くにさくロゴ
【PR】姉妹サイト
 
#1
第075回国会 法務委員会 第25号
昭和五十年六月十日(火曜日)
    午前十時五分開議
 出席委員
   委員長代理 理事 田中 覚君
   理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君
   理事 田中伊三次君 理事 保岡 興治君
   理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君
   理事 青柳 盛雄君
      小澤 太郎君    小坂徳三郎君
      小平 久雄君    福永 健司君
      綿貫 民輔君    諫山  博君
      沖本 泰幸君
 出席政府委員
        法務省民事局長 川島 一郎君
 委員外の出席者
        運輸省海運局総
        務課長     犬井 圭介君
        参  考  人
        (日本船主協会
        業務委員会副委
        員長)     田中 穣二君
        参  考  人
        (日本船主責任
        相互保険組合理
        事)      北原 貞幸君
        参  考  人
        (成蹊大学教
        授)      谷川  久君
        法務委員会調査
        室長      家弓 吉己君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月十日
 辞任         補欠選任
  木村 武雄君     綿貫 民輔君
同日
 辞任        補欠選任
  綿貫 民輔君     木村 武雄君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案
 (内閣提出第六三号)
     ――――◇―――――
#2
○田中(覚)委員長代理 これより会議を開きます。
 本日、委員長所用のため、委員長の指名により私が委員長の職務を行います。
 内閣提出、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案を議題といたします。
 本日は、本案審査のため参考人として、日本船主協会業務委員会副委員長田中穣二君、日本船主責任相互保険組合理事北原貞幸君、成蹊大学教授谷川久君、以上三名の方に御出席を願っております。
 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 参考人の皆様には御多用中のところ御出席をいただき、まことにありがとうございます。
 当委員会におきましては、本案につき慎重な審査を行っているのでありますが、本日、参考人各位の御意見を承りますことは、本委員会の審査に多大の参考になることと存じております。参考人におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。
 それでは、まず参考人から一人十五分ないし二十分程度の御意見をお述べいただき、その後に委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、質疑応答の際にはその都度委員長の許可を得て御発言をお願いいたします。
 それではまず、田中参考人にお願いいたします。
#3
○田中参考人 私は、日本船主協会の業務委員会副委員長をいたしております田中でございます。あいにく業務委員長が海外に出張いたしておりますので、私がかわりに出席いたした次第でございます。
 ただいま議長から御質問のありました船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案につきまして海運業界の見解をお答えいたします。
 御承知のよう仁、わが国の商法は、明治三十二年に制定されて以来、今日まで委付主義をとり続けてきたわけでありますが、これを金額主義に改めようとする提案は、いまからちょうど四十年前に当たります昭和十年十二月の法制審議会の総会において決議されております。この決議は、商法全般にわたる改正に関する決議でありますが、問題の委付制度につきましては、「航海船所有者ノ責任ノ制限ニ付テノ規定ノ統一二関スル条約ヲ参酌シテ之ヲ改正スルコト」というものでありまして、ここに言う条約とは、一九二四年に成立しました船主責任制限条約のことでございます。この商法改正決議に基づきまして、東京商工会議所に商事関係法規改正準備委員会が設置され、改正案の検討が行われたわけであります。この検討結果は、昭和十七年三月の委員総会において決議としてまとめられておりますが、それによりますと、各国に比べて優秀船の多かった当時のわが国商船隊を保護するためにも、委付主義を改めて金額主義に移行すべきであるが、責任制限金額は必ずしも条約にとらわれることなく、わが国として適当に考慮することというようにうたわれております。
 では、当時の海運業界はどのようであったかを御説明申し上げますと、御承知のように、わが国の海運業界は、明治三十二年に商法が制定される以前に、すでに世界各地に航路を張りめぐらしておりまして、世界有数の海運国として成長を遂げていたわけでございます。ことに、海運取引の商慣習や、船舶保険や貨物保険などの海上保険機構も、英国流の世界的な海運慣習に準拠してわが国に取り入れられておりまして、商法が制定される以前にすでにわが国に定着し、確立されていたと言うことができます。
 したがって、ドイツ、フランスなどの大陸法を母法として制定されたわが国の商法は、世界的な海運慣習や、それを取り入れたわが国の海運慣習とは、生まれながらにして相入れない幾多の問題点を残しているわけでありまして、さきに申し上げた昭和十年十二月の法制審議会総会の決議を見ましても、商法、特に海商法の全面的な改正が強く打ち出されております。かような次第で、大陸系の委付主義による商法第六百九十条の規定が使われたという例もきわめてまれでございまして、海運史上、記録に残っているような例はほとんどないという実情でございます。
 その理由といたしましては、船舶については通常、船舶保険が付保されておりますため、船舶が衝突して相手船に損害を与えた場合には、自分の船に付保している船舶衝突賠償金てん補条項によって相手船の損害に対する賠償金がてん補されることになっております。また、人命に対する損害賠償について、一部の船主ではロンドンの保険会社に賠償責任保険を契約しておりました。しかも、当時の海運企業の経理状態は、今日とは比較にならぬほどの内容を持っておりまして、借入金に頼らず、自己の蓄積資本で賄うことが常識でございまして、中には船舶保険も契約せず、自家保険で賄う船主もあらわれるほどで、被害者に対する賠償に困ったという海運会社の例は先輩からも聞いておりません。
 たとえば数字を挙げますと、昭和十年ごろ、わが国における科学の粋を集めて建造された欧州航路や世界一周航路の超豪華船の建造船価は約一千万円でありまして、当時日本郵船や大阪商船などの資本金は一億円でありましたから、約十隻の船がつくれたわけでございます。ところが、現在の代表船となっております二十万トンタンカーや大型コンテナ船の建造船価は百億円を超えておりますが、海運企業の資本金は多くても三百億円程度でございますから、二隻半しかつくれないという状態にあります。このような数字から、当時における海運企業の資産内容が充実しており、賠償金もおおむね自己資本で賄うことができ、委付を必要としなかった事情がおわかりいただけると思います。このような背景のもとでの海商法改正の動きも、第二次大戦の勃発によって中断されたまま、今日に至っております。
 他方、船主責任制限条約の動きでございますが、先ほど申し上げました一九二四年の船主責任制限条約が母体となり、その後、第二次大戦による貨幣価値の変動によって責任制限金額の引き上げなど、全面的な修正が加えられまして、一九五七年成立の船主責任制限条約に発展したことは御高承のとおりでございます。
 この五七年条約と言われる新しい船主責任制限条約の成立に際しまして、日本船主協会は運輸省から新条約に対する見解を求められたわけでありますが、当時の海運業界は、戦後復興の途上にありまして、資本の蓄積が乏しく、また賠償責任保険につきましても国内における引受体制が十分でなく、これを海外の保険機関に付保するとしても、保険料の支出増加は企業経理を圧迫することになり耐えがたいというような意見が大勢を占めました結果、「海商法の国際的統一は望ましいことであり、実質的に世界海運の統一法が成立するのであれば、これに協調するにやぶさかではないが、現に提案されている条約案により統一を図ろうとするのであれば、その採用する金額主義により船主の責任は加重され、わが国の船主にとって耐え得ぬ過大なものと結論せざるを得ない」として答申した次第であります。
 政府におかれましては、このような日本船主協会の答申により、その取り扱いに苦慮されたことと拝察いたします。七五年条約採択のための外交会議において、日本代表の鶴岡大使が、「日本代表が本条約の採択に棄権したのは、日本政府が本条約の原則に反対したからではない。本条約の合理主義的及び進歩的であることには賛成している。しかし、不幸にも、わが国関係業界においては本条約に対する意見が分かれているからである。日本政府は、条約に定めた原則の必要なことを関係業界に認識せしめるよう努力したいと思う」と発言されていることからしても、この間の事情をうかがうことができます。
 その後、海運業界におきましても、海運再建二法による国家助成措置と企業努力とによりまして、船主経済も次第に回復してまいりましたし、同時に、海運業界で設立しております日本船主責任相互保険組合、いわゆるPI保険の引受体制も充実してまいりましたので、日本船主協会は、昭和四十二年三月運輸省にあてまして、「日本船主協会は、わが国が一九五七年の船主責任制限条約に加入すべきものと考える」との意見を表明した次第であります。しかし、この結論を得るに至りますまでには激しい論議が交わされたわけでありまして 決して、五七年条約を全面的に是なりとして条約の批准を提案したものではございません。
 まず第一は、責任制限額を算出するためのトン数であります。すなわち、五七年に条約が作成された当時に比べますと、その後、鉱石専用船、自動車運搬専用船、カーフェリーなど各種の専用船が出現いたしまして、ほぼ同じ大きさの船舶を比べてみましても、船種、船型により条約トンに、したがって責任限度額にも差が生ずるという不均衡が出てまいりました。
 また第二には、インフレーションと社会情勢の変化、並びに近海・内航旅客船の発達によりまして、人的損害に対する責任制限額に不合理が見られるようになったことであります。
 このような不合理な点が出てまいっておりますが、金額主義そのものは委付主義に比べて、被害者保護の上からすぐれていることは言うまでもございません。現在のように船型も大型化し、かつ建造船価も高くなってまいりますと、おいそれと委付するわけにはまいりません。まして、計画造船により財政資金の融資を受けて建造しました船舶を委付して責任を免れるというようなことは、実際問題として不可能でございます。
 さらに、委付主義による最大の欠陥とされますのは、委付を対象とした船舶が沈没した場合に被害者保護が空文となることであります。実は私の会社の子会社の船が小樽から石炭一千トンを積んで千葉へ向け航行中、昭和三十九年六月十八日、青森県鮫角沖におきまして濃霧のため徐行しておりましたところ、新居浜から肥料を積んで室蘭に向けて航行してきましたほとんど同型の相手船に当てられまして、乗組員は両船とも全員救助されましたが、船体は両船とも沈没いたしました。私どもは相手船に対しまして当方の損害を請求したわけでありますが、相手船の会社は経営不振のため、その船に保険すらつけておらず、船体を委付するから勘弁してくれというのでありますが、現場は水深が深く、私どもとしても、相手船を引き揚げるくらいならこちらもまず自分の船を引き揚げたいが、それができないから何とかせよというような問答を繰り返したような始末で、結局は委付も受けずに泣き寝入りを余儀なくされたことがございますが、これなどは委付主義の被害者保護に欠ける最も典型的な例でありまして、もしこれが旅客船とか、あるいは乗組員に犠牲者が出ていたとしたら社会問題になっていただろうと思います。私ども海運業に携わる者といたしましては、常に加害者であると同時に被害者でもあり得るわけでございまして、金額主義に基づき賠償責任保険を活用することが被害者保護に通じるものであると考えて、公平な法のあり方とその正しい運用を念願いたしております。
 ところで、五七年条約につきましても、先刻申し上げましたように問題なしとせず、現にIMC
○、政府間海事協議機関におかれましても、また日本船主協会の加盟しておりますICS、国際海運会議所におきましても、五七年条約の修正を検討中で、その成果を期待しておるわけでありますが、ただいま御審議中の本法律案の中では、条約に認められております沈船除去に関する船主責任の制限が除外されて無限責任とされている点につきましては、海運業界としては不本意なものを感じております。
 と申しますのは、港則法、海上交通安全法及び港湾法に沈船除去義務がうたわれておりますが、たとえば、海上交通安全法の施行される航路を航行中、他船の一方的過失によって衝突され、沈没した船舶の所有者は、法の命ずるところにより当該沈没船舶を引き揚げなければなりませんが、条約に認められた沈船除去に関する責任の制限が、本法案によりますと除外されているため、当該沈没船舶の所有者は無過失でありなから、無制限な引き揚げ義務を課せられるという不合理があり、過失責任主義をとる本法案のもとにおきまして理解に苦しむ点でございます。
 現在IMCOにおかれましては、沈船除去に関する国際条約の作成を検討中と承っておりますが、海水油濁事故に対する防除体制とともに、沈船除去につきましても、国の施策として海の消防署あるいは海の清掃局ともいうべき処理機関が一日も早く設立されますよう念願してやみません。日本船主協会といたしましても、これらの点につきまして御当局に対し書面をもって御要望申し上げております。
 日本船主協会といたしましては、本法案に対し不本意な点といたしまして、さきに申し上げたような点を取り上げて関係御当局に陳情してまいったのでありますが、本法案は、別途御審議をいただいております油濁損害の民事責任に関する一九六九年条約及び油濁損害に対する国際補償基金に関する一九七一年条約の批准案並びにこれら二条約を国内法とした油濁損害賠償保障法案を成立させるためには、商法の委付主義を金額主義に改めるという立法技術上の必要があり、そのためにも、一九五七年の船主責任制限条約批准案とともに一連の関連提案として取り扱われる御趣旨を理解いたしまして、やむを得ぬものとして本法案に御賛同申し上げたような次第であります。
 何とぞ、本法案成立の暁にも、本法案がさらによりよき法律となりますよう、日本船主協会の意のあるところをおくみいただきまして、本法案のもとになっております一九五七年船主責任制限条約の改正及びIMCOで検討されております沈船除去義務に関する条約の作成につきましても前向きの御配慮をお願いいたしまして、私の陳述を終わります。(拍手)
#4
○田中(覚)委員長代理 次に、北原参考人にお願いいたします。
#5
○北原参考人 私、日本船主責任相互保険組合の北原でございます。
 ただいま焦点になっておりますこの条約につきましては、すでに関係の方々からいろいろ御照会も受けておりますし、いろいろ御回答も申し上げておりますので、限られた時間でございますのでポイントを三つばかりにしぼりましてPIとしての見解を申し上げてみたいと思います。
 まずその一つといたしましては、皆さん御存じだと思いますが、PIというのはどうなって、現在各船がどのように付保されているかということが一つ。二番目には、やはり問題となりますクレームがどのように推移されているか、支払い実積がどうなっているか、過去の実例につきまして申し上げ、最後に、この制度に対するPIとして、われわれ保険者として見た目からどのように映っているかということについて申し上げてみたいと思います。
 まず、PIそのものにつきましてはすでに御存じだと思いますので、そのてん補の範囲の中で一番本条案と関係ございますのが、いわゆる港湾設備その他に対する損害を見ているのである。それから油その他による汚濁水面の清掃費用が関係している。それから他船との衝突によるものも見ております。それから問題の加入船舶外の人命損害についても、これをてん補の対象にしております。さらには、後ほど触れますが、組合の容認する特例という項もございます。
 このようなカバレージをもちまして船主さんにサービスしているわけでございますが、現在保険金額といたしましては、下は千百万から、三千万、六千万、一億五千万、二億五千万、二十億、五十億、二百五十億、最後に無制限の保険金額の制度を持っておるわけでございます。
 現在PIでは、やはり保険の要諦は再保険制度にございますので、無論巨額な再保険金額というものを私どもはロンドンに再保に売っております。これはやはりいろいろ関係がございますので申し上げますと、六千トンアンダーの船につきましては三千万。六千トンから三万トン、これが六千万。三万トンから六万トン、これが一億五千万。六万トンオーバーが二億五千万。これだけを日本のPIとして保有しておりまして、後は英国のPIに売っております。したがいまして、これ以下のクレームでございましたならば私どもの中で処理できる。あとは海外から再保険で取るというのが現状でございます。
 現在どのようなことになっておりますかは、先ほどの田中さんのお話にもございましたように、PIばことしで二十五周年を迎えます。この二十五年でずいぶん発展してまいりました。現在組合員の数が約三千六十三名、これは五月末の統計でございます。お引き受けしております隻数が六千八百九十一隻。扱っておりますトン数、いまの六千八百九十一隻が約四千万トンでございます。この二十五年間に膨大な伸びを見せております。ということは、とりもなおさずいわゆるPI保険というものが非常に認識されてきたということにほかならないと思います。
 問題となっております、では小さな船主さんを含めまして船主さんがどのような保険をつけておられるかということに皆様の関心がおありだと思います。これが今年度の統計が、まことに申しわけないのでございますが出ておりません。ところが四十九年四月現在の統計につきましては、すでに関係の皆様には数字をもってお答えしてございますが、確かに少ない保険金額をつけている船もございます。要するに、四十九年度の実績でございますが、一千百万円をつけていらっしゃる船主さんが千八十一隻ございました。昨年の四月現在ですが、全部で約六千隻の中で一千隻ばかりは千百万円しかおつけになっていませんでした。ところが、最近の被害といいますか、いろいろなクレームの事故の発生がどんどんふえているということ、それからクレーム額が増高しているという点から、ことしの四月現在では、具体的な細かい数字はまだチェックしておりませんのですが、集計しました段階で、従来千八十一隻でございました一千百万円、この隻数が約五百九十四隻になっております。この千百万円も、実を言いますと私ども組合員の皆様には、千百万円では足りない、三千万円が最低であるということを申し上げておりまして、事実千百万円も三千万も保険料的にはあまり違いがございません。したがいまして、船主さんの皆様は、千百万から三千万、あるいは六千万、さらにはもっと高額な保険金額、いわゆる最近の事故に対処した方向へと進んでいることは事実でございます。むろんタンカーにつきましては、これも数字はいろいろ申し上げているのですが、いわゆる油濁のことがございますので、大半のタンカーの船主さんは大きな保険金額をつけております。たとえて申しますならば、アンリミテッドと申しまして無制限の保険のつけ方がございます。油濁損害では、御存じのように六九年条約でも限られた金額になっておりますけれども、その二千五百万ドルまでカバーするといういわゆる保険のキャパシティーだけではなく、いろいろな問題もございますので、いわゆる青天井で保険をつけている船主さんが大半でございます。現在はそのように、保険金額の面、われわれがお受けしている面ではすべて解放して皆様の御便宜を図っておりますと同時に、最近のクレームに皆さん考えられまして、保険金額は上げてこられているというのが実態でございます。
 次の二番目の問題に移りまして、損害賠償額と支払い額がどのような実態にあるかということについて触れさせていただきます。
 保険は、特にPI保険というものは、ことし起きました事故が解決しますのは三年先、四年先、かつては七、八年かかるのが常でございました。最近は非常に早くなりましたのですが、したがいましてアップ・ツー・デートのデータをとるというにはなかなかむずかしゅうございます。したがって、四十四年−四十八年度の五カ年の実績について申し上げてみたいと思います。今度の船責制限に関連いたします点についてのことだけ申し上げますと、私どもはカバレージの内容はたくさん持っておりますが、その中で関連がありますのは、先ほど申し上げましたように、港湾設備等に加えた損害、これは物的責任のいろいろな問題が入ってくると思います。これがこの五年間におきまして約二千三十二件、支払い額が二十七億一千七百万、一件当たりの平均約百三十三万七千円、この程度でございます。それから他船との衝突による損害、これは五カ年で百四十六件、支払った金額が十三億二千七百万、一件当たりが約九百万何がし。それから水面の清掃費用、これが千九十六件、支払った金額九億一千三百万でございます。一件当たりが八十三万三千円。漁網、海産物に与えた損害、これが四百十七件、五億一千六百万、一件当たり百二十三万七千円。それから問題の、加入船舶外の人命損害でございます。これが四十九件、一億一千万お支払いいたしまして、一件当たりが二百二十四万五千円。すなわち五カ年間におきまして約七千二十七件、八十一億二千六百万お支払いしておりますが、一件当たりの保険金支払い額といたしましては、先ほど申し上げましたように衝突によるのが九百万ございますが、大体百万、二百万、この程度でございます。これが過去の実績でございます。
 しかしながら、やはり大物の事故もございます。大きな事故について二、三件申し上げてみますと、たとえて言いますならば、松江丸という船がございまして、これが四十三年ダースベイで人夫を一人重傷を負わせました。これは三十二万五千ドル、邦貨にいたしまして九千七百五十万円払っておりますが、これはもともとの求償額がかなりございまして、これと責任限度額と見合いますとかなりな金額である。無論責任限度額以下ではございますが、高額な要求が出されておりました。それから限度額を超えた例も正直申し上げてございます。扇海丸という二千トンアンダーの船でございますが、これが五島列島の沖におきまして漁船をひっくり返した。これは七名が亡くなっております。これでお支払いいたしましたのが一億四千四百万円。残念ながら責任限度額で申しますと一億一千八百万、これは超えた例になります。ほかにまだございますが、これは皆以内でございます。こういうものもございます。
 ただ、最近におきまして、四十九年四月から九月の間、この間にどのような事故が発生したか、保険金額なり支払いがどのような推移になっているかということが非常に御参考になるかと思いますので、数字ばかり申し上げて大変恐縮でございますが、ちょっと触れさせていただきます。
 四十九年の四月から九月まで、これは事故発生ベースでとらえたのではなくて、いわゆる支払いベースでとらえた見方でございます。これがケースが八百七件ございます。そのうち油濁に関するものを除きますと七百二十件、国内が四百九件、外国におきまして三百十一件。このうち五百万円超は、国内におきましての四百九件のうち、五百万円を超えるものが二十四件ございます。それから外国におきまして三百十一件のうちに、五百万円を超すものが十件ございます。
 その数字の中で、皆様方が問題になさろうとなさっている責任限度額との関連について二、三の例を申し上げてみたいと思います。
 まず、責任が、いわゆる支払い額が五百万円を超えました国内のケースの中で、物損のみは全部で十三件ございます。人損があるのが八件。合わせて先ほど申し上げました二十一件でございますが、責任限度額を超えたものが物損の十三件のうち四件ございます。それから人損八件のうち二件ございます。これはあとで調査いたしましたところ、人損の二件のうち一件は白船の乗組員に対するものでございましたので、二件という数字を関係者の方にも申し上げたのですが、正直に申し上げますと、人損に関しましては一件ということに相なります。これらの割合がどのようになっておりますか、これを具体的に申し上げますと時間的に長くなりますので省略させていただきますが、大体一〇九%、いわゆる責任制限の限度額から見ますとそういうものがございます。人損につきましては一つだけ申し上げますと、六百九十九トンの船が漁船をひっくり返した。これが支払い額が四千三百万お支払いいたしておりますが、限度額は、すなわちトン当たり三千百ポアンカレフランで計算いたしますと約四千百万円になり、したがいまして支払い額との比率は一〇三・四%という比率に相なります。希有な例でございますが、こういう事実も正直ございます。
 以上が大体クレームの実績でございまして、これを国外のものについても若干触れさせていただきますと、国外では、先ほど申し上げましたように五百万円を超すのが十件ございますが、責任限度額を超えたものは物損で二件、人損ではございません。物損は、外国におきましての橋なりあるいは、細かいデータを持っておりますが、いわゆる岸壁の設備あるいは橋梁等を壊したために、これの設備の修理が非常にかかったというのが実情でございます。
 それで、これらの損害に対しましてどのような形で解決が行われているかということについて若干付言させていただきます。
 小さなクレームは別でございますが、大きなクレームになりますと、加害者、被害者両方のサイドからそれぞれサーベーヤーが一応アポイントされます。それで被害状況がチェックされます。根本的には、両サイドからのチェックは大差は出ません。ただ被害物件が物である場合には、耐用年数であるとか、償却の問題であるとか、修繕の模様がえであるとか、不稼動期間の費用をどうするとかいうようなことで若干両方に意見の食い違いがありますが、物的損害の場合ですと大体お互いがいいところで解決しております。したがって、特殊な例を除きまして、先ほど一、二件申し上げましたが、制限金額を超すということはまずまれでございます。
 それから人的の場合はどうであるか。これは、人的の場合は価値判断というものは非常にむずかしゅうございます。被害者サイドに立ちますと、この賠償というものをどのように持っていくかということで大変な問題がございます。国内はともかくといたしまして、アメリカサイドにおきましては、御存じのように、ちょっとデッキで転んでも五万ドルであるとか、あるいは亡くなれば五十万ドルであるとかいうようなことがございまして、アメリカサイドにおきましてはよくアンバランスチェーサーと言われまして、悪徳弁護士が事件を追っかけております。このような形で、訴訟の最初のクレームアマウントでは五十万ドルが出てまいりますが、最終的にはその十分の一、二十分の一で解決しておりますのが実績でございます。
 日本ではどうかということになりますと、正直申し上げまして、過去二十五年間の記録の中では非常に人的の評価が少のうございました。大変妙な表現でございますが、人的損害に対しましての賠償は非常に少のうございました。ただ、途中からホフマン方式の採用であるとかいろんな問題が出てまいりまして、最近におきましては妥当な金額になりつつあるのが現状でございます。
 しかし、これを事PIのクレームからながめてまいりますと、特別なケースを除きましては、たとえて言うならば、たくさん乗っている漁船を小さなカーゴボートがひっくり返す。これも前に先生方から御指摘を受けましたケースでございますが、現実にはございませんが、ケースとして考えてみますと問題はあると思います。しかしながら、こういう希有なケースを除きましては、いままでの実績から見ますと、制限額を超えたということは非常に珍しいということが言えると思います。むしろPIとしては、被害者、加害者、両サイドから見て一つの基準として目安を立てる方式ができたということは非常に結構なことではないか、このように考えております。いままでの長年の経験から見まして、被害者を泣き寝入りさせたり、あるいは被害者のサイドにおきまして費用をふくらませて解決するというようなことは、私どもの経験におきましてはございません。
 以上がクレームに対する考えでございます。
 最後に、本法案に対しまして私どもPIとしてどのように考えているかということについて、時間が大分たちましたが、二、三分申し上げさせていただきます。
 私どものPI保険は、御存じのように船会社がメンバーでございます。海運というものは、御高承のように、内航、外航を問わず、常に国際競争場裏に置かれております。したがいまして、主要海運国の加盟している各種の条約につきましては、やはり同じ条件下であるべきだというのが私どもの信念でございます。残念ながら、過去の実績では、わが方に海商法がありながら、五七年条約は批准していないにもかかわらず、この条約のもとに律せられて解決させられた例も何件かございました。先ほど田中さんがおっしゃいましたように、卑近な例といたしましては六九年条約でございますが、わが国が批准していないために、十四カ国、つい最近におきましては西ドイツも批准いたしましたので十五カ国には、サーティフィケートがあっても入れません。海運の活動の場がずいぶん制限されているという状況も、いまひしひしと身に感じております。したがいまして、早い機会にやはり諸外国並みの状況下にして海運が十分活躍してもらいたい、後ろには私どもPIがついているという形で進みたいと思っております。
 法的には確かに一番問題でございますが、もし発効となりましたならは――ここに定款がございますが、定款は無論船主責任相互保険組合法によって律せられております。したがいまして、法律で決まった以上は、この責任制限制度があれば私どもとして制度の活用を組合員に申し上げないわけにはまいりません。しかしながら、事が外国船の場合にはこれにリミットを設けまして、これで賠償額を抑えることは非常に有利でございますが、事国内船に至りましては、あるいは国内の被害者にとりましては、賠償額が責任制限額を超えたからといってこれをけることはできないと思いますし、また社会的に見て妥当性を欠くと判断されれば、必ずしもこの制度の援用が正しいものということはないと思います。
 これを分析いたしますと、すなわち、船主責任制限ができない場合も御存じのようにございます。さらに、衝突の場合には責任割合がございまして、必ずしも一〇、ゼロではございません。さらには、PIといいますのは組合員の一人一人がメンバーでございます。要するに船会社の一人一Aの方がメンバーであり、かつ保険者であるわけです。したがいまして、お互いがこれが妥当である、社会秩序を保つためにはこれが必要であるとなれば、いろんな問題がそこで当然出てくると思います。私どもの定款の中には、船舶の運航によってどうしてもこれが必要だということで責任を負ったならば、これはお支払いしようじゃないかという条項もございます。そのようなことを考えますと、やはり現制度は、先ほど申し上げましたように、諸外国と同じような制度に早く乗ってもらいたいというのが現状でございます。
 最後に、基準となります千ポアンカレフラン、三千百ポアンカレフランが果たして妥当かどうか、これは確かに問題がございましょう。しかしながら、従来のPIの実績から見ました損害額から判断いたしまして、さほど低いものとは思いませんし、先ほど申し上げましたように、大半はこの金額以内でおさまっております。今後はいろんな問題が、物価も上がってまいりましたし、無論人命の価値の問題もございましょう。したがいまして、この金額の妥当性はまた云々されると思いますが、またこれは国家的の場合でいろいろ御検討がなされていることは先ほど田中さんもおっしゃいましたとおりでございますので、その段階におきましてはPIとしても当然それをフォローしていくことになると思います。
 以上、私どものPIとしての見解を申し上げました。失礼いたしました。(拍手)
#6
○田中(覚)委員長代理 次に、谷川参考人にお願いいたします。
#7
○谷川参考人 私は、成蹊大学法学部で商法、なかんずく海商法の講義、研究を担当しておるものでございます。谷川と申します。
 本日は、船主責任制限関係の制度の意義、それからその存在根拠といった面から、この問題についての私の意見を述べさせていただきたいと思います。
 御存じのとおり、船主責任制限制度というものはすでに古くから存在した制度でありまして、古い時代におけるその存在根拠というものは、現在においてそのまま妥当するということにはならないわけでございます。中世から前世紀にかけましての船主責任制限制度というのは、実は航海の危険性、冒険性といったようなものと関連をし、かつその船舶の限りで責任を負い、そして船舶から優先的に債権者に弁済をするという思想のもとに成り立っておったものでございます。そのために船舶を中心とした考え方というものが中心になっておりまして、したがって、わが国の商法が現在とっております委付主義というものも、当該事故を起こした船舶というものを中心にして、海産の限りで責任を制限させようという制度であるわけでございます。そのような考え方は、たとえば執行主義、ドイツが最近までとっておりました執行主義というような考え方でも、責任は無限であるけれども、執行を許容するのはその船舶限りであるといったような考え方、あるいはその船舶そのものではないが、船価相当額に責任を制限させようという考え方等が行われておったわけでございます。
 ところが、一八九四年以来イギリスにおきまして金額責任主義という考え方が出てまいりまして、責任制限を、船舶とは関連づけるけれども、船舶そのものに責任を制限するという考え方から解放していこうではないかという考え方が出てきたわけでございます。そして、一九二四年条約当時におきましてはこの考え方は全面的に国際的に受け入れられることにはならなかったわけでございますけれども、一九五七年条約、特に戦後における海商法の改正、改善、近代化というものを国際的に進めていく過程で一番初めにあらわれてきたものの一つでございますが、この船主責任制限制度についてイギリスの制度をそのまま国際的に採用しようではないかという機運が高まりまして、一九五七年の条約会議におきましてこれを採用するということになったわけでございます。その条約がまさに本日問題になっております船主責任制限制度の考え方の基本になっておるわけでございます。
 実は一九五七年当時におきまして、わが国でこの条約に賛成すべきかどうかという議論が問題になりましたときに、先ほど田中参考人からも御意見の開陳がありましたように、日本の海運界はこぞってこれに反対をし、そして一部においては、学界と海運界との間が非常に険悪な空気になったこともあったわけでございます。しかしその後、いろいろな経済的条件、社会的条件の変化もありまして、海運界の方も五七年条約の導入によって、わが国が現在とっております委付主義を改めるということはやむを得ないという判断をされたと伺っておるわけでございます。
 そこで、現在わが国のとっております委付主義を墨守いたしますとどういうことになるかということは、先刻皆さん御存じのことと存じますけれども、念のため申し上げておきますと、たとえば船体が深海に沈没をしたという場合に、その沈没している船骸を総債権者のために委付をするからと言えば、そのことの結果として、その関係の責任すべてを免れてしまうという結果をもたらすわけでございます。特にその責任制限の対象となるものが船舶ということでございますので、たとえば船舶所有者自身がこれを委付する場合には理論的には問題はない。というのは物権的な意味で問題はないわけでございますが、たとえば賃借人が責任を負う場合に、賃借人がこれを委付するという関係は法律的にどう説明するのかといった問題、あるいは、定期傭船者あるいは傭船者がその責任主体となっている場合に、この委付主義とどうかみ合わせるのかといった問題について困難な問題を生ずることにもなるわけでございます。
 さらに、この委付主義を含めまして、船舶を中心として考える考え方は実はもう一つの方で航海主義という考え方をとっておるわけでございまして、責任を、航海の終わりにおける船舶そのもの、あるいは執行の対象船舶そのもの、あるいは船価も航海の終わりにおけるその船舶の価額ということで考えようというわけでありますから、委付主義の場合にも船舶はその航海の終わりにおける状態において委付されるということになるわけで、一つの航海の中に二回も三回も事故がありました場合に、全部をひっくるめて一つの航海の終わりにおける海産に責任を制限してしまうという結果になるわけでございます。それに対しまして金額責任主義の場合には、船主は一つの金額を算定するための基準として船舶のトン数というものをとりますが、一定の定められた金額は、その船舶が滅失していようと何であろうとそれだけの責任は負わなければいけないとすると同時に、それは一事故当たり幾らという金額の制限の仕方をするのだということになっておるわけでございます。
 そして、委付主義はそのように結果としては非常に不合理な制度であるために、現実にそれが使われたケースというのは非常に少ないということはすでにさきの参考人も述べておられたわけでございますが、私の仄聞いたしましたところ、あるいは私が途中で意見を聞かれる等の現実のケースにおきましては、委付を実行できるであろうかというようなことを言われるわけでございます。そして交渉の過程、最終的に損害額を幾らでセトルするかという過程におきまして、金額の具体的な交渉の背景に、委付をした場合の結果というものを常に背負ってこれの交渉に臨んでおる、そういうケースがあるということでございます。
 委付主義の攻撃ばかりしておってもしようがないわけでございますが、しからば、その船主責任制限制度というものそのものが金額責任主義ならばなぜいいのかという問題でございます。船主責任制限制度そのものは、いろいろな根拠からこれを説明してきたわけでございますけれども、古くから認められてきたものであるといったような沿革的な理由、あるいは巨額な運送用具を使用して危険の大であるような企業を営んでおるんだというようなこと、あるいはその船主のコントロールの及ばない危険海域においてそれが運航されておるというようなこと、いろいろ言われてきておったわけでありますが、これらの理由は必ずしも正当な理由づけにはならないんだと言われておるわけでございます。そして最近ではむしろ、私企業における採算制あるいは保険転嫁の限界といったようなものがその根拠に述べられておるわけでございますが、それにつきましても、それはもしそうであるとすれば、その制限債権の範囲は不法行為債権に限るべきであるとか、あるいは不法行為でもそれをすべてについて認めるというのはおかしい、そもそも基礎に海運業保護という理屈を持ち出すのでは、これは説明つかないのではないかということが言われておるわけでございます。しかし、そのような批判をしておる者も、それでは責任制限制度をやめてしまえという理論になるかというと、必ずしもそうはならないのでありまして、特に海運の国際的な競争という条件を考え、そして各国がそういう制度を認めておるという中で、むしろ国際的に統一された基準に従って近代化した内容でこれを存置し、実現することが最も現実的であり、いいのだということを述べておるわけでございます。
 これが最近までの一応の根拠づけであったわけでございますが、私はさらにその上にもう少し広い立場からのこの問題の根拠づけが必要なのではないかと考えておるわけでございます。
 一つは、総体的なその責任を制限するというやり方は、実はこの船舶の金額責任主義の考え方が近代的な例として五七年に出てくるわけでございますが、このようなやり方、責任制限の仕方、グローバルな責任制限の仕方というものはここにとどまるわけではないのでありまして、たとえば原子力損害についてのウィーン条約あるいはパリ条約、あるいは原子力船の運航者の責任に関する条約、あるいは航空機の衝突に基づく地上第三者に与えた損害の場合、あるいは油濁の民事責任の場合といったような制度の中に、むしろ責任を強化し、そして責任を集中し、ある程度高いところのレベルで責任を制限するというような形でこれを実現していくことが、責任制限を認めていくことが実際的であり、かつ必要なことなんだということが国際的に認められてきているわけでございます。
 その観点から本問題について見ますと、商法六百九十条の委付主義の規定は、正面からは書いておりませんけれども、従来、解釈としては、これは民法における使用者の責任というものの原則を変更したものである。船長、海員等に故意、過失があれば、その使用者たる船主に故意、過失がなくても、選任、監督の故意、過失等民法で要求しているような要件がなくても、その限りでは無過失で船主は責任を負わなければならないという前提があって、その上で成り立っておるのだということが言われておったわけでございますが、今回の法律案を見ますと、その関係は六百九十条ではっきりと明記するという前提をとっておるわけでございまして、これの前提に立って責任制限というものを合理的な範囲内で認めていこうということになっておると思うのでございます。
 そしてさらに、これもしばしば言われる例でございますか、責任制限を全く認めない場合にどういうことになるかといいますと、単船会社といいまして、株式会社あるいは有限会社、船一杯について一つの会社をつくり、そしてカタストロフィクな事故がありました場合にはその会社制度における有限責任制度をそのために利用する。会社の財産としては船舶しかないという形で、会社の有限責任制度というものを特ち込んで責任を免れてしまうという結果ももたらすことになる。ところが、これに一定金額での責任制限を認めておけば、仮に、現在盛んにそういう例があるようでありますが、シングル・シップ・カンパニー、単船会社でありましても、この責任保険を正当にその額までつけるということで運航するということになるであろう、こう言われておるわけでございます。
 もう一つ、さらに高い次元からこの問題を基礎づけていきますと、これは非常に込み入った問題になりますが、保険の問題を抜きにしては考えられない。しかも、それは責任保険という問題だけでは片づかない問題でありまして、特に物の場合で考えますと、その物についての物保険――貨物保険でございますが、それと、損害賠償をする側でつける責任保険、それもPIのみならず、船体保険についての衝突の責任に関するRDC条項といったようなものがかみ合わさってその総保険コストというものが出てくるわけであります。それから、これも一般に言われていることでございますが、物保険コストの方が責任保険コストよりも安いということになる。そして、常にその貨物所有者は物保険をつけなければならないという前提に立って考えるならば、総保険コストというものはどちらにどれだけかかってくるかということを常に考えていかなければならない。そして、その不法行為責任を含めて責任保険というものを非常に高くしますと、責任保険コストが非常に高くなる。それはどこに転嫁されていくかというと、運送賃に転嫁されていくわけでございます。その運送賃に転嫁された結果は、最終的には最終コンシューマーの負担に帰するという結果になってくる。そうすると、その責任制限制度は、保険料という、その危険の対価の契約関係における対価への転嫁の限界というものと関連づけ、そして、それがさらにその両当事者間におけるその負担のバランスというものと、それからその責任限定を受ける被害者の不利益とのバランスというものを総合して考え、そしてその中には一定限度での責任の制限を認めることが全体的に見て合理的な結果をもたらすのであるというふうに説明されるわけでございます。
 しかし、その細かい点はここでは省略いたしまして、結論を申し上げますと、この金額責任主義に基づく五七年条約をわが国の国内法制に採用し、委付主義を拾てるということは絶対に必要なことであると思うわけでございます。ただ、五七年条約をそのまま採用いたしますと非常に問題を残すものが出てくるわけでございます。それは何かというと、一回の事故で巨大な旅客の損害が発生するような場合でございますが、この場合につきましては、幸いにして、条約と抵触しない範囲で、しかもわが国において現実に生じ得べき問題を処理する形で、旅客船についての、旅客船船主の責任制限の適用除外ということが法案の中に定められているようでございますので、その点の手当てがあれば、これで一応五七年条約にのっとった形で責任制限を認めていくこと、これが現時点においては合理的ではなかろうかというふうに考えるわけでございます。もちろんこれが百点であると私は考えているわけではございませんが、百点でなければだめだというわけではなくて、四十点のものを八十点にすることもまた必要なことではなかろうかという気がいたすわけでございます。
 以上、私の意見開陳を終わります。(拍手)
#8
○田中(覚)委員長代理 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
#9
○田中(覚)委員長代理 引き続き、質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大竹太郎君。
#10
○大竹委員 それでは、まず田中参考人に簡単にお尋ねいたしたいと思います。
 御承知のように、この条約は昭和三十二年に成立をいたしまして、たしか四十三年に発効したのでございますが、先ほどお伺いをしておりますと、たしか昭和四十二年に、船主協会として、この条約を批准をするようにという船主協会の希望を政府の方へお出しになったという御発言があったようでございます。そういたしますと、いままで船主協会が大いに希望していたけれども批准が今日まで延びてきたということになるようでありますが、その点はいかがですか。
#11
○田中参考人 お答えいたします。
 三十二年ごろにおきましては、先ほども御説明申し上げましたように、船主の経営基盤も弱く、引受機関も欠いておりましたために、業界におきましても意見が分かれまして、これの批准に消極的であったわけでございますが、その後、海運会社の合併、それかも自主努力等によりまして基盤も強化されましたし、さらに引受機関も充実してまいりましたので、批准を四十二年にお願いしたわけでございます。その後今日まで及んでおりましたのは、政府において他の案件のために本件の取り扱いがおくれたというふうに承っております。
#12
○大竹委員 次に、これは、民事局長せっかく来ておられるからちょっとお答えいただきたいのでありますが、いまの田中参考人は、私十分研究してないのであれでありますが、たしか一つだけ、この点はどうも直してもらいたいという御希望をつけて賛成されたようでありますが、その点について民事局長はどう考えていられるか、ちょっとお尋ねいたします。
#13
○川島(一)政府委員 この難破物除去、特に沈船を除去する費用につきまして、これを制限債権に加えるかどうかという問題でございます。この点につきましては、確かにいろいろ考え方があるわけでございまして、私ども立案に当たりましても、どのように扱うのがいいかということは運輸省その他ともいろいろ御相談をいたしたわけでございます。条約は、御承知のように、一応こういった費用も制限債権にすることができるけれども、批准の際にこれを留保して制限債権にしないこともできる、各国の自由に任せておるわけでございまして、多くの国の例を見ますと、この点につきましては留保している国が相当多いということがございます。
 それから実質的に考えました場合に、この費用というのが、法令によって除去すべきことが義務づけられておるわけでございますが、自発的に除去してしまいますとその費用は自分が全部出さなければならない。ところが、自分が任意にそれを履行しない場合には、いわゆる代執行によりまして官庁が執行することになるわけでございます。そしてその費用を船舶所有者に対して請求する。こういうことになるわけでございまして、これを仮に制限債権といたしました場合には、自発的にその命令に従って自分が除去いたしますと全額出さなければならない。ところが、その命令に従わないで、官庁に代執行してもらってその費用を取り立ててもらう、その費用を自分に請求されるという場合には、制限債権として全額払わなくても済む、こういうふつり合いが生ずるわけでございますので、かえってこれを制限債権にすることによって除去義務の履行が円滑に行われなくなるのではないか、こういう必配があったわけでございます。最初に申し上げましたように、外国の例などを見ましても、これについて留保をいたしまして、国内法で除外しておるという国も相当ございますので、わが国としてもそれと同じたてまえをとるということにいたしたわけでございます。
 もちろん、もう一つの別の理由といたしましては、こういう除去費用というようなものを制限債権に加えますと、それだけほかの被害者に対する賠償額が少なくなってくる、こういった面も配慮いたしたわけでございまして、そのような関係で、今回の法案におきましては難破物除去の費用というものは制限債権に加えなかったということでございます。
#14
○大竹委員 次に、北原参考人に一点だけお聞きいたしたいと思います。
 いろいろ保険業界の実情をお聞きいたしまして、非常に参考になったわけでありますが、最後にこの法案に対する賛否の点については、私お聞きしたところでは賛成というふうにお聞きしたのでありますが、そうお聞きしてよろしゅうございますか。
#15
○北原参考人 語尾が私、はっきりしませんで大変失礼いたしましたが、申し上げましたように、被害者、加害者、両方にとりまして非常にいいということで賛成でございます。
#16
○大竹委員 最後に、谷川参考人にお聞きいたしたいと思います。
 これも結論でございますが、旅客の点を除外してあるからまあまあだというお答えでございましたが、学者としての立場で、こうしてもらったらなおこの法案がいいんだがという点がございましたらお聞かせおきをいただきたいと思います。
#17
○谷川参考人 現時点におきまして、五七年条約の採用を前提といたしますと、この法案に盛られております内容は一応満足であるというのが私の結論でございます。ただ私、百点ではないと申し上げましたのは、さらに条約自身の先へ行っての改善の問題というものも考慮されるであろうということを含めて申し上げた趣旨でございます。
#18
○大竹委員 終わります。
#19
○田中(覚)委員長代理 青柳盛雄君。
#20
○青柳委員 沈船の問題が一番重要なような感じがいたしますので、お尋ねをしたいと思います。
 最初に川島民事局長にお尋ねしたいのですが、委付制度のもとで、沈船を除去する費用を何か負担しなくてもいいというか、制限してもらえるというようなことになっているのかどうか、その点いかがですか。
#21
○川島(一)政府委員 委付制度のもとでは、委付の対象となる債権には入っておりません。対象といいますか、委付される側の債権というものには、いまの沈船除去の費用というものは入っておりません。
#22
○青柳委員 それから、この問題が、たまたま条約を批准するに当たって非常に重要な関心を業界に呼んでいるようで、私どもも、これは留保すべきではない、要するに制限すべきであるという主張が非常に強硬であるように思うわけでありますが、谷川先生は、この点は留保しないというこの批准方針、これはどのように評価されますか。
#23
○谷川参考人 私は、この問題は、先ほど一般論として申し上げました被害者、加害者あるいは実質的負担をする一般消費者という問題と若干ずれている問題ではなかろうか。特にそこで問題になりますのは、国庫の支出に対する制限債権という問題が問題になりますので、したがってこれはもう一つ別な次元、すなわち国民の税金の使われ方、それに対して責任制限を認めることがいいのかどうかという国庫的な立場からの判断というものがもう一つ加わるのではないか。それが、その留保条項を条約会議のときにつけるという各政府の意見になったのではなかろうか。そして現実には、各国政府ともほとんど、批准に当たりましてこの点については留保をするという態度をとっておりまして、ただ現実にそれを国内法でどのように運営するかということについて確たる制度をまだ確立していないところもございますけれども、一応政府の立場としてはそういう考え方があり得るのではなかろうか。そしてそれはそれなりに合理的な根拠を持っているのではなかろうかというふうに考えるわけでございます。
#24
○青柳委員 PI関係について、沈船の除去などの費用を保険の対象にしているのかどうか。しているとすれば過去の実績はどのようなものですか。先ほどお話があったかもしれませんけれども、ちょっと私聞き漏らしているかもしれませんので……。
#25
○北原参考人 船骸撤去費用はてん補しております。ただ、これはそういう表現が妥当かどうかわかりませんが、勝手にどんどんやる、そうすると、だれの持ち物かわからないということになりますと、その保険契約者であるかどうかということが問題になりますので、契約者であることがはっきりしていることが一つ。それからさらに、これは政府の命令で撤去しろということのオーダーがあった場合にはいわゆる法律的な義務を負うということで見ております。
 過去の実例、先ほど申し上げました四十四年から四十八年度の五カ年間に十件ございまして、お支払いになる金額が二億九百万、一件当たり二千万という実績を見ております。
#26
○青柳委員 続いてもう少しお尋ねいたします。
 今度の条約批准に当たりまして、これを制限の中に入れないということになりますと当然船主の負担になりますが、それはその保険で引き続き賄っていくという制度が活用されることになろうかと思いますが、それにはPIA側としては別に支障は感じておられませんか。
#27
○北原参考人 お答えいたします。
 海洋汚染防止法がございまして、これで保安庁のオーダーにより撤去せよということがいままで何件かございましたし、今度の五七年条約と関係なしに、こういう事態が発生すればPIAとしてはてん補してまいりますし、むろん費用は先ほど申し上げましたとおりアンリミテッドまで、青天井までございますので、カバーしてまいります。
#28
○青柳委員 船主協会の方ではこの点についてはどのようにお考えになっておられますか。田中さんに……。
#29
○田中参考人 私どもといたしましてはこれを制限債権に入れていただきたいということを考えておりましたが、今回の法案によりましてこれが無限責任、無限絶対の責任ということになっておりますので、保険につきましては、この法案のお取り扱いが変わるまではやはりアンリミテッドの、無限の保険をつけざるを得ないと思うのです。
#30
○青柳委員 引き続きちょっとお尋ねいたします。
 そうなりますと、その保険の支払い、保険料の負担というものが業界に何かマイナスの作用を加えるということで、好ましくないというお考えはおありになるのですか。
#31
○田中参考人 現在これに関する保険はすでにつけておりますので、これ以上負担になるということはございません。
#32
○青柳委員 国際競争の上でアンバランスが出てきて、留保しているところとしないところと、競争上不利になるというようなことは余り心配しなくてもよろしいのでしょうか。
#33
○田中参考人 国際的な場では、たとえば私どもが外国におきまして事故を起こしました場合に、当該国の法律によって処理されますので、その国の船と同じ条件になると思いますので問題ないと思います。
#34
○青柳委員 別の問題をお尋ねいたしますが、今度の責任制限の対象の中に人に関する損害があります。これが現下の社会情勢において余りにも低い金額であるということは、もう余りくどくど申し上げませんでもわかると思います。前回の法務委員会で諫山委員からも質問が出ましたような設例の場合を考えてみましても、余りにも不合理な結果になるということが明瞭でございます。その後運輸省の海運局の方から資料として文書にしていただいたわけでございますけれども、たとえば関釜フェリーが他の船、これを一万条約トンとする、の一方的な過失によって衝突され乗客が死亡した場合の責任限度額の例ということで、船名はフェリー関釜、総トン数は三千八百七十五総トン、定員は四百六十五人、乗組員は二十二人、こういう設例でございますけれども、死亡者数が、定員満載で、つまり四百六十五人お客さんが亡くなってしまった、この場合、この条約による責任額は七億四千四百万円、一人当たりの責任限度額は百六十万円である。非常に少ないわけですね。全員死亡というようなことはめったにはないでしょうけれども、たったの百六十万円。けたが一つ違うのじゃないか。こういうような状況が出てくるわけでありますから、人的損害に関する規定の適用は国内法では別に決める、つまりこの条約、批准はするけれども適用しないということにしたらどうかというような意見もあったようでありますけれども、現実には適用されていない。先ほどPI保険の方では相当このことについても実績を持っていらっしゃるようでございますけれでも、今後この条約が批准され、国内法がこの原案のとおりに制定されるということになりますと、いま言った例ではPIの方では百六十万円払っておけばいいんだということになりかねないと思いますが、いかがでございましょうか。
#35
○北原参考人 いまおっしゃいました中で、数字でございますが、これは相手船の責任制限金額が、という意味でございますか。相手がありまして、関釜の方が悪いのじゃなくて相手が悪い。一万トンということで、それで七億四千四百万ということでございますか。
#36
○青柳委員 さようでございます。
#37
○北原参考人 これはそういう設例でございますので、衝突、一〇、ゼロはあり得ませんなんて私も先ほどは申し上げたのですが、PIAにおきましては、まず最初に、客船のお客のてん補はしておりませんのですが、いまの場合ですと、相手の賠償ということになりますと、お説のままでいけば、この条約のまま、そのまま解釈すればそのとおりでございます。しかし、先ほど申し上げましたように、それで通るかという問題になりますと、必ずしもそのままの運用があるかどうかということは、私、こういう公の席でそういうことを言ってよろしいのかどうかわかりませんけれども、責任制限ができる場合と、できない場合もございましょうし、それから制限しない場合もございましょうし、さらには相手側の関釜側におきましては旅客船に対しては当然それ相応の手当てをしていることは、行政指導もされているはずでございますし、そういう保険制度もございます。そういうようなことで、こういう特殊な例につきましては、確かに理論的にはあり得ると思いますが、現実的には何がしかの策がとられるんではないかな。回答としてははなはだまずい回答でございますが、そのようにしか言えないと思います。
 以上でございます。
#38
○青柳委員 いま私の手元に資料として船主協会の機関誌「内外情報」一九七三年の一月ごろのものでございましょうか、それによりますと、
  すなわち、現行の旅客運航事業者に対しては、海上運送法第十九条の二により規定されている一人当たりの保険額一千万円の保険契約締結命令を、五七年条約の人的損害については準用する。
  具体的な処理方針としては
  (1) 旅客の旅客運航事業者に対して有する債権は、非制限債権とする。
  (2) 運送約款に責任限度額を設けることを認める。
  (3) 保険制度は現行の責任保険制度とし、保険契約締結命令についても現行どおりとする。
  この考え方については、基本的には異議のないところであるが、国内法規と条約がどのような関連で適用されるのか、若干、問題点が考えられるもので、目下その意見調整を図っている段階にある。こういう趣旨のことがあるんでございますが、田中さんにおかれましては、このような問題について船主協会の方ではどういうふうに検討されておられますのでしょうか。
#39
○田中参考人 船主協会が昭和四十九年五月一日運輸省に提出いたしました「一九五七年「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約」の人的損害の債権に対する考え方について」、この中に
  この観点より人的損害に対する貴当局の基本処理方針につきましては
 @現行、海上運送法第十九条の二によって一九五七年条約を上廻る責任額が実質的に邦船社に適用されていること。
 A運送約款に責任限度額を設けることが認めら
  れること。
 B領海内・外で邦船貨物船が仮に旅客船と衝突した場合には、貸物船側は一九五七年条約の適用のもとに責任制限がうけられること。
 等より、一九五七年条約とは別途に人的損害についての国内立法を制定することに原則的に異論はありません。と申し上げております。
#40
○青柳委員 川島民事局長にお尋ねしますけれども、この問題については政府側ではどのような措置をとるように考えておられるのでしょうか。
#41
○犬井説明員 お答え申し上げます。
 先ほどからお話がございますように、この条約を採択して国内法化するに当たっては、国内の旅客船の旅客の死傷に基づく債権については制限できないということにしております。これは条約にないことでございますけれども、この関係は国内の船主と国内の旅客との関係でございますから、条約との関係で抵触することはないということで措置しているのでございまして、結局国内の旅客船の旅客の死傷による債権というのは無制限債権ということになるわけでございます。
 問題は、先ほどお話のございました関釜フェリーでございます。これは国内の旅客船ではございません。日本と韓国の間を往復している旅客船でございますので、これをも、その旅客の死傷事故に基づく債権まで責任制限の無制限債権にするわけには条約との関係でいかないわけでございます。何らかの手当が必要なわけでございますが、現在わが国と外国の間を結んでいる旅客定期航路というのは関釜フェリーだけでございます。そこで関釜フェリーに対しては、われわれとしては行政指導をいたしまして、運送約款に責任限度額を定めさせる。これは、われわれいま考えておりますのは、航空機の旅客の死傷についての責任限度額とか、あるいは昨年十一月にアテネで国際条約が一つ採択されまして、国際航海に従事する船舶の旅客とか手荷物についての責任制限制度を決めた条約でございますが、その中で旅客一人当たりの責任限度額は千七百万円にするということか決まっております。こういったほかの責任限度額をも参考にいたしまして関釜フェリーについての責任限度額を決める。そして、この運送約款は運輸省に対する届け出事項になっておりますので、その運送約款を定めさせて届け出させる。それで会社ではそれを前提にいたしまして保険を掛けるということでカバーすることにいたしたいと思います。このようにすれば、万一不幸にして関釜フェリーで事故が起きた場合でも、合理的な責任限度額までの補償は行われることになるわけでございます。
#42
○青柳委員 続いて、政府側のどなたになるか知りませんが、いまもお話がありましたように、それは内航船の場合には問題ない。それで外航船では関釜フェリーだけがいまあるからそれはいまのような措置があると言うのですが、一般論として問題点となるのは、先ほどの文書によると
  (1) 外船(含む外人)は、いかに扱われるのか。たとえば国内で外船が事故を起した場合、国内法規に則り、非制限債権としての適用が可能なのか、あるいは条約の適用範囲になるのか。
  (2) 貨物船が旅客船に衝突した場合、貨物船は五七年条約の責任制限の適用は受けられないのか。という点が出ているというのですね。この問題点はどういうふうに解決されるのでしょうか。
#43
○犬井説明員 お答えいたします。
 先生の第一問の「国内で外船が事故を起こした場合」というのは、外国の旅客船でございますか。
#44
○青柳委員 そうです。
#45
○犬井説明員 その場合には、この条約がそのまま適用されることになります。
 それから第二の、貨物船と旅客船が衝突した場合に、貨物船の方に過失があった、そして貨物船は責任制限ができるかどうかということですが、これは責任制限できます。しかし実際には、先ほど申し上げましたように旅客船の所有者が旅客に対して保険契約を結んでおりますから、まずそれに従って合理的な損害賠償が行われる。そういうことを行った上で船舶所有者が貨物船の船舶所有者なり責任者に対してその責任の追及をする、その場合に責任制限が行われるということでございまして、旅客との関係では特に問題が起きることはないのじゃないかと考えます。
#46
○青柳委員 船主協会からの意見が反映しているものだと思うのですが、経団連がこの条約の批准に当たっていろいろの見解を持っているようで、「経団連月報」の一九七二年の何月号かによりますと、金子佐一郎という方が「海商法改正問題について」ということで問題点を幾つか指摘しておられます。その第一番目には、船主に故意または過失があるときにはというのではちょっと広過ぎるので、重過失のときだけ無限責任にしてしまうというような配慮がされるべきではないか。二番目には、責任制限手続を申し立てることは、船主が乗組員等に故意または過失があることを自白したことになるのだけれども、この点はどうか。それから三番目には、三百トン未満の船についてトン数比例で計算できるように要望したということ。いろいろ言っておられますが、私が一番知りたいのは、重過失ということでしぼる、無限責任は軽過失ならば解除される、すなわち制限の中に入るという考え方。今度の改正案には不満だという意思があるわけですけれども、この点は船主協会ではどのようにお考えになっておられますか。
#47
○田中参考人 御質問の趣旨がもう一つはっきりわかりませんが……。
#48
○青柳委員 要するに、船主に故意または過失がある場合にはこの法律の適用はないわけでございますけれども、普通の過失ではなくて――普通の過失なら適用されることにして、重過失があった場合だけに除外される、つまりこの法律の適用がないというようにすべきではないかという見解が経団連あたりの意見のように発表されておりますので、船主協会としてはどのようにお考えでしょうかという質問です。
#49
○田中参考人 お答えしたします。
 御指摘のように、船主の責任を重過失の場合にのみ適用を受けられないということにすることについては、船主協会といたしましては異議ございません。
#50
○青柳委員 いや、質問は、この文書によりますと、法制審議会にそういう意見書を出したらしいですね。これは経団連の海商法改正小委員会というのがそういう意見を出したので、船主協会自体が出されたというふうには読めないのですけれども、船主協会の考えを反映しているのじゃないか。それでいまでも依然としてそういう考えを持っておられるのかどうか。これは経団連の方が来ておられるわけじゃありませんから何とも言えませんけれども、船主協会の方でどう考えておられるか、参考までにお尋ねするわけです。
#51
○田中参考人 本問題は経団連の問題でございまして、船主協会としては存じておりません。
#52
○青柳委員 結構です。
 あとはちょっと細かな問題、これも実は経団連の見解ですから、それがいいのか悪いのか知りませんけれども、手続の中で、費用の負担は申し立て人が負うということが今度の規定の手続になっておりますが、本来これは供託をした金額、要するに責任金額の中で賄うべきではないのかという意見があるのですけれども、この点、海商法の谷川先生にはどのようにお考えになっていらっしゃいますか。
#53
○谷川参考人 私は、責任制限制度自身が船主の利益のための制度でありますから、その制度を利用する者がそのための費用を支払うというのは当然のことであって、被害者の救済に充てらるべき部分の中からその費用を賄うべきではないと考えるものでございます。
#54
○青柳委員 それからもう一つは、供託にかえて供託委託契約というのですか、それを結ぶことができることになっているけれども、その契約の相手方の中にPIのようなものも含ますべきではないかというような見解もあるようですが、この点はPI関係の方てはどうお考えになっていらっしゃいますか。
#55
○北原参考人 本件に関しましてはまだ深く討議しておりませんが、相手方に、関係者にPIを含まし得るということになればそれも賛成でございますし、外すというのであればまたそれもある。別に特に本件に関してPIとしてのあれはございません。いずれにしましても、どちらのサイドに立ちましても特に影響はないと判断しております。
#56
○青柳委員 私の質問を終わります。
#57
○田中(覚)委員長代理 沖本泰幸君。
#58
○沖本委員 先ほど各参考人からお述べになったことで若干の御質問をしたいと思います。
 北原参考人にお伺いいたしますが、先ほどのお話の中で、油濁の清掃に関して平均が八十万円くらいだということをおっしゃっておられましたけれども、主としてどういう内容のものになるわけでしょうか。
#59
○北原参考人 お答えいたします。
 先ほどの数字は正直申し上げまして四十八年までの数字でございまして、油濁関係について非常に被害が出てきたのは四十九年からことしにかけてでございます。現在では確かに先ほどの金額よりかなり上回ったものは新聞紙上でも御存じだと思います。どういう費用がございますかと申し上げますと、まず清掃費用、それから漁索あるいは漁網関係で、魚がとれなかったことに対する賠償というようなものが大半でございます。
#60
○沖本委員 それから、事件処理に当たりまして海事審判との関係はどういう関係になりますか。
#61
○北原参考人 海事審判につきましては、これは
 いわゆる原因の探求にございますので、これをしんしゃくさせていただいて、船主さんと、あるいは被害者と加害者がそこで一つの材料として判断して解決するわけでございますが、特に海難審判で決まった割合によってどうこうするという決定的なものではございません。海難審判はあくまでも原因の探求でございますので、それをしんしゃくするという程度で船舶保険のクレームなりPIのクレームは従来解決されております。以上でございます。
#62
○沖本委員 もう一つ、北原さんは、漁船をひっくり返した場合に人的の損害が出てきたというものに対する御意見を述べておられましたけれども、先ほど青柳先生の御質問もいろいろありたわけですが、たとえばきょう関西汽船が瀬戸内海で漁船に当てて、約五人の死傷者が出たというのがございます。これは結果を見なければわからないわけですけれども、こういう例はどういう考え方でこれを見たらいいのでしょうか。
#63
○北原参考人 現実に関汽の船との責任関係その他はわかりませんが、従来のこういうようなケースに対しましては、まず被害者の漁船――仮に漁船といたしますと、漁船の方の賠償をとりあえず船主がなさる、あるいは船主に資金的なお手当てがなければ私どもが仮払いをする、その最後におきまして、責任割合が決まったときにそれで精算するというのが従来でございます。金額につきましては、おのおの働いていた方の年齢なり遺族なりという形で、いままでのケースではケース・バイ・ケース、一人幾らというそういう評価というものがございませんし、それぞれ違っております。しかしながら従来の感覚からいきますと、最近におきましてはかなり上がってきたということだけは申し上げられると思います。
#64
○沖本委員 それから、沈船処理の問題に関しまして、海洋法なり、海上交通安全法なりという法律ができて、あるわけですけれども、その問題が、狭水道の中のいろいろな事故問題で最近ふえてきておるわけです。そこで航行制限であるとか水路の問題であるとかいう問題が出てきます。たとえば東京湾の中ノ瀬水道で三隻、船が沈んでおる、これを航路の中から外さないと航行の安全は図れないという問題があるわけですけれども、こういうのは長年放置されておるということになって、先ほど北原さんのお話で、政府からそういう命令があればというようなことですが、政府の方としても早くのけなければならない、こういう議論かあったわけです。結局、そういう水路にあるものに対して、船主がわかっておるはずなんですが、それの撤去命令を出すということになって、そういった費用の扱いというものはどういうふうに考えたらいいのでしょう。
#65
○北原参考人 撤去費用はPIで見ておりますが、現在残っております三杯の船がどの船主に属しておって、いつの時点なのか、私どもよく知らないわけですが、無論はっきりしておりまして政府のオーダーがあって撤去するとなれば、これは保険契約はその年度の契約でございますので、その時点における保険金額を限度としてPIはカバーするという立場でございます。しかしながら現実はかなり古いので、保険金額面ではかなり低かったのではないかなという気がしております。船主さんが果たしてメンバーであったかどうか、この辺は確認しておりません。
#66
○沖本委員 船主協会さんの方も沈船の処理問題に対して大分御意見を述べられたわけですけれども、大型船が深海で沈んだということは、これは別問題ですけれども、小型の船舶がいろいろと不用になって、沈められていく、船主が放置するような問題があるわけですね。こういう問題に対しての御意見はどうなんですか。つけ足しますと、そのために非常に処理費用が地方自治体の負担を呼んでおりますし、地方自治体がみずからそういうものをやらなければならないという問題がいろいろあるわけです。そういう点についての御意見を伺いたいと思います。
#67
○田中参考人 お答えいたします。
 船主協会のメンバーは、そういう古船を航路筋に放置するということはまず考えられないことと思っております。
#68
○沖本委員 小型の木造船ということで、船主協会の方としてはそれ以上のところに焦点があり、またメンバーの人たちも大きいところの方だと思うのですけれども、船主の立場として、いまそういうことが航路の安全に非常な支障を起こしていることは事実であって、そういう水域を持つ地方自治体がその処理にいろいろと苦慮しているわけです。そういう点で御意見を伺ったわけなんです。
#69
○田中参考人 まことにおっしゃるとおりでございまして、海上安全上、そういう古い船が沈没したままで航路筋に放置されておるということは、船主協会のメンバーといたしましてはなはだ迷惑なことでございます。これに関しまして、先ほど北原参考人が御発言がありましたが、そういう放置した船主が見つからない、あるいは費用の負担ができないという場合には、これは国家の費用で御処理いただきたいと思います。その意味で私どもも、アメリカがすでに設けておりますような回転基金、アメリカは三千五百万ドルまでの回転基金を設けて処理をしておりますが、そういうものを国家で設けていただきたいと思います。
#70
○沖本委員 ただいまの御意見について海運局の方ではどういうお考えですか。
#71
○犬井説明員 御質問の件はむしろ海上保安庁の問題ですので直接タッチしておりませんので、正確にお答えできるかどうかわかりませんが、こういうふうに考えます。
 沈船除去の除去義務を制限債権にするかどうかという点については、実際船主協会から再々陳情を受けまして、制限債権にしてくださいということでございました。しかし、先ほど来お話がございますように、港則法、それから海上交通安全法、そういう法律の中には、船主に対してそういう船骸の撤去義務を課しておりまして、船主がこれを履行しない場合には国が代執行できるというたてまえになっているわけです。したがいまして、国が代執行した場合に、その債権が制限債権に入っているというのでは国として非常に困るということがございます。したがいまして制限債権とはしないということで、船主協会の方に対しても御不満ながら納得いただいたわけでございます。
 いまお話のありました中ノ瀬航路の件につきましては、実はあそこに沈んでおります船というのは海上交通安全法施行以前に沈んだ船でございまして、国で撤去命令を出せないという事情がございます。しかし、交通の安全上非常に問題があるということがございますので、何らかの方法で撤去する。港湾管理者の管理業務の一つということになるのではないかというような考え方もございますが、いずれにしても何らかの方法で撤去を促進するということで、目下省内で検討中であるというように聞いております。
#72
○沖本委員 以上で終わります。
#73
○田中(覚)委員長代理 諫山博君。
#74
○諫山委員 田中参考人に質問します。
 新しい法案の第九条以下に「責任制限手続」が規定されています。この法案が成立するとして、海難事故を起こした船舶所有者あるいは船長等は、原則として第九条以下の責任制限手続をとることになるだろうと思います。第十七条に「手続開始の申立て」ということも規定されているわけです。その点、いかがでしょうか。
#75
○田中参考人 法律ができました以上、法律に従いまして責任制限手続をとることになると思います。
#76
○諫山委員 この規定というのは、申し立て手続をとらなければならないというのではなくて、とることができるという趣旨だろうと思いますが、この点、谷川参考人いかがでしょう。
#77
○谷川参考人 お答えいたします。
 私の見解では、全くそのとおりで、法律上当然の責任制限を定めたものではないと理解しております。
#78
○諫山委員 そこで田中参考人にもう一度お聞きします。
 責任制限手続をとるかとらないかというのは加害者の選択に任されている。しかし、法律ができた以上、加害者、言葉をかえますと船舶所有者等あるいは船長等は、恐らく原則としてこの手続をとっていくだろうということになりますか。
#79
○田中参考人 法律ができましても、加害者は必ずしも責任制限手続をとるとは限りません。ただ、法律があります以上、全部の者が責任制限手続をとらないということは考えられる、一部の人は責任制限手続をとるということもあってもやむを得ないと存じます。
#80
○諫山委員 この法律を実際に運用していって被害者の保護がどうなるかというのは、いまの御説明が決定的に重要だと私は思うのです。さっきの答弁では、一部の者は責任制限手続をとるのではないかと言われたのですが、だとすれば、この法律が成立しても大部分の加害者はこの手続をとらないだろうという見通しでしょうか。
#81
○田中参考人 いまの段階では何とも申し上げかねると思います。
#82
○諫山委員 この点がはっきりしなければ、この法案が船舶所有者にとって有利に作用するのか不利に作用するのかという結論は出ないと思います。
 そこで、学者である谷川参考人はこの法案が成立した後の見通しをどのように持っておられるのか、お聞きしたいと思います。責任制限手続が原則としてとられるだろうという見通しなのか、恐らくそういうことは実際はされないだろうという見通しなのか。いかがでしょう。
#83
○谷川参考人 お答えいたします。
 場合を分けて考えなければいけないのではないか。物についての責任の場合には、恐らく、責任限度を超えることになれば責任制限制度の活用を当然に考えるのが船主ではなかろうか。ただ、人の損害に関しましては、通常の場合、特に全体として若干の責任限度額を超えるというような場合でありますとあるいはその活用を考慮することになるかもしれませんが、実際の場合に、その適用した結果が余りにも不合理であるという結果が出てくる場合には、船主が現実にはこれを使えないということになるのではなかろうか。私の見通しとしてはそのように考えております。
#84
○諫山委員 物損の場合には恐らくこの手続が活用されるだろう、人の生命に関するような場合には世論の関係もあるからなかなかそうもいかないだろう、こういう見通しですか。
#85
○谷川参考人 はい。
#86
○諫山委員 そこで谷川参考人にもう一度お聞きします。
 その場合、人の生命にかかわるような場合、加害者はもともと制限手続の申し立てをしないだろうか、それとも、申し立てばして一応責任制限額は確定してもらうけれども、実際の処理は、その制限額に余り拘束されずに示談で交渉することになるのか。どういう見通しを持っておられますか。
#87
○谷川参考人 お答えいたします。
 これも非常に微妙な場合があると思いますので一概には言えませんが、どう勘定してもとても制限額では足りないという場合ですと、全く最初から責任制限手続に入るということを考えないのではなかろうか。ただ、実際に人の死傷損害、これは物の場合でも同じでありますけれども、請求額の問題と現実の損害額として認定されるべき額の問題というのは常にギャップがあるものでありますから、責任制限額を超える請求というものが出てまいりました場合に、その額がそれほど著しくオーバーしているというのでなければ責任制限手続の中で具体的なセトルを図る。実際には、責任制限額まるまるでおさまるのか、あるいは責任制限額に余りが出る場合も場合によればあるのではないか。そういう場合には責任制限を使うということも考えられるし、また、損害額、合算いたしまして責任限度額に至らないということでありますと、そもそも責任制限制度は使えないということになるのではなかろうかという気がいたします。
#88
○諫山委員 今度は同じような問題を北原参考人にお聞きしたいのですが、私たち、被害者の救済という観点からこの法案を見ているのです。その場合に、責任制限手続の開始申し立てがどのくらいされるのかということに非常に関心を持つわけです。谷川参考人から学者としての見通しが述べられましたが、北原参考人としてはその点の見通しはいかがですか。
#89
○北原参考人 お答えいたします。
 谷川先生のおっしゃったとおり非常にむずかしい問題とおもいますが、制限がされない場合が無論あると思いますし、PIはその場合は加害者に対する船主の支払いは全額お支払いいたします。制限がされる場合で、問題がなければその額までしかお支払いはいたしません。したがいまして、私の最初の申し上げた中で、いろいろな問題があるであろう、場合によっては責任制限されない場合があるであろうということは、その辺の含みをもって申し上げたつもりでございます。繰り返して申し上げますと、制限されなければ、それが通常社会秩序から考えまして当然であるならば、PIは船主さんの支払ったものを全額お支払いして加害者に賠償するつもりでございます。
#90
○諫山委員 北原参考人にもう一度。
 谷川参考人の見通しでは、物質的な損害の場合には恐らく船舶所有者や船長は責任制限手続をとるだろう。そうすると、この法律の手続に従って責任制限額というのが決まる。その場合に、物質の場合にはその責任制限額以上の保険金を保険会社が払うということが予想されましょうか。
#91
○北原参考人 お答えいたします。
 保険金額が仮に責任制限額を超えてつけておりましても、責任制限制度が活用されればそこまでしか組合員としては責任を負わないということになりますので、PIのカバーは組合員が責任を負った段階までのお支払いということでございます。したがいまして、保険金額が上回っておりましても船主さんが賠償した金額でとめることになります。
#92
○諫山委員 簡単な実例でもう一遍北原参考人にお聞きします。
 物損が現実に一千万円だったとします。一千万円の被害が生じた。ところがこの法律に従って責任制限手続の申し立てをしてみると、この責任限度額というのは五百万円にとどまった。この場合に保険会社は幾ら払いますか。
#93
○北原参考人 船主さんが、いわゆる私どものメンバーが責任を負ってお支払いしたのが五百万円であれば私どもも五百万円。制限をなさらずに――この事情はいろいろございましょう。もし仮に責任制限制度を活用しなくて一千万円お支払いになれば、保険金額が一千万円をオーバーしていれば一千万円お支払いいたします。
#94
○諫山委員 その場合に保険会社としては、責任限度額を超えた支払いが保険会社として容認できるものかどうかの査定をしますか。
#95
○北原参考人 もう一度伺いますが、その一千万円のものが妥当かどうかということでございますか。
#96
○諫山委員 もっと具体的に説明しますと、責任制限額が五百万円だ、つまり法律的に義務づけられている支払いは五百万円。ところが船舶所有者が実際は一千万円払ったこういう場合に、保険会社は無条件に一千万円のてん補をするのか。それとも法律で義務づけられている五百万円しかてん補をしないのか。さらに、五百万円を超しているけれども、保険会社がこれなら認めてもよろしいという査定した額なら保険会社が払うのか。どの道を選ぶのかということです。
#97
○北原参考人 お答えいたします。
 制限制度で五百万円であれば、定款上からは五百万円しかお支払いいたしません。しかしながら、いま御質問がございましたように、一千万円が妥当であるということで、船主さんが加害者で、船主さんがお支払いになった場合には、私どものPIは――これは海上保険会社は違います。私どもは営利事業でございませんし、皆さん組合員それぞれが保険契約者、保険者であります。したがいまして、五百万円で制限できるけれども、現実には一千万円払わざるを得なかった、払うのが妥当であったという判断に立った場合には、組合員の中で理事会とかいろいろなスキームがございますが、そこで判断して、これは運航上やむを得ないということになればPIはお支払いいたします。
#98
○諫山委員 そうすると、結局、妥当な支払いであったかどうかは組合が判断する。PIとしては組合の判断を尊重し、それに従うという趣旨ですか。
#99
○北原参考人 組合というのは、いわゆる私どもでございますか。それとも組合員全部を含めての組合であるというたてまえでございますか。
#100
○諫山委員 全部でございます。
#101
○北原参考人 はい、そういうことでございます。組合が、いわゆる組合員が判断してこれが妥当であるということになればお支払いせざるを得ないと思います。
#102
○諫山委員 現行法のもとでそういう支払いがされているようですが、これは保険給付の何%ぐらいを占めているのでしょうか。たとえば委付ということで一応限度額が決まっていますね。しかし、それにかかわらず実際に船舶所有者がもっと大きな賠償しているようです。その場合は原則としていまの説明されたような処理がされているのですか。
#103
○北原参考人 お答えいたします。
 現在の委付に関しまして、これを換算してパーセンテージでどうであるかということを、正直申し上げてやっておりません。といいますのは、海産委付制度そのものが実用になっていないという点が一つと、それからもう一つは、委付するには、委付する財産の方がかなりなバリューを持っていたという例の方が多いのではないかと私は経験から思います。沈んだ場合はまた別でございますが。そのような観点からいきまして、委付するときの船の価値、それと現実に賠償した金額がどうであるかということに関しましては、先ほど申し上げましたようにパーセンテージをとっておりませんし、確かに高額なものが場合によっては支払われております。事実でございます。
#104
○諫山委員 法務省に質問します。
 この法律で責任制限手続が規定され、最終的に責任制限額が裁判所の責任によって決定されますね。陸上の自動車交通で損害賠償を請求する、そして裁判所が五百万円払えと判決するのと、この新しい法案の責任制限手続で責任制限額は五百万円だというふうに裁判所が決めるのと、これは法律的な効果は同じでしょうか。
#105
○川島(一)政府委員 御質問の趣旨がちょっと理解しかねる面がございますが、自動車の場合のたとえば五百万円の損害というのは、これは実際の損害額がそれだけある、したがってそれを支払え、こういうことになるわけです。ところが責任制限というのは、これは実際の損害が幾らあるということを認定したものではないわけですね。ただそこまでに責任を制限することができるのだという金額を裁判所が認定したというものでございますから、性質が何か全然違うように思いますが……。
#106
○諫山委員 もう一遍同じ点を質問します。
 五百万円しか払わなくていいのだ、法律上義務づけられる賠償金額は五百万円までだという点は両方とも共通ですか。
#107
○川島(一)政府委員 その意味では同じでございます。ただし、責任制限の限度額が決まりましても、しからばどれだけの債権がそこに含まれるのかということはまた別途の手続で確定することになるわけです。具体的にA、B、C、Dといういろいろな債権がございます。その債権がいわゆる制限債権の枠の中に入るのか、あるいはその枠以外で支払わなければならないのかということは、これは別途にその債権についての確定手続というものが行われるわけでございます。
#108
○諫山委員 北原参考人にもう一遍質問します、
 私、弁護士として、交通事故の被害者の立場で加害者と交渉することがしばしばあります。その場合に、裁判所が五百万円しか損害賠償しなくてもいいのだという判決をすれば、自賠責とかいろいろ任意保険もあるわけですが、裁判所が払えという金額以上の金をまず保険会社は払いません。この場合も、責任限度額というのが裁判所の手続によって決まる。たとえば五百万が責任限度額だということを裁判所が確定する。それ以上の金を保険会社に払わせるということは事実上困難ではなかろうかと思うのですが、いかがでしょうか。
#109
○北原参考人 お答えいたします。
 PIといたしましてもお支払いできません。一応五百万が妥当である、制限であるということで賠償額が決まったならば、船主さんが五百万円お支払いになればそこが限度で、PIは五百万円お支払いする。もし何がしかの形で積んで出すことがあったとしましたならば、それは船主さんの問題でございまして、一応本件とは離れて考えたいと思います。ということは、支払い額は五百万円ということでございます。
#110
○諫山委員 裁判所が責任限度額は五百万円だと決めても、船主は、それじゃちょっと気の毒だからと言うて八百万円払うことは現実に起こると思うのです。その場合に、責任限度額を超えた分については保険会社は知らない、それは船主の負担だ、こうなりますか。
#111
○北原参考人 お答えします。
 一応法的機関で五百万円支払うべしということになりましたならば、それを超えましたものは船主さんの勘定ということに相なります。
#112
○諫山委員 そこで最初に戻って田中参考人にお聞きします。
 人損の場合には世論の関係もあるし、ヒューマニズムという観点から言っても、責任限度額だけで処理することにいろいろ問題が起こり得る。しかし物質的な損害については大体この新しい法案で、責任制限の申し立てを船舶所有者はしていくだろうと思うのです。谷川参考人もそういう見通しを述べられているのですが、船舶所有者としていかがでしょう。
#113
○田中参考人 ちょっといまの段階で、私、どういう事態が起こるか想像いたしかねます。
#114
○諫山委員 現在の商法上の委付制度というのは、形は加害者の責任を制限する条文だけれども実際はほとんど運用されていない。空文化されている。しかし、この法律ができ上がって、責任限度額というのを金額で特定する、こうなりますと、保険会社も裁判所が認定した金額以上は責任を持たないということのようだし、恐らく船舶所有者はこの法律を一〇〇%運用していく、私はこういうことになるだろうと思うのです。その見通しはいかがですか。
#115
○田中参考人 船主が何%生かすということにつきましては、私、お答えいたしかねますが、ただ、仮に何人かの人が責任制限を主張いたしましても、そして責任制限ということを行使いたしましても、その責任制限の範囲で被害者が相応の補償を受けられるという制度が一番理想的であると思います。その点におきまして、現在IMCO等で行われております五七年条約の再検討、そういったものに対して私たちはこれに期待し、積極的な姿勢で臨みたいと思います。
#116
○諫山委員 船舶所有者がこの法律をどのくらい運用し活用するつもりであるのか、船舶所有者としての発言が聞けないのですが、同じ観点を谷川参考人にお聞きします。
 現在の委付制度というのは、条文としては船舶所有者等の責任を制限する条文になっているけれども、実際はそういう作用をほとんどしていない。委付というのが年間に一件二件、場合によったらゼロという件数ですね。ところが、この法律によりますと、船舶所有者の責任が裁判所の認定によって金銭的に特定される。この金額だけ払えばそれ以上の金額については払う必要がありませんということを裁判所が決めるわけです。そして谷川参考人の見通しでは、人命にかかわる場合にはこのとおりはいかないかもしれないけれども、物質的な損害の場合には恐らくこの手続がとられていくだろうという見通しのようです。そうすると加害者としては、現在の商法のもとではほとんど責任制限されていないけれども、この法律が運用されるようになると、少なくとも物質的な損害については大きく責任が制限される。観点を変えますと、被害者の損害賠償請求権が大きく減縮される、こういう運用になることが避けられないように思うのですが、どういう見通しですか。
#117
○谷川参考人 お答え申します。
 最初にお断り申し上げておきますけれども、最初に私が述べました意見で物の損害についてはこの制度が活用されるであろうということは申し上げたのですが、この制度が活用されるというのは、必ずしもこの制度による責任制限申し立て手続という手続に常に乗るということのみを意味するわけではないわけでありまして、現に委付制度のもとにおきまして、先ほどの私の意見開陳でも申し上げたわけでございますけれども、幾つかの例におきましては、場合によったら委付するぞということを背景にしながら損害のセトルはネゴでやるということを、それでその場合に何らかの影響を与えているというケースがないわけではないわけであります。現実にこの制度ができ上がってまいりますと、実際には、責任制限手続に入って、責任制限基金を形成してという手続に入るものがそれほど多いかどうかという点についての見通しは必ずしもはっきりいたしませんが、しかしそれを、この責任制限制度を活用すれば制限額が幾らになるということはトン数がわかりますとはっきりいたしますので、そこでそれを前提にしてネゴシエーションによって問題をセトルし、損害賠償額を決めていくということが現実に行われてくるのであろうという気がいたします。その意味では現在におきましても、必ずしも委付制度を使っているとは申しませんけれども、片っ方で諸外国が五七年条約というものを背景にして損害賠償額をセトルするということが行われておりますことをにらみながら、現実にそれがその場合に適用可能であるということではございませんけれども、一応の保険のたてまえその他をにらんで、委付制度を使わないから全額が損害賠償されているということには結果はなっていないのではないか。その意味では、これが使われることによってある程度損害賠償額が減縮する面が出てまいるかもしれませんけれども、それは実は貨物の保険の方との関係もございまして、実際には、貨物の保険会社との関係の損害賠償の問題、あるいは相手船の船舶保険者とのネゴシエーションの問題ということに現象面はあらわれてくるのではなかろうかという気がいたします。
#118
○諫山委員 現在の委付制度は、委付という形では余り活用されていないけれども、示談交渉の場合に作用している場合もある。そうすると、新しい法案の責任限度額というのは、この法律の手続に乗って限度額を決めるのか、あるいは自分で計算して限度額を決めるのか、これはいろいろあり得るけれども、その責任限度額というのが示談交渉では加害者に有利に作用してくるだろうという見通しですか。
#119
○谷川参考人 それが現在よりも有利に作用するのか不利に作用するのかはわかりませんが、現実にそれが影響してくるということだと思います。
#120
○諫山委員 谷川参考人にもう一点。
 この条約に船舶所有者が賛成するのか賛成しないのかということが、条約締結当時から論議されているようです。その場合の観点というのは、この条約が現在の法律よりか船舶所有者にとって有利になるか不利になるのか、この観点が論議の中心だったように思うのです。たとえば、ある法務省の人が書いているのには、現在の船舶所有者は委付主義の上に惰眠をむさぼっている、だからこれを改めようとしないんだというような評価もしているようです。国際的な水準という問題もあるでしょうが、やはり中心になっているのは、船舶所有者にとって有利なのか不利なのか。そして条約締結当時は、この条約は船舶所有者にとって不利だという判断があったけれども、現在では判断が変わって、この条約の方が船舶所有者にとって現行法よりか有利だ、こういうふうにそろばん勘定が変わってきたというのが、船舶所有者の態度が変わった中心ではないでしょうか。
#121
○谷川参考人 お答えいたします。
 私、必ずしもそうは考えないのでありまして、そうは考えないというのは、金額面で申し上げればそうは考えないわけでございます。確かに、五七年条約の成立当時におきましては、明らかに委付制度よりも不利になる制度であるということで船主は非常に強い反対をしておったわけでございますが、その後、時間の経過とともに、船舶所有者も五七年条約に基づく責任を負担できないわけではないという判断が一つ加わったのと、もはや委付制度を正面から振りかざして自己の権益を主張することはとうていかなわないという判断があったのではないかと私は考えております。その意味では、そういう価値評価も含めて、五七年条約に乗った方が有利であるという判断をしたということであれば、確かに不利、有利の判断が変わったと言えるかもしれませんけれども、その損害賠償額の支払いの面で、こちらの方が有利になったという意味で変わったということではないと私は了解いたしております。
#122
○諫山委員 終わります。
#123
○田中(覚)委員長代理 これにて参考人に対する質疑は終わりました。
 参考人各位には、長時間にわたり御出席をいただき、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)
 次回は、来る十三日金曜日、午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後零時三十五分散会
ソース: 国立国会図書館
【PR】姉妹サイト