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1970/12/18 第64回国会 参議院 参議院会議録情報 第064回国会 法務委員会 第5号
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1970/12/18 第64回国会 参議院

参議院会議録情報 第064回国会 法務委員会 第5号

#1
第064回国会 法務委員会 第5号
昭和四十五年十二月十八日(金曜日)
   午前十時三十七分開会
    ―――――――――――――
   委員の異動
 十二月十八日
    辞任         補欠選任
     井野 碩哉君     永野 鎮雄君
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    委員長         阿部 憲一君
    理 事
                後藤 義隆君
                河口 陽一君
                亀田 得治君
    委 員
                上田  稔君
                木島 義夫君
               久次米健太郎君
                小林 国司君
                永野 鎮雄君
                堀本 宜実君
                山崎 竜男君
                小林  武君
                瀬谷 英行君
                松澤 兼人君
                塩出 啓典君
                山高しげり君
   国務大臣
       法 務 大 臣  小林 武治君
   政府委員
       法務政務次官   大竹 太郎君
       法務大臣官房長  安原 美穂君
       法務省刑事局長  辻 辰三郎君
  最高裁判所長官代理者
       最高裁判所事務
       総局総務局長   長井  澄君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        二見 次夫君
   説明員
       法務省刑事局刑
       事課長      前田  宏君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律案
 (内閣提出 衆議院送付)
○民事・家事調停制度改善に関する請願(第六七
 四号)
○継続調査要求に関する件
    ―――――――――――――
#2
○委員長(阿部憲一君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律案を議題とし、質疑を行ないます。御質疑のある方は順次御発言を願います。
#3
○塩出啓典君 それではもう一回、きのうの点を確認しておきたいのでございますが、この第二条、第三条における「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた者」と、そういう判定については、まあこの手引きをつくるというけれども、そういうものの手引きではない、個々の場合は、非常に条件が違うわけですから、そういうのは、個々の問題について処理をしていく、そういうふうに判断していいわけですね。
#4
○政府委員(辻辰三郎君) さようでございます。
#5
○塩出啓典君 まあそれでですね、そうすると、人体に危険を及ぼすということは、たとえば米にカドミウムが現在一PPM以上あるというものをいま汚染米とされているわけですね。そうした場合に、もしある一つの企業が、これだけのカドミウムを工場排水または煙の中から出したならば、当然二PPMぐらいの、米にカドミウムが出ると思うけれども、二PPMならば何十年と食べれば害があるけれども、一回、二回食べても害がないと、そういう気持ちで、基準をこえたカドミウム、有害物質の排出をしたのがわかった場合、そういう場合は、その米を個々の住民がどの程度食べるか、そういう点から考えるわけであって、すぐこれがこの法律に違反をするとは考えないと、そういうことですね。
#6
○政府委員(辻辰三郎君) この法案に言っております公衆の生命または身体に危険を生ぜしめるというのは、昨日来申し上げておりますように、公衆の生命または身体に対する障害の可能性というものを発生せしめるということでございます。したがいまして、ただいま御指摘のような案件の場合に――これはあくまで仮定論でございますが、米が幾ら汚染されておるという場合に、その米をどういう状態でその地域ならその地域の人が食べているかというやはり具体的な事情との関係におきまして、この危険というものが判断されてくるということでございます。
#7
○塩出啓典君 法務大臣、私はそういう危険の度合いというものが非常にあいまいなむずかしい問題だと思うんですね。それで、きのう申しましたように、あくまでもどこが危険かというその判定は、ほんとうにこの法律が、提案理由にもありますように、予防的な処置を持つものであるならば、当然その米を一生涯食べても――やはり米なんかの場合はこれは一生涯食べる可能性もあるわけですからね、もし一生涯食べても大丈夫だと、そのあたりをやはり基準にして、それ以上は出すことはこれはやはりこの危険に当てはまると、そうしなければ実際に予防的な効果というのは非常に薄れるんじゃないかと、そう思うわけです。で、先ほどの刑事局長のお話によりますと、どんなに魚が水銀に汚染されても、それを食べる可能性というものが少なければ罪にならない。それでは魚を絶対食べないというそういう保証もないわけですしね。そういう点で一番安全なのは、やはり一生涯食べても大丈夫だと、それをこえて一生涯食べると発病するようなそういう程度のものは排出させないと、私はそのようにすべきではないかと思うんですけれども、その点法務大臣の御見解をお聞きします。
#8
○国務大臣(小林武治君) いまの米の問題ですね、厚生省の見解によれば一・〇PPM以上のものは人体に害があると、こういう結論をお出しになっていると、こういうことになれば、米に一・〇PPM以上のカドミウムがあるとすれば、それは私はそのものがもう人体に対する危険の可能性があるということで、それだけで捜査の端緒は得られると、こういうふうに私は思っております。ただその後のいろんな手続、因果関係いろんな問題がありまするから、魚なり米なりが、そのものがもうそれをそのまま食すれば人体に障害があると、こういう結論が出ているとすれば、そういう魚なり米なりの状態によってこれは私は捜査の端緒にはなると、しかしこれが事件になるかどうかかはこれはまた因果関係とかいろいろな問題があるから別でありますが、私はそういう汚染の状態そのものでもって私は捜査がやれると、こういうふうに考えております。
#9
○塩出啓典君 わかりました。
 それで、まあ米の場合は幸いにして一応厚生省におきまして、一PPM以上が危険である、汚染米である、そういう判定が下されているわけですけれども、そういうものが非常にはっきりしていないものがあるわけですね。やはりそういう場合には、結局は、被害が出なければ捜査の端緒にはならない、そうなりますか。それともそういうのに対する基準をどうするかですね、この点をお聞きしたいのですけれども。
#10
○国務大臣(小林武治君) 要するに、危険の可能性という問題は、まあ主として科学の裏づけがなければいけないと、たとえば青酸カリが流れ出て魚が死んで浮かんだと、こうなると、私はやっぱりその魚を食べるということは危険であるということで、やはり捜査に着手できると、こういうふうに思っておりますし、いずれの問題にしましても、その危険性というものの科学的裏づけがあるものはそれによってやる。こういうことになりまするし、また、一般的の通念でそういう考え方も出てくるかもしれませんが、要するに、そのことが危険を、人体を障害する可能性があると、こういう認定をすればいつでも捜査に着手できる。しかし、それがどういう結果になるかということは、まあ因果関係とかいろいろな問題があるからその結論はわかりませんが、とにかく危険の可能性があると、障害をする可能性があるということになれば捜査はできるというふうに考えております。
#11
○塩出啓典君 わかりました。
 それ下、刑事局長にもう一回確認しておきたいのでありますが、衆議院の連合審査におきまして――きのうもお話ししましたように、魚に、人体に危険のある程度のたとえば有機水銀が含まれている場合はこれは「おそれ」でなくて「危険に」当てはまる、もし「おそれ」があればプランクトンの状態で、危険な状態だと、そういうお話、そういう御答弁があったのですけれどもね。きのうからのあなたのいろいろ説明ではやはりそれには条件があるわけですね、結局。あくまでも――そういう流すほうの側に人体に被害をもたらすという、そういう故意というものがなければ、そういうのがあくまでも条件になっての衆議院での答弁の結果であると、そう判断していいわけですね。
#12
○政府委員(辻辰三郎君) さようでございます。衆議院の連合審査で答弁申し上げましたときにも申し上げておりますように、私は具体的な一つの前提を置きまして、そうしてさらに公衆の生命または身体に危険を生じせしめるというのと、それと危険を及ぼすおそれという点の具体的な違いというものを申し上げたわけでございまして、その点のみを申し上げたわけでございまして、この犯罪が成立いたしますためには、ただいま御指摘のように二条の場合ならば故意を要しますし、過失の場合には三条に当てはまるということで、そのほかにもちろん故意、過失を必要とするわけでございます。
#13
○塩出啓典君 法務大臣は、この参議院の連合審査のときに、環境基準を守っていて被害を与えても公害罪では罰しない――これはきのうお聞きしたように、罰する場合もあるけれども、ほとんど罰しない、こういうことがあったのですが、基準のないところでは罰することにしたいと、そのようにこれは新聞の記事がなっているわけですけれどもね。これは私は、基準のないところでも、もし人体に影響を与えれば罰するということ、これはあくまでも人体に影響を及ぼすという状態があってこそそれが成り立つわけであって、基準のないところでは罰することができるという、そういうものでは必ずしもないと思う。もしこういう答弁をされているならば、それは間違いであると思いますし、もしこれが新聞の間違いかもしれないと思うのですけれどもね、その点どうでしょうか。
#14
○国務大臣(小林武治君) その基準があるということは、基準を守っておればそういうふうな被害を及ぼさないであろう、こういうことでありまして、したがって基準を守っている限りは違法行為をしたことにならぬということでもって大かたこれは問題とはならぬであろう。しかし基準のないものはどうかというと、基準のないものであっても、とにかくその排出によってそういう生命や人体に危険を及ぼすおそれのある状態をつくればそれは処罰される。これは基準がない場合には、その事業場なり工場なりが自分の判断でおやりになっておる。しかしおいおいと基準ができるでありましょう。しかし基準のないものもあるであろう、しかしそれでも危険を及ぼすものはあるであろう。こういうことでありますから、基準のない場合でも、そういう危険を生じた場合には処罰する、こういうことでございます。しかしこれからだんだんいろいろなものについて、まだ基準のないものもありましょうが、大体これからだんだん基準はつくっていくであろうと思うが、しかしその過程において、基準ができなくて、基準がない場合でも、人の健康に危険を及ぼす状態をつくる、こういうことはあり得る。そういう場合には処罰する、こういうことを申しておるのであります。
#15
○塩出啓典君 その点が法務大臣のお答えと辻刑事局長の答弁とはちょっと食い違いがあるわけですけれども、法務大臣は、基準のないところでもし人体に影響、被害を出した、その場合は罰則の対象になるけれども、辻刑事局長の話は、結局、それは故意にこういうものを出せば人体に影響があるのだという、そういう認識を持って出した場合には、罰則になるけれども、そういう認識もない、基準もないし、これは人体に影響がない、これはいいだろう、そういうような気持ちで出した場合には罰則の対象にならないであろう、そういう刑事局長の答弁ですが、その点どうなんですか。
#16
○国務大臣(小林武治君) これは事件が成立するためには故意か過失があることが大前提でありますから、それは当然のことでありまして、ただ基準内でどうか、あるいは基準のない場合はどうか、こういうふうに質問があったから、基準がない場合でも処罰対象になると。これはあらゆる場合に、故意、過失があるということが前提で事件として成り立つ、それは当然のことでございます。
#17
○塩出啓典君 わかりました。
 次に第五条の推定の定のところでございますが、そこで、その前に、法制審議会に法務省の原案を提出した。法制審議会には要綱を出されたと聞いているわけですが、その要綱が法制審議会において何カ所か訂正をされた、法制審議会において変更した、こうしたほうがいいと変更したというのですね。それはどこなのかそれをちょっとお聞きしたい。
#18
○政府委員(辻辰三郎君) ただいま御指摘のように、法制審議会にはこの法文じゃございませんで、法律案要綱ということで諮問がなされたわけでございます。で、その要綱とこの現在法律案としてでき上がっております第五条の規定とは全く同趣旨でございます。ただ法制審議会では、この法案の本文で言いますと、第五条に「工場又は事業場における事業活動に伴い、当該排出のみによっても」と、こう文章がございます。これが要綱のときにも、そういう意味で書いておったわけでございますけれども、それがどうもそういう意味だなということを確認されまして、事務当局も最初からそういう意味であるということを申したのでございますが、それならばもう少しこれがだれにもわかるようにそういうことをはっきりさすべきであるという意味の御訂正と申しますか、御答申があったわけでございます。
#19
○塩出啓典君 法務省原案の要綱と、ここに出ております要綱を比べましても、第五条のところに、いわゆる「当該排出のみによっても」というそういうことばがつけ加えられているわけですね。法務省の原案にはそれはなかった。ところが法制審議会の答申の結果これが加わって、現在出されているこの法律案要綱には、こういう「当該排出のみによっても」ということばがあるわけでございますが、この「当該排出のみによっても」ということばがある場合とない場合、これは法務省原案にはなかった。ところが、それが法制審議会でつけ加えられた。そうなった場合にこの違いというのはどういう違いがあるのか、その点を御説明願いたい。
#20
○政府委員(辻辰三郎君) 法制審議会にはこの要綱で諮問をいたしておりまして、この「当該排出のみによっても」という趣旨で要綱をつくっておったわけでございます。この条文じゃないのでございます。法制審議会の段階では条文じゃないのでございまして、そういう意味である、趣旨であるということを申しましたら、法文作成のときに、その趣旨が明確に出るようにされたいと、こういう意味でございます。その意味の答申があったわけでございます。
#21
○塩出啓典君 私の質問したのはそういうことを聞いているのじゃないのです。この「当該排出のみによっても」というのは、この法文の要綱の場合――これこっちの要綱にはついているが、原案の要綱にはついていない。もちろん要綱と条文の間には多少のことばの違いはありますけれども、こっちの要綱にはちゃんと入っているわけですからね。ということは、大事なことばが全部要綱には入っているわけですね。あまり大事でない、そういう付属的なことばは要綱に抜けている場合があるのですけれどもね。そういうわけで、「当該排出のみによっても」ということばが、この条文にあるのとないのとでは、いわゆる複合汚染あるいは集合汚染等に対する適用が大幅に違ってくるのじゃないか、私はそのように思うわけですけれども、そういう点で、これがあってもなくても同じなのか、どういう違いがあるのか、その点を御説明願いたい。
#22
○政府委員(辻辰三郎君) 法務省原案はもちろん「当該排出のみによっても」ということなんでございますが、法制審議会に諮問をいたしました要綱におきましても、その意味の要綱を諮問されたわけでございます。実態においてもちっとも変わっていないわけでございます。法文の最初から――もう事務当局の最初の考え方といたしまして、「当該排出のみによっても」と、こういう趣旨の要綱をつくりまして法制審議会に諮問されたわけでございます。
#23
○塩出啓典君 では、「当該排出のみによっても」というのが第五条にありますね。これがあってもなくても意味に違いはないと、そう判断していいわけですか。
#24
○政府委員(辻辰三郎君) これは「当該排出のみによっても」という字のとおりでございまして、これをこの「当該排出のみによっても」ということばがございませんと、それは実態が変わってまいると思います。私どもはこれは事務当局の最初から「当該排出のみによっても」と、こういう意味で法制審議会の段階においても諮問がなされておるわけでございます。
#25
○塩出啓典君 「当該排出のみによっても」ということばが入って諮問されているというけれども、法制審議会には文書で出したわけでしょう。その文書の中に、「当該排出のみによっても」というのは入っておりますか。それ入っていないじゃないですか。
#26
○説明員(前田宏君) 諮問をいたしました要綱におきましても、表現は、第五条の表現は、「工場または事業場における事業活動に伴い、人の健康を害する物質を公衆の生命または身体に危険」「が生じうる程度に排出した」と、こういう表現になっておったわけでございますけれども、ただ、その際、いろいろ御議論がございまして、事務当局のほうから、その趣旨は現在御審議いただいておりますような案と同じように「当該排出のみによっても」と、こういう趣旨であるということを説明いたしましたところ、その趣旨はよくわかるんだけれども、表現上このことを一そう明確にしたほうがいいと、こういうことになっただけでございます。
#27
○塩出啓典君 法務省のこの雑誌に載っているわけで、私は原案じゃありませんけれども、ちゃんとしたそういう審議会にかける文書というものが、そういう口頭で説明しなければならないようなものであるということはおかしいと思うんですよ。しかも「当該排出のみによっても」というのが、あるのとないのとでは私は大きな違いがあるんじゃないか。それが法制審議会の段階において削られたのか、あるいはいまあなた言われるのは、最初から法務省当局の考えであったと、そう言われるならば、それ以上ぼくたちもせんさくする必要はないけれども、私が聞いているのは、この「当該排出のみによっても」というのが、ある場合と、ない場合の違いはどこにあるか、なぜこういう「当該排出のみによっても」ということばを入れたのか、要綱にはなかったでしょう。この文章にはない。それは意味は入れておったというけれども、これがあるのと、ないのとでは大きな違いがあると私は思うのですよ。その違いがどこにあるかという説明、その説明は全然なくて、どこで抜いたとか入れたとかということだけで、ある場合とない場合の違いはどこにあるか、そのことを御答弁願いたい。
#28
○政府委員(辻辰三郎君) 先ほども申し上げておりますように、法務省当局は最初から「当該排出のみによっても」という実体で考えておったわけでございます。そこで、この「当該排出のみ」というものがある場合とない場合とどう違うかということは、実は仮定論、仮りの仮定論になるわけでございますが、仮定論として申し上げますと、この場合は、第五条は「工場または事業場における事業活動に伴い、当該排出のみによっても公衆の生命又は身体に危険が生じうる程度に人の健康を害する物質を排出した者がある場合において、」と、こういう一つの要件がございますが、この非常に具体的な例として申し上げてまいりますと、あるところで、公衆の生命または身体に危険な状態が出ておるということで、この二条、三条の犯罪が成立するという嫌疑があるという場合におきまして、この五条というものは、二条、三条の成立する場合において、そのある場合――ただいま読み上げましたような、「排出した者がある場合」、これだけに推定規定をかけていこうと、こういう趣旨でございます。で、たとえばかりに何かの物質で一〇〇の汚染度が出ておれば、この二条、三条に言う公衆の生命または身体に危険を生ぜしめる状態であるというふうにいたします。でその場合に、ある工場、事業場から九五ぐらいの汚染度のものを出しておる、あとの五というようなものは、これは通常自然界に最初からよごれておるというような事態を想定いたします。そうしますと、九五なら九五の汚染をいたしたものは、これは当然自然的に五ぐらいは最初からあるということを十分知りながら、あるいは注意すれば当然わかるのにもかかわらず九五を出したということになりますと、これは案件によっては、この二条、三条の犯罪が成立するわけでございます。しかしながら、その本人は九五しか出していないと、そういうものについてはこの推定規定は働かさない、やはりその当該排出のみによって一〇〇以上出しておるという場合にこの推定規定を働かそうと、こういう趣旨でございます。
 で、二条、三条の場合は、これは一つの刑法的な評価といたしまして、非常に、例が適切でないかもしれませんが、ただいま申し上げました九五を出しておるものも、自然的に前に五というものがあるならば、そういうことを知りながら、あるいは当然注意すればわかったにもかかわらず九五を出せば、刑法的にはこの二条、三条の公衆の生命、身体に危険を生ぜしめたという評価ができるわけでございます。そういう場合があり得るわけでございます。で、そういう場合があり得ますけれども、この五条が働いてくるのは、その場合には働かさないと、やはり当該排出だけが一〇〇以上あるという場合に働かすと、こういう趣旨でございます。
#29
○塩出啓典君 そうすると、たとえば工場が四つなら四つあると、それがそれぞれ二五ずつ出せば一〇〇になっちゃうわけですね。それがまあそれぞれが五〇出したと、そうすると二〇〇になるわけですね、二〇〇に。そうすると、まあ当然一〇〇がリミットのが二〇〇ですからね、人体に影響がある。そういうことをお互いに承知しながら出したと、そうした場合に、この条文から言うならば、「当該排出のみによっても」と、その工場だけでもその危険を生じ得るということになりますと、結局五〇出しても五〇だけでは一〇〇に達しないわけですからね。だから、まあ法務大臣も先般の連合審査ども、複合汚染、集合汚染にはこの法案は適用できないと、それは結局この「当該排出のみによっても」というこんな変なのを法制審議会が加えたのが――法務省は元から加えたとあなた言われるけれども、実際ないわけですからね。そういうのがあるからそうなるのじゃないですか。その点どうですか。
#30
○政府委員(辻辰三郎君) この点は先ほど来申し上げておりますように、この法案の犯罪は、二条と三条がこの犯罪を規定いたしておるわけでございます。で、この五条は二条、三条の犯罪が成立するかどうかの因果関係を確定いたします場合の推定の規定でございます。で、犯罪の成否というものはあくまで二条、三条で決するわけでございます。で、その場合に、二条、三条は刑罰法規の規定のしかたといたしまして、このように書きますと、これは一人の人がこういうことをした場合にと、こういう意味でございます。一人の人というとやや不正確でございますが、一人の、まあ一つの工場、あるいは一つの工場群といいますか、そういう一つの、一人の人の支配下にある工場または事業場における事業活動に伴って、「人の健康を害する物質を排出し、公衆の生命又は身体に危険を生じさせた」と、こういうことで、一人の行為が書いてあるわけでございます。そこで、一人の行為として、こういう評価ができる場合が犯罪になるという問題なのでございます。
 そこで、先ほど御設例の四つの別々の工場がてんでんばらばらに五〇、五〇、五〇、五〇出したと、結果的には二〇〇という汚染度で、この汚染度が公衆の生命または身体に危険を生ぜしめるという状態でありましても、これは各工場はその一人でこういう公衆の生命または身体に危険を生ぜしめたという評価はできないわけでございます。そういう意味で、二条、三条のこの犯罪が成立しないということなのでございます。これはこの第五条に「当該排出のみ」ということを入れたか入れぬかによって異なってくる問題では全然ないわけでございます。
#31
○塩出啓典君 そうしますとね、まあ大体今回のあらゆる法案が人命尊重というそういう精神で貫いておるわけであってね。じゃあそれは、私はきのうからの質問で、たとえその基準以下であっても、その排出をした人がまあ故意と言いますか、そういう人の健康に害を与えるという概念を持って出した場合にはそれは当てはまるわけでしょう。であるならば自分の工場は五十なんだと、よその工場が五十出し、それで一緒になってそういう大衆の生命に影響を及ぼしてもそれは企業の責任ではないという、それはやっぱり言うならば共同責任であるべきだし、そういう複合汚染というものを除外するようなそういうことでは結局何もならないと思うのですね。いま一番四日市にしてもどこにしたってみなそういう問題になってきているわけですからね。国民の健康を中心に考えるならば、やはり企業のそういうモラルというか、共同責任において、そういういまの刑事局長の言われたような答弁であるならば、ほんとうにもうまことに意味がないというか、ほとんどこの法案はもうかかしか、でくの坊にしかならないと、このように私は思うのですが、そういう点は法務大臣やはりやむを得ないのですか、そういう複合汚染や集合汚染に対してさっぱり力を発揮できないというのはやむを得ないのですか。
#32
○国務大臣(小林武治君) この問題は立法過程におきましていろいろ検討をいたしたのでありますが、とにかくこの際こういう法律が出るということはいまのような単独の行為を取り締まる、あるいはこれを処罰する、これだけでも非常に大きな意義があると、それで複合とか集合公害をとらえるということは非常なめんどうな、めんどうというか困難、複雑な問題があるから、これらもこのままでいいと、こういうことでなくて、やはり今後の検討に待ちたい、こういうことでございます。いまのような議論が出ることは当然であって、それを放置しておいて、そしてこの法律がいま目当てにしておるようなものでは不十分じゃないかという議論が一般的に国会でもたくさんこれは論議をされたのでございまするが、そういうことをわれわれも十分心得ておるが、これはやはり今後のひとつ検討に待ちたい、こういうことで今日の段階ではこれでひとつまいるということにいたしたのであります。
#33
○塩出啓典君 まあ複合汚染、集合汚染のような問題は今後の検討課題にしたいとおっしゃいますけれども、いつですか、今後というのは。現実に四日市にしても確実にそういう問題が起きて、今後検討したいとかそんなのんびりしたことではやはり国民のそういう悲惨な被害者の方たちに対する責任ある誠意のある態度とはぼくは言えないと思うのですよね。早急にこの問題は検討したいとそう言うならばまだ話はわかるのですけれども、その点こういう問題を検討したいと言って、どういう形で検討するのですか、いつまでに。
#34
○政府委員(辻辰三郎君) ただいまのいわゆる複合公害の場合でございますが、この場合につきましては、ただいま法務大臣が申されましたように、私ども事務当局でもいろいろと検討いたしたわけでございます。刑事法的な一つの難点といたしまして、この複合公害の刑事法の対象としてとらえます場合に、かりに一〇〇という汚染度が公衆の生命または身体に危険を生ぜしめる、こういう状態であるといたしますと、その場合に、一〇〇の状態をつくり出します場合に、二〇出した人がある、一〇出した人もある、五出した人もある、一しか出さない人もあると、こういういろんな公衆の身体、生命に危険を生ぜしめる状態を実現するために果たした役割りと申しますか、寄与の度合いが千差万別でございます。これをそういう寄与の度合いというものを無視しまして、一率に一つの刑事罰の対象にするということは、これは刑事罰の本質から見て苛酷といいますか、たいへん不公平であるということで、刑事罰の対象になじまない面が多いわけでございます。これはやはり現段階では、いわゆる行政法令による行政規制によって、こういう事態を防止するのが至当であるというふうに考えておるわけでございまして、現に今回の法案で大気及び水質につきましては基準以上の排出そのものを処罰するという、いわゆる直罰方式がとられているわけでございます。さしあたり現段階におきましては、行政法令関係の行政規制によって解決をすべきものであろうというふうに事務当局としては考えたわけでございます
#35
○塩出啓典君 それでは、私実はいま岡山県の倉敷に住んでいるわけですが、水島の呼松というところに先般参りましたら、あすこはやはり水島のコンビナートの煙がどんどん来て、皆夜になると頭が痛い、風向きによってはのどが痛いと、嫁に行った娘がこっちに帰ってくると、せきが出て困る、こういう住民の声が非常に多いわけです。ところが、工場が非常に多いためにさっぱり原因がわからない。実際に健康に被害が出ているわけですね。そういうときに、もしそういう状態を告訴なりあるいは告発があった場合には当然これは捜査を開始すべきである、そう判断していいわけですね。――時間がないから簡単に。
#36
○政府委員(辻辰三郎君) この法案によります公害罪というものは、一人でそういう状態をつくったということが前提で、前提と申しますか、そういうことを規定しているわけでございます。したがって、具体的な案件の場合に、やはり一人でそういう状態をつくったものがあるらしいというような、一つの嫌疑があれば、当然この捜査の対象にはなると思うのでございます。
#37
○塩出啓典君 そうすると、結局そういう場合は、工場がたくさんあるわけですが、そういうときには結局捜査しないのですか。
#38
○政府委員(辻辰三郎君) これは具体的な案件いかんによると思います。
#39
○塩出啓典君 捜査しなければわからないじゃないですか。そういうふうに実際に被害を受けているのですよ。そこの被害を受けているところからそういう申し出があった場合に、その原因が一つであるか二つであるかというようなことはやはり状況によるというのですけれども、それはあらゆる場合に、そういうことの申し出があった場合には捜査しなければいけないのじゃないですか。じゃ、それはあなた言われたように、そういう被害報告があったけれども、捜査を開始しない、そういうのはどういう場合があるのですか。
#40
○政府委員(辻辰三郎君) これは私はこの法案の犯罪について一応申し上げたわけでございますが、先ほど申し上げましたように、今回大気汚染、水質汚濁関係の法律案を御審議中でございますが、これがこの法律になりますと、直罰主義というものがとられているわけでございます。これは各排出ごとに排出基準が定められており、その排出基準をこえて排出すれば、それが故意であろうと過失であろうと犯罪の対象になっております直罰主義でございます。その犯罪の嫌疑ということではこれはもとより捜査官憲は捜査ができるわけでございます。私先ほど少しことばが足らなかったと思うのでございますが、この法案の公害罪の場合には、先ほど申したようなことになりますけれども、実際捜査官憲が、機関が、捜査を開始するということになれば、そういう事態だけを考えねば、この直罰主義がとられておりますと、直罰という関係で犯罪の捜査が行なわれると思うわけでございます。
#41
○塩出啓典君 これは人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法でしょう。私は何もそういうほかの水質汚濁法とか、大気汚染防止法とかのことを言っているのじゃないですよ。もう実際にそういう被害が出ている。被害が出ているならば、とにかく故意にそういう被害を出しておったのは処罰の対象になるわけでしょう。故意または過失になっておったら、当然やはりそういう場合には、行政罰があろうとなかろうと、それとは関係なしに、当然そういう告訴なり告発があるならば、それはやはり捜査すべきではないか、そう思うのです。それは何か事情によって捜査する場合としない場合とあるというから、それでぼくはお聞きしたわけです。
#42
○政府委員(辻辰三郎君) これはもう御存じのとおり、犯罪の捜査というものは、捜査機関がやはり客観的な資料によって犯罪があるというふうに考えた場合に捜査を開始するわけでございます。いろいろな事態に応じまして、この法案による犯罪の捜査をするということであれば、やはり一人の行為として評価できるような排出で、公衆の生命、身体に危険を生ぜしめておるというどうも疑いがあるということであれば、これはもう当然犯罪の捜査をいたすことになるわけでございます。
#43
○塩出啓典君 その点は、大臣さっき魚が死んでも捜査を開始すると言ったのですよ。あなたは人間が健康上の被害を受けても、結局そこに犯意があるということが予想されなければ、企業はむしろそんな悪いことをしないだろう、被害が現実に出ておっても、そういう犯意があるという、故意である、あるいは過失であると、そういう証拠がなければ、捜査を開始しない。それじゃみな泣き寝入りじゃないですか。
#44
○政府委員(辻辰三郎君) その点、私、たいへんことばが足りなくて恐縮でございます。この犯罪の捜査の端緒といいますものは、先ほど大臣がおっしゃいましたように、魚がかりに死んでおる、汚染されておるという状況から見て、これはただごとではない、何か有毒物質、有害物質によってこれはなったんであろうというふうになれば、これはそれから捜査が開始されてくるわけでございます。そして、その結果、故意があるか過失があるか、あるいは一人でこういう状態をつくったかどうかということが調べられていくわけでございます。
#45
○塩出啓典君 だから、結局さっきの倉敷の水島の、こういう実際大ぜいの人が、私も町内へ行って何人かの人に会いましたけれども、やっぱり風向きによってはそうなる。非常に体のぐあいが悪い。最近はもうよそに移転する人も出ておる。そういうような現実があれば、それは大気汚染防止法の基準は守っているか、守っていないか、それはわからない。また故意か過失か、あるいは全然そういう気持ちがなく出しているかもわからない。けれども、いずれにしても、やはりそれは捜査を開始すべき事例であると私は思うのですが、その点どうですか。
#46
○政府委員(辻辰三郎君) たいへん私しつこく申し上げて恐縮でございますが、これはもうどうしても具体的案件によると思うのでございます。それからまた事実問題といたしまして、そういう案件の場合に、やはり告訴、告発なんか出てくることも、実際問題多かろうと思うのでございますが、そういうことでもあれば、もちろんこの直罰のほうで違反であるかもしれないし、あるいはこの法案による犯罪の嫌疑があるかもしれないし、いろいろな点から、やはり捜査機関というものは捜査を開始することになろうと思うのでございますが、これはやはり具体的案件との関係が基本的に残っておると思うわけでございます。
#47
○塩出啓典君 もうあまり時間がないので。一つは、いまの答弁で、ほんとうに私はそういう複合公害によって苦しんでいる人たちに対して、やっぱりわれわれとしては、私の気持ち、私はしろうとの立場としての考えから言うならば、そういうような例が出た場合には、これは検察庁がやるかあるいはどこがやるかわかりませんけれども、いずれにしても、そういう被害が出ておるような場合には、やっぱりどっかがその原因を調査して、そして結局は大気汚染防止法の基準にはまあ合っているけれども、その基準が甘いからそうなってきたわけですから、だから企業には責任ないかもしれない。それならばほんとうに人の健康を守るということが重点であるならば、国に対して現在の大気汚染防止法における基準というものをもっと強化すべきじゃないか、あるいは地方自治体に対してもっと強化すべきではないか、そこまでやらなければ意味がないんじゃないか、そう思うんです。それはこの法律が通っても、そういうことはやらないんですか、その点をお聞きしたい。
#48
○政府委員(辻辰三郎君) いわゆる複合公害というものは、私ども先ほど申し上げましたように、これはやはり第一次的に関係行政というものが規制さるべき問題であろうと思うのでございます。ただいまの御指摘のようなことがございましたら、やはり当該関係の行政機関がいろいろと実態調査するのが、まず先行してくる問題であろうと思います。この法案のほうは、この法案の第一条にもございますように、公害の防止に関する他の法令に基づく規制と相まって人の健康に係る公害の防止に資そうとするものでございます。さような意味で複合公害につきましては、まず行政規制というものが働いてまいるべきものであろうと考えております。
#49
○塩出啓典君 そうすると結論としては複合公害、そういうものについては、結局公害罪は全く適用できない、それは行政のほうの関係であって、この公害罪法の適用がない、そういうことですね、法務大臣。
#50
○国務大臣(小林武治君) この法律を制定する現段階においては適用がない。しかし、これはまだいろいろ公害の状態あるいは時勢の変化、こういうものについて考えなければならぬこともあるが、この段階においてはない、こういうことでございます。
#51
○塩出啓典君 それで最後に、実際この法案の第
 一条にもありますように、「公害の防止に関する他の法令に基づく規制と相まって」とか、また要綱ですか、提案理由ですかには、いままでの過去のそういう法律というものは非常に不十分である、それを補うためにつくったんだという、そういう趣旨に非常に反しておる。そのことを、これは聞く時間がありませんけれども、残念に思います。いずれにしても、われわれはどういう法令であろうとも、要は四日市のようなそういう公害がなくならなければならぬわけでありますし、そういうような問題についても、ひとつ法務省は検討していただきたい。そのことを要望しておきます。
 それから最後に、第五条の「当該排出のみによっても」というのは、ある場合とない場合とは結局同じだ、そういう局長の答弁ですけれども、これは結局あれでしょう。先ほどのように、四つの工場が出した、その物質によって人体に影響がある、そういうときには推定規定は適用されない。一つの企業だけがそれ以上の害を出している。先ほどの例では、一〇〇がリミットとすれば、一つの企業だけが一〇〇以上出している場合には、いわゆる推定規定で推定することができる。ところが、五〇以下の場合は推定できない。この「当該排出のみ」がなければ、五〇の場合でもこれは推定することはできる。そういうわけで、これははっきり違うんじゃないですかね。
#52
○政府委員(辻辰三郎君) その点につきましては先ほどお答え申し上げたとおりでございます。この五条が働きますのは、二条、三条の成立するかどうかという場合の因果関係の推定でございます。この五条によって犯罪が直接ストレートに成立するか成立しないかという問題ではないのでございまして、そこで先ほど来御議論のございました、いわゆる複合形態のものはこの二条、三条で犯罪にならない場合が大部分である、こういうふうに申し上げておるわけで、この五条の問題ではないわけでございます。五条は、先ほど申し上げましたように、「当該排出のみ」があるかどうかによって――法務省原案は最初からそういう趣旨でございましたが、かりにその「当該排出のみ」というものをなくした場合にはどうなるかという点については、それは意味が違ってまいりますということをお答え申し上げた次第でございます。
#53
○塩出啓典君 だから、結局そういう二条、三条の犯罪が成立するかどうかということは、その因果関係の立証の問題になるわけでしょう。そういうわけで、この推定できるということを加えたことは、ある程度のきちっとした科学的論拠がなくても、これはただ推定できるということなんですから。ところが、これは結局五〇、五〇、五〇、五〇で、二〇〇になった場合、そういう場合に、これは推定できないということは、絶対立証できないと、だからこれがあるために複合公害、集合汚染というものは絶対だめなんだ、そういうふうにぼくたちはすなおにこの条文を解釈してそう思うのです。その点はどうなんですか。
#54
○政府委員(辻辰三郎君) たいへん恐縮でございますが、何回も申し上げますが、二条、三条によって犯罪の成否がきまるわけでございます。で、この二条、三条を適用いたします場合、ある場合、この五条の要件がある場合には推定規定が働くということなんでございまして、この推定規定を適用する幅を、要件を定めたのが五条でございます。犯罪の成否はあくまで二条、三条の問題なんでございます。
#55
○塩出啓典君 じゃあ最後に、とにかくこれはあまりわからない。ぼくがいくら質問してもこれはもう結論出ぬようですから、これはまたあとで私もよく研究しますよ。刑事局長は、ともかく「当該排出のみ」があろうがなかろうが全然関係はない、犯罪の成否とかそういうものは。――字があるとないの違いはあるわけですけれども。ただ複合汚染、集合汚染というものに対する規制の問題について、これがあってもなくても何ら変更はないと、そのように判断していいわけですね。それだけ聞いておいて、質問を終わります。
#56
○政府委員(辻辰三郎君) この二条、三条の適用の問題が複合公害との関係で問題になるわけでございますから、このいわゆる複合公害との関係におきましては、五条の規定にこの「当該排出のみ」というものがあろうとなかろうとこれは関係がございません。
#57
○塩出啓典君 いま、何か条件をつけてから――ほかの点ではあってもなくてもと。複合汚染、集合汚染というものの規制という点について、四日市のような場合を考えた場合に、あってもなくても結局は同じなんだ、これがなくても結局そういう集合汚染、複合汚染にもこの法は適用されないのだと。ぼくは、これがなければ、そういう場合も推定規定を働かして基準以下であっても、結局犯意があれば、これは当然二条、三条にかかると、私はそういう考えなんですけれどもね。そういう点においては何ら変わりない、そういうことですね。イエスかノーかで言えば。
#58
○政府委員(辻辰三郎君) 複合公害に関しましては、この「当該排出のみ」があろうとなかろうと、本法の適用の問題は同じでございます。
#59
○小林武君 いま、せっかくやられたところですから、私もひとつそういう質問をするわけですけれども、先ほどからやっているから、もう質問についても聞かれるところ、問題になるところは済んだと思います。
 ただ、この法律の起案者としてあるいは起草者としてお尋ねしたいのは、少なくとも日本の工業地帯というようなものを頭の中に置いてやられたものかどうかという問題、私は、やられてないのではないかと思う。いわゆる法律家、法律専門家の頭の中で抽象化された法律を、文章をつくったという感じがするのですね。私はどうしてそういうことを言うかというと、いまの工業地帯というものは、いまあなたに説明するまでもなく、太平洋ベルト地帯と言われるようなものがだんだん延長していって、もういまや茨城県、さらに福島県にまで広がりつつある。そこには工場がたくさん乱立するくらいになっているのですよ。そういう場所であれば、いずれも公害にものすごく恐怖心を持つわけです。たとえば、鹿島工業地帯というものができた場合に、千葉県の私がよく行くいなか、利根川べりのいなかですが、あの鹿島工業地帯ができたということによって、そこに公害とまでは、ひどい公害だとは言われないけれども、非常なやっぱりその前ぶれのような状況が出ている。まだあそこは完成していないけれども、そういう状況が出ている。こういうふうに、工場がもう非常に密集すると、また企業としてはそういう形の中に分散させないで置くということが――企業としては必要に迫られてやるわけですけれども、当然それは起こり得る。そういう問題があるから、私は、公害の問題というのは、少なくともいまの日本で重大な問題だと、それは刑事罰をもって臨まなければならないほどの現状にとにかく到達した。到達したから、いわば伝家の宝刀か何か知らぬけれども、抜こうかという決意を出しておる。またこれをこのまま放置するということになれば、国民の健康、生命にまで及ぼすというはっきりした事実も日ごとに逼迫しているわけです。
 そういう場合に、先ほど来の御答弁聞いていると、対策としての一つの、政府のこれはもうどうしても避けて通ることのできないような公害防止という問題を避けている、複合的な公害に対しては、複合公害に対してはとにかくどうにもしようがないのだというようなことを先ほどから強調しているわけですよ。こういうことで一体どうなんですか、起案なされた方としてはほんとうに効果ある法律であるかどうかということをお考えになりますかどうですか。これでもってどんな実効をあげられるのですかということを、私はもう聞いているうちに、実際質問する意欲がなくなって、こんな法律に一生懸命反対、賛成やっても、結局きのうの参考人のように、ざる法で、できるなら通らぬほうがいいというような極端なあれも出てきた。
 それを私は、ここで少なくとも議論するというからには、各党が準備をして一生懸命やるというからには、少なくともこれはあなたにあれするわけじゃないけれども、法務大臣に言わしてもらえば、私は少なくとも知恵を出し合って最もりっぱな法律にするんだということの励みがなかったら、われわれ何もやる気はしなくなりますよ。国民の声を代表してこの場でよい法律をつくるんだという、欠陥があったらその欠陥を是正するんだ、そういうことがなかったら――そういう機能はもう国会というものは持っているわけですから、それなしにはこれはこれっきりですよ。先ほどから非常に微に入り細をうがった質問で、私は人の質問でも聞いているうちになるほどなるほどと思って聞いておった、実際問題として、あなたの終始一貫、答弁としては、まことにうまい答弁だと私も考えておったんですけれども、うまい、へたの問題ではないと思うんですよ。
 だから私は、あなたに聞きたいのは、案文を、この法律案を起草したあなたとしては、一体この複合異種の公害というものに対してほおかぶりしておっても公害問題は処理できると、こうお考えになっておるんですか どうですか。
#60
○政府委員(辻辰三郎君) 複合という問題でございますが、私は、なまで複合ということばを実は使っていないわけでございます。この複合と申しますのも、先ほどの例でいけば、一〇〇というものが生命、身体に危険な状態であるというふうにいたします。その場合に、五つのものが二〇、二〇、二〇という形で出していって、結果的に一〇〇というような場合、個々的なものにとっては、個個的なもの一つをとればこの生命、身体に危険は生じさせないが、それが集合して結果的に危険な状態になっておる。これを私は複合と、私だけかもしれませんが、複合形態と申しておるわけでございまして、一つで一〇〇の汚染をつくっておるものが、かりに三つ、四つあるということであれば、これはそれらはいずれもこの法案の対象になるわけでございます。そういう意味におきまして複合といいましても、これは単に数の問題ではないのでございまして、私どもの申し上げておる複合公害には、これは原則として適用ができない。適用がないというのはいま私が申し上げたような意味の複合でございます。
 それから第二点といたしまして、いわゆるこれは具体的な例を申し上げて恐縮でございますが、民事のほうで現在争われておりますいわゆる四大公害訴訟というものをお考えくださいましても、そのうち三つはいわゆる複合ではないケースでございます。そういうケースが現にあり、民事のほうでは争われているわけでございます。
 それからさらに刑事罰の問題でございますが、この法案につきましても、刑法総則というものが当然適用されるわけでございまして、その限りにおきましては共犯例、共犯に当たるものは共犯として処罰されるという余地があるわけでございます。法律の立案に当たりましては、事務的にはいろいろの点を考えて現時点の刑事法として、この公害に対処するには、この案がよいのではないか、よいというふうに考えておる次第でございます。
#61
○小林武君 いまの答弁は、私の質問に対するお答えではないと思うんです。その複合ということばを使うことは、それぞれ別であってもけっこうなんです。私は複合というのは集合でもいいんです、何であっても。結局、あなたは何かどこに重点を置いて考えているか知らないけれども、たくさんの工場のあるところに住んでいる住民が、たくさんの工場の林立しているところに公害が多いわけです。それが一つの工場であれば、さほどでもないということはありますよ。私は公害のことでは、鼻たれ小僧のころから見てきておったですがね。公害ということばは当時ないです。大きなパルプ工場があって、それで一本の川を完全に死の川にしている。いまでもその川は流れている。しかし、その当時、それを公害だなんて文句を言ったものもない。漁業の町であったけれども、漁業をやっておるものも、それに対してそれほど反駁したあれもない。しかし、いまや公害という問題を国民が口々に言って、とにかく、まごまごしておるというと生命の問題になる。命の問題になってきたということでこれは取り上げたのでしょう。われわれもまたそういう問題をみずからの問題として取り上げておる。
 そうしますと、これは受け取るほうの側の立場で言えば、それまでは片方が基準以下であろうがなんであろうが、みんな集まればそれは基準以上になるわけですから、そのことをどうするかということを言わなければならない。しかもその工場というものは分散をしなければならぬという一つのきまりも何もあるわけじゃないのですから、工場を分散させなければならぬということを言っておりますけれども、そういうことも一、二議論がされましても、現状はどうですか。京葉工業地帯に行ったら、あのきれいな千葉県もいまはそうではない。さらには京浜、阪神は言うに及ばないでありましょう。これは工場がたくさんそこに密集しておるのですから。そういうところがいまの法律の論法でいけば、何ら刑事罰の対象にならないということは、少なくともほんとうの意味の解決にはならないのではないかと、こうあなたに質問しておる。その際に、第三条を皆言ってもいいです、第五条全部ひっくるめて一この刑事法、この問題は刑事罰にしなければその手の打ちようがないということです。いまあなたが言ったけれども、四大裁判だとか何か公害裁判をやられて、その中にたった一つの工場のところもあるでしょう。問題はそれだけの問題じゃないのです。それだけの問題ならまだこれはやりようがある。きのう戒能さんのお話によると、何年前だと百五十万あれば処理できたということなんですけれども、これがいまは一つの問題ならたちまち解決すると思う。そういう工業地帯の現状というものを踏まえた場合には、いわゆるいろいろな異種複合的な公害というものに対処する法律がないということは、私は効力がほんとうにないのではないか。水俣病のあれについては、とにかくどうこうするといっても、それは適用されても、一番――一番というのは、受ける範囲の広さというようなものを考えた場合には、効力がないということになりませんか、そのことは念頭になかったのですか、どうですか、起草する場合に。そういうことですよ。
#62
○政府委員(辻辰三郎君) もとよりこの法案を起案いたします場合には、ただいま御指摘のような公害の実態というものを十分私どもの立場で検討したわけでございます。でございますが、先ほどお答え申し上げましたように、いわゆる複合形態というものが公害という結果をもたらしました。その結果に対する役割りと申しますか、寄与する度合いが違うわけでございます。結果的には公害現象が出ておりましても、どの工場がそれについてどれだけのそういう結果を出すのに役割りを果たしたかということが千差万別なのでございます。その千差万別というものを全く無視して、一様にこれを刑事法的につかまえて処罰をするということは、刑事法の本質から見てこれは妥当でないということなのでございます。やはり、いわゆる複合形態につきましては、それぞれの関係行政法規でもって、たとえば、排出基準をきめ、排出基準の違反については直罰方式なら直罰方式をとると、こういう形で関係行政が対処をすべきものであろうというふうに結論を得た次第でございます。
#63
○小林武君 どうも、法律というものも、結局私は、社会状態というものを無視してはあり得ないと思うのです。全く観念的な、抽象的な法律であるというと、それは法律家の研究のあれにはある程度よろしいかもしれませんけれども、われわれならば、むしろ生活の必要の中からのそういう法律でなければならぬと思うのですよ。解釈だってそうでなければならぬし、立法だってそうでなければならぬと思うのです。
 そういたしますと、私は逆なこと言うと――あなたの場合には、みんなが集まって起こす、ある人が個々の者を罰することはできないというようなことを言われるわけでしょう。私はそうでないのだね。私は、逆に言えば、企業というものは、一つの工業地帯をつくるということが、それは企業の利潤というものとつながりを持つのですよ。だからできるのですよ。私は、そういう企業の利益、利潤のために――言うならば、これから公害の問題に取り組むという場合には、そういう集合体であれば、共同の責任であれば、少なくとも企業はその改善にあたっても協力してやれるはずだと思うのです。そこに目を向けないということは――ここで議論するのは対策の問題なんですが、そういう方向に持っていくような法律をつくらぬでおくということは、私は少なくとも時宜に即しておらぬ、時代に即しておらぬと思うのですよ。これは大臣どうですか。
#64
○国務大臣(小林武治君) お話のようなことは私もよくわかります。わかるが、とにかく公害というものは、これはもう自然犯ですよと、こういう宣言をすることに非常な私も一つの大きな意味があると、こういうふうに思うのですね。いまお話のようなことも立法段階において十分討議をいたしたのでありまするが、とにかく公害は犯罪ですよと、こういうことを、変なことばで言えばまず発車をさせる。そういうふうに事態が迫っておると、こういう認識からこうこの法律ができた。しかしいま公害の実態になかなか合うような内容になっておらぬといういろいろの御意見は、私はやっぱりそういうところはあるということを言っておるのでありまして、これはまずとにかく出発をして、そうして、とりあえずそういうことを言うことによって、企業その他、また国民全体も、大きな反省というか、自粛、あるいは、これはなるほど公害は犯罪だというふうに、そうして被害者の立場に立つ人にとっても、一つの安心感とまではいかぬが、何かのやっぱり考え方が出る。
 要するに、私は、公害というものに対する国民全体の意識をここで変革してもらいたいというふうなことで出ておるのでございまして、私どもは、これが完ぺきだとか、十分だとかは初めから考えておりません。いろいろ国会で御指摘を受けた不十分な点は認めると、したがって、これからさらにそういういろいろの御意見を参酌して検討を進めなければならぬと、こういうふうな立場をとっておるのでありまして、その辺のところはひとつぜひ御了承を願いたい。私はあなたのおっしゃることも非常によくわかります。これで十分効果があげられるかといえば、私は、いろいろな機会において、いまのような不十分な点がいろいろございますと、これは今後の公害の態様なりあるいは社会通念なり、こういうものに従って改革を、改善をしていかなければなるまいと、こういうふうに私は申し上げておるのであります。
#65
○亀田得治君 まあ発言しないということで記者から叱責を受けておるので、一言……。
 たとえば、こういう場合はどうなりますか。この第二条が適用される危険性というのは一〇〇だといたしますね、数字的に一〇〇。これに対して工場が五軒かたまっていると。その場合に各工場が三〇ずつ出しておると、そうすると合計一五〇になるわけだ。しかもそういう場合に、これは同時に出せば一五〇になるのですがね、そのことをお互いに工場同士は知っておると。こういう場合には私は五軒とも第二条によって当然これは対象にできる。これは、刑法総則の共犯理論によって当然これは対象にできなければいかぬ。普通、何何をした者はという場合、この「者」というのは何も個人と限っておらぬわけですから、これはもう辻さんに言うのは釈迦に説法で、それは普通の傷害罪にしろ何にしろ、一人でやろうが、あるいは十人かたまったために一定の傷害が起きた、一人一人なら起こらなかったが、十人でやったためにこういう傷害が起きた。これは十人が全部一網打尽にやられるわけですね、共犯になって。私は、私がいま申し上げたような場合には、これは世間ではそういうような一種の複合ということばの中へ入れておりますがね。当然私は、全部をこの第二条によって取り締まりの対象にしなければいかぬと思う。法務省のほうはそういうものは考えておらぬのだとおっしゃったって、この法文を忠実に解釈し強く適用していこうと思えば、そういう場合には私は適用できるのだと思います。裁判所でも当然これは通る理論だと私は思うのです。もちろん一〇〇の場合に、きちんと五軒寄って、五軒が三〇ずつ出して合計一五〇と、こういうようなふうに計算がきちっと成り立つかどうか、現実の場合。これは私はもう捜査の内容の困難性というものはあり得ると思うのです。しかしそれは、捜査を一生懸命やればそういう事実をつかみ出すことは不可能じゃないと思います、事実があればですよ。一軒の工場でやっているよりも捜査のむずかしさはあるだろうと思うのです。それはもう、一般に多数の犯罪につきものであるわけでありましてね、そういうものは。だから私は、私がいま申し上げたことは否定されないと思うのですが、その点はどうでしょうか。
#66
○政府委員(辻辰三郎君) 先ほど来私は、この公害犯罪につきましても、刑法総則の共犯例の適用があることは当然であるというふうに申し上げたわけでございます。ただいま御指摘のそういう仮定論として申し上げますが、この三〇、三〇、三〇、三〇、三〇と、三〇が五つあって、一五〇つくって、その三〇それぞれに共同正犯、共犯というものが適用され得る実態があれば、それはいずれも共犯として処罰される、この法案の適用になるということでございます。お説のとおりでございます。
#67
○亀田得治君 そうなると、だいぶん複合犯罪というものを、いままで否定するような印象を世間一般に与えておるわけです。私が言い出すと、ややこしいもんですから静かにしていたわけですが、たとえば、この行政法規の場合ですよ。五軒なら五軒あれば、全体が一〇〇にならないようにということで、行政庁がやっぱり基準をきめるわけでしょう。その場合には、二〇というふうにやはり行政庁はきめてくると思うのです。全体が一〇〇にならぬようにするために。そういう行政法規の面からいいましても、その行政法規を守らしていくという面から見ても、やっぱりこの本法の第二条の適用というものは、捜査にむずかしい点はあるが、たくさん工場が集まっているところにはこれは適用がないんだ、そういうことではありませんよということを、もっと法務省ははっきり言う必要がありますよ。それは相当検事は苦労すると思いますがね。だから大臣、その点は一般に与えている印象は、特に財界などの諸君の発言等見ていると、だいぶん勘違いされているように私は思うのですがね。この委員会を通じてもう少しはっきりしておいてほしいと思います。そうしませんと、どこかから告訴が出てくる、法律の専門家が十分事態を検討して告訴等を出す、検察庁のほうは、なるほど理論的にはこれは取り上げ得る、しかし国会の審議の過程なりあるいは法務省の法案作成の過程において、ともかくこれは単独なやつだけなんだ、そのほかのやつはもうやらぬことになっているのだ。――こういうふうなことがありますとね。これはやはり検察庁は実際に起訴するかしないか、捜査に乗り出すかどうかという点について、やはり消極的になると思うのです、その点をはっきりしておかぬと。だからそういう意味で非常に誤解があるように思いますので、大臣この点、いま法律の解釈としては刑事局長は私がいま申し上げたとおりだと、こうおっしゃるわけですから、大臣ひとつはっきりとそのことを確認してほしいわけです。
#68
○国務大臣(小林武治君) これは法律の解釈なり適用なりの具体的な問題でございますから、専門家と申しますか、刑事局長の答弁を私がこれを承認する、こういうことになります。
#69
○委員長(阿部憲一君) ちょっと速記をとめて。
  〔速記中止〕
#70
○委員長(阿部憲一君) 速記を起こして。
 暫時休憩いたします。
  午後零時十四分休憩
     ―――――・―――――
  午後二時十九分開会
#71
○委員長(阿部憲一君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 委員の異動について御報告いたします。
 本日、井野碩哉君が委員を辞任され、その補欠として永野鎮雄君が選任されました。
    ―――――――――――――
#72
○委員長(阿部憲一君) 休憩前に引き続き質疑を行ないます。
 この際、小林法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。
#73
○国務大臣(小林武治君) 午前中の複合公害、こういうことについての御質疑に関しまして私からあらためてお答えを申し上げます。
 すなわち、複合公害というのを多数の工場または事業場からそれぞれ他とは無関係に有害物質が排出され、その結果として本法案にいう危険が生じた場合を定義する限り、共犯にあたる場合とはいえないので、そのような形態の複合公害については本法案の適用がない。その意味でいわゆる複合公害については通常本法案が適用されることはないと申したのでありますが、しかし理論的には本法案に定める罪についても刑法の共犯に関する規定の適用があることは申すまでもありません。したがって二つ以上の行為者につきまして共犯関係にあることが認められる場合には、本法案の罪についても共犯として処罰されることになるわけでございます。
#74
○委員長(阿部憲一君) 御質疑のある方は順次御発言を願います。
#75
○小林武君 前のときに一応質問をいたしまして、かなり説明の趣旨はよくわかったのでありますけれども、これについてもう一度お尋ねをしたいわけでございますが、第二条並びに三条の問題につきまして、さらには四条に関連いたしまして、まず最初に、二条並びに三条における「工場又は事業場における事業活動に伴って」というところがございますが、これは工場または事業場における事業――その場所において働いて事業活動を行なっているというのは、働いている労働者、こういう意味でございましょうか、これは。
#76
○政府委員(辻辰三郎君) 二条、三条にございます「工場又は事業場における事業活動に伴って」という意味でございますが、これは「工場または事業場の事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出し、」と、で、この事業活動に伴って排出しと、こういうふうに続く意味でございます。
#77
○小林武君 そこのところですがね、「伴って」という場合には、これは、この責任者というのは工場または事業場において事業活動を行なっている人をさすことになりますか、この表現ですと。
#78
○政府委員(辻辰三郎君) この「排出し、」の意味でございますが、これは昨日もお答え申したところでございますが、事業活動に伴って排出するという意味でございますので、この事業についての責任者、特に排出についての責任者が事業活動に伴って排出するという意味でございます。
#79
○小林武君 その意味は大体理解しておるのですけれども、そういうことになりますと、「工場又は事業場における事業活動に伴って」排出をするわけですから、そうしたら、その事業活動が行なわれていることによって排出されるわけですね。そうですね。そうすると、事の責任者ということになりますというと、いわゆる事業場、工場等における仕事に携わっている者のみを見るべきか、それとももっと広くその企業全体の事業活動もさしているのかという問題があるわけですが、そのことを聞いているわけです。
#80
○政府委員(辻辰三郎君) 事業活動に伴って排出しということは、この事業目的遂行のために必要な活動の随伴であると、こういう意味でございます。
#81
○小林武君 そこがどうも何というかな、法律の文章に慣れていないというのか、日本語というものは、わりあいに解釈のしかたでいろいろなとり方のできるような仕組みにあると私は思うのですがね。そうすると、これは私ばかりでなく、多くの人たちが、この二条、三条について、特定の、結局そこの事業活動の責任者とか労働者が一体処罰されるのではないか。事業全体を統括している人たちというのは、これはそこから免れるのじゃないか。責任者というものは、結局現場の人間に片寄るということになりはせぬかという不安があるわけですね。私はこの文章を見れば、こういう文章はかなりいろいろな意味が入っているのだと思いますが、「工場又は事業場における事業活動」ですから、工場、事業場のその活動の中で排出されている、その活動に従事をする者は何かといえば、われわれが考えるのは、事業場の所長とか工場長とかいうものを大体頭にして末端の機構まであるわけです。末端のいろいろな労働者まである。そうしますというと、ここから排出されるという一つの事柄は、これらの人たちの専任と決定されると、先ほど言った心配が出るわけでありますが、そこなんですね。そういう意味でないと――この間の局長の御答弁は、いやそうではなくしてもっと企業全体のことも考えられるような場合のこと、こういう一つのいまの企業の実態からいってそういうこともあるとおっしゃいましたが、確かめておかなければならぬと思うので質問するわけです。これはどういうことになりますか。
#82
○政府委員(辻辰三郎君) この点につきましては、しばしは申し上げておりますとおり、事業活動に伴って排出するということでございますから、もちろん事案によって――いろいろ排出者がだれであるかということは事案によって違ってくると思いますが、必ずしもその現場におる人に限るという意味ではございません。排出ということについての事業内における排出の責任者というのが、一般的にはこれに当たるという意味でございます。その意味におきまして、工場長であるとか、それに準ずるような人が通例一般的には当たると思うのでございますけれども、これがもっと上の管理部門との関係におきまして、やはりその組織内の事情によってそういう人と意思を通じて、あるいはそういう人の指令によって排出しておるというふうな事態であれば、これは先ほどの共犯理論でございますが、共犯と認められる限り、必ずしも現場に限らず、管理部門の方も当たる場合もあり得ると思うわけでございます。
#83
○小林武君 ここに故意犯ということになっている。故意犯といわれるというと、何といいますか、いまの工場における排出物ですね。排出というようなものが、一つの仕組みですね――排出ができなければだめなんですから。それは一つの大きな機械の系統の中に組み込まれた問題であって、これは個人が排出物を出したなんという、人間が出したなんというのと違うわけですね。そういう場合に、故意というような、故意にというような場合を、いまの近代的な、きわめて進歩した機械構造の中でどういうふうにとらえるのか。この点は皆さんがどうとらえるか。そういうふうに個人の故意なんというものが、ちょっと私には理解できないもんですからね。それについては、一体どういう現場のあれを考えて、想像されてみてこれをつくられたかということなんです。
#84
○政府委員(辻辰三郎君) この第二条における故意でございますが、これは一般の刑法の場合も同じでございます。これをただいま御指摘の排出についての故意というふうにしぼって申し上げますと、排出することを認識しながらということでございます。これはやはり刑事法の理論といたしまして、まず行為者というものを中心に考えまして、この場合には排出者がだれになるかどうかという点はただいま申し上げたとおりでございますが、その排出者が排出するということを認識して、知って出すというのが故意でございます。
#85
○小林武君 まあ刑法上で言えば、これは犯意といわれるようなもんでしょうね。だから明らかにこれは犯意を抱いて排出をやる。明らかにこれは人体についての健康を害し、ときによっては生命ともいうようなことを考えてやるわけですね。ところが、私はひとつこの法律案の出たときに、ひっかかるのは、零細企業ではないかというような――中小といっても、まあ範囲が広いわけですけれども、中小企業、零細企業が多いのではないかということは想像できるんですよ。その工場の規模、それから排出物というようなものが、きわめて不十分な管理のもとに行なわれていることはわかる。それに反して、たとえば、まあ例をあげれば、大きなパルプ工場、製紙工場というものだというと、もう製造過程を通して一つのセットになっているわけですね。それが流れ作業でもってもうほとんど製造のあれもできるし、排出するものもそこにある。そういうことになりますと、そこに一人の個人の、そこの現場にいる者の故意というようなものがどの程度働きかけられるものなのかどうかということなんです。だから、私は、いまのように非常に整備された――一つの人間の力よりかも、むしろ人間がある程度計器等を通していくというような、そういう製造工程の中では、これはちょっとあまり考えられない。しかし特に何かそのあれをこわして、直接それがたれ流しになるようなやり方をやったとすれば、これは故意となるかもしらぬけれども、ちょっとそれは想像のつかないところである。企業の一つの、もうそういうまとまったあれからだというと、それは現場の中の一個人の故意ということは案外少ないのじゃないかと、こう判断するのですが、この点は一体どうお考えになっているのでしょう。
#86
○政府委員(辻辰三郎君) この排出でございますが、これはただいまも御指摘のように、たとえば大きい工場であるという場合には、当然排出の設備があろうと思います。こういう排出の設備というか、機構を通じて排出しておるという、しかも、こういう通常の業務の過程で自分の設備を、こういう機構を通して排出しておるということを知っておればここにこういう排出の故意があると、こういうことでございます。
#87
○小林武君 そうすれば、私が前回の質問でいたしました、むしろ近代化した大工場、オートメ化した工場などというようなものの場合においては、責任は、そういう整備された工場であればあるほど、これは責任者というのが一事業場や工場に席を置く者ということよりも、企業のトップクラスのところに責任があると私は判断するんです。そういう理解はできませんか。
#88
○政府委員(辻辰三郎君) この点も昨日申し上げたとおりでございまして、一つの事業として事業活動に伴う排出ということについての計画、それから決定というものがどういう組織体の方々によって計画、決定されたかということがやはりこの排出者をきめる上に重要な要素になってくると思うのでございます。
#89
○小林武君 過失の場合においても、私は先ほど申し上げましたが、機械を扱っている現場の者が、何かのあやまちでそういうことをやったということはあり得ても、これは大きな工場にはそういうことはあんまりあり得ないのではないか、こう判断しますと、その場合において、両罰ということ、両罰規定というものが、結局大企業の場合において、大工場の場合においては法人あるいはその法人の最高責任者というような者、結局は、そこの責任に集中していくということになってきはしないかと思うのですが、それはどうでしょう。
#90
○政府委員(辻辰三郎君) お説のような、かりに大企業で、その排出ということを、会社の非常に上の業務担当の重役なら重役がこの排出行為について計画、決定をしてこの法律にいう排出行為者という認定ができます場合には、その方が排出行為者として、まず二条、三条によって処罰をされる。そうしておきましてさらに四条によってその法人すなわち会社そのものもまた処罰をされると、こういう仕組みになっておるわけでございます。
#91
○小林武君 普通の株式会社の組織の中において、いまのような例の場合においては、担当の重役というものがその責任を、たとえばその工場を担当するそういう施設についての責任をとる取締役とかいうような者があれですか、それとも社長、代表取締役というようなものがそれが責任を負うものなのか、法的にはどういうことになりますか。
#92
○政府委員(辻辰三郎君) これは何回も申し上げておりますように、事実関係いかんによって異なってくるわけでございます。
 そこで、その事業に伴う排出というもののその行為者はだれかという認定の問題でございまして、それで先ほど御設例になりましたような、かりにその排出の設備を企画し、そしてこういう方法でこういうものを排出するということを自主的に決定し、それを実行せしめた人があるとすればその人がこの排出行為者としての刑事責任を負うわけでございます。その人が事案によっては取締役の場合もございましょうし、社長の場合もございましょうし、あるいは工場長の場合もございましょうし、これは事案によるわけであろうと思うわけでございます。
#93
○小林武君 その場合はどうなんですか。たとえば、そういうような直接の責任者というものが会社の中においてきめられておる。しかしそのことを少なくとも認め、こういうシステムの製造過程の中で、これはわが社にとっては、こういうことでいくべきだということを決定するわけですからね、それは。その場合に、どこが一体主たる責任者になるかということ、そして、これはあなたの説明を納得したとしても、それに同調した、同調したといいますか、認めました会社幹部というものは共犯になりますか、どういうことになりますか。
#94
○政府委員(辻辰三郎君) これ、まさしくこの一般の刑法の共犯例によるわけでございます。個々の排出者という場合、必ずしもこれは一人に限ったわけじゃございません。共犯関係が認められる限り、その共犯者全部がこの排出者としての刑事責任を負うわけでございます。これはやはりそれぞれの事案によって異なってくると思うのでございます。
#95
○小林武君 共犯の関係というのはたいへん複雑だということをちょっと聞きましたけれども、それは必ずしも一人のものがなるというわけではないわけですね。その個々の問題について考えられる。私はこの両罰規定というものが世上で何か心配されておるような、この現場の人たちだけにしわ寄せの来るような時代は、もうすでに日本の工業自体がそれに適当だと思われないほど変わってきている、そういう認識を私は持ってもらいたいという気持ちを、これは法律論ではありません。私どもは、きわめて現場に即したものの考え方としてお持ちにならなければならないのではないかと、それがないから、新聞にもそういうことが出ますし、それからまた各政党の中にそういうことのないようにというような附帯決議も用意されたりしたという事実もあるわけですから、だから、その点についてお尋ねをしたわけです。
 そこでもう一つ、毎度これは質問されたことでございますが、きょうは法制審議会ですか、審議会の中で「当該」ということばについての問題が出ました。私は非常に不勉強でございますけれども、新聞でこれ記事を見たのですけれども、法務省原案というのは、危険のおそれあるという「おそれ」というのがついておったのですが、原案はそれで間違いなかったのですか。原案といいますか、法務省でつくった案ですね、それを原案というかどうかわかりませんけれども、それはどうですか。
#96
○政府委員(辻辰三郎君) これは法務省が法律案要綱として法制審議会に諮問されました、その当時の法律案要綱には、この「公衆の生命又は身体に危険を及ぼすおそれ」という文言がございました。これは当初案でございます。
#97
○小林武君 それで、法制審議会というのは何日に行なわれたわけですか。
#98
○政府委員(辻辰三郎君) 法律案要綱が法制審議会に諮問されましたのは十月の十七日でございます。
#99
○小林武君 私ども社会党でありますというと、野党でございますから、議員提案をいたします場合に、一つの手続があるわけですね。議員提案を了いたしたいと思う場合には、とにかく要綱というようなものをやはりつくります。これはしろうとながら要綱のようなものをつくって、そうしてまず部会を開く、部会の中で検討をして、それで大体この要綱でよかろうということ。そうしますというと、政策審議会にそれを持ち込む。政策審議会で大体これが認められるということになりますと、今度はいよいよ法律をつくるという作業にとりかかって、法制局その他の知恵を借りて、法律として体をなすようなものをつくるということになるわけです。で、政策審議会で具体的な法律案が認められれば、あとは大体それで、これは党の一つの議員提案として出してよろしいということになるわけですが、与党の場合は、議員提案というより政府提案ばかりが多いように思うのですが、あなたたちのいまの要綱は、法制審議会にかけたという。前に、私が聞いたのでは、十三日に法務部会にかかった、自民党の。これはそういうことが事実あるわけですが、これは当然だと思うのですよ。各省で一つの案ができた。法務部会にかかる。法務部会にかかった何か法律案というものは、総務会のあれを経なければならないというのですが、その法務部会は十三日というから、いまの日にちからいうと、まあ十三日というのは、新聞に出ていたのですけれども、十七日だということなんですが、その法務部会における際の、いま私の聞いている「おそれ」というやつは、その場合にはどういうあれがあったのですか。
#100
○政府委員(辻辰三郎君) 法制審議会に法務大臣から諮問されましたのが十月十七日でございますが、これはこの法律案要綱として諮問があったわけでございます。ただいま御指摘の、自由民主党の法務部会というのは、ちょっと日が私、ただいまははっきりいたしませんが、十月の中旬であったと思うのでございますが、そのときには、ほかの案件とも、ほとんどの案件とも、一緒に法務省では公害罪法案というものを考えておるようだが、どういう考えなのだというような考え方を御聴取になったと記憶いたしておりまして、その当時はまだ要綱としてでき上がっていなかった段階でございます。
#101
○小林武君 そうすると、まああれですか、政府と与党はこれは一体的になっているということは、内部の事情はよく知りませんけれども、私がいままで関係した委員会等ですというと、大体われわれのようなよその党の者でも、一つの法律案として出るまでの仕組みはわかっているつもりです。そうすると、その「おそれ」というのは、どこで消えてなくなったのですか。
#102
○政府委員(辻辰三郎君) 政府案の確定が十一月三十日でございます。政府案の確定後、特に「おそれ」というものがなくなって、この御審議を願っております「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた、」こういう文言になったわけでございます。
#103
○小林武君 ちょっと聞こえなかったけれども、ただいまの「おそれ」がなくなった、「おそれ」が削除された、結局原案から消えていった時期というのは、何というか、どういう打ち合わせとか、一つの法案の取りまとめの段階でやられたか、そのときの機関になるものは、どういう機関でやるのかということを聞いているわけです。
#104
○政府委員(辻辰三郎君) 法務省で最終案が、法務省案がきまったわけでございます。
#105
○小林武君 その「おそれ」を取ったわけですか。
#106
○政府委員(辻辰三郎君) さようでございます。
#107
○小林武君 それは法務省は、たとえば与党、その他与党のしかるべき機関にかけて、そうしてその機関の意見を入れて、そうしてやったということになりますか。
#108
○政府委員(辻辰三郎君) 最終的に法務大臣の御決裁で法務省案が確定したわけでございます。
#109
○小林武君 質問に答えておらないのですね、あなた。私が言うのは、これは最終的には法務大臣の決裁けっこうです。しかしその間に当初は危険のおそれという「おそれ」を持っておったものがなくなったという、そういう結論を導き出しておるのには、それは与党のしかるべき機関からの意見というものもこれは当然出る、政府、与党は一体のものですからね。そういうものがあったのかどうかということ、そしてその意見をいろいろ聴取して、その上について最終的に法務大臣が決裁をなさったということは、これはよくわかる。だから、その間にそういう意見が与党側から述べられた、どういう機関から述べられたと、そのことによって結論が出たと、そういうことになるのかどうか。
#110
○政府委員(辻辰三郎君) この法制審議会の答申がございましてから、いろいろとこの法案を提出する作業がございますが、その途中、もちろんこれは与党の御意見も聞くわけでございますし、内閣法制局というほうにも意見を聞くわけでございます。いろいろ法案の通常の手続がございますが、そういう過程におきまして、この「危険を及ぼすおそれのある状態」というのは適用の範囲が広くなり過ぎるんじゃないかというふうな危惧の声があったわけでございます。で、私どもはその点は反省をいたしておったわけでございますが、時を同じくいたしまして、この公害関係のほかの十三法案でございますか――がそれぞれ提案の準備がされておったわけでございます。で、私どもはこの法案の罰則――各行政法規の罰則もそうでございますが、その罰則の審議は私ども法務省の刑事局で関係各省の御相談を受けることになっております。それと時を同じくしたわけでございますが、この大気汚染防止法の一部改正法案であるとか、あるいは水質汚濁法案のこの罰則をつけるという問題に際しまして、新たに大気と水質につきましては、基準をこえて排出したこのこと自体を今回は処罰をするということが政府の方針としてきまったわけでございます。で、これは大気も水質もそれぞれ排出基準をこえて排出したこと、そのこと自体をもって故意犯の場合には、懲役六月以下または罰金十万円以下、過失犯の場合には禁錮三月以下、罰金五万円以下という罰則が政府案としてはっけられることが確定いたしたわけでございます。そういたしますと、この「危険を及ぼすおそれのある状態」というのは、これは相当実際に公衆の生命、身体に危害が生ずる前の段階で処罰をするという考え方からそういう案がでてきたわけでございますけれども、片や関係の行政法規のほうでそれよりもなお前の段階である排出自体、排出基準をこえた排出自体を直接処罰するという罰則が設けられることが確定したわけでございまして、そういうことであれば、この一部の広きにわたるんじゃないかという危惧する声もございますので、それならばこちらの直罰方式がとられるならばこれはあえて「危険を及ぼすおそれのある状態」というものを刑罰法規として入れることは、これは必要性がきわめて乏しくなるという判断に達したわけでございます。さようなわけで、この政府原案にございます「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた」という文言になったわけでございまして、この場合といえどもなお現実に被害が発生する前の段階をとらえておることはこれは申し上げるまでもございません。
#111
○小林武君 ちょっと意外だと思いましたことは、そういう「おそれ」というものをとるべきだという意見に対して、あなたがいま反省をしたということばがございますけれども、私はこれはちょっとそういう場合に反省ということばがあるものなのかどうか。それは、間違いがあって反省したというようなことは、あるいは不勉強で反省したとかいうようなことはこれはあってしかるべきだと思いますけれども、私はいまの公害の現状を見ますときに、そんな反省する必要は私はないと思うのですよ。しかし、あなたのお立場で、どこまでも自説をどうするとか、それからあるいは法務省の内部でも自説を固持していくためにはしなきゃいけないというようなこともそれはよくわかりますし、それからまた政党というものが、与党というものがそういう場合にどういう発言の力があるのかということも知っている。それは政治をやっているものですからみんなわかっている。しかしながら、反省するという筋合いのものではないのじゃないかと私は思うんです。それは何か事態があまり深刻でないときのことならばたいしたことはないけれども、ここまできたときに反省ということばは、ことばじりをつかまえるようですけれども私はちょっといただけない御発言だと思う。それで、これは「おそれ」をとっても、結局とらないこととたいした変わりのないという答弁をいままでなさっていますね。しかし、このことによって有害物の排出をするということだけでは罪にならない、先ほど言った一つの基準があって、基準に接近しても、それがその数値に達しない場合においては、これを起訴したりすることはできないのだという御発言、ずいぶん再々やられたのですね。そういうことになると、これはあれじゃないか、きのうも法律の専門家がざる法だと言ったことのやはり批判はこういうところにもあると思うのでありますが、こういう点についてはあれですか、つけたことを反省するだけで、将来に対して問題を残すのではないかという、公害を食いとめるという立場でではありませんか、どうですか。
#112
○政府委員(辻辰三郎君) ただいま申しあげましたように、この排出基準違反の排出を処罰することになりましたので、その関係におきましてこの「おそれ」が削除されたといたしましても何ら支障はないと考えております。
#113
○小林武君 何らですか。じゃその何らの理由はどこですか。私は何ら心配ないということのあれは、その「おそれ」があった場合と、 ない場合と、――これは何ですか、専門語で言えば何と言うのですか、そういうあれは。危殆犯という中に入るわけですか、そういう「おそれ」のある場合は。これは抽象的危殆犯ですか、逆ですか、具体的危殆犯、どっちなんですか。
#114
○政府委員(辻辰三郎君) この政府原案にございます「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた」というのは、これは危険犯でございます、具体的危険犯でございます。それから法務省の当初案にございました、「公衆の生命又は身体に危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせた」というのも危険犯でございます。これまた私どもは具体的な危険犯というふうに理解をいたしております。
#115
○小林武君 抽象的危険犯あるいは危殆犯というのは、それはどういうものですか。
#116
○政府委員(辻辰三郎君) これは危険犯といいますのは、一つの実害が発生していない場合を、一つのある状態をつかまえて処罰の対象にする−危険発生の可能性がある、実害発生の可能性があるという段階で、この処罰の対象にするのがこの危険犯でございます。で、この法案にございますように、「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた」というのは、これは一つの公衆の生命、身体に傷害を与える可能性があるという状態でございまして、その意味におきまして、具体的な危険犯と、こういうふうに申しておるわけでございます。これに反しまして、たとえば抽象的危険犯ということになりますと、一番わかりやすい例といたしますと、たとえば道路交通法なんかにございますスピード違反でございます。スピード違反を処罰の対象にいたしておるわけでございますが、要するに、制限を越えてスピードを出して自動車を運転するということは、これはやはり人を傷つけるという可能性はきわめて強いわけでございます。具体的にどの人に対する傷害を与えるというんじゃなしに、スピード違反そのものが、それ自体でこれがもう人の生命、身体に危険を及ぼすおそれがあるという意味で、スピード違反そのものを、もうこれは結局のところ人に対する危険なことであるという意味で、スピード違反なんかを、これはいわば抽象的危険犯という面からとらえることができると思うのでございます。
#117
○小林武君 もともと危殆犯とか危険犯とかいうのは、構成要件が、法益の侵害の結果を要求しないということにあるとすれば、まあこれは何といいますか、実際上そこに問題が起こっていないということだと思うのでありますが、われわれのことばで言えば、しかしそのおそれがあるということになると、その二つの中に、具体的危険犯と抽象的危険犯というその二つは、「おそれ」をとったことによって分かれたとしたら、どっちのほうが、公害を守るという立場からいえば有効であるか、ということになると、これはどうですか。大した違いがないということになりますか。
#118
○政府委員(辻辰三郎君) この公衆の生命、身体に傷害といいますか、実害が発生するという段階が、この実害発生でございますが、それの可能性のあるのがここの法案にいう、公衆の生命または身体に危険を生ぜしめるという意味で、一つの具体的な危険犯でございます。この当初案にございました、「公衆の生命又は身体に危険を及ぼすおそれのある状態」というのは、公衆の生命または身体に危険を生ぜしめる、そのまた危険といいますか、そのおそれと、こういう意味でございます。いずれもこれは具体的な危険犯でございます。
 しかし人の具体的に公衆の生命または身体に対する実害と申しますか、傷害というものとの関連におきましては、「及ぼすおそれのある状態」というほうが距離が遠いということでございます。その意味においては、具体的な、公衆の生命または身体に対する傷害という関係においては、おそれのほうがずっと前段階のほうでつかまえるということになるわけでございますが、それは先ほども繰り返し申し上げましたように、片や今回は、大気や水質については、もう排出基準違反そのものを処罰するということに相なったわけでございますから、その段階で排出基準違反の排出を処罰するという、そういうことになりますと、そうすると、この危険というところまで刑事犯の、この法案の処罰の対象にすることは必ずしも妥当でないと、こういうことを申し上げておるわけでございます。
#119
○小林武君 そうすると具体的に言って、先ほどは道路交通法か何かスピードの話が出ましたけれども、排出ということだけを言った場合には、その場合には、「おそれ」のついている場合と、「おそれ」を取り除いた場合とでは、具体的にはどういうことになりますか、排出ということについてそれを言えば。
#120
○政府委員(辻辰三郎君) 御質問の意味をあるいは取り違えておるかもしれませんけれども……。
#121
○小林武君 私がもう一ぺん言います。
 いまあなたのおっしゃるのは、実際においてもう危険が起こって病気になってどうなったということじゃないのですね、この場合。そういうものでないのが危険犯、そうでしょう。しかし、その危険犯の中にも二色ある。具体的なものと抽象的なものというのがあるでしょう。この場合は、抽象的でない、両方とも具体的だとおっしゃるけれども、私はまあその二つのあれが考えられるんじゃないかと思うのです。そうすると、「おそれ」をとった場合は、先ほども説明ありましたが一とった場合よりかもとらない場合のほうが、もっとその前の段階で取り締まりとか、いろいろなことをやるということですわね、そうでしょう。もっとその前の段階でそれについて何というか取り締まるというか、罪を犯すというか、そういうことになるわけじゃないですか。それは違いますか、ぼくの質問は。
#122
○政府委員(辻辰三郎君) さようでございます。距離が遠いと申し上げましたのは、そういうことでございます。
#123
○小林武君 それを、そうしますと、これは私は、平生ものを言ったりするときには、そんなやかましいことを言っているわけじゃありませんけれども、これはこういう問題ですから、あなたのほうでは法律的な立場で、専門的な立場でおしゃるから言うんだけれども、その場合には、排出という具体的な問題をとらまえた場合、この一つの立場は一とった、とらない二つの立場は、排出という事態を見た場合には、どういうことになりますか。どうやった場合が、とった場合で、どうなった場合にはとらない場合か、そのことを言うのです。
#124
○政府委員(辻辰三郎君) これは法文にもございますように、「工場または事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出し、公衆の生命」云々と、こういうことでございます。排出して危険を生ぜしめたとか、あるいは排出して危険を及ぼすおそれのある状態を生ぜさした、こうずっと続くわけでございますので、排出そのものとは直接関係がないわけでございます。
#125
○小林武君 排出のしかたはあるでしょう。たとえば排出した――全然排出しないということはない。たとえば基準基準ということばがさっきから出るけれども、身体、健康に影響を及ぼすようか基準というものがあると、こういうのでしょう。その基準をこえないものは何でもないというのでしょう、そうでしょう。何でもないとは言わないけれども、先ほど来一生、米を食べても大丈夫がという話もあったけれども、ここまでは大丈夫だという基準があって、基準をこすというとえらいことになる。そうすると危険があるというやつは、基準をこしたことになりますか。そうすると、どうですか、危険があるというのは。
#126
○政府委員(辻辰三郎君) 私が先ほどから申し上げております排出基準をこえるとか、こう言っておりますが、この排出基準と申しますのは、これは個々の排出ごとに、公害対策基本法にございます環境基準、こういうものを前提にいたしまして、そして個々の排出ごとにこの排出についての排出の基準は幾らであるというふうに定めるわけでございます。その場合には、たくさんの排出が工場なら工場からあるわけでございますから、そそういうたくさんの工場がそれぞれ排出しても、その排出の基準内であれば、これは絶対に大丈夫であるということを前提にして、非常に安全度を高く見まして個々の基準というものがつくられておるわけでございます。そして、今回は、その具体的な排出基準をこえて排出したということについても処罰するように、今度、法律の改正案が審議されておるわけでございます。そこでこの法案にいいます、「公衆の生命又は身体の危険」を生ぜしめるというのは、この排出基準というものを、たいへんに安全度をみて、かつ多数のといいますか、多くの排出というものを前提にして定められておりますので、通常の場合、この排出基準をこえたということをもって直ちにこの法案にいいます「公衆の生命又は身体に危険を生ぜしめる」ということはあり得ないというふうに考えておるわけでございます。
#127
○小林武君 それじゃ、「おそれのある場合」というのは何ですか、「危険」というのは一体何をもって危険というわけですか。
#128
○政府委員(辻辰三郎君) 公衆の生命、身体に障害を与える可能性ということでございます。
#129
○小林武君 それは、「おそれ」といったら、その前だと言うが、それはどういうことですか。
#130
○政府委員(辻辰三郎君) 公衆の生命、身体に危険を生ぜしめる、障害を与える可能性のある状態、可能な状態、この現出する可能性のある状態でございます。
#131
○小林武君 これはいろいろ御意見承っておりますけれども、なかなか十分に納得したとは申されません、正直言って。しかし、それは私一個人が納得しないとか、するとかいう問題で言っているわけではありませんで、だれもが議論すると、やはり公害のおそろしさというものは身にしみておりますから、これは国民全体の大きな問題として考えた場合、この法律が一体どのくらい有効適切に働くかということは国民は注目しているわけですね。それからわれわれも、その法律ができるということについて参加するわけですから、どういう一体法律をうまく生まれさせるかということについて責任の一端を持っているものとして、国民の立場から、よりよいものということになりますというと、どういう御説明をいただいてもこの法律には幾多のやはり問題点がある。いまの点もそれが一つです。ざる法であるとか、でくの坊であるとかいう、そういう御意見もこざいましたが、それは単なる私は悪口ではないと思う。ざる法でも置けばいいという、そういうなまぬるい状況にはないということをよくあらわした表現だと思いますが、まずこれ以上やっても、大体もうあなたとの質疑のあれは新しいものが出そうもありませんので……。
 法務大臣に申し上げますが、この際どうでしょうか、よりよいものを出すということは、一つの政党がどうだとかこうだとかいう問題じゃない。社会党がそういうことを要望したから社会党がどうだということでもない。日本の国民、日本の国の問題として考えた場合には、ここらでひとつどんと踏み切って、いろいろな意見を取り入れてこの法律案をもっとよいものにするという御決意はございませんか。
#132
○国務大臣(小林武治君) 私どもは、いまの段階においては、これでいくことがよろしい。しかし、これは公害についてもいろいろなこれから態様、新しい種類、また世間のこれに対する通念というものもだんだんまた変わってくる。こういうふうに思いますから、この法律が私は十分なものと思わないが、この段階においてはこれでまいって、次の、将来において皆さんの意見をまた参考にして私は改善をしていくと、こういうふうな考え方をいたしております。
#133
○小林武君 納得はいたしませんし、一番国会として取るべき手だてというのは、政府にしろ、与党にしろ、野党にしろ、最良のものをつくって国民に安心を与えるというその考え方は、私は絶対変わりません。変わりませんけれども、私の質問はこれで終わります。
#134
○山高しげり君 もうだいぶいろいろな問題が出つくしたみたいでございますが、全くしろうとの立場から二、三お聞きしたいと思います。
 一番初めに伺いたいのは、この法律案の名称でございますけれども、その中で、「人の健康に係る」と、この健康という字でございますけれども、先ほど来いろいろな御説明を聞いておりますと、それが生命と置きかえられてもいいような、あるいはそういうことばで表現をなさったときもあったように思います。それから、その健康ということば、これは普通の人が解釈をいたしますのと、法律的に解釈をいたしますのと多少違うような感じもいたします。この場合は、むしろろ「生命の危険にかかわる」と言うほうがよっぽど間違いがないような気もいたしますけれども。御説明のことばの中にも、身体を障害するというような御表現がたびたび出ておるようでございますけれども、「健康に係る」と、「健康」ということばをぜひ使わなければならないのか、なぜ「生命」と表現をしてはいけないか、その辺の御説明をいただきとうございます。
#135
○政府委員(辻辰三郎君) この法案の題名の「人の健康に係る」という点でございますが、これは、公害対策基本法の第二条に公害の定義規定がございます。そういたしまして、「大気の汚染、水質の汚濁、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることをいう。」ということで、公害対策基本法では、この公害を、人の健康にかかわるものと生活環境にかかわるものと二つに大別いたしておるわけでございます。今回の法案におきましては、公害のうちで生活環境にかかわる公害というほうは、この法案の適用対象にならないという意味を明らかにいたしますために、この公害対策基本法との関係、主としてこの関係におきまして、人の健康に係る公害犯罪という題名をつけた次第でございます。
#136
○山高しげり君 結局、国民というものは、法律を知らない人のほうが多いのでございまして、いま御説明のように、公害対策基本法に、健康と生活環境と二つが含まれているけれども、この際この法律においては、その前半の健康だけに限ったと、御説明よくわかりましたけれども、一般の国民が受け取るところでは、ごく常識的に健康ということばを受け取るだろうと思います。そういたしますというと、ずっと皆さま方の御質問にも出てまいりましたけれども、生活環境の公害からも健康を害するということが幾らもございますので、その点でこれは公害対策基本法に問題があるのだとは思いますけれども、まあいまここで公中黒法、いわゆる公害罪法ができるかできないかと、これは国民は非常な関心をもって見ておりますし、ある意味で相当期待も大きいように私は感じておりますけれども、その場合に、生活環境からくる公害は含まないと――片一方取ってしまったときに残る健康ということばからまいります印象は、あらゆる健康が害される場合、こういうふうに受け取る人が多いと思うのです。
 そこで、それでは次のところを伺いたいのですが、こういう事例があるのでございますけれども、これはほんとうにあった事例でございますけれども、東京で一人の主婦が長い間の地下鉄工車の騒音でこれは全く健康を害しております。そういう場合、この法律は該当しないのでございますね。そこを御説明願いたいと思います。
#137
○政府委員(辻辰三郎君) この法案において処罰の対象となります行為の基本類型は、二条、三条にございますように、「工場又は事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出し、公衆の生命又は身体に危険を生ぜしめた」ということがございます。これを故意でやったのが二条であり、過失の場合が三条でございまして、いまの御設例の地下鉄工事の騒音といいます場合には、この「人の健康を害する物質」を排出していないという意味におきまして、この法案の対象にはならないというふうに考えます。
#138
○山高しげり君 私はしろうとですと最初に申し上げておりまして、一般の国民の気持ちというか、国民が持っている質問を代弁をしているつもりでございますけれども、こういう題目の法律を、題目だけを見たときには、その主婦が、私のその健康を害した騒音もなぜこの法律で罰してくれないかと、こういうたいへん素朴な質問を持ってくるわけでございますけれども、そのときに、いまの御説明のように、その健康を害する物質を排出しないからと、――まあいろいろな公害のもとがございますけれども、なぜ今度はこれだけにお限りになったかと、そこのところをしろうとにわかるようにおっしゃってください。
#139
○政府委員(辻辰三郎君) 先ほど、この法案の対象はこの公害対策基本法にいう公害のうちで健康にかかわるものをまず取り上げまして、しかもそのうちで、この二条、三条の要件に該当するものがこの処罰の対象になるわけでございます。で、生活環境にかかわる公害というものについて、これを刑事罰の対象にするかどうかという問題なんでございますけれども、これはいろいろ態様がございます。生活環境にかかわる公害というものは態様が千差万別でございまして、これに対して刑事的な評価をするという場合に非常に違いがあり、態様に多様性があり、これを一つのまとめた処罰の対象として持ってくることは、実質的な必要性というものがあまりにこういろんな形がありまして、そういう意味で対象になりにくい。それから何と言いましても公害のうちで人の健康にかかわるものがやはり科罰的要素が非常に強いわけでございます。生活環境のものは直接刑事罰の対象とすることは、先ほど申しましたような点もございますし、もともと科罰的評価という点において人の健康にかかわるものよりもずっと少ないのが通例であろうという考え方から、この法案におきましては人の健康にかかわる公害を対象とした次第でございます。
#140
○山高しげり君 幾らお聞きしましても、局長の言われます「人の健康に係る」というのには、あなたのおつむの中に、きちっとはまっておるものがあるようでございますね。しかし一般の人はそんなにはっきりはしておりません。何でも自分の健康を害されたら、それは害されたという意識、認識でおりますから、騒音でもってノイローゼになった、それも健康にかかわるじゃないか、こういうわけでございますから。あるいはいままでのあなたのお話は、公害対策基本法の、「人の健康に係る」というそのワクだけでお取り扱いになるというのでございましょう。そうでございましょう。とすれば、どうしてもこの題目では、それは一般の人にはわかりませんですね。まあ何もこの法律に限らない。数限りなくある日本の法律が題目だけ見て一般の国民にわかるはずがないほど国民の意識とはかけ離れて立法というものは行なわれているような実感を私は持っております。今度の場合は、公害問題がやかましいだけに、国民は非常にその解決を望んでいるだけに、自分たちの希望的解釈でこれに臨んでくる。そうすると、その結果は期待が大きいだけにこれらの内容を見、またいろいろ御説明のことなどを聞けばたいへん落胆をするだろう。何だ、こんなものならないほうがいいのじゃないか、こういうような実感をどうも呼び起こしそうなものでございますから、先ほど来繰り返されていることでございますけれども、お聞きをしているわけでございます。
 そうすると、二と三以外に当てはまるものはなぜ取り扱えないか。たいへんに千差万別でまとめにくい、それじゃあまとめやすいものだけをお取り上げになるのか、扱いやすいものだけをこの際お取り上げになるのか。そしてまだいろいろあるけれど、それはさっきの大臣のおことばにあったように、これからまただんだんやっていくのだと、こういう意味でございますか。
#141
○政府委員(辻辰三郎君) この法案の第一条に規定されておりますように、「この法律は、事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさせる行為等を処罰することにより、公害の防止に関する他の法令に基づく規制と相まって人の健康に係る公害の防止に資することを目的とする。」ということでございまして、この公害防止に関する他の行政法規というもののこの存在といいますか、存在とそれとの調和というものを前提にしてこの法案ができておる仕組みでございます。
 そこで、そのいままで御指摘のもろもろの公害というものにつきましては、行政法令のほうで規制をし、またその必要な場合には、規制違反に対して罰則をつけておるということで、この公害の防止をはかっておるわけでございます。この法案におきましては、他の公害の防止に関する法令で、大気や、まあ最近までの水の関係の法律でも工場または事業場における排出というものをやはり規制の一つの基本類型といたしておることもございますので、それとの関連もございまして、まずこういう形の健康にかかわる公害に関する不測の侵害的な行為、これをこの法案の処罰の対象といたした次第でございまして、もろもろの他に公害防止関係の行政法令があるわけでございます。騒音につきましても騒音規制法の改正案が今回の国会に提案されておるわけでございます。
#142
○山高しげり君 まあ御答弁の最後のところでやや私が求めているものに触れた感じでございますが、先ほど小林委員もおっしゃったのですが、こういうしろうとも御質問をしたり、意見を申し上げるということは――やっぱりこういう場で、国民の法律ができ上がる過程において私どもは私どもなりの知恵を出し合うというか、受け取る側に立って意見を申し上げるということは、小林議員がおっしゃったことは、私はそのまま賛成なんでございます。私は先ほど騒音でノイローゼになった主婦の実例を申し上げたのですが、そういう場合に、その方はこういう方法が開かれますと、ただいまその騒音規制法の改正に云々というところで初めて具体的にお触れになったんですけれど――もう一般論はさっきから聞き飽きるほど聞いておりますので、それはよくわかっておるのですが正直申し上げてこれは局長に限らないと思いますけれども、国民の気持ちはやはり法理論というものはたいへん冷たいというふうに受け取るものですから、そうして、多少とも公害に関係をしている者はなおさらその点で自分の受けている公害に対してはどういう対策が講じられているのかと、いままではその道がなかったけれど、新しい法律によってどこまでそういうことが解決されるのかと、そういうことを知りたがっているもので、私はその気持ちを代弁してお聞きをしたので、一般論はもうけっこうでございます。
 いま初めてその騒音規制法の改正云々ということを承りましたので、それではついでに伺いますけれど、いまのような主婦の気持ちなどは、地下鉄工事からまいりますような、これは生活環境に関した公害だと思いますが、それは今度の騒音規制法の改正で何とかなるんでございますか、それともこういうことはいまここでお聞きすることは筋違いでございますか。
#143
○政府委員(辻辰三郎君) 騒音規制法につきましては、一つの都道府県知事がこの騒音を発生する特定の工場等につきまして騒音についての施設の改善命令その他のことができるようになっております。この改善命令に違反した者についてこの罰則をかけるという仕組みになっておるわけでございますが、ただいま御指摘の案件そのものが今回の騒音規制法の改正でどういうふうに変わったかということにつきましては、ちょっと、よその省の法案でございますので即答いたしかねますが、必要ならばすぐ調べさしていただきたいと思います。
#144
○山高しげり君 またそれは別に教えていただいてけっこうでございますけれど、私はこの一例をただ国民の一人の声として、しかもわりあいにこういう考えの人が一般の人たちに多いものですから、そういうなまの声をあんまりお聞きになる機会が多くいらっしゃらないように感じたものですから、まああえて申し上げたわけでございますけれど、もう一つ伺いたいと思います。
 この犯罪に対する罪が、私は少し軽過ぎるんじゃないかという感じを持っております。外国の事例等も参考にいただいたのでございますけれども、こういうふうにおきめになりました何か根拠と申しますか、それを一応伺いたい。
#145
○政府委員(辻辰三郎君) この法案の二条、三条に定められております刑罰の限度と申しますか、法定刑につきましては、現行の刑法典との関係から慎重に考慮した結果でございます。
 で、まずこの第二条の一項につきましては、「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた者は、三年以下の懲役」という点がございますが、この「三年以下」といいますのは、同種の犯罪と申しますか、相似た犯罪が、たとえば刑法の百十八条のガスの漏出罪というのがございます。これは、ガス、電気または蒸気を漏出云々して、人の生命、身体、財産に危険を生ぜしめた者、というのが三年以下の懲役ということになっておるわけでございます。まず二条一項につきましては、刑法のガス漏出罪との関係において三年以下の懲役というものを規定したわけでございます。これから、この二条の二項の七年以下の懲役という点でございますけれども、これは二条一項のいわゆる結果的加重犯と申すものであります。これは刑法の傷害罪、これが二百四条にございますが、二百四条の傷害罪は、十年以下の懲役ということになっておるわけでございますが、この傷害というものは非常に悪質な、傷害の意思を持って人を傷害するというものもあれば、傷害の意思はないけれども、人に暴行を加えて、その結果、人が傷害したというようなものもございまして、非常に幅広い類型を持っておるわけでございますが、それを最高十年以下ということで、非常に幅広い法定刑を定めておるわけでございます。その刑法の二百四条を前提にいたしまして、この二条の有害物質を排出して人を傷害せしめたという場合は、その刑法の傷害罪との関係で七年以下の懲役というのが大体至当ではなかろうかというふうに考えたわけでございます。それから、三番の過失犯でございますが、これは同じような業務上の必要な注意を怠って人に傷害を与えたり、人を死なしたりした場合には、刑法の二百十一条でございますが、業務上過失致死傷罪ということで、これにつきましては五年以下の懲役もしくは禁錮ということになっておるわけでございまして、これが三条の二項のほうに当たるわけでございます。三条の二項はこの刑法の二百十一条との関係でこういう法定刑を出してまいったわけでございます。三条の一項のほうは、第二条の故意犯との関係で、故意の場合よりも過失のほうが軽いのがこれは当然といえるわけでございますので、この二年以下の懲役ということの法定刑を持ってきたわけでございます。
 それからこの罰金刑につきましては、これは実際の運用といたしまして、先ほど来御議論がございましたように、四条の両罰規定ということで会社が――法人でございますが、処罰される場合が大いに考えられるわけでございます。そういたしますと、公害犯罰等の特殊性ということも考えまして、相当現行の刑罰法規の体系のうちでは高い罰金刑をやはり定めておく必要があろうということで、この現行の刑罰法規のうちで定額として高い罰金を定めておりますのが五百万円でございます。その五百万円というものをこの二条、三条のうちで最も態様の重いと思われます二条の二項につきまして五百万円という罰金を規定いたしまして、それとの関係で二条の一項、三条の一項及び二項というそれぞれの罪質との関係で、この五百万円を基準にして、それぞれ三百万円あるいは二百万円という法定刑を規定した次第でございます。
#146
○山高しげり君 御説明は一応わかるのでありますけれども、しろうとの私がどうも軽いように感じると申し上げても何の基準もないみたいでございますけれど、それでは少し感情的ではないかとおっしゃられてもしかたがないと思いますけれど、この法案につきまして先ほど来大臣からもしばしば御意見が出ておりまして、相当欠陥があっても、とにかく拙速をあえてしたほうが公害問題の解決にはいいというような意味の御意見がたびたび出ておりました。まあそれは公害防止という目的に対してと、こうおっしゃっておるのですが、防止ということでこういう法案が出てまいるとすれば、やはり刑に処したり、罰金を取ったりするのが目的ではないんでしょうから――たまたま、その犯罪を構成した場合にこうなるぞと、こういうこわいことがあるのだから、なるたけその罪を犯さないようにしなさいというような意味を、こういう効力を持つのかと、まあ私は常識的に考えるもんですから。そういう場合には、少し罪は重いほうがいいんじゃないかと、ことに世間で、やっぱりこういうものを見て、すでに言っておりますけれども、懲役刑よりも、懲役よりも、あるいは禁錮よりも、その法人にかかる罰金でございます。この罰金がどうも少し軽いように思うわけでございますけれど、外国のはあまりよくわかりませんですが、懲役の場合でも相当、西ドイツなんかは刑は重いように私どもやっぱり感じます。で、それを、外国のことはいかがでございましょうか。日本のことをおきめになる場合に、ここに参考事例をお出しになったのですから、その参考事例についても御意見を承りたいと思います。
#147
○政府委員(辻辰三郎君) ただいま御指摘のドイツの場合でございますけれども、実は、ドイツとオーストリアは刑法の草案でございまして、まだ現行法にはなっていないわけでございます。まあ、それはそれといたしまして、ドイツの場合なんかは、やはりその構成要件といいますか、犯罪になる規定の仕方がやはり違うわけなんでございます。この本法案の場合と犯罪の構成要件がやはり違うという点が、まあ何よりの法定刑が違ってくる理由であろうと考えております。
#148
○山高しげり君 それでは最後に、大臣にお聞きするというか、お願いと申しましょうか、ただいま申しましたように、同じ罰でも法人にかかる罰金が安過ぎるというのは私個人の意見でございませんで、比較的多くの国民がそういう意見を漏らしておりますことは、企業がいままでもほかのことで幾らも例があるみたいでございますが、これくらいな罰金で済めばという考え方がどうもあるように国民の側は受け取っております。で、そういうことにつきまして、先ほど大臣が公害は犯罪であると、これを今度の立法の出発点にしたいと、そうして企業にも国民にも大臣は反省を求め、自粛をうながしたいようにおっしゃったんですが、そのことは結局公害の被害者に安心感をもたらしたいからだと、こうおっしゃったと聞き取っておりますけれど、そうして、まずたとえ拙速であろうとも、欠陥が多少あるということを認めようとも、この際ます国民の意識を変えたいと、こういうふうにおっしゃられましたけれど、国民はまた国民でいろんな国民がありますけれど、企業体を構成してらっしゃる方も結局、国民ではいらっしゃると思いますが、その大衆が考えておりますことはいまのようでございまして、せっかくおつくりくださるならば、中身についても自分たちが満足するようなものがほしいと思っておりますにもかかわらず、この法の現実は、あまりにも内容において国民の期待を裏切る、そうして企業側は罰金で逃げるんじゃないかという、その危惧というものが、なかなか私はぬぐい去れないように思いますけれど、その点につきまして、一言でけっこうでございますから、大臣から。
#149
○国務大臣(小林武治君) これは先ほどからのお話、たいへん私もごもっともと思います。今度の公害罪法の対象になる公害というのは非常に限定されている。いまお話のように騒音なども入れたらいいじゅないか、現に被害者が出ている。こういう話もごもっともなことでありまして、そういうふうな公害の種類が非常に限定されていることもこれは不十分なことの一つじゃないか、これはいろいろ検討いたしましたが、いまはここに入れることがいろいろな面で困難だということでこれを後日に譲っているということでございます。したがって、将来公害の種類等についても追加するとか、あるいは直すとかいろいろな問題があり得るわけでありますから、その点ひとつ御了承願いたいのであります。
 なお、罰金の問題でありますが、実は罰金がいろいろ低いとかなんとか話がありますが、これはただ刑事上の罰金だけでありまして、もしこれによって起訴になり有罪になったとすれば、民事上の賠償責任が相当大きいものに相なってくるのでありまして、そういう面において、私は、他に補てんされると申しますか、これは必ず民事に関係してくる。しかもこれは刑事事件として、もし処罰されるならばすぐに民事に移行する。こういうことも考えて、いまある罰金のうちの一番高いものを持ってきたということでありまして、これだけでこりごりになるという意味ではないということもあわせて申し上げておきたいと思います。いずれにいたしましても、いま申すように私は欠陥とは申しませんが、まだ不十分な点があり、これから考えていかなければならぬということは私も認めているところであります。
#150
○松澤兼人君 いろいろと原論的な質疑がありまして、多少の進歩を見たという気がいたしますが、具体的な問題一、二をあげてこの公害罪法というものの適用が可能であるかどうか、またそれに伴う処罰というものが、はたして急速にできるものかどうかという点お伺いしたいと思うのであります。先ほど複合公害あるいは相乗公害といいますか、一つの工場では、別段人の健康あるいは生命、身体というものに対する障害はないかもしれないけれども、複合的に起った場合、あるいは相乗的に起った場合、はたしてこの公害罪法で処分ができるのかどうかということでありますが、先ほどお話を聞いておりますと、多少の進歩があったように思いますけれども、まだ十分に納得することができないのであります。
 事例をあげてお伺いいたしますが、たとえば四日市における四日市ぜんそくとか、あるいはまた川崎方面における気管支ぜんそくというものも、はたしてこの法律によってとらえられるのかどうかという簡単な質問でございますけれども、まずこれからお伺いしたいと思います。
#151
○政府委員(辻辰三郎君) いまの四日市でありますとか川崎におきます一つの大気汚染と思うのでございますが、この大気の汚染は今日多数の工場または事業場からそれぞれ他とは無関係に有害物質が排出され、その結果として出てきている状態であろうと思うのでございます。そういうふうに理解いたしますと、先ほど大臣の御答弁がございましたように、この法案の対象にはならないということに相なろうと思います。
#152
○松澤兼人君 先ほど共同犯というようなことが話題にのぼりましたけれども、四日市にいたしましても、川崎にいたしましても、別段企業側が公害を起こすために――謀議したということですが、一つ一つは基準を守っているわけであります。それは他の原因、たとえば、空中における媒体物とか、あるいは逆転層とかといったようなことで顕著に人間の生命、あるいは身体に対する障害を与えるということもありますから、もちろんその中で、たとえば一〇〇%有害物質を出したといっても、他の工場は別に共同謀議をして出しているわけではないのですから、ですから、一つの工場が出したからといって、他の工場も罰せられるという性格のものではないと思います。かつまた一つ一つが基準を守っている場合に、全体としていわゆる複合公害といいますか、あるいは公害の相乗作用といいますか、そういうことのために住民が健康を害するということは、だれの責任だということはできないと思うのであります。もちろん先ほど、本来からこの法案は、そういう複合的な公害は対象としないと言っているあなたがたですから、そういう場合は対象としてつかめないということでありますね。これははっきりしていただきたいと思います。
#153
○政府委員(辻辰三郎君) この点につきましては、先ほど大臣が答弁されましたように、複合公害というものの一つの定義と申しますか、意味でございますけれども、多数の工場または事業場からそれぞれ他とは無関係に有害物質が排出される、その結果として、かりに本法案にいう危険が生じても、それはこの刑法の共犯例に当たらない限りは、処罰の対象にならないということでございます。
#154
○松澤兼人君 これは確かに明確で、その点私たたちが公害罪法案というものをここで審議してもその審議あるいは論議というものが全くむなしいものだということを感じます。多少とも四日市ぜんそくに対する何らの救済にならない。あるいは川崎、あるいは市原における同じようなケースに対して公害罪法というものは何の救済にもならない。全くこれは公害国会といわれましたけれどもそれらの人々に対して会社のいわゆる不法行為によって起こったとだれしも考えていることが、救済にも何にもならないということは、まことに残念なことですが、法律の体系なり、あるいは理念の上からいってそれはやむを得ないことであるというふうにお考えでしょうか。
#155
○政府委員(辻辰三郎君) いわゆる複合公害でございますが、これにつきましては、この公害対策基本法に基づきます行政法規及びそれに基づく行政規制という、やはり行政措置で、公害の防止がはかられなければならないと思うのでございます。そして、それぞれの関係行政のもとにおいて被害者の救済がはかられていくべき問題でございまして、この法案に言います、この法案を対象といたしますような行為、刑事罰の対象とするのは――このいわゆる複合公害、てんでんばらばらに無関係に多くの工場、事業場から有害物質を出すということにつきましては、これは一つの危険状態を発生せしめるにつきまして、おのおのそれに及ぼした役割りと申しますか、寄与の度合いは千差万別でございます。そういうものを一律に刑事罰の対象にしていくということは、これは妥当でないという意味におきまして、この法案の対象としては、てんでんばらばらのいわゆる複合公害は対象にならない。また、するのが妥当でないというふうに考えておる次第でございます。
#156
○松澤兼人君 これで四日市や川崎における気管支ぜんそくというものには、これはもう犯罪あるいは処罰の対象にならないということがはっきりわかりましたが、それでは、安中では、安中における東邦亜鉛のカドミウムによって、人間の生命にも、非常に重大な障害がある。土壌も、あるいはまた農作物も汚染されている。これはもう原因、結果ということは、これは疫学的あるいはケミカルな証明によらなければなりませんけれども、しかし学者の中には、確かに関係があると言っておる人もある。――そういう狭い地域で、そうして有害物質を排出する企業が単一である、こういうところでつかめない。
#157
○政府委員(辻辰三郎君) いま安中のケースを御指摘になったわけでございますが、なお具体的なケースにつきましては、現にたしか鉱山保安法で起訴いたしております。この法案との関係におきましてこの安中のケースというものを具体的に申し上げることは差し控えるべきであろうと思いますけれども、ああいうようなケースにつきましては、これは人の健康を害する物質を排出して、公衆の生命または身体に危険を生ぜしめたということが立証できれば、これはこの法案の対象になろうかと思うわけでございます。
#158
○松澤兼人君 鉱業法なりあるいは鉱山保安法なりが働き出している、そういう場合に、この公害罪法というものが成立したとしても、現場の捜策あるいは検索、そういうことは、こちらがあとから出ていると、向こうが先に手をつけたということもあるでしょうけれども、まさか重複して処罰の対象になるというようなことはないでしょうね。
#159
○政府委員(辻辰三郎君) この法案にいう犯罪が成立いたします場合に、他の法令の違反も同時にあるという場合が、これはずいぶん考えられると思うのでございます。そういう場合には、やはり刑法の一般原則によりまして、この法案の犯罪と、一所為数犯といいますか、一つの行為で数個の罪名に触れる場合という場合もございましょうし、また別の、この法案の犯罪とそれから他の法律による犯罪とが別々に成立するという場合もあろうと思います。これは具体的な事例によって異なってくると考えております。
#160
○松澤兼人君 そうしますと、二つの法律が同時にというか、あと先はあっても、この法案の違反ということであれば、一方では別の法律が追及していても、重ねて問題にすることはできる、こういうことになりますか。
#161
○政府委員(辻辰三郎君) 犯罪構成要件と申しますか、それぞれの法律で犯罪の構成要件がきまっておるわけでございます。この法案であれば、この二条、三条にいう構成要件に該当すれば、犯罪になるわけでございますし、かりに他の行政法規のほうでいわゆる基準以上の排出を処罰するということになっておるという場合に、その基準以上の排出をしたとすれば、この基準以上に排出したという点については、その関係の行政法規の罰則に触れましょうし、そうして、さらにこの法案にいうような犯罪も成立しておるという場合であれば、この法案にいう犯罪も成立すると、こういう関係になろうと思います。
#162
○松澤兼人君 そこで問題は、一時に大量に出すということは、これはまあ間違いか、あるいは過失かということ以外にはちょっと考えられない。だれしもこれは企業の利潤を追及するというけれども、しかし、人命をそこねてもいいというほど大量に有害物質を出すということはほとんどなかろうと思う。神岡鉱山とイタイイタイ病の関係も、これは長年にわたって蓄積されたものであるというふうに言われております。新たに大量のカドミウムが流されたというふうには聞いておらない。
 そうしますと、やはり少量であって、しかも、基準内の排出であるということでも、継続して長年にわたって排出されているということになれば、基準を守っても、やはり人体に障害があるという可能性が起こってくると思うのですけれども、そういうものはこの法案の対象になりますか。
#163
○政府委員(辻辰三郎君) もとより、この法案の対象となります排出行為は、この法案が法律になりまして、法律として施行された日以後の排出行為について適用があることは申すまでもございませんけれども、この排出の態様は、蓄積性の一つの有害物質の排出ということになりました場合に、それは相当期間の、つまり排出によって一つの、この法案にいう「公衆の生命又は身体に危検を生じさせた」ということに該当するならば、この法案の対象になるわけでございます。
 この場合に、基準内でもというおことばがございましたけれども、そういう蓄積性のものにつきましては、やはり将来の問題でございましょうが、蓄積の状況によって、またそれに応じた排出基準というものが定まってくるものであろうと私は考えております。
#164
○松澤兼人君 それは、他の法律によって蓄積性の物質の排出、あるいはまた有害物質というものが相当程度人体に危険があるということが新しく科学的に証明でもされた場合には、基準を上げるというか、一定の基準以上の、いままでよりきびしくということはあり得ると思いますが、しかし、科学的な証明あるいは技術的な確認というものが同じような場合でも、相当長期にわたって人体あるいは土壌に蓄積されるということによって、人間の身体生命というものに影響があることは必然である。それでもこの法律によっては、ただ蓄積がある、土壌が汚染されたという程度ではつかむことはできないということですか。
#165
○政府委員(辻辰三郎君) これは、具体的なケースとの関連もあろうと思うのでございますけれども、私ども設例として申し上げております魚の汚染というような例をとりました場合に、その魚を付近の人が通常の頻度で食べていくならば、いずれは自分のからだが汚染されるというような場合、この魚の汚染度と、それから食べる頻度、こういうものを具体的な状況のもとにおいて考えてまいりまして、この法案にいう「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた」かどうかということが、認定されるものと考えておるわけでございます。で、そういうことでまいりますと、ただ土壌が汚染されたからこの法案の対象になるかどうかということは、まずないのではなかろうか。これはあくまで具体的な事案との関係ではございますけれども、さように考えておるわけでございます。
#166
○松澤兼人君 安中では、指が曲がったり、というような人がいるそうでありますけれども、これは健康の障害、あるいは身体の障害ということもある、そういう身体的な障害が発生している。しかも、それは狭い地域に。常識的に言えば、それは東邦亜鉛の有害物質の排出ということに結びつかざるを得ない。そういう身体、指の故障が起きているというこの事実があっても、まだこの法律の適用ということはむずかしいということですか。
#167
○政府委員(辻辰三郎君) ちょっとあるいは御質問の趣旨を私が理解していないかもしれませんが、この法案におきます二条、三条の結果的加重犯でございますが、これは一つの、指が曲がっておる、曲がったということが障害に当たると思うのでございます。で、こういう状態が二条の一項あるいは三条の一項の、こういう状態から出ておるということがまず問題であろうと思いますが、それがまず一項の状態から二項にいう、こういう障害が出た、そして一項にいう「公衆の生命又は身体に危険を生じさせた」という状態が工場、事業場における有害物質の排出からきておるという、これがずっと因果関係がつながれてまいっておる、こういうことが立証されれば、これはこの法案の対象になるということであろうと思います。
#168
○松澤兼人君 立証されればということですけれども、法律を発動させるということは、立証がなければできないことなんです。
#169
○政府委員(辻辰三郎君) もちろん立証と申しますのは、捜査権を発動して証拠を集めるわけでございます。で、この法案の犯罪の規定が動き出し、運用されます場合には、この捜査の端緒といたしましては、いろいろな事態が考えられると思うのでございます。ある地域の魚が汚染されておる、浮き上がったというようなことから、一応の捜査の端緒を得て、犯罪が成立するかどうか、そういうことの証拠を集めるというのは当然でございます。
#170
○松澤兼人君 魚――魚とおっしゃるのですが、たとえば多摩川でもどこでもよろしい。どこかの工場が故意あるいは過失によって大量の有毒物質を流した、そのために魚が死んだ。しかしそれは食べていけないと、こう言われるから食べませんけれども、中に食べる人がある。あなたは頻度ということを言われる。頻度ということが条件の一つであると、こうおっしゃる。食べていけないものをたまたま、もし沿岸の人が食べたとして、腹痛を起こす、あるいはまた下痢をやるというようなことは、全然これとは関係ないですか。
#171
○政府委員(辻辰三郎君) 私が例としてあげました頻度ということは、一つの有害物質が蓄積性のものであることを前提とした例でございます。かりに、即効性の有害物質というもの、シアンならシアンというようなものが川に流れ込んだと、それがしかもその川から上水道に流れ込むというような事態がかりにあるといたしますと、それはもう危険な状態というものが生じておるという場合も考えられると思います。
#172
○松澤兼人君 そうすると、その場合は、魚が浮き上がったとかいうことと何も関係ない。だれがそれを証明するんですか。
#173
○政府委員(辻辰三郎君) それは具体的な案件の捜査の端緒の問題でございます。その辺の住民がそういうことを探知される場合もございましょう。あるいは関係の行政機関が行政上の監督権限でわかる場合もございましょうし、これは千差万別の事象によって捜査の端緒がつかまれるものと考えております。
#174
○松澤兼人君 そうすると、場合によっては、普通の方法で、あるいは普通の慣習によって、普通の頻度で魚を食べるということでなくとも、たまたま浮き上がった魚を食べるというようなことは、やはりこの法律の適用になるわけなんですか。
#175
○政府委員(辻辰三郎君) これは公衆の生命または身体に危険を生じたときにもう犯罪は成立するわけでございます。何も魚を食べる必要はないわけでございます。これは人の健康を害する物質との関係におきまして、この具体的な事情によってそれぞれ公衆の生命、または身体に危険が生じたかどうかということは、科学的な一つの知識を基礎にして認定されるべき問題であろうと考えておるわけでございます。
#176
○松澤兼人君 そうしますと、そういうたとえば、多摩川にしても、どこかの河川に、何かの事情でたくさんのシアンが流されたというような場合には、別に普通の方法によって、普通の頻度において魚を食べる食べないということは、条件にはならないということですね。
#177
○政府委員(辻辰三郎君) そういうことは、魚を食べるということは要件ではもちろんございません。
#178
○松澤兼人君 一度に大量の水銀が流されたとかいうようなことは、ほとんど例外だと思いますけれども、しかし、除々にはそういうことがあるかもしれない。除々の場合には今度証明が非常に困難です、魚が死んだことが。そういう除々に流されたシアンのためかどうかということを証明することは非常に困難です。だから魚が死んだからといって、直ちにどこかの工場をつかまえてこの対象にする、捜査権を発動をしてから捜査をする、そしてどの工場かということをつきとめるのか。これはこういう法律がなくったって、警察あるいはまた検察というものは、すぐにこれはというものをねらって、やっていけるんじゃないですか。
#179
○政府委員(辻辰三郎君) 一つの、人が現実に死んだとか、あるいは病気になったとかいうような場合におきましては、現行刑法の業務上過失致死罪なら業務上過失致死罪というような嫌疑で捜査が開始されることはもちろんあり得るわけでございます。この法案は、その結果の発生する前の段階、危険な段階で犯罪が成立するといたしておるわけでございます。この危険な状態というものをいろんな資料から確知いたしますならば、それを端緒にして捜査活動が行なわれるということでございます。
#180
○松澤兼人君 シアンを流して、それで魚が死んだ状態というのは、一つの犯罪行為というものがあったということでしょう。シアンを流すかどうかということは、これは予知できないことです。それから、それは事前だの事後だのということじゃないでしょう。流したということが当然この法律か、あるいは他の法律によって処罰の対象になる。この法律があったってなくったって同じことじゃないですか。
#181
○政府委員(辻辰三郎君) これはこういう危険な状態が発生したということを認知して、だれがどういう原因でこういう状態になったのかということを捜査して調べてまいるわけでございます。(「だれがこの法律によって」と呼ぶ者あり)この法律ならば、この危険な状態が生じた、生じているらしいというふうに捜査機関が認めますならば、それからこれはこういう状態はだれがどういう原因で作ったのかということを調べていって、この犯罪が成立するかどうかということを確定してまいるわけでございます。
#182
○松澤兼人君 この法律によらないでも現にそういうことが行なわれているでしょう。捜査されているし、調査されているでしょう。特にこの法律ができたからといって何かプラスになることはあるのですか。
#183
○政府委員(辻辰三郎君) 先ほど来申しておりますように、この法律ができますと、実害が発生しなくても犯罪になるわけでございます。したがってこういう状態が生じた、こういうふうにそういう疑いが出てくればその段階から捜査ができるわけでございます。現行法のもとにおきましては、実害が――人の負傷であるとか、病気であるとか、死亡であるとか、そういう実害が出ないと捜査というものが開始されないというわけでございます。
#184
○松澤兼人君 一晩のうちにシアンが流されたというようなことは、事前も事後もないじゃないですか。それに対して予防的な効果というものはこの法律できまりますか。
#185
○政府委員(辻辰三郎君) シアンを排出してこの法律の対象になるということでありますから、そういう場合にはシアンの取り扱いが十分注意されてくることになろうと思うのでございます。そういう意味の予防的な効果というものは非常に大きいものがあろうかと存じます。
#186
○松澤兼人君 それはほかの法律でできるじゃないですか。警告的な意味ということから考えてみましても、この法律があったって別に警告的な意味はない、事前予防的な意味というものは、この法律ができてもできなくても同じことです。そういうことをしたらこういうふうに罰金になります懲役になりますということはこれは法律の中でうたっているけれども、やらない人は何も関係ない一晩のうちにシアンを流した人は、これはほかの法律がつかまえる。事前の警告も事前の予防も何にも関係ない。それでも何かプラスになることがあるんですか。
#187
○政府委員(辻辰三郎君) これは具体的事案との関係があるわけでございまして、シアンを流したといいましても、その量がどのくらいかという問題もございます。かりに一晩のうちに相当多量のシアンを過失によってうっかり流した。その結果、川の水がきわめて危険なものになった。しかも、その川の水から付近の人が上水道を取っているというようなことになりますれば、その流したことによってこの法案にいう少なくとも三条の犯罪が成立する場合があろうと思うのでございます。現実に人が飲んでいなくても、それがいずれ上水道のほうに入ってくるという状況でございましたら、それ自体が犯罪になるわけでございます。そういう意味で、この法律の意味は非常に大きいものがあろうと思うのでございます。
#188
○松澤兼人君 この法律はまだできていない。できていないけれども、シアンを流したとか、あるいは水銀中毒が起こったとかいう事例はもうすでに出ている。それで捜査によって追及されて、処罰される者は処罰されている。この法律ができて、それで何か事前の警戒とか、事前の予防とかいうことにプラスになるかならないか。これは刑罰からいっても、こういう刑罰がありますよと、ほかの法規にも刑罰があるからその上にこれがプラスになりますよという、そういう警告的な意味はあるかもしれません。しかしこの法律がないときでも、やっぱりそういう犯罪行為というものは追及されているでしょう。この法律ができて、それでプラスになるのかならないのかということを言っているです。
#189
○政府委員(辻辰三郎君) このシアンならシアンを流したという場合に、少量の場合にはあるいは行政法規の違反ということも、それはあり得るかと思うのでございます。ところがこの法案は、シアンを人の、公衆の生命または身体に危険を生ぜしめる程度に流したと、故意または過失によって流したということになれば、刑事犯として、単なる行政犯というのじゃなしに、相当重い罰則をもってこれを処罰するということになるわけでございます。これはこの危険な状態が生じた段階で、そういう重い刑事犯としての犯罪が成立するということを言っておるのでございまして、具体的な人の死傷という結果が出なくても犯罪になり、また、かりに結果が出れば、この二条、三条のおのおの二項によりまして刑罰が加重されるという、重い処罰がされるということなんでございます。
#190
○松澤兼人君 どうも事前の予防とか、公害の防止とかいうことに全然関係がないような気がするがね。ただ処罰が加重されるということのおどかし、あるいは威嚇、警告、そういう意味があるかもしれませんけれども、なくったって、ほかの法規でちゃんと追及されているんですから、特に何かこうメリットがあるかなと思っているんですけれども、別段メリットがないんじゃないですか。
#191
○政府委員(辻辰三郎君) 先ほど来申し上げておりますように、この法案に規定されておる犯罪は、刑事犯として、しかも具体的な結果が、人身に対する結果が発生する前の段階で処罰の対象にするという、このことによりまして公害の防止に資するということなんでございます。捜査活動一つにいたしましても、具体的な死傷の結果が出ていなくても捜査機関は犯罪の捜査をいたしまして、この法案に定めておる罪の嫌疑というものをどんどん調べていくということもできるわけでございまして、この点がこの法律の一つの大きな意味であろうと考えておるわけでございます。
#192
○松澤兼人君 先ほどの安中におけるカドミウムの問題でも、指が曲がっている人があるという、これは来年の七月一日から実施になります、そのときに、指の曲がっている人がカドミウムに起因するものである、これは危険な状態であるということでこの法律の対象にすることができますか。その勇気がありますか、やる気があるんですか。
#193
○政府委員(辻辰三郎君) 先ほど申しましたように、この法案が法律になりまして、法律として施行されました場合に、その対象となります行為は、法律施行後の排出行為に起因する危険な状態の発生という事態が処罰の対象になるわけでございます。その場合に、安中という具体的な例は別にいたしまして、この法案に定める犯罪の構成要件を充足しておるという嫌疑がある限り、当然捜査機関は犯罪の捜査に当たることになるのは当然であろうと思っております。
#194
○松澤兼人君 じゃ、遡及してそういうことはないとして、たとえば七月一日以後に指が曲がったと、患者はあるいはカドミウムの中毒かもしれないと、こういうふうに訴えたと。そうすると、指が曲がるまでには相当の年月が必要であるから、七月の十五日にそういうことを言ってきても取り上げない。もっと前からだろうと。つまり法律施行の以前からそういう症状が起こったのであろうということになれば、これは対象にならない、こういうことですか。
#195
○政府委員(辻辰三郎君) これはこの法律施行後の排出行為に基づくものが対象になると考えております。
#196
○松澤兼人君 幾ら言ったってわからぬけれども、やっぱりそうすると、七月二十日にカドミウムを排出したと、そうしたら七月の二十五日に指が痛くなったという人があったとしたら、この法律の対象になるのですか。そこで蓄積という問題をあなた方持ち出してくるでしょう。
#197
○政府委員(辻辰三郎君) 理屈としては、七月の十五日の排出で七月二十日に指が曲がるかどうか、具体的にはそういうことがあるかどうかわかりませんけれども、理屈としては七月十五日の排出行為の結果危険な状態が発生し、その結果、指が曲がったという因果関係が立証されれば本法案に定める犯罪は成立するということになります。
#198
○松澤兼人君 立証されればというんですけれども、法律が発動してそれからあとに立証されるんですか。あるいは発動する前に立証するんですか。
#199
○政府委員(辻辰三郎君) 法律が施行されまして効力が発生いたしますならば、この法案に定める二条、三条の犯罪というものができるわけでございます。そういたしますならば、この犯罪の嫌疑があるものにつきましては捜査機関は当然捜査をするということでございます。
#200
○松澤兼人君 いま安中のことを言いましたけれども、安中ばかりじゃないんですよ。全国にそういう問題になる公害というものがある。これで七月の一日から施行になったとして、七月、八月、九月というようなところに、全国において危険な状態があるということで捜査権を発動することはできますか。それは理屈からいえば当然しなきゃならぬということになりますけれども、まだ受け入れという、検察の関係も十分できていない、それがいつになったら受け入れが完成して、いつからならば仕事が始められますという、そのめどを示してもらわなければ何にもならない。
#201
○政府委員(辻辰三郎君) この法案がかりに法律となりまして、明年の七月一日から施行されるということになりましたならば、この法律の運用が十分に出来ますように、検察庁あるいは警察も同様であろうと思いますが、捜査機関は十分にこの運用ができるように職員の研修その他につきましても力を入れ、あるいは予算面におきましても鑑定費用の獲得であるとか、そういうことについても十分な行政的な配慮を示すものと存じます。現に法務省におきましてはそういう関係の準備もいたしておるわけでございます。
#202
○松澤兼人君 その準備ができなければ、結局法律はできても開店休業ということですか。内輪の準備だけはやっておるけれども、しかし問題を持ってこられても、それはもう取り扱えませんということですか。
#203
○政府委員(辻辰三郎君) この法案に定めます二条、三条の行為が、法律が施行されまして犯罪ということになりましたならば、これは捜査機関としてはこの犯罪の捜査に遺憾のないように十分つとめるわけでございます。
#204
○松澤兼人君 それはもう刑事局長がそうあってほしいということを言うだけのことで、そんなに急速に受け入れ態勢ができるということも考えられませんし、そういう危険な状態あるいは因果関係が常識的には証明されているという、そういう事犯というものは全国にたくさんある。それを乏しい検察の人員なりあるいは能力なりによって一斉に問題持ち出されてきたとするならば、それこそもうお手あげではないですか、がんばってやりますとおっしゃるけれども。
#205
○政府委員(辻辰三郎君) 十分遺憾なきようにやるわけでございますが、現にたとえば、この法案には関係ございませんが、御案内のとおり、北九州のカネミの食用油の事件でございますとか、札幌の心臓移植の事件でございますとか、そういう科学的な知識を必要とする事件も数少なくないのでございます。そういう面につきまして、検察庁は、現在におきましても鑑定その他科学的知識の足らざるところはこれを補い、できるだけの努力をいたしておるわけでございます。この法案が法律になりまして施行されました場合にも、この運用につきまして十分相つとめるわけでございます。
#206
○松澤兼人君 カネミのことも私質問しようと思っていましたけれども、これはまだ係争中ですから、その訴訟の内容等についてははっきりお聞きすることもできません。その事例をとってみましても、なかなかこれを法律的に取り扱うことが困難だし、この法律ではカネミのようなものは対象外でしょう、別に排出したわけでもないし。だからこの法律の対象にはならないと思いますけれども、普通の裁判手続きによって黒白を争うということでもたいへんな日月がかかる。この法律ができて非常にすみやかに迅速に判断を下すことができるということであればこれは大きなメリットですけれども、しかし同じような裁判手続でやるということならば、現在のたとえば水俣もそうですし、阿賀野川もそうでしょう、イタイイタイ病もそうです。あるいは大阪空港の騒音の問題でも何年かかるかわからないような訴訟手続というものが現在進行中です。それにまたこの公害罪法によって何年かかるかわからない、その結論を出すということのためにこの法律をつくって実効を期待するということは無理ではないかと思うんです。
#207
○政府委員(辻辰三郎君) ただいまお示しの事例は、民事裁判のことをおっしゃっていると思うのでございます。この法案は、これは刑事の犯罪でございます。処罰を目的とする刑事の犯罪のことでございますので、民事の訴訟の遅延というものとは関係がないわけでございます。私が申しましたカネミの事件といいますのは、カネミの事件を刑事訴追を検察庁が努力をしていたしたということを先ほど申し上げたわけでございます。
#208
○松澤兼人君 民事ならおくれるけれども、この法律の手続きはおくれないということであればけっこうです。
 先ほど東邦亜鉛からちょっとわき道に入りましたけれども、こういう例はどうなんですかね。全く漁村あるいは山村に、かりに発電所があり、ほかに事業所というものはない。この発電所には百何十メーターから二百メーター近いところの高い煙突がある。だから周囲に有毒ガスが直接降下してくるということはないかわりに、相当遠隔な地方まで拡散いたしまして、その有害な現象が起こっておる。それは特にこの法律で規定されてありませんけれども、人体及び財産に対して相当な影響を与えている。これは先ほどの東邦亜鉛の場合よりさらに端的に、そこにその発電所がなければそういう公害なんというものは全然起こらない。それで、その発電所は基準を守っているのです。基準を守っているけれども、気象条件とかあるいは風向とかいうようなことで公害が起こっている。こういうような場合にもやっぱりこの法律はどうにもならないんでしょう。
#209
○政府委員(辻辰三郎君) 基準を守っておる場合に、この法案にございます、公衆の生命または身体に危険を生ずるという状態は私は事実上これはそういうものは出ないと思うのでございます。そういう基準というものは、環境基準というものを前提にいたしまして、個々の排出ごとにきわめて安全度を高く見てきめられておりますから、基準を守っておる限りはこの法案にいう危険な状態というものは出てこないと思うのでございます。まあ基準の問題を別にいたしまして、この危険な状態が、ある発電所なら発電所の排煙によって公衆の生命または身体に危険を生ずるというような事態があれば、これはこの法律の対象になるわけでございますけれども、先ほど来申し上げておりますように、この法律は、人の健康、公衆の生命または身体というものの危険をこの保護法益にいたしておるわけでございますから、物的な財産というものの損害はこれはこの法案の法益といたしておりませんから、対象にならないわけでございます。
#210
○松澤兼人君 それは知っている。財産の被害もあるということを言っているだけの話です。そういうところで、たとえば気管支ぜんそくみたいなものが起こったら、それはその単一の企業体である、その煙突から出るものによる以外に原因というものはないでしょう。しかもそれは基準を守っている。ところが、いろいろ気象条件、たとえば、逆転層だとかあるいは風向だとかいうことによってあるところに、ばい煙がまとまって降るというようなことになって、その企業自体は基準を守っているのだけれども、場所によっては相当濃厚な有毒ガスが発生して流れている。それもやっぱり因果関係がわからなければあなたのほうでつかめないでしょう。
#211
○政府委員(辻辰三郎君) 御指摘のとおり、因果関係が確定しなければならないと思います。
#212
○松澤兼人君 四日市もだめだし、東邦亜鉛もだめだし、それからいま言った、ある山村における発電所、単一の企業、それよりほかに何にも企業がない。そういうところにおいて、基準を守っている煙突から出る有毒ガス、それだってつかめない。全くこれは、さっきも言ったように、こういうむだな論議をしても、何にも現在公害のために悩んでいる一般の国民にとってプラスにも何にもならない。もっと住民の人はそれよりも幾ら医療費をくれるのか、もっと医療費を上げてくれないかといったような、それは国で出すにしても、あるいは府県で出すにしても、市町村で出すにしても、とにかくこれじゃかなわないから、もっと医療費なり、あるいは生活費なりを上げてくれということを望んでいるんじゃないですか。私もこの論議を聞いてみまして、つくづくもうこういうことがはたして公害防止ということに役立つかどうかということ、全くこれは悲観的な感想を持っているわけです。
 小林大臣はさっきからいろいろとお聞きになりまして、私の言うことは間違っているかもしれないけれども、これは他の法律で取り締まれるものの上にこれをつくりまして、この法律があることによってメリットがあるか。あるいは七月一日から実施になるとして、はたしてその受け入れがどういうことになるのか。迅速に受け入れ態勢をつくって、実際に公害に悩んでいる人たち、あるいはまた生命、身体の危険におかされている人に対するあたたかい救いの手を伸べることができるとお考えですか、どうですか。
#213
○国務大臣(小林武治君) この法律は、これは刑法の特例として犯罪を犯した人を処罰する、ある人を処罰する、そういうことが目的でありまして、これによって被害者の救済とか、それは直接には目的としていない。そのことが非常に違うのでありまして、私どもも被害者の救済等については、これは主として民事上の問題、あるいは行政上の問題としてこれがはからわれると、こういうことになっておるのでありまして、現在でも、実は四日市とか、そういうところは、いろいろの工場から排出して、空気が全体として汚染されている。したがって、いわゆる民事的にもいまのところなかなか責任者がはっきりわからぬと、こういう事態にあるが、しかし、被害者は出ている。その被害者をどうするか、こういうことは行政なり、あるいは民事なりの問題として、いま現に政府のほうでは公害被害者の救済に関する法律、こういうことによって一応の手を差し伸べている。内容はまだきわめて不完全でありまするが、しかし、そういうふうな方法を講じておるということでございまして、民事の責任あるいは被害者の賠償、あるいは被害者の救済、こういうようなことと、この法律は直接関係はないということになっておるのでございます。私は公害の被害者を政府がもっとひとつ救済し、これを見てやるということは非常に必要で、いまのあの法律では不十分だということを私も強く主張しておるのでございます。さようなわけでありまして、この法律というものの効果というものについては、それぞれ人によって見方がいろいろあります。しかし、私どもはこれの予防的、抑止的の効果は相当強い、こういうことを考えて、この審議をお願いしておるのでございます。大体私から以上お答え申し上げます。
#214
○松澤兼人君 せっかく大臣の御答弁でございますけれども、もちろんこの法律によって被害者が救済されるということを私言ってるわけでもないのであります。あなた方はこの法律というものが非常にメリットがあるというふうに考えておられるようでありますけれども、私はとても、民事であるにせよどうにせよ、各地の裁判というものが行なわれているけれども、その結果がどうなるかわからないということでありまして、この法律によって何かを処分することができるということにしましても、処分されたというだけの話で、今後そういうことを繰り返してはならないという一つの警告にはなるかもしれないけれども、現に起こっている被害者に対する何らの慰みにならないということを申し上げているわけであります。
 それから、これもいろいろとお話がありまして、大臣からもお話があったのでありますけれども、いわゆる公害監視員制度というものは、その後何か内閣においてお話し合いでもありましたか、あるいは国会が済んでからお話し合いをなさるということなのか、その辺のところがはっきりしませんので、ひとつお答えをいただきたいと思います。
#215
○国務大臣(小林武治君) これは先週の閣議におきまして、私が公害の各種の法律の実施の裏づけとして、保障として、そういうものを設ける必要があるということを申しまして、これは閣議においてもさようなことが必要であろう、したがって公害対策本部において各省の関係者を集めて、そうしてこの監視官を地方公務員にするのか、国家公務員にするのか、あるいはどこに配属するのか、あるいはその職責の内容が、いわゆる公害を監視すると同時に、民間その他からの公害の不安あるいは申告を受ける、あるいはわれわれ検察当局に対してそういうふうな捜査の端緒となるべき告発あるいは申告もしてもらう、いろいろの職務があるのでありますが、これらについては至急その相談をしてまとめるということで、現に法務省からも関係者が出、そうして相談が始まっておるものと、かように考えております。
#216
○松澤兼人君 刑事局長はその各省の打ち合わせに何か関係していらっしゃるんですか。
#217
○政府委員(辻辰三郎君) いまの公害対策本部に対しましては、私のほうの刑事局の参事官が兼務で、かねてから公害対策本部にまいっております。そういう意味におきまして、もちろん関係いたしておるわけでございます。
#218
○松澤兼人君 きのうの午前中の参考人のお話の中に――この法案の中に両罰ということもあるけれども、どうも実際の行為者、つまり従業員ですが、従業員の犯罪行為、故意または過失による行為というものがなければ、法人の代表者の処罰ができないというようなお話があったんですけれども、これは下の、命令を受ける従業員の犯罪行為というものが、的確につかめなければ、上は対象にならないという点は……。
#219
○政府委員(辻辰三郎君) この法案の四条の両罰規定の問題でございます。これはこの四条にございますように、法人の代表またはこの代理人、使用人その他ここに書いてございます従業者が、その法人または人の業務に関してこの二条、三条の罪を犯す、そして犯したときには、行為者を罰するほか、法人または人に対しても罰金刑を科す、こういう仕組みでございます。その意味におきましてこの行為者、排出行為をしたといいますか、行為者について、もちろん二条三条の犯罪が成立しなきゃならないわけでございますが、現実にその行為者が処罰される必要はないわけでございます。この行為者につきまして犯罪が成立すると、そういうことを前提にして、この法人が処罰されるというのがこの両罰規定の趣旨でございます。昨日の参考人のお話の中に、現実に処罰されなければ、法人も処罰されないというふうに受け取れるような御発言があったように私も記憶いたしておりますが、それは法律的に間違いでございます。
#220
○松澤兼人君 そうすると、従業員と申しますか、あるいは下級の作業員、それの不法行為というものがあってからその人が処罰されるかどうかということは別として、あってから法人の責任、代表者の責任が問われるということなんですね。
#221
○政府委員(辻辰三郎君) この行為者について犯罪が成立すると、現実に処罰されるかどうかは別問題といたしまして、犯罪が成立することを要件にして法人あるいは事業主である人というものが両罰規定で処罰の対象になるということでございます。
#222
○松澤兼人君 そうしますと、やはり行為者といいますか、下級の作業員の犯罪行為というものがつかまれて、それが証明されて、そうして因果関係ということで法人の代表者ということですから、下のほうがなくて上ばかりということは絶対ないわけですね。
#223
○政府委員(辻辰三郎君) この行為者にだれが当たるかということにつきましては、先ほど来何回も御説明を申し上げておるわけでございます。必ずしも下の人が行為者に当たるという場合だけではございませんで、だれがこの事業活動に伴って排出をしたかという問題でございます。だから、事案によっては相当上の工場長であるとか、あるいは本社の取締役であるとか、そういう人がこの行為者ということになって、まず犯罪がこの人について成立すると。そうしておいて、その場合にその会社自体も処罰されると、こういう形に処罰の対象は、なるということでございまして、この両罰規定は、これは現行の各種の行政法規にも、この形でたくさんの規定があるわけでございます。この法案だけの問題ではございません。これは法人について刑事責任を問うという場合には、法理論的にこういう形でなければ、この法人については刑事責任が問えない、法人に犯罪能力なしというのが現在わが国の刑法の大原則、大根本理論でございます。そういう関係がございまして、この法人に刑事責任を課します場合には、この四条にございますような両罰規定という形に相なるわけでございます。
#224
○松澤兼人君 どうも法律の原則というものが、いわゆる新しいこういう公害とか、あるいはまた社会的現象とかというものに対してはだいぶ距離があるように思います。これは法律の発達の経過なり、あるいはまた経緯によってそういうことになっただろうと思うのです。私がきのう申し上げましたことは、やはり法律の解釈というものが時代によって変わらなきゃならぬと、まだ法理論というものがそこまで変わっていないから、いわゆる損害賠償責任というような問題は例外中の例外だとあなた方はおっしゃるし、それからまた何か言うというと、そういうことはどうも古い法律の概念からいうと、なじみにくいことだと、こうおっしゃる。もちろんそれは何でもかんでも新しい法理論で法律を考えろということは無理なことだと思います。しかし、新しい酒は新しい皮袋に入れなければならないということですから、法律自体も変わっていかなければなりませんし、われわれは法律が変わっていくことを望んでいるわけで、いつまでも前世紀といっては悪いですけれども、いわゆる個人主義的な時代における財産原則であるとか、あるいは個人の自由であるとかというものが今日まだ依然その勢力を持っているという、そういう法体系のあり方は、それは小林大臣でないけれども、反省しなければならないと思うのです。それはみなわれわれは古い法学で育ってきたものですから、新しい法理論というものに進むことに非常にちゅうちょしていますし、特に内閣の大臣ともなれば無過失損害賠償なんというものは、もう例外中の例外の、また例外だけしか認められないと、新しい法理論の中で、無過失損害賠償なんというものは認められない。それで、きのう庭山教授が言われたような組織責任、組織犯罪というようなこともやはり古い法体系の中ではなじまない概念かもしれません。しかし、一度は個人主義的な法律の体系からあるいは社会法的な考え方なり、あるいは労働法でもそうでしょう、あるいは個人の財産に対する制限というようなことも考えられてきていますし、それでいままでの法体系がそう金科玉条的にいつまでもいつまでも存在していくかどうか。それは原則であるといってもそのままの形で生き長らえていくものであるかということは、これは大いにお互いに研究しなければならない問題であります。
 そこで組織責任あるいは組織犯罪というようなことはもちろんこの法律の中には採用されておりません。そういう法理論あるいは法体系としてそういうことは絶対に成り立ち得ないのか。あるいは時代の趨勢等によってあるいはそういうことを考えてみるべきものであるというふうにお考えなのか。その辺、ひとつ見解を明らかにしていただきたいと思います。
#225
○国務大臣(小林武治君) これは松津委員の言われることまことにごもっともでありまして、この法案自体につきましても、たとえば従来要らないものを捨てるというのはだれも犯罪と思わなかった。それを今度は刑事罰の対象にするなんというのも、これはやはり考え方として一つの飛躍だろうと、こういうふうに思いますし、あるいは両罰規定にしても、また、この因果関係の推定にしても、非常に考えが進んできたと、こういうことでございまして、大体いまの法律というものは保守的なものだということは、これは一般的に言えるのでありまして、ことに基本原則の刑法とか、民法とか、社会の基礎を定める法律というものはそういう傾向がある。しかし、私どもは今度の国会を通じても無過失責任というものはもう絶対だめですと、こういうことを言っておるのではありません。やはり時代の推移に従って公害などという新しい態様の社会悪が出てきたと、これらは過失の証明がきわめて困難、あるいはできないと、こういう事態もあるからして、これはひとつ民法の例外中の例外にしても、とにかく一つの内容についてそういうことを考えていくと、これはやはり非常に時代の推移に沿った考え方でありまして、いまお話のような考え方をもって、これからの法の整備と申しますか、改正と申しますか、そういうことに取り組まなければならぬと、こう抽象的にはわれわれも考えておるのでありまして、いま国会で問題になったこれらも、いま私が申すようにもう無過失というものは絶対にそれは認めないと、こういうふうな考え方ではございません。また、刑事問題につきましては、これはまたいまのところ、過失のないところには刑事事件はないということの大原則は、まだこれは当分の間維持されていくであろうと、かように考えておりますが、いずれにいたしましても、時代に沿うて法律のことも考えていかなきゃならぬということはそのとおりでございます。
#226
○松澤兼人君 刑事局長の辻さん、その組織犯罪、組織責任ということはまだなじまない観念ですか。
#227
○政府委員(辻辰三郎君) ただいまの大臣の御答弁と私全く同じ考えでございます。で、特に付加さしていただきますならば、昨日のいわゆる組織犯罪というお話がございましたけれども、これはやはり一つの御発想であろうとは思うのでございますけれども、やはり現在のわが国の刑事法理論といたしましては、法人についての刑事責任というものをどういうふうにして考えていくかという一つの大きな問題をかかえておるだろうと私は思うのでございます。そういうものにつきまして、私どもの立場は私どもの立場なりでいろいろと研究し、勉強していかなきゃならぬと思います。昨日のお話は、一つのそれに関連する、まあ御発想というものであろうかと私は理解をいたした次第でございます。
#228
○塩出啓典君 この五条の推定の問題につきまして、私、午前中の質問のときに納得をし得ないまま時間がなくて終えたわけですがね、それからあと、亀田委員の質問によりましてちょっと情勢変わってきたと思うんですが、亀田委員が、いわゆる一〇〇の汚染があった場合に危険な状態――一〇〇以上あれば危険だと、そういうときに、三〇ずつの工場が五つあって、それがお互いに共犯理論の上に成立する場合には――お互いに五つの工場が話し合ってそうして三〇排出した、そういう場合は適用もあり得ると、そういうような答弁があったわけですけれども、その場合に、第五条の「当該排出のみによっても」という条項がありますと、推定するという点において非常に大きな違いが出てくる。ということは、この第五条は、「工場又は事業場における事業活動に伴い、」――工場なり事業場が事業活動で、そうして「公衆の生命又は身体に危険が生じ得る程度に」そういう汚染物質を排出していると。そうしてその結果、その範囲にその工場が出している物質と同じ物質によって生命の危険が生じている場合に、その物質をこの工場が出したんだと、そういう推定ができるということがこの第五条の(推定)の規定じゃないかと思うんですね。私はそういうふうに判断するわけです。そうすると、工場が一つの場合、これはできると思うんですね。――二つ以上工場があった場合には、その一つの工場だけでその危険度をこえる場合は推定ができる。ところが、二つの工場から出ているけれども、その一つの工場だけの排出ではたしてその危険度をこえているかどうかということは、これは結局判断はできない。そうなりますと、結局この「当該排出のみによっても」ということによって推定はできない。もしこれがなければ、先ほども言ったように、三〇という工場が五つあった場合には、結局その工場から三〇ずつを出したんだと、そのことについてのやはり推定を働かせることができる。そういう点で、私は、やっぱりこれがあるのとないのではそこに違いが出てくる、そのように判断するわけですよね。その点、刑事局長、これはあってもなくても同じだという、それをもう少しわかりやすく説明してもらいたい。
#229
○政府委員(辻辰三郎君) この第五条の「当該排出のみによっても」ということと、このいわゆる複合公害の場合で共犯例の適用のある場合。――この共犯例の適用のある場合に、この「当該排出のみ」というものが、どういうふうに働くかという御指摘であろうと思うものでございますが、これはやはりこの「当該排出のみ」というのを、共犯としてつかまえるものについて考えるわけでございますから、先ほど、共犯に適用する――共犯例の適用がある場合とない場合と、この「のみ」というものがあることとないことによって何か結論が変わってくるというような御指摘であったように思うのでございますが、そういうことはない、結論は同じであるというふうに考えておるわけでございます。
#230
○塩出啓典君 そうすると、先ほどの共犯が成り立つ場合は、結局その因果関係というものを立証せなければならぬわけですが、その場合に、三〇出している工場が五つあって一五〇になる。で、一つ一つの工場は結局その危険の一〇〇よりも少ないわけですけれども、それでもこういう場合には、「当該排出のみ」というのは五つの工場を全部一緒にすると考えていいわけであって、したがって、先ほどのような共犯が成り立つ場合には当然推定を働かせることができると、そう判断していいわけですね。
#231
○政府委員(辻辰三郎君) 共犯規定が適用になります場合に、これは結局共犯者全部の行為が一つの行為というふうに評価するわけでございます。したがいまして、先ほどの御設例でまいれば、この全部の合計についてこれが働いてくるというふうに考えております。
#232
○塩出啓典君 わかりました。
#233
○委員長(阿部憲一君) 他に御発言もなければ、両案に対する質疑は終局したものと認めて御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#234
○委員長(阿部憲一君) 御異議ないと認めます。暫時休憩いたします。
   午後五時八分休憩
     ―――――・―――――
   午後六時五十二分開会
#235
○委員長(阿部憲一君) 法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律案を議題といたします。
 松澤君から委員長の手元に修正案が提出されております。修正案の内容はお手元に配付のとおりでございます。
 この際、本修正案を議題といたします。松澤君から修正案の趣旨説明を願います。
#236
○松澤兼人君 私は、日本社会党、公明党、第二院クラブを代表して、ただいま議題となっております法案に対して修正案を提出いたします。
 なお、この修正案は、民社党の意見も取り入れて作成されていることを申し添えます。修正案はお手元に配付申し上げてありまずので、その内容は説明を省略いたします。
 最初に申し上げたいことは、この法案は審議すればするほど立法の趣旨や、現代の公害に対する防止の効果、事前の警告、違反の摘発、裁判の結果等に関して何ら確固たる体系や運用の見通しもなく、おざなりの立法であることが判明いたしました。本来ならば、国会としては法案を返上して、練り直しを要求するのが適当であると信ずるのであります。しかし、もし法案をわれわれの主張するように修正することができるならば、内容の補完と運用の改善によって多少の効果を期待することができるのではないかと思うのであります。この見地に立って修正案の提出の理由を申し述べます。
 第一に、法案は、工場または事業場における事業活動により人の健康を害する物質を排出して公衆の生命または身体に危険を生じさせたものを処罰することにしていますが、人の健康は確定可能な有害物質のみによってそこなわれるだけではなしに、物質によらない公害、すなわち振動、騒音、地盤沈下、電波障害等によっても人間の生活環境は著しくそこなわれ、ひいては人の健康、生命身体に障害を来たすものであります。生活環境を保全することが公害罪を提案した真の目的であるべきであって、本法案のごとく、きわめて限定された物質のみを対象にしぼり、健康障害、生命、身体の危険に限っていることは妥当ではありません。
 第二には、人の健康を害する物質は、工場、事業場から排出されるものだけに限定さるべきではなく、同じ有害物質が工場または事業場における事業活動に伴って添加または混入されて人の健康に害を与える場合があるから、少なくとも食品に対して有害物質が添加混入することを取り締まらなければ、公害防止によって人の健康を確保することはできません。修正案は、薬品の混入添加をも対象とすべきであると提案しているのであります。
 第三は、危険を及ぼすおそれがあるという、いわゆるおそれ条項が最初の法務省の案から法制審議会の答申があったにもかかわらず、これをはずし、そのため、その内容があいまいもことなってしまい、本法案の防止措置が有名無実になり、政府が財界の圧力に屈したとか、「おそれ」を取り去ってしまって本法案が全くざる法となってしまったという批判を受けているのではないかと思います。危険または危険の生ずる状態、いわゆる「おそれ」まで取り締まるということでなければ、法の目的を達成することができないし、また警告的な役割りも持つことができないと考えるのであります。
 第四には、第五条において「工場又は事業場における事業活動に伴い、当該排出のみによって」云々とありますのは、当初法務省の原案にはなく、法制審議会の審議に際して挿入されたものであって、この字句の挿入によって複合公害の実態をつかむことが困難となり、四日市、川崎等における人の健康に障害ある物質が多数の企業によって排出する場合を把握することができなくなるのでありまして、むしろこの字句を削除して、直接複合公害を的確につかみ、共同的な責任の追及を進めることが公害防止の実態に即した措置と言わなければなりませんし、法案のあいまい性をなくして問題を明確化するために法案の修正をなすべきであります。
 われわれは、このほかに各種の公害の問題の解決に寄与する修正意見を持っているのでありますが、この国会ではとりあえず上に述べたような修正案を提案いたしまして、残余のものについては、今後の実績にまって法案改正に努力することを考えておりますので、この際、以上の修正案を提案して御賛同を得たいと思うのであります。
#237
○委員長(阿部憲一君) それでは、ただいまの修正案に対し質疑のある方は順次御発言を願います。
 別に御発言もなければ、これより原案並びに修正案について討論に入ります。御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
#238
○瀬谷英行君 私は日本社会党を代表いたしまして、原案に反対をし、修正案に賛成をする討論を行ないたいと思います。
 この原案は、いままでの衆、参両院の審議並びに参考人の意見を聴取する段階で、われわれいろいろと質疑を行なってまいりましたけれども、何ら効果を期待することができないという結論に到達をいたしました。大体この公害防止をするということは、刑法上の責任を追及するということは二次的な問題であって、本来ならば公害の発生源を規制をし、公害の発生を防止をするということに重点を置くべきであろうと思うのでありますけれども、やむを得ず、いわば終末処理場的な意味でこのような法律をつくって、公害の規制をしようとする場合には、抜け道をふさいで、ざる法にならないようにする必要があると思います。ところが、この法律案は、誕生の当初においてまず骨抜きになってしまいました。それは政務次官会議等においても部内からかなり強い指摘があったようにわれわれも聞いておりますけれども、新聞でも一様に「おそれ」の条項を削除したということは財界の圧力によるものであるということを述べております。佐藤総理は衆、参両院のそれぞれの委員会におきまして、そのようなことはないということをしきりに強調をしておりますけれども、各新聞が一様に伝えているということは、よもや、うそとは思われませんし、経営者団体がこの法案を何とかして流してしまおうということで運動をしているということも公然の事実となっております。
 したがいまして、この「おそれ」の条項が削除されたということは、事実上事前にこの公害を防止をするという機能を失ったということを意味するであろうと思います。疑わしきは罰せずということばもありますけれども、このことばは、無実の罪におちいるようなことのないようにという配慮でもって疑わしきは罰せずという刑法上の配慮というものが行なわれているのであって、公害のように原因と結果がはっきりしているものは、疑わしきではなくて、責任が明らかでありますから、これは罰するのが当然であろうと思われます。ところが実際問題としては、この「おそれ」が削除されたということのために、たとえばおそれと実際の危険の境がどこにあるかということでありますけれども、殺人罪と傷害罪、こういうふうに比較をしてみますと、傷害は殺人のおそれがあるわけであります。ところが、殺人罪を罰するだけではなくて、傷害罪も罰するようになっておる。この「おそれ」を削除するということは、たとえば殺人罪だけを罰して傷害罪は大目に見ておく、こういう結果になります。
 したがって、もしも傷害罪がちょっと間違えば殺人罪に変わってしまうということもあり得るわけです。またあまりいい例ではないかもしれませんけれども、強姦とわいせつといったようなことも、これはわいせつは強姦に変わるおそれがある。ところが強姦罪だけではなくて、強制わいせつといったようなことも、刑法上は責任を追及されるようになっております。このように例をあげてみると、きりはありませんけれども、このおそれということを抜きにして事実上の実効を失なうということが、たとえば参考人の意見等におきましても、これはざる法であるというきめつけが行なわれる一番の大きな原因になっているんではないかと思うのであります。
 したがいまして、私どもは、この修正案をここにあらためて提案をいたしまして、必ずしもこの原案が十分ではないということは大臣自身がたびたび言明をされておりますけれども、この十分でない原案を補強をするという意味で修正案をここに提案をいたしました。そうして公害の防止、この法律の目的にかなうように皆さん方の御賛同を得たいというふうに考えております。与野党の御協力を得てわれわれの修正案に満場一致の可決を賜わるように心から祈念をいたしまして、私の討論を終わりたいと思います。
#239
○委員長(阿部憲一君) 他に御意見もないようですが、討論は終局したものと認めて御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#240
○委員長(阿部憲一君) 御異議ないと認めます。
 それではこれから採決に入ります。
 まず、松澤君提出の修正案を問題に供します。松澤君提出の修正案に賛成の方の挙手を願います。
  〔賛成者挙手〕
#241
○委員長(阿部憲一君) 少数と認めます。よって松澤君提出の修正案は否決されました。
 それでは次に、原案全部を問題に供します。本案に賛成の方の挙手を願います。
  〔賛成者挙手〕
#242
○委員長(阿部憲一君) 多数と認めます。よって本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
    ―――――――――――――
#243
○委員長(阿部憲一君) ただいま可決されました人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律案に対し、各派共同提案による附帯決議案が提出されておりまするので、これを議題とし、便宜私から案文を朗読いたします。
   人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律に対する附帯決議(案)
 いわゆる複合公害についても、刑法の共犯の条件がみたされる場合には、本法の適用がある。よって、政府においては、この種事件についても積極的に取締るべきである。
  右決議する。
 それでは、本附帯決議案の採決を行ないます。
 ただいまの附帯決議案を本委員会の決議とすることに賛成の方の挙手を願います。
  〔賛成者挙手〕
#244
○委員長(阿部憲一君) 全会一致と認めます。よって、本決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
 この際、大竹法務政務次官から発言を求められておりまするので、これを許可いたします。
#245
○政府委員(大竹太郎君) ただいまの御決議につきましては、政府といたしましてはその御趣旨を十分尊重いたしたいと考えます。
#246
○委員長(阿部憲一君) なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#247
○委員長(阿部憲一君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
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#248
○委員長(阿部憲一君) 次に、請願の審査を行ないます。
 第六七四号民事・家事調停制度改善に関する請願を議題といたします。
 便宜速記を中止して審査を行ないます。
  〔速記中止〕
#249
○委員長(阿部憲一君) 速記を起こして。
 ただいま請願を審査いたしました結果、第六七四号民事・家事調停制度改善に関する請願は、議院の会議に付し、内閣に送付するを要するものと決定することに御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#250
○委員長(阿部憲一君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 なお、報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#251
○委員長(阿部憲一君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
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#252
○委員長(阿部憲一君) 次に、継続調査要求に関する件についておはかりいたします。
 検察及び裁判の運営等に関する調査につきましては、閉会中もなお調査を継続することとし、本件の継続調査要求書を議長に提出いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#253
○委員長(阿部憲一君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 なお、要求書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#254
○委員長(阿部憲一君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後七時十三分散会
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ソース: 国立国会図書館
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