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1949/05/13 第5回国会 参議院 参議院会議録情報 第005回国会 法務・農林連合委員会 第1号
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1949/05/13 第5回国会 参議院

参議院会議録情報 第005回国会 法務・農林連合委員会 第1号

#1
第005回国会 法務・農林連合委員会 第1号
昭和二十四年五月十三日(金曜日)
   午後三時四十五分開会
  ――――――――――――――
 委員氏名
  法務委員
   委員長     伊藤  修君
   理事      鬼丸 義齊君
   理事      岡部  常君
   理事      宮城タマヨ君
           大野 幸一君
           齋  武雄君
          大野木秀次郎君
           鈴木 安孝君
           遠山 丙市君
           岩木 哲夫君
           深川タマヱ君
           來馬 琢道君
           松井 道夫君
           松村眞一郎君
           星野 芳樹君
  農林委員
   委員長     楠見 義男君
   理事      羽生 三七君
   理事      平沼彌太郎君
   理事      石川 準吉君
   理事      藤野 繁雄君
           大畠農夫雄君
           門田 定藏君
           北村 一男君
           柴田 政次君
           高橋  啓君
           星   一君
           赤澤 與仁君
           加賀  操君
           徳川 宗敬君
           山崎  恒君
           板野 勝次君
           池田 恒雄君
           國井 淳一君
           岡村文四郎君
           濱田 寅藏君
  ―――――――――――――
  本日の会議に付した事件
○農業資産相続特例法案(内閣送付)
  ―――――――――――――
   〔伊藤修君委員長席に着く〕
#2
○委員長(伊藤修君) 只今から法務及び農林の連合委員会を開きます。農業資産相続特例法案を議題に供します。先ず本案についての提案理由の説明を願います。
#3
○政府委員(池田宇右衞門君) 農業資産相続特例法案につきまして、その提案理由を御説明申し上げたいと思います。
 申すまでもなく、我國の農業は、その経営規模が極めて零細でありまして、農業生産力の発展を図る上において大いなる難点をなしてゐることは御承知の通りであります。從つて経営規模が現状以上に更に零細化を示すことに対しては可能な限り必要な対策を講じますことは極めて大切であります。
 この事柄に関連して一昨年新憲法の施行に伴い、民法が改正せられて家督相続が廃止され均分相続が行われることになりましたが、このことは、これをそのまま農地その他の農業資産の相続に適用することとなりますと、そうでなくても過少な農家の農地等は、更に細分化されるおそれがあることは、明らかであります。從いまして新しい憲法の精神と民法の制度に即應しつつ相続に起因する農業資産の細分化を防止して農業経営の安定を図るべき適当な措置を講ずることが必要であります。
 この法律は以上の観点から農業者の相続に関し均分相続の原則と農業経営の安定の要請との調整をはかるため民法の特例を定めんとするのでありまして、本法案の主要な内容は概畧次の如くであります。
一、農地その他の農業資産は、原則として農業を営む見込のある者一人に相続させることに致したのであります。而して農業資産相続人の決定につきまましては、先ず第一に被相続人の指定した者があるときはその者、被指定者がなければ共同相続人間の話合いによつて選定された者が相続人になることとし、又この話合がまとまらない場合は共同相続人の申出によつて家庭裁判所で決定する。ことになるのであります。
二、次に均分相続の原則との関係につきましては農業資産相続人一人に農業資産が帰属することになりまして、他の共同相続人が不当に利益を害されることのないように、民法による相続分に應じて他の共同相続人は一定額の求償権を有することといたしました。就もその求償権については農業経営の安定を害しないやうにしなければなりませんので、その求償に関して若し当事者で円満な話合がつかない場合におきましては、返還の金額、時期、方法等を家庭裁判所で諸般の事情を考慮に上これを定めるようにいたしております。
 以上が法案の主要な内容でありますが、何とぞ愼重御審議の上速かに御可決あらんことを御願致します。
#4
○委員長(伊藤修君) 次に本案の逐條の説明を願います。
#5
○政府委員(村上朝一君) 農業資産相続特例法案について逐條的に御説明申上げます。
 第一條は、本法の目的を掲げたものであります。農地の細分化を防止し、最小限度の農業経営規模を維持することは、農業政策上の要請でありますが、これを徹底しようといたしますれば、財産処分の自由及び相続における平等の原則に制限を加え、諸外國において行われるような、いわゆる家産制度を採用する必要があるのであります。併し家産制度を採用することは、新憲法の精神であります平等相続の原則に反し、家の制度を廃止した民法の精神にも背馳する虞れがありますので、本法案はいわゆる家産制度を採用せんとするものではなく、憲法及び民法の精神に反しない範囲において、遺産分割による細分化を防止することによつて、農業政策上の要請をできるだけ満たそうとするものであります。遺産分割による細分化の防止は民法の規定を活用することによつて或る程度その目的を達し得るのであります。特に遺産分割に関する民法第九百六條等の規定は、これを活用することによつて農地その他或る企業に属する財産の現物分割による細分化を防止することを可能ならしめるものと考えられるのでありますが、農業資産につきましては、他の種類の企業に属する財産と異なり現物による分割が比較的容易に行われ易く、民法の規定だけでは不十分でありますので、特に分割方法を制限する必要があるのであります。尤もこの法案は、前に申しましたように憲法の精神に從い、被相続人又は共同相続人の自発的意思を尊重し、國家権力による干渉は、極力これを避けるとともに一子相続制のような極端な例外を設けることなく、共同相続人間の平等を維持することに努めたのであります。改正民法実施後における実情を見ますと、一部農村におきましては、相続の放棄が激増したと傳えられており、これは他の相続人が相続を放棄することによつて一子相続の実効を挙げ、これによつて農地の細分化を防止せんとする現象であるとも傳えられておりますが、農村における個人主義思想、個人の権利の自覚が高まるにつれて、かような方法により細分化が防止されることは、ますます困難となることが予想されるのでありまして、本法案のような特例を設けて遺産分割による細分化防止の途を開いて置く必要があるのであります。次に第二條であります。これは農業資産という言葉の定義、及びその定義の中に現われております農業という言葉の定義を掲げたものであります。最小限度を二反歩として、農地のみに限らず、農地について耕作の業務を営む者の資産を一体として細分化防止の対象に掲げております。尚、末項におきまして耕作の業務を行う者、営む者の行う養畜及び養蚕の業務に供せられた資産をこれに加えることにいたしております。次は第三條であります。これは農業資産相続人の指定及びその取消に関する規定であります。この法案の第十條によりまして、相続財産のうち、農業資産に当るものは推定相続人の中の一人に帰属するわけでありますが、その一人をこの法律案におきましては、「農業資産相続人」と呼ぶことにいたしました。農業資産相続人を誰にするかということを、先ず被相続人資産を尊重いたしまして、又その指定に待つことといたしたのであります。その農業資産相続人の指定という行爲は極めて重要な法律行爲でありまして、而も実質においては、遺贈に類するような内容を持つているのでありますから、遺言のような嚴格な方式によることが望ましいのでありますが、遺言の方式を重視するということは一般の農民にとつては困難であろうと考えられますので、遺言の方式によることを必要としなかつたのであります。併しながら後日の紛爭を避けるために、第三項におきまして、指定及びその取消は署名及び日附を付した書面による要式行爲といたしたのであります。次に第四條でありますが、これは農業資産相続人の地位の放棄の規定であります。指定は專ら被相続人の意思によつて行われまして、指定せられるものの意思を問わないのでありますが、指定された者が農業を営む意思がないこともあり得るわけであります。又農業資産相続人となりますと、債務の承継その他の点で重大な責任を負うことになりますので、この放棄をすることを認めたのであります。この農業資産相続人たるの地位の放棄も又極めて重要な行爲であるのでありますけれども、相続の放棄のような裁判所に対する陳述という嚴格な方式をとらなかつたことも、やはり農村の実情に即するように成るべき簡易な方式をとることが適当と認められたからであります。併しながらこれ又確実な証拠を残して置くことが必要でありますので、他の共同相続人に対する書面による意思表示を以つて放棄することができるというようにいたしました。他の共同相続人に対する意思表示と申しますのは、他の共同相続人の全員に対するものであることを必要としない。一人に対する意思表示というつもりであります。次に第五條であります。被相続人が一旦農業資産相続人を指定した後に、自己の意思によつて取消すことは第三條第二項にありますし、指定された者が、自己の意思によつて放棄することは前條によつてできるようになりますけれども、両者とも取消の意思又は放棄の意思のない場合でも、指定された者が農業を営む見込がないことが明らかである場合に、かかる者に、他の共同相続人を排して農業資産を承継させることは本法の趣旨に副わないのでありますから、家庭裁判所の審判によつて、指定を取消すということを認めたのであります。尤もこれは家庭裁裁所が職権によつて取消すのではなく、他の共同相続人の全員又は一人から申請、請求すれば取消すということになつております。
 次に第六條は、選定の規定であります。指定相続人が、指定された農業資産相続人が初めからない場合、それから後に指定が取消された場合には、共同相続人全員の協議による選定を認めました。これは勿論相続を放棄した相続人は、協議に預からないのでありますが、その他の相続人全員の協議が纒まつた場合に、農業資産相続人を選定することができるという趣旨であります。次は第七條でありますが、第六條による協議ができない場合に、共同相続人の全部又は一部の者が、家庭裁判所に請求いたしますと、家庭裁判所で選定するという途を開いたのであります。併しながら請求があれば、常に農業資産相続人を選定しなければならないということは適当でありませんので、若し農業を営む見込のある者がない、その他選定が適当でない場合には選定をしないという審判をすることにいたしたのであります。
 次は第八條でありますが、これは農業資産相続人の地位の放棄、指定の取消及び選定が、相続開始のときに遡つて効力を生ずるということにいたしましたのは、この放棄なり、取消、選定の行爲は、相続開始後相当の時日を経て行われてる場合でも、相続の開始と相続財産の承継との間に時間的の間隔をなくする必要がありますので、こういう規定を設けたのであります。これは民法の相続の放棄等に関する規定と同様の趣旨であります。次に第九條でありますが、農業資産相続人は、遺産の分割によつて農業資産を全部承継するわけでありますが、積極財産たる農業資産ばかりでなく、これと同じ割合で消極財産即ち債務をも承継させることが至当であります。故に積極財産の総額のうち、農業資産の占める割合を以て特別相続分とし、この特別の相続分を農業資産相続人に與え、これを除いた割合について民法による相続分を算定することとしたのであります。從つて農業資産相続人は、特別相続分と、これを除いた割合につき民法によつて算定した相続分との合せた相続分を持つことになるのであります。これは農業資産相続人に必要以上に保護を與えて、平等の原則に反するのではないかという疑いもあるかと思いますが、農業を経営いたしますのに、第二條に書いてあります農業資産だけを承継したのでは農業を営んで行く資金がなくなる。若干の運転資金と申しますか、余裕を持たせるために、他の財産についても、丁度共同相続人と同様の相続分を與える必要があるという農業政策上の立場から、こういう規定になつておるのであります。若しもかような農業政策上の考慮が必要でないといたしますならば、農業資産相続人の有すべき相続分は、農業資産の占める割合の限度に止めるということも適当かと考えます。尤も農業資産相続人が特別に大きな利益を受けることは平等の原則に反しますので、農業資産を承継したことによつて受けた利益は、それぞれ他の共同相続人に相続分の割合に應じて分配することに第十二條において定めております。次は第十條でありますが、これは農業資産を含む相続財産というものは、すべて一應共同相続人全員の共有となるわけであります。民法の原則によりまして、共同相続人の共有となるのでありますが、その後分割によつて農業資産は農業資産相続人に專ら帰属するという趣旨を明らかに規定したのであります。
 次は第十一條でありますが、農業資産相続人の相続分を、第九條によりまして相続財産の價額のうち、農業資産の價額の占める割合という特別相続分、それからそれを除いた割合におけるすべての相続人の相続分というものを定めるということになつておりますために、共同相続人の中の誰が何%の相続分を持つておるかということが、外部からは容易に判明しないのであります。民法の相続の場合ですと、特別の生前贈與遺贈等があつた場合等は別といたしまして、その他の場合は配偶者が一人ある場合はどう、配偶者と子とある場合には誰が何分の一、それから親がある場合には何分の一と、それぞれ條文によつて明らかになつておりまするので、相続分の計算を特にしなければならないということがないのでありますが、この農業資産相続人がある場合の共同相続人の相続分というものは計算して見なければ判明しないのであります。これは相続財産の中に、いわゆる可分債務がある場合に、通説、判例によりますと、可のの債務は相続分の割合において相続と同時に当然分割されてしまう。例えば或る人に対する一万円の債務が相続財産の中にあつたとします。相続人が二人おりまして、それぞれ二分の一の相続分を持つておりますと、五千円ずつの債務を負担することになるのであります。そこで債権者といたしましては、どの相続人に対して幾ら請求できるのか、この相続分の計算をしない限り分らないという極めて債権者に不利益な状態になりますので、この相続人の内部の事情のために債権者にそういう不利益を與えることは立法政策上妥当でないと考えまして、その場合には可分債務の全額について、すべての共同相続人が連帶して弁済の責に任ずる。併しながらその負担部分は第九條によつて定まる。その相続分に比例して定める。ということにいたしたのであります。次は第十二條でありますが、これは先程第九條について申しましたように、農業資産相続人は、農業資産の全部を一人で承継ずるのでありますから、他の共同相続人の承継すべき財産は極めて少くなる場合が多かろうと考えられるのであります。そこで農業資産相続人となつた、言換えれば特別相続分を與えられたことによつて受ける利益の額は、民法による自己の相続分に應じて算定した額の範囲内で、他の共同相続人に分配させることが適当であるという趣旨で、この規定が書かれているのであります。この特別相続分によつて受ける利益と申しますのは、特別相続分を與えられたことによつて必ず常に利益を受けるとは限らないのでありまして、相続分と申しますのは、相続財産に属する積極財産及び消極財産のいずれをも承継する割合でありますから、若し債務の方が多ければ、却つて特別相続分を貰うことによつて不利益を受けるのでありまして、平たく申せば、これは特別相続分に相当する積極財産から、それに相当する債務の額を引いた残りということになると考えます。でその分配の額及び方法でありますが、これを即時に全額支拂うということになりますと、農業資産相続人は更にその農業資産を担保として金でも借りて來て拂うというようなことでもしない限り支拂うことは困難であろうと考えられます。延いては折角この規定によつて保護しようとした農業者の地位が崩潰する虞れもありますので、その支拂の時期及び方法は先ず共同相続人の協議によつて決められる、協議が整わない、又は協議をすることができないときには家庭裁判所が決めることといたしたのであります。この分配すべき額も家庭裁判所が決めることにしてありまするが、これはあらゆる相続財産を逐一評價して正確な計算をするということは甚だ手数もかかりますし、そのための費用も相当嵩むことと思われますので、分配すべき額を協議によつて先ず決めさせ、協議が整わない場合には家庭裁判所がこれを決定するということにいたしたのであります。第三項は、分配すべき額及び支拂の時期、方法を定めるについての考慮すべき諸般の事情を列挙したわけであります。この決め方が不適当でありますと、農業資産相続人の農業経営の安定を害する虞れがあります。そういうことのないようにという注意規定であります。それから末項は、これは相続税の関係或いは遺留分の侵害の有無を判断する場合等におきまして、相続人が相続によつた取得した権利義務であるかどうかということが問題になり得るのであります。一應この十二條の規定による利益の分配というものは相続財産そのものではありませんので、「相続によつて承継した被相続人の権利義務とみなす」という規定を置いて、その疑義を明らかにいたしたのであります。第十三條は、これは相続財産のうちに農業資産に属するかどうか明らかでない財産がある場合に、家庭裁判所が共同相続人の請求によつて世話を燒くという意味において入れた規定であります。第十四條は、遺留分減殺に対する特例でありますが、農業資産相続人が被相続人から農業資産を生前贈與又は遺贈を受けておりますというと、民法の規定によつてその贈與又は遺贈が他の共同相続人の遺留分を害しておりますと、減殺請求を受けることになります。民法の本則から申しますと、現物を返還しなければならない場合が出て來るのでありますが、本法の精神から申しまして、そういう場合には價額を返還すればよいという特例を設けることにいたしたのであります。第十五條は、農業資産を評價するについての準則を示した規定であります。
 第十六條は、これは家事審判法との関係におきまして調停前置主義を取る場合と、そうでない場合とに事件の種類によつて分れておりますが、ここにあります家庭裁判所に持ち出される事件は、いずれも調停に付するのが適当なる事件でありますので、調停前置主義を採ることを入れた次第であります。第十七條は、家庭裁判所と市町村農地委員会との連絡に関する規定であります。家庭裁判所の審判が農村の実情と遊離することのないようにという配慮であります。第十八條は、相続財産につきまして破産の宣告があつたり、或いは限定承認、財産分離等がありますと、相続財産が清算されることになります。そういう場合には、この法律を適用する余地がありませんので、この法律は相続財産について清算の行われる場合には適用しないということにいたしたのであります。第十九條は、これは相続税法の適用上、本法による利益分配請求権、その他の財産の評價の時期を明らかにした規定であります。
 以上を以ちまして簡單でございますが、逐條説明を終ります。
#6
○委員長(伊藤修君) 本法に対するところの質疑に入ります。
#7
○松村眞一郎君 先ずお尋ねいたしますが、理由を見まするというと、「農業の相続に関し民法の均分相続の原則と農業経営の安定の要請との請整をはかる」ということがありますが、どの規定が調整になつているかということをお聞きしたい。どの規定が均分相続の調整になるか、私はこれは十二條だと思いますが、如何でございますか。
#8
○政府委員(村上朝一君) 農業経営の安定法としてこの法律はできておりますので、その結果、均分相続の原則を侵すことになる虞れがあるのであります。ですから御指摘の通り第十二條において特別に利益を受けることのないように配慮いたしているわけであります。
#9
○松村眞一郎君 そこでこの第九條は、民法の均分相続に反するということを認めております。何故かというと、この農業資産というものは、ともかくも特別相続分として横へ分れてしまうのでありますから、これは均分相続を無視していることは確かであります。この第九條をそのまま置いたのでは均分相続に反するということはお認めになると思いますが、それは如何ですか。
#10
○政府委員(村上朝一君) 第九條だけを置いたのでは均分相続にならないと考えます。併し他の規定と併せて均分相続の趣旨を尊重いたした次第であります。
#11
○松村眞一郎君 他の規定というのは第十二條でしよう。法律論としては第九條と第十二條の外はないのですから、十二條はそれでよろしいが、他にお聞きしたいところは、九條それ自身が、十二條がなかつたならば均分相続を破つているのじやないか、それを伺つているのです。
#12
○政府委員(村上朝一君) 十二條がなかつたならば、勿論九條だけでは均分相続にはならないと思います。
#13
○松村眞一郎君 そこで私は第九條が均分相続を尊重するという規定にならなければならないと思います。何故かと申しますと、特別相続分を認めるということは均分を破つているのですから、これはお認めになつたのですから、そこで私は便宜のために私の修正意見というのをこの際配付して頂きたいと思います。政府委員の方にも配付して頂きたいと思います。配付してありますか。
#14
○委員長(伊藤修君) 配付してあります。
#15
○松村眞一郎君 私の第九條は、九條それ自身が民法の均分相続を認めているという規定でありますから、この原案では、九條それ自身が民法の均分相続を否認している。これは民法の均分相続、九條それ自身において尊重して行こうという点であるということをよく御覽願いたい。でありますから、この原案の第九條ではいけない。私のようにしなければ憲法違反である、九條だけ見たならば……。均分相続というのは非常に重大な規定であつて、各人は法の下に平等にしなければならない。経済的関係においても然り、身分においても然りということは、憲法の第十四條に書かれてある。これは非常に大事なものであつて、財産関係が民主主義政治の根幹をなす。だからどうしてもできるだけ均分相続を尊重した規定というものを、できるだけ例外を少くしなければならないと思いますが、それはどうですか。例外を少くしなければならないということの用意が必要だろうということはお認めになると思います。それだから第九條において民法を尊重してかからなければならんと思う。私の案は御覧願いたい。私の案は第九條はこういうようになるわけです。これを読みます前に私の案は皆さんのお手許にありましようか。
#16
○委員長(伊藤修君) あります。
#17
○松村眞一郎君 そこでむしろ表を見て頂くのが一番明瞭です。一番終いに表があります。表に第一例と書いてあります。この第一例と申しますのは、農林省から皆さんのお手許に配付されております農業資産相続特例法案、こういうものが皆さんに配付されておると思います。その一番初めに表が付いておつて、農業資産相続特例法による計算例というものがあります。計算例の第一例をそのままここに私は收用して、この原案と私の案との差を御覧願いたいと思つて入れたのであります。第一例を申しますと、それはそこにありますごとく、子供が四人あつて遺産が四十万円ある、農業資産が二十八万円ある、こういう場合にどういうことになるかというと、原案によりますというと、二十八万円の農業資産全部をその特別相続分とする。だからそれだけは均分相続から除いてしまうということはお認めになりますか、どうですか。ここで一つずつ片付けて行きたいと思います。
#18
○政府委員(村上朝一君) 御意見の通りだと思つております。
#19
○松村眞一郎君 そうでありますから、第九條の第一項がすでに民法の規定を除外しておるということがいけないと言うのです、私の議論は……。そこで特別相続分は原案によりますというと二十八万円になる。私の修正案は修正意見と申しますか、まだ修正案を出す域になつておりませんから修正意見によりますと、こういうことになる。農業資産の金額中民法の相続分を超える金額というものは特別相続分にしようというのです。そこで原案によりますと、一体各相続人が自分の相続分が幾らであるかということが分らない、こういうやり方をするというと……。なぜかというと、四十万円の中から二十八万円先に引いてしまいますから、自分の相続分は幾らであるかということは分らない。私の案は極めて明瞭であつて、直ちに遺産に対して民法の均分相続の規定を適用してしまう。それでどういう結果になるかというと、各子供達の相続分は十万円であるということは明確になる。原案ではそんなことは明確にならない。どこに言つておるか分らない、それではいかん。民法の均分の相続を無視しておる。私のは尊重して入れてありますから、私の原案の方が憲法に適しておるということはこれは明瞭です。そこで修正案によりますと、こういうことになる。農業資金の金額中の民法相続分を超える金額は、それは特別相続分にしよう、だから二十八万というものは農業資産でありますから、その中から四十万のうちの四分の一が皆の相続分でありますから、その四分の一を引く。そうすると十八万だけが、どうしても均分相続の金額では賄いが付かん十八万円というものが出て來る。その十八万円を特別相続分としようというのが私の案です。非常に明瞭なのであつて、その十八万円だけを農業資産相続人に余計に取つたということははつきり分る。そこであとの人間は、あとの兄弟三人は十万円というものを目標にして、十八万円は我々の中から吐出しておるんだということがちやんとはつきり分る。それを今度は第十二條の規定によつて請求があつたらお返しする。借りる方も貸す方も非常に明瞭である。相続分は各自十万円であるということが非常に明瞭なのですね。十八万円がこの特別相続分である。だから自分達は十万円貰える筈であつた。ところが二十八万円を差引いたところの十二万円を三人で分けたことになつたということは、はつきり分る。そこでその次に農業資産相続人の相続分價額というものをここに書いておる。どのくらい相続するのか、原案によりますと、農業資産の全額は相続分になります。これは特別相続分であります。その外に遺産から農業資産を差引いた價額の四分の一というものの相続分があります。これは農林省の出された原案の通り書いたのですが、二十八万円は初めから貰つて置くわけです。これは特別相続分です。それから四十万円の中から二十八万円を引いたものが十二万円になります。この十二万円を四人で分け取りするのである。農業資産相続人が幾ら貰うかというと、私の案は二十八万円貰う。農業資産が二十八万円だから、それだけ貰えばそれでよいのではないかということが私の意見。私の問わんとするところは、何故原案のごとく三十一万円にしなければならないのか。農業資産相続人は相続税を出さなければならん。運転資金を持たなければならん。それはそういうことは言えます。併しながらそんなことのために相続分を多くすることは適当ではない。それは相続人が無一物であると考えることはいけない。相続人も或る程度の金を持つていることも考えなければならない。農業資産を保護すればよいのであるから、農業資産全部だけを相続させて相続税等は別に考えることにすべきである。農業資産を担保に供して金を借りることも一方法であろう。農業資産を保護するのが主眼であつて、農業資産二十八万円以上に相続分を三十一万円とする理由はない。差引の三万円というのは何のために三万円としなければならないのか。三万円とする積極的な理由はどこにあるか。農業資産の外に何らかの金があつた方がよろしい。併しそれは三十一万円でなければならんという理論にはならない。根拠にはならない。これは即ち農業資産相続特例法を適用して、民法の均分相続の規定の例外を設けるならば、例外はできるだけ制限をし、明確なる根拠がなければならん。残りの十二万円を均分したから三万円となるのであつて、三万円でなければならんという理由はない。その次に、他の相続人全員が農業資産相続人に対する請求権がどのくらいになるか。原案によりますと、三十一万円というものをとつております。それから三十一万円の中から四十万円の四分の一の十万円、十万円というのは農業資産の相続人の自分の民法上の取り分でありますから、ここで民法を適用することになります。そうして十万を差引いた二十一万というものを余計取ることになる。そうして二十一万の計算を出して二十一万を三分する。これが他の共同相続人の請求権の範囲としておるのである。然るにこの二十一万という数字には何も根拠がない。私の案によると簡單明瞭なのであります。特別相続分の十八万というものを初めから終りまで見ておる。十八万だけが請求権の金額である。原案は民法の均分相続の原則を特別相続分ということで初めから無視してかかる立法態度であつて、甚だよくないと思う。修正案は簡單明瞭であります。民法上の均分相続金額と農業資産價額との差額、この例では十八万円だけ見ておればよろしい。十八万円だけ余計なものを貰つた。他の共同相続人は十八万円余計なものを出した。簡單明瞭である。初めに四十万というものを十万ずつ分けておるから、相続分は非常に明瞭であります。更にこの原案の間違つておるということは第二例で御覧になつて分ります。第一例は遺産価額四十万円、相続人は兄弟四人、農業資産二十八万円でありますが、第二例は遺産價額四十万円、相続人は兄弟二人、農業資産二十万円の場合であります。そうすると遺産が四十万円であるから、相続人たる兄弟二人の均分相続分價額が二十万円である。農業資産が二十万円である。原案では特別相続分として農業資産價額二十万円というものが先ず出て來る。この全額を特別相続分として農業資産相続人のために除外する。これは即ち均分相続を無視したことになる。私の案は民法による均分相続分價額が農業資産價額と同じときは、民法の均分相続の規定だけが適用せられるのであるから、第九條において民法の均分相続の規定を私の案では尊重しておる。即ち遺産相続價額と農業資産價額と比べて見て、双方ひとしい場合、特別相続分なるものは認めない。然るに原案では、農業資産價額二十万円というものを、殊更第九條の中に特別相続分として、先ず相続分から除外する。これを特別相続分として法律にお書きになるのであるけれども、私の案は、この例の場合には特別相続分ということはないのであるから、即ち民法の均分相続の規定が九條において適用されておることになるのである。次に、遺産相続分價額はどのくらいになるかということを見ると、原案によると、二十万円というものは農業資産として自分が取つてしまう。これは民法の例外として取つてしまう。その上に残りの二十万円の二分の一を取る。だから農業資産相続人は三十万円取る。なぜ三十万円にすることが必要なのか。農業資産二十万円は必要でしようが、三十万円の十万円というものはなぜ必要であるか。第一例では農業資産價額が二十八万円であつて、相続する金額が三十一万円であつて、超過額は三万円である。第二例では農業資産價額が二十万円であつて、第一例よりも少くなつておるのである。然るに三十万円が相続さる金額であつて、十万円余計に取つて、却つて農業資産が少いのに余計に取る、金額が多いのである。農業資産保護上から考えて理由のないことである。前の二十八万円のときには三万円お釣りになつて、二十万円のときに十万円がお釣りになるのはおかしい。ただ残額を均分したから、かくのごとき金額になるというだけのことである。理論上の根拠はない。私の案は極めて明瞭なのである。相続分の二十万円の價額の農業資産を取るのです。結局民法上の均分相続分と同じになります。だからちつとも特例の規定を適用する必要はない。簡單明瞭であります。
 その次に、他の共同相続人全員が農業資産相続人に対して請求権がどのくらいあるかというと、第十二條の規定を適用して、原案によると農業資産相続人が余計に取つた十万円というものを取り返さなければならん。私の案では余計に取つていないから取り返す必要はない。そのように簡單明瞭である。如何に原案が民法の均分相続の規定を無視しておるかということがそこでお分りになると思う。私の修正案第九條は、「農業資産相続人は、相続財産の價額に対する農業資産の價額の割合が民法に依る相続分を超えるとき、」超ゆるときだけです。ひとしいか、少いときには民法の規定を適用して、第九條第一項それ自身が民法の均分を尊重するということです。よくお考え願いたい。無視した規定がいいのか、尊重した規定がいいかというと、尊重した規定がいいということは当然である。この規定がなければならんということが分ります。修正案を続いて読みます。「相続分を超えるとき、その超える割合を特別相続分として受ける。この場合には民法の相続分の規定の適用については特別相続分を加えた割合を農業資産相続人の相続分とみなす」。修正案第九條第二項は、「前項の場合には農業資産相続人以外の各共同相続人の民法による相続分は農業資産相続人の組続分を控除した割合につきこれを定める。」これは当然な話である。残りのものを均分するということである。これは原案にもあるわけでありますから、跡始末の規定、第三項、「第一項の場合には民法第九百三十九條第二項中「他の相続人の相続分」とあるのは「他の相続人の相続分(農業資産相続特例法第九條第一項及び第二項の規定の適用があるときはその適用による相続分)」、そのときだけでよろしい。そのときはこの規定にする、「読み替えるものとする。」第十一條「第二項中「相続分」の下に「(第九條第一項及び第二項の規定の適用があるときはその適用による相続分)を加える」、これは別にただ跡始末の規定で、要点は第九條の一項で、この一項が、原案のやり方は、凡そ農業資産は全部特別相続分にしてしまうという意味において、民法の均分の相続の原則をそこで破壊してしまつている。これは政府委員が答弁された。均分の相続を破つた。私のは破つていない。超えないときはそれでよろしい。ひとしいときもそれでよろしい。加えたときには例外にする。特別相続分とする。凡そ例外というものは非常に狭くなつているが、廣くなつてはいけない。これは民法の原則です。原則を尊重する。例外はできるだけ必要な限度に狭くする。これは当然なことであります。殊に先程申しました三万円とか、十万円というものは根拠がない。根拠がないものを振り廻して、民法の均分の相続を破るということは許されないことでありますから、私の申します通りにしなければならないというわけです。
 そこで理由を読みます。「原案は農業資産全額を特別相続分とし原則として」、これは原則というのは、あとから十二條がありますから、十二條で入れ合せて附けて、十二條が直ぐに適用があれば民法の均分相続がそのままになる。直ぐに適用すれば……、そこに五年とか、二十年とかという規定があるのがこれがこの今度の案の要点なのです。それは今理由書のあとの方で書いてあります。「原則として民法の均分相続の規定の適用より一應除外するの思想である」一應除外してしまう。それがいけない。「從つて農業資産價額が民法の均分相続分價額を等しいか、又はそれより少い場合でも農業資産相続人は農業資産を特別相続分として相続した上に」ですね、農業資産を保護すべしということを法律が要求しているんだから、保護するために全部農業資産特別相続人の方に渡す。それで沢山でないか。その上にですね、お釣りを付けることが要らないというのです。そのお釣りが又何ら根拠がないというのです。その上にですね、「相続した上に残りの相続財産を共同相続人と均分相続するというのであつて農業資産保護の上からも不必要であり」農業資産は農業資産だけ相続させればいいのであつて、その上にお釣りを付けるということは農業資産の保護の上からも不必要である。若し必要であるならば、これだけの金額が要るということをおつしやればそれでいいのです。金額も何もないからそんなものはちつとも理由をなさん。そこで「農業資産保護の上からも不必要であり且つ憲法の各人平等の精神に反するものである」、これが要点です。若し第十二條の規定がなかつたならばこれは憲法違反の法律で、これは最高裁判所では破棄されております。十二條でこれを漸く維持しているが、十二條がなければ、この農業資産特別法というのは憲法違反の法律であるが故に、前の第一回國会に提案のときに我々は反対した。それはあとに書いてあります。で修正案は原則として均分相続の精神を尊重しておる。先程申したように四十万円を十万円ずつに分けてしまう均分相続の精神を尊重し、例外的思想として、これは即ち特例なるが故に例外でなければならない。「例外的思想として農業資産の價額が均分相続分の價額を超ゆるとき、その超過額だけを特別相続分として一應計算するのである、」これは非常に重点になる。一應計算させる。これで突張つてしまうというと十二條の適用がなくなるから、憲法違反になるから、一應計算するだけで、一應計算するのであります。「原案は農業資産相続人に対する利益分配請求権を認めることによりて(原案十二條)均分相続制の尊重を表示しているのである。」その通りなのであり、「特別相続分を認める以上はかかる請求権を認める等の彌縫処置を必要とするのである」、これがなくちや憲法違反になります。それでその次、「第一回國会提出案に対する司法、農林両委員会の小委員会の決定の修正案」のように、これは小委員会で決定してしまつた。修正案をちやんとそこで決定しております。そのごとくに「特別相続分なるものを全然認めないことがむしろ適当」なんです。それはどういう意味かと言うと、十二條は二十年間の期限が書いてある。この期限を付けないということが第一回の國会の小委員会の決定なのです。十二條の規定はそれと同じものでよろしい。併しながらこの規定を三年経過してはいけないとか、三年以内にやらなければいけないとか、二十年内でなければならんとかいう、その期限のない、即時に請求権が成立しているというのが小委員会の修正案なのです。文字には書いてありません。それに今度三年というものを附けて、二十年以内というものを附けること、それ自身がよくないのです。よくないが、これは請求権でありますから、若し均分相続ということに次男、三男という農家の子弟が日醒めておつたならば、必ずこの請求を直ぐやる。だからまあ暫く農村における均分相続の精神を、どのくらい農村人は理解しておるかどうかということを私は暫く眺めたい。元來農林省はこういうような法律を作ることによつて、これは老婆心的の考えだ。こんなことをして日本の農業の細分化というものを保持するというようなことを考えておる。その考え方が兒戲に類する。そんな考え方ではいけない。非常に大事なことは、日本の農業界には民主主義政治が徹底していないということが必要点です。むしろ均分相続ということを徹底して、そうして皆が申合せて第十二條のような規定が行われるようにやらなければならない。法律で書くというようなことをなすということは、これは農林省がまだ封建的の思想を脱却していない証拠なのです。こんなことで日本の農村を眺めては間違つておる。日本の農村はすでにお節介をしなくても民主主義政治に目醒めておる。だからこの十二條の規定もいけない、こんなことを書くのは……。併しながら暫くこれでやつて見るのもいいでしよう。請求権をどういう程度において次男、三男が振り廻すかどうか。それから殊に配偶者、配偶者というものは三分の一の相続分が認めておる。農家の配偶者がどんな態度をとるかということを私は暫く眺めたい。そういう意味において、眺めるということで十二條の意味があるのであつて、こんなものがなければ日本の農業資産というものは維持できないというようなことを考えておるならば、農民を侮辱するものであるということを私は断言いたします。そんなことは考えておりません。もつと進んでおる。こういう封建的思想の、老婆心的の規定を必要とすると考えておるその頭を脱却しなければならないということを申は申上げます。そういう意味におきまして私は修正の意見を持つておるのでありまして、修正案として適当なときに提出いたします。説明を聞く必要はない。私はこの案それ自身がなつていないから、そういう意味において修正案がちやんとできておるのでありますけれども、修正案としての提出はいたしませんが、これは討論のときに出しますから、こういう修正意見を持つているということで、そこで委員の方々に御研究願いたいのは、原案と私の案とをよく比較して頂いて、どうちがいいかということを、言葉は甚だ過激なことを言つておりますが、それは結局農村を尊重しておるからです。私は農村こそ民主主義的に進んでおると思う。御親切ではあるけれども、余り農村を見くびるような御親切はして頂きたいない。こういうことであつて、もう少し農林省のお考えにも農村を尊重して欲しい。それで均分相続の憲法を精神をできるだけ尊重しなければならない。それが民主主義を徹底するゆえんであるということを申上げて、一應修正意見を申上げます。
#20
○岡村文四郎君 松村さんから非常な御熱心な修正の御意見が出ましたが、私は不幸にして第一回國会で均分相続の案を御審議なさる時分に檢討する機会がなく今まで経過して來たのでありますが、今度は農業の細分化を非常に御心配になつて法案の改正をされるというので、ここで初めて漸くいつも考えております点の法案を見たのでありますが、どうも立法者が農業の現在の状態を誠に御認識が足らないでお作りになつたのではないか知らんと思うのでありますが、均分相続の規定は民法にはつきり明記しておりますが、農業の均分相続はこれと全然違うのであります。ここで例えて申しますと、十五條に時價の範囲内で價額を決めると記しておりますが、何を何と見て一体時價ということをお考えになつたのか。それから松村さんも均分に対する支拂いの金が足らなければ担保にでも入れて借りたらよかろうというお話でありますが、一体自姓が何を担保に入れることができるのか、誰が金を貸して呉れるのか。そこで幾らどう決めましても、現在の農村の状態では、子供が四人あり、三人あり、母が残りして、分配相続するのにその均分する金がない。金を取る方法がない。そこで所有権を持ちながらそれを行使できない。日増しに農業を奴隷化させようとしている矢先に、またまたこういう法律を出すことは実に心外である。どのようにしても実行できない。そこでこの大事なことを行使するということは結構でありますが、恐らくこれは出しても実行はできない。誰も金を貸手もなければ賣るにも賣れない。外の均分相続は処分ができますが、併しながらこれは処分がまかりならんというのでありますが、どういうつもりでそうされたかということをお聞きしたい。
#21
○政府委員(山添利作君) これは元來こういう制度を立てますれば、当然第十二條の実行のために低利の資金を國家が供給するような施設を考えなければならんのでありますが、現在はできるだけ通貨の膨脹を防ぐという時期でありまして、そういうこともできないのであります。從つて状況によりまして、年賦で拂うというような方法をとることになると考えておるのであります。それから時價と申しますのは、別に一々計算をしたわけではないのでありまして、第十五條の要点は、農業経営の收益を基準としてその範囲内で定める、こういう趣旨に基いておるのでありまして、時價とはその時の價格という意味であります。
 尚、この機会に松村先生の御意見に対しまして、ちよつと申上げて置きたいのでありますが、先生の御意見には先ず以て非常に敬意を表するのでありまして、できるだけ民法の均分相続の原則に一番近い考え方をいたしますれば、松村先生の御意見のようになると思います。併し私共がこういう案にいたしましたゆえんのものは、先に民事局長から言われましたように、ここに農業資産と言つておりますものは、土地とか、家屋とか、主たる農具等でありまして、併し現実問題といたしまして、これを農家を相続して参りますのには、そこに幾多の、ここに挙げてないところの農業上の、例えば種子のごとき流動資産とか、或いは家財道具というものもありますし、又若干の資金等も必要とするわけであります。事実農業資産相続人がそれを相続いたします形は、この法律のいわゆる農業資産の外に相当のものを現実問題として相続いたすわけであります。從つてそれが幾らあるかということを明確にすることはできませんけれども、これは農業財産以外の資産の、民法による相続分として一應、一應でありますが相続する、こういうことにいたしたのであります。併し特別相続によつて民法の相続分以上受けたものは十二條で調整をする。こういう考え方をいたしております。從つ純粹な思想から申しまして、できるだけ均分相続に可及的に近付けるという意味からいたしますれば、松村先生の御意見のようになるかとも思いますが、これを実際の相続の例に当嵌めて考えると、原案の方が事実に当嵌ると考えている次第であります。
#22
○岡村文四郎君 根本的な考えが違うから話にならんのでありますが、均分相続を受けるために、均分をする一体金を持つているような人が相続するかというのです。私の伺おうとするところは、そういうお節介を止めて、そうでなくて、相続する財産は決して農業があとからできんことのないように、誰でも引受けてやれるような方法なら結構なんだが、所有権だけ認めて自由を拘束しておつて、それによつて金を出さしてやろうというような考えそのものが全然今の農村自体を馬鹿にしている。今の高い價格に見積ることもあるかも知らんというお話でありますが、今農業に大きな金を出す人が一体あるでしようか。それから考えても分るので、処分のできないものを相手にして均分相続するということが百姓を馬鹿にしている。北海道のアイヌは移転ができない。賣ることができない。そのままである。それなら結構なんですが、自分には金がない、金を作らなければならん、金を作るにはどうしたらいいかというと、政府が安い低利の金を出すだろう、そういうだろう話ではこれは通りませんよ。担保に入れることもできないし、金の貸手もない、農業手形で借りるのが関の山で、金もないのにこんな法律を出してやらせるということが根本的に間違つていると思う。松村さんの御意見も結構だが、いずれにしても金が要る。その方法を考えないで均分相続の法案を出されても行われないことなんだ。金をどうして拵えるつもりか。貸すだろうというのでは駄目なんで、こうするという案があるというのでなければ、やつてみたつて笑われるだけで、百姓は何を言うているんだろうと思うくらいで、決して百姓は納得しません。そうするのには何か金を貸して、こうせいというなら分るが、それでないのに均分相続をしたら百姓ができなくなる。百姓は細分化されて駄目になる。ところが駄目になる百姓はおりませんよ。駄目になるようなことを百姓はしませんね。百姓を幾ら奴隷化しようとしても百姓は馬鹿じやない。そこらはよく考えて貰わなければ駄目だと思うのです。
#23
○政府委員(村上朝一君) 先程の松村委員の御意見御尤もだと存ずるのでありますが、この原案の第十二條の第一項でありますが、「特別相続分によつて受ける利益の怪を、民法による自己の相続分に應じて算定して得た額の範囲内で分配すべきことを請求することができる。」とありますのは、この特別相続分によつて受ける利益の全部を他の共同相続人だけに分けてしまうという意味ではないのであります。從いまして相続人が四人ありまして、その中の一人が農薬相続人でありますが、この相続分によつて受ける利益が、仮に第一例のごとく二十万ありますれば、その他の共同相続人の三人がそれぞれ四分の一の相続分を持つておりますので四分の三、即ち十五万七千五百円が他の相続人に分配されるわけであります。第二例について申上げますと、他の共同相続人の相続分は二分の一でありますから、十万円が分配されるということになるのであります。それから第九條に関する松村委員の修正の御質問と原案との一番大きな差異は、先程この第九條の逐條の説明にも申上げました通り、農業資産相続人が農業資産の外、農業の経営に必要な資金を得させる意味で、他の共同相続人と同じ程度の相続分を附加えて持たせる必要が農業生産上必要があるかどうかということに掛かつておると考えるのであります。若しそういう必要がないということになりますと、原案の九條は無論修正を要するのでありますけれども、この農業資産だけでは引続き農業を経営するということは困難であるという農林省当局の意向によりまして、こういう原案の第九條のような法案になつておるのであります。
#24
○松村眞一郎君 これは第一例として農林省が出される案を御覧になれば、範囲内ということは書いてありますが、範囲外でありますから、その範囲の頂点に行けば実施しないことになる。そういうことの運営は適当にやつたらよかろうと私は思う。私が先程申上げた道徳的に事実余り請求しないで農業を経営しておるものにやるような工合になるだろうと思う。こういうようにして行けば、この範囲内という事実は解決すると思います。
#25
○大畠農夫雄君 松村さんの御意見ですが、こういうことはどうなるかお伺いしたいのですが、農業生産から生じました果実などの收益、これは農業資産の方の転嫁してしまえば松村さんの御意見でもいいようでありますけれども、仮に資産に転嫁せず貯蓄しておつたという場合、例えばその貯蓄が非常に多く二百万円もあつて、農業資産として五十万円しかないというときには、これは非常に不均衡な問題が発生して來ると思います。そういう点を松村さんから……
#26
○松村眞一郎君 それは法律自身の根本からお考え願いたい。この法律は農業資産について考えておる。これは農業資産を保全すればいいという法律で、そういうものは適当に処理すればいい。私に問うより農林省の方にお問いになればいいと思う。
#27
○門田定藏君 私は松村委員、北村委員と少し意見が違うのです。大体この農業資産の均分相続の範囲がはつきり分らない。範囲がどこまでであるかということを聞きたい。もう一つは、私の意見として、秦分相続について農村の実情を農林当局は分つていないのじやないか。こんな心配は要らない。農村の実情が分つておるならば、こういう法律は必要ない。なぜならば私共鳥取、島根を調査しましたが、要するにこういう問題は、日本の食糧増産のために農地を分配させる意味から來ておるだろうと思います。憲法論から言うと、このこと自体が間違つておると思う。日本の食糧確保のためにやるのでありますから、農業資産の問題について均分相続というようなことを入れるということは、そもそも間違つておるじやないかと思う。例えば我々六人の子供を養育しておりますが、どうせ一町歩やそこらの百姓をさせるのには一人でよい。他の子供は学校に入れたりして教育して農業でないものに就かせております。親たるものは決してぽかんとしておりません。こういう人に持つて來てこんなことは要らないと思う。例えば六人の子供があつて、農業を経営して行くのは一人で、その家を継続して先祖の祭りもし、他の子供を縁付けたりいろいろ世話しながら農業経営をして行くには、当り前の農業資産では行かない。こういうことも分らないで無暗に新憲法だ、新民法だといつて、均等資産というようなことを主張するということは、大体この制度に反したかかる意味を持つておる法律論は……こういうように均等相続とか何とかいうものは全然排除した方がいいという意見を持つております。
#28
○政府委員(山添利作君) 岡村君の御質問の場合も、只今の御質問の場合も同じだと思いますが……
#29
○門田定藏君 ちよつと違うよ。
#30
○政府委員(山添利作君) これはそう申しましても、現在の状況ではこういう法律がございませんければ、これは民法の均分相続はそのまま行われておるのでありまして、農村におきましては、共同相続人の相続放棄という形を以ちまして、この法律の狙つておるようなことが実現をされておるのであります。そこでこういう法律は全然要らないかということになれば、いろいろ御意見がありましたが、実は今均分相続が行われておるがために、相続の放棄という手続をやつたりなんかもありまして、こういう法律に対しまして指導をし、又そのことを処理して行くということの方が適切だと思うのであります。とにかく相続分に関連して、いわゆる家族としての均分相続の措置を入れるという点につきましては、これはいろいろ事情がありますので、これを全然認めないことになりますと、松村さんがおつしやるように、これは明瞭に憲法に牴触する疑が強いのでありまして、そこでこの十二條によりまして他の共同相続人の求償権を認め、これは初めから民法上の相続分を決めて、それだけ直ぐ求償するというわけに参りませんので、十二條を読んで頂けば、そこに非常に含蓄ある書き方をいたしてあります。そのうちで事情事情に應じてよく相談して決めて行く、それには農業経営の安定ということも考え、又いろいろ諸般の事情も考慮して、家族中で円滿に事を諮つて行く、十二條はこういう精神を表現もいたしてあるわけであります。
#31
○門田定藏君 了承いたしました。
#32
○委員長(伊藤修君) 他に御質疑はございますか。
#33
○大畠農夫雄君 一点伺いたい。現在地方の農家の相続につきましては、例の民法の請求権放棄で全部片附いている。実際のところいざこざは起きていない、却つてこういう細かい問題が規定されますと、それによつて却つていろいろな問題が起きて來るのでありますが、(「そうだ」と呼ぶ者あり)現在の請求権放棄によつて運用、活用されている事実を考えたときに、それでも尚これが必要だという根拠がどこにあるか伺いたい。
#34
○政府委員(山添利作君) 成る程請求権放棄ということで現に処理されておる場合が多いのであります。これは將來の一つのあり方を示しておりますと同時に、これは農業を現実に承け継いで行く人が権利として保護される規定になつておるわけでありまして、他の共同相続人が相続権放棄をしない場合におきましても、家庭裁判所において農業資産相続人を選定することができる、こういうように現実に継いで行きます人を法律上では保護しておるというところに、法律制度としても十分なる意味があるわけであります。
#35
○大畠農夫雄君 そうすると、先程松村先生が言われたように、結局この資産の平等な分配ということについて憲法も保障しておるのですから、そういう点から考えるならば、特に農民だから一人の相続者が余分な相続権を取得するというふうになりますと、結局憲法違反の問題が起つて來ると思うのです。それよりもむしろ各人平等に持つておるその権利を各自の意思によつて放棄して、そうしてこれと同しような結果を発生せしめるということがむしろ憲法に合致している、こういう法律を作ること自体が憲法違反だと私は思うのです。
#36
○藤野繁雄君 農業資産の算定基準についてお尋ねしたいと思うのであります。農業資産の主なるものは田畑であろうと考えるのでありますが、田畑の價格は一反幾らとして農業資産に計算されるお考えであるか、現在の値段からすれば、田が一反歩千円しないと、こう仮定いたします。牛馬の取引價格は一頭で十万円と仮定されます。又その他の農具の代金も最近の價格では相当大であるのでありますが、農業資産を相続する場合において最も重要なものは田畑であるが、その田畑とその他のものとの算定の基準をどこに置いておられるのであるか、この点お伺いしたいと思います。
#37
○政府委員(山添利作君) 田畑は公定價格によるわけであります。その公定價格は成る程他の資産と比べまして現在非常に均衡を失しておるわけであります。この問題につきましてはいずれ今年の秋の小作料につきまして、現在の状況の即しまして農業上の收益等を勘案いたしまして、新らしく小作料を決めることに考えております。地價というものは地代とおのずから関連をいたしておりまするので、そのときに又地價も改定をいたしたいと考えております。それにいたしましても、現在のような低米價の時代におきましては、農業上の地代に帰属せしめ得べき收益というものは非常に少いのでありまして、從つて改訂になりましても、他のものとの比較ということにおきましては、これはやはり昔とは可なり比例が違つた低い田畑の價格になる、かように考えております。
#38
○委員長(伊藤修君) それでは本日はこの程度にいたしまして、その余の質疑は次回にすることにいたします。本日はこれを以て散会いたします。
   午後五時十五分散会
 出席者は左の通り。
  法務委員
   委員長     伊藤  修君
   理事
           岡田  常君
   委員
           大野 幸一君
           鈴木 安孝君
           松村眞一郎君
  農林委員
   委員長     楠見 義男君
   理事      平沼彌太郎君
           石川 準吉君
           藤野 繁雄君
   委員      大畠農夫雄君
           門田 定藏君
           北村 一男君
           高橋  啓君
           星   一君
           赤澤 與仁君
           徳川 宗敬君
           國井 淳一君
           岡村文四郎君
  政府委員
   法務廳事務官
   (民事局長)  村上 朝一君
   農林政務次官 池田宇右衞門君
   農林事務官
   (農政局長)  山添 利作君
ソース: 国立国会図書館
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