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#1
第075回国会 法務委員会 第22号
昭和五十年六月三日(火曜日)
    午前十時三十六分開議
 出席委員
   委員長 小宮山重四郎君
   理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君
   理事 田中伊三次君 理事 田中  覚君
   理事 保岡 興治君 理事 稲葉 誠一君
   理事 青柳 盛雄君
      濱野 清吾君    福永 健司君
    早稻田柳右エ門君    中澤 茂一君
      日野 吉夫君    諫山  博君
      沖本 泰幸君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 稻葉  修君
 出席政府委員
        法務大臣官房長 香川 保一君
        法務省民事局長 川島 一郎君
 委員外の出席者
        大蔵省銀行局保
        険部保険第二課
        長       田中 哲男君
        運輸省海運局総
        務課長     犬井 圭介君
        法務委員会調査
        室長      家弓 吉己君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案
 (内閣提出第六三号)
     ――――◇―――――
#2
○小宮山委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。諫山博君。
#3
○諫山委員 稻葉法務大臣に質問します。
 例の稻葉法務大臣問題、まことに私たちの納得できない結末がついたわけです。私たちはああいう処理の仕方を決して承認しているものではありません。きょうは法案審議の日ですからこの中身に深く入ろうとは思いませんが、結末がついてからの私の最初の法務大臣に対する質問として二、三、稻葉法務大臣の考え方を御説明願いたいと思っています。
 第一は、五月三日に自主憲法制定国民会議の総会に稻葉さんが出席された。これが紛糾の発端をなしたわけですが、あのことについて稻葉法務大臣自身はよくなかったと反省しておられるのでしょうか。まずそれをお聞きします。
#4
○稻葉国務大臣 参議院の法務委員会でも申し上げましたとおり、反省しております。
#5
○諫山委員 一連の反省の発言を聞いていると、国民に誤解を与えるようなことをしたから反省しているという趣旨にしばしば聞こえます。しかし、問題の本質は、国民が誤解した、曲解したというようなことではなくて、法務大臣の肩書きを持っている人がああいうファッショ的な改憲運動を進める集会に参加した、ここに私たちは事柄の本質があると思っているのですが、稻葉法務大臣はそういう観点で反省をしているのか。それとも、本当は間違いではなかったけれども、国民が誤解をするようになったから、誤解を与えた点で反省していると考えておられるのか、どちらでしょうか。
#6
○稻葉国務大臣 いろいろ反省しているということで御了察を願いたいと思います。
#7
○諫山委員 私は、本当に反省しているかどうかに疑問を持っております。しかしこの点はいずれ別の機会に問題にすることもあると思いますが、自主憲法制定国民会議が単に憲法を調査研究する組織ではなくて、改憲運動を進めるための運動体である、こういうことが一連の審議の中で明らかになったと思いますが、稻葉さん、その点は現在お認めになりますか。
#8
○稻葉国務大臣 改正の実践運動をしている、そういう点は認めております。
#9
○諫山委員 五月三日に開かれた自主憲法制定国民会議の総会が、単に憲法を調査研究するための集まりではなくて、改憲運動を推進するための集会であったということはお認めになりますか。
#10
○稻葉国務大臣 そのとおりであります。事実でありますから認めております。
#11
○諫山委員 五月十四日の法務委員会の審議の中で、三木内閣総理大臣が私の質問に対してこう答えられました。「閣僚が、改憲を推進するという、そういう団体に加入することはよくないと思います。」これは稻葉法務大臣の前で三木総理大臣が発言された内容です。法務大臣はこの見解に御賛成ですか。
#12
○稻葉国務大臣 内閣の統一見解に従って賛成であります。
#13
○諫山委員 法務大臣の答弁で、自主憲法制定国民会議が改憲運動を進める団体であるということはお認めになりました。そして、閣僚が改憲を推進する団体に加入することはよくないという三木内閣総理大臣の答弁にも賛意を表されました。
 そこで、これはもっと具体的に問題を提起すると、改憲運動を進める団体である自主憲法制定国民会議に閣僚が加入することはよくないという結論になるわけですが、この結論には賛成ですか。
#14
○稻葉国務大臣 三木さんの答弁は、三木内閣の閣僚である限りにおいては、改憲運動を推進する集会などに自今出席させない、こういう衆参両院の本会議での見解でありますから、それはそのとおりであります。ただ、加盟しているから、脱退せよというところまでは三木総理大臣も要求しておられないはずであります。
#15
○諫山委員 団体がどういう性格のものであるかということとこの団体に加入すること、私はこういう問題を厳格に区別して問題を提起しております。法務大臣が言われるように、現職の閣僚が改憲運動を推進するような集会に出席することはよくない、この点が説明されました。あなたもそのことを言っておられるのです。私はそのことを質問しているのじゃなくて、改憲運動を推進する団体に閣僚が加入していることは好ましくないという見解が示されているが、これは稻葉さんも賛成かということです。
#16
○稻葉国務大臣 いまでも加入してはいないのです。自主憲法制定国民会議の組織について申し上げますが、これは団体の集まりなんです。その団体の中に自主憲法期成議員同盟という団体が加入しておる、こういうことでございまして、一人一人が加入して会員になってつくっている国民会議というものではありませんのですから、その点をよく区別していただきたいと私は思っています。
#17
○諫山委員 私は、国民会議が団体加盟をとっている組織だということは知っております。これは五月三日、当日配られた自主憲法制定国民会議の参加団体の一覧表がありますから。しかし、団体加入の組織であれ個人加入の組織であれ、とにかく議員同盟を通じて国民会議の参加メンバーになっていることは明白です。団体加盟だから、その団体に加盟しておっても国民会議に加入したことにならないというようなのは詭弁としてでも成り立たないわけです。
 そこで、いままでの経過を要約すると、改憲運動を進める団体に加入することはよくない、これを総理大臣も認められたし、あなたも認められているのですが、いまあなたはこれに参加しておられますか。
#18
○稻葉国務大臣 自由民主党の中の憲法調査会の会員等は大体において自主憲法期成議員同盟に加入しております。したがって、私も自由民主党の自主憲法期成議員同盟の会員の一人であります、いまでも。そうして、これについて、三木内閣の閣僚である限りは、どうするべきかというようなことを参議院でも言われましたが、それはやはり自主憲法期成議員同盟の今後のあり方であるとか、国民会議との関係だとか、それから大会運営の仕方だとかをもっと改めない限りはいけないというふうに私は思っております。
#19
○諫山委員 自主憲法制定国民会議が団体加入の組織だから個人としてそれに入ったことにならないというのは、法律家にあるまじき詭弁だと私は思います。たとえば総評という労働組合は個人加盟ではなくて団体加盟の組織です。しかし、総評の組合員が何百万と、これは常識的な表現です。恐らく国会で働いている職員の大部分の方も、総評という団体に加入している労働組合員ということで総評の組合員になるわけですね。あなたも自主憲法制定国民会議の参加団体である期成同盟の会員ということで改憲団体に加入していることになるわけですよ。違いますか、それは。それが一つの認識の前提です。個人加盟と団体加盟というのは確かに違います。しかし、国民会議の参加団体の会員である限り、それは常識的に改憲運動の団体に参加しているということになるじゃないですか。違いますか。
#20
○稻葉国務大臣 私の所見と質問者の所見とは異なるようであります。
#21
○諫山委員 議員同盟は改憲運動を推進する団体ですか。いかがでしょうか。
#22
○稻葉国務大臣 いま、三木内閣のある限りは改憲はしないと総理も言っているし、私も三木内閣で直ちに改憲の事業に政府が着手すべきではない、こう言っているのですから、そういう閣僚で……(「できないだろう」と呼ぶ者あり)できる、できないにかかわらずです。そういう所見でございますから、そういうときに御質問のようなことを言われても、閣僚としての答弁はここでは差し控えさしていただかなければなりません。
#23
○諫山委員 私はこの問題を五、六分で打ち切ろうと思ったのですが、稻葉法務大臣がそういう答弁を繰り返すなら、もう少し私、質問します。
#24
○小宮山委員長 ちょっと速記をとめてください。
    〔速記中止〕
#25
○小宮山委員長 速記を起こしてください。
 稻葉法務大臣。
#26
○稻葉国務大臣 諫山さん、稻葉問題というのは、総理が衆参両院で釈明をされまして、そして自今、改憲の思想やそういう意見を持っておっても、三木内閣の閣僚である限りにおいては、そういう改憲を推進する集会等に出席させない、こう言って御了解をとり、けりがついたというふうに私は思っているのです。世間も皆そういうふうに稻葉問題はけりがついたということになっているのですから、そこでまたこの委員会でいまのような御質問に一々答えなければならぬということになると非常に困りますので、ここのところはひとつ御勘弁願えませんか。そういうことをあなたにお願いします。
#27
○諫山委員 私はすでに論議したことを蒸し返すつもりはなかったんです。稻葉さんが本当に反省することがこれからの委員会を充実したものにするための前提だと思って聞いているわけですよ。
#28
○稻葉国務大臣 その点はもう十分反省しているのであります。私の心の中をそう疑わぬでください。私はばかと言われるほど正直なんですから、その点は御信頼いただきたい。深く反省いたしております。
#29
○諫山委員 じゃあ、一、二問質問を続けます。
#30
○小宮山委員長 最初から一、二問だから。一、二問がいつまで続くかわからない、それじゃ困りますから、一問くらいにしてください。
#31
○諫山委員 じゃ、一問でいいです。
 確かに、稻葉さんの説明のように、改憲運動を進める集会に参加しないということは表明されました。しかし、改憲運動を進める団体に閣僚が加入している問題については見解が示されていないんです。ですから、集会に参加する問題と団体に加入する問題と私は明確に区別して質問します。そして、団体に加入する問題が論議されたのはこの法務委員会においてです。
 総理大臣の説明を二、三引用しますと、「閣僚が、改憲を推進するという、そういう団体に加入することはよくないと思います。」「この点は誤解を生じないような措置をとることにいたします。」「疑いを差しはさむような誤解を生じせしめないような処置をとることを検討いたします。」そういう団体に閣僚が加入することは、「憲法改正せずという三木内閣の方針に誤解を生じさせないような処置をとりたいと申しておるのであります。」こう言っているのです。
 これは改憲運動を目的とした集会に参加するかどうかではなくて、改憲運動のための団体に加入することがいいか悪いかという論議です。そして、稻葉さんが自主憲法制定国民会議の参加団体である組織の会に依然として残っているということも紛れもない事実のようです。そうすると、ほとぼりが冷めたからもうこの問題には知らぬ顔の半兵衛で行こうではないかというふうに私には読めるんです。そして、知らぬ顔の半兵衛というだけではなくて、「そういう団体に加入することはよくないと思います。」「誤解を生じさせないように検討いたします。」こういう総理大臣自身の答弁がじゅうりんされているのではないか。これでは、幾ら口先で反省していますと言ってみたところで本当に反省していると言えるだろうか。反省していることのあかしを行動で示すためには、最小限、改憲を目的とした団体に加入していることをやめて、脱退するということが必要ではなかろうかと私は思うから聞いたわけですが、反省していますと口では言われるけれども、そういう団体から脱退しますという答弁が出てこないからつい質問が長くなりました。
 私のいまの問題指摘にどこか間違いがありますか。答弁してください。
#32
○稻葉国務大臣 この際答弁は差し控えさせていただきたいと存じます。
#33
○諫山委員 答弁を差し控えさせていただきたいということを簡単に言われますが、これは大変なことなんです。憲法第六十三条というのが参議院で問題を提起されました。閣僚は国会に出席する義務がある。出席する義務というのは答弁の義務を含む。そして、こういう制度がつくられたのは議会と行政機関とのいわばコントロールの問題として提起されたのだ、こういうことが参議院でもさんざん論議され、衆議院の法務委員会でも言われたのですが、簡単に、答弁を差し控えさせていただきますと、そういうことを言うべきではないのじゃないですか。憲法六十三条との関係で、答弁を差し控えさせていただきたいというのはよほどのことでなければならないはずです。私、こんなことを議論するつもりはありませんでしたが、ああいう答弁が出るから聞かざるを得ません。
#34
○小宮山委員長 ちょっと速記をとめて。
    〔速記中止〕
#35
○小宮山委員長 速記を起こして。
 諫山君。
#36
○諫山委員 民事局長に聞きます。
 今度の商法改正あるいは新法制定、これは一九五七年に締結された条約がきっかけになっているように思えるし、あるいはそれと無関係に準備された法案かとも思えるのですが、これは条約批准に伴うやむを得ない立法として準備されたものでしょうか。それとも、条約と関係なく、改善を要するという観点から準備されたものでしょうか。条約と今度の法案の関係です。
#37
○川島(一)政府委員 今度の立法でございますが、これは一九五七年の国際条約を批准するために必要であるということが一つございます。しかし、それと同時に、従来の海商法の原則である委付主義に問題がございましたので、これを改善する必要もある。この両方の必要が合わさりまして今度の立法になったのだというふうに御理解いただきたいと思います。
#38
○諫山委員 この条約が締結されたのは一九五七年です。そして今日に至るまで十七年間も批准しようとしなかったという異常な状態があるわけです。その背景を調べてみますと、この法律と非常に関係の深い海運会社、船舶所有者が初めのころはこの条約の批准に反対していた、ところが現在では積極的に賛成している、こういう状況があるようです。海運会社はいつごろからどういう事情で態度を変えてきたのか、御説明ください。
#39
○川島(一)政府委員 仰せのように、この条約が一九五七年、昭和三十二年でございますか、成立いたしました当時においては、日本としては直ちにこの条約に加入するということにはちゅうちょしておったわけであります。それは、一つには当時の海運界の実情というのがございます。日本の海運界は戦争により大きな打撃を受けまして、まだ十分に立ち直っていなかった。それから保険制度などもまだ十分に発達していなかったというような事情から、この条約の定める金額責任主義を採用するについては、日本の企業としてはどうもそれに十分応じていくだけの自信がなかったということが一つございます。それからもう一つは、国内制度、特にわが国の海商法が委付主義をとっておりまして、これを金額責任主義に改めるというためには相当国内法制の整備が必要になってくる。それに相当準備期間がかかるというような事情があったわけであります。ところがその後、御承知のように日本の経済が高度成長を遂げまして、海上関係の企業も大分実力がついてまいりましたし、保険制度も充実してきた。日本は主要海運国の地位を占めるというような実情になってまいりましたので、実際界としてはもうこの条約に加入して大丈夫である、その点を検討してほしいということになってまいりました。いつごろからと申しますと、昭和四十年を過ぎてからでございます。四十二年ごろに運輸省の方から法務省に対しまして、そろそろこの条約を批准してほしいという要望が実際界からも出てきておる、法務省としてもこの条約を批准して法律を整備することについて協力してほしいという要望がございました。法務省といたしましてはそれから法制審議会の商法部会などで検討いたしまして、そして今回の法案を整備するに至った、こういう実情でございます。
#40
○諫山委員 運輸省の人に質問します。
 法務省民事局参事官、上田明信という人の書いた法務資料、「ブラッセル会議における海事法に関する外交会議についての報告」という文書の中に、この条約草案に船主は反対している、なぜかというと、この条約草案は船主の責任を現在よりも重くするからだ、こういう趣旨のことが書いてあります。そして、括弧つきで引用しますと、「海運業者は、委付主義の上に惰眠をむさぼっているといわざるを得ないであろう。」こういう表現が使ってあるわけです。つまり、この条約というのは船主にとって責任が重くなる、委付主義の方が有利だというたてまえから、船主が条約の批准に反対していると法務省の民事局参事官の人が書いているのですが、事実はそのとおりだったのでしょうか。
#41
○犬井説明員 お答え申し上げます。
 条約が採択されました一九五七年当時の日本の海運界内部の意見について私つまびらかなわけではございませんが、当時、海運界の中にはいろいろな意見がありまして、大勢としては、この条約に賛成すること、それをすぐ批准をすることには消極的だったと思います。しかしその後、先ほど法務省の民事局長からお話がありましたようなことで、いろいろな事情で、海運界としてもこの条約の内容をその後検討してみた、それから海運界の事情も変わってきた、それから損害賠償の裏づけとなる保険制度も変わってきたというようなことがございまして、昭和四十二年当時になりましては、船主協会としては本条約の内容がおおむね妥当であるという結論に達しております。
#42
○諫山委員 船主協会が態度を決める場合の決定的な要因になっておるのは、船主にとってどちらの方が有利なのか、どちらが責任が重いだろうかという考慮のようですが、違いますか。
#43
○犬井説明員 船主としてはそういう点も当然考慮に入れると思いますが、それとともに、世界的にこの条約を批准する国が非常に多くなってきて、国際的にいずれ発効する見通しが立ってきた。現にこの条約は一九六八年に発効しております。そういうことで、世界的にこの条約による責任制限が行われるというのが世界の海運界の大勢になってきておるということが背景にあったと思います。
#44
○諫山委員 川島民事局長でもいいし、法務省の犬井総務課長でもいいですが、次の質問に答えていただきたいと思います。
 現行商法で委付の制度が採用されているわけですが、船舶の委付を見ると、昭和三十五年から四十九年までの資料が出ています。委付の件数は多い年で二件、少ない年でゼロ、とにかく船舶委付の登記件数というのはきわめて少ないという数字が出ております。ところで、委付すべき財産としては船舶だけではなくて、運送賃だとか、賠償あるいは報酬の請求権とかいろいろあるようですが、船舶以外の委付件数というのは統計的にわかっていますか。
#45
○川島(一)政府委員 御承知のように、現在海商法で認めております委付というのは船舶その他の海産を委付するということでございまして、船舶を委付しないで、そのほかの運送賃だけを委付するというような制度はないわけでございます。したがって、船舶の委付件数がつまり従来の委付件数そのものであるということになります。
#46
○諫山委員 そうすると、委付の件数が船舶の委付登記件数と一致するということを前提にしまして、船舶以外の委付というのが行われた例はあるのでしょうか。私のもらった資料には船舶の委付登記件数というのが出ているのですが、同時に運送賃とか賠償請求権、報酬の請求権なども委付されているのかどうかです。それとも船舶の委付だけにとどまっておるのか。
#47
○川島(一)政府委員 委付というのは一括して行うわけでございますので、船舶を委付した場合に、運送賃があるけれども運送賃については委付しないということはあり得ないわけでございまして、委付をすれば船舶及び運送賃その他委付すべき海産というものはすべて同時に委付されることになるわけでございます。したがって、登記されておる件数がそのまま委付のすべての件数であるということになりますし、また、船舶を委付した場合に、運送賃がもし付随してあるとすれば、それも同時に委付されておるということになるわけでございます。それからなお、委付の制度は、登記のある船舶については委付の登記によって行われますが、登記のない船舶については事実上の意思表示によって行われるわけです。しかしこれはきわめて特殊な小さな船であろうと思いますので、委付の件数というのはおっしゃっておるように非常に少ない。一年に一、二件あるかなしかという程度であったというのがいままでの実績でございます。
#48
○諫山委員 商法六百九十条によって委付しようと思えば委付できるような事案、ケースが現実にどのくらい発生しているのか。これは法務省でも運輸省でもどちらでもいいですが、わかりますか。つまり、委付の件数がきわめて少ないということはわかりました。年に一回か二回ぐらいだ。これは委付をなし得べきケースそのものがきわめて少なかったのか。それとも、委付をなし得べきケースというのはたくさんあったけれども、それは委付以外で処理されてきたということなのか。つまり、委付をしようと思えばできるケースというのはどのくらいあったのだろうかということです。
#49
○川島(一)政府委員 委付は、一航海の間に損害が生じて船主にその賠償責任が生じたという場合に行われるわけでございますから、そういう意味では相当たくさん委付し得る事件というのはあったわけでございます。もっとも、船舶所有者に過失があるというような場合には委付ができませんから、発生した船舶事故のうち他人に損害を生じた場合であって、かつ船舶所有者に過失がなかった場合ということになるわけでございますが、そういった船舶事故というものはかなりたくさんあったのではないかというふうに思います。
#50
○諫山委員 法務省の統計資料の中に、海難発生件数とか、事件別、損傷別隻数というような数字が非常に具体的に書かれております。この中で、いま言われたように委付をなし得べき事故というのが何件あったかというのを私ずいぶん探したのですが見当たらないのですよ。なぜこれを問題にするかというと、委付というのが現実どのように運用されてきたのかという実態を知りたいからです。これは法務省でも運輸省でもわかりませんか。たとえば、一年間何万件委付しようと思えばできる条件があったけれども、この年は委付は一件しかされなかったというような統計資料です。
#51
○犬井説明員 お答え申し上げます。
 海上保安庁で出しております「海上保安の現況」という資料がございます。これは四十八年版でございますが、その中で四十八年の救助を要した船舶の海難数、それは二千六百十五件でございます。
#52
○諫山委員 その救助を要する海難件数というのは、委付しようと思えば委付できる件数と同じですか。
#53
○犬井説明員 それは非常にむずかしい御質問で、個々の事件について船舶所有者自身に故意、過失があったかということで委付できるかどうかと分かれるわけでございますから、このうちどれだけが委付できた件数であるということを申し上げるのは非常に困難かと思います。
#54
○諫山委員 私たちはこの法案をけんけんがくがく議論しているのです。ところが、私たちが物事を判断する材料がきわめて乏しいわけですね。たとえば、委付主義に問題がある、だから法律を改正しようという提案になっているわけですが、委付というのが現実の社会でどのように運用されたのかという実態はどこで聞いてもわからないのですよ。法務省に聞いても的確な説明がないし、とにかく委付の件数は少ないということは言われますが、それじゃ何件のうちに何件委付がやられているのかという数字がどうしても出てこない。これは私たちが明確な認識を持つためにどうしても必要なデータだと思うのですが、いまからでも調べられましょうか。法務省なり運輸省、いかがですか。
#55
○犬井説明員 私たちの手元に、日本のPIクラブという船主相互保険組合というのがございますが、そこからとりました資料で、昭和四十四年度から四十八年度までの五年度間にPIの扱った事故件数がどれだけあって、その支払い額がどれだけになったかという資料がございます。これは、先生がおっしゃいますように、全体の船の事故についてどれだけが委付できるものであったかということをそのまま示すものではございませんが、少なくとも五年間にPIが扱った事故の総数は七千二十七件という数字がございますが、これは何らかのかっこうで船舶所有者に責任があったという事故だと思います。したがいまして、これのうち船舶所有者自身に過失のなかったもの、これは比較的少ないと思いますが、それを除いてはすべて委付できる事案であったというふうに考えてよいと思います。支払い件数七千二十七件に対しての支払い額は、トータルで八十一億二千六百万円でございます。したがいまして、一件当たり百十五万六千円ということで、こういう一件当たり百十五万六千円という数字から特に考えてみますと、船舶所有者としては委付をしないで、PI保険を背景とする示談ですべて問題を解決しているということかと思います。
#56
○諫山委員 その具体的なデータは後でお見せいただくとして、そうすると、委付という制度があるけれども、委付はほとんど行われていなかった、示談で解決されているという結論になりますね。そうして、その背景には保険がある。大体こういうふうなまとめでいいですか。
#57
○犬井説明員 そういうことで結構だと思います。
#58
○諫山委員 そうすると、そういう運用のやり方で、被害者が実際に受けている損害のどの程度が現実に賠償されてきたのか、これも私たちが一番知りたいところですが、なかなかどうも資料がいただけないのですよ。たとえば、現行法で厳格に法律的に計算した損害の十割程度はもうきちんと払われているのか、七割ぐらいに値切られているのか、そこの実情はどうなのでしょう。これがわからないと、私たち、運用がどうなっているかという正確な姿をつかみにくいのです。
#59
○犬井説明員 先ほど申し上げましたPIの支払い実績の中には、一部裁判で決まったものもございましょうし、大部分は恐らく示談で決まっているということです。実はこの法律の関係でPIクラブにいろいろ調査を依頼したわけですが、示談の結果幾ら払ったかという結論についてはいま申し上げましたような数字が得られたわけでございますけれども、その前提として被害者側がどういう請求をして、それに対して船舶所有者側がどういう案を提示したかということについての資料は残念ながらいただけなかったわけです。これは、その結論についての数字をもらうのもPIとしてはかなり努力をされてわれわれの要請に対して応じてくれたということで、はなはだ残念ですけれども、個々の事案について当初の要求が幾らであったかという数字は持っておりません。
#60
○諫山委員 商法で委付主義という原則が規定されている。ところがこれには欠陥が多いということから今度の改正案あるいは新法の提案ということになったわけですね。しかし、どこにどういう欠陥があったのかがさっぱりわからないわけですよ。委付主義が厳格に適用されていくなら加害者は相当賠償責任を免れる、被害者の方は本来なら損害賠償請求ができるけれども、この法律のために損害賠償が十分行われない、こういう形が、この法律を本当に文字どおり読めば出てくるだろうと思われるのですね。ところが、実際がどうなのか、どうだったのか、さっぱりわからない。そして、とにかく欠陥がありますから新しい制度に改めますと言ってみたところで、判断の材料がなかなか私たちにはないわけですね。たとえば陸上交通で自動車ではねられる交通事故ですね、その場合に、被害者の被害がどの程度賠償されているかというようなことは当然調べて今後の立法の素材にすると思うのです。委付の場合にそういう資料というのはないのですか。そしてそういう資料がないまま、いまの制度には欠陥があるから改めてもらいたいということになるのですか。これは法務省、いかがでしょう。
#61
○川島(一)政府委員 具体的な金額の点はわれわれ余り詳しくございませんけれども、なぜ委付主義を改めるのかという点につきまして……(諫山委員「一般的なことはいいですから、いま言ったような実情はわからないですか」と呼ぶ)具体的な実情はわかりませんけれども、海難事故による損害賠償が当事者間で話し合いがつかず訴訟に持ち越されたというようなことは、いままで見た資料ではわれわれ余り承知しておりませんし、したがって大体話し合いで事が解決されておるのではなかろうかというふうに思うわけです。その場合に、委付主義が非常に不合理な制度だということが学者の著書などでもいろいろ指摘されているわけですが、実際に事件が起こった場合に委付が少ないということと、それがどういう関係にあるのかというのは、推測の域を出ませんけれども、一つには、委付というのは実情から非常にかけ離れたものになっておる。したがって、船舶所有者としても委付をするのに気がねを感ずるということ。それから実際の話し合いにおいて、背後に委付という制度があるために、加害者との間で最終的には委付があるということをバックにした話し合いが行われるのではなかろうか。こういうことも一応推測しておるわけでございますが、実情を詳しく承知いたしませんのでそれ以上お答えいたしかねます。
#62
○諫山委員 委付の制度にいろいろ欠陥があると言われますが、現実、被害者にどのような賠償がされているのかということを知りたいのです。これなしには本当にまともな論議ができないと思うのです。たとえばいま民事局長が指摘されたような疑問、私たちにもそれは出てきます。たとえば、委付主義というのがあるから示談交渉の場合にうんと値切っているのじゃなかろうかという疑いがあるわけです。ところが、実際どうされているのかとなると、どこに聞いてもわからない。ただ欠陥がある、あると言うだけじゃ、立法準備をする側でちょっと準備不十分じゃなかろうかと思うのですよ。私たちがこの問題で一番重視しなければならないと思っているのはやはり被害者に対する保護です。現行制度で被害者に対する保護がどうなっているのか、その実態がわからずに、欠陥だ欠陥だと言われるだけではどうも信用してくれと言っているだけのように見えますから。いま言ったような資料というのは今後調べようと思っても調べられないのですか、調べないのですか。運輸省が保険会社の方といろいろ連絡をとれば資料が集まるようにも思えるのですが、資料の問題はいかがですか。
#63
○犬井説明員 お答え申し上げます。
 先ほど申し上げましたように、従来のPIの支払い件数と一件当たりの平均支払い額というのは資料がとれました。それ以上、請求額はどれだけであったかということにつきましては、PI側に確実な資料が残っていないということもあるようでございまして、現在のところとれていないわけでございます。なお努力を重ねるつもりですが、非常にむずかしいのではないかというふうに考えます。
#64
○諫山委員 私たちは一つの法律をつくる作業に参加しているわけですが、余りにも材料がなさ過ぎると思いますから、この点はぜひもっと調査して、資料もお見せいただきたいと思います。
 そこで民事局長にもう一遍質問いたしますが、いまあなたの説明の中で、委付主義というので船舶所有者の責任を制限している、これが示談交渉の中でいろいろ作用しているのじゃなかろうかという指摘があったわけです。これは、新しい法律でたとえば責任限度額を抑える、その場合にも同じ問題が出てくるのじゃないでしょうか。裁判してもこの限度額しか払わなくていいのだということで、これは示談交渉のときに加害者に決定的に有利になる、こういう働きをするのはむしろ、委付主義で金額がきちんとしない場合よりも今度の改正案で幾らと金額が限定されると、示談交渉で加害者の駆け引きの材料に使われるという要件はますます強くなると思うのですが、この点はどうお考えですか。
#65
○川島(一)政府委員 それは考えられると思います。したがって、責任制限額というものがどのように定められるかということが関係のある問題だろうと思いますが、おっしゃるようなことは、事故によっては考えられるであろうというふうに思います。
#66
○諫山委員 この法律が運用されたとして、被害者に対する賠償がどの程度行われるのか。たとえば、責任限度額というのが相当大きいから被害者の損害というのは大体一〇〇%賠償されるだろうという見通しを立てるのか、あるいはたくさんの人が死亡した場合にはどうしても賠償額が引き下げられるということになるのか。法務省でも運輸省でもどちらでも結構ですが、そういう見通しというのは計算したことがありますか。
#67
○犬井説明員 お答え申し上げます。
 過去にPIで扱いました事故のうち、物損だけが起きたもの、それから人損も含めて起きたもの、これについては今度の法律案で限度額が違えてございますが、そういう特に大きいものについてPIに頼んで若干調べてみました。そうしますと、そういう金額の大きいものにつきましても、今度の法律案で定められている限度額を上回っているものは比較的少ないということが出ております。
#68
○諫山委員 私の方で一つの例を仮定して計算してみたのです。そうしたらこういう数字が出たんですが、運輸省の方で後で検討してくれませんか。たとえば関釜フェリー、これは三千八百七十五トン、乗組員二十二名、定員四百六十五人。これが一万トンの船に沈没させられた、その場合にこの法律で被害者に対する補償はどうなるだろうか、こういう仮定です。積み荷の問題を無視すると、たとえば四百名が死亡したとすれば一人につき百八十万円弱程度払えば加害者の責任は済むという計算になるようですが、これは後で、この法律が実際に運用されたとき、いまのようなケースの場合に私の指摘したようなとおりになるのかどうか、検討してみてください。
 いずれにしましても、事故が非常に大きい場合には被害者に対する賠償というのはきわめてわずかで責任を免れるというようなことになるのじゃないか。そういう見通しは運輸省なり法務省、持っておりませんか。
#69
○川島(一)政府委員 いまおっしゃったようなケースというものを想定した場合にどうなるかということは私の方でも計算いたしてみますけれども、しかし、現実に起こりました事故というものに当てはめて今度の責任限度額で計算したという場合には、必ずしも補償が十分にされないというようなケースは出てきていないように私聞いておりますので、おっしゃったような特殊の場合にどういう問題が起こるかということはなお調べてみますけれども、一般的には、先ほど運輸省の方からお答えいたしましたように、それほど不都合なケースは起きないというような見通しであるというふうに考えております。
#70
○諫山委員 私たちは、この法律が制定された場合に、実際に被害者の補償がどうなるのかということに一番関心を持っているわけです。ところが、委付主義の現行法のもとでその実態が把握されていないということですと、この新法ができて被害者が余り迷惑をこうむることはないだろうと思いますと言ってみたところで、なかなか、そうでございますかと安心できないのですよ。その点では、もう少し私たちが納得できるようないろんな資料というか数字を提供していただきたいと思います。これは委員会以外で別個に交渉しますから。
 それから、海難事故についてはいろいろ保険制度が発達している。商法を見ましてもさまざまな保険が規定されているわけですね。そして事故が起こった場合に、たとえば船舶所有者の損害というのはほとんど保険でカバーされている。だから、事故が起こったから直ちに船舶所有者が大変な損害をこうむるということには実際にはなっていないと思うのですが、その実情は大蔵省の方ででもわかりますか。
#71
○田中説明員 海難事故の場合の保険の種類でございますけれども、これはおっしゃいましたように、船体初めいろいろ種類がございます。船体保険につきましては、船舶所有者が掛けるもの、これが最も一般的なものでございますが、そのほか特別なものとしましては造船所が掛けるもの、その他もあるわけでございます。それから積み荷につきましては貨物保険というのがございまして、これは荷主が自分の損害を担保するために掛けるもの、それから運送業者が賠償責任を担保するために掛けるものがあるわけでございます。そのほか利益、費用の保険といたしまして、これも船舶に関係するわけでございますが、たとえば、船舶事故がありますとその期間中、船がかせげないということで船舶不稼動損失保険というものがございますし、また、船舶を利用した者が掛ける保険といたしまして希望利益保険、これは商社であるとか仲介業者あるいは船舶傭船者などが船舶自体の輸出入売買を行う場合、事故が起きてしまったら希望利益が損するということでそれに関する保険。それから事故の場合の回航費の保険というようなものもございます。それから船舶乗組員につきましては労働災害使用者賠償責任保険というものがございますし、または船舶乗組員団体傷害保険というものもあるわけでございます。先ほど御指摘のございました関釜フェリーなどで船客傷害賠償責任保険というものがございまして、それにつきましては、船客の身体傷害につきまして旅客船事業者の負担する賠償責任を担保するわけでございます。
 実際の保険のつけ方といたしましては、大きな船舶といたしましてはほとんど全部船体保険がついておりますので、海難事故の場合は保険によってほとんどてん補されることになるかと思います。そのほか、先ほど先生が例に挙げられました船客の場合につきましても、これは業として運送する者は、日本旅客船協会というところがありまして、そこが団体契約という形で船客傷害賠償責任保険に入っておりますので、船客に対する賠償責任もその保険でカバーし得る、このような体制になっております。
#72
○諫山委員 そうすると、保険制度が非常に完備しているようですが、実際に海難事故が起こった場合に船舶所有者は余り損をしていない、ごく単純に言ったらそういうことになりますか。
#73
○田中説明員 これはいろいろ場合がございまして、船舶の場合ですと実額まで保険を掛けるのが実情でございます。したがいまして、船舶自体につきましての損害はほとんど生じないことが多いかと思います。
 それから船客賠償の場合になりますと、これは現在、保険一千万を基準といたしておりまして、一人当たり二千万円まで受ける、あるいは数といたしましては総額二百億まで受けるというような事実上の体制になっておりますが、もし仮に一人当たり一千万の保険に入っておりまして、何人かを殺して、総限度額では保険の枠内におさまることがございましても、個人ベースで損害賠償額を計算いたしますと一人当たり千五百万を上回るようなケースもあるわけでございます。そのような場合は、保険は一千万の契約でございますと一千万しか支払わないわけでございますので、それを超えた分につきましては船舶を運用していた者が損害賠償責任を負って自腹を切って払う、このような形になるわけでございます。
#74
○諫山委員 新しい法律が制定され運用されたとしますと、船客一人についての賠償金が限度額を設けられますね。たとえばさっきの私の例では一人百八十万という金額が出てきたわけですが、そういう場合は保険金の給付というのはその限度までになるのですか、どうなるのでしょう。
#75
○田中説明員 先生御承知のように、この船主責任制限の法律は、内航のみの船につきましては適用がないわけでございます。したがいまして、旅客船のほとんどは内航船でございますので、その場合は責任制限は適用されないということになるわけでございます。外航船の例といたしましては、定期船といたしましては先生が先ほど例に挙げられました関釜フェリーなどがあるわけでございまして、これは法律的にはこの船主責任制限法の対象になるわけでございます。
#76
○諫山委員 その場合、死亡者に対する賠償額の最高額がこの法律で制限される。その場合に保険金の給付はどうなるのかということです。
#77
○田中説明員 法律的には、この船主責任制限は、その責任制限することを援用すれば対象になるということでございますので、損害賠償責任を負っている者がこれを援用するかどうか、それがまず第一の問題だと思われます。したがいまして、もし援用しないで、社会通念その他で賠償をより多く払うことが必要であるという判断に立てば援用しないということもあり得るかと思いますので、その場合はこの制限額は適用されないことになるわけでございます。
#78
○諫山委員 そうすると、援用するかどうかというのは船舶所有者の自由ですね。しかし、援用するかどうかというのは保険会社にとっては非常に大変な問題ですね、幾ら保険金を払うかという問題ですから。その場合、たとえば自賠責法についての保険会社の態度なんか見ますと、ここまでしか払わぬでいいんだ、ここまでしか払わぬでいいんだからこれ以上保険で責任を持たないと言いますよね。その問題がこの場合も出てくるのじゃないですか。つまり、法律的に義務づけられている限度については保険会社の方で責任持つけれども、それから先は責任持たないというのが陸上交通事故における保険会社の態度だと思うのですが、この場合の運用は変わりますか。
#79
○田中説明員 その点につきまして、実は純法律的に申しますと先生のおっしゃられたような問題があるわけでございます。そこで大蔵省といたしましても、運輸省とも御相談申し上げたわけでございますけれども、実際被害者の方の迷惑にならないようなことを行政上とることがぜひ必要じゃないかと考えておるわけでございます。その手段といたしましては、外航船の運送約款には運輸省に対する届け出が必要であるということがなされておりますので、その届け出の際に行政指導を運輸省でされまして、賠償責任の限度額、これは自賠責あるいは航空運送約款その他類似のものと適正な水準で賠償水準額を定める、そういうようなことを運送約款に入れておきますと、法律的には、この船主責任制限の援用をせず、そこまで賠償責任を負担するという約束をしたことになるわけでございますので、実際事故が起こった場合にも運送約款に従って行う。したがいまして、この援用はできないというような形になりますので、被害者の保護は十分満足いく水準までできることになるかと考えております。
#80
○諫山委員 運送約款でも特別なことを決めてない。そして船舶所有者が、これじゃ被害者に気の毒だからもっとたくさん金を払おう。法律的にも契約的にもこんなに払う義務はないのだけれども、この程度の賠償金は払おうというような場合には、保険会社はどうするのですか。やはり、船舶所有者がこれだけのものは払おうと言ったら、保険会社が全部めんどう見るのですか。
#81
○田中説明員 その点はいろいろむずかしい問題がございまして、今後の問題でございますので、私ども保険会社を監督する立場にある役所といたしましては、保険会社、PI等、十分指導いたしまして、不合理な値切り方はさせないように考えております。
#82
○諫山委員 私は弁護士として自動車の交通事故の損害賠償の交渉をしばしばやってきたのです。その場合に私たちが交渉の相手にするのは、加害者よりかむしろ保険会社になってしまうのですよ。保険会社がそんなに払わぬでいいんだと言って損害賠償金を抑える、実際そういう状態になっているのです。ですから、そういう状態が放置されながら何とか行政指導でと言ってみても、本当にそうなるのかどうかは非常に私疑わしいと思いますが、こういう問題はもう少し何かきちんとした行政指導の方針でもあるのですか。それとも、今後そういうことに不当に保険会社が介入するようなことをさせないようにするというだけなんですか。
#83
○田中説明員 自動車保険のことにつきましては、先生から御指摘がありましたような声がときどき出るわけでございます。その点につきましては私ども保険会社に常に言っておりまして、正当な支払いをするということを強く指導しておりまして、支払い基準というものを全社統一的につくらせております。この支払い基準も実はいままでは公開されておらなかったわけでございますけれども、それでは被害者の方の請求される立場から御不便があろうかということで、ことしの初めからは公開するようにいたしておりますので、被害者の方もその支払い基準をお読みいただきまして、自分の逸失利益を計算して請求していただくという形で、保険会社もその支払い基準によって払うということで、トラブルは起きないようになっているかと思われます。
 今後、海難事故につきましても、最初申し上げましたように、本法案の対象としておりますのは外航船でございますので、起こるケースとしては非常に少ないと考えられるわけでございますが、その少ないケースの場合に一般的な基準をあらかじめつくっておくことはどうかという問題もあるかと思われますので、実際に起きましたときに正当な支払いをするように保険会社を指導していきたいと考えておりますし、また先生の指摘されました関釜フェリーの例につきましては、運輸省の方で運送約款に入れさせてしまうという御方針を言っておられますので、法律上の問題といたしましても全くなくなるのではないか、このように考えております。
#84
○諫山委員 その場合の運送約款というのは、たとえば民間航空の場合の約款のようなものを念頭に置いてやるわけですか。つまり、航空機の事故で一人が死んだ場合には、ホフマン式で計算した完全な損害を賠償するというのではなくて、一定限度は責任を負うけれども、それから先は責任は負いませんというような約款を念頭に置いているのでしょうか。
#85
○犬井説明員 お答え申し上げます。
 先ほどからお話がございましたように、国内の旅客船で起きた旅客の死傷事故につきましては責任は制限できないことになっておりますから、この場合は問題ございません。それで外航の旅客船でございますが、現在外航の旅客船で定期的に運航されておりますのは関釜フェリーだけでございます。したがいまして、この関釜フェリーをどうするかということで、本来ならこれも責任制限できないということにしたいわけですが、条約との関係でできないということがございまして、これについては行政指導で対処しようということでございます。先ほど大蔵省からお話がございましたように、運輸省としては、運送約款が届け出でございますので、その届け出の際に旅客一人当たりの責任限度額を決めさせるという方向で対処したいというふうに考えております。そしてその責任限度額をカバーするだけの責任保険に加入させるということについても強力に行政指導をしたいと思っております。
 先生のお話のありましたホフマン方式によるのかあるいは一定額によるのかという点につきましては、最終的には今後検討して決めたいと思いますが、現在のところは航空の限度額とか、あるいは、昨年アテネにおける国際会議におきまして旅客手荷物条約というものが採択されました。そこでも限度額を決めておりますので、そういった金額を参考にしまして一定額を決めることにしたいというふうに考えております。
#86
○諫山委員 この保険の問題にもまだまだずいぶん疑問が残ります。たとえば一定限度額というと、参考になるのは日本航空、全日空などの民間航空だと思います。ところがあの場合は、死亡事故で死んでも大体実際の損害の三分の一とか二分の一、あるいは四分の一程度しか賠償しなくてもいいという金額になっているはずなんです。そういう点でもう少し私たちの方も調査しますが、今度は民事局長にひとつ法律的な問題、これはなかなかわかりにくい法律で、特に商法と新しい法案との関係なんかが理解しにくいのですが、次のような設例の場合にどうなるのか、ちょっと考えてくれませんか。
 船長の過失で事故が起こった、そして損害を加えた、この場合に船舶所有者の責任というのは、新法なり改正商法では責任を制限できることになるのですか。新法では船長の故意という言葉が使われているからできるようにも思えるし、商法ではどうもできないようにも理解できるのですが、実際の運用の場合どうなるのでしょうか。これはちょっと細かい法律解釈の問題ですから、委員会外ででも御説明を聞かしてもらいたいと思います。
#87
○川島(一)政府委員 船舶所有者に過失があればできませんが、過失がなければ責任制限できるということになります。
#88
○諫山委員 そうすると、船長の過失の場合は船舶所有者に責任制限ができる、こうなりますか。
#89
○川島(一)政府委員 そのとおりでございます。
#90
○諫山委員 商法改正案の関係はどうなりますか。船舶所有者の故意、過失という言葉が出てくるのですが……。
#91
○川島(一)政府委員 御質問は六百九十条の改正規定によってどうなるかということでございますね。これは船長に過失があっても船舶所有者自身に過失がない場合にどうかという疑問が起こりますので、その場合においても船舶所有者は損害賠償責任を負わなければならないということを規定したものでございます。
#92
○諫山委員 そうすると、新しい法律で船長の過失で事故が起こったら船舶所有者は責任制限ができるということの関係はどうなりますか。
#93
○川島(一)政府委員 つまり、船舶所有者に過失がなく、船長に過失があったという場合におきましては、船舶所有者は損害賠償責任を負うことになりますが、しかしその責任については制限ができる、こういうことになるわけでございます。
#94
○諫山委員 そうすると、商法六百九十条の解釈では、「損害ヲ賠償スル責二任ズ」と書いているだけで、どれだけの賠償責任があるかという問題には触れていない。これはつまり損害賠償の責任があるのだということを規定しているのであって、新しい法律で責任の限度を決めているということになりますか。
#95
○川島(一)政府委員 そのとおりでございます。つまり、六百九十条によって生じた船舶所有者の責任というものが、この新しい法律の第三条の規定によって制限できる、こういうことになるわけです。
#96
○諫山委員 この二つの法律を並べるとどうもそうだろうなと思うけれども、商法六百九十条を見ますと、これはいかにも船舶所有者が全面的な責任を負う、一〇〇%損害賠償の責めに任ずるというふうに読めますよね。ですから、こんな規定の仕方で誤解を生じないのかなという疑問が出てくるのですが、商法を読む場合に必ず新しい法律案を並べて読むようにしないと、この六百九十条というのは正確に理解できないというふうになりますか。
#97
○川島(一)政府委員 まあ、おっしゃるようなことになるわけでございます。それからなお、この新法による責任制限というのは、船舶所有者が責任を制限しようという場合に一定のアクションをとるわけでございます。とることによって責任制限が効果を生ずるのでありまして、それをとる、とらないは船舶所有者の自由になっております。したがって、原則的には商法の規定で責任を負う、それを制限したいという場合にはこの新法の規定によって責任制限の手続をする、こういうことになるわけでございます。
#98
○諫山委員 最後に一言。新しい法律案の第三章第十六条に、「この法律に定めるもののほか、責任制限手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。」となっておりますが、この規則の案というのはもうできておるのですか。
#99
○川島(一)政府委員 目下検討中でございます。まだ案そのものはできておりません。
#100
○諫山委員 構想はあるのですか。
#101
○川島(一)政府委員 大体どういうような事柄を規定するかということはもちろん念頭にあるわけでございます。
#102
○諫山委員 これは一応の考えがあるそうですから、いずれ別な機会に聞かせていただくとして、私、きょうの質問で私の考え方は余り述べなかったつもりです。ただ、この法案に関していろいろ疑問が出てくる、どういうふうになっていくのだろうかという点がたくさんあって、幾つかの点を質問したわけですが、どうも政府の方にも事実をつかんでいないような問題もあるようだし、私はこの点をもう少し具体的な事実を提供していただいて、それに基づいて重ねて質問の機会を認めていただきたいと思いますから、これで終わります。
#103
○小宮山委員長 次回は、明六月四日水曜日、午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午前十一時五十五分散会
ソース: 国立国会図書館
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