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#1
第075回国会 本会議 第2号
昭和五十年一月二十四日(金曜日)
   〇開 会 式
 午前十時五十九分 参議院議長、衆議院参議院の副議長、常任委員長及び議員、内閣総理大臣その他の国務大臣及び最高裁判所長官は、式場に入り、所定の位置に着いた。
 午前十一時 天皇陛下は衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。
   〔一同敬礼〕
 午前十一時三分 衆議院議長前尾繁三郎君は式場の中央に進み、次の式辞を述べた。
   式 辞
  天皇陛下の御臨席をいただき、第七十五回国会の開会式をあげるにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。
  現下内外の情勢はまことにきびしく、国民がわが国会に寄せる期待はきわめて大なるものがあります。
  このときにあたり、われわれは、外に対しては、流動する国際社会に対処して、ますます諸外国との協調を深め、人類の平和と繁栄に寄与するとともに、内にあつては、政治、経済の各般にわたり、今日の時局に即応する適切な施策を強力に推進して、国民生活の安定向上をはかり、もつて国運の伸長に一段の努力を払わなければなりません。
  ここに、開会式を行うにあたり、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もつて国民の委託にこたえようとするものであります。
 次いで、天皇陛下から次のおことばを賜った。
   おことば
  本日、第七十五回国会の開会式に臨み、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、私の喜びとするところであります。
  国会が、国民福祉の向上と世界平和の実現に寄与するため、不断の努力を続けていることは、深く多とするところであります。
  現下の内外の諸情勢は極めて多端であります。このときに当たり、全国民が相協力して、内にあつては、国民生活の安定、福祉の向上を目指し、外にあつては、諸外国との友好親善の維持増進を図るため、なお一層努力することが必要であると思います。
  ここに、国会が、当面する諸問題を審議するに当たり、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。
   〔一同敬礼〕
 衆議院議長はおことば書をお受けした。
 天皇陛下は参議院議長の前行で式場を出られた。
 次いで、一同は式場を出た。
   午前十一時八分式を終わる
     ─────・─────
昭和五十年一月二十四日(金曜日)
   午後三時三分開議
    ―――――――――――――
#2
○議事日程 第二号
  昭和五十年一月二十四日
   午後三時開議
 第一 国務大臣の演説に関する件
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 一、請暇の件
 一、常任委員長辞任の件
 一、常任委員長の選挙
 以下 議事日程のとおり
     ―――――・―――――
#3
○議長(河野謙三君) これより会議を開きます。
 この際、お諮りいたします。
 辻一彦君から海外旅行のため十二日間請暇の申し出がございました。
 これを許可することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#4
○議長(河野謙三君) 御異議ないと認めます。よって、許可することに決しました。
     ―――――・―――――
#5
○議長(河野謙三君) この際、お諮りいたします。
 逓信委員長川村清一君から、常任委員長を辞任いたしたいとの申し出がございました。
 これを許可することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#6
○議長(河野謙三君) 御異議ないと認めます。よって、許可することに決しました。
     ―――――・―――――
#7
○議長(河野謙三君) つきましては、この際、欠員となりました逓信委員長の選挙を行います。
#8
○安永英雄君 逓信委員長の選挙は、その手続を省略し、議長において指名することの動議を提出いたします。
#9
○細川護熙君 ただいまの安永君の動議に賛成いたします。
#10
○議長(河野謙三君) 安永君の動議に御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#11
○議長(河野謙三君) 御異議ないと認めます。
 よって、議長は、逓信委員長に竹田現照君を指名いたします。
   〔拍手〕
     ―――――・―――――
#12
○議長(河野謙三君) 日程第一 国務大臣の演説に関する件
 内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、福田国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。三木内閣総理大臣。
   〔国務大臣三木武夫君登壇、拍手〕
#13
○国務大臣(三木武夫君) 昭和五十年、一九七五年は、わが国にとっては、戦後三十年にわたる政治、経済、社会、文化の歩みに一つの区切りをつける時期であります。世界的に見ましても、いろいろ問題をはらんだ二十世紀最後の四半世紀に移る年であります。
 この内外とも重要な意義を持つ再出発の年に当たり、ここに第七十五回通常国会が再開されました。政府の外交、内政に関する基本的方針を申し述べ、皆さんの御理解と御協力を得たいと存じます。
 私は、今日の時代を国際協調の時代であると考えております。世界各国の相互依存性はますます深まり、地球はますます小さくなりつつあります。全人類は、地球船という同じボートに乗った運命共有者であります。すべての日本人は、日本丸という同じボートに乗った、もっと緊密な運命の共有者であります。
 しかし、遺憾ながら、現実の姿はいまだそこまではいっておりません。エネルギーの問題や食糧の問題を見れば歴然たるものがあります。
 しかし、遠からずそれではやっていけなくなることは明らかであります。もはや、一国や一個人が自分だけでうまくやっていこうとしてもやっていける時代ではありません。
 国益を守ることが外交の基本目標であることは申すまでもありません。しかし、それを目先の狭い意味に解してはなりません。また、個人の権利や自由が重要であることは申すまでもありません。しかし、それは社会的連帯の中で実現さるべきものだと考えております。
 まず外交面では、中東問題とアジア、太平洋の問題を主として申し述べたいと存じます。
 中東和戦の動向は、石油問題とともに今年最大の国際問題であります。
 石油問題は、中東紛争と分離して論じることはできません。したがって、中東戦乱の再発を防ぎ、公正にして永続的な中東和平の達成のために、世界各国がそれぞれの立場でそれに協力することが必要であると思います。日本としては、国連安保理事会決議二四二号の実行を関係諸国に対し強く求めるものであります。その決議は戦争による領土取得が認められないことを強調して、一九六七年の紛争において占領された領土からのイスラエル軍の撤退を求めております。と同時に、また、イスラエルを含む全関係諸国の生存権の尊重を求める公正な決議であると考えます。
 ただ、その決議は、パレスチナ人に関しては難民にしか触れておりません。パレスチナ人の正当なる権利は国連憲章に基づき承認さるべきものであります。また、エルサレム問題は平和的話し合いによって解決されるべきものであります。
 わが国としては、これらの諸問題が話し合いによって円満に解決され、中東に公正にして永続的な平和と安定がもたらされるよう、できる限りの努力をいたす考えであります。
 原油の価格が一挙に四倍になったことから、世界経済秩序が混乱し、特に石油に対する依存度の高いわが国は、コストインフレと国際収支の悪化に悩まされております。
 工業製品や他の原料、資源も値上がりしたにかかわらず、原油の価格が長期にわたってきわめて低廉に抑えられたという産油国の不満は、われわれも十分理解することができます。
 しかしながら、原油の価格が一挙に四倍になり、世界経済秩序が適応の余裕を持ち得なかったために混乱が生じたことも事実であります。この点は産油国にもよく理解してもらい、産油国と消費国とが、力ずくではなく、あくまで対話と協調により、相互利益の調整を図るべきだと考えます。石油について中東に大きく依存するわが国にとっては、中東政策には格段の配慮が必要であります。
 わが国の海外経済協力のあり方は、今日の南北時代に処して、協力援助の量もさることながら、方法と質の改善が急務であります。
 要は、わが国の経済協力援助が、日本の貿易振興のためよりも、真に受益国の経済社会基盤の強化に役立つものでなくてはならぬということであります。
 善隣友好がわが国外交の重要な柱であることは申すまでもありません。特にわが国が米、中、ソという世界政治に重大なる影響力を持つそれら三カ国と近接しているということが、わが国の立場を特徴づけております。
 しかも、この日、米、中、ソの四カ国の関係の中で、日本としては、他の三カ国のすべてと正式な外交関係に加えて、親善、友好の関係を持っているということは、きわめて重要なことであります。
 この四カ国関係の動向が、アジア、太平洋地域の安定と密接に関連しているだけに、こうした重要な立場にあるわが国が、善隣友好を一層推進していくことが、アジア、太平洋地域の安定に貢献するゆえんであると信じております。
 日米関係の安定は、日本外交の基軸でありますから、今後とも友好協力体制の強化に一層努力を払ってまいります。
 日本とアメリカとの間の相互協力と安全保障の条約は、その名の示すとおり、日米協力の基本憲章であります。従来、ややもすると防衛力の面のみが表面に出るきらいがありましたが、エネルギーや食糧の問題が重要視されるに至りました今日では、経済協力などの面と、防衛力の面とが並んで条約の本来あるべき均衡のとれた形で、両国間で認識されるようになりましたことは歓迎さるべきことであります。
 日中関係が、一昨々年九月の日中共同声明に基づき、順調に発展してまいりましたことは、両国はもとより両国民にとって、またアジア、太平洋地域の安定のためにも喜ばしいことであります。
 本年は、それをさらに進めて、日中間に平和友好条約を締結して、子々孫々にわたる日中永遠の友好関係の基礎を固める年にしたいと、こう考えております。
 なお、日台間の実務関係を維持していく方針には変わりありません。
 日ソ間には、懸案としての領土問題を解決して、平和条約を締結するという問題があります。戦後三十年になり、先般も宮澤外務大臣をソ連に派遣して交渉しましたが、懸案の北方領土問題は遺憾ながら依然として未解決であります。
 しかし、われわれが、いまから三十年後の日ソ関係を展望した場合、その協力はまことに世界史的意義を持つものと信じます。
 このような日ソ協力関係を可能にする大前提は、相互信頼感の増進であります。相互信頼感増進の第一歩は、領土問題を解決して、平和条約を締結することであります。私は、こうした前向きの発想で、領土問題に取り組むことができないかと考えております。この考え方のもとに、今後とも懸案の解決に努力をする所存であります。
 また、日、米、欧の三者の協力関係も重視したいと考えております。その意味からもわが国の対欧関係は、今後一段と相互理解と緊密化の努力が必要であると考えております。
 大洋州及びカナダは、先進工業国として共通の問題を抱えており、これら諸国との伝統的友好関係を一層緊密にいたしてまいりたいと考えております。
 隣国韓国を初め、アジア諸国との間には経済協力、人的・文化的交流を通じ、アジア地域の安定と繁栄の基礎づくりに引き続いて貢献をしてまいりたいと存じます。
 アジアのみならずアフリカ、中南米諸国との相互理解と友好協力関係の増進にも一層努めてまいります。
 このように日本外交の活動の幅を広げる場合に、国連の場を重視していかなければならぬと考えております。
 最近、東京において国連大学の理事会が開催されました。日本に本部を置く人類の大学が誕生したことは、日本人の喜びであり、今後も政府は、この大学の発展に寄与していきたいと考えております。
 また、今年は国連決議による「国際婦人年」に当たります。この有意義な年に当たり、婦人の地位の向上に一層努力してまいる所存でございます。(拍手)
 次に、内政問題につき基本方針を申し述べたいと存じます。
 当面の急務は、物価鎮静でありますが、本年三月には前年同期に比し、消費者物価の上昇を一五%程度に抑え、来年三月には一けた台にすべく、さらに物価対策を強力に推進していくつもりであります。公共料金を極力抑制いたしましたのも物価に及ぼす影響を考えたからであります。
 ちょうどこの大事な時期に、春の賃金交渉期を迎えるわけでありますが、労使とも物価鎮静傾向に留意し、節度ある妥結に導かれるよう切望をいたす次第であります。(拍手)
 一方、景気は停滞の色を濃くしつつあることも否定できません。西独や米国でもインフレ対策から不況対策に重点を移行し始めましたが、なお消費者物価上昇率が特別に高いわが国の場合では、簡単には総需要抑制策を外すわけにはいきません。
 したがって、引き続き抑制策は続けますが、その枠内で、健全な経営を行う中小企業などに対し、不当なしわ寄せが生ずることのないようきめ細かい対策を講じてまいる所存でございます。
 こうした抑制基調の予算の中でも、特に重点的に配分を図りましたのは、社会保障、教育、住宅や下水などの生活基盤の充実であります。インフレの影響をまともに受ける弱い立場の人々を救済して、社会的公正を期することに特に配慮いたしました。
 その他の点では次の諸点を重視いたしました。
 食糧の自給力を高めるための農林漁業の増産対策、中小企業の経営改善対策の強化などであります。
 そして、特に重要なエネルギー対策としては、石油九十日備蓄の計画的推進、原子力平和利用の促進、原子力安全局の新設、新エネルギーの技術開発に重点を置きました。
 なお、経済の見通しや予算内容の詳細は関係大臣の演説に譲り、以下経済、社会、文教、国防に対する私の基本的考え方と私の目指す新しい政治のあり方について申し述べておきたいと存じます。
 これからの日本経済は、量的拡大から質的充実への転換が必要であります。いままでの高度経済成長路線を転換して、安定成長と福祉向上の路線へ円滑に切りかえていかなくてはなりません。
 高度経済成長を支えた内外の条件は崩れ去り、ドルさえ出せば、幾らでも、しかも安い原料、燃料、食糧、飼料を買えた時代は終わりました。石油が一番いい例です。発展途上国もどんどんと追い上げてきます。それは歴史の必然の進展であり、それをもとに戻すことは不可能であり、不当であります。
 国内でも労働事情に変化が起こり、賃金は上がり、労働時間は短縮されました。産業立地条件も環境問題などにより厳しく制約されてまいりました。これもまた、もとに戻すことは不可能であり、不当でもあると考えます。
 こうした内外情勢の変化は、好むと好まざるにかかわらず、新しい情勢の変化に適応できるように産業構造の変革を促しております。
 わが国の経済は、特に資源輸入に依存する体質ですから、その依存度を減らし得るような工夫が必要であります。
 個人の生活設計もそうですが、企業においても頭脳や情報の活用によって資源と労働力をできるだけ節約できるように工夫、努力をしなければなりません。
 特に貴重な資源である石油を少しでも節約するために、政府は国民的運動を根気強く展開していきたいと思っております。
 高度成長から安定成長へ、量から質へと経済体質を変革するためには、高度成長時代の制度、慣行の見直しが必要であります。
 制度、慣行は、一たん打ち立てられますとなかなかそれを変革することは困難でありますが、困難だといってほうっておくわけにもまいりません。
 財政硬直化の問題を含め、行財政のあり方全般にわたり見直しをする考えであります。
 それは決してなまやさしいことではありません。既成の考え方を変え、既得の権利を手放すことは大きな抵抗が伴います。しかし、それを打破して、日本の政治を新しい時代にふさわしいものにしなければなりません。それが時代の要求でもあり、これにこたえることがわれわれ政治家に課された責務であると考えております。
 なお、自由経済の公正なルールを確保するために、いわゆる独占禁止法の改正案を今国会に提出いたします。
 社会的公正を確保するために福祉政策を重視しなければなりません。そのためには、これから地方行政のあり方もきわめて重要であります。
 いまや価値観も変わり、国民は華やかな消費生活よりも、美しい自然環境の保全、文化の発展、快適な生活環境、医療と教育の充実、公共施設の増強を求めております。そうした住民の要求に直接こたえなければならぬのが地方行政であります。
 私の主張するように、量的拡大の時代から、生活中心、福祉重視の質的充実の時代へ転換するために、地方行政の果たす役割は一層大きなものとなります。そのときに当たり、自主的で責任のある地方行政が実現されるよう国と地方との関係を初め、地方行財政のあり方について全面的に見直しをする必要があると考えております。
 また、福祉政策を可能ならしめるものは、国民の連帯観念と相互扶助の精神であります。結局、高福祉は高負担を意味することになりますから、国民連帯の精神が根底になければ成り立つものではありません。隣人愛の精神が必要であります。
 次に、教育は福祉と並んで私が最も重要視してまいる政策面であります。
 明治の先覚者が、教育を重視してくれたおかげが今日に及んでいることに思いをいたせば、今日のわれわれには、二十一世紀の子孫のためにも、教育に力を注がなければならぬ責任があります。私は教育にもっともっと力を入れなくてはならぬと考えております。今回の抑制予算の中においても、特に教育を重点項目として、私学助成の強化、教員の待遇改善、育英奨学資金の増額を図ったのもその趣旨によるものであります。
 しかし、そのためには、まず教育を本来あるべき場に引き戻すことが必要であると考えております。教育を政争圏外の静かな場に移さなくてはならぬと考えております。(拍手)まず、そうした環境づくりが必要と考えて、あえて政党人でない永井君を文部大臣に起用した次第であります。
 すべての人に、いかなる環境に生まれようとも、その潜在能力を十分に引き伸ばすための教育の機会の均等は、ぜひ保障しなければなりません。
 教師には、安んじて教育に専念できる待遇を保障しなければならぬと考えております。
 地球社会時代と言われる今世紀から二十一世紀にかけて、活躍できるような国際的日本人の教育も緊急事であると考えております。
 結局、資源のない日本としては、頼るものは日本人の創意であり、英知であり、技能であり、勤勉であります。教育もまた、そうした能力と個性の開発を目指さなければならぬと考えております。
 国防と治安の維持は、言うまでもなく政治の基本であると考えます。
 自衛隊については、自衛力の技術的な面もさることながら、自衛隊と国民との間に相互理解の和がなくては、真の自衛力とはなり得ません。
 私は無防備論にはくみしません。(拍手)現実的な国際常識からして、大きな国際影響力を持つ日本を、防備の面から真空地帯にしておくことは、アジア、太平洋地域の安定をかえって阻害すると私は考えております。(拍手)
 しかし、わが国の防衛力はあくまでも自衛のためであって、アジア近隣諸国に脅威を与えるようなものであってはなりません。
 核武装は論外です。いわゆる核拡散防止条約については、原子力の平和利用につきその査察が西欧などと平等に行われることなどの条件が満たされた上で、批准のための手続を進めていく考えであります。
 核時代の国防の第一理念は、有事に至らしめない、すなわち核戦争や核戦争につながるような紛争を抑止することにあります。
 私は戦争抑止という観点から、日米間の安保協力と自衛隊の存在を評価するものであります。しかし、それは余りにも狭い純軍事的な意義に局限してはかえって真の効果が失われるおそれがあると考えます。
 自衛隊が国民から遊離、孤立した存在であってはその真価を発揮することはできません。
 私は国民の皆さんが自衛隊の役割りを正当に理解して、自衛隊が国民の皆さんから歓迎、祝福される存在になってもらうことを心から願っておるものであります。(拍手)
 民主主義がいかなる暴力とも相入れないことは申すまでもありません。法と秩序を無視し、国民生活に脅威を与える暴力行為は強く排除していく考えであります。
 私はこれまでしばしば新規まき直しの必要を唱えました。
 私はまず議員の皆さんに訴えたいのでありますが、このちょうどよい出直しの機会に、議会政治の本当にあるべき姿を打ち立てようではありませんか。
 また、政治全体の信頼回復のために、今日の選挙のあり方、政治資金のあり方にもメスを入れようではありませんか。われわれとしてもこれに必要な法案をこの国会に提出する準備を進めております。
 次に、企業と組合の皆さんにも訴えたいのです。どうしても従来のような労使対決関係しか労使関係はあり得ないのでしょうか。スケジュールの闘争方式しかあり得ないのでしょうか。
 企業の構成員も、組合の構成員も、同じ国民の一員であります。国民ベースで新しい労使関係のあり方が生まれ得ないものでしょうか。
 最後に国民の皆さんに訴えたいと思います。高度経済成長のなれっこになって、むだもぜいたくも余り感じなくなったきらいがあります。これからはそうはまいりません。それは日本国民が貧乏になるということではありません。世界の資源をわがままに使うことを慎んで、節度のある安定成長の社会に生きるということであります。世界とともに歩もうということであります。正常な落ちついた日本になろうということであります。
 お互いに物的生活は簡素に、精神的生活は豊かであることを目指して、新しい時代の生きがいを求めていこうではありませんか。(拍手)
 日本人の先人は幾たびか今日以上の試練に耐え抜いて今日の日本を築き上げました。われわれには潜在能力があります。われわれが互いに協力し合えば、この難局を切り抜け、世界の新しいモデルになるような新しい日本の建設が可能であるとの強い自信と希望をお互いに持とうではありませんか。(拍手)
 偉そうなことを言える私ではありません。また、言うつもりもありません。しかし、三十八年間、ただただ民主政治と国際平和とを念願して、この道一筋に生きてきた議会人として、この内外情勢のきわめて困難なときに私が担いました光栄ある重い責任は、日本国民のため、自由、民主政治のため、はたまた世界平和のために全力を挙げることであります。私はこの重責を果たすために力いっぱい献身する強い決意であります。(拍手)
 これをもって私の施政方針演説を終わる次第であります。(拍手)
    ―――――――――――――
#14
○議長(河野謙三君) 宮澤外務大臣。
   〔国務大臣宮澤喜一君登壇、拍手〕
#15
○国務大臣(宮澤喜一君) 第七十五回国会の再開に当たり、わが国をめぐる国際情勢を概観し、わが国外交の基本方針につき、所信を申し述べます。
 今日の世界は、新しい秩序を求めつつ、変動の過程にあります。
 特に、一昨年来の石油・エネルギー危機とこれに伴う国際経済上の諸問題は、世界の政治、経済に大きな影響を及ぼしております。
 戦後の世界経済は、かなり長い期間おおむね安定と繁栄を享受してまいりましたが、一九六〇年代の末以降、多くの問題を生ずるに至り、特に、一昨年の中東戦争以後の石油価格の急激な高騰を契機としまして、一段と困難な事態に直面しております。食糧、資源、海洋など国際社会全般にかかわる諸問題についても解決が求められております。
 また、開発途上国は、国際場裏において、より大きな発言力を求めるに至りました。
 国際政治関係の基調を見れば、米ソ、米中関係を中心とする、いわゆる緊張緩和の動きが数年来続いております。米ソ間では、昨年アメリカ大統領の二度のソ連訪問が行われ、両国間の対話が継続されており、また、米中間においても、実務関係促進への努力が払われております。欧州においても、東西間の話し合いが継続されております。このような動きの中で、世界各国は、外交政策の新たな方向づけを模索しつつありますが、アジア、中東など世界各地に内在する根深い不安定要因は解消しておりません。のみならず、経済状況の悪化に伴い、一部の国においては、政治的、社会的不安が顕在化しつつあります。
 今日の世界は、特に経済面で多くの困難な問題を抱えた試練の時代を経験しており、しかも各国は、大なり小なり相互に影響し合い、依存し合っておりますので、相協力して従来の秩序を改善し、新しい国際的秩序を建設しなければならない局面に立っております。
 このような時代において、わが国民の安全と福祉をいかにして確保すべきでありましょうか。
 わが国は、世界の平和と安定の中で初めてみずからの生存を確保することができるのであります。
 したがいまして、わが国は、第一に、日米関係を基軸にしつつ、体制を異にする諸国をも含め、世界各地域の諸国との友好関係を強化する多角的な外交をさらに推進する必要があります。
 第二に、変動する内外の諸要因の本質を見きわめ、調和のとれた新たな国際的秩序を建設するよう積極的に貢献してまいらなければなりません。
 かかる基本的な立場に基づいて、若干の主要な国際問題についてとるべき施策について申し上げます。
 まず国際経済関係でございますが、石油・エネルギー問題については、各般の国内的措置を推進しつつ、産油国との友好関係の緊密化に努めるとともに、国際エネルギー機関その他の消費国間の協調の場において、この問題の検討を進め、産油国と消費国との間の建設的な対話の実現のため努力を行っていく所存であります。
 また、石油価格の高騰により、一部産油国に蓄積された巨額の資金を、安定的かつ秩序ある形で還流させることは、国際金融面のみならず、世界経済全般にかかわる焦眉の課題であります。これについては、産油国からの資金拠出をも得て、国際収支が困難な状況にある国々を援助するとの考えに基づき、今般国際通貨基金の石油融資制度を拡大することとなりました。また、先進工業諸国間の相互扶助のための金融協力につきましても、このたび大筋の合意に達しました。
 さらに、米国の新通商法の成立により、新国際ラウンドの本格交渉が本年開始される運びとなりましたことは、その推進に積極的に努力してきたわが国といたしましては、大いに歓迎するものでございます。政府としては、保護主義を排し、自由貿易体制の維持・拡大を目指すこのラウンドの意義にかんがみ、これに積極的に参加してまいりたいと考えております。
 次に、開発途上諸国との関連について申し上げます。
 わが国自身が、現在石油危機によって甚大な影響を受けておりますものの、多数の開発途上国が新たな困難に直面しておりますこの時期にこそ、これらの諸国の国づくり、人づくりのために各般の協力を拡充する必要があると考えます。
 このような考え方に基づき、政府としては、国際的にまだ低い水準にございます政府開発援助の量・質両面にわたる改善に努めてまいる方針でございます。また、その実施に当たっては、開発途上諸国の自助努力に一層寄与するよう、農業開発、社会開発の分野の協力を重視するとともに、政府ベース、民間ベースの有機的連携のもとに、従来以上に均衡のとれた地域別配分に留意する所存であります。
 次に、国際連合は、国際紛争の解決を助けて平和を維持する役割りを果たす一方、社会、経済等広範な分野にわたる国際協調の場としての機能を強めつつあります。政府としては、わが国が理事国であります安全保障理事会及び経済社会理事会をも通じて、国際連合が新しい時代の課題にこたえて活動をし得るよう今後とも貢献していく考えでございます。
 なお、来る三月、新たな海洋法条約作成のための実質的交渉が行われる予定でございますが、伝統的な海洋の自由を狭める方向に動きつつ大勢の中にあって、政府としては、わが国の利益をできる限り維持すべく全力を尽くすとともに、新たな世界の趨勢にかんがみ、安定的かつ永続的な海洋の新秩序確立に協力してまいる所存であります。
 世界における核拡散への動きを憂慮する政府といたしましては、核拡散防止のための国際的な努力に、積極的に協力する所存であります。核兵器不拡散条約については、従来の方針どおり、原子力の平和利用の分野において、他の締約国との実質的平等性を確保するため、国際原子力機関との間の保障措置協定締結のための予備交渉を進めるべく、ただいま所要の準備を整えております。この交渉の終結を待って、国民の支持を得て、できるだけ速やかに本条約の批准につき国会の承認を求めたいと考えております。
 文化、学術の分野における交流は、諸国民の間の心のつながりを培うものであり、その意義は、この変革の時代においてますます増大しております。政府は、かかる観点に立ち、諸外国との文化交流の拡大及び日本研究の促進のため各般の努力をしてまいりました。政府としては、各国からの評価と期待にこたえ、今後とも国際交流基金の拡充、強化に努めるとともに、多方面にわたる幅広い文化交流を進めていきたいと考えております。
 以下わが国が世界各国、各地域との間に展開すべき具体的施策について申し上げます。
 米国との友好協力関係は、自由と具体的人権の尊重に立脚した政治体制及び個人の創意と能力を生かす自由主義経済体制を維持するとの、両国共通の理念をその基盤としております。日米関係を緊密に維持増進することが、わが国外交を多角的に展開する際の基軸であります。
 日米両国は、きわめて多岐にわたる分野で、緊密かつ互恵的な関係を発展させてきております。また、日米関係は、いまや、単に二国間の案件の処理にとどまらず、広く世界的視野に立ち、国際社会が当面する諸問題につき、両国がそれぞれの立場から相協力してその解決策を探求していくという段階にあります。政府としては、昨年秋のフォード大統領の訪日の成果を踏まえ、今後とも「相互協力及び安全保障条約」の精神である相互信頼と協力を旨として、間断なき対話を進め、日米関係を強化、発展させていく所存であります。
 アジアにおいては、変動する国際情勢の中で、各国は、自主自立を基調としつつ、安定と発展を確保するための努力を続けております。
 しかしながら、朝鮮半島やインドシナ地域においては、依然として緊張要因は除去されるに至らず、また、その他の地域も、いまなお随所に潜在的な不安定要因を抱えているのが現状でございます。さらに、最近の世界経済の変動は、この地域の安定と発展に憂慮すべき影響を与えております。わが国としては、このようなアジア地域の情勢にかんがみ、今後とも国力の許す限り協力を行い、平和と安定を分かち合うよき隣人としての努力をいたす所存であります。
 日韓間には、過去一年余り幾つかの不幸な出来事が起こりました。しかし、わが国にとって、日韓関係が重要であることには変わりがありません。政府としては、朝鮮半島の平和と安定を切に望みつつ、韓国との間の友好関係を増進するため一層努力してまいる所存であります。
 日中関係は、貿易協定、航空協定等各種実務協定が締結され、その基礎が固められつつあります。政府としては、今後とも、日中共同声明を基礎として、日中間の善隣友好関係をより一層確固たるものにしていく方針であります。かかる方針の一環として、政府は、日中間の各種の交流と対話を促進する一方、日中共同声明に従い、漁業協定並びに平和友好条約の締結に引き続き積極的に取り組んでいく所存であります。
 なお、日台間の実務関係を維持していく方針には変わりありません。
 東南アジア地域においては、ASEAN等地域協力も引き続き進展しており、地域内諸国とわが国との関係が密接の度を加えております。わが国としては、相互補完の関係にあるこの地域の諸国との間に各般の分野にわたり一層の理解を深め、アジアの平和と安定のためともに協力してまいるべきだと考えます。
 しかしながら、インドシナ半島におきましては、一部の地域において、なお戦火が続いております。わが国としては、すべての関係当事者がパリ和平協定を尊重し、これを厳格に実施することが、問題解決のため不可欠であろうと考えます。このような努力を通じ、インドシナ各国において、政治的に対立している双方当事者が、外部からの干渉なしに、平和的話し合いにより、和解を実現することが可能になると信じます。政府としては、アジア・太平洋地域の他の諸国とも密接に協力しつつ、今後とも同地域の平和と安定の達成に努めるとともに、全インドシナ地域の民生安定と戦後復興のため、引き続き応分の協力を進めてまいりたいと思います。
 インド亜大陸における諸国間の関係は、改善の方向をたどっております。わが国としては、これを歓迎するとともに、この地域の安定と発展のために、今後ともできる限りの努力をいたす所存であります。
 さらに、太平洋をはさみ、わが国の隣国である豪州・ニュージーランド及びカナダは、先進民主主義国であると同時に資源保有国でもあり、わが国にとって、政治的にも、経済的にも、重要なパートナーであります。政府としては、これら諸国と引き続き幅広い友好協力関係の促進に努めていきたいと考えております。
 今般私は、ソ連を訪問し、一昨年の日ソ首脳会談の成果に基づき、平和条約の締結に関する継続交渉を行うとともに、日ソ間の諸問題についても意見を交換してまいりました。平和条約締結交渉において、私は、長期的な展望に立って日ソ関係を発展させるためには、北方領土問題という日ソ間のわだかまりを取り除くことが急務であるとのわが国の立場を述べ、ソ連側の決意を求めましたが、その同意を得るに至らず、その結果双方は交渉を引き続き行うことに合意した次第であります。
 政府としては、今後とも隣国であるソ連との間に、貿易、経済、文化等幅広い分野において交流の進展を図っていく所存でありますが、同時に日ソ関係を真に安定した基礎の上に発展させるためには、領土問題を解決して、平和条約を締結する努力を粘り強く続ける必要があります。
 中東情勢の動向は、いまや全世界に多大の影響を与えるものでございます。わが国としては、その推移を重大な関心を持って注意深く見守るとともに、国連安全保障理事会決議二四二号に基づいた公正かつ恒久的な平和が一日も早く実現することを切望してまいりました。
 中東紛争解決の前途にはなお多大の困難が予想されますが、わが国としては、関係諸国が建設的かつ現実的立場に立って、武力紛争の再発を抑え、問題の解決に向かってさらに努力することを強く希望するものであります。
 同時に、政府は、中東諸国との間に急速に発展してまいりました人的、文化的、経済的交流及び経済協力関係を一層拡大し、相互理解の促進に努める所存であります。
 西欧諸国は、先進工業民主主義諸国の中の主要な一つの柱であり、わが国と各種の共通の問題を抱えております。日欧間では近年資源・エネルギー、貿易、通貨、投資、科学技術等の分野において、相互の協力がますます緊密化しつつございますが、今後とも、あらゆる分野にわたって密接な協力関係を促進していく必要があると考えます。
 本年五月には、英国女王エリザベス二世陛下が訪日される予定でありますが、これは、わが国と英国との間の伝統的な友好関係の一層の強化発展に寄与するものと存じます。
 東欧諸国との関係も一層深めてまいりたいと考えておりますが、本年四月にチャウシェスク・ルーマニア大統領を日本に迎えることができることは、まことに喜ばしいことでございます。
 アフリカにおいては、最近新しい情勢が生まれつつあります。ポルトガル領非自治地域が順次独立を達成しつつあり、南部アフリカ問題も局面打開への動きが見受けられます。アフリカ諸国の植民地主義及び人種差別反対という願望をかねてから理解し支持する立場をとってきたわが国としては、かかる事態の進展を心から歓迎するとともに、今後ともアフリカ諸国との友好協力関係を増進してまいる所存であります。
 わが国と中南米諸国は、伝統的な友好関係にあり、特に近年、経済協力関係は著しく緊密の度を加えつつあります。政府としては、相互の関係をさらに幅広いものとし、永きにわたって安定した基礎の上に置くよう外交努力を重ねていく所存であります。
 以上、わが国を取り巻く国際情勢を概観し、わが国の外交につき所信を申し上げました。
 世界各国は、変動する国際情勢の中にあって、相互依存の関係を深めており、世界の一地域で起こった事態が直ちに他の地域の国民生活に影響を及ぼすようになりました今日、わが国の外交を広くかつ積極的に展開する必要性が増大してまいりました。わが国の外交体制がこの必要に十分即応できますよう努力をいたしたいと考えております。
 国民各位の御理解と御支持をお願い申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
#16
○議長(河野謙三君) 大平大蔵大臣。
   〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
#17
○国務大臣(大平正芳君) ここに、昭和五十年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後における財政金融政策について、所信を申し述べますとともに、予算の大綱を御説明申し上げたいと存じます。
 いまや、わが国は、幾多の困難と試練の中で、新たな進路を開拓すべき時期を迎えていると思います。
 戦後、急速な復興と発展を遂げてまいりましたわが国経済社会は、今日に至り、物価の騰貴、資源の制約、環境の汚染等数々の問題に直面しております。他方、国民の精神生活においては、社会的連帯の弛緩、世代の断絶、老後の不安などに連なる不満と焦燥の念が高まっております。こうした傾向は、ひとりわが国ばかりでなく、他の国々にも見られるところでありますが、このような経済面の諸問題と精神的な渇きとは相互に因となり果となって、ますます事態の混迷を招くに至っているように思われます。
 今日の事態をもたらしたものは、人間生活の一面である経済に重きを置き過ぎてきたことと、自分と他者との関係について調和のとれた配慮を欠いてきたことの帰結であるように思われてなりません。したがって、われれわは、ここで人間と自然との調和を取り戻し、自分と他者との協調について謙虚に反省し、政策の基本を改めて見直すことから出発しなければならないものと考えます。
 われわれの目標とすべき経済社会は、共通の目標のもとで相互に調和ある関係を維持しながら、人々が安心して生活のできる連帯性の強い公正な社会でなくてはなりません。同時に、国民の一人一人が、それぞれの個性と豊かな創造力を存分に発揮できる活力のある社会でなければなりません。
 このような公正で活力のある社会を実現していくため、私は次の三つの理念を道標として今後の財政金融政策の運営に当たりたいと存じます。
 すなわち、第一は均衡のとれた発展を図ることであり、第二は社会的な公正を確保することであり、第三は国際協調を推進することでございます。
 まず第一は、均衡のとれた発展を図ることであります。
 従来の成長の過程を通じ、わが国の経済には、住宅・生活環境施設等の相対的な立ちおくれが明らかになり、過密と過疎、環境の汚染等数々のひずみがあらわになってまいりました。また、最近に至り、物価の騰貴と国際収支の不安定が、われわれの財政や経済、企業や家計に好ましからぬ影響を与えてまいりました。
 そこで、まずわれわれは、資源、環境、労働力等の制約を念頭に置き、わが国の経済をして、その成長のテンポが緩やかで、量的にも質的にも均衡がとれた品位あるものにしなければなりません。すなわち、今後のわが国経済は、国民生活の着実な向上を可能にするに足るものでありますとともに、わが国の国際的責任を果たし得るものでなければなりません。同時に、その内容は、強い活力と高い技術を保ちながら、国民の福祉に奉仕するものでなければなりません。
 私は、そうした視点に立って、今後の財政金融政策を運営してまいる所存であります。特に、財政面におきましては、従来のような多額の自然増収を期待することは困難になってまいりましたが、限りある財源の重点的効率的配分には特に意を用いてまいる所存であります。
 また、金融面におきましては、緩やかで均衡のとれた経済の成長にふさわしい態勢を整備することとし、資金配分の適正化、貯蓄の推進、資本市場における金利機能の活用、個人投資家層の拡大等に特に留意してまいりたいと存じます。先般来、住宅金融の拡充、金融機関の大口融資の規制等の措置を実施してまいりましたのもこのような考え方に基づくものでございます。
 第二は、社会的公正を確保することでございます。
 社会的公正を確保することは、あらゆる政策の基本であります。特に、財政金融政策におきましては、インフレーションが所得や資産の分配に大きな不公正を生み、国民生活と社会秩序を根底から崩す元凶であることにかんがみ、まず何よりもインフレ対策を強力に推進することが、社会的公正を実現する上から申して最も重要であると考えます。
 同時に、老人、身体障害者等社会的経済的に恵まれない方々に対しましては、極力社会保障の充実を図り、相対的に有利な立場にある方々に対しては、税その他公共的負担の増加に耐えていただくなど、社会的公正の確保のために鋭意努力を払ってまいる所存であります。
 第三は、国際協調を推進することでございます。
 私は、このたび、ワシントンで開催された十カ国蔵相会議とIMF暫定委員会を初めとする一連の会議に出席してまいりました。
 今回の会議の中心課題は、石油価格の引き上げによる国際収支構造の激変と世界的インフレという情勢に対処しながら、いかにして世界的不況を回避し、また、非産油開発途上国が直面いたしておりまする困難な事態を克服するかということであったと思います。
 われわれは、今後、国際協調の精神に基づき、いわゆるオイル・マネーの安定的かつ秩序ある還流システムの確立、開発途上国の利益に連なる経済協力の推進、国際通貨制度の円滑な運営等に積極的な役割りを果たしてまいる所存であります。また、ガットの場において、ようやく本格化してまいりました新国際ラウンド交渉におきましては、ガットの精神を踏まえて、その成功を図るよう一層努力してまいりたいと思います。
 こうした考え方に立ちまして、私は、当面まず昭和四十八・九年両年にわたる経済の異常な混乱を収束し、わが国経済を中期的な安定した成長の軌道にソフトランディングさせることを政策の基調とすべきであると考えております。
 一昨年来の異常な物価上昇は、経済活動を混乱させ、国民心理の不安定と国民所得の不均衡をもたらしました。このような事態に対し、政府は、財政金融両面にわたって周到な総需要抑制策を実施してまいりました。こうした政策努力の結果、物価はようやくその騰勢を鈍化させつつあるものの、その先行きにはなお警戒を要するものがございます。
 加えて、現在特に懸念されておりますことは、賃金と物価の悪循環の問題であります。従来ほどには高い生産性の向上を望み得ない状況のもとにおきましては、賃金の大幅上昇は、直ちに物価の上昇となってはね返ってくることが予想されます。名目的にいかに高い賃金の引き上げが行われたといたしましても、それは物価上昇で相殺される見せかけの引き上げにすぎなくなるわけでございます。インフレは、つまるところ、経営者にとりましても、労働者にとりましても、共通の敵であります。理性ある対処が求められるゆえんであります。
 政府といたしましては、したがって、当面物価の安定を最重点の政策目標といたしまして、抑制的な財政金融政策を継続してまいる所存であります。総需要抑制策の長期化に伴い、生産活動は低下し、雇用情勢にも変化が生ずるなど、停滞色が強まってまいりましたことはわれわれとしてもよく承知いたしております。しかしながら、このような事態は、物価の安定を定着させるためには、避けて通ることのできない試練でございます。根強いインフレを克服できるか否かは、結局は、国民一人一人のしんぼう強い努力にかかっておるのであります。
 もっとも、このような政策運営が、中小零細企業等に過度にしわ寄せされることのないよう、また、特定の産業部門に致命的な打撃をもたらすことのないよう、政府といたしましてもきめ細かい配慮を払っておるところであります。景気が過度に停滞し、社会的不安を起こしかねないような事態になれば、物価の動向をも勘案しながら、必要に応じ機動的弾力的措置を講じてまいることは当然であります。ただ、その場合におきましても、このような措置が再びインフレを刺激することのないよう慎重な配慮が払われなければならないことは申すまでもございません。
 昭和五十年度予算は、以上申し述べましたような考え方に立ちまして、引き続き抑制的な基調のもとに、社会的公正の確保に配意しながら、国民福祉の向上と国民生活の安定を目指して編成いたしました。
 その特色は、次の諸点であります。
 第一は、予算及び財政投融資計画を通じ、その規模を極力抑制いたしますとともに、公債発行額を縮減いたしたことであります。
 すなわち、昭和五十年度一般会計予算につきましては、すでに生じた物価、賃金の大幅な上昇を反映いたしまして、人件費その他義務的経費の増加がきわめて多額に上り、予算規模の圧縮には種々の困難がありました。しかし、既定経費の整理合理化と財源の重点的な配分を行い、極力規模の圧縮に努め、一般会計予算は、前年度当初予算に比べ、二四・五%増の二十一兆二千八百八十八億円にとどめました。
 また、財政投融資計画につきましても、同様の抑制的な基調のもとに編成し、前年度当初計画額に比し一七・五%増の九兆三千百億円にいたしております。
 これによる中央・地方を通ずる政府の財貨サービス購入の伸び率は、政府の経済見通しによる国民総生産の伸び率を下回るものとなっております。
 なお、公債につきましては、その発行額を前年度当初発行予定額より千六百億円減額し、二兆円といたしております。これにより、一般会計における公債依存度は一〇%を下回り、九・四%となっております。
 第二は、最近の経済情勢に応じて租税負担の調整を図ったことでございます。
 まず、所得税につきましては、各種人的控除の引き上げによる若干の減税を行うことといたしております。昭和五十年度は、前年度税制改正による所得税減税の平年度化が相当の規模に達する上、経済を抑制的に運営する必要がありますので、減税規模は、最近における物価情勢等に即応する程度にとどめることといたしてあります。
 また、ここ数年来据え置いてまいりました酒税の増徴、たばこの小売定価の改定を行い、歳入の充足を図ることといたしております。
 さらに、相続税につきましては、かなり長期間にわたって基本的な改正が行われなかったことを考慮し、かつ、近年の物価の動向等にかんがみ、相当思い切って負担の軽減の措置を講ずることといたしております。
 このほか、租税特別措置につきましては、利子・配当課税の特例、土地譲渡所得に対する課税の特例等を更正することといたしております。
 第三は、公共投資について引き続き抑制を図りますとともに、事業費の重点的配分を図ったことであります。
 すなわち、一般会計の公共事業関係費は、前年度当初予算額に比べて二・四%の微増にとどめております。なお、既定の長期計画、大規模事業につきましては、その進度の調整を図り、また、昭和五十年度を初年度とする新規計画の策定は行わないことにいたしております。
 このような抑制基調のもとにありましても、住宅・生活環境施設等については重点的な配慮を行っており、特に下水道の整備につきましては、特別の地方債措置等による事業費の増大を図っております。同様に、文教及び社会福祉施設につきましても、事業費の大幅な増額に配慮いたしております。
 第四は、公共料金について極力これを抑制することとしたことであります。
 公共料金は、本来、コストとの関連で合理的な水準に設定されるべきものでありますが、物価安定のため、政府はできるだけその抑制に努めてまいりました。昭和五十年度予算の編成に当たりましても、最近の経済情勢等にかんがみ、真にやむを得ないもの以外は、その引き上げを抑制することといたしました。すなわち、塩の小売価格、麦の政府売り渡し価格及び電信電話料金については、予算にその引き上げを織り込まないことといたしました。また、たばこの定価や郵便料金についても、引き上げの幅と時期について特に配慮いたした次第であります。
 第五は、財源の重点的配分を図りますとともに、最近の諸情勢に即応した諸施策の充実に努めたことでございます。
 まず、社会保障でございますが、福祉年金につき、その支給月額を老齢福祉年金において七千五百円から一万二千円に引き上げる等画期的改善を行いますとともに、厚生年金及び国民年金における物価スライドによる年金額の引き上げとその実施期日の繰り上げ、生活扶助基準等の引き上げを行うことといたしております。また新たに、介護を要する在宅の重度心身障害者についての福祉手当制度を設けますとともに、社会福祉施設の職員の処遇改善等各般の施策を推進いたしております。
 次に、文教及び科学技術の振興につきましては、私立大学に対する経常費助成を拡充いたしますほか、新たに高等学校以下の私立学校についても助成の措置を講ずることといたしました。さらに、教員給与及び教職員定教の改善、育英事業の拡充、原子力の安全確保対策の充実等、各般にわたり施策の拡充を図ることといたしております。
 また、中小企業対策につきましては、特に、小企業経営改善資金融資制度の大幅拡充等、小規模事業対策に重点的に配意いたしますとともに、政府系中小金融三機関の融資規模を拡大することといたしております。
 以上のほか、国際的なエネルギー資源問題の動向等にかんがみ、石油資源の開発を促進いたしますとともに、新たに設立される共同石油備蓄会社に対して出資を行う等、石油備蓄対策を講ずることといたしております。
 さらに、食糧の安定供給、自給力向上のための諸施策、生鮮食料品を初めとする農水産物の価格安定、流通合理化等各種物価対策の拡充を図りますとともに、公害の防止及び環境保全対策など、各般の施策を積極的に推進してまいることといたしております。
 第六に、今後の経済情勢の推移に対処するため、予算及び財政投融資計画の執行に当たり、その弾力的運用を図り得るよう配意いたしてあります。
 第七に、地方財政につきましては、地方交付税交付金が前年度当初予算に比べて三〇・三%増加する等により、その歳入は相当増加するものと見込まれております。しかし、現下の経済情勢等にかんがみ、国と同一の基調により、地方におかれても公共投資を初めとする歳出を極力抑制するとともに、財源の重点的配分を行い、また、定員及び給与についての適切な管理を行うこと等により、節度ある財政運営を図られるよう期待するものであります。
 最後に、国際収支の動向について申し上げます。
 原油価格の高騰を主因といたしまして、昨年前半におきましては、わが国の国際収支はかつてない大幅な赤字を記録いたしました。しかしながら、昨夏以降、貿易面では、国内経済活動の鎮静化を反映して輸入が落ちついた動きを示す一方、輸出がかなり高い伸びを見せたこと、長期資本の収支面でかなり大きな改善をなし得たことなどから、最近における国際収支は、全体としては望ましい方向に向かいつつあります。内外の情勢はなお流動的で、前途は必ずしも楽親できませんが、節度ある財政金融政策の運営を通じて、今後とも着実に国際収支の改善を図り、国際信用の維持向上に努力を続けてまいる考えであります。
 私は、すぐれた国民的エネルギーの開発と、その内外にわたる秩序ある展開を図りますとともに、経済中心の乾いた社会を改め、人間性豊かな安らぎと温かさのある社会を築き上げて行くことを目標といたしまして、今後の政策運営に最善を尽くしてまいる考えであります。
 しかしながら、いかなる政府の施策といえども、必要とされる財源は、結局は国民の負担に帰するものであります。また、国民がそれぞれの立場、それぞれの利益に固執して相争うならば、調和のとれた施策の実行は困難であります。私は、率直に問題の所在を国民の前に披瀝し、共通の利益のためにいずれを取るべきか、いずれを捨てるべきか、国民にその理解と選択を求めつつ、政策の実効ある展開を期してまいりたいと思います。
 国民各位の一層の御理解と御協力をお願い申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
#18
○議長(河野謙三君) 福田国務大臣。
   〔国務大臣福田赳夫君登壇、拍手〕
#19
○国務大臣(福田赳夫君) わが国経済運営の基本的方向と、当面のインフレを克服し、経済を安定させるための諸施策について、所信を明らかにいたします。
 いまや二十世紀は、あと四半世紀を残すだけとなりました。そして、世界の人々は、来るべき二十一世紀への展望に強い関心を持つようになってまいりました。その展望の中で、二十一世紀は、このままでまいりますと、かつて想像され期待されたような栄光の世紀ではなく、むしろ多難の世紀となることがおそれられておるのであります。その背景として、われわれは、特に資源、環境等の問題がきわめて大きな影を投げかけていることを発見するのであります。
 顧みますと、戦後三十年間、世界は、平和と科学技術の進歩により、目覚ましい繁栄を享受することができました。そして、この地球上には、作りましょう、使いましょうという、いわゆる使い捨ての大量消費社会が出現したのであります。しかし、この間、人類は、その貴重な地球上の資源を使い荒らしました。いまや、さほど遠くない将来において、一部の資源が枯渇する事態もないとは言えない、そういう情勢であります。かくして世界の人々は、地球と人類の将来を深く憂え、「資源有限時代」の到来を意識するに至ったのであります。
 このような認識は、人類にとって革命的とも申すべき大きな意識変化であります。これに伴いまして、国々の姿勢にも、この新しい事態に対応しようとする大きな変化があらわれてまいりました。資源保有国では、資源ナショナリズムの立場に立った動きが強くなり、特にその資源を政治的に使おうとする傾向も出てまいりました。このような傾向に対して、資源消費国では、当面、省資源、省エネルギーという方向で対処せざるを得なくなることはまた当然であります。
 このような情勢を大観しますと、世界経済は、全体として、これまでのような繁栄の時代は終わりを告げ、低成長の時代へと移行せざるを得ません。しかも、それは安定したものではなく、資源ナショナリズムの動きなどを考えますと、波乱含みの低成長時代であると考えられるのであります。
 このような世界経済情勢の展望の中で、特に資源の大半を海外に依存するわが国は、従来のような高度成長を今後再び期待することはできないし、また、物価、公害、国際収支など種々の観点から見まして、それは適当でもないのであります。わが国といたしましては、国際的にも調和のとれた静かで控え目な成長を旨として、慎重な経済運営を行っていくべきであると考えます。国も、企業も、家庭も、「高度成長の夢よ再び」という考え方から脱却し、経済についての考え方を、根本から転換すべきときに来ておると思うのであります。
 申すまでもなく、経済の成長発展は、それ自体が目的ではないのであります。いわば手段にすぎないのであります。われわれの目指すところは、国民に対し、物心両面において、安らかでゆとりのある暮らしを保証するための健全な環境をつくり上げることであります。
 ところで、経済成長が従来より低くなったからといって、国民福祉の向上が停滞することは許されません。これまでは、成長の成果の相当部分を次の成長のために振り向けてまいりましたが、今後は、これをより多く国民福祉に振り向けなければならないと思うのであります。
 同時に、成長の成果の配分が一部の人に偏り、不公正が拡大するということがあってはならないのであります。すべての人々が生きがいを感じ、互いにより強い連帯感で結ばれるよう、社会的公正の確保に格段の配意が必要となってくるのであります。(拍手)
 また、こうした落ちついた成長のもとでは、物を大切にするという心組みが必要であります。使い捨ての時代は終わりました。国も、企業も、家庭も、物の合理的な消費を志向し、省資源・省エネルギーの経済構造をつくり上げることが、新しい資源有限時代に適応する道であります。
 このように、安定した成長のもと、緑豊かな国土、潤いのある生活、そして人間味あふれる社会をつくり上げていくことが、昭和五十年代におけるわれわれの課題でなければならないのであります。
 以上のような考え方のもとに、政府は、昭和五十年度において、その施策の根本的な洗い直しを行い、新しい経済運営と国土の総合利用の指針として、五十一年度を初年度とする新たな長期計画を策定することにいたしました。
 さて、当面のわが国経済は、一昨年来の狂乱とも言えるインフレ状態を収束し、国際的にも調和のとれた静かで控え目な成長路線へ移行する過程にあります。
 このような調整期間といたしましては、私は五十年度と五十一年度の両年度を考えておりますが、この期間における最大の課題は、言うまでもなく、インフレを抑圧し、経済を安定軌道に乗せることであります。政府は、万難を排して、これを実現してまいる決意でございます。
 わが国経済は、これまでの総需要抑制政策の効果浸透などにより、物価安定への手がかりをつかみ、インフレの克服までもう一息という重要な段階にあります。
 このインフレ克服の過程で生ずる摩擦的現象に対しましては、財政金融や雇用対策などにおいて、きめ細かい配慮をいたしてまいりますが、現在は、このような重要な段階にありますので、なお引き締めの基調を堅持しつつ、慎重な運営を行っていくべきと考えております。
 五十年度におきましては、流動的な国際経済情勢に配慮しながら、インフレを克服し、国民経済の健全な機能の回復を図ることを旨とし、警戒機動型の経済運営を行ってまいります。すなわち、インフレーションに対しましては警戒的運営、不況の深刻化に対しましては機動的運営で臨む所存であります。
 かくして、五十年度経済の姿といたしましては、経済成長率は名目で一五・九%、実質で四・三%程度と考えます。また、物価につきましては、年度末までに前年同月比で卸売物価七・七%、消費者物価で九・九%程度の上昇に抑えることを目途といたしております。
 他方、国際収支につきましては、五十年度は、貿易収支がおよそ五十二億ドルの黒字、経常収支では十七億ドル程度の、また、基礎的収支では三十九億ドル程度のそれぞれ赤字となり、総体として四十九年度より若干の改善になるものと予想するのであります。
 このように、五十年度の経済は、全体として緩やかな回復基調をたどり、年度後半には、かなり明るさを取り戻し、落ちついた状態になるものと考えておるのであります。
 最近の物価動向を見ますと、昨年春ごろまでの狂乱状態を脱し、漸次鎮静化の方向にあります。卸売物価の対前月の上昇率は、十一月〇・三%、十二月〇・二%、先進諸国の中でもかなりいい状況でございます。また、消費者物価も、十一月〇・七%、十二月(東京)は〇・四%と、比較的落ちついた趨勢となっておるのであります。
 物価安定のプログラムといたしましては、さしあたり、本年三月の消費者物価を前年同月比で一五%程度にすることとし、この目標達成のため、抑制的な総需要管理と生活必需物資の価格、需給等に対する適時適切な対策を講ずるなど、全力を尽くしております。
 また、五十年度末の消費者物価上昇率は、さきに申し上げましたように、前年度末に比し、これを一けたにとどめるとともに、さらに、五十一年度中のできるだけ早い機会に、少なくとも定期預金金利の水準程度を目指すことにいたしております。
 この物価安定のプログラムを進めるに当たりまして最も大きな問題は、物価と賃金の関係であります。今日のインフレションは、需要インフレの域を脱し、コストインフレの段階にあると考えます。コスト要因として、海外要因もありまするが、いまや最も注目されるのは賃金コストであります。
 かつての高度成長期におきましては、賃金の上昇が生産性の向上によって吸収され得る状態でありましたが、現在のような低成長の時期になりますと、もはや生産性の大幅な向上は期待できません。したがって、賃金の大幅な上昇が、直接に物価の上に大きくはね返るということになるのであります。物価の上昇が再び賃金の上昇を呼び、物価と賃金の間の悪循環が定着するというようなことになれば、社会的不公正は激化し、国際競争力は失われ、わが国経済の破局につながることにもなりかねないのであります。(拍手)
 このような物価と賃金の関係の新しい段階につきまして、労使関係者が十分な理解を持つことは、きわめて重大な問題であります。(拍手)この理解の上に立つならば、賃金問題が両者の話し合いによって合理的に解決できないはずはないと信ずるのであります。当面する春季賃金交渉におきまして、労使双方が国民経済的立場に立ち、節度ある態度をもって臨まれることを強く期待してやまないのであります。(拍手)
 もとより、賃金は、労使の自主的交渉によって決定さるべきものであり、政府はこれに介入する考えはありません。しかし、その合理的な解決のためには、政府もみずからなし得るあらゆる努力をなし、労使の円滑な話し合いが促進されるよう、必要な環境づくりを進めてまいりたいと存じます。
 このため、さきに申し述べましたとおり、本年三月末の消費者物価を、前年同月比で一五%程度に抑えるよう全力を尽くすとともに、政府の物価問題に取り組む姿勢を示すものとして、五十年度の予算編成に際しましては、主要な公共料金につき、厳しくその引き上げを抑制することといたしたのであります。
 労使双方においても、賃金引き上げについて妥当な解決を図るべく努力されるよう重ねてお願いを申し上げるとともに、経営者に対しましては、利潤、配当などについて節度ある態度をとり、価格の引き上げの抑制に努められるよう強く要請するものであります。(拍手)
 現在、世界経済は、インフレと不況の谷間で、かつてない厳しい試練のときを迎えておるのであります。そうした中で、イギリス、西ドイツ、続いてアメリカでも、経済政策に一部の手直しが行われております。わが国でも、引き締め政策を転換すべしという声が強まってきていることは私も十分承知しております。
 しかしながら、わが国経済を見ますと、ようやく物価の先行きにも明るいものが見られるようになりました。国際収支も改善の兆しを示すようになりました。そして、経済を安定軌道に乗せるまでにもう一息という段階に立ち至ったのであります。まさに現在の段階は、インフレの克服、経済の安定に成功するかどうかという天王山であり、わが国経済社会の将来を左右するきわめて重大な時期となっておるのであります。
 あれだけの大混乱からの脱出でありまするから、摩擦もひずみも出てまいります。もとより、これらの摩擦やひずみに対しましては、臨機の措置をとり、その傷口を最小限にとどめます。
 ただこのとき、何よりも大事なことは、いましばらくのしんぼうです。このしんぼうの後にこそ、初めて、一億国民が要望するインフレのない社会、家庭でも企業でも落ちつきと希望を持って営みのできる安定した社会が実現されるのであります。
 このような社会を一刻も早くつくり上げようではありませんか。(拍手)
 私は、全力を尽くします。
 国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。(拍手)
#20
○議長(河野謙三君) ただいまの演説に対し質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#21
○議長(河野謙三君) 御異議ないと認めます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後四時二十六分散会
     ―――――・―――――
ソース: 国立国会図書館
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