど来の局長の答弁を伺っていますと、いつの間にか前大臣の国民に対する確約といいますか、それが立ち消えになってしまっている。先ほど、不拘禁の者に対しては適当でない、そういう局長の答弁がございましたけれども、前大臣は当然であると、こう言われておる。その大臣の発言というものが、大臣が交代する時点に全くぼやけてしまっている。
 私は大臣になった経験がございませんから、大臣の位置というのは各省においてどれほどの立場にあるかということが全然わからないわけですが、私どもが大臣に期待している、国民が大臣に期待しているのは、大臣の意向というものが相当各方面に具体的にあらわれてくるものであるというように国民は受け取っているわけですが、この補償法の改正の質疑の引き続きの経過の中で、全く前法務大臣の決意とかあるいは国民に対する約束というものが今回さっぱりあらわれてこないとすると、いまあなたが、これからいろいろと質疑が行われて、そのたびに、そうだ、何とかこれをしなければならぬというような法務大臣の意見が、考え方が、大臣がかわると全く法務省には残されていかない。ということは、ここでやっていることはナンセンスだということになるわけです。それほど法務大臣とか大臣の立場というものは吹けば飛ぶような立場じゃないかと、そういうように思わざるを得ないのですが、その点ひとつ大臣からお伺いしたい。
 同時に、前回の四十八年の改正案の時点における前法務大臣のわれわれに対する確約について、法務省の方はどれだけそれを織り込んでいるか。先ほどの刑事局長の御答弁では、われわれから言わせると、法務大臣はああ言ったけれども実際の実務に携わるわれわれはそう簡単にいかない、だから不拘禁の者に対する補償は考えられないという御答弁でしたけれども、それならそれで、大臣はやめられたけれどもそういう記録が残っているわけですから、法務省としては前大臣の立場を重視して、実はかくかくしかじかで、大臣の各委員に対する確約については法務省としては取りやめるわけにいかないというような報告をなされて、今日に至っているかどうか。そういう点について局長の方からお伺いをしておきたいと思います。
#67
○政府委員(安原美穂君) 前回、白木委員御指摘の審議のときも実は私が政府委員でございまして、いまのようなお言葉のやりとりがあったことも知っておりますが、ただ田中大臣は、個人としてはお気持ちはよくわかるが、よく検討させるというのが法務大臣としてのお答えであったと思います。したがいまして、その後も検討を重ねてきたことも事実でございまして、その検討のあらわれの一つが、先ほど矢田部委員の御質問に対してお答えいたしましたように、広い意味での非拘禁補償の一環になるかと思うのでございますが、無罪になった者の拘束、不拘束を問わざる、訴訟に要した費用の補償制度を立法化すべきではないかという一応の事務当局の考え方のもとにいま法制審議会に御審議をいただいているのは、その検討のあるいは一つの進歩のあらわれであるというふうに御理解をいただきたいのでございます。
 なお、こういう広い意味での補償制度というものは、他の補償制度との均衡というものを常に考えていかなければならないことは、先ほどの高橋委員御指摘のとおりでございまして、現段階において、他の公権力の行使によるところの国民の受ける損失についての補償制度というものが、いまだ故意過失の場合にのみしかないという現状にかんがみて、非拘禁の場合において刑事補償をすることは現段階においては相当ではないという結論を、その後の検討の過程において得ておるということを先ほど申し上げたわけでございます。
#68
○国務大臣(稻葉修君) 私も、行政府にいまおりますけれども、国会議員でございますから、事務当局とはちょっとニュアンスの違った心持ちを持ちますね。しかも、田中伊三次さんの御答弁も承知をしておりますが、白木さん、とにかくあなた国民を思い、やさしい気持ちで言われるものですから、ついほろっとなって、そうやってしまうんですが、けれども、これはやっぱり最高裁事務当局等との打ち合わせの結果が現在ここまで来て、そうして費用については拡大するために諮問しているというところまで来たのですから、現在のところその辺のところでごしんぼういただきまして、なお検討を重ねてまいりたい、こういう気持ちでおります。
#69
○白木義一郎君 大臣の存在というものはどの程度のものかということを私は伺いたいわけです。
#70
○国務大臣(稻葉修君) それはきわめて重い存在でございますので、言動は厳に慎んで、大信は約せずということでまいりたい、こういう気持ちで御答弁申し上げている次第です。
#71
○白木義一郎君 大臣の私どもの質疑に対する答弁というものは、国民に対する大臣の責任ある発言だと思うのです。それがいつの間にか大臣がかわるたびにうやむやになってしまうのじゃ、口で重要な立場だと言うけれども、全くそれこそ党利党略の大臣じゃないかと、こう言いたくなるわけです。そこで、これから大臣がここで発言されたことがやはり法務当局に真剣に影響して、その大臣のお考えが何らかの形で、たとえ漸進的にでも国民の側に向いていくということを私どもは根気よく繰り返していかなければならない。局長が言われるのは立場上おっしゃっているわけで、安原さん自体の個人的な考えをお述べになるわけにいかない立場だということはよく理解しているわけでございますが、ですから、田中さんは二回目の法務大臣になられたときに、同じように同僚委員から、この前の検討するということはどうなっていますかと聞かれたときに、いや大臣になったときに様子を見たら、もうすでに改正案ができちゃっていたんだ、間に合わなかったのだ、微力でどうしようもなかったのだ、今後努力しますと、こういう答弁をされているわけですが、その努力がいまだに法務当局に響いていないように思うわけです。
 そこで、今後の大臣の決意とか発言というものについて、少なくとも当委員会と非常に御縁の深い大臣ですから、何か一つ業績を国民のためにつくり上げていただきたい、こう申し上げておきたいのですが、御決意を伺いたいと思います。
#72
○国務大臣(稻葉修君) 当委員会との因縁につきましてはまことに深いものがあることは同感でございますけれども、事は国民の権利保全の役所である法務省が、いまお話しになっているような無罪の判決を受けて、そうして国が誤ったのだから、たとえ不拘禁にせよ、精神的な打撃があるのに補償義務を果たさないというのはよくないじゃないか、こういうのでございまして、そういう点につきましては、国民も聞いておって白木さんの言うとおりじゃないかというふうに思う人が多いのじゃないでしょうかね。
 ところで、そういうことで田中さんもそういう御答弁をなすったわけですが、その後いろいろ、事は司法にも関係することですし、最高裁判所の事務当局等の意見も徴した結果、現在のところはそこまで踏み切るわけにいかないという結論になっておりますものですからね、私がここであなたに――もうまことに上手だからね、あなたは。だからついのめり込んで、そうします、こういう約束を仮にここでいたしまして、できなかったならば、なおさら国民に期待を持たせてひっくり返すようなことはしたくない、こういう気持ちで、現在のところは衆議を集めて検討した結果、結論はそうなっておりますというお答えをせざるを得ないのです。はなはだ遺憾ながらそれ以上にお答えができないわけであります。
#73
○白木義一郎君 それでは時間もございませんので、そういう問題についてはまた次の機会に譲るとしまして、一つ二つ具体的な問題でお尋ねします。
 第二条の第二項に、現行法によれば、死刑確定者が拘禁中に死亡し、その後再審により無罪の裁判を受けた場合、身柄の拘束を受けたことを対象とする補償のみにとどまるが、死刑が執行された場合と比較してあまりにもこの第二条二項の法律は無慈悲を感ずるのですが、この点どうお考えでしょうか。つまり死刑が確定、受刑中に途中で死亡されて、後で再審になって無罪になる。そうすると、この二項のとおりであると、亡くなった時点からさかのぼって補償をする。ところが、実際はもし生きていたら、無罪の判決が出るまではこの人は死刑囚としてずうっと拘禁されていかなくちゃならないわけなんです。ところが、その後無罪の判決がおりた場合は、この二項によりますと、亡くなった時点にさかのぼって拘禁された日数に既定の金額を掛けて補償をする、こういうふうに受け取るわけですが、その点いかがですか。
#74
○政府委員(安原美穂君) いま御指摘のように、死刑の判決を受けて死刑の執行前に死亡をした、そうして死亡後に再審の結果無罪であることがわかったという場合の補償の問題でございますが、これはあくまでも死刑というものを執行はいたしておりませんので、第四条のような補償の対象にはならなくて、いま御指摘のように第二条第二項によって死亡の時に無罪の裁判があったものとみなす。
 これは無罪の裁判を受けた者に請求権を与えるという考えでございますので、死んだ者について、その後に再審の結果無罪となった場合に、生きておらないということでは請求権の発生のしようがございませんので、第二条第二項で死亡の時に無罪の裁判があったものとさかのぼってみなすという、いわば手続上の請求権を死んだ者にも残しておくという意味での補充的な規定でございまして、それは、したがって、いつ無罪の裁判があったかということで請求権をここで発生させるための規定でございまして、要するにその時から相続人に補償の請求権は移っていくというための、死亡した者のための請求権を相続人に譲り渡して受け継がせるための規定でございまして、基本はいまのような場合の補償は、死刑の執行の場合におきましては、判決が確定後刑務所に拘留されていることはいわば未決勾留と同じような考え方でございますので、死亡するまでの拘留につきまして刑事補償の基準日額による補償がなされるというのがこの解釈でございます。
#75
○白木義一郎君 私が刑事局長の立場だと当然そういうように言わざるを得ないと思う、法律に基づいて。それで、憲法十七条ではこういう請求の権利を認めている、こういうことですから、そこにおわび料という考え方、とらえ方、まるで正反対なところが出てくるわけです。
 これで私の時間もございませんので、大臣に申し上げておきますが、この第二条の二項は、私どもはいずれ死刑に――死刑になるのは死刑囚だけじゃないわけです。私たちも生まれたときからもう死刑囚みたいなものなんです。あしたかわからん、今晩かわからんのです。しかしそれは、法律的に見ますと死刑執行された時点でということになるわけですけれども、この第二条二項では、いずれ死刑執行されるであろうその途上において亡くなる。亡くなって後から再審の結果、相当日がたったとしても、後日無罪の判決が出る。そうしますと、法律の上から言うと、憲法第十七条にこういう権利を認めているから請求をしろ。すれば、この亡くなった時点、いま局長から説明があったような考え方ですね、ここから以前の拘禁中の補償をする。これはもうそのとおりだと思うんですよ。しかし、こっちの立場に、あるいは国民の側に立ったら、それがなければ刑務所の中で死ななかったかもしれない。そんなもろもろの被害があるわけです。にもかかわらず、途中でおまえさんは死んじゃったんだから、この時点で無罪が判明したという解釈をすべきである、だからここからさかのぼって何日間の、幾らの補償をすればいいんだというようなことにわれわれはどうしてもとらざるを得ない。
 こういう点をあらゆる機会に改めていかないと、まあわれわれ野党は、党利党略の立場からいえば、こういう意味の法律が適用されている間はだんだん国民は自由民主党から離れていく。離れたのはこっちへ。その時点でわれわれは何とかしてこういう無慈悲な解釈ができる法律は、民衆の立場に立った思いやりのある法律に少しでも近づけていかなければならない、そのチャンスが回ってくるということになるのですが、きょうのところはこういうこともあるんだということを、御承知だろうと思いますが、大臣のお耳に入れて、あとは次の機会に譲りたいと思います。
#76
○橋本敦君 今回の改正法案の内容につきまして、金額の算定なりあるいは金額それ自体といったことも含めて、かなり改善すべき問題点があるということについては、矢田部委員その他から御指摘がありましたので、大臣も改善に努力するということですから、その点については質問を繰り返さないで、その他の点についてお伺いしたいと思います。
 まず最初に、実際の実情を伺いたいのですが、第一点は、最近の刑事補償の事例から、いままでの金額でいきますと最高額は日額二千二百円ですが、この最高額が適用された事例が全請求件数の中で何%ぐらいになっているか、これを最近の事例でお示しを願いたいと思います。
#77
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 私からお答えいたします。
 昭和四十八年に改正になったわけでございますが、昭和四十八年に改正法を適用された事例は九件でございますが、そのうちで、最高額二千二百円というのは五件でございます。したがいまして五五・六%。それから四十九年に新法が適用されたのが五十七件で、そのうち最高額が適用されたのは十六件、二八%でございます。
#78
○橋本敦君 最低額の方はどうなっておりますか。四十八年、四十九年度で結構です。
#79
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 新法の適用された時点で最低額というのは、七百円というのが一つございまして、最低額の六百円というのはございません。七百円が一件でございます。
#80
○橋本敦君 六百円はないですね。
#81
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) はい、ございません。
#82
○橋本敦君 私がこれを伺いました趣旨は、六百円以上二千二百円という場合でも、今度新たに改定になって八百円以上三千二百円以下という場合でも、この基準自体が、最高額をとってみますと、矢田部委員も指摘しましたように、わが国労働者の平均賃金日額に比べてはるかに低い。その低い最高限度の中で、最高額が適用される実際の裁判所の適用が、いまのお話で伺いますとばらつきがありますけれども、四十九年の場合、たくさん請求があった中で三〇%に満たない、こういう実情になっていますね。
 私が心配をするのは、法改正における最高限度額それ自体が低いのではないかという問題があるその中で、この最高限度額が適用される事例が五〇%にも満たないという問題が起こってくる。なぜそういう問題が起こってくるかという問題ですが、これはこの刑事補償法の四条の規定で、適用する裁判所の裁量に際しての一応の基準が明示されているわけですね。この基準が明示されている、その基準に基づいて裁判所が裁量で認定なさるというこのプロセスの中で、実はこの最高限度額それ自体が国会でも不十分だという論議があり、労働者一般の平均日額から比べても最高額それ自体がかなり低いんだということの認識が、裁判所自体には的確になかったのではないだろうか。むしろ、四条できめられている基準が最高額を減らすマイナス要因として働いているというような要素があるのではないだろうか。そうなれば、基本的人権を保障するというたてまえでのこの刑事補償法本来の目的が、裁判所の裁量と実際の認定を通して、事実上低く抑えられていくという問題がやっぱり問題にならざるを得ない、こういう問題があるように思うのですね。その点について千葉局長の御意見はいかがでしょうか。私はそれを心配しているということです。
#83
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 実際の適用例を見ますと、昭和四十九年、先ほど申し上げました五十七件でございますが、一番低いのが七百円一件、それから千二百円が一件、千三百円が五件、千五百円が十六件、千八百円が二件、二千円が十六件、そして最高の二千二百円が十六件、こういうふうにばらつきがございます。裁判所としましては、明らかに二千二百円以上の損害があるいは慰謝料を含めて補償すべきだというものは、喜んで二千二百円出しているわけでございまして、それより低いというのは、やはり四条に書いてありますようないろいろな要素を慎重に検討した上でやっているというふうに思われます。したがいまして、こういうばらつきがあるということは、慎重にむしろ審査して、マイナス要因、低く査定しよう、そういうことではないのではないかというふうに確信しております。
#84
○橋本敦君 この裁判所の金額裁定に不服の場合は抗告ができますね。その抗告の結果、最初の裁判所の認定判断が覆されて、さらに高額の補償をすべきだというようになった事例はありますか。
#85
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) ごくわずかでございますが、ございます。しかし、私どもが把握しておりますのは四十四年以降四件ぐらいございますが、六百円という裁定のものが千円というふうに直っている、あるいは九百円というのが千三百円に是正されている、そういう例が四件だけございます。
#86
○橋本敦君 だから、制度的には最高限度額を一応決められて、それいっぱいの認定をすることも裁量によって可能であるし、四条の基準自体は不当だと私は思いません。しかし実際は、一般社会的に見て最高限度額それ自体が低いという論議がある中で、裁判所の実情はいま言ったように、最高限度額はこれは五〇%にとうてい満たない状況です。抗告によるという手続があるにかかわらず、更正された事例が十年間でわずか数件しかないということなんで、実際はこれが本当に国民の役に立っているかどうかという点について、私は裁判所の積極的な姿勢を要望しておきたい。ここで幾らこれでは不十分だという論議をしましても、この国会論議が裁判官の中に本当にやっぱり反映できているか、これは私疑問を持っているという意味ですから、千葉局長に、法務委員会での大方の論議を反映していただくようなこともひとつ検討願いたい、これはお願いしておきます。
 それからもう一つは、この刑事補償の請求をするそのこと自体がきわめて少ないという問題があるんですね。たとえば私の手元には、三十四年に憲法調査会事務局が刑事補償法関係で、これは憲法四十条に関連して憲法問題調査会で議論をしているわけですが、そこで調査した資料を検討しますと、昭和二十七年から三十二年までの六年間に、一審で無罪の判決を受けた者についてどれくらい刑事補償請求がやられているかといいますと、各年度六年間平均してわずかに三三%なんです。三三%。ただし、この調査会の資料では注釈がありまして、これは一審判決で無罪を受けた者に対する百分比ですから、正確に言えば、無罪判決の確定した者に対する百分比をとらなければなりません。そういう意味での正確さの問題はありますが、きわめて低いということが、稻葉法務大臣も委員である憲法調査会ですね、ここの刑事補償法の問題のところで議論されている。なぜこんなに低いのだろうか。これについて大臣、なぜこんなに低いとお思いになりますか。請求がこんなに低い。無罪になった人がわずか三十数%しか請求しないのはなぜだろうか。この原因、いかがお思いでしょうか。――千葉刑事局長で結構です。
#87
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 統計的な関係を少し申し上げたいと思いますが、正確な統計は必ずしも私ども把握できないので、若干の推計が入りますが、通常第一審限りで無罪の確定した事件、そして刑事補償は拘禁が前提でございますので、そのうちで受理時に身体の拘束された者の比率をまず出してみますと、四十七年と四十八年の二年平均で地裁では四一・七%、簡裁は四・五%、これは拘束率でございます。で、地裁と簡裁の言い渡した無罪判決が上訴審を通じまして確定した人員が、地裁が三百九十、簡裁が三百四十七。そこで、この数に先ほどの比率を掛けますと、一応無罪の第一審判決確定人員のうちで補償請求が可能な人員は、推定ですが、地裁は百六十三人、簡裁十六名でございます。
 そこで、四十七年と四十八年に補償請求をした者のうちで、この地裁、簡裁の言い渡した無罪判決の確定を理由とした者は、地裁が九十八、簡裁が六名。したがって、補償可能な人員のうちで実際に補償請求した者の割合は、地裁で六〇・一%、それから簡裁で三七・五%、平均しますと五八・一%というふうになるわけでございます。
#88
○橋本敦君 憲法調査会の資料といま局長がおっしゃった資料とには開きがあります。これは統計資料のとり方に差があることは私も認めます。しかし、いずれにしても無罪を確定された拘禁者が、いまの局長のお話でも平均して五八%程度しか請求していない、こういうことなんですね。この原因はどういうところにあると局長お考えでしょうか。これが私の質問の第二です。調査をされたことがあるかないかで結構です。
#89
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) まず第一に考えられますのは、無罪とされた被告人のうちで、身体を拘束されないで裁判を受けた者がずいぶん多い……
#90
○橋本敦君 それは問題にならない。
#91
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) ですから、それは入ってこないわけでございますが、それから短期間の拘束に終わった者も相当数あるだろう。そうしますと、それは補償の請求をしない者が多いだろうというふうに思われます。
 刑事補償の請求は、御承知のように特段の手続は要りませんので、場合によりますと口頭でも可能なわけでございまして、手続上に困難があるというふうにも考えられません。かつ、御承知のように弁護人のついている率は九〇%から九五%に達しておりますので、弁護人の援助あるいは説明を受けないということもないだろうと思われます。やはり無罪の確定、裁判を受けたいというそのこと自体ですでに満足する、そういう被告人も多いのではないかというふうに思われまして、その正確な原因というのは私ども特別の調査をしたことはありませんですが、恐らく本人が請求をしないでよろしいというふうに考えているのではないかと、かように思います。
#92
○橋本敦君 いずれにしても、その原因はまた少し議論をしますが、せっかく基本的人権を保障するたてまえで作られているこの制度が、いま言ったように請求率が低いということ自体は、憲法の原則なりこの制度のたてまえから見て好ましいことではない。これは局長、同感だと思いますが、いかがですか。本人が請求しないのだから幾ら低くてもよろしい、こうお考えですか。やっぱり好ましくないと私は思います。
#93
○最高裁判所長官代理者(千葉和郎君) 制度を知らないでということであれば、確かにおっしゃるとおりだと思います。そういう意味では、完全に制度を知っている者ばかりだというふうにも言い切れないと思いますが、しかし被告人の中には、確かに私ども裁判で無罪をやって、その後で弁護人に聞いてみますと、いやもう無罪を受けたので結構だ、道義的にはむしろ恥ずかしいぐらいなんで、わざわざ請求までしたくはないとはっきり言う者もありますので、それはどちらの率が多いかということは必ずしも言えませんですけれども、しかし、制度を知らないという者がいるとすれば、それはやはり反省しなければいけない、かように思います。
#94
○橋本敦君 いま制度を知らないというお話が出ましたが、確かに知らない人は多いのです。私も弁護士をやっていましたから、それは経験があります。たとえば無罪になれば一般新聞紙に公告をしてもらえる、この制度がありますね。その公告が出たところで、虫めがねで見なければわからないようだし、その文言も、法律を知っている者でないとわからないような名誉回復処置ですよね。こういう制度があるということは、なかなか一般の人は知らないですよ。そういう実情があることは事実です。そこで私は、この問題についての原因の一つは、このような刑事補償制度があることも知らない人がいるということが一つはあるという問題、これが第一です。
 第二番目は、憲法調査会の中でこの原因について議論されている記録を読んでみますと、真野先生がこうおっしゃっているんですよ。実際的のことを言うと、刑事補償の請求をして、それが実現するまで非常にめんどうな手続が要って何回も足を運ぶ。書類が不備だというのでまた出さなければならない。交通費がかかる。そうすると、二千円や三千円もらうというのはかえって経済上、これは得か損か問題になってくる。タクシー代も出てこないというようなこともあり得る。こういうことも請求する意欲をそいでいるのじゃないかと、憲法調査会で議論されている。
 私は、補償金額が低い場合はこの問題が起こると思いますよ。起こらないという保証はないです。拘禁が三日で済んだ。三日でも権利として主張できる。だけれども、その三日分の権利を、最低日額で今度改正になった八百円でも、二千四百円にしかならない。タクシーを探して行けば半分以上吹っ飛ぶんです。おわかりでしょう。だから、補償額が実態的に社会的に見て低いということも請求する意欲をそぐ原因になる要素はありますよ。お認めになりましょう。だから本当に請求額が低いというのは、いま局長が言ったような、本人がもうよろしいという請求権を放棄するような意思ということは、単純に考えてはいけない。原因を分析するのはやっぱり国民のためですよ。そういう観点で裁判所においてもあるいは法務省においても、この請求が、請求できる権利のある人によって一〇〇%近くまでなされるように持っていってやる責任が私はあると思うのです。
 そこで一つ提案をするのですが、第一に、知らない人があるということはありますから、私はこれは無罪の確定判決をした裁判所が、あるいは検察庁でも結構ですが、無罪判決の告知と同時に、あなたには刑事補償の請求をする権利がありますということを告知をしてあげる、そういう手続をとるという親切さがあってよいのではないかと思うのです。たとえば行政不服審査法では、必ず抗告する不服庁を教示するという制度ができましたよね。これは抗告する権利を保障するためです。だから、これについてはそういう制度があるのですよということを被告人とされた人に告知をするという手続を、事実上です、こんなのは法律でつくらぬでいいです、考えてみてはどうかと私は思いますが、この点について大臣いかがでしょう。こういうことは考えられぬものでしょうか。
#95
○国務大臣(稻葉修君) 大変いいことだと思います。告知するということは大変親切でいいことだと思います。
#96
○橋本敦君 したがって、それは検察庁が告知をなさるか、あるいは最終裁判所が書記官を通じて告知をしてやっていただくか、判決言い渡しの場合は二週間以内に控訴状等を裁判所へ差し出すことができると必ず裁判官は告知なさっていますね、あれと同じような方法で告知をしてやっていただくか、これはひとつ裁判所と法務省とで協議をなさって、いい方法があれば弁護士会に対して三者協議の際に協議していただくということをお願いしておきましょう。
 そして第二の問題は、事実上金額が低いために放棄するというようなこともあり得るということは、これは事実ですから、この改善については大臣おっしゃったように、今後なお改善するように努力をしていただきたい、こういうようにお願いしておきたいと思います。
 それから第三点の、次の質問ですが、先ほど安原刑事局長が、心神喪失者の場合についても憲法四十条のたてまえから言えば、これは補償するというたてまえが正しいという趣旨の御発言がありました。一方、被害者とされた人についての補償は、刑事災害被害者の補償法ということで、社会党、公明党、共産党、それぞれ努力をする方向で検討をし、法務省も検討していただいておりますから、被害者の方の補償は別問題として、無罪とされた者に対する補償は当然やっぱり心神喪失、世の中で言う夢遊病者といわれる人の場合でも、その人が無罪を受けるべき立場にあったわけですから、しかも拘禁されたわけですから、当然補償をするというのが憲法の精神だ、これは私は変わらないと思いますが、法務大臣のお考えはいかがでしょうか。安原刑事局長のお考えは聞きました。
#97
○国務大臣(稻葉修君) 先ほど安原刑事局長が答弁したとおりに私も思っております。
#98
○橋本敦君 私も、憲法四十条の精神それ自体はそうだというように考えております。
 そこで、稻葉法務大臣にこれに関連してお聞きをしたいのですが、自主憲法制定国民会議がつくった、この「漫画の憲法」というところに問題が書いてあるのですよ。これを出しますと、共産党の橋本はしつこいな、また稻葉問題かと、こうなっちゃいけませんから、私はそれはきょうは聞かないんです。その問題はきょうは絶対聞きません。この本の中に、これは憲法に関する本ですが、「漫画の憲法」「面白い憲法早わかり」ということで、「憲法よいところ 悪いところ」ということで出されているんです。私は読んでみましたが、よいところは一つもなくて悪いところばっかりなんですが、その中に、この憲法四十条に触れまして、漫画まで書きまして、「過保護じゃないの?」「人を殺した夢遊病者」「どうもごめいわくをかけました。無罪ですので補償金をお受けとり下さい」こう言って官憲が補償金を渡している漫画があるのですね。その後ろで「しかしどうもおかしな話だな」、こういう漫画があるのです。そしてこれについて「刑事訴訟法等で取り上げればよい事項を憲法で決めたので矛盾を是正できないのです。」こう書いてある。憲法四十条の規定がおかしいんだ、こういう批判をしておるわけですね。
 これは私、なぜ法務大臣に聞くかといいますと、自主憲法制定国民会議の決算報告によりますと、この漫画が四十九年度で、一部百円ですが、四万五千部ぐらい売れているのです。その収益金が四百五十一万二千三百三十円。これは収支の報告書ですね。大臣もごらんになったと思います。だれがお買いになったかといいますと、こう書いてあるんです。「稻葉修先生、渡辺美智雄先生、他団体より」と、こう書いてある。ごらんいただいたらわかりますけれども。稻葉先生つまり法務大臣、この本をずいぶんたくさんお買いになって、あっちこっちお配りになっているのじゃないかと私は思うのですよね。四百五十一万、稻葉先生……。
#99
○国務大臣(稻葉修君) 買ったというんですな、買い上げですか。
#100
○橋本敦君 ええ、買い上げですよ。だから稻葉先生という名前が出てくるので、他団体は名前がありませんが、よっぽどたくさん大臣お買いになったのかなと私思いまして、大臣の見解に反し、憲法で局長がおっしゃり大臣がおっしゃる見解に反することが書いてある本を、あなたの意見と違うことが書いてあるこの本を、大臣がたくさんお買いになってあちらこちらにおまきになっておるとしたら、これまた問題であるということで私はお伺いするのです。これは何部ぐらい大臣お買いになって、どうされておるんですか。
#101
○国務大臣(稻葉修君) さあ、わからない。
#102
○橋本敦君 わからない――。そうですか。笑いながらわからないとおっしゃるけれども、収支報告書には大臣がお買い上げになったことが書いてありましょう。お買い上げになったことは間違いないですか。
#103
○国務大臣(稻葉修君) それはよく私はわかりませんけれども、それからその「漫画の憲法」を全部読んでいるわけではありませんのですがね。それから、買ってどこへ配ったかということも、私いまここで御答弁申し上げる確たる記憶がありませんです。
#104
○橋本敦君 買ったことは間違いないですね。
#105
○国務大臣(稻葉修君) と思います。たくさん買ってもらいましたわけですからね、自主憲法期成議員同盟の皆さんにはお買い上げを願いますという処置をとったという記憶があります。だから、私もその一員として買い上げたという記憶があります。
#106
○橋本敦君 そこで大臣、法務委員会では憲法四十条について、刑事補償について正しい見解をお述べになっている。結構ですよ。ところが、それと反することを書いてある本をあなたは買って、自民党の自主憲法期成議員同盟の皆さんに買ってくださいとお願いして買ってもらっておる。これはおかしいでしょう、こういうことをなされば。おかしいでしょう。どう考えてもおかしいですよ。すべきでないと私は思うんですが、いかがでしょう。あなたは憲法問題で私が議論したときに、自主憲法制定国民会議が行き過ぎであれば私は押さえるんだ、正すのだとおっしゃいましたね。正さにゃならぬと思うんですよ、正さねばならぬ。いかがでしょう。
#107
○国務大臣(稻葉修君) また憲法論議をするあれではないんですが、私はさっき、憲法四十条が現行憲法である以上はこれを守らにゃいかぬという立場で、心神喪失者の無罪判決に対する補償も、当然現行憲法ではその中へ入りますと。ただし、この憲法四十条がそれでいいか悪いかということはまた別問題ですということなんですから、その点は間違わぬようにしておいてください。またしかし、それになると、それじゃ憲法四十条は改正すべきだという意見を持っているかどうかというようなことになりましてね、言動を慎むことになりませんから。
#108
○橋本敦君 大臣ね、四十条は守らにゃならんです、そのとおりですよね。守らねばならぬという立場で、安原刑事局長のお示しになった見解は正しいとおっしゃったでしょう。その正しいということは、憲法を守る立場でおっしゃったのです。そうでしょう。ところが、四十条はこんなことを書いておるからぐあい悪いんじゃ、というようなことを書いているような本をお買い上げになって、議員同盟の皆さんに読んでくださいということで買ってもらうという行為は、いいですか、憲法を守る立場でおっしゃっていることと、それからそっちに行ってなさっていることとは矛盾が起こるんですよ。おわかりでしょう。法務大臣である限り、いささかも矛盾だと受け取られるようなことはしない方がいい、これが言動を慎むということじゃないですか。ならば、これはもうこういうことはやめると一言おっしゃれば済むのですけれどもね、いかがなものでしょう。
#109
○国務大臣(稻葉修君) 私いま法務大臣ですけれども、それは法務大臣になる前のことで、そして憲法改正しないということを言明している三木内閣の閣僚の一人法務大臣である以上は、改正論をぶち歩くということは、三木内閣の政治姿勢を疑わせるからやらぬ方がいいという意味で言動を慎むわけですな。で、その法務大臣になる前に改正意見を持って、そしてこういう点はどうもおかしいから改正したいと、こういう言論をやることは、これはやっぱり九十六条がある以上は許さるべき問題だ。だから、それは悪いからやめろ、こう言われても、もうやっちゃってしまってですね、そしてそれは法務大臣になる前で、取り消しようがないんだね。
#110
○橋本敦君 やっちゃってどうにもしようがない――。わかりました。それで、いまは法務大臣から憲法四十条の立場で刑事補償についての見解、これは守るとおっしゃったが、しかし意見を持つのはまた自由だから、法務大臣をやめたら、やっちゃったこれをまたどんどん皆さん読んでくださいということでやるということですな。そう聞こえますわ。あなたの見解はこれに反対だと、おっしゃらぬからね、この見解は。いま言っていることは法務大臣として憲法を守る立場で言っているんだ、こういうことですからね。これはぼくは、あなたはもう大臣をやめられたらぐあい悪いから、いつまでも大臣でおって、やっぱり守る立場でやってもらわなければならぬ。
#111
○委員長(多田省吾君) 本日の審査はこの程度にとどめます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後十二時十三分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
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