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1970/04/14 第63回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第063回国会 法務委員会 第18号
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1970/04/14 第63回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第063回国会 法務委員会 第18号

#1
第063回国会 法務委員会 第18号
昭和四十五年四月十四日(火曜日)
    午前十時四十一分開議
 出席委員
   委員長 高橋 英吉君
   理事 小澤 太郎君 理事 鍛冶 良作君
   理事 小島 徹三君 理事 瀬戸山三男君
   理事 細田 吉藏君 理事 畑   和君
   理事 沖本 泰幸君
      石井  桂君    江藤 隆美君
      田中伊三次君    羽田野忠文君
      赤松  勇君    黒田 寿男君
      下平 正一君    中谷 鉄也君
      林  孝矩君    岡沢 完治君
      松本 善明君
 出席国務大臣
        法 務 大 臣 小林 武治君
 出席政府委員
        法務政務次官  大竹 太郎君
        法務大臣官房長 安原 美穂君
        法務大臣官房司
        法法制調査部長 影山  勇君
 委員外の出席者
        最高裁判所事務
        総長      岸  盛一君
        最高裁判所事務
        総局総務局長  寺田 治郎君
        最高裁判所事務
        総局人事局長  矢崎 憲正君
        最高裁判所事務
        総局経理局長  大内 恒夫君
        最高裁判所事務
        総局民事局長  矢口 洪一君
        参  考  人
        (日本弁護士連
        合会副会長)  辻   誠君
        参  考  人
       (元日本弁護士
        連合会副会長) 和島 岩吉君
        参  考  人
        (前日本弁護士
        連合会事務総
        長)      伊藤 利夫君
        法務委員会調査
        室長      福山 忠義君
    ―――――――――――――
委員の異動
四月十三日
 辞任         補欠選任
  中谷 鉄也君     柳田 秀一君
同月十四日
 辞任         補欠選任
  柳田 秀一君     中谷 鉄也君
同日
 辞任         補欠選任
  中谷 鉄也君     柳田 秀一君
    ―――――――――――――
四月十日
 在日中国人の広州交易会参加に関する請願(戸
 叶里子君紹介)(第三一二三号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 参考人出頭要求に関する件
 裁判所法の一部を改正する法律案(内閣提出第
 九〇号)
     ――――◇―――――
#2
○高橋委員長 これより会議を開きます。
 裁判所法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。
 本日は、参考人として日本弁護士連合会副会長辻誠君、元日本弁護士連合会副会長和島岩吉君及び前日本弁護士連合会事務総長伊藤利夫君に御出席いただいております。
 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多忙のところ御出席いただきまして、まことにありがとうございました。ただいま本委員会において審査中の裁判所法の一部を改正する法律案について御意見を拝聴し、もって審査の参考にいたしたいと存じますので、何とぞ忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 なお、参考人の方々には、最初にお一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 それでは、辻参考人からお願いいたします。辻参考人。
#3
○辻参考人 私は、日本弁護士連合会の副会長の辻誠でございます。
 まず最初に、私は、当法務委員会が現在審議を重ねておられます裁判所法の一部を改正する法律案の審議にあたりまして、特に日本弁護士連合会として意見を申し述べる機会を与えていただきましたことについて感謝いたしますとともに、国民の利害に大きな関係を持つ本法案について、委員会が慎重な審議を進められていることにつきましても、深く敬意を表するものでございます。
 日弁連が、本法案になぜ反対し、さらに慎重な審議を願うために、今国会においては一応継続審議に願いたい旨の要望をなぜいたしておるかということにつきましては、すでに要望書あるいは意見書を提出いたしておりますので、すでにある程度御理解をいただいていると思われますし、また貴重な時間をあまり多く費やすことはたいへん申しわけないことであると存じますので、できるだけ簡潔に意見を要約して申し上げたいと存ずるのでございます。
 さようなわけで、日弁連が、本法案に強く反対し、継続審議を願う理由のうち、最も重要な点を次の三点にしぼって申し述べたいと存じます。
 すなわち、その第一は、本法案は、経済事情の変動に応じて、民事事物管轄の上限を十万円から三十万円に引き上げるという、表面上はしごく単純なもののようでありますが、これを深く一歩掘り下げて検討いたしますと、その影響するところはすこぶる大でありまして、日本の裁判機構あるいは体系、すなわち一審を地裁、二審を高裁、上告審を最高裁とする三審制度の体系を実質上乱すものでありまして、国民の裁判を受ける権利に重大な影響をもたらすものであるということができるのでございます。
 第二の点は、少額軽微な事件を簡易迅速に処理する民衆裁判所として、戦後新しい構想のもとに発足いたしました簡易裁判所の機能が、今回の改正法案が実施されますと、全くその機能が失われ、国民はこれによって大きな不利益、不便をこうむるということでございます。
 第三の点は、本法案は本国会においてぜひ通過させねばならないというような緊急性はごうもないということと、現在審議されておりますこの法案の通過を強行されるときは、最高裁と日弁連との相互不信感はより一そう強まり、対立のみぞを深め、今後司法の運営について大きな支障を来たす、こういうことでございます。
 以上が、本法案の本国会通過に日弁連が強く反対し、継続審議を熱望いたすゆえんでございます。
 そこで、まず第一の点についてでございますが、戦後、すなわち昭和二十二年に新しく発足いたしました簡易裁判所が、戦前の区裁判所とは全く性格を異にした、いわゆる民衆裁判所として、少額軽微な事件を簡易迅速に処理する裁判所として発足したものであるということは、裁判所法案が審議されました第九十二回帝国議会の委員会における、時の木村篤太郎司法大臣の答弁にあるとおりでございます。この答弁の内容については、先般畑委員からすでにお述べになっておりますが、重要なことでございますので、私も重ねてその内容をここで御披露申し上げたいと存ずるのでございます。
 すなわち「簡易裁判所は、民事、刑事の輕微な事件のみを取扱うのでありまして、今回新たに設けられるものであります。この種輕微な事件を處理いたしますために、」「簡易な手續によつて爭議の實情に即した裁判をするよう、特に工夫をいたした次第でありまして、この制度は、司法の民衆化にも貢献するところ少からざるものがあろうと期待いたしておる次第であります。」かように木村国務大臣は述べられておるのでございます。
 なお、当時改正されました民事訴訟法第三百五十二条には、「簡易裁判所ニ於テハ簡易ナル手続ニ依リ迅速ニ紛議ヲ解決スルモノトス」と規定し、口頭による訴え提起その他の特則を設けていることからも、一点疑いの余地のないところであるのでございます。
 こうした簡易裁判所の出現によって、戦前の区裁判所というものがなくなって、地方裁判所と区裁判所とが第一審裁判所として事件を配分していた戦前の形は、戦後におきましては、第一審裁判所は、地方裁判所が区裁判所を吸収して地裁一本となったものでございます。
    〔委員長退席、瀬戸山委員長代理着席〕
すなわち、区裁判所が簡易裁判所になったのではなく、区裁判所は地方裁判所に吸収されてしまっておるのでございます。このことは、戦前の区裁判所所在地にはおおむね地裁の支部が設けられたこと、地裁は戦前すべて合議制であったのが、戦後の地裁におきましては、区裁と同様単独制をむしろ原則とする形になったというようなことからも、容易にこの間の事情を物語るものであるのでございます。戦後の第一審裁判所は、本来地裁一本であって、簡裁は、家庭裁判所と同じように、地裁とは全く異質なものであるのでございます。
 かような関係から、簡裁においては、いわゆる選考任命の特任判事によって事件を取り扱わせることができることを認め、さらに民事判決に対する上訴は、第二審が地裁、上告は高等裁判所どまりと、かようになっておるのでございます。最高裁判所の裁判を受けることができないような仕組みになっているのでございます。今回の改正によりますと、第一審の民事事件の半数以上の六〇%近くが簡裁の管轄となり、正規の裁判官による地裁の充実した裁判を受ける権利が、民事事件についてはわずか四〇%となってしまい、しかも最高裁による裁判を求める権利というものは六〇%の事件が失うという結果におちいってしまうのでございます。こうしたことは、国民の裁判を受ける権利に大きく影響し、その権利をそこなうものでありまして、日本の裁判機構の体系が実質的に大きく乱されることになり、これは裁判制度において実にゆゆしい大きな問題でございます。
 本法案は、実質的にこうした重大な影響を持つということ、すなわち司法制度の根幹に関連するものであるということをどうか念頭に置かれまして、慎重に御決定せられたいということを、強く日弁連は主張いたしているのでございます。
 次に、第二の点について申し上げますと、もし本改正法案が実施されますと、簡易裁判所は、地裁の現状以上に負担過重となり、簡裁の設置の趣旨である簡易迅速に民事紛争を処理するという機能は全く没却され、国民はますます裁判所に対する信頼を失うであろうという点にあるのでございます。
 簡裁の民事訴訟事件の審理期間は、統計によりますと、昭和三十一年度が三・八カ月、三十二年度が四カ月、自来徐々にその審理期間が延びまして五・七カ月、四十二年度においては五・二カ月というようになっておるのでございます。
 かように現在でさえもすでに迅速という点が失われている上に、手続面におきましても、法律が定めた訴えの口頭受理あるいは即日審理等、当事者の便宜のために設けられている手続が実施されておらず、いわゆる簡易に事件を取り扱うというかけ込み裁判所としての機能も失いつつあるというのが現状でございますが、その上、最も問題となっていることは、いわゆる質的に問題のある特任判事によって多くの事件が処理されるため、その審理のしかたや判決に対して国民の信頼度が非常に低くなっているという嘆かわしい現状でございます。
 簡裁は、そうした現状をすみやかに改善をはかり、本来の機能を回復させることがむしろ先決問題であろうかと思うのでございます。しかるに、そうした改善策を施すことなく、この上、今回の改正法案が実施された場合、これも資料によって検討いたしますと、本委員会に提出されております法務省からの資料でございますが、もし三十万円に引き上げられた場合の第一審の事件数の推定でございます。法務省提出の資料の一一ページでございますが、昭和四十三年度の場合、地方裁判所が三万八千六百十七件減少し、それと同数の件数が簡易裁判所にいき、それだけ増加するということでございます。この数字は、全体の事件数の二〇・九%ということでございますが、現在昭和四十三年度の簡易裁判所の事件数の五万九千九百二十六件に対する三万八千六百十七件というのが、どういう比率になりますかということを計算いたしましたところ、六五%弱という比率になるのでございます。現在の六五%弱の数の事件が地裁から簡裁へ移される、こういうことになってしまうのでございます。こうした点から見ると、簡裁は、現状以上に審理期間は延び、迅速性を失うことは当然であり、手続面におけるサービス、奉仕ということも全く失われ、簡裁設置の法の精神というものは全くここで踏みにじられる結果におちいってしまうのでございます。地域住民の簡裁に対する期待、信頼というものは、全く失われてしまうのではないでありましょうか。
 私ども日弁連は、そうしたことを真剣に憂えて、現状を改善することこそ急務であり、今回の改正案について、あえて反対せざるを得ない理由
 の第二でございます。
 最後に、本法案の緊急性ということでございますが、法務省及び最高裁は、本改正案をどうしても今国会において通過させたいということでございますが、本法案にはそうした緊急性はごうも見受けられないのでございます。日弁連といたしましては、簡裁事物管轄の問題については、簡裁の性格、あり方というものを十分に論議し、今後の簡裁のあるべき姿というものを明瞭に打ち出して、その上に立って管轄の範囲を定めるべきであると考えておるのでございます。日弁連としては、最高裁にそのような線での協議を進めたいと主張いたしておるのでございます。
 ところが、裁判所は、物価の上昇その他経済事情の変動によって、地裁の事件数が多くなり、地裁の負担が過重になっており、裁判官会同等において強い要望が出るので、地裁の負担過重を軽減するために、簡裁に事件を回し、地裁と簡裁との負担の割合を昭和三十年ごろの状態、すなわち地裁が四二・五%、簡裁が五七・五%という数字に戻したいということにあるようでございます。法務省の本法案の提案理由としては、「経済事情の変動にかんがみ、簡易裁判所が取り扱う民事訴訟の範囲を」改める必要があるというふうに書かれ、提案理由説明書にも、国民の所得や消費の増大、物価の上昇等の経済事情の変動を考慮して云云ということであって、地裁の負担過重による簡裁との事物管轄の調整ということには一言も触れられてはいないのでございます。しかし、最高裁が日弁連と管轄問題について従来協議を進めてきましたテーマは、当初は広く「第一審裁判所のあり方」というのでありましたが、その後「民事及び刑事第一審裁判所における事物管轄の調整について」というふうになってきたのでございます。昭和四十三年の十一月二十七日付で、最高裁民事局から協議の資料として、当時たたき台ということも言っておられましたが、たたき台として弁護士会に交付を受けた書面には「民事第一審裁判所における事物管轄の調整について」という表題で、その第一に「事物管轄の調整の必要性」こういうことで、「民事第一審訴訟事件の新受件数の動向を見ると、」「昭和三〇年度においては、地方裁判所において受理したものが全体の四二・五%、簡易裁判所において受理したものが五七・五%であったのに、逐年前者の割合は増加し、後者の割合は減少して来ている。ことに、昭和三八年度において前者の割合が後者の割合を上回るに至って以来その傾向は著しく、昭和四二年度には、前者が六四・一%、後者が三五・九%となっている。そして、昭和三〇年度と昭和四二年度とを対比すると、第一審訴訟事件の新受件数は全体では増加しているにかかわらず、簡易裁判所の新受件数は減少しており、地方裁判所のそれは著しく増加している。」云々。中略いたしまして、「その結果、地方裁判所の負担が過重となり、未済事件が増加するに至った。そこで、地方裁判所と簡易裁判所の事物管轄を調整し、第一審訴訟事件を地方裁判所と簡易裁判所とに適切に配分し直すことが是非とも必要である。」と、こういう必要性を説かれて、第二に、「事物管轄の調整の構想」として、「第一審訴訟事件の地方裁判所および簡易裁判所の新受件数の割合を昭和三〇年度当時の状態に復させることとし、簡易裁判所は訴訟物の価額が三〇万円をこえない請求について管轄権を有するものとする。」かように書かれておるのでございます。
 このように、法務省の提案理由と最高裁が本法案改正を意図されるところとは、いささか食い違いがあるのではないかと見られるのでございますが、それはそれといたしまして、地裁事件がふえ、未済事件が増加しているということも事実ではございますが、これまた、統計によって見ますと、その事件数というものは、昭和四十年ごろをピークといたしまして、その後は必ずしも地裁においては事件数が増加しておるという現状ではないのでございます。このような状態でありまして、しかも地裁の審理期間というものは、これまた三十七年の十二・九カ月を頂点とし、その後は徐々に期間は短縮されて、四十二年度は十一・八カ月、かように短縮されておるというのが統計による実情でございます。
 このような状態でありまして、最高裁が意図しておられる管轄の調整というものが、裁判所の便宜ということに主眼が置かれ、簡裁の性格、簡易迅速に処理するということ、国民の利益というものがいささか軽視されているのではなかろうかと危惧するものであります。また、それは別といたしましても、この改正法案が一年を争うほどの緊急性がないということは、これによっても当然御理解、御認識をいただけるのではなかろうかと考えるのでございます。
 日弁連といたしましては、この問題について、最高裁との間に設けられております連絡協議というのがございますが、この連絡協議において十分検討し、先ほど申し上げましたように、簡裁というものの性格、あるべき姿というものを明確にし、その上で、簡裁の事物管轄をいかにするかという点から協議することが最も適正な、正しい方向ではなかろうかと思って、最高裁との連絡協議でそうした意見を真剣に出して、審議を重ねようとしていたのでございますが、最高裁は、当初は、「第一審裁判所のあり方」というたいへん幅広い適切な議題を出され、相当柔軟性を持たれていたのでございますが、それが結局は簡裁事物管轄の拡張というふうに限定されてしまい、特に法務省からいよいよ今国会に法案が提出されるということがきまったころからは急に、はなはだ遺憾でございますが、硬直化した高姿勢をもって日弁連に臨まれ、十万円を三十万円に引き上げることだけは承知してもらいたい、その他の問題については別にゆっくり相談しようという態度に変わってこられたのでございます。当初たたき台といわれたものが、そのまま法務省の法制審議会にかかり、それが何らの修正をなされることもなくこの国会に提出されてしまったというのが現状であり、経過でございます。
 もしこのままこの法案通過を強行されますときは、日弁連は、最高裁に、この問題を契機といたしまして、はなはだ遺憾でございますが、強い不信感を持つに至り、両者の対立はきびしいものになり、両者の間には埋めることのできない深いみぞができることは必定であります。今後の司法の運営に大きな支障をもたらすものであって、われわれ司法の一翼をになう弁護士会としては、はなはだ残念であります。国民のためにも申しわけないと思っておるのでございます。
 日弁連といたしましては、この問題については、終始正規の機関にはかって、慎重かつ熱心に論議を重ねており、論議の過程において、当初内部的に若干の意見の相違があったとはいえ、本法案がこのままの形で今国会を通過することについては絶対に反対であり、このことは、去る二月以来正式に、正規の機関によって決定いたしておることでございます。どうかひとつそうした事情も十分おくみ取りいただきまして、ぜひ継続審議に願いたいということを強く要望いたしまして、今日まで、日弁連の正式な活動として、成冨会長以下、その運動を推進している次第でございます。
 何とぞよろしく慎重な御審議をお願い申し上げる次第でございます。
 ありがとうございました。
#4
○瀬戸山委員長代理 どうもありがとうございました。
 次に、和島参考人にお願いいたします。
#5
○和島参考人 当委員会に参考人として意見を陳述する機会を与えられましたことに感謝いたします。
    〔瀬戸山委員長代理退席、委員長着席〕
 私、ただいま辻君から述べられました裁判所の連絡協議会委員として、また、この問題が審議されました法制審議会委員として関係してまいりましたので、そうした角度から若干卑見を述べたいと思います。結論としましては、辻参考人と同じような結論になるわけでありますが、若干視野を変えて申し述べたいと思います。
 一つの事例を申し上げたいのですが、大阪地方裁判所で民事部の法廷が狭隘だ、狭いから、増築しなければ訴訟を促進できないということで、いまから約十年ほど前に、大阪の地理を御存じの方はぴんとくるのでありますが、分室を大手前のほうに設けられたのであります。紙上でお考えになると、狭い法廷より広い法廷をつくったほうが、たくさん開廷ができる、訴訟も促進できる、これはだれも疑わないのでありますが、この決定が裁判所だけでなされて、弁護士会の意見をお聞きにならずにおつくりになったのであります。その結果、訴訟がたいへんな遅延を来たした。近畿の弁護士会では、もう事あるごとに、けしからぬ、けしからぬ、こんなことをして費用を使うて裁判をおくらせるようなことは何事か、いまなおこの問題が続いております。
 これはどういうことになるかと申しますと、民事の裁判は、御存じのように、双方弁護士が代理しますから、本庁でやっておりましたなれば、民事の裁判所は日に五件でも六件でも、あちらこちらと弁護士は走り回って、法廷に出られるわけです。ところが、大手前之町のほうへ行ったために、大手前之町のほうで一つ事件が入ると、本庁のほうへは――午前中はもうそれで拘束されてしまう。それがために、とんでもないことをやったといって、弁護士会は絶えず抗議を申し込みまして、去年、ちょうど法務庁舎が完成しまして、法務庁舎へ検察庁が移転したのを機会に、これを戻すようにとわれわれもいろいろ交渉しまして、やっと半分だけ返ったのであります。この訴訟遅延がどれくらいの割合にのぼるかということは、数字ではまだ出しておりませんが、たいへんな訴訟の遅延ぶりだった。これはもう高裁の長官が、地方の所長が、赴任してくるごとにいつも、申しわけない、申しわけないということで、いまだに続いておる問題であります。
 この一つの事例が示しますように、紙の上で、数字の上で、それから理屈の上でお考えになると、非常に名案のように見えることが、いま申しましたような、とんでもない結果を来たすのであります。何でもないことであります。弁護士会のほうへ、庁舎が狭隘だからひとつ地元の弁護士会で協力してくれ、予算はあるからと、おっしゃって御相談になれば、もっと適切な、能率的な方法があり得たと考えられるのであります。
 今度の問題につきまして、私たちがなぜ反対するか。皮肉な面から言うと、何か弁護士が、簡裁のほうへ事件がたくさんいくと、職業的に不利になるのじゃないかというような皮肉な声を聞くのでありますが、これはとんでもないことで、地方であれ、簡裁であれ、弁護士が事件を頼まれることにおいてはちっとも変わりはないと思います。それよりか、私たちが反対してまいりましたのは、国民の生活に至大な影響を及ぼす救いがたい、たいへんな問題だというので、われわれは反対してまいっておるのであります。全国八千の弁護士の中にはいろいろの考え方はあります。いろいろの経歴の人もあります。その人たちから、組織を通じて正規の委員会をつくりまして、数十回にわたる審議を重ねて、その結論として賛成しがたいということは、何を意味するかということをひとつお考えいただきたいのであります。
 由来、こういう司法制度に関する問題は、物価問題とか国民の生活に直接の影響を持ちませんから、先ほど言いましたような問題でも、自分が当事者にならぬとびんとこないわけであります。言いかえますれば、この種の問題は、国会におかれましても、特に慎重な御審議をわずらわしたいのは、声なき声を聞いていただかないと、適切妥当な処置ができないというところにあると考えるのであります。
 われわれ弁護士会が、日弁連が使命感のもとに、得にもならぬこの問題を、これほど熱心に、これほど血道を上げて反対いたしますのは、いま申し上げましたように、われわれ日弁連会員が、この問題を国民の声なき声を代表して反対するのでなければ、一たんこの問題が実施に移されるようなことがあり、簡単に立法化されるといたしましたなれば、その影響及ぼすところ至大なものがあるからなのであります。私たちは委任状こそとっておらないが、国民全体の代表だという自負のもとにこの反対運動を進めてまいるつもりでございます。
 現在の簡裁の実情から見まして、あるいは地方裁判所の実情から見まして、なるほど訴訟遅延ということはぜひ打開しなければならない大きい問題だと思います。今度の立法を要請される理由は、きわめて簡単に、昭和三十年ころの地方と簡裁との比率に戻すだけだ、これは物価のスライドと経済事情の変更によるのだ、何でもないことだという、きわめて簡単な御説明を私たちは繰り返し聞いてまいっております。しかし、この問題はしかく簡単な問題でございましょうか。私たちはたいへんな問題だと考えております。司法制度の根幹に触れる重大な問題だと考えております。これをただことばどおり承っておると、こうした問題にタッチなさらぬ方から見ると、何でもない問題のように聞こえるかもしれませんが、これを実情に照らして、実際の場に当てはめてお考え願えれば、私たちのこれから申し上げることもおわかりいただけるのじゃなかろうかと考えるのであります。
 この問題を、十万円を三十万円にしますと、まず政府の御説明のように、大体四二・五%は地方の管轄、それから五七・五が簡裁の管轄ということになるのであります。訴訟の促進というのは、にしきの御旗ということに考えられますが、これを地方から簡裁へ移しても、第一審の裁判所としては、はたして訴訟の促進になるかということがまず考えられなければならぬことだと思うのであります。地方のほうで渋滞しておるのを簡裁のほうに移す、これでは本質的な解決にはならない。私たちは、だからこの問題は、日弁連の終始強調しますことは、地方裁判所が渋滞すれば、なぜ地方裁判所を人的、物的に拡充強化して、国民の人権を守ろうとなさらないのか、これがわかり切った論法だと思うのであります。しかし、昭和三十年ころの簡裁と地裁の比率が、ほぼ三十万円にしたときの比率だからというのでは、問題の緊急性といいますか、問題の必要性という面から見ては、何らの効果はない。しかし、効果がないだけであれば、まあまあせっかく強く主張されるのだから賛成したらいいじゃないかという議論も起こるかもしれませんが、この問題は、たいへんな問題を含んでおるわけであります。
 簡易裁判所というものの性格は、先ほど辻参考人も言われたように、皆さんもすでに御承知のように、繰り返して申し上げる必要もないと思いまするが、何より国会でお考え願いたいことは、簡易裁判所は、軽微な少額事件を簡易迅速に裁判するところだからというので、憲法が保障しております資格ある裁判官という、その裁判官の資格を非常に広げておるわけであります。具体的に申しますと、正規の司法試験を受けて二年間修習して、それでも一人で裁判ということは重大だから、五年間は判事補として一人前の独立した裁判はやらせないというのが司法の基本的な姿勢であります。しかし、簡易裁判所は、先ほど言いましたように、軽微な事件を日本の民主化のために簡易迅速に行なう裁判所だからというので、資格を非常に緩和しまして、特任判事をもって充てております。この人的な数字を見ますと、三百九十人が特任判事で、三百五十人が正規の裁判官資格を持った人であります。三百九十人の特任判事と申しますと、これは司法試験に通ってなくてもいい、まあ裁判所の書記をしたり、司法事務に携わってきた人たちの中から、選考して資格を与えておるわけであります。最近は、司法試験のような厳重な試験ではないが、裁判所で特任判事選考試験というものを行ないまして、それに合格した人と、それからその中に約百名ほどだったと思いますが、その人たちは、その試験も受けずに、資格を選考だけで与えられておるのであります。多年司法部へ勤務しておったからというようなことで、事務局長をしたり、そういう管理職のようなことをやってきた人たちが任命されておるわけであります。ここへ、いま申しましたような事件の半分以上、五七・五%の民事事件が移るということは、どういうことでありましょうか。憲法が保障する裁判を受ける国民の権利という観点から見ました場合に、これはたいへんな問題だと思うのであります。簡易裁判所の性格については、それは弁護士会は、かけ込み裁判所の性格を持つというが、必ずしもそうじゃないというような意見もありますが、そうした理論的な議論はしばらく抜きにしましても、実情として五七・五%、私たちの調査ではもっと大きい数字になるのでありますが、その数字は別にしましても、これだけの数字の事件が簡易裁判所のほうで審理されるということは、たいへんな問題なのであります。
 簡易裁判所の事物管轄は、先ほど辻君が言われたように、当初は五千円以下の事件を扱っておりました。昭和二十五年に三万円になり、二十九年に十万円になったというような過程をたどっておるように思いますが、それを三十万円にされるというのが現在の構想であります。しからば、簡易裁判所の事物管轄を考え直す緊急性はあるのか。私は、三十万円にする緊急性はごうもないと思うのであります。しかし、現在の実情から見まして、簡易裁判所の性格をもう一度検討し直して、当初から考えられた国民のための裁判所、庶民生活に密着した、国民の便宜のために国民に奉仕するような裁判所というような性格に戻す必要はないか、この問題は相当私は緊急性を持っておると思うのです。
 最近の大阪の情勢を申しますと、弁護士をしていらっしゃる先生方はすぐぴんとくる問題だと思うのですが、即日和解というのがあります。即日和解というのは、民事のトラブルが起こると、裁判にもかけずに、いろいろ示談をしまして、その解決した内容を裁判所でその日のうちに調書をつくってもらう。和解調書、調停調書、これは最高裁の判決と同じ効力のあるものというので、非常に利用される、国民生活にとって非常に重大な制度でありますが、名のごとく即日和解、その日のうちに双方が裁判所へ出ていきまして、判事の面前で和解調書をつくるという制度であります。ところが、これが現在大阪では二カ月、三カ月先じゃないとつくれない。それほど簡裁は忙しいのです。手がないから、即日和解が、即月和解ならまだしも、翌月、翌々月和解というふうに名前を変えなければいけぬというような実情になっておるのであります。そういう問題だけを考えましても、たいへんなことなんです。
 大阪のことばかり言いますが、大阪では通常訴訟がいま四千数百件です。今度三十万円にしますと、統計を見ますと、約その倍になるのです。連絡協議会でも、私は法制審議会でも質問しましたが、昭和二十九年、三十年当時の割り当てに比率を変えるだけだ、その当時の比率に変えるだけだから、人的には別に増強しなくても、物的に場所的に設備をしなくても、やっていけるのだという御説明であります。なるほど紙の上ではそういう数字は成り立つかもしれませんが、皆さんが裁判官であった場合、現在でさえ、極端な事例かもしれないが、即日和解が三カ月先でもできないというような困っておる裁判所で、一番手数のかかる民事裁判が倍になるということはたいへんなことです。そうすると裁判所側の御説明では、それは大都会の様相だが、ひまなところもあるとおっしゃいます。なるほどひまなところもあるかもしれません。それは東京、大阪、京都、名古屋というような大都会――へんぴなところへ行けばひまなところがあるかもしれませんが、しかし、全体としては、これはたいへんな問題ではないか。そう簡単に、昭和三十年当時の比率に戻すのだから何でもないじゃないかとおっしゃるような問題ではないと思うのです。
 さらに、緊急性を持つ大きい問題は、簡易裁判所の裁判は、辻君が抽象的に言われましたが、今日のような経済事情の変動期には、表へあらわれないたいへんな問題があるのです。といいますのは、不動産事件等で――きのうも私、電車の中で偶然ある弁護士と会うて話をしたのですが、大阪では、十万円の訴額の中で、実質価額何千万という事件が簡裁で取り扱われておりますよ、そんなことをあなたわかっていますかと言って、私は追及されたのです。いま訴訟物の価額は固定資産税の評価額を基準にしておるから、山林とか不動産とかいうようなものは十万円以下の訴額で訴訟を提起できる。ところが、土地開発、それから不動産の暴騰等の影響で、五千坪が八万円という公簿面の評価でいくと、実質価額は一千万、二千万、数百万というような事件はもうざらにあるというのが実情らしいのです。こうした問題は、価額が大きいからむずかしいとは限らぬじゃないかという反駁もありましょうが、やはり不動産事件は事件としては非常にむずかしいということは、皆さん、弁護士じゃなくても、たいがい御存じだろうと思うのです。境界確定の訴訟だとかということになってくると、老練な弁護士でも扱いかねるほどたいへんむずかしい問題をいろいろ内包しておるわけであります。それから簡裁で扱われておる事件は、非常にむずかしい事件がたくさんあります。これは元最高裁調査官の人がある雑誌に書いておられた。この資料は裁判所側へ私たち提供しておきましたが、いろいろ困る問題があります。ですから、こういう問題を地方裁判所のほうに移すということは、国民生活の面から見ると、緊急であり、非常に重大な問題だと考えられるのであります。
 それからまた、今度の問題の御提出のしかたが私はどうも納得いかないのです。人間のからだにたとえて言いますと、どうも手が痛い、手が痛ければ手だけ治療すればいいじゃないか、薬を塗っておけばいいじゃないかというやり方ではいけないので、からだ全体を診察して、対症療法を講じなければ、ほんとうの治療にはならない。ところが、いま簡裁の事物管轄訴額を三十万円に引き上げるという改正を企図しておられます。引き続き刑事の問題も――刑事の問題は、さらに基本的人権に関するシリアスな問題が伴うてくるから、慎重を期して別にされたのかもしれませんが、いま言いますように、一審裁判所の調整ということになれば、むしろ国民生活の面から見てぜひ改めねばならない問題、それから総合的に、民事も刑事もおしなべて、全体としてそれはどうすればいいかというような形で審議されなければならないと考えます。この意味におきまして、再開しました連絡協議会において私たちは、この問題を局部的に取り上げるのは適当じゃないから、どうです、ひとつ刑事も民事も、それから地方の一審問題も総合的に御相談しようじゃありませんかという提唱をしたのであります。しかし、裁判所側は非常に急いでおられるようだから、五年も十年もかかってはとおっしゃるかもしれぬから、ひとつ大いに勉強して、一年という期限を切って裁判所と弁護士会が御相談しようじゃありませんかという提唱をいたしましたが、遺憾ながら、それらの問題は御相談には乗ろうと思うが、この問題だけは別に考えてもらいたいというのが、裁判所側のお答えであったのであります。しかし、胸に手を当てて考えますれば、いま言いました、われわれは国民生活という面から、国民の人権にどう影響するという面から、この問題を取り上げなければならぬのじゃないかと考えます。その意味におきまして、簡裁の管轄ということになれば、簡裁は、民事も刑事も非訟事件もいろいろやっておるわけです。これらの人たちがどういうふうにこれを受け入れていけるか、どうすることが国民生活にいい影響を及ぼすかというふうに、ひとつ問題を整理して、お考え直しを願う必要があるのじゃなかろうかと考えるのであります。
 私は、法制審議会でも連絡協議会でも、現地の実情を調査しておられますかということをいつも言うのでありますが、そう申し上げると裁判所側は、所長会同でも長官会同でも、いつもこの問題は、なぜ早くせぬのかというふうに言われる、これが世論だ、現地の状況も絶えず統計を見ながら調査しておるというお答えであります。しかし、ここにも私は大きい盲点があると思う。先ほど冒頭申しましたように、裁判所側が地元で非常に優秀な頭脳で緻密にお考えになった計画でも、場所一つの選定を誤ると、金を使うて訴訟促進の目的が、訴訟を根幹から遅延させるような結果を生むのであります。私から端的に言いますと、やはり地元のそれぞれの弁護士会に御相談になって、それは所長さんも、このごろは民主的になっておられるから、下々の声を聞いておられるかもしれないが、しかし役所では、長官がそうおっしゃったら、いや私たちは反対ですということは、私は役人生活の経験はないから言えませんが、おっしゃりにくいのじゃないかと思うのです。長官が、最高裁のほうで事物管轄訴額を改めようと言うておられるが、皆さんどうですかと言ったら、それはごもっともですとおっしゃるだろうと思うのです。われわれ弁護士だとそうは申しません。やはりこれは考えてもらわぬとこうなりますぞ、実際われわれの立場からは賛成できませんと、忌憚のない意見を出します。しかし、そうした声だけで実情を把握したとお考えになると、とんでもない結果を見る。今度の手続においても、そういう非常な盲点があるのじゃないか。端的に言うと、弁護士だけでなくてもけっこうです。地元の人たち、学識経験者も交えて、実情はどうか、どうしたほうがいいかというふうに、もう一つ下へおりていって、肩をたたきながら相談なさった上で立案されると、そういう盲点がなくなるのじゃなかろうかという気がいたすのであります。
 結論としましては、もう一度退いて、この問題を国民的視野から、人権の視野からお考え直しいただいて、慎重審議をするという趣旨で継続願う。私たちも協力いたします。日弁連等も協力態勢をとっております。この前も、ひとつ勉強して一年以内に結論を出そうじゃありませんか。これは一年以内といっても、一年十日過ぎたらというわけじゃありませんが、それくらいの情熱を示してこの問題に協力の態勢をとっておるのであります。私たちは、この問題が強行されれば非常に憂慮すべき事態になるんじゃないか。そういう点において、先ほどは日弁と裁判所、法務省との協力態勢にひびが入るんじゃないかという面から辻参考人は言われましたが、私は、いま言いました国民生活の面から、それから実情に適した制度を樹立しなければいかぬという点から、この問題は継続審議にしていただいて、ひとつ私たちの協力の場を与えていただきたい、まずこういう意見を開陳いたします。
#6
○高橋委員長 それでは伊藤参考人。
#7
○伊藤参考人 伊藤でございます。
 私は、この問題に関しまして、日弁連の中にも各種の考え方、意見がございますし、そしてまた、そういうものが私の事務総長在職中に書面あるいは口頭で述べられておりますので、そういう点を御紹介するということを主として申し上げたいと思います。
 この問題に関しましては、大きく分けて三つの考え方があるのでありまして、一つは政府案の考え方、すなわち最高裁の考え方でございまして、現在の簡裁制度を前提として、昭和二十九年以降の経済事情の変動に応じた訴額の引き上げをしてほしい。それは実質的には昭和二十九年、三十年ごろの簡裁の実情に戻すにすぎないんだという考え方であります。これに対しまして反対説は、いま辻及び和島参考人が述べられましたように、根本的には、簡裁の性格、本来のあるべき姿から見て、元来、通常の訴訟事件というのを簡裁で扱うのは不適当である。したがって、訴額の引き上げということは絶対に反対だという考え方であります。もう一つは、折衷説といいますか、修正説といいますか、この考え方は、経済事情が変動しているということはこれは事実であるから、ある程度の訴額の引き上げはやむを得ないだろうが、しかし、それによって生ずる各種の弊害を個々的に是正する方法を講ずべきだという考え方でございます。もっともこの折衷説には、基本的な考え方、弊害の是正方法、その具体的な方法、あるいはその時期とかという面につきまして、非常に幅がございますので、これを折衷説という考えで一まとめにするのがいいかどうかは多少問題があるかとは思いますが、ともかくいずれにも属しないという意味で、折衷説と申し上げておきます。ただ、政府案そのものに対しては反対だ、すなわちいま提案されている法案を無条件で通すということには反対だということにおいては、これは反対説も折衷説も全く一致しているわけであります。
 そこで、この三説がどういうふうに違っているかということを、ごく簡単に申し上げたいと思います。
 その点は、お手元にございます「自由と正義」に私名義のレポートがございますので、そこに概略は紹介してありまするが、それを要約して申し上げますと、大体実質的な争点は大きく分けて三つになる。これはまさに辻君の言われたところでありまして、第一の争点は、簡裁の性格あるいは本来のあるべき姿をどうとらえるか、そうしてまた、このことと、現在の簡易裁判所制度というものとはどういう関係に立っているかという基本問題が一つであります。二つ目は、その基本問題と切り離して、現在の地裁と簡裁の訴訟事件の負担の実情から見て、これを調整しなければならぬというような緊急性があるかどうかという問題、これが第二点。それから第三点としまして、かりに調整するとしても、政府案のような一律訴額引き上げという方法がはたして妥当かどうか、言いかえれば、それによってどんな弊害が生ずるか、その弊害に対する手当てはどうかという具体的な問題、これが第三点であります。
 そこで、まず第一の基本問題でございまするが、この点につきまして反対説は、簡易裁判所というものは民衆裁判所である。たとえば英国における民事のペティセッション、刑事のマジストレートコート、こういうものと同じ性質のものである。だから、民事は、本来は調停とか和解とか支払い命令とかいうことを取り扱うだけで、刑事は令状を取り扱うだけである。したがって、通常訴訟というものは、本来の一審裁判所である地裁に持っていくべきものだ。このことは裁判官が、特任判事が五〇%以上ある、あるいは上告審が、昔の裁判所ですと上告審は大審院であったのが、いまは最高裁までいかなくて高等裁判所になっているということによって明らかである。ところで、現在の簡易裁判所というものは、裁判所法の立法当時は、まさにそういうものを想定したものである。しかるにかかわらず、昭和二十五年、二十九年の訴額の引き上げによって改悪が行なわれて、そうしてその性格が変わってきているのだ。だから、本来からいえば、もとに戻さなければいかぬのだ。言いかえれば訴訟事件そのものを簡裁から全部はずしてしまって、地裁へ持っていかなければならぬ。これが理論的な根拠になっているわけであります。したがって、訴訟事件の地裁の負担過重というものは、地裁の強化、拡充によって行なわなければならぬ。それを簡裁の訴額の引き上げによって行なうということは、理論的に間違っているのだ、これが反対説の主張であります。
 それに対して最高裁といたしましては、簡裁の本来あるべき姿、純法理的にいって本来あるべき姿については、これはまだ十分に研究する必要がある、問題点も多い。比較法的に見ましても、小額軽微な事件についての特別なそういうふうな裁判制度というものを設けているのは、これは世界各国どこでもそうだ。また、当事者の利害という点からいっても、訴訟の迅速、経済ということも、また当事者の利益に非常に重要な問題であるから、その点も考えなければならぬ。それからまた、審級制度とか、そのほか日本の全裁判制度に影響してくる問題であって、非常に多くの問題があるから、これを反対説のいうように、そういう民衆裁判所がいいかどうかということは、結論は直ちにいまは言えない。しかし、ともかくそれは今後とも協議は続けるし研究もする。ただ、現在の地裁と簡裁の訴訟事件の負担に関する実情からいえば、非常に地裁の負担が重い。現在の裁判所法の立法当時も、簡裁の性格というものをそういうふうな純然たる民衆裁判所として規定したかどうかということは、これは必ずしも言えない。少なくとも民事訴訟事件というものは簡裁に残したし、そうしてその訴額を旧区裁よりも引き上げるというふうな意向はなかったのだ。だから、現在の簡易裁判所というものは、一部においては旧区裁の権限というものも承継している。したがって、その性格もある程度は承継しているのだ、こういうふうに述べているわけであります。
 それに対しまして折衷説は、先ほど申し上げましたように、幅が非常に広いのでありまして、折衷説の中にも、この根本問題に関しては、反対説と同じ考えの方も相当ございます。また、いま申し上げましたような最高裁の考え方と同じような考え方の方もあるようであります。
 次に、緊急性の問題に関して、これは先ほど来お二人が言っておられますので、統計上の問題は省略しますが、要するに、昭和三十年ごろが地裁が四二、三%、簡裁が五七%ほどであったものが、いまは地裁が六五%ほど、簡裁が三五%ほどに逆転している、このままでは地裁がパンクする状況だ、そこで、とりあえずそれを調整するために、訴額を引き上げる以外にないのだ、こういうのが最高裁側の考え方でございます。
 これに対しまして反対説側は、統計上はそうなっているけれども、実際に地裁が過重負担とは言い切れない、審理期間の問題その他から考えても必ずしも過重負担ではない、特に簡裁は、もしこれを実行した場合に非常な過重負担になって、簡裁自体が麻痺状態におちいるから、したがってとうていその緊急性というものは考えられない、ことに今日まで最高裁部内では、先ほど申し上げました根本問題の解決のための努力をしていないじゃないか、こういう主張をしているわけであります。
 折衷説は、これに関しましては、ある程度緊急性は認めざるを得ないのじゃないか、統計上の問題はともかくとして、現実に第一線裁判官の声もあるし、また、われわれのところへ寄せられた地方の弁護士の声、たとえば京都なんかでは、地裁は次回期日まで半年もかかる、ところが簡裁ではかんこ鳥が鳴いている実情だという声もございます。また、山梨あるいは新潟等から寄せられたものにも、同じような声がございます。そこで、たとえば手形事件とか貸し金事件とかいうような金銭債権事件で、しかもたいした争いもない事件、こういうような事件は、いまの経済事情からいって、十万円というのはいかにも低過ぎる。相当程度引き上げても差しつかえないのじゃないか。しかも手形、貸し金その他こういう金銭債権の事件が、訴訟事件の比率からいえば相当数を占めている、こういうことを考えれば、ある程度引き上げても差しつかえないのではなかろうか。ことに立法当時の簡裁の性格をどうとらえたかということは別としまして、少なくとも現在の訴額十万円の簡易裁判所制度というものは、昭和二十九年以後できているわけでありますから、それを前提とする限り、二十九年以降の経済事情の変動というものを全く無視するということはおかしいじゃないか。したがって、根本問題の解決までには非常にいろいろな問題がございますので、とうてい二年や三年では期待できない。できないとなれば、とりあえずの手を打つということも必要ではないか。こういう意味で、緊急性というものもある程度是認するという考え方であります。
 しかし、だからといって政府案に無条件に賛成はできない。一律に訴額を三十万に引き上げれば、いろいろな弊害が出てくるわけでありまして、たとえば先ほど来、例があげられておりまするように、不動産事件であるとかあるいは金銭債権事件にしましても、争いのある事件なんかには相当複雑なむずかしい事件がございます。元来、管轄制度の本来の趣旨からいえば、むずかしい事件は地方裁判所に、簡単でやさしい事件は簡易裁判所にというのが本来の趣旨であります。ところが、これを訴額一本でいけば、訴額が低くてもむずかしい事件もあるし、訴額が百万、二百万でも非常にやさしい事件もあるはずでございます。
 そこで、この調整、言いかえれば、訴額にかかわらず複雑難解な事件は地方裁判所との競合管轄にするとか、あるいは当事者の申し立てに基づいて地方裁判所に移送しなければならぬというようにして、その弊害を是正する。
 次に、簡易裁判所には特任判事というものがある。特任判事は、中には質のいいのもございましょうが、一般的にはあまり期待できないと考えられます。そこで、そういうむずかしい事件、複雑な事件に関しては、立法的に特任判事の職権を制限するとか、あるいはそこまでいかないとしても、事件の配点に際して、そういう特任判事には複雑困難な事件を配点しないという行政措置をとる、こういう方法によって弊害を是正する。
 それからもう一つは、簡裁事件の上告審は高等裁判所になっております。したがって、判例不統一ということが生ずるおそれがある。ところが、現在の民事訴訟法におきましては、判例不統一を生ずるようなおそれのある場合には、高等裁判所はそれを最高裁判所に移送しなければならぬ移送義務が課せられているわけでございます。ところが、その移送義務に違反して移送しなかった場合に、救済される道が閉ざされているわけでございます。そこで、そういう場合には、特別上告理由として、判例不統一を来たすような場合には、高等裁判所が上告審として判決に対しても上告ができるように民事訴訟法を改正する、そういう方法によって判例不統一という弊害は救済できる、またすべきである。
 それから第四に、御承知のように、簡易裁判所におきましては、訴訟代理人は裁判所の許可があればしろうとでもなれるということになっております。地方裁判所以上は弁護士でなければなれない。そこで、簡易裁判所の事件がふえれば、非弁護士の訴訟代理というものがふえて、いわゆる三百がばっこするおそれがあるのじゃないか。それに対しまして、簡裁で非弁護人の訴訟代理を許可する場合に、そういう複雑な困難な事件とか、ことに今回もし訴額を引き上げた場合には、その引き上げによってふえた、上がった事件については、非弁護士の訴訟代理を許可しない、弁護士以外の訴訟代理を許可しないという運用をとって、その弊害を是正してほしい。それから、先ほど和島先生が言われましたように、東京とか大阪とかの簡裁というものは、現在相当忙しいわけであります。おそらく現状のままで五割とか六割という事件がふえた場合には、東京、大阪の簡易裁判所は非常に困ると考えられるわけであります。これに反しまして地方の簡裁は、かんこ鳥が鳴いている簡易裁判所が相当あるわけです。また物的施設にしても同じことが言えるわけであります。そこで、そういう人的、物的なアンバランスを現実に即した方法で人員の配置転換を行なうとか、物的施設の拡充を行なうというふうな手を打って、弊害を是正してもらわなければならない、こういう考え方が折衷説の考え方でございます。
 ただ、折衷説にいたしましても、いま申し上げましたのは、折衷説の現在までにあらわれた一応基本的な考え方であります。その内容はさらにもっと具体的に検討しなければならないかもしれません。その内容を検討するためには、やはり一年程度延期して、そうしてこの調整をはかるにしても、いま申し上げましたような弊害の是正方法を研究するための一年間程度の延期は必要だという考え方もあるわけでございます。日弁連におきましても、昨年は八月以降こうした問題の審議を始めまして、そして十一月二十七日までは裁判所とのいろいろな協議に入るかどうかということを争われてきて、結局十一月二十七日に協議に入りまして、そして十一月二十七日以降本年の三月六日まで数回協議を重ねてきたわけであります。そのうち実質協議に入ったのは十二月の二十四日でございます。その前はその前提問題の討論が行なわれただけでありまして、十二月二十四日以降の実質協議は主として緊急性の問題、すなわち地裁と簡裁との負担が実際にどの程度アンバランスになっているか、過重になっているかという問題、それからもし訴額を引き上げた場合に、簡裁がはたしてやっていけるかどうかというふうな、先ほど申し上げた説明によりますと、いわば緊急性の問題が主として討議せられていたわけであります。
 その間に日弁連に対しましては、この問題が具体的に提起されたのは昭和四十三年の十二月、抽象的なものは昭和四十二年の十月。もっとも最高裁に言わせれば、昭和四十年の九月三十日にこの連絡協議を開くという、いわゆる両総長間のメモができた際に、その問題を提起したと言っておりますが、これはともかくとしまして、抽象的に提起されたのが四十二年の十月、したがって最高裁はすでに二年二カ月やっても結論が出ないじゃないかということを一つの理由にしておりますが、しかし、具体的な形であらわれたのは四十三年の十二月からであります。四十三年十二月にこの問題があらわれてから、私が就任前、四十四年の一、二月ごろだと思いますが、もうこのころからすでに地方の会員からは、ことにへんぴな簡易裁判所の所在地なんかに住んでいる会員からは、ある程度訴額を引き上げるべきだ、しかし、複雑困難な事件については地裁との競合管轄という趣旨で進めてほしいという書面も参っております。
 次いで、昭和四十四年九月に、この問題を日弁連で協議するため、いわゆる合同会議というものが再開されて後、たとえば東京第一弁護士会あるいは東京第二弁護士会その他の会員からも、絶対反対というだけではなく、日弁連としてはもっと積極的に建設的な具体的意見を出すべきだという声が再三起こってきております。
 そうして四十五年の一月になりましてからは、その具体的意見というものが書面でも提出されております。ただいま申し上げました修正折衷説、それに大体似たような意見が書面で提出されてまいりました。それからまた会長室やあるいは事務総長室にも会員が来訪されまして、同様な意見が述べられておる。あるいは抽象的に絶対反対だけではなくて、もっと具体的な、建設的な意見を提出して、そして最高裁との協議を進めたらどうか、そうしなければ協議というものは行き詰まりになるじゃないかというふうな意見が述べられてきたわけであります。
 そこで二月になりまして、私と矢島会長代行とで、何とかこの問題の局面を打開しなければならない、そのためにこの問題を一応理事会にはかって、理事会の議案として提出して意見を聞いてみようじゃないか。この理事会というのは、全国の単位会の会長は全員理事になっております。その他もなっておりますが、全部で七十名で構成されているわけであります。そのほかに正副会長十一名加わりまして、八十一名で構成されているわけであります。この理事会にはかることになり、そして二月二十一日にこの議案を提案して、ただいまの最高裁の提案理由、反対説の主張、それから折衷説の理由、そういうものの資料を出し、その内容も説明して意見を聞いたわけであります。
 その結果、ここに速記録がありますが、結論だけ正確を期するために読んでおきます。「矢島会長代行より、大勢を伺っていると、折衷案が非常に数が多いようであるが、これを徒らに採決をしても如何かと思うので、折衷案を基本として、理事者が合同委員会と協議して善処するというふうに、お委せ願えないかとの提案があり、(異議なしとの声あり)」最後にもう一度、私からその点の取りまとめの結果を確認しておきたいという発言をしたわけであります。「もう一度いまの取纏めの結果を確認しておきたい。折衷案というものを基礎にして、折衷案といっても非常に幅が広いから、それで、その具体的内容は理事者及び合同委員会に一任していただく。」こういうことで差しつかえございませんか、それに対して異議なしということで、一応理事会というものの結論が出されたわけであります。
 ただ、その結論が一体どういう効果を持っているかということについては、多少疑義があるのでありまして、これは方針を打ち出しただけであって、具体的な意見というものは確定していない。具体的な意見というものは、正副会長、すなわち理事者、合同会議に一任するということになっておる以上は、具体的な意見が出なければ、正式意見の決定とは言えない。また、具体的な意見が、もし昭和四十年十二月十九日の日弁連の総会の決議に相反しているということになるならば、それは効力がないのではないか、こういうふうな異議や見解があるわけであります。しかし、正式にその問題を、つまり理事会結論の法的な性格とか効力というものは今日まで論議はしていないわけであります。
 次いで二月二十四日に、この合同会議の有志によって、先生方のお手元にもあると思いますが、民事事件に関する簡易裁判所の事物管轄拡張案に反対する意見の原案が作成されました。この原案中には、従来の反対説のほかに、東京第二弁護士会からまた折衷説というものが一応取り入れられているわけであります。ただ、この意見書と理事会の結論とは、一見矛盾するのではないかというようなことも考えられるわけでありますが、しかし、その点につきましては、結局論議はされていないのでありまして、これは折衷説といっても、それからいま申し上げました反対意見というのも、いずれも政府案そのものに反対であるという意味においては一致している。そして反対意見というものも、折衷説を排斥するという積極的な内容までは含んでいないのだから、矛盾していないのだというふうな説明で、ほぼ通ってきているようであります。この反対意見というものは、三月六日の裁判所側との連絡協議に再度提出されております。
 ところが、三月九日に、御承知のように、法制審議会で政府案が可決になって、そして自民党の政調会に回されるという段階になったわけであります。そこで、これを何とか打開するために、いわゆる一年延期説というものがこの前後に出てきたわけでありまして、一年延期説ということによって最高裁との対立を避けようとして一応提案したわけでありますが、結局最高裁の拒否によって、三月六日の段階ではだめになったわけであります。この一年延期説というのも、最高裁との対立を避けるという意味では、一種の折衷的な考え方であると思いますが、ただ、一年延期ということについても、その結果どうするかということは、受け取り方が違っていると思います。すなわち、反対説からいえば、これは反対運動を推し進めるための時間かせぎという受け取り方をしているのでありましょうし、折衷説からいえば、その間に何とか円満にまとめようという考え方をしていると思います。
 次いで、これがだめになりましたので、何らか具体的な意見というものをこの際まとめる必要があるのではないかということで、三月十三日の正副会長会議にその議案を提出いたしました。その結果、一応の結論が出たわけであります。これも正確を期するために速記録を朗読いたしますが、議題は「簡裁民事事物管轄問題の経過報告並びに対策の件」という議題で、経過の報告がなされた後、「五十嵐副会長より、この要望書案は私と伊藤事務総長及び二弁の意見を総合してできたものである。これがよいか否かは本月十六日の合同委員会に上程して決定する予定で決定されればそれが日弁連の意見となると思う。これは総会にかけず、主として合同委員会で決定して国会方面に出して理解して貰うよう全力を挙げたい旨を述べ、要望書案を読み上げ、これを三月十六日に採決して貰いたいし、裁判所、法務省に確約をとりつけて貰いたい。また是非鈴木委員長にこれをとりまとめるようお願いしたい。勿論合同委員会で決らない場合もあるが、今それを論議するのはどうかと思うし、おそらく納得すると思う旨を述べ、これを了承した。」こうなっておりまして、そしてそのときに読み上げた要望書案というものは、
  簡易裁判所事物管轄調査問題につき、左のとおり要望致します。
   要望の要旨
 一、簡易裁判所の基本的性格及び簡易裁判所制度の本来的あり方並びに地方裁判所の充実強化については、今後とも法務省を含めた法曹三者間において慎重に研究協議し、できる限り速かにその具体案を樹立実現すること。
 二、簡易裁判所の民事々件事物管轄調整に関する法務省案は、前項による対策確立に至るまでの、地方裁判所の負担過重を調整するための臨時的・応急的対策であること。
 三、前項の法務省案は、つぎの附帯条件を付して、昭和二十九年以降の適正な物価水準にスライドする限度で、簡易裁判所の管轄となる訴訟物価格を修正するものであること。
  (1)複雑困難な事件及び経済的価格が訴訟物価格に比し高額な不動産事件は、本来、地方裁判所の管轄とすべきであるが、取敢えず民事訴訟法第三十条二項及び第三十一条ノ二の運用によつて地方裁判所において審判することとし、他面、現在地方裁判所の管轄事件中簡易裁判所の管轄として差支えないものも若干ある。それ故、これらの諸点を速かに検討して、順次その立法化をはかること。
  (2)特任簡易裁判所裁判官に対しては、原則として、今回の調整によつて簡易裁判所の管轄となるべき民事々件を配点しないこと。
  (3)民事訴訟法第四百六条ノ二の運用につき、立法の精神を十二分に生かして活用すべく、かつ、速かに同条違反を特別上告理由となるよう同法第四百九条ノ二を改正すること。
  (4)今回の調整によって、簡易裁判所の管轄となる民事々件につき、非弁護士が介入することのないよう、弁護士に非ざる者の訴訟代理を原則として許可しないよう運用すること。
  (5)今回の事物管轄の調整に伴い、簡易裁判所の地域別に生ずる負担の不公平、事務処理の不適正を招来しないよう、速かに必要な人的・物的ないし司法行政的対策を講ずること。
これがそのときに作成されたものであります。ところが、この正副会長会議で結論が出た具体案は、原案でございます。確定はしておりませんが、これが三月十六日の合同会議に提出されましたけれども、これは出席者の反対によって否決されまして、そうしてその後、これは皆さんのお手元にいっておると思いますが、この要望書案というものがその合同会議で作成された、こういう経過をたどっているわけです。
 この正副会長会議の結論も、いま申し上げましたような議事録の経過でございますので、その性格とかあるいはその効力がどうかというような問題もあると思いますが、いずれにいたしましても、弁護士会内部におきましても、この問題は、各種の利害の対立もございますし、意見もあるということを御説明申し上げまして、参考意見の開陳にかえます。
    ―――――――――――――
#8
○高橋委員長 それでは、質疑の申し出がありますので、これを許します。鍛冶良作君。
#9
○鍛冶委員 いま伊藤さんの言われたことはたいていわかったのですが、一番重要なことですから、私はあとのほうを詳しく聞いて、それを参考にしてわれわれ法務委員会で裁判所の案に賛成したいのです。
 要するに、いまあなたの言われた最後の議事で、ここに書いてあるのは三月十三日に日本弁護士連合会で正副会長の会議で決定した案ですね。
#10
○伊藤参考人 それは決定と言えますかどうか、その法律的問題は私の意見は差し控えますけれども、先ほど速記録を読み上げたああいう経過ですから、それで御承知願います。
#11
○鍛冶委員 そのときに、理事会を開こうということできまったことであることは間違いないのですね。そういうことでしょう。私は、いまあなたの言われた三月十三日のことを聞きたいのだが、正副会長の会議で大体きまって、三月十六日にそれをはかった、こう言われたが、その三月十三日に正副会長会議できまった、こう言われるのは、ここでいま言われたここに書いてあるこれですね。
#12
○伊藤参考人 その点は、先ほど申し上げましたように、合同委員会に上程して決定する予定で、合同委員会で決定されればそれが日弁連の意見となるので、これを合同委員会にかけるということが決定したわけです。
#13
○鍛冶委員 理事会とか、合同委員会というのがよくわからないのだが、この点を明瞭に、合同委員会とはどういうことであるのか、理事会とはどういうことであるのか、これをひとつ聞かしてもらいたい。
#14
○伊藤参考人 日弁連の機関は、弁護士法によれば、役員としては、会長、副会長、理事、監事、これだけが役員でございます。そのほかに総会、代議員会がございますが、会務の執行はこの役員によって行なうということになっております。ついでに、会則によりますと、会則の第五十八条には、「会長、副会長及び理事は、理事会において会務を審議する。」そうして理事会の権限として第五十九条に「左記の事項を審議する。」として、「一、本会の運営に関する重要事項」その他ございますが、これが基本になってくるわけであります。
 そして、合同委員会と申しますのは、会則の第八十二条に、「本会は、必要があると認めるときは、理事会の議を経て、特定の事項を行わせるため、特別委員会を置くことができる。」「特別委員会の組織、権限及び議事手続について必要な事項は、規則をもつて定める。」この八十二条に基づきまして臨司対策委員会というものができているわけでありますが、それと裁判所、弁護士会の連絡協議委員というのがあるわけなんです。この連絡協議委員と臨司対策委員の合同会議がすなわち先ほど申し上げました合同会議になるわけでございまして、この委員会の性格が一体どういうものか、会長の補佐機関なのかどうかという点でありますが、少なくとも会則上は会長、理事会以外には独立の会、執行機関というものはございませんので、やはり合同会議というものも会長の補佐機関であるというふうに私は理解しております。
#15
○鍛冶委員 正副会長で大体のことをきめて、そして理事会で決定する、こういうことに聞いてよろしゅうございますね。ところが、三月十六日に決議にならなかったというのだが、私の聞いておるところでは、ほんのわずかの会員が反対したんだが、それが有力なのか、数は少ないけれども有力であってできなかったんだが、大多数は正副会長会できまったことに賛成であったんだ、こういうふうに聞きましたが、それには間違いないでしょうね。
#16
○高橋委員長 ちょっと発言される方に申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得てから発言されるようお願いいたします。
#17
○伊藤参考人 三月十六日の合同会議は私、出席しておりませんので、その経過はわかりません。結果を聞いただけであります。
#18
○辻参考人 三月十六日に開かれました合同委員会に私は出席いたしておりますので、その経過、結果を申し上げます。
 この合同会議におきましては、先ほど説明されました正副会長の方が御相談の上つくられました要望書なるものが上程されましたが、これに対しては大部分の方が反対意見でございまして、結論としてこれは否決されたということでございます。
 なお、つけ加えて申し上げますが、この合同委員会は、先ほど伊藤参考人が申し上げましたように、臨司意見対策委員会と裁判所・弁護士会連絡協議委員の合同会議でございますが、臨司意見対策委員会というのは、設置の当初から単なる補助機関のみにとどまらず、実際に決定をし、それを実行していくということが理事会において正式に認められている委員会でございます。なお、正副会長会議というものは、公の機関として会則にあるものではございません。
 なお、つけ加えて申し上げさしていただきたいのでございますが、二月二十一日の理事会において、先ほど伊藤参考人が述べられましたようなこの問題についての――これも決定であるかどうか私もよく存じませんが、結論においては理事会はこの合同委員会と理事者に善処するようにおまかせをする、こういうことになっておるのでございます。そのおまかせするということによりまして、二月二十四日の合同委員会においてこれを十分に審議いたしました結果、提出されております民事事物管轄拡張案に対する意見書というものがそこででき上がり、そして認められたのでございます。この合同会議には、在京副会長あるいは矢島会長代理も出席されておるのでございますので、私どもは理事者と合同委員会と協議してこの文書ができ上がったものである、かように考えておるし、そのように取り扱ってきておるものでございます。
#19
○鍛冶委員 私は辻君に伺ったのではなかったけれども、お述べになったのなら承っておきますが、私は聞いたのではなかったが、まあよろしゅうございます。
 それなら辻君に承りますが、あなたのほうから一番先に日本弁護士連合会として重要なものをお出しになりました。私はそれを主にしてこの間ここで質問しておるのですが、これはただ単に三月と書いてあるだけで、三月幾日どこでやったのか知らぬが、これはどういうことで決定したのですか。
    〔委員長退席、瀬戸山委員長代理着席〕
ちょっといまの話を聞いてみても、連合会の決定でなければならぬと思うが、その連合会の決定というのが何であるのか。いま言われれば合同会議というのは確かなものでないようだし、理事会でいつやったのか、その点はひとつ明瞭に、何月幾日どういう会でこういうことを決議したか、これをはっきり申してもらいたいと思います。
#20
○辻参考人 昭和四十五年三月、簡裁事物管轄問題に関する要望書、日本弁護士連合会という表題がつけられておる書面は、先ほど申し上げました二月二十一日、理事会が合同会議と理事者にこの問題を付託いたしまして、二月二十四日の合同会議におきまして、先ほど申し上げましたような民事事物管轄拡張案に反対する意見というものが正式に採択されて、でき上がったのでございます。
 なお、この合同会議におきまして、簡裁事物管轄拡張案に対する日弁連の活動をする機関として、実行委員会というものが設けられたのでございます。その実行委員会が三月十九日に開かれまして、国会方面に対する要望が焦眉の急に迫っておるということによりまして、三月十九日即刻この文書を作成いたしたものでございまして、これは日本弁護士連合会の正式な意思をしたためた文書でございます。
#21
○鍛冶委員 それは三月十九日はどういう会できめられたのですか。日本弁護士連合会の何会できめられたのですか。
#22
○辻参考人 先ほど申し上げましたが、さらに御理解を深めるために繰り返して申し上げます。
 合同会議において実行委員会というものをつくり、この実行委員会においてこの問題に対する活動をしていくということになり、その実行委員会が三月十九日にこの要望書を作成した、こういうことでございます。
#23
○鍛冶委員 伊藤前事務総長に承りまするが、正副会長が原案をきめて、合同会議をやられた。それは合同会議は成り立たなかったようだが、それらのものと意見が違って、そういう別のものをつくって、日本弁護士連合会の名前を使ってやって差しつかえないものですか。あなた知らぬと言われるが、その点はどう思っていますか。伊藤さん。
#24
○伊藤参考人 非常にむずかしい問題でございまして、ただ私はこの十六日以降の、これはおそらく十六日に原案ができて、そして十九日に最終決定になったものだと聞いておりますが、これをつくるについては、正副会長というものは直接は関与していなかったはずであります。その後三月十九日に最終決定になる際には関与したのかもしれませんが、それはよく存じません。
#25
○鍛冶委員 どういう権限でやるかわからぬもので、こういう名前をこしらえて、この間も、連合会と書いてあるのは、連合会と書いてあったら連合会じゃないかと言ってうしろのほうでやじった人があったが、まことにどうもそういうことでいばってこられても、どうもこれはいばれる性質のものじゃないと思うのだが、われわれは、私ここで言っておるのは、これはあなたが書いてこられたから私はそこに重きを置いてこれを主にして質問しているけれども、私らが聞いておるのは、その前にあなた方のほうのいきさつを聞いて、大体において日本弁護士会の会員の意向は折衷説であるか何であるか――こうだと思ってやったのです、これをいかにもどうも金科玉条のように言われるから、私はこれだけじゃないことを言うのだが、それはそれだけにしておきましょう。このものはそういうものであるということをここで明瞭にしたのだから、申し上げぬことにしましょう。
 これは時期のことで言うてみてもしようがないため、辻君に聞きますが、ただ経済上変動があった。物価が上がったということだけ言っていると言われるけれども、私らはそういうことでこの問題をやっておるのじゃない。事件が変わってきますと、だんだんものの取り扱いの価額が大きくなってくるのですよ。したがって、小さい価額の取引が少なくなって、だんだん取引が大きくなってくる。したがって、小さいものは少なくなって、取引価額が大きくなる。それで自然にいままで簡裁にいっておる事件が減って地裁へだんだんふえていくのだ、こういうことから考えておるのです。これはいろいろ議論してもしようがないが、私は違うところを申し上げるのですよ。それから地裁が減っておると言われるが、地裁も減っておるが、簡裁はなおさら減っておるのだ。これは統計を見られれば三十九年だったが一番ピークなのです。事件は両方ともに減っておるのです。その点は社会情勢がよくなってきたでしょう、景気がよくなったからでしょう。その点は両方なんだ。それは地裁だけが減って、簡裁が減っておらぬのじゃないのだ。両方とも減っておるのだが、それを合わせると簡裁が激減して地裁が激減してない。それからまただんだんふえていってひどく開いておる。そのことをひとつ考えられてみられたほうがいいのですが、あなたどう思いますか。
#26
○辻参考人 鍛冶委員の言われますように、経済事情の変動あるいは取引の形態が変わってきた、そのために簡裁、地裁の事物管轄の両者のふえ方が変わっておるというような趣旨、これは一応一つの理由であるということは私も認めるのでございます。しかしながら、重要なことを見落としておられるのではなかろうかと思うのでございます。実は「自由と正義」に出ておりますが、「国民に密着した簡易裁判所の実現」ということについて某裁判官が意見を述べておられるのでございます。それによりますと、朝日新聞社が例の交通事故事件の損害賠償請求訴訟について追跡調査した結果、訴訟になったのはわずか四%にすぎない。これでは一体国民というものははたして裁判所に期待しておるのかどうか大いに疑問である。個々の裁判官がそれぞれの与えられたワク内で最善の努力をしておられるのはよくわかるが、ただその努力を一つの力にまとめ上げるための司法行政的施策の不足を感ずる。かように裁判官自身が述べられておるので、私も全く同感でございます。訴訟事件が最近多少また減ってきた、訴訟事件が減ったことをわれわれははたして喜んでいいでございましょうか。私はこれはむしろ悲しむべき現象だと、かように考えておるのでございます。
 これまた、ある現職裁判官が書かれておるのでございますが、戦後二十年たった今日、わが国は人口、経済活動ともに飛躍的に増大したから民事訴訟もおそらく飛躍的に増加しているであろうとだれでも想像するであろう。ところが統計によると、昭和四十年度第一審民事訴訟の受理件数、地裁、簡裁合わせてですが、合わせて戦前の平常時昭和七年から十六年の十年間の平均の八二%にしか達していない。戦前よりも減っておるわけです。これだけ日本の経済が発展し、国民生活あるいは取引が増大しているにもかかわらず、訴訟事件は八二%に減っておる、一体これをどういうふうにわれわれは受けとめたらいいのでございましょうか。西ドイツのそれの人口あたりから受理件数を考えてみると、西ドイツのそれの十分の一しかない。西ドイツの人口と比較してわずか十分の一の民事訴訟の数字にすぎない、こういうことを言われております。はたして日本の裁判所が国民から信頼され、ほんとうに国民に密着した裁判所としての機能を発揮しておるでありましょうか。私は特に簡易裁判所についてこれを申し上げたいわけです。
 せっかく司法の民主化ということを志して考えられてでき上がったこの簡易裁判所は、全く骨抜きになってしまっている。昔の区裁判所的な仕事をされるためにこうした現象が起きておると私は思うのであります。あの家庭裁判所をごらんください。家庭裁判所は昭和二十三年の発足です。その発足以来、あの家庭裁判所の努力、PR、あれが国民生活にしみ込んで、そうして国民は家庭事件、少年事件について家庭裁判所のあの輝かしい業績を大いに買っておる。期待しておる。何か家庭的な問題が起こればすぐ家庭裁判所にかけ込んでいく。家庭裁判所における受付などは、調停にしろ申し立てにしろ、あるフォームをこしらえて、それに書き込めば簡単にできるようになっている。簡裁は一体そういう努力をしておられるかどうか、こういうことを私は申し上げたい。どうかその努力をしていただきたい。先ほどかんこ鳥が鳴いていると言われる。だから地裁の事件を持っていこう、こういう考え方ではなくて、なぜ、かんこ烏が鳴くように、事件が来ないのか。国民の中には裁判所に行って解決してもらいたい紛争がもっとたくさんあるわけです。それが裁判所に行ってもあてにならない、期待できない、こういうことからやむを得ず事件屋に頼んだり、あるいは町のボスに頼んだりして事件を解決しておる、ゆがんだ解決をいたしておるわけでございます。先ほど京都でかんこ鳥が鳴いているという例を言われたのでございますが、京都の某氏がそういうことを言われたようですが、なおよく調査したところ、あれは間違いであったということを和島参考人に言われたと先ほど言われましたので、念のためつけ加えておきます。
#27
○鍛冶委員 和島さんにちょっと伺いますが――伺うよりか聞いてもらいたいのは、いま伊藤君の言われたように、折衷案でいろいろな欠点のあることを言われましたが、私もその点を受けてここで十分質問して裁判所に対する要望を言うし、今後における改良についての意見も述べておるのです。なおまた皆さんとも相談して、今後に対する附帯決議でもやったり、いろいろなことをこれから考えようと思っておるのです。こういうことを言っておることをあなたは御承知ですか、御承知でないのですか。これはかりに言ったのを知っておっても、おまえの言うのでは足らぬという意見ですか、あまりかたくない意味でですよ、この点をひとつ聞かしてもらいたい。
#28
○和島参考人 先ほどから私もお答えしたいと思っておったのですが、これは申し上げるまでもないことだと思って、また時間の関係で言及しなかったのでありますが、審議の過程においては、先ほど私が一言で言いましたが、八千人の代表者が集まって審議すれば、折衷説も出れば一部賛成説も出るわけであります。しかし、結論としては、この折衷説はただいまのところ日弁が外部に対して申し上げる意見としては成立しておらない、これははっきり申し上げられます。先ほどこれに関連いたしまして、日弁の名前で出ておるが、その書面ははたして正規の文書かという深刻な御質問があらわれておりましたが、これは辻参考人が申しましたように、ことに国会議員の皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、われわれとしては正規の機関にはかってその正規の機関によってきまったものを国会にも日弁連の名において提出しておるわけであります。なお言いますれば、弁護士法によってきめられた特別委員会の結論がその権限に基づいてできたものであって、その間執行機関である正副会長会議において単に問題を提出されたが、正規の機関にはかってそれが否定されたら、これは決して決議じゃないのであります。ですから御心配なく、私たちは法律家でありますから、そういう権限を優越したり、また手続において日弁連の名を詐称したのじゃないか、利用したのじゃないかと言われるようなことは、絶対いたしておりません。これは責任をもって答えておきます。
 先ほど来伊藤参考人は非常に……(鍛冶委員「ぼくの言うのはそういうことじゃない。」と呼ぶ)それにお答えしておるつもりであります。過程のことをいろいろ御報告されましたので、あるいは誤解を招いたのじゃないかと思いますが、結論としては日弁連の名において国会に提出し、また裁判所に提出したものは、われわれ責任をもって正規の機関にはかって作成したものであるということだけは御信用願ってけっこうだと思います。過程において、御質問のように、いろいろの案が出たことは事実であります。しかし、それらのいろいろの審議の結果、結論が出たというところにこそ、かえって御信頼願い、御考慮願わなければならぬ重大な問題があるのではないかということを申し添えておきます。
#29
○鍛冶委員 最後に、辻君に、これは辻君とぼくとの関係で、私はあんたを一番よく知っている。弁護士会と裁判所と協調してやらなければならぬということを極力主張する。しかも君が日本弁護士連合会の事務総長のときだったと心得ておるが、高橋義次君が連合会会長だった。時の長官である横田喜三郎氏と話が合わぬ。それで私のところへ相談に来た。そのときに私は、横田君ともう一回話をし直しなさい、わからぬ人でないはずだ、こういうことは相談してもらわなければ困る。
    〔瀬戸山委員長代理退席、小澤(太)委員長代理着席〕
相談せられぬなら、これからあんた一切お互いにかってでやらなければならぬということになりますよ、そうしなさい、私も言うが、私が言ったということを言ってくださいと言ったら、わかった、そして話ができるようになった、こういうことで、それからたいへんうまくいっておったことは、一番よく知っているのはあんただと思う。しかるにここ二、三年前からそれがこわれて衝突がぼつぼつ出るようになった。これは何でだと考えてみた。嘆かわしい限りだと思う。世上いうところによると、青年法律家協会というものができていて、そのものから推されないと東京弁護士会長になれぬそうだ。だから弁護士会長になると、青法協から推されたことをやらなければできないようになってから裁判所と合わぬようになった、こういうていますよ。うそならけっこうです。うそならけっこうだが、世上みなそういっています。それは嘆かわしい。辻君がおればそういうことはないものだと思うのに、いまなおうまくいかぬ。かつてのちょっと例があるのだ。この点は、君がおればうまくいくと思うのにうまくいかぬというのだが、もっと上手にうまくやれそうなものではないか。いま言うように、この法案を出すときだってちゃんと相談してやらなければならぬ。それをあとになってわんわん反対して言ってきたって、いまさら聞くわけにいかぬ。そこらの点を考えて、もう少し、言いたいことは言ってもいいが、協調しなければいかぬということがわかったら協調するようにやってもらうことを君に希望する。どう思いますか。
#30
○辻参考人 裁判所と司法のあらゆる問題について弁護士会が協力する、協議する。できるだけ円満にやっていくという点においては、私も全く同感であり賛成でございます。ただ弁護士会の立場、弁護士会の使命というものをわれわれは常に考えるわけでございます。やはり弁護士会の使命というのは、司法制度に対する、あるいは人権問題についてほんとうに国民の期待にこたえるという、そうした重要な基本的な使命ということを根本に置いて、腹にしっかりおさめて、あらゆる問題について裁判所あるいは法務省と協議する、こういう姿勢はやはりくずすべきではないと私は考えておるのでございます。
 先ほど、鍛冶大先輩が私に対して苦言を言われました。全く四十年九月三十日の最高裁と日弁連が取りかわしましたあのメモ、これは鍛冶先生が非常にそのとき努力をされ、その結果ようやく――当時臨司問題を契機として最高裁と日弁連とが鋭い対立状態にあったさなか、当時の高橋日弁連会長が何とかして最高裁と臨司問題その他について十分話し合いをしたい、
  〔小澤(太)委員長代理退席、委員長着席〕
対立状態をできるだけ解消したいということから、鍛冶先生にも協力を求められ、当時の横田長官とも高橋会長が会われまして、私、当時事務総長をつとめておりましたので、常時高橋先生のお供をして最高裁に参り、長官に会い、裁判官に会い、あるいは事務総局にお会いしたわけであります。すでになくなられました高橋義次先生は、そのためにほんとうに身命を賭してということばを御本人使われましたが、そういった熱意をもって最高裁と交渉に当たられ、あるときなどは雨の中を夜、最高裁の事務総局の方を訪問して、どうかひとつこういうメモの取りかわしをしたい、そうすることによって最高裁と日弁連とが意思の疎通をはかって、今後はいろんな問題について協議をしていこうではないかということを言われ、最高裁もそういう点を十分に御理解いただいて、あの九月三十日のメモというのができ上がったのでございます。私は自来約二年間、四十年と四十一年に事務総長をつとめたのでございますが、幸い最高裁と日弁連とは非常に円満に幾つかの問題について協議を進めてきたのでございます。この連絡協議というのも、そのメモに基づいてでき上がったのでございます。
 ところが、はなはだ残念なことに、この連絡協議の場が、臨司の意見の実現をはかるために設けられたものであるかのように誤解をされるような発言が、ある時期に裁判所側にあったのでございます。私はこれはそういう真意ではないと、こう現在でも思っておるのでございますが、しかしながら、そういうふうに読み取れるような発言があったために、弁護士会側では、この連絡協議に対して大きな期待を持っていたのが、その期待がだんだん薄れ、さらに裁判所に対する不信感というようなものが出てまいったのでございます。もちろん、そうした不信感は最高裁も日弁連に対してお持ちになったことであろうとは思います。日弁連が、この連絡協議の場において、必ずしも当初期待された、われわれが、高橋会長が意図された意思の疎通を十分にはかって、日本の司法制度の発展のために協議をしよう、こういう趣旨が十分に生かされぬような運営が、日本弁護士連合会側の態度によっても若干あらわれてきた。それが裁判所に対して不信感をかもすことになり、相互不信というみぞが深まってきたのでございます。
 そこへ加えて、第一審裁判所のあり方という議題がこの連絡協議に出されまして、そして当初は一審裁判所のあり方について全面的に基本的な面からも検討をする、こういうようなことで、連絡協議でも必ずしも事物管轄のみに限定してやるものではないということでございましたが……(「答弁は簡潔にしましょう。」と呼ぶ者あり)申しわけありません。できるだけ簡潔に、もう少しで終わりますから。――日本の司法のためにたいへん重要なことと私考えますので、その経過を申し上げるわけで、そうした議題の出し方等につきまして、やはり若干そこに意思のそごを来たしまして、ますます連絡協議というものがぎごちないものになってしまった。そのためにここで十分協議をすることができなくなったということも、この法案についてこうした結果になっておる一つの原因でございます。
 しかしながら、四月一日に就任いたしました成富会長は、ただいま鍛冶先生が言われましたように、何とか最高裁と胸襟を開いてこの問題について十分協議をしたい、それについては副会長の諸君も協力してくれということで、四月四日に、全国から参りました新しい副会長――私も新しく副会長になったのでございますが、協議をされ、十一名の副会長も全員協力を誓いまして、そしてこの法案についてどうか今回は継続審議にしていただきたい。一年間でよろしい、その間に十分最高裁、法務省とも日弁連は話し合いをする、そうして虚心たんかいに、ほんとうに簡裁のあるべき姿、第一審裁判所のあるべき姿というものを検討した上で、一年間以内にこの簡裁の事物管轄問題については結論を出そうではないか、こういうことから私ども今回の要望をいたしておる次第でございます。どうかそこらの点を十分国会議員の諸先生には御理解、御認識いただきまして、簡裁問題について国民が実際どういうふうにいま受けとめておるのか、ほんとうに簡裁というものを信頼しておるかどうかということを、私どもも資料を提供いたしますから、どうかひとつもう少し実情をお調べいただいて、ほんとうに国民のためになる司法制度の改善、改革ということをぜひお願い申し上げたいと存ずる次第でございます。
 たいへん長いこと時間をとりまして、申しわけございません。
#31
○高橋委員長 ちょっと速記をやめて。
  〔速記中止〕
#32
○高橋委員長 速記を始めて。
 発言を求められております瀬戸山三男君に発言を許します。
#33
○瀬戸山委員 参考人の方にちょっとお伺いしておきたいと思います。
 それは、いま委員長は専門家と言われましたけれども、私はしろうとの、国民の一人として、そういう感じで御意見を承っておきたい。
 先ほど来、いきさつはよくわかりませんが、いわゆる日弁連としての反対といいますか、少し時間をかしてくれというような前提のもとにいろいろ意見を承りました。その中で、私は、実は簡易裁判所そのものの実態を存じません。存じませんが、先ほど御意見の中にもありましたように、わが国の風習といいますか、国民の性質上、裁判所には、今日はややよくなったのかと思いますけれども、何か非常になじみにくい人種――と言うとおかしゅうございますが、国民性があります。欧米の国民のように、何かあればすぐ弁護士さんにまず相談する、あるいは何かもつれそうだとすぐ裁判所に飛び込む、こういうものと違って、ぎりぎり、たとえば病気だと、もう医者にかからなければ死ぬぞというようなときでなければ、特に裁判所あたりに行かない、そういう習慣が残念ながらあります。
 そういうことで、先ほどのおことばの中にもありましたが、裁判所というものは法の支配人というか、近代国家ではやはり司法に携わっておる裁判所あるいは弁護士、こういう方に常に社会生活上の問題を相談し、あるいは最後の決着をつけてもらいたい、これはもっとあってしかるべきだと思うのです。そういうふうに簡易裁判所というものは、昔のように地方裁判所が県にあるいは一、二カ所支部がある、こういう性格でなしに、近所隣というわけにはいきませんけれども、手近なところに裁判所があって、これはどうももつれそうだというときにはすぐそこへ行く、こういう習慣といいますか、法律というものは日常生活に非常に楽なものだ、これが国民の社会生活を非常にスムーズにやっていくものだ、こういう習慣をつける必要があるのではないかと思います。
 そういう意味において、戦後新たに簡易裁判所が設けられておるのじゃないかと私は思うのです。しかし、国民の側では、まだ裁判所という名前だけで、裁判所に出入りすると人から何か妙に見られるのじゃないかという考えがあると思います。それにしても近所にそういうものがある、いつ出入りしてもこわいところでないという意味においては、簡易裁判所という制度は非常に必要な制度じゃないかと私は思っております。まだまだそこまでなじんでおりません。こういうものは相当時間をかけないと、国民性ですから簡単にいかないと思いますが、私はしろうとなりにそういう考えを持っておるのですけれども、先ほど来御意見を承っておる中に、そうではないと思いますが、何かそういうお考えがあるのかなというような感じを受ける御発言がありました。というのは、そういうつながりのことばではなかったかもしれませんけれども、簡易裁判所という制度は、どうもいまの三審制度からいって、最高裁の審判を受ける機会をなくしてある、これは国民が裁判を受ける権利を何か制限しているというか剥奪しているというか、そういう結果になる、また、簡易裁判所の裁判官がどういう人々か私はよく知りませんけれども、質がどうも低い、裁判官でない――裁判官でないと言うとおかしゅうございますが、裁判官たる本質的な知識といいますか、素質といいますか、そういう人でない者が裁判をする、国民の裁判を受ける権利を何か制限している、こういう結果になるような、したがって、裁判がその信頼を失うことになる、ことばは違いますが、そういうふうな趣旨の御発言がありました。
 そこで承りたいのは、この日本弁護士連合会の反対理由は、そういうところにあるのか。この問の当委員会で野党の皆さんから、本質論があるのだというお話がありました。きょうの御意見はそれに立っておられるような気がいたします。そこで現行法の簡易裁判所の制度、これは制度上不適当なんだ、あるいは制度上は、裁判の民主化というたてまえからはいいのだけれども、その運営が、必ずしも民事訴訟法の簡易にするとかいう点で、いろいろ欠けておるから不適当である。制度上、こういうものは、さっき申し上げましたように、国民の裁判を受ける権利を制限する、あるいは剥奪する、こういう結果になりがちなんだからだめなんだ、制度そのものが不適当か、あるいは制度はいいが、その運営がいわゆる簡易裁判所としての責務を果たしておらない、実質が伴っておらない、したがって不適当である、どちらにお考えなさっておるかということを、ひとつ辻参考人、和島参考人から承っておきたいと思います。
#34
○辻参考人 ごもっともな御質問でございます。私ども特に民事裁判の使命というものを考えますと、やはり両面があると思うのでございます。一つは理非曲直をただす、真相を究明して正しい法律の適用をして正義を実現する。それによって民事事件を解決し、法秩序を維持していく、国民の法律生活をそういう秩序あるものにしていく、こういう使命が一つの面であり、これが、考えようによっては、中心的な使命であろうと思うのでございます。第二には、民事についてはできるだけ実情に即して、簡易迅速に国民の中に入って民衆とともに紛争の解決をはかってやる、こういう具体的に紛争の実情に即して解決をつけていく、こういう面と二つの面があろうかと思うのでございます。
 後者のほうが、まさしく簡易裁判所がそういった方向を指向して、ごく軽微な簡単な事件を、むずかしい裁判ということによらずに、実情に即して裁判所が当事者とひざつき合わせて、たとえば野ら着でやってきてもすぐその場で、あるいは仕事着でやってきても十分にその当事者の意向を聞いて、時間をかけ、ひざつき合わせて、そうして納得のいく紛争解決をしてやる、こういう司法の民主化ということを企図されて簡易裁判所というものが発足し、先ほど申し上げました木村国務大臣が、司法の民衆化に貢献するための簡易裁判所である、こういう説明をしておられるわけでございます。
 私、あの方面に住んでおりますが、渋谷の簡易裁判所などで一時、一週間に一回夜間審理をされたようなこともございます。こういったくふうなどもある時期にはなされておるのでございますが、その後だんだんに簡易裁判所の事件が管轄が拡張されてふえてきたり、あるいは昔の区裁判所的な頭でやはり真相を究明し、法律を正しく適用して判決してやるのが簡易裁判所においても必要であるというような観点からかどうかは存じませんが、民事訴訟法が特則――特別の規則を設けて、簡易裁判所は口頭で申し出しても受理してよろしい、即日すぐ審理を聞いてもよろしいとか、判決などはごく簡略でよろしいとかいっておるにもかかわらず、そういう取り扱いをされずに、やはり地裁と同じような相当むずかしい手続を経て、上訴された場合にこの判決が破られることなどを危惧される面もありまして、判決などもやはり地裁に似たようなものを書こうとされる、だからなかなかできなくなる。したがって、当初ほんとうに予想されましたような簡易迅速な裁判というものがだんだん離れていっておる。簡易裁判所の制度というものはあくまで生かすべきであって、ただ残念なことにこれが運用面においてそこなわれてきたために、簡裁に対する国民の信頼感が失われてきているのだ。ほんとうに簡裁の特色を生かして、民衆に解け込んだかけ込み裁判所、民衆裁判所としての機能を十分に発揮できるようにしてもらいたい。家庭裁判所がそういう形にだんだん成長してきておるわけですから、やればできないことはないと思うのでございます。
 そういう意味で、簡裁というものは特殊なそういう任務を持っているんだということを申し上げて、なるべくそういうふうな事件の処理ができるように、事物管轄の範囲もそういった基準で簡易に迅速にやれる事案かどうかということを基準にして、やはり管轄の範囲を定めるべきだ、こう申し上げておりまして、簡裁制度は、私ども日弁連としても決して反対しているのではなくて、ただ運用面を改善してほしい、こういうことでございます。
#35
○和島参考人 私にも答えろということでありましたから、簡単に辻参考人の意見に補足してお答えいたします。
 私たちも簡裁制度そのものを否定する考えはだれも持っておりません。ただ問題は、本来の姿に戻さなければいかぬというのが日弁連の主張であります。民衆に親しまれる、少額軽微な事件を簡易迅速に行なうという本来の使命に戻さなければいかぬというのが私たちの考えであります。ところが、先ほど来申しますように、逐次訴額を上げ、簡裁の特質を失わしておる現状、さらにそれに拍車をかけるような今度の三十万円の事物管轄の拡張に反対するわけであります。大阪の私たちは……。
#36
○瀬戸山委員 その点だけでいいんですから、簡単に……。
#37
○和島参考人 簡単に、聞いていただきたいので申し上げたいのですが、大阪の実情を調べましたら、口頭受理、これは民衆が裁判所に行って、こういう裁判を起こしたいからと口で言うて手続する。口頭受理の制度を簡裁で用意しておったのでありますが、それがどうかというとできない。やっておらない。やれないのだというのであります。人が足りぬからやれない。それから即日和解は、先ほど申しましたように三月も先でないと、その日に出なければいかぬものが三月も先でないと受け付けられないというような実情で、民衆に親しまれる、せっかく民主化のために出発をした簡裁が、この当初の使命を離れていくところに大きい憂慮を持っておるわけであります。
#38
○瀬戸山委員 私がなぜそういう点をはっきりお尋ねしておきたいかといいますと、当委員会の質疑応答がありました際に、簡易裁判所というのは、三審制度、最高裁までいく制度が否定されている。したがって、いろいろ好ましくないのだというような印象を受けるような議論があるわけです。先ほどの皆さんの日弁連を代表しての御意見も、何かそういうふうに受け取れるような感じです。そうしますと、まさに本質論でありまして、簡易裁判所というのはあるのが間違いであるというような印象、結論になるおそれがあります。
  〔「そんな議論はやってないよ」と呼ぶ者あり〕
#39
○高橋委員長 私語を禁じます。お静かに。
#40
○瀬戸山委員 ないとは言わさないんです。簡易裁判所、たとえば三十万になりますと、先ほどの資料にもありますが、いろいろ御意見等もあります。これもまた量がふえる。そうするとその分だけ最高裁の裁判を受ける権利がなくなるじゃないか、こういう意見が出るのです。ないとおっしゃるけれども、そういう論理になってきておる。そうしますと、この簡易裁判所制度自体がおかしいのじゃないかということをおっしゃるのかなという感じがしたから、念のため伺ったわけであります。簡裁制度というものは、私はなるほど未熟なところがあると思います。実態は知りません。いろいろとお話を聞いておるとですよ。しかし、こういうものは、できるだけ手近に裁判所というもの、民衆というか国民が司法、法律、法の支配と始終密着して、先ほどお話がありましたように、秩序その他の社会生活をスムーズにするというわが国の習慣をつくりあげることが私は大切だと思っておるのです。まだまだそこまでいっておらないと思います。また一面、いろいろ質疑応答を聞いておりますと、なるほど民事訴訟法の簡易裁判所に対する特則が十分行なわれておらない。また行なわれておらないのは、いろいろ先ほどもお話がありましたが、口頭でやっても、権利関係があるから、やっぱり書いてもらいたいという場合がある。あるいは判決も、理由を多少書いておらなければあとでわからなくなってしまうと困ると裁判所が心配して、なかなかあの特則に書いてあるように、全く簡略にというわけにはいかないような御説明もありました。そこで私は、運用にまだ欠点があるという立場でお話をしておられるのかどうかということ、その点を承ったわけです。
 そういたしますと、私どもほんとうにしろうとが考えますと、いま問題になっておるのは、十万が三十万になっておる。こまかいことは申し上げません、皆さんは専門家でありますから。資料等によりましても、御存じのとおりに、当初簡易裁判所の民事事物管轄は二千円以下であった。それが昭和二十二年に五千円になって、昭和二十六年に三万円になって、昭和二十九年に十万円になった。これを見ますと、こまかい物価がどうの、国民所得の程度がどうの、総生産がどうのこうのとは言いませんが、ちょうど振り返ってみますと、昭和二十六年に三万円に引き上げられておりますが、その前年にわれわれ国民が日常使用いたします紙幣、これが前には百円が最高であったと思います、あるいは違ったのがあったかもしれませんが。それが昭和二十五年の一月から千円札を国民が使い出した。もう百円札なんか勘定しておるのはとてもめんどうくさいということで、すべての国民がいまはもう忘れて、百円札なんか見ないようなかっこうになっている。昭和二十五年の一月に千円札の使用を国民が始めた。そうして昭和二十六年に三万円に上がった。それからまた国民生活といいますか、金の面における勘定がだんだん違ってきまして、昭和三十三年の十二月に一万円札が出た。いまはもう一万円札が常識みたいになって、それで金使いが荒くなったんじゃないかと私は思いますが、これをちょっと国民の常識的な考えで見ますと、物価が何倍になったとかあるいは何十%上がったというような、そういうけちな計算でなくて、国民生活全体が、昭和二十五年には千円札をみんな常識的に使うようになった。それが三十三年には一万円札を常識的に使うようになった。これが国民の、ほんとうのしろうとの経済生活の標準じゃないかという気が私はするのです。そういうことを見ますと、今度十万円が三十万円に上がるのが、何か裁判制度の根本に触れる――あるいは地裁と簡裁の管轄の比率がどうだこうだとこまかく出ておりますが、それもいいでしょう。しかしそういう際に、昭和三十三年に一万円札が出たのですが、いまの十万というのは、昭和二十九年ですか、そのくらい貨幣生活といいますか、国民の日常生活のけたというものはずっと急激に違ってきていると思うのです。二十九年に十万円なんというのは手おくれだということのほうが率直な状況じゃないかと私は思います。そういう意味でもうそれから十何年たっております。いまごろ十万円が三十万円に、どうして一体こんなに、根本問題だとか、いやそれは裁判制度の根幹に触れるとか、そういう議論をされるのか。いろいろ理屈を聞きましたけれども、そういう小理屈じゃない問題から考えますと、金が十万が三十万になったからその事件の性質が複雑だとは私どもは思わない。ただこれを、一万円札になって、十枚勘定して出せば済むという国民生活の簡略さ、これがほんとうに国民の常識じゃないかと思うのです。
 そこで、さっき申し上げたように、いわゆる裁判の民主化、そういう国民の生活状態ですから、そういう膨張した経済生活の中におる国民が金銭問題でいざこざがあった、貸し借りでどうだというときに、近所の裁判所に、一万円札十枚勘定するのはよくて、三十枚勘定するのはだめだということは――これはどうしてもいわゆるしろうとの、国民一般庶民というと当たることばかどうか知りませんが、それが常識じゃないかというような気がする。あるいは三十万はなぜそうなんだ、五十万じゃどうしていけないのだ、あるいは三十九万は、あるいは四十万はどうだ、これはなかなかはっきりしためどはないと思いますが、この資料に書いてあるのは、その理屈をつけるためにいろいろ総生産あるいは一人当たりの国民所得、公務員の給与、それから一人当たりの個人消費支出あるいは物価、こういうことを裁判所といいますか、法務省、政府が苦心惨たんして何とか理屈をこねあげたのだと思いますが、そんなことではなくて、百円が千円になり、千円がとうの昔に一万円になっているのに、それが、十万円が三十万円になると何か天下の裁判制度がどうかなったというような議論をすることは、しろうとの、そこら辺の商売をしている人たちの気持ちからいうと、わからないのじゃないかという気がしている。三十万は何だ、こう言われると、私にもよくわかりません。しかし、そんなことは常識でしょうから、そのくらいのことはいいのじゃないかと率直に私は思っているのですよ。そうお考えなさいませんかということだけ聞いておきます。
#41
○高橋委員長 いろいろな時間の都合もありますから、いまの質問にノーかイエスか、ごく簡単にお答え願いまして、その次の機会でうんとまたうんちくを傾けてもらうことにしたいと思います。ノーかイエス的の御返事をどなたか……。
#42
○和島参考人 簡明を期してお答え申し上げます。
 まず十万円以下、十万円という金の価値そのものはもうお答えいたしませんが、現実に簡易裁判所で庶民が、十万円以下のさばきをしてもらわなければたいへんだというて、手に余るほど多数の事件が来ておる。それに対して、三十万円になればその数が倍に近い数になるということを問題にしておるわけであります。お答えになると思いますが……。
#43
○高橋委員長 たいへん時もたってきましたが、質疑応答、なかなか終わるような模様もありません。したがって、われわれはなれておりますけれども、参考人の方はおなかもおすきのことと思いますから、この際、暫時休憩をいたしまして、午後二時三十分再開することとし、暫時休憩いたします。
   午後一時二十五分休憩
     ――――◇―――――
   午後二時三十八分開議
#44
○小澤(太)委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。
 内閣提出、裁判所法の一部を改正する法律案に対する審査を続行いたします。畑和君。
#45
○畑委員 私は、若干の点につきまして参考人のおのおのの方にお伺いいたしたいと思います。
 先ほど辻参考人その他二人の方から意見を伺ったのでありますけれども、同じ弁護士会の役員であられ、また役員であられた方たちでありますが、いろいろ聞いておりますると、その間において、伊藤参考人のほうでは若干の意見の違いがあるやに、そのニュアンスがあるように承ったのであります。いままで伊藤参考人のほうから、この問題の処理をめぐるここまでに至る間の約一年間の経過等について、日弁連の前事務総長というような立場も含めて、いろいろお話がございましたが、しかし、他のお二人の参考人のお話によりますれば、いろいろ異論、議論はあった段階もあるけれども、終局において、また決定的な段階においては、常に弁護士会の意思は一つである、そういうふうにきまったんだというようなお話でございます。いわば内部事情はどこにでもあることですが、全部が全部初めからしまいまで賛成というわけではないのでありまして、そういう点は若干意見の違いがあるのであります。その間のいままでのいきさつを伊藤参考人がお述べになったと思うのです。
 ところで、伊藤参考人のお考え、その中で出ますいわゆる折衷案というものでございますね。この折衷案もいろいろ幅が広いということを伊藤参考人もおっしゃっておられましたけれども、確かにそのとおりだと思います。そこで、伊藤参考人にお伺いいたしますが、伊藤参考人御自身は、幅が広いのでどの程度の折衷説か知りませんけれども、折衷案といわれるものについて、要するに反対ということではなくて、折衷をして、何とか裁判所と、あるいは弁護士会の反対論との間を取り持つようなそうした考え方のようですが、この辺は折衷説に御賛成の立場でいらっしゃいますか、どうですか、お聞きいたしたいと思います。
    〔小澤(太)委員長代理退席、瀬戸山委員長代
    理着席〕
#46
○伊藤参考人 私の個人的な意見といたしましては、折衷説に賛成いたしております。
 その第一の理由は、簡裁の性格とか簡裁の本来のあるべき姿に関する反対説の御意見は、きわめて傾聴に値するものであると考えております。ことに戦前において、朝鮮とかあるいは満州において行なわれた制度、これはまさに反対説が言っておられるように、一審というものはすべて等質の裁判所にして、そうして単独と合議に分けて二審も三審も同じやり方であったわけでありまして、その実績も十分にあがっているということから考えましても、これは十分に傾聴に値すると思っております。しかし、少なくとも現在においては、日本の簡裁制度というものがあって、そうしてその簡裁制度が立法当初では純然たる民衆裁判所、いわゆるペティセッションとかあるいはマジストレートコートとかいうような形をとっているものではなくて、多少混合的な性質を持っているのでありまして、そうである以上は、この本来のあるべき姿に戻すためには、制度自体の根本的な改革ということが問題になってくるのではないかと思われるのであります。したがって、この問題につきましては、裁判所側も協議に応ずるし、研究もするというふうにしているわけでありますから、われわれとしても今後協議し、研究していけばいいのではないかと思います。
 第二点としまして、それならば現在のいわゆる訴額十万円の簡裁を前提として考えました場合に、やはり昭和二十九年から今日までの経済事情の変動ということ、あるいは地裁と簡裁との間の負担がかなり移り変わってきている。そして一年に大体四、五千件ずつ簡裁から地裁に移っていくという現実をながめた場合には、これに対して何らかの手を打たなければいけないのではないか。そこで、それを考えるにしましても、確かに反対説のおっしゃるように、いろんな弊害が生ずるから、それならばその弊害を緻密に一つ一つ取り上げてきめこまかい対策を講じていって、その弊害を是正するという方法のほうがより現実的であると、こう考えているわけであります。だから、ただ弊害があるから、いきなりいかぬ、全部だめだという考え方では、これは角をためて牛を殺すという結果になりはしないかと考えられますので、弊害は弊害として、これはきめこまかい対策を講ずるべきである、こういうふうに私は考えております。その意見の大要は、先ほど読み上げました正副会長会議での結論として出た要望書というもの、あれも協議の結果、私の意見も入っておりますが、現在ではあれとほぼ同意見でありまして、むしろその前には、あの意見はとりあえず運用によってということになっておりますが、私自身は最初は立法によってやるべきだ、こういう考えを持ってそういう意見書を出したのでございますので、基本的にはいま申し上げたようなことでございます。
#47
○畑委員 さらに重ねてお伺いいたしますけれども、反対論の一番の根拠は、簡易裁判所が置かれた裁判所法が新しくできた。そのときに簡易裁判所を何でつくったか、こういう点に基本があると思っております。それで先ほど来何度も言われておりますように、かけ込み裁判所的な、軽微な事件を簡易かつ迅速に処理をする、こういう性格であることは疑いないと思います。もちろんその中に軽微な事件ということで、いままでの裁判所等の一部をやるのを許すような現実的な規定がないでもないのでありますが、基本としては、先ほど私が申し上げましたようなところにあると思います。そのためにこそ、特にそういう事件を処理するために、本来裁判官としては、いわゆる法曹資格を持った、法律に精通をして、かつ運用にもまた精通した人がやらなければならぬのだけれども、そういう特殊な簡単な裁判であるから、むしろ下情に通じた人格者的な人で、法律的にはそれほど精通しなくてもいいようた人を裁判官として充てるというために、簡裁の特任判事という制度が設けられたと思います。ところが、それが何回かの事物管轄あるいは軽微なものを扱う簡易裁判所についての拡大というようなことで、それがもうすでに大きく、最初の簡易裁判所のあるべき姿から事実上そういうことによってだんだんと変えられてきたということは、私は間違いないと思います。その辺については伊藤参考人はどういうお考えか、まず承っておきたいと思います。
#48
○伊藤参考人 ただいまの畑委員の御質問はごもっともだと思います。私も大体同じような考えでありまして、基本的には簡裁というものはやはり民衆裁判所というものを主体として発足したものであって、ただ純然たる民衆裁判所に旧区裁判所の職権というものをある程度混合して入れているというふうに考えております。そして最初五千円であったものが二十六年に三万円になり、二十九年に十万円になっておりますが、これは少なくとも物価の、貨幣価値の推移から見ますならば、相当大幅に引き上げられている。貨幣価値の推移よりも数倍大幅に引き上げられているということは事実であります。したがって、その意味でかなり発足当初よりも性格が変わってきているというふうに私も考えます。ただ二十九年にそういうふうにある程度性格が変わったものが、その後十数年にわたってそのまま運用されている。それを根本的にもとへ戻すとか、あるいはあるべき姿に一挙にやるということが混乱なしにできるかということに疑問を持っております。
#49
○畑委員 私もその点については同感でありますが、急にもとへ戻るわけにもなかなかいかぬというような点、それを三者で十分に相談をして、将来の司法の運用について万遺憾なきを期すべきだと思っております。
 ところで、今度の事物管轄の拡大というのが、政府、特に法務省の提案理由の説明におきましては、私、この前の質問でも申し上げましたが、しいてことさらに事務の調整というようなことばすら使ってない。そして一本調子に、ただ経済の変動あるいは物価の上昇、こういうことだけにしぼって説明が加えられておるのでありますけれども、しかし、そのもとはといえば、やはりいろいろ話に出ますように、裁判所の都合、地方裁判所の事件というものを少なくして、そして簡易裁判所のほうを多くする。昭和二十九年の改正後の三十年当時の状態になるべく復したい、こういうことが一番根底に横たわっている問題だと思う。反対論者は、物価の問題、経済の問題とは言うけれども、結局、裁判所の都合によっていままで何回かゆがめられてきたものを、さらに拡大再生産というか、そうしようということではなかろうか、そういうことで今度の事物管轄に反対しておる。法務省のほうであくまで経済問題だと極言しておるにもかかわらず、しいてそれに反対しておるのはそこにあると思うのでありますが、その点について辻参考人の御意見を承りたい。
#50
○辻参考人 おっしゃるとおりでございます。私どもも去る十日の当法務委員会に傍聴人として出席いたしまして、畑委員と裁判所あるいは法務省側との質疑をお聞きして、たいへん奇異に感じたわけでございます。私ども日弁連が最高裁とこの問題について協議を進める過程におきましては、先ほど私が特に資料を持ってまいりまして、その資料を抜き読みいたしましたとおりでございまして、「民事第一審裁判における事物管轄の調整について」その第一として「事物管轄の調整の必要性」ということから、二十九年に十万円になりました直後の三十年度の簡裁と地裁の事件数の比率等の説明があり、それがその後徐々に逆転していったということから、その三十年度の事件の比率に戻したいというのが今回の簡裁民事の事物管轄拡張の意図である、構想である、そういうことを明確に説明があり、それに対して私どもは、簡裁のあるべき性格というものと十分にらみ合わして、今後の簡裁のあるべき姿というものを展望した上で、それにかなった簡裁の事物管轄の範囲というものを確定しなければならないということを強く考え、主張をいたしておるのでございます。地裁と簡裁の事件の配分とか調整ということ自体が、すでに簡裁と地裁の質的な違いというものを無視して、そうしてあたかも同質の裁判所であるかのように量的にそれを分配しよう、こういう考え方でございまして、これは全く簡易裁判所の性格と違った観点から、裁判所側の、特に地方裁判所の便宜のために考えられた改正であるととらざるを得ないわけです。
 簡裁の事物管轄の定め方の基準と申しますか、基礎と申しますか、それはやはり簡易迅速に審理、判決ができる対象の事件、こういうことが基準にならなければならないわけでございます。したがいまして、そうなりますと、訴額の点についても、単なる物価の上昇とか経済事情の変動ということではなくて、簡裁の機能、能力というところから質的に民事事件というものを見て、複雑で非常に困難な事件、たとえば不動産関係の事件でございますとか、こういうものは訴額のいかんにかかわらず、やはり地方裁のもとでやるべきだということになってくるわけで、そうしたことをきめこまかに検討した上で簡裁の事物管轄の範囲を確定していく、そういう作業が進められなければならないわけでございます。
 そういうことを考えますと、今回の法案には緊急性というものはとうてい考えられないわけです。したがいまして、ここ一年間ぐらいは――私ども、決して長い期間とは申しません。この一年間ぐらい、双方が十分に資料を集めて、十分に論議を尽くして、その上で事物管轄の範囲というものを決定するのが、ほんとうに国民のため、庶民のための裁判所のあり方だ、かように考えておるわけでございます。
#51
○畑委員 和島参考人はどうでございますか。
#52
○和島参考人 この問題は、御指摘のとおりだと思うのであります。先ほども申しましたように、簡裁の性格が逐次もうすでに変更されてきた。変更されてきた結果、先ほど私が指摘しましたように、簡裁では非常に裁判官が手に余る事件で、弁護士会で調査しまして本非常にたいへんな裁判が行なわれておる、そういう結果がずいぶんあらわれておるのであります。ところが、さらにこの問題が、三十万に増加すれば、先ほども申しましたが、一審の全民事裁判の五七・五、裁判所側の提出の資料でも簡裁で行なわれるということになるわけでありまして、性格の変更をさらに拡大再生産するという結果を見るわけであります。この点をわれわれは非常に重視しまして、今次のような反対意見を述べておるのであります。
 さらに、この問題の三十万に上げることの緊急性より、国民の側から見れば、現在の簡裁でこういうたいへんな裁判を行なわれておる、これを何とか地裁へ回してもらわなければいかぬという問題のほうが緊急性を持っておるのじゃないかということを、先ほども意見開陳した次第でございます。
 御指摘のとおりだと私は考えております。
#53
○畑委員 お二方の意見は大体同じだと思いますが、今度の事物管轄の拡張というものは、物価、経済変動ではない、それもあるかもしらぬけれども、むしろそれよりも根本的なものを持っておるというお説だと思うのであります。私もそれに大体同感なのであります。大体簡易裁判所がつくられた目的というのが、木村篤太郎大臣の説明にもありますように、非常に民衆化に役立つだろう、こういうことを言っておられるのですが、まさに確かに民衆化をねらった規定だと思います。ところが実際には、簡易裁判所が、事物管轄の逐次の拡張によってそういうふうに行なわれておらない。規定がほとんど空文化して、基本性格をはじめとして、それ以外のものもほとんど実際には行なわれていない。人間も置かない、お金も使わないというようなことで、自然とそっちのほうが使われなくなって、それで一度は地方裁判所に吸収されたはずのかつての区裁判所の仕事が、また今度は簡易裁判所のほうに自然と持ってこられるというような結果になりつつあるということだと思うのです。
 それに加えるに、それを処理する裁判官が、本来の簡易裁判所の性格にのっとった簡裁の特任判事であるということに――そういう人たちと言っては語弊がありますが、同じ裁判官ではあるが、それだけ素質が地方裁判所と違うはずの簡裁の判事に、むしろ地方裁判所の事件であったようなものがそのままいくということについては、国民のためにもならないというような御説だと思うのであります。
 ところで、不動産事件、その他こういった特殊な事件、単に価額によって判断することのできない、そうしたなかなか一般的にむずかしい事件といわれておる事件、こういう事件等を、先ほども言われたが、いろいろと裁判所と協議をして、そうしてそういうものを、たとえば価額にかかわらず、簡易裁判所、地方裁判所の管轄にするとか、いろいろ確かにあると思うのであります。そういう点を、皆さんはゆっくりといっても時間の制限がありますけれども、一年ぐらいの間に何とか基本的な改革をしたいということだと思うのでありますが、これに間違いございませんか。お二人のどちらからでもけっこうです。
#54
○和島参考人 そのとおりであります。先ほど来申しますように、国民の側から見て一番訂正してもらわねばいかぬことは、ほんとうにむずかしい事件は、裁判所のほんとうに経験もあり資格もある、十分裁判のできる能力のある裁判官によって処理されたいということのほうが緊急だとわれわれは考えておるわけであります。
 ですから、先ほど来申しましたように、三十万円にふやすことによってばく大な事件を簡裁に送る、そうして混乱させる。そうして国民、国という見地からみましたならば、裁判の基本的――今度の問題のほんとうの趣旨は、裁判の促進ということでありましょうが、それには何ら役立たない。それよりか、この際全面的に、さっき御指摘のような問題をも取り上げ、総合的に全般的に審議した上で、適切な措置を講じたい。これも、まあいきさつもございますから、一年ぐらいの間にわれわれも精力的に協力をして、これらの一応の結論をまとめあげようじゃないかという提唱をしておるのが現在の日弁連の姿勢であります。
#55
○畑委員 そこで、伊藤参考人にお伺いしたいのですが、いま和島さんが特に言われたことですが、その辺のことは伊藤さんとしてもやはり同じ意見ではないでしょうか。まあその緊急性の問題等もございますが、そういった点については意見はどうでしょうか。これはどうしても緊急性がある経済問題であるだけに、緊急性があるならば、やはり短い時間にお互いに基本問題までも話し合って解決をするのだというお考えでしょうか。どちらでございましょうか。
#56
○伊藤参考人 私の意見は、多少違っております。と申しますのは、一年間延ばすということは、いまの和島参考人の話ですと、いわば私が先ほど申し上げました折衷案に基づく弊害の是正ということをこまかく検討するためにと、こういうふうにおっしゃいましたが、これは必ずしもそうではなくて、制度そのものの根本的な改革のための時間かせぎというような点も若干あるのではなかろうか、それには一年ではとうていできることではないと私は考えております。
 なお、むずかしい事件を特任判事という問題でありますが、現在は特任判事が三百九十名、それから資格のある判事が三百五十名でありますと、先ほど申し上げましたように、特任判事の職権を制限するとか、あるいは事件の配点によってそういう事件は特任判事に回さないという方法をとれば、現在でもこれはやってできないことではないというふうに考えております。
 なお、どういう事件を地裁に回し、どういう事件を簡裁に回すかという基準は、それは確かに理論的には複雑困難な事件は地裁に、簡単な事件は簡裁にということになりましょうが、これは訴額によっては実際に規定できないわけでありまして、これは先ほど申し上げましたように、百万、二百万の事件でも、単純な手形の事件とかあるいは売り掛け金の事件、こういったもので、争いがなければ簡裁でやってもいい事件があるわけであります。したがって、これは物価だけではなくて、経済事情の変動ということは現実には無視できないから、一応ある程度それを加味して、そうして、そういう弊害はまず運用でまかなって、その結果、どういう結果が出るか、実績をある程度見て、それによって立法に踏み切っていくべきではないだろうか、こういうように考えております。
#57
○畑委員 伊藤参考人は、先ほどの御意見の中でも、考え方は大体そういう考え方であるけれども、この事案については、やはり慎重に若干の実績を見て、そうして継続審議にして、たとえ事物管轄の問題だけに限ったといたしましても、そういうことで調整をすればいい、こういう御意見であったように承りましたが、それで間違いないですか。
#58
○伊藤参考人 それは、大体そういう趣旨でありまして、こういう対立状態のままということは非常に望ましくないのですから、実際に日弁連として、そういうふうな制度そのものの根本的な改革を一年間にやるというのではなくて、もっときめこまかい討議をするという意味で対立を解消していくというならば、一年程度のことは、それは話し合ったほうが望ましいというふうに考えております。
#59
○畑委員 先ほど来不動産の問題などが非常にむずかしいということで、これは価額に関係なしに、地方裁判所が管轄するとか、あるいはまた逆に手形の事件などは、まことに簡単で、争う余地のないものが多いのですから、そういう問題は簡易裁判所を中心にすればよろしい、こういうようないろいろこまかい話をすれば、話はなかなかむずかしいことになりますが、ただ問題は、先ほど来一番基本的な対立であるところの簡易裁判所の基本的な性格についてどうするか、こういう問題は、実際問題になるとなかなかむずかしい。むずかしいけれども、何らかの解決なしに裁判所と弁護士会が対立しているということは、私は、まことに残念なことだと思う。これを何とか両者の調整をしなくては、将来の司法のために非常に慨嘆にたえないことに相なると思っているわけで、私もそういう意味で慎重な審議を要するというふうな意見なんでございますけれども……。
 それから次に、問題を変えまして御質問いたしますが、いまの簡易裁判所と地方裁判所の扱いで、例の民事訴訟法の三十条と三十一条ノ一ですか二ですか、ちょっと忘れましたが、例の管轄の移送の問題がございます。いろいろ難事件その他ということで、そういった問題に対して、いま実際にそういうことで裁判所でそれが行なわれておるかどうかということについて、実務を担当していらっしゃる参考人にお聞きしたいのです。この点、辻並びに和島両参考人にお伺いしたいのです。実際にその点が行っておるかどうかということですね。結局最後は職権によるというようなことになっているものだから、おそらくなかなかそのとおりに行なわれていないのじゃないかと思うが、裁判所はわれわれに対する答弁には都合のいいことを言っておりますが、実際に担当をしていらっしゃるあなた方がどういう経験を持っていらっしゃるか、その点を承りたい。
#60
○辻参考人 まず三十条の二項の、本来簡裁の事物管轄と定められておるものであっても、地方裁判所のほうで審理するのが妥当だと思われる事件については、地裁が審理、判決ができるという規定であったと記憶いたしておりますが、それが実際問題としてそういう取り扱いが現実に行なわれておるかどうかの点につきましては、私の経験といたしましては、まず十万円以下の訴訟物価額の事件を地裁に持っていきましても、なかなか受付のほうで受理しないわけです。私どもの事務所にいます若い弁護士が、これは昨年のことですが、この事件は非常に複雑だから地裁のほうに、これは横浜ですが、地裁でということをだいぶ強く頼んだが、やはり一応簡裁に持っていってください、そして簡裁が地裁に移送してくれば地裁で審理いたしますがというようなことで、とうとう簡裁に持っていった実例が、ごく最近ございます。
 それから三十一条ノ二の、簡裁に出された訴訟が複雑であり、困難な事件だから地裁のほうに移送してもらいたいという申し立てをしましても――これは申し立てがなくても、本来職権でもできるわけでございますが、たしか学問上は裁量移送というふうにいわれておりまして、裁判所が自由裁量でそれは決定できるわけでございますが、申し立てをしましても、なかなか簡裁から地裁に移送するということは、実際上はこれまた相当困難で、この実例については、少し古い実例でございますが、二十九年以降であることはもちろんですが、たしか宇都宮の裁判所で土地の、山林と申しますか畑の事件でございましたが、これをひとつ地裁に移送してもらいたいという申し立てをしたのですが、裁判所ではどうしても聞いてくれないので、やむを得ず管轄違いの抗弁という正式な申し立てをしまして、そして鑑定の申し立てをして、鑑定の結果、ようやく十万円をこえる金額になりましたものですから、地裁のほうに、これは法律的にそうせざるを得ないのですから、移送になったという実例を経験いたしておるのでございます。そのとき裁判所はだいぶ感情的になられて、私は非常に困ったこともございました。それから東京で、これは新宿簡裁であったと思いますが、やはり移送の申し立てをしましたところ、地裁に何か関連事件でもありますか、何か関連事件でもあれば私のほうは移送しやすいのですが、そういうことがないとちょっとやはり私のほうで審理を進めたいと思います、こういうようなことで、やはり裁判所としては当事者のそうした意向で直ちに、そう容易に移送するというようなことは、実際としては皆無ではないと思いますが、少ないということは、はっきり申し上げられると思います。
#61
○畑委員 和島さんにお願いいたします。何か経験があれば……。
#62
○和島参考人 辻参考人と同じような結果を申し上げることになるのであります。ただ付加したいことは、制度はそうなっておりますが、現実は、われわれ調査しましたが、ほとんどこの規定は現実には活用されておらない。その理由はもう一つ、一たん簡裁の判事が、自分がその事件を受理して審理し出して、地裁に回せということは非常にプライドを傷つけるような面があると思います。辻参考人が言いましたように感情的になる、そういう心理的な面もありまして、現実にはこの規定はほとんどといっていいほど活用されておらないのが現状だと思います。
#63
○畑委員 もう一つの件を申し上げます。不動産の問題ですが、いま非常にむずかしい事件が不動産には多いのですけれども、この不動産の問題なども、都会地なんかの宅地の場合なんかは相当の値段になっております。評価額も相当になっているということでだろうと思うのですが、地方の中都市ぐらいのところ、あるいはそうでなくとも山林というような面、あるいは農地というような場合には、評価がきわめて低いわけですね。そういう点について、実際は簡裁でなくて地方裁判所に持っていきたいという場合に、価額が実際に高いのだからということでやればいいじゃないか、簡裁の判事がいやだというなら、そうしたらいいじゃないかというような説も実はあるのですけれども、実際問題としてはそれがやれないと思うのです。私も弁護士をやっていましたけれども、結局評価額にたよるほかないということだと思う。評価額によってやる以外にないと思うのですが、その辺について何か実際の経験がおありですか、不動産の問題について。
#64
○辻参考人 たしか不動産事件についての訴訟物価額というものについては、最高裁から通達が出ておりまして、固定資産税の評価額を訴訟物価額とする、所有権関係についてはそう、それから所有権に基づく明け渡しについては二分の一、占有権に基づくものについてはどうというような通達が出ているわけなんでございます。何年の通達だったかちょっと私忘れましたが、結局その通達によって裁判所は事件の受理をいたしておりますために、いまの御質問のように、実際の取引価額は相当高い百万、二百万というようなものが、固定資産税の評価額においては五万、十万というような場合が非常に多いわけでございます。そういったことから、やむを得ず、本来は地裁に持っていきたいのが簡裁に回って審理されているということは、これは多くの弁護士が数多く経験している問題でございます。
#65
○畑委員 そうしますと、今度それが三十万になるということになると、その矛盾がますます拡大されるということにもなるわけですね。――けっこうです。
#66
○瀬戸山委員長代理 中谷鉄也君。
#67
○中谷委員 一、二点お尋ねを……。
#68
○瀬戸山委員長代理 委員長から申し上げておきますが、参考人の皆さんもたいへんお忙しいところ長時間にわたっておりますので、いままでの質疑応答、意見開陳の中ですでに述べられたことは、重複しないようにお願いいたします。
#69
○中谷委員 私、お尋ねしたいのは、最初に参考人の和島先生にお尋ねをいたしたいと思います。
 先ほど大阪簡易裁判所の実情について非常に深刻なお話があったと私思います。即決和解といわれているものが一月ないし二月もかかるなどというようなことは、迅速簡易というものを旨とする裁判のあり方としてははなはだ遺憾なことであります。そこで、そういうふうな状態の中で、事物管轄の問題を一応おいておきまして、そういう状態を解消するための方法、要するに即決和解ならば、即日和解であるならば即日和解としての法に示されたような和解ができるためには、一体どのような措置が必要か。たとえば当委員会におきましては、従来から定員法につきましては常に裁判官の増員その他についてきびしい要望をいたしまして、附帯決議等を付しておりますけれども、附帯決議だけではなかなか実効があがりません。そういうような中で具体的な措置としては、当面緊急に要請されるものは一体何かという点についてお答えをいただきたいと思うのです。たいへん突然の質問で恐縮でございますけれども、もし大阪簡易裁判所の裁判官の数等がおわかりでございましたら、お答えをいただきまして――これは大体腰だめでけっこうでございます。もし即決和解に限って言うならば、たとえば即日ということはないにしても、かりに当事者が納得できるような四日ないし五日ということにするためには、裁判官の数は一体どの程度ふえなければならないだろうか。
    〔瀬戸山委員長代理退席、委員長着席〕
裁判所の職員、書記官等の数はどの程度ふえなければならないのだろうか、こういうような点についての一応の感じとしてのお答えをいただければけっこうでございます。
 最初の質問はその点に限ります。
#70
○和島参考人 一般的にいいまして、人的、物的な施設を増強するよりほかないとお答えするよりないのであります。
 数字の面につきまして、残念ながらまだ具体的には調査いたしておりません。いたしておりませんが、それに関連いたしまして、実はわれわれ、全司法の大阪支部の職員との合同研究会をやったことがあります。問題は即日和解ではございませんが、口頭受理の問題についていろいろ懇談したのでありますが、われわれとしてはやはりやりたいんだが、そこへ配置する人員がないんだというのが答えであります。ただ先ほど、即日和解は一カ月、二カ月じゃなしに、私が聞いておるのは三カ月くらい先だ。しかもそれに関連いたしまして最近聞いたことは、それでは困るというので、わざわざ大阪から両当事者が、岡山の裁判所でしたか、地方の裁判所までわざわざ出張して、やってくれと言って行ったところ、幾ら管轄が合意されても、大阪のほうでやってもらいたいと言って受け付けてもらえないので非常に弱った、そういう深刻な事例があるようであります。相当数は裁判所側で御調査になっておられるかもしれぬが、私らのほうでは、まだどのくらいその人員を増加すれば本来の即日にできるかという具体的な数字は、責任をもって答えることはできません。
#71
○中谷委員 各官庁でコンピューターを導入いたしまして、コンピューターの効率的な利用をはかっているようでありますけれども、最高裁判所は導入計画はおつくりになったようでありますけれども、なかなか実施には至っておりません。そういうような点で、最高裁判所御自身も、いろんな点で資料等をお出しになり、統計をおとりになり、いろんな試算をおやりになるようでありますけれども、はたしてどの程度、それが単に机上の算術としての危険をはらんでいるのか、それとも実際の実務と見通しに裏づけられた性格のものなのか、この点についてやはり私たちは疑問を感ずるわけです。
 そういう中で、一つお尋ねをいたしますが、そういたしますと、これは重ねて和島先生にお尋ねをいたしますけれども、そういうふうな現在の簡易裁判所の実態、都市特に都心部におけるところの簡易裁判所が、本来の簡易な裁判を受けられるという国民に開かれた裁判所としての機能を果たしていない、そんな状態のところに事物管轄を十万から三十万に変更するということは、これは大阪でありますから申すわけではありませんけれども、ちょうど私自身もガス爆発の現場を調査してまいりましたけれども、現在すでに簡易裁判所は実務の面においては非常に混乱しておる。その中にさらに事件が、事物管轄の変更によって殺到してくるということは、ガス爆発にたとえて言うならば、ガスの継ぎ手をはずして火をつけるようなことではないか。これはだから全くたいへんな混乱を来たすことになりはしないか。やはりこれは都市問題あるいは人口過密化問題の一環として把握すべきものだと言ってしまえばそれまでですけれども、そういうふうなことについて和島先生、先ほどから非常に的確な御意見をお述べいただいたのですけれども、事物管轄が変更されて十万が三十万になってしまうということになると、幾ら大阪の裁判官、書記官その他の人たち、あるいは訴訟関係人であるところの弁護士、すなわち代理人などが努力しても、国民のための裁判所としてのそういう要望からはさらに非常な勢いで遠のいていく、こういうことは火を見るよりも明らかだ、こういうようにお伺いしてもよろしいのでしょうか。
#72
○和島参考人 御指摘の点を憂慮しますがゆえに、私たちは大いに問題にしておるわけであります。そこで……。
#73
○高橋委員長 なるべく簡単に応答してもらわなければ、たいへん時間もおそくなるし、参考人の質疑が終わっても、たいへん質疑される方が待っておるから、簡単にしてもらって……。
#74
○和島参考人 簡明を期して……。私たちは、この際ぜひ国会でも柔軟な頭でお考えいただけると、いろいろ打開策がありはしないか。といいますのは、弁護士会が協力しますれば、たとえば即日和解の問題でもある程度制度的に検討をして、調停委員、司法委員等がありますように、そうした協力もできるのではなかろうか、こういうふうに、ただこれまでのやり方だけを墨守して、型にはまっただけの頭じゃなしに、国民のために、民主化のためにという見地から考えていきますなれば、いろいろ独創的な、民衆に真に満足を与えられるような制度が考えられると思うのであります。こういう点をひとつ示唆したいと思います。
#75
○中谷委員 そこで、先ほどから参考人の辻先生それから和島先生のお話の中には、提案についての緊急性が認められないというお話でありましたが、一歩さらに進めて、単に緊急性が認められないだけではなしに、合理的な理由がない。合理的な理由がないだけではなしに、危険をさえもはらんでいる、こういうことであります。そこで辻さんにお尋ねをいたしたいのでありますけれども、一年というふうな検討期間を設けるというお話でございますね。しかし、ガスに火をつけるような、言うてみれば事物管轄の変更によって簡易裁判所の機能がすでに失われておるともいっていいような、そういう都市部における簡易裁判所、とにかくそれが一そう混乱することが明らかであるような状態を招来することがはっきりしているものについて、一年の猶予期間を置いたことによって、たとえば裁判官の定員の問題だとか物的な施設だとか、そういうことが並行していかなければ、一年の期間を置いたからといって、本法案を改正する必要性というのは出てこないだろうし、危険性は依然として残るだろうと思うのです。ですから、何か従来からの最高裁判所との交渉の経緯はあるだろうと思いますけれども、私たちはやはり国民の側に立って、簡易裁判所が本来の簡易裁判所であってもらいたいと思う。そうするとこの一年ということについて、本法の改正案が危険性を持っている限りは、そういうものが解消しない限りは、一年というふうなことで切る必要はないのじゃないかというふうに私は思うのです。逆にいいますと、一年の間にそういうふうなものが解消されるめどというのはあるのかどうか、この点です。その点、辻先生からひとつお答えいただきたい。
#76
○辻参考人 私どももいま簡易裁判所の問題が一年以内に解決つくということは決して考えておりません。ただ、一年以内に十分協議を進めて、今後簡易裁判所のあるべき姿はどうであろうか、それについては今後どういう手当てを進めていくべきであるか、こういう手当てを進めていこう、そしてさらに簡裁事物管轄の範囲はこういう基準から、抽象的にいえばやはり簡易迅速に処理するのに適する少額軽微ということになるわけですが、そういう抽象的なことをもっと具体的にきめこまかに検討して、実情等も十分調査すれば、その展望はできていくと思います。したがいまして、そういうしっかりした展望のもとにこの法律案をどういう形で進めていくかということについての両者の意見の一致は、両者が十分努力をしていけば必ずできるであろう。そういうことから一年間の猶予、もっともそれが二年あるいは三年と長ければそれにこしたことはありませんが、しかし、裁判所も法務省も相当急いでおられますので、妥協をしまして一年ということも申し上げておるのでありますし、また長く協議をしたからといっていい考えが出るということではございません。
#77
○高橋委員長 中谷君にちょっと申し上げますが、理事会での話し合いは、大体参考人関係は午前中にやって、それからあと正式質疑をしてもらうことになって、あなたが五十分、林さんが三十分、それから畑さんが五十分、松本さんが五十分ということになって、これだけでもたいへんな時間ですから、そういうのを頭に入れてやってください。
#78
○中谷委員 そこで、私はやはりふしぎに思うのは――辻参考人にお尋ねしたいんですけれども、法務省は急いでおられるし、それから最高裁も急いでおるとおっしゃられるんでしょう。しかし、急いでおっても危険なものは危険ですね。ですからそのあたりは、だからそこで折り合いをつけたとか、妥協したんだというふうにおっしゃるのだったら、ちょっと私その点は納得しかねるのです。悪いものは悪いんです。悪い法案は悪いんです。ですから、その点について私は率直にいって、ここで一年ということにあまり限定されないほうがいいのじゃないか。これは私どもの考え方です。
 それから私がお聞きしたいのは次の点なんです。四十四年までの第一審の新しい事件の受理件数等について、累年比較が出ておりますね。これは資料としてちゃんと把握しておられますね。それから物価の上昇率についても五%に押えるとか押えないとかいっていますけれども、大体そういう点についての見通しもある。そういうことだとしますと、現在この法案の提案について緊急性がない、そのとおりだと思います。そうすると、そういう緊急性というのが出てくるというようなことは、じゃ何年後にこういう法案が出るいわゆる合理的な理由が出てくる可能性というものは一体あるのかどうか。極端なことをいいますと、たとえば現在一円の金の値打ちが十万円になったというふうな極端なインフレ状態になったというふうな場合であれば、当然そういうことの合理性も出てくるでしょうし、緊急性も出てまいりますね。そうでないというならば、いわゆる合理的な、本来的な簡易裁判所のあり方に関する問題を含んでいるわけですけれども、こういう法案の提案をするところの合理性というふうなものは、一年たったら出てくるとか、二年たったら出てくるとかいうものでもないと私は思うのです。この点については、辻先生、いかがでございましょうか。
#79
○辻参考人 私も御質問のとおりだと思うわけでございます。物価のスライドあるいは経済事情の変動によって事物管轄の範囲を広げるとか狭めるとか、こういう構想自体がそもそも間違っておるというふうに、基本的には私ども簡易裁判所の場合は考えておるわけです。したがって、そういう意味において、一年たったらどう、五年たったらとうということを言うこと自体が――極端の場合はおっしゃるとおり別でございますが、いまの状況下においては、ないと思うのでございます。私、法務省が提出されております資料の中のグラフを拝見したのでございますが、このグラフによりますと、十万から三十万になった場合の事件数の幅というものが一目りょう然で従来の幅の六五%といえるわけなんです。こういったことなどちょっと目で見ただけでも感じとれるわけですから、そういう意味において反対をいたしております。
#80
○中谷委員 先ほどから三人の参考人の先生が繰り返し繰り返し述べておられるのは、こういうふうな問題を通じて、最高裁判所と日弁連、裁判所と弁護士会の間にみぞができるというふうなことは司法のためにきわめて遺憾なことだ、そういうふうな状態の中で非常に日弁連が努力をされて、せめて一年ということの中で精力的に検討をしてみようというお立場と、そして方針を出されたことについては、私は非常に敬意を表するわけなんです。
 そこで、重ねてお尋ねをいたしますが、そうすると、一年間というその期間に、いろんな要望書その他を拝見をいたしましたけれども、特にあるべき簡易裁判所のあり方というようなことを中心にして、辻先生にお答えいただきたいと思いますが、精力的にこの点とこの点――まあ総合的にというおことばが何べんも何べんも出てきたのでありますけれども、この点とこの点については特に検討したい、検討の方法については具体的にこういう方法をとってみたいというふうなことについて、簡単にお答えをいただきたいと思います。
#81
○辻参考人 やはりまず第一に、簡裁というものがどういう構想のもとにでき上がったのかという、ここへ立ち戻って双方のその点についての意見の調整といいますか、意見の一致を幸いに見ますれば、それがその後数次の価格の引き上げによって実際の簡裁の実情、これがどういうふうになっておるかということを、やはり双方虚心に実情を調査し、それを認識した上で、その上に立って、特に二十九年に改正された後、どういうふうに実情がなっておるかというふうなことなどを十分に相互の認識を深め、そうした結果を十分に踏んまえて、今後の簡裁のあるべき姿というものを展望し、その中においていかなる事件が簡裁の事物管轄として適当であるかというのを、いろんな事件の種類でございますね、不動産関係事件あるいは工業所有権の事件とか、あるいは手形事件あるいは貸し金事件、売り掛け事件、こういうようなものを類別いたしまして、そうして妥当なもの、そうでないものというものを検討し合っていく、こういうようなことを考えておるわけです。
#82
○中谷委員 終わります。
#83
○高橋委員長 林孝矩君。
#84
○林(孝)委員 二、三点質問します。
 きょういただいた「日弁連の理事会および委員会における審議経過」、この中に今回の事物管轄に関して、日弁連の会長が法務次官と会見、これは四十五年の一月二十九日。それから一月三十日には法務大臣と会見されています。同日在京の副会長が岸最高裁事務総長と会っていらっしやる。こうした会見の中で、どういうことが協議され、どういう結論が導き出されたか、この点についてまずお答え願いたいと思います。
#85
○辻参考人 四十五年、ことしの一月二十九日に、日弁連の会長、法務次官と会見、こういうことが記載されておるのでございますが、これはたしか一月二十一日に法務省から日弁連に対して、今度の国会にこういう法案を提出する予定であるという通知を受けたわけでございます。そこで、この問題につきましては、先ほどから説明をいたしました合同会議その他におきまして審議を進め、また最高裁との連絡協議において審議の過程にあったわけでございますので、何とかこの法案を今国会に提案することを見合わしてほしいという申し入れをやったものでございます。ところが、それに対する法務省あるいは最高裁の回答は、いや、どうしても今国会には提案をするんだ、法務省側は最高裁の強い要望であるからということであり、最高裁側は、裁判官会同その他において強い要望がある、また国会議員の中にもそういうことをやるべきであるということを言っておられるというようなことから、残念ながら日弁連の申し入れを聞き入れていただくことはできなかったわけでございます。
 そういうことでございます。
#86
○林(孝)委員 いまのあれで言いますと、全体的な声としてのあれじゃなしに、次官に会われたとき、そのときにどういう話し合いでどうなったか、大臣に会われたときはどういうような意見だったのか、それから津最高裁事務総長の場合はどうであったのかということ、こういうことを具体的に話していただきたい、そういう私の質問ですから。
#87
○辻参考人 まず一月二十九日、法務次官と会見したときの状況を私は聞いたわけでございます。実はこのときの連合会の副会長でないものでございますから、私は行っていないのでございます。私は四月一日からでございますから……。しかし、報告を受けたところによりますと、たいへん木で鼻をくくったような回答で、もうすでにそういう予定になっておるから、いまさら提案を見合わしてくれと言われても――提案を見合わしてほしいという申し入れをしたのです。しかし、そういう提案をいまさら見合わせることはできない、そういう返事であったということでございます。
 それから一月三十日、会長と法務大臣とが会見、このときの状況は、実はこの会長というのは、もちろん前会長の阿部会長でございますが、病気で一月三十一日か何かに倒れられて大阪に帰っておられますので、正確なところは私も存じませんが、聞くところによりますと、やはり提案を見合わしてくれと言ったが、最高裁の強い要望であるから見合わすわけにはいかぬ、こういうような返事であったということでございます。
 それから、会長と在京副会長が岸最高裁事務総長と会ったときの話は、これは東弁の前会長から私、直接聞いてはおりますが、やはり同じようにたいへん冷たい返答であったということは、もう提案が予定されておるので、とうてい弁護士会の希望を聞き入れることはできない、こういうことであったということでございます。
#88
○和島参考人 この点につきましては、阿部会長が小林法務大臣とどういう話をしたかについて、親しく大阪のほうで調査いたしました結果、阿部前会長から田中先生あての私信が行っております。これを紹介しますとお答えになると思いますので、簡単に御紹介さしていただきます。「二月一日発病 昨日漸やく退院しましたが 尚相当期間療養を要し 左手にてまことに失礼致します大阪その他から陳情に参りますが 事情は大阪の北尻君によく話をしてありますから 何卒御聞取りの程 御願い申上げます 私は御高承の通り凡庸ではありますが虚言は申しません 一月末小林大臣に御会ひし 二月三日帰東の上御話を続行すると申上げましたのですから 其の際又は夫れ以前に責任のある発言をする筈がありません 最高裁長官に御会ひしたのも一月末であって結論には無論達して居りません 何卒司法部の健在の為めにも宜敷御配意御願い致します 場合によっては医師附添の上上京し当時の情況を篤と説明致します 鍛冶氏は比較的懇意に願って居りますからよく御話をする機会は御座いますが 事司法部の運命にも関する様なことには軽々しく発言などはしないことを御信じ下さると思ひます」阿部会長がこの問題についてある程度の承諾の意思を発表したんじゃないかというようなことを聞きましたので、調査しましたら、この返事が来たわけであります。
#89
○林(孝)委員 そうしますと、話は続行しておるという形で、いまその中で出てきました田中先生というのはどういう人でありますか。
#90
○和島参考人 田中伊三次先生であります。
#91
○林(孝)委員 それからこういう経過で、三月十六日に折衷案を否決された、それから三月十九日に実行委員会を開いて要望書を採択、こういう経過を見まして、結論的にけさから十分説明があったように、非常に一方的な感じでこの法案が出てきておるということが理解できるわけでございますけれども、先ほど折衷案ということが一つ出ました。この折衷案が合同会議で否決されておるわけですが、日弁連の中でこの折衷案という案が占めるウエートといいますか、どの程度の方の意見がそこにあるかということですけれども、その点はどうでしょうか。
#92
○和島参考人 これも数字では申し上げられませんが、機関によって決定しましたところをごらんいただきましても、ただいままでのところは少数意見であったことは事実であります。そして、これらの案は審議の過程においてあらわれたものであって、何らの結論には達しておらないということははっきり申し上げられると思います。
#93
○伊藤参考人 全体理事会におきましては多数であった。全体理事会というのは、これは全国の弁護士会の会長が全部理事になっておりまして、これが五十何会、そのほかに十数名の理事がおります。それだけ申し上げておきます。
#94
○辻参考人 私は全体理事会に出席いたしておりませんので、議事録によって、知る以外はないのでございますが、申し上げたいことは、この簡裁事物管轄拡張問題について、一体日弁連ではどの機関がこの問題について長い期間真剣に、深く研究しているかということを申し上げますと、これはやはり臨司委員会及び連絡協議の弁護士会側委員、この合同会議、特にこの委員会でございます。これが専門的にこの問題を長い間研究し、討議してきておるわけです。理事会は月一回全国の方が集まってこられて、わずかの時間でこういう問題を協議されるわけで、決して私、理事の御意見をどうこうと申し上げるわけではございませんが、少なくともこの問題を一番長い時間十分に研究しておるのは臨司委員会であり、連絡協議の委員である、こういうことを申し上げるわけでございます。
#95
○林(孝)委員 それから、いまの全体理事会とそれから合同会議の問題はそれだけにして、先ほど即日和解、それから口頭受理、この問題点が出ましたけれども、それ以外に簡易裁判所の実態として、現在の簡裁の性格からして非常に思わしくないような具体的な事例がありましたら、お答え願いたいと思います。和島さんにお願いします。
 これで質問を終わります。
#96
○和島参考人 これは、具体的にはいろいろございますが、一般的に申しますと、簡裁が前の区裁判所のような性格になってきたために、極端な事例は、即日和解が三月も四月も先になるというような事例、それから裁判が地方裁判所のような、簡易迅速ではなしに非常に複雑な様相を帯びて、やはり簡裁本来の性格を失っておる。これは、いろいろな具体的な事例は、御要望があればわれわれのほうから提出できると思いますが、そういう線で、現地におるわれわれから見れば非常に憂慮すべき事態と考えております。
#97
○高橋委員長 松本善明君。
#98
○松本(善)委員 最初に経過のことを少しお聞きしておきますが、現在の日弁連の正式機関、理事会として、この法案がそのまま国会を通過するということに反対である、このことは伺ったわけでありますが、もう少し正確にしておきたい。
 和島参考人に伺いたいのでありますが、前期の理事者の中でも、この法案に賛成だということをきめたことは一度もないということは、そういうふうに伺ってよろしいですか。これは確かめるだけでけっこうでございます。
#99
○和島参考人 これははっきり申し上げられますが、そういうことはないのであります。折衷案というものも、先ほど来の説明を御検討を願うとわかりますように、ともかく現在の法案には折衷案をとる人も全部反対なんです。ただ、反対という一本やりでいくか、それより簡裁の現状にかんがみて、むしろいろいろの面で歯どめをする、その弊害を除去するというような意見を出すことが必要じゃないか、その意味の折衷案であります。
 なお、もう一言だけ言わせていただくと、理事会においても、先ほど来の説明がありました内容をよく聞いていただくとわかりますように、理事会としては、こうしようという積極的な案じゃないのであります。合同委員会において相談して、理事者が何とか打開策をはかろうじゃないか、そういう動きであります。内容をよく、先ほどの速記なんかをお読みになりましたり、耳を傾けて聞いていただきますと、決して対立した原案賛成だという意見は一つもないのであります。
#100
○松本(善)委員 伊藤参考人にいまのことに関係して確かめておきたいのでありますが、前期の理事者の中で、この法案が通過してよろしいというような趣旨の、いわゆる折衷案というものが対外的に決定をされたというようなことはないということは、伊藤参考人もそういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。要するに、日弁連として正式に全体で決定して、対外的にこういう動きをする、折衷案についてたとえば国会に陳情するとか、あるいはそういうような意思表示をするというところまで決定したことがございましょうか。
#101
○伊藤参考人 その点は先ほど申し上げましたとおり、根本方針としてそういう基本で進むということだけであって、具体的なことは全部合同会議及び理事者に一任する、こうなっております。
#102
○松本(善)委員 そうすると、確かめるだけでけっこうでございますが、経過としてはそういう意見があったけれども、しかし、最終的にはこれが否決をされるという結果になった。したがって、対外的にそういうふうにきめたということにはならない、こういうふうに伺ってよろしゅうございますか。
#103
○伊藤参考人 否決をされたといいますのは、その具体案であって、方針そのものが否決をされているというふうには私は理解をいたしておりません。
#104
○松本(善)委員 そういたしますと、新しい理事者が前期の理事者から方針を引き継いだというようなことはございましょうか。
#105
○伊藤参考人 それは引き継ぎ書で引き継いでおります。
#106
○松本(善)委員 辻参考人にお伺いいたしたいのでありますが、この問題につきまして、前期の理事者から引き継がれた内容というものは、どういうものでございましょうか。
#107
○辻参考人 三月十六日の合同会議の結論でございます。
#108
○松本(善)委員 和島参考人にお伺いしますが、本期の理事者に引き継ぎましたこの問題についての結論というのは、どういうものでございましょうか。
#109
○和島参考人 辻参考人が申し述べたものと理解しております。私、今期は直接の理事者でございませんので……。
#110
○松本(善)委員 和島参考人は前期の理事者でいらっしゃいましょう。
#111
○和島参考人 私は、前期は合同会議に参加する連絡協議会委員という立場で、いまの内容のものを申し継いだものであります。
#112
○松本(善)委員 伊藤参考人にお伺いしたいのですが、辻参考人の言われたことでよろしゅうございますか。
#113
○伊藤参考人 いま申し上げましたとおり、先ほど午前中に説明をしました理事会の結論というものは引き継いでおります。おりますが、五十嵐副会長の説明によりますと、いまやっていることも決して折衷案というものを排斥するという趣旨ではないんだ、現在の政府案そのものには反対だという意味では折衷説も同一なんだから、決して矛盾するものではないのだ、こういうふうな説明を受けております。
#114
○松本(善)委員 そうすると、その点はあとでまたお聞きしょうと思いますが、要するに合同会議に、伊藤参考人のお話では、大勢は折衷案が多いようだけれども、合同委員会と協議をして理事者がきめるということを二月二十一日にきめられて、そうして、それが三月十六日の合同会議に出されて、現在のような経過で新理事者に引き継がれている、こういうふうに伺っていいわけですね。
#115
○伊藤参考人 その点も先ほど来申し上げておりますように、いまの段階において三月十三日に結論が出たような、正副会長会議で結論が出たような折衷案というものを出すのは妥当でない。現段階においては政府案というものは一本しか出ていないんだから、その政府案に対する反対という意味においては、これは反対説も折衷説も一致しているんだから、まずその点だけをやればいいんだということで、こういうふうになったというふうに聞いております。
#116
○松本(善)委員 それをもうちょっと詳しくお聞きいたしますが、要するに辻参考人の言っておられることは間違いではないわけですね。
#117
○伊藤参考人 私とおそらく同じ意見だ、はっきりしませんが、大体同趣旨だというふうに私は理解しております。
#118
○松本(善)委員 それからいまの折衷案のことをお聞きするわけでございますが、折衷案というのも、現在の政府案には反対であるということでございますね、その点だけ。
#119
○伊藤参考人 それはそのとおりであります。
#120
○松本(善)委員 伊藤参考人に個人的な意見をお伺いしたいのでありますが、このように折衷案も含めまして、政府案にはとにかく日弁連全体として反対であるということになっておるわけであります。そういう状態のままで、この法案が国会を通過をするということは、これはわが国の司法の将来にとって非常に重大な禍根を残すというので、法務委員の多くの皆さんが非常に心配をしておるのであります。この点につきまして、こういう状態のままこの法案が可決をされるということについて、伊藤参考人は反対でありますか、賛成でありますか。
#121
○伊藤参考人 これも午前中から申し上げておりますように、この法案がこのものずばりで、何らの附帯決議も何もなくてそのまま通るということに対しては、私は反対であります。
#122
○松本(善)委員 伊藤参考人にお伺いしたいのでありますが、日弁連の中にはもちろんいろいろの御意見があろうかと思います。先ほど来お伺いして、折衷案というものの中にもいろいろな御意見があるということでございます。そういう意見を調整し、また裁判所との間にも話をつけてやるのに、一年間この問題の話し合いの期間を置きたいという日弁連の現在の理事者の考えに、伊藤参考人は反対でいらっしゃいますか。
#123
○伊藤参考人 その点もすでにお答えしましたとおりでありまして、いま申し上げましたようなきめこまかい点についての協議をして、そして円満に話し合いが一年程度でつくならば、それは望ましいということは申し上げました。
#124
○松本(善)委員 それから、そのことに関係して辻参考人にお伺いしておきたいのでございます。先ほど中谷委員との間でこの問題について多少御意見の交換があったわけでございますが、この一年以内に解決をしたいというふうに現在の理事者がお考えなのは、先ほど私が申しましたように、いろいろの御意見が日弁連の中にもあるのを総合し、そして裁判所と話し合いをするという期間として、一応一年ということをお考えになった、こういうふうに伺ってよろしゅうございましょうか。
#125
○辻参考人 そのとおりでございます。
#126
○松本(善)委員 それから伊藤参考人にお伺いしたいのであります。この簡易裁判所の性格についての問題ですが、これを制度を変更しなければならぬという問題として先ほどお話しになったのでありますが、いま問題になっておりますのは、民事訴訟法の三百五十二条以下の簡易裁判所の訴訟手続に関する特則を完全に実行するというふうにすれば、一応民衆裁判所というか、かけ込み裁判所といいますか、そういうものが実行される、こういうのが主張ではないかと私は伺っておるわけであります。これを何か法制上の改正をしなければ民衆裁判所にならないんだという御意見と誤解されるような発言でありましたので伺うのでありますが、そういうことでございましょうか。
#127
○伊藤参考人 それは民衆裁判所というものを徹底すれば、これは通常の訴訟事件を扱うべきではないのだ、つまり反対説が、通常の訴訟事件は同質の裁判所で扱わなければいかぬ――同質の裁判所ということになれば、地裁に限るわけです。地裁、高裁、最高裁というのが同質の行き方です。それを十万円とか二十万円、三十万円で区切って、そして片一方は簡易裁判所で扱って、上告は高等裁判所までしかいかないということは、異質になるわけです。ですから、通常の訴訟事件は同質の裁判所で扱わなければいかぬというのが根本である限りは、訴訟事件を簡易裁判所で扱うというのがそもそも間違っているということになるはずです。簡易裁判所は調停とか和解、支払い命令、そういうものだけを扱うのであって、訴訟事件というものは金額によって質が変わるわけじゃないのですから、もし同質の裁判所で扱わなければならぬということを徹底すれば、そこへいかなければならぬはずです。
 そういう意味で、その根本問題、簡裁の性格の根本論を論ずるということになれば、当然制度の改革に手をつけなければならぬはずだ、こう申し上げたのであります。
#128
○松本(善)委員 そうすると、理論上突き詰めていけば法改正ということになる。しかし、現実にいまこの簡易裁判所に関する法改正をしろという意見は、弁護士会の中にあるのでありますか。
#129
○伊藤参考人 ただいまの簡易裁判所というものは通常訴訟事件も扱っているわけです。これは裁判所法ができた当時から扱っているわけです。ということは、言いかえれば、純然たる理論上の民衆裁判所ではない、民衆裁判所というものが主たるものではない。と同時に、通常の訴訟事件を扱えるという意味において旧区裁の性格もある程度受け継いでいるというのが実情だと思うのであります。だから、もしこれを、民衆裁判所を非常に強いものにしようとすれば、現行法上もある程度制度の改正ということに手をつけざるを得ないのじゃないか、こう考えます。
#130
○松本(善)委員 私のお伺いするのは、伊藤参考人の御意見が、突き詰めていけば、制度上の改革を必要とするのじゃないかという御意見であるということはよくわかりました。ただ問題は、現実に弁護士会、日弁連の中に、現在、簡易裁判所の制度を変えるための法改正をすべきである、そのことを最高裁との協議の中で一年で片をつけろ、こういう意見があるのかどうかということをお伺いしておるのであります。
#131
○伊藤参考人 反対説の考え方からは、民衆裁判所という理念的な裁判所を想定して、それに基づいてこの理論を進めていくという考え方は、現在十分あります。
#132
○松本(善)委員 辻参考人にお伺いしたいのでありますが、現在、日弁連の中でこの一年の期間の間に簡易裁判所に関する法改正をしろ、徹底した民衆裁判所として訴訟事件を一切扱わせないようにしろ、こういう意見、そしてその点について裁判所を説得しろ、こういう意見があるかどうか、お伺いしたいと思います。
#133
○辻参考人 私の知る限りでは、そういう意見はございません。また正式な機関でそういうことが論議されたこともございません。
#134
○松本(善)委員 そうすると、日弁連の中で論議をされておりますのは、民事訴訟法三百五十二条以下の「簡易裁判所ノ訴訟手続ニ関スル特則」を実行するようにという意見が論議をされておるのでありますか。
#135
○辻参考人 仰せのとおりでございます。この法律が規定しておることを運用の上においてそのまま実現してほしい――そのままというのは少しことばが強いかもしれません。これを生かした運用をしてほしい、こういうことでございます。
#136
○松本(善)委員 伊藤参考人にお伺いしたいのでありますが、緊急性の問題につきまして、このままでは地裁がパンクをするのじゃないかというお話がございました。これは地裁を強化すれば、裁判官や人的、物的施設を充実すれぱ解決をする、そういうことでございますね。
#137
○伊藤参考人 それはそのとおりであります。
#138
○松本(善)委員 これは三人の参考人にそれぞれお伺いしたいのでございますが、この当委員会におきましては、毎年裁判所の物的、質的、人的な整備をするべきだということが論議をされております。昭和四十二年には、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案が出ましたときに、附帯決議ができました。それを御参考までに読んでみますと、「裁判は、国民の権利義務の顕現に関する重大な事柄である。したがつて、その迅速適正な処理は、国民の強く要望してやまないところであるが、事実はこれに反しいまなお十分ではない。その主なる原因の一つは、予算の不足に基づく裁判官その他の裁判所職員の定員の不足と裁判所の施設の不備にあると思われる。よって政府は、すみやかに、裁判所関係職員の増員ならびに施設について必要な予算の増額措置を講じることについて、格段の努力と工夫を行なうことを要望する。」ということを決議をし、そしてこれについては当時の田中伊三次法務大臣が、そのとおりやるということを国会で申されたのであります。この時期に裁判所が政府に要求しました人員は、昭和四十二年六百九十二人であります。そして実現しました増員が五十四名であります。それから昭和四十三年には五百人以上を裁判所が政府に要求して、増加したのが二十五名であります。それから昭和四十四年には五百七十三名を裁判所が要求して、百六十二人ふえておる。それから昭和四十五年には、七百九十八名を裁判所が要求して百三十名、しかもそのうちの百名は警備員であります。実質は三十名しかふえていない。こういう実情がずっと続いておりまして、附帯決議が出ましても、裁判所の職員の増加というものについて真剣に取り組まれていないわけでございます。これは毎年毎年当委員会において問題になり、各党派ともこの問題は何とかしなければならないというふうに言いながら、実際は進んでいないわけであります。
 こういう問題が、もし裁判所の言うように、これは労働組合はもっと多くの人員を要求しておるのでありますけれども、こういう人員の増加あるいは物的施設の整備、こういうものができた場合に、この問題は解決をするというふうにお考えになるかどうか、三人の参考人にそれぞれお伺いしたいと思います。
#139
○辻参考人 私どもはそういう面での裁判所の努力を期待しておるのでございまして、そういう面について、弁護士会が協力することはいささかもやぶさかでないし、そういう申し出も現にある時期にはしておるわけでございます。こうしたことについて十分裁判所は今後も努力していただきたい、そうすれば地裁の充実ということができ、したがって訴訟の遅延ということも徐々にこれはなくなっていく、かように私は考えております。
#140
○和島参考人 私も同様に、この議会の御意見が実現すれば、これらの問題は解決に躍進できる、そういうふうに信じております。
#141
○伊藤参考人 結論は同様であります。ただ非常に困難だろうと思います。
#142
○松本(善)委員 最後に、三人の参考人にそれぞれお伺いしたいのでありますが、この法案がこのままの形で、あるいは採決をされる、通過をするというようなことになった場合、わが国の司法の将来についてどういうことになっていくだろうかということについて、それぞれ三人の参考人にお伺いしたいと思います。
#143
○辻参考人 はなはだ遺憾なことでございますが、もしこの法案がこのままの形で通過するということになりますと、日弁連と最高裁あるいは法務省との間の対立と申しますか、みぞというものは、とうてい埋めることのできないような状態に入っていくと思います。そうしたことが今後の司法の運営あるいは改善、改革等について大きなマイナスになってくるということを私は確信するものでございまして、こうしたことはほんとうに国民のために大きな不幸であり、われわれの責任であって、何とかこれを解消すべきであると考えておるわけでございます。
#144
○和島参考人 もしこのまま通過いたしますれば、まず現実には裁判所の混乱が起こると思います。特に簡易裁判所においては、打開できないような混乱が起こるんじゃないか。全国の実情を調査しなければ、どこでどういう混乱が予想されるとまではここでは申し上げられませんが、まず混乱が起こると思います。このことは、国民が裁判所から遊離してしまって、国民の裁判所が信頼を失う憂慮すべき事態が起こると思います。
#145
○伊藤参考人 辻参考人と同意見です。
#146
○松本(善)委員 終わります。
#147
○高橋委員長 参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。どうぞ御退席いただいてけっこうです。(拍手)
    ―――――――――――――
#148
○高橋委員長 引き続き政府及び最高裁判所当局に質疑を行ないます。林孝矩君。
#149
○林(孝)委員 最高裁にお願いします。確認になるかもしれませんけれども、最初に区裁判所制度を廃止して簡易裁判所制度を認めた趣旨、どういうところにあったかということをあらためてお伺いします。
#150
○寺田最高裁判所長官代理者 裁判所構成法が裁判所法に移ります際に、区裁判所制度をやめまして簡易裁判所制度を設けましたのは、比較的軽微な犯罪及び比較的少額な民事事件につきまして、比較的数多くの裁判所をつくりまして、国民の身近なところで裁判をする、こういう趣旨であったと考えております。
#151
○林(孝)委員 その趣旨でありますけれども、現在に至るまでその趣旨が生かされているかどうか、この点につきましては「法曹時報」第九巻六号七六ページのところに、最高裁の総務局内にも半ば否定的な意見があることは述べられておりますけれども、現在まで生かされているかどうか、その点についてお答え願いたい。
#152
○寺田最高裁判所長官代理者 この点につきましては、先般たしか法務省からもお話があったかと思いますが、裁判所法の立案の当時におきましては、現在の地方裁判所なり、区裁判所なり、さらには簡易裁判所の現在の制度とは全然違う、全く形の違う手続の裁判所という構想もあったようでございます。それはほとんど手続を裁判官の自由裁量にまかせるような手続にして、控訴審として覆審制をとる、こういう構想もあったようでございますが、結局そういう構想は捨てられまして、現在の簡易裁判所は区裁判所とかなり違った面を持ってはおりますけれども、同時にまた全く異質のものとしてでなく構想されたわけでございます。
 そうして、その簡易裁判所が現在どのように生かされておるかという点につきましては、やはり従来の区裁判所の所在地以上に、現在約五百五十カ所余りございますが、そういうところで、近くでいろいろ処理ができるという点では、その限りでは相当に生かされておると思います。ただし、手続の点につきましては、先般来お話のございましたとおり、いろいろな関係で必ずしも十分に簡易な手続が行なわれているとはいえない面があるということも否定できないと思います。
#153
○林(孝)委員 そうしますと、この簡裁の趣旨は近くにあるという点では生かされておるけれども、その他の点においては現実は生かされていない、そのように解釈してよろしいでしょうか。
#154
○寺田最高裁判所長官代理者 その簡易な手続という点も全然使われていないものでないことは、先般民事局長から御説明したとおりでございますが、十分使えないような面の規定もある、そういうものについては必ずしも生かされていない、こういう趣旨でございます。
#155
○林(孝)委員 その十分に使えない規定というのは、どういう規定でしょうか。
#156
○寺田最高裁判所長官代理者 典型的な例を申し上げますれば、証拠調べに関する規定でございますが、これは覆審制的なもの、つまり控訴審の構造によりましては相当に生かし得るものであろうと思いますが、その点がそうなっておりませんと、やはり一審の証拠調べの結果を相当はっきりと残さなければならないというところで自由に使えない面があるわけでございます。その他の点は先般民事局長が御説明したとおりでございます。
#157
○林(孝)委員 そこで、この趣旨が完全に生かされていない。これはいまの御答弁を伺っておりましても、完全でないということはわかるわけでありますけれども、そもそも特任判事制度というのは、この簡易裁判所制度設立の趣旨と密接に関連するものではなかったかと私は思うのですけれども、よろしいでしょうか。
#158
○寺田最高裁判所長官代理者 簡易裁判所の制度と密接に関連するものであると思います。ただし、いま申し上げましたような民事訴訟手続の簡易化の規定というものとだけ結びついておるものとは考えておりません。
#159
○林(孝)委員 そうだとすれば、先ほどの理想、いわゆる簡易裁判所設立の趣旨と現実は非常に異なっている、そういう実態のもとで、簡易裁判所制度そのものが、また特任判事制度そのものが再検討の時期にあるんではないか、そういうふうに思うわけです。そういうところから考えられることは、簡易裁判所の判事もまたいわゆる有資格者にというところで充実していくべきではないか、そのように感じますけれども、その点に対する最高裁のお考えはいかがでしょうか。
#160
○寺田最高裁判所長官代理者 私どもは簡易裁判所の制度の創設の趣旨が十分に生かされていないというふうには必ずしも考えておりません。先ほど申し上げましたように、少額の事件あるいは軽微な犯罪について比較的身近な裁判所で処理するという限りでは生かされておると考えておるわけでございます。ただ、民事訴訟の簡易裁判所の手続の特則は、ものによっては十分に利用されていないと、こういう趣旨でございます。
 また、それと関連いたしまして、いま簡裁の特任判事のお話が出ましたが、これまたそういうこととも関連のあることは間違いのないところでございまして、そういう意味におきまして、私どもは簡易裁判所の判事の選考にあたりまして、やはり簡易裁判所がこういう性格を備えたものであるということを十分念頭に置きながら、法律的知識というものを備えているかどうかということの考査について十分な配慮をしなければならない、かように考え、またさように実施してまいっておる次第でございます。
#161
○林(孝)委員 話はまたもとに戻りますけれども、生かされていないとは考えてないと言うが、先ほど参考人の方からいろいろ話がありました。実態をお伺いしますと、非常に現在の簡易裁判所の実態というものは、設立の趣旨から考えると、生かされていないという参考人の方の意見がありました。実際弁護士として現在その実務に携わっておる人の意見でありますけれども、そういう意見を聞きまして、最高裁のほうとしても、その実態というものを聞いてどういうふうに考えられたか、その点をお伺いしたいと思います。
#162
○寺田最高裁判所長官代理者 先ほど来、弁護士会の代表の方々から伺いました点、私どももここで十分傾聴いたしましたし、また、いろいろ反省しなければならない点も多々あると考えております。ただ、簡易裁判所の民事訴訟事件では、相当な比率でいわゆる本人訴訟事件があるわけでございます。つまり、現在の十万円以下の事件というものは、必ずしも弁護士さんがついて処理されるには経済的価値があまりに低過ぎるというものが相当にあるわけでございまして、そういうものはおのずから本人で訴訟をせざるを得ないということになろうかと思います。そういう場合にやはり身近な裁判所へかけ込むということの限りにおきましては、非常に生かされている面があるわけであろうと思います。ただ、その金額が何ほどが相当かというと、私どもは、現在の経済事情のもとにおいてはもはや十万円では低過ぎる、三十万円まではそれにふさわしいものである、かように考えておるわけで、あるいはそこが見解が分かれておるところであろうかと思います。
 それからなお、先ほどの大阪の実情の中で、即決和解の関係のお話が出ました。あるいは、詳しいお話になりますれば、民事局長から申し上げたほうがいいかと思いますけれども、これは先般も御説明申し上げましたように、必ずしも人手不足の面からだけでなくて、つまり当事者を確認するという方法で期間を置くということでございまして、私どもの聞いております範囲では、三カ月というものは、特殊な例外的なものについてあるいはあるかもしれませんが、一般的にはそういうことではないというふうに聞いておるわけでございます。
#163
○林(孝)委員 そういう点についても見解が全然違うわけでありまして、この法案の結果によっては、最高裁と日弁連と深いみぞができる、あるいは対立関係になってしまうということでありますけれども、もうすでに現在そういう対立関係にないとはいえない。そういういろいろな声だとかあるいは事実があるわけであります。そういう根本的な問題から解決していかなければ、この問題はなかなかスムーズに話し合えない、そういう感じもします。また、先ほど来、参考人の方が述べていらっしゃいましたように、提案の緊急性という面から考えると、納得し合った上でのそういう提案ではなかったのではないか、そういう点も一つの疑問点として残るわけであります。実際、双方の言い分がまた二つに分かれると思いますけれども、もう一度その過去の協議、それが今日に至るまで結論が出なくて、そして出ないままで提案されてきた、そういうところは、一体どこに原因があってそうなったのか、最高裁のお考えを伺いたいと思います。
#164
○寺田最高裁判所長官代理者 いま林委員からのお話はきわめて重要な点でございますので、やや詳しく説明さしていただきたいと思うわけであります。
 私どもも、こういう形で法案が出ましたことはまことに遺憾であると考えておるわけでございます。先ほど辻参考人からもいろいろお話がございましたが、私どもが連絡協議を始めますにつきましては、多くの先輩の方々の非常なお骨折りがございまして、その結果、辻先生と私どものほうの岸事務総長との間に、昭和四十年九月三十日にメモの交換が行なわれたわけでございます。もっとも、その前に、臨時司法制度調査会が終わりました直後に、いわゆる臨司意見書にあります司法協議会というものの準備幹事会というものがございまして、この準備幹事会には、日弁連から若林、磯辺両弁護士がいわゆる準備幹事として御参加になりまして、法務省からも御出席になり、約六回の打ち合わせ会を開いたわけでございます。これは、主として司法協議会を今後どういうふうに運営していくかということについての打ち合わせでございましたけれども、その際にも、実は簡裁の事物管轄の問題も話題には出まして、こういう問題はむしろ法制審議会のほうでやったほうがいいのではないかというような意見も交換されたことはあるわけでございます。その当時から実はそういう話題になっておるわけでございます。
 そういたしまして、三十九年の十二月に御承知の日弁連の臨時総会の決議がございまして、簡裁の判事の特任、簡裁判事の法曹資格及び簡裁の事物管轄拡張の問題について反対されますとともに、従来出しておられましたいわゆる司法協議会の準備幹事を全部お引き揚げになったわけでございます。私どもとしては、少なくともそのお話し合いだけは続けたいと強く希望しておったわけでございますけれども、その準備幹事会は打ち切りになってしまった。弁護士会の一方的な幹事引き揚げという事態になったわけでございます。
 その後、対立が若干続きまして、先ほど来問題になっております、いわゆるメモの交換ということになったわけでございますが、そのメモの中にも、簡易裁判所の事物管轄拡張の問題は、法曹資格の問題とは切り離して早期にその実現をはかりたいが、拡張の程度その他いろいろな問題について、弁護士会と十分協議する用意があるということで、これは私どものほうからの申し入れという文書の形になっておりますが、これの御了承を得ましたので、そういう意味で申し合わせということになろうかと思います。
 その申し合わせに基づきまして、連絡協議が開かれまして、四十一年一月二十日の第一回の連絡協議におきまして、そのメモに基づいて協議をするということを確認したわけでございます。したがいまして、私どもとしては、当時から私どもの希望は少なくとも早期にこの問題の実現をはかりたいということであり、そして一応それを受けて立っておられたわけでございます。ただし、直ちにその協議に入ることについては、弁護士会側のいろいろな御事情があるということで、連絡小委員の打ち合わせによりまして、この以外の問題からお話し合いを始めたわけでございます。
 その後の点は、先ほど辻参考人からお話がございましたので、詳しいことは省略いたしますけれども、四十二年九月十四日になりまして、ようやく小委員の意見が一致いたしまして、弁護士会側の小委員の方も了承されまして、第一審裁判所のあり方についてという問題を出すことにしたわけでございますが、これを出しましたとたんに、予定されました十月三十日及び十二月五日の打ち合わせ会は、流会になって、開くことができなくなったわけでございます。
 その後、翌年の三月には、役員の改選、委員の任期満了等で引き続き協議を続けることができなくなりました。そうして、ようやく、約一年たちまして、十月二十九日に連絡小委員会を約一年ぶりに開くことができるわけになった次第でございます。そして、十一月五日に連絡協議の本会議を開きまして、十二月六日に、そこで連絡小委員会を持ちまして私どもの試案を出したわけでございます。
 この場合にも、実は私どもとしては、私どものほうの試案というようなものを出しますと、いわばそれが原案ということになって、原案に対する賛否ということになるとかえってまずいのではないか、むしろ話し合いの中から案をつくり出すということを希望したわけでございますけれども、弁護士会のほうではやはり何か具体案がないとお話が進行しないからということで、あえて私どもの試案を提出したわけでございます。ところが、これを提出いたしますと、また、十二月二十日、一月三十一日に予定されました会議が、流会になって開くことができなくなったわけでございます。そうして、そのうちにまた委員の方の任期が満了する、役員が改選になるということで、同じようなことを繰り返しまして、約一年間協議がストップした次第でございます。そしてようやく四十四年の十一月二十七日に十三回会議を開くことができるようになったわけでございますが、こういう形で協議に入ろうとしますと流会になる、また協議に入ろうとしますと流会になる、こういうことを繰り返してまいっておりますので、とてもこれでは、普通の方法ではお話し合いがむずかしいのじゃないかということを非常に危惧しておったわけでございます。その間、国会においてもいろいろと話が出ておりますし、長官、所長会同でも強く要望を受けたわけでございます。
 そこで、いろいろな状況を勘案しまして、どうしてももうこれ以上お待ちするわけにいかないのじゃないか、したがって、この国会にはやはりぜひ法案を上程していただいて、そして私どもと弁護士会の問だけではとても話がつかないので、国会の御判断を仰ぐ、こういうふうにすべきではないかと考えて、いろいろ連絡小委員の方たちにもお話しいたしました。そして、それ以後若干の回数が開けたわけでございますけれども、結局かなり基本的な点で対立いたしまして、たとえば経済変動をどう把握するかというような内容的な面ではなくて、むしろそもそも事物管轄の拡張ということは日弁連の総会の決議に反することでもあり、また臨司意見実現の道にもつながるから反対であるという基本的なところで対決いたしましたため解決がきわめて困難で、遺憾ながらお話し合いを完成し得ないで法制審議会の議に付していただくということにならざるを得なかったわけでございます。ただ、法制審議会におきましても、弁護士会の代表の方が御出席になっておられますので、できればその法制審議会の段階において学識経験者をも含めての席で話し合いがまとまるということを強く期待しておったわけでございますけれども、結局そのことも十分に実現しなかった、かような経過になっておる次第でございます。
 私どもとしては、いわばもう四、五年前から考え、また弁護士会にもお話をしてまいった問題でございまして、この機会にぜひお願いしたい、かように考えておる次第でございます。
#165
○林(孝)委員 いま話を聞きましても、なるほど合議がなされないまま、また意見が統一されないままとにかく出したということでありますけれども、出した一つの理由に、いまの御答弁にもありましたように、経済変動ということが提案理由として述べられているわけです。この経済変動ということからいいますと、将来の問題としてさらに物価指数あるいは消費者指数の上昇に伴って、今回は十万円が三十万円という事物管轄の拡張でありますけれども、物価変動によってはさらに拡張される、筋からいうとそういうことになるわけですけれども、そういう考え方も、そういう場合を考えた上での提案なのか。
#166
○寺田最高裁判所長官代理者 便宜裁判所から意見を申し上げたいと思いますが、私どもはこれは拡張という表現が当たるかどうかは疑問で、むしろ調整であると考えておるわけでございます。つまり二十九年の法律の趣旨に合わせるために数字を直す、こういうことでございまして、したがいまして、もし今後重ねて大きな経済変動がございますれば、これは当然改める必要が出てまいると思います。ただしかしながら、物価が若干上がったから三十万を三十二万にするとか三十三万にする、そういうことはむろん全然考えておりませんが、ある程度の幅の経済変動があれば、これはやはり改めなければならないということを考えておるわけでございます。
#167
○林(孝)委員 ということは、物価スライドという提案理由のみの考え方であって、それ以外にそういう引き上げによって起こる影響だとか、あるいは先ほど即日和解が一部分の例である、そういう御答弁がございましたけれども、大阪の簡易裁判所の実態はほとんど即日和解が三カ月になっておる、これが弁護士の方の意見であります。最高裁判所のほうからいうと、ごく特別の場合である。ところが、実際実務に携わっておる人たちの意見はほとんど三カ月になっておる。こういう一つの問題を取り上げてすべてを論ずるわけではありませんけれども、どうしてそういうように意見が違ってくるのか。最高裁判所のほうの特別の場合であるという御答弁の出てきたゆえん、どういう調査に基づいてそういう結果を掌握されたのか、その点を明快にしておきたいと思うのです。
#168
○寺田最高裁判所長官代理者 いまのどういう調査かという点につきましては、あとで民事局長から説明するといたしまして、先ほど来のお話でちょっと補足的に申し上げておく必要があるかと思いますのは、私どものこの法案をお願いしましたと申しますか、これに賛成し、支持しております趣旨は、むろん経済変動を原因とするものでございますが、このことは別に終始変わっておりません。ただ、先ほどちょっと参考人の方のお話にもございましたし、先般たしか畑委員のお話であったかと思いますがございましたが、その原因は経済変動に基づくわけでございます。そうして、こういうふうに法案が成立いたしますれば、その結果、裁判所の面から見れば、裁判所の負担が調整される、負担がアンバランスになっておるのが調整されて、ある意味において訴訟の促進にも役立ち、また職員の負担の調整にも役立つ。こういうことであり、また一面、国民の方々のほうからこれを観察すれば、従来十万円の事件までしか簡易裁判所へ持ち込めなかったものが、三十万円の事件を身近の簡易裁判所に持ち込めるようになる、こういうことでございます。ある時点では負担の調整を言い、ある時点では経済変動を言いということでは決してございませんで、当初に私どもがつくりましたパンフレットにも、負担の調整であるけれども、その原因は経済事情の変動に基づいて非常にアンバランスになってきたので、これを調整すると申しておるわけでございまして、裁判所の面から見ればそうなり、国民の側から見ればそうなる。その原因は経済事情の変動である。また経済事情の変動をどう把握するかというその把握のしかたによって数が変わってくるのだということを、これも終始述べておるつもりでございます。
 なお、事件の全体の数から申しますと、先般各委員の皆さま方に追加資料としてお配りしました一枚の資料がございますが、その横に長い資料でごらんいただきますと、たとえば昭和三十三年というものをとってみますと、訴訟事件のうち民事九万四千件、刑事七万四千件、そうして雑事件も合わせました総計が二百九十四万件でございます。それに対して四十四年は民事五万三千件、刑事三万九千件、雑事件を合わせました総件数が二百六十八万件でございまして、確かに民事の雑事件はかなりふえておりますけれども、刑事の雑事件等においては大幅な減少を示しておるわけでございまして、全体として簡易裁判所の負担が非常に減ってまいっておるということは、これは明らかな事実であるわけでございます。
 なお、即決和解の問題につきましては、さらに民事局長から補足することにいたしたいと思います。
#169
○矢口最高裁判所長官代理者 即決和解の問題は、仰せのとおり、即日和解ができておるという状況ではないようでございます。と申しますのも、前回もお答え申し上げましたように、一般に都会地におきましては、当事者双方が同時に出頭してくるという例はごくまれでございまして、一方が御出頭になって和解をしてほしいといってお申し出になるのが通常でございます。裁判所のほうはそういうお申し出がございますと、相手方に対して和解条項をお送りし、なおあらためて期日をきめて、そうしてそのきめられた期日に双方の出頭を求めて和解するというのが一般の例でございます。ごくまれには双方が相携えておいでになる場合がございますが、こういった場合でも、双方代理人の先生がついておられるような場合には、そのまま和解条項を作成するということをいたしておりますが、一方が本人である場合、あるいは双方が本人であるような場合には間々間違いが起こりますので、本人の申し出による住所、氏名を記載させまして、期日をきめて、あらためて簡易な呼び出し、はがきで呼び出しをいたしまして、そのはがきを持ってきてもらう。そのことによって当日そこに出頭しておる人が申し出どおりの人であるかどうかということを確かめ、なおかつある程度期間を置くことによって和解条項が十分考えた上でつくられておるものであるかどうかということを確かめる、そういう手続をとって和解をいたしておるのが実情でございます。
 これはある庁でございますが、昨年まで双方本人で出頭してきた場合には直ちに即決和解をしておったのでございますが、どうも後ほどになって、いわゆる請求異議の事件と申しまして、和解条項の内容をよく承知してなかったとか、あるいは意味がよくわからないで、裁判所で即決和解をしてしまったのだというような請求異議が多うございますので、ことしになって一度再考の期間を与え、なお本人であることを確かめるという意味でこちらから呼び出しをして出てもらってやるというふうに改めた庁もあるわけでございます。
 そういったような意味で、二週間程度はどうしても必要であるわけでございます。ただ、東京とか大阪は最小限度の二週間よりも少し時間がかかっておりまして、東京の実情では大体四週間以内ぐらいに即決和解ができる、大阪の実情では、先ほど和島参考人が二カ月、三カ月というお話でございましたが、私どもが調査いたしまして、現地よりの報告を得たところによりますと、一番長くて一カ月半ぐらいであるということでございます。私ども決してそれは短いとは思いませんけれども、参考人のお話のようにそう長くかかっておるものではない、このように考えております。また即決和解と申しましても、双方出頭して即日できるのが理想ではございますけれども、日本の現状といたしましては、そのような扱いもやむを得ないのではないか、このように考えておるわけでございます。
 なお、大阪管内の簡易裁判所の事件の現状でございますけれども、民事、刑事訴訟事件その他の事件を全部合わせまして、昭和三十年当時に比較いたしますと七〇%、七割程度の事件数に減少いたしております。そういった意味で内部の事件の割り振りといったような調整さえ行なえば相当余裕があるのではないか、このように考えておるわけでございます。
#170
○林(孝)委員 いま御説明を伺っておりまして、即決和解の問題に関しては、やはりその額面どおりの実例というよりも、四週間だとかあるいは一カ月半だとか、そういう期間のかかるのがほとんどであるということがわかりました。先ほどの御答弁の中で、逆に即日和解が長引くということはごくまれな例であるという御答弁があったので、詳しくお伺いをしたわけであります。
 それからさらに経済変動ということでありますけれども、それでは今回十万円から三十万円に訴訟価額の引き上げをする、それは経済変動が理由である、そういうならば、もう一歩深く突っ込んで考えれば、この経済変動はいま急激にあらわれたのではないわけであります。そうしますと、今国会において、またきょうの時点においてこれをどうしても通していかなければならないという経済変動の裏づけというものが論理的に矛盾するのではないか、私はかように思うのですけれども、いかがですか。
#171
○寺田最高裁判所長官代理者 ただいまの林委員のお尋ねは、まことにごもっともなお尋ねであろうと思います。実はこの問題は、もし臨時司法制度調査会というものがございませんでしたら、おそらくは三十八、九年当時にもあるいは実現しておったのではないか。むろんその場合は、いま問題になっております三十万円ということではなかったろうと思いますが、当然取り上げられておったはずの問題でございます。ただ、たまたま臨時司法制度調査会というものが開かれておりましたために、それの結論を得てということで待っておったというような関係がございます。ところが、不幸と申しますか、臨時司法制度調査会の答申は簡易裁判所制度のあり方を相当基本的に変えるような形のものであり、そうしてこの点については弁護士会から強い御反対がございましたし、また、その御反対の中にもきわめてもっともな意見が多々あったわけでございますので、そういうことで実は臨時司法制度調査会の意見の実現ということであるならば、とうてい弁護士会としては了承できないというお話として、従来伺ってまいったわけでございます。その限りにおきましては、私どももこれを早急に実現するということについてはやはり問題があろうか、かように考えておったわけでございます。
 ただ、今回提案されておりますのは、臨時司法制度調査会の答申とは無縁――と言ってはことばが過ぎるかもしれませんが、とにかくその上限を引き上げるのですから、上限を引き上げるという限りにおいて平行線上にはありますけれども、その度合いというものはまるで違うわけでございます。そういう意味で、臨時司法制度調査会のあとの、いわば一つの法曹界の混乱によって今日までおくれてきたということで、もうこの辺で決着をつけないことには、次のいろいろな問題――そういうことを申し上げますと、またわれわれが臨司の意見を何かやるのだろうといわれるおそれがございますけれども、決してそういう意味ではございませんで、いろいろな司法制度の問題についてお話し合いをするについても、この問題についてはもうこの辺で決着をつけなければ、次のいろいろな制度の問題についてお話し合いをする段階に入っていかないのではないか。それは先ほど申し上げました、長い間何度も連絡協議をやろうと努力してできなかったことでございますから、ここで一年延ばしてそれでできるということは、とうてい従来の経緯にかんがみて考えられない、まことに遺憾ながらさように考えざるを得ないという次第でございます。
#172
○高橋委員長 林君、あなたのお約束の時間はとうに過ぎてしまったのだけれども、政府の答弁が少し懇切丁寧過ぎて、それで時間を食ったことになるから、もう一問ぐらいやって、それでひとつ打ち切っていただいて……。ほかにもだいぶ待っているんだ。畑君も、中谷、松本両氏も待っているから……。
#173
○林(孝)委員 次に、特任判事の内容の問題でございますけれども、国民の権利擁護という面から考えまして、前回の法務委員会のときにおいて有資格者と特任判事の比率が発表されておりまして、有資格者のほうが少ないという答えでありましたけれども、順序からいきますと、簡裁の判事に判事補経験者を充てることによって質の向上をまずはかって、その上で今回の事物管轄の拡張という問題を考えるべきではないか。順序の問題ですけれども、国民の権利擁護という面から考えれば、そのほうが妥当ではないかと思うのですけれども、いかがでしょう。
#174
○寺田最高裁判所長官代理者 簡裁の判事にはできる限り法曹有資格者を充てるように努力いたしたいと考えておるわけでございます。
#175
○林(孝)委員 そうしますと、定員法の関係になってくるわけでありますけれども、はたしてそれだけの人材を簡裁に配置する給源があるのかどうかということです。あると考えられておるのか、それともそういう磐石の対策が整っておるのか、その点はいかがですか。
#176
○寺田最高裁判所長官代理者 先ほどもできる限りと申し上げたわけでございますし、なお特任選考判事と申しましても、最近ではきわめて厳格な選考を実施しておりまして、それほど質の悪いものと私どもは毛頭考えていないわけでございます。
#177
○林(孝)委員 それでは、裁判官の定数ですけれども、地裁、簡裁の総事件数に比較して、裁判官の定数はどうなっているのか、それは適正な配分であるかどうか、その点をお伺いします。
#178
○寺田最高裁判所長官代理者 地裁、簡裁の関係におきましては、地裁は合議も担当いたしますし、簡裁はもっぱら単独でございますから、直ちに数による比較は困難でございますが、一般的には簡裁のほうが余裕がある、かように考えております。
#179
○林(孝)委員 地裁、簡裁の定数はどうなっているのですか。
#180
○寺田最高裁判所長官代理者 定員は、地方裁判所は判事八百五、判事補三百九十九、簡易裁判所判事七百六十七でございます。
#181
○林(孝)委員 その定数で考えて、今度十万円を三十万円に改めることによって、地裁から簡裁へ移る件数というものは前回にも発表されましたけれども、最高裁の考え方として、そうした人的な面でありますけれども、それで十分国民の権利擁護のための裁判ができるかどうか、その辺の考え方はどうなっているのでしょうか。
#182
○寺田最高裁判所長官代理者 先ほども御説明申し上げましたとおり、民事、刑事を通じ、訴訟その他の事件を合わせまして、三十三年当時あるいはそれ以降に比較いたしまして、事件が激減しておるわけでございます。そうして、一方定員のほうは、簡易裁判所におきまして、裁判官も書記官も相当数増加しておるわけでございますので、今後先般御説明申し上げましたような事件の移動がありましても十分処理できる、かように考えておるわけでございます。
#183
○林(孝)委員 それではもう一つお伺いしますけれども、裁判所にはいろんな資料等があるそうでありますけれども、簡易裁判所に必要な、たとえば最高裁の判例集だとか、それから高等裁判所の判例集、下級裁判所民事判例集、そうした資料、はたしてどういう資料が簡易裁判所になければならないか、現実の問題として、現状簡易裁判所にはたしてそれがあるかどうかという問題ですけれども、最高裁の考え方としては、簡易裁判所にはどういう資料が必要であるかという点であります。
#184
○寺田最高裁判所長官代理者 判例集はむろんすべての簡易裁判所にございますが、なおいわゆる裁判官研究庁費というものが昭和四十年から毎年約一億八千万円ずつ計上されておるわけでございます。これが四十四年度で第一次五カ年計画が終わりまして、第一次五カ年計画中には主として高裁、地裁の本庁及び甲号支部に重点を置いて実施してまいったわけでございますが、四十五年度、本年度から第二次五カ年計画に入りまして、乙号支部及び簡裁を中心にこれをいたすことになるわけでございますので、そうなりますと、各簡易裁判所に相当な量の図書が配付できる、かような計画になっているわけでございます。
#185
○林(孝)委員 それ以外に物的な施設の充実等いろいろ具体的にあげていきますと、現在の特に地方の簡易裁判所等においては、いま申し上げましたこういう本の中にも、まだそろってない書物があります。これは受け入れ体制が十分であるという前々回の法務委員会での御答弁があったわけでありますけれども、実際問題としてそうした面の受け入れ体制もまだまだ不十分ではないだろうかと私は心配するわけであります。特に大都会の裁判所はそうでもありませんけれども、比較的人口の少ない地方の裁判所、たとえば今度の法案が成立しますと、第一審民事事件のほとんどは簡裁に移ってくる、これは考えられるわけです。そうしますと、先ほどの特任裁判官の内容の問題と関連しますけれども、国民の権利擁護という立場から考えれば非常に問題が残るのではないか。たとえば十万円から三十万円になったと仮定して、東京、大阪、名古屋だとか横浜、京都、そういう都市の場合、あるいは鳥取、松江、鹿児島、佐賀、それから盛岡だとか旭川だとかそういう地方の各地裁、また各裁判所で事件数が何件くらい簡裁に移るのか、そうした点からこの問題を考えられたことがあるか。特にこれは都市と地方との相違点であります。前回の質問の実証のためにお答え願いたいと思います。
#186
○寺田最高裁判所長官代理者 まず先ほどの図書の件でちょっと補足いたしますけれども、先ほど申し上げましたのは、裁判所の図書は従来各簡易裁判所にもいっていると思いますが、そのほかに特に裁判官専用の図書を研究庁費でまかなって配付いたしたい、こういうことでございますから御理解いただきたいと思います。
 それから次に、各地方に応ずる事件の変動でございますが、これはかなりこまかい数字をいまあげております。お話しのとおり、大都会では比較的移動する事件の件数が少なく、地方では比較的少額事件が多いので、移動する事件が多いわけでございます。しかし他面、大都会の簡易裁判所は現在ある程度多忙でございますし、地方の簡易裁判所はそれに比べれば余裕があるわけでございます。そういうところを綿密に調べまして、今後定員の配置をどういうふうに改めるかという点は、地方裁判所をも含めましていま具体的に案をつくりつつある段階でございます。
#187
○林(孝)委員 もう一つは、簡裁の判事に比べて、地裁の裁判官の転勤の回数が多いという意見を聞いたわけでありますけれども、これは事実でしょうか。
#188
○矢口最高裁判所長官代理者 簡易裁判所の裁判官より、地方裁判所の判事補の方々については転任が多いということになっております。
#189
○林(孝)委員 そのために訴訟遅延を来たしている実例を聞いているわけでありますけれども、そうした面からの検討を行なって、今回の事物管轄の拡張という問題を考えられたかどうか、考えられたとしたならば、どういうふうに考えていらっしゃるのか、お伺いします。
#190
○寺田最高裁判所長官代理者 具体的に転任に伴うということもございますが、一般論として、裁判所の訴訟遅延状況というものを十分念頭に置いて、今回の案を考えておるわけでございます。
#191
○林(孝)委員 今回のこの事物管轄の拡張の問題に関してもそうでありますし、先日の定員法の問題もそうでありますけれども、地裁の裁判官の数が不足だとかそういう問題に対して、法務省は法務省として、大蔵省と強力に折衝して定員増加を認めさせる、そうして財政法に規定されている権限を発動して定員を充実していくという努力をはたして今日までやってこられたか、またやってこられたとしたならば、その結果どうなったかという点をお伺いしたいと思います。
#192
○寺田最高裁判所長官代理者 便宜裁判所からお答えを申し上げて、その上であるいは法務省の御意見を伺ってはとも思いますが、先ほど参考人との御質疑の間にも出ましたが、毎度法務委員会からはいろいろ御激励もいただき、また附帯決議も付されておるわけでございます。私どもといたしましても、そういう点を念頭に置きまして努力いたしておるわけでございまして、たとえば裁判官につきましては、最近五カ年間に約百人、それからその他の職員につきましては約三百五十人の増員を実現したわけでございます。この数は、数の上において必ずしも多いということは言えないかもしれませんけれども、現在の公務員の一般の状況のもとにおいては、ある程度のものであると考えておりますし、特に裁判官につきましては、給源その他も考慮に入れますと、かような数でやってまいりたい、かような結論でいままで実施してまいった次第でございます。
#193
○林(孝)委員 最後に、時間的な関係でしぼらさしていただきますけれども、こうした問題に関連して、いま申し上げましたように、裁判官の定員の不足というものはいつも考えられているわけです。そこによって起こる問題があまりにも多い、現在のこの事物管轄の問題も、ただ物価のスライドだけではなしに、その根本的な問題を追及していけば、簡易裁判所の性格という本質的な問題もありますし、また、地裁の充実という問題に関係しての裁判官不足という問題もありますし、国民の側に立って考えても、なるほど近くて便利かもしれないけれども、雑な裁判をされたんでは困るという心配もあるわけです。
 そういうことから私がお伺いしたいことは、たとえば現在五百名という司法修習生の合格者を見ておりますが、将来この数を八百名にふやすとかあるいは千名にするとか、そうした考慮をした上で人材の育成というものをはかる。また、裁判官になる人が少ないという原因はどこにあるのか、そうした面をさらに深く突っ込んで検討して、人材の育成に当たる。そうした二つの点を申し上げましたけれども、まだほかにもあると思いますが、最高裁としてどういう考え方で今後臨まれていくか、その点を最後に一点お伺いしておきたいと思います。
#194
○寺田最高裁判所長官代理者 司法修習生の数は、直接的には司法試験の合格者の中から参るわけで、したがって、司法試験管理委員会がおきめになることであり、多くの場合考査委員の考査の結果によるわけでございます。
 しかしながら、もう少し大きな意味で、法曹人口をいかにするかということはきわめて大きな問題でございまして、この点につきましては、当然法曹三者が十分に話し合って、法曹人口をいかに持っていくかということについての検討を進めるべきであろうと考えております。幸いにして近々司法研修所も完成いたしますので、そういう時期を機といたしまして、十分お話し合いをしながら施策を進めてまいりたい、かように考えておるわけでございます。
#195
○林(孝)委員 法務省のほう……。
#196
○高橋委員長 林君の意見は、法務委員会大多数の意見だと思いますので、岸事務総長もひとつ最後に御答弁願いたいし、それから法務省も、大臣がちょうど羽田に行って間に合わないので、影山調査部長、御答弁願います。
 事務総長、ひとつ大局的に、いまの要望は全法務委員会の意見だと思いますが、十分その点について……。
#197
○岸最高裁判所長官代理者 いかにして法曹人口をふやすことができるか、つまり法曹人口は、世界の各国に比べましてわが国は、これは弁護士も含めて全体で決して十分とは申せません。法曹人口、つまり法曹のなり手は、まず司法試験に合格するということであります。ここ十何年あるいは二十年ずっと試験を続けてまいっておりますが、一万何千人という希望者のうち、最終的に合格するのは大体五百人余りであります。これは奇妙に毎年そう大きな開きはないわけであります。現在のこの合格基準を下げますと、一挙に千人なり千五百人以上修習生を得ることができますけれども、やはり法曹の質の向上という点を考えますと、そうやたらに数をふやすために合格基準を下げるというわけにもまいりません。しかし、このごろ司法試験受験生の能力というものも上がっております。これは次第次第に自然に合格者がふえていくと思います。それに、そういう将来のことを考えまして、ただいま建設中の司法研修所の収容能力を、少なくとも現在の倍ぐらいは、ちょっと無理すれば入れるということを念頭に置いてやっておりますので、そういう面から、法曹人口の増加という点をはかっていきたい、かように思います。
 そしてさらに、その他のいろいろな施設の充実という点につきましても、これは予算の面の問題でもございますが、十分努力していきたい、かように考えております。
#198
○大竹政府委員 私からお答えすることも同じようなことになろうかと思いますが、実はきょうちょうど研修所の入所式でありまして、大臣のかわりに行ってきたのでありますが、ことし入った人は五百三十名ということであります。しかし、いま最高裁からお話がありましたように、試験を受けた人が一万人以上ということでありまして、私どもも、もう少しこの人間をふやすことができないかというようなお話も、待っている問にしたのでありますが、やはりふしぎに毎年大体最低とでも申しますか、それは大体同じことにして採っているのだ、点数でいいますと。そういうようなことがらして、これ以上下げるわけにはいかないというようなお話を実は聞いてきたのであります。そういうことから見ますと、同じ一万人でも受ける人の素質をよくしなければならないのではないか、そうするのには、やはり待遇とかそういうような問題もこれから――これはいつも委員会でも問題になることでありますが、この数年大体の標準が同じということになれば、一万人の素質を上げるということを考えなければならないと考えておるわけでありまして、それはやはり給与その他の面も根本的に考えていかなければならない問題ではないかというふうに私は考えておるわけであります。
#199
○高橋委員長 ちょっと速記をとめて。
  〔速記中止〕
#200
○高橋委員長 速記を始めて。
 畑和君。
#201
○畑委員 私は、先日の質問に引き続きまして、裁判所法の一部を改正する法律案について質問を続けてまいりたいと思います。
 この前、私申し上げましたが、昭和二十九年の改正の際には、三万円から二十万を目ざして提案したんだけれども、それが十万円になった。そのときの提案理由の説明を引用いたしましたときに触れましたけれども、そのときの説明で、「このように拡張するとしますと、簡易裁判所の裁判官の任用資格等につき、当然考慮を払うべき必要が生じて来る」この前も触れましたが、しかし、実は十分な答弁がなかったと思うのです。ところで、この「考慮を払う」というのは、先ほど寺田局長が言われたように、簡易裁判所に法曹資格のある判事をふやしていこう。当然それをやらなければ、急速に簡易裁判所に事件がたくさんふえてきて、それを従来の簡判がおもにやるということではぐあいが悪いということを反省しておるのだ。それを実際にやったかどうかという問題について、どうも私の考えではやってなかったのではないかと思うのです。
 ところで、昭和二十九年、三十年、その当時の裁判官の中の簡判の割合、これと最近の割合、絶対数だと両方ともふえておりますからわからないですけれども、この割合にどういう変動があったかということを聞いておきたいと思うのです、この前聞き忘れましたから。大体のことはわかりませんか。
#202
○矢崎最高裁判所長官代理者 いま正確な資料をここに持ち合わせてございませんけれども、現在は、約半分はいわゆる有資格者で占めておるわけでございます。
#203
○畑委員 ですから、いまは半分でしょうが、昭和二十九年当時もやはり半分でしたか。
#204
○矢崎最高裁判所長官代理者 ただいま正確な資料を持ち合わせておりませんので、お答え申し上げるのに、感じだけではなはだ申しわけないのでございますけれども、現在の有資格者数に比べれば、たしかその当時は少なかったように記憶いたしておるわけでございます。
#205
○畑委員 まあたいして違いはないかもしれぬけれども、大体そのときは有資格者がいまよりも少なかった、こうおっしゃるわけですね。
#206
○矢崎最高裁判所長官代理者 そういうように記憶いたしておるわけでございます。
#207
○畑委員 そうすると、若干有資格者の割合がふえたということでありましょうけれども、やはりこういう事物管轄の大きな変動によってそういう大きな不都合が出てくるわけでありまして、それと同じ人数の簡判にやってもらうことは困るのだということが弁護士会の意向だ。これは単に弁護士会というのじゃなくて、国民のためにりっぱな法曹資格のある人に裁判をしてもらいたい。こうした事物管轄のたびごとにふえていく事件を簡判に裁判させるということは、結局、ただ裁判所の都合で事件が処理できればよろしいという考えから、そういうことが出てくるのだと思うのであります。また、その提案理由の説明のときにも、そのときはそういうことを言っても、あとになってすぐ忘れてしまって、その辺のところはそのときただ通すための方便というふうに考えられては困るのでありまして、そういう点を申したいために私は申し上げたわけであります。今回の場合も、もしこれが通るといたしました場合にも、それは物価の関係その他経済変動のためとは申しながら、先ほど来弁護士会等の意見にもありましたように、やはり簡易裁判所の性格を変えて、そして本来裁判を担当させることがあまり好ましくないような人に多くの事件がいくということが心配なんでありますから、こういう点を将来ともに、給源の確保ということが一番問題だと思いますけれども、そういう点を十分に配慮していただかなければならぬのであります。その場だけ通ればいいということじゃなくて、ひとつその点十分に前向きにやっていただきたい、かように思います。
 それから先ほど寺田局長からの御答弁の中にありましたが、簡易裁判所の事件が事物管轄の拡張に伴って多くなれば、弁護士さんとしても――国民としてもということをおっしゃいましたね、国民としてもそれだけ近い裁判所で裁判を受けることができるんだ、こうおっしゃった。けれども、実際にはそうじゃないと私は思うのです。先ほど私が申し上げましたようなことからも言えると思うのでありますけれども、十分な有資格者の方に裁判をしていただきたいということのほうが、やはり大衆のほんとうの要求だろうと思うし、それを十分承知しておる弁護士がそれを代弁してやはり心配しておるのじゃないかと思うのでありまして、この点は逆だと思うのですが、いかがですか。
#208
○寺田最高裁判所長官代理者 いま畑委員のお話の点は、まことにごもっともでございますが、同時に、私が先ほど申し上げました点も、一面の真理を含んでおる。要するに、比較的近い裁判所で裁判を受けるという有利さ、それはひいては、たとえば控訴しました場合にも、地方裁判所で控訴が受けられるということは、比較的少額の事件については有利な面を持つわけでございます。しかしながら、同時にまた、比較的上級の裁判所で裁判を受けたいという国民の要望も、これもきわめて当然のことでございまして、そのかね合いで、どこに線を引くかということであろうと思いまして、私どもは、これが三十万円というところが境目であろう、かように考えておるのでございます。
#209
○畑委員 いま、はしなくも申されましたけれども、その次に今度は、控訴をする際に、簡裁が一審のほうが二審は地裁で済む、近くで済むというところだと思います。ただしかし、いま寺田局長が、それと同時にまた、上のほうの裁判所に裁判してもらいたいという希望もある、そのかね合いがなかなかむずかしいんだ、そこでまあそのかね合いを考えた結果が、今度の三十万円だ、こういうお考えのようでありますが、それもわからぬでもありませんけれども、しかしそうなると、やはり高等裁判所は第三審の裁判所なんだ、こういうことになりますので、先ほど来弁護士の人たちが言うておりました判例の不統一、こういう点がやはり問題になるのではないか、かように思いますが、いかがですか。
#210
○寺田最高裁判所長官代理者 判例の不統一という問題もきわめて重要な問題でございますが、しかしながら、上告権を確保するということもきわめて重要なことであろうと思います。外国では、むしろ上告は金額の低い事件については制限しておるところのほうが多いと思いますが、しかし、わが国では、いかに少額の事件でも上告を確保しておる。そうして東京まで出てこなくても、たとえば福岡で上告の判決が受けられる。この場合もやはりかね合いの問題であろうと思います。最高裁判所の裁判を受けたいということは当然の願いであります。しかしながら、きわめて少額の事件について東京まで出てこないで、比較的近いブロックの高等裁判所で裁判を受けられるということも、それもその限度においては有利な面を持つわけでございます。ただ、判例不統一という点にしぼって考えますれば、これも移送の規定その他によりまして、その不統一を防ぐように十分考えなければならない、かように考えておるわけでございます。
    〔委員長退席、小島委員長代理着席〕
#211
○畑委員 話はほかへ飛びますけれども、裁判官会議というのは、あれは地方裁判所なら地方裁判所の裁判官会議でありますか。それで簡易裁判所の判事はそれには加われないのですか。あくまで資格のある人だけが裁判官会議を構成するのですか、その辺が承りたい。
#212
○寺田最高裁判所長官代理者 地方裁判所の裁判官会議は、地方裁判所の裁判官のみによって構成されるわけで、簡易裁判所の裁判官は加わりません。
#213
○畑委員 簡易裁判所は、みんな独人か二人、せいぜい三人というようなところでありますけれども、簡易裁判所にはそういう機構はございませんか。
#214
○寺田最高裁判所長官代理者 裁判所法三十七条によりまして、「各簡易裁判所の司法行政事務は、簡易裁判所の裁判官が、一人のときは、その裁判官が、二人以上のときは、最高裁判所の指名する一人の裁判官がこれを掌理する。」かようになっております。
#215
○畑委員 ところで、いろいろな現実を聞いてみますと、簡易裁判所はあくまで地方裁判所のほとんど下部機構みたいになっておるように聞いておるのですが、いま法文を読まれますと、簡易裁判所については、簡易裁判所の裁判官が司法行政をやるということになっていますが、いろいろ庁費その他の分配等で、簡易裁判所独自の庁費というのはないように聞いておりますが、いかがでありましょう。
#216
○大内最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
 裁判所の予算の配賦でございますが、裁判所といたしましては、簡易裁判所の分を特別に示達するということはいたしておりません。地方裁判所に一括して予算の配賦をいたしておるわけでございます。地方裁判所の中で簡易裁判所を含めて、ただいま御質疑のございました庁費などについても実行に移す、かような実情に相なっております。
#217
○畑委員 そうすると、これは最高裁でその予算をきめるのでしょうけれども、地方裁判所の裁判官会議で簡易裁判所の庁費の分配までもきめるということになりますか。そうでなくして、簡易は簡易で高裁のほうからきめていくのですか、どうなんですか。
#218
○大内最高裁判所長官代理者 地方裁判所におきましては、所長が支出官でございますので、支出官でございます所長の意見に基づきまして、実情に沿うように予算の実行をいたしてきておるわけでございます。もちろん支出官たる所長といたしましては、管内の地方裁判所本庁、支部並びに簡易裁判所のあらゆる実情につきまして常に調査をいたし、実情に沿うような上申をしてまいりますので、それに基づきまして、私どものほうとしましても、独自に簡易裁判所の実情を調査することもございますし、そうした点を総合いたしまして、実情に沿ったような予算の実行をいたしておるのが現状であります。
#219
○畑委員 その問題についてですけれども、簡易裁判所等に働く人たちの不満というか、そういうことがある本に書いてあるのですけれども、これはどうでしょうかね。簡易裁判所に「自庁予算がないことから、略式命令に必要な県条例もなく村役場に借りに行つたり、冬期に凍結による水道管の破裂を防ぐために夜中に二度、三度と水道の水を流しに起きる宿直(破裂したら予算不足で春まで修理してくれない)の例はまれではない。また、備品は地裁の使い古し、消耗品は制限され、図書資料の配付は地裁どまり、法律書参考書も不足がち、事務室は狭い……等々の例が全司法の司研集会の中で報告されている。」こういうような書きものがございますが、こういうことで、形はそうなっておりましても、簡易裁判所に対してはほんとうに上のほうからの天下りの適当な配分であって、非常にそういう点で物的、人的にも差別がなされておる、こういうふうに聞いておるのですが、こういう劣悪な執務環境の中にあって、さらに司法行政上の監督が強化され、あるいは超勤手当、特別昇給、あるいは昇給昇任の上でもいろいろな差別がある。月に十数回の宿日直勤務がしいられているというようなこと等も、一種の人権問題だということで、簡易裁判所の職員が大きな不満を持っておるというようなふうに聞いておりますが、こういう点について実情を把握しておられますか。
#220
○大内最高裁判所長官代理者 ただいま裁判所の、特に簡易裁判所の実情につきまして、非常にこまかい点まで御指摘をいただきまして、たいへん恐縮に存じておる次第でございます。
 簡易裁判所に限らず、日本の全国の裁判所、地裁あるいは支部等におきましても、必ずしもまだ完全に執務環境は整備いたしておるとは申し上げることはできません。まだまだ不十分な点が多々あると私どもは存じております。そのために、毎年予算におきましても必要な経費を要求いたしておりますし、その実行面におきましても、できるだけ地方裁判所と簡易裁判所のそれぞれ裁判官並びに職員の執務環境を改善するために努力を継続しているわけでございます。今後もそうした努力を継続して、できるだけそうした事態を改善してまいりたいと存じますけれども、私どもといたしましては、簡易裁判所を、特に地方裁判所と比較しまして、これを冷遇するといった考えは毛頭ございません。地方裁判所も簡易裁判所もともに執務環境を改善してまいる、そのような考えで今後とも進んでまいりたいと思っております。
 なお、最後にお話のありました宿日直の問題でございますが、確かに職員が少ないわけでございますので、回数は地方裁判所の場合に比べますと多くなるわけでございます。そうした手当につきましても、特に変わった点はございません。簡易裁判所であるがゆえに手当を少なくしているというようなことはないわけでございます。
#221
○畑委員 とにかく相当へんぴなところで、劣悪な条件のもとに働く簡易裁判所の職員、それに今度こうして事物管轄の条件が変わってまいりますと、さらにその労働が強化されるというようなことになるわけでありまして、
  〔小島委員長代理退席、委員長着席〕
やはり先ほど来ずっと言われておりますように、裁判所の民主化というものを基盤にして、その基盤がまさに簡易裁判所である、こういうことであったはずであるけれども、実際はそうではなくて、簡易裁判所が、言うなれば、まま子扱い的な状態にあるというようなことも、これから改善していくとは申しながら、遺憾ながら事実ではなかろうかと思います。一番民衆に親しみやすい簡易裁判所であるべきでありますから、この点につきましては、今後とも十分な配慮をしないといけないと思う。全然いままでの行き方が逆じゃなかろうか、そういうところから今度の問題なども出ておるんじゃないか。やはり地裁あるいは高裁等々のそういった目から見て、実際の実情をあまり把握していないんじゃないか。その裁判所の都合に上って、上のほうの裁判所の都合によって、下のほうに仕事を押しつけるということになりはせぬかというような私は非常に危惧を持っておるわけであります。やはり相当下のほうのこまかい意見も吸い上げて、その実情に合ったようにやっていかないといけないのではないかと思うのであります。今後ともその点については十分配慮してもらって、物的あるいは人的に十分整備をしてもらわないとならぬと思う。裁判官の場合も同じでありますが、裁判官の場合なども、裁判官がおらない簡易裁判所が相当たくさんある。あるいはまた、そうして填補、填補でやっておるので、たまに来ると、いろいろ判こをもらうのに非常に職員が大騒ぎをするというような話も聞いております。こういう点はどういうことになっておりますか、承りたい。
#222
○寺田最高裁判所長官代理者 簡易裁判所でいわゆる総合配置をいたしております庁は、約百組あるわけでございます。ただ、今度のこの法案との関係で申し上げますと、そういう庁では、実は民事訴訟事件がこれによって簡裁にいくことはきわめてわずかである。年間十数件あるいは二十数件というような庁が大部分のようでございます。
#223
○畑委員 その問題はそれまでにいたしまして、次に移ります。
 先ほど来何度も繰り返して言われたのでありますけれども、私は皆さんのいろいろな話を聞いておりまして、そもそも最初に裁判所法をきめたときに一番禍根があったのではなかろうか、かように思うのです。これはいわゆるかけ込み裁判所あるいは民衆裁判所、これに徹底すればよかったのでありまするけれども、それを立法趣旨に出しておきながら、実際には昔の区裁判所のような形が少し入っていた。それをてこにしてどんどんそれが大きくなってしまって、本来の簡易裁判所の性格というものが非常に薄れてきた。一番最初、簡易裁判所が全部それだったとは私も言い切る勇気は実はないのです。確かにいわゆる事物管轄として五千円以下ということはきめてありますから、その辺に根本的な今日の争いのもとがあったのではないか。そのほうがだんだん大きくなって、そしてとかく安易につくと申しますか、そのほうがやりいいものだから、次々と裁判所の管轄を拡張してきた。事物管轄においてしかりであります。そのほかにおきましても、刑事問題にいたしましてもそうでしょう。二十二年に裁判所法が改正されたのに、すでに翌年の二十三年に、競合もありましたが、窃盗については簡易裁判所ということになりました。それから臓物罪が加わったり、さらにまた横領が加わったり、そういうことで、そのたびごとに民事の事物管轄だけでなくて、刑事の簡易裁判所で扱う事件が非常にふえるような結果になった。そして昔の区裁判所にだんだん近づいてきたということが今日の禍根を残すもとだった。一番のもとはやはり二十二年のものにちょっぴり出ていた。それが二十五年、それから二十九年の事物管轄の拡張と同時に、またその問における刑事事件の簡裁の管轄の拡張というものによって今日まできてしまった。それをもとにされて、あくまで裁判所のほうはその基礎の上に立って、今度の法案もそうでありましょうけれども、その基礎に立って、物価が上がったのだから、こう言われるけれども、その間に例の臨時司法制度調査会の意見等もこれあり、ますます裁判所と弁護士会との見解の対立が明らかになってきた、こういうことじゃないかと思う。そうして弁護士のほうはどうしても在野でございますから、民主化には特に熱心です。裁判所のほうは、口では民主化とは言っても、実際にはやはり官僚的な行き方で、裁判所の都合、役所の都合ということを中心として、だんだん管轄等も変えていくというような傾向になって、今日まで来たということが私はもとだと思うんです。やはりあくまで裁判所が、裁判を民主化し、裁判所を民主化するというような姿勢に欠けておったということが、今日の事態を巻き起こしたことではないのかと思うんです。
 この辺を一体どうするんだということを、裁判所と弁護士会で十分根本的に腹を割って話し合って、ここまで来ちゃったんだからしかたがない、こういうふうにしようというんならこういうふうにするということで話し合ってきめなければ、いつまでたってもこの議論は私は終わらぬと思うのです。たとえばこの法案を、経済変動だからというので、自民党の皆さんが多数をもって押し切るということになって、そのときは解決し、一応法律として通るでしょう。通ってしまっても、あとでまた刑事問題のほうの管轄の問題も――あなた方は本来ならばそれを出したいんだ。ところが、なかなかそうはいかぬから、まずまず経済問題ということにして、事物管轄の問題を取り上げているというふうに私は見るんです。ですから、いつまで避けて通るわけにはまいらぬのであります。したがって、根本にさかのぼって、それじゃ立法の趣旨で一部うたっているような簡易裁判所の本来のすっきりした性格のものに、簡易裁判所というものをむしろもとへ戻してやり直そう、そしてあとの問題を地裁に回して、地裁に十分な有資格の法曹をたくわえて、それによって事件を処理していくということにするかどうか、その辺をひとつ十分腹を割って話し合って、根本的な解決をはかる必要があるだろうと思う。そのためには、やはり法曹の一元化をやらなければならぬと思う。臨司のあの場合にも、それが本来は最初の目的だったと私は思う。ところが、これはなかなか実現不可能だということで、比較的簡単というか、時間をかけたかどうかわからぬが、それはたな上げをされて、どう事件をさばくかということに重点が置かれて、裁判所の御都合というものが前面に出て、臨時意見というものが出たから、弁護士会は、裁判所の意図はそこにあるんだということで、猛烈に反対し出したということだと思うのです。したがって、法曹の一元化ということが必要だ。
 同時にその前に、司法修習生からできるだけよけい裁判官志望の人を採ることが必要だ。そのためには裁判官になり手が多いような雰囲気にしないといかぬじゃないかと思うのですね。ところが、弁護士のほうが金になるからというようなこともありましょうが、弁護士のほうになる人がどうしても多い。判検になりたくない。特に判事の場合なんか、弁護士に比べて自由がない、非常に窮屈だ、そういうことも事実です。ところが、それでもあえて裁判官になりたい、なろうという人がまだいることは私は頼もしいと思うのでありますけれども、これがさらにまた進んで、裁判官になりたいというような裁判所にしなければならぬと思う。そういう点で私は欠けておるところがあるんじゃなかろうかと思うんです。裁判官になろうというような人たちは、やはり日本の司法制度が裁判官の独立、司法の独立、裁判所の独立、特に一人一人の裁判官がだれにもわずらわされることなく、干渉されることなく、憲法に従って、その他の法律に従って裁判ができるんだ、私は憲法の番人だといったような誇りを持つことでなければならぬのだけれども、どうも最近の裁判所の雰囲気は、必ずしもそういう方向には向かっておらぬのではないかというふうに考えておるのでありますけれども、これはいわゆる給源の問題と関連があるのでありますが、まあ法曹の一元化はまずおくといたしまして、司法修習生のうち判事になろうという人をよけいに獲得する、確保する、そういう気持ちにならせる、こういうことが必要だと思っておりますが、いまの裁判所はどうもそんな状況じゃないような感じがする。どうです、事務総長、その点はこれで十分だと思っていますか。
#224
○岸最高裁判所長官代理者 司法修習を修了した者の中で裁判官の希望者が少ない、これは御指摘のとおりであります。五百人もの修了者のうち百人に満たない実情であります。これはしかし、昔の司法試験制度のもとにおいても、戦前の時代におきましても、司法試験に合格した者のうち、判事、検事を希望する者は、弁護士希望者に比べてはるかに低かったということもまた事実でございます。しかし、それは別としまして、私どもとしては、やはり裁判官希望者をさらにより多く出したいということは、前々から熱望いたしておるところでありますが、なぜ裁判官希望者が少ないかと申しますと、やれ裁判官になると転任がある、一定の場所に定着できないとか、収入が弁護士になる場合に比較しますと少ないとか、そういったこともやはり一つの理由となっておるようであります。同時に、このごろの若い人たちの考え方の中に、裁判官としての使命感を感ずるという点が少し欠けていやしないかと思われる点があるわけであります。つまり、民主政治の支柱としての裁判所の裁判官になって、ひとつそれに自分の全生命をかけようというような生きがい、意気込み、そういう点が足りないように思います。そういう点は、やはり司法研修所で修習中に、よく法曹の先輩たちがいろいろと相談に乗ってやって、そうしてそういう裁判官としての使命感をわき立たせるということが必要だろうと思います。そういういろいろな点から希望者が全体の割合から見て多くはないという点は、これは事実であります。しかし、それもその年によって違いまして、少ないときは四、五十名ということもありました。最近は大体六、七十名、七十名近くの者が希望するようになりました。これは決して十分とは申せませんが、また判事は検察官の場合に比べますとその倍くらいになっておるわけであります。
 それで、このままでいいかというと、そうではなしに、先ほども申しましたような、いろいろな点を考慮に入れると同時に、やはり裁判官になって仕事のやりがいがあるというような雰囲気を、裁判所の修習中において感じ取る、そういうこともまた必要であろうと思います。そういう点についても、今後私ども行政の面でできる限りの努力を傾けて施策を講じていきたいと考えております。
#225
○畑委員 まあ転任が多かったり、あるいはほかのお役所でも同じようなものでしょうが、弁護士に比べて給与等の面で劣るというような点等もあり、使命感に徹するような人がそう希望するほどない、こういうお話でございますが、しかし、最近の裁判所のあり方というものについて、私はやはり使命感を持って裁判所に入っていこうというような気持ちが最近薄れてきておるのではないかというふうに感じておるわけであります。それは、一つはこの間問題になりました平賀裁判所長のあの裁判への干渉というか、そういったような問題もあり、また飯守さんの発言等があり、そういう点で、本来修習生たちが、よし裁判官になってやろうというような気分が、それによってイメージがこわされておるというような面はなかろうかというふうに心配をいたしております。そういう点についてはいかがでございますか、どんな御意見でしょう。
#226
○岸最高裁判所長官代理者 ただいまお尋ねの中に、平賀書簡問題、飯守所長問題がからまっておりますが、この二つの問題はただいま訴追委員会で審理中でありまして、訴追委員会は独立してその職務を行なうということになっております。そういう点に触れてここで意見めいたことを申し上げることは御遠慮させていただきたい。その点は御了解願いたいと思います。
#227
○畑委員 たまたま訴追委員会で問題になっているからというので、私に対する答弁を回避されておられますけれども、こういう問題になかなかお答えにならぬと思いますけれども、私はやはりそういう点も相当影響するのではなかろうかと思うのでございます。
 それからさらに、ついこの間問題になったようでありますが、あの司法修習生を終わった人が裁判官を志望したところが、女性を含む三名の方が裁判所から拒否された、採用されなかったというようなことがあったようでありまして、この問題が司法修習生の中でいろいろ討議をされたりなどして、裁判所のほうに対して質問書等を手渡して、それに対して回答を願いたい――その前ですか、いろいろ教官との間の問答等があって、そういうことについて司法修習生が最高裁に質問書を出したが、それに対して答えてくれない、こういうようなことがあったようです。さらにいま申しましたように、その三名がついに採用にならなかったというようなことについて、それに関連をして裁判所でこの間談話を発表されておられる。それによると、三名が不採用になった理由というものについては、これは秘密であるからほかに公開するわけにはまいらぬ、その理由についてはそういうわけで一切公表ができない、ただ、それらの三人の方が青法協の会員であるという理由からではない、こういうようなことでありますけれども、それに関連をして、青法協に裁判官が入っておるということは、とかく政治的な活動をする団体と見るから、そういうものに入っておると外から誤解を受けやすいから裁判官としてはそれに参加すべきではない、こういうような意味の談話を発表されておるわけでありまして、この点について、ひとつこの給源の問題とも若干関連いたしますので、この談話を発表された意味、それからどういう考えでこういう談話を発表されたか、この点について御意見を承りたいと思います。
#228
○岸最高裁判所長官代理者 ただいまお尋ねの、私の談話の形で発表されました最高裁の公式見解が出されるに至った経過をまず申し上げます。
 御承知のように、ある特定の団体に加入している裁判官がおるということが去年の秋ごろからいろいろ取りざたされておりまして、最高裁の裁判官会議においても、裁判官の団体加入の可否ないしは限界ということについてたびたび検討されておったのでありますが、今回、二十二期司法修習終了者の代表者が、御指摘のような、青法協会員であるがゆえに最高裁は裁判官の任用を拒むのかという問題、それから研修所の第二回試験においては落第者を出すべきじゃない、それから女性と男性とを裁判官の任用について区別しておるかというようないろいろな御質問がございました。
 そういうことがありましたので、かねて最高裁の裁判官会議で討議され、検討され、まとまった意見を談話の形で発表したわけでありまして、まず第一に、今回の二十二期終了者の質問が直接の動機となっておりますが、それについてまずはっきりお断わりしておきたいことは、最高裁はこの見解において青法協自体をとやかく申しておるものではないということであります。政治的な色彩のある団体に裁判官が加入することが妥当か妥当でないか、それが問題点になっております。この談話の冒頭にもありましたとおり、三名の不合格者が出ましたが、そのうちの二名は男性ですけれども、決してその人たちが青法協会員であるという、それだけの理由で不採用になったのではないことは事実であります。ただ、裁判官の任用についてはいろいろな要素がありまして、そういうことは人事の機密に属することでありますので、これ以上ここで申し上げることは差し控えたいと思います。
 この機会に、かねてからいろいろ世間からも指摘されております団体加入の問題について、これは裁判官の心がまえとして、とかく政治的色彩の強い団体に裁判官が加入しておるということは、いかにその裁判官が公平な裁判をした場合であっても、世間からは一種の色めがねをもって見られるおそれがある。その団体に属しているからその団体の運動方針に沿った裁判をしておるのだというふうに受け取られがちである。そうなると、裁判の公正、中立性というものに対する国民の信頼がゆらいでしまう。そういう点から、裁判官はその裁判の内容自体が公正であればよいというだけではなくて、国民一般からも公正であると信頼される姿勢を保つことが必要である、そういう裁判官の心がまえ、倫理、これを説いたのが、この事務総長談話の形で発表されました最高裁判所裁判官会議の見解でございます。
#229
○畑委員 いま事務総長の御答弁を聞きますと、この政治的な活動をする団体という中に、別に取り立てて青法協をさしておるのではない、これは一般論として言われたのだというような趣旨の御答弁だったと思います。しかし、おそらく若い人たちが入っておる団体ということになれば、青法協以外にはあまりないのだと思うのですが、そうなると、結局やはり青法協をさしているというふうに解釈するのが普通だと思います。もっとも、青法協自体に入っておるから裁判官に採用しないというような問題ではない、その以外の要素があって今度の三名の人は採用をしなかったのだ、こういうことでございますか。
#230
○岸最高裁判所長官代理者 先ほどことばが足りなかったかもしれませんが、その見解の基礎として、青法協自体についてとやかく申しておるのではない。青法協が政治的色彩の帯びた団体であるとすれば、やはりこの見解の趣旨からいって、加入することは慎むべきである、こういうことになります。
#231
○畑委員 そうすると、青法協が政治的な活動をしておる団体だというふうには思っているんですか、思ってないんですか。
#232
○岸最高裁判所長官代理者 青法協それ自体は、設立の趣旨においては、あらゆる政治的立場を離れ云々とうたわれております。が、ここ数年来の運動方針というものが機関紙等によって公にされております。それを見ますと、安保の廃棄とかあるいは沖繩の無条件全面返還とか、そういう問題を活動の中心的課題といたしております。そのことは青法協で発行しておる機関紙、それ自体によって明らかであります。なお、そのほかにいろいろ政治的な問題を含んだ事件、具体的な事件についての支援活動ということもこの運動方針として掲げられておりますので、そういう点から見ると、青法協は政治的に無色の団体であるというふうには受け取ることはできないと思います。
#233
○畑委員 そうすると、青法協は本来は、最初の設立の当時は、そうした政治的な活動をする団体ではないというようなふうにとれる方針であったが、最近そうでなくなって、安保反対あるいは沖繩返還、こういった問題等をとらえ、あるいは政治活動のほかの団体との連絡をとったりなどしている、こういうようなことで、最近の傾向からすれば、政治的活動をしておると見られるから好ましい団体ではないというようなことになるんじゃなかろうかと思います。その点いかがですか。
#234
○岸最高裁判所長官代理者 そういう活動方針を掲げているから好ましくない団体であるというのではなくて、そういう団体に裁判官が加入することは慎まなければならない、そういうことで、青法協自体が好ましいとか好ましくないとか、そういうことを申しておるわけではありません。
#235
○畑委員 なかなか微妙な御答弁でございますけれども、青法協そのものを問題にしているんじゃないけれども、最近の青法協の方針なるものを見ると、そうした政治活動をしておる団体だと考える、したがってそういう政治活動をする団体には、もし青法協でないとしても、ほかの団体であっても好ましくない、そういう一般論を言うておるんだ、こういうことでしょうか。
#236
○岸最高裁判所長官代理者 さようでございます。
#237
○畑委員 そこでお尋ねするんですが、最高裁の事務局に、事務局付の司法修習生上がりの裁判官、判事補ですか、こういう方が、この問三十名ほど、ほとんど同時に脱退届を出されておる、こういうような事実があるそうでありますけれども、これは裁判官自身の発意によるものでありましょうか。それとも事務総長以下の方々の慫慂によって脱退をされたのでありましょうか。そういう事実が最近あるそうでありますが、その点について聞きたいんです。こういった談話の方針が、前からこういう方針であったから、したがって談話を出す前に、もうすでにそういった人たちは脱退を決意して脱退をしたんだ、こういうことになりましょうか。
#238
○矢崎最高裁判所長官代理者 昨年の十月の中旬ごろに、朝日新聞、毎日新聞それから東京新聞の社説において、裁判官が政治的な色彩を持った団体に加入していることについて、これは国民の信頼を受けるゆえんではないではないかという線が出てきたわけでございます。事務総局におります判事補の諸君は、この社説を十分に読みまして、そしてお互いに寄り集まりまして、何回も何回も議論し尽くして、その上で自発的な意思で脱退したというのが事実でございまして――事務総局の中には三十名もおりません。十二、三名がいたわけでございます。それがお互いに十分に検討し合った上で脱退したというのが事実でございます。
#239
○畑委員 自発的な意思といま御答弁がありましたけれども、われわれの聞いているところによりますと――この青法協の方々が当たったらしいんでありますが、その話を聞くと、どうもそうでなくて、裁判所のいろいろな説得等によってそういうようなふうにしむけられた、こういうような話を聞いておるんですが、そういうようなことはございませんね。
#240
○矢崎最高裁判所長官代理者 しむけられてそういうようになった、いわゆる上からしむけられてそういうようなことになったということは全然ないわけでございまして、お互いに判事補の中で、おのずから期の上の者、下の者という、期の違う者が事務総局の中には、いるわけでございますけれども、おのずから期の上の者が集まるときにいろいろ心配をしたというようなことはあったように耳にしておりますけれども、命令とかそういうもので脱退したというようなことは絶対にございません。
#241
○畑委員 これで締めくくります。
 私は、安保反対とか、それから沖繩返還というようなもの、これはもうだれしもが考えていることじゃなかろうかと思うのです。それは国民の意見がいろいろで、そうじゃない逆の意見の人もありますけれども、これは憲法からちょっと割り出すと、どうもそういうふうになるのが法律家としては当然のような感じがいたすのでありますけれども、あまりそういうものを窮屈にやっていくと、なかなか給源というものに苦労すると思うのです。若いときにはいろいろありますから、せっかく相当頭のいい人たちをそういったことで採用しないで、だんだん狭めていくということは、相当考えてやらなくてはいかぬのじゃないか。それでなくても足りないのだから、そういう問題についてそう神経をとがらすことはなかろうと思います。思想、信条の自由がありますから、それはあくまでも否定はされないと思います。ただ、実際にそういう政治活動をする団体に加盟するということで、ほかに向けるという御意見かもしれぬけれども、その点はそう神経質になる必要はないのではないかと思うのです。かえって、そういうことがやはり裁判官になることに対する意欲をそぐことになるのではあるまいかと思います。片や法曹一元化というような問題もなかなか実際問題として、弁護士から裁判官になるのにはいろいろの隘路があるということでありますけれども、しかし、これは何とかしなければならぬ問題です。今度の問題でも、結局地方裁判所の判事をふやして、そしてそちらで事件を扱うべきである、こういうのが弁護士会の意見であって、われわれも大体それに賛成なんですが、これは給源がなかなかむずかしいという点にぶつかるわけであります。それには給源が得られるような方策をやはりみなで考えていかなければならぬというふうに思うのでございます。
 約束の時間も若干過ぎましたから、まだたくさん質問したい点があるのでありますけれども、ほかの諸君のこともありますので、これで私の質問は区切らせていただきます。
#242
○高橋委員長 それでは中谷鉄也君。
#243
○中谷委員 参考資料の一〇ページを中心に若干法案の改正の問題についてお尋ねをいたします。
 昭和三十年が地方裁判所の新しい受件数が四二・五%で、簡易裁判所の新しい事件の受件数が五七・五%、同じく昭和四十四年度が、地裁が六八・七%で簡易裁判所が三一・三%、この点については何べんも繰り返し繰り返し質疑された点でありますけれども、これはあくまでも全国平均でございます。したがいまして、私お尋ねをいたしたいのは、昭和三十年の四二・五%という地方裁判所における新しい事件の受件数の率ですが、これは一体どういうふうな幅を持っておりますか。簡易裁判所は五七・五%というのはどんな幅を持っておりますか。
 幅と申しますのは、たとえば一番大きな問題は過密。過疎の問題として、先ほど大阪の簡易裁判所が爆発しかけているということをちょっと指摘をいたしました。そういたしますと、全国平均は五七・五%だけれども、たとえば松江の地方裁判所におけるその率というのと東京地方裁判所の率というのは同じなのか違うのか、五七・五%というのは結局どういうような幅を持っておるのか。これは平均ですから、その点についてひとつお聞きをしたい。昭和三十年と昭和四十四年との間に、その幅についての食い違いが出てきておるかどうか、この点です。
#244
○矢口最高裁判所長官代理者 昭和三十年の松江の……(中谷委員「幅を言ってください」と呼ぶ)全国での幅の多いものの東京で申しますと六一・四%が地方裁判所であります。簡易裁判所は三八・六%であります。
#245
○中谷委員 私は一つ一つ詰めていきますが、いまおっしゃっていただいたのは、昭和三十年の地方裁判所の全国平均は四二・五%で、その新しい受件数の占める率の多いほうの地方裁判所が東京であって、一番多いほうを言っていただいたんですね。次のお答えとして、地方裁判所の少ないほうを昭和三十年で言ってください。
#246
○矢口最高裁判所長官代理者 御指摘の松江の裁判所等が低いほうでございまして、地方裁判所二五・八%、簡易裁判所七四・二%であります。
#247
○中谷委員 同じく昭和四十四年で御説明してください。
#248
○矢口最高裁判所長官代理者 東京地方裁判所は七七・六%、簡易裁判所は二二・四%でございます。はたして松江が一番低いかどうか、これはちょっと正確ではございませんが、松江そのものといたしましては、地方裁判所五〇・二%、簡易裁判所四九・八%でございます。
#249
○中谷委員 しかもそれはあくまでも地方裁判所単位での上限、下限についての御答弁です。そうすると、乙号支部、甲号支部とございますが、一番極端に低い上限はわかりました。地方裁判所の新受件数の一番低い支部があるはずです。たとえば乙号支部、それについての比率はお答えいただけますか。支部を単位にとって乙号支部について……。
#250
○矢口最高裁判所長官代理者 ただいま地方裁判所の中での区分けの資料を持っておりません。
#251
○中谷委員 乙号支部で推定としてどの程度のものを考えられますか。
#252
○矢口最高裁判所長官代理者 乙号支部での区分けということになりますと、たとえば島根県の西郷支部といったようなものを考えてまいりますと、非常に事件が少のうございますので、パーセンテージで出しますと数件があるにすぎない。場合によっては支部のほうには全然事件がない、あるいは簡易裁判所のほうには全然事件がないというようなことでございますので、ちょっと個々の推測と申しましても正確に申し上げられないわけであります。
#253
○中谷委員 昭和三十年の状態に戻したいということだそうです。ところが、いまおっしゃっていただいた昭和三十年と昭和四十四年の上限と下限をとったこの傾向の中から、昭和三十年と昭和四十四年とのこの違いをどういうふうに司法行政の立場からお読み取りになりますか、これは調査部長に伺います。
#254
○影山政府委員 個々の支部の詳細にわたって検討を加えておりませんで、裁判所当局としてはそういうことであろうと思いますが……。
#255
○中谷委員 要するに上限、下限について昭和三十年当時と昭和四十四年当時とはえらい食い違いがありますね。えらい変化がありますね。逆に言いますと、上限、下限とが非常に開いてきているということがわかりますね。これは一体どんな原因ですか。都市過密化というような講釈はけっこうですから、どういうことか。そのことと、昭和三十年度の状態に戻したいとおっしゃることとの間に矛盾はありませんか。
#256
○矢口最高裁判所長官代理者 経済事情の変動によりまして個々の事件の価額が上がってまいりましたために、このような事件差が縮まってまいっているわけでございます。これを三十万円ということで推算いたしますと結局三十年度の線に戻るというような形に相なるのではないかと思います。
#257
○中谷委員 私の聞いているのはそうではない。私はこういうふうに主張しているのです。三十年と四十四年の全国平均をとったって別に意味がないと思うのです。問題は過密化したところの裁判所の状態と過疎化地帯における裁判所の状態とをとってみなければ、これは非常に問題がありますよ。あと二点だけ質問します。その一点に関連しますが、お金の値打ちだって、たとえば農村地帯の十万円というのはたいへんなお金だと思います。そういう中で一律の平均をとって三十年に戻したい、そうなりますといったって私はあまり意味のある説明になっていないだろうと思う。
 いずれにしても、いまお話しをいただいたことによりますと、松江で四十四年は五〇・二%と四九・八%、簡易裁判のほうが非常に多いわけですね。これはきょうはお答えいただけないだろうと思いますから資料要求になると思いますが、十万以上三十万円以下、要するに本改正案が通った場合、松江の裁判所の十万から三十万円までの事件というのはどうなって、率はどういうふうに変化してまいりますか。
#258
○矢口最高裁判所長官代理者 松江の場合では十万から三十万円にいたしますと、二百五十件が移動をいたします。
#259
○中谷委員 そうすると率としてはどういうことに相なりましょうか。
#260
○矢口最高裁判所長官代理者 地方裁判所二八%、簡易裁判所七二%ということに相なります。
#261
○中谷委員 東京の場合は。
#262
○矢口最高裁判所長官代理者 東京の場合は推定移動件数四千九百件でございます。その結果地方裁判所六〇・四%、簡易裁判所三九・六%と相なります。
#263
○中谷委員 総務局長にお尋ねいたしますが、お金の値打ちがあるということは、逆にいうと十万円から三十万円に上げるために、そのことを非常に合理的に説明しようとして御無理なさっている。経済関係統計をお出しになっても、これとても私はあまり意味のあるものとは思っていません。要するに昭和二十九年の一人当たり国民所得七万四千六百六十五円、そして四十三年は四十万三千九百五十三円なんというけれども、どの階層がどれだけの所得を持っているかという階層分析をしなければ、どの階層が一番簡易裁判所に期待をしているかということの分析が一つ欠けていると思うのです。だから、国民一人当たりの所得というふうなものでぶつけてこられても、はい物価が上がりました、消費と所得が増大いたしましたと言われても、これは簡易裁判所というものとどこかでズレが出てくる、これが私が指摘したい点なんです。
 そこで、局長にお尋ねいたしたいのは、松江が地方裁判所二八%、簡易裁判所が七二%、そうしたらこれはほとんど簡易裁判所でやることになりますね。要するに、地方裁判所のほうで昭和三十年に戻したいとおっしゃるけれども、ほとんど簡易裁判所でやるようなかっこうになる。しかも乙号支部のそういうものは持っていませんよということですね。これは出していただきたいと言えば出していただけると思います。しかし、乙号支部の場合にはおそらく地方裁判所が一〇%、簡易裁判所が九〇%ということになりかねないのじゃないかという、私は一つの独断ではありますけれども、そういう推定をします。そうすると、資料が出ている松江の地方裁判所二八%、簡易裁判所七二%、本法の改正によってそういうふうな状態にパーセントがなってくる。そういうことはあるべき裁判所の姿として、ことにあるべき簡易裁判所の姿として、地方裁判所のあるべき姿として好ましいのかどうか、そういうふうな点についてはどういうふうな御検討をなされたのか、この点についてはいかがでしょう。
#264
○寺田最高裁判所長官代理者 いまお尋ねの点は、パーセントでまいりますと確かに七二%と二八%でございますが、それでもなお三十年よりはパーセントが若干下回っておるわけでございます。これを件数について見ますと、三十年当時簡易裁判所千三十二件でございますが、先ほど民事局長から御説明申し上げました推定移動件数二百五十件を考慮に入れましても、今回の法案の結果、松江管内の簡易裁判所にまいります事件は八百件程度でございまして、なおかなり三十年程度よりは下回っておるわけでございます。そういう点から申しまして、私ども繰り返し申し上げております二十九年のパーセントの当時の状態に戻すという線は出ていない、かように考えておるわけであります。
#265
○中谷委員 そうじゃないでしょう。昭和三十年の地方裁判所の件数が四二・五%、二十九年が五六・五%、こういう状態ですね。それが三十万円まで上がってくると、結局地方裁判所の率が二八%になるんでしょう。そうでしょうね。そして簡易裁判所が七二%、えらいふえてくるということを私は言っておるんですよ。ところが東京の場合は、大体三十年程度あるいは二十九年のような状態にしたいということにはなるけれども、いわゆる過疎地帯における裁判所というのはそういうものを上回って、ずっととにかく簡易裁判所でほとんど事件がまかなわれるという状態になりますね。そのことが簡易裁判所のあるべき姿として、あるいは地方裁判所のあるべき姿として、こういうパーセントはいいんですかということを聞いておるんですよ。
#266
○寺田最高裁判所長官代理者 私もそのつもりで答えたつもりでございまして、いま中谷委員は松江の四十四年のパーセントとそれから今度の推定のパーセントを御比較になりましたが、私が先ほど申し上げましたのは、三十年のパーセントと今度の新たな推定のパーセントを比較いたしますと、なお簡易裁判所のパーセントは三十年当時のパーセントよりは下回っておる。のみならば件数におきまして、三十年当時は簡易裁判所千三十二件でございましたが、今度の推定新受件数は約八百件でございますので、なお二百件程度三十年当時よりは下回っておる。したがいまして、昭和二十九年の法改正を前提とします限り、それよりも簡易裁判所が大きなウエートを持つということにはならない、かように申し上げたわけでございます。
#267
○中谷委員 そうすると、基本問題に戻りまして、そういうふうなとにかく過疎地帯における、四十四年当時における七〇%以上の事件が簡易裁判所に係属をしておる、こういう状態は最初から予想されたわけで、いいということなんですか。そういうことがあって、しかもこの改正をしたい、同じパーセントだ、これは同じだということになるんですか。そういうふうなパーセントだけで言うのはおかしいという意見もあるようですけれども、そういう割り振りがあってはたして裁判所のあるべき姿としていいのかどうか、この点いかがですか。
#268
○寺田最高裁判所長官代理者 これは事物管轄の範囲を金額できめ、それを全国一律できめます限りは、どういう金額をとりましても、東京でのパーセントと地方におけるパーセントとは差が生ずる、これはやむを得ないことであると考えております。
#269
○中谷委員 やむを得ないということですが、そのままでいいのかどうか疑義があります。
 第二点の質問は、簡易裁判所の本来的なあり方の問題として、いわゆる裁判所に対する信頼性の問題というのは繰り返し繰り返し論議された。そこで私はお尋ねをいたしたいと思いますが、かりに本法案が生きる、要するに成立をしたという場合に、たとえば控訴率というふうなものには変動があると推定をされますか、変動がないと推定をされますか。
#270
○矢口最高裁判所長官代理者 控訴率そのものにはたいした変動はないのではないかというふうに考えております。
#271
○中谷委員 その理由を若干お話しをいただきたい点が一点。それと、じゃ破棄率というふうなことばがあるかどうか、そういうものについての変動はどのように推定をされるか。これはどうせ来年になれば統計の出ることです。控訴率について変動がないと推定すると言ったって、とにかく裁判所に対する信頼という、人間の、国民の主観的なものがずいぶん入っていますから、しかもお金が大事だという国民の気持ちも入っていますから。そういうような中で、私はむしろうんと控訴がふえてくる可能性があるんじゃないかというような見通しだって立ち得ると思う。これは統計で出てくることですけれども、いろいろなファクターもたくさんあると思いますが、これは来年になればわかることですから、ひとつ理由だけは言っておいてください。そういう率が変わらないとあなたはおっしゃった。かりにそういうことが変わってくるとすれば、それは好ましいことなんですか。本法案が結局よくなかったということにならないかどうか、この点いかがですか。
#272
○矢口最高裁判所長官代理者 前回二十九年に三万円から十万円内に訴訟物の価額が引き上げになりまして、それが控訴率にどういうふうに影響したかという点が過去の実績的な問題として一番好ましいのではないかと存ぜられますが、控訴ということが問題になってまいると思われます昭和三十一年の控訴率というものをとってみますと、簡易裁判所におきましては一五・六%でございます。それが三十二年一五・一%、三十三年一四・七%、三十四年一五・七%というふうにございまして、この数年をとってみましても特段の変化がございませんので、このたびも少々の変化はあるかと存じますが、そう大きな変化にはならないのではないか、このように考えておるわけでございます。なお、その控訴率と申しますのは、地方裁判所の控訴率よりもはるかに低い数字になっておるわけでございます。
 破棄率の点でございますが、この破棄率と申しますのは、いろいろの見方がございますが、これも三十一年というところからとってまいりますと、三十一年二〇・六%、三十二年二〇・四%、三十三年二三・六%というふうに相なっておりまして、これもそう大きな移動がないのではないか、このように考えておるわけでございます。
#273
○中谷委員 結局どうなんでしょうか。控訴率に変更があるのかないのか、ないというお答えであって、それほど大きなものはないという見通しだ、どうもその辺ちょっと気にかかります。
 第三点の質問に移りますが、私が聞きたいのは次の点です。十万円以上三十万円以下の事件で、要するにその事件については現在地方裁判所に係属しているわけですね。本人訴訟というのはどの程度ありますか。今後その間の金額の本人訴訟の率は、事物管轄が変わったことによってふえると思われますか、それともそれも変わらないと推定されますか。――お調べになっているようですので、別の質問を続けます。
 第四点の質問は次の点なんです。簡易裁判所の同じく一〇ページに戻ります。民事訴訟第一審の新しい受件数の累年比較では、昭和四十一年は、先ほど指摘をされましたように、六万八千九百六十七件をピークにして、四十二年が六万二千二百二十四件というふうに漸減の傾向にあるというふうなことですけれども、こういうふうな傾向、ことに昭和四十三年より四十四年の事件数が少なくなっているという傾向、こういう傾向は漸減の傾向をたどると見るのかどうか、それとも一体それは四十三年と四十四年との間のできごとであって、四十五年ないし四十六年については、推定の立て方はあるけれども確言はできない、推定する材料は次のようなものだというふうなお話になるのか、この点はいかがでしょうか。
#274
○矢口最高裁判所長官代理者 まず、先に御質問がございました訴訟物の価額による代理人の問題でございますが、この点についてお答え申し上げます。
 地方裁判所の十万円までの事件がございますが、これの当事者本人訴訟というものは四七・九%という率でございます。三十万円までの事件について見ますと四二・五%ということで、パーセントの上では特段の変化がございません。これが五十万円までになりますと三〇・四%ということで、少し本人訴訟の割合は低くなっている、これが先ほどのお尋ねに対するお答えでございます。
 それから、四十三年度に比較して四十四年度は事件が減っておりますが、これがこのまま続くのかどうかという点でございますが、私ども、経済事情が非常に好転しておりますので、いま直ちにふえるとも考えられませんが、しかし、このまま減っていくというふうにも考えていないわけでございまして、事件全体といたしますと、やはりもう少しふえることになっていくのではないか、このような推測を立てているわけでございます。
#275
○中谷委員 ふえていくとすれば、一体簡易裁判所の新しい受件数がふえるのか、ことに本法案で改正になるとした場合の、十万円以上三十万円以下の事件がふえる可能性があるのか、そういう点についての推定的なものでも出てこない、とにかくその年度の統計を締めてしまわなければわからぬというふうなことでは、どうも雲をつかむような話ということになるわけで、そういうようなことの中で、このパーセントを三十年に戻したいというふうにおっしゃって、二十九年、三十年とおっしゃるけれども、どうもそのあたりが――先ほど私参考人への質問のときに言いましたけれども、コンピューターを使っていない数少ない役所ということで、どうもずいぶん力作ということでしょう、参考資料をおつくりになったけれども、とにかく経済をかなり勉強しておられる各委員の方から見られると、こういうふうなことで物価あるいは消費、所得の増大というふうなことの説明になるのかどうか、もう少し当局としてはきめのこまかい資料の出し方もあるのではないかというふうな感じもするわけなんです。
 そこで、総長においでいただきまして、この点については同僚委員から何べんも何べんも質問が出たと思いますが、最後に、特に質問の順序を変えていただいて質問をいたしておりますが、一点だけ私、次のような質問をして質問を終わりたいと思う。というのは、けさから参考人として日弁連関係の方に三人来ていただいて、非常に長い間参考人の意見陳述と質疑応答をやった。その中で、裁判所と弁護士会、最高裁と日弁連との間に、この法案がこんなかっこうで通るということになれば、残念ながら抜きがたいみぞができるだろうということで、司法を思う立場から三参考人とも非常に苦慮しておられた。私はこの法案を審議をしているわけなんですが、この点についての最高裁の見解を承りたい。
#276
○岸最高裁判所長官代理者 司法制度というものは、裁判所、検察庁、弁護士会、この三つの柱によってささえられているものでありますから、制度の改善とかあるいは運用の改善とか問題にするときは、この三者の密接な協力が最も好ましくあり、また必要であると思います。しかしながら、今回の場合は、先ほど来事務当局のほうからいろいろ御説明申し上げましたような根拠で、十万円を三十万円に上げるという、それは主として物価スライド、経済事情の変更ということがその原因となっているわけであります。こういう問題についていろいろ付随問題が起きますけれども、従来十万円の借金、貸し金を処理していたのが、それが三十万円になった場合、十万円の売買代金を請求したものを今度三十万円請求する場合に、現在の簡易裁判所判事ではできないかということになりますと、その点は、私は問題があろうと思います。価額がふえたからといって、事件の性質が必ずしもむずかしくなるものではないわけです。そういうむずかしい問題は移送の手続で、地方裁判所で審理することができる。そういうような点で、いろいろ弁護士会との連絡協議で討議いたしたかったわけでございますが、もう御承知と思いますが、四十年にこの問題を取り上げようという約束をしまして以来、いつも弁護士会側の御事情によって協議に入れなかった。しかも現在としては物価の関係もあります。それから地裁と簡裁との事件のアンバランス、これを是正する必要もある。そういう点からどうしても急いでこの法案を成立させていただきたいというのが、裁判所の強い願望であります。
 このために、決して私どもは弁護士会に対して、とかくの感じを持つわけでもなく、今後ともこういう司法制度の問題については、お互いに胸襟を開いて協議し合いたいと思っておりますが、弁護士会のほうにおかれましても、やはりそういう気持ちになっていただきたいと、そう存ずる次第でございます。
#277
○中谷委員 そうじゃないのです。胸襟を開いてとおっしゃいますけれども、裁判所がさっぱり胸襟を開かれない。そのみぞができることについて非常に日弁連は憂慮し、その点を非常に憂えているのです。緊急性があるとかないとか、物価上昇だということだけの理由でいいのか。とにかくその点については、当委員会でいろいろな角度からいろいろな方が質問したわけです。そして先ほどからも最高裁事務当局は各委員の質問に対して、防戦これつとめておられる。これもよくわかっておる。そんなことを言ったって、幾らおっしゃっても片方の日弁連が納得していないわけです。ですからそういうような中で、まさにこのままの状態で推移してこの法案を成立させるとするならば、先ほど総長がおっしゃったように、とにかく訴訟関係者、特に弁護士会の協力、理解がなければ円滑な裁判というものは行なわれないという前提に立つなら、片肺飛行のような法案としてこの法案が成立するということできわめて不幸なことだ。しかも、同時にみぞが深まりますよと言っている。あなたのほうはどうしても通したいといって通したなら、それで胸襟を開いてこいと言ったって、これは困るんだと言っている。ひいてはそのことによってみぞが深まりますよと言っている。そのことについて、一体どうするのですかと聞いているのです。
 どうもその点についての答弁は、何かまた同じようなことの繰り返しになると思うし、これはひとつ十分に――私は、最高裁としてはきょうの参考人のお話は、非常に切実であり深刻だったと思う。そんなことについてやはり耳をかそうとしない態度は、私は率直にいって胸襟を開いているとは思えない、このことだけを申し上げて、質問を終わりたいと思います。
#278
○高橋委員長 松本善明君。
#279
○松本(善)委員 最高裁の事務総長にまずお伺いしたいのでありますが、臨時司法制度調査会の意見書によりますと、簡易裁判所の民事、刑事の事物管轄の拡張、それから名称を区裁判所に変更する、それから特任判事の増員というようなことで提案をしておるわけであります。この民事の管轄を拡張すれば、それは刑事にも及んでくるだろうし、ひいては区裁判所と名前を変更するというようなことにもなるんじゃないか、あるいは特任判事の増員をというなことにでもなるのじゃないかということで、この法案が臨司の意見書のなしくずしの実施ではないかというふうにもいわれており、また裁判所も、この問題について非常にかたくなに、どうしてもこの今国会で成立をさせたい。その緊急性についてはまことに説得力がないのでありますけれども、弁護士会と対立をしてもこれを成立させたい、こういうふうに言われるということになると、これは臨司意見書をどうしても実施していきたい、こういう気持ちからこだわっておられるのではないかというふうにも思えるのであります。この臨司意見書の実施との関係についてお答えをいただきたいと思います。
#280
○寺田最高裁判所長官代理者 事務的なことでございますから、まず私から申し上げたいと思いますが、いま松本委員のお話の中で、臨時司法制度調査会の意見書が何か特任簡裁判事の増員をうたっているようにおっしゃったかと伺いましたが、そういうことはございませんで、臨司意見書は「簡易裁判所判事には、できる限り、判事定年退官者等法曹有資格者を充てること。」こういうふうにうたっているわけでございます。
 それから、なお今回の法案と臨司意見との関係についての私どもの考え方は、今回の場合は、これは臨司意見とは全然関係がないというふうに言いますと、あるいはその表現として妥当でない面があるかもしれないと思います。と申しますのは、臨司意見書にも「民事事件については、訴訟の目的の価額の上限をある程度引き上げること。」となっておりますが、その面で一致する面はございますけれども、しかし、そこでうたわれております引き上げは、経済変動を上回る引き上げでございまして、今回のは経済変動に伴うものでございますから、全然そういう意味では関係がないわけでございます。
#281
○松本(善)委員 実質上、この特任判事の問題については、その文章そのものではございませんけれども、全体の趣旨からすれば、また方向からすれば、私は必ずしも寺田総務局長の言われるようには受け取れないというふうに思うわけであります。この臨司との関係がまず最初に問題になるわけですけれども、このことを最初に私申し上げるのは、この問題がわが国の司法制度をこれからどういうふうにしていくかということについての大きな考え方の違いにもなり得るし、また、その点についてこそ在野法曹との協議が必要なのではないかというふうに思うからであります。この委員会で再々取り上げられております中に、第九十二帝国議会での木村篤太郎国務大臣の答弁があります。要するに、簡易裁判所の制度というのは、司法の民衆化に貢献をするところが少なくないというふうに期待をしている、この司法の民衆化ということに位置づけて答弁がされておるわけであります。
 事務総長に伺いたいのでありますが、この簡易裁判所制度が司法の民衆化に役に立つというのは、どういう点でどういう運用をすればそういうことになると、どういう趣旨に理解をしておられますか。
#282
○岸最高裁判所長官代理者 国民がその費用と時間をかけないで手っとり早く紛争を解決してもらうことのできる制度、これが司法の民主化の一つであろうと思います。
#283
○松本(善)委員 そういたしますと、簡易裁判所が司法の民主化にプラスになるように運用されるというためには、民事訴訟法三百五十二条以下の「簡易裁判所ノ訴訟手続ニ関スル特則」が、十分に簡易裁判所の運営の中で生かされるということが必要なのではないかと思いますが、事務総長の見解を伺いたいと思います。
#284
○寺田最高裁判所長官代理者 手続的なことでございますから、便宜私からまず申し上げたいと思いますが、この民事訴訟法の規定が十分に活用されますことも非常に重要でございますが、それだけではございませんで、広く全般を通じて国民の身近な裁判所として運営されることが望ましいと考えているわけでございます。
#285
○松本(善)委員 事務総長に伺いたいのですが、いまの寺田総務局長のお話では、この特則も重要であるが、広く民衆に親しまれるようにということでありますが、具体的にはやはり簡易裁判所のできましたときに、そしてそれが司法の民主化に役立つようにということは、やはり特則の生かされるということが制度的には中心に置かれて考えられているというのは、これは疑うべくもないのではないかと考えるが、最高裁の事務総長としての見解を伺いたいと思います。
#286
○岸最高裁判所長官代理者 この簡易裁判所の制度は、例のマジストレートコートの制度というものが念頭にあったと思います。マジストレートコートにおきましては、全くしろうとの人、その土地の名望家の人が裁判官となって、そうして手続にあまり拘束されないで自由に審理をやる、それがほんとうに民衆に身近な裁判制度だと思います。ところが、この簡易裁判所の制度は、マジストレートコートの考え方を念頭には置いておりますけれども、しかし、全くそれと同じものではない。これはこの制度の立法当時に関与をされた方々の意見もそうでありますが、決して英米法流のマジストレートコートではないんだ。そうなりますと、それじゃ昔の区裁判所かというと、昔の区裁判所のようにそんな広範な事件を扱う裁判所でもない、一種独特の裁判所であります。手続もそういう関係で簡略化されることが必要であり、またそれが望ましい。ある程度は簡略化されておりますけれども、裁判の適正を保障するためには、一定限度の手続の厳守ということが必要であり、したがいまして、そう手続を簡略化するばかりが民衆に身近な裁判所であるとは決して言えないと思います。ことに簡易裁判所の制度は、英米のマジストレートコートとは非常に性格が違うということは考えなければならないと思います。
#287
○松本(善)委員 この成立の経緯、そうして簡易裁判所の性格については、何度も議論をされておるわけでありますけれども、この特則の実施について、裁判所においては現実にはほとんど行なわれていない、有名無実になっているということ、これもまた争うべくもない事実であります。裁判所がこの特則が実行されるように努力をしているという節もないと思われております。
 最高裁当局にお聞きしたいのでありますが、「簡易裁判所ノ訴訟手続ニ関スル特則」三百五十二条以下の、これの講習、これの実践に関する講義だとか実習だとか、そういうことを裁判所はやっておりますか。
#288
○寺田最高裁判所長官代理者 簡易裁判所判事につきましては、初任の当時に研修をいたしますし、その後たびたび会同あるいは研修を実施しておるわけでございます。そういう際には民事訴訟法、刑事訴訟法等についても十分に講義をいたしておるわけでございます。
#289
○松本(善)委員 私の聞きますのは、特にこの簡易裁判所の民主化のために、寺田総務局長も、この特則の実践は重要であるということを言われたわけです。そのほかの点もあるけれども、重要だということを言われた。だから、この点が実践されていないということであればこれは問題なんだということで、特にその点について力を入れた講習やそれから講義や実習をやっているかということなんです。私は、簡易裁判所の会同その他において、民事訴訟法や刑事訴訟法の講義をしておられること、これはわかっております。しかし、むしろこれは逆に、一審訴訟手続を厳格に実施するという方向での実習や講義がおもであって、簡易裁判所の訴訟手続の特則の実践に関する講義や実習はほとんどされていないのではないか、こういうふうに思うので、この点をお聞きするわけであります。
#290
○寺田最高裁判所長官代理者 簡裁判事の研修や講義の際に、会同の際に、民事訴訟法の講義等をいたすと申しましたのは、当然この部分も含んでおるわけでございますが、特に昨年度の高裁管内の簡裁判事のブロック会同におきましては、この点をかなり重く取り上げてやったわけでございます。ただしかしながら、先般民事局長から御説明申し上げましたように、この規定の中には、おのずから適用のしいいものとしにくいものとあるということはやむを得ない次第でございます。
#291
○松本(善)委員 司法の民主化というものをほんとうにこの立法の趣旨に従って追求をしていくとするならば、むしろこのことを実践するための隘路はどこにあるか、それを除くためにはどうしたらいいかということを真剣に考えなければならないというふうに考えるわけです。私はどの法曹に聞いても、これはそういうような真剣な努力がされているというふうに考えておる人は、ためにする者でなければおそらく一人もない、これが実情なのではないか。最高裁当局がこの法案のために答弁をするというのではなくて、率直に事態を国民の前に明らかにするという点で、この点についての御見解を伺いたいと思います。
#292
○寺田最高裁判所長官代理者 これらの規定に関する運用の状況及びそのよって来たる理由等は、前回の委員会で民事局長から詳しく御報告申し上げております。
#293
○松本(善)委員 それを聞いた上で聞いておるのです。この実践のために、裁判所はこのことをほんとうに完全に実行するというような努力をいままでしてないのではないか。だからこそ、この間に簡易裁判所の性格というものはずっと変わってきておるのではないか。ほんとうに裁判所はこの特則全体を完全に実行するために、毎年毎年努力しておりますか。それを国民の前に言うことができますか。この会議録は在野法曹も含めてすべての人が読みますよ。一体、裁判所は、そういう努力をしているということを総務局長、言われるかどうか。
#294
○矢口最高裁判所長官代理者 前回の委員会の席上でも御説明申し上げましたとおり、本質的にやりがたい面を含んでおりますので、それらの点につきましては、現段階におきましては、むしろ積極的にそれを実施していくということができがたいのではないかということでございます。しかし、事件によりまして、そのときにも申し上げましたが、損害賠償事件でありますとか、交通の調停の問題でございますとか、そういった最も一般の国民に親しみやすくして、しかも緊急の救済を要するような事件につきましては、私ども訴状を定型化するなりあるいは調停申し立て書の定型化を行なうなり、または口頭による調停の申し立てを行なうなり、その点につきましての格段の努力をいたしておるわけでございます。即日調停ということを交通事件に始めまして非常な成果をあげておりますが、これらの事案も決して一般国民を無視しておるものではありませんで、司法の本質――公正、公平ということの本質をそこなわない限度におきまして、できるだけこの規定に盛られております特則等の手続につきましては、これを実施していきたいという考えを持っておるわけでございます。
#295
○松本(善)委員 この特則の実施が困難ではないかということは、これは司法の民主化本来の趣旨から私は逆行しておると思う。また裁判所が逆の努力をしておる、この特則が実際には実行されない方向の努力をしておる、それが事物管轄の拡張である。
 これは最高裁の事務総局の出しておる昭和四十二年十二月の裁判所法逐条解説、ここにちゃんと書いてある。「数次にわたる本法改正の結果、簡易裁判所の裁判権の範囲は次第に拡張され、今日においては簡易裁判所は裁判所構成法上の区裁判所にやや近い性格を持つに至っているものといわなければならない。」これは最高裁が出している文書です。法務大臣もよくお聞きいただきたいと思います。裁判所はむしろこの事物管轄の拡張をすることによって実際上戦前の区裁判所に近づけている。司法の民衆化ということで提案をされ、そうして法律になっておる特則の実行を、むしろできないようにしておる、これが事物管轄の拡張の意味ではないか。この点については、事務総長いかがお考えですか。事物管轄の拡張ということが実際上簡易裁判所を区裁判所の性格に変えていくものだということを、裁判所の出した文書でも書いてあります。この点についてはお認めになるかどうか。
#296
○寺田最高裁判所長官代理者 総務局でつくりました書類のことでございますから、私から便宜お答え申し上げたいと思います。
 確かに御指摘のような記述があることは私どもも認めるところでございます。ただ、ここで申し上げておりますことは、簡易裁判所と区裁判所と比較しまして裁判権の範囲がどのくらいの差があるかということについて、昭和二十九年の改正の結果、若干前よりは近づいた、こういうことをいっておるわけでございます。と申上げますのは、まず区裁判所当時にありました破産事件、和議事件あるいは執行事件等を取り扱わないという点では全然変化がございません。また、区裁判所のいわば専属的な管轄とでも申しますか、価額のいかんにかかわらず取り扱っておりました土地境界確定事件とか、家屋の貸借に関する事件とか、あるいは占有訴訟というものを簡易裁判所が取り扱わないという点でも、簡易裁判所は区裁判所とは全然違っておる、その点は終始一貫変わらないわけでございます。
 ただ、普通の民事訴訟の事物管轄の上限に関しまして、これが単なる経済変動とパラレルかどうかという点では、昭和二十九年の場合におきましては若干の問題があろうと思います。ただ、経済変動を数字的にとらえることがむずかしいので、それがパラレルかどうかということを端的にはかる尺度はございませんけれども、地裁と簡裁の配分比で見ますと、その配分比が改正前よりも改正後若干――ある程度と申すのが一番正確かもしれませんが、簡易裁判所の範囲が広くなっているという点では、区裁判所に近づいたということになろうと思います。ただし、区裁判所当時は区裁判所が八五%、地方裁判所が一五%であったわけでございますから、これは二十九年の改正によりましてもまだまだ区裁判所よりははるかに遠いわけでございます。前よりはやや近づいたということでございます。
 ことに今回の改正法案の実施の結果は、二十九年の改正の程度にも達しない比率でございますから、そういう意味で、少なくとも今回の改正に関します限り、御指摘のような問題はない、かように考えるわけでございます。
#297
○松本(善)委員 裁判所の資料によりましても、もしこの法律が実施されることになれば、民事事件の半分以上をさばく一審裁判所に簡易裁判所がなるわけだ、これは明らかに区裁判所の傾向に近づいていくということになるのではないか。これはもう事物管轄の拡張がそういう結果になるということは、最高裁の資料だけでなくて、学者もみな申しております。
 一般的な点でお聞きしたいのですが、事物管轄の拡張がだんだんと簡易裁判所の性格を区裁判所に変えていく方向にいくのだということはお認めになっておるのかどうか、これは事務総長に責任者として伺いたいのです。
#298
○岸最高裁判所長官代理者 先ほど総務局長からお答えいたしましたが、二十九年当時の事物管轄の拡張についてはやや御指摘のようなきらいがあると思いますが、今回は現在の時点における経済事情のもとにおける訴額の算定ということでありますので、今回の場合は前回の場合と事柄が違うというふうに考えます。
#299
○松本(善)委員 この最高裁のものによっても、数次の事物管轄の拡張が次第に拡張されてそうなっているということをいっているわけです。今回だけは違うというわけにはいかない。むしろ管轄の範囲を縮小していけば、これは簡易裁判所の本来の趣旨の方向に近づくものであるわけです。
 これは法務大臣にお聞きしたいのでありますが、これは専門的な話のように見えますけれども、簡易裁判所の司法の民主化のために必要だということは、これはほんとうに少額の二万、三万あるいは五万ぐらいの貸し借りでも首をくくらなければならないように切実な問題として考えている人が、裁判所へいま来ているか、来てないのです。その問題を解決しようというのが簡易裁判所の特則であります。そういうほんとうにこの問題について紛争を解決してほしいという国民を裁判所からますます遊離をさしていく、そういう方向にいくのがこの事物管轄の拡張であります。そういう方向が佐藤内閣の政策でありますか。
#300
○小林国務大臣 いろいろむずかしい議論がございますが、私はどうもわりあいに頭が単純なほうでございますから、法務省あるいは最高裁判所の方々は非常に頭が緻密でございまして、私はやはり上で統轄する者はそう同じように緻密であっては仕事が運ばないというふうなことに考えておるのでありまして、この問題を聞きました場合に、何しろ経済情勢の変動がある、いま十万円を三十万円にするのはきわめて常識的じゃないかというふうに私は考えておるのであります。いろいろお聞きしてむずかしい問題のあることはわかりましたが、とにかくそういうふうに金額を限定する以上は、情勢の変化によって金額を直すというようなことはやはり当然あってしかるべきだ、かように私は考えておるのでございます。
#301
○松本(善)委員 法務大臣にお聞きしますが、私がいま申しました心配は、日弁連の正式の意見で、みなこの点を心配をしておるのであります。物価にスライドするというだけの単純な問題でないということで、在野法曹があげて心配をしておる。きょう長時間をかけまして、三人の多少立場の違う方々がおいでになっても、この法案がそのまま通ることについてはみなあげて反対なんだということを述べておられる。そういう日弁連からの意見というのは笑うべき意見だ、取り上げるにも足りない意見だ、こういうふうにお考えでいらっしゃいますか。
#302
○小林国務大臣 いや、私はさようには考えませんが、最高裁のお話を承っても、もう昭和四十年からこの問題をお話し合いをなさろうということでありまして、何だか急にこういうふうな話が出てきたようにも私には思われぬのでありまして、十分もう過去において討議をされる機会があった、こういうわけでございますが、どうもそのお話し合いができなかったということでございます。それで、最高裁としましては、いま申すように、数年来の問題で待ちに待った、もういま出すことがすでにおそきに失しておる、こういうような考え方であるようであります。それで、お話し合いができることを私どもは期待をしたのでありまするし、またこの問題は、私が就任してからもいろいろお話しになったというが、やはり実質的になかなかいろいろな御意見を戦わせる機会が持てなかった、こういうふうな事態であります。きょう参考人の述べられたようなことは、最高裁の方々もよくおわかりいただいておることと思うのでありまして、その上に立ってのこのたびの御提案である、もういわば待ち切れなくなって御提案なさった、こういう事情のように私は了解いたしておるのであります。
#303
○松本(善)委員 この法案が単なる物価スライドなんだ、司法の根本的な問題に触れないのだ、こういうような説明を、いかに事務当局が何べん繰り返されましても、在野法曹のすべてはだれも信用しないと思います。
 法務大臣に続けてお伺いしたいのでありますが、この間、私は弁護士会と対立をしたままこの法案を成立させるということについてどうかということをお聞きしたのであります。その点、どうしてもこれを実行する、そうしたいという緊急性について伺ったときに、最高裁がそういうふうに言われるからだというお話でありました。これは、この法案を提出するにつきましては、最終的には私は政府の責任であろうかと思います。もちろん最高裁も責任があると思いますけれども、最終的には政府の責任であると思います。政府は、この司法制度の根幹に関する問題であるというふうに在野法曹が言っておる問題について、意見が対立をしたまま、今後も日弁連と最高裁が対立をする、意見が対立をしておる。本来ならこれは十分に煮詰めて、まあ熟したような形になってから出さるべきものであると思いますけれども、それがされない場合、最高裁の意見を一方的に聞いてやっていく、こういうお考え、それでかまわないというお考えなのかということを最後に確かめておきたいと思います、この点については。
#304
○小林国務大臣 これは裁判の取り扱い事務の問題でございまして、それの是非というものを一番よく知っておるのは最高裁判所であるのでございまして、話し合いがつかないというようなことは、私もこれは遺憾なことだと思うのでありますが、しかし、この法案が出てからもう一カ月以上たちまするが、その間においても、私どもは実は弁護士会方面からもいまのような切実なお話をお聞きしておりません。正直、率直に申しまして、今度の会長さんにかわってから何かまた急に盛り上がったと申すか反対が出てきた。この間の事情につきましても、私どもはかなり了解に苦しむものがあるのでございます。さようなわけで、これが出てからももう十分最高裁ともお話しなさる機会があったと思うのでありますし、私どもといたしましても、単純にただ最高裁がこう言うからというわけではありません。最高裁の意見が適当であるということを政府当局として認めたからして、この案をお願いいたしておるのでございます。
 これはまあ松本委員も、弁護士会が絶対反対なのにこれをやるのはどうか、こういう意見もありますが、また一方から申せば、弁護士会が反対すれば何でも通るのか、こういうふうな議論も一方からはあるのでありまして、これもまた困る意見であると思うのでありまして、いまのところ、私どもは両者のお話もお聞きの上で、最高裁当局がもう数年にわたっての懸案を、もういまおそきに失するからこの際ぜひやってほしい、こういうことを言われれば、私どももまことになるほどだ、こういうふうに考えておるのでありまして、さような場合において、われわれも両方考え、いまの事態はまことに遺憾な状態だと思うが、この状態は、いまの場合はもうやむを得ない、何とかこれからもそのお話し合いが円滑に進むようなことを両者においてひとつぜひ考えていただきたい、かように強く希望いたしておるのであります。
#305
○松本(善)委員 法務大臣にお話ししておきますが、先ほど、きょうの参考人との質疑の中で、前阿部会長も、これに賛成をするというようなことをもちろん言ったことはないというお話でありました。それから、伊藤前事務総長も、この法案がそのまま通ることについてはもちろん反対なんだという意見を述べられました。そのことを申し上げておきます。
 それで、私は最高裁にお聞きしたいのですけれども、この問事務総長に緊急性について、日弁連とこういうふうに対立してもこれを実現しなければならない緊急性について私伺ったのでありますが、どうしても具体的なお話は伺えなかった。日弁連と協議をしたけれども、あとが、日弁連がよくない、そういうお話は伺いましたけれども、具体的な緊急性は伺えなかった。これが通らなかったら一体どういうことになって、どう困ると思われておるのか、その点を事務総長からお話を伺いたいと思います。
#306
○岸最高裁判所長官代理者 ただいまの御質問に対しては、前回お答えしたと同じことを申し上げることになります。
 要するに、事情の変化によって、ことに民事訴訟の訴額をどうきめるかということは、そのときの経済事情を基準としてきめられていくのが自然であろうと思います。
 で、今日この三十万円という案が出ましたけれども、先ほど総務局長が申しましたように、もっと数年前からやはりそういうものであってもよかったのであります。その上ますます、一審の民事事件の負担というものが簡裁と地裁との間にアンバランスを呈しておる、このまま放置していきますと、地裁の民事事件は一体どうなるかということがまず考えられなければならない問題であります。それならまず地裁を強化したらいいじゃないか、地裁を充実したらいいじゃないかということが言われるわけであります。第一審の充実強化ということにつきましては、これは最高裁判所のほうでも、民事、刑事を問わず数年来の課題としていろいろな方面から研究し、また実施すべきものは実施しておるのでありますが、何ぶんにもいま急に地裁の裁判官をふやしてそうして地裁を強化するということは、これはとうていできないことでございまして、そういうことから考えますと、やはり今回の措置が今日の情勢においては最も適したものであろう、かように考えるわけであります。
#307
○松本(善)委員 やや真実に近いお話が出てきたわけでありますが、この上級裁判所の負担の軽減のために簡易裁判所の管轄を次第に拡張する傾向にある、そのために当初の性格、簡易裁判所の本来の性格というのがぼやけてきたのです。これは兼子一さんなんかもその著書で指摘をされておるけれども、まさに、いま事務総長がお答えになったことはこの指摘に的中することである。上級裁判所の負担の軽減のために簡易裁判所の管轄を拡張する、そうして簡裁が本来負っておる特則などでやらなければならない司法の民主化の方向が阻害されておる、これがこの実態であります。いま事務総長の言われた方向でいきますならば、どうしても特任判事の増員という形でこの問題を解決するという方向に行かなければならないと思いますが、いかがでございましょうか。
#308
○岸最高裁判所長官代理者 この上級裁判所の負担軽減ということが直接の動機、目的ではございませんで、今回のように訴額の改正がありますと、そのアンバランスというものの是正が反射的な効果として生ずるということであります。そういうわけでありますので、別に十万円が三十万円になったからといって、急に、前回二十九年のときのように、簡易裁判所の性格に大きな変革をもたらすものとは私どもは考えておりません。
#309
○高橋委員長 松本君、約束の時間が過ぎたようですから……。
#310
○松本(善)委員 まだ過ぎていないです。
#311
○高橋委員長 もう過ぎているよ。だいぶ過ぎているので、あなたの明快な質問でだいぶ事態が明らかになったから……。
#312
○松本(善)委員 もうちょっとであります。問題点を明快にする必要がありますので……。
#313
○高橋委員長 相当明快になったので――なかなかいい質問だけれども、だいぶ進んだんじゃないの。
#314
○松本(善)委員 もうちょっとございますので、もうしまらく……。
 その点について、事務総長、特任判事の増強ということになるのじゃないかということなのです。
#315
○岸最高裁判所長官代理者 先ほどお答えするのを忘れましたが、これはもうすでに総務局長からもお答えしたと思いますけれども、このために簡易裁判所の負担が急にふえるということはありませんし、また特任判事を増員するためにこういうことをしたわけでは決してありません。
#316
○松本(善)委員 いま事務総長は、このままでいけば地裁が困るのだ、地裁を強化すれば一番いいけれども、地裁を強化するのは簡単にいかないからというふうに言われたじゃありませんか。先ほど来、弁護士会からお見えになった三人の参考人にそれぞれにお聞きしました。この問題は一体どうしたらいいのだ、地裁の判事を増員すれば解決するのかと言いましたら、すべて三人とも、そのとおりだ、そういう方向ならば一挙に解決するということを言われたのであります。もしそういう方向で解決しなければ、特任判事の増強になることは明らかだと思います。
 私は、法務大臣にお伺いしたいと思うのでありますが、これは裁判所だけでは解決しない。やはり政府がこの問題について真剣に取っ組まなければ解決しない問題であると思います。これは裁判所の職員定員法の審議のときに、法務大臣が、私のこれについての意見をお聞きになって、附帯決議が四十二年にできておるということを御存じだと思いますが、読み上げませんけれども、この要旨は、迅速適正な処理ができないでいるということは、裁判所の職員の定員の不足と施設の不備にその原因がある、これを政府は真剣にやるべきだということを四十二年に決議をしておる。法務大臣は今回だけでありますので、この経過を少しお話し申し上げておきますと、これについては裁判所の職員の労働組合は、約三千名の人員がほしい、そうでなければ労働強化で困ると言っておる。裁判所は政府に対してそこまでは要求していないけれども、昭和四十二年度に六百九十二名要求しておる。それに対して政府がきめたのは五十四名です。四十三年は五百名以上ということで要求して二十五名です。四十四年は五百七十三名要求して百六十二名です。四十五年は七百九十八名要求して百三十名です。そのうち百名は警備員です。
 いま事務総長が答えましたように、地方裁判所の強化ができるならばもちろんいいけれども、それは簡単にできない。というのは、再三再四にわたりこの問題が法務委員会で論議をされ、裁判所からも言われ、財政法十九条の二重予算の権利を行使すべきだということを言われても、実行されてこない。ここを解決するならば、日弁連と最高裁との対立ということも解消し、国民の司法に対してのいろいろな不満も解決するという方向が切り開けるわけであります。そういう方向で解決をするのは政府の責任ではないかと私は思います。この点について、法務大臣の御意見を伺いたいと思います。
#317
○小林国務大臣 お話しのようなことは、そのとおりであろうと思います。しかし、何といたしましても政府全体として人員増加を抑制するという強い方針をとっておるのでありまして、昭和四十五年度の増員は、裁判所方面はむしろ他に比べて非常によくなっていると私は考えるのでございます。これでよろしいとは思いません。お話しのような努力は十分これからもいたすつもりでありますが、そういう方向に進んでおるということは、ことしの裁判所関係の増員を見てもある程度おわかりいただけるのではないか、かように思います。
#318
○高橋委員長 松本君にちょっと申し上げますが、ほかの委員会は共産党の質問については時間を非常に最小限度にしておるわけです。ここは松本君のいつも精細なる議論を聞きたいものだから、われわれ無制限に許しているような形になっているのだが、七時半以上になりますので、ひとつ最後の……。
#319
○松本(善)委員 最後というわけにもいきませんが、もう少し……。
#320
○高橋委員長 そうでないと、制限してなにしますよ。
#321
○松本(善)委員 もうしばらく。
#322
○高橋委員長 どのくらい。
#323
○松本(善)委員 あと十分もあれば終わります。大体審議というのは自由にやるのが本来なんですよ。
 その問題で法務大臣に伺いたいのは、裁判所をほかの各省と同じに考えてはならぬということなんです。その結果は弁護士会との対立にまで影響するし、この問題はほかの省と比べてみればいいじゃないかということでは解決しない問題です。そこのところをもし一年、法務大臣が本格的にお考えになって、解決の方向に進むならば、この対立は解消されるわけです。弁護士会の三人の方々も、一年待ってほしい、いろいろな意見はあるけれども、一年の間に何とか解決したい、これが弁護士会の正規の意見であると言われておる。そういう方向でものごとを解決するという方向にお考えになるわけにはまいりませんでしょうか。
#324
○小林国務大臣 御案内のように、最高裁判所の予算等については、法務大臣としては主張ができない、あるいはこれを代弁することができない、表向きは私はそうだと思うのでありますが、しかし、国務大臣といたしまして私は、ことしの裁判所の職員の増員等についても、裏からと申してはなんでありますが、一般の職員と同じレベルに見るべきでない、こういう主張を大蔵大臣等にもいたしておるのでありまして、今後とも私は、予算も人事も法務大臣は関与することではありませんが、しかし、裁判ということの特質から考えて、そういうふうな法律的の制度的なものとは別にしまして、私ども関係者として、お話しのような努力、お手伝いは続いてぜひしたい、かように考えております。
#325
○松本(善)委員 法務大臣、私が先ほど四十二年からの数字をお話ししたのは、この間ほとんど変わっていないということをお話ししたわけです。附帯決議が出ても全然変わっていない。だから事務総長が、これは地裁を強化するのはもちろんけっこうだろうけれども、できないというお話になる。そしてその解決の道を簡裁の事務管轄を拡張するという方向に結果的に求めておる。これは表面の理由ではないというふうに言われるけれども、明らかに隠された理由であります。だれもがわかっている理由であります。その一番の中心問題を解決すれば、これは何でもないことになる。こんなに長く、おそくまで法務委員会は審議をしなくても解決できる問題になるわけです。一番はっきりしているにもかかわらず、それをやらない。そして対立をますます拡大していくというのは、まことに私は解せないことであります。いまからでもぜひ、もう一年間――この数日問で考える必要はない。来年度の予算、来年度の人員についてこうしよう、そしてそれを基礎に日弁連と裁判所が考えてほしいということでもできるわけであります。そういう方向はお考えになりませんか、絶対に。
#326
○小林国務大臣 この増員が非常に少ないとおっしゃいますが、ほかの部局というか行政官庁に比べまして、とにかく過去においで裁判所のふえ方が多い。百人もふえておる、こういうことを聞いておりますし、それからことしの予算、職員のふえ方などは他に比べて多いということもおわかりいただけると思うのであります。また裁判所といたしましては、やはり判事の補充に非常に苦労されておるのでございまして、この点も、たとえば簡裁のほうを要求するかあるいは判事補を要求するかということについても、いろいろお考えになっておるのでございます。皆さんのほうは、弁護士からとればいいじゃないか、こういうことを言われますが、これもなかなか困難なことでありますし、ことしの判事補の任命もとにかく五十数名ということで、現在も裁判官自体が七、八十名の欠員がある、こういうことであります。これらの任命については、われわれが口を出してもどうにもならぬ問題でありまして、私ども、裁判所の予算やなんかに口出すのはほんとうはいけないのでありますが、これはお手伝いを申し上げたいということでやっておるのであります。これからもそういう趣旨で十分努力をいたすつもりでおります。
#327
○松本(善)委員 法務大臣、先ほどこの法案については最高裁の意見を尊重すると言われたけれども、裁判所職員の定員の場合に無条件に尊重していれば解決すると私は思う。これはこれ以上言いませんけれども。
 事務総長に伺いますが、私は、この問題が起こりまして、いろいろな意見を聞きました。日弁連会長は、弁護士から裁判官になる問題を考えなければならないということを言っておられる。ある裁判官にお聞きしましたら、あるいは速タイプをふやしてもらえばもっと事件は処理できるんだ、こういうお話もありました。私は前にある高裁長官にお聞きしたのですけれども、裁判所の人員の増加の問題については、これは弁護士会に理解してもらわなければ解決できない、こういう意見を持っておられた方もあります。そういう大局的なことを考えて、そしてこの問題を解決すべきじゃないだろうか。私は毎年毎年財政法十九条の二重予算の権利を講ずべきじゃないかということを口をすっぱくして申し上げているのはそういうことであります。そういう司法全体の観点から、この問題について再考をするというわけにはまいりませんでしょうか。
#328
○岸最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘のような諸点につきましては、裁判所といたしましても、毎年毎年予算請求の際に念頭に置いて努力してまいってきております。弁護士から裁判官に任官希望される方が少しでも多いことは、これは非常に希望いたしておりますけれども、これは事実上非常に実現困難なことでありまして、一つは経済的な待遇の問題ということもありましょうし、また弁護士会における互助年金制度が裁判官の年金制度にうまくつながれば弁護士から裁判官に希望される方もふえはしないかということも考えまして、この連絡協議会が発足しましたときにまずその問題を取り上げまして、日弁連のほうにも十分考えていただいたのですが、結局において結論が得られなかった。そういうような事情で、ただいま御指摘のような問題についてはもう十分に――十分とは申しませんが、毎年念頭に置いて考えてきております。また、今後も努力を続けなければならぬと思います。
 先ほど二重予算のお話が出ましたが、この二重予算権というのは、裁判所に認められておりますいわば最後の力といいますか、これを行使すべきである場合には行使しなければならない。私どもは予算要求の場合には常にこれを念頭に置いてやっております。過去においても三回ほどこの権限を行使しようとして、そして妥結したこともあるくらいで、決して伝家の宝刀というものはやたらに抜くべきものではなくて、ほんとうに必要なときに使わなければならないものであると考えております。
 そういうわけで、先ほどの速タイプがふえれば云々ということもありましたが、速タイピストの養成ということにつきましても、非常に苦心をして努力を続けておりますし、また先ほど総務局長から御説明いたしましたが、速タイプででき上がったものをコンピューターにかける、それによってタイピストの数をふやさなくても、現在の何層倍の効率を上げることができる、そういうことも考えましていまそのほうの研究もやっておるわけであります。ただただ今回の措置は安易な方法を選んだというのではなくて、そういう大きな問題も一緒に考えながらやっていることであるということを御理解願いたいと思います。
#329
○松本(善)委員 私は、やはり法務大臣も事務総長も考え直すべきであると思います。
 裁判官の給源の問題について触れられたので、一言お聞きしておきますが、転任が問題だとか、それから給与が少ないとか、こういうことが裁判官の給源がないということの原因として考えられておるとすれば、私は法曹と法曹になろうとしておる人間に対しての侮辱であろうと思います。それは裁判所の姿勢について真剣に考えなければならない。私は一つの例を申し上げますならば、たとえば死刑判決をしてそれがくつがえされても、それについて責任をとったという裁判官を聞いたことがない。裁判官の中でのほんとうにそういうような正義を愛する、憲法の民主的な条項、平和の条項というものをほんとうに愛するという精神が充満していないのではないか、そういう点が若い法曹から裁判官が魅力があるというふうに考えられてないという一つの原因ではないか。私はこれについても司法修習生の諸君からいろいろ意見を聞いております。裁判所の中の民主化を求める声も強いのです。詳しくは申しませんけれども、そういう裁判所のあり方にこの給源の問題が関係があるとお考えかどうか、この一点だけをお聞きしておきます。
#330
○寺田最高裁判所長官代理者 いま松本委員は転任の問題が弁護士と裁判官の志望を決定する動機としてウエートを占めないようなお話もございましたが、昭和四十二年の五月に、日弁連で十五期から十九期までの弁護士について御調査になりました資料によりますと、転任がないということが動機になっておる者が四三%あるという報告になっておるわけでございます。そういう点から申しましても、転任がないということは弁護士志望の動機になっておるということでございます。そういう点から申しましても、この点は決して無視できない要素である、かように考えておるわけでございます。
#331
○松本(善)委員 終わろうと思いますけれども、昔も転任はあったのであります。しかし、昔は裁判官の給源の問題はなかったのであります。転任の問題に逃げ込むということは、私は決して解決の道にならないということを申し上げておきますと同時に、法務大臣と事務総長には、いま質疑の中で明らかにしたような点をお考えになって、あらためてこの法案について再考をされたいということを要求いたしまして、私の質問を終わります。
     ――――◇―――――
#332
○高橋委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。
 法務行政及び検察行政に関する件の調査のため、明十五日、プロフェッショナル・ベースボール・コミッショナー事務局長井原宏君に参考人として出席を求め、意見を聴取することにいたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#333
○高橋委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
 次回は、明十五日午前十時二十分理事会、理事会散会後委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
   午後七時四十七分散会
ソース: 国立国会図書館
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