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1971/05/16 第68回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第068回国会 法務委員会 第23号
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1971/05/16 第68回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第068回国会 法務委員会 第23号

#1
第068回国会 法務委員会 第23号
昭和四十七年五月十六日(火曜日)
    午前十時三十九分開議
 出席委員
   委員長 松澤 雄藏君
   理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君
   理事 高橋 英吉君 理事 羽田野忠文君
   理事 中谷 鉄也君 理事 沖本 泰幸君
   理事 麻生 良方君
      石井  桂君    大坪 保雄君
      鍛冶 良作君    千葉 三郎君
      中村 梅吉君    福永 健司君
      松本 十郎君    河野  密君
      青柳 盛雄君
 出席政府委員
        法務政務次官  村山 達雄君
        法務省刑事局長 辻 辰三郎君
 委員外の出席者
        最高裁判所事務
        総局刑事局長  牧  圭次君
        法務委員会調査
        室長      松本 卓矣君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案(内
 閣提出第八六号)
     ――――◇―――――
#2
○松澤委員長 これより会議を開きます。
 おはかりいたします。
 本日、最高裁判所牧刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○松澤委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
     ――――◇―――――
#4
○松澤委員長 内閣提出、罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。沖本泰幸君。
#5
○沖本委員 先週は土井たか子さんの御質問があったのですが、関連する部門も出てくるとは思いますけれども、できるだけ避けるようにしまして、罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案について御質問したいと思います。
 ある本に出ておったのですが、その中で、昔はむちの刑があって、死罪に至るまで五種あり、二十段階の刑にそれぞれ罰金が当てられておった。この罰金で体刑にかえるという制度があったことを読んだように思うわけです。これは刑罰についての身分的な差別ではないか、こういうふうに考えるわけであります。それだけの弁済が可能な、いわゆる経済の豊かな者は実刑を免れて、貧しい者だけが刑を受ける、こういう結果になっておるわけですが、こういう制度は、洋の東西を問わず昔から共通に見られた現象である、こういうふうに書いてありました。
 もともと罰金制度の根本は、当時の刑事行政が犯罪人みずからの経済的負担で遂行されたという事実もありますし、実刑にかわる罰金、没収された財産及び奴隷、訴訟費用などは、支配者にとっても有力な財源となったということであります。だから、犯罪処罰ということは、負担であるということよりも利益であるということが一般的であった、そういうふうにも書いてあります。こういう事実が、司法の中央集権化を促進したということは法制史上の定説となっている、こういうふうにも書かれております。身体刑と罰金刑の財源的運用によって、持てる階級は常に正義の執行を免れて、持たざる者、貧しい者のみが、支配者のたてまえとする虚構の法的秩序のいけにえになった、こういうふうにも載っております。
 結局、時代が変わってきても、やはりいまもなお金で何でもできるという感じ、この罰金刑とかこういうものについても、世間一般はそういう考えであるのではないか、こういう感じが強いわけでありますが、その点について、刑事局長はどういうお考えをお持ちでございますか。
#6
○辻政府委員 罰金刑の本質と申しますか、現時点における性質というものを考えました場合に、申すまでもなく罰金刑と申しますのは、犯罪を犯した者から金銭を剥奪して財産的苦痛を与える。その財産的苦痛を与えることによりまして、犯人は再犯をしないという、犯人に一つの感銘力を与える。同時に一般的予防といたしまして、こういうことをすれば罰金を取られるということで、他の一般第三者にも戒めになる、こういう機能を現時点においては持っておるというふうに私どもは理解をいたしておるわけでございます。罰金刑は、そういう意味におきまして、やはり刑罰としての十分の機能を持っておる。特に、罰金刑としての利点は、ただいま申し上げましたような刑罰の効果を持っております上に、犯人に対して自由を拘束しないという意味の利点を持っておるということが言えるわけでございます。
 反面、ただいま御指摘のとおり、罰金刑の運用いかんによりましては、金を持っておる者に対してはさほどの苦痛を与えない、金を持たない人については必要以上に苦痛を与えるというような、貧富によりまして罰金刑の効果が違ってくるというおそれがあるという点に、罰金刑の一つの欠点と申しますか、配慮しなければならない点があろうと思うのでございます。
 そこで、現実には罰金刑を適用いたします場合に、やはりその犯人の財産状態というものが現実の裁判の上においては当然考えられるべきものであろうと思うのでございます。現に法制審議会において刑法の全面改正を審議いたしておりますが、その刑事法特別部会でまとめました改正刑法草案におきまして、第四十八条は刑の適用についての一般基準を掲げておるわけでございます。「刑の適用にあたっては、犯人の年齢、性格、経歴及び環境、」云々と、いろいろな要素を考えなければならないということをあげておりますが、そのうちに犯人の環境ということもあげておるわけでございまして、やはり罰金刑の場合には、犯人に対する財産的な貧富というものをよく考えて刑を適用しなさいということを鮮明にいたしておるわけであります。かようなことはこの条文にあるまでもなく、現に裁判所におきましても、罰金刑を適用いたします場合には、必要な場合には十分犯人の財産状態というものを考慮して罰金刑の効果を十分確保しておるということを、私どもは確信いたしておるところでございます。
#7
○沖本委員 そうしますと、いろいろ疑問が出てくるわけですけれども、明治四十一年にできた現行刑法は、罰金等臨時措置法において罰金、科料を五十倍にしましたけれども、そのときの貨幣価値との関係性はどういう状態であったんでしょうか、その点御説明いただきたいと思います。
  〔委員長退席、羽田野委員長代理着席〕
#8
○辻政府委員 昭和二十三年に現行の罰金等臨時措置法ができ上がったわけでございますが、この当時、明治四十一年の刑法との関係におきまして、御案内のとおり、戦後のたいへんなインフレの状態におきまして、刑法のままにおきましては罰金刑の効果が期待できないという意味において、ただいま御指摘のような罰金等の臨時措置がとられたわけでございますが、当時は明治四十一年に比べまして、物価は大体二ないし三百倍くらいに上がっておったというふうに理解をされておったように思います。
#9
○沖本委員 そういう点からいくと、立法当時すでにこの臨時措置法自体が実際の貨幣価値、物価とかそういうものと比べてみましてそぐわなかったんではないか、こういう考えがあるわけですが、その点はいかがですか。
#10
○辻政府委員 今回の法案においても同様でございますが、罰金を経済状態とどういうふうにしてマッチさしていくかということを考えます場合には、いろいろ要素がございます。その場合にまず一番基準になりますのは、名目所得ということが一番基準になろうと思うのでございます。名目所得そのものが名目的に何倍ということになっておりますれば、罰金のほうも何倍ということで考えていくのが、まず一応の基準であろうと思うのでございます。物価でなくて、一つの名目所得というものが、罰金刑の本質からいいまして一応の基準になろうと思うのでございます。
 そのほかにいろいろと考えなければなりませんのは、いわゆる実質収入というものがどうなっているか、これは物価の関係においてなお考えていかなければならぬと思うのでございます。それからまた消費というものの実態がどうなっておるか、消費の変動というものも考えなければならぬと思いますし、さらにそういう経済的な要素のほかに、司法の連続性と申しますか、急激に裁判が変わっていくということも避けなければならないというような一つの要素がございます。
 かようないろいろな要素を考えた上で、この罰金の改定というものが行なわれなければならないというふうに考えておるわけでございます。
#11
○沖本委員 罰金は、先ほども御説明がありましたとおりに、本人に罰金を科してそのことによって痛い目にあわせる、それで十分効果をあげていく、こういう御説明でありますけれども、二十三年に臨時措置法ができて現在に至って、二十年以上たっている。こういう経過、その間の物価の上昇とか社会環境の変化、いろいろなものがあったわけですが、今日までそのままになってきたという経過ですね、こういうものはなぜなのかという疑問に対してお答えいただきたいと思います。
#12
○辻政府委員 昭和二十三年に現行の罰金等臨時措置法ができ上がりまして、今日まで経済的な諸条件がたいへん変わっておるのに、この法律のほうは手当てしなかったということの理由はどこにあるかという御指摘でございます。
 この点につきましては、まず私どものほうでは、昭和三十年代からやはりこの罰金等臨時措置法を改正していただかなければならぬというふうに考えまして検討をいたしておったわけでございます。その場合に、あわせて法務省といたしましては刑法の全面改正作業というものに入っていったわけでございます。そして三十八年に刑法のほうは、法務大臣から法制審議会に諮問をいたしたということになっておるわけでございますが、これはやはり当時といたしましては、刑法の全面改正との関連において考えなければならないという考え方が一番支配的でございまして、そういうことで、罰金だけの改定というものの作業が必ずしも進まなかったわけでございます。
 ところで当時は、まだ昭和三十年代におきましては、裁判実務を見てまいりますと、法定刑で罰金を規定いたしておりますものの、実際の裁判は、やはり法定刑のワク内でそれ相当の裁判が行なわれておったわけでございまして、まだ裁判結果が法定刑の上限に集まるというような、いわゆる頭打ち現象というものがさほど顕著でなかったわけでございます。そういうこともあり、刑法の全面改正作業もあるということで、まだ罰金等臨時措置法だけを改定していただくという考え方が切実なものではなかったわけでございます。
 ところが、昭和四十三年ごろになりますと、現実の裁判例が、やはり経済事情の変動の影響を受けたと思うのでございますが、刑法犯のうちの特定の罪につきましては、法定刑の上限のほうに実際の裁判が集まってきておるということになってまいりまして、いわゆる罰金刑の頭打ち現象が顕著に見られてきたわけでございます。これをこのままにほうっておきますと、もとより経済事情にマッチしない罰金刑であるという点において、罰金刑そのものの効果も低くなってまいります上に、現実の裁判におきましてたいへん不自由なといいますか、不都合な結果が出てまいったわけでございます。このいわゆる頭打ち現象というものが、昭和四十三年ごろから大体出ておるということになるわけでございます。
 他方、刑法の全面改正のほうは、御案内のとおりようやく昨年の十一月に刑事法特別部会が一応の結論を出して、現在は法制審議会において審議される段階になっておりますけれども、これは、やはり法制審議会の審議が終わりましても、その後国会の御審議あるいは関係法制の刑法の全面改正に伴う必要な改正がございます。そういうことでまいりますと、刑法の全面改正が現実に施行されるまでには、なお若干の日時を要するということも、これは避けがたい見通しであろうと思うのでございます。
 そういう刑法改正のペースと、それから現実に経済変動の状態及び科刑の実情、かようなものを考えてまいりますと、現時点におきましては、やはりこの刑法の全面改正が施行されるまでのつなぎの一つの考え方として、応急の修正をしていただく必要があるのではなかろうか、かようなわけで、今回罰金等臨時措置法の一部改正案を提出したようなことになっております。
#13
○沖本委員 いまつなぎとおっしゃいましたけれども、そうすると、刑法全面改正が国会に提出され、それが完全に国会を通って刑法が全面改正されたという段階になると、またこれから一段と変わった内容が出てくる、これはそれまでの臨時的な取り扱いだ、こう理解していいわけですか。
#14
○辻政府委員 さようでございます。
#15
○沖本委員 そこで提案理由の中で、先ほどの御説明とダブリますけれども、現行のままでとどめておきますと、「これらの財産刑の刑罰としての機能を低下させるばかりでなく、刑事司法の適正な運営を阻害する」こういう説明がついているわけですけれども、先ほどからの御説明なり何なりを伺っていますと、もっと早い時期に、現状を把握して改正する必要があったんじゃないのか、こういう考えも出てくるわけでございますが、その点についていかがですか。
#16
○辻政府委員 その点につきましては、御指摘の点もあろうかと思いますが、先ほど申し上げましたように、いわゆる罰金の頭打ち現象が刑法犯の一部について出てまいりましたのは、昭和四十三年ごろからでございます。それまでは、やはり刑法の全面改正の進捗度との関係におきまして、刑法の全面改正で片づけてもらうなら片づけていただくという考え方もあったわけでございますが、どうも刑法の全面改正の見通しの時期と経済変動のスピードと、これがやはりマッチしないということで、この際この法案を御審議願うことに相なったわけでございます。
#17
○沖本委員 そうしますと、法定刑の上限ないしこれに近接した額の罰金が言い渡される事件が増大したという御説明がありました。頭打ち現象という御説明なんですけれども、じゃ頭打ちというのは、精神的なものに重きを置くべきものなんですか、それとも物質的なものに重きを置いて考えるべきものなんでしょうか、どっちでしょうか。
#18
○辻政府委員 たとえば、一番顕著な例をあげますと、刑法第二百十一条の業務上過失致死傷罪でございます。これは現下交通の人身事故でこの犯罪は非常に多いわけでございます。現在の二百十一条は、「五年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ五万円以下ノ罰金」という法定刑に相なっておるわけでございます。その場合に、致死の場合は人が死んでおるわけでございます。しかし、被害者のほうにも多少落ち度があったというような場合には、この懲役や禁錮というのを選択することは適当でない、罰金刑でやりたいというように裁判官が考えました場合に、罰金刑を選択しようとすると五万円しかいかない。それではいかにも少ないではないかというような考え方もむしろ出てくるわけです。そういたしますと、本来罰金刑でいいんだけれども、現下の経済事情からいけば、もう少し多額の罰金がほしいというようなケースが出てまいるだろうと思うのでございますが、これがいわゆる頭打ち現象の最も典型的な問題であろうと思うのでございます。
 そういう面におきまして、本来は罰金刑でいいけれども、法定刑の罰金額が低過ぎるんだという一つの要請が出てまいりますので、こういう点をやはり早急に解決していただきまして、適正な刑事司法の運営をやらせていただきたいというのが、この頭打ち云々と申しておる具体的な事例で一ございます。
#19
○沖本委員 頭打ちという点について、いまおっしゃった業務上過失致死傷というのがありますけれども、そのほか傷害、暴行、脅迫、住居侵入、こういうものについてはどうなっておるかという点を御説明いただきたいと思います。
#20
○辻政府委員 これはお手元の資料にも一応ございますけれども、総括的に説明してまいりますと、まず傷害罪でございます。これは昭和四十四年におきまして、略式命令で罰金を科せられましたのは、総数三万九千四百七人でございますが、そのうち六四・六%に当たります二万五千四百五十九人が一万円以上の罰金に処せられておるということになっております。同様、業務上過失致死傷罪については、先ほど申し上げましたけれども、四十四年におきまして、総数六千七百三十人のうちで、その九五・六%に当たります六千四百三十四人が三万円以上五万円以下の罰金に処せられておるというような状況になっております。それから住居侵入罪につきましては、同様四十四年に、総数二千九十八人の者が罰金刑に処せられておりますけれども、その九七・一%に当たります二千三十八人が二千円以上の罰金に処せられておる。住居侵入の場合には、法定刑は二千五百円でございますが、そのうち九七・一%が二千円以上の罰金に処せられておる、かような現象に相なっておるわけでございます。
#21
○沖本委員 罰金については日割り制というのがあるように、日割りで罰金を取っていくという制度があるように、略式命令なんかにちゃんと載っておるわけですけれども、その刑を受ける人のいわゆる資力、それによってずいぶんと大きな開きがあり差別がある、こういうふうに考えておるわけです。これを考えて、こういう差別があまりに激しい、はなはだしいから量刑にしたらどうかという案もある、こういうふうにも聞いているわけですけれども、法務省としては、こういう問題についての何かのお考えがあるわけでありますか。
#22
○辻政府委員 ただいまの量刑というのはどういう意味でございますか、恐縮でございますが、ちょっと御趣旨が……。
#23
○沖本委員 結局脱税なんかの場合ですが、たとえばこの間大きな脱税事件がありましたけれども、お伺いしますが、その場合どういうような割合で刑が科せられておるかという点なんです。ですから、一日幾らの計算で刑に服するかということになるんですが……。
#24
○辻政府委員 罰金が納まらない場合には、御承知のとおり現行刑法十八条におきまして、「罰金ヲ完納スルコト能ハサル者ハ一日以上二年以下ノ期間之ヲ労役場ニ留置ス」云々ということで、刑法十八条にいわゆる換刑処分、刑をかえる処分ということで、罰金が納まらない場合には、一日幾らということの割合で労役場に留置するということで、その期間だけ労役場におれば、罰金を納めたと同じように見るという制度がございます。この換刑制度は、実際の運用におきまして、ただいま御指摘のように、特定の被告人に罰金が科せられました場合には、必ず裁判で、罰金が完納できない場合には、一日幾らに換算した額で労役場に留置するという裁判が付せられるわけでございます。この場合、換刑額が一日幾らという場合には、これは事案の性質それから被告人の財産状況、そういうものを勘案してそれぞれ具体的に一日の換算額が定められていくわけでございます。こういうことによりまして、貧富の差による罰金の不公平な適用というものを避けてまいっておるわけでございます。現行法のもとにおきましては、そういうことで一々具体的に被告人の状況に応じまして、この換刑処分の金額が定められておるわけでございます。
 それをもっと徹底して考えていけということになりますと、これはわが国の法制にはございませんが、外国の諸法令のうちある特殊な国におきましては、初めから日額で罰金額を宣告いたしまして、そして被告人に対しては、この一日の額は幾らとするというような裁判をするというような立法例も若干あるわけでございます。それを一応日数罰金ということばを使っておりますが、この考え方は、わが国の場合には、今回の刑法改正においてはとっていないわけでございまして、この罰金刑の財産状況による不公平を避けるというのは、やはり換刑処分による金額をあんばいしていくことによってはかっていこうというのが、現在のわが国の法制の考え方でございます。
#25
○沖本委員 これは刑法全面改正の草案の中にも、こういう問題は盛り込まれてはいないわけですか。
#26
○辻政府委員 刑法の全面改正を審議いたしました法制審議会の刑事法特別部会の審議の過程におきまして、いわゆる日数罰金制を採用するかどうかは十分検討されたわけでございます。その結果、やはりこの日数罰金制度はとらないという決定が出たわけでございます。
 その理由は、裁判におきまして被告人の財産状況というものを精細に調査することが、どの程度正確性を担保できるかという一つの難点があるのではないかというような考え方で、この刑事法特別部会ではいろいろと審議はされましたけれども、結論といたしましては、いわゆる日数罰金制を採用しないということで一応の結論が出ておるわけでございます。
#27
○沖本委員 繰り返しみたいになるかわかりませんが、行為者の支払い能力、経済能力、このようなものについて犠牲の平等原則というような理論があるように聞いておるわけですが、これは非常に大事じゃないか、こういうふうに考えますけれども、そういう点についてのお考えはどうなんでしょうか。
#28
○辻政府委員 罰金刑の運用にあたりまして、被告人の貧富による差が出てはならないという考え方がもちろんあるわけでございます。そういう考え方から、現在は、裁判の運用におきましては、この換刑額をきめる場合に、いろいろと裁判所で具体的に検討されておるということでございます。
 それから、これを一挙に法制的に解決しようというのがただいま申し上げました日数罰金制度でございますけれども、これはただいま申しましたように、運用において裁判所が被告人の、罰金刑の場合に、一々資産状況というものを、はたしてどれだけ正確に判断できるかという難点が一つあるのと、あまりこれを徹底してまいりますと、逆にまた金持ちなるがゆえに相当過大な罰金を科せられるというような、逆の意味の不公平というようなことも出てくるんじゃないかというような議論も、法制審議会においてはなされたわけでございまして、これらの理由から、やはり日数罰金制は採用しない、運用で罰金の公平を期していこうという考え方になったものと承知いたしております。
#29
○沖本委員 提案理由の中に、「経済事情の変動には」云々とあるように、経済的なものに重点が置かれ、責任主義が軽視されたような感じを受けるわけです。もしそうであれば、刑罰というほうに立って考えると、何となくすっきりしないような逆な考え方が生まれてくる、こういうふうに感じられますけれども、こういう点についてどういうふうにお考えでございますか。
#30
○辻政府委員 今回の改正案におきましては、この提案理由説明書にもございますように、経済事情の変動ということで罰金額を改正していただくという趣旨でございまして、この刑事責任の問題、これはいささかも触れていない。現行刑法その他刑罰法令の考えておるこの罰金刑というものを、そのままの考え方で踏襲いたしまして、ただその間の経済事情の変動という経済性だけを一つの考え方の理由にいたしまして、改正をお願いいたしておるわけでございます。
 そういうことでございますので、この刑事責任制度と申しますか、刑罰制度というものの考え方につきましては、もちろんこれを軽視しておるわけではもとよりございません。現行の刑罰法規の考え方をそのままに踏襲していこうという考え方でございます。
#31
○沖本委員 そうしますと、罪刑法定主義の立場から考えていく、こういうことになりますと、多くの金額にしなければならない、こういうふうな考えになるわけですけれども、責任主義的に考えると、多くの額を法定刑としてきめなくてもいいのじゃないかという考え方も生まれるわけですけれども、こういう考え方についてはどうお考えですか。
#32
○辻政府委員 罰金を考えます場合に、やはり罰金の本来的機能は、犯人から金銭を剥奪して財産的苦痛を与えるというところに、この罰金刑の本質があるわけでございます。ところが、経済状態の変動によりまして、特に犯人の所得との関係におきまして、あまりこの罰金額が少ない場合には、その本来的な罰金の機能が果たせない、何ら財産的苦痛を感ぜしめないということに相なるわけでございます。
 その意味におきまして、やはり罰金の刑罰というものの刑罰性、刑罰の機能というものを考えました場合に、ある程度犯人に財産的苦痛を与えなければ、これは本来の存在理由はなくなってしまうということに相なるわけでございまして、もっぱらそういう考え方から、今回の一部改正案はできておるわけでございます。
#33
○沖本委員 結局、罰金及び科料を四倍に上げた、こういう基準でありますけれども、これは一律化しているわけですね。そういう点から考えていきますと、現在の日本の経済の事情の中では、一人一人の平均的財産はなかなかあいまいで、きめにくいというところにあるわけですけれども、そういう点についての基準をおきめになる根拠は、どういう点にあったのかという点をお伺いしたい。
#34
○辻政府委員 今回の改正案は、御案内のとおり、刑法、暴力行為等処罰ニ関スル法律及び経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律、この三つにつきまして、罰金の法定刑を四倍にするということでございます。これ以外の法律につきましては、罰金の法定刑の多額が八千円未満のものは八千円にするということでございまして、四倍になるのは、この刑法等の三つの法律だけでございます。
 そこで、なぜこれを四倍という考え方を持ってきたかという考え方でございます。これにつきましては、まずお手元の資料にもございますけれども、昭和二十三年と比較いたしますと、昭和四十六年におきまして、賃金は十五・九倍になっております。それから国民所得は、昭和四十五年におきまして、昭和二十三年の十・八倍ということになっておるわけでございまして、いずれも昭和二十三年当時の十数倍に達しておるということになるわけでございます。これをそのまま持ってまいりますと、今回の四倍というのではなしに、十数倍ということがまず一応考えられるわけでございます。
 しかしながら、この敗戦直後の貧窮した二十三年当時を現在に再現していくということは、必ずしも適当でないのではないかということで、一応この経済状態が比較的安定したと考えられております昭和三十年というものを基準にとってまいりますと、昭和三十年と昭和四十五年は、賃金の上昇率は約四倍、一人当たりの国民所得は約六倍というような数字が出てまいります。それから最近におきます科刑の実情を見てまいりますと、昭和三十年当時の全部の裁判で言い渡されます罰金の平均額は、一件当たり平均三千十五円でございましたが、昭和四十五年には平均額がその四・八倍の一万四千四百八十四円というような数字が出てまいります。これもやはり約四倍でございます。
  〔羽田野委員長代理退席、委員長着席〕
 かような点、これは刑事司法の著しい変動というものを避ける意味におきましても、やはりこの科刑の実情というものも見ていかなければならないという点からまいりまして、この科刑の実情及び賃金や国民所得の増加状況、あれやこれやを勘案いたしまして、この際は一応刑法等三つの法律につきましては、法定刑の上限を四倍にするのが適当であろうというふうに考えた次第でございます。
#35
○沖本委員 そうしますと、初めからずっと一貫して申し上げているとおり、刑罰の効力から考えたときには、金持ちと貧乏人の差ができてくる。そこで、憲法の十四条で保障されている経済的、社会的関係において差別を受けるのではないか。この点の憲法との関係はどういうふうにお考えになるわけですか。
#36
○辻政府委員 私どもは、今回の改正によりまして、罰金が貧富によって著しく差が出てくるというような運用になるとは考えていないわけでございます。先ほども申し上げました賃金の上昇率その他を見ましても、平均的に見まして、三十年に比べて四倍ということでございますので、これを改正することによって、必ず金持ちが得をするというようなことは毛頭考えていないわけでございまして、その運用は、現在と同じような形でこれがスライドされていくというふうに考えておるわけでございます。
#37
○沖本委員 次にお伺いしたいのは、この間土井さんの御質問にもあったわけでありますが、罰金と科料との違い、それと罰金と科料の数字、そういうものについて、昭和三十年ころからの比較がありましたら、お教えいただきたいと思います。
#38
○辻政府委員 罰金と科料でございますが、その性質は同じく財産刑でございます。犯人から金銭を剥奪することによって苦痛を与えるという意味の財産刑という性質におきましては、罰金も科料も同じ性質を持っておるわけでございます。
 問題は、科料の場合と罰金の場合とは、科料というものは、現行法におきましては千円未満ということになっておるわけで、千円以上は全部罰金でいくという金額の差に相なるわけでございます。そういう意味におきまして、科料刑に当たるものは刑事責任もおのずから軽い、軽い犯罪に対して科料が付されるということで、罰金と科料の差があるということでございます。
 そこで、罰金、科料というものがどういうような運用になってきておるかということでございますが、先ほど私、罰金について申し上げましたけれども、お手元の資料の四二ページ、罰金、科料がどういう額で実際の裁判に出てきておるかということを考えてまいりますと、一件当たりの平均の罰金、科料額でございますが、昭和三十年の一件当たり平均の罰金額は三千十五円でございました。それが昭和四十五年には、先ほど申し上げましたように一万四千四百八十四円でございます。これに対しまして科料でございますが、科料は、昭和三十年の一件当たり平均は五百五十一円でございましたが、昭和四十五年では平均が八百八十八円となっておりまして、科料そのものは、千円未満という最高限度に対して、平均額が八百八十八円というふうに、たいへん上のほうに詰まってまいっておるというような現状になっております。
#39
○沖本委員 変わった質問をいたしますが、立ち小便はどういうことになるのですか。
#40
○辻政府委員 ちょっと突然のあれでございますが、私の記憶によりますと、立ち小便は現在は軽犯罪法にもなかったのではないかと思います。以前は警察犯処罰令にございましたけれども、現在は、軽犯罪法からはたしか落ちておったのではないかという記憶がございます。――失礼いたしました。ちょっと場所に限定がございますが、軽犯罪法の一条二十六号では、「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」これは拘留または科料に処すということに相なっております。
#41
○沖本委員 だいぶ以前から、五十円を手に下げて立ち小便するというような、いろいろな落とし話みたいな話があるわけですけれども、たんつばを吐く点については、社会通念では、交番の前で吐いたって何にも言われないし、警察官も、立ち小便は、暗がりでやっていると何とも言わないということでもありますし、それからたいしたことではないのだという考え方とか、これは道徳とかいろいろなものに結びついた問題ではあると思うのですけれども、私が申し上げているのは、そういうことに結びつけて、最近の科料の考え方が、もう社会通念で薄らいでしまっている。金額の点も、おっしゃったとおり、平均の単位がうんと低い。現在のあれからいきますと、とがに問われても何も打撃を受けないというような社会通念に変わってきているように私は思うわけですけれども、そういう点について、この科料の価値というものをどういうふうにお考えか。また、今後どういうふうな扱いをしてお越しになろうとお考えになっているか。こういう面から、四倍に上げたということになりますけれども、それでは四倍に上げたという場合に、どういう効果が出てくるか。一般社会の人たちは、この辺は、もう罰金以下は捨ててしまっているような考え方の社会状態なんですが、そういう点について刑事局長さんはどういうふうにお考えか、お答え願いたいと思います。
#42
○辻政府委員 たいへんごもっともな御指摘であろうと存ずるのでございます。もちろん、ただいま仰せのように、この改正案におきましては、科料といえども、刑法犯に関する限りは四倍になるわけで、四千円未満になるわけでございますが、そういたしましても、なお効果が刑事罰としては薄いのではなかろうかという御指摘であろうと存じます。
 この点につきましては、私どもかねがね検討いたしておりますのは、検察や司法警察がどういう犯罪というものに注目して犯罪の検挙をすべきかという、検察で申しますと、検察の運営の基本的な考え方に触れてくる問題であろうと思います。やはり検察の第一義的な意味といいますのは、平穏な社会生活というものを確保するという観点にあるのではないかと思うのでございますが、そういう観点からものを見ました場合に、こういう小さい犯罪でありましても、それが苛察にわたらない限りは、犯罪である以上はそれに対して措置をとり、そして順法精神を喚起していく、そして社会秩序を維持していくということが、検察の本来的な考え方であろうと思います。
 そういう意味におきまして、検察部内におきましても、こういう軽微な犯罪の措置はいかにあるべきかということは、年来の問題として常々検討をいたしております。ただ、いろいろな現実の場合には、一般のそれよりも大きい事件の処理に追われて、こういう科料に当たるような犯罪の処理が十全にいっていないということは事実でございますので、この点は今後の問題といたしましても、十分に検察の運用のしかたとして検討していかなければならない問題であろう、かように考えておるわけでございます。
#43
○沖本委員 放たんにつきましては、香港あたりに行くと、道に放たんは二十五元だとかちゃんと書いてあるのですね。たんを吐くのを見つけられると、ちゃんときっちり取られているという現実があって、そういうことのために、たんを吐く人がだんだんなくなってきている。こういうこともありますし、それから、これは性病の場合で勉強したのですが、ロンドンでは公衆便所の中に、性病にかかった方はここへ連絡してください、そうすればちゃんとできるからと、国のほうがそういうふうにしていっているというような例があるわけです。そういうことによって、性病の予防をはかっているという実例がいろいろあるわけです。ですから、日本人の特徴といいますか、東洋人の特徴でもあるわけですが、放たん、放尿はところきらわずというのが昔からの習慣なんですね。
 そういうものをなくしていくには、やはり社会環境を整えていくということが大事だと思うのです。先ほど刑事局長さんが御説明になっていらっしゃいましたけれども、警察官そのものも放たんとか放尿というものは見て見ぬふりをしている。そういうものはもう取り締まりの対象にならないのだ、もしそういうものを取り締まったら、逆にその辺からぎゃあぎゃあ言われて、自分もやはり勤務がしにくい、こういうことも出てきているのではないか。そういうことになるので、こういうものに類似するようなものは一応御検討になっていただいて、はずすということはおかしいと思いますけれども、何かの方法で、科料なり罰金なりをお取りになるわけですから、結局、やはり国のほうである程度そういうもののPRをやって、それでたんを吐いた人はこういうふうなあれになりますよとか、こういうところで放尿するとこれこれで取り締まられますという、むしろそういうふうなPRのほうが、現代の社会人の道徳なりマナーを向上させるのではないか。少し横にそれたようなことになりますけれども、私が何となく常日ごろあってなきようなものだと考えておったものがたまたま御質問のチャンスになったものですからお伺いするわけでありますが、そういう点についてのお考えをお伺いしたいと思います。
#44
○辻政府委員 まことにごもっともな御意見でございまして、法令の周知徹底、それからPRというものが、特に一般の市民生活に直結をいたします刑罰法規というものにつきましては必要が多いのではないか、こう考えております。
#45
○沖本委員 次に御質問することも、また素朴な質問であって、わかっているようなことなんですけれども、もう一度自分で確認しておきたいのでお伺いしたいわけです。
 罰金等の収入は、一体どれくらいあるのか、どこへ入っているのか、どう使われているのか、その辺をお教えいただきたいと思うのです。
#46
○辻政府委員 罰金の金額でございますが、昭和四十五年で検察庁が罰金を既済として徴収いたしました金額は、四十五年が二百四十五億三千百万円ばかりでございます。これは罰金でございます。科料のほうは、昭和四十五年で検察庁が既済といたしました金額は三百三万八千円というような形になっております。
 この罰金は、全部国の一般収入に入るということで、使い道その他はこれは何のひももついていないわけで、一般の収入になるわけでございます。
#47
○沖本委員 地元なんかでよく一般社会人から質問されるわけですけれども、国のほうはあれだけ罰金を取って何に使っているのだろうというような質問が多いわけです。それで、罰金の筋々によっては、そういうものを取ったその方角に向かって使ってもらいたいというような意見も非常に多いわけですね。特に交通違反である場合は、交通に関する安全設備なり道路の何らかに使われていくということ、そういうことを要求していらっしゃるわけなんです。ですから、一般会計、一般収入として国庫へ入ってしまうことになると、そのままということになりますけれども、収入された金額というものは浮き上がってくるわけですから、交通違反による罰金はこれこれに使うとか、そういうものもあってしかるべきではないか。こういう考え方については、法務省としてどうお考えですか。
#48
○辻政府委員 徴収いたしました罰金の使い道の問題についての御指摘でございますが、この問題は、御案内のとおり、先ほどまた御指摘になりましたように、いわゆる道路交通法違反の事件に関しまして、昭和四十三年から反則金制度というのができております。昭和四十三年に反則金制度ができましたときに、この反則金はどこに使うかということで、当時私どもは直接の所管ではございませんけれども、警察庁それから地方自治体を所管しております自治省、それと大蔵省という三者の間で、いろいろとこの反則金の使い道につきまして、これは各地方における交通安全施設の金に回すとかというような議論で、その使い分についていろいろと御議論があったように記憶いたしているわけでございまして、現実に交通反則金につきましては、ある程度地方のほうにこれが流れていっている、渡されておるというふうに承知をいたしております。
 しかし、この反則金以外の罰金につきましては、これはやはり刑罰制度というものは国の刑罰制度でございますので、刑罰として罰金あるいは科料を徴収いたしました場合には、その徴収することが意味があるわけでございます。その使い道というものを、犯罪との関係において考えていくのはやはり邪道ではなかろうか。そういう意味で、徴収いたしました罰金、科料は、全部国庫のほうに収入として納めるということに相なっているわけでございます。
#49
○沖本委員 今度の改正では、過料には触れられていないわけです。これも土井さんの御質問に出ていたように思いますけれども、全く同じ性質の義務違反においても、その過料の金額がまちまちだという話があるわけです。これに対してはどういうふうにしていらっしゃるか、お伺いしたいと思います。
#50
○辻政府委員 過料につきましては、これはいわゆる行政罰でございますから、この法案の刑罰とは関係がないという意味で、今回のこの改正案のもちろんワク外にあるわけでございます。
 それはそれといたしまして、過料が各現行の法令においてまちまちであろうという御指摘については、そういう点も確かにあるわけでございます。この点につきましては、過料を規定いたしました法律を所管いたしております各役所におきまして、それぞれ検討を加えるべきものであろうと考えておりますし、事、法務省に関しましては、民事局におきまして、この点の改正も十分検討いたしたいというふうに申しておるところでございます。
#51
○沖本委員 罰金及び科料を完納することができないで、労役場に労役させられる者がいるわけですけれども、昭和三十年から傷害、暴行、業務上過失致死傷、脅迫等で、労役場で労役に服した方々はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。
#52
○辻政府委員 罰金を納めることができずに、労役場に留置されたという者の数でございますが、ちょっと罪種別には統計がはっきりいたしませんので、一般的な数字として申し上げさせていただきたいと思うのでございます。
 昭和三十二年におきましては、罰金の件数が九十万九千百八十八件というのでございますが、そのうちで、納まらずに労役場留置処分を受けました件数が五千六百八十四ということでございまして、全体の〇・六%でございます。この労役場留置をいたします。パーセンテージが順次減ってまいっておりまして、昭和四十五年におきましては、罰金の既済件数は百七十万五千三百九十五件でございますが、そのうち、労役場留置処分に付せられました件数は三千二百二十件でございまして、全体の〇・二%という数になっております。これは、やはり経済状態がよくなってまいりまして、罰金の納まる率が非常によくなっておるということをあらわしておる数字であろうと考えております。
#53
○沖本委員 刑法十八条には、罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間労役に服するということがありますが、一日の金額というものはどれくらいに定められておるわけですか。
#54
○辻政府委員 一日の換算額でございますが、これは先ほど来申し上げておりますように、事案の性質あるいは被告人の財産状態ということを勘案して定められるわけでございます。一般的に幾らということは非常に言いにくいわけでございますけれども、普通の場合には、一日千円くらいの換算額というのが一般的な例であろうと思います。しかし、これは事案によりましてたいへん違うわけでありまして、先ほど沖本委員の御指摘になりました某所得税法違反事件のごときは、これは確定いたしておりませんけれども、最近東京地裁の言い渡しました所得税法違反で、一審の判決でございますが、被告人を罰金一億円に処したという場合の換算額は、二十万円を一日に換算した期間被告人を労役場留置するという裁判例もございまして、一がいには言えないわけでございます。
#55
○沖本委員 そういう一日以上二年以下という一つの条件があるわけです。そのために、そこから起算していって、罰金一億ということになると二十万であるとか、またそれ以上の罰金の出る人も出てくるのじゃないかと思いますが、そうなってくると、二十万とか五十万とかいう人と一日千円で働いている人と比べると、同じ罰を受けながら全然違った感じを社会通念上受けてしまう、こういうことになるわけです。ですから、この辺の労役の年限というものは、高額な罰金刑のきまる人等についてはもっと、五年とか十年とか、激しいものの考え方から言えば、そういうふうな年限を延ばした考え方できめるほうが平等ではないか、こういうふうに私は考えるわけでありますけれども、その点についていかがでありますか。
#56
○辻政府委員 労役場留置といいますのは、罰金、科料という財産刑の特殊な執行方法でございまして、それ自体は刑罰ではございません。あくまでもこれは財産刑の納まらぬ場合の執行方法でございますから、こういう方法というものは、本来はこれは財産刑なんでございますから、それを財産刑が納まらぬからといって、自由刑とよく似たような労役場に留置するということになりますと、これは性質上限度があるといわざるを得ないのでございまして、その限度が、現行法におきましては、一番単純な標準的な場合は二年以下というふうに区切っておるわけでございます。
 先ほど来私が申し上げております日数罰金制度をとっております特定の外国におきましても、労役場に留置する日数というものにつきましては、これはやはり一定の限度がございます。これは本来が財産刑であるということから、そう長い間こちらに留置しておくということは、やはり性質上ふさわしくないのではなかろうかという考えであろうと思います。
#57
○沖本委員 そうはなるんだろうと思いますけれども、やはり貧しい人たちの立場に立って、国民的な立場に立ってこれを比べて考えていきますと、いま言ったような疑念が出てくるわけです。ですから、これは何らか中間的なことを考え、内容を変えていただく必要があるのではないだろうか。払えなくて、一日千円の労役で労役場に行く。この場合は、本人が払えないために職業をほうって、それで行って、家族は家におるわけですから、そういう貧しい人の行き詰まっている生活状態というものと、高額な脱税をやって国民の目をごまかしてそういうことをしたという人との立場というものは、同じ罰金にしても違うと思うのです。ですから、そういう内容についてはもっと中間的なことを考えた、いわゆる貧しい人たちが納得できるような内容があってしかるべきではないか。そうでなければ、法律の平等ということは考えられないという点に私は疑問を持つのですが、その基準というものは裁判所のほうでおきめになるわけでございますね。
#58
○牧最高裁判所長官代理者 個々の裁判におきまして裁判を言い渡す際に、関係する金額もあわせて言い渡すわけでございます。
#59
○辻政府委員 罰金が被告人によって、特に財産状態の乏しい方に過酷になるのではないかという御指摘でございますが、これは先ほど来申し上げておりますように、裁判そのものにおきまして、被告人の財産状態というものが当然考えられておるわけでございますから、運用上はそういう問題は起きないというふうに考えておるわけでございます。現に、先ほど申しましたように、罰金が納まらずに労役場留置になりました者が、昭和四十五年では罰金総件数のわずか〇・二%であるというような数字からも、この現下の罰金というのが、そう過酷なものでないということは御推察願えると思うのでございます。
 なおそのほかに、現行刑法におきましては、罰金の分納というものを認めておるわけでございます。これは刑法十八条の六項に、分納という字はございませんけれども、「罰金又ハ科料ノ言渡ヲ受ケタル者其幾分ヲ納ムルトキハ」ということで幾分を納める、一回に全額を納めるということは必ずしも必要でないわけでございまして、現に検察庁におきましても、被告人といいますか、罰金に処せられた者につきまして、その執行にあたりましては、十分この分納という制度を活用いたしまして、過酷にわたらないように配慮いたしておるところでございます。
#60
○沖本委員 そういう面はわかるのです。ですけれども、先ほどから繰り返すように、貧しい立場に立って、自分の犯した罪によって労役場にどうしても行かなければならない、罰金が納められない、そういうところで家族をほうって行くわけです。これは反則金の場合でもいろいろ言えるわけですけれども、そこで一面そういう人たちから見れば、私たちはささいなことをして、この程度で行かなければならないんだ、だけれども、あの人たちはでっかいことをしておってゆうゆうとしているじゃないか、こういう結論が出てくるのですね。
 ですから、そういう考えを持たさないためにも、やはり中間的な考え方が必要ではないか。その人たちが見ても、納得のできる平等の原則的なものが必要ではないか。結局、一億とか何億とかいう罰金のかかっている人たちは、おそらくその罰金を払えるような経済状態にあると思うのですね。全部払えなくても、過半数なり何なりが払っていくようなことになっていくと思うのです。そういうような関係を考えていきますと、どうしましても貧しい人たちから見れば、やはり法の平等を守っていただくところがおやりになるのに、そんな不公平がある、金を持っている連中はゆうゆうとしている、こういう感じに立つわけです。そういう点を消すためにも、結果的にはおっしゃっているようなことが行なわれていくでしょうけれども、法律上なり何なりは、その人たちがある程度納得できるような筋合いのものがとれていいんじゃないだろうか。私はこまかいことを言えませんけれども、そういう点を感じるわけなんですが、その点はいかがですか。
#61
○辻政府委員 これは罰金刑の本質にかかわる問題でございます。この点につきましては、先ほども申し上げましたように、「刑の適用にあたっては、犯人の年齢、性格、経歴及び環境、」云々というようなものを十分考えて適用するのだということは一つの一般的な原則でございますから、具体的な罰金刑の適用につきましては、裁判所において十分その被告人の財産状況というものを勘案して裁判をなされるわけでございますから、具体的なこの公平性というものについては、さほど問題はないのではなかろうかというふうに考えております。
 なお、今回この法律案におきまして、刑法等の罪について法定刑の多額が四倍になるというふうに考えておりますが、かりにこの法律案が法律になりました場合には、この運用といたしまして、裁判の言い渡しの金額が直ちに四倍になるというわけではございません。この法定刑の上限が四倍になるというわけでございますから、その範囲内で適切な裁判がなされるわけでございますから、かりにその裁判の結果罰金額が上がりました場合には、やはりこの一日の換算額というのもそれにスライドして上がるというような裁判が当然なされるところであろうと思いますので、この点につきまして、労役場留置との関係におきましては、この法律案が法律になりました場合におきましても、現行と著しく変わるというようなことは絶対にないわけでございます。
#62
○沖本委員 そこで、罰金は四倍になったのですが、労役に服する一日の額については、そのまま、現行のままでお済ましになるわけでありますか。
#63
○辻政府委員 ただいま申し上げましたように、一日の労役に服する場合の換算額でございますが、これは具体的な案件につきまして裁判所がおきめになるのでございます。裁判についておきめになるわけでございます。その場合に、ただいま申しましたように、この法律案が法律になりました暁におきまして、罰金が刑法等については一応上がってくると見なければならぬわけでございますが、その罰金額が、言い渡し額が上がれば、それに相応してこの換算額も当然裁判において上げられるということで、この比率は変わるというふうには考えていないわけでございます。これはこれまでと同じような運用が、当然行なわれるべきものであろうというふうに考えておるわけでございます。
#64
○沖本委員 裁判所のほうはどうお考えでございますか。
#65
○牧最高裁判所長官代理者 ただいま辻刑事局長の申されたとおりだろうと思います。先ほどもお話がありましたように、罰金が四倍になりましても、直ちに裁判で言い渡される額が四倍になるわけではございません。先ほどのお話のとおり、裁判にある程度の連続性が必要になろうかと存じますので、従前と同じような種類の犯罪について言い渡された刑ということが、やはり今後でも一つの参考になるわけでございますので、そう急激に罰金額が多額になるということはないだろうと存じます。しかし、徐々に上がっていくといたしますと、換算額というものもそれに応じて引き上げられていくのが通常であろうかというふうに思っております。
#66
○沖本委員 聞くところによりますと、最近裁判所の量刑は低いところにかたまっている。たとえば、懲役一年から十年の場合、一年から五年ぐらいに集中する、こういうふうに聞いているわけです。罰金刑についてもそのような傾向にあるのでしょうか、どうでしょうか。
#67
○牧最高裁判所長官代理者 法定刑のうち、わりあい低いほうにかたまる傾向があると言われるのは、自由刑についてそのような御批評があろうかと存じます。罰金刑についてはそのような傾向は見られませんで、先ほど辻刑事局長から御説明がございましたように、むしろ上限のほうに現在の状況では片寄っていく傾向にあるということさえ言えるのではなかろうかと思います。
#68
○沖本委員 裁判官の中には、罰金をもっと科したいけれども、法律で頭打ちになっているのでということで、複雑なお気持ちで判決なり何なりをお考えでいらっしゃるというふうに私たちは推量するわけでありますけれども、裁判官の皆さん方は、現在の罰金額が低過ぎるというふうなお考えを皆さんお持ちでしょうか。そういうお話がいろいろありましたでしょうか、どうでしょうか。
#69
○牧最高裁判所長官代理者 特に罰金額の多額をどの程度にしたらいいかというような点について、裁判官の意見を徴したということはございませんけれども、個々に連絡のある裁判官の中では、現在の罰金額が少ないということの意見を漏らされる方は間々ございます。
#70
○沖本委員 それは業務上過失致死傷とか、そういうふうなときにもずいぶん頭打ちになりましたね。われわれが考えてもこれはたいへんだということで、辻刑事局長がおっしゃったとおりに、あのときはもう全会一致であの法律は通ったと思うのですけれども、やはりあのときのムードのような状態にいまきておるのか、どうでしょうか。その点いかがですか。
#71
○牧最高裁判所長官代理者 各罪種によりまして、その点の考え方は若干違うことにはなろうかと存じます。一番適切な例が、いまお話しの業務上過失致死傷の例あるいは暴行、傷害、住居侵入というような例でございまして、その他の分については、選択刑等の関係もありまして、必ずしも罰金刑の、現在の社会情勢に合わないという面が直接出てこない、出てき方が少ない部面もございますので、罪種によってそこは若干の差があろうかと存じます。
#72
○沖本委員 これは先ほどの御質問に戻っていくようになりますが、もう一度お伺いしたいのですが、いわゆる貧しい方に罰金を言い渡す場合に、具体的にどういう点について御配慮なり何なりをされながら刑の言い渡しなりをなさっていらっしゃるか、具体的なことをお伺いしたいと思います。
#73
○牧最高裁判所長官代理者 刑罰を量定する際の根本は、やはり犯罪行為に見合った責任ということが中心であろうと思います。しかし、それに含めまして、当然本人のいわゆる改過遷善とか社会に対する予防というようなことも考えていかなければならないことだろうと思います。そういう意味で、罰金刑を選択したような場合におきましては、犯人の収入、資産その他の経済状態というようなものも当然含まれて罰金額が量定されていくことになろうかと思うわけでございます。
#74
○沖本委員 刑法第二十五条の中で、罰金刑についても執行猶予がつけられる、こういうように伺ったわけでありますが、私たち聞きなれていなかったもので、こんなのがあったのか、こういうふうに思ったのでありますが、実際はどの程度こういう執行猶予というものが活用されていらっしゃるのか、情状酌量で執行猶予をなさるわけでありますが、具体的な場合をとってひとつ御説明していただけたら、勉強になると思うのですけれども……。
#75
○牧最高裁判所長官代理者 罰金刑についても、執行猶予が付し得るように刑法が改正になったわけでございますが、この結果、どの程度執行猶予が付されているかということを、ちょっと数字で申し上げてみますと、通常第一審の、いわゆる略式命令ではない、公判で審理を受けた事件についての数字でございますが、罰金刑に処せられた人員のうち、執行猶予の言い渡しを受けた、執行猶予に付せられた人員と申しますのは、四十二年でまいりますと約四・〇四%、四十三年におきまして三・九七%、四十四年で六・一七%、若干上がっておりますが、きわめて数としては少ない数字になろうかと存じます。これは、罰金刑で実際に罰金を徴収するのも気の毒だというような事件に執行猶予が付せられるということになるわけでございまして、現在の罰金額が、社会状態に比べますとそう高いわけではございませんので、それを徴収しなくとも済むというような事例というのはきわめてまれではなかろうかというふうに思います。その結果が、このような数字にあらわれておるのかと思います。
 具体的に、どのような場合が執行猶予に付せられるのであろうかということは、ちょっとなかなか申し上げにくいかと存じますけれども、まあ業務上過失致死傷のような事件で起訴されまして、有罪にならざるを得ない、しかもその程度は罰金刑だというような場合に、過失があるということは事実だけれども、相手方、被害者のほうにも過失があったというような場合で、その被害者があるいは何かの都合で起訴されていないというような場合に、それに実際に罰金を取るというのは気の毒であるというような事例に、あるいは執行猶予が付せられるということがあるのではなかろうかというふうに考えております。全体的に見まして、業務上過失致死傷の事件に、致死の場合はございませんが、業務上過失の事件に執行猶予が付せられるものが多いように聞いております。
#76
○沖本委員 罰金刑を科する場合は、公判の場合と簡単に略式命令という形があるように伺いますが、略式の手続の場合、簡易裁判所で三十万円扱うというようなこともあったわけですけれども、四倍に罰金刑が上がってきた場合、略式命令ではあまり簡単過ぎるのじゃないかというふうにも考えてみることもできるわけですけれども、そういう面について、裁判所のほうのお考えはどういうお考えでしょう。
#77
○牧最高裁判所長官代理者 略式命令の科し得る限度でございますが、現在五万円ということに定められております。したがいまして、今度の法案によりますと、それが四倍ということで二十万になるわけでございます。これは一般の法定刑が四倍になったことに対応しているだけでございまして、従前と取り扱いは変わらないわけでございます。つまりこれは、従前略式命令を科し得る対象であったものを、そのとおり今度の改正後も略式命令の対象となし得るというだけのことでございまして、従前と取り扱いが変わってくるわけではございません。
#78
○沖本委員 そのこと自体に矛盾が生じませんでしょうか。その点いかがですか。
#79
○牧最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたとおり、ただ単純にスライドしただけのことでございまして、矛盾というようなことはないのじゃなかろうかと思います。
 ただ、従来五万円以下のものが略式命令の請求を受けたわけでございますが、それを現在の略式命令の限度を変えませんと、五万円以下のものしかやはり請求できないということになると、たいていのものは略式命令というのができないということになろうかと思います。そういたしますと、刑事裁判のほとんどが現在略式命令で行なわれておるわけでございまして、大体九五%程度が略式命令ではなかろうかと存じますが、そのうちの相当部分が通常公判に変わらなければならない。そうしますと、制度の改正といたしまして、裁判官の手当てあるいはその他相当大きなことになってまいりますので、裁判制度の非常に大きな変革になろうかと思います。今度の場合は、そういうことのないように、現状のままの運営でいけるようにしようというところに、略式の限度を上げた理由があるのではなかろうかというふうに考えております。
#80
○松澤委員長 関連として中谷鉄也君。
#81
○中谷委員 そうすると、先ほどからの刑事局長、最高裁刑事局長の御答弁では、罰金の限度額を四倍に引き上げても、従前からの刑との比較において、必ずしも単純に裁判所の量刑が上がるものではないというふうなお話がありましたが、略式命令と通常裁判との割合は、そうすると、見通しとしては変わらない、こういうふうなことでありますか。いまお答えがあったですけれども……。
#82
○牧最高裁判所長官代理者 そう大きな変動を来たさないというふうに考えております。
#83
○中谷委員 大きな変動を来たさないということは、略式命令九五%ということについて、見込みとしてはどうなんでございましょうか。大きな変動は来たさないけれども、略式命令はふえる、それとも減る、どういうことになるのでしょうか。
#84
○牧最高裁判所長官代理者 これはむしろ裁判所のほうの方針できめられるわけではございませんで、検察官のほうのいわゆる起訴方針いかんにかかるところでございますが、従前五万円の罰金を科せられた犯罪者が、いわゆる罰金等臨時措置法の改正によって、それが直ちに二十万円というふうになるのではなくて、検察官のほうとしてもやはり、それはもし現在の状況に合わないとしても、徐々に改正されていくのだということになるとすれば、略式命令の請求の数も、そう変わってくるものではなかろうというふうに考えております。
#85
○中谷委員 そう変わってくるはずがない、またそういうことが急激に変わっては好ましくないということはよくわかるのですが、変わるとすれば、その変わり方はどういうふうな変わり方になるでしょうか。たとえば略式命令の請求をされた場合に、略式命令不相当というふうな措置も裁判所はとることができるわけですから、大きな変動はないだろうけれども、かりに変化があるとすれば、どういうふうな変化が予測されるでしょうか。
#86
○牧最高裁判所長官代理者 これは多くなるとも少なくなるとも申し上げかねるわけでございますが、数字としては略式のほうが若干ふえるのではなかろうか。従来正式裁判で処理されなければならなかったような事案も、罰金刑の額が上がることによって、罰金として処理して差しつかえないではないかということになれば、略式命令のほうがふえていくというようなことは想像されると思います。
#87
○中谷委員 従来通常裁判でもって処理すべき案件が略式によって処理されるということは、従来通常裁判において体刑の求刑あるいはまた体刑の判決、それが懲役刑あるいは禁錮刑を選択されたが、それが執行猶予を付せられるかどうかは別として、そういうふうなものが罰金として量刑される可能性というものについての予測が、将来の問題として起こってくるという趣旨でございますか。
#88
○牧最高裁判所長官代理者 あるいはちょっとことばが適当でなかったのかとは思いますが、従来罰金刑にすべきものが体刑にされているという趣旨ではございませんで、やはり裁判の流れというものは、長い目で見ますれば、ある程度寛刑化の傾向にあるということは、これは間違いないところだと存じます。罰金が上がることによりまして、従来体刑相当と考えられておりましたものが、観念の変化によって罰金相当のほうに変わってくるということは、あり得るだろうという趣旨でございます。
#89
○中谷委員 寛刑化の傾向にあるということは、刑事政策について若干の関心を持つ者であればだれでも気がついていることだし、そういうことは指摘できる点ですけれども、本法案が成立した場合、先ほど、通常裁判を本来求めたものが略式命令を求めることの可能性というものは出てくるだろう、こういうふうにおっしゃったわけですけれども、通常裁判を求めるということは、主として特別に事実認定その他が困難なもの、あるいは社会的に注目を引いた事案というふうなもので、求刑としては、通常体刑の求刑が予想されるものというふうに思われるわけですけれども、先ほどのお話は、結局そういうふうな体刑の求刑をしたものが、すなわち通常裁判の請求をしたものが、略式命令によって処理されるということは、体刑によってまかなっておったものが略式命令、すなわち罰金をもって処せられるということで、要するに、本法案は寛刑の傾向というものに一つプラスアルファ、拍車をかけるというふうな性格のもの、結果として、効果としてそういう効果を持つというふうに御答弁からは推測できるのですけれども、そういうふうに見ることは、先ほどの御答弁のように即断になるのでしょうか。通常裁判の請求をしておったものが略式になる傾向というものは見られるでしょうということになれば、そういうふうな説明はあながち間違った説明でもないし、理解でもないと思うけれども、この点はいかがですか。
#90
○牧最高裁判所長官代理者 それは今後の運用を見てみないとわかりませんのですが、そういう可能性はばくとして、罰金の言い渡し限度額が広がったことによって可能性はふえた、あるいはそういう障害が除かれたというふうに見てもいいかと存じますので、そういう可能性はあり得るだろうということを申し上げたわけでございまして、数字自体が一年後に直ちにそうなるとか、そういうものというふうに申し上げた趣旨ではございません。
#91
○中谷委員 私は、一度この点は、刑事政策あるいは刑事法の専門家である刑事局長さんに御答弁いただきたいと思っておったのですけれども、刑法制定以来ずっと、物価の安定しておった時代あるいはインフレの時代、こういうふうな時代をわれわれ経過をしてきたと思うのですけれども、そういうふうな中で、なるほど資料として昭和三十年ごろからの資料というのはいただいているわけですけれども、そういうふうな物価の変動のときにおける量刑というもの、要するに、今回四倍に上げることを意図しているわけですけれども、そういうふうな罰金刑を大きく上げたというふうな場合の量刑が、どういうふうな運命をたどってきたか、どういうふうな傾向を示しただろうかというふうな点について、最高裁刑事局のほうでは、過去のそういう実証的な研究というものは十分進んでおるというふうに思いますけれども、そういうふうな点についての司法統計等はあるのでしょうか。
#92
○牧最高裁判所長官代理者 直接経済情勢の変動、それと関連づけて、いわゆる罰金等臨時措置法制定後の量刑の問題等を研究したものは、寡聞でございますけれども、ないように存じます。
 しかし、一般的に数字を見てまいりますと、五十倍に罰金等臨時措置法で上げられたときに、直ちにそれが言い渡しの金額にはね返って、罰金がすぐ五十倍になっているということはございませんで、その過程は、現在ようやく五十倍に近づいてきたということでございまして、徐々に上がっていっているということしか申し上げられないだろうと思います。数字的にもその点は、過去の統計等によってわかるところでございまして、現在、たとえば一万円以上の罰金を言い渡されている率というものは、昭和四十年あるいは三十年ぐらいから比べまして、一年のふえていく率というのは非常に少ないわけでございます。そういうところからもそういう傾向は看取できるだろうというふうに思います。
#93
○中谷委員 そこで、関連質問ですが、この沖本委員の質問の機会にお願いをしておきたいことがあるのですけれども、保釈保証金でございますね。罰金等臨時措置法によって罰金の額が五十倍から二百倍、そして四倍ということに上がっていっている。それでは保釈保証金についての傾向というふうなものは、これは資料としてお願いをするのは、法務省ではなしに最高裁判所刑事局のほうへお願いすべき資料のように思いますけれども、これはやはり罰金というものが労役場留置というものを含んでおるという点において、ことにそれは刑であり、罰金の額をどれだけ上げるかということは、国民の人権にたいへんな影響がありますけれども、保釈保証金もまた私は国民の人権というものに影響が重大だと思うのです。保釈保証金の傾向等について資料を御提出いただきたいと思うのですが、いただけますか。
#94
○牧最高裁判所長官代理者 保釈保証金につきましては、統計上数値をとっておりませんので、これを資料化することが非常に困難だろうと存じます。
 ただ、一般的な傾向として、一番近い東京地裁等の例を考えてみますと、ここ二、三年の間に保釈保証金というものの額が上がったということは、一般的に言えるのではなかろうかと存じます。
#95
○中谷委員 上がったということについての感じは、もうだれしも持っているわけですけれども、その点について、そうすると裁判官は、先ほどお話しになったように量刑等についても、過去の量刑その他、法的安定性ということだろうと思いますけれども、というものを十分考慮、勘案されて量刑をされるということであります。そういたしますと、保釈保証金の東京地裁、あるいは大阪地裁、あるいは福岡地裁、あるいは和歌山、奈良というふうなところにおいて、全国の間に一つの共通した傾向、そうして比較した場合に、ある裁判所が特段に保釈保証金が高くなっている、ある裁判所はそれほどでもないというふうな状況があることは、必ずしも好ましくないと思うのです。もちろん地域の事情、あるいは地域の金銭に対する感覚その他事件の性質などによって異なることもあり得るし、それはまたそれだけに合理的な理由の説明があってしかるべきだと思うのですけれども、そうすると、保釈保証金については、御専門の刑事局長が上がったでしょう、上がる傾向にありますということであって、どの程度上がってきているのかというふうな点についての資料等は、お出しいただけないことになるのでしょうか。
#96
○牧最高裁判所長官代理者 保釈保証金は、御案内のとおり逃亡担保のための金額でございますので、罰金のように、いわゆる犯罪行為の責任に応じた額というような形でなかなか基準化しにくいわけでございます。むしろ、被告人の資産状態あるいは環境、性格、そういったものがもっと端的に影響してくる分野、したがって個別的な性格が強いということが言い得るだろうと思いますので、それの統計的な処理ということは、非常に困難ではなかろうかというふうに思っております。
#97
○中谷委員 そうでしょうか。逃亡担保という意味で言いますならば、昭和三十年における傷害罪で勾留、起訴された者についてのうち、保釈許可された者の保釈保証金の高いほうの額、そうして低いほうの額、そしてそれの平均というようなものを出すということは、必ずしも困難なことでないと思うわけであります。逃亡担保だということにおいて、逃亡を防止することを担保するに足る金額というものが、金銭の価値の変動に伴って、物価の上昇に伴って一般的に上昇しているということは、これは個別的な状況ではなしに一般的な傾向であり、事情であると思うのです。そういう点でどの程度高くなってきているのだろうかということ、どの程度の保釈保証金が、個々の状況、事情等を考慮される中において、その一つの要素である金銭の価値の下落という中において、全体としてこれだけ過去に比べて保釈保証金が高くなってきているというようなことは、私は統計的には出し得るものだと思うのです。個別的な事情で、昭和三十年における逃亡の可能性を持っている人と、同程度の逃亡の可能性を持っている昭和四十六年における保釈保証金の額は、私は同種の事案であった場合に、保釈保証金の額が同一とはとうてい思えないわけです。そういうようなことにおける保釈保証金の資料というものが全くないというのは非常におかしいし、保釈保証金がどれだけの額に認定されるのか、また、この罰金の金額が四倍にされることによって保釈保証金に影響していく可能性、これは当然私は影響があると思いますけれども、そういうようなことがどういうふうな影響を及ぼすだろうかというふうなことは、関心を持っていい問題だと思うのです。
 いずれにいたしましても、もう一度お尋ねいたしますけれども、保釈保証金の上がりぐあいについての資料というものは、全く裁判所には皆無なんでしょうか。
#98
○牧最高裁判所長官代理者 保釈保証金の場合につきましては、罰金等に見られますように限度が定められておりませんので、個々的には非常に高額な分もあろうかと存じます。そういう特殊な事例を除きまして、一般的に過去の上がってきている傾向というようなことでございましたならば、ある程度、正確ではないかもしれませんが、とることもできようかと存じますので、調査の上御連絡いたしたいというふうに考えております。
#99
○中谷委員 そうすると、裁判所統計の中にはそういうふうな統計がないのだと思いますけれども、御調査をいただいて、そういうものについて御提出をいただけるということでございますね。それは全国的な傾向として、たとえば傷害なら傷害、暴行なら暴行という事案についてお出しいただくのか、それとも東京地裁とか大阪地裁ということでお出しいただくのか、それはどういうふうな資料をお出しいただくのでしょうか。
#100
○牧最高裁判所長官代理者 保釈保証金の額として統計上の処理をいたしておりませんので、全国的な分を調査いたしますとしますと、個々の保釈決定を全部取り寄せて集計する以外方法がないので、もしその点の概略の傾向がわかるということで足りるということでございましたら、東京地裁等を調査の対象とさしていただいて調べさしていただいたほうがよろしいのじゃなかろうかと存じますが、いかがでございましょうか。
#101
○中谷委員 東京地裁を中心にしてお出しいただくこと、要するにどういう資料を出すことが可能かどうかということが、まずお答えをいただくべき点だろうと思うのですが、東京地裁の分をお出しいただくことによって、本法案審議に関連をしての保釈保証金の傾向というものがうかがうことができるということであれば、またそれはそれで私としてはけっこうなんです。それで全体、全国的な傾向もうかがうことができるのだというものであれば、私のほうから、東京地裁だけでは困るというようなことを申し上げるつもりはございませんが、いかがでしょうか。
#102
○牧最高裁判所長官代理者 大体全国的な傾向を推測することが足りるだろうというふうに思っております。
#103
○中谷委員 関連質問ですので、これで終わります。
#104
○沖本委員 最後に辻刑事局長にお伺いしたいのですが、関連していると思ってお伺いするのですが、無過失賠償責任等にもあるわけですけれども、経営者の責任が現場の人に転嫁されて、その人たちが代理で罪に服する、こういうふうな内容のものが最近非常に多いように思われるのです。
 今度の千日デパートの火災でも、非常に支配人の避難の誘導が悪かったとかなんとか、そのアルサロの中の非常口の配置がどうであったとかこうであったとかということ導が悪かったとかなんとか、そのアルサロの中の非常口の配置がどうでああったかこうであったかということで、現場の人たちがその責任を問われ、会社の責任が問われないというようなことがいろいろな面から出てきますと、国民の生命、財産を守る上からは問題がある、こういうふうに考えるわけです。往々にして、現場の人たちが罪に服する場合には、少ない場合は罰金、こういうふうなことできめられる場合が非常にケースとしては多いのじゃないか、こういうふうに考えられるわけでございますけれども、最近の犯罪の傾向といたしまして、刑事局長としてはこの種の問題に対してどういうふうなお考えでいらっしゃるか、この点だけを最後にお伺いしておきたいと思います。
#105
○辻政府委員 一般的に申し上げまして、刑事責任を追及するという立場でものを考えざるを得ないわけでございますが、その場合に、刑事責任ということは、結局犯罪構成要件に該当する事実を行なったということがまず第一でございます。
 そういうふうに考えてまいりますと、いわゆる監督者というものは、その監督者がみずから犯罪構成要件に該当する行為をしたというふうに評価できる限りにおきましては、これは一般の末端の者であろうと監督者であろうと、問題は、抽象的に申しますと、構成要件に該当する事実を犯したかどうかという問題に帰着するわけでございまして、一般論といたしまして、この監督者というものは、行為者がそういう犯罪構成要件に該当する事実を犯したことについて、十分な監督をしたかどうかという観点から問題を問われるというのが通常でございます。
 そういたしますと、それはとりもなおさず監督者自身はみずから犯罪構成要件に該当する事実を犯したというふうにはなかなか見られることが少なくて、その場合に民事的に、そういう行為者が犯罪構成要件に該当する事実を犯したことについて、監督責任を全うしたかどうかという点からものごとが見られる場合が多いわけでございます。そういうことになりますと、結果的には監督者というほうは、通例の場合直接刑事責任を問われるというようなケースが少ない、これは民事上の監督責任で責任を問われるというのが、おのずから多くなってくるという結果に相なるわけでございます。
 しかしながら、検察におきましては、一定の犯罪が行なわれました場合に、そういう監督者自身が犯罪構成要件に該当する行為を犯したというように見得る限りは、当然その点について十分な追及をして、刑事責任が必ずしも監督者等について、のがれやすいというようなことにならないように十分配慮して、検察事務を進めていっておるものと確信する次第でございます。
#106
○沖本委員 いま御答弁がありましたわけですけれども、新聞でお読みだと思いますが、たとえば千日デパートのアルサロの火事ですね、非常口にいすを積んであったとか、あるいは非常口の前にカーテンを引いてあったとか、そういう問題は火災予防の立場から、あるいは避難とかいう立場から、そこの支配人なり管理者自体が十分気をつけなければならないというような点が論議されてはおりますけれども、結果的には、経営者自体がそういうものを容認していくところに問題もあるわけですから、やはり経営者自体が相当きびしい内容で責任を問われていくということでなければ、この種の問題は将来もなかなか解決しない、こういうふうに考えられるわけであります。
 そういうことですから、十分そういう点を今後御研究いただいて、司法の立場からも、こういう悲惨な事故を防ぐために御検討をいただくことをお願いいたしまして、質問を終わります。
#107
○松澤委員長 次回は、明十七日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
   午後零時三十四分散会
ソース: 国立国会図書館
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