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1972/09/10 第71回国会 参議院 参議院会議録情報 第071回国会 本会議 第32号
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1972/09/10 第71回国会 参議院

参議院会議録情報 第071回国会 本会議 第32号

#1
第071回国会 本会議 第32号
昭和四十八年九月十日(月曜日)
   午前十時三分開議
    ―――――――――――――
#2
○議事日程 第三十五号
  昭和四十八年九月十日
   午前十時開議
 第一 緊急質問の件
 第二 屋外広告物法の一部を改正する法律案(
    内閣提出、衆議院回付)
 第三 船舶安全法の一部を改正する法律案(内
    閣提出、衆議院送付)
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 議事日程のとおり
     ―――――・―――――
#3
○議長(河野謙三君) これより会議を開きます。
 日程第一 緊急質問の件
 山崎竜男君、田英夫君、白木義一郎君、木島則夫君、渡辺武君から、それぞれ金大中氏事件に関する緊急質問が提出されております。
 これらの緊急質問を行なうことに御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#4
○議長(河野謙三君) 御異議ないと認めます。順次発言を許します。山崎竜男君。
  〔山崎竜男君登壇、拍手〕
#5
○山崎竜男君 私は、自由民主党を代表して、現在大きな外交、政治問題になっております金大中氏拉致事件について、総理並びに関係大臣に若干の質問を行なうものであります。
 申すまでもなく、法治国としてわが国ほど個人の尊厳と自由が守られている国はありません。かかるわが国において、去る八月八日、前韓国大統領候補金大中氏が、白昼堂々と国外に連れ去られた、さらに、これが公権力による侵犯のおそれを生ずる論議にまで発展したことは、日韓両国にとっても、また国際的にも不幸な事件であり、まことに遺憾に思うものであります。
 今日この事件をめぐり、野党その他において、いたずらに感情に走ったと思われるような過熱した論議がなされ、また、金氏救出の大義名分を掲げ、事件をイデオロギー的に利用して、政府の対韓政策の転換を迫ろうとするがごとき動きは、韓国を硬化させるばかりでなく、わが国民に対してもいたずらに不安と動揺を与えていることは、この重大な国際問題の処理に冷静さを忘れた軽率な言動と言わなければなりません。特に韓国とわが国は一衣帯水の友好国であり、いやしくも感情的に軽々しく取り扱うべきではないと考えます。
 そこで第一に、わが国における出入国に関しての治安、管理取り締まり体制について法務大臣にお尋ねをいたします。
 金大中氏の拉致、国外移送は、それがたまたま韓国の有力者であったがゆえに発覚し、国際問題にまで発展したものではないかと考えます。言いかえれば、密出入国について、金大中事件は氷山の一角ではないかという疑問を持つものであります。事実、私は昨年国外に旅行した際、旅先でスパイとして密入国し破壊活動中警察に逮捕されたというその本人と対話する機会を得たのでありますが、その話題の中で、彼は、かつて日本にも夜陰に乗じてゴムボートで日本海海岸に上陸し、数カ月間日本国内に滞在して特訓を受けてから出国したということであります。法治国家として、出入国についてかかることがまかり通っておるとすれば、まことに信じがたいことであります。治安及び出入国管理取り締まり体制はどのようになっていますか。今回の不幸な金大中氏拉致事件に類する事件を、今後再発させないためにも、また国民の不安を一掃するためにも、治安当局に厳重な取り締まりを要望いたします。
 第二に、金大中氏の再来日と、金東雲書記官の出頭要請について外務大臣にお伺いいたします。
 この事件の解決をはかるには、何よりもまず真相を究明することにあります。事実究明の第一歩は、事実関係のかぎを握っている金大中氏が無条件で再来日し、事件の原状を回復させることであります。すなわち八月八日の事件発生の直前の状態に復帰させなければなりません。韓国との交渉の経過並びに再来日のめどはどうでありましょうか。
 また、わがほうの独自の捜査によって、金書記官がこの事件に介入していた疑いが持たれ、新たな段階を迎えたのであります。犯行の容疑者の一人と目され、また韓国政府機関の関係者として、韓国と公権力の関係が論議を呼んでいるのでありますが、事件の解決のポイントは、何よりもまず容疑者や被害者を来日させることであります。ところが、韓国政府は、後宮大使との会談を通じ、これに強い難色を示しているといわれますが、外務大臣は、わが国捜査当局の要請にこたえるため、この困難な局面をどのように打開するおつもりかについてお尋ねし、あわせてしんぼう強い外交努力を期待するものであります。
 第三に、今回の事件が国の主権侵害ではないかという論議についてお伺いいたします。
 申すまでもなく、主権の侵害とは、一国の領域内で他国の公権力が承諾もなく行使されることと理解しております。今回の事件で、韓国の公権力によって日本の主権が侵されたと断定する論議が野党その他において主張されております。私は、事件の全貌が判明していない今日の段階で、あたかも主権侵害があることを前提とした論議にはくみし得ないのであります。大使館員である金書記官の犯行と韓国政府の責任問題、さらには主権侵犯との関連については、目下捜査が進行中であり、金書記官が韓国政府の指示に基づいて権力を行使したものであるかどうかの関係の解明は全くなされていないのであります。国家主権の侵害かいなかは、この事実関係が明らかになってから判断すべきであると思うのでありますが、総理の御所見を承りたいと思います。
 次に、日韓閣僚会議及び経済援助についてであります。
 これまでわが国は、日韓国交正常化以来、韓国の民生安定と経済発展に協力してきたのでありますが、不幸にして今日の事件が発生し、予定されていた日韓定期閣僚会議は延期のやむなきに至りました。政府は、この開催時期についてどのような見通しを持っておられるか、また、今後の経済援助をどのように考えておられるか、外務大臣にお尋ねをいたします。
 さて、今度の事件に対する政府の基本姿勢についてであります。
 それは、言うまでもなく、この事件によって、わが国と大韓民国との友好関係がそこなわれることのないよう外交努力を重ねることであり、両国国民の理解のもとに、不幸な事件を克服することにあると考えます。日韓両国は、長い歴史のきずなで結ばれた最も近い隣国同士であり、わが国の経済、外交、国防の上からも密接不可分の間柄にあります。しかもその歴史にはぬぐいがたい暗い足跡を宿しており、李承晩政権の時代にもきびしい関係が続きましたが、諸先輩の御努力が日韓条約の締結として実を結び、今日の日韓関係は、さまざまな苦難を乗り越えて築かれた貴重な友好、善隣関係であります。こうした歴史の経過、現実の姿に思いをいたすとき、私は、日韓関係がこの事件によって砂上の楼閣のごとき危殆に瀕していることを深く憂えるものであります。念のため申しておきますが、私は、政府に対し、今回の事件に限りこれを特別扱いにして、わが国の主権をないがしろにしろと主張しているものではありません。ただすべきは堂々とただすのがわが国政府のあるべき姿であります。しかし、そのただすべき努力は、今回の不幸な事件を転じて福となすべき努力として日韓両国がお互いにすべきものであり、かつての李承晩ラインに象徴されるがごとき、冷たい関係に韓国を追い込むことであってはならないということであります。あらためて政府の見解をお伺いしておきます。
 ソウルからの報道によりますと、韓国の代表的な新聞「朝鮮日報」は、金大中事件について、国民は当局に対し、事件の迅速で正しい解決を促す義務があると訴えています。韓国国民が対等な人格として日本人に対したならば、いまは、日本の植民地統治三十六年を振り返って、さか恨みをしているときではないし、協調的で慎重な日本政府を追い込むということも正しいことではない。事件を徹底的に洗い出すべきだというのは、友邦アメリカや日本の対韓感情とか対韓措置という配慮よりは、わが韓国国民自身の人間的権威の回復と、道徳的矜持の高揚のために貴重な作業であり、法に従い、条理をもって厳正に処理すれば、その社会は内外の信頼を得るようになると指摘しております。私は、韓国国民のこの指摘をとうといものと評価し、大切にしたいと存じます。同時に、わが国政府が一貫して貫いてきた事実に基づいた内外の納得する事件の解決こそ、日韓両国の今後の長期にわたる友好関係の基礎をなすものとする基本方針を心から支持するものであります。
 こうした観点から、私は、一日も早い事件の解決を願って、具体的な二つの提案をして質問を終わりたいと思います。
 その一つは、事実の究明をすみやかにするために、日韓双方の捜査当局の合同会議を早急に開催することであります。いま一つは、朴大統領とひざを合わせて事態の収拾を話し合うことができ、しかも、日韓関係だけでなく、広く世界情報を踏まえ、韓国政府首脳の心をとらえることのできる政治家を政府の特使として派遣することであります。特に金大中氏事件が、いつまでも日韓関係に暗い影を落としていないよう、その後遺症を取り除くためにぜひ必要な措置と存じます。今回の事件を特殊な政治的な意図に基づいて扱い、極東における不安定な要素を生み出し、新たな緊張を生ぜしめようとする勢力の言動は、アジアの平和と安定に反するものと言わなければなりません。雨降って地固まるというたとえがあります。私は、日韓双方が今回の事件をこのたとえどおりの教訓として生かし、日韓関係がガラス張りの中でより強い友情のきずなで結ばれることを念じ、最後に、この提案に対する総理並びに関係大臣の御所見をお伺いして、私の質問を終わります。(拍手)
  〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手〕
#6
○国務大臣(田中角榮君) 山崎竜男君にお答えをいたします。
 今事件に対する政府の基本姿勢についての御発言がございましたから、まずお答えをいたします。
 今回の事件は、日韓両国にとりまして非常に不幸な事件であり、両国の国民もひとしく憂慮をしている事件だと思うのでございます。何といたしましても日韓両国民、なお国際的に見ましても納得のいく公正な解決をはかりたいと考えておるのでございます。今回の事件によりまして日韓の友好関係をそこなわないようにしたいというのが、両国民の共通の願望であるとも考えておるのであります。この両国民の願望にこたえまして本件の公正な解決をはかるためには、まず何よりも事件の真相を解明し、それを踏まえての解決策を探求してまいりたいというのが、政府の一貫した方針でございます。
 ところが、この事件は日本で起きました事件でございますが、日韓両国にまたがる国際的な事件であり、真相解明のためにはどうしても韓国側の協力を必要といたします。政府は、これまでも韓国側の協力を求めてまいったのでございますが、今後も引き続いて協力を求めてまいる所存であります。本件の真相解明にあたりましては、これまで韓国側から提供された資料は、いまだ十分とは申せないのであります。わが国の捜査当局の捜査線上に出てまいりました人物が本件に関与しておったかどうかにつきましても、残念ながら、両国捜査当局の判断は食い違っておるのが現状であります。しかし、真実は一つしかないと考えられます。政府としましても、今後韓国側の協力を得まして、その解明に当たり、公正な解決に努力をしてまいるつもりであります。
 本件につきまして、筋の通った解決をはかりたいと政府が決意をしておりますのは、これからの日韓関係を対等、平等の独立国間の公正な関係にすることが、日韓の真の友好関係を維持、発展させる基礎だと考えておるからであります。この点につきましては、韓国側にも異存があるまいと考えております。われわれは、決して日韓間に存在をした過去を忘れておるわけではありません。忘れていないからこそ今後の両国関係を公正なものにしようと努力をいたしておるのであります。御承知の上、御協力を願いたいと考えます。
 日韓両国が歴史的に見まして、非常に深い関係にありますことは御指摘のとおりであります。韓国は、その急速な経済成長におきまして、世界各国の注目の的となっておるほか、最近韓国政府が打ち出した新外交政策は、高く評価をせられておることは御承知のとおりであります。日韓関係もこのような現状に即応して、一そうの発展を遂げることを心から希望しておるのであります。
 残余の問題については、関係閣僚から答弁いたします。(拍手)
  〔国務大臣田中伊三次君登壇、拍手〕
#7
○国務大臣(田中伊三次君) わが国の出入国管理体制は一体どうなっておるかというお尋ねでございます。
 わが国では、空の港、海の港、これを出入国管理令によりまして、現在百二十六カ所を指定をしております。外国人が日本に入るときには、この百二十六カ所から入れる。出るときにも百二十六カ所から出ていけるということとなっております。この状態でございますが、今回の問題をめぐりまして、はたして百二十六カ所のこの港から出入したものかどうかということを厳格に調べたのでありますが、百二十六カ所からは少なくとも出国はしていない。これは明白でございます。そこで、百二十六カ所以外の場所より出国することが可能であるかというと、これは密出国の形式でこれを行なうことが、理論的にできないことはないと考えられるのであります。
 今後の問題でありますが、法務省が中心となりまして、警察、海上保安庁等々、緊密なる連絡をとりまして、万遺憾なき対策を講ずる所存でございます。(拍手)
  〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
#8
○国務大臣(大平正芳君) 金大中氏、金東雲氏の再来日の問題についてのお尋ねでございました。
 金大中氏につきましては、捜査、真相を究明する必要上、わが国に再来日を求めておるわけでございますが、今日までのところ、先方当局において捜査中のゆえをもって、さしあたり応じがたい返事をいただいております。金東雲氏につきましては、当方の任意出頭の要請に対しまして、外交特権をたてにいたしまして、応諾しない旨の返事をもらっております。したがって、この問題につきましては、当面大きな壁に逢着しておることはいなめませんけれども、今後この問題の事態の究明をはかることは、われわれの一番大事な仕事でございまするし、また、これを通じまして公正な解決をはからなければならぬということも当然のことでございますので、今後、韓国当局とこの問題につきまして、仰せのように粘り強く交渉を続けて、その実現を期してまいりたいと考えております。
 第二の御質問は、閣僚会議の問題、それから対韓援助の問題でございました。
 この事件は事件として真相を究明し、公正な解決をはかることに努力してまいりますけれども、閣僚会議を無期延期するとか、あるいは対韓援助政策を変改するというような考えは、政府にございません。
 それから第三の、山崎議員からせっかく御提議がありました捜査当局の合同会議あるいは特使の派遣についてお答えいたします。
 いま、私どもを媒体といたしまして、真相の究明のためにせっかく努力中でございまして、捜査当局の合同会議をいま開くという考えは持っておりません。しかし、私どもといたしまして、真相の究明を怠るというつもりは毛頭ないことを御承知願いたいと思います。それから特使の派遣問題でございますが、ただいまのところそういう考えは持っておりませんけれども、今後の状況に応じまして、とくと検討してみたいと考えております。(拍手)
  〔国務大臣江崎真澄君登壇、拍手〕
#9
○国務大臣(江崎真澄君) 私のお答えする日韓合同捜査会議を持つかどうかということについては、ただいま外務大臣からお答えがあったとおりでございます。目下としては、金東雲氏の任意出頭を求めておるという段階であります。今後の問題として検討いたします。(拍手)
    ―――――――――――――
#10
○議長(河野謙三君) 田英夫君。
  〔田英夫君登壇、拍手〕
#11
○田英夫君 私は、日本社会党を代表して、いわゆる金大中事件に対する政府の対策と、これに関連した朝鮮政策について質問をいたします。金大中事件は、日本の首都東京で、しかも白昼、韓国の政府機関の人間が加わった一味によって、韓国の前大統領候補が拉致され、しかも警察の手配の網をくぐって、五日後に、韓国の首都ソウルの金大中氏の自宅に目隠しをされたまま同氏があらわれたという、常識ではとうてい考えられない事件であります。
 まず、政府に伺いたい。政府は、すでに捜査当局の手によって在日韓国大使館の金東雲書記官がこの事件の犯人の一人であるとの容疑がきわめて濃いとしてその出頭を求めました。通常この種の捜査の常識として、指紋が一致したということは、動かしがたい証拠と言えるはずであります。だからこそ、政府がとり続けてきたいわゆる日韓友好政策、特に朴政権との深いつながりという関係や、朝鮮問題が焦点となる国連総会を間近に控えているといういまの状況などにもかかわらず、政府は、金東雲書記官の出頭要求に踏み切ったのではないでしょうか。それにもかかわらず、田中総理はじめ政府首脳は、朴政権に出頭を拒否され、さらに金書記官は犯人でないと一方的に回答されると、にわかに弱腰になり、さきの衆議院本会議などの答弁でも、日本の主権が侵されたかどうかという重大な問題について、きわめてあいまいな答弁に終止しています。これは金東雲書記官の出頭を要求した態度と大きく矛盾していると言わざるを得ません。一体、田中総理はじめ政府首脳は、捜査当局を信頼しているのですか、それとも自信がないままに金東雲書記官の出頭を要求したのですか。大平外務大臣は、参議院外務委員会の答弁で、はっきりと、日韓両捜査当局の結果が食い違った場合には、日本の捜査当局の結果を尊重すると答えているではありませんか。しかも政府は、金東雲書記官の出頭を要求しておきながら、国権が侵害されたかどうかは公権力が働いたかどうかにかかるとして、初めから国権侵害の問題を避けて通ろうとする姿勢を示しています。金東雲書記官の身分、KCIAの従来からのやり方、今回の犯行の実態から見て、金東雲書記官らが行なった今回の犯行を、国権侵害と言わなくて何でしょうか。この際、あらためて政府が国権侵害についてどう考えているのか、捜査当局の調べた結果に自信があるのかどうか明確にお答えいただきたい。
 次に、すでに明らかになった今回の事件の内容から見ても、金大中氏を拉致したこの犯行は、いわば強盗か殺人にもひとしい凶悪な犯罪であり、しかも、それによって政敵を葬ろうとするきわめて非民主的な卑劣な犯罪であります。それにもかかわらず朴政権側は、いわゆる外交特権をたてに金東雲書記官の出頭を拒否しています。国際法上認められた外交特権というものは、当然、社会常識、国際通念の上に立って主張されるべきものであるはずであります。このような凶悪な犯罪を行なった者にまで外交特権を認めることは、むしろ正しい外交特権をゆがめる結果になるのではないでしょうか。政府はこの点についてどのように考えておられるか。いたずらに朴政権の言いなりになることは、大きな目から見て、むしろ正しい日韓両国民の理解と友好を妨げる結果になると思いますが、その所信を伺いたい。
 今回の事件発生以来、一カ月間の政府のこの問題に対する対処のしかたを見てきますと、その態度は、あいまい、優柔不断の一語に尽きます。政府は、なぜこのようなふしぎな態度をとるのですか。金東雲書記官の出頭を求めておきながら、朴政権に拒否されると腰砕けのようになってしまうのは、一体なぜですか。それは日本の主権が侵されたという、日本国民にとって重大な問題には目をつぶって、ただひたすらに日米韓協力体制にひびが入ってはならないという誤った政治的配慮が優先しているからではないでしょうか。さきにアメリカのポパー国防次官補が韓国と日本を相次いで訪問したときに、金大中氏の再来日について楽観的な見通しが流されたのも偶然ではなかったのではないでしょうか。それは、金大中氏の再来日は実現するが、一方で韓国のKCIAの犯行であったという事実はおおい隠してしまうといった政治的な処理が、陰で日米韓関係者の間で計画されていたのではないかという見方があるのです。ただ、そのときすでに日本の捜査当局が指紋の一致という動かしがたい証拠を握っていたために、とにかく金東雲書記官の出頭要求に踏み切ったものの、朴政権の拒否にあって、もろくも立ち往生してしまったというのが真相ではないでしょうか。そして現時点でもなお、前に述べたような誤った政治的配慮から拉致犯人をうやむやにしてしまおうという動きが、なお一部にあるのではないかとさえ思われます。いまこそ政府は問題の筋を通し、日韓両国民はもちろん、世界の人々の納得のいく姿で解決をはかるべきであり、誤った政治的配慮などは断じて行なうべきではないと思いますが、いかがでしょうか。
 次に、政府はいわゆるKCIAの日本国内における活動をどのように把握しておられるのか伺いたい。
 KCIAの不当な、国権を侵害する活動については、すでに一九六七年の西ドイツでの事件、さらには最近アメリカでも大きな政治問題となって、FBIが捜査に乗り出しているということも知られています。そして日本国内でも、ことしに入ってからだけでも、私がさきに外務委員会で指摘したように、帰化日本人の沢本三次氏の逮捕事件、日本の国家公務員である北海道大学理学部助手金風C氏逮捕事件、東京大学を卒業した崔相龍氏の逮捕事件など、いずれも背後でKCIAが関係している疑いはきわめて濃厚であり、特に沢本事件に関連しては、在日韓国大使館の一等書記官が、朴政権側が事件の共犯であるとして指名手配したと称している東京在住の一日本人を一方的に取り調べているという事実もあります。政府は、このような相次ぐKCIAの日本での活動をどのように把握しているのか伺いたい。一体、日本にいるKCIAは何人で、どのような組織で活動しているのか、政府の調査結果をここで国民の前に明らかにしていただきたい。いままでの委員会での政府の答弁では、日本のどの官庁で、どの部署でKCIAの活動をチェックしているかさえ、さだかではありません。怠慢と言わざるを得ません。このような状態では、日本人はもちろん、特に日本に在住する韓国、朝鮮の人々は大きな不安におちいっています。そもそも、その国に在住する外国人の安全を保障することは、その国の政府の責任であります。まして日本にいる六十万人をこす朝鮮、韓国の人々は、日本がかつてあの誤った侵略戦争を進めるために、強制的に日本に連行をした人たちとその子孫であります。私たち日本人は、この人たちが平和に、しあわせに暮らせるように特に気を配る必要があるのではないでしょうか。まして政府は、その大きな責任と義務があるはずであります。いまこそ、この人たちを大きな不安におとしいれているKCIAを摘発し、その全員の国外退去を朴政権に強く要求すべきだと思いますが、政府の決意を伺いたい。
 ところで、政府は、現在韓国を支配している朴政権についてどのような認識をお持ちなのか、伺いたい。
 田中総理、あなたは朴政権を民主主義を守る政権と考えておられるのですか。朴政権が昨年十月に行なったいわゆる維新体制なるものを御存じでしょうか。さらに国家保安法、反共法といった法律の条文をお読みになったことがあるでしょうか。いまや韓国国内は、朴政権の独裁政治によって、まさにかつての帝国主義時代の、そして治安維持法当時の日本と同じような姿になっていると言わざるを得ないのです。ある在日韓国人が、朴政権の続く限り祖国へ帰るのはいやだと旅券を破り捨てた事実が、現在の韓国国民の気持ちを率直に物語っています。また、韓国国内では、今回の金大中事件そのものも、新聞ではほんの小さくしか報道されていません。それは言うまでもなく、朴政権の強い言論弾圧があるからであります。そんな中で、去る七日付の朝鮮日報が掲載した「当局に願うわれわれの衷情――決断は早ければ早いほどよい」という社説は、韓国国民のほんとうの気持ちを表現した勇気あるものと言えるでしょう。その社説は冒頭で、「最近われわれは、知りたいことも知ることができず、話したくとも話すことができず、きわめて憂うつで気詰まりである」と述べています。しかし社説は最後に、「政府首脳の次元の高い断固たる処断を望む」としています。このことばは全くそのまま日本政府首脳に対するわれわれ国民の要望とも一致いたします。いまや朴政権は、一言で言えば、民主主義を破壊し、独裁体制をとっている政府と言わざるを得ません。しかし、韓国国民の多くが心から朴政権を支持していないことは、こうした事実がはっきりと物語っています。それは、一昨年の大統領選挙で、朴大統領に対抗して、韓国の民主化と平和統一をスローガンにして立ち上がった金大中氏が、朴政権のすさまじいまでの選挙干渉、妨害にもかかわらず、九十万票差まで朴大統領を追い詰めた事実がはっきりと示しています。この選挙を取材した公正なジャーナリストが、もし正しい選挙が行なわれていたならば金大中氏が圧勝していただろうと評しているほどであります。韓国国民の大多数は、心の中で強く強く平和統一を願っているのです。昨年のちょうどきょう、九月十日、私は朝鮮民主主義人民共和国の首都ピョンヤンで金日成主席と会っていました。そのときに金日成主席は、特に金大中氏の名前をあげて、「金大中氏が大統領選挙であれほど善戦したことは、南朝鮮の人民がいかに平和統一を強く望んでいるかを示している。」こう語っていたのを思い出します。そうして金日成主席は、「だからこそ私は、あえて朴政権とさえ平和統一の話し合いをする決心をしたのです。」こう語っていました。政府は、この朝鮮民族の非願をどう考えているのでしょうか。日本民族と朝鮮民族は、言うまでもなく、古くからの親しい隣人であり、文化の面などでは、むしろ先輩であります。その朝鮮民族が不幸にも分断された状態にあるのを一日も早く正常なものとするよう願うのが当然ではないでしょうか。しかも、南北両朝鮮の人たちは強くそれを願っているのが真実の姿です。それを願っていないのは、現在、南半分を権力で押えつけている朴政権と、それにつながる少数の人たちだけではないでしょうか。こうした真実の姿を政府はしっかりと把握していただきたい。いたずらに小さな利害や利権にとらわれないでいただきたい。
 差し迫った国連総会では、当然、朝鮮問題が大きな焦点となるでしょう。政府は朝鮮民族が一致して強く望んでいる平和統一の妨げになる南北両朝鮮の同時加盟というような動きに、どんな形にせよ、どんな表現であれ、絶対に加担してはならないと思います。もしこれに加担するようなことがあれば、それは隣人の心を踏みにじる行為であると言わざるを得ません。田中総理は、この場で、絶対に加担しませんとはっきり約束をしていただきたい。
 さらに、韓国の国民の利益ではなく、朴政権の利益でしかない一切の対韓援助を停止し、日韓閣僚会議を無期限に中止し、さらに、こうした誤った政策の根本になっている日韓条約を破棄することを強く要求します。
 この機会に政府は、いままでの対韓国政策を根本的に再検討し、日本に最も近い隣邦が、その国民の総意に沿って一日も早く平和のうちに統一を実現するよう協力し、支援する姿勢にはっきりとその態度を切りかえるべきだと思います。そして、具体的には朝鮮民主主義人民共和国と交流を深め、一日も早く国交樹立を実現するよう努力すべきであります。
 最後に、政府は、金大中氏事件をすみやかに正しい姿で解決するために、また、金大中氏を一日も早くその希望する形で無条件で再来日させるために、政府を代表して大平外務大臣を韓国に派遣するよう提案をして、私の質問を終わります。(拍手)
  〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手〕
#12
○国務大臣(田中角榮君) 田英夫君にお答えいたします。
 第一点は、金東雲書記官の出頭要求をしておきながら、国権が侵されているかどうか不明だと言っているのは矛盾をしておるという御発言でございますが、金書記官の出頭を要請しましたのは、事件の真相を解明するためでありまして、主権侵害があったことを前提として行なったことではありません。現時点では、主権の侵害があったと断定することはできないのであります。
 次は、政府は日米韓体制維持のため、事件をうやむやにしようとしておるという趣旨の御発言でございますが、政府は、間々申し上げておりますとおり、真相の究明につとめることを基本方針としておりまして、本件解決をうやむやにするようなことは一切考えておりません。
 次は、朴政権を民主的な政府と思っているのかどうか、国家保安法や反共法などについての所員をただざれたわけでございますが、韓国は、自由と民主主義を基本目標とした国であることは、憲法前文に示されておるとおりでございます。なお、国家保安法等個々の法律について、他国がこれを論評することは差し控えるべきであると考えます。
 経済援助を停止し、日韓条約を破棄し、日韓閣僚会議を中止せよという明確な御発言でございますが、わが国の対韓援助は、特定の政権を擁護、支援するためのものではなく、韓国の民生の安定と国民経済の均衡ある発展に貢献することを目的として行なっておるのであります。したがって、経済援助の停止、日韓閣僚会議の中止は考えておりませんし、日韓条約の破棄などは全く考えておりません。
 国連における南北同時加盟支持をやめよという御発言でございますが、政府としましては、朝鮮半島における平和と安全が確保され、平和的統一が一日も早く実現されることを願っておりますことは間々申し上げておるとおりでございます。右実現に至る過程における措置として、南北両朝鮮が国連に加盟するのであれば、国連の普遍性を高める見地からもけっこうなことだと考えておるのであります。
 大平外相を韓国に派遣すべきだとの御発言でございますが、政府は真相を究明し、内外に納得のいく公正な解決をはかることを基本方針としておりますが、現在のところ、大平外相の派遣は考えておりません。
 残余の問題については、関係閣僚から答弁をいたします。(拍手)
  〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
#13
○国務大臣(大平正芳君) 本件につきまして、事態の真相を究明いたしまして、公正な解決をはからにゃならない、あいまいにやることはしないということは、総理がすでに申し上げたとおりでございます。
 田さんは、外交官特権を先方が援用いたしまして、金東雲氏の来日問題について先方が渋っておることに対して、いかにも弱腰でないかという御批判でございましたが、本来外交官は、国際法上すべての行為につきまして、接受国の刑事管轄権から包括的に免除されておるわけでございまして、行為の種類によって区別はないわけでございますので、いかに私ががんばりましても、この壁は破れないわけでございます。しかしながら、私どもは、この本件を解決するために真相を究明していかなければならぬ道行きでございますので、そのためには、しんぼう強く全力をあげてこれからも努力をしてまいりたいと考えておるわけでございまして、今後一そう努力してまいるつもりでございます。御協力をお願いいたしたいと思います。(拍手)
  〔国務大臣田中伊三次君登壇、拍手〕
#14
○国務大臣(田中伊三次君) KCIAの実態はどうなっておるかというお尋ねでございます。
 この実態の調査は、わが国憲法下の法制の上では実態調査はできない、またやるべきでない、これがたてまえでございますので、調査はできておりません。また、やる考えはございません。(拍手)
  〔国務大臣江崎真澄君登壇、拍手〕
#15
○国務大臣(江崎真澄君) これまでの捜査によりまして、金東雲書記官が本件に関与していたということにつきましては、警察当局として確信を持っておりまするが、しからば、金東雲書記官の大使館における職務分掌がどのようなものであったのか、いわゆるKCIAに関係があったのかどうか、また政府機関の命令、すなわち公権力が事件に介入をしたかどうか、動機であるとか背後関係の究明は今後の問題でありまして、私どもは外務省を通じ、金大中氏をはじめ金東雲氏等々の身柄を粘り強く要求してまいりますると同時に、警察としては独自の捜査を厳重に継続をしていく、こういう態度でございます。
 政府は、外国のいかなる団体、組織といえども、日本国内で違法行為を行なうものは断じて許さないというき然たる態度で取り締まりを行なっております。金大中氏事件以来、KCIAの問題が取りざたをされておるわけでありまするが、今日までKCIAが、日本国において極端に自由と民主主義を踏みにじるような行為をしたという証拠は、今日まで警察は何一つ持っておりません。したがいまして、KCIAをどうずるかという問題は、あくまで今後の問題として十分検討をいたしてまいりたいと思います。また、日本人はもちろんのこと、在日外国人の安全を守る義務があることは、これは申すまでもないことであります。捜査当局は目下事件の真相を究明中でありまするが、在日韓国人の安全を守るためには、今後といえども全力をあげてまいりたいと考えております。(拍手)
    ―――――――――――――
#16
○議長(河野謙三君) 白木義一郎君。
  〔白木義一郎君登壇、拍手〕
#17
○白木義一郎君 私は、公明党を代表して、このたびの金大中氏強制連行事件に対し、総理並びに関係大臣に緊急質問を行なうものであります。
 本事件は、わが国民を大いに驚かしており、また、日を追って世論は高まっているのであります。かねて治安の良好なことにおいては世界に評価の高かった日本の首都東京で、組織的な外国人犯罪者により、白昼公然と誘拐されたこの事件は、わが司法警察権に対する信頼をそこない、法治国日本の威信を傷つけたことにおいて、前代未聞の怪事件であります。
 われわれがその真相究明を強く要求し、政府の責任を追及してやまない理由は何か。
 その第一は、この事件はわが国の主権が侵害された疑いがきわめて濃厚であることを考えるとき、われわれ国民はこれを黙視することができないからであります。
 その第二は、この事件は人間の存在にとって最も基本的な人身の自由が侵害されたという点において、ゆるがせにできないものがあるからであります。
 しかも、いまや日韓関係の基本的なあり方が討議され、新たな段階を迎えようとしている現在、日米首脳会談における朝鮮半島の平和と安定の促進に貢献することを共通の意思として確認し合ったわが国にとって、このたびの問題をどう解決するか、世界各国の注目するところであります。したがって、政府は、一切の疑惑を晴らし、さらに将来ともに正常なる日韓両国の友好のいしずえを築くためにも、積極的な姿勢をもって事件の解決に臨んでいくべきだと、最初に強く要望するものであります。
 さて、事件発生以来はや一カ月、日韓両国の事件解明の努力もむなしく、すべては暗礁に乗り上げております。その最大の原因は、初動捜査のおくれもさることながら、金大中、金東雲両氏をはじめとする関係者がすべて韓国にいるからにほかなりません。その上、日本からのたびたびの捜査協力の要請にもかかわらず、韓国政府の態度は一向に変化が見られないのであります。しかし、そこには、日韓両国の友好という美名に隠れた、日本政府の事件解明への消極的な態度を見のがすことができないのでありますが、今後可及的すみやかにこの事件を解決するため、政府がどのような具体策を検討されているのか、まずお伺いしたい。
 いまもしいままでのように、何の対策もないまま、この事件の解決がおくれればおくれるほど、わが国民は、韓国政府に対してはもとより、わが国政府に対しても大きな不信感を持ち、かえって真の友好がそこなわれるのであります。総理、あなたはわが国政府の最高責任者であります。この国民感情をどう認識されているかを、あらためてお聞きしたいものであります。
 さらに、警視庁特捜本部の捜査結果により、韓国大使館の金東雲一等書記官をはじめ数人の韓国政府機関員が介入していることが、ほぼ明らかであります。しかるに、政府は、これまで「国家の主権が侵害されたとは言えない」との答弁を何回も繰り返しているのであります。それでは、政府は日本警察の捜査結果は信用できないとおっしゃるのですか。このたびの真相は、捜査当局がたどりついた真実の一つであり、この真実は絶対にゆるがせにできない事実なのであります。なぜかならば、ホテルに残された指紋と金書記官の指紋が一致するというこの動かしがたい事実を見るならば、国家の主権が侵害されたことは明々白々であると思うものであります。総理の明快なる答弁を重ねてお尋ねいたします。
 また政府は、公権力が介入したと断定できなければ主権の侵害にはならないと答えられております。しかし、関係者の金大中氏及び金東雲一等書記官等の再来日のめども立たない今日、捜査当局が直接関係者を調べずして、公権力の介入を証拠立て得る可能性があるのかどうか、お尋ねしたい。もし可能性がないとするならば、いかなる方法をもって主権の侵害であったかどうかを断定するのか、国民の納得いく答弁をお願いしたいのであります。なぜならば、この一件が、証拠不十分のまま両国間の政治的レベルの妥協によってうやむやのうちに処理されてしまうことをわれわれは最もおそれるからでありますが、いかがでしょうか。
 次に、金大中氏並びに事件関係者の再来日の件についてお尋ねいたします。
 事態の進捗が見られた今日、政府は再度後宮大使を召喚し、事情を聴取する必要があると思うのであります。そして金書記官及び関係者の来日はもとより、金大中氏の生命の安全を保障し、一切の条件をつけることなく再来日させるよう、韓国政府に対して強く申し入れるべきであると思いますが、総理の見解をお聞きしたいのであります。
 もし、それでも事件の解決に手間どるようであるならば、韓国に対し直接に特使を派遣する必要があると考えられますが、簡単にございませんという御返事ですが、理由もおっしゃらずに、ないということは、政府自民党にそのような大論士がいないのか、人材がいないのか、もしいないとすれば、わが野党には幾らも人材がいるということを申し上げたいのであります。
 また、金大中氏等の再来日が決定的に不可能となった場合には、政府はいかなる処置をとるのか、その具体的措置を明らかにしていただきたいのであります。
 日本国の主権の侵害を論ずることは、もとより最大の必要事でありますが、その前に、金氏をはじめ家族全員の生命の安全をはかることこそ肝要でありましょう。私は政府に対して、強力なる姿勢をもってこの問題に対処するよう強く要望するものであります。
 次に、南北朝鮮政策についてお尋ねいたします。
 南北朝鮮の自主的な平和統一を目ざす南北共同声明が発表されて以来、一年有余を経ておりますが、この間、朝鮮半島をめぐる諸情勢は大きく変化を遂げております。しかし、このたび起こっだ金大中氏事件は、情勢の変化に拍車をかけるだけでなく、南北朝鮮の統一を望む民衆の声に越えがたきみぞをつくったばかりでなく、自主的な平和統一の道を逆戻りさせた感を免れないのであります。総理は、この事に対して、事件発生の当事国の責任者として、どのような所見を持っておられるか、お尋ねしたいのであります。
 政府としては、今日までとり続けてきた朝鮮政策、すなわち韓国を朝鮮にある唯一の合法政府とした国連決議に基づく日韓基本条約の締結、佐藤・ニクソン共同声明におけるいわゆる韓国条項、さらには、無原則、無制限の経済援助など一連の韓国へのてこ入れ政策が、朝鮮民族の共通の願望である平和的統一を妨げてきたばかりか、むしろ、同半島の緊張を高めてきたことを考慮するならば、いまこそわが国の対韓政策を再検討すべきときであると思いますが、いかがでありましょうか。
 さらに、このような状況のもとでは、このたびの事件の解決を見ない限り、日韓閣僚会議は無期延期をすべきであると考えますが、あわせて総理のお考えを伺いたい。
 次に、警察当局の今後の捜査についてお伺いします。
 すでに、事件発生後における初動捜査については、数多くの失態があったことは明らかな事実であります。すなわち、捜査当局が全国の空港、港湾並びにそれに通ずる主要道路の検問を指示したのは、事件発生後一時間半もたった後だったではありませんか。しかも犯人たちが世界最高を誇るわが国警察の検問をくぐり抜けたことは、本事件に対する警察庁の甘さか、あるいは韓国情報機関に対する政治的配慮があったのかどうか、はなはだ疑問とするところであります。このような当局の緩慢な動きは深く反省すべきであると思いますが、国家公安委員長の責任ある答弁をお聞きしたいのであります。また、その後捜査当局の手によって判明した新事実についても、この際政府から詳しく説明をしていただきたい。
 さらに八日朝、法務省大阪入国管理事務所伊丹空港出張所が明らかにした安竜徳氏の出国についてお尋ねいたします。
 警察庁が安竜徳氏に対し、金氏の証言をもとに任意出頭を求めていたことは明らかであります。しかるに何の返答もないまま、再入国の手続もとらず帰国したことは、捜査上の大きなマイナスになることは明らかであります。このように警察当局の任意出頭を求める人たちが何の断わりもなく次々と出国していくことは、今度の事件に関し、わが国政府に対する韓国政府の姿勢を如実に示していると言えるではありませんか。このように、気がついたときはすでに関係者等は国内におらず、金東雲一等書記官のように、再び捜査の困難と遅延を招く結果になるのであります。そこで私は、犯罪グループとして容疑のかかっているメンバーや、あるいは重要参考人と認められている者の中で外交官特権を有していない者に対しては、早急に任意出頭を求めて取り調べることが必要であると思うものでありますが、この点に対して責任ある答弁をお伺いしたい。政府は、法治国家として国際上の信用を取り戻すかどうかのせとぎわに立っていることを認識し、積極的な手配をされることを強く望むものであります。
 最後に、韓国政府により発表された日本の企業による巨大投資申請についてお尋ねをいたします。
 報道によりますと、この投資申請は三井グループ等から出されており、十一億三千万ドルにものぼるとされております。現在、金大中氏誘拐事件により日韓両国間の緊張が高まっており、経済援助問題が論議されているおりから、わが国企業の投資申請は十分に注意をしなければならないと思うものであります。しかも、この重大な時期を迎えているときに韓国政府より発表されたことは、当政府が今回の事件を政治問題と切り離し、経済問題の重要性を強調したものと考えられるのであります。
 本来、一国と一国の友好とは、政治経済等すべてが一体となってはじめて両国間の友好関係が結ばれるものであります。わが国政府は、日韓関係を韓国政府と同様、政治と経済を切り離して考えられているのかどうか、総理並びに通産大臣の明快なる答弁をお願いして、私の質問を終わります。(拍手)
  〔内閣総理大臣田中角榮君登壇、拍手〕
#18
○国務大臣(田中角榮君) 白木義一郎君にお答えいたします。
 まず第一は、事件解決の遅々たる状態に不信感が出ている、このような世論をどう認識するかという趣旨の御発言でございますが、政府は、与えられた条件の中で最善を尽くしておるのであります。これまで捜査当局は金東雲書記官の任意出頭を求める段階まで捜査を進めてまいりましたが、今後とも独自の基本捜査を着実に進めて、事案の真相究明につとめる所存であります。
 次に、金東雲書記官の介入は主権侵害ではないかという問題でありますが、本事件につきましては、現在捜査中の段階であり、現時点で主権の侵害があったと断定することはできないのであります。
 第三は、いまだに日本政府は韓国の公権力が介入したとは断定できないと答弁しているが、これを立証する可能性があるかという趣旨の御発言でございますが、韓国の公権力が介入したかどうかを明らかにするため、まず金東雲書記官の任意出頭を得て、同書記官から事実を聴取したいと考えておるのであります。御承知のとおり、政府としては、目下韓国政府に同書記官の任意出頭を求めておるのでありますが、同時に、わが国捜査当局の独自の基本捜査によりまして真相を究明してまいる所存でございます。
 次は、本事件を契機として南北朝鮮の平和統一の道が険しくなったのではないかという趣旨の御発言でございますが、今回の事件は、日韓両国間の問題でございまして、南北両朝鮮間の問題とは無関係であると、このように考えております。
 対韓政策を再検討すべきであるという趣旨の御発言に対してお答えをいたします。今回の事件は、両国及び両国民にとって非常に不幸な事件であることは先ほども申し述べたとおりでございますが、すみやかに真相の究明を行ない、公正な基礎の上に日韓友好関係の一そうの発展を期してまいりたいと考えております。
 事件解決まで日韓閣僚会議を無期延期にすべきであるという趣旨の御発言に対してでございますが、事件は現在捜査中の段階にございまして、先ほども申し述べましたとおり、日韓閣僚会議の無期延期は考えておらないのであります。
 残余の質問につきましては、関係閣僚から答弁をいたします。(拍手)
  〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
#19
○国務大臣(大平正芳君) 後宮大使を召還する意思はないかという御質問でございます。事務打ち合わせのため先般帰国せしめましたが、今後そういう必要が生じたならば、事務打ち合わせのために帰国させるつもりでございますが、目下、後宮大使を召還するということは考えておりません。(拍手)
  〔国務大臣江崎真澄君登壇、拍手〕
#20
○国務大臣(江崎真澄君) 本件の初動捜査がおくれたことは、私どももいかにも残念に思っておりまするが、しかし、事件の発生を知りましてからは、警察当局としては全力をあげて捜査に当たったものでありまして、いやしくも故意に緩慢に捜査を行なったなどということは絶対にございません。ただ、事件発生の通報が事件発生から約四十分を経過しておるなど、いろいろな悪条件が重なりまして、金大中氏の身柄が国外に移送されるのを防ぎ得なかったことは、これはまことに遺憾なことであります。警察庁といたしましては、本件を教訓といたしまして、庁内に国際事犯防止特別委員会をつくりまして、犯罪防止とともに、もし不幸にしてこの種の事犯が起きましたときには、直ちに被害者を救出する、あるいは被疑者を検挙する体制を、目下鋭意検討をいたしておるものであります。
 次に、韓国の公権力が介入したかどうか。動機や背後関係は、まだ残念ながら明らかになっておりません。金東雲書記官以外にだれが加担していたのか、まだこの点も明らかになっておりません。したがいまして、四氏の出頭を外務省を通じまして粘り強く求めますると同時に、現場を中心とする独自の捜査を今後も熱意をもって継続をいたしてまいるつもりであります。
 なお、金東雲書記官につきましては、これまでの捜査で本件に関係があると確信をいたしておりまするが、他の犯人たちにつきましては、氏名をあげて御指摘になりました安竜徳氏を含めまして、現在までのところまだ明らかになっておりません。安竜徳氏につきましては、確たる何らの証拠もありませんので、任意出頭を求めたこともありません。
 この際、念のために申し上げておきたいと思いまするが、わが国は法律によりまして出入国管理は厳正に行なっております。したがって、入国を拒否する面については、その対象の人物によってこれを制限することができまするが、出国につきましては、具体的な犯罪によってこれを逮捕するとかいうことがない限り、出国についてはやはり協力を求めて捜査をする、任意出頭を求める、こういう形になっておるわけであります。ましてや、外交特権を所持しておる人に対しましては、このことが一そう強く言えることを申し上げておきたいと思います。(拍手)
  〔国務大臣田中伊三次君登壇、拍手〕
#21
○国務大臣(田中伊三次君) 本件は、自由の侵害として重大視すべきものであるとの御意見でありますが、まさに金大中氏事件は、国家主権の侵犯問題であるとともに、自由人権の侵害問題として重大視すべきものでありまして、内閣総理大臣御発言のとおり、徹底的に真相を究明することに努力すべきであると思います。(拍手)
  〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕
#22
○国務大臣(中曽根康弘君) 政治と経済は対外的に関連しているのではないかという御質問でございますが、確かに政治と経済は関連していると思います。特に外交関係におきましては、政治が優先であって、政治の判断によって経済が影響を受けたり規制されるということは、あり得ることであると思っております。しかし、御質問の三井グループの石油化学の問題は、わが国は現在外国投資は自由化されておりまして、民間資本が自由に外国当局あるいは商社と商談をして煮詰めて、それが輸銀とかその他国家的に関係してくる場合に、政府のところまで上がってくるわけでございます。
 三井グループの問題について、まだ政府のところに上がってきておりませんが、先般新聞に出ましたので、調べてみましたところ、三井グループの考えは、麗水において石油化学の工場をつくるというプロジェクトで、大体エチレン三十五万トン年生産の計画の由であります。プラント完成の時期が一九七六年を目標にして、所要資金は約千七百億円ということでございまして、具体的には韓国側と目下話し合いをしようとしておるところのようで、政府にはまだ上がってきておりません。しかし、こういう問題につきまして、政府の考え方は、やはり隣国と友好親善を維持して、相手の国民の民生や福祉の向上に協力するということは、日本国民の念願であると思っております。それと同時に、独立国家の尊厳を維持することも、政府の国民に対する厳粛な責任であると思っております。こういう二つの問題を考えながら、いろいろこの問題に対して私たちも考慮しておりますが、問題は、主権侵害が明白にあるかどうかということにかかってきております。この問題については、まだ十分に解明されておりません。また相手方の対応を、いままでの資料によってじっとがまんして見るということも一つの方法であります。そういう観点から、援助打ち切りをいま直ちに言うとか、云々するということは適当でないと、このように考えております。(拍手)
    ―――――――――――――
#23
○議長(河野謙三君) 木島則夫君。
  〔木島則夫君登壇、拍手〕
#24
○木島則夫君 私は、民社党を代表して、金大中氏事件について国民の多くが抱いている疑問、疑惑、それに、政府の方針について緊急質問をいたします。
  〔議長退席、副議長着席〕
 すでに去る七日、衆議院においても各党代表の緊急質問が行なわれ、参議院でもこの事件について核心をつく質問が続けられてまいりました。私は、いままでの質問で明らかにならなかった点も含め、総理、外務大臣を中心にそのお考え、決意を伺いたいと存じます。
 私の質問の第一は、今回の金大中氏事件が、わが国の主権侵害につながる問題であります。
 私ども民社党は、金大中氏事件のあと、いち早く春日委員長以下が韓国を訪れ、金大中氏事件を調査してまいりました。各位御存じのとおり、春日訪韓使節団の談話なり報告というものは、きわめて慎重であり控え目であったわけであります。それは、日本と韓国の友好関係にひびを入れさせてはいけないという、私どもの国益を思う配慮があったからであります。しかし、この配慮も、在日韓国大使館の金東雲一等書記官の容疑によって水泡に帰したといってよろしいと思う。金東雲書記官の容疑は、金大中氏事件に韓国の政府機関が関与していたということであります。一介の無頼の徒が金大中氏を誘拐したものでないことは明らかであります。ここにわが国の主権が侵害された根拠があります。庶民の多くは、何が主権の侵害であるか、よくわかっていないと思います。政府機関ないしは準政府機関が関与したかどうかが、主権が侵害されたかどうかのバロメーターであります。金東雲一等書記官の容疑によって、わが国の主権が侵されたことは明白であります。にもかかわらず、田中総理、大平外務大臣は、金大中氏事件は捜査中であり、主権が侵されたかどうかは今後の推移を見守るとしていることは、国民世論の混乱をますます大きくするばかりであります。田中法務大臣ただ一人、国家機関が金を出し命令して一定の機関にやらせたとしたら、機関の上層部、末端部分を問わず、主権の侵害であるとしておりますが、金東雲書記官の容疑はこの解釈に入るものであります。
 私は、金大中氏事件は、すでにわが国の主権が侵害されているところまで解明できたと思っておりますが、田中総理、大平外務大臣のはっきりとしたお答えをちょうだいをしたいと思うのです。
 次に、主権の侵害があった場合、私はそう断定するのでありますが、わが国としてどのような態度をとるおつもりであるか。すでに西ドイツの例がいろいろと取り上げられておりますが、政府が今後対抗手段をとる場合のことを考えて、少しこまかく西ドイツの例を説明して、政府を鞭撻をしたいと思います。
 西ドイツにおける韓国人蒸発事件は、六年前の夏、西ドイツに留学中の韓国人大学教授、学生、音楽家など合計十七人が韓国CIAによって不法に連行された事件です。西ドイツ警察は、ちょうど日本の警察のように独力で韓国CIAの犯行を突きとめ、対抗手段として、CIA部員と見られる韓国大使館員三人の国外退去を命じ、大使は辞任し、また、西独が韓国に対して行なっていた発電所、酪農センターへの経済援助を閣議決定によってこれを中止し、さらに、ワシントンで開かれた世界銀行の対韓援助グループ会議をボイコットしております。また、こうした中で、西ドイツに赴任した韓国の新任大使に対し、約半年にわたって、当時のブラント外相でありますが、接見を行なわず、やっと信任状を受けたときも、ブラント外相は「この事件で両国関係は悪化しており、事件の完全な解決なくしては友好関係の復活はありません」と、き然たる態度をとったと伝えられております。主権の侵害が行なわれたとき、政府は韓国に対しどのような態度をとられるのであるか、その決意を田中総理にお尋ねをしたい。
 次に、韓国に対する経済援助について政府にお尋ねをしたい。その前に、はっきりお断わりしておきます。われわれは、日韓の友好関係を破壊しようというものではありません。ただ、わが国民の血と汗つまり血税で行なわれている韓国に対する経済援助というものが、韓国の国民生活にほんとうに役立ち、民主主義の発展に寄与しているかどうか、ここが問題だと思います。
 今回の事件の被害者である金大中氏は、その著書「独裁と私の闘争」の中で、この点について次のように述べておりますので、一部を引用させてもらいます。「日本は、もともと朴政権支持の態度をとっており、六九年に大統領の三選を禁止した憲法を改定したときも、当時の川島自民党副総裁は「韓国に長期安定政権が必要だ」と内政干渉の声明を出したほどである。そして三選改憲支持の証拠として、世界の国々が経済的採算がとれないという理由で出資を断わった浦項の製鉄所を日本が引き受けることになった。これは日本でも経済団体や政府部内に技術的な面から反対があったのだが、政治的配慮によって決定されたのである。製鉄所を作るということは、一部の国民に「韓国は一流国になった」という“夢”を与え、百万票に相当するといわれていたものだ。とすれば日本の朴政権支持の役割はきわめて大きかったということになる。いよいよ選挙も迫ってくると、日本は韓国にとって必要でもないソウルの地下鉄の建設計画に全面的に肩入れするようになった。」、一部ではありますが引用をいたしました。
 この発言は、単に韓国の一部の声というのではなく、大統領になる可能性のあった政治家の発言であります。わが国の韓国に対する経済援助は、すでに総額で十一億ドルを突破しております。しかし、金大中氏の発言にあるような形で援助が進められるとしたならば、それは韓国国民の反日感情を強める以外の何らの効果もないといえるでしょう。
 中曽根通産大臣は、今回の事件によって主権が侵害されれば、対韓援助打ち切りの可能性があることを示唆されておりますけれど、今後わが国として、対韓経済援助をどのように進めるのか、大平外務大臣、中曽根通産大臣にこの点をはっきりとただしておきたいと思います。
 最後に、金大中氏事件そのものについてお尋ねをしたいのです。
 第一に、政府は後宮大使を通じて、金大中氏そのほか関係者の再来日を要求していますが、金大中氏再来日の可能性はありますか。今後どのような手を打たれますか。その時期的な見通し。第二は、衆議院における江崎国家公安委員長の答弁によっても金東雲書記官の容疑は明らかだが、金東雲書記官の任意出頭について、韓国側は外交慣例をたてにとってこれを拒否しているが、これが事件解決のきめ手であり、いかにして金東雲書記官を出頭させるつもりか、その辺をはっきりと国民の前に示していただきたい。
 政府は金大中氏事件をはれものにさわるように取り扱っておりますが、警察当局は、韓国が日本の要求に応じない場合は金大中氏事件のほぼ全貌を明らかにすることを示唆しております。こうなってしまってはおしまいであります。韓国も早く真相を明らかにし、関係者の処罰、両国の関係をもとの状態に戻すいわゆる原状回復、謝罪をしてこそ、日韓の友好を保つことができると私は強く確信をしています。
 田中内閣は、必要以上の政治的な配慮を行なわないで、韓国に言うべきことはきちっとおっしゃい。言ってください。ただすべきことはきちっとただしなさい。この問題の円満な解決をはかり、日韓関係の長期的な友好関係を持続すべきであると思いますけれど、田中総理の今後の日韓関係に対する基本的な態度、立場、金大中氏事件に対する総理のほんとうの考えを聞かせてもらって、私の緊急質問を終わります。(拍手)
  〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手〕
#25
○国務大臣(田中角榮君) 木島則夫君にお答えをいたします。
 第一は、金東雲書記官の容疑により、韓国の政府機関が関与していたことは明白であり、主権を侵害したことになると思うが、どうかという、先ほどからの同種の御質問でございますが、先ほどからお答えをいたしておりますように、本事件については現在捜査中の段階でございまして、現時点では、主権の侵害があったと断定することはできないのであります。御理解をいただきたいと思います。
 次は、日本の主権が侵害された場合、いかなる態度をとるか、西独韓国留学生事件との関連はどうかという趣旨の御発言でございますが、わが国の主権侵害があったと判断されるに至った場合には、政府としては、これにより生ずる韓国の国際責任を追及するために必要な措置をとることは言うまでもありません。しかし、主権侵犯の事実がいまだ判定し得ない現段階では、具体的措置、西独との関連等について言及することは適当でないと考えられるのであります。
 次は、経済援助についての御発言でございますが、わが国の対韓援助は、韓国の民生の向上と国民経済の発展に貢献してきたものと信じております。なお、政府としては、現在、事件の解明に努力している段階であり、経済援助政策の変更は考えておりません。
 次は、今後の日韓関係に対する基本方針と、金大中氏事件に対する所信についてただされましたが、日韓両国は、地理的にも歴史的にも密接な関係にあり、両国間の友好関係は、両国民のたゆまざる努力により築き上げられたものであることは御指摘のとおりでございます。
 このような観点から見て、今般このような事件が起きたことは、両国にとって非常に不幸なことと言わなければなりません。今回の事件に対しましては、政府は、内外に納得のいく筋の通った解決をはかることにより、両国間にいささかのわだかまりも残らない公正な基礎のもとに、真の友好関係を発展させてまいりたいと考えておるのでございます。
 残余の問題については、関係閣僚から答弁をいたします。(拍手)
  〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
#26
○国務大臣(大平正芳君) 主権侵害の問題につきましては、総理大臣からお答え申し上げたとおり私も確信をいたしております。政府は、いま真相を究明中であって、いま断定するわけにはならぬということを言っておるわけでございまして、その可能性がないと断定しているわけでもないのでございまして、これからの事態の解明の中で、この問題は、国民の納得する措置を講じていかなければならぬと考えております。
 ドイツの場合におきましては、韓国政府もその事実を認めた上で、明快な外交的処理がなされたわけでございまして、わが国の場合は、まだその前段階にあるということを御承知願いたいと思います。
 それから対韓援助政策でございますが、この問題は、われわれは援助政策をやる場合におきまして、常に改善を志していかなければならぬわけでございまして、この事件の有無にかかわらず、対韓援助政策につきましては、事態の推移に応じて常に改善を志しておるわけでございますが、この事件はいま解明中であり、この事件と関連させて、いま対韓援助政策を云々するという段階ではないと私は考えております。(拍手)
  〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕
#27
○国務大臣(中曽根康弘君) 衆議院の商工委員会におきまして、社会党の加藤議員の御質問、執拗なる、打ち切れという御質問に対しまして、私は次のように答弁いたしました。もし万一、不幸にして主権侵害の事実がありとするならば、その場合には外交当局と相談をし、閣議レベルでその経済協力問題についても検討すべきものと思う、そういう答弁をいたしました。しかし、今日におきましては、主権侵害の事実は明白になっておらないのでありまして、先ほど御答弁申し上げましたように、打ち切りとか、政策の変更云々ということを言うことは適当でないと考えております。
 われわれの韓国に対する経済協力は、平和と福祉を目的にして、各プロジェクトごとに厳選をしながら、相手の財政能力も確かめつつやっておるのでございまして、それらの内容につきましては、われわれとしては公明正大なる援助をしているということを申し上げるものでございます。(拍手)
  〔国務大臣江崎真澄君登壇、拍手〕
#28
○国務大臣(江崎真澄君) 金東雲一等書記官の任意出頭につきましては、本人が外交身分を持っておりますので、外交ルートを通じ、韓国大使館に対し当人を出頭せしめられるよう要請を行なう、これは国際慣例に照らしまして当然な措置であるというふうに考えております。先方からは、関係なし、また外交慣例をたてにとってと申しまするか、拒否を一たんしてこられたのでありまするが、従来からの友好関係というものを考えましても、私どもは韓国の良識を信頼し、絶望しておりません。したがって、今後も外務省を通じまして粘り強く韓国側の再考を促してまいりたいと考えております。(拍手)
    ―――――――――――――
#29
○副議長(森八三一君) 渡辺武君。
  〔渡辺武君登壇、拍手〕
#30
○渡辺武君 私は、日本共産党を代表して、総理並びに関係大臣に質問いたします。
 現在、金大中氏事件が提起している最大の問題は、わが国の主権に関する問題であります。ところが、政府は、金東雲韓国大使館一等書記官らの動かすことのできない犯行の事実が明るみに出た現在もなお、公権力の行使としてなされたかどうかわからない、などのことばをかまえて、この重大な問題にあいまいきわまりない態度をとっております。本来、韓国大使館一等書記官は韓国政府の機関であり、その犯行は韓国政府の行為と見なければならないことは当然のことであります。しかも、今回の事件が、朴大統領の政敵に対する計画的、組織的な大がかりな犯行であって、これがKCIAなど公権力以外にはなし得ないものであることは明白であります。さらにKCIAについて指摘するなら、これは単に朴政権の一部局などというものではなく、その責任者李厚洛が南北朝鮮会談の朴政権首席代表であることから明らかなように、朴大統領の権力そのものであり、犯行は朴政権そのものの犯行とみなすのがきわめて当然であります。問題は、韓国政府機関の犯行という、この客観的な事実を日本政府が認めるかどうかの問題であります。
 田中法務大臣は、八月二十三日の参議院法務委員会などで、上下を問わず、国家機関がやったということになれば主権侵害であると、明確に答弁しておられます。この考えは当然のことであり、いまも変更はないと思いますが、ここで内外に再び明確にすることを求めます。また、この点についての総理大臣の見解はどうか、あわせて答弁を求めるものであります。
 さらに、今回の事件は、日本の国内で行なわれた犯罪であり、わが国が現実に主権を侵害ざれた問題であります。このような事件についての判断は、わが国の独自の権限で行なうことが当然であることは、国際法上も広く認められているところであります。政府は、韓国側の協力や捜査報告が必要だなどの態度をとっておりますが、このような態度は、主権侵害という重大問題についての日本政府の独自の権限をみずから放棄し、この明白な犯行を迷宮入りに導こうとするものと言わなければなりません。政府は、当然日本政府の固有の権利として、直ちに主権侵害行為と断定すべきであると思うが、どうか。また、政府は、主権侵害の認定は、被害国であるわが国が独自になすべきことだと考えておられるのか、それとも、いまもなお韓国政府の確認が必要と考えておられるのか、総理大臣並びに関係大臣の明確な答弁を求めます。
 また、政府は、真実の究明が先決などと述べております。しかし、韓国政府が自己の明白な犯行を頑強に否認し、事件関係者の引き渡しなど日本政府の要請を拒否し続けている以上、政府がきびしい外交的措置を講ずる以外には、真実の究明自身が困難なことは明らかではありませんか。政府は、すでに明白である主権侵害の事実に立って、原状回復の立場から、直ちに金大中氏の無条件再来日、金東雲らの犯罪者としての引き渡し措置をわが国の権利として強く要求すべきであります。さらに、韓国政府に対し、日韓関係の全面的な再検討を含むきびしい外交的措置をもって対応すべきであります。総理大臣並びに外務大臣の見解を求めます。
 しかも奇怪なことに、政府は、金東雲とともに重大な容疑者と見られる十数人のグループを割り出しながら、その国外逃亡を野放しにしているではありませんか。これでどうして真実の究明ができますか。私は、これら容疑者の氏名、職業、KCIAとの関係、犯行に際しての役割りなど、その全容を明らかにするとともに、これら容疑者をなぜ逃亡させたか、その理由を説明することを強く要求するものであります。
 次に、私は、政府が主権侵害という重大な侮辱を受けながら、なお卑屈にも強調している韓国との友好、親善なるものの実体について、一言しないわけにはいきません。
 現在の韓国政府が、朴大統領、金首相などアメリカのCIAに育てられた情報将校出身者を首脳とし、クーデターによる政権獲得後も、一貫してアメリカの軍事力、経済力によって育成されてきたかいらい政府であることは世界の常識であります。しかも朴政権は、アメリカの上院外交委員会報告でも、李承晩時代以来最悪の独裁政治と述べているように、国家保安法、反共法、さらに昨年の百二十六項目にも及ぶ憲法改悪などによって、南朝鮮人民の言論、報道、集会、結社、政治活動、国会活動など、すべての民主的権利を完全に圧殺した、まれに見る反共軍事独裁政権にほかなりません。
 わが国の主権を侵してまで、自分の政敵を暴力によって拉致、監禁し、さらに、わが国の新聞報道から国会論議にまで干渉するという今回の暴挙が、このような暗い体質から生まれていることは明らかではありませんか。総理は、わが国がこんな仕打ちを受けているのに、この独裁政権を、なお自由と民主主義を目ざす政権であると称賛するのですか。一体何を根拠に、そのような断定をなさるのか、具体的に答弁願いたい。
 しかも政府は、日韓条約、日米安保条約、日米共同声明などで、この独裁政権を朝鮮における唯一の合法政権として、全面的に協力、支援する義務を背負っております。これは朝鮮の分裂を固定化し、アジアの緊張を一そう激しくするものであります。総理の強調する韓国との友好、親善とは、アメリカを盟主とする米・日・韓三国の侵略的軍事同盟体制を維持するということではありませんか。政府は、いまこそ日韓条約と日米共同声明の韓国条項を廃棄すべきだと思うが、どうか、明確な答弁を求めるものであります。
 最後に、韓国に対するわが国の資本輸出は、すでに十五億ドルにも及び、韓国の外資の第一位を占めるまでになっております。このような事態が、やがては経済的権益を守ることを口実とした日本の政治的、軍事的進出の呼び水になることは、過去の歴史の示すところであります。しかも、日本の経済協力は、金大中氏が、独裁の強化、腐敗の助長、貧富の両極差の拡大など、マイナスな側面が最も強く出ていると述べている状態であり、かつて日本の植民地として苦しんだ朝鮮人民のうらみの的となっております。このことは、韓国のウルサンに昭和電工とトーメンの借款で設立された韓国アルミが、その設立資金の四四%もリベートその他の形で巻き上げられたために倒産し、韓国の国会で追及されたという事実一つをとってみても明らかなことであります。
 総理、これが韓国の民生安定と国民経済の発展に寄与しているとあなたが言う援助の実体ではありませんか。このような韓国援助は直ちに中止すべきであると思うが、総理大臣並びに関係大臣の答弁を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
  〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手〕
#31
○国務大臣(田中角榮君) 渡辺武君にお答えをいたします。
 第一は、金書記官の犯行は韓国政府の犯行と見るべきである、主権侵害の認定は被害国独自の権限で行なうべきであるという趣旨の御発言でございますが、本事件については、現在捜査中の段階であり、主権の侵害があったと現時点で断定することはできませんということは、間々申し上げておるとおりであります。しかし、今後わが国の判断により、主権侵害があったと認められるに至った場合には、韓国政府の確認の有無にかかわらず、わが国独自の決定により必要な措置をとることは当然であります。
 次は、韓国は自由と民主主義を基本目標とする国であると認識しておるという答弁に対して、その根拠を示せということでございますが、韓国憲法は、前文において「自由民主的秩序をより強固にする新しい民主共和国を建設する」とうたってあり、この基本目標に向かって努力をしておる国であることは事実でございます。
 次は、日韓条約、共同声明の韓国条項を廃棄し、対韓政策を転換せよという趣旨の御発言でございますが、政府は、日韓両国の友好親善関係の維持発展を基本といたしており、日韓条約を廃棄するということは全く考えておりません。六九年の日米共同声明の韓国に関連して述べられた部分は、事実認識を述べたものでありまして、共同声明の性質上、あとになって特定部分を取り消すとか修正するとかいう問題は、そもそも起こり得ないものなのであります。対韓政策を根本的に転換することは考えておりません。
 最後に、対韓経済援助は日本の朝鮮侵略に道を開くものであるという断定でございますが、わが国の対韓援助は、韓国の民生の向上と国民経済の均衡ある発展に貢献することを目的として行なわれてきたものであります。今回の事件との関連では、さらに事件の解明に努力をしておる段階であります。援助の打ち切りや援助政策の変更は考えておりません。
 残余の問題については、関係閣僚から答弁をいたします。(拍手)
  〔国務大臣田中伊三次君登壇、拍手〕
#32
○国務大臣(田中伊三次君) 国家機関がやった場合には主権の侵犯が起こる。その場合の国家機関とは、上層部であろうと末端部であろうと区別はない。国家に責任がある。なお、衆議院の本会議において述べてきたところでございますが、国家機関がみずからやらず、個人を手先にして侵しました場合においても、その国家に責任がある。この理論は申し上げるまでもないことでありますけれども、国家機関の行為というものが主権の侵犯を起こすのでありますから、その行為はあくまでも、当然のことでありますが、職務行為でなければならぬ、私の行為でなく職務行為でなければならぬ、当然のことである、こういう見解でございます。(拍手)
  〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手〕
#33
○国務大臣(大平正芳君) すでに総理からお答えがございましたが、渡辺さんの御質問の中で、金大中氏の再来日の問題、金東雲氏の任意出頭の問題について今後どうするかという御質問でございましたが、これは真相究明の上、今後ともしんぼう強く先方の協力を求めてまいるつもりでございます。いま、御承知のように、捜査上の制約にぶつかっておることは事実でございますけれども、私どもは、この問題の真相の究明があって公正な解決を期さなければ問題の解決になりませんので、その点につきましては、韓国政府も、総理が先ほど御答弁になりましたように、御異存はないところであろうと思いまするので、今後、先方に対しまして、その要請を執拗に求めてまいりまして、解決を急ぎたいと考えております。(拍手)
  〔国務大臣江崎真澄君登壇、拍手〕
#34
○国務大臣(江崎真澄君) わが国は基本的人権を尊重する自由民主主義を基調としておりまするので、一般的に申しまして、どんな団体、組織であっても、過去に組織として違法行為の実績がない、わが国憲法のもとでわが国の法令に違反しない範囲で活動を続けておりまする限り、警察が取り締まりの対象とすることはできません。しかがって、KCIAを視察、取り締まりの対象にいたしておりませんので、その実態については、泊尋ねでありまするが、わかりません。また、本件にKCIAが関与しておるという証拠は、これまでの捜査で明確になっておりません。したがって、お説のような追放措置ということは早計だと考えます。
 警察といたしましては、あくまでも予断と憶測を排しまして、本件の真相を究明し、確認できた事実に基づいて、違法行為者に対しましては、それが外国人であろうと何であろうと、きびしく措置をとるべく鋭意捜査をしておる、これが実情であります。
 また、事件に関係のある犯人がわかれば、その者に対して法的なきびしい措置をとることは申し上げるまでもないことであります。いやしくも犯人とわかりながら国外逃亡を野放しにしておるなどということは、日本の警察に限っては断じてありません。(拍手)
  〔国務大臣中曽根康弘君登壇、拍手〕
#35
○国務大臣(中曽根康弘君) 私への御質問に対する御答弁は、いま総理大臣が申し上げたことに尽きております。対韓経済協力は、平和を目的にして公明正大なものであり、軍事的背景はございません。(拍手)
     ―――――・―――――
#36
○副議長(森八三一君) 日程第二 屋外広告物法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院回付)を議題といたします。
#37
○副議長(森八三一君) これより採決をいたします。
 本案の衆議院修正に同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕
#38
○副議長(森八三一君) 過半数と認めます。よって、本案の衆議院修正に同意することに決しました。
     ―――――・―――――
#39
○副議長(森八三一君) 日程第三 船舶安全法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)を議題といたします。
 まず、委員長の報告を求めます。交通安全対策特別委員長西村関一君。
  〔西村関一君登壇、拍手〕
#40
○西村関一君 ただいま議題となりました船舶安全法の一部を改正する法律案について、交通安全対策特別委員会における審査の経過並びに結果を御報告申し上げます。
 本法律案は、最近のわが国におけるモーターボート、遊漁船等の小型船舶の普及及び海難事故の現状にかんがみ、その堪航性及び人命の安全の保持をはかるため、小型の船舶に対して構造設備等に関する施設基準を定めて検査を統一的に実施するとともに、これを行なうことを目的とする小型船舶検査機構の設立等について定めようとするものであります。
 委員会におきましては、小型船舶検査機構の運営、漁船の検査対象の範囲、レジャーボートに対する航法及び航行水域規制の必要性等船舶の安全確保に関する各般の問題について熱心な質疑が重ねられましたが、その詳細は会議録により御承知を願います。
 質疑を終了し、別に討論もなく、採決の結果、本法律案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 次いで、日本社会党神沢委員より、総トン数二十トン未満の漁船の検査対象範囲の拡大、船舶検査体制の整備、レジャーボートの航法及び航行水域の規制を内容とする五党共同の附帯決議案が提出され、全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
 以上御報告申し上げます。(拍手)
#41
○副議長(森八三一君) これより採決をいたします。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕
#42
○副議長(森八三一君) 過半数と認めます。よって、本案は可決されました。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後零時一分散会
ソース: 国立国会図書館
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