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1970/04/03 第63回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第063回国会 本会議 第16号
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1970/04/03 第63回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第063回国会 本会議 第16号

#1
第063回国会 本会議 第16号
昭和四十五年四月三日(金曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程 第十四号
  昭和四十五年四月三日
   午後二時開議
 第一 簡易郵便局法の一部を改正する法律案
  (内閣提出)
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 日程第一 簡易郵便局法の一部を改正する法律
  案(内閣提出)
 下請中小企業振興法案(内閣提出)の趣旨説明及
  び質疑
 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律
  案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑
   午後二時五分開議
#2
○議長(船田中君) これより会議を開きます。
     ――――◇―――――
 日程第一 簡易郵便局法の一部を改正する法
  律案(内閣提出)
#3
○議長(船田中君) 日程第一、簡易郵便局法の一部を改正する法律案を議題といたします。
#4
○議長(船田中君) 委員長の報告を求めます。逓信委員長金子岩三君。〔報告書は本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
  〔金子岩三君登壇〕
#5
○金子岩三君 ただいま議題となりました簡易郵便局法の一部を改正する法律案に関し、逓信委員会における審査の経過と結果とを御報告申し上げます。
 本案は、簡易郵便局について、その受託者の範囲が、現在地方公共団体や農協等の非営利団体に限られているのを改め、個人にも委託できるようにするほか、委託する事務の範囲を若干広げる等の改正を行なおうとするものであります。
 本案は、去る三月五日内閣より提出、三月十九日逓信委員会に付託されましたが、委員会においては、自来数回の会議を通じて慎重審議を行ない、四月二日、質疑を終了し、討論に入りましたところ、自由民主党より賛成、日本社会党より反対、公明党より賛成、民社党より賛成、日本共産党より反対の旨、それぞれ意見が述べられ、次いで採決の結果、賛成多数をもって本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
 なお、委員会は、政府に対する三項の要望を内容とする附帯決議を付することを、自民、社会、公明、民社及び無所属の各委員の賛成多数をもって可決いたしました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
#6
○議長(船田中君) 採決いたします。
 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕
#7
○議長(船田中君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。(拍手)
     ――――◇―――――
 下請中小企業振興法案(内閣提出)の趣旨説明
#8
○議長(船田中君) 内閣提出、下請中小企業振興法案について、趣旨の説明を求めます。通商産業大臣宮澤喜一君。
  〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
#9
○国務大臣(宮澤喜一君) 下請中小企業振興法案の趣旨を御説明申し上げます。
 下請中小企業は、わが国産業に広範に存在し、わが国経済の重要なにない手として、その発展をささえてきており、今後とも、わが国産業の高度化の進展に伴い、その役割りはますます増大するものと見込まれております。
 しかしながら、下請中小企業は、受注の不安定、体質改善のおくれ等多くの問題をかかえており、さらには深刻な労働力不足、親事業者からの合理化要請の強化等きびしい環境に直面しております。
 このような情勢に対処して、下請中小企業が自主的にその事業を運営し、かつ、その能力を効果的に発揮することができるようにすることは、わが国経済のバランスのとれた発展を確保する上からもきわめて重要な課題となっております。
 本法案は、このような観点から、下請中小企業の実態に即して効率的に近代化の促進をはかるとともに、下請取引のあっせん等を推進することにより、下請中小企業の振興をはかろうとするものであります。
 すなわち、第一に、下請中小企業の振興に関し、下請中小企業者及び親事業者のよるべき振興基準を定めるとともに、これに基づき必要な指導、助言を行なうことといたしております。
 第二に、国民経済上特に近代化を促進する必要がある下請中小企業について、特別の近代化制度を創設することといたしております。すなわち、下請中小企業者が組織する事業協同組合及びその親事業者が、親事業者の発注分野の明確化、下請中小企業者の設備の近代化、技術の向上、事業の共同化等を内容とする振興事業計画を作成して、政府の承認を受けることができることとしております。政府は、承認した計画の実施を促進するため、金融上、税制上の助成措置を講ずることといたしております。
 第三に、下請取引のあっせん、下請取引に関する苦情相談等の業務を行なう下請企業振興協会に対して、その業務の公正的確、かつ、広域的運営を確保するため必要な指導、助言を行なうこととしております。
 以上が下請中小企業振興法案の趣旨でございます。(拍手)
     ――――◇―――――
 下請中小企業振興法案(内閣提出)の趣旨説明
  に対する質疑
#10
○議長(船田中君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。石川次夫君。
  〔石川次夫君登壇〕
#11
○石川次夫君 私は、日本社会党を代表いたしまして、下請中小企業振興法案に対して若干の質問をするものであります。
 まず、日本の中小企業は、その数およそ四百三十万、しかし、その業種別、規模別の実態が把握されておりませんために、きめこまかい対策が行なわれてはおりません。その従業員数は、およそ三千万名をこえておると推定をされておりまして、農林従業員の数九百三十五万をはるかにこえておるにもかかわらず、その予算は、驚くなかれ、わずか本年度三百六十八億円にすぎない実態であります。
 日本経済の異常な発展は、世界注目の的でありますが、日本に永住する外国人の表現をかりますと、とにかくその成長ぶりには驚異のショックをまず受ける、しかしながら、今日においてはそれが恐怖のショックに変わったと言っておるわけであります。それは、日本の経済成長そのものをおそれておるわけではありません。あまりにも大企業本位の経済政策を急ぐあまり、もろもろのひずみ、すなわち格差の拡大、人間性の否定、精神の荒廃に対する恐怖のショックとなってあらわれておるわけであります。
 中小企業と大企業の格差の問題も、今日の最大の政治課題の一つであることは言うまでもございません。最近の統計を見ますと、法人企業の付加価値生産性は、大企業を一〇〇とした場合、たとえば百人未満の会社で五〇、百人以上三百人未満の会社で六三と、かなり低いものであります。大企業のすさまじい設備合理化に追随できない以上、これは当然と言えるでしょう。
 しかしながら、一方、一人当たり給与のほうを見ますと、大企業と中小企業との格差は、逆に最近わずかではありますけれども狭まる傾向にありますが、現状では、付加価値生産性の格差よりはるかに高くなっておるわけでありまして、百人未満が七一、百人から三百人の中小企業で七八となっております。このことは、労働力不足のおりから、採算や生産性というものを度外視しても、給与だけは目一ぱい払わなければならないという中小企業の窮状が如実にあらわれておるといわなければなりません。また現在、消費者物価上昇の七割が生鮮食料品と中小企業の工業製品と、対個人サービス料によるものであるということを考えますと、この点は、消費者物価上昇とも大きな関連があることは言うまでもないわけであります。
 これら中小企業への対策として、同族会社への税制の問題とか、中小企業三金融機関の貸し出しワクを増加するなど、若干の配慮を払ってきておる点は認められるところでありますけれども、しかし、たとえば金融機関の貸し出し残は、大企業向けの三十兆円に対しまして、中小企業向けは二十五兆円になっております。従業員の比率は、大企業二といたしますと、中小企業は大体八でありますから、この比率までは遠く及んでおらない実態であります。たとえ従業員の数と同じ比率で運用資金の融資をされたといたしましても、たとえば人材の点でいえば、大学の理工科出身者は、大企業一社当たり五名であり、中企業は五社に対して一人であり、小金業は実に二百社に対して一人であるという実態では、同じ設備をもってしても同じ生産性を高めるわけにはまいらないという実情にあるわけであります。したがって、中小企業に対する施策はこのままではきわめて不十分、不徹底といわなければならぬと思います。
 さらに、卸売り業者と小売り業者、親企業と下請業者の間の紛争等の調整機関などは、法律上はともかく存在いたしましても、実態は全然機能しておりません。現実には泣き寝入りの現状にあるわけであります。この抜本的な対策は、格差解消、二重構造の問題解決という点だけではなくて、消費者物価上昇対策の一環としてきわめて今日的な課題であります。
 そのためには、何としても、通産省内にある中小企業庁としてでは十分その力を発揮することは不可能でありましょう。政府は、二重行政の非能率を避けるために独立昇格はさせない、こういう方針でありますけれども、わが党は、もう七回も連続して通常国会に、中小企業省を設置すべく設置法案を出し続けてまいっておるわけであります。しかるに、何ら顧みられることなく今日に至っておりますことは、議員提案法律の軽視であり、立法府の権威をみずから否定するものであり、政府の中小企業対策の熱意がいかに通り一ぺんであるかを示すものにほかなりません。(拍手)中小企業とその従業員の生活を守るという立場で、たとえば大きなデパートが地方に進出することを規制する、あるいは大企業と下請の間にある代金支払いの方法や単価の妥当性を保証するという意味で、三千万人従業員の保護のためにはどうしても独立した中小企業省が必要と信ずるわけであります。
 通産省は、明治以来、資本主義社会を急いで建設するために、政商と結んで大企業を育成することを任務として今日まで至りました。その意味では評価をされておるわけでありますけれども、下請はしたがって、日本独特のものとして、大企業に付随した形であとから生まれてきたものであります。したがって、中小企業・下請と大企業・親企業が利害対立する場合、通産省はどうしても大企業側に立つ体質を持っておるわけであります。この通産省の中にあって、中小企業庁がよくその使命を達成し得るとは考えられないし、またなし得ることにはおのずから限界があるといわなければなりません。したがって、われわれといたしましては、断じて中小企業省を確立すべきことを強く進言せざるを得ないのであります。
 それから、たとえば建設関係の大企業は、徹底して下請を利用いたしまして、場合によっては、みずからは設計をするだけで、実際の作業は全部下請にまかせるというような場合も少なくはありません。しかも、建設業の下請の場合、下請代金支払遅延防止法の適用の外に放置をされたままになっておるという状態であります。通産省関係外の中小企業が法の保護のらち外にされておるという実例は、このほかにもたくさんございます。
 これらの多くの問題を積極的に調整をし、さらに進んで不公正のないようにするための監督機関を各地域に設置することなくしては、ほんとうに中小企業を守り育てる熱意に欠けると言われても返すことばがないと思うのであります。この際、思い切って中小企業省を設置すべきであると信じますけれども、総理大臣の考え方はどうなのか。さらに、中小企業関係者三千万人のための予算としてわずか三百六十八億円で事足れりと考えておられるかどうか、総理大臣の所見を伺いたいと思うのであります。
 それから、一つの例といたしまして、わが党が強く要望してまいりまして、昭和四十一年に、官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律という法律が成立をいたしております。そして、中小企業のために官公需をできるだけ多くさせようというねらいから出たこの法律でありますけれども、この法律が制定されて以来、官公需の中小企業向け発注というものは、ふえておるどころではなくて、むしろ低減をしておるという事実は、まことに残念であります。(拍手)政府の中小企業対策の熱意がいかに少ないかを如実に示すものでありますけれども、この点どう考えておられるか、通産大臣に伺いたいと思うのであります。
 戦後日本経済の発展のかぎは、日本民族の優秀さと勤勉によるものであることは定説である。さらに、平和憲法に基づいて軍事予算が低く規制をされておるという点、あるいは憲法によってみずからの生活を引き上げるための要求する権利を獲得した点、それに基づいて購買力が高まり、それに関連する産業がいんしんをきわめて今日に至ったということは否定する余地がないのでありますけれども、日本独特の経済成長のかぎとしてよくいわれるのは、下請制度の存在であります。
 すなわち、高度化され、徹底的な合理化をされた大企業の生産性を維持し発展させるための、いわば緩衝地帯として、陰の力として、大企業温存のための犠牲となって働いてきた下請の力を見のがすことはできないのであります。しかし、製造工業の約六割を占めております下請企業が、不況の際には見捨てられてしまう存在としてある限り、日本の健全な均衡のとれた経済の発展を実現することはできないと思うのであります。
 今回提案された法案は、たいへんおそきに失したとはいいながら、一応この下請対策を明らかにしたという点について、その善意を認めるにやぶさかではありませんけれども、対策が核心をついておりません。さらにまた、はなはだ微温的であるという点で、多くの不満をあらわさざるを得ないのであります。以下、そのおもな点について、二、三質問をいたします。
 いま企業が最も重点を置いているのは販売政策でありますけれども、下請企業はその意味での販売対策を必要とはいたしておりません。しかしながら、それだけに親企業の顔色をうかがい、一驚一笑をうかがうことにきゅうきゅうとしているのが現実であります。これをしも一がいに卑屈と言い切ることはできません。生きるための、販売政策にかえてのやむを得ざる知恵と見るべきでありましょう。彼らは思うことの一割も親企業に対しては言い得ないという、その実態を政府は把握しておらないのであります。したがって、親企業の協力を必要として近代化のための振興計画を進めるということになれば、ますますその隷属化を決定的に進めることになると思うのでありますけれども、この点を通産大臣は一体どうお考えになっておるでありましょうか。(拍手)
 下請企業家の多くの方に私も意見を聞いたのでありますが、この法案では、ただ系列化、隷属かを促進するだけだ、結局は下請は生かさず殺さず、封建制度下の農業のようなものだ、と言っておった事実を何と理解すべきでありましょうか。
 さらに、この法案は、自主的に行なうことがたてまえであるだけに、一向強制力を持っておらないのであります。したがって、この法案は単なる計画倒れに終わる懸念が強いといわなければなりませんが、この点いかがお考えでしょうか。しかも、この対策が十分魅分のあるものであれば、積極的に参加をするという意欲もわくでありましょうけれども、この法案のように単なる助成策では、魅力が乏しいだけではなく、金額にしても、全部でわずかに特利分十五億円にすぎないというのでは、大きな企業の一つの工場の一年間の設備資金にも及ばないというような実態ではありませんか。政府の熱意のほどが疑われてしかたがないのでありますけれども、この点、総理大臣はいかがお考えになっておられますか。
 下請という企業の持つ格差是正の熱意を示すために、振興計画に基づく共同利用施設に与えられました損金算入制度や特別償却制度を、その参加した下請企業の全生産設備に適用するくらいの積極的な施策がとれないものでありましょうか、通産大臣に伺いたいと思うのであります。
 また、特利利率七・七%というのでは、たいへんな恩典というわけにはまいりません。せめて五%以下にすることが必要と思うのでありますけれども、この点についてもあわせて通産大臣の所信を伺いたいと思うのであります。
 さらに、この法案には団体交渉の条項が載っておらないのであります。隷属化のおそれを少なくするために、この振興計画をつくるためには、特に対等の立場に立って団体交渉を持つ必要があると思うのでありますけれども、その団体交渉については中小企業等協同組合法に規定されていて、重複するからというのでございますけれども、すでにこの法律の条項は死文化しておるという実態であります。さらに、これが死文化していないと仮定をいたしましても、この法律によるところの団体交渉は団体協約を結ぶための交渉ということになっておるわけでありまして、振興計画をつくる際に団体協約を必要とするかどうかはまことに不明確であります。この法案作成にあたっては、特に団体交渉の点はさらに明確にすべきであると考えておりますけれども、この点修正の意思があるかどうかを通産大臣に伺いたいと思います。
 現在、八期連続の増収増益の高原景気の中にありまして、金融引き締めの影響もあり、いささか景気冷却のかげりを感じ始めてきておる昨今であります。高原景気の中にあっても、倒産は依然として引き続き高水準を持続をしております。親企業の多くは特恵関税、貿易の自由化、資本自由化のもと激しい国際競争に耐えるために、また平価切り上げの可能性を予測しながら必死の努力を続けております。そこには一片の温情主義も許されておらないきびしい現実の姿でありまして、一たん不況の波が押し寄せるならば、どんどんと格差を開いてきておりますところの弱い下請企業というものは、崩壊するにまかせる以外にはないというのが実態ではないでしょうか。もしそうなれば、下請の多くはこの荒波に耐える力がなくて、飛躍的に倒産が増大をし、たいへんな社会問題となるであろうことを、私はいまからりつ然たる思いで予測をしておるわけであります。そのときになってはおそいのであります。このきびしい現実をもちろん下請企業自体も認識をして、みずからの足で歩み出す努力が最も必要であることは言うまでもありませんけれども、担保能力をすでに失っておりますところのこれらの企業がなし得ることには、限界があるわけであります。この緊急事態に対処するための方策として今度の法案が出されたものであるとするならば、これはあまりに認識が甘過ぎるといわなければなりません。いまこそ速急に中小企業対策、また特に下請企業対策は思い切った施策が必要なときであります。この法案程度の微温策ではとうてい対応策にはなり符ないということを明確にいたしまして、緊急に思い切った施策をすべきことを建言をいたしまして、私の質問を終わりたいと存じます。(拍手)
  〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕
#12
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) 石川君にお答えをいたします。
 中小企業省の設置の御提案がありましたが、中小企業政策は、関連産業との統一的視野に立って進められて初めてその成果をあげ得るものでありまして、中小企業行政のみを実施する新たな機構を設けても、かえってその実効は期待し得ないもの、かように考えます。行政簡素化の大方針もあり、新しい省の設置は考えておりません。
 なお、現在の通産行政が、中小企業を守る立場よりも大企業の立場に立ちやすいという御批判は、私は当たっていないものと考えます。中小企業行政は、金融、税制等の総合的施策によってその充実がはかられるべきものであり、今後とも関係各省との連携を一そう緊密にとって、中小企業対策を重点的に推進してまいる所存であります。
 次に、予算の編成は、それぞれの置かれている現状と課題を考え、かつ税制、金融等の総合的施策を背景として、均衡のとれた予算配分を行なっているものであり、決して農業に比較して中小企業を冷遇しているということではありません。このことは誤解のないようにお願いしておきます。
 次に、大蔵大臣からお答えすればいいのですが、きょうは私がかわって、金融問題についてもお答えをいたします。
 金融問題についてでありますが、政府としては、金融調整措置の影響が中小企業にしわ寄せされることのないよう十分配慮しております。このことは、最近の中小企業の取引条件や、企業倒産件数等の推移からも容易にうかがえることと考えます。また、大企業が地方銀行から借り入れをふやしているため、中小企業が圧迫されているとの御懸念でありましたが、地方銀行の貸し出しの全体の動向を見ても、中小企業向け貸し出しの比率は低下しておりません。格別中小企業金融が、迫されているものとは私は考えておりませんが、今後とも十分注意し、御懸念のようなことにならないよう、適切な指導を行なっていく考えでござ     います。
 以上、お答えをいたします。(拍手)
  〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
#13
○国務大臣(宮澤喜一君) 中小企業の実態について詳しい御認識の上でのお尋ねというふうに承りました。
 それで、御質問の中心になっております部分について私どもの考え方を申し上げたいと思うのでございますけれども、それはつまり、この法律案では、これを親企業との関係でむしろ隷属化が強まるのではないか、それからまた、この法律案には強制力がない、また魅力にも乏しいというような点がお尋ねの中心になる部分だと思います。
 そこで、これは中小企業の中でも業種によって違いますことは私どもも認めますが、この節は中小企業がいわゆる親べったりでいくということについて、親のほうでも、むしろそうしてくれますと大量生産というものに限度が出てくる、また、親のほうに注文がありませんときには操業度が低くなるというようなことから、かえってそれですとコストが思うほど低減しないという認識が親のほうにもございますために、むしろ親べったりでなく、ある程度の技術なり設備なりを持って、それをもとにしてよそからも注文をとるということのほうが、結局親にとってもコストの引き下げになって有利だ、こういう関係が、ことに機械とか輸送機械などには生まれつつあるように私どもは見るわけでございます。そういたしますと、この法律案のような考え方で、当初は親との系列で近代化をはかっていかなければなりませんから、その段階では御指摘のようなことが、これは確かにあり得ると思いますけれども、その段階を過ぎていきますと、今度はほんとうに隷属的でない、自主性を持った強い中小企業を仕上げることができるのではないか、こういうふうに私どもは問題の根本を見ておるわけでございます。したがって、そうすることが中小企業にとってはもとよりでありますが、親にとってもかえって、何といいますか、べったりでなくなってくれることが有利であるという関係がございますから、両者の間に協力関係が生まれるのではないか。企業によって違うことは私どもも認めますが、機械、輸送機械などにはそういう関係が多いとこの節は考えておりますので、それがこの法案がねらっておりますところでございます。
 それからあと、十五億円、七・七%の問題でございますが、まあ今年は、この法律を幸いにして可決していただきましても、準備期間がかなりかかることでございますので、十五億円ということで、さしずめ支障を生ずることではないと思いますが、うまくいくようでございましたら、これはもう明年度からは需要に従ってふやしていかなければならない、積極的に考えていくべきだと思います。七・七%は、構造改善などに比べますと確かに少し高い金利でございますけれども、構造改善を企業ぐるみでやっているということに比べますと、一つの親を中心にという問題はこの場合には残りますので、この程度の金利がまあまあのところではないかというようなふうに考えております。
 それから、官公需につきましての法律の施行の点でございますが、私ども、受注そのものは年々増加しているというふうに聞いておりますけれども、手続の問題、関係各省の協力関係など、なお十分でないという御指摘でございました。十分注意をいたしまして、積極的にこの法律の趣旨に沿うようにいたしたいと存じます。
 それから、団体交渉の件につきましては、この法律の中の振興基準を定めますときに、親企業の協力についてはっきりした指針を示したい、こう考えておる次第でございます。(拍手)
#14
○議長(船田中君) 松尾信人君。
  〔松尾信人君登壇〕
#15
○松尾信人君 私は、公明党を代表してただいま政府より趣旨説明のありました下請中小企業振興法案について質問いたします。
 わが国の中小企業は、工業生産の拡大、商品の流通の円滑化、海外市場の開拓、雇用の増大等国民経済のあらゆる分野にわたり、その発展に寄与するとともに、国民生活の安定に大きく貢献してまいりました。わが国経済の特色は、中小企業の比重がきわめて高く常にわが国経済発展の中枢的役割りを果たしてきたことであります。この中小企業に対して、政府は、中小企業基本法を土台として、中小企業近代化促進法で構造改善、近代化を促進することとし、中小企業の資金面の配慮といたしまして、政府三機関を設け、助成措置を講じているところであります。また、下請企業につきましては、下請代金支払遅延等防止法で親企業の支払い条件を規制し、下請企業を保護育成しようとしております。
 しかし、これまでの中小企業政策は、目前の応急対策に追われ、長期的視野に立った一貫した政策とならず、後手後手となったところに、法は整えても実効があがらなかったのであります。たとえば、下請企業は親企業に対して立場が弱い、言いたいことも強く主張できない、それが積もり重なりましたので、下請代金支払遅延等防止法がようやくできたものの、後ほど申しますように、ほとんど実効はあがっておりません。親企業野放しの実情であります。
 ただいま御提案になりましたこの法案にいたしましても、時期的に見れば非常におくれております。親企業との従属性を解消し、親企業と下請企業との関係を正常化し、下請企業に実力をつげることが、親企業にとってもさらに力強い事業が営まれるので、早く正常化してもらいたいと数年前から叫ばれていたのであります。ようやくこの法案が提出されましたが、この法案も、あとで申し上げるとおり、予算の制約で動きがとれないのではないかと心配されるのであります。中小企業、下請企業に対する政府の施策は、大体このような経過をたどっておることを十分認識していただきたい。総理は、りっぱな法律ができたから、もうだいじょうぶだと思われるでありましょうが、法に期待したようには現実は動いていないのであります。
 したがって、政府は、中小企業発展五カ年計画といったようなものを策定し、前向きに中小企業、下請企業の実力向上に実効をあげるよう計画すべきではないか。新経済社会発展計画において中小企業対策をどのように取り上げようとしているのか、内外の経済環境の変化に対し、これからの下請企業がいかにあるべきか、長期的展望に立ってのビジョンについて、総理の御所見を承りたいと思うものでございます。
 第二点は、通産大臣にお尋ねいたします。それは、本法案によってどのような効果が期待できるかということについてであります。
 現在、下請企業に対しての法律は、下請代金支払遅延等防止法があります。この法律は、親事業者にいろいろ守るべき事項を規定し、下請企業を保護育成するもので、まことにりっぱな法律でありますが、その結果は、はたしてどうであったかといいますと、下請企業の弱さから、親企業に従属的であることと、他方、取り締まり官庁がはなはだ弱体である。すなわち、親事業者数は製造業だけで一万六千カ所、その事業所数は二万六千カ所に達しております。この事業所を実際にどれほど検査ができたかと見ますと、四十四年中に六千の親事業者に書類検査を行ない、その中から、不番なものに対して立ち入り検査をしたのが約七百件であります。これでは四年半に一回の書類検査となり、立ち入り検査は数十年に一回というありさまで、全く親企業野放しの実態であります。いかにりっぱな法も、裏づけの予算と人員の不足で全く効果があがっていない。本日提案されましたこの法案においても、何ら強制力はなく、すべて親企業の理解と協力がなければ実効はあがらないのであります。強力な行政指導とPRがなされなければなりません。また、親企業に都合のよい部分で親子ぐるみの提携が行なわれて、弱小下請企業はいつまでも取り残される懸念も多分にございます。親企業の御用組合のようなものがつくられるおそれもございます。この下請組合の結成につきまして、どのような指導が実際になされるのでありましょうか。さらに、親子ぐるみの提携は、親企業に下請企業が系列化されまして、いつまでも従属性を脱却することができなくなるのではないか。親企業と対等に話し合いができるようにレベルアップをねらった法案が、逆にいつまでも親企業のもとに固定化される結果が出るようなことは絶対にやめねばなりません。このように突き詰めてきますと、結局は親企業の理解と協力にまつことと、政府が意欲を燃やして、親子ぐるみの下請事業組合の結成をどのように達成しようとするかという、行政指導力に本法案の効果が左右されるものであります。この点についてお答えを願います。
 質問の第三点は、助成措置についてであります。
 この法律が効果をあげるよう、助成措置が講ぜられることとなっております。その内容は、下請中小企業振興貸し付け制度を創設し、下請企業の振興事業計画に基づく生産設備機械とかまたは福利厚生施設に融資するもので、まことに時宜にかなった措置であります。政府は、このため十五億円の予算をつけたのであります。はたしてこの十五億円で十分であるかどうか、ここが問題であります。政府は五業種を指定する見込みとのことであります。この五業種に限定しても、その親企業は二千五百カ所もあります。一親企業について平均三十の下請企業があります。五業種について下請企業は七万をこすのであります。この七万の下請企業の中から下請組合をつくり、事業計画をつくり、政府に承認を求める順序になるのでありますが、本法を積極的に活動させようと政府が前向きに行政指導をするならば、事業計画は次々と出てくるわけであります。他面、融資の面からいえば、一件当たりの貸し付け限度は八千万円となっております。平均借り入れ希望一件当たり五千万円と押えてみても、三十の下請企業に貸し付ければ十五億円のワクがすでに一ぱいとなってしまう。七万の下請企業に対し、実際はごく限られた下請企業のみしか利用できないという、まことに助成措置としては不十分きわまるものであります。もしこの資金で十分だと考えられるならば、下請代金支払遅延等防止法が強制力がないことと予算の裏づけがないために、親企業野放しの状態になっておるのと、全く同じコースをたどり、かけ声ばかりは中小企業の振興、下請企業の近代化等りっぱでありますが、実体の全く伴わないものであると断ぜざるを得ないのであります。また、ここに政府の大企業優先の姿が明らかにされていることを感じます。下請企業をりっぱに育て上げようというこの法案であります。また、下請企業がたよりとするのはこの法案でありましょう。政府は、積極的に下請組合の結成に取り組み、りっぱな成果をあげるとともに、予算的裏づけを十分にとって、中小企業者、下請事業者のたよりになる政府となり、大企業優先という世間の考えがそうではなかったと、わからせていただきたい、このことを強く大蔵大臣と通産大臣に訴える次第であります。
 なお、助成措置でのもう一つの点は、いまも話に触れられました貸し付け金利の点であります。これは七・七%、中小企業構造改善貸し付けは、いま通産大臣のお答えのとおり七%でございます。下請企業は国の施策として取り残されている分野であり、下請企業の向上がなければわが国経済発展に重大な影響を及ぼすものでありますので、この法律が適正に運用されるためにも、金利をこの中小企業構造改善貸し付けの限度以下に決定されること、これをまた強く重ねて要望いたすものでございます。
 質問の第四点は、下請企業振興協会を逐次各都道府県に設置し、強化、拡充する考えはないかどうかということであります。
 この協会は、現在、全国に十四カ所設置されており、今年度は北海道に設置する方針のようであります。下請企業は、各都道府県にたくさん存在しております。この下請企業に下請取引のあっせん、苦情または紛争についての相談、下請中小企業の振興のための調査及び情報の収集、提供を行なうのが振興協会であります。現在、共同化、近代化等多くの問題をかかえている下請企業に、親身になって専門的に指導し、あっせんする機関はこの振興協会であります。ゆえに、振興協会は、常に下請企業に接し、その体質改善につとめ、機会をつくって親子ぐるみの事業計画に参加できるよう導くことが、この法案の趣旨に沿うことでありましょう。製造業中、三十一万の下請業者があります。そのリーダーになってもらいたい。その意味で、全国十四カ所はまことに手薄といわざるを得ません。しかも、一協会当たり指導員三名、補助員三名、計六名の陣容では、申しわけに協会をつくっておると見られてもいたしかたのない次第で、ここにも、法律をつくり機構をつくっても実効のあがらない一つの大きな原因があると指摘されるのであります。法律をつくったからそれでいいというのではなく、つくった以上は前向きに取り組む決意を現実に示してもらいたいものであります。
 さらに、本法案によれば、近代化保険の対象に下請組合及びその構成員が実行する振興事業が加えられることになっております。事業資金の債務保証を行なう信用保証協会との連携も大いに密にして下請企業の向上をはかることも、振興協会の重大な役割りであります。
 以上の観点から、各県に一協会を設置すべきであると思うものであります。この点いかがでありましょうか、通産大臣にお尋ねいたします。
 最後に、指定業種について質問いたします。
 この法律では、特に下請中小企業の振興をはかることが必要な業種を政令で指定するとなっております。この指定がなされるかどうかは重大な関心事であります。したがって、政府としてはわが国の基幹産業について十分検討の上、業種の指定がなされるものと思います。指定がなければ、その業種の下請企業はいつまでも現状のまま取り残されていく。この観点から、日本の代表的産業ともいうべき造船業について指定される予定であるかどうか。かりに今回指定しないとすれば、いかなる理由によるものであるか。この点について運輸並びに通産大臣にお尋ねいたします。
 以上、五つの点についての私の質問を終了いたします。(拍手)
  〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕
#16
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) 松尾君に対して、下請企業の位置づけと振興策のビジョンについてお答えをいたします。
 下請企業は、製造業だけをとってみましても、御指摘になりましたように、約三十一万、企業数としてたいへん多数存在しており、国民経済的に見ましてもきわめて重要な役割りを果たしております。また、このような下請企業の役割りは、今後ますます高度化するわが国の経済のもとにおきましては、その重要さが増してくるのでございます。外注分野の拡大が予想されることになります。今後一そう重要になる、かように考えます。
 しかしながら、下請企業はややもすれば大企業に従属し、企業体質も脆弱な状態にとどまっており、最近の労働力不足の進行や国際環境から見ましても、その体質の改善は当面の課題となっております。下請企業振興の方向は、申すまでもないことですが、業種、業態によりまして差異はありますが、その基本は、何と申しましても、中小企業基本法に示されているように、自主性を有し、能力を最も有効に発揮できるような企業に育成することにあると考えます。
 政府としては、このような基本的方向に沿って下請企業の体質を強化することにより、従属的な下請関係を解消し、真に対等な企業による近代的な分業関係を形成するようにつとめてまいりたいと考えております。
 本日提案した法案は、この方向に大きく寄与するものとして私どもは確信しておりますので、何とぞよろしく御審議をいただきたいと存じます。
 また、御指摘のとおり、この法案は親事業者の理解と協力を基本としているものでありますが、下請企業の体質改善は親事業者のためにも必要なことであり、その協力は十分期待できるものと考えております。なお、政府といたしましても、この方向で万全を期していく考えでございます。
 その他の問題は、それぞれの所管大臣からお答えをいたします。(拍手)
  〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
#17
○国務大臣(宮澤喜一君) 下請代金の支払い遅延の防止に関する法律の施行状況でございますが、大体毎年一万五千件程度の調査を中小企業庁と公正取引委員会とでやっておりまして、その中で疑わしいと思われるものについて立ち入り検査をいたしております。毎年千件くらいの立ち入り検査でございます。その結果、中には公正取引委員会の勧告に及ぶものがございますが、多くは行政指導で改善をしております。
 何と申しましても、従来の下請の力関係が弱うございましたので、なかなか訴えて出てこないというようなこともございました。この節はだいぶその点も変わってきておるように思いますが、なおこの法律の実施につきましては、もっと注意をしてまいらなければいけないと思っております。
 それから、今回のこの法律案の親子の関係につきましては、先ほど石川議員も同じ点を御指摘になりましたので、石川議員にお答え申し上げましたところを御参照賜わりたいと存じます。
 それから、下請組合の結成について、どのようにやっていくのかというお尋ねでございましたが、これは、何よりも関係業界に、今度のこういう施策というものの周知徹底をはかることが当面の仕事だと思っておりますが、中に、実は親企業の中で、私どもが、こういう法律さえあればすぐに始められるがなと見当をつけておりますものも幾つかございますので、そういうものにつきましては、直接に呼びかけてみたいと思っております。
 それから、十五億円の点でございますが、これは本年度といたしましては、まず周知徹底、準備等で大部分時間を食われるかと思いますので、この金額が十分使い切れるまでにいきますか、まあこの程度はいくかと思いますが、これがうんと需要が起こるようになりましたら、非常に喜ばしいことでありまして、この種類の予算は効果がわりにはっきりあらわれますので、予算要求も非常にしゃすうございますから、これが非常に広い規模で行なわれるようになりましたら、この予算額を来年度増額いたしますことは、私は別に難事ではない、ぜひそうあってほしいし、そうしたいと思っておるわけでございます。
 七・七%につきましては、先ほど申し上げましたとおりで、具体的な私企業を中心の話であるには違いございませんので、構造改善とは少し率を異ならしめたということでございます。
 それから、振興協会を都道府県ごとにというお話でございましたが、いまの程度では少しまだ確かに足りないと思いますが、協会の仕事が都道府県の県界よりは少し広範になるかと思いますので、いまよりふやしていきたいとは思っておりますが、一県一つというところまでは考えておりません。しかし、もう少しふやしてまいりたいとは思っております。
 それから、指定業種でございますが、やはり機械等々が中心になると思っておりますが、御指摘の造船業は、やはり総合工業でありますし、下請の比重も非常に多うございます。したがって、これは適当な機会に指定をいたしたい、その方向で考えるべきだと思っております。(拍手)
  〔国務大臣井出一太郎君登壇〕
#18
○国務大臣(井出一太郎君) 松尾君にお答え申し上げます。
 ただいま造船業を指定業種にするかどうか、こういう御質問でございましたが、ただいまのところは通産大臣からお答えをした程度に考えておりまして、今後この重要性にかんがみまして、本法によっての施策を推進したい、こういう方向で検討を進めてまいりたいと考えております。
#19
○議長(船田中君) これにて質疑は終了いたしました。
     ――――◇―――――
 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法
  律案(内閣提出)の趣旨説明
#20
○議長(船田中君) 内閣提出、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。労働大臣野原正勝君。
  〔国務大臣野原正勝君登壇〕
#21
○国務大臣(野原正勝君) 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。
 労働者災害補償保険制度は、昭和四十年に年金による補償体系を確立するなど大幅な改善をはかり、労働災害をこうむった労働者及びその遺族に対して手厚い補償を行なってきたところであります。
 この間、わが国は、目ざましい経済成長を遂げ、その経済力も国際的に高く評価されるに至っておりますが、このような情勢を背景として、関係各方面から経済成長に相応した災害補償を求める声が強くなってきました。また、国際的には、業務災害に関する条約としてILO百二十一号条約が新たに採択され、災害補償についての国際水準の引き上げが行なわれております。
 労働者災害補償保険審議会におきましては、このような事情を考慮して、昭和四十三年来、小委員会を設けて労働者災害補償保険制度の改善について検討が行なわれておりましたが、昨年八月、同審議会において労使公益各側委員全会一致による制度の改善についての建議が行なわれました。
 政府といたしましては、この建議の趣旨を全面的に尊重し、その実現について鋭意検討を行なってまいり、その結果、建議中法律改正を要する部分について成案を得ましたので、その改正案について労働者災害補償保険審議会及び社会保障制度審議会に諮問をいたし、労働者災害補償保険審議会からは本年二月十七日に、社会保障制度審議会からは二月二十四日に、それぞれおおむね了承する旨の答申を得ました。その結果に基づいて、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案を作成し、ここに提案をいたした次第であります。
 次いで、この法律案の概要を御説明申し上げます。
 まず、労働者災害補償保険法の改正について御説明申し上げます。
 第一は、障害補償年金について、完全労働不能に相当する障害等級第三級の年金額を現行の給付基礎日額の百八十八日分から二百十九日分に引き上げるものとし、その引き上げ率一六・五%に相当する率だけ障害等級第一級から第七級までの年金額をそれぞれ引き上げることとしたことであります。
 第二は、遺族補償年金について、遺族三人の標準受給者に対する年金額を現行の給付基礎年額の百分の四十に相当する額から百分の五十に相当する額に引き上げることを骨子とし、他の遺族数の年金についても生活実態を考慮して、給付基礎年額の百分の三十から百分の六十に相当する額に定めることとしたことであります。
 なお、遺族が妻一人のときは、妻である地位と女子の今日の就業実態を考慮して、五十歳以上五十五歳未満の場合には給付基礎年額の百分の五に相当する額を加算し、五十五歳以上または一定の廃疾の状態にある場合には給付基礎年額の百分の十に相当する額を加算することといたしております。
 障害補償年金及び遺族補償年金を以上のように改正いたしますると、労働者災害補償保険の給付水準は、ILO百二十一号条約の水準に達することに相なります。
 第三は、遺族補償一時金について、最近における他の災害補償制度等を考慮して、その額を現行の給付基礎日額の四百日分から千日分に引き上げることといたしたことであります。
 第四は、年金支払いの迅速、効率化等をはかることとしたことであります。
 その一は、年金の種類が変更された場合における支払い事務の調整をはかったことであります。
 その二は、年金の受給権者が行くえ不明となった場合などに年金の支払いを一時保留し、その者が確実に年金を受けることができることとしたことであります。
 次に、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律の改正について御説明申し上げます。
 第一は、遺族補償年金の前払い一時金制度の存続についてであります。この制度は、昭和四十年の労働者災害補償保険法の改正により遺族補償が年金化された際、遺族の方々が直ちには年金制になじみにくい事情があることにかんがみ、昭和四十六年一月三十一日までの期限つきで設けられたものでありますが、現在においてもなおその事情が存続していると考えられまするので、引き続き五年間存続させることとしたことであります。
 第二は、現在受給開始時によってまちまちである印金の支払い期月を年四回の原則的な支払い期月に統一することとしたことであります。
 最後に、労働保険の保険料の徴収等に関する法律の改正について御説明申し上げます。
 この改正の内容は、百人以上の労働者を使用する事業に適用しております現行の継続事業の保険料のメリット制を、三十人以上の労働者を使用する事業であって労働省令で定めるものにまで拡大するとともに、三年以上の期間にわたって継続してメリット制の適用規模に該当する事業に限り適用することとしたことであります。
 以上のほか、この法律案においては、その附則において、以上の改正に伴う経過措置を定めております。
 なお、施行期日については、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行することとし、労働保険の保険料の徴収等に関する法律の改正規定は昭和四十八年十二月三十一日から施行することとしております。
 以上が労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)
     ――――◇―――――
 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法
  律案(内閣提出)の趣旨説明に対する質疑
#22
○議長(船田中君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。これを許します。藤田高敏君。
  〔藤田高敏君登壇〕
#23
○藤田高敏君 私は、日本社会党を代表して、ただいま趣旨説明のありました労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案について、以下若干の質問をいたします。
 ここ十年来、特に最近における労働災害多発の現状は、まさにベトナム戦争の犠牲者を上回るものがあります。この大型災害の続出とその災害の性格から判断して言えることは、政府や資本家は、どんなにきれいごとを並べ立てようとも、帰するところ資本の利潤追求のためには労働者が人間であるということを忘れてしまっているということであります。資本主義社会とはいえ、労働者は資本家に労働力を売っても、命までは売っていないのであります。したがって、労災問題の基本は、災害をいかにして未然に防止、絶滅するかにすべてを傾注すべきであります。それは、労災補償をいかに拡充しようとも、失われた労働者の手足、ましてや命は返ってこないからであります。この基本的立場に対する総理並びに労働大臣の見解と認識を、まずもって私はただしたいのであります。(拍手)
 この立場から、今国会における総理の施政方針演説を聞いてみましても、高度成長経済を謳歌する点がたくさんありました。しかし、この成長経済を実質的にささえてきた勤労国民に対する人命尊重や、労働災害防止についての内容を発見することができませんでした。きわめて遺憾であります。この人間軽視の態度が、そのまま政府の無策ともいうべき労働政策や社会保障政策となってあらわれていると考えます。
 まず、国際的比較の観点からわが国の労働災害を検討した場合、その災害件数はきわめて多く、その労働基準と労災補償の条件があまりにも低級、かつ劣悪そのものであるということであります。佐藤総理が常に口にされる国民総生産世界第二位の経済大国の姿としては、あまりにも貧弱ではないでしょうか。
 たとえば昭和二十二年制定を見た現行労働基準法は、一九一九年、いまから約五十年前のILO条約の基本条件にいまなお抵触する事項を数多く残したままであり、しかも現行法は、法律制定当時すでに十五件にも及ぶ条約違反の内容を持っている上に、その後ILOで新しく制定された労災補償に関する条約や社会保障関係条約や、さらには労働基準に関する条約についていまだに批准していないものは、驚くなかれ五十二件にも及んでいるのであります。今回の労災法改正に直接関係する社会保障関係条約など、いずれもこれらの条約は条約の基本的部分に関するものであり、その内容はきわめて多岐にわたっています。国際的には全く顔向けもできない、恥ずかしい限りであります。しかもILO条約の基準は、その加盟国であれば、後進国と目される国といえども消化できる国際的な最低基準でありますから、わが国がこれらの諸条約を全面的に批准できない理由はごうもないはずであります。できないのではなくて、今日の政府にやる意思がないからできないのではないでしょうか。(拍手)いまやわが国は、ILOにおいても、そのあとを追うのではなくて、むしろ牽引車的役割りを果たすべきであります。今回の法律改正の重要なよりどころとなっているこれらの諸条約が、なぜ今日まで批准されなかったのか。その理由を明らかにすると同時に、これらのすベての条約を近い将来に向けて全面的に批准すべきだと思いますが、その具体的なスケジュールを佐藤総理から明らかにしてもらいたいのであります。
 次に、私は、労災法改正に直接関係する具体的な労働施策についてただします。
 それは、労働省統計によっても明らかなとおり、昭和三十五年以来、労働災害による死亡者は毎年六千人以上を数え、休業八日以上の重傷災害は四十万人、一週間以内の傷害件数は優に百万人を突破しております。かかる遺憾な状態が毎年続いているにもかかわらず、労働災害を未然に防止、点検する基準監督官の配置予算はどうなっているのか。二百六十万事業所に対し、三千万人労働者について、監督すべき監督官がわずかに二千七百名であります。その監督実施率は、十年ないし十二年に一回の定期監督しかできない状態でありまして、これでは、政府は労働災害防止を口にすること自体ナンセンスと言われてもしかたがありますまい。
 かかる政府施策の立ちおくれが、せんだっての東京練馬の小田原製紙株式会社の労災となり、災害の発見が、基準監督署よりも警察のほうが先に知るというような、ぶざまな状態さえ起こっているのであります。また、先日私が衆議院社労委において緊急質問をいたしました、愛媛県西条市の松下寿電子株式会社のごときは、無届け建築違反の建築物の上に八百人もの労働者を集合させ、床が落ち、三百名にも及ぶ労働者が重軽傷を負うという悲惨な事態を引き起こしているのであります。労働災害は労災にあらずして、まさに人災であることを、これらの事例は事実をもって証明しております。
 これらの労働災害に対し、労働大臣あるいは建設大臣はどのような責任を感じているのか。また、将来に向けて、国家的な立場からする労災防止のために、いかなる施策を講じ、かつ講じていこうとしているのか、それぞれの大臣からその対策と見解を聞かしていただきたいのであります。
 次に、私は、今回の労災法改正案が提出されるまでの経緯と政府の責任についてただしたいのであります。
 それは、先ほども労働大臣が触れましたが、まずその第一は、過ぐる第四十八国会における衆参両院の附帯決議であります。その二つは、労働大臣の諮問機関である労働者災害補償保険審議会が昨年の五月とことしの二月に建議、答申した事項であります。その三つは、総理の諮問機関である社会保障制度審議会が本年の二月答申した事項についてであります。
 これら一連の国会決議や答申案で指摘されている最も肝心な条件ともいうべき、通勤途上災害の取り扱いを含む数項目の改善要綱のほとんどが、今回の改正案では全部除外されているのであります。今回の改正は、ILO百二十一号条約への形式的なごろ合わせともいうべきものになっているのは、どういうことなのか。これでは、国会及び諮問機関の意向を無視するもはなはだしいといわざるを得ないのであります。佐藤総理並びに労働大臣からその理由を明らかにしてもらいたいのであります。(拍手)
 特に、通勤途上の災害を業務上災害とすべきであるという主張は、先日の朝日新聞の社説に代表されるごとくいまや社会常識にさえなってきているにもかかわらず、今回の改正案には盛り込まれておりません。わが党は、ここにあらためて、次の理由により、通勤途上災害を業務上災害にすべきであるということを主張すると同時に、関係大臣の見解をただしたいのであります。
 その理由の第一は、先ほどから労働大臣も強調されておりますが、このILO百二十一号条約では、通勤途上における災害はこれを業務上災害から除外してはならないと規定しており、国際的にも、もはやこのことは社会常識となり、労働常識となっているということであります。
 二つ目には、西欧資本主義諸国のほとんどが、使用者負担の無過失賠償責任の労災保険制度の中にこの問題を包括しているということであります。
 三つ目の問題は、わが国における最近の交通戦争の実態、この異常とも言うべき矛盾とそのひずみは、高度成長の落としでありますから、その社会責任は日本全体の総資本の責任において解決すべきものであるということであります。(拍手)
 その四つ目の理由は、総評、中立、同盟などすべての労働団体は言うに及ばず、未組織及び家内労働者に至るまで、働く者のすべての統一要求であるということであります。
 最後の理由は、私鉄を中心に幾つかの個別企業においてさえ容認され、人事院規則においても、条件つきとはいえ、すでに認められていることなどからして、労働力の再生産を継続的に維持発展さすためには、「通勤なくして労働なし」でありまして、通勤時間は当然事業主の支配下に包括され、使用者はその無過失賠償責任をとるべきものであるというのが私どもの立場であります。
 政府は、過ぐる三月十二日、労働大臣の諮問機関として、これが調査会を発足させましたが、政府はそれらの意見を早急に取りまとめ、今次法律改正案に追加修正すべきであると考えますが、労働大臣の誠意ある見解を承りたいのであります。
 次に、政府は、今回の改正する法律程度で、この問題に対する社会的責任を果たすことができると考えているのだろうか。政府は、一体、一家の大黒柱が死亡や廃人同様になるほどの重大災害にあった遺族や、あるいは本人たちが、現在どの程度の補償の上に、どのような暮らしをしているか、その実態をほんとうに知っているのだろうか。
 昨四十四年十月の労働省婦人少年局の労働災害遺族の生活実態調査によると、その遺族年金の平均受給額はわずか二十万円以下であります。その平均基礎日額は千四百五十円、最低五百五十円という低額そのものでありまして、これでは今次法律改正の遺族補償年金の基準である妻・子供二人のところが四〇%から五〇%にアップされましても、その額が二十万円から、たかだか二十六万円程度になるのでありまして、これでは遺族補償年金としては全く実態に合いません。また、遺族補償の一時金についても、現行四百日分を労働基準法並みの一千日分に引き上げようとしておりますが、その補償額は、これまた現行平均実績六十万程度が百五十万程度にしかならないのであります。いまや、どうでしょうか、自賠法でさえ五百万円であり、八百万円改正への声が強く出ている段階であります。交通死亡災害の判例による補償額は、一千万円から三千万円といわれております。飛行機事故で死んでも七百万から八百万といわれているときに、人の命は金銭では絶対に、はかれないものであるとはいえ、その社会的な生産活動の第一線で働いている労働者の、その死亡災害補償金が、他の法律基準や世間相場の何分の一にも及ばないという、こんなばかげたことはありません。こんな法律をつくる人自体どうかしているといわざるを得ないのであります。(拍手)特に年金受給者の場合は、実際の受給年齢が六十歳からでありますので、自賠法五百万円の補償額に見合う受給年数は二十年にもなり、受給者の寿命がもたない計算になっておるのであります。まさに、はなはだしく実態に合わない見せかけの法律改正になっております。これを少なくとも自賠法程度の基準に引き上げるには、遺族補償年金の基準をヨーロッパの最高水準に引き上げ、一時金の最低補償を三百万円とする、一時金と年金との併用制を採用することが賢明だと思うのでありますが、労働大臣の見解はいかがでございましょうか。
 また、障害補償年金についても同じでありまして、法律改正案による現行五〇%を六〇%に改正しましょうとも、その平均月額はわずか二万四千円で、これでは生活保護基準の最も低い四級地、二万四千九百二十円よりも低額ではありませんか。この程度の年金で、労働能力を喪失してしまった労働者とその家族三人の生活補償が可能だと政府は……。
#24
○議長(船田中君) 藤田君、申し合わせの時間が過ぎましたから、なるべく簡単に願います。
#25
○藤田高敏君(続) まじめに考えているとすれば、たいへんなことであります。これを救済補償する方策は、前段指摘した遺族補償に大向的に準拠する一時金と年金の併用以外にないと思うのであるが、政府の見解を聞かせてもらいたい。
 このような劣悪にして低級な労災補償が今日に至るまで続いてきた大きな原因の一つは、給付基礎日額の算定のあり方に誤りがあります。それは、現行では労働基準法の平均賃金を採用していますが、この中には、労働者の賃金部分として大きな比重を占めている年間を通してのボーナスや、賃金に見合うものとして支給されておる現物給与ないしはそれに準ずるものが除外されています。今回の法改正を機会に、これまた実情に即した条件を含めて算定基礎日額をきめるべきだと考えますが、労働大臣の見解はどうでありましょうか。
 次に、スライド制についてであります。
 給付はすべて賃金水準の変動に応じてスライドするのが理論的にも実際的にも最も合理的であることは、議論の余地はありません。特に、最近のごとく、激しい物価変動に即応して賃金変動もこれまた著しい時代には、スライド制を最も効果的に採用すべきであります。五年前の法改正のときですら、答申案は、一〇%の変動があればその支給額を改正すべきだということになっていたにもかかわらず、依然として、現在二〇%の変動がなければスライドしないということは、非常に不合理であります。毎勤統計五%程度の変動によってスライドさすべきだと考えますが、その見解をただしたいのであります。
 以上指摘いたしました諸点を中心として改正を行ない、労災法全体の内容を充実さすと同時に、多年の懸案となっている適用範囲についても、四十七年四月を待つまでもなく、この際五人未満の事業所にも全面適用を行ない、企業規模の大小にかかわらず、すべての働く人たちにこの労災法を適用さすべきだと考えます。
#26
○議長(船田中君) 藤田君、藤田君、議運運営委員会で決定した時間ですから、結論を急いでください。
#27
○藤田高敏君(続) 国としては、ほとんど財政負担の伴わない制度改正でありますから、今次法改正を機に、全面適用に踏み切るべきでありますことを強く要求をいたしまして、私の質問を終わりたいと思うのであります。(拍手)
 〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕
#28
○内閣総理大臣(佐藤榮作君) 藤田君にお答えいたします。
 政府としては、かねてから労働災害の防止には意を用い、諸般の施策を進めてまいりましたが、災害の発生率は減少傾向にあるとはいえ、いまなお、労働災害によって死亡したりあるいは傷ついたりする人々が多いことは、まことに残念であります。
 政府としましては、労働災害防止基本計画を作成し、国の労働災害防止に関する基本的姿勢を明らかにするとともに、この線に沿って具体的対策を進めているところであります。
 施政方針演説において触れていないからといって、この問題をないがしろにしているわけでは毛頭ありません。誤解のないようにお願いいたします。今後におきましても、国による監督指導を一そう強化するとともに、企業の自主的な災害防止活動の促進をはかり、労働災害の防止に格段の努力を払ってまいります。
 次に、ILO条約に関連してのお尋ねでありますが、わが国としては、その国際協調のたてまえから、またILO常任理事国としての地位からしても、ILO条約を可能な限り多く批准することを基本方針としており、今後ともこの方針を堅持してまいる所存であります。
 しかしながら、ILO条約のうちには、その解釈が必ずしも明らかでないもの、あるいは趣旨は妥当であるが、内容の一部が、わが国の国内の実情に照らして、問題のあるものも見受けられるようでありますので、これらにつきましては、国内法制を整備するなどの手続を経た上、批准できるものから順次批准してまいる考えでございます。
 次に、藤細君から、今回の改正内容は、国会の決議や審議会の答申を無視しているとの御批判でありましたが、決してそのようなことはありません。
 労災保険制度については、第四十八回国会の附帯決議の趣旨を尊重し、その実現につとめているところであり、たとえば労災保険の全面適用につきましては、すでに前国会において法改正を行ない、予ての他行政措置として可能なものから逐次実施しているところであります。今回の労災保険法の改正案は、この附帯決議の趣旨をも十分考慮して提案したものであります。
 なお、社会保障制度審議会からは、今山の労災保険法の改正案について、おおむね了承する旨の御答申をいただいており、今後の問題として付された御意見は、ただいま検討を行なっているところであります。
 何とぞ御審議の上、御賛成あらんことをお願いいたします。(拍手)
  〔国務大臣野原正勝君登壇〕
#29
○国務大臣(野原正勝君) お答えいたします。
 先ほど総理から御答弁申し上げましたように、労働災害による人命の損傷は絶対に許されないものでございます。労働省としましては、行政の最重点策としてこの問題の解決に当たってまいりたいと思います。
 昭和四十三年度から第三次の五カ年計画である労働災害防止基本計画を策定いたしまして、これに基づく年次計画を立てまして、積極的な労働災害防止対策を進めているところであります。このねらいとするところは、災害原因の科学的究明、機械設備の本質的な安全化、職業性疾病対策の強化等でございます。これらの推進によって、労働災害の発生率は、だんだんと低下しておりますが、いまなお休業八日以上の負傷者が年間に約三十八万人にも達し、特に死亡者が毎年夫千人余り発生していることは、放置できない問題でございます。
 かような情勢からいたしまして、今後とも安全衛生関係法令の整備、監督指導の強化、災害防止に関する研究活動の充実をはかるとともに、企業における経営首脳者の自覚を高め、安全衛生管理体制の確立と積極的な安全衛生活動の促進等をさらに強め、労働災害の防止につとめてまいる所存でございます。
 さて、御指摘のように、労働基準法の適用事業場が非常に多いのでありますが、監督官が十分ではないのではないかという御指摘がございました。まさしく御指摘のとおりでございます。したがいまして、この労働基準監督官の増員の問題も努力しておるところでございますが、必ずしも満足ではない。さような点で、重点的に、監督指導方式の採用、機動力の増強、事務の能率化などを通じまして、行政効果を一そう高めるべく努力したところでございます。
 今後は、この努力を一そう強化いたしまして、災害防止協会の積極的な活動の展開、企業の自主的労働災害防止活動の促進などと相まって、労働災害の防止の効果を一そうに高めてまいる所存でございます。
 次は、ILO条約の問題でありまするが、わが国は現在までにすでに二十六の条約に批准しております。わが国が現在までに批准していない関係諸条約につきましては、条約の規定が必ずしも国内法規と一致していないもの、あるいはその解釈がいまだ明らかでないものなどがありまして、これらにつきましては、今後さらに積極的に検討を進めるとともに、国内体制の整備をはかりまして、できるだけ多くの条約の批准を実現したいと考えております。
 なお、労働災害補償関係につきましては、今国会に提出いたしております本法案が成立しますると、業務災害の場合における給与に関する第百二十一号条約の水準に到達するものと考えておるわけでございます。
 次は、給付内容の改善についてでありまするが、労災保険は使用者の無過失責任に基づく補償を担保とする制度でありまして、これに対して自賠保険は、主として民法上のいわゆる損害賠償責任を前提とするものでありまして、これをにわかに比較することは必ずしも当を得ていないのであります。今回提出しております労災保険法の改正案による年金額等を残存年数等によって考慮しますると、平均的に見れば、自賠保険を上回るものといえるわけであります。
 なお、生活保護制度につきましては、補償責任に基づく制度ではありませんので、賃金の喪失について補てんする労災保険の給付と比較はできないものと考えます。今回の改正案による給付内容につきまして、昭和四十二年に発効した新しいILO百二十一号条約の水準に達するものでありまして、当面、国際的に見ましても遜色のないものと考えておるのであります。
 なお、ついでながら申し上げますと、労災保険の遺族補償年金の平均給付総額は九百一万四千八円に相なるわけでありまして、自賠保険の死亡の場合の保険金額は五百万円でございますから、はるかにそれよりも多いということになるわけでございます。
 なお、今回の労災保険法の改正についてでありますが、労災保険審議会において、公益、労使、全委員全会一致をもちまして、この建議を全面的に尊重して行なうものであります。この建議については、給付基礎日額の問題について、労働基準法の平均賃金との関連もありまして、慎重に検討を行なうべき旨御指摘がありましたので、これについて、労働基準法研究会等において検討が行なわれておるのであります。
 スライド制の問題につきましては、わが国では、労災保険だけが持っている制度でありまして、現在の時点において現行制度をもって足りるものと考えております。
 労災保険を、すべての産業、すべての労働者に適用することは、長年の懸案でありますが、昨年末の第六十二臨時国会において、失業保険法及び労災保険法の一部を改正する法律が成立し、法律的には全面適用の道が開かれたのでありますが、しかしながら、そのためには、適用事業、適用労務者の著しい増大、事務処理上の困難などがありますので、これらの問題点を着実に解決をしながら、必要な調整を行なって、近い将来において全面適用を実施する考えであります。
 次に、今回の労災保険法の改正案は、昨年八月、労災保険審議会からの労災保険制度の改善についての建議、その作成した改善案と、同審議会及び社会保障制度審議会におはかりをして、同審議会からそれぞれおおむね了承する旨の答申を得ましたので、これらの答申に基づきまして、法律案を作成し、提案をした次第であります。
 第四十八回国会の附帯決議及び社会保障制度審議会の答申の附帯意見に言及しております通勤途上の災害の取り扱いにつきましては、昨年八月の労災保険審議会から建議の趣旨について、通勤途上災害調査会を設けまして、御検討をお願いしておるわけでございまして、その検討結果を待ちまして善処いたす考えでございます。
 以上をもちまして、お答えといたします。(拍手)
  〔国務大臣根本龍太郎君登壇〕
#30
○国務大臣(根本龍太郎君) お答えいたします。
 松下寿電子工業の事故は、これは無届け建築でございまして、本年の一月から二月にかけて行なわれたものであり、建築基準法に基づく御承知の建築主事の確認を得ていないものであります。したがって、この違反建築に関係したところの人々については、それぞれ行政処分をするのみならず、刑事処分についても適切なる告発の手続をいたしておる次第でございます。
 なお、今回政府が提出いたしておりまする建築基準法の改正にあたりまして、建築主事並びに監視員を増強することによって、このような無届け建築が行なわれないように配慮するつもりでございます。(拍手)
#31
○議長(船田中君) これにて質疑は終了いたしました。
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#32
○議長(船田中君) 本日は、これにて散会いたします。
   午後三時四十二分散会
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 出席国務大臣
        内閣総理大臣  佐藤 榮作君
        通商産業大臣  宮澤 喜一君
        運輸大臣臨時代
        理
        郵 政 大 臣 井出一太郎君
        労 働 大 臣 野原 正勝君
        建 設 大 臣 根本龍太郎君
 出席政府委員
        中小企業庁長官 吉光  久君
        運輸省船舶局長 佐藤美津夫君
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ソース: 国立国会図書館
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