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1972/01/27 第71回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第071回国会 本会議 第3号
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1972/01/27 第71回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第071回国会 本会議 第3号

#1
第071回国会 本会議 第3号
昭和四十八年一月二十七日(土曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程第三号
  昭和四十八年一月二十七日
   午後一時開議
 一 国務大臣の演説
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 田中内閣総理大臣の施政方針に関する演説
 大平外務大臣の外交に関する演説
 愛知大蔵大臣の財政に関する演説
 小坂国務大臣の経済に関する演説
   午後一時四分開議
#2
○議長(中村梅吉君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 国務大臣の演説
#3
○議長(中村梅吉君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説、外務大臣から外交に関する演説、大蔵大臣から財政に関する演説、小坂国務大臣から経済に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣田中角榮君。
  〔内閣総理大臣田中角榮君登壇〕
#4
○内閣総理大臣(田中角榮君) 第七十一回国会の再開にあたり、施政に関し、所信を申し述べます。
 世界が注目し、待望していたベトナム和平は、明日を期して実現することになりました。これは長かったベトナム紛争が解決に踏み出したというだけでなく、新しい平和の幕明けであります。人類が恒久平和と社会正義に基づく繁栄の実現に向かい、新しく進むべき第一日を迎えたものと思います。
 第二次大戦後、四半世紀余の歳月が過ぎました。国際政治は、力による対立の時代を経て、話し合い、協調へと移行してきました。これは、緊張と混迷の中で多くの経験を積んだ人類の英知の勝利であります。
 わが国は戦後、世界に例のない平和憲法を持ち、国際紛争を武力で解決しない方針を定め、非核三原則を堅持し、平和国家として生きてまいりました。これは正しい道であったと思います。(拍手)
 今日、大きな経済力を持つに至ったわが国は、国際政治、国際経済の転換期の中で、平和の享受者たるにとどまることなく、新しい平和の創造に進んで参画し、その責務を果たすべきであります。この際、平和を一そう確実なものとするため、核をはじめとする全般的な国際軍縮に貢献してまいりたいと考えます。
 東西問題のあとを受けて、大きく浮かび上がってきたのは、南北問題であります。地球上における富の偏在を改め、南北問題を合理的に解決することなくして、真の平和を確保することはできません。
 敗戦ですべてを失ったわが国も、四半世紀前はゼロから出発し、経済の復興に取り組んだのであります。その後、お互いが汗水を流し、一所懸命に働いたかいあって、IMF十四条国から八条国へのステップを踏み、わが国は、いまや国際社会に大きな影響を及ぼす国に成長したのであります。南の開発途上国が経済的な自立、社会的な安定を達成できるよう、わが国の経済力と技術の力を提供し、援助することは、わが国に対する世界的な要請であり、国際社会に対するわが国の責務でもあります。わが国の援助は、量的には、国際的目標である国民総生産の一%をほぼ達成しております。しかし、政府援助の拡大、借款条件の緩和、ひもつきでない援助の推進など、質の面ではOECD加盟諸国の平均水準を下回っております。援助の質の改善については、国連貿易開発会議において表明した基本方針に従って、最善の努力を続け、相手国にほんとうに役立つ援助をしてまいります。(拍手)
 わが国が直面している緊急課題は、ベトナムに実現しつつある平和を確固たるものにするための貢献であります。戦火に荒らされたインドシナ地域の復興、建設のため、できる限りの努力を尽くすとともに、ようやくできかけた和平を定着させるため、アジア諸国をはじめ太平洋諸国を網羅した国際会議の開催の可能性を検討したいと考えております。(拍手)もとより、アジアの国際政治はヨーロッパに比べてはるかに複雑であり、新しい安定の基盤を築くことは容易なことではありません。戦後の復興とインドシナ半島の平和維持のため、真剣な討議の場が設けられ、よりよい方策が見出されるならば、平和はやがてアジア全体の安定につながっていくのであります。
 政府が、長い間の懸案であった中華人民共和国との関係を正常化したのも、アジアの平和と安定に寄与すると考えたからであります。(拍手)今後は互恵平等の精神で、両国間の親善友好関係の基盤を一そう固めていかなければなりません。近く大使を派遣し、多くの実務関係の円滑な処理に当たらせたいと考えております。(拍手)
 同じく隣国であるソ連とは、平和条約の締結が懸案となっておりますが、すでに軌道に乗っております両国の関係は、経済、文化の分野で年々着実な発展を遂げております。特に、シベリアの開発協力については、日ソ両国にとって長期にわたり有意義なものとなるよう実現に努力したいと思います。
 わが国が政治信条や社会体制を異にする諸国との間に対話を進め、平和な国際社会の建設に積極的に参画していくためには、わが国と同じ自由と民主主義を奉ずる諸国との友好関係の維持が基本であり、実際的であることは言うまでもありません。その中で、特に日米関係が重要であることは、私が就任以来一貫して強調してきたところであります。(拍手)
 この機会に、わが国の防衛について一言いたします。
 わが国が必要最小限の自衛力を保持することは、独立国として平和と安全を確保するための義務であり、責任でもあります。しかし、自衛力の保持とあわせて、日米安全保障体制を維持しつつ、国際協調のための積極的な外交の展開、物心両面における国民生活の安定と向上、国民すべてが心から愛することのできる国土と社会の建設、これらがしっかりと組み合わされる中に、わが国の平和と安全が保障されることを強調したいのであります。(拍手)
 いまから二十年前、二千八百二十四カ所もあった本土の在日米軍施設区域は、いまや九十カ所に整理、統合されました。加えて、さきに開かれた日米安全保障協議委員会において、本土及び沖繩を通じ十カ所の施設区域の整理、統合が合意されました。これは、本土では関東平野の首都圏、沖繩では県都那覇という国民にとって社会的、経済的に最も重要な地域での整理、統合であり、その意義はきわめて大きいと思います。(拍手)政府は、わが国の独立と安全のため必要な施設区域は今後とも提供を続けてまいります。同時に、急速な都市化現象などによって引き起こされている基地問題と真剣に取り組み、その整理、統合を検討するとともに、基地と周辺住民の間に無用な摩擦が生じないように万全の対策をとっていく考えであります。(拍手)
 わが国は、いま、内外から国際収支の改善対策を迫られております。資源に乏しく、狭い国土に一億をこす人口をかかえるわが国は、海外から原材料を輸入し、これに付加価値を加え、製品として輸出するという貿易形態をとっております。貿易の振興を国是としてきたわが国は、自由世界第二位の経済力を持ち、二百億ドルに近い外貨準備を持つようになったのであります。しかし、わが国がいままでのように大幅な国際収支の黒字を累増させていくことは、国際的な理解を得られないだけではなく、国際社会において最も大切な信頼を失うことになります。このため昭和四十六年十二月、多国間通貨調整の一環として円平価の切り上げを行ないました。さらに、輸出の適正化、輸入の拡大、経済協力の拡充、国内景気の振興による輸出の内需への転換などに総力をあげて取り組んでまいりました。さきの臨時国会で過大ではないかとの批判を受けながらも、六千五百億円の補正予算を編成したのはこのためでありました。しかし、このような努力にもかからわず、なお、所期の目的を達成しておりません。輸入は増大しておりますが、輸出もなおかなりの高水準を続けており、昭和四十七年度を通じ貿易収支の黒字は、八十九億ドルと見込まれております。このような状況のもとで、一部に円の再切り上げ論が唱えられています。しかし、一昨年の平価調整の効果はまだ完全にあらわれておりません。円の再切り上げがわが国経済に与える影響を考えれば、切り上げ回避のためあらゆる努力をいたさなければなりません。貿易立国を国是としているわが国は、自由貿易が阻害されるような事態を避けるため、全力を傾ける必要があります。現に国際間には保護主義が台頭しつつあります。このような事態が進む場合、広い意味では南北問題を解決するための大きな障害ともなりますし、わが国経済の発展を阻害することにもなります。わが国がガットの場においてケネディラウンドを積極的に推進し、現に新国際ラウンドを提唱しておるのはこのためであります。
 国際収支の均衡をはかることば、緊急の課題であります。このため関税の引き下げ、輸入・資本の自由化を一そう推進しなければなりませんが、国内には自由化にたえられない分野があることも事実であります。しかし、政府としては、この大目標を達成するため、国内対策に万全を期しながら自由化を進めていかなければならないと考えます。
 わが国は、戦後驚異的な経済成長を遂げ、国民総生産は百兆円に達しようとしております。昭和三十年の十二倍であります。一人当たり国民所得も増大し、イギリスの水準に近づいてまいりました。社会保障制度も西欧先進国に劣らない制度を持つに至っております。しかし、その内容はまだ十分とはいえず、これを整備して国民福祉を充実しなければなりません。すべての問題を同時に解決することはできませんが、新しい長期経済計画のもとにおいて社会保障の位置づけを考えており、計画的に内容の整備をはかってまいります。(拍手)
 昭和四十八年度予算においては、社会保障費二兆一千億円を計上いたしました。理想には遠いかもしれませんが、最善の努力をいたしました。(拍手)すなわち、老齢福祉年金については、当面夫婦一万円に引き上げるとともに、厚生年金及び国民年金についても、いわゆる五万円年金を実現し、あわせて年金額の物価スライド制を導入することにいたしたのであります。(拍手)また、老人医療の無料化を六十五歳以上の寝たきり老人にまで拡大するほか、心身障害者をはじめ援護を必要とする人々についても、収容施設の整備充実をはじめ血の通った援護の手を差し伸べてまいります。(拍手)さらに、難病奇病について、原因の究明、治療費の公費負担及び医療体制の計画的な整備などの施策を推進いたします。
 国民共同の負担としての公費負担については、国民の要望が強く、かつ、重要なものから一つでも多く実現するため努力をしていることを御理解願いたいのであります。(拍手)
 社会保障は、国民各層の連帯感にささえられ、経済成長の成果が社会のすべての階層に対し行き渡るものでなければなりません。私は、引き続いて社会保障の充実に努力してまいります。
 また、働く人々がゆとりと潤いのある生活ができるよう、勤務条件の改善をはかるとともに、余暇を活用するための勤労者いこいの村の建設、余暇情報の提供などを行なってまいります。(拍手)
 物価の問題は、先進工業国に共通する現代の悩みであります。わが国の場合、消費者物価は過去数年来平均五%台の上昇を続けてきましたが、幸い卸売り物価はほぼ横ばいに推移してまいりました。ところが、昨年来、卸売り物価が高騰し始めております。羊毛、木材、鉄鋼など一部の商品を中心としたものではありますが、このような現象をそのままにしておくことはできません。欧米先進国においては、コスト圧力を生産性の向上によって吸収し得ないような事態が生じておりますが、わが国においてこのようなことが起こることは避けなければなりません。
 当面の物価対策としては、まず輸入の積極的な拡大をはかることであります。昨年、対外経済政策の一環として関税率の一律引き下げ、輸入割り当てワクの拡大など輸入増大政策を実施しましたが、今後も国民生活と密接な関係のあるものを中心として、関税率をさらに引き下げるとともに、輸入の自由化と輸入割り当てワクの拡大を推進いたします。また、生鮮食品など生活必需物資の価格安定をはかるため、生産対策、流通対策について格段の予算措置を講じたのであります。独占禁止法の厳正な運用によって、適正な価格形成が行なわれるよう競争条件を整備することも必要であります。さらに、労働力不足を緩和するため、中高年齢層、婦人などを対象とする職業訓練や職業転換対策など労働力の流動化を推進いたします。また、長期的な構造対策として、農業、中小企業、サービス業などの低生産性部門の高能率化及び輸送面における隘路の打開につとめます。このような物価対策を総合的に推進するため、経済企画庁に物価局を設置することといたしました。
 私は、これだけで物価問題が解決するとは考えません。物価安定の基本は、経済活動全体が均衡ある姿で安定した成長を続けることであります。このためには供給の円滑化をはかるほか、総需要面の動向を注視しながら財政の運営に慎重を期するとともに、金融政策の適時、適切な組み合わせが必要であります。外貨の累増などに関連して企業の手元資金が潤沢となり、土地などに対する投資に向けられたという事実は否定できません。過剰流動性は吸収されなければなりません。このためすでに、預金準備率の引き上げや窓口規制など金融面の措置もとられつつあります。物価の安定は、国民が最も求めている政治課題であり、私は、今後とも必要な施策を果断に実施してまいります。(拍手)
 土地問題は、政治が直面している最大の課題であります。土地は、財産であり、財産権は、憲法によって保障されております。しかし、財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律で定めるものとされ、また、正当な補償のもとでは、私有財産を公共のために用いることができることとなっております。私は、憲法が認める範囲内で、最大限に公益優先の原則を確立し、土地が広く公正に国民に利用されるよう努力いたします。(拍手)これが土地政策の基本であります。全国的な土地利用の混乱をなくし、土地の値上がりによる社会的な不公平を改めるには、長期政策と、緊急に必要な政策をあわせて行なう必要があります。このため、国土の総合的な利用によって土地供給の増加をはかるとともに、全国的な土地利用基本計画を策定し、あわせて土地取引の届け出制、取引の中止勧告、開発行為の規制などを行なってまいります。都道府県知事が指定する地域については、一定の期間、特に、土地の投機的取引を防止し、開発行為を凍結するため、土地取引の届け出制の拡充、先買い制度の創設、土地所有者から地方公共団体などに対する買い取り請求権の付与などの措置をとってまいります。
 公的な用地取得と宅地供給を促進するため、地方公共団体などによる土地の先買いを推進するとともに、住宅公団の機能の充実を行ないます。また、宅地の供給を促進するため、大規模な宅地開発事業、特に都道府県、市町村などによる事業の推進をはかってまいります。さらに、休耕田の活用をはかるとともに、農業協同組合などを通ずる土地賃貸方式も早急に導入する考えであります。
 政府は、土地に対する投機的な需要を抑制し、土地の供給を促進するため、法人の土地譲渡益について重く課税する一方、特別土地保有税も創設することといたしました。また、投機的な土地の取引に対する融資を抑制するため、金融機関に対する指導を強力に進める方針であります。
 戦後の高度成長と今日の繁栄をささえてきた人口や産業の都市集中の結果、公害問題が深刻になってきました。生命と健康が何よりも大切であることは言うまでもありません。その意味で、公害を防除して健康な生活環境と美しい自然環境を確保することは、政治に与えられた現在の至上命題であります。このため、生産第一から生活優先へ経済政策を転換し、地域の住民や職場で働く人々の生命、健康を害することのない産業と技術を開発していくことが緊急に必要であります。景気の回復に伴い、産業界には新しい設備投資に向かう動きが見られます。しかし、これまでのような民間の設備投資主導による経済成長を改め、公害防除のための設備投資、工場が過密都市から地方へ移転するための投資などに重点を置いていくことが必要であります。このため、金融当局とも協力して適切な指導を行なってまいります。
 政府は、全国の自然環境保全の基本方針を樹立し、国土の総合開発の施策との調整をはかりながら、自然保護対策を展開してまいります。また、汚染者負担の原則に立脚しながら汚染物質の減少をはかるため、環境基準をきびしく改め、排出規制における総量規制の導入など規制を強化するとともに、無公害コンビナート技術の開発をはじめ、公害防止技術の開発にも一そう努力したいと考えます。(拍手)新しい技術の開発や導入にあたっては、それが人間や自然に弊害を及ぼさないよう、その内容を総合的に把握し、技術の再点検を進めてまいります。
 公害被害者に対しては、救済に万全を期するため、新たに公害被害者の損害賠償を保障する制度を創設することとし、成案を得次第今国会に法律案を提出いたします。
 さらに、交通事故、危険な商品、労働災害、新しい職業病などに対して、国民の安全を確保するため、必要な施策を講じてまいります。
 以上のほか、環境問題をはじめ現代社会における広範な問題に対処して、実効性のある研究開発を助け、育成するため、シンクタンクの機能を持つ特別の機関を官民合同で設立することといたしております。
 現在、わが国の総人口の三二%に当たる三千三百万人の人々が、国土面積のわずか一%にすぎない地域に集中しております。しかも、わが国はアメリカのカリフォルニア州よりも狭いのであります。したがって、こうした過密地域においては、公害、物価、土地不足などの問題が生じ、深刻になるのは必然であります。特に、過密化している大都市では、都市の改造、再開発を急がなければなりません。しかし、人口や産業の大都市集中を無制限に放置したまま、その改造を行なうことは不可能であります。(拍手)
 このような現状を改め、国民が健康で豊かな生活ができるようにするためには、片寄った国土利用を改め、国土全体の均衡のとれた発展をはかり、きれいな空気と水、緑に恵まれた住みよく暮らしよい地域社会を計画的に建設することが必要であります。(拍手)私が、人と物と文化の大都市への流れを大胆に転換し、日本列島の改造を提唱してきたゆえんもここにあります。(拍手)
 政府は、今後、大都市の再開発、生活環境施設を中心とする社会資本投資の拡大、教育、文化環境の整備などを含めた総合的な施策を強力に進めます。また、交通・通信ネットワークの整備、工業の全国的な再配置、地方都市及び農村環境の整備などを実施してまいります。工業の全国的再配置の促進のため、地方へ移転していく工場に対しては、環境保全施設整備のための補助金、移転資金の低利融資、税制上の加速償却などを行なってまいります。また、工場を受け入れる市町村に対しては、緑地などの整備のために補助金を交付してまいります。さらに、移転した工場のあと地は、公園など公共の目的のために有効に活用してまいります。
 これらの施策を強力に推進するため、十分な企画調整権限を持った総合的な行政機構として国土総合開発庁、その実施機関として国土総合開発のための公団を創設することといたしました。
 この際特に申し上げたいのは、国土の総合開発を進めるにあたって、地域住民の意向を尊重するため、地方自治体などの意見を反映した政策を実現したいことであります。
 沖繩の振興開発につきましては、沖繩の特性を生かしながら環境の保全を優先させ、新しい時代に即した豊かな地域社会を実現するようつとめます。このため、昭和五十年に開かれる国際海洋博覧会のための施設の整備をはじめ、沖繩振興開発計画の実施を推進し、沖繩県民の長い歳月にわたる労苦に報いてまいります。(拍手)
 また、高能率農業の育成、生産と生活とを一体とした農村環境の総合的な整備をはじめとする農業の近代化政策を進めるとともに、中小企業については、これまでの施策に加えて、小企業を対象とした無担保、無保証の経営改善資金の融資制度を創設することにより、その近代化をはかってまいります。
 国鉄は国民の足であり、輸送の大動脈であります。わが国の輸送は、その地形、地勢上の理由からいって、道路、鉄道、内航海運が有機的に一体となって組み合わされてこそ、初めてその機能を十分に発揮できるのであります。現在国鉄は、その経営努力にもかかわらず、累積赤字が一兆二千億円に達しております。国鉄経営の健全性が維持されなければ、国民生活に重大な影響を及ぼすことになります。国鉄自身の合理化や経営努力だけでは国鉄の再建は不可能であります。このため政府は、国鉄に対し思い切った財政援助をすることといたしました。国鉄財政再建十カ年計画を策定し、一兆五千億円余の出資を行なうほか工事費補助、再建債に対する利子補給などを行なうこととしておりますが、これらの国の一般会計による助成は、国民全体の税金によってまかなわれるものであります。財源にはおのずから限度があります。社会保障など欠かすごとのできない支出の拡充が要請されるとき、国鉄の場合、必要最小限の負担は、利用者に求めざるを得ないのであります。(拍手)国鉄運賃の改定を提案するのは、このためであります。
 医療保険制度も、抜本的な解決をはからなければなりません。来年度においては、家族医療給付率を五割から六割に引き上げ、家族高額療養費の支給など給付内容の改善を行なうことといたしました。同時に、累積赤字二千八百億円に達する政府管掌健康保険に対しては、定率一〇%の国庫補助の導入により八百億円の財政援助を行なうことといたしたのであります。このように政府は、できる限りの対策を講ずる一方、保険料率を改定して、被保険者にも応分の負担を求め、その改善をはかってまいります。(拍手)
 教育の振興が重要なことは申すまでもないことであります。戦後行なわれた教育改革からすでに四半世紀の時を過ごし、その制度は定着をしましたが、なお改革を要する問題は数多くあります。国際人としてだれからも尊敬され、信頼される新しい日本人を育てるための教育制度の確立のために、私たちはたゆみない努力を払うべきであります。人間形成の基本が小、中学校で定まることを思えば、義務教育を充実し整備することは、何よりも大切な問題であります。(拍手)小中学校の校長が退職後再び町に職を求めなければならないような現状を改めるため、定年の延長について真剣に検討をいたしておるのであります。今回、これらの教員に対し給与の増額予算を計上したのは、子供を導く先生によき人材を得て、先生がその情熱を安んじて教育に傾けられるような条件を一日も早くつくりたいと願ったからであります。(拍手)この措置は、たとえささやかなものであっても、やがては大きく実を結ぶものと考えております。(拍手)
 大学は学ぶところであります。世の親たちは、子弟が大学生として広く、高い知識を吸収し、よき社会人として世に出ることを期待しております。しかし、いまだに学園に紛争が絶えないのは遺憾なことであります。かつてはよい環境の中にあった大学も、急速な都市の過密化によって大都市内の教育環境が破壊されているのも一つの原因であります。また、管理運営にとっても、過密は大きな支障をもたらしておるのであります。
 諸外国の大学に見られるように、山紫水明の立地条件のもとで理想的な教育環境をつくることができないはずはありません。(拍手)大学の地方分散と新しい大学の設立を考え、新たに調査費を計上したのもこのためであります。(拍手)私学の振興は重要な課題であり、助成措置の拡大をはかっております。
 教育は、次代をになう青少年を育て、民族悠久の生命をはぐくむための最も重要な課題であることを思い、理想的な教育の条件と環境の確立にたゆみない努力を傾ける所存であります。(拍手)
 以上申し述べましたように、本年の重点的な政治目標は、平和外交の推進、国際収支の不均衡の是正、社会保障の充実と生活環境の整備、物価の安定、国土総合開発の推進などであります。私は、これらの課題を解決するために最善の努力を傾ける決意であります。
 もとより新しい政策は、長期的な視野に立ち、国民的な支持と理解を得ながら総合的かつ計画的に実施していかなければなりません。このため、わが国経済社会の発展の方向と政策体系は、新しい長期経済計画をもって明らかにしてまいります。
 現代社会は、大きく深い変化を経験しつつあります。内に外に変革期の課題は、山積しております。私は、さきの総選挙を通じて国民の政治に対する期待や不満を痛いほどに感じ取りました。
 人間性を回復した平和な新しい日本をつくるには、古い制度や慣行にとらわれることなく、産業や経済のあり方を大胆かつ細心に変えていかねばなりません。しかも、当面している難問を解く処方せんは、わが国の歴史に先例を求めることができません。他国にその例を見出すことも不可能であります。
 新しい時代の創造は、大きな困難と苦痛を伴うものであります。(拍手)しかし、私は、あえて困難に挑戦し、議会制民主主義の確固たる基盤に立って、国民のための政治を決断し、実行いたします。(拍手)そして結果についての責任をとります。(拍手)国民各位も積極的に発言し、ともに日本の将来を切り開く歴史的な事業に参加してほしいのであります。(拍手)
 私たちは、これまでもお互いに多くの障害を乗り越えてまいりました。こうした日本人の英知と、日本経済の活力は、いささかも衰えてはいないのであります。一億をこえる私たち日本人が、ひたすらに平和の道を歩み、物心ともに豊かな社会を建設するため、総力をあげて国内の改革に進むとき、外に平和、内に福祉の新時代のとびらを開くことは、必ずできると確信をするのであります。(拍手)
 国民各位の御理解と御支援をお願いいたします。(拍手)
    ―――――――――――――
#5
○議長(中村梅吉君) 外務大臣大平正芳君。
  〔国務大臣大平正芳君登壇〕
#6
○国務大臣(大平正芳君) 第七十一回国会の冒頭にあたり、わが国をめぐる国際情勢を概観し、わが国外交の基本方針につき所信の一端を申し述べたいと思います。
 ここ一両年の間に、米中の接近が実現し、米ソの間におきましては、戦略兵器の制限に関する合意に加えて貿易協定等の締結が行なわれ、宇宙その他若干の分野におきましては具体的な協力さえも進められております。欧州におきましては、東西両独の和解が成立し、欧州安全保障協力会議、相互均衡兵力削減交渉など、平和維持のための新たな動きが見られます。
 ベトナムにおきましては、当事者の忍耐強い努力の結果、ついに停戦が実現し、第二次大戦後初めてアジアから戦争の業火が消えることになりました。また、これまで典型的な冷戦状態にありました朝鮮半島におきましても、南北の間に自主的な統一を目ざした真剣な対話が進められております。さきに達成を見た日中国交の正常化も、アジアにおける対話の道を大きく開いたものであるといえましよう。
 このように、体制の垣根を越えていろいろな形の緊張緩和への動きが見られます反面、アジアには、民族的、宗教的、政治的要因に基づく紛争の種が各地に根強く残存しております。ベトナム停戦後におきましてもインドシナ半島に真の安定が確立されるためには、なお幾多の曲折と相当の歳月を要するものと考えられます。また、世界の名地には経済その他もろもろの困難をかかえて、国内に緊張が高まっているところもあります。中近東の情勢はいまなお不安定であり、中ソ間の対立も依然として緩和のきざしを見せておりません。
 しかしながら、このような不安定要因が随所に存在しておるにもかかわらず、世界全体の趨勢は、平和を求めて対決から対話に向かい、他動的な低迷から自主的な選択を指向する方向に移りつつあるものと見ることができます。
 一方、わが国は、戦後、幸いにして国際的な紛争の圏外にあって、みずからの国力をつちかい、いまや国際社会の平和と繁栄をささえる主要な柱の一つとして、応分の役割りと責任を果たす立場になりました。
 政府としては、このような認識に立って、急速に拡大した外交的基盤を固めつつ、新たな構想と決意をもちまして、責任ある外交を進めてまいる考えであります。
 このため、私は、次の諸点に外交政策の重点を指向してまいりたいと思います。すなわち、まず、日米友好関係を基軸とし、日中並びに日ソ関係につきましてはそれぞれその発展への努力を重ねつつ、アジアにおける緊張緩和への動きを促進し、平和を強固ならしめるために精力的な外交を展開すること、次いで、国際経済の秩序ある発展に寄与し、かつ各国との経済関係を円滑にするため、対外、対内の諸施策を精力的に進めること、第三に、開発途上国への援助を拡充すること、第四に、文化外交の推進に一そう力をいたすことがこれであります。
 以下、わが国が実施すべき具体的施策について申し述べます。
 まず、アジア太平洋諸国との関係について申し上げます。
 日中国交正常化後の日中関係は、順調に進められております。政府間におきましてはもとより、民間の交流も活発に行なわれ、相互の制度、慣行及び考え方につきましてその理解が深められつつあります。政府は、近く大使の相互交換を実現し、実効ある実務諸協定と平和友好条約の交渉を、順を追うて進めてまいる所存であります。
 朝鮮半島につきましては、われわれは、南北間の自主的な対話により、半島における緊張緩和が一そう促進され、南北間の関係が平和的な統一に向かって改善されていくことを希望するものであります。われわれは、韓国が今後とも経済の自立と民生の安定を達成することを期待しつつ、同国との協力関係を維持してまいる方針であります。他方、北朝鮮との接触については、きめこまかい配慮を行ないつつ、これを漸進的に広げてまいる考えであります。
 わが国は、ベトナム和平交渉の妥結により、インドシナ地域に永続的平和への道が開けたことを歓迎し、この地域の真の安定が確保されることを心から念願するものであります。そのためわが国は、アジアの諸国はもとより、関係各国とともに、同地域の復興開発計画を含む諸般の方途を探求し、進んでその実現に向かって努力してまいる所存であります。
 インドシナ地域の難民、戦争犠牲者の救済等の問題は、緊急を要する問題でありますので、迅速に援助の手を差し伸べることができるよう、すでに必要な予算的措置を講じております。
 近年、アジアには、ASEAN諸国の動きに見られますように、地域協力による自助と自主性追求の意欲が顕著になりつつあります。政府としては、かかる地域的協力の進展を高く評価いたしますとともに、できる限りの支援と協力を惜しまない考えであります。
 他方、一部のアジア諸国においては、わが国の経済的影響力が過大になることを危惧する声も聞かれ、摩擦が発生しているところもあります。政府としては、アジアの諸国民との心のつながりを強めつつ、長期的視野に立ちまして相手側の立場と利益を考慮し、経済協力の推進と片貿易の是正に一そうの努力をいたす考えであります。
 インド亜大陸におきましては、関係諸国の間で平和回復への努力が行なわれ、状況は漸次鎮静に向かいつつあります。わが国としても、これら諸国の経済の自立に応分の協力をいたす考えであります。
 豪州及びニュージーランドは、かねてよりアジア諸国との連帯強化を求めており、特にわが国との関係をますます重視しております。カナダもまた、わが国をはじめアジア諸国との関係を強めつつあります。わが国といたしましては、これら諸国との協力関係を拡充強化し、相携えてアジア太平洋地域の平和と繁栄に貢献してまいりたいと考えております。
 次に、日米関係について申し述べます。
 米国との間の緊密な友好協力関係は、わが国の外交の基軸であり、わが国が広く多角的な外交を積極的に推進する場合の基盤ともなるべきものであると思います。したがって、わが国と米国との間におきましては、信頼と理解を一そう深めるため、政治、経済はもとより、その他あらゆる分野にわたりまして、政府間のみならず、学界、経済界、言論界等の間に幅広い接触を行ない、間断ない対話を続けてまいらなければなりません。
 日米間における目下最大の懸案は、申すまでもなく大幅な貿易収支の不均衡の是正であります。われわれは、日本経済の健全な発展のためにも、また日米友好関係の維持、増進のためにも、対外経済面で思い切った施策を講じ、わが国の経常収支の多角的均衡をはかりつつ、対米収支を大幅に改善することが肝要であると考えております。
 米国との相互協力及び安全保障条約は、わが国の安全と繁栄を確保するために不可欠のものであり、アジアの平和の維持のために必要な条件の一つでもあります。また、これは、いまや日米間の相互の信頼と協力の関係を具象する紐帯にもなっていると考えます。したがって、政府としては、これを軽々しく改廃することなく、手がたく維持してまいることが重要であると考えております。(拍手)しかし、同時に、在日米軍基地のあり方につきましては、都市化の進展等もあり、米国側との話し合いを通じ、その整理統合を積極的に進めておりますことは御承知のとおりであります。
 日ソ両国の関係は、年とともに着実な進展を見せております。政府としては、今後ともその発展に鋭意努力する考えであります。特に、シベリアの資源開発に関する諸計画は、これらが両国相互の長期的な利益に合致するような形で実現することを期待しつつ、検討を進めてまいる所存であります。
 他方、懸案の北方領土問題は、遺憾ながらまだ解決するに至っておりません。政府としては、この問題を解決して日ソ平和条約を締結いたすべく、引き続き忍耐強く交渉を継続してまいる考えであります。
 ヨーロッパにおきましては、本年一月より拡大−欧州共同体が発足し、欧州は世界の政治と経済にますます重要な立場を占めるに至っております。わが国と欧州との貿易関係もとみに活発化してまいりました。政府としては、共同体を中心とする西欧諸国との関係を一そう緊密化するよう、積極的な外交を多角的に推進してまいる考えであります。
 また、東欧諸国との関係も一そうの発展をはかってまいりたいと思います。
 中南米、中近東及びアフリカ諸国との関係は、わが国の経済規模の拡大に伴いまして、貿易、資源開発、経済協力等を中心に、今後ますます深まってまいるものと思われます。政府としては、これら諸国との間に、ひとり経済面のみならず、広く政治、文化の面においても友好関係をさらに増進してまいる所存であります。
 本年は、世界の通貨、貿易体制が、そのワク組みの再編成に向かって一段と大きな前進を見る年であると期待されております。従来、わが国は、世界経済のワク組みをとかく外から与えられたものでして受けとめがちでありました。しかし、わが国経済は、いまや、世界経済の動向を左右できるほどの実力を備えるに至りました。したがって、わが国は、よりよき世界経済秩序建設のために積極的に貢献し、その中でみずからの繁栄を享受するという姿勢に徹することが肝要であると考えます。特に、わが国経済が両三年中に国際的な均衡を達成することは、喫緊の重要事であると考えます。過度にわたる貿易収支の黒字の累積は、わが国経済の構造自体にも由来するところがあるといわなければなりません。したがって、これが是正のために、わが国の経済を福祉型の経済に転換よる諸施策を果断に実施し、関税の軽減、非関税障壁、なかんずく輸入制限の整理と縮小、資本の自由化等を一段と推進することが肝要であると考えます。このように、まずみずからなすべきことをなし、みずからの姿勢を正しつつ、国際通貨改革、新国際ラウンド等の交渉に積極的に参加し、貢献してまいりたいと思います。
 なお、石油を中心とするエネルギー資源の需給問題は、世界的な問題になりつつありますが、資源に恵まれないわが国にとりましては、特に切実な課題であります。政府としては、資源保有国、消費国等との国際的な協調をはじめ、諸般の措置につき長期的構想のもとに鋭意検討を進めてまいる所存であります。
 わが国の経済協力は、あくまでも開発途上国の自助努力に根ざした経済的自立と均衡ある経済的、社会的発展に寄与することを主眼として推進すべきであると信じます。
 わが国は、その方向に向かって、かねてから開発援助の改善と拡大につとめてまいりましたが、政府開発援助のGNPに対する比率、援助の条件、贈与の比率等多くの点において、現状は決して満足すべき状態であるとはいえません。
 政府としては、今後、政府開発援助の対GNP〇・七パーセント目標の達成のため最善の努力を続けますとともに、OECD開発援助委員会等の場における国際的要請を考慮しつつ、援助条件の改善とひもつき援助の廃止などに努力してまいる所存であります。同時に、援助形態の多様化、開発途上国の社会開発部門への援助の拡大等の措置もはかってまいらなければなりません。さらに、アジア諸国はもとより、中南米、中近東、アフリカの諸地域に対しましても、それぞれの地域的特殊性に見合った経済協力を進めてまいる一方、わが国の援助体制自体の整備も進めてまいる考えであります。
 わが国は、戦後一貫して、国連に対する協力を外交政策の主要な柱の一つとしてまいりました。この間に国連は、地球上のほとんどすべての国を網羅する普遍的な国際機構にまで成長いたしました。他方、その取り扱う問題も、経済社会の開発、人間環境の改善、宇宙・海洋の開発、利用等の分野にまで広がってまいりました。政府としては、今後多面的な外交を展開するにあたり、その重要な場の一つとして、国連を一そう積極的に盛り立て、これを活用してまいる考えであります。そのためにも、政府は、国連がその機構と機能の両面にわたり、この四半世紀の間に生じた国際社会の変化を十分反映できるよう強化される必要があると考え、その推進に当たる所存であります。特に、核軍縮を中心とする軍縮促進のため、軍縮委員会等の場を通じまして積極的に貢献してまいることは当面の要務であると考えております。
 次に、文化外交の推進について申し上げます。
 従来の外交は主として政治及び経済の分野に重点が置かれてまいりましたが、いまや、われわれは視野を広げて各国との間に一段と文化交流を活発にし、特に、幅広い分野にわたる人的交流を進めなければなりません。かくしてわれわれは、諸国民との間に心のつながりをつちかうとともに、人類の知的、文化的資産の増大に一段と寄与することができると思うのであります。
 かかる観点に立ちまして、政府は昨年十月、国際交流基金を設立したのでありますが、基金の設立は各国から多大の好感と期待をもって迎えられ、わが国のイメージを改める契機になりつつあることは慶賀にたえません。政府としては、今後、この基金を拡充強化して、人物交流、日本研究等を中心とする幅広い文化交流を進めていくことができますよう、引き続き努力してまいる所存であります。(拍手)
 以上、私は、国際社会の現状を概観いたしますとともに、わが国外交が実施すべき諸施策につきまして、いささか所信を申し述べました。
 わが国存立の前提が、何よりもまず世界の平和と安定にあることに思いをいたし、われわれは、みずからの持つ実力の評価とその行使に誤りなきを期しつつ、静かな勇気を持って責任ある外交を展開し、(拍手)国際協調の実をあげますとともに、国際的信用の向上につとめてまいることが、わが国外交の要諦であると信ずるものであります。
 国民各位の一そうの御理解と御支援をお願いいたします。(拍手)
    ―――――――――――――
#7
○議長(中村梅吉君) 大蔵大臣愛知揆一君。
  〔国務大臣愛知揆一君登壇〕
#8
○国務大臣(愛知揆一君) ここに、昭和四十八年度予算の御審議をお願いするにあたり、その大綱を御説明申し上げますとともに、今後における財政金融政策の基本的な考え方について、私の所信を申し述べたいと存じます。
 わが国経済は、いま三つの課題に直面しております。一つは、国民福祉の向上であります。一つは、物価の安定であります。一つは、国際協調の推進と国際収支均衡の早期回復であります。
 これらの三つの課題を相互に調和させながら、同時に解決をはかることは、まことに容易ならざるものがありまして、これまでに例を見ない財政金融政策に対する新たなる試練であると考えます。私は、この試練に正面から取り組み、一そうの創意と工夫をこらしてその解決に当たる決意でございます。(拍手)
 このような見地から、昭和四十八年度の財政金融政策は、次の三点を眼目として運営する所存でございます。
 その第一は、国民のすべてがみな生きがいを感じ、未来に明るい希望と期待を持てるような、豊かで健全な福祉社会の建設を推進することであります。
 戦後四半世紀にわたり、わが国経済はたくましい成長を続け、昭和四十八年度の国民総生産は、ついに百兆円の大台をこえると見込まれるまでに至りました。この間、高度の雇用水準の達成、国民の所得水準の向上など、目ざましい成果をあげてまいりましたが、いまや新たな決意をもって、均衡のある経済社会の創造のために、この充実した国力を活用し、福祉充実に対する国民の強い要望に積極的にこたえていかねばなりません。
 私は、福祉社会の建設を推進するためには、まず、国民各層が経済成長の成果をひとしく享受し、健康で快適な生活ができるよう、社会連帯感というあたたかい心のきずなでささえられた社会保障を拡充していくことが肝要であると信じます。(拍手)
 また、住宅及び上下水道、公園、緑地等の生活環境施設、社会福祉施設、体育施設などを中心として社会資本を一そう整備するとともに、公害の防除と自然環境の保全を積極的に推進し、わが国の全土にわたり、公害のない住みよい生活環境を整備する必要があります。
 もとより、これらの福祉政策を推進するにあたり、財政の果たすべき役割はますます増大するものと予想されますので、国及び地方を通じ、財政の効率化を推進しつつ、その資源、所得の配分機能をより一そう活用していかなければなりません。同時に、長期的な展望のもとに、国民の税負担等のあり方について、本格的な検討を加えてまいる所存であります。
 公債政策につきましては、景気調整政策の見地からのみではなく、公私両部門の資源の適正な配分をはかるため、民間資金を活用して社会資本の整備を推進するという観点からも、建設公債、市中消化の原則を堅持しつつ、一そう適切な運営を進めてまいりたいと存じます。
 第二は、物価の安定であります。
 最近の物価動向を見ますると、消費者物価は比較的落ちついた動きを示しておりますが、従来安定しておりました卸売り物価は昨年後半から騰勢に転じ、その先行きは必ずしも楽観を許さないものがあります。
 成長を維持し、経済構造の転換を進めながら、物価の安定をはかるとこは、ひとりわが国のみならず、先進諸国のすべてが当面する困難な問題であります。
 しかしながら、消費者物価の安定は、国民生活の基盤であり、その動向は国民の福祉に大きな影響を及ぼす重大な問題であります。政府といたしましては、総需要の水準を適正に保つとともに、円滑な供給体制を整備し、生産、流通、消費の各面にわたって総合的な施策を一そう強化し、物価の安定のために全力をあげてまいりたいと存じます。
 地価の安定をはかることは、現下の急務であります。もとより、地価問題を解決するためには、土地制度の整備等を含むいろいろな施策を総合的に推進しなければなりませんが、財政金融面からもあらゆる施策を講じてまいる所存であります。すなわち、後に申し述べまする土地税制とともに、金融面において、適切な措置を一そう徹底してまいりたいと存じます。
 第三は、国際協調の実をあげ、国際収支の均衡をすみやかに回復することであります。
 近年、わが国力の著しい充実に伴いまして、わが国の決意と行動は、いまや国際社会の大勢に少なからざる影響を及ぼすに至っております。わが国としては、その増大しつつある国際責任を認識して、諸外国との相互理解をさらに深め、国際協調を一そう推進して、世界経済の安定的発展に貢献しなければなりません。
 まず、国際通貨、貿易体制の新しい秩序づくりに進んで寄与していくことが当面の重要課題であります。国際通貨面におきましては、通貨体制の長期にわたる安定をはかるため、新しい国際通貨制度の確立が不可欠の前提となっておりまするが、この問題につきましては、現在、二十カ国委員会を中心として具体的な検討が進められております。また、国際貿易面におきましては、本年からガットの場で次期国際ラウンドが開始される予定となっております。
 わが国としては、あくまで、自由かつ無差別を原則とする一つの世界、ワンワールドの実現を目標とし、世界経済のブロック化や、保護主義の台頭を避けるべきであるという基本的な態度を堅持して国際的討議に積極的に参加し、これを成功に導くようつとめてまいりたいと存じます。
 また、開発途上国に対する経済協力の拡充は、先進工業国としてのわが国の責務であり、同時に、これら諸国の経済発展は、わが国を含めた全世界の平和と繁栄に貢献するものであります。わが国といたしましては、今後とも援助の拡充、特恵関税制度の改善等を通じ、その発展に寄与するよう、国力にふさわしい役割を果たしてまいります。
 ひるがえって、わが国の国際収支の動向を見ますると、通貨調整後もかなり大幅な黒字が続いております。
 通貨調整の効果が国際収支面に浸透するまでには、かなりの期間を要することは、各国共通の認識となっておりまするが、わが国が長期間にわたってこのような黒字を続けておることは、世界経済の安定した発展にとって大きな問題であるばかりでなく、国民福祉を向上させるための資源の有効活用という見地からも好ましくなく、これを適正な水準に戻すためには、引き続き格段の努力を払わなければなりません。
 政府は、かねてより、対外経済政策を推進するため、関税の一律引き下げ、輸入割り当てワクの拡大等の措置を講じてきたのでありますが、国際収支の均衡を達成するためには、基本的には、輸出優先の経済構造を改めることが最も肝要と考えます。この意味において、福祉型経済への転換を進めるとともに、関税の引き下げをさらに推進し、輸入及び資本の自由化等を勇断をもって実施に移す必要があると考えます。
 金融市場は、昨年来、引き続き緩和基調を維持し、景気は順調な上昇過程をたどってまいりましたが、最近に至り、卸売り物価の上昇等、留意すべき動きも出てまいりましたので、先般、過剰流動性の是正をはかるため、準備預金制度の準備率の引き上げが行なわれたところであります。
 今後の金融政策の運営にあたりましては、なお一そう内外経済情勢に深甚な注意を払いながら、財政と相補い、相助け、両者一体となって経済の安定成長を確保したいと考えます。
 同時に、わが国資本市場の国際的地位の向上、金融環境の変化等に対応し、引き続き資本市場の整備、育成に配慮してまいりたいと考えます。特に、昨年来の株価の上昇動向については、かねて格段の注意を払ってまいったところでありますが、長期資金調達の場として株式市場の重要性が高まりつつある現状にかんがみ、市場をより秩序あるものとするため、今後とも適時適切な措置を講じ、もって株式市場の健全な発展に資する所存でございます。
 昭和四十八年度予算の編成にあたりましては、以上申し述べました財政金融政策の基本的方向にのっとり、わが国経済の国内均衡と対外均衡の調和をはかりつつ、長期的視野のもとに、国民福祉の充実向上につとめることを主眼といたしております。
 その特色は、次の諸点であります。
 第一は、予算及び財政投融資計画を通じ、社会保障の充実、社会資本の整備をはじめとして、福祉の充実を求める国民各層の期待と要請に積極的にこたえ得る規模のものとしたことであります。(拍手)
 その結果、昭和四十八年度一般会計予算の総額は十四兆二千八百四十億円となり、前年度当初予算に対し、二四・六%の増、また、昭和四十八年度財政投融資計画の規模は六兆九千二百四十八億円となり、前年度当初計画に対し、二八・三%の増となっておりますが、昭和四十八年度の経済見通しによれば、中央、地方を通ずる政府の財貨サービス購入の伸びは、国民経済全体の成長率とほぼ同程度となっておりまして、経済の安定的な成長を保つことができるものと考えております。(拍手)
 また、公債につきましては、社会資本の充実の見地からこれを適切に活用することとし、一般会計における公債発行規模を二兆三千四百億円といたしておりますが、公債依存度は、昭和四十七年度当初予算における一七%を下回り、一六・四%となっておるのであります。
 第二は、租税負担の軽減合理化をはかったことであります。
 昭和四十八年度におきましては、中小所得者の税負担の軽減を重点に、所得税及び住民税の減税を実施することといたしました。一方、最近における社会経済情勢の変化に即応して、産業関連の租税特別措置の改廃を行なうことといたしておりますが、国税、地方税を通ずる昭和四十八年度の減税額は、全体として初年度約四千六百億円と相なっております。
 第三は、国民生活の質的向上をはかるため、諸施策の充実とその総合的推進につとめることとしていることであります。そのため、社会保障関係経費につき大幅な増額を行なっていることはもちろん、社会資本の整備にあたっても、国民の生活環境の整備に特に重点を置き、また、公害の防止、環境の保全、物価の安定等についても特段の配慮を加えるとともに、国民生活に密接に関連する分野を中心に政府関係金融機関、事業団等の貸し出し金利の引き下げを行なうことといたしております。
 以下、政府が特に重点を置いた施策についてさらにその概要を申し述べます。
 まず、昭和四十八年度の税制改正におきましては、所得税につき、中小所得者の負担軽減をはかるために、課税の最低限を引き上げるとともに、特に給与所得者に重点を置いて、給与所得控除の大幅な拡充を行なうことといたしております。すでにわが国の課税最低限は、欧米諸国に比肩し得る程度に達していたところでありますが、さらに今回の改正により、最低限は夫婦子供二人の給与所得者の場合、前年に対して一〇・七%引き上げられ、百十四万九千円に達する水準となったのであります。
 また、相続税の減税、物品税の軽減合理化及び入場税の減税を行なうほか、有価証券取引税の税率を引き上げることといたしております。
 租税特別措置につきましては、重要産業用合理化機械等の特別償却制度、価格変動準備金制度等産業関連の諸制度について、改廃を行なうことといたしました。他方、福祉対策、公害対策、勤労者財産形成・住宅対策等に資する措置を講ずるとともに、事業主報酬制度を創設することといたしております。
 また、土地に対する投機と地価の騰勢を抑制するため、法人の土地譲渡益に重課することといたしました。この措置は、地方税として実施予定の土地保有税と相まって、土地に対する仮需要を抑制し、あわせて土地供給の促進に資するよう期待している次第でございます。
 次に、歳出について申し述べます。
 第一は、社会保障の充実であります。
 わが国が、欧米諸国に例を見ない速さで高齢化社会を迎えようとしている状況に対処し、年金制度の飛躍的な充実をはかることといたしております。すなわち、厚生年金及び拠出制国民年金について、五万円年金を実現するとともに、物価スライド制を導入するほか、老齢福祉年金についても年金額の大幅引き上げ、扶養義務者所得制限の大幅緩和等の措置を講ずることといたしております。このほか、老人福祉対策につきましては、寝たきり老人について六十五歳以上まで医療の無料化を拡大する等、きめこまかい配慮を行なうことといたしております。
 また、社会福祉施設の整備、障害福祉年金及び母子福祉年金の改善、生活扶助基準の引き上げ、身体障害者、児童、母子等の福祉対策及び難病奇病対策の充実、看護婦夜間手当の引き上げ、戦没者の妻及び父母等に対する特別給付金国債の増額再交付などの措置を講じ、福祉の質的向上に遺憾なきを期しておる次第でございます。
 医療保険制度につきましては、家族給付率の五割から六割への引き上げ、高額医療費の給付等給付内容の大幅な改善を行なうとともに、健康保険財政の健全化のため、所要の改善合理化措置を講ずることといたしております。
 第二は、社会資本の整備であります。
 国土の総合開発を、計画的、かつ、着実に実施するため、各種の社会資本を積極的に充実していく必要があることはもちろんでありますが、その際、交通通信網の整備、工業の再配置、地方都市の開発整備、農村環境の整備等に配意して、国土の均衡ある発展をはかっていかなければなりません。これらの施策の推進をはかるため、国土の総合開発に関する企画調整権限を持つ国土総合開発庁を新設するとともに、事業の実施機関として、工業再配置・産炭地域振興公団を改組拡充して、国土総合開発公団を発足させることといたしております。
 社会資本の整備にあたりましては、特に、住宅及び生活環境施設の整備につとめるほか、青少年の教育環境となる文教施設の充実、国民各層の生活を豊かにする体育、社会教育関係施設等の整備に配意いたしております。このほか、治山、治水等の国土保全のための施策や道路その他の交通施設の整備についても、それぞれ大幅な増額をはかっております。
 なお、道路整備、漁港整備、土地改良の各事業につきましては、それぞれ昭和四十八年度を初年度とする新規の長期計画を策定することといたしております。
 また、日本国有鉄道の財政再建のために、経営の徹底的合理化を進めることはもとより、国からの助成を強化し、あわせて所要の運賃改定を行なうことといたしておりますが、新幹線鉄道等の建設を強力に推進するため、その事業規模を大幅に拡大することといたしております。
 第三は、公害の防止及び環境保全のための施策の推進であります。
 健康で豊かな国民生活の実現をはかるため、下水道、廃棄物処理施設等の生活環境施設の拡充、大気汚染、水質汚濁、騒音等に対する対策の強化、自然保護の充実をはかることといたしております。なお、税制面におきましても無公害化生産設備特別償却制度の創設、低公害車の物品税の軽減等を行なうことといたしました。
 第四は、物価対策の推進であります。
 物価の安定をはかるため、昭和四十八年度におきましても、低生産性部門の生産性の向上、流通機構の合理化、労働力の流動化、競争条件の整備等の施策を推進することといたしておりますが、特に、総合食料品小売センターの拡充、生鮮食料品小売業近代化資金の充実等小売り部門の近代化合理化を促進するなど、消費生活に対するきめこまかい配慮を行なっております。
 第五は、農林漁業及び中小企業の近代化であります。
 需要に即応した農林漁業の振興と生産性の向上をはかるため、その基盤整備、構造改善の推進、金利の引き下げを含む農林漁業金融の充実、農業団地の育成、農畜水産物の流通改善などの措置を講ずることといたしております。
 また、米につきましては、需給の実態に即応した生産調整を行なうこととし、米価水準は据え置きとして、所要の経費を計上いたしております。
 中小企業対策につきましては、中小企業の近代化を促進するため、中小企業振興事業団、国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の融資規模の拡充を中心に、その充実をはかるほか、小企業経営改善資金貸付制度を創設することといたしております。
 第六は、文教及び科学技術の振興であります。
 文教につきましては、教員給与の改善のための財源措置、教員の海外派遣の大幅拡充、私学助成の強化、公立文教施設整備の拡充、社会教育施設及び体育施設の整備、医科大学創設等国立学校の充実、さらに芸術文化の振興及び文化財の保護の充実等の措置を講じております。
 科学技術の振興につきましては、ウラン濃縮技術の開発、宇宙開発、電子計算機技術の振興等の施策を推進することといたしております。
 第七は、海外経済協力の推進であります。
 国際経済社会におけるわが国の役割りが一そう期待されていることにかんがみ、開発途上国の経済開発等に対する援助の充実につとめるほか、アジア開発銀行、国連開発計画等に対する拠出の増額を行なうなど、国際機関を通ずる経済協力についても、その拡充をはかることといたしております。また、このたび、ベトナム和平交渉の妥結を見たことは、まことに喜ばしいことであります。政府といたしましては、インドシナ地域における民生の安定及び向上に資するよう、積極的に配慮をいたしております。
 第八は、防衛力の整備と基地対策の推進であります。
 防衛関係費につきましては、さきに国防会議の議を経て決定した第四次防衛力整備計画に基づき、防衛力の整備をはかるほか、基地の整理統合を積極的に推進するとともに、基地周辺対策事業等を重点的に行なうことといたしております。
 最後に、地方財政対策について申し述べます。
 昭和四十八年度の地方財政につきましては、地方税、地方交付税等の一般財源の相当な伸びが予想され、順調に推移するものと見込まれますが、この状況を考慮しつつ、地方交付税交付金について、昭和四十七年度の特例措置がなくなることによる影響を緩和するため、昭和四十八年度限りの特例措置として、交付税及び譲与税配付金特別会計において資金運用部資金から九百五十億円を借り入れますほか、超過負担の解消、児童生徒急増市町村における小中学校校舎整備費の補助率の引き上げ等による地方負担の軽減、地方債の増額等を行ない、地方財政の適切な運営を確保することといたしております。
 以上、昭和四十八年度予算の大綱について御説明いたしました。
 わが国は、いまやきびしい試練と転換のときを迎え、わが国財政の新しいページが開かれようとしております。
 今後の財政は、充実した福祉社会を建設するため、国民経済の資源をより重点的、かつ、効率的に配分するという積極的な役割りを果たさねばなりません。このことは、民間設備投資や輸出に主導された経済成長の姿が、より財政に比重を置いた成長の姿に移っていくことを意味するのであります。
 私は、長期的な展望のもとに、国民福祉の充実を基本として、物価の安定をはかりつつ、国際収支の均衡を回復するため、財政金融政策に課せられた使命を果たし得るよう、最善の努力を払う所存であります。(拍手)
 国民各位の御理解と御協力を切にお願いしてやみません。(拍手)
    ―――――――――――――
#9
○議長(中村梅吉君) 国務大臣小坂善太郎君。
  〔国務大臣小坂善太郎君登壇〕
#10
○国務大臣(小坂善太郎君) 第七十一回国会にあたりまして、私は、わが国経済の当面する課題とこれに対処する所信を申し述べ、国民の皆さまの御理解と御協力を得たいと存じます。
 わが国の経済は、景気後退下の大幅な円切り上げという試練を乗り越えまして、昨年以来景気は上昇の過程をたどっております。個人の消費、住宅投資、財政支出などの需要の増大を背景として、生産は順調に増加を続け、企業収益の面にも改善が見られます。
 しかしながら、このような景気上昇下において、わが国経済は、大きな試練に直面しつつあります。すなわち、地価、株価及び商品相場に端的にあらわれているインフレ機運を解消するとともに、国際協調を推進する上での障害ともなり、また、国内では過剰流動性の一因となっている大幅な国際収支の黒字を縮小し、さらに、基本的には、生産、輸出に傾斜した経済社会構造を福祉中心型構造へ転換するという課題であります。
 政府は、わが国経済を福祉指向型の安定した成長路線に定着させるように、財政金融政策をはじめとする機動的な経済運営を行なっていく考えであり、これによりまして、昭和四十八年度の実質経済成長率は一〇%余、国民総生産は百十兆円程度に達するものと見込まれます。
 さて、昨年の消費者物価は、野菜や、くだものなどの季節商品の価格の安定や一昨年の不況の影響もあって、比較的落ちついた動きを示してまいりました。しかしながら、最近に至りまして、卸売り物価の騰勢が強まっており、それがやがては消費者物価にはね返る懸念もありまするので、今後の物価動向につきましては十分警戒を要するものと考えられます。政府は、このほど決定した四十八年度経済見通しの中で、消費者物価の上昇率を五・五%と見込みました。これは単なる見通しの数字ではなく、政府、国民がともに努力することによって達成される政策目標であります。
 物価の急激な上昇は、経済社会に大きな混乱をもたらすものでありまして、とりわけ、年金生活者、母子家庭等、成長に取り残された人々にとりまして、その生活基盤を脅かすものでありまして、したがって、政府は、特にこの点に留意し、今後の物価安定に最大の努力を尽くします。
 このために、まず、生活必需品物資の価格の安定をはかるために、生鮮食料品につきまして、卸売り市場の整備、総合食料品小売センターの増設、大規模冷蔵施設の設置など流通機構の改善に努力するとともに、特に、日常野菜については、生産合理化、価格安定の施策を強化いたします。また、生活関連物資を中心に関税を引き下げ、輸入ワクを拡大して、さらには、輸入自由化の計画的推進をはかるなど、安い物資が豊富に消費者の手元に届くように努力をいたします。
 公共料金につきましては、物価全般に及ぼす影響、特にそれが低所得者層に及ぼす影響を考慮いたしまして、極力抑制の方針でありますが、同時に、公共サービスの低下を来たし、国民の福祉が阻害されることのないように配慮していくことも必要であります。
 最近におきまする土地問題、とりわけ地価問題の重要性にかんがみ、政府は、全国的な土地利用計画の策定、土地取引の届け出制、開発行為の規制を行なうことにより、限られた国土の有効利用をはかるとともに、土地税制を強化して、法人などの投機的な土地取得を抑制し、適正な地価の形成が行なわれるようにつとめます。さらに、企業による土地取得に対する過当な融資を抑制するため、金融機関に対する指導を強力に推進してまいります。
 なお、経済が全般的にインフレ傾向に向かうことのないように、政府としては、不断の努力と監視を続け、財政金融政策の一体的な運用を心がけてまいりたいと存じます。また、いわゆる過剰流動性との関連におきましては、先般、日本銀行により預金準備率の引き上げが行なわれたところでありますが、今後とも、金融面において、適切な措置を機動的に講じてまいりたいと存じます。
 政府は、物価対策を一そう強力に推進するために、経済企画庁に物価局を新設することといたしました。これによりまして物価に関する企画調整機能を充実し、物価安定のため、関係各省庁との連携を密にして、国民の声を反映させながら、物価問題に取り組んでまいります。
 さらに、物価の安定とあわせて消費者のための行政にも特に力を入れることとし、PCBなど有害な化学物質の規制、家庭用品の安全性の確保等、消費者の保護対策を一そう強力に充実いたします。
 多角的な通貨調整の実施後一年有余を経過いたしましたが、わが国をめぐる国際経済環境は、依然きびしいものがあります。輸入は、景気の回復に伴い、特に昨年夏以降急速な増加を示しておりますが、輸出もまた、国際的インフレ傾向の影響もあって、依然強含みに推移いたしております。このために、国際収支の黒字は、なおかなりの水準にあり、その均衡化を促進するためには、引き続き格段の政策努力を行なうことが必要であります。
 こうした見地から、昨年末、わが国は、いわゆる第三次円対策を策定し、輸入の拡大、輸出の適正化、資本の自由化、海外投資の促進等をはかっているのでありますが、今後とも一そうこれらの施策を推進するとともに、その基盤となる産業構造、貿易構造のすみやかなる転換をはかってまいります。
 本年、新しい国際ラウンドが発足しようとしておりますが、わが国は、世界が保護主義の流れに巻き込まれることのないよう、みずからも開放経済へのきびしい努力を進めながら、世界貿易の発展と国際協力の推進に積極的な役割を果たしていく所存であります。
 また、わが国が、今日達成されました経済力にふさわしい開発途上国援助を行なうことは、国際的な責務であると考えます。政府は、今後、政府開発援助の量的拡大に一そうの努力をいたしまするとともに、援助条件の緩和、いわゆるひものつかない援助の拡大等その他の質的な改善にも努力してまいりたいと考えております。
 また、待望久しかったベトナム和平協定の発表は、まことに喜びにたえないところでありますが、政府といたしましては、インドシナ全域の復興、建設のため、できる限りの努力を尽くしてまいりたいと考えておる次第であります。
 政府は、近日中に、国民福祉の充実と国際協調の推進を軸とした新しい長期経済計画を決定いたします。この計画は、長期的展望を踏まえつつ、四十八年度に始まる五年間について、わが国経済社会の発展の方向と政策体系の具体的あり方を明らかにし、活力ある福祉社会の実現を目ざして、従来の生産・輸出優先の政策を福祉優先に転換していこうとするものであります。
 これからの経済社会の発展は、国民生活の安定、向上に結びつき、それぞれの創意工夫が発揮され、社会的公正が尊重されるものでなければなりません。こうした基本路線に立ち、この計画は、公害を排除し、自然環境が豊かに保たれるように配慮し、教育や社会保障の充実にも意を用いつつ、国際社会との協調を保ちながら、長期的に発展を続ける経済社会を実現するための方途について、国の長期的な指針を示すものであります。
 なお、このような福祉社会を目ざした政策転換を行なうにあたり、GNPという従来の経済指標のほかに、国民福祉を直接に把握し表現する諸指標の研究、開発をいたしてまいりたいと考えております。
 過去四半世紀のわが国経済の歩みは、まさに成長の歴史でありました。これを可能といたしたものは、とりもなおさず、わが国民のすぐれた資質と旺盛なるエネルギーであったと思います。狭い国土の上に、一億の国民が営々として働き、競い合い、今日の繁栄をもたらしたのであります。しかしながら、急激な成長の反面、公害、過密過疎、海外市場での摩擦など今日さまざまなひずみを生んでいるのであります。いまわれわれは、これまでわれわれの活動をささえていた貧困の中の闘争の哲学を、豊かさを分かちあう協調の哲学に切りかえる必要があると思うのであります。(拍手)
 われわれは、いま静かに海外からの反響について耳を傾けながら、輸出に秩序をもたらし、輸入を増大し、援助の推進につとめるとともに、資源や環境の有限性に配慮いたしながら、設備投資競争と使い捨ての経済から、物を大切にし、浪費をしない、環境をよごさない経済に転換をしなければならないと思います。そして、戦後の経済の復興と発展をささえた経済合理性の論理の上に、人間尊重と調和重視の理念を打ち立てねばならないと思うのであります。(拍手)単に物質面ばかりでなく、精神面についても、豊かな心情がみなぎり、連帯感に満ちた社会を築くことが必要であると思います。(拍手)すべての国民が生きがいを感じ、入間としての可能性を発揮できるような社会を築くことが必要であると思います。(拍手)
 このような意識の変革を通じて、内に高度福祉社会が建設され、外にアジアと世界の平和に貢献する道が開かれると思うのであります。(拍手)
 今日の試練にたえ、これを乗り越えて、真に豊かで潤いのある社会を築くために、政府は十全の努力をいたします。しかしながら、同時に、国民の皆さまもまた、しあわせを求めるには何をなすべきか、国家が持つ苦悩をみずからの問題として考えていただきたいと思うのであります。(拍手)
 国民の皆さまの御理解と御協力を切望いたします。(拍手)
     ――――◇―――――
#11
○中山正暉君 国務大臣の演説に対する質疑は延期し、来たる二十九日午後一時より本会議を開きこれを行なうこととし、本日はこれにて散会されんことを望みます。
#12
○議長(中村梅吉君) 中山正暉君の動議に御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#13
○議長(中村梅吉君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。
 本日は、これにて散会いたします。
   午後二時五十一分散会
     ――――◇―――――
 出席国務大臣
        内閣総理大臣  田中 角榮君
        法 務 大 臣 田中伊三次君
        外 務 大 臣 大平 正芳君
        大 蔵 大 臣 愛知 揆一君
        文 部 大 臣 奧野 誠亮君
        厚 生 大 臣 齋藤 邦吉君
        農 林 大 臣 櫻内 義雄君
        通商産業大臣  中曽根康弘君
        運 輸 大 臣 新谷寅三郎君
        郵 政 大 臣 久野 忠治君
        労 働 大 臣 加藤常太郎君
        建 設 大 臣 金丸  信君
        自 治 大 臣 江崎 真澄君
        国 務 大 臣 小坂善太郎君
        国 務 大 臣 坪川 信三君
        国 務 大 臣 二階堂 進君
        国 務 大 臣 福田 赳夫君
        国 務 大 臣 前田佳都男君
        国 務 大 臣 増原 恵吉君
        国 務 大 臣 三木 武夫君
ソース: 国立国会図書館
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