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#1
第075回国会 文教委員会文化財保護に関する小委員会 第3号
昭和五十年三月四日(火曜日)
    午前十時十分開議
 出席小委員
   小委員長 河野 洋平君
      楢橋  進君    羽生田 進君
      木島喜兵衞君    小林 信一君
      長谷川正三君    栗田  翠君
      高橋  繁君    安里積千代君
 出席政府委員
        文化庁長官   安達 健二君
        文化庁次長   内山  正君
 小委員外の出席者
        文 教 委 員 藤波 孝生君
        文 教 委 員 嶋崎  譲君
        文 教 委 員 有島 重武君
        文化庁文化財保
        護部長     吉久 勝美君
        参  考  人
        (日本考古学協
        会委員長)   江上 波夫君
        参  考  人
        (日本学術会議
        会員)     林  英夫君
        参  考  人
        (早稲田大学教
        授)      本田 安次君
        参  考  人
        (北海道教育委
        員会教育長)  山本  武君
        文教委員会調査
        室長      石田 幸男君
    ―――――――――――――
三月四日
 小委員高橋繁君二月二十八日委員辞任につき、
 その補欠として高橋繁君が委員長の指名で小委
 員に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 文化財保護に関する件(文化財保護制度の現状
 と問題点)
     ――――◇―――――
#2
○河野小委員長 これより文化財保護に関する小委員会を開会いたします。
 文化財保護に関する件について調査を進めます。
 本日は文化財保護制度の現状と問題点について、参考人として日本考古学協会委員長江上波夫君、日本学術会議会員林英夫君、早稲田大学教授本田安次君及び北海道教育委員会教育長山本武君に御出席を願っております。
 この際、参考人各位にごあいさつを申し上げます。
 参考人各位には御多用中のところ本小委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。
 これより参考人から御意見を承りたいと存じますが、議事の順序といたしまして、参考人各位から御意見をそれぞれ十五分程度お述べいただきまして、その後小委員からの質疑があればこれに対しお答えをお願いしたいと思います。
 なお、参考人各位に申し上げますが、発言の際は、小委員長の許可を得て御発言をお願いいたします。御意見は、江上波夫君、林英夫君、本田安次君、山本武君の順序でお願いいたします。まず江上参考人にお願いいたします。
#3
○江上参考人 私は、日本の考古学専門の学者の協会であります日本考古学協会の委員長を務めておる者でございますが、協会に埋蔵文化財保護委員会というものをつくりましてこの三、三年この問題に取り組んでまいりました。そういう関係もございまして「文化財保護法の改正に関する要望書」というものを昨年まとめまして、これは文化庁長官の方に提出してあります。それからまたその席で、長官ともいろいろと懇談をいたしたのであります。
 先ほど皆様方に要望書を配付いたして、ごらんになっておられる方もあると思いますが、要点だけ申しますと、まず「埋蔵文化財は人類共有の貴重な財産である。従って国民が埋蔵文化財の保護につとめるのは当然であるが、国および地方公共団体はこれを積極的に保護する責任と義務がある。」ということが一番大切な根本の理念と思います。それに関しまして現行法には国民に文化財を継承する権利があり、政府は、この国民の権利を保障する義務があるという観点が欠けておるということをまず指摘したいと思います。
 現在、この保護法の改正が問題になって、本日もこの会が持たれたと思うのでありますが、その改正に当たっては、単に行政機関の意見のみでなく、関連する諸学界や文化財保護に努めてきた諸団体の意見も十分取り入れて行われるべきでありますし、その改正案の内審についても一般に広く公開されて慎重に論議される必要があるということをいろいろな点から感じておるのであります。
 文化財の保護は、御承知のとおり非常に大きな問題でありますし、広範多岐にわたっておりますから、国民の協力がなくてはとうていできるものではございません。そういう意味でも、国民に進んでこの問題に取り組み、また参加して長く文化財の保護に協力してもらうためにも、やはり法の制定において国民の声を十分に聞く必要があるだろうと思うのであります。
 それから保護法の改正に当たりまして、現在の埋蔵文化財保護行政が非常に機構的に貧弱でありまして、不備の点が多く、また財政的に貧困であるということは明らかなことであります。実際において現在まで多くの国及び地方の方々が、たとえば文化庁の方あるいは地方の教育委員会の文化財保護の責任の方々が非常に大変な努力をしておられるにかかわらず、何と申しましてもそれは機構的にもまた人的にも不備であるということから、また財政的にも貧困であるために、その効果を上げていないということが非常に遺憾に感ぜられるのであります。そういう点について特に強化するというような抜本的な法改正が必要であるということを考えるのであります。
 個々の問題につきましては、国や地方公共団体は埋蔵文化財包蔵地、この中には私は特に沿海域を含めたいと思います。海の周辺に遺跡がたくさん海底にあるのでありますが、それは全く顧慮されずに埋め立てなどが行われております。これをまず調べることから始めなければならぬと思いますが、沿海域を含める「分布調査を不断に実施し、台帳を整備し、」ということは、周知の遺跡という概念がありまして、その周知の遺跡を特に優先的に保護をするという問題がありますが、周知の遺跡というものがまだ十分に調べ上げられておらないという現状であります。それでありますから、これを不断に調査を実施して、台帳を整備し、あるいは土地台帳にその遺跡の存在を明記するというようなことをして周知徹底を積極的に図る。その分布調査につきましては、土地の所有者もあるいはそういう沿海の方々も協力していただかなければなりませんので、そのことも何らかの規定をつくって明記されることが望ましいと思うのであります。
 包蔵地の性格から見ますと、現在非常に重要なところでも表面から見てわからないようなところも幾らもございます。それでありますから、調査しているうちにだんだんわかってくるという性格から見まして、あらかじめ調査もせずに保存の措置に軽重をつける、ランクづけをすることは厳に避けなければならないということが考えられます。ランクづけは保護につながらないばかりか、ある場合には保護行政の後退を意味するということにもなりかねないのでありまして、むしろ現行法では重要な史跡の指定と、指定できないものは漸次調査してその処置を考える、こういう段階になっております。その方がむしろランクづけよりはまだいいというふうにわれわれは考えております。
 「埋蔵文化財包蔵地の現状を変更する一切の行為は、これを許可制にすべきである。」これはいままでの遺跡の文化、埋蔵文化財の破壊の状況を見ますと、どうしても許可制にしなければならぬということは実際に当たっている方がひとしく痛感しているところであります。これは都道府県教育長会議の要望書にもあるところでありまして、現に現地において責任の衝に当たっておられる方、これはだれでも許可制にしなければいけないということを痛感しておるのであります。ただ国、地方公共団体の工事を一般と区別して事前協議で処理するという考え方がありますが、これはわれわれとしては適当でないと考えます。なぜかと申しますと、行政部内のなれ合いで破壊が合理化されるという危険があるからであります。
 それから許可の基準の制度及び審議の過程においては、専門家の意見、特に日本考古学協会の統一した意見なども十分尊重していただきたいというのであります。
 それから、未知の埋蔵文化財包蔵地を含むような大規模な開発、最近はこういう開発が盛んに行われておりますが、これについてはあらかじめ基本計画の段階において専門家、学者たちの意見が取り入れられてしかるべきではないか、かなり進んでからではもう間に合わないということになるのであります。それから、保護法の罰則規定ははなはだしく現在においては軽いのでありまして、違反者の営業停止とかあるいは違反者については体刑をもって臨むというような罰則がなければ事実上これは空文になる場合が多い。これは、一応いままでもそういうことがないことはないのですが、罰金幾ら幾らということですと罰金を払えばいいんじゃないかというようなことになってしまうのでありまして、これはどうしても少なくとも営業停止とかいうようなことは必要だと考えております。
 埋蔵文化財包蔵地を史跡として指定する場合に、包蔵地の全域を指定することはもとより、有機的に関連する自然的環境をも一体のものとして指定し、保存されるように法に明示する必要がある。これは現在におきまして指定されておるところは、貝塚跡にしましても住居跡にしましても、そこだけ残されまして、ぐるりは全部開発されて住宅になってしまう、しかもそれは全部造成されまして、全くどういうところにその遺跡があったのか、立地しておったか、そういうことがわかりませんとその遺跡の意味がない、そういう指定の仕方が非常に多いのであります。でありますから、その包蔵地の全域と、それに関連ある重要な範囲をやはり一括して指定されるということでなければ指定としては意義がないということを強調したいと思います。
 現在、史跡に指定されている埋蔵文化財包蔵地においては、その活用や現状変更あるいは指定地の解除等、指定後の管理の面で種々の問題がございます。たとえば難波宮の跡あるいは伊場遺跡というようなところで訴訟問題さえ起こっておるのでありますが、こういうふうな遺跡の活用とか、あるいは現状変更とかあるいは解除というような問題につきましては、やはり文化財保護といえ立場で行われなければならない。たとえば伊場遺跡などはせっかく県の指定地になっておったのでありますが、それはその文化財が必要でなくなった、価値がないということがわかったから解除するというのではなくて、ほかに利用するからということで解除する、こういうことは保護の上から見ると非常に筋違いな、おかしなことだと思うのであります。しかし、それは実際において行われておるわけでありますから、しかもそれはそのために臨時に調査したら非常に重要な遺跡である、いままで以上に、指定されたとき以上に重要な遺跡であるとわかっても、もはやなかなかこれをもとへ戻し得ないということになっております。それからそういう意味でこれの管理活用に当たっては、地域住民や研究者の意見を尊重し、いやしくも史跡としての価値を低下せしめるような諸行為に対しては、厳にこれを排除するように努めるべきであるということであります。
 それから、国及び地方公共団体は、文化財保護の責任を自覚し、国民の文化財保護思想の普及に努め、文化財の散逸を防ぎ、かつ社会教育の見地から文化財の公開活用を積極的に進めるということは非常に重要であります。
 それからもう一つ、文化財保存技術の保護、育成ということがございます。これは議員立法の方でもお考えになっておるようでありますが、特にわれわれとしてはその点のことも新しい保護法には一項を入れていただきたいと考えておるのであります。
 それから、この文化財というものの考え方でありますが、埋蔵文化財の場合には、いままでよりも少し広くいろいろと専門的な立場から考えなければいけないと思います。たとえば花粉分析の資料が含まれている遺跡というようなものは、これはどこにでもあるというものではございませんけれども、そういう包蔵地の資料は、これは非常に重要なものであります。その当時の環境を復元する上に、どういう植物が生えておったか、どういう殻物が栽培されておったかということがわかるのでありますが、いままでそういうものが余り注意されておらなかった。そういう意味で、そういうものを含んでいるその包含地とか、あるいは年代決定の資料を包含しているところ、そういうものについてはやはり重要な文化財として指定のうちに入れるべきだ、こういうふうに考えております。
 また一方、学校教育の教育体系の中に、この文化財保護の思想の涵養ということが十分に行われるようにしてほしいということであります。
 それからまた私は、ここに私はもう一つつけ加えておきたいのは、一つは陵墓の問題であります。陵墓は現在まではこの保護法の適用を直接受けておらない。これは宮内庁の管理に属しておるのでありますが、しかし陵墓が文化財であるということは、これは文化財の定義からいえば当然なんであります。でありますから、陵墓に対する現状変更その他については、この文化財保護法の趣旨にのっとって、やはり文化庁その他において、これに対してその許可をするということになるべきである。
 実際は、ここに「「陵墓」指定古墳の文化財保護法適用を要望する決議」というのをわれわれ日本考古学協会が昭和四十七年五月二日にいたしまして、これは協会の総会で議決したのでありまして、各方面にこれを配布したのであります。実際においては宮内庁がいろいろとその発堀に近いことをやっておるようであります。これは全く一般の国民が知らないうちにそういうことが行われておるということは大変問題だと思うのです。でありますから、こういう要望書を出しておりまして、この陵墓も当然このうちに含まれるのだということを明記していただきたいと思います。
 それから先ほど申しました沿海域も、これもやはり文化財保護の対象の地域になるということを御考慮願いたいと、そういうものであります。
 以上であります。(拍手)
#4
○河野小委員長 ありがとうございました。
 次に、林参考人にお願いいたします。
#5
○林参考人 ちょっとメモを見るときに目の高さと机の高さが離れ過ぎているものですから、座らせていただきますが、よろしくお願いします。
#6
○河野小委員長 どうぞ。
#7
○林参考人 まず四十八年十一月に「文化財保護法について」という勧告を日本学術会議は政府に提出したわけでございます。この「文化財保護法について」の勧告ができるまでの若干のいきさつからまず御説明申し上げたいと思います。
 この日本学術会議の環境問題特別委員会の中に、文化的環境の保全と育成という小委員会をつくりまして、そして特にここにおきまして、文化財はどうあるべきかという問題について検討してまいりました。
 この小委員会では、学会の意見を反映させるために、先ほどの江上先生の日本考古学協会あるいは地方史研究協議会、歴史学研究会あるいは歴史教育者協議会、日本建築学会、日本美術史学会など、挙げると切りがありませんが、十一の学会の代表を加えまして小委員会を成立させました。そして十数回の委員会のほか、直接市町村段階の末端で文化財行政を担当なさっておる方々、あるいは文化財を守る運動を進めている方々などのお集まりをいただきまして、シンポジウムを三回にわたって開きました。これらの集大成として、先ほど申し上げました四十八年十一月のいわゆる文化財保護法についての学術会議の勧告が作成されたのでございます。ですから、この勧告文は、申すまでもなく日本学術会議、つまり学会の総意あるいは文化財保護の諸団体の総意を代表する見解と思っていただいてよいかと存じます。
 次に、この文化的環境の保全と育成ということについての基本的立場としまして、人間は本来、自然とは隔絶することはできません。この自然から摂取してつくり上げましたところの文化財は、自然とともに国民の生活環境を構成する永遠の共有財産であります。でございますから、広く国民がこの文化財保護の義務責任を負うと同時に、保護のための権利を行使し得るようなことが必要であるという基本原則を確立したのであります。でございますから、文化財の保護法の改正は、当面の目先の事柄に対処するだけではなく、何千年あるいは何万年先の日本人の子孫に、われわれの世代が文化財をどのように伝え残したらよいかという永遠の見通しの中で、勇気を持ってこれに取り組むことが必要であろうと思われます。失われた文化財は、永遠に人類の手に戻ってこないという認識の上に立って考えなければならないと思います。
 さて、こうした考え方に立ちまして、現行の文化財行政のあり方について、幾つかの問題点を述べさせていただきたいと思います。与えられた時間が非常に少ないので、要点だけを、まず幾つか個条書き的に述べさせていただきます。
 まず第一に、土地に結びついた文化財、たとえば名勝とかあるいは天然記念物の植物とかあるいは土地の上にある建築物――建てられた建て物ですね、あるいは庭園などは、たとえば庭だけを保護し指定するのではなく、周辺の自然の環境を含めて保護する必要があることでございます。つまり、歴史的環境と自然環境とを一体として、広域保護体制をとる必要があることであります。ごみための中で鶴を保護するのではなく、やはり青い海あるいは緑の松の中で鶴を守らなくては、守り切れるものではございません。さらに、具体的におわかりいただくために、たとえば庭園だけを史跡にして保護するとした場合、室町時代の庭でしたら、遠くの山の風景をも取り入れた、いわゆる借景になっておりますが、ところが遠景になっている、遠い景色になっておるところの山が、開発されましたり、あるいは遠景の山と庭との間にビルが建ったりしますと、この庭の価値は著しく減少します。あるいは寺の門だけを指定するとしますと、やがて何千年あるいは何万年どころか何百年たった後に、その寺の門だけが残って、歴史的環境は全く失われてしまいます。ですから、伽藍全部を保護しなければ、この歴史的環境を子孫に伝えることができないことになってまいります。
 さらに、外国の例ですと、文化財を中心にしまして、その周辺何キロという間の道路、建築物、さらにはそこの住民の人たちの営業などについても厳しく規制されておりますが、日本は、これに比べると非常に甘いということが指摘できると思います。
 さらに第二番目に、従来の文化財の指定が、いわゆる精選主義と言いましょうか、優品主義と言いましょうか、あるいは一級品主義とでも申しましょうか、そしてさらに、美術品あるいは芸術品を偏重するという傾向がきわめて強いように思われます。歴史的に重要な意義を持つものでも、民衆側の史料を軽視する傾向がございます。これは、戦前の天皇中心主義的な歴史観が、いまでも根強く残っているように思われるのでございます。
 たとえば、江戸時代の村方、つまり庄屋の家に残こされた残存文書は、恐らく何千万点に達するだろうと思います。そして、日本は世界で有数の古文書を所有している国でございますが、この保存体制が全くできておりません。三年ばかり前に、学術会議の強い要請によりまして、ようやく国の文書を保存する国立公文書館が建てられました。また地方自治体でも、近来文書館がぼつぼつ設置され始めました。そして、これらの古文書を保存する機運が生まれてきております。そして四十六年に、日本学術会議は、歴史資料の保存法の制定、これは平たく申し上げますと、各自治体ごとに文書館を建設してほしいという勧告でございますが、いまだに実現に至っておりません。これは特に自治省において積極的に取り組んでいただくことを強く要望したいと存じます。
 さらに、従来民具は、――民間で使われているあの民具でございますね、民具は、民俗資料として指定の対象になっておりますが、同時代の具体的な民衆の史実を示すところの古文書は、いまなお保存の対策さえとられていないというのが実情でございます。
 第三番目、現在文化庁において指定されている文化財は四万点弱のはずでありますが、これは先進国の何十万点という指定数に比べますときわめて少ないのでございます。このため、指定からはずれたものが隠滅しつつあるというのが現状でございます。ですから、この際、広く文化財の所在を調査、確認いたしまして、文化財目録、仮称でございますが、文化財目録を作成して、この登録された文化財については何らかの規制を設ける必要があるということでございます。つまり海外へ、指定された以外のものが流出するおそれがあるということです。このためには、広く目録をつくって、この登録された文化財については規制することによって、日本の文化財を守る必要があるということでございます。
 第四番目に、文化財は、そもそもその本来の歴史的価値を発揮できるような、つまり本来的な機能を発揮し得るような現地に、原則的に保存するということが大切だと存じます。たとえばその土地で発掘された土器は、その土地に資料館を建てて、その土地に保存するという原則でございます。珍しい価値の高いものは東京や京都の博物館に収納してしまうことは、地方における歴史的、文化的環境を破壊することにつながるのでございます。
 次に、第五番目に、法の改正に際しまして、文化財行政を円滑かつ徹底して実施できるためには、十分の財政上の配慮が不可欠であると存じます。たとえば保存のために広域の土地を国によって買い上げるための措置、建物の修復、複製あるいは模造するための費用、さらには文化財を国が買い上げて保存するための財政措置、そしてさらに大切なことは、先ほど江上先生もお話しになったと同じことなんですが、文化庁の担当者あるいは地方自治体における文化財担当者の定員数がきわめて乏しい。不完全なパトロールしかできません。多くは民間の、文化財を守る会や郷土史研究団体の犠牲的な補助活動によって、ささやかに守られているにすぎません。つまり、財政の貧弱が末端にしわ寄せされて、ようやく維持されているというのが現状のように思われます。この際、国家百年どころか国家一千年の見地に立って、強力な財政措置の必要を特に力説したいと存じます。
 第六番目に、開発と保存という問題でございます。ことに問題になっておりますのは、埋蔵文化財、土中に埋もれている遺物のことでございますが、私たちは開発を否定するものではなく、開発もまた国民の生活を向上させるために必要の場合があることは、言うまでもございません。しかし、保存か開発かではなく、保存が全うされる開発を進めるためには、地方自治体と開発者あるいは学識経験者を含めた三者の保存のための事前協議の制度を法制化し、さらに埋蔵文化財が発見された場合にはその工事を中止させる権限が国あるいは地方自治体にあることを法律上明確化し、さらに従来の届け出制を許可制とし、そして違反する悪質の行為に対しては強い罰則を定めるとともに、責任の所在を明らかにする必要があると存じます。現行の文化財保護法の最大の欠陥は、罰則規定が弱いことです。でございますから、先ほどの江上参考人の話にございましたように、罰金は最高が五千円でしかありません。ですから企業は開発に際して、五千円の現金をいつもポケットに入れて仕事に当たっているという冗談もあるくらいです。これでは常に開発が優先して、保存は後手に回ってしまいます。開発よりも保存が常に先行するという体制の確立が、文化財保護の上で非常に大事なことだと思います。
 第七番目に、この委員会に特にお願いしたいことでございますが、文化財は行政面だけではなく、これを守ってきたのは多くは地域の住民によって守られてきました。そしてこの文化財を守る先頭に立ってきた方々の貴重な経験と、そしてまた積み重ねられた歴史を法改正に当たって十分に生かしていただくために、この文化財保護団体の代表者あるいは学会の方々を加えて民主的立場を貫いて国民的な規模で保護法を改正していただきたいということでございます。このためには、できるならば懇談会形式の会合を持っていただく。それが無理のようでしたならば、学術会議の小委員会との間において懇談会形式でより突っ込んだ意見の交換の場を持つことによって、この文化財保護法のよりよい改正の方向を定めていただきたいということがまず一つのお願いでございます。
 さらにもう一つのことでございますが、それは法改正が企業の利益を守るものであってはいけないということでございます。先ほども申し上げましたように、文化財保護法は国家一千年あるいは一万年の人類の未来を見通した高い識見の上に立つものでなくてはならないと存じます。このため今回の法改正が企業の開発利益を守るためのものであっていけないことを特に力説させていただきたいと思います。
 時間の関係上、要点だけをかいつまんで申し上げましたが、挙げれば切りのないほど多くの複雑な問題を抱えているのでございますが、この辺で話を終わらせていただきます。(拍手)
#8
○河野小委員長 ありがとうございました。
 次に、本田参考人にお願いいたします。
#9
○本田参考人 本田でございます。
 無形の文化財についての問題点を申し上げたいと思います。
 私の学生のころ、彦根の殿様が秘蔵されていましたいわゆる彦根屏風の本物が国立博物館に展覧になるというので、それを見に行ったことがございましたが、その美しさに思わず感動しまして、容易にその部屋を立ち去ることができなかったということをいまも覚えております。また、例のドイツ人のブルノー・タウトは、伊勢の皇大神宮の宮づくりの素朴な質素なあの建物の美しさを激賞したことがございました。これらの絵画、建築は有形の文化財なのですが、その価値の高いものはやはりわれわれを感動させることがございます。
 また、かつて喜多六平太の松風の能を見ましたときは、そのあま乙女の舞の美しさにひどく感激したことがございました。それから、野口兼資が生田川の乙女の伝説を扱いました求塚の能を見ましたときにも、まだ忘れることのできない感動を覚えたものでございました。これらはすぐれた無形の文化財がわれわれの心に与えてくれた感激でございました。
 価値高い無形の文化財は、価値高い有形の文化財に劣らず人を動かす力を持っております。ただし、この無形の文化財が有形のものと違う特殊の性格を持っているということ、これをよくわれわれ知っておきたいと思いますが、それは有形のものですと、その絵画なり彫刻なり建築なりの作品の残る限り、いつでもそれを鑑賞することが原則的にはできるわけですけれども、無形の文化財になりますと、ある一定の定まった日時にそれが表現される場所に鑑賞する人たちが集まりまして、演者が身をもって表現するのを鑑賞しなければならないわけです。そうしてその表現は、表現の後から消えてしまってその後に形が残らない。われわれに非常な感動を与えることがあっても、その形は残りません。観阿弥、世阿弥などの能を今日鑑賞したいといいましても、それは不可能なわけでございます。それは芸能の宿命である、欠点というのではなく宿命でございます。そうしてその技術というものは、人から人に伝承されて残っていきます。
 無形の文化財には、また工芸技術がございますが、これも人から人に伝承されて残っていきます。しかしこの工芸技術になりますと、その技術を使用しますと後にりっぱな美術品が有形のものとなって残ります。これが芸能と異なるところでございます。この技術は、いずれにしましても伝承の過程において練摩しなければ、そのままに伝わるとは限りません。その人のすぐれた個性と技法とによるものだと言ってよろしいでしょう。そこがまた有形の文化財とは違う大切な点です。
 工芸技術の方は問題が少ないのでしばらくおくとしまして、芸能の方はまたこれを職業とする人が演ずるものと、これを職業としない民俗芸能のような一年に一度か二度、神祭りあるいは盆とか正月などに演ずるものとがございます。舞楽とか能とか狂言、歌舞伎、文楽、そういったものはそれを自分の仕事として、業を、そのわざをみがいていくことができるんですけれども、民俗芸能になりますとそうはまいりません。しかし民俗芸能は、これはほとんどことごとくが信仰に伴って伝承されましたがゆえに、きわめて古いものも、法会の庭とかあるいは特別の催しに今日まで伝承されてまいりました。神楽にせよ田楽にせよ風流にせよ、あるいは民間に伝わった舞楽、延年、能、そういったものは日本の文化をたどる上にきわめて貴重なもの、あるいは芸術的にも価値の高いものが地方に伝承されてまいりました。今日でこそそのことが明らかになりましたが、半世紀前あるいは四半世紀前までは、中央のもの以外はほとんど知られていなかったのです。したがって、その調査もおくれていたわけであります。その評価も十分にできなかったわけです。
 職業の者の演ずる舞楽、能、歌舞伎、文楽などに対しましては、幸いいち早く保護法ができましてから指定の措置が講ぜられましたが、この地方にある民俗芸能に対しましては、指定すべき価値高いものもあることを十分承知の上で、それらが専業の者が演ずるものではない、また同類のものも大変多い、地方地方に行われておってわれわれ鑑賞の機会も少ない、総体にも非常に多い、そういういろいろの理由から指定ということではなしに、記録作成等の措置を講ずべき無形の文化財あるいは現地公開のための補助金、こういうことで実は昭和四十五年から毎年三十件ずつ選択をしてまいりました。今日まで六回、百八十件が選ばれたわけでございます。これは大変ありがたいことでありましたので、そのために絶えようとしたものが興った、なくなろうとした貴重なものが助かったという場合がたくさんございました。しかし線の引きようもございますが、これらのうちの二、三十件は、重要の無形文化財として指定して保護を加えるべきではないかと思われます。
 アメリカの女子の民俗学者がついこの間日本に参りまして広島の三原市のやっさ踊りを見たいということで、私は入学試験のために行けませんでしたが、かわりの者に案内させまして見せましたところが非常に喜んで、それから、ちょうど西浦の田楽が祭りのときであったものですから、ついでにそこを案内させましたところが、夜一晩を通ずる行事、祭りを見まして非常に驚いて感激したということを、きのう野上さんという国際交流基金の方からお電話をいただきましたが、以前日本に来ましたP・G・オニールというイギリスの人とかそれからフランク・ホフというアメリカの人たちが花祭りや雪祭りの芸能を見まして、これも大変喜んでおったことを覚えております。
 これらの芸能は明治までは大変しっかり伝承されてきたのですけれども、大正、昭和となるにつれましてだんだん省略されたり行われなくなったりしています。その原因は、それを伝承してきた若者組とか氏子組織などの制度が崩れてきましたこと、若者がどんどん村から出ていきますこと、農耕が機械化されまして出かせぎが盛んになり、農閑期などがほとんどなくなりましたところが多くなった、そういう理由が挙げられるのですが、生き残りました芸能もけいこの時間が足りなくなって、今日だんだんやせ細りつつあります。以前はけいこもまた楽しいということで、祭り前の一月なり半月なりをみんなで集まってみっしりとけいこをしたものですし、それにけいこもやかましかったようです。芸能の魅力というものが、祭りのこの晴れの本番にそうしてけいこをして行われますものが人を引きつけないわけはなかったわけです。さきにも申しましたように、選択であっても、国から認められたという喜びと誇りに復活したものがございます。しかし、それはさてどういうことになりますか、指定の措置まで講じておいた方がよいのではないかと思われるようなものがやはりあるわけです。
 価値の高い芸能の保存、伝承と、それを土台に新しい時代のすぐれた芸能の誕生というようなことを希望いたしまして、実はこの保存のことについてはもう一つぜひ実行していきたい方法がございます。それは、中央の舞踊家たちによって地方伝承の価値の高い芸能を、芸術的にもすぐれているし技術も複雑なものを体得してもらって、崩れていると思われるところをつくろいなどしながらこれを中央にも残し、研究資料にもしたい、こういう願いをわれわれ持っております。たとえばインドにはいろいろの舞踊が残っているのですが、首都のニューデリーにはサンギード・ナタック・アカデミーといった国立の民族舞踊研究所がございます。韓国にはまた国楽院と呼ばれます古典芸能の研修所がございます。中国にもソ連にもあるいはイスパニアにもトルコにも国立の民族舞踊の研究所がございます。おくれたりとも日本にもその研究所がぜひ欲しいものだということを念願しておりますが、幸いいま第一線の活躍中の舞踊家たちでこのことに気がついた人たちが寄りまして自前で地方に取材をしまして、その研究会を開きまして、文化庁の助成によりましてついこの間は第四回の研究発表会を開きました。何とかしてこういうものを助長して、そのあるべき姿にまで持っていきたいという念願を持っております。
 次に、民俗資料の中に無形の民俗資料というのがございますが、芸能や工芸が美の追求、すなわち芸術に関するものとしますれば、民俗資料は生活に関するもの、いわば生活の知恵が生み出した文化と言ってよろしいと思います。それらは芸術上価値が高いというよりは、この指定基準の条文にもありますように「わが国民の基盤的な生活文化の特色を示す」そういった点で価値があるものと思われます。有形の民俗資料は、歴史的にもあるいは過去の国民生活の変遷を知る上にも重要なものは指定の措置が講ぜられておりますが、これは数えようにもよりますけれども、八、九十点指定されてございます。
 無形のものには問題がございまして、重要なものでもこれは記録のための選択ということになっております。飛騨白川の合掌づくりの大家族の家ですと、山村の生活様式を示すものとして家そのものは指定の対象にはなるのですが、その不便な生活様式までを指定してストップさせるというわけにはまいりません。衣食住は生きておりますから、時代によって変化するものです。その古風な形は精細に記録しておけばよい、これはそのとおりでございます。
 ただ問題になりますのは信仰、習俗に関するものでございます。祭礼行事、それから法会、習俗などその重要なものもただ記録をとっただけでよいのでしょうかどうでしょうか、これが問題でございます。三河の花祭りは夜を通して行う古風な祭りであり、その中に古い芸能がたくさん含まれております。そこで民俗芸能側ではその選択を考えましたときに、文化庁ではただ花祭りとしますと、祭りですから憲法上の疑義が出るといけない、こういう配慮から花祭りの芸能、こうして選択をいたしましたものです。ところが花祭りというのは御承知のように三河に二十カ所もございまして、それを総合選択をしたのですが、あるところでは花祭りの芸能と言うのだから芸能でない部分はどうでもよいのだろう、略してもいいんだろう、忙しいから略そうと言ってそれをやめてしまったという報告を聞いて肝がつぶれるような思いをいたしましたが、たとえば花禰宣の祈祷、これは民間の禰宜さんが祈祷するわけですが、花禰宜の祈祷の部分に、古風な祭文を太鼓に合わせて唱えますが、これなどは語り物の発生を考える上でもきわめて重要な資料なんです。
 また民俗の古い信仰を考える上でもいわゆる祭りの部分というのはきわめて大切な部分です。たとえば諏訪の御柱の祭り、那智の扇祭りあるいは京都の祇園祭りなど、これらは日本の古い信仰と文化を考えるにきわめて大切な祭りです。祇園祭りなどは御承知のように丈の高い鉾を引き回して、電線が邪魔になるというと京都ではこれを外して鉾を通しております。江戸の方の山王祭や神田祭りは将軍のおひざ元で大変盛んだったのですが、やはり屋台や山車がたくさん出ました。ところが明治以後はこれが電線にひっかかる、交通の関係などから山車の方が引っ込んでそれをやめてしまっております。しかしその古風な京都でもこの数年は費用の関係とあって後の祭りができなくなる。先の祭りと一週間隔てて後の祭りがございます。後の祭りは山だけが出るという大変古風な静かないい祭りだったのですが、それをやめてしまって前の祭りだけになっております。惜しい限りだと思います。こうした祭りは指定できないだろうか、こういうことが問題になっているわけですが、すなわち特定の宗教に云々という憲法に触れはしないかという問題があるわけです。日本の祭りを宗教行事と見ればこれは触れるわけですが、そう見るべきでしょうかどうでしょうか。無論信仰には根差しているわけですが、宗教と言えますかどうか。すなわち、少なくともこれらの祭りは、宗教活動とは全く無関係の日本の大規模な習俗である、このように考えていくことはできないだろうか、宗教活動とは全く無関係な習俗である、こういう考え方ですね。
 もう一つの問題点。この習俗は、むしろ古風なままに行われるところに価値がありますもので、また行う人々の誇りでもあると思いますので、重要な部分は、衣食住が時代とともに変化するようには変化いたしませんし、少なくとも変化させない方が望ましいと思います。全国にたくさん祭りがありますが、ことごとくというのじゃない、そうした価値の高い祭りを指すのですけれども、そういう祭りは指定して、保存の措置を講ずべきだと思います。
 宗教法人であるところの神社庁の定める方式に従って行う祭りではなくて、むろん各神社ではお祭りにはそれも行っておりますけれども、それが過ぎました後の古い祭礼、そのもとをなす信仰、そうしたもの、この信仰というのは、むろん今日も生きていると言えましょうか、過去の信仰であって、アニミズムとかあるいはシャーマニズムと呼ばれる東洋に広く行われております宗教ではない、むろん一種の信仰と見るべきでありますが、その古い信仰の中に花咲いた祭り、伝統的な信仰、それが日本の情緒を助け、国民生活を励まし、生活の一つの折り目をもなすとすれば、それが何らかの理由でなくなるというのは大きい損失ではないかと思います。取り返しのつかない損失なのではないでしょうか。国の宝を失うことにもなると思います。祇園祭りがなくなった、那智の扇祭りがなくなったということを仮定して考えますと、そういうことがつくづくと考えられます。これがもし民族の伝統行事と考えることができますならば、どうした宗教を奉じている人でもこれを支持してよいのではないかと思います。
 エジプトのカイロの博物館に保存されています数々の四千年前の遺物には圧倒されてまいりましたし、インドのあの国じゅうにみなぎるロマンチシズムといいますか、そういうものにはすっかり傾倒してしまいましたが、無形であるゆえにそれはどうせいろいろに解釈されるのですけれども、この国民の文化財、これをできるだけ望ましい形に解釈して、民族の幸福のために図っていくということができないだろうか、こういうことをつくづく考える次第でございます。(拍手)
#10
○河野小委員長 どうもありがとうございました。
 次に、山本参考人にお願いいたします。
#11
○山本参考人 私は、昭和四十七年九月から北海道教育委員会教育長を務めている山本武でございます。
 私ども地方におきます文化財保護に携わる者の立場から、都道府県教育委員会委員長協議会並びに教育長協議会におきまして、文化財保護に関し、その対策の強化について昭和三十七年から研究を続けてまいり、昭和四十七年にようやくその成案を得ることができまして、国会を初め関係機関に対し、その実現方につきましてお願いをしてまいったところでございます。
 その趣旨は、近年における開発計画、建設事業などの推進によりまして、貴重な文化財及び自然が著しく損壊されている現状にかんがみ、これが総合的保護及び破壊防止について、文化財保護法の改正を含め、抜本的な対策を講じていただきたいということでございます。
 このことにつきまして、諸先生方の絶大なる御尽力により、国会におきまして精力的に御審議をいただいておりますことに対しまして、深く敬意を表しますとともに、現場を担当する者として意見を述べる機会を与えていただきましたことにつきまして、厚くお礼を申し上げる次第でございます。
 以下、都道府県が当面いたしております課題、実情を中心に、文化財保護法の改正に関連いたしまして、日ごろ私ども教育長が考えておりますことを、北海道の実例を御紹介させていただきながら、逐次申し述べさせていただきたいと存じます。
 北海道は、御承知のとおりに、開拓の歴史が比較的浅いこともございまして、近年まで各種の文化財が良好な状態で保存されてまいってきておりますが、その特色といたしまして、
 一、動植物を初めとする貴重な自然が多く保存されていること。
 二、本州都府県ではすでに肉眼的に観察ができなくなっている竪穴住居跡が、大規模に、しかもきわめて良好な状態で保存されていること。
 三、その他多くの埋蔵文化財が北海道の広範な地域に包蔵されていることが推定されること。
 四、屯田兵に関するものを初め、近代の開拓に関する歴史、民族資料が比較的多く残されていること。
 五、世界的に注目されているアイヌ文化が伝承されていること。などが挙げられるのではないかと存じます。
 現在これら指定文化財として指定されておりますものは、国指定のものが八十七件、北海道指定のもの百五件でございます。
 しかしながら、何分にも七百八十五万ヘクタールという広大な地域でございますので、まだ調査が十分に行き届かず、保護の措置をしなければならない未指定の文化財も数多く残されているのでございます。
 しかも、最近、農業基盤整備事業や鉄道、道路空港、港湾など交通網整備事業を初め、各種の公共及び民間による開発事業が急テンポで計画、実施されており、これら指定文化財、未指定文化財に対する調査、保存保護の措置が急務となってまいっているのでございます。
 しかし、これら文化財の保存保護に当たっては地方公共団体の占める責任のきわめて大であることは十分認識いたしているのでございますが、残念ながら現行法では、国、都道府県、市町村の責任とその分担の範囲は必ずしも明確ではございません。このため、特に市町村の文化財保護行政への参加が不十分でございます。したがいまして、これらの関係を明確に規定していただくことを第一にお願いいたしたいのでございます。
 次に、開発計画と文化財保護との事前調整についてでございますが、北海道における地域開発計画の対象面積は、現在わかっておりますものだけでも約九万ヘクタールございます。これは北海道の総面積の約一・二%になりますが、東京都の約半分に当たる膨大な地域でございます。さらに、このほか新幹線建設、全道一千キロを超す縦貫自動車道路建設あるいは各地の空港新設などが予定されており、これらの計画を合計しますと、約二十万ヘクタールに及ぶのではないかと考えております。
 これらは主に開発公共事業でございますが、従来その多くは、計画の策定に当たって文化財保護という観点からの教育委員会に対する協議は全くなく、計画実施の段階に至って初めて私どもの方に文化財の取り扱いについて措置を求めてくるのが実情でございまして、常に文化財保護行政が後手に回っているのでございます。したがいまして、このような開発公共事業の計画策定に当たりましては、文化財の保護について計画案の段階で文化財保護行政担当機関と事前に協議を行いますとともに、保存のための適切な措置を講ずる義務を負う旨の法的規制についてぜひとも明確にしていただきたいと存ずるのであります。
 次に、これら開発に関連して現在各都道府県が当面しております大きな課題は、埋蔵文化財保護との調整についてであります。
 現行法は、埋蔵文化財包蔵地における開発行為等の届け出とそれに対する指示、指導の範囲、また発掘調査に関する指示、命令、また調査費用の負担方法、私権との関係などについて必ずしも明確ではなく、開発行為と埋蔵文化財の保護をめぐりまして各地に問題が起きているのが実情でございます。したがいまして、遺跡の発掘調査及び土木工事、建設工事などの開発事業につきまして、先ほど申し上げました関係機関との事前協議のほか、明確かつ具体的な基準に基づく許可制にしていただきますとともに、開発を許可しない遺跡の買い上げ措置あるいは発掘費用の負担区分、発掘調査によります出土遺物の保管責任などを明確にしていただきたいのであります。また、これらの措置に伴います地方公共団体の財政負担に対しましては、国の高率補助の規定をぜひともお願いいたしたいと考えます。
 次に、発掘調査の体制、費用などについてでございますが、北海道の実情を申し上げますと、たとえば先ほど御説明いたしました北海道で現在予定されております地域開発計画面積九万ヘクタールについて、その遺跡の出現率を〇・五%と推測いたしますと、遺跡の総面積は四百五十ヘクタールになり、そのうち七〇%を計画変更して現状保存いたしましても、残り三〇%の百三十五ヘクタールの発掘調査が必要となります。この調査を行うためには、現在行われております調査方法を基準として計算いたしますと、専門家七十名をもってしても十カ年を要することとなり、またその費用も百三十五億円という巨額に達するのであります。
 さらに、このほか新幹線、縦貫自動車道路、各空港の建設など、次々と開発計画が予定されているのでございます。
 これに対しまして、現在道内には考古学の講座を持つ大学はなく、また専門家も、大学の教授や各地の博物館の職員まで含めましても約六十名にすぎないのでございまして、これらの点からも、保護行政体制の確立は、急を要するものと考えている次第でございます。このため、地方公共団体の教育委員会における文化財保護審議会の設置でございますとか、文化財保護主事などの専門職員の大幅な人員の配置、さらには、発掘費用に対する財政措置など強い法的措置を切にお願いする次第でございます。
 次に、天然記念物の保存保護に関して申し上げます。
 御承知のように、北海道の釧路、根室地方には、世界に誇るタンチョウが生息いたしております。昭和二十七年にはわずか三十三羽にすぎなかったタンチョウが、地域住民の温かい愛情と国の御援助によりまして、昨年十二月五日の小中学生など五千人による一斉調査の結果、二百五十三羽を確認するまでに至りました。
 しかし、タンチョウは、このようにふえつつはありますけれども、一方開発の進展によりまして、その生息地を次々に追われつつあり、このような状態が続きますと、ついには農作物にまで被害を与えるようになるのではないかと危惧いたしているところでございます。
 また、タンチョウが生息しております広大な湿原も、周囲の公共開発や宅地造成などによる干拓が進むにつれ、次第にその様相に変化を来たしておりまして、特に釧路湿原や霧多布泥炭形成植物群落などの文化財指定地にもその影響があらわれてまいるようになりました。したがいまして、天然記念物の保存のためには、指定地周辺の環境保全、指定地及び周辺地域の土地買い上げなどの措置がぜひとも必要と考えるのでございます。
 また一方、史跡、名勝、天然記念物など記念物関係の現状変更の申請も次第に増加してきておりますが、現行法ではこれらの許可基準は必ずしも明確ではなく、またその許可、不許可は所有者の生活に及ぼす影響もきわめて大きいことなどから、迅速な事務処理体制や許可基準の確立、不許可処分に対する買い上げあるいは補償などに関する法的な措置をお考えいただきたいと存じます。
 次に、建造物など有形文化財の保存についてでございます。
 近年、都市改造が急激に進みつつありますが、これに伴いまして、歴史的建造物の周辺環境保全は、きわめて困難になってまいりました。札幌市におきましても、時計台がビルの谷間に埋まり、移転の話題さえ出ているのでございます。したがいまして、建造物の価値を保つため、必要な土地その他の指定を行うなど、環境保全とそのための土地買い上げ、補償などの措置を講ずることができるようにしていただきたいのでございます。
 また、現行法では城下町、宿場のように歴史的景観を持つ伝統的な建造物群の保存についての規定はないのでございます。しかし、奈良県今井町の民家集落や長野県妻籠の宿場等のように、集団的かつ広域に保護する必要があるものが多くあると聞いているのでありますが、北海道でも最近小樽の石造倉庫群の保存に関し、にわかにその要望が高まってまいっているところでございます。
 これら建造物群の保存に当たりましても、土地、家屋の買い上げ、保存管理、補償など、多額の費用を要することと存じますので、この保存事業に対しまして、国の指導及び財政措置などを講ずるようにしていただきたいと存じます。
 さらに、最近における科学技術の革新により、文化財の保存に欠くことのできない伝統的な技術、技能が次第に失われつつあり、有形文化財の保存に支障を及ぼすようになってまいりました。したがいまして、これら文化財の保存のため欠くことのできない伝統的な技術、技能の保存育成について、適切な御措置をお願いいたしたいのでございます。
 次に、民俗資料、民俗芸能など、いわゆる民俗文化財についてでございますが、最近の生活文化の向上、社会情勢の変革によりまして、伝統的な風俗、習慣、文化、芸能などが次第に変化をしてまいっており、これが保存の適切な措置をお願いいたしたいのでございますが、特に北海道の持つ大きな課題の一つであるアイヌ文化保存につきまして申し上げたいと存じます。
 アイヌ文化保存の必要性につきましては、文化財に御造詣の深い諸先生方にはすでに十分御承知のことと存じますので、多くは申しませんが、従来、アイヌ文化の記録、保存、調査研究は、主として研究者の個人的努力によって行われてきたのであります。しかし、最近の社会情勢により、個人的研究の遂行は困難となってまいりました。また、文化表現の根幹である言語やユーカラなど伝承文化の伝承者は急激に減少しつつあります。その数は現在三十数名にすぎず、まさに失われようとしているのが現状でございます。
 さらに、近年、アイヌ文化に関する国際的関心は高く、また、国内の関心も次第に高まりつつありますが、特に同族の方々のその保存に対する熱意がきわめて大きくなってまいっているのでございます。このため、これらの要請にこたえるべく、保存研究施設の設置、調査研究、保存に関する対策などを早急に講ずることが必要となってまいりました。
 北海道教育委員会といたしましても、これらの要請にこたえるべく、努力を重ねてまいっているところでございますが、一地方公共団体のみの努力をもってしては、その期待にこたえることはなかなか困難な実情にございます。したがいまして、これが保存研究施設の設置並びに伝承文化及び言語の調査研究保存につきまして、文化財保存という見地から、特段の御措置を賜りますように切にお願い申し上げる次第でございます。
 以上、都道府県が当面いたしております諸問題について申し上げましたが、文化財の保存、保護に当たりましては、細心の注意と温かい愛情が必要であると存じます。
 このためには、各施策の実施には多額の費用を要することは、申すまでもございません。
 したがいまして、各都道府県、市町村の教育委員会が後顧の憂えなくその責任を遂行できますように、高率の国庫補助や地方債などの財政措置に関する抜本的な法改正を強くお願い申し上げる次第でございます。
 私は、文化財の保護は、地域住民の理解と協力がなくてはその効果を上げることは困難であると信じております。このためには、地元市町村の理解とその責任ある協力を求めなければならないことはもちろんでございますが、国、都道府県とも一体となって文化財保護に全力を尽くしてまいる所存でございます。
 今後とも一層の御指導と御鞭撻をお願い申し上げまして、私の意見陳述を終わらせていただきます。(拍手)
#12
○河野小委員長 ありがとうございました。
 これにて四参考人の御意見の開陳は一応終わりました。
    ―――――――――――――
#13
○河野小委員長 引き続き、質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。木島喜兵衞君。
#14
○木島小委員 一つ二つなんですが、最初に江上先生にちょっとお伺いしたいのですが、「『陵墓』指定古墳の文化財保護法適用を要望する決議」の中には、数字の二番目に「宮内庁保管の『陵墓』等に関する遺物や文書記録を公開すること。」とありますね。これは、現在宮内庁に相当陵墓から出たところの出土品等はあるやに承っておりますが、これは皆さん比較的自由に研究上……
#15
○江上参考人 見ることはなかなかできませんです、特に文書の方は。
#16
○木島小委員 これは意見になって恐縮ですが、見れないのですか。
#17
○江上参考人 はい。
#18
○木島小委員 これはしかし、皆さんの御研究の上では非常に貴重なものでしょうな。
#19
○江上参考人 そうなんです。
#20
○木島小委員 これはどうして見れないのですか。
#21
○江上参考人 それはやっぱりなかなかむずかしいのです。どうしてと言われるとちょっとあれなんですがね。
#22
○河野小委員長 ちょっと、大変恐縮ですが、小委員長の指名を確認した上で発言をしていただかないと速記の方が大変困りますので、ひとつお願いいたします。
 木島喜兵衞君、もう一度御発言を願います。
#23
○木島小委員 次に、林先生、環境保全のこと、お話ございましたけれども、あの環境保全は、現行の四十五条で一応環境保全という規定があるわけですね。この条文では、先生さっきおっしゃったそういうことができないのか。どう改正したらいいのか。御意見ございましたら……。
#24
○林参考人 ヨーロッパの例でございますと、指定された物件から何キロ――これは科学的にはっきり何キロまでが保存の地域であり、何キロ以上はいいとかということはなかなか画一的には決められないと私は思うのです。ですけれども、何キロ以内は何らかの制限を加えるというような形で行われているということでございますから、そういう形で規制したらいいんじゃないかという感じがいたします。
 さらに、何キロ以内だけでなく、先ほど実例として申し上げましたように、借景のような場合ですと、何百キロまでいきませんが、何十キロ離れたところの山までがその風景を生かすために存在しているわけでございますから、こういうふうないろいろな、文化財のそれぞれの性格によって決められるべき性質じゃないだろうかと思うのです。
#25
○木島小委員 私、先生おっしゃるような意味で非常に大事な問題であり、かついままで余り重視されなかったことなんでありますけれども、いまこの法改正をする場合に、現行の上では一応、完全であるかどうかわかりませんけれども、環境保全という四十五条があるわけなんですね。しからば、このことがあるんだけれども行政的にまずいのか、あるいはその法改正をせねばならないんだろうかという意味でお聞きしておるのですが、もし何か御意見ございましたらお願いします。
#26
○林参考人 私、ちょっといまその条文が手元にございませんからわかりませんですが、そういう点の法規制が非常にあいまいなために、実際問題としては、先ほどの遠景の山がどんどん崩されているという現実が存在しておりますし、それから、たとえば法隆寺など奈良の遺跡の近くに道路がどんどん開発されているという例が出ておるわけでございますね。こういったものを何らかの形で厳しい法規制を設けないと、文化財を守り切ることができないということしかいまちょっと申し上げることができないのです。というのは、機械的に割り切るということが非常に困難な、その文化財の性質によってそれぞれ異なる面があるということでございますね。
#27
○木島小委員 結構でございます。ただ、それだけに行政的に大変むずかしいと同時に、法改正の場合に、先生おっしゃったように個々で違うわけですから、そこをできれば法的にきちっとしたい、けれども個々に大変違うというところで、法改正の問題と行政上の問題と両方にかかわるものでございますから、その辺のことをちょっと承ったのでございますけれども、結構でございます。
 それから、これはどなたでもいいのですが、たとえば天然記念物のようなもの、動物、植物、これが文化財保護法という中に――いや、悪いと言うんじゃございませんが、さっきタンチョウヅルというお話ございましたね。これはかつて天然記念物保存法というのがあったのを、文化財保護法をつくるときに一緒になったのですね。文化財というものに、厳密に言うとこれは入るんだろうか。天然記念物なら天然記念物にした方が――ことに最近のこの環境破壊が激しいときに、天然記念物という特定のものよりももっと幅広い環境保全というものが必要になってきますから、そういう意味では、むしろそういうものを文化財から外した別の法律を何かつくるべきではないかというような気もする。ぼくも専門家でないから本当にわからないのですけれども、そんな気もするのですが、もしその点について、どなたでも結構でございますけれども、御意見ございましたらいただければありがたいと思います。
#28
○河野小委員長 木島君の御質疑はどなたでもということですから、では、江上参考人からお願いいたします。
#29
○江上参考人 いま先生の御質疑、もっともだと思います。大体日本以外、ヨーロッパ、アメリカなどでも、やはり文化財というものと天然記念物は区別しておるのが多いのじゃないかと思います。当然それは、天然記念物の方はその国の自然環境と切っても切れない関係にあるものでございますから、そちらの方で諸外国では扱っておるのじゃないかと思います。
#30
○河野小委員長 山本参考人からも、いまの天然記念物についての御意見があれば……。よろしゅうございますか。
#31
○山本参考人 特にございません。
#32
○河野小委員長 小林信一君。
#33
○小林(信)小委員 江上先生に最初お伺いいたします。いま木島委員の方から陵墓の問題で御質問があったのですが、同じようなことでございますが、なぜ陵墓は文化財保護から外れておったか、その歴史的なものが私たち知りたいのですが、先生御存じであればお話し願いたいと思います。
#34
○江上参考人 詳しいことは私も存じおりませんけれども、御承知のとおり、陵墓及び陵墓参考地というものがございまして、それは戦前は宮内省の諸陵寮の管轄でございました。戦後になりまして宮内庁のやはり書陵部で管理しているのであります。これは御承知のとおり天皇家で祭祀しておられる先祖代々のお墓であります。世界でも非常に希有な例でありまして、これはまあ歴史的にそういうふうになっております。しかし、同時にそれは文化財である、文化財の定義のうちに含まれるべき大記念物である。ことに応神、仁徳天皇の墳墓などはピラミッドよりも規模が大きい。世界的に見ても非常にまれな人類の大文化財なんであります。でありますから、これがやはり文化財として保護されるということは、日本国の人類に対する義務であろうと私は思います。それで、国民はこれを守る権利も当然持っておると考えるのであります。でありますから、これは宮内庁だけで管理されておったということは私たちも非常に不可解に思っておる。それで、現行の文化財保護法でも、陵墓及び陵墓参考地を除くという明文はないと思います。そういうことから見ましても、これは今度ある程度はっきりしなければならぬことじゃないかと考えておる次第でありまして、われわれとしては、祭祀対象であるということも十分尊重しなければなりませんけれども、やはりこれが保存ということになりますと、現に宮内庁ではこの保存のために発掘もしておりますし、それから修理もしておって、それはやっておるのでございます。しかし、それは全く宮内庁の独自の見解と独自のイニシアチブで行われておる。そこにやはりわれわれとしては、例外的な措置がそういう方面にまであっていいものかどうかということについて多大の疑問を持っておる。そういう意味でこういう要望書をわれわれは出したわけでございます。
#35
○小林(信)小委員 この日本考古学協会として出された資料を拝見いたしますと、陵墓の保存、保護ということは非常に強調をされておられますが、また一面、ただ保存するだけではない、歴史的な考古学的な調査研究の面にもまた考慮しなければならないものであって、はからずもこの資料の中に、公開されないことが遺憾であるような意思表示がありまして、考古学協会は、保護はもちろん十分に考えるけれども、しかし公開されることもまた必要であるというふうにお考えになっておられるようにもお伺いするのですが、この委員会で、かつて高松塚の問題ですね、あのことから端を発しまして、全部の陵を発掘してほしいというようなことは言わないけれども、学者の方たちが、ぜひこの陵墓はひとつ発掘さしてくれぬか、それはもうもちろんいろいろな関連した問題があって、どうしても調査研究したいという場合には、これは御陵といえども発掘させたらどうかという意見が出まして、宮内庁からしかるべき人に来てもらって意見を聞いたところ、天皇の許可がなければできないんだ、天皇にその話を申し上げて許可を願ったらどうかという話まで出たことがあるのです。それほど陵墓の問題については、考古学の対象として、あるいは歴史的な研究の対象として注目を浴びているわけですが、手が出ない。これがこの委員会でも問題になったことがあるわけですが、考古学協会のこの資料の中には、発掘もときにはしたらどうか、することも可能である、そういうものを強くうたってないところに、私は考古学協会の態度というものはどういう態度であるのかということに多少の疑問があるのですが、こういうような意見もこの委員会には出たことがあるわけです。いまのところ私どもが宮内庁から来てもらった人の意見を聞けば、最後には天皇にお話し申し上げますということで、いずれ私どもも、では委員会に来てもらって天皇の御意見も聞きましょうというふうなことで、そのまま中止されておるのですが、このことについては学者の先生方の意向は、ときにはどうしてもこれを発掘して、ひとつ歴史的な調査の対象にしたいという希望もあるのですが、考古学協会としてはいかがでございますか。
#36
○江上参考人 いまの話、非常に重要な問題だと存じております。私は前にも私個人の意見として出版したことがあるのでございますが、大体この陵墓及び陵墓参考地というものが指定されましたのは御承知のとおり明治の初年でありまして、その当時としてはいろいろ考えて指定したのでありましょうけれども、今日から見ますといろいろ問題があるわけでありまして、だんだん研究が進んでまいりますと、陵墓の指定にも、これは何々天皇のお墓ということが決められておりますが、果たしてそれがその天皇のお墓であったのかほかの天皇であったかという疑問のあるものももちろんあるわけであります。それからたとえば参考地などになりますと、たとえば何々の神様のお墓というものもあるわけでありまして、ちょっとそういうのはいまの時代にとって不思議なようなものであります。
 いろいろそんなことで、これをもう一遍ちゃんと調査研究して、本当に天皇家のお墓としてお祭りされるようにする方が学者としてはいいのじゃないかということも考えるのでありますが、とりあえずわれわれとして考えるのは、一つはすでにかなり破壊されているということの状況があり、またそういう伝承がはっきりあるたとえば仁徳陵などのような御陵は、これは保護する意味からも、ある意味で発掘調査するということが必要じゃないか。すなわちいままでもずいぶん荒らされておることは確かでありまして、お城があそこの上に戦国時代にはつくられておったこともあるようでありまして、そのためにずいぶんがたがたしておるのでございます。そういうものの中はかなり乱れておると思います。でありますから、そのままにしておけばどんどん悪くなる。壁画があるというような場合にしましてもどんどん悪くなるんじゃないか。そういうことを考えますと、一応やはり発掘調査をするということが保存のためにも必要であって、それできちんと整理をして、そしてそれを保存する。研究調査をすると同時に、むしろ保存ということに重点を置いてなさるべきじゃないか。それはやはりりっぱな国家の事業としてなさるべきじゃないかとわれわれは考えておるのであります。しかし、そのためにはやはり国家のそれだけの準備が必要である。とにかく世界的な大規模な、これはたとえば仁徳天皇の陵をやるということになりますと、世界的な大陵墓でありますから、それを調査研究するには、またそれだけの十分な準備をするということも大事であります。でありますから、そういう準備をするためにも、やはりそういうことが可能であるということに、また必要であるということにしませんと、なかなかそれだけの準備までいきませんのでありますから、われわれとしてはそういう世界の人類のために、また日本の全国民のために将来長く保存されるべきものを放置しておく形になっていいものかどうかということも考えて、やはりかなり科学的な調査研究を進めるべきではないか、そういう考えは持っております。
#37
○小林(信)小委員 先生のいまの御意見が、私どもこの委員会にも共通して統一をして出たことがあるわけですが、先ほどもお話がございましたように、何かあらゆる埋蔵文化財というものはわれわれは一つでも取り残してはならないという、一般国民文化については文化財保護の見地からそういう努力をしながらも、天皇家に関する限りこれは除外されるというふうなことは、何か不自然なような形が、まあ素人からの考えでございますが、してならないわけです。
 そこで林先生の御意見の中にもちょっと出てまいりましたが、日本の美術品というようなものは非常に偏見がある、それは天皇中心主義から生まれたものである、こういう点を先生が指摘をされまして、もっと民族文化というふうなものをわれわれは尊重しなければいけないではないかというお話がありましたので、そのときに私、江上先生の陵墓の問題と関連をしまして感じたものでありますが、林先生、この天皇中心主義というものが、いまもなお文化財研究とか歴史的な研究とかいうものに、いまのような事実からいたしましても残っておる。決してその陵墓をあばくというふうなそういうことでなく、もう少しそこにはおおらかな見解というものが国民全体に、また宮内庁にもあってしかるべきじゃないかと私は思うのですが、日本学術会議としては、この陵墓についての研究というようなものをどういうふうにお考えになられたか、お聞きしたいと思うのです。
#38
○林参考人 天皇中心主義的な主観の残映があるような気がすると言うのでございまして、天皇制といいますか天皇中心主義的な歴史観がいまの文化財行政全般を覆っているとまでは私は言い切る自信がございません。しかし美術品、芸術品が非常に偏重されておるという傾向があります。そして歴史的価値というものが、むしろ歴史的価値よりも芸術品的、美術品的価値を尊重するという傾向がございます。これは現在の博物館行政が美術、芸術品偏重という傾向がずっと明治以来からございまして、そのために文化庁では歴史博物館の建設ということを唱えておられるのですけれども、そういう意味で、何といいますか庶民的な資料、民衆的な資料といいましょうか、こういうものが指定の対象に余りなっていないということを私たちは痛感するわけなんです。それで、先ほど申し上げましたように、江戸時代の百姓の資料はおそらく世界で最も日本は多く持っている。いわゆる古文書をたくさん持っている国の一つでございますが、これらがまだ十分な保護の対象になっていない。ヨーロッパではすでに各自治体ごとに文書館が置かれて、そしてそういう文書が保存され、全国的な文書館の連絡機関であるところの中央文書館もある。日本は、中央文書館はできたのですけれども、地方の文書館が全くできてない。そして現在、明治以来からの役場あるいは戸長役場において保存されてきたところの資料が隠滅しつつある。事実、地方の歴史を調べようという場合に、江戸時代の資料は残っているが、明治以後の資料は非常に少ないという傾向があるわけです。ですから、皆さま方が市町村史をお開きになりますと、江戸時代は詳しいが明治になってくると非常に簡単だというのは、この資料の隠滅、古文書の保存体制ができていなかったということに大きな原因があるわけです。
 さらにもう一つ、先ほどの陵墓の問題でございますが、私個人としての考え方ですと、やはり国が国家的な事業として大規模な発掘を行うべきである。また、行うことによって保存を強化するということでございます。そして、私も、先ほどのお話のように各陵墓が荒らされている、すでにこれは江戸時代から荒らされております。それが風雨にさらされてそのままずっと来ております。こういうことをいつまでもほっておくことは、ますます荒廃を促進することになり、しかもその損失は国家的な損失でございますから、国家的な規模において早急にこの発掘体制をとるべきではないかというふうに存じております。
#39
○小林(信)小委員 時間がございませんので……。この問題、もっともっと学者の先生方のお考えというものが出て、そして陵墓を保存するというその仕事も十分にしたい。そして、何かそこに差別なく、国民全体の文化財であるという考え方でそういう歴史的な資料というものが調査できるような、そういう文化財行政がなされるようにしていきたく、先生方のお声というものを聞いたわけでございます。
 それから、林先生のいまの古文書の問題ですね。古文書文化財ですか、私どもも前からそういう点も強調しておったものでございますけれども、幸いにして日本の古文書というものは、その古文書の資料としての価値よりも、筆を使って書くという、そこにようやっと保存をされてきたものがあるような気がいたします。もっと古文書の文化財的な価値というものを十分考えて、先生のおっしゃるように保存をしていく必要があるではないか、民俗文化的に必要であるというような、私ども考えをいたしておりまして、先生の御指摘を非常にうれしく思うのでございます。
 そこで、最後でございますが、山本教育長さんにお伺いいたしますが、実はこの文教委員会が、新十津川町ですか、あそこに視察をしたことがございます。そのときに、十分なものではない、ささやかなものではあると思いますが、奈良の十津川から、水害に遭った一村の人たちがあそこに移住をしたという歴史的なものが新十津川にはあるわけでございまして、したがって、自分たちの先祖が移住をしてきて以来、どういう足跡を残したかということで、民族資料館というものがつくられておったのを私ども拝見しました。そんなにりっぱなものではなく、素朴なものですが、その人たちの気持ちというものを私ども高く評価したわけでございますが、教育長さん御存じですか。まずそれからお聞きいたします。
#40
○山本参考人 私は拝見いたしておりませんけれども、そういうふうになっていることは承知いたしております。
#41
○小林(信)小委員 民俗文化というものは、決して華やかな、華麗な、豪華なものを私どもは期待をしてはならないと思います。本当に移住をしてきて開拓をした足跡として、農具の変遷というふうなものを飾っておく、私は、そういうものが民俗資料館だと思います。そういうところに力点を置いて大事にしなければならぬと思うのですが、おそらく教育長さんごらんになったことはないと、まず私は判断をしてお聞きした次第でありますが、北海道の民俗文化財としては、私はやはり開拓の歴史というものが、農具だとか生活様式だとか、そういうものによっていま保存をされなければならないときだと思います。農具あたりはどんどん転換をしていくときでありまして、本当に北海道としては、私はそこに力点を置いていただきたいと思うのですが、それにつきまして、その新十津川の民俗資料館に対して、道がどういうような配慮をしておるかということを私はお聞きしたかったわけですが、協力はしているんですか。あるいは新十津川町だけの力でもってあれが運営をされているのかどうか、お伺いしたいと思います。
#42
○山本参考人 新十津川の郷土博物館的なものにつきまして詳細承知いたしておりませんけれども、最近は、全道的に非常に郷土博物館づくりが盛んでございます。たとえば、屯田兵の兵屋をそのまま保存をして、中の家具、什器なども集めまして当時の姿がほうふつされるような原形を残しておるというようなことがございます。そういうような場合には、大がかりになりますと国の補助金をいただいております。道もそれに対して相応の援助を申し上げるというようなふうにいたしまして、北海道各地にそれぞれの地域的な特色を生かした郷土館づくりを進めているのでございます。また、北海道といたしましても、開拓記念館という名称になっておりますけれども、そういう民俗資料を中心に、北海道最近の開拓の歩みを展示する博物館的な施設も建設いたしまして一般の利用に供しているということでありまして、それらが中心的な博物館機能を果たしまして、全道各地の博物館あるいは郷土資料館的なものと随時交流し、情報交換し、水準を高めているというような次第でございます。
#43
○小林(信)小委員 大変に結構なことでございまして、新十津川を拝見をして、素朴なものであるけれども、これを大事にするところに自分たちの新しい郷土愛というものが生まれてくる、それが自然に北海道をよくするんじゃないかというふうに私ども感じたわけでございまして、教育的な意味からしても、ぜひともこういうものが北海道全土につくられてほしい、これを理解して道が協力を惜しまないように、こういうふうに感じてきたまま御意見を承ったわけでありますが、全道にわたっていまそういう奨励をされておられるというお話でございますが、それについては、二十一人の文化課でございますか、文化財行政を行う人員としては二十一人では非常に少ないような気がいたしますが、いかがでございますか。
#44
○山本参考人 御指摘ございましたように、大変貧弱な陣容で文化財保護の完璧を期すということはむずかしいような状態を十分認識いたしております。特に、先ほど陳述さしていただきましたように、開発行為というのはこれから非常な勢いで拡大しつつございますので、受け身、受け身という従来の立場を、何とかして文化財保護の方をむしろ前面に立てて、開発の方が調整をしてもらうというような形をとりたい。そのために、何と申しましても専門家をたくさん配置いたしませんと、北海道全体の実情の把握が困難でございます。その専門家自体は実はなかなか北海道内に十分養成されておりませんので、先ほどそういう専門の大学、学科の設置が望ましい旨の御意見を申し上げたのでございますが、それにいたしましても、先ほど事例として申し上げましたように、今後百三十五ヘクタールの発掘調査をいたしますのにも、七十名で十年間かかるというような状態でございますから、私どもといたしましてはぜひとも全国的な規模で、こういう開発に対応いたします文化財の発掘その他保護の十分な技術的な体制固めを国の措置としてお考えいただきたいというふうに考えているわけでございます。それに対応いたしまして、北海道なりに努力いたしまして、文化行政の専門職員の配置につきまして、国のできるだけ財政的な御援助を、人件費の補助などの制度も確立さしていただきまして、専門家の、特に後継者の養成という考えをもちまして、年次的に計画的に、後継者の確保にあるいは拡大に努めてまいりたい。実際はそのように思うようにいっておりませんので、大変悩みを持っておる次第でございます。
#45
○小林(信)小委員 結論的には、いまの最後のお言葉を聞きたかったわけであります。
 あの広い北海道の中にそういう歴史的な大事なものが存在をする、これをどういうふうに保護していくかというときに、二十一人の人員でこれを担当することは私は非常に至難だ、手が届かないというふうに思うわけでありますし、さらに、お話がございましたように、開発が北海道を対象にして盛んに行われておるという中で文化財を守る。守るだけではなく、それを基礎にして、北海道に対する愛着と発展というものを考えていく。将来のことを考えれば、まず人員がただ二十一人という数では、行政上私はとても手が届かない、不可能な状態ではないかと思いまして、そのよって来る原因というものはやはり地方交付税の単位費用、こういうものがごくわずかであり、しかもその個々の額等を見れば非常にささやかなものが計上されておるわけでありますが、やはりそこに問題があると考えまして、文化財行政をもっと充実するためには、今回の改正する大きな重点でもございます財政的な裏づけ、それも土地を買い上げるとかなんとかいうことでなしに、文化財の行政機構を充実するためにはそういう費用の方も十分にして、人員もたくさん確保すると同時に、専門家も入れる、そして自治体の行政機構というものが整備をされなければこれは十分ではないではないか。そして天然記念物とか自然とかいうお話がたくさん出たのですが、最近は環境庁の方に多くまかされるような形でございますが、やはり文化庁の管下にある機能というものが私はより強化をされていかなければならぬと思うのです。何か自然保護というようなことは環境庁の方がやってくれるわというようなことになりがちなんですが、やはり文化財という名前のついた立場から、私は地方自治体の中でもっと強化をしてほしい。しかもそれが全国的な行政機構が連携をとり、しかも強固な行動がとれるような、強力な行動がとれるような、そういう体制がつくられなければならぬ。したがって、地方自治体からも、もっと強い財政的な裏づけをやれ、そういう要請がなければならないではないか、こう考えて御意見を承ったわけであります。ありがとうございました。
 終わります。
#46
○河野小委員長 長谷川正三君。
#47
○長谷川(正)小委員 時間がございませんので、簡単に四人の先生方にそれぞれお答えをいただければありがたいと思います。
 一つは、いまの山本参考人のお話、小林先生の御意見等にも出ていましたが、私は、文化財保護法を改正し、行政を進めるということで一つ非常に大事なのは、ただ手さえつければいいというのではなくて、それを行う体制づくりというのがないと、これはかえって破壊を促進することにもなりかねないんじゃないか。私もごく乏しい経験ですけれども、何カ所か埋蔵文化が破壊されているとか、いま発掘調査が行われているという現場へ伺って拝見をしたことがございますが、まず夏休みであるとか春休みでないと手がそろわない。その間は休んでいるというようなことによくぶつかるのです。そこには学生さんや、ときには熱心な高校や中学の先生方、そしてその生徒さん、中学生まで加わって、へらのようなもので丁寧に薄皮をはがすように土をはがしていくというような作業をしばしば見まして、これはなかなか大変だと思うのですが、そういう発掘技術あるいは発掘したものの保存方法等についての十分な体制をつくるということが、この立法を拡充するということと並行して一番大事なことじゃないかと思うのです。そういう点でいま全国的にその体制はまだ非常に不十分だと思いますが、この点についてそれぞれのお立場から一言ずつ御意見を伺いたい。
 それからもう一つは、あわせて私も過去十何年か顧みまして、さっき伊場遺跡のお話も出ましたけれども、これは本来は完全に残したかった、あるいはもっと徹底した調査を行いたかった、あるいはもうちょっと調査技術が進むまでそっとしておいて、それから調査すればよかった、こういうようなことで、現在は残念ながら破壊ないしは散逸をしたと思われる最近の幾つかの事例があれば、これは御記憶にある主なものだけで結構ですから、場合によったらまた後ほどそういうものをさかのぼって資料をいただきたいというような気もいたしますけれども、簡単に、もし重立ったものが、あれは実に残念なことをしたというものがございましたら、それをちょっとお教えいただきたい。
#48
○河野小委員長 それでは、四参考人から一言ずついまの御質問にお答えをいただきたいのです。簡潔にひとつお願いいたします。
 江上参考人。
#49
○江上参考人 体制づくりの方からお話をいたしますと、お説のとおり実は日本が体制づくりの方が一番おくれておると言っていいんじゃないかと思うのです。御参考までに申しますと、たとえばソ連などは、領土が広くて遺跡が多いこともありましょうが、とにかくその発掘要員として養成されている者が四万人ぐらいいると言われております。それから中国もやはり非常な多くの人間を養成した上に専門家をつくっておるわけなんです。ところが、日本ではその十分の一も、恐らく百分の一があるかなしといったところじゃないかと思います。ですから、先ほどお話しのように中学校の生徒なども動員してやらなければならないということになるわけでありまして、それはお金がないということもありますけれども、やはり要員がないということです。
 それで、日本は文化財において決して乏しい国ではなくて、むしろ日本はとにかく島国として平和が続いたために遺跡は非常に豊富にあるわけです。残されております。そういう意味では世界にも少ないところでありますから、全人類の立場からいっても日本の文化財はこれ以上減らさずに保護する。そしてそのためには必要な調査研究をしなければなりませんから、要員を確保するということが何よりも大事だと思います。そのためには、やはり専門家を養成するためには大学などに講座を置いて専門家をつくるということ。それから私の考えでは、一つはほかの国はどこにでも考古総局といったものがございます。それは日本で申しますと文化庁ぐらいの権威といいますかあれを持っておりますし、機構としてもそれくらいのものを持っておりまして、必ずと言っていいほどいわゆる文化国にはあるわけであります。そうしてそこが全体の国の文化財に対する総括的責任を持って、そしてそこで多くの要員を確保しておるわけであります。私は常々この考古総局というものがどうして日本にないかということが大変疑問なんです。それがないために大学が肩がわりして、実際のことになりますと大学とそれから民間諸団体がやっておる、そういうある意味で非常に変則な形になっております。でありますから私は考古総局的なものをつくらなければならない。それからもう一つは考古学の研究所、それが国家的な規模のものがないということ、これはやはり非常に致命的であります。いま考古学その他文化財の保護に関します研究は非常に科学的なものになって、学際的ないろいろな学問の協力がなければできません。そのためには大学の講座などではとうていやっていけないのであって、これはやはり国立の研究所が必要である。それから第三に、もう一つは先ほど申しましたように、養成してもそれを確保しておく機関がなければ、事実上そういう調査要員というものを持っていられない。そのために私は、これはアメリカなどにもあるのですが、発掘公団といったようなものを考えたらどうかということを常々考えております。これはいまみたいに世界的に開発が進みまして、遺跡を調査しなければならぬ、緊急調査はどこの国でも非常に大変なところだが、発掘公団をつくってそこにやらせるということをやっておるところがございます。事前に調査するというところ。つまりここに依頼するわけですね、その公団に。その公団で専門家を持って、またほかのいろいろなそういった考古総局とかあるいは大学、そういうところと協力しながら調査をして、そして結論を出す。そのためのお金は企業や自治団体が出すということで、そういうふうな機関をつくる。これには学者の間でも反対もあるわけです。公団をつくるというようなことになりますといろいろと意見もあると思いますが、私は要員というものはどうしても確保しなければならぬ体制に現に来ておるぎりぎりのところなんですね。とてもこれでは日本ではやり切れないというような状態、結局みすみす破壊を許さなければならないというところに来ておりますから、私としてはやはりそういったものを考えなければならない時期にいま来ていると思います。こういう新しい法の改正のときにあわせてそういう、すなわち考古総局というような国家的な行政機関、それからもう一つ国立の研究所、それから発掘公団といったもの、三者をあわせて考えるということがやはりいま根本的な文化財の保護行政の重要な題目になってきているのじゃないかということを考えます。
#50
○河野小委員長 江上参考人、長谷川委員からの御質問は二つございまして、もう一方の方にもし……。
#51
○江上参考人 もう一つは、何と言っても私たちが一番関心があるのは伊場遺跡でございます。これはまだ全体的にどういうふうな依頼をする運命が決まるかということは私たちもよくわからないのでありまして、現に訴訟の問題になっておりますが、訴訟の問題になって一番大きな問題は、まだ国民あるいは文化財に対する権利を持っているということがはっきりしてない。ですから結局そこの住民の人たちにしますと、住民の利害に関係があるからということでやっておりますが、しかしそれが個人個人に利害がないということになると、日本ではいまのところ法律的にこれを取り上げられないということになるわけです。すなわち、そこが公園とかなんとかになっていればその公園に行けなくなるからその公園の利用ができないからだめだということになりますけれども、単なる文化財であるということでは利害に関係ないというわけです。いままでの利害関係というのは個人として考えられている。しかし国民として利害関係があるから、あるいはそこの住民にとって利害関係があるからということで訴えておるわけですけれども、それは日本のいまの法律では、現行においてはそれが全然考えられないということなんでございます。それでありますから、私は最初に申し上げましたように、現行法には国民に文化財を継承する権利があり、政府はこの国民の権利を保障する義務があるということが抜けているのでございますね。これは文化財だけでなく自然環境の問題においても同じだと思います。でありますから、これはやはりそういう権利があり、それを国家が守るのであるということを新しい法として考えに入れていただくということが重要じゃないかと思います。そういたしませんと、ぐあいが悪いと思います。
#52
○河野小委員長 林参考人、お願いいたします。
#53
○林参考人 まず先ほどの体制づくりをやらないと破壊を促進するという御指摘は、まことに適切な御指摘かと存じます。それで先ほど江上さんから主として埋蔵文化についての保存科学の問題を出されましたので、私はちょっと視点を変えまして文書史料、紙に書かれた史料の保存及びそれに関する体制づくりという問題でございますが、現在史料の裏打ちをやっている一人前の方というのは恐らく日本じゅうに五人いないだろうと思います。そうして人数は恐らく全国的に百人近くいらっしゃるだろうと思うのですが、責任を持って遂行できると言いますか、代表できるような方は非常に数が少ない。その大部分は宮内省の図書寮、それから東大の史料編纂所に主においでになります。しかもこの前、実は一カ月ばかり前に宮内省の図書寮に行ってまいりまして、その裏打ちを見てきたのですが、ちょうどこのくらいの厚さの平安時代の日記なんです。それでぼろぼろになってしまっている。それを裏打ちなさっているのです。そのとき聞きまして、これ全部裏打ち完了するのにどのくらいかかりますかと聞きましたら、まず三年はかかるとおっしゃる。私は非常に気が遠くなると同時に、非常に絶望的な印象を強く受けました。と言いますのは、宮内省図書寮ばかりでなく全国に裏打ちしなければならない史料がたくさんあるわけなんですね。ところがこれくらいのあれがとにかく三年かかるとなると、一体どれくらいの人数を必要とするだろうかということを考えますと、まことに絶望的な感じを持ちました。これを打開するためには、先ほどの話のようにやはり埋蔵文化財の保存科学の場合でも、理学部で何かの学問をやってそれから美術学校へ行って勉強するという、非常に学際的なためにいろいろなことをかじって、そして総合してつくらなければならないという大変な不便な状況に置かれているのです。このためには大学の講座の中に保存科学という分野を確立して、そうしてその養成に積極的に当たらないと、先ほども先生がおっしゃったように、これを固めないと破壊を促進するという結果になりかねないということを痛感しているわけでございます。これは先ほどの北海道の例でもありましたように、最近では発掘の場合でもそうでございますが、どんどん発掘するけれどもまた次の破壊があってまた発掘しなければならない。掘り出して積んだまま、また次へ行ってまた堀り出して積んだまま、次々と渡り鳥のように全国を渡り歩かなければならない。研究している時間的な余裕が全くない。しかもそれが人数が多ければ、ある集団が発掘して、そうしてそれを掘り出して調べる、そして十分な時間をかけて報告書を書くということになるのですが、人間が少ないものですから土方として各地を渡り歩かなければ追いつかないという非常に悲しい現実がいまあるわけなんです。それと同じように、古文書の場合でも、先ほど申し上げましたように、日本は世界で有数の古文書が多い国なんです。ところがこれらの古文書はほとんど旧家の蔵に眠っているという状況です。そして最近は市町村史の編さんが盛んになってまいりましたので、そういうところの編さんの方々が探し出してきて保存をしている、そうして修理を加えるのです。ところがいま言いましたように、本当に修理できるという一人前の、つまり国宝級のものを修理できるという人は、先ほど言いましたように五人ぐらいしかない。あとは簡単に応急の修理をできる人はいますけれども、ところがそれすらもできない市町村がたくさんあるのであります。そうするとそれは旧家の二階にネズミの巣の中に眠っているという状況が存在しているわけです。ところがわれわれはそれを見ながら人手が足りないためにどうしようもない、ただ隠滅していくのを待つだけという哀れな状況になってきております。そのためにも、私が先ほど言いましたように各自治体ごとに文書館を建てて保存体制を確立しないといまにどうしようもなくなる。しかし保存機関だけを設けるのではなく、一方においてそういうものを養成する機関、さらにそれを研究する国立の機関、こういうものと関連が当然出てまいります。さらにまた最も重要なことは、経済的な裏打ちがございませんとその体制づくりがうまくいかない。その史料の裏打ちをやっている方々の身分はきわめて低いのです。これは宮内省の図書寮もそうですし、東大の史料編纂所においても給料も低く身分も低いためにせっかく養成してもそういうところに喜んで行かないという傾向があります。フランスではアルチビュストといいましてかなり社会的に高い地位を与えられておるのですが、日本ではそれは職人芸として低く評価されている現実があります。こういう点からもこれを打破しなければいけないというように思います。
 以上でございます。
#54
○河野小委員長 本田参考人にお願いいたします。
#55
○本田参考人 体制づくりということですが、無形の文化財の場合はちょっと事情が違っておりまして、どうしてそれらの無形文化財を継続させていくかということも問題になり、またそれらを発展させるといいましても、これは新しいものにしてはいけないということもありまして、また洗練に洗練を重ねて今日まで残ったものは展開の余地がほとんどなくて、それが崩れていく方向に行くことが多いと思います。そういうことを気をつけなければいけないのですが、一度刺激を与えて、その刺激がなくなるとかえってそれが滅びに持っていかれるようなことができまして、そういうものをわれわれは大変に警戒をしております。
 体制といいますか、そうした無形文化財に対しては、まず市町村が指定をする、県が指定をする、そうして国がそれを選択するという、いわばこの種の体制はよくいっているように思います。そして発表の機会をなるべく多く与えるということも、祭りが本番でございますけれども、そのほかにも、たとえば国で行っておりますブロック別の民俗芸能大会あるいは国が企画しております国の全国民俗芸能大会あるいは各県、各町でそれぞれ発表の機会をこのごろは多く行っていることは大変結構なことだと思いますが、何よりも大事なことは、そうした無形文化財の価値の認識ということだろうと思います。このごろは講習会なんかも開いてそれぞれの衝に当たる方に対してそうしたことの認識を深めてもらう、そういうことも大分行われておりますのは大変結構なことだと思います。いずれにせよこうした無形の文化財も、文化史上といいますかあるいは芸能史上、信仰史上大変大事な史料だと思いますので、何とかしてそういうものの存続、そしてはっきりとそれを記録にとどめるというようなことは続けていきたいように思っております。
#56
○河野小委員長 山本参考人お願いいたします。
#57
○山本参考人 お話ございました体制のことにつきまして、先ほども私も触れさせていただいたのでございます。やはりこれは国ももちろんでございますが、全国的な規模のそういう専門家の養成あるいは活用というようなことがどうしても必要かと思いますが、もちろん都道府県あるいは市町村においてもやはり中心となるべき専門家をどうしても養成、確保していかなければならないと考えているわけであります。先ほど小林先生から北海道の文化課は二十一名の定員ということでございますが、四十九年にはまた八名増員いたしまして、現在二十九名。毎年せいぜいそのくらいの増加しか望めません。市町村には残念ながら専門家はほとんどいないというような状態なのでございまして、大変苦慮いたしております。したがいまして地方の博物館の職員あるいは高等学校の教師あるいは生徒などに夏の間だけフィールドワークをやっていただく。北海道は半年しかフィールドワークができませんので、事業量もどうしても制限されます。また冬の間は発掘いたしましたものをある理想的な収蔵庫にでも保管いたしまして、冬の間みっちりそれを研究調査するということが必要でございますが、残念ながら収蔵庫の施設などはほとんど存在しないのであります。今後は、広い北海道でございますから、北海道の各地に何とか国の財政的な援助をいただきまして埋蔵文化財の収蔵センターのようなものもつくりたいと考えております。また国の専門的な御指導もお願い申し上げたいと考えておりますし、やはり発掘現場の市町村にもそういうものをつくらせる必要があるというふうに考えますので、これは相当な財政需要になるのではないかというふうに存ずる次第でございます。体制の確立につきましては、ぜひとも十分なる手だてにつきまして御審議をお願い申し上げたいと存じます。
 第二番目に御指摘がございました問題でございますが、幸い北海道ではまだそのような事例が余り起きていないというように私は承知いたしておりますので、具体的にただいま御披露申し上げるような事例がございません。
#58
○河野小委員長 栗田翠君。
#59
○栗田小委員 最初に江上先生、林先生それから山本先生に伺います。
 開発に伴う発掘の許可制の問題なんですけれども、考古学協会でもまた学術会議の勧告でも都道府県の教育長、教育委員長の要望書でも許可制にすべきであるというふうに述べられております。先ほど江上先生は事前協議制も不適当であるということもちょっとおっしゃっておられました。今度の改正の検討案を見ますと、原則として届け出制、そして公共事業の場合には事前協議制というふうになっておりまして、これをめぐる論議の中で届け出制よりは事前協議制の方が強化されているのだというふうな文化庁の説明もあったわけでございますが、しかし不適当であるという御意見もあるわけです。事実、私も静岡県の出身でもございまして伊場遺跡の問題をめぐる事情などもいろいろ知っておりますけれども、実際には事前協議のようなことがやられながらああいう事態が起きておりますので、そういうような御意見が出てくるのだろうと思いますが、許可制にすべきだとおっしゃいます具体的な裏づけ、そのようなものを幾つかの例を挙げて御説明いただけたらと思いますと同時に、事前協議制が不適当であるということも、これは江上先生がおっしゃったのですが、そういうことについてお三方の御意見を伺いたいと存ずるわけでございます。
#60
○江上参考人 許可制にするということは、私は文化財保護に対する国の基本的な姿勢の問題だ、こう思います。許可制ということを実現するには、台帳の整備とか審議機関の強化とか、国の保存体制の抜本的改善によってそういうふうなものができることが前提として必要になってくるわけでありますけれども、文化財の保護、学術調査の自由な発展を阻害しないようにするという保障として、やはり許可制でなければならないと協会としては考えておるわけであります。いままでのような届け出制でありますと、実際において届け出ということで書面の上で審査されて、そして仕事が許可される。それでその途中でいろいろなことが起こってくる。そのときには専門家の人たちもいろいろ発言の機会も与えられますし、それについての、住民のこれに対していろいろと要求をするものがあるわけでありますけれども、そういう住民の監視あるいは専門家の意見によって、保護される場合が現実には非常に多いと思います。しかしそれはあくまでそういう住民のイニシアチブとか、あるいは学者が、その途中からいろいろわかって、そしてそれに関与してくるという形なんでありまして、届け出制のときには、そういう意味で最初から一方的に事業の方の意見だけで事が運んで、決められるということになると思うのであります。でありますから、許可制にいたしますと、どうしても許可制というのは非常に厳しいだけに、それだけに台帳の整理だとかあるいは審議機関の強化、そういうものによって初めてそこへかけて、許可すべきかどうかということになりますから、それは非常に公的なものになって、それには当然学者とか住民とかそういうものの意見が、許可をする事前において反映するわけであります。それが非常に重要だと思う。届け出制の場合にはそれができないのですね。ですから、そういう意味でわれわれはどうしても許可制にして欲しい。
 それから、国あるいは地方公共団体の工事を一般特例として、これを事前協議ということになりますと、これもやはりいままでの届け出制と同じことになると思うのです。ですから同様に、公平を期する上からいっても、やはりこれも許可制にする。その決められた機関を通して、そこで許可されたものでなければ、国といえども、あるいは地方自治体といえども、勝手にできないということは、民間に対すると同様でなければならない。そういう意味で、われわれとしては両者において、すなわちそういう事業をする場合には必ず許可を得てからやらなければいけない、そういう体制にしなければ、日本におけるような、非常に広域にたくさんの遺跡がある場合にはできないのではないかということを、本当に保護らしい保護というものはそれによって初めて可能じゃないかというように考えておるわけであります。
 それからもう一つは、そのためには私が先ほど申し上げましたような意味の、かなり大規模なそういうものを迅速に調査をする金と人とを持ったものがなければ、事実上できない。ですから、それをやはり一方においてやるべきではないか。しかし許可制において、片一方においては公的なそういう機関をつくる必要があるのではないか、そういうふうに考えておるわけでございます。
#61
○林参考人 いま江上先生の御意見と、私、全く同じでございますけれども、私は、事前協議をやり、さらに許可制にするという、二重のチェックといいましょうか、これが必要であるというふうに考えておるわけです。
 ところが実際問題としまして、許可制にするためにはさまざまな準備が、ある時期に必要だろうと思うのです。たとえば周知の遺跡について、こうなっておるのですが、この周知というのは、そこに立て札でも立てるか、あるいは土地台帳に記入する、記入したとしても、わざわざそれを見に行って、それが周知の遺跡かどうか調べに来ることがあるのかどうか。この周知という言葉の意味は非常に微妙な内容を持っている。どういう形で周知させたらいいのかというような問題があります。
 でありますから、この許可という問題も、許可制を私は賛成でございますけれども、するためにはさまざまな事前の準備が必要である。一挙に許可制にすることが困難な場合には段階的に規制力を発揮していくべきではないだろうかというふうに考えるわけなんです。
 それから、事前協議の場合に、これも審議会を設けて事前協議のときには審議会云々ということがございます。ところがその審議会の人選が民主的になされないと、都合のいい人を審議会の委員にして、開発側の利益が優先するというようなことが起きてくると、これは全く空文化してしまうおそれが十分にございます。そういう意味で、この事前協議というのは、言葉では簡単でございますが、その実質をかなり検討してかかる必要があるということでございます。
#62
○山本参考人 許可制ということはなかなか大胆な発想でございまして、これを実行いたしますには相当困難が伴うと思います。官庁間同士ですと事前協議ということでお互いに紳士的に相手の立場を尊重しながら調整を図るということを、法律によりまして一層明確化していただきたいというふうに先ほど御陳述を申し上げたのでございます。これはよほど協調的にやりませんと、非常にめんどうな問題が後々まで残るということでございますから、これはぜひとも法律で明らかにしていただきたいと思います。
 先ほど、なれ合いになるからというようなことがございましたが、なれ合いにならないように、当然国の行政庁あるいは地方公共団体は態度を明確にしなければならないと思いますから、私は、それはそれほど恐れることはないのじゃないかと思います。ただし、民間につきましては届け出ということもあるいは事前協議ということもできませんので、何とかして民間についてチェックを十分にいたしたいということから、許可制――ただし、許可制を活用するに当たりましては、明確な基準、その範囲を定めなければならないというふうには申しておりますが、実はそこらあたりが大変めんどうな点だと思います。しかし、理想的には許可制にしていただきたいと思います。
 たとえば北海道では、根室地方で大々的な農地開発事業が行われております。これは特に牧草の改良事業でございますし、あるいはそのほかの地方でも、いわゆる農業基盤整備の事業が土地改良法によって進行いたしておりますけれども、これはほとんど農民の所有地でございます。農民にとりましては、むしろ自分の田畑の中に埋蔵文化財があることが大変御不幸でございまして、そのために土地改良事業ができないというようなこともございます。しかしその反面、そういうものがあることを承知しながらその事業を行う。途中でその事実がわかったときにはすでに手おくれであるというような状態などもございますから、そういうような農民の所有地などにつきましてはやはり十分に、事前に、後々までのアフターケアまで心配いたしまして事業に着手するかどうかを許可することによって決める。そのために審議会などの活用も必要でございますし、国、地方公共団体その他農業団体などが、いかに文化財保存についてそれぞれの責任の分担に応じて対処するかという問題も含めまして許可に踏み切るというようなことをいたしませんと、従来の届け出ですと、どうしても財政が伴わないために個々の農家の犠牲になってしまいまして、農家の犠牲で文化財を保護するというような形は私は必ずしも好ましくないと思うような次第でございますので、許可制をするからには国において相当な覚悟が必要ではないかというふうに考える次第でございます。
#63
○栗田小委員 続いて、山本参考人に伺いますけれども、先ほど、市町村、自治体の保護への参加が非常に不十分である、これは不十分にさせられているわけで、したくてもできない状態になっているわけなんですけれども、こういうこととの関連で、たとえば開発の場合の中止とか延期の命令権ですね、これはどの段階ぐらいまであったらよろしいでしょうか。たとえば県段階とか市町村まであるべきだとお考えになるか、いろいろ具体的な事例などもお挙げいただきまして、その辺の御意見も伺わせていただきたいと思います。
#64
○山本参考人 結論的に申しますと、やはり都道府県にあった方がよいのではないかというふうに考えます。市町村には、そういう専門的な見識のある職員を配置することが困難でございますから、当然私どもに意見を求めてくると思いますし、私ども、また、あるいは文化庁にお伺いしなければならないというような問題もございますから、やはり都道府県が真ん中に入りまして調整すべきじゃないかというふうに思います。
 北海道では、たとえばアイヌにチャシというのがございます。とりでという名前でございますけれども、いろいろな目的にかつて使われていたというようなものなどが北海道の日高管内にはもうたくさんございまして、私どもが年々補助もいただきまして調査を続けております。これなども、市町村段階でうっかりしますとそれが壊されるのもわからないというような状態などもございます。したがいまして、農業開発にそのチャシが邪魔になるというような場合にも、はたして農業上の土地改良事業との関連、これは大体都道府県の農地開発関係が指導いたしております。そういう農業開発の問題と文化財の保護の問題というような調整をある程度図りながら延期するとか中止するとかというような措置を講じなければならないと思いますので、私はやはり都道府県段階あたりが適当ではないかというふうに考える次第でございます。
#65
○栗田小委員 本田先生に伺いますけれども、法改正をします場合に、民族芸能を保存していく場合に、この点だけはどうしても押えて入れておかなければいけないとお考えになります点を教えてください。
#66
○本田参考人 そうですね、それは大体今日まで残っておりますのは、先ほども申しましたように、代々専念されてきておりますので、それを変更しないということがその法改正ということで――信仰にまつわるものですね、それもただ芸能なら芸能だけということでなしに、その芸能をはぐくんできたその周囲の状況もあわせて指定したいという強い希望を持っております。つまり、それが憲法に触れるんじゃないかという心配があって、これまで指定ということにまではならなかったのですけれども、できれば、先ほどお話ししましたように、大事な部分が欠けてしまいますし、それに、こうした祭りということがいわゆる宗教ということとは違うのじゃないかということ、その点を十分に御研究いただきたい、こういうことなんです。信仰と宗教の違いということなんですが、結局は宗教活動にまでいかないもの、つまり習俗に類するもの、もっとも、いまでも信仰、習俗という祭礼行事ということが保護の対象に上がっているのですけれども、ただ記録だけということになっておりまして、滅びやすいものは記録だけでなしに、やはり現物もそのまま残していくように、そういう方向にひとつ法の改正をお願いできたらということを希望いたしております。
#67
○栗田小委員 あと一問だけ伺いますが、山本参考人に伺います。
 先ほど林先生が、改正については懇談形式なり何なりで多くの学者や関係者の方の意見を聞いて突っ込んだ検討をしていくべきだとおっしゃいまして、これは林先生のお言葉であると同時に、学術会議などの方々を代表されるお考えだと思います。ところで、この問題について都道府県は改正を大層急いでいらっしゃるということも私ちらっと聞いたのですけれども、
    〔小委員長退席、木島小委員長代理着席〕
この学会の法改正をめぐる御意見についてどんなふうにお考えになっていらっしゃいますか。
#68
○山本参考人 私どもも法改正には広く各界の御意見を反映していただきたいというふうに考えておりますし、私ども都道府県教育委員会教育長あるいは都道府県教育委員会委員長の名前ですでに四十七年にある程度の骨子を差し上げてございます。さらにいま目下研究させていただいておりますけれども、私どもの意見をぜひとも反映させていただきたい。意見開陳の機会を本日与えられましたが、今後もできればそのような形で地方の実情を十分御承知いただきました上で適切な法改正をお願い申し上げたいと存ずる次第でございます。
#69
○木島小委員長代理 次に、高橋繁君。
#70
○高橋(繁)小委員 大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。十二時を大分過ぎておりますので、いままで包括的な質問がありましたことを抜きまして、簡単に二つだけ質問いたしたいと思います。
 いろいろ御意見がありましたように、専門員の養成であるとか、国立の研究所であるとか、あるいは経済的な裏づけあるいは思想の徹底ということに最終的には尽きるのではないかと思いますが、そこで文化財の分布図をつくるというようなお話がありましたが、考古学協会の方でそういうものがあらかたできておるのかどうか、お考えになっておられるのかどうかという点が一点。
 それからいろいろ無形文化財の問題もありましたが、具体的な問題で直接地方行政を担当していらっしゃる山本先生にお伺いいたしたいと思いますが、先ほどお話がありましたアイヌの問題ですね。このアイヌ語あるいはアイヌの民族芸能、いろいろなアイヌにまつわる独得なものを保存していくという意味で北海道教育委員会が苦労している。あるいはここに問題点があるとか、あるいはこのところは財政的な援助をいただきたいというような、ひとつ総称して具体的な例で御意見をもしお伺いできますれば大変ありがたいと思いますが、以上二点で私の質問は終わります。
#71
○江上参考人 いまの御質問でありまして、遺跡の分布図ができておるかというお話でございますが、これは協会といたしましては分布図のようなものはつくっておりません。われわれとしましては国や地方公共団体が埋蔵文化財の包蔵地の分布調査を不断にせよ。当然それには分布図も含まれておるわけでございますが、これは文化庁などでやる方がやはり一番――文化庁の方でできる範囲においてやっておられるということはわれわれも承知しておるのですが、しかし何と申しましてもさっき申しましたように非常に手薄でありまして、日本において分布調査が不十分であるということは文化庁でももちろん考えておられるだろうと思いますし、われわれとしても考えておりまして、こういうのはやはり一番基礎的資料としてまず行われなければいけないのではないか。私などは、たとえばチェコに参りましてプラハの考古学研究所なんか参りますと、実に綿密な分布図ができておりまして、またそれに関する文献がどんなのがあるかということが一緒にわかるように全部バイオグラフィーやらビブリオグラフィーまでくっついておる。そういうものが当然あってしかるべきです。そういう意味で私は考古総局なりあるいは国立考古学研究所で、だれが行ってもそういうようなことがすぐわかる、これだけのことはわかっている、わからないのはここだということがはっきりわかるような、そういう段階を必要とするのではないかと思っております。
#72
○山本参考人 アイヌのことについてのお尋ねでございます。御案内のように現在アイヌ系と称されておられます方々の数が北海道で二万人を切っているような状態でございます。何とかしてこの方々が中心になりましてアイヌ民族独特の文化を保存することにお力添えをいただきたいということで、ウタリ協会というような組織もございますので、協会などと提携してその機運の醸成に努めているところでございます。北海道教育委員会といたしましても過去いろいろアイヌ文化保存のための対策を講じてまいってきておりますけれども、幸いにいたしましてアイヌの生活資料というようなものは北海道立の開拓記念館もございます。各地の郷土博物館その他にも有形なものはかなり保存収集が行われておりますけれども、いま一番問題でございますのは無形のものでございます。まず第一にアイヌ語そのものでございます。アイヌ語につきまして、アイヌ語を話す人は大変少なくなったということ、先ほど三十数名と申し上げましたけれども、その中で特にユーカラなどというアイヌの宗教行事に伴います民族芸能と申しましょうか、そういうものがございます。これは国の文化財というものにも当てはまらないものでございますので、何とかしてこれを保存いたしたいということで、国、道など協力しつつ何らかの財政的な措置を講じていきたいと考えて希望いたしております。これが当面いたしております一つの問題でございます。
 それからアイヌ語を中心にユーカラその他アイヌの文化につきまして、御存じのようにこれは文字のない文化でございますから、それを日本語に翻訳をいたしまして記録として保存をするというようなことが早急に手をつけなければならない分野というふうに考えているわけでございます。それに先ほどの民族舞踊、民族芸能と申しましょうか、そういう無形の文化財的なものなど目下無形のアイヌ文化につきまして保存を急ぎたいと考えており、そのための体制づくりと資金援助について特段の国の御協力をお願い申し上げたいと考えておる次第でございます。
#73
○高橋(繁)小委員 アイヌ系はいま二万人ということでございますが、これはだんだん減りつつあるというふうに聞き及んでおりますが、実際そうでございますか。
#74
○山本参考人 これらの調査はウタリ協会という同族の方々の自主的な団体を通じて行っておりますから、正確な調査というふうに、私どもみずから行ったものではございません。それと、最近は結婚いたします場合にも必ずしも同族の方々と結婚しないというようなことがございますので、そういう意味で、アイヌ系の方々の数はそう減っていかないと思いますけれども、いわゆるアイヌ民族とはっきり認識される方々はあるいはだんだん少なくなっていくのではないかというふうに考えられるわけでございます。
#75
○河野小委員長 ちょっと速記をとめてください。
#76
○河野小委員長 速記を起こしてください。
 本田参考人。
#77
○本田参考人 いまアイヌの民族芸能のお話が出ましたけれども、われわれの立場から見ますと舞踊の発生を思わせるような非常に古風な形のものがたくさん残っております。特に釧路の向こうの春採という部落には非常にいいものがあって、それを発見しました当時東京にも呼んで、それを全国民族芸能大会でやってもらったのですが、このごろ選択指定の問題が出まして、春採のをもう一度現状を調べようと思いました途端に、春採は全部落が四散してしまった、したがってあんなにいい芸能が残っていたのが全部なくなってしまったということを聞いて、これも非常に驚いたのですが、このアイヌの特に民族芸能に対しては、速急に保存の道を講ずることが非常に大事なことだと思います。
#78
○高橋(繁)小委員 一点だけ、まことに恐縮なあれであるかもしれませんが、北海道の市町村にはそれぞれ文化財保護の条例なり規約というものが全体におできになっておりますか。
#79
○山本参考人 北海道の市町村の数をただいま二百十二と押さえました場合に、条例を制定いたしております市町村は七十二でございます。
#80
○高橋(繁)小委員 ありがとうございました。
#81
○河野小委員長 これにて各参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人各位には御多用中のところ長時間御出席をいただき、貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
 次回は公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後零時四十四分散会
ソース: 国立国会図書館
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