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1971/04/28 第68回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第068回国会 法務委員会 第20号
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1971/04/28 第68回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第068回国会 法務委員会 第20号

#1
第068回国会 法務委員会 第20号
昭和四十七年四月二十八日(金曜日)
    午前十時三十五分開議
 出席委員
   委員長 松澤 雄藏君
   理事 小島 徹三君 理事 田中伊三次君
   理事 羽田野忠文君 理事 中谷 鉄也君
   理事 麻生 良方君
      石井  桂君    江藤 隆美君
      大坪 保雄君    國場 幸昌君
      千葉 三郎君    中村 弘海君
      福永 健司君    松本 十郎君
      湊  徹郎君    小濱 新次君
      青柳 盛雄君
 出席政府委員
        法務政務次官  村山 達雄君
        法務省刑事局長 辻 辰三郎君
 委員外の出席者
        法務委員会調査
        室長      松本 卓矣君
    ―――――――――――――
委員の異動
四月二十八日
 辞任         補欠選任
  鍛冶 良作君     中村 弘海君
  中村 梅吉君     湊  徹郎君
  中村庸一郎君     國場 幸昌君
  山手 滿男君     江藤 隆美君
  林  孝矩君     小濱 新次君
同日
 辞任         補欠選任
  江藤 隆美君     山手 滿男君
  國場 幸昌君     中村庸一郎君
  中村 弘海君     鍛冶 良作君
  湊  徹郎君     中村 梅吉君
  小濱 新次君     林  孝矩君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案(内
 閣提出第八六号)
     ――――◇―――――
#2
○松澤委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。羽田野忠文君。
#3
○羽田野委員 刑罰としての罰金の持つ機能、目的、こういうふうなものはどういうふうにお考えですか。
#4
○辻政府委員 罰金刑あるいは科料の刑、いわゆる罰金、科料の財産刑でございますが、財産刑の機能といいますものは、犯罪を犯した者から金銭を剥奪して財産上の苦痛を与えるということを内容とするものでございます。そして、その機能におきましては、いわゆる自由を奪う自由刑と同じように、やはり一般予防的機能と特別予防的機能と両方持っておるものと考えるのでございます。
 罰金刑の場合に例をとれば、一般予防的機能は、社会一般に対しまして、一定の犯罪をすれば、財産的利益の剥奪という不利益を受けることを示すことによりまして、一般の方に犯罪を思いとどまらせるという機能がやはりあろうと思うわけでございます。それから、特別予防的機能につきましても、犯罪者に財産的苦痛を与えることによりまして、再び犯罪行為に出ることを抑止しようという機能も、やはりあろうと思うのでございます。
 ところで、この財産刑が持っております一般予防的機能あるいは特別予防的機能、これは、やはり何といいましても自由刑の場合ほど、両方とも機能が強力なものではないだろう、これはまあ否定すべくもないと思うのでございますけれども、財産刑のよい点と申しますと、自由刑のほうはやはり自由を奪うという点において、相当きついといいますか、人権をその意味で制限していくというような反射的な不利益がありますけれども、財産刑の場合には、そういう問題はないという利点がございます。そういうことで、財産刑というものは一般予防的機能、特別予防的機能、両方とも自由刑の場合よりも機能は弱いわけでございますけれども、やはりそういう効果があるわけでございますから、軽微な犯罪につきまして、犯罪性のさほど進んでいない者に対しましては、十分の効果を持っているというふうに考えているわけでございます。
#5
○羽田野委員 罰金刑におきまして、罰金を納付できない場合には、一定期間労役場に留置するということが法律で定められておるわけでありますが、そういう一つのものでなくて、自由刑と財産刑があって、それが選択できるという場合に、自由刑を科するかわりというか、選択ですからかわりではないけれども、本来なら自由刑を科するほうがいいのだけれども、むしろ諸般の事情から高額な罰金を科することによって、刑政の目的を達するというようなこともあり得ますか。
#6
○辻政府委員 本来罰金刑という機能を考えました場合に、これは犯人の財産状況というものが一つの要素として考えられるべきものであろうかとも思うのでございます。これは先ほど申しましたように、罰金刑というものは犯人から金銭を剥奪することによって財産的苦痛を与えるという点に機能があるわけでございますから、たいへん富裕な方から一定の金額を剥奪する場合と、貧困な方から同じ金額を剥奪する場合と、罰金の機能におきまして非常にそこが違ってくるという点は、罰金刑の宿命としてあるわけでございます。
 そういう意味におきまして、犯罪の内容、あるいは犯人の資産の状況という点から考えまして、一定の場合には相当多額の罰金刑を執行することによりまして、罰金刑の十分な機能を果たし得るということは考えられるわけでございますが、ただ、罰金刑の一々の裁判にあたりまして、犯人の資産状況を調査するという点につきましては、また他の面から非常に困難な面もあるわけでございまして、御案内のとおり、現在の刑事司法におきまして、刑法犯の場合はともかく、特別法犯の場合におきましては、一々犯人の資産の状況というものまで考慮して裁判が行なわれているかどうか、この点は疑問のところであろうと考えております。
#7
○羽田野委員 この提案理由の説明を見ますと、第二ページのまん中辺からこういうことが書いてございます。「特に、罰金は、全刑事事件の九五%以上に対して適用され、刑事政策上きわめて重要な役割りを果たしている」この全刑事事件の九五%以上に対して適用されているということの意味ですね、これがちょっと明確でないのですが、どういうことをさしておるのか。それから、傾向的に自由刑と罰金刑、どちらのほうがだんだん多くなる傾向を持っておるのか。
 それから、この提案理由の、いま示したところの二行ぐらい先に、その前にいろいろな罪名を示して、「法定刑の上限ないしこれに近接した額の罰金が言い渡される事例が増大し、いわゆる頭打ちの現象を呈している」ということが示されておりますが、これは大体どういう程度に頭打ち状態が出てきておるか、この詳細をちょっと説明してください。
#8
○辻政府委員 まず第一点の、「罰金は、全刑事事件の九五%以上に対して適用され、」という点でございますが、これは裁判結果別の総計を見てまいりますと、昭和四十五年に全国の裁判所で裁判がございました件数が、人数にいたしまして百六十六万五千三百八名でございますやそのうちで罰金刑に処せられました者が百五十九万八百二十六名でございまして、確定裁判がありました者の九五・五%、これが罰金刑に処せられておる、こういう事実でございます。これは同じような傾向で、四十四年におきましては九五・三%、四十三年におきましては九七・二%、こういう数字を示しておるわけでございまして、この事実を記載したものでございます。
 それから第二点の、罰金刑あるいは自由刑、どちらがふえるか減るかという傾向はいかがなものであろうかという御指摘でございますが、この点につきましては、自由刑と罰金刑の伸び率の割合と申しますか、これについての顕著な変化はないというふうに私どもは思うわけでございます。ここ二、三年の数字から見ますと、多少自由刑のほうが統計の面においてはパーセンテージが微増しておるというような現象はございますが、これをもちまして一般的な傾向を判断することは、まだ危険ではなかろうかというふうに考えております。
 それから第三点の、いわゆる頭打ちという点でございます。頭打ちと申しますのは、御案内のとおり法定刑の上限またはこれに近い額の罰金が多数の事件において言い渡され、法定刑の上限を引き上げなければ適正な罰金額の決定ができないというふうに思われるに至っておる状況というふうに私どもは理解をいたしておるわけでございます。
 これを具体的な事例で申し上げてまいりますと、まず刑法犯で罰金がよく使われておりますおもなものについて申し上げてみたいと思うわけであります。以下全部昭和四十四年の、しかも略式命令で言い渡された事件について申し上げたいと思うのでございます。
 まず、第一は傷害罪でございます。傷害罪は御案内のとおり法定刑は二万五千円以下、罰金刑の場合は二万五千円以下ということになっておりますが、一万円以上の裁判が行なわれたものが六四・六%でございます。それから暴行罪、これがやはり法定刑が二万五千円以下の罰金ということになっておりますが、これは一万円以上の罰金に処せられましたものが三一・八%であります。それから次に、いわゆる交通事故といいますか、交通の人身事故の業務上過失傷害事件でございます。これにつきましては、法定刑は罰金は五万円以下でございますが、昭和四十四年の略式事件について見ますと、三万円以上五万円以下という罰金に処せられましたものが二一%でございます。それから交通事故の場合のいわゆる業務上過失致死事件、被害者が死んだ場合でございますが、これも法定刑は業務上過失傷害の場合と同じように五万円以下の罰金でございますが、この場合には、三万円以上五万円以下の裁判を受けましたものが九五・六%に及んでおります。それから次に刑法の脅迫罪でございます。脅迫罪は罰金刑の法定刑は二万五千円以下でございますが、これにつきましては、一万円以上の罰金に処せられましたものが六九・九%に及んでおります。最後に、刑法の住居侵入罪でございます。これは罰金刑の法定刑は二千五百円以下ということになっておりますが、このうちで二千円以上の罰金刑に処せられましたものが実に九七・一%に及んでおる。
 かような状況をもちまして、頭打ちの現象が生じておるというふうに判断をいたしておるわけでございます。
#9
○羽田野委員 御説明で事情はよくわかったのですが、罰金を科することによって刑罰の目的を達成するためには、それ相当の額を科さなければならないということがよくわかりましたが、今回のこの改正では、大体三条の関係では、いままでの額のそれぞれ二百倍に相当する額をもって多額とするということでもって、結局いままでの四倍に改めております。この積算の根拠について、どういうところから四倍にされたのか。
#10
○辻政府委員 今回の改正案におきましては、刑法及び暴力行為等処罰ニ関スル法律、並びに経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律違反、この三つの法律に該当する罰金につきましては、以下刑法等と申し上げますが、これにつきましては、ただいま御指摘のとおり罰金の法定刑を現在の四倍にするという案でございます。
  〔委員長退席、田中(伊)委員長代理着席〕
 なぜこの三つについて四倍にしたかという根拠でございますが、これは現行の罰金等臨時措置法の制定以降の経済事情の変動、特に財産刑が、先ほど申し上げましたように、犯罪者に財産的苦痛を与えることを内容とするものであるということから、賃金及び国民一人当たりの国民所得の上昇率というものが、まず考えの中心にならなければならないと思うのでございますが、この賃金及び一人当たり国民所得の上昇率は、現在の罰金等臨時措置法が考えられました昭和二十三年当時の十数倍に達しておるわけでございます。そういたしますと、これは機械的に二十三年当時で考えてまいりますと、十数倍にこれを上げるということが一応考えられるわけでございますけれども、何も二十三年当時を基準にする必要も、必ずしも適当ではないのじゃなかろうかという一つの考慮がございます。
 そういたしまして、戦後の経済事情が比較的安定したといわれております昭和三十年という年を基準にとってまいりますと、賃金の上昇率は現在約四倍、一人当たりの国民所得は約六倍となっておるわけでございます。他方、昭和三十年の科刑の実情と、現在の科刑の実情というものを見てまいりますと、この昭和三十年当時におきましては、まだ、これも先ほど申し上げました、罰金の法定刑の頭打ちという現象は見られなかったわけでございます。昭和三十年当時の一件当たりの罰金の平均額は三千十五円という数字になっておりますが、昭和四十五年におきましては、一件当たりの罰金の平均額が一万四千四百八十四円ということで、四・八倍という数字になっております。
 かようなデータをいろいろと考えまして、しかも急激な価額の変動というものは、司法実務面に与える影響がたいへん大きいという点をも勘案いたしまして、厳密に四倍でなければならないという数値は出てまいりませんけれども、いま申し上げましたようないろいろな事情を考えまして、一応刑法等の罰金刑につきましては、法定刑の上限を四倍にするということにするのが妥当であろうというふうに考えた次第でございます。
#11
○羽田野委員 第四条の改正も、積算の根拠というものは、大体同じようなことでやられたわけですか。
#12
○辻政府委員 四条の改正でございますが、これは御案内のとおり、先ほど申しました刑法等の罪以外の罪につきましての罰金につきましては、その多額が八千円に満たないときは八千円とするという考え方でございます。
 これはいろいろな特別法、いわゆる特別法の場合でございますが、これは御案内のとおり、現行罰金等臨時措置法が、多額が二千円に満たないときはこれを二千円とするというのを、いわば刑法等につきまして四倍にいたしましたその同じ考え方で、多額が八千円に満たないものは八千円にするということにいたしたわけでございます。
 ただ、これは数多くの特別法の問題でございまして、いわば法定刑の低い特殊なものについて、その法定刑の多額を八千円まで上げていくというだけのものでございます。大多数の特別法は、罰金刑の法定刑が八千円以上でございますので、そういう意味におきましては、かような特別法につきまして、一般的な変動というものはこの法律案では考えていない。これは各特別法それぞれの立場において考えられていくべき問題であって、あまりに法定刑の上限の低いものを四倍の線まで上げていくというだけの改正でございます。
#13
○羽田野委員 これは部分的でしょうが、いまの四条の改正関係で少し均衡を失するのではないかと思うのが、たとえば公職選挙法の中に、法定刑の上限が二千五百円であるものと七千五百円であるものが相当たくさんあります。たとえば、上限七千五百円のものを引いてみますと、公職選挙法第二百二十六条の二項、職権濫用による選挙の自由妨害罪、それから二百三十六条の一項、詐偽登録、同条の二項、虚偽登録罪、それから二百四十条の選挙事務所、休憩所等の制限違反、それから二百四十一条の選挙事務所設置違反、特定公務員等の選挙運動の禁止違反、こういうのが上限七千五百円。それから上限二千五百円のものが、同法の二百三十条の一項三号、多衆の選挙妨害罪の附和随行者、それから二百三十条の二項の不解散罪、二百三十六条三項の虚偽宣言罪、二百三十八条の立会人の義務懈怠罪、二百四十二条の選挙事務所の設置届出及び表示違反。こういうふうに上限が二千五百円のが相当たくさんあるし、七千五百円のが相当たくさんある。今度の改正では、これが一様に上限が八千円になるわけですね。四倍ならば二千五百円のが一万円、七千五百円のが三万円ですか、というようなことのほうが妥当のようなんですけれども、そのために、何か刑の均衡を失するというようなおそれは出てこないかどうかという点が第一点。
 それから第二点は、これはもちろん法定刑が八千円以上のものが多いからこういうことになるのかと思いますが、この法律関係資料の「通常第一審事件における罰金額の年次比較」この表でありますが、刑法犯は、大体先ほどの四倍でいきますからいいが、特別法犯、これを見ますと、昭和四十四年の統計ですが、三七・二%が一万円以上、これが一番占める率が多いわけなんですね。そうすると、この四条の改正で多額の限度を八千円にしたということは、こういうパーセンテージから見るとちょっと低いのじゃないかという気もするのですが、こういう表のやつですが……。
#14
○辻政府委員 第一点の、第四条の改正に関しまして、八千円に満たないものを八千円にするという点でございますが、これに関しまして、かような改正をすれば刑の均衡を失するのではないか。特に公職選挙法の場合を御指摘になったわけでございますが、公職選挙法のこの問題につきましては、御指摘のとおりの問題がございます。
 まず、公職選挙法そのものについて考えてまいりますと、ただいま御指摘の条文のうちで、二千五百円以下の罰金あるいは七千五百円以下の罰金を定められております各条章の中にも、七千五百円と定めながら、同時に選択刑として自由刑がきめられておるのがございます。それから、二千五百円以下と定められておりますものの中にも、科料がついておるものと科料がついてないものとがございます。こういう点を勘案してまいりますと、一がいにただいま御指摘の条文が全部、法定刑が八千円になって、その間の区別がなくなってしまうという点は、全部が全部そうなるわけではないわけでございます。
 それを厳格に申してまいりますと、現行の公職選挙法につきましては、二百三十六条の三項、二百三十八条、二百四十二条、この三つの罪と二百四十条の罪との関係だけは、御指摘のように、いずれも八千円以下の罰金ということになってしまいまして、この区別がなくなるという一つの妙な現象が出てまいるわけでございます。この点は、ただいま御指摘のとおりと存ずるのでございます。
 ところで、先ほど申し上げましたように、いわゆるこの特別法犯につきまして、法定刑の上限の低いものを八千円まで持っていったという改正は、これは一応今回の罰金等臨時措置法というものが刑法等を中心にいたしまして、その法定刑を四倍にするということに伴います最小限度の暫定的措置をこの特別法犯のほうにも加えたということに相なるわけでございまして、本格的な特別法の罰則整備というものは、現在、法制審議会で検討いたしております刑法の全面改正というものを前提にして、それぞれ特別法犯の場合の罰則の整備もやっていかなければならないというふうに考えておりますので、そういうことができますまでの必要やむを得ない暫定的な措置として、かような四条のような改正を考えたわけでございます。そういう点で、いまのようなややおかしな結果ぶ出るということは、万やむを得ないのではないがというふうに考えておるわけでございます。
 なお、この公職選挙法の場合は、これは言わずもがなのことでございますが、従来の制定の経過からいたしまして、罰金額が二千五百円、七千五百円というように、他の法令と多少異なった法定刑がつくられておるということも、ただいま御指摘のような、ややおかしい結果が出てくる原因になっておるというふうに考えております。
 それから、第二点の「通常第一審事件における罰金額の年次比較」という点でございます。この点につきまして、相当数のものが五千円以上の罰金に処せられておるということが明らかにあるから、特に特別法犯につきまして……(羽田野委員「一万円以上のものです。」と呼ぶ)一万円以上のものが三七・二%というふうになっておる。こういう数字から見た場合に、法定刑の上限を八千円に満たないものを八千円にするというのは、少し低いのではないかという御指摘であろうかと思うのでございます。
 ところで、現在、この特別法犯でございますが、これは、かような今回の法定刑の上限が八千円に満たなくて八千円にするという四条の適用を受けます法令は、比較的少ないわけでございます。八千円未満の罰金の定めのある法令の数は百二十七でございまして、そうして罰則の数にいたしますと二百五十八という数字になるわけでございます。ところで、現在罰金を定めております法令の数でございますけれども、これは罰則として罰金、科料の定めを持っておりますものは合計六百六十三でございます。この六百六十三のうちの百二十七の法令が、この四条の八千円に満たない云々という条項の適用になるわけでございまして、法令の数としては比較的少ないということで、大多数の法令につきましてはもっと重い刑罰がすでに定められておるということでございますので、これもまたきわめて古い法律その他で法定刑が八千円未満というような特殊なものにつきまして、これを八千円に上げるということで、この統計から出てまいります罰金の平均額が一万円以上のものが三七・二%にのぼっておるというような現状から見ましても、相当数の特別法犯につきましては、法定刑がすでに高いという実情からこういう結果が出てくるわけでございますので、この数字をもって直ちに、八千円という改定額が特に低過ぎるということは、必ずしも当たらないのではなかろうかというふうに考えております。
#15
○羽田野委員 最後に、この法案を離れまして、罰金の関係でちょっと具体的な問題を申したいと思うのです。
 先般、所得税法違反で審理を受けておりました草月流の勅使河原蒼風さんですか、この人に対して、東京地裁が罰金一億円の第一審判決を出しております。私がこの事件の内容について記録など精査したわけでありませんから、詳細なことは申し上げられませんが、新聞の報道などでこの判決を見まして、私は非常に名判決であるというふうに思ったわけでございます。ところが、その後、検察庁のほうで控訴をなさった。これはまあ専門的に検討なさった結果そういう結論に達したと思うのでございます。
 私は、この事件が名判決だと思いますのは、刑の選択あるいは量定ということにつきまして、現行法には特に規定がありませんが、いま検討されております刑法の準備草案を見ますと、この四十七条の三項の前段には、「刑の種類及び分量は、法秩序の維持に必要な限度を越えてはならない。」という非常に適切な規定を置いております。現在の刑法にこれがないといいましても、やはり刑の選択あるいは量定においては、私は、こういう考え方は裁判官が当然持っておられることだと思います。
 こういう点から見ますと、この具体的な勅使河原さんに対する罰金一億円の判決、この判決の理由の中で、裁判所が検察庁の自由刑懲役一年、それから罰金一億という求刑に対して、自由刑を科さずして罰金だけを選択したという理由の中で、この被告が海外でも高名な人であって、この犯罪の内容それ自体が、「脱脱の額や方法を、被告が具体的に指示してやったものではない。」というようなことを説示しまして、最後に、「かずかずの偉大な業績がある。懲役刑を科せば、かりに執行猶予がついても芸術活動に重大な支障が起こり、」こういう点を考え合わせて、この被告に対して罰金刑を相当として選択したのだ、こういうことを述べておりますが、私は、この準備草案の、先ほど申し上げました精神と考え合わせて非常にいい判決だと思うのです。
 というのは、なるほど脱税額は相当大きゅうざいますが、この脱税額が大きいからというて、必ずしも一律に客観的にある一つの自由刑、罰金刑の併科という刑の選択方法、それから量定方法ということでもっていくということは、むしろ法秩序の維持に必要な限度を越える場合がある。本件の被告のような、やはり海外でも大きく評価されて、国内においてはもちろん大きな影響力を持っておる高名な芸術家の場合、悪いことをやったということは、これは非難されなければならないが、少なくとも裁判を受けるということによって、もうたいへんな社会的な制裁を受けておるという場合、一般予防、特別予防という点を考慮しても、なおそれに懲役刑を選択せなければならないという理屈はないのではないか、むしろこの被告に対して、将来腰罪的な意味で芸術的な社会活動を大いにやってもらうことのほうが、はるかに刑政の目的に合致するのではないかというふうに考えられるわけでございます。
 そこで、刑事局長に一応お尋ねするわけでございますが、最近沖繩も返ってくることになっておって、どういう形になるかわからないけれども、沖繩の恩赦も行なわれるということは間違いない情勢のようであります。そういう点も勘案をして、適当な時期にやはり控訴の取り下げをなさって、そしてこの人にいろいろなかせを着せぬで、大いに社会的な活動をやらせるという方向で検討することも必要ではないかと思うのであります。そういう点についての御意見をちょっと承りたいと思います。
#16
○辻政府委員 ただいま御指摘の勅使河原氏に対する所得税法違反事件でございますが、これにつきましては、去る四月十二日、東京地方裁判所におきまして、被告を罰金一億円に処するという判決がなされたわけでございます。これに対しまして、検察側から東京高裁に検事控訴をいたしております。この点につきまして、ただいま御指摘のようなお考えから、この検事控訴というものは必ずしも適切でなかったのではないかという点、これは刑の適用に関する一般基準というものをも御勘案なさいまして、その点から第一審判決は非常にいい量刑をしておるという御指摘であったわけでございます。
 それにつきまして、検事のほうが控訴いたしたわけでございますが、これもまた御案内のとおり、この種の税法違反につきましては、これは他の同種事件との均衡という点がやはり一つの、大きなこの種の事件につきましては、検事として控訴の要否を検討する場合の要素になろうかと思います。おそらく検察においては、いろいろな点を勘案し、特に他の同種事件との関係というものを考えて、検事控訴の措置をとったというふうに私は考えておるわけでございます。
 こういう検事控訴の措置をとりました以上、これはただいま御指摘のように、恩赦というものにかかわらす余地がなくなるのではないか、控訴を取り下げて、恩赦にかかるようにすべきであるという御指摘でございますけれども、この場合に、たいへん水かけ論のようなことで恐縮でございますが、検事控訴いたしまして第二審判決がいつになるか、これは予測しがたいところでございますけれども、いずれ判決が確定いたしました場合に、恩赦というものの必要があるということであれば、これは何も政令恩赦ということでなくても、これはいわゆる恩赦法で運用いたしております常時恩赦の対象にも当然なり得るわけでございますので、その点は勅使河原氏に対する適切な措置というものも、救済の法的手段が検事控訴によって直ちにふさがれてしまったというふうには考えられない点もございますので、その辺のところも御賢察を賜わりたいと存ずる次第でございます。
#17
○羽田野委員 これは関連がありますので、検察庁というか、一つの法務省の姿勢というものに私、一言申し上げておきたいと思うのでありますが、私は法務省の段階、いわゆる検察庁の段階で一番大事なことは、起訴、不起訴を決定する段階が一番大事だ。形式的には犯罪が成立すると思われ、それだけの証拠のある場合に、しかし、それを処罰するほどの必要がないということで起訴猶予にする、これは検察庁のほうでほんとうに頭を使い、そして刑の均衡というようなことも大いに大事でありましょうが、もっと高度の判断で、やはり刑罰というものは処罰することが目的じゃないのだという考え方に立って、形式的に刑罰に該当する者でも、やはり実質的に処罰を必要としない者については、起訴猶予処分を大幅に活用するということ。それから裁判所においては、有罪という場合に、自由刑である懲役刑を選択するか、あるいは罰金刑を選択するかということは、その人の身分上のいろいろな不利益の問題が起こってくるし、社会的な制裁において非常に違ってくる。だから、裁判所において大事なことは、この刑の選択ということが私は一番大事だと思います。検察庁においては、いま言う起訴するか起訴しないかということが一番大事なことなんだ。こういう面では、あまり均衡均衡というしゃくし定木を強く使うということは、実際の刑政の目的に合致しない場合が大いにある。この点は検察庁は十分検討してもらいたいと私は思うのですが、いかがでしょうか。
#18
○辻政府委員 ただいま御指摘のございましたように、いわゆる起訴便宜主義、これはわが国の検察官に与えられました重大な職責であろうと思います。これは他国に例を見ない職責であろうと思うのでございます。そういう観点から、検察官はそれぞれ起訴便宜主義の重大性というものは、日々頭に刻んで検察の運営をいたしておるところでございます。
 最近の統計を見ましても、最近は刑法犯におきまして業務上過失致死傷事件がございます関係で、統計の面からいきますと起訴率が上がってまいっておりますけれども、こういう交通事犯関係を除きました刑法犯につきましては、これは御案内のとおり、起訴猶予率というものは大体五〇%くらいであろうと思うのでございます。交通関係事犯を除きます刑法犯につきましては、やはり検事の手元で、この刑訴法二百四十八条にございます「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により」云々という多様な要件を一件一件十分に検討して処理をいたしておるところでございまして、ただいま起訴便宜主義の重要性を御指摘くださいまして、私ども、今後ともこの点につきましては十分に戒心して、検察の運営に当たってまいるべきものと考えております。
#19
○羽田野委員 終わります。
#20
○田中(伊)委員長代理 次回は、来たる五月十日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会しることといたしまして、本日は、これにて散会いたします。
   午前十一時二十二分散会
ソース: 国立国会図書館
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