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1965/06/01 第51回国会 衆議院 衆議院会議録情報 第051回国会 科学技術振興対策特別委員会 第22号
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1965/06/01 第51回国会 衆議院

衆議院会議録情報 第051回国会 科学技術振興対策特別委員会 第22号

#1
第051回国会 科学技術振興対策特別委員会 第22号
昭和四十一年六月一日(水曜日)
    午後一時三十四分開議
 出席委員
   委員長 原   茂君
   理事 菅野和太郎君 理事 中曾根康弘君
   理事 前田 正男君 理事 岡  良一君
   理事 田中 武夫君
      秋田 大助君    大泉 寛三君
     小宮山重四郎君    野呂 恭一君
      渡辺美智雄君    三木 喜夫君
      内海  清君
 出席国務大臣
        国 務 大 臣 上原 正吉君
 出席政府委員
        科学技術政務次
        官       田川 誠一君
        総理府事務官
        (科学技術庁長
        官官房長)   小林 貞雄君
        総理府技官
        (科学技術庁研
        究調整局長)  高橋 正春君
        厚生政務次官  佐々木義武君
        厚 生 技 官
        (公衆衛生局
        長)      中原龍之助君
        厚 生 技 官
        (医務局長)  若松 栄一君
 委員外の出席者
        文部事務官
        (大学学術局審
        議官)     岡野  澄君
        参  考  人
        (東京大学教
        授)      大島 良雄君
        参  考  人
        (国家公務員共
        済組合連合会虎
        の門病院院長) 冲中 重雄君
        参  考  人
        (財団法人心臓
        血管研究所所
        長)      小山晋太郎君
        参  考  人
        (千葉大学教
        授)      柳沢利喜雄君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 参考人出頭要求に関する件
 科学技術振興対策に関する件(脳卒中科学に関
 する問題)
     ――――◇―――――
#2
○原委員長 これより会議を開きます。
 科学技術振興対策に関する件について調査を進めます。
 まず最初に、参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。
 脳卒中科学に関する問題調査のため、本日、国家公務員共済組合連合会虎の門病院長冲中重雄君、東京大学教授大島良雄君、財団法人心臓血管研究所長小山晋太郎君及び千葉大学教授柳沢利喜雄君を参考人として意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#3
○原委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたします。
     ――――◇―――――
#4
○原委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は御多用のところ、本委員会に御出席くださいまして、まことにありがとうございます。
 厚生省の統計によりますと、昭和十年から昭和二十五年までは、死因の第一位は結核が占めておりますが、医学の進歩に伴い、結核による死亡は急速に減少し、昭和二十六年以降は脳卒中が死因の第一位を占めております。しかも、その頻度は世界各国の現状をはるかに上回り、人口十万人に対する死亡率は二百人に近い高率を示しており、年間約二十万人の人たちがこの病気で命を失うというまことに憂うべき現状であります。
 そこで本日は、本問題について参考人各位より脳卒中に対する全般的な対策及び研究すべき問題点等について、それぞれの立場から忌憚のない御意見を伺いたいと存じます。
 なお、参考人の御意見の御開陳は、お一人約十五分間程度にお願いすることとし、後刻委員からの質疑の際十分お答えくださるようお願い申し上げます。
 それでは最初に、冲中参考人よりお願いいたします。冲中参考人。
#5
○冲中参考人 ただいま御紹介いただきました冲中でございます。
 いろいろな問題がございますので、十五分間にどのように申し上げたらよいか、なかなかむずかしいと考えておりますが、ただいま委員長からお話がございましたように、脳卒中、ガン、それから同じ動脈硬化性の疾患であります心臓病、これが世界各国とも死因の一位、二位、三位を占めております。日本では特に脳卒中、これは中枢性血管障害と申しますが、それが第一位、ガンが第二位、心臓に関するものが第三位ということで、脳卒中が非常に多くなっているという事実がございます。私は要点だけを申したいと思いますが、この問題について日本の学者の間で特に関心の持たれている点は、これは同時に世界各国のこの方面の学者が関心を持っておることでありますが、たとえば、欧米などでは同じ動脈硬化性疾患の中でも心死が一位を占めて、ガンは同じく二位、そして脳卒中は第三位、日本ではそれが逆転いたしまして、脳卒中が一位で、ガンは二位、それから心死が第三位、この数字も出ておりますが、そういうふうに逆転しているのはなぜか。たとえば、アメリカなどでは心臓疾患で死ぬ人が多い、しかし脳卒中で死ぬ人は比較的少ない。日本では心臓疾患で死ぬ人が比較的少なくて脳卒中が多い。そういうことで、お互いに一番多い死因を減らそうという努力がございますので、日本ではなぜ脳卒中が一位を占めるかということが、われわれ並びに世界の学者の非常な興味と申しますか、研究と申しますか、調査の対象になっておるわけでございます。
 脳卒中と申しますと、いろいろな要因がございまするが、基本になるものはやはり脳の血管の動脈硬化とそれから多くの場合に高血圧、この二つの要素が加わって脳卒中になる。との脳卒中の中に、脳出血と、それから一般的には脳軟化と申しますが、学問的には脳梗塞といわれますが、脳出血と脳軟化、そのほかに蜘蛛膜出血などがございますが、そういったものが含まれておりますが、これがなぜ日本に多いかということでございます。
 これは結論を申しますと、はっきりわからないというのが現状でございまして、まず、動脈硬化と高血圧がなぜ起こりやすくなるかという、この要因としましては、いろいろな定説もあり、仮説もあり、また、不明なものがたくさんございます。たとえば、高血圧も動脈硬化も、ともに精神的、肉体的ないろいろなストレスの過剰、それから栄養の問題、栄養の過剰とか、あるいはかえって不足するとか、あるいは栄養のアンバランス、そういったような要素が問題になります。それから生まれつきの素因というものもこれには加わってまいります。そのほか塩分とか、そういったものも問題になります。また、寒冷の問題とか、家の構造とか、いろいろなことが問題になりますが、そういったようなことが問題になりまして、その中で脳卒中がなぜ多いか、特に脳出血がなぜ多いか、こういうことの問題でございます。
 少し学問的になって恐縮でありますが、脳出血というのと脳軟化というのは――出血というのは、動脈が硬化してこわれやすくなって、そこで血圧が高くなって破れる。軟化というのは、破れるのではなくて、動脈が硬化してだんだん壁が厚くなってきて、そうして血圧が高くてもあるいは高くなくても血液の流通がだんだん悪くなり、そしてその末端の脳の組織が軟化と申しますが、簡単に申しますと腐ってしまうと申しますか、そういう状態になります。これは病理学的にはかなり違ったプロセスでありますけれども、同じく動脈硬化ということは関係しますし、臨床の所見が非常に似ているわけです。
 一番問題になりますのは、なぜ脳出血が多いかということと、それから日本で外国と違う点は、脳の軟化よりも出血が特に多い。外国では脳卒中は比較的少ないけれども、その中でも脳の軟化、梗塞というものが多くて出血が少ない、こういうところが違うのであります。
 そこで一番問題の点を申しますと、これは学説となっておりませんが、研究の作業仮説と申しますが、動脈硬化には二つの種類があるのではなかろうか。一つは、たとえばいわゆる動脈の壁が脂肪のとり過ぎとか、そういうようなことが問題になりまして厚くなってきて血液が通らなくなる。それが心臓で起こると心筋梗塞や狭心症を起こしますし、脳で起こりますと脳軟化を起こす。それからもう一つの出血のほうは、これはいろいろ学説がありまして決定できませんが、同じ原因だという方もあります。私ども、私は特にそう考えますが、脳出血を起こしますいわゆる動脈硬化は少しプロセスが違うのではないか。まあこれは一部の学者、ことに日本の学者によって脳の動脈の中でも血管壊死というようなプロセスがあるのではないか。これは血管が死んで、破れやすくなるのですね。そういうプロセスは、だんだん中が詰まって細くなっていく、そういうプロセスとはどうもちょっと違うのではなかろうか。そして日本で脳出血が特に多いのは、動脈壊死ということばを使いますが、こわれていくほうですね。動脈壊死のほうのプロセスを起こす何か要因があるのではないか。それがわからないのです。日本で出血が特に多いということの何か原因があって、それが外国と違うのじゃなかろうか。
 ここで注目されますことは、脳出血というのは日本で多い。その中でも、いろいろ統計がございますけれども、脳卒中が非常に多い県と少ない県があります。そして脳出血などの多い県は、たとえば秋田県とか岩手県、長野県、山形県というような非常に寒冷の地、米がたくさん出るとかいろいろなことがいわれますが、そういうところの方は、必ずしも脂肪のとり過ぎとか、一般にアメリカなどでいわれている動脈硬化の原因――脂肪のとり過ぎや何かで動脈の壁が厚くなって血液が通りにくくなるという、そういうプロセスとはどうも考えにくい、栄養が多過ぎるということはちょっと考えにくいような住民の方にそういう出血などが比較的多いという問題、そういうことから、これにはいろいろ仮説がございまして、栄養の不足、ことにアンバランス、あるいはたん白が不足するのじゃないかとか、いろいろな考え方がございます。少なくともそういう問題が一部の日本の学者の間では考えられておりまして、なぜそういう動脈壊死というプロセスが多いかということ、この究明が日本で脳出血が多いということの解決の糸口になるのじゃないか、そして外国と違っている一つの原因が解明されるのじゃないか、そういうところが一つの大きな問題だと私は思います。
 時間もありませんので、むしろあとで御質問にお答えしたほうがよろしいと思いますが、そういう出血のことを特に申しましたが、日本では統計的に脳卒中が多くて心臓の病気で死ぬ方が第三位であるということ、アメリカでは逆になっておるということ。それは種族が違っているということのためかもしれぬというような考え方もあるのですけれども、これについては、たとえばハワイとかアメリカに在住する二世と申しますか、日本人の方、そこで生まれたときからずっと育っておられる日本人の方についての統計がございまして、それはどっちかというと日本のそういう順位と違いまして、アメリカの死因のほうの順位に近づいている。ちょうど中間のような形の順位を示しておるというようなことから、どうも種族の特異性ということよりも、何か生活環境などがそういう――私がいま言っておりますのは、動脈の詰まるほうの動脈硬化であって、脳でいうと脳軟化を起こしやすい、心臓でいうと心筋梗塞などを起こしやすい、そういうプロセスでございますが、そういうものが、何か後天的な環境、生活様式、ことに食餌とかそのほかのことがございましょうが、そういったものがむしろ影響しているのじゃなかろうか。これはまだ結論ではございませんが、そういう調査のデータがございます。
 それからもう一つ、時間がきましたようですが、統計上いま言ったように脳卒中の多いことはまず間違いないことでございますが、いままで得られた文献では、厚生省などで出ましたところの死亡診断書による統計、それから大学や大病院が出しておる病理解剖によってできた統計、そういうものがございまして、かなり数字は違っておりますが、同じ傾向を示しております。
 最近私どもが、文部省の科学研究の班研究で、日本の北のほうから九州にかけての十五大学が十八カ所でいろんな小さい人口のところをすっかり、病的状態と申しますか、健康を管理いたしまして、そこで実態調査、ポピュレーション・サーべーといっていいかもしれませんが、そういうものをやっておりまして、いま四年目にかかっておりますが、これはかなり正確なデータが出つつあります。それを見ましても、たとえば脳の血管性障害、これによって死亡する者が一番多くて、心臓疾患によって死亡する者はそれより下がっている。これはやはり外国とは逆である。厚生省の統計と病理解剖の統計とは多少。パーセントは違いますけれども同じ傾向を示しておりまして、現在こういう調査が行なわれつつあります。もう一、二年、これを五カ年続けたら非常に正確なものが出るのではないかと思いますが、いままで三年やりましたのでは同じような傾向を示しておりまして、やはり日本では脳卒中が多い。ことに脳出血が多い。心臓疾患はそれより少ない、そういうデータが出ておりますので、これはつけ加えさせていただきます。
 どういうところに重点を置いてよろしいか、あるいは御理解がいただきにくかったかと私たいへん心配いたしますけれども、あとで自由な御質問をいただきたいと思います。
#6
○原委員長 どうもありがとうございました。
 次に、大島参考人にお願いいたします。
#7
○大島参考人 私は、脳卒中の結果として起きた麻痺のリハビリテーションという観点から四つの項目について御報告申し上げたいと思います。
 その第一は、日本の脳卒中を起こした患者が現状においてどうなっているかということであります。疫学につきましてはあとで柳沢教授からたぶんお話があると思いますので、私はリハビリテーションに関係した問題だけ申し上げたいと思います。
 昨年厚生省から科学研究費の援助をいただきまして、東京都下のさる地区で、約十七万人の住民のいる地区でありますが、医師会、保健所及びあんま師のような療術師を動員いたしまして、その応援下で、その地区で百六十人の現在生きている脳卒中の患者をつかまえることができました。問題は、それらの人々がどういう状態にあるかということでありまして、その一九%は寝たきりの状態にありました。それから二二%は人の介助が要る状態で生活をしていたわけであります。身のまわりの世話をする人が要る状態であります。それから独立して生活できる――独立して生活できるというのは金が入るという意味じゃございませんで、毎日の日常生活を自分でやれるという人が五九%、約六割の状態であり、患者の約一ないし一・三%が年々廃人化していく状態であるということが統計的にわかりました。
 これらの患者についてどういう治療、どういうことをしてきたかということを見ますと、そのうちの三七%は入院をしてきた方であります。そして薬のみ現在飲んでいるというのが一六%、マッサージだけを受けている者が七七・五%で一番多いのであります。ところが麻痺の回復に一番大事なリハビリテーション、それには物理療法、特に運動訓練が必要なんですけれども、それを受けた者は一一%しかなかったのであります。すなわち、物理療法が必要だということがわかっていても、大部分があんまさんの手にまかされているのでありまして、マッサージをしていればいいのだという観念がいまだにある。これが日本の大都会においてさえも、こういう状態にあるのであります。その次に、それならば一方、リハビリテーションの訓練をやったときにどういうことになるかということを比較してみていただきたいのであります。私どもの関係した脳卒中の訓練をしている療養所で、千五百三十五人について訓練した成績をまとめたことがあります。日本では、先ほど沖中先生の御報告にございましたように、脳出血のほうが脳梗塞、脳軟化よりも多い。したがって、外国で得られたような成績、つまり運動訓練をやっても安全かどうかという点が非常に心配だった点でございますが、これらの患者について訓練をすると申しましても、その病院へ来るまでに大体半年以上たっているのが大部分でありますけれども、そういう時期に訓練をいたしまして、訓練中に発作を起こして再発したというのは一例もなかったのであります。その間に、平均で約二カ月間入院しておりますけれども、十人の再発例がありましたが、それはいずれも訓練直後あるいは訓練中のものではなくて、そのあとにおいて起きてきた、偶発したものであります。
 なおこの際、運動訓練中にころがってけがをしたというか、骨折を起こしたのが十四例あります。これは発作後一年以上たってから入った例ばかりであって、しかも手がきかない。われわれは廃用手といっておりますが、役に立たない手を持っている人がいる。つまりころんでも手をついて防ぐことができない条件にあったのであります。これはやはり看護が不徹底であったので、もっと看護を十分に注意すれば防ぎ得るものですけれども、これでも、全然リハビリテーション訓練をされずに施設に収容されている人の発生率よりははるかに少ない数であります。そこで申し上げたいのは、ほっておきますと骨も筋肉も萎縮するのであります。そこで骨の萎縮した人がころぶと、麻痺があるからころぶのですけれども、折れてしまう。したがって、これも十分なるリハビリテーションを行なわれなかった結果とも関係のある成績であります。
 リハビリテーションを行なうと、一般に肢体不自由者のどのくらいがもとの仕事に戻れるかと申しますと、アメリカでも大ざっぱに五人に一人くらいが職業に戻れるといっておりますが、われわれのほうでやった訓練成績から見ますと、職業復帰は、患者の中の男の患者が一七%であります。これは案外少なかったのでありますが、患者の大部分が五十以上でありまして、もともと職についていない人のほうがむしろ多い。そのために職業復帰という形にならないのが入っているわけであります。それから、婦人でもってもとの家庭生活で家事をやれるようになったのが二四%で、大体四割くらいは、これも職業復帰と言えないかもしれませんが、もとの生活に戻れております。ですから、これを見ると、外国とも別にそれほど違わない程度に訓練し得るものであるというふうに考えます。
 なお、退院してから二年ないし五年以上たってからの調査をしてみますと、約九%だけが臥床状態にあって、あるいは車いすなどを要して歩行が困難であるということがアンケートでわかりました。これを先ほどの約一九%が寝たきりであったという成績と直ちに比べるのはちょっと問題があります。これは初めの発病の状態が同じだという証拠がありませんから、問題があるのでありますけれども、やはりある程度の訓練をやらなければ廃人化する率も多いのだということを想像してもいいのではないかと思います。
 このような訓練をするときに、全然歩けない状態で入った人が一年間に約八十八人あったのですが、このうちの九一%までは自分で歩いて帰ることができました。約二カ月間のうちに歩ける。つえをつくのが半分、つえをつかないのが約半分で、いずれも介助を要しない状態で帰れたのであります。そして、この場合の統計では、一人も歩けないという者はない状態にまでもっていくことが可能でありました。これは少しよ過ぎるので、こういう訓練をする場所まで入院できるような人はこういう状態であったのだろうと思います。当然患者の中の一割程度は非常に重症であって、もはや歩行能力を完全に失っている者がございますから、そういうものを考えておいたほうがいいと思いますが、一応この程度になるということを申し上げたいのであります。つまり、これがリハビリテーションの実態の一部と、やったらどのくらいになるかということであります。
 その次に申し上げたいのは、現在このような治療をいたしましても、日本の医療の大部分の報酬のもとになっている保険の点数がほとんどついていないということであります。そのために、収容いたしますと、これは患者ないし家族の負担になるのでありまして、それをやらなければ成立しない。したがって、貧乏人はなかなか恩恵に浴しがたい現況にあるのであります。また、それが十分ない限り、国立大学のような赤字を出してもいいところは覚悟してやりますけれども、そうでないところでは、なかなか普及しがたいというような現状にあるわけであります。これを解決することがやはり脳卒中患者の幸福のためにもなることであり、その運動能力を回復させるに必要な条件であると考えます。
 そのようなリハビリテーションを実施するためには、現在の一番大事な日本の医療ないし診療体制の中に欠陥があります。その一つは、教育問題と施設の問題であります。
 教育問題から申しますと、脳卒中は内科的疾患であります。しかもリハビリテーションをするためには、それに必要な処方が書けなければならないわけであります。ところが、内科医でリハビリテーションの教育を受けなければならないといたしましても、このような講座は正式には大学にないのであります。一部ではできかけておりますけれども、全国の医科大学において、これが必要講座とはされていないわけであります。したがって、これに関する十分なる教育が行なわれないままに医師が出てくるという危険があるわけです。これが一つであります。
 第二には、リハビリテーションを実施する理学療法士並びに作業療法士の欠乏であります。現在この教育施設は、厚生省でつくったのが一つ、九州に一つありまして、これらを合わせましても、一年間の卒業生の率は約八十人ぐらいのものであります。それから盲学校系が三つ合わせて約四十五人、それも視覚障害者はなかなか覚えにくいと申しますか、いろいろ欠陥がございますので、完全な定員に達しておりません。したがって、これで全員出て、これが国家試験に合格いたしましても、百人をやっとこすかこさないかくらいしか年間に出てまいりません。ところが、ではどのくらい必要かと申しますと、脳卒中以外にもリハビリテーションを必要とするものはたくさんありますけれども、脳卒中だけで、日本で一年間に、私の推定では、リハビリテーションを必要とする患者はおそらく八万人くらい新しく出てくると思います、自然治癒を除きまして。これらの患者に対して、約二カ月間の訓練をする。一人の術手がやれる能力、一日に処理できる能力はせいぜい十五人程度であります。これらから見ますと、少なくも千人はほしいところです。作業療法士と理学療法士を合わせますと千五百人はほしい。ところが、これだけを達成するためには、十年以上たたなければなかなか見込みがない。現在までにあるあんまさんその他の方々を勉強させて、国家試験を受けさせた成績というのは、ことし初めて出ましたが、千人以上受けて二百人足らずしか通らないのです。いかに高度の知識と経験を必要とするものかということはこれでもおわかりになると思うのですが、従来のあんまさんなどをそのままに使うことはとうていできないのです。そういうような人たちを訓練し、かつ医師も再教育して、そして初めてリハビリテーションが行なわれるようになりますので、これらの施設だけでなくて、実施に当たる、診療に当たる人々をつくりませんと、この脳卒中のリハビリテーションというものは思うようにできないのであります。
 以上四つの点だけ申し上げさせていただく次第であります。
#8
○原委員長 ありがとうございました。
 次に、小山参考人にお願いいたします。小山参考人。
#9
○小山参考人 心臓血管研究所の小山でございます。実は心臓血管と申しましても、私どものほうの大体の専門が心臓でございますので、きょうのことを御辞退いたしたのでありますが、断わり切れなくなりまして参った次第でございまして、話が少し心臓のほうにずれるかもしれませんが、ただ脳卒中にしろ、心筋梗塞、狭心症ということにしろ、いずれにしても、原因的にはかなり密接な関係があるので、一緒に論じてもかまわないのではないかと思います。
 それで、冲中先生からいまおっしゃいましたように、日本では中枢神経系の血管損傷、略して脳卒中と申しますが、それが非常に多い。そして、そのうちでも高血圧と非常に関係のある脳出血が多いとおっしゃいましたが、まあその点が国際的に非常に興味のある問題となってはおりますけれども、ただ注意しなければなりませんことは、最近はわが国でも動脈硬化に基づく脳梗塞、それから心臓では心筋梗塞とか狭心症が次第に増加してくるという傾向が、これは厚生省の統計なんかからも出ております。このことは、こういう病気の診断の技術というものが非常に精密化して進歩したということにもよりますけれども、日本の人口が非常に老齢化してきたということ、それからまた、高血圧というものの治療が非常に進歩をしてまいりましたということ、それから生活の様式がいわゆる欧米化してきたということから当然なことではないかと思います。
 それで、こういうようにわが国で人口が老齢化してこういう病気が非常にふえてくるというわけでございますが、ガンと違いまして、この病気の場合には死亡者に何倍かする多数の患者があるということ、たしか厚生省の発表では、脳卒中の死亡数の約倍近くの生存しておる患者があるというような発表があったと思いますが、その点と、したがって、これらに対する治療とかリハビリテーションが非常に必要になってくる、もう一つは高血圧の治療が進歩いたしましたので、ある程度食いとめることができるのではないかということ、それからこういう慢性疾患でありますので、予防という面からいいますと、中年に入りますとすぐ始めなければ、しかも長期間にわたって始めなければならないというようなことなどがガンとは違った点であると思います。
 それで、こういう循環器疾患に対します今後の対策といたしまして、まず第一に当然原因を究明しようという問題がございます。それから第二は、原因はともかくとしても、こういうように非常に多い病気をさしあたってどういうふうに管理して、治療していくかという実際面の問題がございます。
 第一番目の原因の究明でございますが、これは一つは、臨床病理的あるいは実験病理的に、患者とかあるいは実験動物というようなものについて研究する方法で、もちろん非常に多方面の専門的な研究が必要でございますが、これは略します。第二の方法といたしまして、先ほど冲中先生もちょっと触れられました疫学的研究といっておるものがございます。これは高血圧とかあるいは動脈硬化というものがわが国と諸外国ではかなり違った様相を示しているということ、それから日本の国内でも地域によってかなり差があるといったようなことから、何か手がかりが得られるのではないかという意味で始められたものでありますが、結局、こういう高血圧あるいは動脈硬化というものの原因は非常に複雑でありまして、もちろんいまはわかっておりません。結局、その個体側の因子といたしまして、遺伝的な問題が一つはございます。それからもう一つは、外から、すなわち環境因子といたしましては、気候であるとか食餌であるとか、あるいは職業、労働の問題、それからもう一つ忘れてならないものに精神的なファクターがございます。こういうことを研究する疫学的研究は比較的最近活発となったものでございまして、いま申し上げましたようなファクターのどれに一番ウエートを置くべきであるかというようなことはまだわかってはおりませんけれども、かなりの役割りを演じているとも考えられております。そうしますと、まあある人が言っておるのでございますが、結局、遺伝関係の濃い家庭では、相当若いころからこういったような、たとえば食餌の問題とかあるいは職業というようなファクターをなるべく避けるようにすれば、現在原因はわかってないにしても、ある程度発病をコントロールしていくことができるのではないかというわけでございます。
 最後に、私どもの研究所の成績をちょっと述べさせていただきます。実はまだことしの四月で満五年を迎えたばかりでございまして、特に成績もあがっておりませんが、ひとつ疫学的な研究といたしまして、埼玉県の羽生市の千代田地区の、農村でございますが、住民約二千人を対象といたしまして、いわゆる集団検診をいたしております。結果はまだ集計中でございますが、大体皆さまのやっておられますのと同様に、脳卒中による死亡が非常に多いという結果が得られております。
 それから研究所のほうでございますが、大体これもまだはなはだ整理してないデータでございますが、四年間に患者が大体五千人おりますが、高血圧が四〇%近く、それから心筋梗塞とか狭心症のようないわゆる動脈硬化性心臓病が大体二〇%ぐらいを占めております。専門病院という特殊性を考慮しても、やはり動脈硬化ということを、これからは相当気をつけていかなければならないのじゃないかと思います。時間でございますので……。
#10
○原委員長 ありがとうございました。
 次に、柳沢参考人にお願いいたします。
#11
○柳沢参考人 私は、脳卒中の疫学という問題に限定して申します。
 脳卒中と申しますのは、脳出血または脳溢血と呼ばれておりますものと脳軟化を総称したものといたしまして、国際分類の中枢神経系の血管損傷をさしております。両者は発病の機転をやや異にしておりますが、いずれも主として高血圧に由来する脳動脈の病変によって起こる疾患でございまして、冲中先生もおっしゃいましたように、現在本邦死因の第一位を占めております。さらにまた、高血圧に関係する血管の病変から起こる重要な死亡原因に、死因順位の第三位を占めております、先ほど小山先生のお話しになりました心臓の疾患が含まれております。この心臓の疾患の中でも特に冠動脈の病変が原因の首位であることは注目しなければならないと思います。この血管病と称すべき脳と心臓との死亡の合計をして、その総死亡における状態を見てみますと、この参考にまで差し上げました資料の第一にございますように、昭和三十九年の死亡総数で六十七万人ございまして、中枢神経系の血管損傷と心臓の疾患を合計いたしますと、総死亡のちょうど三分の一を占めまして、二十三万人になります。これに対して、ガンは、ごらんになりますように十万人になっております。
 私これから申し上げます疫学という問題でございますが、今日一般に疾病現象を患者個人の問題として取り扱わずに、その疾病を人間社会における集団現象として取り扱う立場でこのものを解釈して申し上げたいと思います。たとえば町村、会社、工場等の中で病気がどのように発生して広がり、または消滅していくか、その間に見られる法則性と、それに関与する諸因子との関係を解明していくことを疫学の定義として、私これから申し上げたいと思います。
 このような点から見まして、最近疫学の研究対象の中に、いま申し上げるような問題が入ってくることは当然でございます。厚生省の人口動態統計を見てみますと、わが国の脳卒中による死亡の様相がきわめて特異的であることでございます。沖中先生はじめ諸先生の申されましたように、脳卒中による死亡の発生が、諸外国に比しまして非常に高率でございまして、それはこの資料の第三を御参考いただきたいと思います。本邦を除きます主要諸外国ではいずれも心臓の疾患によります死亡が脳死の二ないし三倍であるのに対しまして、わが国のみが心死が脳死の半分以下にとどまっております。
 資料の第二をごらんいただきますと、このような問題につきましてアメリカ、イギリスではおもに心臓病で死亡しておりますが、わが国では脳卒中によって死亡していることが明瞭にわかります。
 このような地域によります死亡率の著差は、単に世界各国との比較で問題になっているだけではございませんで、諸先生のお話にありましたように、日本国内における脳卒中の死亡率にも、これが顕著な地域差を認めることができます。
 その点は、資料の第四に県別脳卒中の死亡率をしるしてございます。特にこの中で注目すべき問題は、東北地方におきます脳卒中の死亡率で、年齢を三十歳から五十九歳に限定して見ますと、大阪の該死亡率の二倍になっております。東北地方の方々がもしかりに大阪と同じような条件になり得るならば、現在の状態の半数に死亡が激減することができるわけでございます。このような年齢での脳卒中の死亡率が特に東日本に高くて、西日本に低いということは、この図をごらんいただけば明瞭になると思います。
 以上のような点からいたしまして、次のような二つの点を強調いたしたいと思います。
 第一は、東北地方におきましては、このような脳卒中による死亡が、ちょうど早死にとなってあらわれておりますことでございます。東北地方における脳卒中の死亡率が、四十歳並びに五十歳という中年期の、われわれにとって最も大切な時期に多数死亡しているという問題でございます。
 それから第二の問題といたしましては、東北地方をさらに詳細に調べてみますと、町村単位で死亡率の高いところと低いところが入りまじっておるということでございます。
 日本全国で注目すべき点は、さらに女子に比較いたしまして男子の脳卒中死亡率が高いということでございまして、これは厚生省の統計にもすでにあらわれておりますように、昭和二十五年と三十八年を比較いたしますと、男子におきましての死亡率はむしろ年次推移的に増加しておりますが、女子における死亡率はかえって減少しておるような状態がございます。
 さて、このような日本における脳卒中の多い理由といたしまして、何よりも考えられる問題は、日本人の生活習慣に原因があるということが予想されまして、これに関する多くの実験的研究等がなされております。その結果といたしまして、先ほど諸先生のお話にもありましたように、食塩のとり過ぎであるとか、労働条件であるとか、あるいは寒冷等が血圧を上昇させるというような報告がございますが、近年この方面の疫学的研究が進んでまいりまして、日本人の生活習慣を各種の統計資料や実態調査成績に基づきまして種々解析が試みられてまいりました。
 資料の五をごらんいただきたいと思いますが、これは弘前大学の医学部の佐々木教授がお調べになったものでございますが、府県別の単位で、農民一人一日当たり食塩摂取量と脳卒中の死亡率との相関関係が示されてございます。見ておわかりになりますように、食塩摂取量の多い府県が脳卒中死亡率が高いという傾向が見られております。
 これと同様のような方法で、日本人の生活習慣や環境条件の中のいろいろの因子と脳卒中死亡率との関係を調査して、多くの研究の結果をまとめてみますと、現在までにおよそ次のようなことがわかっております。
 まず、食生活におきましては、農民栄養調査成績によって、食塩の摂取量、特にみそ汁からの食塩の摂取量その他野菜及びつけものからの食塩の摂取量、及び調味料、おもにしょうゆでございますが、これの使用量等の問題でございます。こういうような地域において脳卒中死亡率が高いという事実、それから国民栄養調査成績におきまして、総摂取カロリーあるいはたん白質、脂肪、含水炭素の大量摂取地域に血圧が高いということ、それからビタミンCの大量摂取地域が血圧が低い傾向にあるということ。それから米の大食をするところが脳卒中の多発と関係があるらしいということ、さらにお酒の問題もございまして、酒を毎日飲む男子の血圧が対照に比しまして有意差をもって高いということ、それからまた、メタ珪酸の含量の多い地方、あるいは硫酸根に対する炭酸根の比の高い地方、あるいは川の魚の中のカドミウムの含量の多い地方に脳卒中の多発する傾向が認められていること、東北地方におきましてはリンゴ栽培地帯の血圧が低いということ、脳卒中死亡率が同時に低いということ等が指摘されております。
 次に、環境条件中の特筆すべき問題は気温でございますが、平均気温の低いほど脳卒中の死亡率は高い傾向があり、特に冬季の卒中死亡率が高率になっております。
 さらに労働につきましては、脳卒中死亡率が農林漁業従事者に高いということ、農家の一人当たりの耕地面積の多い地域ほど脳卒中の死亡率が高いということも報告されております。
 以上は、既存の各種の統計資料を主とした諸家の研究の総括でございます。
 これに対しまして、厚生省では、昭和三十六年と三十七年の二回にわたりまして、全国各地に住む三十歳以上の社会人を対象にして、世界でも珍しい集団検診による成人病の基礎調査を行なっております。日本における高血圧、脳卒中、心臓病の有病率の実態を調査されております。この成績の詳細はすでに厚生省から発表されておりますが、概略の中で特に注意すべき問題は、昭和三十六年、全国で三百地区を抽出して、三十歳以上二万八千六百十二人、三十七年度には百十四地区を調べまして、四十歳以上七千百四十一名を対象に血圧の測定、心電図の検査、眼底の検査、尿たん白検査を実施いたしましたところ、一般に高血圧とされますもの、最高血圧一五〇以上、最低血圧九〇以上の者が全体の二六%に認められ、四十歳以上の全国推計で八百七万人高血圧者があるという数字が出ております。
 さらに心電図検査におきまして明らかな異常を認められたるものが、四十歳以上で八・五%、異常を疑われるものを含めますと五三・一%、脳血管の病変を最もよく反映するとされております眼底検査におきましては、高血圧者の約三四%に何らかの異常を認め、直ちに医療を必要とする者が三%、数にいたしまして二十四万人推定されますが、こういう人が考えられたのであります。
 また、同時に行いました脳卒中の発作の既往のある者の調査では、全国推計で三十一万人ありまして、六十歳未満はその二六%で八万人、三十歳代でも数千人の発作既往者の存在が推計されております。これは先ほど大島先生のお話しになられた問題と関連したことでございます。
 脳卒中の予防対策について申し上げますと、まず第一に、脳卒中の発作は、それ以前に長期にわたった血圧の高進に伴って起きてくること。第二には、日本の脳卒中死亡率が諸外国と比しまして特に高率であるということ。第三に、しかも日本と西欧諸国とでは循環器系の死因中の脳死と心死の割合が逆になっておるということ。日本のみが脳死の比率が心死の二倍以上であるということ。四番目に、日本国内においても脳卒中の死亡率に著明な地域差が見られるということ。東北地方が特に高率であるということ。五番目に、東北地方の脳卒中の死亡は四十歳、五十歳代という中年期で非常に多発しているということ。六番目に、高血圧、脳卒中の原因として食塩、寒冷、労働等、日本人の生活習慣に根ざす多くのものが指摘されているということであります。
 この中で、特に強調いたしたいのは、脳卒中が特に東北地方を中心に多数日本人、特に四十歳から五十歳代という人生の中途で早死にさしているという事実でございます。脳卒中対策の重要性は実にここにあると思います。もちろん、言うまでもなく人間は必ず死ぬものであります以上、別にその死因による死亡者の数の多いことをもって重要なるものというわけではございません。しかしながら、ここに申しますように、脳卒中の場合におきましては、特殊地域の方々が人生の中途で命をとられるということ、これは重大なことであります。
 このことから考えますと、日本における脳卒中予防対策の目標は、まず第一に、日本人を脳卒中で早死にさせないようにすること。脳卒中で死亡することが避けられないにしても、この発作をできるだけおくらせる必要があります。同時に、地域差を重視し予防対策を考慮することであると思います。
 資料の六に、大阪と秋田の高血圧患者の出現頻度を示してございます。秋田がいかに多いかということがこれをもってわかります。さらに諸外国と日本における循環器疾患の実態の相違に留意いたしまして、日本における予防対策は日本独特のものを考え出す必要があると思います。
 これについて次の二つの根本方針を樹立すべきであると思います。一つは発病の防止、それから次には発作の防止でございます。前者のほうは、日本人は町ぐるみあるいは村ぐるみ、地域ぐるみに初めから血圧が上がらないようなくふうをさしていくこと。後者につきましては、高血圧者に対しまして脳卒中のような危険な合併症を起こさせないような予防をすることでございます。巷間多く行なわれております集団検診はこの後者の問題の対策でございます。
 このような発病防止と発作防止は、ややもすると混同されがちでございますが、具体策立案上区別して考える必要がございます。
 発病防止の具体策を申し上げてみますならば、まず日本人の生活習慣を全体として変えていくくふうが必要だと存じます。前述の疫学調査によって判明いたしました食塩、みそ、調味料、つけもの、米等の過剰摂取をやめさせ、寒冷、過労等の血圧を上げ脳卒中に結びつく因子を除去することでございます。さらに積極的には、リンゴあるいはビタミンC等の血圧を下げる役割りを持つと思われるものを生活の中に取り入れさせることもくふうすべきであります。この場合注意すべき指導の方法といたしまして、単に食塩をとるなとか、みそ汁を飲むなとか、あるいは飲み過ぎるなとか、あるいは米食を制限せよといったような型にはまった方法でやるべきではなくして、むしろ米を大食しなくてもよいような、また食塩を余分に使わなくてもよいような、食生活全体の型を変えていくということが必要であると思います。寒さにつきましても、冬あたたかくせよというような個人的な指導にとどまらないで、こたつのような暖身からストーブのような暖房に変えていくというようなことが一そう大切であると思います。過労の問題でも、農業労働の形態全体を変えていくくふうにまで結びつく必要があります。そして、このような対策は医療担当者が主体となるというような問題よりは、むしろ広い範囲の職種の人々の共同によって国家的なレベルで対策すべきものと考えます。われわれ公衆衛生に関係している者は、このような場合において最も適切な水先案内的な役割りを果たすべきだと考えます。たとえば、生活形態の変化によりまして脳卒中が減少いたしましても、たとえばアメリカ式な状態における心臓死が著増するというようなことでは何の意味もないわけであります。このような意味からしまして、この指導に公衆衛生従事者の役割りは重大であると思います。
 次に、発作防止の具体策を申し上げますと、前述の成人病基礎調査によれば、全国で約八百万人以上の血圧の上昇を疑われる人々の存在が推定されます。この人々が脳卒中、心筋梗塞等の発作をめぐりましてどのくらい危険な状態にあるかということを診断いたしまして、生活指導、食餌制限、労作制限あるいは薬物療法等を通じて継続的にその健康を管理していくことにあると思います。したがって、健康管理の範囲を拡大いたしまして、官公庁や大企業のみならず、さらに中小企業や、あるいは全国各地の農山漁民の人までもこれが行き渡るようにすべきであると思います。
 最も標準的に行なわれております健康管理の方法は、四十歳以上を中心に年一回ないし二回血圧を測定し、さらに高血圧者を主として心臓血管の変化からくる異常を心電図、あるいは脳の血管の病変を眼底検査で、あるいは腎臓の状態を尿たん白検査で調べるというような方法がございます。
 この結果に基づきまして、被検者はその危険の程度に応じて程度分けをされ、それに応じた生活指導、労作制限、食餌指導、薬物療法が公衆衛生並びに臨床各方面の専門家の協力のもとに行なわれていくべきだと思います。
 以上、全国各地の健康管理研究者の十余年にわたります実際的の集団検診活動を通しまして、日本の循環器疾患の特異性に対する日本独自の予防対策の概要を紹介申し上げましたわけでございます。
 以上、このような問題につきまして、少し資料として、私たちが眼底所見の検診をいたしましたものを持っておりますので、もし時間等がありましたならばお目にかけたいと思います。
 以上、たいへん時間を超過いたしましたが、私の報告を終わりたいと思います。
#12
○原委員長 どうもありがとうございました。
 以上で参考人からの御意見の陳述は終わりました。
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#13
○原委員長 質疑の通告がありますのでこれを許します。前田正男君。
#14
○前田(正)委員 ただいま参考人からたいへん貴重なお話を伺いましたが、実は、委員長のお母さまも脳卒中でなくなられましたし、私も母が脳軟化症でなくなったわけでございますので、たいへん身近にこういう問題を感じております。
 先ほどからもお話しのとおり、わが国におきましても、死亡原因の第一位を占めるという国民病として大きな問題であると思うのでありますけれども、お話を伺っておりまして、どうもまだいろいろ学説の固まっていないものがあるとか、あるいはまた、それに対する原因の究明の問題でありますとか、あるいはまた、それに必要な教育とか施設が不十分であるとか、あるいは予防対策の推進の問題であるとか、どういうふうな問題が総合されて、統一的に強力に推進されておるようにちょっと感じないのでございます。実は、私たちの特別委員会は、もういまから三、四年前だと思うのでございますが、まだ世の中でガンの問題があまり騒がしくなります前でありましたけれども、ガンの死因が非常にやかましいということを聞きまして、この委員会に参考人に来ていただきましてこの問題を取り上げまして、その結論として、ぜひひとつがんセンターみたいなものをつくる必要があるのじゃないかということをこの特別委員会で決議をいたしまして、強く推進をいたしまして、ようやく厚生省に、ガンの日本の一つの中心になるようながんセンターができ上がってきたわけでございますけれども、今日の話を伺っておりますと、そういうがんセンターがはたしてガンの対策に十分力を尽くしているかどうか、私はよく存じませんけれども、まあ、一応そういうものができておりますけれども、ガンよりも死亡率の多い国民病として、特に外国に比べても非常にそういう可能性のあるものが、そういうがんセンター式な総合的な治療をしながら、同時に研究をし、同時に、先ほどお話のありましたいろいろの予防対策とか、あるいはさらに進んで、それのリハビリテーションのような対策の問題までのいろいろな総合的な推進、これは一ところでやるわけにはいきませんけれども、そこが中心になって、各方面の大学だとかあるいは病院だとか、あるいはいろいろな公的、私的な機関にお願いをする、そういう中心的なものがどうもないように思うのでございますけれども、その点について、まず冲中参考人に御意見をひとつ伺わしていただきたいと思います。
#15
○冲中参考人 ただいまたいへん適切なおことばであったと私拝聴いたします。私、先ほど問題の点を申しましたし、ほかの方から非常に詳しく対策などについても御発言がありましたが、確かにこの問題は、一方において研究所、大学などで原因を科学的に究明するということが非常に大事である。それからもう一つは、いま申しました予防、それから治療の段階でのリハビリテーションなど、そういう連続的な、病気に関係した対策が必要で、これが全体としてまとまった研究あるいは対策、方策というものがとられれば最も効果的ではないかと思います。ガンの対策はもちろん非常に大事でございまするが、成人病の中でも、血管性の障害の問題は日本人にとっては特にまた重要でございますので、そういった方向への国として具体的な方法と申しますか、そういったものをお考えいただければ非常にありがたいことだと思います。
 私は臨床家として一言つけ加えさしていただきますが、こういう血管性障害は、予防と、あるいは治療とかリハビリテーションと申しますか、これが非常に効果があるものです。もちろん、ガンにしても何にしても、早期診断とかいろいろのことがございまするが、現在の段階でも、動脈硬化疾患というものは、そういうなりやすい傾向の人というものを早く見つけて指導すれば、悲惨な状態にならないで済む。あるいは、不幸にしてなっても、その治療のしかたによっては一社会的な活動もある程度できる。現在の段階でも、指導のしかたによってはかなり効果のある病気であると思います。そういうこともあります。しかし、一方、原因的な究明ということが非常に大事でございますので、そういうものを含めまして、一つ中心的な機関というものがあるということは非常に大事だと思います。要は、だんだんと老人層がふ、えてきますにつれてこういう病気もふえてきます。従って、ただ長生きしているというだけではだめなんで、精神的、肉体的に、年に応じた健康状態を維持して、年齢に応じて適当な仕事をし、かつ楽しんで社会に貢献できる、そういう形にぜひ持っていくことが、国家全体の利益と申しますか、そういった観点からもこれは将来ますます有意義になるのではないか、こういうふうに私は感じまして、ただいまのおことばにたいへん賛意を表する次第であります。
#16
○前田(正)委員 厚生省からお見えになっておられるようですから、これは医務局長さんのほうか、公衆衛生局長さんのほうか、ちょっとわかりませんけれども、いま申し上げましたような早期発見といいますか、予防とかあるいは対策、あるいはさらに、場合によれば国民に対する予防的な処置のいろいろな指導とか、あるいはまた、そういういろいろな施設の問題とか、さらに根本的な原因の究明とか、そういったようなことで、いまのがんセンターが指導しておるように脳卒中に対しましてのそういうセンター的なものをつくろうというような計画がおありなのかどうか。どちらの局長が担当か、ちょっと私はわかりませんけれども、ひとつお伺いいたしたい。
#17
○若松政府委員 成人病といたしまして、国民の死因の第一位になっております中枢血管障害につきましては、そのことの重大性にあるにかかわらず、いわゆる公衆衛生対策あるいは医療対策としての体系ができていないということは、おっしゃるとおりであります。近年国民の寿命が延びまして、老人の数が多くなり、老人性疾患が多くなったということに付随いたしまして、当然一番大きな問題はこのような中枢血管の損傷、それから悪性新生物、いわゆるガン、それから各種の新陳代謝性疾患としての糖尿病というような問題が、世界各国ともいわゆる老人病対策として取り上げられてまいったのでございますが、わが国におきましても、事の重大性から、いわゆる老人病対策というような意味から、いろいろな基礎調査をここ数年来やってまいっている段階でございまして、ガンの全国的な調査であるとか、あるいは先ほどのお話にも出ましたように、血圧の国民的な調査であるとか、あるいはそのほか、国民の中でそういうような障害のためにどの程度のリハビリテーションを必要とするか、あるいはそれに対してどのような医療が加えられているかというような実情の調査が現在進んでいる段階でございます。ただ、その中でガンだけがいち早く伸びまして、これは世論のバックといいますか、そういう関係からガンがいち早く伸びたという状態でございます。なお、高血圧あるいは中枢神経系の問題につきましては、ただいまお話がありましたように、比較的対処しやすい問題が多々あるわけでございます。学問的な究明はさることながら、応急に対処しやすい問題があるのでございますが、そういう点、予防施策といたしましては、保健所等を中心にいたしまして、いわゆる血圧の検診あるいはそれに伴う指導ということが体系化されてしかるべきものと存じておりますが、この点がなお現在保健所職員等の手が結核その他の伝染病等のためにあまりとられ過ぎて、十分に手が回らないということが実情で、なかなか進みかねておる。医療機関の問題につきましては、リハビリテーションの問題も含めまして、最近は各種の一般病院におきましてリハビリテーションの施設等がかなり整備されてまいっております。リハビリテーションの専門病院といいますと、大島先生のおっしゃいましたように、ごくごくわずかでございますけれども、一般病院の中でリハビリテーションを行なう部門、つまり理学診療科というような特別の科を標榜いたしましてリハビリテーションを行なっているところは逐次増加いたしております。ただ、これも御指摘がありましたように、これが保険の点数として適当に評価されていないためにこの進展がはばまれているというような点もございまして、これらの点については、近い将来に点数改定等の機会を待ちましてこれに善処する心組みで現在やっております。なお、これらの脳中枢疾患あるいは心臓を含めまして循環器研究所というようなものをつくりたいという気持ちは私どももかねがね持っておりますが、何ぶんにもがんセンターの整備あるいはガン治療施設の整備等が先に進みまして、資金的な関係で一挙に並行してということがなかなかできかねる状態で、おくれているというのが実情でございます。
#18
○前田(正)委員 いまのお話のようにいろいろと調査研究されたり、各医療機関、診療所を通じて十分な対策を講ずるということで御努力されておるようでありますが、ただ、いままだその方面は、いま参考人にお話を聞きますと、不十分でございますから、進めていただきたいと思うのでありますが、同時に、私、科学技術のほうの立場から考えますと、いま最後にお話がありましたが、国立研究所といいますかセンターというか、自分で治療しながら同時に学問的な、それは各大学等で基礎的な研究をされますけれども、それをまた総合した研究を推進して、それからそれに必要な対策というものを考えて、それをまた教育機関に移しかえ、診療機関、医療機関に移しかえていく、こういうような中心的な機関、それはセンターという名前でも国立研究所という名前でもいいでしょうけれども、われわれはぜひそれが必要だと思ってがんセンターというものを推進させてもらったのです。それがどれだけ効果をあげているかよくわかりませんが、私どもの感じでは、科学技術的な立場から見るとどうもそういう総合的なものが必要ではないか。さっき、大島先生だったと思いますけれども、お話のありました中に、医学の教育と理科学方面の教育との合致がうまくでき得ないというお話があった。私たちも最近そういうことをいろいろな方面で聞くのでありますけれども、これなんかもやはり、きょうは文部省の方もお見えになっておられますけれども、普通の学問体系からいうと変更というのはなかなかむずかしいのじゃないかと思うのです。しかしそういうセンター的なところでそういうものの実験でデータ的なもの、実際の実用的なものをどんどん出していかれると、学問体系としてもそういう医学的なものと理科学的なものを合わせたような一つの学問体系というものをつくり上げていかなければいけないのじゃないか、こういう科学的な観点ができ上がってきて、そういう基礎的なものができてくると、今度は文部省としても取り上げて学科の中に入れていきやすい、こういう結果にもなってくるのじゃないかと私思うのです。ひとつそういうふうなものをつくられたらいいのじゃないかと思うのですが、幸いに文部省の方も来ておられますのでお聞きしたいと思うのです。
 いま話が出ております教育の方面の問題を二つ大島先生から指摘しておられましたが、一つは、そういう医学と理科学的な問題、治療的な学科をどうされるか、もう一つは、リハビリテーションのような、そういう方面に対する教育の方面をどういうふうにして充実しようか、こういう問題をお話しておられたと思うのです。それに対して、また別の参考人の方が、脳卒中に対しては科学研究費のほうから相当研究費を総合的に出しておるのだ、こういうふうなお話もあったのですが、厚生省の対策のお話を伺うために、続きまして文部省の現在の対策のお話をちょっと聞かしていただきたい。
#19
○岡野説明員 初めに脳卒中の研究について申し上げます。
 文部省では、脳卒中の研究を含めた脳の研究を重点的に取り上げることにいたしておりまして、過去三年間科学研究費の中で特定研究ということを脳についていたしました。昭和三十九年度から本年度までに総額一億五千万円の研究費を出しております。このほかにも、冲中先生を中心とした脳卒中の成因、特に日本人の特殊性というようなグループがございます。それから名古屋大学の岡田教授を中心として、脳卒中の予防に関する疫学的研究というような研究グループがありまして、それぞれ非常に活発な研究を行なっております。文部省といたしましては、この特定研究をさらに継続して重点的に取り上げたいという考えでございますが、学術会議の中に脳研究連絡委員会というのがございまして、そこの委員長である小川名誉教授と東大の時実教授から、これは脳全般についてでございますが、特に今後三年間は脳の障害という問題に焦点をしぼって研究を続行したいというお申し出がございます。こういう研究費を継続して出すということは、非常に弾力的でもありますし、非常に効果的であるというふうに考えておりますが、ただ研究費だけでは人員が伴わないわけでありまして、それで各国立大学の医学部から脳の疾患に対して研究施設をつくってくれという御要望が非常に強くなっております。過去この数年間にそういう要望を取り上げまして、全国九つの医学部に脳に関する研究施設をつくっております。特に脳卒中そのものにつきましては、特に東北地方に多いということで、弘前大学の医学部に脳卒中の研究施設というのを四十年度に発足させたような事情でございます。こういう問題にどう対拠するかということでございますが、文部省では文部大臣の諮問機関に学術研究体制審議会というのがございまして、その中に脳の小委員会をつくっております。各大学の御要望を勘案しながらかつ全国的な立場でこれからの脳研究の推進について御審議をわずらわしておるところでございます。
 それからもう一つ、大島先生のお話の講座の問題でございますが、これはやはり医学教育のカリキュラムの問題にかかるわけでございまして、御指摘のようなうらみがあるかと思いますが、これはぜひ医学部長会議あたりのほうで問題にしていただかないと、文部省ですぐ講座をつくれというわけにもまいりませんので、これはやはりいま御指摘のような新しい学問体系をつくり上げるというようなお気持ちで、まず関係者のほうで啓蒙普及というようなことからスタートしていただきませんとならぬ問題じゃないかと考えております。
#20
○前田(正)委員 きょうは幸い上原国務大臣も御出席のようでございますから、先ほど来私の質問に対しまして参考人とかあるいは役所の方面からのお話がありましたけれども、いま脳卒中というものは国民の死亡率で一番高いものでございまして、ガン対策と同様に、相当国家として対策を推進すべきだと思います。いろいろと対策は、先ほど来厚生省のほうからも各方面に非常な努力をしておられる、あるいは文部省としても学問的に努力しておられるということでありますけれども、私が最初に指摘しましたように、やはりどうも新らしい学問体系をつくります上からいっても、あるいはまた総合的な研究をまとめていく上からいきましても、あるいはまた、これらの対策を推進していく点から見ましても、あるいはまた、予防対策等について国民的な普及をするとか、あるいはまた、そのあとのリハビリテーションに対するいろいろな問題とか、そういったようなものを個個に取り上げて骨を折っておられますけれども、やはりこれを総合センターみたいなものを、国立がんセンターみたいなものをつくりまして、それを中心にしておのおの権威のある方がおのおの専門の勉強はしていただかないといけませんけれども、またそういうセンターが体系的にまとめて、この方面を推進していかなければならないというものは推進していくというふうに、国家的に力を入れていくべきものではないか、私はこういうふうに考えるのであります。さきに、われわれの特別委員会ではそういうことに対して、ガン対策として力を入れて、そういう総合センターをつくることに尽力をさせていただいた例があるのでありますが、幸いきょうこの特別委員会で脳卒中の問題を取り上げまして、われわれ科学技術の立場から見ると、やはり科学技術と実際とがつながるような、そういう中心的なものをつくり上げていくのが大事ではないか。厚生省も希望はしておられるらしいけれども、予算的にむずかしいというようなお話をしておられるわけですが、幸い国務大臣も御出席でございますので、こういうものを政府として強力に新設していく、そういう対策を強力に取り上げていくべきじゃないかと私は思うのでありますが、ひとつ上原国務大臣の御答弁をお聞かせ願いたいと思います。
#21
○上原国務大臣 先ほどからお話を伺っておりまして、たいへんごもっともな御意見だと感じておる次第でございますが、いますぐと申しましても、何しろ予算上も法制上もゆとりがございませんから、御趣旨を体しまして大いに努力をいたしたいと、かように考えておる次第でございます。
#22
○原委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、本問題調査のためたいへん参考になりました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。
 本日はこの程度にとどめ、次会は明二日木曜日午前十時より理事会、午前十時三十分より委員会を開くこととし、これにて散会いたします。
   午後二時五十三分散会
ソース: 国立国会図書館
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