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1972/03/30 第71回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第071回国会 法務委員会 第13号
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1972/03/30 第71回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第071回国会 法務委員会 第13号

#1
第071回国会 法務委員会 第13号
昭和四十八年三月三十日(金曜日)
    午前十時三十一分開議
 出席委員
   委員長 中垣 國男君
   理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君
   理事 谷川 和穗君 理事 福永 健司君
   理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君
   理事 青柳 盛雄君
      井出一太郎君    植木庚子郎君
      住  栄作君    羽田野忠文君
      松本 十郎君    日野 吉夫君
      正森 成二君    山田 太郎君
 出席政府委員
        法務政務次官  野呂 恭一君
        法務大臣官房長 香川 保一君
        法務省刑事局長 安原 美穂君
 委員外の出席者
        最高裁判所事務
        総局刑事局長  牧  圭次君
        法務委員会調査
        室長      松本 卓矣君
    ―――――――――――――
委員の異動
三月二十九日
 辞任         補欠選任
  保岡 興治君     地崎宇三郎君
同日
 辞任         補欠選任
  地崎宇三郎君     保岡 興治君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 刑事補償法の一部を改正する法律案(内閣提出
 第八二号)
 刑事補償法及び刑事訴訟法の一部を改正する法
 律案(横山利秋君外六名提出、衆法第二号)
     ――――◇―――――
#2
○中垣委員長 これより会議を開きます。
 おはかりいたします。
 本日、最高裁判所牧刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○中垣委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
     ――――◇―――――
#4
○中垣委員長 内閣提出、刑事補償法の一部を改正する法律案及び横山利秋君外六名提出、刑事補償法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案、両案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。大竹太郎君。
#5
○大竹委員 まず、この刑事補償法の基本的な問題について若干お尋ねをいたしておきたいと思います。
 と申しますことは、この刑事補償法は、申し上げるまでもなく、憲法四十条の「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、國にその補償を求めることができる。」という規定がございまして、「法律の定めるところにより、」という法律が、とりもなおさずこの刑事補償法だろうと思うわけでありますが、同じ憲法第十七条によりますと、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、國又は公共團體に、その賠償を求めることができる。」という国家賠償法のもとになる憲法の規定があるわけであります。この十七条は、いわゆる不法行為、故意または過失を原因とする損害ということになっておりますが、四十条は故意、過失を問わないことは申し上げるまでもないわけでありまして、考えようによっては、この四十条は第十七条のただし書き的なもの、特別規定であるといってもいいかと思うわけであります。なぜ、この一般不法行為と、抑留または拘禁された後という、この犯罪に関する国家行為とを分けたのであるか、そしてまた先進国の法令その他によって、これは大体分けられているものであるかどうか、それらの沿革等もあわせて御見解を承りたいと思います。
#6
○安原政府委員 大竹先生御指摘のとおり、憲法の十七条が、国家の公権力の行使によって国民に損害を与えた場合の、いわゆる広い意味での賠償の基本原則を定めたものだと存じます。つまり御指摘のとおり、公権力の行使における公務員の故意、過失があった場合、不法行為の場合にはその損害を賠償するということが十七条の考え方でありまして、これが国民に損害を与えた場合の基本原則をうたっているものと承知しております。
 ところで四十条は、御指摘のとおり、抑留、拘禁に関します公務員の故意、過失のある、ないを問わず、無罪になった場合補償するのでございまして、これはおっしゃる点からいえば広い意味での賠償ではございますけれども、故意、過失を問わないという点において大いに異なるのでございまして、どうしてこういう規定が憲法に設けられたかということを考えますに、ことば自体も賠償とはなくて、四十条は補償ということばがございますように、これは故意、過失を問わないわけでありますが、結局、私ども考えますに、抑留とか拘禁ということは、それが適法になされた場合でありましても、その抑留、拘禁をされた方が結果的に無罪になったものにつきましては、そういう抑留、拘禁というようなことは他に例を見ない高度の不利益な処分でありまして、損害がきわめて重大であるというところから、こういう制度を認めて、国の側と損害を受けます国民との公平の観念から、無過失であっても補償しようということであろうというふうに考えております。
 なお、外国の立法例につきましては、刑事補償ということは、いま申し上げましたように、無過失を前提とするものでございますので、そういう制度をとっておる国自体が非常に少ないわけではございますが、そういう制度をとっている国が欧米等にあるということはございます。
#7
○大竹委員 それでは、いまの問題はあとに関連してくることもございますから、その節また多少お聞きするかもしれませんが、条文改正の部分について質問を申し上げたいと思います。
 補償日額の最高を千三百円から二千二百円に改定しようとするわけでありますが、最低の六百円はそのままにしてあるわけでございまして、まず第一に、最高額を二千二百円にする理由、またこの積算の根拠というものは一体どこにあるのか、これは資料もいただいておりますけれども、ひとつ詳しく御説明をいただきたいと思います。
#8
○野呂政府委員 いま大竹先生のお話は、上限を千三百円から二千二百円に改正したのはどういう理由であり、またその積算の根拠はどこにあるかということであります。
 現行の刑事補償法が制定されました第六回の国会におきます審議過程から考えてまいりましても、補償金の算定の基準日額が一日二百円以上四百円以下と定められましたのは、旧刑事訴訟法の一日五円以内という基準を一応基礎といたしまして、それに現行法制定当時におきます賃金あるいは物価あるいは刑事訴訟法におきます証人の日当の額、これらを勘案して、この程度であれば一応補償されたといえるのではないかという、常識的判断に基づいていたように思うのであります。その後、この基準日額を昭和三十九年に一日四百円以上千円以下に引き上げられたわけであります。さらに昭和四十三年には一日六百円以上千三百円以下というふうに引き上げられたのでありまして、それぞれ、法の制定当時と改正当時との賃金や物価の平均上昇率というものを考慮して改正されてきたものであると考えます。
 ところで、四十三年以降におきます賃金及び物価の変動を考えてみますと、四十三年をかりに一〇〇といたしました場合に四十八年の推定指数は、賃金の面におきましては全産業常用労働者の一日の平均賃金現金給与額が二〇五・四であります。物価関係では全国消費者物価が一三三・七でございます。これらの数値を平均いたしますと一六九・六ということに相なります。
 そこで、四十三年以降におきますこのような経済事情の推移に基づきまして実際に改定された補償金額の大半が現行法の基準日額の上限である千三百円とされておりましたが、これがいわゆる頭打ちの現象を示しておることでありますので、こういう点から考えましていわゆる冤罪者に対する補償の改善をはかるためには右の基準日額の上限を二千二百円に上げるのが相当ではなかろうかということで、現行の上限千三百円を二千二百円に引き上げたわけであります。先ほど申しました賃金及び物価の上昇率を平均したものが一六九・六でございますので、これを現行の千三百円に掛け算をいたしますとちょうど二千二百五円でございますが、五円を切り捨てて上限を二千二百円といたしたわけでございます。
#9
○大竹委員 いまのお話にもございましたように、千三百円が頭打ちになってきたというお話でございますが、それを数字的に御説明をいただきたいと思います。何人ぐらい補償を受けて、それがどういうような……。
#10
○牧最高裁判所長官代理者 昭和四十三年から昭和四十七年までの数字を見てまいりますと、昭和四十三年に補償の決定を受けました者が二十人ございまして、そのうち千三百円の支給決定を受けた者が十一名でございます。率にいたしますと五五%ということになります。それから四十四年は決定を受けました者が八十一名で、そのうち最高額の千三百円を受けております者が五十六名で、比率にいたしますと六九・一%ということになります。それから四十五年は二百十名決定を受けておりまして、そのうち千三百円の支給を受けております者が百七十五名でございまして八三・三%になっております。四十五年はいわゆるメーデー事件の一審判決、大須事件の一審判決で無罪とされた者がございましたので数が多くなっております。それから四十六年度は五十四名全体として補償決定を受けまして、そのうち千三百円の支給決定を受けました者が三十三名で六一・〇%ということでございます。それから四十七年は、補償決定を受けた者が六十名で、そのうち千三百円の支給決定を受けました者が五十二名、率にいたしますと八六.六%ということでございまして、千三百円の支給決定を受けました者が、四十三年の比率五五%から四十七年になりまして八六・六%まで上がってまいりまして、大体頭打ちの傾向に近くなってきているということが申せようかと存じます。
#11
○大竹委員 次に、今度の改正は最高額を二千二百円にするわけでありますが、最低のほうは六百円ということで据え置きというわけであります。先ほど来お話がありますように、現在の賃金の実情また物価の最近の値上がり等からいいますとこの六百円というのは非常に少額でありますし、こんな金額の補償という実情から見て一体どういうことなのか、特に、私はあとでまた御質問申し上げたいと思いますが、被疑者補償規程のほうを見ますと上限一日千三百円、これは刑事訴訟法に見合って千三百円にしてあったのだろうと思いますが、このほうは上限だけをきめて下限はきめていないわけでありまして、二千二百円以下ということにしておけばそれでいいかと思うわけでありますが、その点についてのお考えを伺いたい。
#12
○安原政府委員 御指摘のとおり、従来刑事補償におきます基準日額の改正にあたりましては、下限につきましても賃金や物価の上昇等を考慮いたしまして引き上げを行なっていたところでございます。しかしながら、実際に決定されました補償金額の中には裁判所の裁量によりまして現行法の日額の下限である六百円で決定されている事例が間々あるわけでございます。その内容を最高裁からお聞きして検討してみますると、抑留または拘禁の前後を通じまして当該被疑者、被告人に定職がなく、収入が皆無でありますために、抑留または拘禁によりまして財産上の損害をこうむることがなかったと認められる者、あるいは精神障害や飲酒による異常めいていのために責任能力がないと認められた者等特別の事情がある場合に六百円という下限がきめられておるように見受けられるのでありまして、これらの者に対しまして高額の補償をするということは何か国民の感情に反するのではないかと考えたのであります。したがいまして、右のような者に対しましては、裁判所の裁量によりまして低い額の補償をする余地を残しておくのが相当ではなかろうかと考えまして、今回の改正につきましては下限の引き上げを行なわなかったということでございます。ちなみに昭和四十三年から四十七年までの五年間のうちに一日当たりの補償金額が最下限の六百円で決定された者が二十一名おりまして、そのうち心身喪失と責任能力がないということで無罪になった者が十一名、残る十名は犯罪の証拠なしということで無罪になった者でございます。
#13
○大竹委員 たしかこの前の刑事補償法の金額を引き上げるときにも非常に問題になったかと思うのでありますが、いまお話しになったような精神的なものその他から無罪になったという者にはやらぬでもいいじゃないかという話すら出たような記憶があるわけであります。そういうような面から見ますと、むしろ六百円より下でもいいじゃないかというような考えもされるわけでありまして、そういう面から見ましても二千二百円以下ということのほうが合理的じゃないかと思うのですが、重ねてお尋ねをいたします。
#14
○安原政府委員 被疑者補償規程には御指摘のとおり最下限がないということは、ある意味におきまして、さきに御質問にもお答えしたと思いますが、いわゆるあの被疑者補償は検察官の自由裁量ということをたてまえにした制度でございますので、下限を特に設けなかったということであろうと思いますが、刑事補償の点につきましては、やはり下限を設けるということによって一種の補償を定型化するとともに、下限についての保障を与えるほうが妥当であろうという立法政策に基づくものであろうと考えます。
#15
○大竹委員 次に、死刑に対する補償でありますが、今度は三百万円から五百万円に引き上げるということでございますが、御承知のように自賠責なんかも現在では五百万円になっているというようなことからいたしまして、そういうようなことも勘案して五百万円にされたのではないかというようなことも考えているわけでありますが、この五百万円に改正される理由はどこにあるのか、また理論的にこの五百万円というものでなければならぬのか、それらについてお考えを伺います。
#16
○野呂政府委員 死刑の執行によります補償は、現行法が三百万円以内で裁判所が相当と認める額の補償金を交付しておるわけであります。ただし本人の死亡によって生じた財産上の損失が証明された場合におきましては、その損失額に三百万円を加算した額の範囲内で裁判所が補償金額を定めるものとされておることは先生御承知のとおりであります。この三百万円という金額は、いわゆる精神的な苦痛に対する慰謝という性格を持っておるものと考えております。この金額は現行法制定当時五十万円でありましたが、昭和三十九年の改正によりまして百万円に引き上げられ、さらにまた昭和四十三年の改正によって現行の三百万円に引き上げられたのであります。従来の国会におきまする審議経過を見ますると、特に計数的な根拠はなく、もっぱらこの程度で相当するという常識的判断がこの額の決定になっておるのではないかと考えられます。したがいまして、この三百万円という基準金額も昭和四十三年に定められたものでありますが、今回身体の拘束による補償の基準金額が引き上げられるとするならば、死刑執行による補償の基準金額をも引き上げることが適当である、こういうことでございます。
 また、最近の交通事故による死亡を理由とする損害賠償請求事件におきまする慰謝料の額が大体五百万円以下の程度で認められておるという現状でございますので、この際これを五百万円とすることが相当ではなかろうかというふうに考えて改正をいたした次第でございます。
#17
○大竹委員 ついでにお伺いしておきますが、日本では誤って死刑の執行をやってしまったという案件はないと思うのでありますが、これは諸外国その他でこういうことが問題になったという例がありましょうか。どうですか。
#18
○安原政府委員 この前当委員会の資料要求ということで横山先生からそういう御指摘がございまして、実は調べてみたのでございますが、わが国に前例がないことはもう間違いございません。その他外国の文献によりましても、そういう事例があるということが資料としてはわかりませんので、一つだけ、その横山先生のお尋ねに答えたのでございますけれども、イギリスでジョン・ブラットフォード事件というのがございまして、ブラッドフォードという者が死刑にされたのですが、それは十九世紀ころのことでございまして、ブラッドフォードが経営する旅館で殺人事件がありまして、同人が死刑の判決を受けて、処刑されたが、数カ月後に被害者の雇用人が犯人であることが判明したというようなことが文献にあらわれておりまするが、それくらいでありまして、幸いにしてと申しますか、ほかには事例を生じておりません。
#19
○大竹委員 次にお伺いしたいのでありますが、この刑事補償についての予算の問題であります。
 この四十七年度の予算を見ますと、二千二万六千円ですか、になっておりますが、四十八年度は千二百七十万何千円ということで、御承知のように最高限を上げているにもかかわらず、四十八年度の予算は四十七年度に比べて七百三十二万円減額されているということで、そういう面ではつじつまが合わぬというように思うのでありますが、それはどういうことでありますか。
#20
○牧最高裁判所長官代理者 刑事補償金の予算はいわゆる裁判費でございますが、裁判費につきましては、大体事件数計算によって予算を積算いたしております。
 本年度の予算では、いわゆる昭和四十六年度における刑事補償金の支出実績に本年度における事件数の予想をかけ合わせまして算出しておるわけでございますが、昭和四十六年度の支出実績が少なかったために、本年度の予算としては、一応昨年度よりも単価の増がございましても、総額としては少なくなっておるわけでございます。
 この補償金の事件数を申しまするときわめて数が少ないものでございますので、年度内に起こるであろうことの予想される事件数ということを予想することがきわめて困難でございまして、実際問題といたしましては予算に一定の数量を計上はいたしてございますけれども、もし足らなくなりました場合には、あるいは予算の流用なりまたは予備費の使用ということでまかなってまいることになろうかと存じます。
#21
○大竹委員 いまのお話が出ましたからついでにお伺いしておきたいと思います。
 もちろん、この刑事補償法も請求してはじめて補償を受けれるわけでありますが、いままでの実績からいたしまして請求を受けれる案件のうち、どれだけが一体請求を受けておるのか、それをお聞かせいただきたいと思います。
#22
○牧最高裁判所長官代理者 請求ができる人間というのを特に統計上とっておりませんので、まあ一応推定的に計算するよりしかたがないかと思いますが、大体過去、昭和四十二年から昭和四十六年までの無罪確定人員が二千五百十四名でございまして、そのうち補償を請求いたしましたのが五百八名でございます。したがいまして、請求率は二〇・二%ということに相なっております。
 ただ、この無罪確定人員は二千五百十四名と申しましても、このうち拘禁された者がどの程度あるかということがわからないわけでございます。それで、一般の拘禁のまま起訴されたという数字によって推定いたしてまいりますと、約三割ぐらいが勾留されたままで起訴された者ということになりますので、それを無罪になった者についても同様の率であるというふうにして推測いたしますと、請求し得べき人員の約五〇%が請求しているという数字になろうかと存じます。
#23
○大竹委員 次に、先ほどちょっと触れたのでありますが、この被疑者の補償規程について若干お伺いをしたいと思うのであります。
 先ほど申し上げましたように、このほうも上限はいままで一日千三百円ということになっておるわけでありますが、この刑事補償法の改正に伴ってこの上限はやはり二千二百円にされるのであるかどうか、そしてこれに対する予算措置は一体どうなっているのか、そしてまた先ほどお伺いしたようにこの実施状況は一体どうなっているのか、これらについてお聞かせをいただきたいと思います。
#24
○安原政府委員 本法の改正が成立いたしました場合におきましては、大竹先生御指摘のとおり現在の千三百円を最高額二千二百円に引き上げることとする予定でございます。
 それから運用の実績でございますが、この前当委員会からの資料要求で「被疑者補償事件一覧表」という刷りものを差し上げておりますが、実は補償事件の補償をした例が非常に乏しゅうございまして、昭和四十三年には二人、四十四年には二人、四十五年には一人、四十六年にはゼロ、四十七年に至りまして四十四人ということで、数としては非常に乏しいのでございます。そしてこれはいわゆる請求権の対象にはならないで、先ほど申しましたように検察官の自由裁量によりまして一方的に差し上げるという補償でございまして、もちろんそういう職権の発動を被疑者であった方からされるということも含めまして、いま申しました補償人員よりもより多く、一応被疑者補償規程を適用すべきかどうかということは検討された実績がございまして、四十三年には補償人員は二人でございますが、そういう申し立てがあったものが六人でございますし、四十四年は申し立てと補償の結果とは一致しておりまして二人、四十五年は補償人員は一人でございますが申し立ては三人、四十六年は補償はゼロでございますが申し立ては五人、それから四十七年は申し立ては四十五でございますが、補償は四十四というようなことになっております。
 さようなことで、支給の実際におきまして支給いたします場合には、大体その当時におきます最高日額を差し上げておるわけでございますが、こういう実績にかんがみまして、予算の関係では来年度も過去の実績というものが常に尊重されますので、予算の額としては二十万円という少額でございますが、不幸にしてそういう事態が起こりました場合におきましては、予算の流用等によってまかなうということはできることでございます。
#25
○大竹委員 次にこれに関連してお伺いしておきたいと思うのでありますが、憲法四十条の規定から見ますと、被疑者に対する補償というもの、これは規程として置くということも一つの見解かもしれませんけれども、最近の民主的なものの考え方とでも申しますか、そういうような面からいたしますと、この被疑者補償の問題もこの刑事補償法の中に規定を設けてやるべきでないかやというふうなことも考えられるわけでありますが、それに対して法務省の見解をお伺いしておきたいと思います。
#26
○安原政府委員 大竹先生御指摘のことは、現行法ができます昭和二十四年当時におきましても検討がなされたようでございます。確かに気持ちとしてはそういうことがよくわかるのでございまするけれども、被疑者補償のような問題を刑事補償の一環として取り上げるということになります場合に、次のような問題があり、そのことがまた立法を困難にしておるということになるものと考えております。
 まず被疑者補償ということを刑事補償の中に取り入れました場合におきましては、いわゆる無実の被疑者に対する補償をその者の権利として認めることに相なるわけだと思うのであります。しかしながら検察官の不起訴処分というものを見てまいりますと、罪とならずとか嫌疑なしの理由で不起訴処分にした場合、これに対して補償請求権を認めるとすることは、検察官が行ないますところの不起訴処分に裁判所が言い渡します判決と同じような公の確定力を与えるということになるわけでありまして、それは不起訴処分というものの実質から考えましてどうもそういう確定力を与えるような処分ではない。たとえて申しますれば、不起訴というのは一応の処分ではございますけれども、証拠が集まったという場合にはさらに公訴提起ができるわけでございまして、その後の情状を見て起訴を猶予するということもあるわけでございまして、いわゆる確定的な力を持つ処分ではない。そういう確定的な力を持たないものに対して、その結果について補償請求権を認めるということは、制度としては疑問がある。
 さらにこの不起訴処分というものを申し上げますと、たとえば抑留、拘禁をしたが、その後捜査中に新たな証拠が発見されまして、その場合にこれ以上完全な捜査を遂げましても起訴するに値しないという判断に達する場合がございます。そういう場合には最終的には事実関係を、被疑者の責任の有無を確定するまでの捜査を行ないませんで、しかもそのことが結局は被疑者にとっても利益でございますということもありまして、これは嫌疑があって起訴猶予にするのかというところまで徹底的に調べないで、嫌疑なしということで不起訴処分にする場合もあるのでございます。検察官の不起訴処分と申しますものは、必ずしもいわゆる被疑者の無実を確定するものではない、そういうことでございますので、そういうものに確定力を与えるということに問題があるんではないかということが一点と、もう一つは、被疑者に補償請求権を認めるためには、やはり罪とならずとかあるいは嫌疑なしとの理由以外の理由、たとえば私の申しました嫌疑不十分と検事はいっておるけれども、おれは罪にならないのだ、嫌疑がないんだという主張、あるいは起訴猶予と検事はいっておるけれども、ほんとうはそれは嫌疑なしであり、罪とならずだというふうに、真実は無実であることを被疑者のほうから争うという道をあけておかなければならないと思うのでございます。そういう裁判によって明らかにしてもらうというような権利を被疑者に与えるということが制度としてはぜひ必要になってくるだろうと思うのでございますが、このような検察官の行ないます事件の不起訴処分のすべてにつきまして、その当否で、裁判所の判断を求めるようにすることは、先ほど申し上げましたような検察官の不起訴処分の性格あるいは現行の刑事訴訟法が、言うならば不告不理の原則、検察官による公訴権の独占ということをたてまえとしまして、ようやく検察審査会による検察官の不起訴処分に対する抑制といいますか、そういう制度をとり、わずかに検察官の公訴権独占の例外として公務員の職権濫用罪について準起訴手続が認められておるという現在の刑事訴訟法のたてまえからいうと、いまのように検察官不起訴処分がすべて裁判所の当否の判断の対象になるということは、たいへんな刑事訴訟法の基本的な性格の変革にもなるというような点から考えまして、どうも事務当局としてはそこまでは相当ではないという判断のもとに、補償法の中に取り入れなかったというのが従来の経緯であり、今日もそういう考えでおります。
#27
○大竹委員 最後に、社会党から出されております刑事補償法の改正について政府の見解をお聞きしておきたいと思います。
 この社会党からお出しになっております案を見ますと、一番大きな差異は、身柄不拘束の場合についても無罪の判決を受ければこれに対して補償をすることができるというふうになっておるわけでありますが、これに対する政府の見解をまずお聞きいたしておきたいと思います。
#28
○野呂政府委員 社会党の御提案の改正案についてのうち、身柄不拘束の場合におきまして無罪の判決が出ればこれに対する補償を受けられるようにしたらどうだろうか、こういうことでございますが、これは予算委員会の分科会で横山先生の御指摘に対して大臣も答えております。立法上の問題につきまして関係当局から御説明申し上げ、また必要があればお答え申し上げたいと思います。
#29
○安原政府委員 横山先生ほかの先生方のいわゆる社会党案の御趣旨というものが、われわれといたしましては間違っているとは思いません。ただ結論から先に申し上げますれば、今日における立法政策としては、そういう非拘禁の場合の補償まですることは法政策上相当ではないという判断でございます。
 その理由を、やや長くなりまするが、一応のわれわれの考えをまとめておりますので、あえて申し上げさせていただきますと、国の公権力の行使による損害の補償は、先ほど冒頭にも申し上げましたようにその本質が損害賠償であるという以上は、本来損害の発生について当該公務員に故意、過失がある場合に限って行なうべきものでありますから、無過失による場合を含む補償は、それを必要とするだけの特別の理由がある場合でなければならないというふうに基本的に考えるのであります。したがいまして、刑事事件により起訴された場合に、身柄の拘束を受けた場合とそうでない場合とでは、無罪を言い渡された者の受ける損害の程度が著しく異なることは申すまでもないところでございまして、現行刑事補償法が前者の場合、すなわち拘束を受けた場合においてのみ補償をすることとしておりますのは、身柄の拘束が国の各種の公権力の行使の中できわめて特殊のものであること、すなわち、身柄の拘束は刑事手続の性質上その必要性が肯定されるものである反面におきまして、これを受ける側におきましては他に例を見ない高度の不利益な処分であり、損害が重大であることを考慮したという特別の理由によるものと考えられるのでございます。
 それから、刑事事件によりまして起訴されました場合に、被告人が物質的、精神的な損害を含めまして現実に種々の不利益を受けることがありますことは否定できないところでございます。しかしながら、身柄の拘束を受けました場合は別といたしまして、被告人がこうむりますその他の不利益は、およそ公権力の行使に伴って通常生ずべき不利益の範囲に属すべきものではないかと考えられます。たとえてみますれば、国民の権利義務に重大な関係のございます海難審判とか特許審判あるいは許可、認可の取り消し処分等に誤りがありまして、その結果国民に損害を与えることもあり得るのでございますが、これらの場合におきましては、直ちに国がその損害を補償するという制度は設けられておらないのでございます。当該公務員に故意、過失がある場合に限って国家賠償法による賠償請求が認められているにすぎないのでございます。
 さような点を考えますと、検察官が十分な根拠に基づきまして適法に公訴を提起した場合におきまして、裁判の結果無罪になったという理由だけで、非拘禁者に対しまして当該公務員の故意、過失の有無にかかわらず損害を補償するということは、いま指摘いたしましたような行政処分等の場合との関係におきまして均衡を失することになるのではないかと思うのでございます。
 したがいまして、非拘禁者に対します補償は国家賠償法の手続により行なうのが相当であるというふうに考えるのでありまして、それがまた国の補償に関する現行法制の基本的な立場といたしまして、憲法十七条及び四十条の規定にそれがあらわされておるんじゃないかと思うのであります。
 次に、現行の刑事訴訟法におきましては、被告人は有罪判決があるまでは御案内のとおり無罪の推定を受けるものとされておりますため、御承知のとおり検察官にすべての立証責任が課せられているのであります。そして無罪の推定を保障するために、さらに刑罰権の実現そのものに対しましても黙秘権あるいは証拠法則の厳格な制限というものがあるのでありまして、訴訟法は訴追によって被告人に特別の不利益をこうむらせないようにするとのたてまえが貫かれていると思うのであります。そこで、刑事手続によりまして無罪の裁判を受けた者に対しまして、訴追されたことのみを理由といたしまして一律に補償を行なうことは、無罪の推定を前提といたします刑事訴訟手続のたてまえと矛盾するおそれがあるのではないかというふうに考えられるのであります。
 その次に、やや技術的なことでございますが、ひとしく無罪の裁判を受けました場合でございましても、身柄を拘束された場合におきますところの損害とそうでない場合におきます損害とでは質的に大きく異なっている。誤って公訴を提起された者が受ける損害や程度は、身柄拘束の有無を問わず、人によってもちろん千差万別ではございまするけれども、身柄拘束の場合は、これによって生ずる直接の損害を明確な形でとらえることができ、したがって刑事補償法の現行法のようにこれを定型化し得るのでありますが、これに反して非拘禁者の場合におきましては、公訴を提起されたことによる不安あるいは苦痛、社会的名誉の低下、失職その他得べかりし利益の喪失などを考えることはできまするけれども、はたしてそういう損害があったのかどうか、またどの程度の損害を生じたかにつきましては、訴追されました犯罪の軽重、ピンからキリまでございます犯罪の軽重あるいは公判審理の長短等の要因もからみまして、個々の事件ごとに具体的な判断をする以外に方法はなくて、いわゆる無過失責任と申しますか、無過失補償であります補償法の補償額の定型化ということはきわめて困難だという技術的な問題もあるように思います。
 さらに諸外国の立法例を見ましても、刑事補償が国の無過失責任を認めた特別の制度でありまするところから、刑事補償制度を設けている国自体がさほど多くない上に、補償の範囲を身柄不拘束の場合にも及ぼしている外国の例というものは、今日までのところわれわれ見当たらないのでございます。
 以上のような種々の観点から、社会党案が間違っているとは申しませんが、立法政策としてそれをとることは相当ではないという考えを持っております。
#30
○大竹委員 最後に御質問しておきますが、改正案によりますと、費用の補償についても審級にかかわらず無罪との判決が確定した場合においては国が補償したらどうかというのが改正案の趣旨でございますが、いまの御答弁等によりますと、身柄不拘束の場合においても、国の側において故意または過失があった場合には、いまの費用もあわせて国家賠償法によって請求できると解釈してよろしいですか。
#31
○安原政府委員 御指摘のとおりと思います。
#32
○大竹委員 質問を終わります。
#33
○中垣委員長 次回は、来たる四月三日火曜日午前十時十五分理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
   午前十一時十九分散会
ソース: 国立国会図書館
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