1971/07/23 第66回国会 参議院
参議院会議録情報 第066回国会 大蔵委員会 第1号
#1
第066回国会 大蔵委員会 第1号昭和四十六年七月二十三日(金曜日)
午後二時二十分開会
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委員氏名
委員長 柴田 栄君
理 事 大竹平八郎君
理 事 玉置 猛夫君
理 事 中山 太郎君
理 事 成瀬 幡治君
佐田 一郎君
二木 謙吾君
星野 重次君
丸茂 重貞君
松井 誠君
吉田忠三郎君
鈴木 一弘君
向井 長年君
渡辺 武君
昭和四十六年七月二十日右の者は本委員を辞任
した。
―――――――――――――
七月二十日議長において本委員を左のとおり指
名した。
青木 一男君
伊藤 五郎君
大竹平八郎君
河本嘉久蔵君
栗原 祐幸君
柴田 栄君
嶋崎 均君
田中 茂穂君
竹内 藤男君
棚辺 四郎君
玉置 猛夫君
桧垣徳太郎君
藤田 正明君
八木 一郎君
竹田 四郎君
戸叶 武君
戸田 菊雄君
野々山一三君
松井 誠君
松永 忠二君
吉田忠三郎君
鈴木 一弘君
多田 省吾君
栗林 卓司君
渡辺 武君
同日議院において左の者を委員長に選任した。
柴田 栄君
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出席者は左のとおり。
委員長 柴田 栄君
理 事
大竹平八郎君
玉置 猛夫君
吉田忠三郎君
栗原 卓司君
委 員
青木 一男君
伊藤 五郎君
河本嘉久蔵君
嶋崎 均君
竹内 藤男君
棚辺 四郎君
桧垣徳太郎君
八木 一郎君
竹田 四郎君
戸叶 武君
戸田 菊雄君
野々山一三君
松井 誠君
松永 忠二君
鈴木 一弘君
渡辺 武君
国務大臣
大 蔵 大 臣 水田三喜男君
政府委員
大蔵政務次官 田中 六助君
大蔵政務次官 船田 譲君
説明員
大蔵事務次官 鳩山威一郎君
大蔵大臣官房調
査企画課長 佐上 武弘君
大蔵省主税局長 高木 文雄君
大蔵省関税局長 谷川 寛三君
通商産業省貿易
振興局為替金融
課長 田口健次郎君
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本日の会議に付した案件
○理事選任の件
○調査承認要求に関する件
○租税及び金融等に関する調査
(当面の財政及び金融等に関する件)
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#2
○委員長(柴田栄君) ただいまから大蔵委員会を開会いたします。ただいまから理事の選任を行ないます。本委員会の理事の数は五名でございます。
理事の選任につきましては、先例により委員長にその指名を御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○委員長(柴田栄君) 御異議ないと認めます。それでは、理事に大竹平八郎君、玉置猛夫君、吉田忠三郎君、多田省吾君及び栗林卓司君をそれぞれ指名いたします。
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#4
○委員長(柴田栄君) 次に、調査承認要求に関する件を議題といたします。本委員会といたしましては、今期国会開会中、租税及び金融等に関する調査を行なうこととし、この旨の調査承認要求書を本院規則第七十四条の三により議長に提出いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#5
○委員長(柴田栄君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。なお、要求書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#6
○委員長(柴田栄君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。―――――――――――――
#7
○委員長(柴田栄君) 次に、水田大蔵大臣から就任のごあいさつ及び所信を聴取いたします。水田大蔵大臣。#8
○国務大臣(水田三喜男君) 私は、このたび、大蔵大臣を拝命いたしましたが、内外の諸情勢が微妙なおりからその責任の重大さを痛感しております。この機会に、現下の経済情勢並びに財政金融政策について所信の一端を申し述べ、皆さま方の御理解と御協力をお願いしたいと存じます。
ここ数年来、わが国経済の体質は急速に変化しつつあります。
資源の大半を海外に依存せざるを得ないわが国においては、これまで経済成長にとっての一番の問題は国際収支の壁でありました。すなわち、経済が急速に拡大すれば、直ちに国際収支の悪化となって引き締めを余儀なくされ、その結果、国際収支が改善され、再び経済が拡大に向かうという循環を繰り返してまいりました。しかし、この間、わが国は産業構造の高度化、重化学工業化の道を着実に歩み、旺盛な民間設備投資と相まって、経済規模は拡大を続け、産業の国際競争力は格段に向上いたしました。昭和四十五年度においては、国民総生産は二千億ドルをこえ、アメリカの約五分の一に達し、国際収支も総合収支で約二十億ドルの黒字を記録するに至っております。
一方、このような経済の高度成長に伴って物価上昇、公害、過密過疎問題等のひずみ現象が次第に顕著になり、これらの問題を抜本的に解決して、経済成長の成果を真の国民福祉の向上に結びつけたいという国民の要望が切実なものとなってきております。
他方、世界の平和と繁栄のために、わが国の果たすべき役割に対して、諸外国の期待と関心がますます高まりつつあります。わが国の経済成長に対するこれまでの称賛のまなざしは、にわかに警戒の眼に変わりつつあります。特に、わが国の経済力に比べて貿易・資本の自由化努力が不十分であるという見解が、最近、海外に強まっております。
このように、内外の情勢が数年前と比べものにならないほど変化した現実を直視して、今後の経済運営に新たな路線を打ち立てなければならないと存じます。
わが国経済は、これまで、超高度成長から安定成長への調整過程にありましたが、最近では景気はむしろ沈滞の様相を呈しております。このような情勢に対処して景気のすみやかな回復をはかるために、すでに金融面におきましては、三次にわたる公定歩合の引き下げが行なわれ、また、外為資金の払い超増大などにより量的な緩和も進行しております。財政面におきましても、四十六年度予算の執行にあたりまして、公共事業等の施行促進や財政投融資等の追加が行なわれるなど、財政金融政策が機動的に運営されてまいりました。
すでに、在庫調整はかなり進んでいるように見受けられますし、これまでにとられた諸措置の効果が、これから次第にあらわれてくることが期待されますが、現在までのところ、景気の回復は当初の予想よりもおくれぎみであります。したがって、今後の景気動向いかんでは、さらに機動的、弾力的に対処してまいりたいと考えております。
なお、経済の現状に関して、われわれが注意すべき点は、設備過剰というデフレ傾向のもとにおいて、消費者物価の上昇に示されるようなインフレ圧力が依然として根深いことであります。したがって、景気対策の推進に当たっては、国民にとって最も関心の深い物価動向に悪影響を及ぼすことのないよう、十分配慮していく必要があります。
わが国の産業の国際競争力の向上と国内景気の鎮静化を反映して、最近の輸出は好調な伸びを続けている反面、輸入は低い伸びにとどまっており、さらに、短期資金の動きも加わって、国際収支は大幅な黒字を示しており、外貨準備も六月末では七十六億ドルに達しております。
わが国の今日の繁栄が世界の平和と、資本と商品の自由な国際交流のもとで、はじめて可能であったことに思いをいたすとき、この機をとらえて貿易・資本の自由化、関税の引き下げ、非関税障壁の整理等を積極的に推進し、国際社会の中で、よき隣人として信頼をかちうると同時に、特恵関税の供与や経済協力の推進などを通じて、発展途上国の経済発展に寄与するなど、わが国の国際的責務を進んで果たしてまいらねばなりません。
このような観点から、去る六月四日に関係閣僚間において意見の一致をみました八項目にわたる総合的対外経済政策につきましては、その積極的な推進をはかってまいる考えであります。この線に沿って輸入の自由化につきましては、輸入制限品目を九月末までに四十品目に縮減し、その後においても引き続き自由化を進めることとしております。特恵関税の供与につきましては、八月一日より実施することといたしましたが、さらに、国際協調をはかりつつ一そうの関税の引き下げを推進していく所存であります。
また、対外投資はすでに七月一日より自由化されましたが、対内投資の自由化につきましては、七月中に外資審議会より第四次自由化の答申を得て、自由化業種を極力拡大していく考えであります。
総合的対外経済政策に盛られたその他の項目につきましても、関係各省間で検討の上、八月中に具体策をまとめたいと考えております。
これらの施策は、国際協調の実をあげ、わが国経済の効率化に大きく貢献するものでありますが、ひいては、均衡のとれた経済発展をはかるためにも、ぜひとも推進してまいらねばならないものであります。もとより、これらの施策の実施にあたっては、国内経済の特定部門においてある程度の摩擦が生ずることも予想されますが、わが国経済はすでにこのような摩擦を十分に吸収し得る体力を備えていると考えられますので、関係各省の協力を得ながらその実施に当たる所存であります。
次に、今後の財政金融政策の課題につきまして一言申し述べます。
財政面におきましては、まず第一に、これまでの経済成長の成果と現在の国際収支のゆとりを、国民福祉の向上に結びつけていくことであります。そのためには、長期的な展望のもとに、社会資本の整備と社会保障の充実を推進すると同時に、物価上昇、公害、過密過疎等高度成長のひずみ現象の是正にも力を入れていかなければなりません。特に、民間の産業活動の水準に比して相対的に立ちおくれの見られる住宅及び上下水道、道路、港湾、空港、公園緑地等の社会資本の整備は、均衡のとれた経済発展のためにも、また、国民生活の質的向上のためにも不可欠の施策であると考えております。
これまでも、経済情勢の許す限り、社会資本の整備や社会保障の充実などにつとめてきたところでありますが、いまや、国際収支に余裕があり、国内生産力になお余力の見られる今日、真に人間性豊かな福祉社会の建設に向かってさらに前進する大きな転機を迎えていると申しても過言ではありません。
また、物価の安定につきましても、農業、中小企業の近代化、流通サービス部門の合理化等を進めると同時に、輸入の自由化や関税の引き下げなど、一連の経済の国際化、効率化の措置が物価に好影響をもたらすよう十分配慮してまいりたいと存じます。
第二に、今後これらの前向きの諸施策を推進するためには、財政需要がますます増大していくものと予想されますが、このことが財政の安易な膨張をもたらすものであってはなりません。このため、国、地方を通じて公経済における資源配分の優先順位を一そう明確化し、既定経費についても、新たな観点から再検討し、財政の効率化、重点化を推進してまいる所存であります。
また、国民負担の適正化につきましては、現在、長期的な税制のあり方について税制調査会が本格的な検討を進めているところであり、七月末には、答申が取りまとめられることとなっております。私は、その答申の内容を十分尊重しつつ、長期税制について慎重に取り組みたいと考えております。
次に、金融面におきましては、経済の国際化の進展に伴い、一つの転機を迎えつつあります。現在、金融市場は、量的に大幅な緩和を示しており、少なくともここ当分は緩和基調が続くことが予想されます。従来、ともすれば需給が逼迫ぎみに推移するという環境にあった金融機関にとって、ある意味ではきびしい試練を迎えることになると思われますが、こうした中で、金融サービスの質的向上を目ざして、金融機関がその公共性を一段と発揮していく必要があります。
また、資本市場についても経済環境の推移に十分即応できるよう、正常化をはかるなど、その育成強化を一そう強力に推進していく所存であります。
われわれは、前途に、労働力、資源等の制約条件の克服や物価、公害等ひずみ現象の除去などさまざまな困難な問題をかかえており、さらには、国際化の進展に伴う経済の内外均衡の達成をはかってまいらねばなりません。
しかし、戦後の荒廃からここまで立ち上がってきた国民の英知と努力とをもってすれば、これらの問題は必ずや解決できるものと確信しております。
わが国は、外貨不足の経済から脱却し、いまや開放経済体制へと移行しつつあります。このような動きに対応するためには、従来の制度、慣行にとらわれない考え方が要請されるのであります。
私は、日本経済のこの質的転換の時代を迎えて、自由な発想を生かしつつ、真の国民福祉の向上を目ざして、財政金融政策の運営にあやまちなきを期してまいる覚悟であります。
皆さま方の御支援と御鞭撻をお願い申し上げ、私の所信表明といたします。
#9
○委員長(柴田栄君) 次に、船田大蔵政務次官、田中大蔵政務次官及び鳩山大蔵事務次官からそれぞれ発言を求められておりますので、この際これを許します。船田大蔵政務次官。#10
○政府委員(船田譲君) このたび大蔵政務次官に任命されました船田譲でございます。もとより能力も少なく、経験の浅い者でございますが、一生懸命やってまいりたいと思いますので、委員の諸先生の御指導によりましてつとめを全うすることができますようによろしくお願いいたします。#11
○委員長(柴田栄君) 田中大蔵政務次官。#12
○政府委員(田中六助君) このたび政務次官を拝命いたしました衆議院の田中六助でございます。委員長並びに各位の御指導、御鞭撻をよろしくお願いいたします。(拍手)#13
○委員長(柴田栄君) 鳩山事務次官。#14
○説明員(鳩山威一郎君) 六月の十一日に事務次官を拝命いたしました。何とぞよろしく御指導のほどお願い申し上げます。(拍手)#15
○委員長(柴田栄君) ちょっと速記をとめてください。〔速記中止〕
#16
○委員長(柴田栄君) 速記を起こして。―――――――――――――
#17
○委員長(柴田栄君) 次に、租税及び金融等に関する調査を議題といたします。先ほどの水田大蔵大臣の所信表明並びに当面の財政及び金融等に関する件についてこれより質疑を行ないます。
御質疑のある方は、順次御発言を願います。
#18
○松井誠君 ただいまの大蔵大臣の所信表明について二、三点をお伺いをいたしたいと思います。率直に申しましてしろうとでございますから、きわめて素朴な、別な表現で言えば基本的なことをお尋ねいたしたいと思います。最初にお聞きをしたいのでありますけれども、いまお聞きをしまして、たとえばこれからの経済運営に新たな路線を打ち立てる、あるいは日本経済はいま質的転換の時代を迎えておるので、自由な発想で、従来の慣行などにとらわれないでやっていきたいというように、非常に――改造内閣が人心一新であったかどうかは別でありますが、これはもっぱらリップサービス的な面があったと思うんですが、しかし、とにかくこの意欲は、一応人心一新改造内閣にふさわしいだけの表現はあったのであります。これまでがリップサービスであっては困るので、その点でお伺いをしたいんですが、これはどういうことなんでしょう。この質的転換、日本経済が質的転換を遂げた、あるいは遂げつつある、そういうものを前提にして、それに対応して経済運営に新たな路線をとっていきたいということだけはわかるんでありますが、その質的転換というのは何か。ここに出ておる、たとえば開放経済体制、開放経済の時代に入ってきた、そういう表現がある。あるいは日本の国際収支が黒字基調になったというような表現もあった。それじゃ、これからあとの経済運営の新しい路線というのは具体的に何かといえば、たとえばいままでのような高度成長から安定成長に行こうという意味なのか、あるいは資源配分の順位を一そう明確にしてというようなことばがありますけれども、人間優先というか、生活優先というか、そういうものへの優先という、そういうことをきちっとやっていこうという趣旨なのか、どうもいろんなことがあってよくわからない。
ことしの、四十六年度の予算についての福田大蔵大臣の説明のときに、今年度は高度成長から安定成長への転換の年だ、そして安定成長を今年度から定着させたい――中身はわかりませんけれども、とにかくそれはことばとしてそれなりにわかる。しかし、具体的にそれじゃどうするんだということはわかりませんけれども、とにかくそういう表現は多少はわかる。そこで、ひとつ日本経済がいま基本的にどういう意味で質的転換をしたというのか、したがって、そういうものに対応して基本的にどういう新しい路線というものに対する姿勢をとるのか、その辺をひとつできるだけわかりやすく最初に説明をしていただきたいと思うのです。
#19
○国務大臣(水田三喜男君) まあ、いままでは日本経済は量的な拡大時代であって、ここまで伸びてきましたが、この量的な拡大の間にやはり構造が徐々に変化しながらきて、ここに至って初めてこの質的な変化が実際問題として出てきた、質的な変化の時代を迎えたということは、たとえばその構造においても構造が違って、重化学工業が日本の産業の中心になったとか、いろんな問題があろうと思いますが、そういうことで、これから質的な転換をする経済事情になってきておるということはこれはもうはっきりしておると思います。そういたしますというと、いままでよくそれに対処するための財政の運営とか、あるいはそのほかの問題でいろいろ批判がございましたが、やろうとしても、やはりこの日本経済の性格のためにやれなかったという問題がたくさんあろうと思いますが、それがようやく質的な変化を迎えることによって今度はやれる時代がきた、たとえば、いままで経済は伸びておっても、社会資本は並行して拡大していかない、この不均衡をどうするんだとか、いろいろなことも言われていましたが、それはいままでの日本経済でできなかった、国際収支の壁にすぐぶつかってしまって、やろうと思うこともできなかったというのは、これは政策が悪かったというのではなくて、やはり経済の体質からくるいろいろな問題で不可能であったという面もあるわけでございますが、ようやく生産力に余力が生じてきておりますし、それから、また国際収支の状態がこういうふうになってきたということになりますというと、これを初めて国民の福祉に結びつけるというような政策転換もここへきて可能だという転機にいま私どもはぶつかっておりますので、従来とあらゆる点において変わった発想のもとにこれから財政経済の運営ができるだろうと思いますので、その点を私どもははっきりと見て、今後の事態に処したいというのが私どもの考え方でございます。
#20
○松井誠君 そうしますと、よく言われておるように、従来の高度成長一本やり、GNP至上主義、そういうものから、経済の拡大が直接国民生活の向上につながるようにと、そういう表現が何回もありますけれども、そういうことを基調にして経済の運営をやっていこうと、言ってみれば、そのようにいままでやりたくてもやり得なかったという表現がありましたが、やりたかったかどうかは私は疑問に思いますけれども、とにかく国民としてはやってもらいたかったけれども、政府がやってくれなかった、そういうものにむしろ経済運営の重点を置いていく、そういう意味ですね。#21
○国務大臣(水田三喜男君) 私は過去この責任を持たせられた期間が二期ございますので、そのときの体験から申しますと、たとえば、社会資本の充実とかいうようなことは一応は言われておりますし、私どももある程度の努力はいたしましたが、常に限度があった、ちょっとそれを越えた強化をしようとすれば、すぐに物価の問題にぶつかる、インフレの問題にぶつかるということで、もうわかっている政策でも、やろうとするときに実際にびくびくしてやっておった、大胆にはやれなかったというのが実情でございます。今度初めて事情が違って、こういう情勢のもとに、こういう社会構成の不均衡というものを直そうと思えば直せる最もいい機会にいま直面したのだ、こういうふうに思っております。#22
○松井誠君 抽象的に議論をしておってもしかたがありませんから、じゃ、具体的にお伺いをしますけれども、最初に書いてあります景気の問題ですね、「景気の回復は当初の予想よりもおくれぎみであります。」と、当初の予想というのは具体的にどういうことを――あるいは何度か変わったかもしれませんけれども、どういう予想であったのがどういうおくれになりそうだという意味なのか。#23
○国務大臣(水田三喜男君) 昨年からの一連の対策をするときに予想を立てた責任者でございませんのではっきりしませんが、当持言われておりましたことは、少なくともこの景気調整は三月ごろまでかかるであろう、三月を底として、そこから上昇過程をとるというのを一つの目標にしたいろいろな対策であったというふうに私どもは考えておりましたが、それが相当おくれておるということがございました。#24
○松井誠君 確かに大臣の言われるように、何か春になればだんだんつま先上がりによくなるんだというのが福田前大蔵大臣の口癖であった、それを現在ではどういうような予想ですか。いまは景気の予測が非常にむずかしくて諸説があるようですが、それこそこれからあと大事な局面を迎えて財政金融政策を運営していくについて、政府のそういう景気動向の見通しですね、それをまずお伺いをしておきたい。#25
○国務大臣(水田三喜男君) この十九日に日銀の本支店の懇談会で、これ以上落ち込むおそれはないが、停滞が長引いている、この停滞は長期停滞であるということを一応懇談会の結論のようにしたようでございますが、大体いまの景気はそういうような表現がぴったりするんじゃないかと思います。これ以上落ち込むおそれはないと私は思いますが、それじゃまだよほど続くかと申しますと、九月ごろまでかかるだろうとか、いろんなことを言われておりますが、私はこの七月がもう底であるというふうに思っております。もうこの七月過ぎたら――過ぎなくても、いますでにそのきざしは私は出ておると思いますが、八月、九月、もう景気の回復の方向に向かっていくだろうと思います。現に在庫調整にしましても、一部の在庫調整がおくれておって、依然として沈滞しておりますが、一部はもうすでに在庫調整は一巡して景気ははっきり上向いておる企業も相当ございますし、また先々月の五月は、鉱工業生産指数も非常な落ち込みでございましたが、六月――まだ数字が発表されておりませんが、予想されるところでは、五月の落ち込みを埋めてもう少し伸びていくだろうというふうに、指標にも、そろそろそういうきざしがあらわれてきているというのが実情だろうと思います。また金融方面を見ましても、いままで金利は下がりませんでしたが、それはこの短期の借りかえでつないでおった設備資金の金も、いまどんどん長期に置きかえられているということから、むしろ下がるべき金利が長期に置きかえられているために、全体として下がらないということ、いろんなことが行なわれて、今日まで公定歩合が三度下がったにもかかわらず、資金需要が案外多くて金利は下がっておりませんでしたが、ようやく七月に来ましたら、もう非常に資金が緩和されて、金利も急にここで軟調になってきましたので、そういう点を見ましても、ここで一応これを転機にして事態が変わってくるというふうに私ども思いますので、これ以上の景気の落ち込みというものはもう大体ないんじゃないかと思います。
#26
○松井誠君 いまが底なのか、もう少し先が底なのかわかりませんけれども、ともかく、まあいわゆるなべ底と言われるように、相当不況あるいは停滞というものが長く続く。いままでこういうようにV字型といいますか、そこから急激なこう浮揚に向かうという、そういう形じゃなしに、どうも不況というものが長くなった、こういう現状であることには間違いがないんですね。具体的に回復上昇に向かう時期が今月、来月になるのか秋になるのかという説はいろいろあるとしましても、そういうように形がいままでと多少、景気循環のパターンというのですかね、そういう型が変わってきたということの裏には、一体何があるんだろうか。逆に言えば、今度のこの不況というのは、循環型なのか、構造型なのかということがよく言われますけれども、かりにそういうもので分類をするとすれば、一体どういう分類に入るとお考えになるのか。そういうことはどうですか。#27
○国務大臣(水田三喜男君) すみません。もう一度。#28
○松井誠君 いままでぼくらの知っておる昔は、たとえば景気、不景気というのは長くて大体十年というのが一つのサイクルなわけです。どうも戦後はそうじゃなくて、数年というサイクルになってきたわけですね。よく四十年の不況のときに、構造性の不況だという、そういうことが評論家の間では一般的だったと思うんです。今度の不況についてそういう意味でいろいろなやっぱり諸説がある。不況の型、これからの見通し、そういうものを含めて、今度のこの不況というのは循環性か構造性かというもし分け方をすれば、どういうものに属するとお考えかという趣旨です。#29
○国務大臣(水田三喜男君) 私は、単純な循環的なものというふうには見ておりません。人為的にこれは相当左右できるやっぱり不況であって、もうこれが、批判になっては恐縮ですが、私は万博の終わるころ、もうあのときぐらいから不況対策をしておったら、ある程度落ち込みが相当防げて、なだらかな経済運営ができたのじゃないかというような気がいたします。いまは対策の手を打っても、昔と違って効果があらわれてくるのが非常にいろいろな事情からおそい、おくれるというのが普通でございますので、もう二、三カ月早くやれば、いまと違った形が出たのではないかというように思いますので、したがって、このままでいきますというと、なべ底景気でこれが長く続くようでありますというと、なかなか犠牲が大きいということになりますので、前半の成長の落ち込みが相当ひどいですから、これを一年何%という普通の安定成長のところまで持っていこうとするためには、後半よほどの景気が出ないと、年間を通じて一定の成長率になりませんので、ここで相当のピッチを上げないといけないということを考えますので、まず公共事業費の繰り上げ促進とか、財投の追加とか、いろいろなことをやっていま様子を見ておりますが、これがさらに長引きそうであるとすれば、もう一歩必要な手を打たなければならない。何としてもここでほっておくわけにはいきませんので、私は短期に、なるたけ早期に急速な回復をさせないと、いろいろな事態が困るのじゃないかというふうに考えております。#30
○松井誠君 その景気対策をどうするかという問題はまたあとでお伺いをしますが、ちょっとそれに関連していまお聞きをしておきたいのは、先ほど言われました七月が底で、八月から上がるというのは、いわゆるこれから考えておるいろいろな景気刺激の対策というものを前提にしてのお話ですか。そうじゃなくて、そういう政府の介入がなくてもそうなるだろうという、そういう趣旨なんですか。#31
○国務大臣(水田三喜男君) いや、政府の施策がなければ景気回復はとてもむずかしいと思います。まあ昭和四十年のときも、四十一年のときも、この景気回復のためにいろいろな手を打ちました。あのときも国の予算の繰り上げ使用を考えて、ことに公共事業を前半に多く繰り上げるという措置をとったんですが、そのときの進捗率よりもいまのほうが非常にまだおくれておるということは、ちょうど地方選挙がございましたので、そのために各府県がみんな暫定予算で本予算を組まなかった。いま初めて予算の県会が開かれておるというようなことでございますので、補助事業が当然もうおくれてしまっておるというようなことから、政府が促進を迫っても、なかなかうまくいかないというような問題がありまして、昭和四十一年のときよりも少しおくれておるというような事情で、これをそれならば政府の直轄の仕事のほうだけ急ごうというので、そちらのほうを急いで、こちらは相当進んでおりますが、ようやくここへ来てみんな軌道に乗ってきたようでございますから、私はこれからはある程度の進捗をみるんだろうと思います。#32
○松井誠君 今度のこの不況というのは、一昨年の秋金融引き締めをやった、そのときが少なくともきっかけになっている。いままではそういうときは、大体国際収支が赤字で、いわば国際収支の対策としてそういう政策がとられたんですが、あのときにはそうじゃなかったのです。そういう意味では、いままでのこの金融引き締めのきっかけとはずいぶん違った、逆に言えば、あのときにそういう引き締めの必要があるんだろうかという議論があったことは確かだ。で、いまそういう意味では、最初からいろんな問題があったと思うんですが、いま大臣が言われた八月からは上向きになるという、その原動力というのは、いま大臣が言われたような、そういう財政というものを中心にして浮揚力をつけるんだという意味でならば別ですけれども、いままでのように、民間の設備投資主導型という、そういうものに現在期待して景気が浮揚するという可能性はないというのが現状じゃないんですか。それで、ちょっとお伺いしたいんですが、たぶんことしの予算のときに、設備投資の伸び率の見通しというのがありまして、それがたぶん一二・六%でしたかね、という見通しがあったんですが、現在の見通しで、四十六年度設備投資の伸び率はどういう状況になりそうですが。いまこの所信表明にも在庫調整というのはかなり進んでおる。在庫調整が進んでおって、そういう意味での圧力がなくなったにもかかわらず、なかなか設備投資の意欲が起きてこない。原因はまたあとでお伺いしますけれども、その設備投資の意欲がないというその現状は一体どうなんですか。
#33
○国務大臣(水田三喜男君) 企業の、製造業でない部門の設備投資は相当増大していますが、製造業の設備投資はおっしゃられるとおり全く意欲が沈滞しておりますので、いまのままでいったら五、六%になるのじゃないかという状況だそうでございます。#34
○松井誠君 それは一体どういう原因かということ。在庫調整がどの程度進んでおるのか具体的な数字知りませんけれども、それがかなり進んでおって、結局そういう意味での圧力というのがだんだんなくなってということになっておるのに、なかなか新しい措置を、設備投資の意欲がわかない。わかないというよりは需要がない。ということはどういうことですか。#35
○国務大臣(水田三喜男君) 昨年までの設備は、みんな設備投資が稼働してくるということになりますというと、やはり生産余力が非常に多いということでございますので、したがいまして、新たな設備投資の意欲というものがこういう経済情勢においては当然に出てこないというのが、これはやむを得ないのじゃないかと思います。しかし、いままでは経済を支える力を、この民間の設備投資に負っておったということが、ようやくこの機会に初めて財政が取ってかわって、設備投資が沈滞しておる間に財政の持つ役割りを発揮して、社会資本の増強ということをいまのときにかわってやれば、それによってこの両方の均衡がとれていく、さっき申しましたようないいチャンスでございますので、そういう意味でこの設備投資に景気浮揚を期待しない、もっぱらここは財政がその任務を果たすときだという認識で、これからの財政政策を運営していきたいというのが私どもの考え方であります。#36
○松井誠君 私も、もちろん設備投資主導型がいいなどと言っておるのじゃなくて、いままでそうであったために、高度成長というのがいわば国民不在の成長になってしまった、そういう反省の上で、設備投資がむしろ鎮静しておるということについて、私が何か非難がましいことを言うのじゃない。ただ問題は、それが何が一体原因なのかというそのことを言っておる。一つよく言われることは、円の切り上げ問題がからんでおるという観測がずいぶんありますね、一体どうなるのかという、そういうことの見通しがつかないというと、なかなか設備投資に対する大きな投資の意欲が出ない、そういうことを言われるし、確かにそれはありそうなことだと思うのですが、そういうマインドと申しますか、そういうものは相当強いのですか。#37
○国務大臣(水田三喜男君) 円に対する不安が若干の影響を与えておるということはあると思いますが、いまの設備投資の意欲が出てこないのが、円に対する不安が一番大きい原因だということはないと思います。#38
○松井誠君 一番大きいとは思いませんけれども、それが相当程度の比重を占めているという観測、数字的にどうかということは知りませんが、相当程度の比重を占めておるという言い方で一応あらわすとすれば、その程度のことは言えるのですか。#39
○説明員(佐上武弘君) お答え申し上げます。まあ、主要の商品として例示をさしていただけば、鉄鋼がただいまのところ非常に不調であるということになっておりますけれども、これはやはり新設の高炉が稼働し始めましてたいへんな能力増がございます。これに見合いました需給関係の早期な回復が見込まれませんので、御案内のとおり一〇%から一五%の生産調整をしているような状況でございますから、それが直ちに設備投資の要因、さらにキャパシティを増大するというインセンティブにはまだ働いていないというのが鉄鋼の場合には出ております。
一方、乗用車などもいままでの牽引力でございましたが、内需が非常に不況でありましたほか、公害関係、それから自動車を取り巻く環境の悪化等がございまして、内需のほうは依然低迷をいたしております。ただ、輸出のほうがかなり伸びておりますので、全体といたしましてはまあ一五・九という伸び方をいたしておりますけれども、生産の面で、内需向けの出荷が落ちておるというような現状等から申しますと、これがまたひとつ設備投資を増大していくというインセンティブにはなっておりません。そういうようなところをながめますと、どうも全体として設備投資がある程度過剰で供給増というような状況になっているということが一つの設備投資を拡大するインセンティブに動いていないのではないかというように察せられると存じます。
#40
○松井誠君 この所信表明にも、「設備過剰というデフレ傾向の下に」と書いてありますから、今度の不況というものがそういう意味では生産過剰という基本的な性格を持っておるのだという趣旨だろうと実は思ったのですけれども、なかなかそういうことが出てこなかったのです。やはりそういうことが基本になっておる、そういう意味では単純な循環性のものではない、こういうことですか。#41
○説明員(佐上武弘君) 先ほど先生の御指摘のございます現在の景気情勢が、循環的なものか、構造的なものかというのは、学者、エコノミストの間でもかなり議論の分かれるところでございまして、先ほど私が申し上げましたような主要商品の状況をながめますと、構造的な要因もあるように見受けられますが、他方におきまして、従来の神武景気三十一カ月、岩戸景気四十二カ月、オリンピック景気二十四カ月、さらに今回イザナギ景気といわれておりますが、五十八カ月、その間大体一年−十二カ月ぐらいの景気下降期というようなパターンが、多少循環の月数は違いますけれども、そういうことが多くございますところをながめますと、やはり循環的な要素も無視できないように思われます。はなはだ不得要領なことでございますが、どうも両方からみ合っているように思いまして、必ずしもこれが循環型であるとか、構造型であるとか、割り切ってお答えするようなことができないのが残念でございます。#42
○松井誠君 われわれも実はわからないから聞いておるんでして、別に定義をどうしたからそれがほんとうに景気刺激対策に具体的にどのようにはっきり違うかということもわからない。あまり変わらなければ、確かに景気循環、景気変動の現象がどうもわれわれにますますよくわからない。われわれの側の理屈からいえば、国家独占資本主義という段階で爆発的な恐慌というものを避けることはできるようになったけれども、不況はしょっちゅうある。そして不況から好況への不況期というものの停滞期が非常に長く続くということは一応わかる。そういうことも含めて、さっき大臣が言われましたけれども、万博のときに手を打っておけばというのは、半年おそかったという意味なのか。つまり公定歩合の引き下げが半年おそかったという意味なんですか。とにかくそういうことで、この景気対策というものが間違うと、結局犠牲を受けるのは中小企業であり、労働者側ですね。ですから、理屈を私はお尋ねするんじゃなくて、現在のこの景気変動のあり方、そういうものに対する的確なつかみ方というものをもうちょっときちっとしていただきたい。そういう気持ちがあるものですから先ほどから大臣に実はお伺いしておるわけです。これからあと景気対策をちょっとお伺いをしたいんですが、先ほど公共事業の繰り上げ使用と財投の追加ということを聞きました。この財投の追加二千何百億ですか、これが具体的に景気浮揚としてどれだけの影響を持つのか、数字的に教えていただけませんか。
#43
○説明員(佐上武弘君) 財政投融資の追加の計量的分析というのは、現実になかなかむずかしいわけでございますけれども、主としてこれは公共事業系統でございますので、通常は二倍程度が乗数効果であるといわれておりますが、二千六百十億でございますから、これの支出が順調にまいりますれば、その二倍、つまり五千二百二十億程度の有効需要となってあらわれるというようなことでございますから、本年のGNP八十兆前後ございますね、大体その〇・五%くらいに相なりますか、そういう数字の影響力というのが一応の大数的な観測でございます。#44
○松井誠君 五千四百億ですか。#45
○説明員(佐上武弘君) 二千六百十億円でございますので、その二倍程度とお考えいただきますと、そういう数字でございます。#46
○松井誠君 その二千六百億というものは――端数はありますけれども――財投の総額ですけれども、それは全部事業に対して投資をされるのじゃなくて、そのうち約三千二百億ぐらいですか、したがってその二倍として四千億、せいぜい五千億あるかないかという計算を私読んだことがあるのですがね。#47
○説明員(佐上武弘君) 先生の御指摘の点は、支出ベースでいたしますと二千百八十――二千二百億程度でございますから、乗数効果が二といたしますと、四千四百億ということになるわけでございます。支出ベースでいたしますと、そういうことになります。#48
○松井誠君 七十兆ないし八十兆のGNPの中で、それだけのものということになりますと、〇・五%でございますから、そうすると景気浮揚の力としてはきわめて弱いというように見ていいのでしょうか、このこと自体を切り離して考えれば。#49
○国務大臣(水田三喜男君) ですから、いろいろ検討してみますというと、やはり何といっても既定予算の中で一般会計それから特別会計、この政府関係機関の中に入っておる公共事業費、今度の繰り上げ対象は四兆一千億円ぐらいでございますから、これをやはり繰り上げ促進をはかるということのほうが効果としては一番大きいのでございますので、やはりこれに全力を上げるのが一番有効な手だというふうに私は思います。#50
○戸田菊雄君 関連、まあ、四十六年度の予算編成の際に、やはり景気浮揚の一つの方法として、公共事業の財政てこ入れ、こういうことを方針としてうたいましたですね。いま松井委員もいろいろと質問しておりますが、公共事業の進捗率、大蔵省としては現段階ではどの程度掌握しておりますか。これは支払いベース、あるいは契約ベースとあるでしょうから、その辺の内容がわかっておればひとつ教えてもらいたいと思います。#51
○説明員(佐上武弘君) ただいまのところ五月末現在で数字を把握いたしておりますが、契約率は全体の三八・六%という数字になっております。先ほど大臣が申し上げましたが、直轄と補助に分けますと、直轄につきましては、契約率が四五・三と、四十一年当時の四五・八とほぼ均衡しておりますけれども、補助事業の契約率は、地方選挙の関係で暫定予算というようなこともございまして、四十一年当時二七%程度のものが二一%でございます。これがおくれております。なかんずく一番有効需要が作用いたしますのは支出ベースでございまして、契約よりも支出ベースでございますが、支出のベースにおきましては、直轄、補助を加えまして九%という状況でございます。四十一年の当時が一一・二でございますから、その意味におきましては、五月末現在ではおくれておるということが言えるかと存じます。しかし国の直轄事業につきましては、支出率も四十一年当時とほぼ均衡いたしておりますが、補助率は、たとえば補助事業は四十一年五・四%の支出率でございますので、五月末では一・二ということで、かなり低くなっております。そういう状況でございます。#52
○戸田菊雄君 そういうことだとすれば、当初予算のときに景気浮揚政策としてとったこの公共事業の財政的てこ入れ、こういうものは順調にいっていると考えていいわけですか。具体的にどうですか、いまの数字、当初予算。#53
○説明員(佐上武弘君) そういう五月末の実績にもかんがみまして、今月の九日、特に閣議におきまして、関係大臣、大蔵大臣から公共事業の施行促進についての要望をいたしました。本年度上期の促進目標七二・二に向かいまして格段の努力をしておりますので、今後は順調にまいるようになるかと存じます。#54
○松井誠君 いままでまあ第一次的といいますか、一次にやってきたそういう景気浮揚対策というものがまだはかばかしくない。そこで近く第二次の総合対策というようなものがあるというように新聞に伝えられておりますね。その財投の第二次の追加その他を含めてすでに検討されておるわけでしょう。#55
○国務大臣(水田三喜男君) 景気の情勢を見ながら、いろいろの問題は、いろいろの対策は検討しております。#56
○松井誠君 その中心になるかどうかはわかりませんけれども、一つには財投の第二次追加、これは新聞には一約一千億くらいという数字が出ておる新聞もあります。それから――これは政府がやることでなく、日銀がやることですけれども、第四次の公定歩合の引き下げを政府としては要望する、あるいは長期金利、これは開銀の利子ですか、それの引き下げ、そういうようなことをすでに検討されておるのじゃないですか。具体的におっしゃってください。#57
○国務大臣(水田三喜男君) さっき申しましたように、とにかく景気の急速な回復をする必要がございますので、それに対して必要ないろいろな対策というものはいま総合的に検討中でございます。#58
○松井誠君 いろいろというのは、あとでほかの委員からお聞きしていただくことにしまして、そういう問題に対してこういう疑問があるわけですね。一体いまそれほどの景気対策が必要なんだろうかという疑問なんです。四十年のときの深刻な不況感とはずいぶん違うのじゃないか。また金利の引き下げを、公定歩合の引き下げをやろうというようなことを言われておるそうでありますけれども、それは新日鉄の要求ではないか。第一、三度にわたって公定歩合を引き下げたけれども、市中金利はさっぱり下がっていない。一体金利引き下げの効果があったかどうかという問題、あるいはさっき大臣が言われましたけれども、金融が緩慢になって、外為会計の払い超を含めてずいぶん緩慢になっておる。そういう段階に、一体金利の引き下げをやって、具体的にどういう効果があるのか、新日鉄対策じゃないかという声が出るのもそういうことです。しかし、このことは、私はいまそういう基本的な疑問を持っておるということだけを申し上げて、気になるのは、一体それでは物価はどうなるのかということです。ここに書いてあるのも、その物価のインフレ圧力と書いてありますけれども、インフレ圧力がインフレだという意味なのかどうか、よくわかりませんけれども、とにかくインフレ圧力がある。それに対して十分な配慮をしているというのですけれども、どういうことですか。
#59
○国務大臣(水田三喜男君) 物価については、十分な配慮をむろんこれはいたしておりますが、いまの経済状勢をみますというと、先ほど申しましたように、生産余力というものが非常にあるということと、外貨のゆとりがあって、国際収支の天井はきわめて高いというときでございますから、昔と違って、今までと違って、少しでも景気を刺激することをやりますというと、すぐにそれが物価にはね返ってきたり、インフレに結びついてきたりすることで、なかなかむずかしいことでございましたが、いまはそういう事情でございますから、少しぐらいの景気刺激対策をとっても、直ちにこれが物価に響くという心配はそうないというふうに私は見ております。需給の関係からくる心配なんというのは物価においてはない。ただ構造的なコスト高による物価というものについては、もうすでに不況のときでもその原因は持っておりますので、現在においても消費物価がある程度高いというのですが、不況のときにおいてもそうでありますから、これがもし好況になってきたというときには、これがそれじゃそれに比例して上がるかというと、むしろ案外逆であって、そのほうがコストが下がってこないとも限らないという面がございますので、そういう意味から私は物価対策なしに、この景気浮揚政策というものはとり得るいま時期になっておると、そういう情勢下にあるというふうに判断しております。#60
○松井誠君 十分な配慮というのは、全く文字どおりのリップサービスですね。大臣の言うのは、いまの段階ではどうせ不況期でも上がるものは上がるのだ、だから景気浮揚をやったって影響はないだろう、つまりそういう意味では物価に対する配慮は必要でないというのと同じような、少なくとも結果としてはなるのじゃありませんか。#61
○国務大臣(水田三喜男君) そうじゃございませんで、いまの不況のときに、じゃ、なぜ物価が高いかという原因はほかにあるのですから、それはここで景気対策を打ったということによって変化する事情じゃない。したがって、若干の景気対策をやることによって物価に影響するというような意味のいま情勢じゃない。物価に対して重大な配慮をするということは、その面の配慮じゃなくて、今度は中小企業の近代化とか、あるいはおくれた生産性を持った部門の合理化とか、いろいろなところで物価対策は引き続きすべきものであって、さらにそれに自由化とか、あるいは関税の引き下げというようなものが有利に働くようなことを考えて、いろいろな物価対策を打てば心配ないのじゃないかという、ほかの方法においていろいろな配慮をするにしても、この景気対策を打つこと自身による心配というものは、そうないのじゃないかということを言っているだけでございます。#62
○松井誠君 まああとでも出てきますけれども、公共事業に対する投資をふやす、社会資本の充実という形で公共事業費がふえ、財投の追加という形で公共事業がふえる。公共事業がふえることによって、地価も上がるでしょうし、労働力がさらに逼迫する。ですから、それは景気対策で、いままでの物価上昇の原因となっておるものは少しも変らないのじゃなくて、それはやはり押し上げるということになる、そういう作用を持たざるを得ないのじゃないですか。私は基本的に失業を選ぶか、インフレを選ぶかというときにきて、安易にインフレを選ぶという、そういう考え方そのものにも基本的に疑問を持ちますからなおさらでありますけれども、そういう意味でいえば、かりにやるにしても、物価というものに対するもっと大きな配慮ということが必要で、十分の以上の配慮というものがなければ、一体犠牲がどこにいくかということになる。それは大臣はきわめて安易といえば安易に考えておられると思うので、物価対策というものはやはり置き忘れられるのじゃないか。だから何回かの公定歩合の引き下げのときに、日銀が物価騰貴に目をつぶったということがある。目をつぶったのは、つぶりぱなしじゃなくて、まばたきをしただけだ。そういう笑い話があのときにありましたけれども、つい物価対策というものを忘れてしまって景気対策に突っ走る、そういうことで一体いいのか。そういう意味では、この公共事業が大きくなるときに、当然随伴して起こるであろうそういう物価対策、そういうものに対して一体どうするのかという、そういう具体的な配慮というものは私はやっぱり必要じゃないかと思う。重ねてお伺いいたします。#63
○国務大臣(水田三喜男君) ですから、いろいろなもろもろの配慮を伴ってやらなければむろんいけませんが、そうすれば、これをおそれるために景気浮揚政策をちゅうちょする理由はないというふうに思っております。#64
○松井誠君 問題を変えまして一つお伺いをしたいのですが、最近非常にそういう不況感、不況ということで税収の見通しのほうに狂いというものはありませんか。#65
○説明員(高木文雄君) 現在まででは、まだ進行期間が短いのであまり明確なことは申し上げられませんが、やはり全体的に景気が沈滞ぎみでございます。特に企業の減収、減益傾向が出ておりますので、本年度の税収はかなり苦しくなるであろうというふうに考えております。まだ時期が早いので、私どもといたしましても予測するような作業はいたしておらない段階でございます。#66
○松井誠君 もうそろそろ来年度の予算要求の時期でありますから、したがって、来年度の財政規模は一体どうなるのか、そういうことの関連もあって、ことしの税収見込みというものはそろそろ立てなければならぬ時期じゃないですか。その九月期の決算を見るまではわからないとか、そんなことを言っているうちに、たいへんなことになりはしないか。率直に聞きますけれども、ある新聞によれば、ことしの税収、つまり歳入欠陥、全体の歳入欠陥が約五百億円にもなるのじゃないかという見通しが大蔵省筋から流されておる――真偽のほどはわかりませんけれども。したがって、そういう具体的な数字的な見通しというものは、いまや当たるか当たらないかは別として、立てなければならない時期にだんだんきているのじゃないですか。#67
○説明員(高木文雄君) ただいま御指摘のような数字をあげて見当をつけるのはまだちょっとむずかしいという状態でございますが、率直に申し上げて、かなり苦しい状態になりつつあるという状況でございます。#68
○松井誠君 かなり苦しいぐらいのことはわざわざここでお聞きをしなくったってわかっておる。問題は、それがこの税収、本年度の結局歳入欠陥としてどれだけになるのだろうかという、そういう見通しを実は聞きたい。これに対してあえてお答えができないという理由を、逆にいえば、私はわからぬのじゃないが、もし歳入欠陥ができた場合には、一体どうして補てんをしていくか、これは仮定の問題でありますけれども、大臣いかがでしょうか。#69
○国務大臣(水田三喜男君) 当然これから私は検討する問題にしております。ただいまのところは、何しろいま本年度きまった予算をどう動かすかということに当面追われておりまして、この予算が動き出したら、いまの問題は、当然検討に入っていかなければならぬ問題だと思っておりますので、これから検討いたしたいと思っております。#70
○松井誠君 そうすると、いまのこの段階で歳出の節減というわけにもいかぬでしょうし、あるいはいわゆる不況感がある中で増税というわけにもいかない、やはり最後の逃げ道の公債の発行というところへ行きつかざるを得ないのじゃないか、そういう見通しは間違っていないと思うのですけれども、いかがですか。#71
○国務大臣(水田三喜男君) 間違っていないかもしれませんし、間違っているかもしれません。これから検討いたします。#72
○松井誠君 それは赤字公債との関係で大臣は警戒しておられるのだと思いますが、その問題は別にして、今年度どっちみち補正予算を組まなければならぬ、そのとき国債の増発もしなければならぬだろうというように伝えられておりますが、補正予算はいずれ組むにして、やはりそういうことになりますか。#73
○国務大臣(水田三喜男君) いま主税局長が答えましたように、税収のほんとうの見込みもまだついておりませんし、そういうものとからんでいま言われたような問題をどうせこれから考えなければならぬと思っておりますが、当面は、とにかくきまった本年度の予算を順調に動かすことのほうが先でございますので、いまそれに全力をあげる、そうしてこの見通しがついてからそっちの問題にかかる、こういう順序でやりたいと思っております。#74
○松井誠君 しかし順序は、その一つが片づいて、さて一つというわけにいかないので、現に八月になればもう予算折衝が始まるわけでありますから、したがって、現在の見通しと並行して少なくとも立てなければならぬというのが現実でしょう。だからどっちみち歳入欠陥があったときに、その穴埋めをどうするかという議論が出てきますよ。今度の補正予算のときに、国債の増発をするときに、どのくらいが一体公共事業に向ける建設国債であるのか、どのくらいがそうじゃなくて、いわばもぐりの赤字国債であるのか、そういう議論はどっちみちいずれ出てきます。ですから私が聞きたいのは、どういう形でやるかは別として、財政法四条の規定で公共事業のための建設国債だという名目でやるか、あるいは四十年のときのように特例法でやるか、その話は別です。別ですが、とにかく歳入欠陥の見通しありやいなや。ありとすれば、何かの形で、公債で埋めなければならぬという見通しくらいは、私はこれはおっしゃっていただいてけっこうじゃないかと思いますが。#75
○国務大臣(水田三喜男君) 結局その見通しをつけるのには、税収がどうなりそうかということがもう少しはっきりときまらないと、そこのところが構想できないということにもなりますので、もう少したてば税収も大体の動向がわかると思います。#76
○松井誠君 もう少しと言ったって、九月決算がありますね。それが終ってということになりますと、十月、十一月になる。そういう時期ですか。#77
○説明員(高木文雄君) 法人税だけについて申しますと、やはり九月決算のウエートが非常に高いものでございますから、九月決算、十一月申告分の様子がわかりませんと非常に見通しをつけにくいわけでございます。なお、そのほかにも、現在たとえば給与の伸びなんかにつきましても、賃上げによって賃金の水準がどう上がるか、それが税のほうにはどういう形ではね返ってくるかというようなことも、現在の段階ではまだ税収の形で、はっきりした形でははね返ってきておりませんので、現段階ではちょっとわからないということでございます。#78
○松井誠君 ですから、いつごろになればわかるのか、いつごろにわかれば実務上支障がないのか。もうすぐということを大臣言われますから、予算要求の始まる八月ごろといえばもうすぐですけれども、そのころにはおよそのめどがつきそうだという意味ですか。#79
○説明員(高木文雄君) 従来から、翌年度の税収を立てます場合に、主税局が役所の中でかなり自信を持った数字が成り立ちますのは、九月決算の法人の数字がつかめます十一月申告の数字が出てからあとになります。で、いつごろになったらというお尋ねでございますが、それはそのときそのときにどの程度に見通しが、何といいますか、どの程度に正確といいますか、見通しを持っての数字かということによって違ってまいりますが、最近のように基礎になります成長率なり、あるいは生産の動向なりが動いておりますときには、非常に立てにくいというのが率直なところでございまして、ある安定的な状態で経済が動いておりますときと、波を打って動いておりますときとではやはり事情が違いますので、現実問題として、私どもとしては今年のような場合には、なかなかいつもと比べてより立てにくい時期だという感じを持っているわけでありまして、その意味で、何月になりましたならばどの程度のということは、いまの段階ではちょっと申し上げにくいというよりお答えのしようがないと存じます。#80
○松井誠君 それでは最後になりますけれども、この所信表明にある、いわゆる八項目の問題にしても、それから社会資本の充実という、いわば新しい経済運営の路線の問題にしても、直接には円対策というものから出てきておるわけですね。円切り上げの問題を私はここでお伺いをしませんが、きっかけは何であれ、ほんとうにいわゆる社会資本の充実というものが、あるいは社会保障の充実というものが、ここに書いてあるようにやられれば確かにいいに違いない。ただその場合に、物価問題が一つ引っかかる。もう一つは、この八項目の推進で摩擦を起こすかもしれないけれども、しかし、その摩擦は消化し得るぐらいの力がついているんだという表現がありますね。中小企業や、あるいは農業にすると、特恵でやられて、あるいは自由化でやられて、おまけに円の切り上げでやられてということになりますと、二重、三重の打撃になる。日本経済全体としてはそれを吸収し得るような力があるかもしれませんけれども、中小企業や農業自体にはその力がない。この間、新聞に出ておりましたが、国際経済調整法ですか、つまりそういう対外経済政策のためのいろんな摩擦調整を必要とする事項、そういうものをまとめて処理しようという立法の動きがあるやに伝えられているのですが、この点はどうですか。
#81
○国務大臣(水田三喜男君) 何か新聞でそういうことがあったようですが、私ども全然そういう問題は知りません。そういうような構想はいま持っておりません。#82
○戸田菊雄君 ちょっと関連で。その企業減収の問題で、四十年に同じような歳入欠陥に基づいて赤字国債を発行して二千九百億補てんをしたときがあるんですね、そのときの減収見込み傾向というものと、今回とはどういうふうに違っておりますか。その辺の見通しですね、当時は二千九百億の赤字国債を発行した。同じような状況に今回きているわけです。だから減収見込みというものがおおむね――こういう過去の経緯があるんですから、一定の見通しが立つのじゃないかと思うのですけれども、主税局長は企業減収は非常にきびしいと言っているんですね、それは確かにあると思うんですが、新聞なんかでは、いま松井委員が言ったように五百億、六百億と、こう想定しているんですね。だから必ずそういう事態がくるんじゃないか。それをいまの時期で見通し立てられないということはぼくはないんじゃないかと思うんですが、どうですか。#83
○説明員(高木文雄君) 正確にはいま申し上げる材料を持ち合わしておりませんが、大体の感じといたしましては、やはり一般に言われておりますように、前回の四十年のときに比べますと、企業の体質がだいぶ強くなっていると思いますが、そのときよりはだいぶ基礎が固まっているといいますか、そういう感じがありますから、下がり方といいますか、落ち方は前回ほどには強い落ち方ではないということは言えると思います。それから今回の場合には、現在でも法人税のほうはいまの企業がそういう状態でございますから、なかなか歳入見積もりを立てましたときのような見積もり額にはなりにくい情勢でございますが、所得税のほうは、給与の伸びその他の関係がありまして、ある程度そう心配することはない、それでそのマイナス項目、予算に比べましてのマイナス項目とプラス項目がいろいろございますが、それが前回の場合とは必ずしも、それぞれの項目について基礎となる事情が違いますので、前回はこうであったからこういうことで予測をするということが、私どもとして自信を持ってまだできないという状況でございます。#84
○松井誠君 この所信表明の中で、私は最後に一つ気になることがありまして、お尋ねをしたいんですが、その前に、いま私が言いました、いわゆる国内の摩擦ですね、自由化あるいは特恵あるいはあり得るであろう円の切り上げ、そういうものをいわばもろにかぶる、そのものに対する摩擦をなくする方法、特恵のときには中小企業に対して何がしかの手当てをした。そこでひとつそういうものを総合的に検討して、事前にやっぱり対策を立てるということが必要じゃないか。何も私は円の切り上げを予想して言うわけじゃありません、自由化や特恵を含めて、そういうことはやはりいまの段階で必要じゃないか。ことに円の切り上げの圧力というものがいまの設備投資を押えている一つの原因であるとすれば、そういうものを減少させるという意味もある。そういうこともあって、そういうことはひとつ事前にやはり政策を確立しておくということは、何も円の切り上げだけを目的としているわけではありませんから必要ではないか。大臣は全然知らないと言いましたけれども、それは真偽の問題はわかりませんが、何か経済団体と政府との話し合いの会合で、いま私はその詳細を持っておりませんが、そういうような意見の一致を見たというニュースがあったと思うのです。そういうことを検討する御意思はございませんか。#85
○国務大臣(水田三喜男君) さっきおっしゃられたような構想があるかないかというお尋ねでしたので、私どもいまそういう構想は持っておりません。ただし、この自由化を遂行するためには、各省ごとに管轄の物資についていろいろ摩擦がある問題もございましょうし、それに対してはいろんな対策を用意されるだろうと思いますが、で、各省からそういう対策が出た場合には、私どもとしましては、それが必要な対策であるかどうかということによって、必要であると思う措置に対しては、予算的な協力もするというようなかまえでおりますが、まだそれを統一して何かの法律の形でどうこうと、一本でそういうものを処理する法律をつくるとかなんとかいうような構想は、全然いま政府の中のどこにもございません。聞いておりません。#86
○松井誠君 さっき私がお尋ねしようと思っておりましたものは、いろいろな施策をやっていくと財政需要が大きくなってくる、そのときに安易な膨張は困る。それはいろいろありますけれども、そのために「既定経費についても、新たな観点から再検討し、」というのがありますね。これはたとえば防衛費を減らすということならば、大いに私賛成なんですが、どうも自民党のいまの体質からいえばそうじゃない。そうじゃなくて、私の感じであるかもしれませんが、たとえば食管会計の赤字、こういうものはすでに頭の中でやり玉にあがっているんじゃないかという気が実はする。そういうことはございませんか。#87
○国務大臣(水田三喜男君) 既定経費については、これは全般的にやはり検討する必要があると思いますので、特にうしろ向きの金を多く出すというような事態については、これはどうしてもここらで改善しなけりゃならぬと思っておりますので、こういう問題についても、できるだけ早く解決したいと思っております。#88
○松井誠君 これで終わりますが、うしろ向きの経費ということで、たとえばニシンの問題、繊維の問題、そして米の問題、こういうのが一括してうしろ向きの経費であって、ということで簡単にひっくくられておるのですよ。私、決してそうじゃないと思うのです。それをやっぱり安易にうしろ向きの経費というようにとられて、それが節減をすべき経費だということになりますと、これは一体だれのための財政膨張かということにならざるを得ない。そういう配慮もぜひひとつこれからの財政運営の中でしていただきたい。そうしなければ、社会資本の充実の、社会保障の充実のといったところで、一方で与えておきながら一方でとってしまうと、そういうことになりかねないと思うのですね。御配慮をお願いして、終わります。#89
○委員長(柴田栄君) ちょっと戸叶さんに申し上げます。一応の持ち時間はあと五分でございますので、集約して御質疑を願います。#90
○戸叶武君 時間の制約がありますから、緊急を要する問題二点だけお尋ねします。貿易自由化の速度が非常に速くなっておりまして、九月には四十品目に縮小されるというような大臣のほうのお話もありますが、この問題、貿易自由化そのものは何人といえども認めておりますが、EC諸国におきましても、やはり一番問題になっているのは、これが第一次産業の農業部門におけるところの非常にショックが大きいのじゃないか。こういう点にイギリスの労働党なんかあたりにおいても二つの流れがやはり対立しておるという状態でありまして、日本の農民の正しい声というものは――比較的いままで政府に依存した農協のボスのような者が保守党と癒着しておったので、農民の声というものがストレートに響いていない向きがありますが、いま非常に抵抗が出てきておるので、おそらくはこの問題をめぐって、私はいまの米の問題について大きなあらしが出てくると思うのです。大体官僚なり軍閥の内閣がいつもぶっつぶれることは――寺内内閣がつぶれたときはシベリア出兵であれほどたたかれてもつぶれないで、米騒動でもってつぶれたのです。こつ然として起きたのです。それはやはり私は非常な教訓にしておかなければ、忘れたころに災害はくるんですから、大体ことしは令害がくるというのはだれでも見ておるのでして、北海道はすでにそれにおののいております。そういうようなときに、農民自体が非常な不安定の中に置かれておるときに、多少の問題があっても、それをやっちゃえば何とかなるだろうという形でやれないものが、いまの農村の不安な人心の中において私はあるということを認めなくちゃならない。この影響に対する配慮、これは農林省だけにまかすべきじゃなくて、このはね返りは必ず大蔵省のほうへくるんですから、こういう点において、大臣がいろいろな点で前と違って思い切ったことをやれるというと勇み足のようですが、その意図はけっこうですけれども、とにかく十分の配慮なしに、貿易の自由化をアメリカの要請なりでやるという形をとることは、いろいろなトラブルが起きると思いますけれども、そういう点においてはどういう配慮なり見通しを持っておられますか、簡単に伺います。
#91
○国務大臣(水田三喜男君) 自由化はこれは結局他国のためにやるわけじゃなくて、やはり日本経済自身のために早晩やらなければならぬ私は問題だと思います。そうでなければ、各国の取引をお互いに拡大して、世界経済の拡大に資するという方向にはならないわけですから、これは各国の義務で早晩やらなければならぬ問題である。日本がこれがよその国に比較しておくれておるときに、国際収支の大幅黒字という問題がきて、それが問題になってきたというような事情があって、促進される情勢になってきたんですが、これはもともと、もっと早くやるべき問題であったと思います。結局それは日本経済のために必要なことでございますからして、したがって、大局的に見てこれをやるためにいろいろな問題が起こり、あるいは摩擦が起こるというようなものについては、これはやはり全体の利益のために、これの救済策といいますか、有意義にこれを救済する方法は当然考えなければならぬ。そうでない自由化を無意味にするようなところへの救済策はもう意味ございませんが、これによって国内産業の体質が強化されるということでしたら、強化するための助成策というようなものは意味があるでございましょうし、また他の業種に転換するということがありましたら、転換を助けるためのいろいろな助成というようなことも必要でございましょうし、あらゆるそういう必要な措置はとっても、やはり国民全体のためにこの自由化というものは推進をしなければならぬ。ちょうどたまたまこちらの日本経済自体としてもやるべきことと同時に、これがまた国際摩擦をなくするためにも急がなければならぬという一つの要請が重なってきたというところに、ますます必要が出てきたのでございますから、そのためにはやはり政府も国民もそれぞれ必要な協力はするという態勢で、これは取り上げなければならないと私は考えております。#92
○戸叶武君 貿易自由化の問題に反対する人はないと思います。それをにしきの御旗として、それらの流れの中において、それに対処するだけの姿勢が日本の農業としてつくられていないときに、政府の怠慢をよそにして、そうして外国から、世界的潮流の中からそれを要請されて、しかたがないんだという形で押しつけても、そこには案外強い抵抗だけが出て、私は、思いがけないような障害が発生しないとも限らないと思っている。ここいらが私は、いままでの日本の通産関係の当局と、やはり農政関係を担当している人たちとのギャップ、日本のやはり産業構造におけるいろいろなおくれ、そういうものが集積してきているのに、その現実における矛盾の集積というのを無視して、大義名分だけでもって暴走しても、かえってそれがトラブル発生の大きな原因となって、米がだめだわ、畜産がだめだわ、果樹がだめだわ、前途まっ暗になってきた日本の農民が、政府の言うことだけ聞いていれば何とかなると思っているような農民が、とんでもないことをしたというときには、私は、非常な激しいそこに抵抗が起きると思うんです。イギリスにおいてでも、西ドイツでも、農業政策において、とにかく重化学工業を優先して、どっちかと言えばおろそかにしてきたと思う。第一次産業と第二次、第三次産業との――高度経済成長性の低い、所得の低い産業とのアンバランスを是正しようという、財政、金融、その他の政策があれほどとられた国においても、なかなかむずかしい問題として、この十五年足踏みをしながら、行きつ戻りつ苦悩してきたところと比較して、日本のほかからの要請、日本の高度経済成長の必然から起きてきた要請というものを大上段にかまえたとしても、抵抗面というものを無視すると、私はえらいつまずきになると思います。これは警告だけにとどめておきます。それから次に、東西貿易の拡大の問題、いまのアメリカのドル不安でも、ただ通貨面における施策だけではどうにもならない、失業者が増大した。結局は、やはり貿易を拡大しなけりゃならない。いままではココム、チンコムだという形において、共産圏との貿易を抑制していたアメリカ自体が、失業者の続出、ドルの不安、そういうものから、東西貿易の拡大というものをどうしてもやらなければ、大統領選挙にも間に合わない。このいら立った気持ちが、ベトナム問題が表面の問題として取り扱われたり何かしているが、ニクソンをして、日本に対しては失礼と思われるような、とにかく取り組み方を中国にやったのにも、その背景にはそういうものが私は内在していると思うんです。そういうときに、いままで共産主義国家、社会主義国家は、およそすべて計画経済の貿易をやるのにも、延べ払い方式をもってしなければ、資本の蓄積がそれほどゆとりがあるのじゃない。当然社会主義国家との貿易においては、延べ払い方式をもってしなければ、貿易の発展なんかあり得ない。そういうときに、いままで政治的な配慮から縛ってきた吉田書簡とか、延べ払い方式に応じないという愚にもつかない政策をやっていた日本が、アメリカ自体が大きく変わるときに、どう対処するか。そういうときに、これは通産省や何かだけじゃなくて、日本の金融なり、日本の財政を担当している大蔵省において、明確な腹を持っていなければ、急場に間に合わないと思う。速度が速いんです。日本の間抜け策というものは、とにかく世界じゅうに恥をさらしているんです。そういうときに、何かこれは思い切ったことをやれるところへきた。いままではとにかく貧乏くさくて、やれることもやれなかった。今度はおれはやるぞという、私は、水田さんの、非常にけっこうです。暴走してもいいから、やらなければいけない。しかし、ただ単にいままでのように、インフレとか、デフレとかいう愚にもつかないことよりも、いま当面している国際情勢の変化に対応して、どういう形をとって、われわれがこれに立ち向かっていくかという姿勢が財政当局にないと、通産省がどうあがいても、外務省がどういうふうに作戦しても、それじゃだめだと思うんですが、水田さん、なかなか度胸のある人だし、思い切ったことをやるというなら、どんな思い切ったことをやるか、その御意見をひとつ拝聴したい。
#93
○国務大臣(水田三喜男君) 私、この問題、いままで実際がどうなっているかということで、全部関係者に見てもらって調べましたが、これはまたおもしろいことで、よくケースバイケースということを言うと、またかというようなことになっているようでございますが、実際そうであって、輸銀の延べ払い輸出を、これ、いけないといってとめていることは実際にない。だから、ほんとうに希望があってくるなら、審査して許可することにちっともやぶさかでないといういま態度になっていることは間違いございません。それじゃ、何でそういうケースがないかというんですが、やっぱりいままでのいきさつがあるせいでございますか、その申請がない。それから、たまたま一、二あったのが、今度はいろんな事情で向こうのほうからそれは許可にならなかったという例があるんだそうですが、そういうようなことで進んでいないことは確かですが、道を閉ざしているということはございませんので、これは今後のまた状況の変化によって十分活用されるんじゃないかと思いますが、私のほうで、これはいけないといって道を閉ざしていることは、大蔵省としてはないということになっております。#94
○戸叶武君 もう時間がないでしょうから、簡単に結びの質問をします。私が一九六〇年に行きましたときに、中国で、高碕達之助さんに会ったら、高碕達之助さんだけじゃない、社会主義国間における貿易の問題は、やはり金融のエキスパート、たとえば中国を理解して、変なまねはしない、やはりさむらいの根性を持っている岡崎嘉平太さんのような人を活用して、そうしてスムーズにやらなければだめだということをサジェストしましたが、たとえば岡崎さんあたりでも、非常にあせったのは、アメリカの自動車産業なり飛行機、飛行機なんていうのは、もういまは軍事的なものじゃないですよ。あれ、何といっても中国を旅行するのには、飛行機でもなければできない。日本の自転車のようなものですよ。ああいうものでも向こうに先を越されてしまって、日本があとからいったんじゃ、部品でも競争にならない。アメリカさんだけの言うことを聞いて、あんまのような旅行をしようとしている日本の安易なやり方ならそれでよろしいですが、激動する世界の中において、いま、水田さん官僚出身じゃないが、水田さんの話を聞いていると、三度大蔵大臣やっていると、だんだん官僚くさくなっちゃう。どうも、いままではどっかの国のおとぎ話の答弁を聞いておるようで、どこの国にそういうことがあったのかと思われるような、だれが聞いたっておかしくて、これが答弁かといってみんな変な顔しているくらいで、これを、変な顔されるほどわからないくらいあなたの感覚も今度だめになっちゃったんですが、どうぞおとぎ話でない、これは論争になると時間がたちますけれども、少し激動する世界に対応するだけの財政金融政策がやれるような私は大蔵大臣じゃなければ、あなた、また佐藤さんと一緒に沈没しちゃいますよ。どうぞそういうふうに、もう少し気のきいた……。
#95
○国務大臣(水田三喜男君) これからどうするかともかくとしまして、いままでのいきさつを私が全部聞いた結果がこれはそうで、これは実際私もおかしいような感じがしたんですが――。#96
○戸叶武君 本人がおかしいと……。#97
○国務大臣(水田三喜男君) いや、おかしくないんです。これはもうそのとおりで、ほんとうに道を閉ざしてないというのが実情でございますから。#98
○戸叶武君 おとぎ話として聞いておく。それはあなた間違いないといって……。#99
○国務大臣(水田三喜男君) 間違いないです。わざわざ私はこの問題確かめて、勉強したんですから。#100
○戸叶武君 これはまさにナンセンス。#101
○野々山一三君 ちょっと関連。いまのお話を裏を返せば、東西貿易に対して、延べ払いに対して申請がないから事実がないのであって、あるならば認めていたというふうに受けとめていいですか。#102
○国務大臣(水田三喜男君) 全部審査してきめるという……。#103
○野々山一三君 そういうことでいいわけですね。#104
○国務大臣(水田三喜男君) いつでも審査してきめる。#105
○野々山一三君 それともう一回だけ、今後そういうことがあるとすればあなたとしては認めていくんだ、そういう考え方で確認していいですか。#106
○国務大臣(水田三喜男君) もう審査して差しつかえないというものは、これは審査してどんどんやるということです。#107
○鈴木一弘君 八項目対策のことが大臣のあいさつの中でございました。この八項目についてちょっと伺っておきたいのですが、これが一つの外貨減らし策であり、円切り上げ防止策であるということで出てきているということはよくわかるんですけれども、これで外圧をかわして円の切り上げをしないで切り抜けるということが言明をされてきておりますけれども、私どもにとっては、どう見ても八項目対策ではこれはかわし切れまいと、こういうふうに見ている。その点をひとつ伺いたいのと、一体先ほどのお話の中では、現在七十六億ドル、六月末と、こういうふうに外貨準備高についてはお聞きしましたけれども、今月中に八十数億ドルになるだろうと言われてみたり、あるいは田中通産大臣が、九月中には百億ドルになるということも言われている。輸入の額からいってやはり百億ドルぐらいまではいいんではないかという答弁がここで聞かれたこともあるんですけれども、一体何億ドルということであれば、円切り上げに対する外圧は避けられるというような感覚でおやりになっていらっしゃるのか、全然めどなしに何億ドルまでよろしいという、何でもいいから圧力を避ければよろしい、こういうものじゃないと思うんです。その点は大臣はどういうふうにお考えですか。#108
○国務大臣(水田三喜男君) 適正の外貨保有水準というようなものは、別に通説としては何もないというのが現状でございます。結局は、この貿易額によったり、いろいろな要素から判断するよりほかないと思いますが、日本の貿易額はここまでふえてきたんですから、したがって、外貨の保有水準も相当ある程度高いところへいっても差しつかえないということは言えると思いますが、どこまでなら十分で、どこ以上はもう余分であるというようなことは、なかなかこれは通説もないことであるし、むずかしいことだと思います。〔委員長退席、理事玉置猛夫君着席〕
#109
○鈴木一弘君 これは大臣、前にここの委員会で前福田大蔵大臣から聞いたときは、大体七十億ドルから百億ドルは必要であるということを言われた。いまのお話だと、何億ドルならいいかわからぬ、あればあるだけいいんではないかというふうに聞こえるんですが、そういうお考えですか。#110
○国務大臣(水田三喜男君) そうじゃございませんが、私はこの委員会で昔、せめて三十億ドルほしいといって笑われたことがございまして、あのときは笑った人も、そんな時代がくるものかといって笑ったんで、そういう点においては、私だけが笑われたともいま思っておりませんが、またその次の人は、四十億ドルと言った人もございますし、また昨年あたりは、大蔵大臣は七十億ドルという数字を出している。これは毎年毎年変わってくるようでございまして、私も変わっちゃ悪いかというと悪いことじゃない、これは、定説がないんですから。幾らぐらいがいいかというのが実際にはわからないんですから。ということは、輸出額、輸入額というものは非常に規模が大きくなっていくのですから、やはりその規模につられて水準というものは上がっていっていいと思いますので、そういう意味から言いますというと、かりに輸入の額の半分ぐらいの外貨を保有したら一応いいじゃないかというふうなことにするとすれば、まだいまよりももう少し多くなってもいいということも言えるでしょうし、まあこれは幾らあればいいということを言うのは、私無理だと思います。#111
○鈴木一弘君 その輸入云々の問題でなくて、円の切り上げをしないで切り抜けられるということになったら、一体どの辺が、まあ現状において適正な外貨保有高であるか、どうお考えでございましょうかと聞いている。#112
○国務大臣(水田三喜男君) 円の切り上げとかどうとかいう問題は、外貨保有高の問題じゃなくて、日本の国際収支の対外均衡をどういうふうにすればいいかという問題で、外貨の水準とは直接結びつけて考えなくてもいいんじゃないかと思います。#113
○鈴木一弘君 それでは、いわゆる均衡を保っていくための八項目の対策ですが、これがはたして、ほんとうに力があるかどうか。特に資本自由化の促進とか、海外協力の増大というような項目、こういう点が、これは効果がはたしてあるのでしょうか。どう考えても、私どもは大きな疑問を持たざるを得ないのです。この点は大臣は効果ありと、こういうふうにお考えになっておるわけですか。#114
○国務大臣(水田三喜男君) まあ諸方面でこの八項目の効果についての論議が行なわれておるようでございますが、そのいろんな御意見を見ましても、結論としては、ほんとうにこれを全部実施する場合には効果ありということになろうと思います。と申しますのは、たとえば貿易の自由化にしましても、残存の品目を何十品目自由化することによって、一体、日本の輸入はどのくらいふえるのだというようなことの計算はむずかしいとしましても、まあかりに計算すると、このくらいだろうという数字も出てきますし、今度は資本の自由化をやった場合には、どのくらいの効果が見込まれるかというようなことをやりますと、その一つ一つはそう多くない。それによって、いまの国際均衡の回復に大きく役立つということは言えないようでございますが、これが全部一緒に打たれて、一緒に効果を発生するということになりましたら、これは相当のものだろうと思います。まあどこかでも論じられておるようでございますが、たとえば景気回復策というようなものによって、内需の旺盛によって、輸出が二%抑制されて、輸入が三%伸びるというような事態に変化が起こったとしても、これによって国際収支の黒字調整というものは十億ドルをこえるというようなことで、もうすでに日本の輸出入の規模が非常に大きくなっているのですから、少しのことによってもそのくらいの効果を発揮するということでございますし、こういう一連の対策がみんな行なわれたら、私は、対外均衡を必ず回復するのに相当役立つというふうに思っています。円のいまの問題は、平価を変更していくという手段でなくて、一般に対処できるものというふうに確信しております。〔理事玉置猛夫君退席、委員長着席〕
#115
○鈴木一弘君 まあ、いわゆる均衡ということになれば、輸入の増加、輸出の抑制ということでしょう、一つのねらいは、はっきり申し上げて。そうすると、輸出に対して税制面、金融面の優遇措置というものを廃止する、そうなったら、一体何億ドル輸出は減っていくのか、ひとつ聞きたいのです。それから輸入を促進させて、最終的にいわゆる貿易の自由化を進めていって、非自由化品目が三十品目になったときの輸入の増加額は一体何億ドルになる予定なのか。それから特恵関税によって輸入が増大するという分はどのくらいか、何ドルくらいか。あるいは関税の引き下げだとか、非関税障壁の撤廃ということが行なわれたときに、一体何億ドル出てくるのか。こういうことが一つ一つ積み上げられないと、そしていまのお話のあった景気対策で一体何億ドルか、これは全体がわからないと。じゃ、八項目は効果が、最終的には効果ございますと言われたのですけれども、五年も六年もたってから効果が出たのじゃ話にならないでしょう。はっきり申し上げて、ここのところ当座実施をして、半年なり一年以内にはこれくらいになりますという見通しは大臣当然おありでしょう。なければ、こんな八項目を掲げてもただのペーパープランに終わってしまう。どうなっていらっしゃいますか。その辺のところを詳しく言っていただきたい。
#116
○国務大臣(水田三喜男君) これは計算は非常にむずかしいことでして、責任のある数字を簡単に言えるものではございませんが、まあいろいろな計算方法をやって、結論としましては相当の効果ありという確信を持って、これを何が幾ら何が幾らという計算をここで披瀝するということは差し控えたいと思います。#117
○鈴木一弘君 ちょうど大臣の答弁聞いていると、羅針盤のない船に乗ってる感じがするのです。国民のほうにとっては、やはり円の切り上げという問題は大きな問題です。先ほどの松井委員の質問にも、それが一つの大きな圧力になって景気が浮揚しないのではないかということがはっきり言われている。それくらいの心理的にも、実際の面でも、効果が出てきちゃっている。そうすると、この八項目の対策が実をあげ得ないということになる。あるいはあげられますといわれても、こういうふうになるでしょうという、ここまでならば希望があるというような、そういうものが出てこなければ、協力のしようもなければやりようがないということになりますね。その点はいかがですか。#118
○国務大臣(水田三喜男君) たとえば、関税の引き下げにしましても、これは国会で法律としてきめていただかなければできないことで、実施がおくれるということがございますし、この対策を、まあ法律事項を除いてはほとんど八月中に全部一応実施できるというところまで私どもはこぎつけたいと、いまいろいろ各省間で検討して対策を練っておるところでございますが、それはすぐに効果を期待できるものもございますし、まだ相当先にいかなければ効果は期待できないものもございますし、これをいま何が幾ら、何が幾ら、そういうものを示さなければこの対策が無意味だと、やっても意味がないのじゃないかという性質のものではなかろうと思います。#119
○鈴木一弘君 同じことばっかり詰めるのはいやですけれども、何が幾ら、何が幾らでなくても、八月一日から関税の引き下げも、いわゆる法律の改正によらないものはやりたい。こういうことはどんどん出てきている。一体それじゃどういう効果が全体的にそのほかの七項目にありますか、そうして輸入についてはこれだけは増大してくる、輸出はこれだけ減ってくるということはおわかりにならないのですか。実施されたときに。何にもなしでやっておるわけじゃないでしょう。やってみなければ、はたして外貨を減らす策に役立っているか役立っていないかわからないけれどもやってみるということは、責任ある大蔵省としてもできないでしょう。私は、だからそこに大きな意図があると思う。大体という数字は、それをお聞かせいただければありがたいと思います。#120
○説明員(谷川寛三君) 全体的にはいま大臣からお答えしたとおりでございますが、輸入の自由化、それから関税の引き下げ、どういう品目をやるかということにつきまして、ただいま関係各省と協議中でございまして、そういう意味からもなかなか計算がむずかしいわけですが、ただ特恵関税についてだけは、この八月一日から実施いたしましたが、御案内のとおり、前国会で御説明申し上げましたとおり、シーリング――天井があるわけでございますね、ワクがある。これだけははっきりしておりますので申し上げますと、八月から来年の三月までの初年度につきましては、約三億ドルでございます。平年度は約五億ドルでございますから、その範囲内でまあ向こうからの輸入品につきましての価格の弾性値等もさだかでありませんから、はっきり申し上げられませんけれども、そのワクの中で増加をすることが予想される、こういうことでございます。#121
○鈴木一弘君 全体的にはよくわからないらしいのですが、それで輸出振興税制の整理の問題、これについては、実際にやるというけれども、これは通産省の要求とはちょっと違うみたいです。通産省の基本方針では、その輸出振興税制の整理の中で、海外市場開拓準備金を廃止するということになるけれども、かわりに海外取引安定化準備金を創設してほしいというような、そういう案があるということでありますけれども、その理由を私はこれはちょっと通産省から伺いたい。それから同時に、これについての大蔵省の考え方も聞いておきたい。というのは、それではやはり身がわりみたいなものになって、変わりないのじゃないかということを考えるものですから、その点、最初、通産省のほうから、次に大蔵省のほうからお願いいたします。#122
○説明員(田口健次郎君) お答え申し上げます。輸出関係税制につきましては、現在、八項目の一環といたしまして、目下鋭意検討中でございます。当省といたしましては、縮減、合理化をはかる必要があると存じますけれども、一方、中小企業に対します影響、それから技術輸出取引の政策的重要性といったようなものは、十分配慮する必要があるといったような、同時に急激な制度の変更によりまして、企業経営に多大な影響を与えることがないように検討してまいりたいということでございまして、実は内容は事務的な検討の段階でございます。
#123
○説明員(高木文雄君) 輸出振興税制をこの際やめるかどうか考えなければならぬということで、通産省と話を始めてはおりますが、通産省からは具体的にまだ御提案をいただいていないということで、私どもも直接、新聞の上で拝見をするだけでありますので、まだ通産省の公式見解を承わるまでに至っておりません。#124
○鈴木一弘君 通産省に、いま申し上げたような、いわゆる海外市場開拓準備金のかわりに海外取引安定化準備金を創設するということを基本方針としてきめた、これは事実なんですか、新聞にはそう報道されておる。#125
○説明員(田口健次郎君) お答え申し上げます。通産省部内でまだ検討中の段階でございまして、いまお話しございましたように、輸出入含めまして海外取引安定化準備金でございましたか、一部新聞に出ましたけれども、これは通産省として何らはっきりしたものでございませんので、当省といたしまして、まだ基本方針はきまっておりません。
#126
○鈴木一弘君 時間がきたようでありますから、物価の安定について、大臣の先ほどのお話で、輸入の自由化や関税の引き下げなど、一連の経済の国際化、効率化の措置が物価に好影響をもたらすよう十分配慮する、こうあります。先ほどもいろいろな質疑の中で、景気を浮揚させても、いわゆる逆にコストが下がるのではないかということで、物価への影響は考えない、という話でありましたけれども、現実問題、そんなことはとうていあり得ない。いままでの例から見ても、景気は向上してくれば物価は上昇してくる。ここのところで私は重要視しておきたいのは、関税の引き下げのところでありますが、現在の物価対策の、はっきり申し上げて一つのかなめの点といえば、関税引き下げじゃないか、現在、大蔵省のほうで算定している関税負担率、例の年間輸入総額に対する関税の収入額、この比率でありますが、この関税負担率が一九六七年に日本が七・三%、それに対して西ドイツは三・八、フランスが五・二、カナダが六・九、米国は七・一%というふうになっておる。これが原材料を除いたのになりますと、日本の場合の関税負担率が一〇・八%くらいになっている。当然これを徐々に下げていっただけでも、はっきり申し上げれば、いわゆる原材料以外の関税負担率でありますが、これを一〇%台から九%台、こういうふうに下げていくだけでも、物価の上昇というものは押えられるというのが、私どもが試算すると出てきているわけですけれども、これは一体関税負担率を現状から下げて、「引下げ」などとこうあるからには、一体何%に関税負担率を下げようとしているのか、全体的に幾らで、原材料を除いたいわゆる関税負担率を何ぼにすると、こういうようなお考えがおありになったのかどうか、その数字を示してもらいたいと思います。
#127
○説明員(谷川寛三君) ただいまお話になりましたような数字もございますが、これをどのくらいに下げるかということは、内国税のように目標を立ててやることはなかなかむずかしいのでございます。前回の国会でもいろいろと問題になりましたように、国内産業に与える影響等が非常に各産業によりまして違うし、非常に微妙なものがございますから、一々品目を洗って、非常にたくさんの品目を洗ってやらなければいけないものでございますから、目標を立てて幾らというふうにきめて下げていくことはなかなかむずかしいのでございますが、前回も申し上げましたように、また附帯決議にもつきましたように、物価対策の観点から、できるだけ前向きに考えていきたいと、各省と相談をいたしております。ただいま関税率審議会の企画部会を開催中でございますが、そこでも負担の問題を中心にいたしながら検討していただいておる次第でございます。#128
○鈴木一弘君 あと一問で終わります。「関税引下げ」ということで、大蔵大臣はっきり物価の安定のところで大きく取り上げていて、また八項目の中にもありますけれども、物価の中で私は一つの大きなみそだと思う。大蔵省としてでき得る最大のものでありますが、で、大臣としては、確実に物価に影響のあるような関税の引き下げをやると、そういうことですね。これだけははっきり伺っておきたい。やってみたけれども、効果のないようなことはやらないと、こういうことですね。#129
○国務大臣(水田三喜男君) そこにむずかしい問題が一つございますが、いま関税を下げたら物価が下がるかということでございますが、国内で関税を下げても物価が下がらないような流通機構ができておったり、いろいろそういう問題がたくさんございますので、これの合理化を急速にやらないというと、関税を下げたり自由化をやったりが、即物価に響く体制にはならないということがございますので、これが必ず物価対策になるように、もう一つ前提としてのいろんな問題が残っておると思いますので、この問題をあわせて強力にやる必要があろうと思っています。せっかくこれが下がっても、国内においては少しもこれを下げないでいいようにするいろんな機構がございますので、これに手を入れなければやはりいけないだろうと思っております。#130
○栗林卓司君 時間が十分ございませんので、なるべく簡潔に質問いたします。大臣の所信表明を伺っておりまして、これをどうやって具体的に進めていくかがこれからの一番重要な問題だと存じます。そういう意味で、これまでの質疑伺っていたのですが、大臣の御答弁伺っておりますと、これ私の思い違いかもしれませんけれども、所信表明の中でことばになっておりますものに比べて、大臣の御見解なり御判断が少し楽観的、ことばが悪ければ、明るい見方をされているように実は感じたのです。そこで、あげ足をとるつもりはありませんけれども、重ねてお伺いしますと、景気の見通しという問題について、七月が底だろうと言われました。この七月がどういう月かといいますと、財投なり公共事業の繰り上げについて四十一年よりもまだ消化していないので、これから鋭意急げばいろいろな効果が出てくるだろうという回答もありました。そう考えてみると、この中で、「今後の景気動向いかんでは、さらに機動的、弾力的に対処して参りたい」とありますけれども、よほどの状況の変化がない限りは、さらに機動的、弾力的な対処はまずないだろうと、七月が底で、しかもこれから繰り上げを含めて効果が出てくるわけですから、そう考えて、また、そう御判断になっていると受け取ってよろしいですか。
#131
○国務大臣(水田三喜男君) 七月は底で、回復のきざしがかりに少し見えたにいたしましても、その程度の回復ではなかなかいけない。もう少し早い回復でなければならぬということを考えておりますので、そのための措置をさらにとる必要があるかどうかということをいまいろいろ検討しておるということでございますので、決して楽観はしておりません。#132
○栗林卓司君 そこで、ほんとうはどういう御検討をされておるかということが、実はこの論議の核心になるだろうと思うのですが、先ほど来すれ違い論議ですから、重ねてここでは申し上げません。時間がないので先を急ぎます。所信表明の中で、日本経済が質的転換期に立ったということは全く同感だと思いますし、そういう中で、新しい見方、観点から見直していかなければいかぬということは全く同感に思います。そういう点で、租税の特別措置法というものについて大臣としてどうお考えなのか伺いたいと思うのですが、この特別措置法はいろいろな問題を半面含みながらも、産業の発展に対する誘導効果をあげてきたことは私は否定はいたしません。ただ問題は、それなりの政策意図を持ってつくられたものですから、これが既得権化することは絶対に避けなければいけないと思うのです。その意味から、いまの質的転換時代に入ったから全面的にきびしく洗い直しながら、はたして必要なものなのかどうかを見直していかなければいけないと思うのですが、この点はいかがでしょうかということと。
関連しまして、先ほど輸出振興税制のお話が出ました。これだけ外貨がふえてまいりますと、輸出振興税制に託した特別措置のねらいはだんだんとなくなってきて、あるいは消えてきたということだろうと思いますし、そういう御判断から現在政府部内で撤廃の論議をされているのだろうと思います。では、いま何が必要かといいますと、ここの中にも盛られておりますように、社会資本の充実を含めた新しい社会づくり、国づくりということになりますと、この輸出振興税制の撤廃に伴って浮いた財源ワクという考え方をしていけば、当然その見合いに上がってくる新しい政策の目標というものは、社会資本の投資を核にした新しい政策目標だと思います。そういうものも含めて租税特別措置法の全体について見直していくべき必要があると思いますし、あるということを含めての所信表明だと思いますけれども、いかがでしょうか。
#133
○国務大臣(水田三喜男君) 当然租税特別措置法の見直しはやりますが、特別措置を必要とする必要性というものは経済の進展に応じてどんどん変わってきますが、私はもう効果を果たしたもの、必要がなくなったものはどんどんなくするかわりに、これからはもっともっと新しい角度から必要とするものがたくさん出ると思いますので、やはりそういう意味で特別措置というものは、簡単に、全体としてはどれだけ整理できるかどうかということについてははっきり自信を持ちませんが、新しい必要なものというものはどんどん新しくできて交代していっていいのじゃないかというふうに考えております。#134
○栗林卓司君 租税特別措置法の全部についてなくせということを申し上げたわけではございません。その意味で新しい政策要請に従って新しい措置が必要になるということは当然だろうと思います。ただ、古いものを見直しまして、はたしてこれが今後ほんとうに必要なんだろうかという観点で考えますと、たとえば所信表明の中で「国民負担の適正化」ということが一つの柱にうたってありますけれども、そういうものの観点で、たとえば配当・利子の分離課税の問題にしてもあるいは利子所得に対する特別措置にしても、やはり見直しの対象に私はなると思います。その点については新しい政策要求という意味ではなくて、見直しの対象になるという点については、御意見いかがでしようか。#135
○説明員(高木文雄君) ただいまの利子と配当の問題につきましては、昭和四十五年度の改正のときに全面見直しが行なわれて、何年間かで経過的に直していくことになっておりますので、現在の段階では、私どもといたしましては、昨年度の改正のあとを見て数年後に見直すという時期かと思います。したがいまして、ここ一、二年で利子・配当について見直すというのはちょっと制度の安定性を欠くのではないかと考えます。#136
○栗林卓司君 時間がございませんので、あと二問、羅列的な質問で恐縮です。これから財政需要がますます増大してまいります。そういう中で、この財政需要をどう負担するかということが大きな政策課題になると思いますので、一つの例としてあげて御意見を伺いたいと思うのですが、たとえば道路投資というものを考えますと、その経済波及効果というものはたいへん大きなものがあると思います。加えて公害対策を含めて道路投資の重要性ということは、これはいまさら申し上げるまでもないと思います。ただ道路財源ということでだれが負担しているかを考えますと、ほとんど大部分が自動車の利用者ということになるし、利用の実態を踏まえて考えてみれば、大衆課税ということになります。しかも、自動車諸税そのものを考えてみると、これはすでに御論議があり、検討が進んでいると伺っておりますけれども、そのときどきの道路予算の総額に見合って場当たり的に、しかも性格が、いろいろな説明があったとしても、たいへんあいまいなもので、九種類が重複課税されている実態があると思います。これは今後の税調の中で論議をされていく問題かもしれませんけれども、この道路負担のしかたの問題と、これを大多数の国民大衆が税金で負担することのよしあしの問題と、現在の自動車関係諸税九種類に及んでいる実態に対して大臣の御見解を伺いたいと思います。
#137
○国務大臣(水田三喜男君) 来年度の予算編成とからんで、こういう問題は、私どもはもう一ぺん検討しなければならぬ問題だと思っておりますが、道路の問題は差し迫った問題でございますし、この資金が足らぬからといって、道路利用者にだけ目的税を設定するというようなやり方ではもう行き詰まってしまうことははっきりしておりますので、いまのようないき方をこのままこの次やっていくということは、私はできないのじゃないかと思いますので、別個の構想でこれは考えたいと思っております。#138
○栗林卓司君 最後に一つだけ、これはお願いと御質問ということで申し上げたいのですが、先ほど税収見込みということについてたいへん苦しくなってきたという御回答がございました。これは実際に苦労して努力している第一線の徴税職員の気持ちも含めてということで申し上げたいのですけれども、四十年に財政赤字が出ましてたいへんな論議になったときに、実際の徴税業務ということで考えると、無理な税務調査が押しつけられまして、いろいろな問題が出てきたし、第一線ではずいぶん苦労したということがございました。いまは税収見込みがまだわからない段階ですから、たいへん取り越し苦労の要請かもしれませんけれども、税収が少なくなりそうだということで、無理な税務調査にならないように、これは主管官庁としての大蔵大臣にぜひお願いいたしたいと思います。#139
○国務大臣(水田三喜男君) 決して無理な徴税はしないつもりでございます。#140
○渡辺武君 私は、円問題について二、三伺いたいと思います。最近三十六人の近代経済学者が、円を一定の期間継続的に小刻みに引き上げる方式をとったらいいだろうというような提言をしておりますけれども、大臣としてこの提言に賛成なのか、反対なのか、まず伺いたいと思います。
#141
○国務大臣(水田三喜男君) 提言は敬意を表して私どもは拝見しましたが、大体提言にはたくさん内容にも疑問ございますし、提言には賛成できない。やはりここに至るまで、こういうこの提言の中で言っておられるようなことについても、相当論議したあげくきめたのがいまの円対策でございまして、円は切り上げない、円の切り上げはやらぬという方針で出発した。この方針を変える必要は私はないといま確信を持ってやっておりますので、この提言には賛成でございません。#142
○渡辺武君 学者の方々の提言に賛成ではないというふうにお答えになりましたが、調べてみますと、この円の小刻み引き上げという方式ですね、これは実はアメリカの提案でもあるのじゃないかというふうに私は思います。たとえば、今年の二月の大統領経済諮問委員会の年次報告の中に、時間がないので要点だけ読みますと、為替制度のあり方については、平価を現在以上にひんぱんに小刻みに改定する方式をとるならば、国際収支の不均衡拡大を防ぐことができるだろうという趣旨のことがうたわれているわけですね。この経済諮問委員会の提案は、これはBISなどでも問題になって、こういういき方は非常に疑問があるというようなことが言われているわけで、大臣もこの点御存じだろうと思うのです。このようなアメリカ政府のこうした提案、これについても反対だというふうに理解して差しつかえないでしょうか。#143
○国務大臣(水田三喜男君) 私はあまり専門家でございませんが、これはもう実務的に見ましても、あらかじめ何%ずつ上がるということをはっきり定めた案でございますので、これは決して為替取引を安定させるものじゃなくて、場合によったら輸出の奨励策にならぬとも限らない。なるたけ早く売って早く代金を回収するというような方向へこれは促進することにもなりかねないでございましょうし、また対外投資というものを非常ににぶらせるということも考えられますし、またもう年じゅう動かすのですから、一ぺん動かせば小幅であっても動かすことがはっきりしているのですから、どうしてもそこにやはり若干の思惑を呼んで、これを大幅に一定期間はもう適当なときに上げざるを得ないような方向へ追い込まれるという危険もございましょうし、いままでまだ世界でやったことのない、実験していないからわかりませんですが、実際においてこういうもう動かすということを前提にしてかかったいろいろな対策というものは、実際にやってみてこれは非常にむずかしいことで、いまIMFの精神になっておりますように、国際取引を拡大する前提条件として、やはり為替平価を安定させる、それには動かさないことがいいのだというやはり思想を中心にしていくのでなかったら、ほんとうの通貨安定をはかるわけにいかないというふうに私どもは考えて、やはりこれはやたらに動かすべきものじゃないというふうに思います。過去の日本においても決して平価を切り下げるというようなことによって切り抜けてきたわけではございませんし、この事態を私どもは、いわゆる八項目の対策によってりっぱに成果をあげられるというふうに考えております。#144
○渡辺武君 アメリカのいわば公式の提案ですね、この小刻み引き上げをやるべきだ。これは、私はやはりアメリカの立場から、いま深刻になっているドル危機を、ほかの国の犠牲で切り抜けるということから出てきている提案だと思うのですね。たとえば、かりに日本が円を切り上げたら、日本の対米輸出は困難になるし、そしてまた、アメリカからの輸入は、これはそれだけ促進されるという条件がつくられるわけですから、アメリカがこういう他国の犠牲によって解決するという案を出してくるのは、私は当然だと思うのですね。ところで、いま大臣のおっしゃることを伺っておりますと、そういうアメリカのいわば公式的な提案にも反対するというような御趣旨だと思います。ところで、私はそういう点での政府のこの姿勢ですね、経済政策をとる上での姿勢、これを問題にしたいと思うのです。と申しますのは、いま政府がとっておられますこの円切り上げ回避の八項目という政策ですね、これは先ほど大臣の御答弁によりますと、いろいろ日本政府として検討した結果こういう政策をとったんだと言われますけれども、実は、これは私はアメリカの圧力に屈服してこういう政策をとったのじゃないかというふうに考えざるを得ない。なぜかと申しますと、この八項目対策のおもな内容を見てみますと、大体大まかに言って三つの柱にしぼられると思います。一つは、貿易の自由化あるいはまた資本取引の自由化あるいは関税引き下げなど、これはもういわゆる自由化の促進です。もう一つは、東南アジア諸国を中心とする日本の対外援助の拡大、これが第二の柱、第三には、先ほど来議論になっておりました国内の景気刺激政策、この三本の柱がおもな柱だと思うのですね。そのうちの自由化の促進もしくは徹底、あるいはアジア諸国への援助の拡大、これは一昨年の暮れの佐藤首相とニクソン大統領のこの会談、その結果として出された日米共同声明の中で、いわば沖繩返還の条件として、佐藤首相がニクソン大統領に約束したことです。これも日米共同声明にはっきり書かれております。そういうことで、私はやはりこれは非常に政治的な意味を持って日本政府が沖繩返還というような、そういう政治的な一つの問題とのかね合いでアメリカの要求に屈服して約束したというふうにしか理解できないものだと思う。しかも、その後、アメリカ政府は、新聞報道などによって見ますと、いろいろな形で直接に日本に自由化の促進その他を要求しているというのが私は実情だと思う。
たとえば、時間がないので、ほんの一、二点だけ例として申し上げますが、五月二十八日にミュンヘンで聞かれた米銀行協会による国際通貨金融会議、ここでコナリーアメリカ財務長官がこういうことを言っている。直接日本を名ざしで、日本は、自由世界の防衛分担金の増加、貿易自由化の促進、国際通貨問題の責任強化などを進めて、アメリカの国際的経済負担を軽減すべきだ、こういうことをはっきりと言っているのですね。あるいはつい最近開かれた日米経済諮問会議ですか、諮問委員会、それからまた、日米財界人会議、ここでもアメリカ側が非常に強力に自由化の促進と円の切り上げを要求したというような新聞記事が書かれている。私は新聞記事が誤まっていると言うのじゃない。事のこまかいところまで正確かどうかは別としても、これは事実を反映していることだと思わざるを得ない。しかも、日本政府がこうしたアメリカの直接の圧力を積極的に受け入れるかまえを示している。私はここに問題があると思うのです。
この間来日しましたレアード国防長官と佐藤首相との会談、これを見てみますと、日米安全保障条約を基礎とした安全保障政策で、日米両国が緊密に協力しているということを佐藤首相、レアード長官が双方で確認した上で、そうした原則に立って佐藤面相は東南アジア諸国への対外経済協力の促進、それから円対策八項目を進めているという点を非常に強調している。こういう一連のことを見ますと、政府の経済政策というのは、自主的にきめたのだとおっしゃるけれども、全くこれはアメリカの要求に合致した屈辱的なものだというように考えざるを得ないわけですね。そこで私は、そういう政府の経済的な政策についての基本姿勢が続く限り、いかに政府か円を切り上げないというように国会でたびたび言明をされても、これは西ドイツの例でもわかりますけれども、マルクの切り上げを、その直前までは切り上げません、切り上げませんと言っておいて、そうして切り上げるということが各国の例ですから、そういうことはあり得るということは当然わかることですけれども、しかし結局、いま進めている円対策八項目なるものは、これはその効果云々ということも一つ問題にはなりますけれども、私ははっきりここで申し上げたい。
将来の円切り上げの前段階、いまここで自由化を促進さしておく、そうして円の切り上げをやらせれば、アメリカにとっては、日本にずっといろいろな品物を売りつける、あるいはまた、日本に対する投資をやるのに全面的な条件が開けるわけですから、したがって、円の切り上げの前段階として、いま円八項目の対策を進められているというように見るのが正しいのじゃないか、やがては、客観的な条件は、これは小刻み引き上げになるか、それともまた一挙引き上げになるかわかりませんけれども、必ず円の切り上げに追い込まれざるを得ないというように見ております。その点どうですか。
それになお関連して、時間もないので伺っておきますが、最近、レアード国防長官が来日されたときに、日本の自衛隊の武器は旧式になっているということを言って、近代化をすすめた。佐藤首相も、国会答弁などでは大いにこれはけっこうだというので、近代化に意欲を示しているという問題と関連して、外務省が、これは軍事的なものが中心ですけれども、しかし同時に、日本にドルがだんだんたまってきて、そいつを何とかしようと、外貨対策の一環として、アメリカから武器の購入をやろう。そうしてまた、アメリカのこの対日駐留費、これを肩がわりするという意味を含めて、この中期債を購入するという形をとっていこうという方針を固めたという記事が出ている。で、この点について、大蔵省として、そういうことをやる意図があるかどうか、あわせて二つ伺いたいと思います。
#145
○国務大臣(水田三喜男君) 必要なことは、やはり国際通貨の安定ということだろうと思いますが、この通貨の安定のために、御承知だろうと思いますが、かつて三年前に欧州に通貨不安が起こった。このときにはポンドやフランが弱かったというようなことで、この切り下げによって解決して、小康を得たというようなことでございました。その後だんだんに様相が変わってきまして、他の通貨が一応問題がなくなって、ドルが非常に問題を持ってきたというようなことですから、一部にはこれはドルの切り下げがほんとうであって、強い黒字国の切り上げによって解決しなくともいいじゃないかという議論まで出ているのですが、そういう議論も成り立つと思うのですが、しかしそうでなくて、全部の国が一応安定して、ひとりキーカレンシーの問題ということになりますと、これはドルを動かすことによる影響というものは、各国の通貨にみな響くことで、これはできません。したがって、今度は国際協調によって、各国が全部で、このキーカレンシーをやはり守って、その安定をはかるということが、国際通貨の安定をはかるゆえんということになりますというと、ここにやはり黒字国としてのなすべき責任というものは、やはり当然出てくる。ドイツもいろいろの責任を感じておるときでございますし、日本もやはりその責任はある程度感じなければならない。そうなりますと、米国の圧力にわれわれがどうこうという問題ではなくて、世界が全部世界通貨の安定をしようと言って協力しているときに、日本が責任を果たさないことによって、世界通貨の不安を来たすということになったら、世界じゅうから日本に対して、いろいろな問題を起こして、国際摩擦を生ずるということでございますから、そういう意味からも、日本は独自の問題として、その責任をどう果たすかという問題は、当然にわれわれとして考えなきゃならぬと思うのです。その場合に、その責任の果たし方にはいろいろございますが、はたしていまの日本の国際収支の状況が基礎的不均衡ときめてかかって、円を切り上げるという、平価を直さなければいけない性質のものであるか、そうでないかということは、大きい問題でございまして、われわれが国際協力のしかたとして、日本の責任の果たし方として、いまの八項目のことを実施するというようなことによって日本は責任を果たせると、そして国際通貨の安定に寄与できるし、日本自身としても国内均衡と同時に対外均衡をこれで得られる方式になるんだという、自分自身の責任ということにからんで、こういういろんな措置をとっているわけでございまして、これはすぐに円の切り上げの前提だとか、第一段階だというふうに見る必要は私はないと思う。日本の責任の果たし方の問題として、これで私はやはり国際協調の実をあげられるんじゃないか、こう思っておる次第でございます。
それから蓄積された外貨で武器を買うとか買わないとか、その話は私どもまだ聞いておりません。
#146
○渡辺武君 最後に一問だけ。はからずも非常におもしろい御答弁を伺いました。やはりキーカレンシーであるドルを防衛するということが、日本政府のやはり基本政策だという立場に立つ以上は、アメリカのドル防衛政策に協力するということになっていかざるを得ないし、したがって、またアメリカの要求する円切り上げを含むさまざまの政策をのんでいかざるを得ない、こういうことにならざるを得ないと私は思います。
ところで、ここで私はもう一つ新しく伺いたいことは、次の点ですよ。つまり、いまの円の問題あるいはまたマルクの問題、その背景にドルの危機があるということは、これはもう衆目の見るところだと思う。私は前国会で福田大蔵大臣にこの点を質問しましたが、福田大蔵大臣もその点はやはり認めておられる。したがって、いま円問題だとか何だとかやかましく言われているけれども、根本的にこれを解決しようと思えば、その基礎になっているドル危機をこそ解決しなきゃならんのですよ。アメリカは自分が責任を持っているこのドル危機を自分の責任と犠牲によって解決しようとしないで、他国にその犠牲を転嫁して、他国の力によって解決しようとしている。そこにアメリカの立場があるんです。しかもなぜその危機に瀕しているドルが問題にならぬで、相対的に強い通貨であるマルクや円が問題になるのか、そこにもひとつ検討しなきゃならぬ問題がある。
これは私は数年前、いわゆる金の二重価格、つまり、アメリカはドルと金との公然たる交換を、これは実質上禁止した。したがって、以前はドル危機が起これば、ドルを金に乗りかえるというゴールドラッシュが起こりました。しかしいまは、ドルと金の交換が事実上停止されておるために、したがって、国際的なスペキュレーションが金にいくのじゃなくて、相対的に強い通貨であるマルク、円に集中するというのが現在の国際通貨危機の一つの特徴だと思う。したがって、円問題を根本的に解決しようと思うならば、そんな八項目とかなんとかというような、効果があるかないかわからないようなものを、アメリカの言い分に従ってやるというようなことでなくて、私は、やはりアメリカに対して、アメリカ自身の責任においてドル危機を解決すべきだ、こういうことを日本政府として公然と要求すべきだと思う。
特にいまのドル危機の根本原因は、だれが見たってアメリカがベトナム侵略戦争をやってばく大な軍事支出をやって、さらにまた政府がそういう軍事的な政策とあわせてさまざまな経済的な支出をやっているというところに、ドル危機の原因があるのだということは衆目の見るところです。私はきょうちゃんと数字を持ってきましたが、時間がないから申し上げません。ですから、アメリカが少なくともベトナム侵略をやめるべきだ、そうして、また日本政府もこれに対する協力をやめるべきだというふうに思います。これが第一点。
それから第二点は、ドルと金の交換性の回復、これを公然とアメリカに要求すべきだと思う。日本政府はそういうことをやる意図があるかどうか、この点を伺って私の質問を終わります。
#147
○国務大臣(水田三喜男君) 赤字国は赤字国の責任を果たしてもらうし、黒字国は黒字国の責任を果たしてもらう、両方がそれぞれ責任を果たすことによって国際通貨の安定をはかるということが必要であろうと思いますが、こちらのほうは、いままでは、苦しいときに他国の援助を受けながら今日まで来て、そうして一応競争力が強くなったといわれておりますが、その背後には、まだいろいろな自由化への制限とか非関税障壁とか、いろいろなものを背景に持った今日までの競争でありますし、まず、国際間においてそういうものを解決してでなければ日本の責任を果たせない。問題を自分自身がたくさん持っておるときでございますから、やはり日本とすれば、そういうことをまず自分でやることが先であって、この責任を果たそうと思うのが今度の対策ということでございます。#148
○委員長(柴田栄君) 本件に対する本日の質疑はこの程度にとどめます。次回の委員会は明二十四日午前十時三十分から開会いたすこととし、本日はこれにて散会いたします。
午後五時八分散会