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1971/06/06 第68回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第068回国会 法務委員会 第29号
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1971/06/06 第68回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第068回国会 法務委員会 第29号

#1
第068回国会 法務委員会 第29号
昭和四十七年六月六日(火曜日)
    午前十時三十八分開議
 出席委員
   委員長 松澤 雄藏君
   理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君
   理事 田中伊三次君 理事 高橋 英吉君
   理事 羽田野忠文君 理事 中谷 鉄也君
   理事 林  孝矩君 理事 麻生 良方君
      石井  桂君    大坪 保雄君
      鍛冶 良作君    中村 梅吉君
      松本 十郎君    山下 元利君
      青柳 盛雄君
 出席政府委員
        法務政務次官  村山 達雄君
        法務大臣官房司
        法法制調査部長 貞家 克巳君
 委員外の出席者
        最高裁判所事務
        総局刑事局長  牧  圭次君
        法務委員会調査
        室長      松本 卓矣君
    ―――――――――――――
委員の異動
六月六日
 辞任         補欠選任
  中村庸一郎君     山下 元利君
  畑   和君     高田 富之君
同日
 辞任         補欠選任
  山下 元利君     中村庸一郎君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 刑事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する
 法律案(内閣提出第一〇九号)
     ――――◇―――――
#2
○松澤委員長 これより会議を開きます。
  おはかりいたします。
 本日、最高裁判所牧刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
  〔「異議なし」〕と呼ぶ者あり
#3
○松澤委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
     ――――◇―――――
#4
○松澤委員長 内閣提出、刑事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中谷鉄他君。
#5
○中谷委員 刑事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案について質問をいたします。
 まず最初に、最高裁にお尋ねをいたしたいと思いますが、昭和四十七年五月十九日の高等、地方、家庭各裁判所長官並びに所長に対する通達が、刑事局長、経理局長名で出されているようでありますが、国選弁護人に対する報酬額については、どのようなことを考慮してきめられるでしょうか、最初にお答えをいただきたいと思います。
#6
○牧最高裁判所長官代理者 通達にもございますように、国選弁護人の報酬のきめ方につきましては、事件の難易、あるいは弁護人の訴訟活動の内容、特に公判前の準備活動、あるいはその事件に要しました開廷回数、あるいは従前の支給実績、各地の実情等を考慮して、それぞれ担当の裁判所で定められるということになっておるわけでございます。
#7
○中谷委員 国選弁護人の報酬でありますが、この国選弁護人の報酬というのは、現実に国選弁護人がその弁護活動に要した実費を下回ることはない、それにプラスアルファされるということなのか。それとも、国選弁護人の弁護士としての社会的な使命、刑事被告人について、それを弁護することによってその人権を守るというふうな、弁護士の持っておるところの任務、そういうようなものが報酬額として算定されるのか、要するに、実費を報酬として支払われるものなのか、この点はいかがでしょうか。
#8
○牧最高裁判所長官代理者 直接、刑事訴訟法の法文によりますと、費用という形は出てまいりませんで、報酬ということになっておりますけれども、特段に費用を要したということになりますれば、それらのことは、十分考慮して定められるというのが一般になっておるようでございます。
#9
○中谷委員 たとえば、通達についてお答えをいただきたいと思いますけれども、公判前の準備活動の程度というのは、裁判所においてそれを考慮して報酬額を決定するとありますが、従前の準備活動の程度というのは、裁判所においてはどのような方法で認定をされるわけですか。
#10
○牧最高裁判所長官代理者 準備活動の有無ということを、直接そのまま裁判所のほうで理解し得るということは、なかなかむずかしいこともあろうかと存じます。
 ただ、公判における弁護活動が、十分準備されたものによって行なわれたものかどうかということは、ある程度公判においての活動によってわかろうかと存じます。そういうような点を加味して考えるということになろうかというふうに思っております。
#11
○中谷委員 そうすると、裁判所が弁護士、すなわち国選弁護人の弁護活動を、勤評されるということになるわけですか。
#12
○牧最高裁判所長官代理者 そういう趣旨ではございませんけれども、たとえば事前の活動というのが、いろいろ被告人に面接する、あるいは関係者に面接する、そのために旅費等を要するというようなことが出てまいりますれば、そういうようなことは当然考えていかなければならないということになりましょうし、また、あるいは事件によっては示談にするとか、そういうことが必要な弁護活動の中に入ってくる場合もあろうと思います。そういうような場合、いろいろ弁護士としての活動に費用も要するでしょうし、いろいろな労力も要せられるだろうと思います。そういうような点を含めて、報酬の中でお支払いをすべきものという意味でございます。
#13
○中谷委員 どうしてそれを認定されるかということをお尋ねしているわけであります。たとえば不拘束の被告人について、事務所において何回面接をしたか、あるいは勾留中の被告人について何回面接をしたか、あるいはまたその家族を事務所へ招いて、家庭関係等の事情を聴取したかというふうなことは、直ちに記録にあらわれてまいりませんが、そういうようなことは、報酬の適当な額を決定する勘案事項の一つになっているということでありますけれども、裁判所はそういうことは直ちにわかるわけはないと思いますが、この点は、一体勘案事項になっているというのはどういうことなのでございましょうか。
#14
○牧最高裁判所長官代理者 公判の活動で、たとえば示談の書証が提出された、あるいはそれらに関連する証人の申請があったということであれば、事前にある程度弁護人のほうが被害者と交渉したというような活動があったということは想定されると思います。そういうようなことによって想定されることが一つでございますが、やはり一番直接的には、弁護人から、この事件についてはこれだけの特別の費用が要ったというようなことで、もしお申し出がございますれば、そういうことは当然考慮されるということになろうかと思います。
#15
○中谷委員 たとえば、事件の難易等が勘案事項の一つということに相なっておるわけでありますけれども、いわゆるむずかしい事件について、しかも犯行回数が多数回に及ぶというような窃盗事件、それらの事件について、何千ページというふうな記録を謄写したというふうな場合は、報酬額の算定についてどういうふうな配慮をされるのでしょうか。
#16
○牧最高裁判所長官代理者 記録の謄写費用というようなことは、通常弁護活動として必要なことに入ってまいるだろうと存じますので、それらは、通常は大体報酬の中に含めて考えていくというふうに思っておりますが、たとえば記録が非常に膨大であって、その謄写に特別な費用を要したというような場合は、特段にお申し出をいただいて、それらのことを考慮して報酬額を決定するということになろうかと思います。
#17
○中谷委員 刑事局長の実務的な経験としてお話をいただいてけっこうでありますけれども、弁護人のほうから、謄写費用にたくさん金が要りましたから、自分の報酬額をそれに基づいて算定してもらいたいなどというふうな申し出ということは、ちょっと考えられないし、ありそうにも思えないわけであります。せいぜい裁判官のほうから、ずいぶん膨大な記録を謄写して弁護を引き受けていただいた、たいへんに御苦労でしたというふうなお話があることがあたりまえであって、また弁護士としてもそれでいいものとして、今日まで国選弁護人としての活動に従事してきているのが実態だと思うのですが、これは裁判所としては、そういうふうな費用、また、たとえば示談のために被害者の家庭を歴訪するなどというようなことは、申し出をすることを期待をしておられるのでしょうか。何かそういうふうなことを、むしろ好ましくないと言えば極端でありますけれども、そういう申し出をすることをあまりしないような雰囲気というものが、私は弁護士の中にはあると思うのです。この点はいかがでしょうか。
#18
○牧最高裁判所長官代理者 一般的の場合については、大体通常この程度のことはされるということを予想して、国選弁護人の報酬額を決定しておりますので、特にその点についてお申し出がなければ、特段の費用を要したことでないということで処理されているのが多いかと思いますけれども、事件によって非常に特別の費用を要したというふうに考えられる分については、裁判所のほうも考えますけれども、弁護人のほうからもお申し出をいただくというようなことで、適正な額の決定に資したいというふうに考えております。
 たとえば東京で事件を起こしている事件で、被告人の親族関係が京都にいて、それらも情状関係で取り調べなければならないということで京都に行かれたということがあれば、そういうようなことの分の活動費用というようなことは、当然考慮しなければならないと思いますし、また、実際にはそういうことも含めて考えられているというように思います。
#19
○中谷委員 被告人の人権を守るという観点からお尋ねをしたいと思いますが、むずかしい事件について、一人の被告人に対して、複数の国選弁護人の選任をするという例は往々にしてありますか。
#20
○牧最高裁判所長官代理者 一人というのが従来までのほとんどの例であろうかと存じます。複数が絶対ないということも、私のほうもちょっと申し上げかねますけれども、原則としては、従来は一人であったというふうに思います。
#21
○中谷委員 複数の弁護人を国選弁護人として裁判所が選任をするということ、このことは、法律上そういうことが許されないという趣旨ではないわけでございますね。
#22
○牧最高裁判所長官代理者 一応刑事訴訟法の解釈としては、一人という考え方が一般であろうかと存じます。ただ、それには同時につけられるという学説もあるようではございますけれども、一般的には、一人であるという解釈が一般のように聞いております。
#23
○中谷委員 法学部の学生ではないので、学説をお聞きしているわけではないわけです。実務的な問題として、第一線裁判官がそういうふうな選任をされる場合、それは最高裁判所は、裁判官の意向にまかすということで理解をしてよろしいのでしょうか。
#24
○牧最高裁判所長官代理者 一般的には一人ということでございますが、事件によってその特殊性から、やはり数人の弁護人をつけなければ困るというふうに裁判所が考えられてつけられる分について、最高裁判所のほうとして、それをどうこうということはございません。
#25
○中谷委員 たとえば、事件の特殊性というのは一体どういうふうな場合でしょうか。実は私そういう経験を持っているし、当時そういうふうな選任方法をされた裁判官の措置というものは、私は非常に正しかったと思っているわけですが、最高裁としてはどういう場合にそういうものを想定されますか。
#26
○牧最高裁判所長官代理者 非常に抽象的に申し上げますと、困難な事件ということになろうかと存じますが、実際の例としては、集団事件等についてそういう例があったかと思います。
#27
○中谷委員 もう一度お尋ねいたしますけれども、弁護人のほうから、たとえば家族と面接をするために、あるいはまた被害者と示談をするために遠隔の地へ行ったとか、あるいはまた記録を全部謄写したとかというふうなこと、たとえばその記録がすでに裁判所に提出をされて、何かの都合で最初の国選弁護人が辞任をされたというふうな場合なら、裁判所のほうで記録謄写の関係はわかっていただけると思いますけれども、そういうようなことの例は、いま京都のお話が出ましたけれども、それは刑事局長御自身の経験として、そういう例があったとしてのお話なんでしょうか。
#28
○牧最高裁判所長官代理者 私、直接ではございませんけれども、そういう例を地裁にいるとき二、三承知をしているということでございまして、そういうことでお申し出のある方の例も、二、三私どもとしては伺っておるわけでございます。
#29
○中谷委員 簡易裁判所とそれから地方裁判所、控訴事件としての高等裁判所、それから最高裁判所、こういうふうな場合に、訴訟費用の報酬については差があるのはどういうわけでしょうか。差があるのでしょうか。
#30
○牧最高裁判所長官代理者 若干の差が、基準的に出しております報酬額にはございます。それは一般的には、平均的に事件の難易ということを考えて、そういうことが出てきているのだろうと思います。
#31
○中谷委員 簡裁、地裁、高等裁判所、最高裁判所、どういうふうな差になっているのでしょうか。どちらがどちらに上回る、下回るということでお答えください。
#32
○牧最高裁判所長官代理者 四十七年度で考えますと、たとえば簡易裁判所に対しての基準額が、これは平均三開廷ということを基礎にして考えておるわけでございますが、一万七百円ということでございます。それに対しまして地方裁判所、家庭裁判所のほうは一万四千九百円、一万四千六百円ということになっております。それから高等裁判所が一万六千百円、なお最高裁判所が一万七千四百円というようなのが、一応の基準ということで通達してございます。
#33
○中谷委員 その根拠は、どういうところにありますか。
#34
○牧最高裁判所長官代理者 これは、従来からこういう平均的な事件の難易ということを考えまして、各裁判所ごとに一応の基準額というものを出してきておるわけでございます。ただ、それをここ数年、毎年予算額として大体一〇%程度の値上げをお認めいただいて、現在の基準額というような形になっておるわけございます。
#35
○中谷委員 国選弁護人に選任された弁護士の立場からいいますと、簡裁、地裁、高等裁判所、最高裁判所と、係属裁判所によって差があるということは、必ずしも合理的であるとは思われないんですけれども、最高裁判所としては、そういうことが合理性があるというお考えなんでしょうか。
#36
○牧最高裁判所長官代理者 平均的な事件の難易ということを考えまして、そういう基準を定めておるわけでございますが、もちろんその基準どおりに支払われるわけじゃございませんで、あるいは先ほど申し上げましたようないろいろな事情を勘案いたしまして、基準を上回る分が出る場合もありますし、基準を下回る分も出てくるわけでございます。そういう意味での基準というものを出しているだけにすぎないわけでございます。
 この基準を、各裁判所別に若干差をつけているというようなことについての合理性ということは、必ずしも事件の難易が、具体的な事件をとってみればふさわしくないような場合もあろうかと存じますが、平均的に考えればそういうことで差しつかえないのではないかというふうに思っているわけなんですが、その辺も、たとえば日本弁護士連合会の標準報酬規定を見ましても、一審事件と二審事件というような形で差をつけてございます。やはりそういうところが一つの常識的な線ではなかろうかというふうに考えておるわけでございます。
#37
○中谷委員 そこで被告人は、少なくとも地方裁判所に対応する弁護士会の会員の中から、特定の弁護士を国選弁護人としてなってもらいたいというふうなことを、裁判所へ申し出ることはできるのでしょうか。
#38
○牧最高裁判所長官代理者 一応現在の国選弁護人制度は、資格ある弁護人の国のほうがつけるということでございますので、実際には各弁護士会に推薦方を一任いたしまして、その推薦を得て選任しております。したがいまして、被告人からそういう特定の人を選任してほしいということで、裁判所のほうがその者を選任するということはございません。
#39
○中谷委員 そのことは絶対的に許されないことなのでしょうか。その点についてお答えいただきたいと思います。
#40
○牧最高裁判所長官代理者 推薦の方法は、一応最高裁判所と日本弁護士連合会と協議いたしました結果、そういう形にいたしました。
  〔委員長退席、高橋(英)委員長代理着席〕
しかしながら、それは原則でございまして、特に必要を認めて特定の弁護士を頼むという余地がないわけではございません。
 ですから、被告人のほうから申請した者を選任するというわけではございませんが、裁判所のほうが適当と認める者を、国選弁護人に選任するということはあり得ることでございます。
#41
○中谷委員 裁判所が、たとえば非常にむずかしい事件で、特定の弁護士が、その事件についての非常に深い理解と学識を持っているという場合に、その特定の弁護士を国選弁護人に選任することがないわけではない。またそういうことは、人権の観点からあっていいと思うのですが、被告人のほうからそういうふうなことの申し出があった場合に、それは許されることなのかどうかという最初の質問ですが、この点はいかがでしょうか。
#42
○牧最高裁判所長官代理者 被告人の申し出たのに、そのまま拘束されるというような意味での申し出を認めるということは、ないと思います。
#43
○中谷委員 被告人の希望をいれてやることば、裁判所として許されることでしょうか。
#44
○牧最高裁判所長官代理者 たとえば事件の性質からして、これは特定の知識を非常に必要とするような事件であるということが考えられる場合に、そういう知識を持った者を特に推薦してほしいという意味で、裁判所のほうから弁護士会のほうにお願いをして、それに合う人を推薦していただくということはあり得ることだと思いますけれども、被告人が特定の個人を指名して、それを選任してほしいというような場合の取り扱いとしては、裁判所としてはそれは認めておらないのが普通だと思います。
#45
○中谷委員 選任をされた国選弁護人が国選弁護人を辞任する場合、前回も質問が出たようでありますけれども、どういう場合に辞任をすることが許されるでしょうか。たとえば病気その他長期の海外旅行等の場合は、当然その場合に当たりますが、そのほかにどんな場合が考えられるでしょうか。
#46
○牧最高裁判所長官代理者 辞任の場合というのは、従来あまり事例がございませんので、ほとんど抽象的に頭で考えた事例になろうかと存じますけれども、先ほど中谷委員のほうから御指摘ございましたように、長期の病気だとか旅行だとかいうことで、公判に出られない場合が一つの例だろうと思います。そのほか、弁護人がたまたま事件の進行中に、被害者と特定の関係があるというようなことがわかってきて、その弁護人が弁護するということは必ずしも適当と思われないような場合、ちょうどこれは回避に類するような事例だと考えられますが、そういう場合であるとか、あるいは弁護人が被告人からいろんな侮辱的な言辞を受ける、あるいは暴行を受けるというようなことが何かの都合で起こったりして、その被告人に対しての弁護をその被告人に期待することは、社会的に非常に期待しがたいというふうに思われるような場合だとか、そういうようなことが、一応解任をする場合の事由として考えられるのではなかろうかというふうに思っております。
#47
○中谷委員 なるほどそういう場合に解任の事由になり得るというお話がありましたが、いまの点について、社会的な誹謗というふうな御答弁がありましたけれども、いわゆる被告人の不信を理由に国選弁護人が出廷を拒否した事件につき、そのまま審理を進めて、裁判所の考えを公判廷において詳細に表明した事例というのがございますが、被告人のほうから国選弁護人の解任を求めることはできるのでしょうか。
#48
○牧最高裁判所長官代理者 解任請求権というものはございませんが、解任は裁判長の職権行為ということになろうかと存ます。したがいまして、被告人のほうからいろいろな事由をあげて職権の発動を促すということはあろうかと存じますが、それは請求権のような性質のものではないというふうに思うのでございます。
#49
○中谷委員 大事な点だと思いますのでお尋ねいたしたいと思いますけれども、東京地裁昭和四十四年刑六〇四七号外の事件、昭和四十六年五月十日第六回公判における刑事十二部の見解についての要旨を御説明をいただいて、最高裁判所の御所見を承っておきたいと思います。
#50
○牧最高裁判所長官代理者 これは具体的な事件についての裁判長の訴訟指揮でございますので、最高裁判所がその点についてコメントするような形は、差し控えさしていただきたいというふうに思うのでございますが……。
#51
○中谷委員 じゃ、弁護人が法廷にいないことと、憲法第三十七条第三項の国選弁護人の保障との関係についてということで質問さしていただきたいと思います。
#52
○牧最高裁判所長官代理者 憲法の三十七条三項の規定によりますと、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することにできる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」ということになっておりますので、依頼することの権利というものは、ある程度被告人の利益のために認められている弁護人依頼権ということになろうかと存じますので、それは被告人のほうからの放棄というようなことはあり得るであろう。それからまた権利である以上、内在的には、乱用の場合というようなときには、この依頼権がなくなるような場合も、極限的な場合にはあり得るだろうというふうには考えますが、それが具体的にどのような場合にそういう解釈がとれるかどうか、私のほうからは、少し事件と具体的に関係を持ちそうになりますので、ひとつ差し控えさしていただきたいというふうに考えておるわけでございます。
#53
○中谷委員 じゃ、次にお尋ねをいたしたいと思いますけれども、そもそも国選弁護人とそれから私選弁護人、いわゆる国選、私選の割合というものはどういうことになっているのでしょうか。これは全国的な地裁、簡裁の比率を出していただくことが、全体の傾向をうかがうことにはなりますけれども、私の感じでは、たとえば特定の乙号支部あるいは特定の簡易裁判所においては弁護士が一人しかいない。その弁護士が非常に熱心に弁護活動をやるというようなことで、ほとんど国選弁護人としての活動をしているというような例もあるやに聞いておりまするけれども、一般的に国選、私選別の比較、こういうものもひとつお答えいただきたいと思います。
#54
○牧最高裁判所長官代理者 法務省のほうから配付されております法律案参考資料のところに、国選弁護人の選任状況というものがございますが、それによりますと、全体として、国選弁護人を付した被告人の終局総人員に占める割合というものが大体四五%ということになっております。私選弁護人、国選弁護人の付せられる割合は、半々ということに大ざっぱに申し上げてよろしいのではないかと存じます。
 ただ、これは全国的に見た場合でございまして、特定の庁をとりますと、非常に弁護人の数が少ないということから、先ほど中谷委員のおっしゃられたように、一応は弁護士会のほうで人選して推薦するといたしましても、非常に特定の方が出てこられる例は間々あるように聞いております。
#55
○中谷委員 国選弁護人の選任状況の表をお聞きしたわけではないわけなんです。地裁、簡裁についてひとつお答えをいただきたいと思うのですが、表に出ているでしょうか。
#56
○牧最高裁判所長官代理者 昭和四十五年の例で申しまして、先ほど申し上げましたように全事件の平均でまいりますと、四五・八%が国選弁護人のついた率でございますが、それを各裁判所に見てまいりますと、簡裁では六〇・五%が国選弁護人でございます。それから地裁については四五・一%、それから高裁になりますと一八・八%、最高裁になりますと一三・九%という数字になっております。
#57
○中谷委員 次に、訴訟費用の免除について若干お尋ねをしておきたいと思いますけれども、訴訟費用の免除というのはどの程度行なわれているか。これは国選弁護人が付せられた事件についてというふうな統計はちょっとありにくいのではないかと思うわけなんですが、訴訟費用の免除について、統計がありましたらお答えをいただきたいと思います。
#58
○牧最高裁判所長官代理者 中谷委員がお求めになっておられる、国選弁護人がいたという場合の統計が実はございませんので、全体の統計として御了承いただきたいというふうに思うのでございます。
 昭和四十一年から四十五年までの数字でとってまいりますと、地裁へ申し立てをして免除された人員といいますのが四十一年度で千六十三人、四十二年度で五百八十四人、四十三年度で千五十六人、四十四年度で九百十六人、四十五年度で九百十八人という数字になっております
 それから、申し立てをした人員との比率を見てまいりますと、四十一年で五三・五%、四十二年で三五・九%、四十三年で六四・八%、四十四年で六二・六%、四十五年で六七・六%という数字になっておりますので、大体申し立てた人員の半数が認められているというふうにお考えいただいてけっこうかと存じます。
#59
○中谷委員 訴訟費用の免除について、当然訴訟費用が免除されるべきであろうと思われるのに、どうも免除になっていないという場合、国選弁護人のほうで往々にして訴訟費用の報酬の請求を放棄するというふうな場合もないわけではありませんが、そういうことは可能でありましょうか。
  〔高橋(英)委員長代理退席、大竹委員長代理
  着席〕
#60
○牧最高裁判所長官代理者 いまお尋ねの趣旨がちょっと理解しがたいわけでございまして、国選弁護人が報酬を放棄したことと、それから訴訟費用の免除との因果関係が、ちょっとわかりかねたわけでありますが……。
#61
○中谷委員 訴訟費用の中には、国選弁護人に支給した分は含むわけでございますね。どうも最近実務をやっておりませんので間違いがあるかもしれませんが、その点、まず確かめたいと思います。
#62
○牧最高裁判所長官代理者 国選弁護人に対して支給された費用は、もちろん訴訟費用の中に入るわけでございます。したがいまして、もしその被告人が有罪の言い渡しを受けるということになれば、訴訟費用の負担を命ぜられるということになるわけでございます。
 ただ、訴訟費用の負担の場合に、全部負担せしめるか、そのうちの一部を負担せしめるか、それらはやはり裁量の問題が裁判所にございます。
#63
○中谷委員 そこで私がお尋ねしたいのは、本来訴訟費用が全部免除されあるいは一部免除されるべきである、ところが、どうも裁判所はそういう措置をおとりにならない、そうして被告人が非常に貧困であるというふうな場合に、その訴訟費用の中には国選弁護人の報酬が入っている、国選弁護人は、いや報酬を受けるに忍びないというふうな場合、裁判所に対して報酬は要りませんというふうなことは、可能なのでしょうかと聞いているわけです。
#64
○牧最高裁判所長官代理者 国選弁護人の報酬の請求は、判決前に申し出がなされないと支給されないという形になっておりますので、すべて一応前もって請求されておるわけでございます。したがいまして、それの支給決定はその後になろうかと存じますけれども、要件としては、判決前に請求される必要があるわけでございます。
#65
○中谷委員 当然訴訟費用は免除されるだろうと思っていた、そして訴訟費用の請求というのは、弁護人の場合、率直に言って、これは弁護士会の事務局のほうにまかせきりになっておる。ところが、結局訴訟費用が免除されなかった。そういうふうな場合、請求はした、しかし、判決後そういうふうな訴訟費用の一部として国選弁護人の報酬を放棄することは、全くできないことなのでしょうかということであります。
#66
○牧最高裁判所長官代理者 事前に請求をされないということであれば別といたしまして、請求をされて、裁判所のほうの決定があった後にそれを放棄するということは、観念的には考えられるかもしれませんが、むずかしいのではなかろうかというふうに思っております。
#67
○中谷委員 そうすると、国選弁護人としては、訴訟費用の一部としての国選弁護人の報酬をあらかじめ請求しないということは、裁判の結果を予想して、訴訟費用の負担を命ぜられるだろうということを予想した場合に放棄することになるのじゃないかと思うのです。要するに、とにかく訴訟費用は当然免除されるだろうということ、免除してやってもらいたいということを弁論の際にも申し上げた。ところが免除されなかった。どうも自分の主張が通らないし、そういうようなことによって、訴訟費用の一部としての国選弁護人の報酬を受け取るというようなことは、どうも自分の気持ちの上からいっても、また被告人の経済状況からいっても、弁護人の気持ちが許さないというふうな場合、あとになってから要らないと言っているものを、どうしても上げようというのも、これはちょっと私はおかしな感じがするのですが、これはいかがでしょうか。
#68
○牧最高裁判所長官代理者 請求権でございますので、先ほど申し上げましたように、理屈としは事後にも放棄できるのではなかろうかというふうにも考えますけれども、一般的にそういう例を承知いたしておりませんので、先ほどのように申し上げたわけですが、理屈として考えればできないことはないだろうと思います。
 ただ、先ほども申し上げましたように、執行免除の申し立てというのは、有罪で訴訟費用負担を命ぜられた者のほとんどが、実は私どもの経験で申しますと、出してきているというふうに考えられます。そのうち半数がやはり認められているということであれば、大体貧困その他で負担ができない者というのは、ほとんど免除されているというふうに考えてよいのではなかろうか。そちらのほうの運用のほうで、国選弁護人に特に御迷惑をかけるようなことにならないような運用にしたほうが、よろしいのではなかろうかというふうに考えております。
#69
○中谷委員 国選弁護人に経済的な迷惑がかかる話をしているわけではないので、気持ちの上で非常にいやな感じがする。どこの裁判所のどの裁判官というようなことは申しませんけれども、もう裁判所におられない方ですけれども、実務上そういう経験を私の同僚なんかずいぶん経験をいたしました。特に特定の犯罪については、もうどんなに貧困であっても訴訟費用の免除をしないというふうな方もおられて、弁護人のほうでは報酬は受け取らぬというふうなことがかなりあった時代がありました。そういうことがありましたので、いまのような質問をしたわけであります。
 そこで、一般的な問題として政務次官に私、お尋ねをいたしたいと思うのでありますけれども、どうも国選弁護人の報酬というものについて、受け取る国選弁護人の気持ちの中には、弁護士としての社会的な与えられた仕事を果たしているんだというような気持ちがありまして、その報酬の額等について、それほど神経質ではないとも思うのですけれども、先ほどからの質疑の中で、一般的な訴訟費用、いわゆる報酬の額についての御答弁が最高裁のほうからあったのですけれども、弁護士という社会的な一つの重要な役割りを果たしている職業、そうして弁護活動というふうなものから見まして、国選弁護人の現在きめられている報酬というものは、妥当な額と思われるのでしょうかどうか。昔から医者と弁護士と言いましたけれども、まあずいぶん先輩の弁護士の方もこの委員会におられるのですけれども、大きなビルを持った弁護士というような話を最近は聞きませんし、そういうような点からいって、一体妥当なものなのかどうなのか、一体国選弁護人に対する報酬というものに対する考え方というものは、基本的にどうあるべきなんだろうか、こういう点についてひとつ御所見を承りたいと思います。
#70
○村山政府委員 国選弁護人の能力、そういうものを評価して報酬をどの線にきめるべきかということは、非常にむずかしい問題だと思うのでございます。一方、極端なことを言えば、社会奉仕でただでもいいのではないかという考えもありましょうし、また逆の考えを言えば非常に高い地位だから出す報酬もできるだけ手厚いほうがいいという考えもあると思いますけれども、やはりそれは実際の経験に徴して、一般の弁護士報酬がどの程度になっておるかという平均的なものによるより以外、なかなかいい知恵が出ないのではなかろうかというような感じがしておるわけでございます。
#71
○中谷委員 法務省にお尋ねをいたしたいと思いますけれども、国選弁護人に給する報酬額などというようなものの外国なんかの例は、一体どういうことになっておるのでしょうか。
#72
○貞家政府委員 実は国選弁護人という制度自体が、これは御承知のとおり非常に進歩した制度と言われておるわけでございます。日本国憲法三十七条の三項でございますか、これをつくりましたときは、よくものの本に、アメリカ憲法に一歩先んじたというような批評もされておるわけでございまして、これにちょうどぴったりした制度というものが、どうも諸外国にはないようでございます。
 ただ、参考になりますものとしては、たとえばドイツにおきましては、民事についてややこれに似た救助弁護士制度というようなものをつぐっております。また旧刑訴当時の官選弁護人に似たような制度があるようでございます。これにつきまして、報酬はどういうぐあいになっておるかということでございますが、御承知のとおりドイツでは、弁護士の報酬というものが法律によって基準が定められております。それに比べましてそういった官選の弁護人の報酬というものは、ややそれを下回った基準で定められておるようでございます。これは就任する義務があるというようなことから、なかなか問題があるという程度の知識しかございませんが、外国でちょうどこれにぴったりした例がございませんので、何とも申し上げられないのであります。
 それで、一般の私選弁護人の報酬の現実自体、地方によりまたケースによってかなり違うわけでございまして、完全にそれに一致させるということは非常にむずかしいのではないか。ただ、いまも再三お話が出ましたように、被告本人の負担になるかあるいは国庫の負担になるか、いずれにしましてもそういった問題があるわけでございまして、そういった点も十分考慮いたしまして、妥当な線に近づけていくのが妥当ではないかというふうに考えておる次第でございます。
#73
○中谷委員 話が飛び飛びになって恐縮ですが、もう一度国選弁護人の選任の関係についてお尋ねをしたいのですが、一審の地方裁判所あるいは簡易裁判所の国選弁護人というのは、その地方裁判所に対応する弁護士会の弁護士の中から選ばれるわけでございますね。それが控訴をして、高等裁判所へ控訴した場合の国選弁護人というのは、どの弁護士会の推薦を得て選ばれるのでしょうか。
#74
○牧最高裁判所長官代理者 高裁所在地の弁護士会から選ばれるのが原則でございます。
#75
○中谷委員 それはあくまで原則ということばをお使いになりましたけれども、私、いつも感ずるのですけれども、もちろん報酬、あるいはまた国選弁護人としての弁護士がたいへん遠隔地へ行かなければならないという繁雑さというようなものもあろうかと思いまするけれども、非常にむずかしい事件だという場合、しかも一審が死刑ないし無期というふうな判決を受けたというような事件、それで一審の国選弁護人が非常な努力をしてその事件について弁護をした、国選弁護人として弁護をした、そういう場合、被告人が非常に貧困であって、やはり国選弁護人の選任しかできないというふうな場合、たとえば和歌山地方裁判所で選ばれたところの国選弁護人が、実際に現場の検証もしている、直接その証人も詳細に尋問をし、あるいは証拠物等も検討しているというような場合、被告人の人権という点からいいますと、しかも直接主義の原則というような点からいうと、一審担当の弁護人がそれを避けないなら、むしろ控訴事件においても、和歌山弁護士会の一審の国選弁護人が二審も国選弁護人として担当するというほうが、被告人にとっては有利な場合があるのではないか。要するに、高等裁判所の裁判官が書類で事件について主としてお調べになる、ところが、選任された弁護人自身も刑事訴訟記録自身を見るだけであって、一審の経過がよくわからないというふうな場合は、私、若干問題があるのではないかと思う。
 こういうふうな点については、法律的にもうすでに、要するに大阪高等裁判所であれば、大阪弁護士会所属の弁護士しか国選弁護人に選任できないのかどうか、この点は一体いかがでございましょうか。
#76
○牧最高裁判所長官代理者 一応現在の訴訟規則によりますと、「裁判所の所在地に弁護士がないときその他やむを得ない事情があるときは、その裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域又はこれに隣接する他の地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士の中からこれを選任することができる。」ということになっておりますので、いまお尋ねの趣旨は、やむを得ない事情に当たるかどうかということになってこようかと思います。やむを得ない事情に当たるという場合がもしあれば、それは選任できょうかと思います。
 ただ、一般的に申しますと、国選弁護人は確かに弁護士の方々にとっては一つの負担になろうかと存じますので、そういう点も考えまして、こういう規則ができているのだと思いますので、一般的には、お尋ねのような趣旨の場合は当たらないというふうなことになるのではなかろうかと思います。
#77
○中谷委員 国選弁護人の場合は、非常に義務的な色彩といいますか、受け取り方としては義務として国選弁護人に選任されているという気持ちが強いと思うのですが、もしそうだとすると、その被告人が死刑または無期などという判決を一審について受けている、そういうような場合で、しかもそういう場合は、弁護人としては事の経過の上から、じゃ二審については自分自身が無報酬で私選弁護人として担当しようというふうな気持ちになって担当する弁護士も、私は何人か過去にあったことを記憶をいたしますが、全く無報酬同様のことで、国選弁護人から二審においては私選弁護人の選任を受けたという例もあると思いますが、理屈の上からの質問でありまするけれども、いまの御引用になりました規定は、和歌山弁護士会の弁護士が、大阪高等裁判所へ控訴された控訴事件の弁護人になることを禁止している規定なのでしょうか。それともそこまでは、その規定は禁止までは求めていないというふうに理解していいのでしょうか。
#78
○牧最高裁判所長官代理者 やむを得ない事情がある場合にはできるということでございますので、もちろん禁止している趣旨ではございません。
#79
○中谷委員 先ほど政務次官が、弁護人の能力というようなおことばをお使いになったわけですけれども、これは決して他意のあることばでないのであって、弁護士がそれぞれとにかく資格を持った有資格者である以上、法律的な知識、とにかく弁護士としての知識を持つというふうに私は思っているわけでありますけれども、要するに一審においてその事件を担当した、そしていろいろな事情について、たとえば長い期間審理を受けた、あるいは一年ないしは二年の審理に立ち会ったというふうな場合、当然その弁護人が二審を担当することが、被告人の人権のためにふさわしいだろうという場合は、私は往々にしてあるだろうと思うのです。
 そういうような場合、やむを得ない事情と言えるのかどうか、若干問題があると私、思いますけれども、私はやはり最高裁として、やむを得ない事情ということがあれば、そういう場合高等裁判所所在以外の弁護士会の弁護士が国選弁護人になり得るのだというお答えではなしに、人権保障の観点からいって、その一審担当の国選弁護人が二審においても引き続いて国選弁護人になることが、人権擁護のためにふさわしいというような場合は、私はむしろ一審担当の国選弁護人が二審の国選弁護人になり得るというように運用さるべきではないかと思うのです。やむを得ない事情に当たる場合ということになると、そういうふうな可能性というものは非常に少ないのじゃないか、こういうように思うのですが、いかがでございましょうか。
#80
○牧最高裁判所長官代理者 いまお話しのような形でまいりますと、たとえば上告についても同じような問題ということになってまいろうかと存じます。そういたしますと、たとえば鹿児島から東京まで出てくるというようなことで負担をかけるということは、一般的には考えにくいのではなかろうか。やはり原則としては、規則にもあるとおりの運用になるべきではなかろうか。それはお示しになったような事例の中には、裁判所のほうがやむを得ない事情に当たると認めて許可するような場合もあろうかと存じますが、一般的には、そこまでの御負担をかけることは、制度としてむずかしいのではなかろうかと考えます。
#81
○中谷委員 やはりそうすると、国選弁護人の報酬というのは、平均的弁護活動の中においては、弁護士の持ち出しになっているという考え方になるのでしょうか。要するに、それは報酬額の算定の問題として解決すれば、和歌山から大阪、和歌山から東京ということの問題は容易に解決し得る問題であろうと私は思うのです。報酬額を一定の額に固定をして考える場合に、そういう負担という問題が出てくるのであって、もちろんそういう重大な事件についての精神的な負担というのは、これは弁護士として避けることのできない苦労であるし、むしろそういうものを避けてはいけないだろうと私は思うのですが、いま言われたことがちょっと気にかかりますので、お答えいただきたい。
#82
○牧最高裁判所長官代理者 やむを得ない事情があると裁判所が認めて、たとえば隣接する地方裁判所管内の弁護士会の弁護士を国選弁護人に選任したという場合は、もちろん、それがたとえば大阪へ出てまいります費用であるとか、あるいは東京へ出てまいります費用というのは、報酬等の中で十分考えるべきことになろうかと存じます。
 先ほど負担と申し上げましたのは、時間的な負担あるいは肉体的な負担その他全部をひっくるめまして、やはり報酬以外の、弁護人が事件を受任せられるための負担という意味でございますので、報酬とは直接関係なく考えていただきたいと思います。
#83
○中谷委員 私選弁護人の場合の苦労と国選弁護人の苦労とは、全く同じことであるべきはずでありますね。そういうような中で、結局、報酬の額について特段に無理なものでない限りは、そういうような苦労をするということは、むしろ弁護人としての義務ではなかろうかというふうな感じがするのですけれども、どうも私は現実の問題として、控訴事件における国選弁護人の方などが、記録を最初からお読みになるのもずいぶんたいへんだろうし、また記録をお読みになるとしても、これはむしろ裁判官が記録をずいぶん精読をされるので、記録閲覧等についてもなかなか機会が求めにくい。むしろある種の事件については、一審の弁護人が二審も担当することのほうが、人権擁護という点からいったらいいのじゃないか。これは一般的にそういうようにすべきであるというようなことを、決して私、申し上げるわけではありませんけれども、そういう感じがするわけなんですが、この点について、そういうことも可能なのかどうかということだけを、お答えがもう何回か出ましたけれども、もう一度御答弁をしておいていただきたいと思います。
#84
○牧最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたように、もっぱら具体的事件に関連いたしまして、裁判所がやむを得ないと認めるかどうかにかかるということでございまして、もちろん、そういうことが禁止されているというふうに考えるべきではないと思います。
#85
○中谷委員 それから、船賃の問題について一言お聞きしておきますけれども、いわゆる船賃というのは、私はあまり船を利用しませんけれども、現実にはどういうふうに分けられているのでしょうか。これは三階級なんでしょうか、それとももっとこまかく分けられているのではないでしょうか。現実の船賃の問題でございます。
#86
○貞家政府委員 全国をこまかく調査したわけではございませんけれども、大まかなところを申し上げますと、鉄道と同じように二階級に分けているというのが多いようでございます。ただ二階級の中で、たとえば一等の中に特別一等、一等、二等の中に特別二等、二等というふうに分けている例はたくさんございます。しかし、そういういった特別一等、一等というのは一つの階級と見ることにいたしますと、二階級に分かれているものが非常に多うございまして、三階級に分かれているのは、最近の調査によりますと、国内で二十一航路しかございません。
 そこで、その中にも、たとえば特等がありまして、その下に特別一等と一等があり、その下に特別二等と二等があるというような例がかなりございます。そういった場合におきましては、まず特等と一等と二等という三階級に分けまして、上級、中級、下級というように分けるというのが、一般の公務員につきましてもそのような取り扱いになっているわけでございまして、今度の改正案では、どの階級でもよろしい、相当と認めるところによって上級までいける、その上級なり中級なりの中におきまして、特別二等にするか普通の二等にするかということは、これまた裁量によってきめられる、裁判所が相当と認めるところによってその内訳をきめるということになろうかと思います。
 ただ、現実に問題になります航路におきまして、はたしてどれだけこまかい分類があるかということはつまびらかにしてございませんけれども、大体そういったまず上級、中級、下級というような三階級に分けましてそれを選ぶ、そしてその中の相当な等級によるということでございます。
#87
○中谷委員 いまのお話で大体わかったわけですけれども、確かに特等の中にも個室なんかの特一、それから一等、特二とか、こういうふうに分けているわけです。フェリーボートなんかときどき利用しますけれども、五クラスぐらいあるのではないかと思うのですけれども、そういう中で、それは結局裁判所の判断といいますか、認定、そういうものにまかすということでよろしいのでしょうか。
#88
○貞家政府委員 従来でございますと中級以下となっておりますので、五つも六つも分かれておりますと、どこから中級かという判断がむずかしい問題が限界的には出るかと存じますけれども、今回は上級以下相当と認めるところによるということでございますから、結局のところ、非常にこまかく分かれておりましても、個々のケースに応じまして裁判所が相当と認めるところによるということになるわけでございます。
#89
○中谷委員 大体あと二、三点だけ質問しておきたいと思いますけれども、必要弁護の事件がございますが、必要弁護でない事件について、国選弁護人が選任されるということはあるのでしょうか。
#90
○牧最高裁判所長官代理者 必要弁護の事件が非常に少ないわけでございますので、先ほど数字として申し上げました国選弁護人は、ほとんどが任意弁護の場合に当たろうかと存じます。
#91
○中谷委員 最後に弁護人が退廷あるいは弁護人も被告人もとにかく退廷を命ぜられた例、要するに弁護人なしで審理が進められた例などというのは、最近特にある種の事件にそういう非常に異常な審理が行なわれた例を聞きますが、今日まで大体どの程度そういう件数はあるのでしょうか。
#92
○牧最高裁判所長官代理者 件数としては必ずしも正確にとらえておるわけではございません。ただ、実際にそういうことが発生いたしました事例といたしましては、御承知のように東大裁判の事件と、それから四十四年十月、十一月の佐藤首相訪米阻止闘争に関する事件においてそういう事例が起こっております。
#93
○中谷委員 要するに、最初から国選弁護人の選任を被告人が求めないという場合の取り扱いは、どういうことになるのでしょうか。
#94
○牧最高裁判所長官代理者 必要弁護の事件でございますれば、求めない場合でもこれはつけざるを得ません。それから任意弁護の場合では、請求がないときでも、裁判所が必要と認めれば付することができる。ことに、少年のような場合にはできるだけ付するようにいたすということになっております。
#95
○中谷委員 そうすると、非常にそういう混乱した事例の場合が私はあり得ると思うのですけれども、必要弁護の場合、先ほどの質問と若干ダブりますけれども、結局国選弁護人の弁護を被告人が求めないというふうな場合の裁判所の措置としては、訴訟指揮に相なろうと思いますけれども、どういうふうな訴訟指揮が考えられますか。
#96
○牧最高裁判所長官代理者 必要弁護の場合は法律で、事件の性質から考えまして、被告人の意思にかかわらず弁護人を付するということでございますので、いまお尋ねのような場合にも、当然国選弁護人を選任して被告人に付するということになるわけでございます。
#97
○中谷委員 そこで、先ほどの質問でも私、若干触れましたけれども、被告人が国選弁護人を誹謗する、あるいは不信任をする、あるいは特に信頼関係を破るような行為に出るというふうな場合は、どういうような問題が生ずるのでしょうか。
#98
○牧最高裁判所長官代理者 もしその国選弁護人のほうから解任を求めるような申し立てが出た場合、先ほどお尋ねのような事態が起こったときに、それを引きとめるということは、あまりにも国選弁護人にやはり酷になろうかと思います。そういう場合には、解任を認める措置をとるのが普通であろう。そしてあらためて別の国選弁護人をつけざるを得ないということになります。
#99
○中谷委員 そうすると、最近そういう事例は、私はやはり具体的な問題としてもあり得るだろうと思うのですけれども、被告人の事件に対する認識と弁護人の弁護方針、事件に対する理解、認識、こういうようなものが食い違ったような場合が、最近しばしばあるだろうと思うのですね。そういう場合の弁護人のとるべき措置、あるいは裁判所のそれに対してとるべき措置、それは一体どういうふうなことが考えられますか。
#100
○牧最高裁判所長官代理者 弁護方針を立てるにあたって、被告人の意思ということはきわめて重要な要素になろうかと存じます。しかし、刑事裁判における弁護というものは、被告人の意思そのままで行なわれるものではなくて、被告人の意向も聞いた上で、専門家としての弁護士が、最も被告人に有利な弁護活動であろうと信ずるところを実践さるべきものというふうに考えますので、被告人の弁護方針と弁護士さんが考えられた弁護方針と食い違うという場合は常にあり得ることだと存じますが、そういう場合は、弁護士としてはやはり最も有利と感ずる方針に従って、被告人に説得するなり、どうしても説得を聞かない場合でも、自己が正しいと思う弁護方針に従って弁護活動をされるというのが、弁護士の倫理になろうかというふうに考えておる次第でございます。
#101
○中谷委員 私は、非常にむずかしい問題ではないかと思うのです。被告人が自分の行為について悪くないというふうな立場、またそういうふうな確信を持っているという場合に、弁護人がとにかくそれは非常によくないことだというようなことを言うなどということ、これははたして弁護人としてそういうことが許されるのだろうかというような問題は、私はあるだろうと思うのです。またもっと深刻な問題としては、被告人自身が無実を訴えている場合に、弁護人自身がこれは有罪間違いないのだ、したがって刑の問題として裁判所は理解してやってほしいというふうな弁護をするなどということは、とにかく弁護人と被告人との間の対話、そうして説得、そうして弁護人自身も被告人の主張を詳細に事情を聴取する、あるいは記録を精読するということがなければ、私は非常におかしいことになるだろうと思うのです。
 そういうような場合、弁護人の倫理としては、むしろ被告人の意に沿わない弁護というようなことはすべきではないだろうと思うのです。そういうような場合に、私選弁護人であれば辞任ということも考えられるわけですが、国選弁護人の場合は一体どういうことになるのでしょうか。やはりこういう問題に将来法廷活動の中では当面するだろうし、私なりのそういう場合の一つの考え方というものは持っておりますけれども、国選弁護人のことが問題になっている法改正でございますから、ひとつお尋ねしておきたいと思うのですが、裁判所のとるべき立場といいますか措置、そういうようなことが、弁護人あるいは被告人から申し立てがあった場合の措置はどういうふうにあるべきなんでしょうか。いまのお答えでは、ちょっと問題の基本的な解決にならないと思うのです。
#102
○牧最高裁判所長官代理者 先ほど申し上げましたことは、弁護方針と申しましても主として手続面のことを申し上げておったわけでございまして、たとえば実体面で被告人が無罪だと信じているのを、弁護人が有罪のような弁論をするということを申し上げた趣旨ではございません。
 そういう点では、被告人の利益をはかるという意味でどういうやり方をしたらいいかというやり方の問題に当たろうかと存じますけれども、被告人の有罪の弁論をするということは、弁護士としてとるべき態度ではないであろう。それはやはり無罪ということで、いろいろな与えられ得る範囲の手段を使って弁護活動をさるべきではなかろうかというふうに思うわけでございます。
 ただ、先ほども申し上げましたように、訴訟手続についてはやはり定められた法律上のルールがございますので、そのルールに従った範囲内での弁護活動ということが弁護士に要求されるのはやむを得ないことだろう。したがいまして、それをはずれたような行為を求められた場合には、被告人を説得するなりなんなりして、そういうことのないような弁護活動を進められるのが、弁護士としてのあるべき姿ではなかろうかと思います。
#103
○中谷委員 刑事局長は有能な裁判官でありますから、具体的な例を申し上げなくても理解していただけると思うのですけれども、たとえば説得をしてといっても、なかなか説得を聞かない被告人というのがありますね。卒直に言えば、非常にとにかく偏執的な傾向を持った異常な性格の人、そういう人が、記録を、精読というよりも一読してみれば、とにかく犯行の事実というものがうかがわれるというふうな場合でも、被告人がどうしても自分がやっていないのだというようにがんばる。私選弁護人であればもう当然、それほど君が無罪だと言うなら、自分は記録を見たけれども、どうしても有罪としか思えない、だからとにかくおれは辞任だということはあり得ると思うのです。ところが事案が有罪か無罪かとにかく全くきわどい事件というような場合に、弁護人が有罪の弁論をするというようなことはあり得ないことなんで、これはあくまでとにかく全精力を傾けて無罪の証拠をさがし、無罪の弁論をするわけですが、ただ、だれが見ても有罪と思われるような事案について、とにかく被告人が無罪を主張する、しかも非常に異常な性格の人だ、有罪の主張でもしようものなら、それこそ服役後お礼参りに来かねないというような例は、長い弁護士生活の中には、そういう経験をお持ちになった先輩の方もおられると思うのです。
 そんな場合、国選弁護人として私選弁護人と同じように、私はやっぱり辞任問題、解任をしてもらわなきゃという問題が出てくるのではないかというふうに思うのです。そんな場合は、国選弁護人と私選弁護人との違いは一体何だろうというふうな問題にもかかわってくると思うのですが、先ほど簡単に刑事局長おっしゃったように、被告人が無罪と言っているんだから無罪の弁論をしろといったって、無罪の弁論をしようのない事件だってあるわけでございますね。そんな場合、私選弁護人と同様、国選弁護人は解任を求めることができるんですか。
#104
○牧最高裁判所長官代理者 いまの場合の弁護士のとるべき態度ということになると、これは非常にむずかしい問題になろうかと思います。ここで、それについて適当なお答えがいたしかねるわけでございますが、それは個々の弁護士さん方の、自分の人格をかけた御判断になろうかと存じます。
 ただ、もし中谷委員の言われるような趣旨で、国選弁護人が辞任を求めるというような場合に、当然辞任を認めなければならないんだということになるならば、たとえば必要弁護のような事件の場合、だれでも辞任を認めなければならぬということになるわけであります。したがいまして、国選弁護人制度の根本にかかわる問題でございまして、その制度の範囲内の問題で考えざるを得ない。そして現在の状態では、そういうような場合には、弁護人はどなたも同じような立場に立たれるだろうと思いますので、そのことを理由にして辞任を認めるのでは、現在の国選弁護人制度は動かないことになってしまうのでありまして、その国選弁護人の方には非常に御苦労をかけることになると思いますけれども、やはり自分の信、ずる弁護の方針に従って弁護活動を続けていただかざるを得ないということになろうかと思います。非常に酷な結論になろうかと存じますが……。
#105
○鍛冶委員 ちょっと関連して。これはこの間も聞こうかと思っておったのですが、重大な問題でかって問題にもなった問題ですから、この機会にはっきりしておきたいと思います。
 およそ弁護人は、原則として被告人の利益のためにつくものと言わざるを得ぬと思うのです。しかしその利益ということは、必ず有罪でも無罪にするということや、重いものでも軽くするということだけが利益なのか、それとも訴訟を間違いのないようにやってもらう、的確なる裁判をやってもらう、これが被告人のほんとうの利益なのか、そういう意味でつく、こういうことも考えられるわけです。私は、この二者いずれかでこの問題がきまるのではないかと思うのですが、ずいぶんむずかしい問題ではございますが、この機会にひとつあなた方の考えをお聞きしたいと思う。
 利益とはどういうことか、必ず有罪を無罪にしなければならないというものか、それとも訴訟を間違いのないようにやるということ、これが私は刑事訴訟法上の被告人に対する根本の利益であるのか、これが国選弁護人になる根本であるのか、こういうことの二者が考えられるが、この点をまず承りたいと思います。
#106
○牧最高裁判所長官代理者 被告人の利益を国選弁護人が守るという場合の利益ということは、やはり正当なる利益ということになろうかと存じます。有罪の者を無罪にさせるという意味ではございませんで、やはり正当な利益を守る、手続上にしろあるいは実体面にしろ、正当な範囲内の事柄を、自己の与えられたあらゆる手段を尽くして守るということになろうかと存じます。
#107
○鍛冶委員 これは実際に私はよく内容を知らなかったが、仙台でもずいぶん問題になったのは、被告人はいたずらにどうも法廷を混乱させることが目的で、そしてこの弁護人はいやだ、こういう場合に、先ほどから聞けば、そういうものを裁判所は取り上げる必要はない。やはり弁護人はやればいい。これはわかります。わかりますが、弁護人自身としてははなはだどうもつまらぬ話です。弁護人、かいやだと言うものをしいてやれと言われては、ずいぶんばかばかしい話です。そういう場合に裁判所はどういうふうにやられますか。国選弁護人をつけなければならぬ事件であればつけなければならぬので、つけなかったら裁判にならぬのですが、しかるに、だれが弁護人として来てもいやだと言われても弁護人はくっついておれと言われたのでは、弁護人ははなはだ迷惑千万な話で、そのときの調和をあなた方はどうやって調和しようとしておるか、この点をひとつ……。
#108
○牧最高裁判所長官代理者 非常に極端な場合を考えますと、いわゆる国選弁護人請求権の乱用あるいは請求権の放棄というような考え方で、法廷では、被告人は正規な意味での国選弁護人の選任の請求をしているのではないんだということで、弁護人をつけないで進行させるということも考えられると思います。
 ただ、では必要弁護の場合もその点ができるかということになりますと、非常に疑問かと思います。したがいまして、極端な場合にはそういうことが考えられると思いますけれども、裁判所としてはできるだけそういうようなことの起こらないようにはいたして、被告人のほうの説得の努力も続けますし、あるいは弁護人にいろいろ御努力を願うことをお願いするということにならざるを得ないだろうと思います。
#109
○鍛冶委員 理屈はそうでしょうが、弁護人におまえの弁護は困るんだ、こういうときに出てくれ、こういうことは、よほど弁護人も腹を据えなければ出られぬわけです。そういうことがあった場合には、裁判所としてはよほどその点を考えておやりにならなければならぬと思うのですが、実際の例としてそういうことはあったはずですが、どういうふうに片づけられたのですか。
#110
○牧最高裁判所長官代理者 弁護人が説得して聞かない場合に、一応客観的に見て、その弁護人が弁護活動をなすのが無理だと思われるような場合には、その弁護人の選任を取り消す、解任するという形になった場合もございますし、それからその弁護人に御努力願って、手続進行を進めた場合もございます。あるいは任意弁護事件の場合には、選任がされている以上、弁護人が出てこられなくても、やむを得ない事情がある場合には進められるということで、弁護人不出頭のまま審理を進められた場合もございます。各裁判所によって対応のしかたがいろいろございますが、大体そういう三通りの事例が実際としては起こっておるようでございます。
#111
○鍛冶委員 そういうことで、どうも被告人の言う以上は弁護人気の毒だからやめるということになると、国選弁護人をつけなければならぬ事件はやられぬことになりますね。私は、やはりそういう場合は裁判所もよほど考えられなければならぬ。
 そこで、先ほど言うように弁護人とはどういうものか。もちろん被告人の利益とは言うけれども、その被告人の利益とはどういうことか。やはりスムーズに裁判を行なう、適法に裁判がやられるということが一番の問題じゃないか。ここに私はポイントを置かなければならぬと思う。そういう意味において、弁護士の使命としてやってもらうように、裁判所から懇請というか、よく御理解を得る、ここらまでも考えなければいかぬ問題で、言うならば、めんどうだ、そんなときにはつけぬでもいいという考え方でも、問題は片づかぬと思うから私は言うのですが、この点は重大な問題だから、よほど重要にひとつ御答弁を願いたいと思います。
#112
○牧最高裁判所長官代理者 当然裁判所といたしましては、弁護人に御協力をお願いすることで非常に努力をいたしたのでございますが、先ほどあげましたような事例の場合は、ほんとうに極限的な場合でございまして、その場合にどうなのかということになれば、憲法三十七条の問題は、あるいは場合によっては、国選弁護人選任請求権の放棄と見られるような場合もあるし、あるいはそれの乱用と見られるような場合もあり得るということでございまして、一般の場合には国選弁護人の御協力を懇請し、あるいは被告人にその態度の変更を迫ることも、裁判所としては当然しなければならないわけでございますが、ただ、そういうふうにいたしましても、ぎりぎりの場合、どうしてもそれができなかったという場合にはどう考えられるかということに対しては、先ほど申し上げましたようなことが考えられ得るということを申し上げたわけでございます。弁護人の使命ということについては、鍛冶委員の仰せられたとおりであると私どもも考えております。
#113
○中谷委員 刑事局長も実務の経験が非常に長いわけですから、そういう弁護人の苦労については理解をしていただいていると思いますけれども、たとえば供述調査を同意するか不同意するかということから始まって、被告人との間に意見が対立をする。また被告人自身が供述調書の同意、不同意というようなことについての認識がなくて、その点についての説明を落として、供述調書を同意してあとで被告人から、それが当然同意しておいたほうがいいだろうと思う書証を同意した、検察官があまり詳細に供述調書をとっていないので、証人として呼んだ場合には、むしろ不利益な事実が出るだろう、反対尋問は成功しないだろうというようなことで同意しても、あとで何で証人に呼んでくれなかったかというような問題が出てくるということは、往々にしてあり得るわけなんです。また、先ほど言ったような異常な性格の人、それから特に偏執的な傾向の人、それがあくまで無実を主張している。無罪だと言っておる。どう記録を見てもとにかく有罪としか思えないというふうな場合無罪の弁護をしろと言われるのも非常に無理な話です。ところが、かりに有罪の弁護をすれば、この国会でも議席を持たれたことのある私の先輩の弁護士ですけれども、なぜ有罪の弁護をしたのだ、とにかく自分が出てきたあとで先生にたっぷりお礼をさせてもらうからというふうなことがあって、お礼に来てくれるころには、私は石のシャッポをかぶっているから、いつでもお礼参りに来てくれというような話があったいうことでありますけれども、われわれはもう少し長生きをしますから、そういうふうなときには、辞任の自由を認めてもらわないと困るというふうな場合は、私はかなりあるだろうと思うのです。
 そういうようなことについて、やはり問題は国選弁護人というのは一体何だろうかという基本的な問題に戻っていく。私は、私選弁護人と国選弁護人との間に弁護活動において差がないと同時に、全く本質的な差はないという考え方をとりたいと思いますけれども、そういうような問題は、先ほど局長のほうから、弁護士の全人格的な判断ということを言われましたけれども、まさにこれは弁護士のわれわれが、弁護士倫理、弁護士としての仕事に対する姿勢の問題としてしょっちゅうぶつかる問題であると私は考えているわけなんです。それでそういうような質問をさせていただいたのです。
 実はもう一つ、私は実務上の問題としてお聞きをしておきたいと思うのですけれども、とにかく弁護士会の会員である以上、それぞれ公務、地方議員あるいはまたその他の学問的な大学の仕事にも関係しているとかというふうないろいろな人がいる。しかし、国選弁護人として何件かは一年のうちに選任を受けて弁護をして、そのことによって弁護士としての社会的活動、あるいは弁護士法にいう弁護士としての人権擁護の仕事をするというふうなことは、それぞれの弁護士はやはり私は考えていると思うのです。
 そこで、実務的な問題としてお聞きしたいのですけれども、どうも裁判所によっては先に期日の指定をされて、そうしてそのあとで弁護士会のほうではその弁護人の選任をするわけです。実務としては、この事件が来ておりますが、弁護人になってくれますかというふうなことが私はあると思うのです。そういうようなことで、たとえば私自身刑事弁護で弁護をするような能力があるかどうかわかりませんけれども、かりに一年に一ぺん法廷に立ってみようと考えた場合、期日を指定された事件について、その日に国選弁護人として法廷に出廷できますかと言われても、なかなか出廷は可能ではないだろうと思うのです。もちろん期日を指定することは、弁護士会と裁判所との間の実務的な意味も私はあるだろうと思うのですけれども、そういうようなやり方のほうが合理的なんでしょうか。たとえば多忙をきわめている弁護士、しかし同時に、やはり国選弁護人というのは、先ほどから報酬の引き上げの法律を審議しているわけですけれども、弁護士の多くの気持ちの中には、報酬の問題ではなしに、いかにして国選弁護人としての社会的な責任を果たすかというふうなこと、身銭を切ってもというような気持ちがあると思うのですが、たまたま繁忙をきわめているために、国選弁護人としての責任を果たしたいと思っても、実際に裁判所から選任を受けられないという人も私はいるのではないかと思う。
 こういうような場合に、どうも私の経験では、期日を最初に裁判所が指定してきて、その期日に合う弁護士が選任を受ける、出廷するというふうな例になっているようでありまするけれども、こうなってまいりますると、刑事弁護士などことに繁忙をきわめ、よく刑事弁護に練達の弁護士ほど国選弁護人の選任を受けられない、そういう社会的な責任を果たせないという問題が起きるわけですが、これは、先に期日を指定してということが裁判所の実務としては適当なんでしょうか、あるいはそれは弁護士会との話し合いでそういうふうになっているのでしょうか、この点をひとつお聞きしたいと思います。
#114
○牧最高裁判所長官代理者 事件によろうか存じますが、一般的には期日を指定した上で弁護人の選任を依頼するということが多いようでございます。
 ただ、事件によっては、これは非常に困難な事件なので、一応国選弁護人を選任していただいて準備していただいた上で期日を入れるというのも、事件としてはあり得るわけでございまして、ですから、いまお話しのような方が国選弁護を引き受けていただくことは非常にけっこうなことなので、この日とこの日は都合がつくということで弁護士会の国選弁護委員会にお申し出いただけば、そういうことの調整は事実上つけられるのではなかろうかと思います。
#115
○中谷委員 最後に一点だけお尋ねしておきますが、私選弁護人の場合、被疑者が弁護人を選任する権利があるわけですが、被疑者に国選弁護人を付するというようなことについては、これはどういうふうにお考えになりますか。これは、実際現行法のもとにおいてどうなのかという問題、それとそのようなことの可否、両方についてひとつ御答弁をいただきたいと思います。
#116
○貞家政府委員 ただいまの刑事訴訟法第三十六条は、被告人が云々というふうになっておりますので、裁判所といたしましては、起訴後の被告人に限って国選弁護人を付することができる、起訴前の被疑者にはできないということになると思います。
 お尋ねのように、被告人と同じように被疑者にも国選弁護人を付するという制度をとってはどうかということも、確かに立法論といたしましては考慮の余地が全くないものだというふうには申されないと思います。ただしかしながら、捜査機関から犯罪の嫌疑を受けているだけの被疑者というものは非常に多数ございまして、その地位は、すでに訴追された段階の被告人の地位に比べますと非常に流動的なものでございます。したがって、その後の捜査の進展に伴いまして、自然に犯罪の嫌疑が消滅するという者も多数ございますし、嫌疑が認められても訴追は必要ないということで起訴されないという者も多数あるわけでございます。しかも、犯罪の嫌疑があって起訴になる場合におきましても、弁護人というものの関与をあまり必要としないと考えられます、略式手続によって罰金刑に処せられるという者がほとんど大部分を占めているというのが現状でございます。
 したがいまして、こういった被疑者の全員に請求によって国選弁護人を付するという制度というものにつきましては、かなり慎重になお検討しなければならない問題があるのではないかというふうに思われるわけでございます。また捜査の結果といたしまして、公判請求をされて被告になった場合におきましても、その起訴によって何ら有罪が推定されるわけではございませんし、被告人としては公判段階におきまして、公判準備も含めてでございますが、そういった段階におきまして、国選弁護人の選任を請求いたしまして、その援助を受けるということによって、しかも起訴状一本主義のたてまえをとっております当事者主義の現在の刑事訴訟法のもとにおきまして、公平な裁判所の裁判を受けるということができるわけでございまして、これによりまして刑事被告人としての権利は十分に防御することができるのではないか。憲法三十七条三項におきまして、やはり起訴後の被告人について特にこういった制度を設けておりますのも、そういったことをいろいろ勘案した結果ではなかろうかと思うわけでございまして、これは非常に今後も研究する余地のある問題ではあると思いますが、いま直ちにその実現について検討するという段階ではないのではないかというふうに考えている次第でございます。
#117
○中谷委員 そうすると、ある特殊な事件、たとえば合議体によって裁判をされるような事案、合議体といっても職業安定法のような事案は別といたしまして、たとえば死刑ないしは無期に当たるというふうな事案、しかも被疑者が事実を否認をしているというようなことが勾留等の段階において認められるというような事案に限局をして、しかもその被疑者が特に貧困であって、将来にわたって私選弁護人を選任することが困難だろうと思われるような場合というふうに、あらゆる場合を限定して、国選弁護人を被疑者の段階において選任をするというふうなことは、人権擁護の面から見てかなり意味があるのではないかと思うわけです。
 そこでお尋ねをしておきたいのですけれども、おっしゃるように捜査段階というのは非常に事が流動的でありますから、まして略式で当然処置される、あるいは当然起訴猶予の裁定が下されるだろうと思われるような者についてまで、とにかく国選弁護人というようなことは、これは私、必要はないだろうと思うのですが、その事案、そして明らかな被告人の貧困の状況、こういうようなものを勘案をして、被疑者に国選弁護人を付するというようなこと、これはまず立法論としては可能であるのかどうか。それらの点について私はやはり検討されていいのではないか。私は、現在いわゆる重要事件の中で争われている、捜査段階における無理な供述を求められたという、自白の強要などというところの問題について争われている事案が相当多いと思うのですけれども、事実そういう点についての、あってはならないことの防止には非常に役立つのではないかと思うわけであります。起訴状一本主義と言われても、またある意味においては、いまなお自白が証拠の王であるといわれているような面が、事実認定の中で相当部分影を落としているということは、これまたいなめない事実だろうと思うのです。
 そこで、先ほど御答弁が出たのですけれども、この点については、まず立法論としては可能かどうか、そしてしかも、それを私が申し上げたような限定したものとしてひとつ御検討いただきたいと私は思うのですが、この点について、ひとつお打ち合わせをいただいて、政務次官のほうから御答弁をいただきたいと思います。
#118
○村山政府委員 だんだんお話がございまして、私、全くしろうとでございますが、一つの大きな問題点であろうと思うのでございます。
 制度として、いま貞家調査部長が言いましたように、なかなか非常な問題点を含んでいるので、実現の方向で検討するということになりますとなかなかむずかしいと思いますが、しかし、これは検討に値する問題ではないか、そういう意味で、十分部内で今後検討を進めてまいりたい、かように思うわけでございます。
#119
○中谷委員 それではこの程度で質問を終わりたいと思いますが、鍛冶委員のほうから関連質問があるそうですから……。
#120
○鍛冶委員 関連して。まず国選弁護人をつけられなくても私選弁護人をつけられるわけですね。そこで私選の弁護人をつけるときには金が要るからつけられない、こういう場合に法律扶助に頼んでやられますか、いかがですか。あなた方はこの点は考えられたことがありますか。
#121
○貞家政府委員 刑事につきましては国選弁護人という制度が、いわば法律扶助と同じような、似た機能を営んでいるわけでございまして、法律扶助のほうは、もっぱら民事事件の扶助ということになっております。
#122
○鍛冶委員 そこで、民事事件でなければならぬとはどこにも書いてないはずです。金のない場合には法律扶助を受けることができるとあるんだから、この点を広く考えて刑事にもやられたらどうか。いま言うとおりあったほうがいいということであるならば、ないよりいいから、考えられぬかどうか、その点を聞いてみたいのですが、いかぬと言われますか、いかがですか。
#123
○貞家政府委員 法律扶助協会というのは独立の法人でございまして、その事業としてどういうことをおやりになるかということは、これは別に制約がないわけでござまして、法律上不可能であるというようなことはないと思います。
 ただ、現実の問題としまして、国選弁護という制度があります以上、そちらのほうにたよるというのが自然の流れではなかろうか、こう思うわけでございます。
#124
○中谷委員 それではこれで質問を終わりますが、最後に、弁護士は国選弁護人、私選弁護人いずれにいたしましても、人権の擁護のため全力をあげて弁護をするという姿勢を持つべきであるし、また現に私は持っていると信じますが、用語の問題ですが、いまなお、たとえば、私はとてもこれじゃ検事にならないほうがいいだろうと思って検事にならなかったのは、とにかくハト三枚というふうなことを言う。何のことかというと、釈放される人が三人ということだ。釈放がハトで、そして三枚というのは釈放指揮書が三枚あるからということなんでしょう。それから何かいまなお、とにかく廷吏の方のことを廷丁さんというふうなことばなど、そういうふうなことばが用語の中で、人権をそれ自体において守られていないようなことばが略語として非常に使われる。あるいは便利あるいはなれなどからそういうことばが使われている面があるだろうと思うのです。
 そういうことばがいつまでも、一部ではあって使われているということは、私は非常に残念なことだと思うわけで、ひとつ調査部長さんのほうで、刑務職員あるいは検察庁の検察官、検察事務官などの中で、そういうふうな人権擁護にふさわしくないような用語がいまなお使われていないかどうか、こんな点をひとつ御調査いただくのも、私は検察官あるいは検察事務官あるいはまた刑務、矯正関係の職員の諸君の意識を調査し、そして人権感覚を高める上に必要なことだろうと思うのです。そういうような点をひとつ調査されたらいかがだろうかというふうなことを私は思うわけです。かなりきつい調べ、きさまとかおまえというようなことは言ってはいけないことばだろうと思いますが、そういうような調べの中でのことばのほかに、何げなしに使われている、それ自体において人間の尊厳を乱しているようなことば、そんなものはぜひともないようにしてもらいたいということをお願いをし、現にそういうことばが使われているような実態が、私はいまでもあるような気がするわけですが、これはひとつ調査を始めていただきたい、こういうことをお願いしておきたいと思います。最後にその点についての御答弁をいただいて、質問を終わります。
#125
○貞家政府委員 実は、私検察、矯正その他の主管ではございませんので、詳しい実情は存じ上げないのでございますが、私が想像する限りでは、人権感覚が欠如していることに基づいてそういうことばが出てくるということではないのではないか。むしろお互い同士の昔からのしきたりあるいはなれというようなことから、何げなしに、先生もおっしゃいましたようにあまりたいした意識もなしに、そういうことばが使われているとすれば、そういうことが起こっているのではないかと思うのでございます。その点は、なお主管のほうに御趣旨を十分に伝えたいと思います。
 そういうことの調査も非常にむずかしいのでございますが、できる限り御趣旨に沿うようにいたしたいと存じております。
#126
○大竹委員長代理 次回は、明七日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
   午後零時三十五分散会
ソース: 国立国会図書館
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