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1974/06/24 第75回国会 参議院 参議院会議録情報 第075回国会 法務委員会 第14号
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1974/06/24 第75回国会 参議院

参議院会議録情報 第075回国会 法務委員会 第14号

#1
第075回国会 法務委員会 第14号
昭和五十年六月二十四日(火曜日)
   午前十時五分開会
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         多田 省吾君
    理 事
                大島 友治君
                高橋 邦雄君
                白木義一郎君
    委 員
                福井  勇君
                町村 金五君
                中村 英男君
                矢田部 理君
                橋本  敦君
                下村  泰君
   国務大臣
       法 務 大 臣  稻葉  修君
   政府委員
       法務大臣官房長  香川 保一君
       法務省民事局長  川島 一郎君
       法務省刑事局長  安原 美穂君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        二見 次夫君
   説明員
       警察庁刑事局参
       事官       森永正比古君
       行政管理庁行政
       監察局監察官   鈴木 昭雄君
   参考人
       弁  護  士  田邨 正義君
       慶応義塾大学教
       授        宮沢 浩一君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提出、
 衆議院送付)
○検察及び裁判の運営等に関する調査
 (登記事務及び登記所の統廃合に関する件)
 (三億円強奪事件に関する件)
 (宅地建物取引業違反問題に関する件)
    ―――――――――――――
#2
○委員長(多田省吾君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 刑事補償法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本法案について参考人から意見を聴取し、質疑を行います。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 皆様には、御多忙中のところを御出席いただき、まことにありがとうございました。刑事補償法の一部を改正する法律案について、皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、本案審査の参考にしたいと存じております。
 つきましては、議事の進行上、田邨参考人及び宮沢参考人の順で、お一人二十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答え願い光いと存じます。
 それでは、まず田邨参考人にお願いいたします。
#3
○参考人(田邨正義君) 御紹介いただきました田邨でございますが、私は弁護士として十数年、刑事弁護を含めまして実務に携わってまいりました立場と、それから私どもの所属しております日本弁護士連合会では、かねてから、今回は特別に決議はいたしておりませんが、刑事補償金額の引き上げについては何回か要望をいたしております。さらに非拘禁補償あるいは費用補償について、昭和四十年には理事会におきまして、これの実現を要望する決議をしているという事情もございまして、そういう立場から意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、補償金額の点でございますが、政府案によりますと、拘禁中の補償につきましては八百円ないし三千二百円、これは一日当たりの金額でございますが、ということのようでございます。それに対しましては、上限を少なくとも六千円ぐらいまでに引き上げるべきではないかという御意見もあるやに承っております。
 この拘禁中の補償につきまして、一日当たり幾らが適当かということは絶対的な基準があるわけではございません。しかしながら、拘禁中は少なくとも本人が一切稼働はできなかった、収入を得ることはその間は全くできなかったということは明白でございますので、その意味では、やはり労働者の平均賃金というようなものが一つの目安にされてよろしいのではないかというふうに考えます。その点で、下限はともかくといたしまして、上限につきましては、現在の労働者の平均賃金を一日当たりに換算しますと六千円ないし七千円になるかと存じますが、そのあたりを一つの目安として考えるということが、補償の内容の改善という点では望ましいのではないかというふうに考えております。なお、死刑につきまして一千万円という改正案の提示がございます。これも、その額そのものの当否は別といたしまして、考えまするに、たとえば自賠責保険などがやはり一千万という数字が出てきているわけでございますので、その辺のバランスから申しましても、やはり拘禁中の補償も、自賠責保険などではこれは休業に当たるわけでございますが、休業日数一日につき上限を七千円というふうに引いておりますが、そのあたりも考慮してよろしいのではないかというふうに考えております。
 それから次に非拘禁中の補償の問題、あるいは費用補償の問題でございますが、これはかねてから日本弁護士連合会でも要望している点でございますので、この際に触れさせていただきたいと存じます。
 これにつきましては、なぜこれが必要だと考えるかということにつきましては、若干実例を申し上げた方がよろしいかと思います。これは私が経験したというよりは、国家賠償の請求事件の判決の中にあらわれた事例でございますが、三十五年の八月ごろ起きた事件でございまして、箱根の山の中を友達とお互いに一杯きげんで歩いておって、その間に二人とも足を滑らしてがけ下に転落をした。そのときは大したことなくて二人とも自宅へ帰ったわけでございますが、その日の夜に、連れの友人が頭蓋内出血ということで死亡をいたしました。実は、この本人が柔道五段という腕前を持っていたことと、それからどうも死因については柔道で投げ飛ばされて死んだのじゃないかというようなうわさが流れましたために、警察が嫌疑を持って捜査を開始した。本人は終始否認をしていたようでございますが、警察が依頼しました鑑定の結果、どうも死因になった頭蓋内出血というのが、投げ飛ばされて地面で頭を打ってできた傷ではないかというような結論が出たものですから、それに基づいて検察官が起訴をした。一審はどうも有罪だったようでございます、二審まで争いまして、結局無罪になった。鑑定の結論がひっくり返って無罪になったという事件がございました。これは無罪が確定するまでに起訴されてから三年かかっております。
 この無罪が確定して間もなく国家賠償、つまり検察官の起訴が誤りであった、過失があったという理由で国家賠償を求めた訴訟を起こしたわけでございますが、このときに裁判所は、やはり捜査がずさんであったという理由で請求を認めております。そのときの損害として裁判所が認めたものを見てみますと、弁護料、これが三十五年当時でございますが、約四十五万円かかったということを認めております。そのほかに慰謝料として五十万円ほど認めまして、合わせて九十五万円ほどの賠償を命じたという判決でございます。
 ここでこの事件を見まして、これはほんの一例でございますが、感じますことは、無罪が確定するというまでにこの事件で三年かかっている。比較的簡単な事件でございますが、それでも三年はかかっております。逆に、私ども実務家から見ますと、こういう無罪を争って最後に無罪を確定させるというまでに三年ぐらいで済むというのは、どちらかというとむしろ短いとさえ言っていいと思います。それから弁護料として、少なくとも実費として四十五万円はかかっている。これは単に報酬だけではございませんで、たとえば、沼津の事件でございましたようで、東京まで通う旅費とか宿泊費、それから箱根の検証に行く場合のいろんな費用というような実費も含めてのようでございますが、これだけかかっている。これに対して一体刑事補償が幾ら出たかということになりますと、四万一千六百円しか出ていないわけでございます。つまり、このケースでは幸い国家賠償が認められましたけれども、その刑事補償だけであれば実費の十分の一にも満たない補償で終わらなければならなかったというケースでございます。
 これは実際上、刑事補償とそれから無罪になった本人の支払った経費とがいかに違うかという例として申し上げたわけですが、そう申し上げますと、それでは不服があれば国家賠償を求めれば、全部の損害がてん補されるからいいではないかという考え方があろうかと思います。ところが、実際にはこの国家賠償で最終的に完全な賠償を受けるということは大変困難でございます。
 数字的に申しますと、明確な統計は私手元にございませんが、聞くところによりますと、大体ここ数年間、一審で無罪判決が出る件数は年間四百から六百件と言われております。そのうち検察官が控訴された事件というのが、九十件から大体百三十件ぐらいの間にあるようでございます。さらに、控訴した結果一審どおりそのまま無罪が認められたというケースが、控訴事件の三〇%を占めているというふうに言われておりますので、逆算をいたしてまいりますと、年間約三百件近い無罪事件が確定をしておるというふうに見てよろしいかと思います。これに対して現実に国家賠償を求めたケースがどのくらいあるかと申しますと、これも私自身正確な統計を持ちませんが、ここ十年間ぐらいの間の判例等を調べますと、私の目についた限りでは十五件前後しか請求のあった事件はございません。そのうち結果的に国家賠償が認められたというものは、四、五件でしかないわけでございます。恐らく十年間で、年間三百件といたしますと、少なくとも数千件の無罪判決はある。これに対して最終的に国家賠償が認められるというものは、もう四、五件というきわめてわずかなものである。
 こういうふうに、国家賠償を求めるケースが非常に少ないということは、ではこういう無罪になった被告人というものが、そういう権利の上に眠っておって、権利を行使しないためかということになりますと、一概にそうは言えないように思われるわけでございます。先ほど御紹介したケースは幸いにして国家賠償が得られたものでございますけれども、これでも一審の国家賠償を命ずる判決を受けるまでに約二年かかっております。そのために、新たに弁護士を依頼して訴訟を起こしているわけでございます。
 これは結果的に認められたから、それでも労は報われたわけでございますが、たとえば警察官の拷問によって、うその自白をさせられた。その自白に基づいて最初は有罪の判決を受けていましたが、最高裁まで争った結果、警察官の拷問の事実が明らかになって、最終的には逆転して無罪になったというような現実の事例もございますが、この場合も、国家賠償を求めた結論といたしましては、警察官の拷問の事実は確かに違法であって、それについては賠償を命ずるべきであるけれども、検察官が起訴をするのについては、この拷問の事実を知らなかったの、だから起訴自体には違法はない、過失はないという理由で国家賠償が否定された。これはもう現実に裁判例にそういう事案がございます。ということで、国家賠償を請求しても、最後に検察官の過失というものを裁判所に認めさせるということは大変な努力と、それから年月を要する。さらに、それも結果において認められるとは限らないというのが、率直に言って現状であろうかと思います。
 したがって、無罪になった被告の損害というものを現実に補償する手段としては、この刑事補償法を活用する以外にはないというのが実情かと思います。そういう意味で、刑事補償の範囲というものをぜひ拡大する必要があろうかと考えている次第でございます。
 ただ、この刑事補償につきまして、非拘禁補償あるいは費用補償という点まで補償内容を拡大するという点につきましては、たとえば無罪の中にもいろんな種類の無罪があるのではないかというような疑問、反論がないわけではございません。確かに無罪と申しましても、真犯人が出てきまして、もう本人は全く天下晴れて青天白日の身というふうな鮮やかな解決、ドラマチックな解決というケースは少ないわけでございます。先ほど御紹介しました箱根山中での転落事故というものでも、これは山の中の出来事ですから、芥川龍之介の「藪の中」ではございませんけれども、疑えば切りがないわけでございまして、真相は神のみぞ知るという点があることは事実でございます。しかしながら、本人の立場で考えてみますと、たまたま友達と歩いていて足を滑らした、それで死んでしまったというのがすべて自分の暴行のせいにされ、暴行による死であるということで、傷害致死ということで犯人扱いをされる。これは呼べど叫べど、なかなか検察庁も裁判所も認めてくれない。その間の苦痛をどうしてくれるんだという本人の立場を考えた場合には、やはり補償を考えていいのではないかと思うわけでございます。
 もちろん無罪の中にもいろんなニュアンスはございますが、そういうニュアンスの問題というのは、補償金額を決める際の裁判官の裁量によって妥当な結果を得ることは十分できるだろうと思います。何も、非拘禁中の補償を認めるといいましても、機械的に一律に金額を決める必要はないわけでございまして、ある枠の中で裁判所の裁量といいますかを認めてよろしいわけでございますから、その際、補償金額を決める裁判所が、その無罪に至る経過とか、あるいはこれにかかった期間の要否、あるいはその弁護士費用の相当性というようなものを記録に照らして十分調べて、妥当な結論を出すということは可能であろうかと思いますので、その点も非拘禁補償あるいは費用補償を認めることの妨げには決してならないものというふうに考えているわけでございます。
 簡単でございますが、終わります。
#4
○委員長(多田省吾君) どうもありがとうございました。
 次に、宮沢参考人にお願いいたします。
#5
○参考人(宮沢浩一君) 御紹介いただきました宮沢でございます。
 私は、先ほどの田邨参考人のように長いことこのような問題について研究をしたわけではございませんし、実務家でもござませんので、具体的な例などを挙げながらお話をするということは、はなはだ不適任だと存じます。そこで、考え方の筋道と申しますか、そういうものに立脚しながらこの問題を考えていきたいと存じます。
 先ほどの田邨参考人の御意見とパラレルになると思いますので、以下政府案、それからそれに対して予想し得る反対提案、この争点に沿ってお話をしてみたいと存じます。第一点は補償全額をどうするかという問題、第二点は非拘禁補償を認めるべきであるかどうかという問題、第三点は費用補償をどの程度認めるかという、この三つについてお話ししたいと存じます。
 考え方の前提といたしまして、この種の手続でもって精神的、物質的損害もしくは苦痛をこうむった者に対して補償を行うについて、真に適正な補償を受けるべき者に対してできるだけ補償がなされるべきであるという考え方が一方ではとられますけれども、他方、補償金もしょせんは国民の税金から支払われるものであります。したがって、タックスペイヤーの納得が得られない方法で補償はなされるべきではないのだという、別の考慮もこの場合当然働くだろうと思うわけであります。
 第二点といたしましては、刑事補償法もこれはもちろん憲法四十条を受けて制定された法律であることは、言うまでもないのでありますけれども、この制度自体も、やはり現行の刑事司法制度との兼ね合いでもって考えなければならないと存ずるわけであります。
 第三点といたしまして、補償を受けるべき者の社会階層、その者が犯したとされる罪種も多種にわたっております。したがって、刑事追訴を受け、被疑者、被告人となったことによる社会的地位の低下、これもかなり千差万別であると思われますので、法改正を行う場合に、適用の上公平が維持されるかどうかということを慎重に検討すべきであろうと存ずるのであります。
 第四点といたしまして、私どものさがといたしましては、法律的に筋道を立てて考える場合、やはりバランス論、ことに他の現行の法制度、民事法上あるいは行政法上の同種の補償制度とのバランスを考えなくてはならないだろうという配慮がございます。したがって、私の申し上げます意見は、どうしても法律的な配慮ということの枠を外れることができません。ですから、いわゆる政治判断を意識的に避けざるを得ないわけであります。それで、法制度を改正しようとなさる政治の衝に当たる方々は、高度な政治的判断に立って、真に救うべき者を救う制度として法制度の改正を考えようとなさるならば、それはそれで一つの立場だろうと思います。その場合にも、刑事補償法もまた先ほど申しましたように現行法秩序の枠内にあるのであって、法秩序全体から遊離した部分的な正しさだけを追求するということのないようお考えいただきたいと存じます。
 第五点といたしまして、最後に蛇足でありますけれども、刑事補償法の運用状況について、よく無罪となった者がこの制度を活用する例が少ないということを申されます。法改正のための論理的な布石としてそのようなケースが提示されるわけでありますけれども、この点につきまして、限られた事例からのアナロジイではなく、法制度の改正のために国会として実態調査をなさり、何がこの制度を生かしていないかという点について納得のいくデータを持って解明されんことを期待するものであります。
 以上の五点を前提といたしまして、先ほど申しました三つの点について簡単に私の考え方を述べたいと存じます。
 まず第一点、補償金額であります。
 政府案では、現行の六百円ないし二千二百円を八百円ないし三千二百円とする案であります。これに対しまして、千五百円から六千円という対案があるやに聞いております。この算定の基準といたしまして、私の知るところでは、政府案によっては、賃金とか、物価指数の係数を掛け合わせて現行の補償金額の上限、下限をそれぞれ計算し、いわゆるスライドさせているようであります。これに対する対案は、失業対策事業における最低賃金の日額を下限の基礎とし、上限については、労働省月別勤労統計を用いて平均月間給与額を計算の基礎に置いているようであります。
 私自身、かつて刑法改正などの仕事に携わりましたときにいつも感じたのでありますが、たとえば法定刑を引き上げるとかあるいは引き下げる、それをならして決めるというような場合に、非常にこの種の金額と申しますか、あるいは刑の幅というものを決めるのには、何か基準があるようでいて実は基準がないような、非常にむずかしい問題だということを自分自身も経験しております。
 私自身といたしましては、政府案の金額につきまして、上限、下限、確かに十分ではないと存じます。しかしながら、これもこれまでの制度との兼ね合いで考えるという法律家のさがといたしましては、補償金額を物価の上昇率にスライドさせて計算するという意味で、このような計算の方法は仕方のない線ではなかろうかという感じを持っております。しかしながら、最近の急激な物価の上昇とか、あるいは将来、もしかするとまた物価が上がるかもしれぬというような状況などを考え、あるいは上限についてはもう少し上積みするというようなことも考えられないわけではなかろう、この辺はフレキシブルに感じます。ただ、下限につきましては、私自身といたしましては、八百円の線はそのとおり抑えておいた方がよいのではないかと存ずるのです。
 その理由につきまして申し上げますと、現在の補償制度におきましては、違法行為をした者が責任能力なしとされた場合にも刑事補償を行っているという、まあ私の立場からすれば法の不備がございます。余談になりますけれども、私自身いま考えております被害者補償という問題についていろいろと議論をし、研究会などもしたことがございますが、たとえば公明党案にこの問題について触れるところがございました。それは同党の被害者補償案の最後のところで、心神喪失等責任阻却の理由により無罪の判決を受けた者にまで刑事補償金が支払われている点を改める必要があるという、そういう一項目がございました。私は、この提案はまことに妥当な考え方であると存じます。
 英米でもギルティ・バット・インセインという考え方がございます。ギルティではあるけれども責任能力がない、このギルティの場合には補償金の支払いはしないというふうに聞いております。さらに西ドイツで、一九七一年三月八日に刑事訴訟処分に関する補償法というものが新たに公布されまして、同年四月十一日に施行されております。この法律の第六条第二項第二号で、訴訟障害のある場合とともに、犯人が責任無能力の状態でその行為を犯したときには、補償金の全部または一部を排除することができるというふうに、裁判所にその種の裁量的な規定を設けることによって判断をゆだねているという例がございます。
 しかしながら、わが国の判例では、責任無能力の場合にも補償を認め、この場合、最下限の金額を支払っているという実情にあるようです。したがって、この点について排除規定を置かない限り、何となく割り切れないこの種の事案に対して、現行法のもとでは補償金を支払わねばなりませんので、金額はなるべく少ない方がタックスペイヤーとしては納得し得るのではなかろうかと考える次第であります。
 次に、死刑の場合の金額でありますが、私はこの千万円という金額よりも、むしろそれよりも多い、たとえば千五百万というような金額でもよいのではないかと考えます。それは、なるほどこの種の問題は希有なことであります。希有なことでも、しかし、国家が人の生命を奪うことは許されないわけであります。国家としてこのような起こるべきでない事態を起こしてしまったときには、十分に手厚い補償をすべきであるという意味で、私は千万という政府案よりもあるいは千五百万、そのぐらいの線を主張したいのでありますが、この立論の基礎は、私自身実は死刑廃止論者であります。死刑廃止がもしいますぐにできないとするならば、何らかの形で死刑の適用を慎重にしてもらうための一つの論理的な手段として、このような金額を大きく上げておくことがやはり心理的なプレッシャーになるのではなかろうかというはかない望みで、千五百万という説を申し上げたい次第であります。
 第二点の非拘禁補償の点でございます。
 この点につきましては、御承知のように、政府案では何らの対応策を認めていないようであります。なるほど憲法四十条の規定に、「抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたとき」という規定でございます。非拘禁の期間に対する補償は、この点、この規定からは引き出せないわけであります。もちろん、このような憲法の条文を盾にとって、この制度を非拘禁期間にまで広げる必要はないという固い解釈、いわゆる法実証主義的な解釈に固執する必要はないことですし、事実、この点の補償がないことによって、結局余り長期間でない身柄拘束期間の補償金としてスズメの涙ほどしか獲得できないので、無罪となった者も当然の権利行使をしない例が多いという実情があることもよくわかるのであります。私自身理想を言えば、いつの日か、ある程度の補償を認めることをなすべきでしょうけれども、しかし、この点については拙速を避けるべきであると考えるのであります。
 それには、法制度全体の仕組みからして、果たしてこれを認めることが合理的であろうか、一律に無罪とされた者の非拘禁期間を補償することで真に公平を担保することができるか、もし一律でないとするならばどのような要件を掲げてそれをしぼるか、これらの論点についてなお慎重に検討を重ね、他の法分野とのつり合いを考慮すべきであると考えるからであります。
 この点についていささか述べてみますと、拘禁された期間については、本来自由であるべきわれわれ人間がその意思に反して特定の場所に拘束されるのでありますから、その精神的、肉体的苦痛に対して金銭的補償をすることは可能でありますし、金銭による換算もある程度合理的にできるかと存じます。しかしながら、非拘禁の状態の場合に果たしてどのようにしてその損害を算出し得るか、技術的にかなり困難ではないかと存じます。その人の従事している職業とか、その人の社会的地位などの点でそう考えるのであります。
 この点について、たとえば同じ無罪と申しましても、先ほど第一点のところで申し述べましたように、違法ではあるけれども責任のない者の無罪の場合などはかなり疑問であります。また、たとえばこれは下村教授が提示されました具体例でございますが、親告罪である強姦事件で犯人を逮捕したけれども、被害者からの告訴がない、そこでやむなく犯人が所持していた短刀を問題として、銃砲刀剣等不法所持で起訴したところ、事後において携帯許可証を持っていたことが判明し、無罪となったという事案などの例に見られますように、実際事件の処理に当たって検察官の判断により立件をする場合、立証の関係で事件全体をすべて余すところなく訴追するとは限らず、この訴追技術上の配慮が後に無罪判決に結びつく場合もないわけではないようであります。
 このように、いろいろ考えてまいりますと、すべて無罪なるがゆえに補償をする、しかも、非拘禁期間についても補償をするということになりますと、真に補償をなすべき者に補償をするという制度目的、その本来の趣旨から若干疑問が残るのであります。
 現在の刑事訴訟法は、無罪の推定というたてまえをとり、それに応じて捜査権の行使にかなり制限が加えられております。できるだけ被告人に損害を加えないような配慮がなされております。確かに、場合によっては迅速な裁判の要請があるにもかかわらず、例外的に裁判の長期化という事態を生んでいる例がないわけではありません。この場合にも、事件の性質上やむを得ない事由で訴訟が遅延し、かつ証拠法の制限などによって無罪となる場合もないわけではないのであります。この場合、非拘禁期間を全部認めるのか、果たしてどの程度認めるのか、かなり技術的に困難があろうかと存じます。犯罪の種類によっては、起訴事実についても、たとえば強盗殺人と道交法違反とでそれぞれが無罪になったという場合、それぞれの精神的損害はきわめて大きいわけでありまして、この場合どのようにしてその非拘禁期間の計算をするか、たとえば定額に非拘禁期間を掛けるようにするのか、それとも、その額も事案によって計算し、それに非拘禁期間を掛けるのか、この辺のところで技術上かなりむずかしい問題があるのではないかと存ずる次第であります。
 ところで、この非拘禁期間につきまして若干申し述べたい点がございますが、社会的に名誉が傷つけられ、社会的に葬り去られ、休職を強いられ、精神的にも財産的にも不利を受けるということは確かに考えられるところでございます。このような事態が生ずることは、事実として否定し得ないところだろうと存じます。しかし、これも訴訟法のたてまえである無罪の推定との兼ね合いで、余り強調し過ぎることは疑問であります。しかも、この種の社会的なスティグマ、烙印は、法制度によって押されるよりも、どちらかというとマスコミにより情報化され、その情報が拡散することによる結果であることが多いのであります。つまり、法的制裁というよりも、ある意味では社会的制裁の行き過ぎという面がございます。これをすべて刑事補償法でカバーするということに合理性があるとは、私には考えられないのであります。
 第三点、費用補償であります。
 よく指摘されることでございますが、記録、調書などのコピー代が今日きわめて高い。したがって、これらの費用を補償する必要があるといわれております。確かにこの種の負担を考えることには合理性があります。しかしながら、その場合、現実に被告人が負担した費用といっても、弁護士の数による相違、それから費用を個人が負担したか、それとも組織がバックアップしたかなど、いろいろな問題がそこにありまして、事案によってまちまちなようであります。したがって、一定の線を引くことが果たしてできるか。たとえば一人分の弁護士の費用、その日当、かかった費用というふうに、一人というふうに計算するかどうか、この辺のところに技術的に果たして基準が明確にできるだろうか。もし法文の形で明確化できるとすれば、つまり法文として表現し得るならば、私自身は賛成したいと存じます。
 この点に関して、検察官上訴の場合の費用の補償を一審の無罪にまで広げる、これは原則として賛成したいと存じます。
 時間の関係で、さしあたってこの程度申し上げておきます。
#6
○委員長(多田省吾君) どうもありがとうございました。
 それでは、これより質疑に入ります。質疑のある方は順次御発言願います。
#7
○矢田部理君 参考人の方から貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。いまのお話を前提に、短時間でありますが、幾つかの質問をいたしてまいりたいと思います。
 最初に田邨参考人にお聞きしたいと思うのでありますが、田邨参考人の先ほどのお話ですと、刑事補償の上限を平均賃金を目安として考えたらどうかという御提案がありました。まことに結構な御提案だと思うのでありますが、この刑事補償の中には、財産的損害の補償のみならず、精神的損害も入っているというふうに言われておりますが、その精神的な損害についてはどのようにお考えになっているのか、その点をひとつ第一にお尋ねをしておきたいと思います。
#8
○参考人(田邨正義君) お答えいたします。
 実は平均賃金プラス精神的損害、すなわち慰謝料を加算した金額にまで上限が達し得るということは、基本的には望ましいことだろうというふうに考えております。ただ現実の問題としまして、平均賃金の見方等いろいろあるかと思いますけれども、まさに平均的な労働者の平均賃金という観点からしますと、その半額に満たないという政府案が出ている現状においては、せめてその本来の平均賃金の線を目安ということを、今後の努力目標として考えることが望ましいという趣旨で申し上げたわけでございます。
#9
○矢田部理君 それから、今回刑事補償の金額がある程度引き上げられることになったわけでありますが、最高裁や法務省の引き上げの根拠の説明として、物価と賃金の上昇率をスライドさせたという説明をされているわけです。ところが、問題はスライドさせる根拠になるところの、もとの金額が果たして相当だったのかどうかが問われなければならないというふうに考えているわけです。
 御承知のように、昭和二十五年に二百円ないし四百円という数字が出ております。これ以降、物価なり賃金なりを考慮して何年かに一遍ずつ上げてきたという経緯があるわけでありますが、当初の値段がどういう根拠であるいはどういう経過で決まったのかというようなことをもし御存じでしたら。
#10
○参考人(田邨正義君) 実は、その点は調べたことございませんので、当初の金額がどういう根拠で決まったかは存じません。
#11
○矢田部理君 それでは宮沢参考人にその点についてお尋ねしたいと思うのでありますが、宮沢参考人のお話ですと、賃金等を考慮して決めるのは一応相当という立場に立たれておるように思われるわけですが、どうもむとの金額が果たして相当だったのかどうかということが一つの問題にさよるように思われるわけですが、その点何かお考えになりましょうか。
#12
○参考人(宮沢浩一君) 実は、衆議院の法務委員会の速記録をちょっと勉強しておりまして、どなたでしたか、参考人の御意見の中で、その計算について、もとは旧法で五円か何かであったのが、その当時と昭和二十五年でしたかの物価上昇とを計算して決めたというふうなことを読んでおります。ちょっと速記録の何ページにあったか、いま思い出せません。
 私自身のこの点についての考え方を申しますと、たとえば二十五年というのは、たしか私が大学の二年生のときだったと思います。そのころはたしかラーメンが一杯十円ぐらいの状況でありましたので、なるほどいまの点から見ますとこの金額はかなり安いように思いますが、その当時のわが国の国家財政の状況などから比べると、この金額の計算についてそう不当ではなかったのじゃないかなというような感じを――大変思いつきで申しわけありませんけれども、いかがなものでしょうか、たとえば昭和二十二年でしたか金融緊急措置令かなんかのときに、一日の世帯の一人分が百円で、五百円ぐらいで封鎖がなされたようなことを覚えておりますが、そういうふうな状況であったということから考えますと、この金額が著しく不当であったかどうかという点は、ちょっと問題があるのじゃないかというような気がいたしますけれども。
#13
○矢田部理君 次の質問に入りたいと思うのですが田邨参考人にお尋ねしたいと思います。
 これは日弁連などでかねてから非拘禁補償を出すべきであるということでいろいろ努力もされ、提案もされてきたわけでありますが、どうも最近法務省の考え方は、これは出さないという態度に固まってきつつあるように思われるわけですが、改めてもう一度田邨参考人から、出すべきだという理由、根拠などについて御説明をいただければ大変ありがたいというふうに思っております。
 それからもう一つ、ついでに質問してしまいますけれども、非拘禁補償は出さないけれども、費用補償はただいま法制審議会で検討中、秋ごろにはそのめどがつくはずであるという法務省からの答弁があるのですが、この点についての考え方もこの機会にお聞きをしておきたい。
#14
○参考人(田邨正義君) 非拘禁補償の点でございますけれども、この出すべきであるということは、まさに現実に刑事弁護を担当している弁護士という立場から、被告人の実情を一番よく知っていると信ずるからでございます。と申しますのは、多くの事件というものは、捜査段階では確かに逮捕勾留ということで身柄の拘禁がなされます。しかし、公判が始まりますと、事案によってまちまちではございますが、比較的公判の初期の段階において保釈という形で身柄拘束は解かれる。したがって、むしろ拘禁されたままで裁判を受けるというよりは、非拘禁状態で裁判を受けている期間というものが非常に長いわけであります。その非拘禁状態で裁判を受けているということが、本人にとってどれだけ苦痛かという問題でございます。これは確かに、それぞれ被告人の職業とか考え方とか、あるいは犯罪の性質というものによって非常にニュアンスの違いがあるということは事実でございますけれども、どういう立場のどういう事件の被告人であろうと、やはり裁判が解決するまで被告の座に座っているということによる苦痛というものは、現実に日本の社会においては非常に大きいということは事実でございます。
 さらに、具体的に経済的な被害を伴うというケースも非常に多い。これは公務員とかあるいは大会社のサラリーマンだけではございませんので、中小企業の経営者などの場合でも、裁判の被告の座に立たされたというだけで経営が破綻して、倒産に近い状態まで至ったというケースは非常に多く見受けるわけでございます。そういう意味で、むしろ拘禁されていた期間というものによる損害よりは、実質的には非拘禁状態で相当の年月被告の座にさらされているということの被害の方が実質的に大きいというのが、強い実感としてあるわけでございまして、そういう点から、ぜひ非拘禁補償というものも真剣に考えていただきたいという結論になっているわけでございます。
 それから費用補償の点でございますが、これはいま法務省で検討されておられるということを伺っておりまして、それ自体は大変結構なことだと思いますし、特に、一審無罪等につきまして検察官からののみ上訴があった事案については、すでにその費用補償、実質的な意味での費用補償の先例があるわけでございますので、これは技術的にも非常にやりやすいはずでございます。その点から一日も早くできるところから着手されるということは望ましい、結構なことだというふうには考えております。
#15
○矢田部理君 さらに田邨参考人にもう一点お尋ねしたいと思いますが、起訴されて無罪になった場合のお話はいただいたわけですが、不起許の場合で、たとえば嫌疑なしとか罪とならずということで、検察官の方で事件が処理をされてしまった場合に現在の規程では「罪を犯さなかったと認めるに足る十分な事由がある場合」には、刑事補償と同様な補償をするというたてまえに、たしか訓令か何かでなっているようですが、ここにおける問題点みたいなもの、もしお気づきの点があったら御指摘をいただきたいと思います。
#16
○参考人(田邨正義君) 被疑者補償規程の点でございますが、どうもこれは積極的に利用されていることを聞かないのでございます。その理由として考えられますことは、一つは、この被疑者補償規程の存在そのものが余りよく知られていない。おそらく弁護士の中でもあるいは知らない者もいるのではないかと思われる、専門家の間でさえ気がつかないでいるというくらいに考えられます。
 それからもう一つは、罪とならず、嫌疑なしの場合にこの被疑者補償が行われることになっておりますが、この不起訴の理由というのが被疑者に現在は全く告知をされないというシステムになっております。したがって被疑者が、一体自分がどういう理由で不起訴になったのかということがわかりませんので、この補償申し出をするかどうかという判断もできないという点が二番目であろうかと思います。
 それから三番目としましては、やはり金額が安い。特に捜査段階における拘禁の期間というのは、ごく一般的に言えば十日から二十数日の間でございます。そうしますと、現在の基準で申しますと、いろいろ苦労をしたとしても、手にする補償金額というものは比較的わずかであるということが、やはり一つには積極的な関心を呼ばない原因ではないかというふうに考えております。
#17
○白木義一郎君 どうも貴重な御意見伺いまして、ありがとうございます。私は、両先生のお述べになったお考えにつきましてお伺いするということではなくて、両先生共通した問題として、今回提案されておりますこの補償法の一部改正についての基本的な御意見を参考までにお伺いしたいと思います。
 この法律案につきましては、もう何回もこの国会の場で改正が繰り返されております。記録によりますと、毎回、高いとか、いや安いとか、そこへしぼられてくるように思います。そこで前回、私はこの改正案の審議に携わりまして、これはちょっとどうかなと思うことがございました。ということは、単純に言いますと、無実の人が嫌疑を受けて、そしてとらわれの身になった。いろいろと裁判の進行の過程を経て無罪になった。そうしますと法律では、あなたは無罪だからその間の補償をしますから、しかるべく請求をしてこい、さすれば政府は、国はその損害に対して補償をするであろう、こういう制度だということが私は非常にいまだに気にかかって仕方がないわけです。
 そこで、前回、当時の法務大臣の田中氏にこの点を私はただしたところが、田中氏は次のようにその考えをお述べになっております。「当然権利が主張されなければならぬのにかかわらず、請求をしなければやらないんだという立場をとっておりますのは、あらゆる制度にそういうことが出ている。これはまあ何と申しますか、遠慮をせずに申し上げますと、わが国の官尊民卑の思想から出ておるものと思います。国民を大切にして、人権を真に尊重するというたてまえからならば、請求の有無などにかかわらず出すという方針をとっておかしくないもの、こういうふうに考えるのでありますが、現行法は官尊民卑の思想から出てきたものではなかろうか、こういうふうに私は反省をするのでございます。」さらに大臣は、「熱心に、この請求の有無にかかわらず、賠償金は補償はすべきものではないかという御意見に対して私はそのとおりと思う、どうしてこういう現行法の制度があるのかと言えば、官尊民卑の思想の残滓であろうというように実は私は考えておるので、そのままを申し上げたのでございます。」これが前法務大臣のお考えであります。要約して言えば、この刑事補償法というのはおわび料である、そういうように前大臣は受けとめているということを私は伺いました。さもありなん、この点の改正を大臣に要望したわけです。
 ところが、大臣は真剣に検討すると、こう言われたまま、大臣が更送され何らその効果がいまだにあらわれていない。まことに残念なことだと思いますが、そこで両先生にお伺いしたいのですが、この前法務大臣が官尊民卑の思想の残滓という考え方を、意見を述べられていることについて、両先生はどのようにこの法律制度をお受けとめになっているかどうか。私の受け取り方は、毎々テレビでちょいちょいございますが、いわゆる悪代官に対して民衆が非常につらい思いをしているというような感じを率直に受けるわけです。ですから、いろいろ議論というのは、もっと高くすべきじゃないか、もっと払うべきじゃないか、いやこの程度でいいというふうなそれぞれ御意見があるわけです。率直に伺って参考にしなければならないわけですけれども、立場の違う方から伺えば、片方はへ理屈になる。どっちにも理屈があるわけです。
 そこで一番大事なことは、この法律をどう善人のために生かし切っていくか、こういうことが私は最も大切ではなかろうか。それは無罪にはいろいろなケースがございますけれども、いわゆる純粋なもう本当に気の毒な無罪の人に対する補償のために、いろいろな無罪のケースの、やり得だというような点もこれは逐次是正し改正していくことは当然でありますが、そのためにまるっきり無実の人が泣き寝入りをするようなことがあっては、これは正しい法律とも言えないし、運用に大きな欠点がある、そういう私は考え方をいまだに変えるわけにいかないわけです。したがいまして、安いからこの制度を活用しないとかいうようなことはちょっと考えられないのじゃないか。たとえば精神的な苦痛にいたしましても、人によっては、拘禁されることが非常にある世界では財産になるわけです。いわゆるやくざの世界なんというのは非常に拘禁されたことによってプラスになっているわけです。ところが、そうでない人については、肉体的というよりも非常にどうにもならない精神的な苦痛が非常に強い。私は経験がございませかんら、ほんのわずかにしか想像できないのでございますけれども、こういう点を私は金額以前の問題としてとらえていきたい。
 ですから、これは素人考えですけれども、判決で裁判官が無罪を宣告した、その無罪を宣告した裁判官のこの補償の活用であれば、ああそうですか、よくわかりましたということで、この制度を生かして、たとえわずかながらも補償金を受けて、そしていままでの苦痛を幾らかでも薄らいで終わっていく、こういうことが言えるのじゃないかと思うのです。いまのままだと、改めて請求しなくちゃならない。請求というと、田邨先生なんかは直接扱っていらっしゃるから簡単に紙に書けばいいというものの、一般大衆は簡単というわけにいかないわけですね。そうしますと、そういう制度が仮にあったにしても、どうしても二の足を踏むのが当然じゃなかろうか。そして出された書類をまた裁判官が検討して、これは上限と下限のうちどこに決めて、そして幾日だから幾ら払うべきである、まことに事務的で味もそっけもない運用の制度だろうと思うのです。
 ですから、たとえば私鉄が転覆した。大勢の人が死傷した。運輸大臣は飛んで行って土下座するわけです。直接運輸大臣に関係ないのです、私鉄がやったことですから。しかし国民は、最高責任者の気持ちを受けとめて、その悲しみを少しでも乗り越えていきたいというのが大衆の為政者に対する気持ちであろうかと思います。ですから、これは無罪の判決ということは、相当正確に調査され審査された結論ですから、そこで無罪になった、無罪になったあなたに対しては法律でこういう補償があります、どうもいろいろなことがあってこうせざるを得ないのです、御苦労さまでしたと、こう言って済ますべきが、私はその決められた法律を生かして運用する妙じゃなかろうか。こういう意味で法務大臣に伺ったところが、法務大臣は、なるほどそうだ、この法律は官尊民卑の思想の残滓の感があると、いみじくも言われたわけですが、われわれよりも専門的に研究をなすっている両先生のこの制度の基本的な考え方についてお伺いしておきたいと思います。
#18
○参考人(田邨正義君) 刑事補償などを受ける手続が一般の民衆の人たちには負担であって、そのために刑事補償の利用度というものが落ちているのではないかというような点の御指摘については、まことにごもっともだろうと思います。それほど現実に刑事補償の請求そのものは、特に現在は拘禁中の期間に対する補償ですから非常に機械的に決まりますので、申し立ての手続それ自体は決して複雑なものではございません。しかし、われわれ専門家が見て複雑でないということでありまして、確かに素人の方にはそれでも負担であるということはあろうかと思います。そういう点では、たとえば無罪の裁判確定した段階では、その刑事補償の手続について十分裁判所から被告人に告示をする。それから申し立ての方法なども、口頭で申し立てるなり、きわめて簡単な書式で申し立てができるような、そういう工夫は十分すべきではないかというふうに思います。
 ただ、一切そういう申し立てを待たずに、職権でと申しますか、裁判所の方から一方的に支給をするべきであるという点につきましては、にわかに私何とも申し上げられないわけでございますけれども、どうも私ども法律家の観念というのは、やはり権利というものはみずから行使するかしないかの自由もあわせて持つものであるというのが先入観念としてございまして、そういう意味で刑事補償の請求権というのは権利である以上は、それを行使するかどうかという最初の判断はやはり本人自身になさせるべきである、それがまさに権利の本質である。逆に恩恵というようなことになりますと、本人の意思を無視して、仮にもらいたくないものでも場合によっては押しつけるということにもなりかねない場合もあり得るのではないかというふうに、感想としてございますけれども、思っておるわけでございます。
#19
○参考人(宮沢浩一君) ただいまの点につきましては、私も田邨参考人とほとんど同じ意見でございます。ただ先ほど来申しますように、他の法との兼ね合いということについて一言申しますと、これは将来恐らく考えられるであろう刑事訴訟法の一部改正でしょうか。そういった問題のときに、たとえば無罪判決の場合にこの刑事補償について裁判所から教示するとか告示するとかいうような、そういう手当てをしておく必要があろう。そういう意味でこれは決してこの法案一個の問題に限らず、もし将来刑事訴訟法の改正が考えられる場合には、それを申し送るというようなことなどもお考えいただければ大変幸せだと存じます。
 それから田邨参考人がおっしゃいましたように、やはりこのものが国家からする恩恵ではなく権利でありますので、権利である以上は、権利の上に眠る者は保護せずという私どもの方の大原則がございますので、請求するかどうかは無罪になった者の意思にかからせるというたてまえをとることの方が素直ではないかという気がするのです。
 それから官尊民卑という問題につきましては、昭和二十五年の法律ですし、旧法は昭和五年でしたか、ちょっと忘れましたけれども、まだそう人権感覚が行き渡ったとは思われないころの立法ですので、あるいはそういうふうな理屈がつくかもしれませんですけれども、ただ、請求をしなければ払わないぞということだけをとって官尊民卑というふうな了解をするのはいささか、先ほどの田邨参考人の言葉を引用すれば、われわれ法律家の常識とすればちょっと問題ではないかという気がいたします。
#20
○白木義一郎君 先ほど宮沢先生がわれわれ法律家のさがという言葉をお使いになったので、そのさが論がどうも私に目の前に出てきて気になってしようがないのですが、十七条で権利を認められているから四十条で義務を果たすんだ、こういうことですが、その前に、自由に人生を享有していく権利があるわけですよ。それをぱくっとやっておいて、それで権利を与えられているんだから請求しなさい、権利を行使しなさい、そうすれば国はということですけれども、先生のおっしゃるタックスペイヤーは、言ってくれば払ってやるよと、そうじゃないと思うんですね、この法律に限っては。
 ですから、その点の発想といいますか、考え方からこの法律は論じていかないと、いつも毎回、世の中の経済状態の変動によって上げたり下げたりするたびに議論、法律論を繰り返していかなくちゃならないということになると、これはいまの政府が変わるか、自民党が政府を退いて、ほかの政党がかわってやっていかない限りには、社会的公正などというのはスローガンであっって、一向民衆には関係のない政治が行われていく、こういうことを心配しながらお二人の御意見を伺った次でございます。
 ありがとうございました。
#21
○橋本敦君 両先生に一、二点お伺いをさせていただきたいと思います。
 まず第一に、私は、無罪の判決及びその無罪の確定を受けるということが、被告人とされれた人にとってどんなに大変なことであるかということを、田邨先生と同じように二十年近い弁護士経験を通じまして痛感をしておるわけです。
 第一に、公訴の提起は、起訴便宜主義という立場ではありますけれども、検察官の専権に任されている。だから社会常識なり国民常識から言って、この程度のことは起訴しなくてもよいのではないか、こう考える場合も含めて、公訴権の乱用論は判例並びに学説ではありますけれども、裁判手続上、公訴権乱用ということが明確に公判をやめさせるという方向で存在しないですね。しかも一たん裁判になりますと、起訴前の勾留は、これは捜査の必要ということでの合理的理由があるとしても、公訴提起後の捜査ということは、これは学説上も判例上も問題があって、まさに刑の事前執行的性格を持ちます。
 しかも、争う場合には、実務の経験で率直に申し上げますと、保釈さえなかなか証拠隠滅のおそれがあるという理由で許されないという現状があります。だからその場合は、権利保釈の場合もなかなかそういかない場合があります。しかも争う裁判ほど、裁判の長期化という問題を宮沢先生もおっしゃいましたが、無罪を主張して争う裁判ほど長期化する傾向があります。しかも、その裁判の中身においては、検察官、警察は国家権力を利用しての捜査を遂げますが、被告人並びに弁護人はそのような権限、権力を持たなくて、みずから無罪であるとの証拠資料の収集に本当に苦労しなければならない。そのような過程でようやく無罪の判決が出され、それが確定したということは、これは本当に大変な努力の成果なんです。
 そういう場合に刑事補償がなされるということは、これは当然の処置ですけれども、果たして現在の刑事補償法に定める補償が、今次の改正案を含めて十分かどうかと考えますと、両先生の御意見も、改正案には賛成だけれども必ずしも十分ではない、こういう御意見をいただきました。いずれ将来、改善の機会に役立たせていただきたいと思うのですが、そのために、私はいま申し上げたような観点から二つの問題について先生方の御意見を伺いたいのです。
 一つは、最下限は別として、補償の上限を、現在労働者の平均賃金にも至っていませんが、これを平均賃金にせめて上げてはどうかという御意見がありました。私は、これでも十分でないと考えるのです。
 なぜかといいますと、国家賠償とは違いますけれども、この刑事補償法は損害賠償的性格をもあわせ持っていることは疑いがない。たとえば法第四条で、裁判所が補償を認定する場合に考慮される資料としては、本人が受けた財産上の損失、得べかりし利益の喪失、精神上の苦痛、こういったことが、拘束の種類及びその期間の長短とあわせて考慮されるということになっている。そういたしますと、労働者の平均賃金を上限といたしますと、これは平均ですから、極端に言えば、二人のうち一人はこの平均以上の収入を得べかりし利益として持っている可能性がある。ところが、上限が平均賃金で決められてしまいますと、いまそれさえ至っていないわけですが、決められてしまいますと、この法第四条で裁判所が、精神的苦痛も、そしてまた財産上の損失だけじゃなくて、得べかりし利益についての考慮をも加えてやろうと思ってもできないわけであります。
 だから、労働者の平均賃金を最上限に持っていった場合でも、そういう不足が生じる。
 したがって、私は、この下限についての宮沢先生のお考えも了解した上で、上限については何が一体合理的かということについて、単に労働者の平均賃金でよろしいということにはならぬのではないか。この点について田邨先生及び宮沢先生の御意見がございましたら、参考意見として将来改善のためにお伺いをしたい。これが第一点です。
 第二点の問題は、死刑に処せられた場合の金額について、これも一千万ではなくて、一千五百万にするというようなことも妥当ではないかという御意見がありました。その理由として宮沢先生は、このような誤った死刑を国家が行って、国民の生命を奪うということに非常に慎重を期さなければならない、プレッシャーとしてもという御意見がありました。
 私はその意見に賛成ですが、それだけでは足らぬのではないか。いやしくも国民のだれかを無実によって国家が生命を奪いとるというようなことが仮になされたら、それはもう取り返しのつかない、およそ金額補償の概念を越えた大変な問題でありますから、これに対する補償として、私の意見としてはこれこそ最下限を、その者がどのような地位、年齢、職業にあろうとも、最下限を今日の社会常識として一千万と押さえて、最上限はこれは決めなくて、まさにその本人が平均寿命間生存をし、かつ労働をし、家族生活をすれば当然得たであろう利益にプラスして、この第四条の法の精神をも生かして精神的損害をも加えて、これは誠実に厳密に計算をして全額支払う、こういうようにすべきが私は先生のおっしゃるプレッシャーにも該当するし、国家が国民に対してなすべき責務である、こう考えているのですが、死刑の場合は最上限を決めないで、最下限を決めて完全な補償をする、これが正しいのではないかと私は思っておりますが、この私の意見について両先生の御意見があればお聞かせ願いたい。
 この二つの質問に対しての御意見をお聞かせ願いたいと思います。
#22
○参考人(田邨正義君) まず、拘禁中の補償の上限の問題でございますが、これは先ほど申し上げましたように絶対的な基準はないわけでございます。高いほどいいというふうにも私考えますけれども、それではちょっと説得力がそれ自体ないわけでございまして、やはり何か一つの補償なり損害賠償の場合にどういう取り扱いをされているかということを参考にして考える以外にないだろう。
 その場合に、特に慰謝料的なものをどう見るかということでございますけれども、これは現在民事の損害賠償、特に交通事故を中心にいたします民事の損害賠償の場合でございますと、大体入院中の慰謝料というのがおおむね一日七、八千円ぐらいというのが、損害賠償の場合のいわば相場でございます。それから自賠責保険は、これはこういう場合のいわば最低保障だというふうにいわれているわけでございますが、この自賠責保険で認めております入院中の慰謝料というのが一日二千四百円。したがいまして、一つの目安としては、平均賃金にプラスいま申し上げたような慰謝料というものが、完全な賠償という観点からまいりますと当然認められていいという主張が成り立とうかと思います。
 それから死刑につきましての補償でございますが、これも、この法律によりますと財産上の損害があった場合には、これは加算できることになっているようでございます。したがって、ここで問題になっております一千万あるいは一千五百万というのは、世間で言ういわゆる慰謝料に当たるものと考えてよろしいのではないか。そういたしますと、交通事故などのそういう民事の損害賠償の事例では、やはり死亡の場合の慰謝料というのは大体一千万から一千五百万というのが現状かと思います。あとはむしろ死刑という、いかに犯罪の嫌疑といいますか確定判決があろうともなおかつ識的意に生命を奪う、しかも結果的には誤っていたという場合を交通事故並みに考えていいのか、もっとそれよりプラスすべきではないかという御意見があっても、あるいは当然かというふうに考えられます。
#23
○参考人(宮沢浩一君) こういう意見を申し述べるときに、そう争点のない問題につきましては、先に発言されますと、後からの者はほかにどういう理屈があるかとかなり苦悩するのでありますが、先ほど私が、何といいましょうか、法律家のさがとして、改正を考える場合には、現在のその金額をどのように計算すれば無理なく計算できるかというような、どうしてもいまのものと将来のものとを対比して考えなければならぬという、どうも少しかたい考え方かもしれませんが、そういうものがございますと一応申しておいて、政府案の数字は比較的少ないけれども仕方がないかもしれぬが、上限についてはと、たしか申し上げたつもりです、ある程度上積みを考えてもよいかもしれぬ。
 それは、実は私といたしましては、この刑事補償法の第四条第二項のこれらの列挙されてあります事項を合理的に計算した場合に、三千三百円という金額ではどうも計算しにくいという気がいたしまして、まあ現任の経済状況とかそういうものを考えてですね、あるいはこの法律がやがて生まれ変わって出てきたときの、一年先か二年先かわかりませんが、そのときの経済状況などを考えると、もう少し大幅に考えておいてよかろうという意味で上限については考慮する余地があると申しましたが、試みに、たとえば五千円あるいは四千円、この辺のところで、いまの金額プラスアルファということで、その辺のところかなという感じを持っておるわけであります。したがって、先ほどの田邨参考人の御意見の七、八千円というのは、もちろん理想ではありますが、ちょっと私のどうも頭の動きのスキームからすると出にくい数字であります。この辺で御勘弁いただきたいと思います。
 それから死刑の問題につきましては、先ほど田邨先生のお話の中にございましたように、場合によっては千五百万プラス千五百万、三千万というようなことを私予想しておりましたから、その辺のところかなという感じで、そこで目いっぱいなら三千万までいけるという、その計算で数字を出してみたわけでございます。
#24
○委員長(多田省吾君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々には、本日は長時間にわたり貴重な御意見をお聞かせいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。
 本案に対する本日の審査はこの程度にとどめます。
 ちょっと速記をとめてください。
  〔速記中止〕
#25
○委員長(多田省吾君) では速記を再開してください。
    ―――――――――――――
#26
○委員長(多田省吾君) 次に、検察及び裁判の運営等に関する調査を議題といたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。
#27
○白木義一郎君 法務省においてつかさどる登記と民事行政事務は、国民の権利保全のため、行政サービスとして、国民にとっては重要なものであります。よって登記事務処理体制の充実、国民の利便にかなった登記行政のサービス向上という問題は、政府の緊急課題ではないかと思います。最近の登記所の実情に照らして、登記事務処理に関して若干の項目につき政府の見解をただしたいと思います。
 それは最近、悪質の地面師グループによる文書偽造、詐欺事件等の続出についてお伺いするわけですが、報道によりますと、登記所における登記簿閲覧システムの盲点あるいは登記所備えつけ地図の管理ミスなどを悪用し、または権利書を偽造するなどして、悪質な地面師グループによる文書偽造、詐欺による土地所有権移転登記事件などが頻発をしております。これらの事件はもちろん特別な悪質の事件であります。一般事件の例外とも見られますが、このような事態では、一般国民から見て法務局行政に対する信頼を失わせるものであり、まことに残念なことであります。
 そこで、現在登記職員は、偽造文書の審査についてどのような注意を払っているのか。たとえば印鑑証明、登記済み証、いわゆる権利証ですね、文書の形状、紙質、印影等について説明をお伺いしたい。ということは、このような事件を極力防いで国民の信頼を取り戻さなければならない、そういう観点から今後どのように法務省が対処されていくかということをお伺いしたいわけです。
#28
○政府委員(川島一郎君) 最近、御指摘のような登記所を舞台とする地面師等による犯罪事件が目立っておりますことはまことに遺憾なことでございまして、私ども十分に反省をし、今後に対処していかなければならないと考えている次第でございます。
 どのような対策が必要かという点につきましては、いろいろな角度から考えなければならないと思います。たとえば、この種の犯罪というのはいろいろなやはり手口によって行われておるわけでございまして、昔からよくございますのは、登記済み証あるいは印鑑証明書などを偽造いたしまして、そうして不正な登記を申請して、登記簿にそのような登記をさせるという場合でございます。これに対しましては特に申請書類の審査、申請書に添付された書類の偽造であるかどうかという点についての十分な審査、配慮というものが必要になってくるわけでございまして、最近ではかなりその点の注意というのは神経質に行っておりまして、少し古い登記済み証でございますと、その当時の登記所の判と合致しているかどうかというような点について調べるということもいたしておりますし、また印鑑証明書等については、これを発行した市町村長に対して、こういう日付にこういう印鑑証明書が出されたことになっているようであるが、ちょっと疑問な点があるので、その点について調べてもらいたいというような照会をして発見をされたという例もございます。
 何よりも、登記所に大量の事務が申請されてまいりますので、これを処理するために入念な審査が怠られるということが懸念されるわけでございまして、その点につきましては増員その他、いろいろな方面から幅広く考えていかなければならないというふうに思っておるわけでございます。
 それから最近よく問題となりますのは、登記簿あるいは登記所に備えつけの地図を閲覧いたしまして、その際、登記簿に勝手に記入をする、あるいは図面に勝手に文字を記入する、こういう犯罪があるわけでございます。これは以前には余りなかったのでございますが、最近犯罪の手口が巧妙になりまして、タイプの活字でありますとか、あるいは登記官の印の印影でありますとか、そういうものを巧妙に写し出しまして、いかにも登記官が正規の登記をしたようなのと見間違うような記載をするわけでございます。これに対ましては、特に登記の閲覧あるいは地図の閲覧についての監視体制が問題となります。この点につきましてもいろいろな面から対策を講じておるわけでございまして、たとえば閲覧室の出入りを厳重にするとか、あるいは繁忙な登記所にあっては監視人を特にふやすとか、それから手荷物の持ち込みを禁ずるために手荷物を置いておくたなを別につくる、あるいはロッカーをつくってそちらに入れてもらうというようなこともいたしておりまして、五十年度の予算においてこういった手当ても若干するだけの経費を認めていただいておるというような状況でございます。
 いろいろな角度からの方策を総合的に樹立いたしまして、このような登記所を舞台とする犯罪が起こらないように、今後とも十分に努力してまいりたいと考えておる次第でございます。
#29
○白木義一郎君 大臣も御承知だと思いますが、この間あったのは、いわゆる地面師というのがグループになって登記所へ行って、登記謄本を持ち出しちゃって全部変えて、そして人の土地をよそへ売り払って金をもらって逃げちゃった、そういうことが頻発しているわけです。これは私には関係ないことですけれども、全国的に見ると大変不安を醸し出す問題であろうと、こう思いますので万全な体制をしいていただかなければならない。これは当然でありますが、いま局長さんがいろいろと対策を考えているとおっしゃいましたけれども、結局は人員の不足、ここに大きな盲点があるだろうと思います。したがいまして、いまおっしゃったようなことは当然しなければならないことではありますけれども、現状としては、これはいただいた資料から見ますと、頻発する甲号、乙号の事件、増加してくる事件と、それに対処するサービス面の人員の配置がほとんど話にならないくらいの体制だ、こういう点がはっきりしているわけです。だからといって、いつまでもこのままいけばさらに悪質の事件が発生するわけでありますので、この点今後十分な体制をとって対処していただきたいと思います。
 それについて、現況でどうにも防げない、これからあらゆる知恵をしぼって体制を整えて防止しなければならないという問題も多々あると思いますが、その中には登記官の過失による問題が若干あるのじゃないかと思います。その点について国家賠償請求の訴訟の件数ですね、これが毎年何件かあるわけですが、そのほとんどがいわゆる国側の敗訴に終わっているというように伺っているわけですが、現在までの国側の敗訴の事件というのはどのくらいあったか、その点お知らせいただきたいと思います。
#30
○政府委員(川島一郎君) 登記事務につきまして登記所側の取り扱いが誤っておった、そのため申請人あるいはその他関係の方々に御迷惑をかけて、損害を及ぼして、その結果訴訟になったという事件は御指摘のように相当ございます。昭和四十年から四十九年ころまでの件数を調べてみましても、百件以上の件数があろうかと思います。これらの事件はもちろんいろいろな内容に分かれておるわけでございまして、その多くは途中で事情を了解していただいて取り下げになった、あるいは国側としてもある程度の過失を認めまして和解をするというようなことで解決されるものが相当多いわけでございますが、ただいま申し上げました四十年から四十九年までの間に判決があったもの、これは三十三件でございます。そうして、そのうち国が勝訴したと申しますか、賠償請求が理由なしと認められたものが二十二件でございます。それから国に損害賠償の責任があると認定されまして、請求額の全部あるいは一部を支払わなければならぬという判決を受けたものが十一件でございます。
 国が敗訴いたしましたものを調べてみますと、その多くはやはり登記の申請に不備な点があった。たとえば偽造の登記済み証をつけて申請をしてきたが、登記官が偽造であることをよく調べればわかったのに、調べなかったために見逃して登記をしてしまった、あるいは第三者の承諾書を添代しなければならないのにその添付がなかった、したがってその登記の申請を却下しなければならないのにこれを見逃して登記してしまったという事件、あるいはまた抵当権の登記に多いわけでございますが、債権の金額を誤って登記簿に記入した。実例では、たとえば百五十万円の債権をその登記簿に記載すべきであったのに、誤って百五万円と書いてしまった、こういうようなものがございます。こういうものが比較的多いわけでございまして、それが大体半数以上を占めておるという結果になっております。
 そのほか、登記簿の管理あるいは公図の管理に手落ちがあったというもの、これは先ほどちょっと申し上げましたが、地図を閲覧に供しておった際に、その地図に閲覧者が勝手に書き込みを入れてしまった、その後でその地図を見た人が間違って事実を認識したために取引上の損害をこうむったというものでございますが、そういうものでありますとか、変わった例といたしましては、登記簿の謄本の記載が間違っておった、そのために取引上やはり損害を受けたとか、こういうようなものがあるわけでございます。
 この十一件の内容はいろいろそういう多岐にわたっておりますが、こういった事件につきましては、私どもその都度各法務局に報告をいたしまして、こういう事件が起こったから、そうしてこういう結果になったから、今後こういった点についても十分注意するようにということは申しておるわけでございますが、仰せのとおり、非常に繁忙度の高い職場でございますので、つい多くの事件の中にはこういう過を犯すという者が出てまいりまして、大変申しわけなく存じておる次第でございます。今後とも十分注意するようにいろいろ考えてまいりたいと思います。
#31
○白木義一郎君 一方では非常に登記所の職員が絶対的に不足している。増員を要求しても毎年なかなか要求どおりに増員をできないという現実を、今後法務省は機械化等によってこれを埋め合わせていかなければならないということですが、その反面に、今度は登記所の整理統合という問題が全国的に出てくるわけであります。登記所の適正配置、こういう問題について、部分的な問題ですが、大阪の法務局、地黄、森上両出張所の整理統合についてお尋ねをしたいと思います。
 大阪府の豊能郡能勢町にあるこの両登記所は、近年非常に利用者が増加して住民は大変喜んでいる。ところが、この適正配置の問題が数年前から検討された関係上、この両出張所が廃止される。そうして池田市に統合されてしまう、こういうことで、あちらの方は大阪チベットと言われているようないわゆる山間僻地の地域でありますから、当然地元民としては、長年親しんできたこの登記所の利用という問題については、これが統廃合されるということは非常に不便であると同時にさびしい思いがしているということで強い陳情が出ておりますが、全国的な問題はまたの機会にいたしまして、この問題、現況あるいは将来どういうような方針をとっていかれるか、お伺いしておきたいと思います。
#32
○政府委員(川島一郎君) 御承知のように、登記所の整理統合の問題は昭和四十六年以来全国的に実施しておるところでございまして、これは零細な登記所をなるべく整理して、そうして登記所の経営の合理化と施設その他の近代化を図る、その前提としてきわめて重要なことであるというふうに考えておるわけでございます。
 御質問にございました森上と地黄の登記所でございますが、これは大阪法務局管内にあるわけでございますが、大阪法務局の管内では、この二つの登記所だけが一人庁、つまり職員が一人しかいない登記所でございます。したがいまして、できるならば近隣の登記所に統合をしたいということで、昭和四十八年の七月以来地元と御相談を申し上げておるところでございます。しかし、御指摘のように、地理的な関係その他から地元の方ではかなり統合には難色を示しておられるというふうに伺っております。
 ところで、この森上出張所というのは能勢町にございまして、能勢町の一部を管轄いたしております。それから、地黄出張所は、同じく能勢町にございまして、能勢町の残りの一部と、それから東能勢村という村を管轄しておるわけでございます。したがいまして、地元との交渉はこの能勢町並びに東能勢村に対して行っておるわけでございますが、地元の御意向としてはそのまま存置してもらいたい、しかし法務省の立場もわかるので、これをよその登記所へ持っていくというよりも、能勢町にいずれか一つを存置してほしい、こういう御要望も出ておるわけでございます。ただ、能勢町の内部におきましては、一つ残すにしても、その場所をどこにしたらいいかということで必ずしも結論が出ていないというふうに伺っております。
 私どもといたしましては、この登記所の整理統合は地元の御理解をいただいた上で実施したいという方針で進めておりますので、その辺、地元の御意向をもう少し固めていただければ、それに応じていろいろお話し合いもしたいと思っておるわけでございますが、事態がまだそのように流動的でございますので、最終的にどうしたらよいかというところの結論までは出ておりません。現在地元といろいろ御相談をいたしておりまして、六月に入りましてからも、大阪法務局の幹部が能勢町の地元の、たとえば地黄の区長とか町会議員の方々にお目にかかって御相談をしておるというような経過がございます。いずれにいたしましても、この問題につきましては、地元と十分御協議を重ねまして、その結果妥当な結論を得たい、このように考えおる次第でございます。
#33
○白木義一郎君 昔はずいぶんサービスがよかったと思うんですね。ああいう山の中に二カ所も出張所を設けた。ずいぶんサービスがよかった。これを全国的な方針としていろいろな理由から整理統合し、適正配置をしなければならないとなると、調整に大変な問題があろうかと思いますが、いまこの登記所の適正配置に関する民事行政審議会の答申の趣旨を尊重されて、慎重に地元の民意をくんで進めたい、こういう局長のお話がありました。なお、答申の中で「登記所の適正配置を実施するに際して留意すべき事項」というのが八つありますが、その最後の八番目に「廃止された登記所の敷地について、地元市町村がこれを必要とするときは、その移譲についてできる限り協力する」ようにと、こういう答申の一項目がありますけれども、この点はまだまだ煮詰まってないようでございますので将来の問題になるかと思いますが、法務省としてはこの答申をあくまでも尊重して進めていただけるかどうか、お伺いいたします。
#34
○政府委員(川島一郎君) ただいまお話に出ました民事行政審議会の答申は、この適正配置計画を進めるに当たりまして私どもが一つの重要な基準として考えておるものでございまして、そこに出ております趣旨は十分今後とも尊重してまいるつもりでございます。
 昔は非常にサービスがよかったどいうことでございますが、最近鉄道が非常に発達いたしまして、昔歩いてこなければならなかった、あるいは馬車で来なければならなかったどいうところが、電車とかバスを利用すれば比較的短時間で出てこられるどいうような状況もございまして、その点はひとつ事情が変わったことを御了解いただきたいと存ずる次第でございますが、民事行政審議会の答申の趣旨に従って私ども実行をしてまいりたい、このように考えております。
#35
○委員長(多田省吾君) 速記をとめて。
  〔速記中止〕
    ―――――――――――――
#36
○委員長(多田省吾君) 速記を再開してください。
#37
○橋本敦君 警察庁の方にお伺いいたしますが、例の有名な三億円事件でございますね、あれが時効がもうすぐだということで国民も大変関心を持っておりますが、時効はいつで切れるということになっておりますか。
#38
○説明員(森永正比古君) 本件三億円強奪事件は、事件発生から七年を経過いたしました。本年十二月十日午前零時をもって公訴時効が完成するということになっております。したがいまして、残すところ約半年弱ということになっておるわけでございます。
#39
○橋本敦君 この事件については警察庁としてもずいぶん捜査に尽力をされてきたと思いますが、どういう体制で現在捜査を続けておられるのか、これが第一点です。
 それから犯人が現場もしくはその後の捜査によって判明をし遺留をした、犯人が犯行に使用した物件として、どれとどれがいま確実に証拠資料として収集されているのか、この点についてお伺いしたいと思います。
#40
○説明員(森永正比古君) 第一点の捜査体制でございますが、事件発生以来、府中警察署に特別捜査本部を設置いたしました。最盛時で百九十七名の捜査本部員を編成いたし、昭和五十年六月二十三日現在で延べ十六万百六十四名の捜査員を投入しておるわけでございます。現在は捜査員を縮小いたしまして、大体中核になる捜査員は三十名ということになっております。
 それから主な遺留品の捜査についてでございますが、現在遺留されておる主な物といたしまして、第一に白バイ擬装のオートバイでございます。それから犯人が使用したであろうと考えられております緑色のトヨタカローラ四十一年型でございます。それから犯行時に使用いたしました発煙筒、それから雑誌「電波科学」七月号、それから犯行に使用しましたトラメガ、それからハンチング、レインコート、主なものとして以上のようなものでございます。
#41
○橋本敦君 例の困難な爆弾事件の捜査も大変だったわけですが、それに比べますと、具体的に犯人が遺留した物証というのはかなり明確なものがあるわけです。したがって、いまおっしゃったオートバイ一つとってみても、それがどこの製品で、どこで買い入れたものであるかというような捜査にしろ、あるいはカローラの登録所有者名あるいは販売者名、そういったことは当然捜査として全力を挙げておやりになったと思うのですが、そういった捜査から犯人の手がかりが何一つ得られないという現在の捜査の盲点、最大の盲点は一体どこにあるのでしょうか。
#42
○説明員(森永正比古君) 物の捜査でまずネックになりましたのは、主な遺留物件がほとんど盗品であったどいうことでございます。まず第一の白バイ擬装のオートバイにつきましては、昭和四十三年十一月九日に日野市の会社員宅で盗難に遭ったもの、これを改造して使用したものでございます。そこで捜査が中断されたわけでございます。それからカローラ、発煙筒等についてはさらに捜査を継続してやっております。しかしながら、これによって犯人にはまだ到達するに至ってないわけでございます。ちょっとつけ加えて申し上げますと、先ほどのトヨタカローラにつきましては、捜査の結果、昭和四十三年十一月三十日、日野市内の車庫から盗まれたものでございまして、これについてもその段階で捜査が中断されておるわけでございます。それから第二番目に、捜査の対象となる容疑者、これがかなり広範多数に上っております。
 それについて黒白の捜査を進めておるわけでございますが、現在までのところ、まだはっきりした容疑を出すに至ってないわけでございます。
#43
○橋本敦君 まず第一に、容疑者が多数かんだということですが、これは名誉がありますから一々名前は伺いませんが、ほぼ何名ぐらいの容疑者を対象として現在まで捜査を遂げてきたのか、容疑者の人数だけで結構です。多数とおっしゃったその人数ですね、これが第一点。
 それから二つ目に、現場もしくはそれらの物件に遺留された指紋の有無は当然捜査をされたと思いますが、そういう指紋関係の捜査の結果どうなっているか、これが第三点の問いです。まずこの二つ明確にしてください。
#44
○説明員(森永正比古君) 捜査対象になった者は、これは容疑者ということではっきりしてない者まで含めておるわけでございますが、約十一万人ほどでございます。しかし一応容疑が濃厚になりまして、参考人として取り調べました者が三十二名、強制捜査をいたした者が一名、こういうことでございます。
 それから遺留指紋につきましては、犯行当時発見された指紋多数ございましたけれども、これをさらにしぼっていきまして、一応照合可能な指紋も数個残ったわけでございます。これを警察庁のみならず全国的にこれを照合いたしましたけれども、現在までのところ容疑者が発見されておりません。まだ不鮮明な指紋が残っておりまして、さらにそれの照合を急いでおるところでございます。
#45
○橋本敦君 いま参考人三十二名、強制捜査一名、これは問題になった強制捜査ですが、その三十二名の参考人の中に、指紋照合との関係で容疑を考えられた者はありますか、ありませんか。
#46
○説明員(森永正比古君) 現在までのところ、指紋によって取り調べをしたという報告は聞いておりません。
#47
○橋本敦君 もう一つ伺いますが、捜査の基本方向として、この犯行は単独犯という認定のもとに捜査を遂げられておるのか、それとも共犯者が何名かいるという、いわゆる共同犯行という関係で事実を見ておられるか、その点はいかがですか。
#48
○説明員(森永正比古君) 私ども捜査関係者の中でもかなり意見が分かれております。単独犯行説、共犯説があるわけでございます。現在のところまだどちらにしぼるという段階まで至っておりませんので、両面で捜査をしておるというような状況でございます。
#49
○橋本敦君 犯行の手段方法を考えますと、現場に指紋を遺留しないように手袋をはめるというようなことは当然やっている。それから犯行の用に供した物件がいずれも盗品を使っているということ、そういう点と、それからさらに現場での手口が、まさに警察官であることをまるまる信用させることに習熟している観があると見られる問題、こういった問題を考えますと、かなりこれは計画的、巧妙な犯罪だというのは一致した意見ですね。このように計画的巧妙な犯行ということになりますと、これは普通の者ではなかなかできない、着想からしても、準備からしても、態様からしても。という面から、どのような種類の人間がこういう犯行をする可能性があるかという面から、いまおっしゃった十一万という膨大な容疑者の中から犯行の態様、手段を考えて、あるいは特定の職業に重点を置いて捜査をするとか、あるいは特定の前歴のある人に重点を置いて捜査を進めるとか、こういった観点からの捜査も私は当然あり得たと思うのです。そういった観点についてはどう考えておられますか。
#50
○説明員(森永正比古君) これは現在まだ捜査中の事件でございますので、その点具体的な説明については、説明を差し控えさせていただきたいと思います。御了承願いたいと思います。
#51
○橋本敦君 大体そういう検討はしていますか、私が言ったようなことは。
#52
○説明員(森永正比古君) ただいま御指摘のような点についての検討は十分にいたしてやっております。
#53
○橋本敦君 三億円という現金が強奪をされたわけですが、この現金がたとえば紙幣については番号その他でどういう紙幣が強奪をされたかということは、これははっきりわかっておりますか。
#54
○説明員(森永正比古君) 紙幣の中で五百円札だけは番号が控えてありますけれども、それ以外については明確ではございません。
#55
○橋本敦君 その五百円札は何枚ありますか、番号がわかっている五百円札。
#56
○説明員(森永正比古君) ちょっと資料が手元にございませんので……。
#57
○橋本敦君 いまわかりますね。
#58
○説明員(森永正比古君) いまわかりません。
#59
○橋本敦君 わからない――。その紙幣が使用されて出回っているかどうかということも、これはもう当然慎重な捜査の対象でしょう。その観点で聞いているんですよ。その点の捜査、どうなんですか。
#60
○説明員(森永正比古君) もちろん御指摘のように、一応特定されておる紙幣についての捜査、手配というものは十分にやっておるわけでございます。
#61
○橋本敦君 どういう手配を実際やっておられますか。私は、こういうことなんです。五百円札は番号がわかっている。そうすると、これを公表する。この紙幣を見た人あるいは受け取った人はすぐ通報してほしいということをしなければ、五百円札が何枚あるかまだ答えがないですけれども、モンタージュ写真なら出しますけれども、この紙幣でも公表して、この紙幣が出回っておるかどうかという広域捜査をやらないと、三十人の捜査官が一生懸命やっています、こうあなたがおっしゃっても、国民の協力を得られないとこれはもう物にならぬのじゃないでしょうか、あと半年で。そういう手段についてお考えになっておられませんか。いかがですか。
#62
○説明員(森永正比古君) 現在五百円札についての手配につきましては、警察部内はもちろんでございますが、銀行関係、それからマスコミに対しても一応その番号等については発表して協力を得ているわけでございます。さらに時効も間近でございますので、これを広範にやるかどうか十分検討いたしまして、効果のある手配をいたしたいということでございます。
#63
○橋本敦君 爆弾事件でも、使用されたと見られるかの絵をかいて街に張って、国民の協力を得ていますね。だから、いま私が言ったように五百円札も、マスコミだとか銀行だとかいう範囲じゃなくして、広範に国民に協力を求めるということで、いまからでも遅くない、おやりになるという方針を伺っていいですか。
#64
○説明員(森永正比古君) もちろんこの三億円事件につきましては、爆弾事件に次いで国民の関心の強い事件でございます。私どもといたしましても警察の力を結集いたしまして何としても検挙しなければならない、こういうふうに考えておるわけでございまして、そのためには先生御指摘のように国民の協力を十分得なければこの目的を達することができないというふうに考えておるわけでございます。その点につきましては、先ほども申し上げましたように、もう一回現在のやり方でいいかどうか十分に検討して、たとえこれが検挙できなかったという場合であっても、警察はやるべきことはすべてやったというところまで徹底した捜査をやってまいりたい。できれば検挙をいたしまして、警察の責務を果たしまして、国民の期待にこたえたい、こういうふうに考えておるわけでございます。
#65
○橋本敦君 きょうのあなたの御答弁を伺っていますと一生懸命おやりになっているというふうに私はこう聞いておるのですけれども、何かもう一つ歯切れがよくないんですよね。三十人の捜査官を置かれまして、あと半年である。いまのあなたの話でも、たとえ検挙ができなくてもという言葉も出るんですね、警察がやるべきことを尽くしたという状態にしたいと。
 これは不可能なこともありますよ。だけれども、やはり残された期間全力を挙げてやるという方針には変わりないわけですから、私がここでもう一つ提起をしたいのは、捜査の密行性ということがありますので、これは考えていただく範囲で結構ですが、現在までの捜査の基本方針と中間総括、これをやって、これを公表し、かつ国民に、残された期間捜査に協力を得られる問題については積極的に協力を得る、こういう姿勢で現在の時点における捜査の盲点と、それから現状と、それからいま私が言った協力を得られる問題と、こういう問題をきちっと総括をして、そうしてできるものを公表し、国民の協力を得るようにする、これを早くやらなければならぬのではないか、こういう観点できょう質問をしておるのです。そういう私のいま申し上げたような方向で、総括を行い、国民に協力を得られる問題について積極的に協力を得ることを打ち出す、近いうちにそれをやるというようなお考えはあるかどうか伺わせてください。
#66
○説明員(森永正比古君) 私どもといたしましては、何としてもこの事件を解決したいというふうに考えておるわけでございますので、そのためのあらゆる手段方法を講じなければならないというふうに考えておるわけでございます。したがいまして、その一環といたしまして、十分にこれまでの捜査経過等について検討をいたしまして、まだやるべきことにつきましては十分にこれをやる。その中には、もちろん国民の協力を得るためにまだやるべきことがあるかどうか、これも当然考えていかなければならないというふうに考えておるわけでございます。
#67
○橋本敦君 私の質問は、それを考えて近く公式に発表される用意があるかどうかと聞いているのです、質問の最後はね。
#68
○説明員(森永正比古君) これは検討の結果につきまして、必要があるということであれば当然やらなければならないと考えております。
#69
○橋本敦君 私が言うのは、何もかも公表せいとは言っていませんよ、捜査ということを知っていますからね、お互いに。少なくともけじめをつけて、あと半年ですから、総括を行い、国民に協力を得られるものについては協力を求める、こういうことを公式に警察庁として捜査会議の結果、発表してやるというような気組みでおやりになるかどうか、こう聞いているんですよ。そういう意思はあるのですか、ないのですかということです。
#70
○説明員(森永正比古君) ただいまの問題につきましては、ここで私一存ではっきり回答することもできませんので、先生の御指摘の趣旨は十分に上司にも報告をいたしまして、その方向で進められるように私も微力ながら尽力したい、このように考えております。
#71
○橋本敦君 いまあなたがおっしゃったように、カローラにしろ、オートバイにしろ、五百円札のナンバーにしろ、そしてまた現在検討中の指紋の問題にしろ、犯人に迫っていく手がかりというものは、客観的に見ればかなりあるというように国民は見るわけですよね。それにもかかわらずどうなっているのかと、こういうことなんです。もうすぐ時効ではないか。いま私が言った観点で、一生懸命捜査を遂げられる努力は多としますけれども、はっきりした形で国民の前に協力を得るものは得るという形で発表され、進められるということを工夫されるということを希望して、きょうの質問はこの程度で終わっておきます。御苦労さんでした。
 次に安原刑事局長にお伺いしたいのですが、新星企業の捜査につきまして、前の委員会で私が質問をいたしまして、六月の上旬もしくは中旬に結論を出すというような状況であるという御答弁がありました。どうなるかと私も気にしておったのですが、ようやく昨日、十七件について起訴をされたということが新聞、テレビその他で報道されまして、起訴に踏み切られたということがわかりました。
 そこで、これに関連をしてお伺いをさせていただきたいのですが、まず第一点として、この宅建業法違反というのは形式犯だ、略式起訴で済まされることが多い、だから本件も略式起訴で済まされるのではないかという巷間のうわさがありましたが、十七件起訴に踏み切られた。この十七件を起訴されたという理由について、どういう主な理由から起訴に踏み切られたのか、これについてまず御見解を伺わしていただきたいと思います。
#72
○政府委員(安原美穂君) 本来、宅地建物取引業を無免許で行うということ自体を、一般に一部の評価のごとくそういう無免許営業というものを軽く評価すべきでないということを前提といたしまして、従来の先例を見ますると、昭和四十八年の起訴件数が五百八件ございますが、そのうち公判請求したものが七十件で、略式命令請求が四百三十八件であるというような前例のとおり、公判請求したものも決して少なくはないわけであります。
 そこで、どういうものを公判請求し、どういうものを略式請求するかということの判断でございますが、本来これは御案内のとおり法定刑が三年以下の懲役または三十万以下の罰金で、罪質としてそう軽いものではないという評価をすべきであるのみならず、本件につきましては、何と申しますか、取引の総額が起訴の事実によりますと百八億円に上り、そして得た利益が、起訴状ですでに御推察いただけると思いまするが、四億二千万円に上るという意味におきまして、取引の総額並びに利益の観点から見て、決して略式命令というような事案として処理すべきものではないという判断であったと聞いております。
#73
○橋本敦君 この件について厳重な捜査をなされるように私が要求したときに、安原刑事局長は、田中金脈事件として国会並びに世間の注目を浴びている事件で、あって、本件の背景、本質、そういったことも含めて厳正に捜査をするということをあなたは御答弁なさいました。そこで私は、免許が切れた後の無免許という客観的事実は、これは明白ですが、あなたがおっしゃった本件の背景なり本質にどこまで検察庁が捜査を遂げ、メスを入れられたか、これが一つの問題になると思います。そこで、捜査の過程でどういう事実が明らかになったのかを含めて、二、三お伺いをしたいのです。
 まず第一に、私どもはこの新星企業は田中金脈幽霊企業群の一つである、幽霊会社である、こういうことを言ってまいりました。新星企業はそもそも本店を田中邸に置くことから出発をしている。この新星企業はかなり莫大な資本金増資を行っておりますが、果たして社員なるものがいたのかどうか、この点について捜査の結果明らかになりましたか。
#74
○政府委員(安原美穂君) 前回にも橋本委員から同じような御指摘があったわけでありますが、この新星企業株式会社は、昭和三十六年の八月十六日に資本金一千万で設立された株式会社であり、その後の増資によりまして、現在は資本金は六億円でございます。そして株主、役員、わずかながらも従業員もそろっており、実際に営業活動を行っておる、いわゆる幽霊会社ではないという検察庁の捜査の結果でございます。
#75
○橋本敦君 株主があることはわかりますよ、株主がなければ会社の登記さえできないのですから。従業員ということを局長はいまおっしゃいましたけれども、実際私ども電話をかけたりしているんですよ、あの過程で。事務員なんていないと言うんですよ。あなたがおっしゃる従業員というのは、何人どういう従業員がいたということでおっしゃったのですか。事務員はいますか。
#76
○政府委員(安原美穂君) この法人の実在性ということは著しく犯罪の立証そのものに関係することでございますので、詳しいことにつきましては、ここで橋本委員と法廷のごとく論争するつもりはございませんが、従業員の少なかったことは事実でございますけれども、要するに、取引というものをこれらの会社の構成員が行っておったということは事実であるという認定でございます。
#77
○橋本敦君 それは取引が現に行われているのですから、取引を行った人間がいたことは間違いない。それはそれでいいんですよ。だけれど、いわゆる会社として本店所在地に会社帳簿を備えつけ、そして取締役、役員以外に、正規に給料を会社から支払われていた従業員、どういう職務を行っていたのかを含めて、そういう正規に会社から従業員として雇用関係にある者がいたのかどうか、この事実を聞いているのです。これだけです。名前とか、そんなのは聞いていません。
#78
○政府委員(安原美穂君) 先ほど冒頭申しましたように、余り細部に立ち至って申し上げることは差し控えさせていただきたいと思いまするが、本件の場合は宅地建物の取引業でございまして、業態から言いましてもそんなに従業員が要る業態でもないということで、現実のこの取引につきましては、取締役である人々が売買の契約、あっせんをしておったというのが事実であるという報告を受けております。
#79
○橋本敦君 そうなんですよ。取締役、少数の役員が実際の取引行為をやった、これははっきりしているのです。だから、会社の営業、日常業務をやる上で、正規に給料を支払っていた会社の雇用関係にある従業員がいたかどうか、こう聞いているんですよ。いたのですか、いなかったのですか、これだけでいいです。これを幽霊会社と評価するかしないか、法律上の評価は論争しません。従業員がいたのか。
#80
○政府委員(安原美穂君) たってのお尋ねでございますので、その点についてだけ申し上げますと、取締役以外に、いわゆる平の従業員というのはいなかったということであります。
#81
○橋本敦君 だから捜査の結果でも、従業員一人もいない会社ということがはっきりした。
 ところで、本件の起訴の対象になったのは、免許が切れて以後の不産動取引、これが宅建業法違反となったのですが、免許が切れた日、それからいつの時点までを捜査の対象にしたのか、その期間だけおっしゃってください。
#82
○政府委員(安原美穂君) 起訴状記載の公訴事実によりますと、無免許宅建業は、四十四年十二月の十七日ごろから四十九年九月十七日ごろまでの間、合計十七回ということになっております。
#83
○橋本敦君 四十四年以後、きわめて長い期間無免許で営業していたという意味において、きわめて情状悪質なことを継続して反復してやっておるわけですよね。
 そこでもう一つ伺いますが、いまのあなたがおっしゃった起訴された十七件以外に無免許で新星企業が取引をした事実、これは十七件以外にありますね。
#84
○政府委員(安原美穂君) そのような報告は受けておりません。すべてこの起訴の対象になっておるというふうに聞いております。
#85
○橋本敦君 では、もしあるということを私が指摘をすれば、調べて、私が言うとおりに宅建業法違反だということが明らかになれば追起訴の手続をとるということは、当然やぶさかでないでしょうね、あるとすれば。あなたはないとおっしゃった。私が指摘をした事実がもし事実だとすれば、当然そうするということは間違いないでしょうね、漏れておればですよ。
#86
○政府委員(安原美穂君) 具体的な事件の処理につきましては私の口から申すわけにはいきませんが、検察庁としては故意に除くということはないわけでありまするから、仮にも、万一にも宅建業法違反であるにもかかわらず抜けておるものがあるとすれば、適切な処理をするものと思います。
#87
○橋本敦君 当然、適切な処理というのは、捜査を遂げ、必要があれば追起訴をするということでなければならぬ。
 そこで安原刑事局長、一つ事実を指摘しますが、これは新聞でももうすでに出ておることだから、あなたも御存じと私は思うのですがね、松ケ枝の問題ですよ。あの有名な料亭松ケ枝です。あれを取引したのは、御存じのように四十七年九月ですよ。新星企業が神田幸夫さんという人から買い受けているわけですね。これは買った方です。四十七年九月二十六日。これが一つ。
 それからもう一つの問題は、四十七年に同じく文京区関口二の二の七番地、土地百十坪、これを地主から新星企業が買い受けて、田中直紀氏に売却をしています。田中直紀氏。これは田中前総理の娘さんの夫に当たる方です。これはまさに無免許時代の取引ですよ。これは新星企業が買い受けて、売っている。今度は買って売った方です。これが抜けていますよ。この事実、なぜ十七件の起訴対象としなかったのか。まずこの松ケ枝と田中氏の土地について、いかがですか、局長。
#88
○政府委員(安原美穂君) 御指摘のことが、この無免許営業の取引の対象として訴追の対象になっていないことは事実のようでありますが、その点については、検察庁としてもし知っておって起訴していないとすればそれなりの事情があるわけでありましょうし、知らなかったとすれば、知らなかったという前提で適切な処理をするものと思いますが、いずれにいたしましても、当委員会での御指摘の点を検察庁に連絡をいたすことといたしたいと思います。
#89
○橋本敦君 それではもう一つ指摘をしておきます。これも有名な鳥屋野潟。御存じのように湖底の土地を日本電建から新星企業が買って、これが三十九年五月です。これを同じく無免許でありながら、四十七年ですか、五月には関新観光に売却をしている。この鳥屋野潟の湖底の土地が、都市公園計画によってこれが莫大な利益を呼ぼうとしている。この鳥屋野潟事件、私も指摘しましたよ。そうして金脈の中で、これは大きな問題になりました。これを検察庁が調べてないなんということになれば大変ことですが、これが宅建業法違反として起訴に入っていないのはどういう理由ですか。これは知らないとは言えませんよ、松ケ枝にしても、この問題は。
#90
○政府委員(安原美穂君) 犯罪なるものを検察庁が見過ごすわけはないので、私の推測でございまするけれども、鳥屋野潟の土地は、いわゆる宅地建物取引業法に言う宅地ではなくて、池沼であるというふうに聞いておりますので、本件の違反の対象にはならなかったのではないかと法律的には思います。なお、新星企業の事業活動については、冒頭御指摘のとおり綿密な企業活動の全貌にわたって調査、捜査をしたと思いますので、検察庁としても当然調査、捜査の対象にしたと思いまするが、いま申し上げたような私の推測として宅地建物取引業法の違反にならなかったと思われるもののほかに、検察庁として当該取引について犯罪の嫌疑を抱かなかったのではないかと、これも推測をいたしております。
#91
○橋本敦君 鳥屋野潟の湖底の土地が、これがあなたのおっしゃるところによれば宅地ではない、沼地であるということで初めから捜査は手をつけなかった、こういう意味なんですか。捜査はしたけれども、結論として宅建業法不適用だ、こういうことでしなかったと推測する、こういう意味ですか。
#92
○政府委員(安原美穂君) 冒頭申し上げましたように推測でございまするから、その推測のとおりの、結論は推測でございますから、その過程として、沼地だから捜査をしなかったか、沼地ではあるが全体として一応の捜査はした結果の結論であるか、その点は報告を受けておりませんので、私何とも申し上げかねます。
#93
○橋本敦君 局長がおっしゃったのは推測ですからやむを得ませんが、あなたがおっしゃったことは、私が指摘をした宅建業法違反という事実については、これは捜査をしていなければ検察庁は追加的に適切な措置をとる、これが一つですね。そして、捜査をしておって起訴しないならば、起訴しないそれだけの検察庁の判断があるというように思われるということですね。これはいずれについても、私の質問に関しては事実を照会をして、次回の法務委員会でお答えいただくということは当然していただかなければなりませんが、これはお答えいただけるわけですね。
#94
○政府委員(安原美穂君) そのようにいたします。
#95
○橋本敦君 それでは、まとめて私は適切な処置を要求する問題として、私の方が宅建業法違反として事実の調査、捜査をお願いする件を改めて申し上げます。
 一つは、いま言った鳥屋野潟事件、これを起訴しなかった理由を明確にすること。安原局長の推測では困ります。これが第一点。
 第二点は、松ケ枝の土地建物、これを調べたのか、調べないのか。そして、調べてなかったらどうするのか。これが第二点。
 それからもう一つ、四十七年一月二十八日に同じく新星企業は、渋谷区千駄ケ谷三の四、土地百五十二平米を買い受けて、これを東邦企業に買却をしております。時価約一億円と言われておる。これは百五十二平米ですが、約一億円と言われている大きな問題です。これを竹中工務店がいま買い取っている。こういうことですね。だからここでも莫大な利ざやがあったはずです。これが起訴の対象からはずれています。これを調べる必要がある。これが第三点。
 第四点は、今度は静岡の御殿場市小林、これは原野になっているのですが、ここで四千百二十四平米、これを四十年に新星企業が買い受けた。四十年ですから、買い受けたときは免許があった。これを売却を東邦企業に同じくやったのが四十六年、これは免許が失効した後です。これは捜査の対象にしていなければ捜査をする必要がある。これをどうするのか。
 この四つの問題について、次回の法務委員会に報告をいただくということをお約束いただけますか。
#96
○政府委員(安原美穂君) 約束いたします。
#97
○橋本敦君 そこで法務大臣に一言伺いたいのですが、宅建業法違反という事件は、免許が切れた後に業として取引をやった事実、これは客観的に明白なんです。これだけ大きな金脈事件で問題になって、そうして何遍も私は法務委員会で質問をしたし、これだけ問題になって起訴までなさった。ところが、二つ問題があるのです。
 一つは、私が質問通告をしているこの問題について、きょう局長はまだ十分の報告を受けて私に答弁するという誠実さが足らぬです。推測だということで答えなければならぬ部分がある。これが一つの問題。
 もう一つの問題は、私が指摘したような、明らかに無免許の期間であることがだれにも明らかな間の取引について私は五点を指摘をいたしましたが、これについて、言ってみれば捜査が漏れているのではないかという、そういう疑いさえある。もしやっていれば、起訴しなかった理由を述べると局長は約束してくださいました。しかし、やっているという報告さえ局長は聞いていないわけですよ。これは検察庁として本当に真剣に十分に金脈、霧を晴らすという、こういうことで真剣にやったのではないという疑惑さえ持たれかねないのです。持たれるとは言いませんよ、持たれかねないのです。漏れているなんていうことは大変なことですよ。法務大臣いかがでしょう。この新星企業の捜査はもうこれで全部終わった、田中金脈についてはもうこれで捜査を終わった、あらゆることを今後問題にされても、検察庁は、あるいは法務大臣としては、捜査に手をつける意思はない、こういうことなのか。まだまだ疑惑を指摘されれば、検察庁は正義の立場で調べるということを確信をもっておっしゃるのか。法務大臣のお考え、いかがでしょう。
#98
○国務大臣(稻葉修君) 私、就任のときに、法秩序の維持当局である検察庁としては、公害事犯、経済事犯、暴力事犯、それから選挙関係の事犯、あらゆる犯罪は重大には違いないけれども、こういうものについては、政治不信の回復という三木内閣の姿勢もあり、また経済物価の安定ということについては非常な力を入れているところだから、経済事犯の検挙、その処置については、厳正な態度をもって臨んでほしいと言ってございますから、今度のこういう事件につきましても、御指摘の点のようなことにつきましてはおそらく一生懸命やったのだろうと思う。そして御指摘の点について安原局長も答えているとおり、この次の法務委員会までに明確なお答えをするようにします、こう言っているのでございますから、その点を了とされまして、今日のところは一生懸命にやったのだということで御了解をいただきたいとお願いする次第であります。
#99
○橋本敦君 今後、不正の事実の指摘があれば調べるということも含めてですよ。
#100
○国務大臣(稻葉修君) その点は安原局長も言うているとおり、私は、厳重にやるべきものだから、この次の法務委員会までには御満足のいくようなお答えをさせるようにいたします。
#101
○橋本敦君 大臣、本会議でお急ぎのようですから、どうぞ御退席願って結構です。
 そこで安原刑事局長、引き続いて伺わしていただきたいのです。いまあなたがおっしゃったように、田中邸に本店を置いた従業員が一人もいないこの新星企業が、その後たちまちにして六億円にまで増資をする。そして十七件起訴された間だけでも四億二千万円の巨額の利益を上げる、こういうことになるわけです。
 そこで、この会社の本質、背景を厳重に調べるとおっしゃったあなたに私は聞きたい。この巨額の利益は新星企業、どこへ行ったのでしょう。具体的に聞きます。この新星企業の経理内容を調べれば、この巨額の利益が、新星企業は越山会の会員ですから、越山会に寄付として出されている、これは私は疑いのない事実だと思う。それについて答弁をしてください。
#102
○政府委員(安原美穂君) 新星企業がその取引によって得た利益は四億二千万円ぐらいであるということは、これは公訴事実から推定をできることであるので申し上げましたが、いまお尋ねの、こういう利益をどこへ使ったのかということは本件起訴事実と直接の関係のないことでございまして、そういう意味で公判廷においても明らかにする事実ではございません。しかしながら、捜査の過程において知り得た他人の秘密に属することでございますので、この公の席で申し上げることは御猶予願いたいと、かように思います。
#103
○橋本敦君 調べたけれども言えない、こういうことですね。しかし安原局長、あなたは私に、これはまさに田中金脈事件として国民の注視を浴びた事件だから、この背景、本質にまで迫って捜査をする、こう言って約束されたのですよ。捜査をされたに違いない。いいですか。これは宅建業法で起訴したことと直接関係がないので公判廷でも恐らく明らかにならないだろうとおっしゃったことは、私は重大だと思うのです。なぜなら、私はあらゆる刑事事件でもよく知っておりますが、検察官は冒頭陳述を法廷でします。その冒頭陳述では、起訴された事実に関連をして、まさに犯行の動機、いいですか、そしてそこで上げた利益の結末についても、それに関連する範囲において明確に冒頭陳述をしますよ。これは情状に関係するからですよ。そうでしょう。だから、いまあなたがおっしゃっていることは、そういう背景は調べているけれども、公判廷においても田中金脈の本質的な問題については知っていて出さぬということを言っているのですよ。検察庁はそんな方針で公判廷に臨む、そんなことをいつどこで決めたのですか。はっきりしてください。冒頭陳述の内容を規制するようなことをあなたはおっしゃる。そんなことをもう決めたのですか、検察庁は、方針で。
#104
○政府委員(安原美穂君) その点は、東京地検の記者会見において同じような質問を新聞報道陣からされた次席検事の回答といたしまして、関係がないから申し上げないということを言っておるわけでございます。そういうことでございますので申し上げたわけでありまするが、確かに情状立証という問題になりますれば、その使途ということとも情状立証の過程では問題になるということになれば、当然に捜査の結果知り得た利益の使途につきまして、こちらから立証するということもあり得るわけでございます。そういう意味において、私が推測で申し上げましたが、情状立証の必要性があるという検察庁の、私はいまだ冒頭陳述でどの範囲で立証するか検察庁から報告を受けておりませんので推測で申し上げましたが、そうなればなるだけに、場合によっては冒頭陳述で情状立証として立証することが内容になるということになりますれば、その段階において公判廷で明らかにすることでもございますので、いまこの段階で申し上げることはなおさら御勘弁いただきたいと、かような理屈になるのではないかと思ってお願いをしておる次第でございます。
#105
○橋本敦君 私への答弁を実質的に訂正をされたようなかっこうで、結論は、ここでは述べないということをあないはおっしゃいますが、それでは本当に田中金脈を追求する真剣な姿勢が検察庁にあるかどうか疑われますよ。私はこのようにあなたにこの前の委員会で指摘しました。会社が給料を払うべき従業員がいない。これははっきりしておる。役員だけである。そうすると、巨額の利益は会社としてどのように使うか、資本金の額が多けけば多いほど寄付制限の範囲が高まりますから、越山会に寄付することは可能になるんですよ。いいですか。残る利益の使途は株主配当、役員報酬と、こうなるんですよ。しかし、莫大な寄付金をもしやっているとするならば、それは会社の利益を、株主の利益を害するということにもつながりますから、会社の全機構なり資本なり財産の体系から見て。そういう場合は取締役の特別背任罪が商法上成立する可能性がある。この可能性があることについて、これは理論の問題で結構です。お認めになりますか、そういう場合。あたりまえでしょう。
#106
○政府委員(安原美穂君) いろいろ前提条件はあろうかと思いますが、理論的にはそういうことの可能性はあります。
#107
○橋本敦君 そうでしょう。だから私は、越山会への莫大な寄付という問題、この莫大な利益の使途について、そういう意味で政治献金、政況寄付が特別背任罪に該当する可能性があるから、これについて調べていますか、調べなさいと指摘したんですよ。
 私はここで改めて局長にお願いと要求をします。私が指摘したように、宅建業法に関係がないからということだけで済まされない、この政治献金が特別背任罪に該当するかしないかという観点からの捜査も、検察庁は知り得た事実として当然検討すべきだ。知らなければ別ですよ、検討すべきだと私は思いますが、いかがですか。
#108
○政府委員(安原美穂君) 前々回も私の考え方として申し上げ、現に検察庁もそのつもりでやった宅地建物取引業法を、単なる形式的な無免許営業ということでなくて、その背景等、実体等につきまして綿密な捜査をしておるから二カ月の時間の経過があるんだということを申し上げたわけでございまして、いま御指摘のような点、つまり、もうけた金をどう処分したかということは、ほかに特別背任罪で起訴しておることからもうかがわれますように、当然捜査、調査の対象として犯罪の有無を検討したことは間違いない事実でございままして、起訴の対象になっていないということは、その間において犯罪の嫌疑を抱かなかったというふうに御理解をいただきたいと、かように思うわけでございます。
#109
○橋本敦君 あなたは推測でしょう。局長、御理解を願いたいと言っても、具体的に事実を明らかにして、調べたけれども、こうだから理解してほしいというなら私は理解しますよ。私が言っているのは、特別背任という関係で理論的に犯罪が成立する可能性があることは、あなたもお認めのとおりはっきりしているのですから、それを推測で、調べたであろうということではなしに、その観点でこの新星企業の経理関係、そして利益の使途について、越山会を通じての政治献金についてもう一度その点を洗い直し調べる。調べた結果、あなたの御理解、推測ではなくて、私に対しそれはこういう理由でならないというようなことを確実に返事をするというように私はしてもらいたいのです。
 その前に、私はそう一度はっきり要求しますが、特別背任になる可能性があるということを私は指摘したのですから、その点について局長から担当検察庁の方々に、この私の指摘した問題について、その観点で政治資金の流れを厳重に見直すということ私は要求します。この私の要求に対して、あなたはどのように受けてくださいますか。
#110
○政府委員(安原美穂君) この東京地検が今回起訴した以外に、新星企業の金の使途について犯罪の嫌疑を抱くことはなかったということは、捜査の結論でございまして、私の推測ではございません。
#111
○橋本敦君 安原さんこういうことですよ、捜査の結論を、抱かなかったとあなたは結論的におっしゃったが、本当に政治献金を特別背任との関係で厳密に検討したのかどうか、これははっきりあなたも知らぬのですよ。そうでしょう。結論からそういうようになっていると理解してほしいとあなたはおっしゃっているのですよ。違いますか。だから私はその点もう一遍きっちり調べてくれと、こう言っているのです。
#112
○政府委員(安原美穂君) そういう重大な事柄でございますので、その点についての犯罪の成否については検察庁当局から十分の報告を受けておりまして、犯罪は成立しないということでございます。
#113
○橋本敦君 だんだん答弁が変わってきて、十分報告を受けている、こういうことですね。それじゃ、あなたがお聞きになっている犯罪が成立しない理由を述べてください。
#114
○政府委員(安原美穂君) それが先ほど冒頭申し上げましたように、利益の使途については捜査をしたが、いま橋本委員御指摘のとおり、場合によっては情状立証として公判廷で明らかにすることにつながる。したがって、その使途を明らかにすることについては、時期を見れば検察庁としてはその点について明らかにすることににやぶさかではないが、いまの段階で、この段階で当委員会のお尋ねに対して答えるのは勘弁を願いたいと言っておるわけであります。そういうことでございます。そういう意味において、いま御指摘の、なぜ犯罪にならないのかということの具体的な理由を述べろということは、まさに御猶予願いたいという事柄を明らかにすることにもつながりますので、これ以上は、報告は受けておるが申し上げるわけにはいかぬということでございます。
#115
○橋本敦君 絶対納得できませんね。それをまさに明らかにするのが国民の期待であり、要求ではありませんか。この新星企業、あなたは幽霊企業という言葉をいやがるが、従業員一人もいないことは、あなたははっきり認められたですよ。取締役だけが、わずか十七件で四億二千万の利益を上げた。従業員もいないから給料を払わぬでいいです。そしてその金の使途はどうなっているか。新星企業の決算報告を見てごらんなさい。莫大な利益を上げておきながら、所得申告、公示される四千万あるいは一千万を超えた年度がどれだけありますか。ほとんどありはしませんよな。時間がないから詳しく言いませんけれども。この莫大利益はどこへ行ったんだ、疑惑です、これは。この疑惑を究明せずして検察庁の役割りを果たせますか。きょうは時間がありませんから、私はこのあたりできょうの質問を終かりますが、これをあなたが明らかにしないとおっしゃることは絶対承服できませんから、引き続き私はこの問題について究明していくということで、きょうは質問を留保します。絶対納得できませんよ。
 最後に、行管庁にお越しいただいたので、、一言伺って質問を終わります。
 新聞は、この検察庁の扱いについてきわめて国民の立場で不満な意見を表明された、残るところは行管庁が例の信濃川河川敷についてどのような行政監察を遂げられるか、ここに期待がかかっているとさえ書いています。現在行管庁が、松澤長官が約束をされた行政監察についてどのような体制、どのような観点で監察を遂げようとされておられるのか、めどはいつごろか、明確にしていただきたいと思います。
#116
○説明員(鈴木昭雄君) お答えいたします。
 信濃川の河川敷の問題、いわゆる蓮潟地区の問題につきましては、第二・四半期に監察を実施すべく、目下監察計画の立案その他諸般の準備を行っておるところでございます。監察計画、これは最終的に大臣の決裁まで受けるものでございます。そういうような段階でございますので、具体的にどのような問題をいつまでにというようなことは、いまの段階ではっきりは申し上げることはできません。しかしながら、いわゆるかすみ堤の締め切りの問題等河川管理行政全般について、あらゆる角度からこれをとらえてみたいというふうに考えております。
#117
○橋本敦君 抽象的でようわからぬ。もうちょっと具体的に言えませんか。あらゆる角度と言ったって、どういう角度かわからない。
#118
○説明員(鈴木昭雄君) 実は、その辺のところをいろいろ現在資料を集めたり、ないしはいろいろ法令その他、これはむずかしい話なんですが、たとえば河川工学の技術的な問題もできるだけ勉強して取り組みたいと思っておりますので、まさにその監察計画を立案する段階でございますので、ちょっといまの段階でまだ具体的にこの問題この問題と言うわけにはまいりませんが、やはり中心になるのはかすみ堤の締め切り、これが河川管理行政上どのような問題があるのか、この辺が中心になろうかと思っております。
#119
○橋本敦君 一言最後に。
 締め切りが問題であると同時に、あのかすみ堤工事計画、三十九年度の工事計画それ自体が、本当は本堤にするという計画をもってなされていた疑いがあるんですよ。それを国会と国民には霞堤だ、農民には霞堤だと、こう言っておった。ここに重大な疑いがあるんですよ。この点についても、私がいま指摘した問題について、締め切りだけじゃありません、そもそものかすみ堤の工事計画それ自体が河川管理上適正かどうかを洗い直すというお考えがあるかどうか。
#120
○説明員(鈴木昭雄君) 三十八年のいわゆる見直しの計画の話だろうと思いますが、当然、河川管理行政上の一つの大きな問題だろうと思います。先生の御指摘の趣旨も踏まえて、監察計画を立案していくように考えたいというふうに思います。
#121
○橋本敦君 長くなりましたが、終わります。
#122
○委員長(多田省吾君) 本日の調査はこの程度といたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後一時四分散会
ソース: 国立国会図書館
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