くにさくロゴ
1947/09/20 第1回国会 参議院 参議院会議録情報 第001回国会 本会議 第32号
姉妹サイト
 
1947/09/20 第1回国会 参議院

参議院会議録情報 第001回国会 本会議 第32号

#1
第001回国会 本会議 第32号
昭和二十二年九月二十日(土曜日)
   午前十時二十一分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
 議事日程 第三十一号
  昭和二十二年九月二十日
   午前十時開議
 第一 國家賠償法案(内閣提出、衆議院送付)
 第二 裁判所予備金に関する法律案(内閣提出)(委員長報告)
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議長(松平恒雄君) 諸般の報告は御異議がなければ朗読を省略いたします。
     ―――――・―――――
#3
○議長(松平恒雄君) これより本日の会議を開きます。昨十九日、財政及び金融委員伊藤修君、司法委員平野成子君より、それぞれ理由を附して委員辞任の申出がございました。許可することに御異議ございませんか。 
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#4
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。つきましては、その補欠として下條恭兵君を財政及び金融委員に、中村正雄君を司法委員に指名いたします。尚本日在外同胞引揚問題に関する特別委員村上義一君より理由を附して委員辞任の申出がございました。許可することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#5
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。つきましてはその補欠として岡元義人君を指名いたします。
     ―――――・―――――
#6
○議長(松平恒雄君) 今次水害による被害状況報告のため、運輸大臣より発言を求められております。この際発言を許可いたします。苫米地運輸大臣。
   〔國務大臣苫米地義三君登壇、拍手〕
#7
○國務大臣(苫米地義三君) 今回関東、東北を襲いました水害につきまして、運輸省所管の状況を御報告申上げたいと思います。
 先ず第一に、台風と鉄道被害の状況でありまするが、この度の台風の特徴は、その移動の速度が緩慢でありまして、降雨時間が長かつたこと、風は最高二十米くらいで左程強いものではございませんでありましたが、雨量が非常に多かつたこと等が挙げられております。その結果、我が國最大の水害をもたらしました明治四十三年八月の豪雨に匹敵する雨を、主として関東の北部及び西部に降らしたのでありまして、最もひどかつた秩父におきましては実に六百十一ミリ、即ち坪当り十一石二斗という数字を示しておるのであります。これによりまして、利根川、荒川、北上川等の氾濫となり、このために國鉄の受けました被害は、現在判明いたしましただけでも八百七十八件に及んでおります。築堤の崩れたもの百七十六件、線路の流れたもの二百三件、橋桁の流れたもの十六件に及んでおります。これらの被害につきましては、関係従業員は直ちにその復旧作業に掛り、晝夜兼行で工事を進め、着々回復いたしておるのでありまするが、その主な不通区間を申上げますると、東北本線は二ヶ所ございますが、その中、小牛田、水沢間が二十四日開通の見込でございます。久喜、栗橋間は、利根川の堤防決壊が修復できない限り復旧は困難でありまして、只今のところ、その開通は不明であります。上越線は高崎、石打間の被害が最も甚しくありまして、その個所も非常に多いので、復旧に手間取りますが、十月十五日頃開通の見込でございます。常磐線は、水戸、大甕間の被害個所は二十三日中には復旧の見込でございますが、水戸までの運轉は一時可能でありましたけれども、昨日金町附近の増水によりましてこの開通は中止されました。中央線は大月、初狩間でありますが、被害が多いので、これ亦來月の五日頃まで掛る予定でございます。奥羽線は湯澤、十文字間でありまするが、これも相当被害が大きいので、十一月一日頃開通の見込でございます。信越線だけは吹上、熊谷間の被害個所がすでに復旧いたしまして、現在ただ一つの全通線でございます。又水害による運轉事故といたしましては、常磐線において貨物列車の顛覆、日光線において旅客列車の脱線、花輪線において混合列車の脱線、顛覆がありまして、死者一名、負傷者数名を出しました。
 次に輸送に及ぼす影響でありまするが、東北、新潟等いわゆる早場米地帶との連絡が杜絶いたしましたのと、東北地方よりの薪炭輸送、常磐炭、亞炭、硫化鉱等の輸送に大なる支障を來しましたことは、誠に遺憾に堪えません。尚山梨縣下の食糧事逼迫の対策といたしましては、取敢えず身延線から自動車連絡を以ちまして緊急輸送をいたし、その他各地にトラツクを配置して應急処置を取つておる次第でございます。
 第三に、今度の水害に対する應急復旧用にはどれくらいの資材が必要かと申す点でございますが、これに対しましては、レール及び附属品は七百五十トン、枕木が四万四千五百丁、鋼材類が三百六十五トン、木材が九万二千石、セメントが七千三百トン等が主なるものでございまして、その経費は概算四億乃至五億円程度と推定されるのであります。
 第四に、回復までの諸対策としては、旅客の輸送につきましては、不通区間はできるだけ一應トラツク又はバスで連絡するようにし、又不通区間を避けまして迂回して直通列車を運轉する計画であります。例えば上野、青森間は、常磐線、水戸線、東北線、奥羽線、陸羽西線、羽越線を通りまして連絡を附け、又上野、金澤間は、上越線経由を止めて信越線経由で運轉する等のことを行うことになつております。貨物の輸送につきましては、先ず被害地方に対する救恤品、生活必需品及び應急復旧資材等の輸送につきましては、無賃又は五割引の取扱を行いまして、又不通区間の経由の貨物は極力この迂回輸送を行なつておりまして、進駐軍貨物初め主要食糧、應急物資は最優先的に輸送を確保しております。
 第五に、以上申上げましたように鉄道の主要幹線が不通となりましたので、東北、北海道と京浜地帶とを海上船舶を以て連絡し、急援物資や緊急旅客の輸送を確保することにいたしました。即ち東京、塩釜聞に黒潮丸外隻、東京、北海道間に「ときつ」丸外六隻を配船いたしまして、すでに就航を見ております。又水害地帶には特に発動機船を動員して交通に充てる処置をとつております。
 次に今度の水害では私設鉄道やバス等の被害も相当ひどく、未だ不通の線が多いのでありますが、その回復につきましては國鉄とよく連絡を取りまして、運輸省といたしましてもあらゆる協力を行うつもりでございます。
 尚水害地救援につきましては、関係各省とも緊密なる連絡を取り、被害地都縣に対しましてでき得る限り協力をいたす態勢を取つておることを附言いたします。以上を以ちまして簡單ながら今次水害の交通関係に及ぼしました状況を御報言いたします。(拍手)
     ―――――・―――――
#8
○議長(松平恒雄君) 日程第一國家賠償法案(内閣提出、衆議院送付)日程第二、裁判所予備金に関する法律案(内閣提出)以上両案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#9
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。司法委員長伊藤修君。
   〔伊藤修君登壇、拍手〕
#10
○伊藤修君 只今上程になりました法案につきまして、委員会の審議の経過並びに結果について御報告申上げます。
 先ず國家賠償法案より申上げて見たいと存じます。この法案は御承知の通り憲法附属の重要なるところの法案でありますので、委員会といたしましては、文字通り愼重審議これが審議をいたした次第であります。七月十日、二十六日、二十八日、八月十三日、二十七日、九月十七日と、以上六回本委員会を開催いたしました。又小委員会といたしまして、八月十五日、「八月十六日に開催いたしました。又治安及び地方制度委員会との連合懇談会を一回、九月十六日に催した次第でありまして、又委員会におけるところの懇談会を二回催した次第でありまして、以上通計いたしまして、十一回の審議を重ねて参つた次第でありますから、その間各委員の御発言は相当多量なものでありまして、その内容におきましても貴重なる御意見が多々あつた次第であります。先ず松村委員、松井委員、小川委員、山下委員、岡部委員、齋委員、大野委員、鬼丸委員、阿竹委員らの各氏より十分なる御質疑がありまして、これに對しまして司法省におきましては、鈴木法相並びに奥野民事局長より詳細なる御答弁があつた次第であります。この内容は実に数万言に達しまして、この要旨をここに掻い摘んで申上げるのみでも数時間を要する次第でありますから、甚だ遺憾ではありますが、この質疑應答の内容につきましては速記録に讓りまして、ここにはこれを省略さして頂くことを御了承賜わりたいと存じます。
 憲法第十七條に、何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたる場合は、法律の定めるところによりまして、國家又は公共團体に対し、その賠償を求むることができる旨が規定せられておる次第であります。これは從來國家が公権力を用いる場合は、即ち「王は惡をなさず」と、こういう法律的な公法上の観念からいたしまして、いわゆる斬捨て御免であつだのであります。國家はその公権力の下に國民に行爲不行爲を強いまして、その結果損害の生じた場合におきましては、國家はこれに対しまして、特別な規定のない限りは賠償いたさなかつたのであります。然るに日本國憲法におきましては、民主主義の徹底と基本人権の確立、この二大原則の徹底を図る意味からいたしまして、この憲法第十七條が規定せられました次第であります。この國家賠償法なるものは、この憲法第十七條の骨組に対しましていわゆる肉附けをいたす法案でありまして、誠に重要なることは申すまでもない次第であります。憲法第十七條によりましてこの法案が立案せられましたのでありますが、從來におきまして國家がそれでは賠償しなかつたかと申しますれば、從來におきましても、公証人法、或いは執達吏の場合、戸籍法、こういうような特別の法規におきましては、僅かに国民の権利擁護のために賠償責任を認められた場合があるのであります。又郵便法におきましても、時代遅れの規定が設けられておる次第であります。かような從來の不合理極まるところのものを、ここにはつきり單行の法律といたしまして規定するという所以のものは、我が國が民主主義及び基本人権の確立を達成せんとするところの熱意に外ならないと確信する次第であります。故にこの法案に盛られておるところのものは、本來民法において規定せられても亦よいのでありましようが、前言申上げまするごとく、法案の重要性に鑑みまして、ここに單行法律として立案せられましたような次第であります。
 先ずその第一條から御説明申上げて見たいと存じますが、第一條におきましては國家又は公務員が、故意又は過失によりまして違法に他人に損害を加えたる場合におきましては、國家又は公共團体は、これに対しまして賠償の責任を有する。その第二項におきましては、公務員に対しまして、國家又は公共團体はその賠償した場合におきまして求償権を持つ、こういうことが第一條において規定せられておるのであります。この法律案の最も生命とするところはこの第一條であるのであります。憲法第十七條におきましてさように立派な規定が置かれましても、それが骨抜きになるか、実際において憲法の趣旨が徹底せらるるかということは、この第一條の規定の内容いかんによつて定まる次第であります。故にこの点に委員会といたしましては論点を集中いたしまして、深く掘り下げて研究いたした次第であります。故に原案通りといたしますれば、故意又は過失という主観的要件に伴いまして、違法にという客観的要件を具備しなかつたならば、國民はそこに損害が生じたた場合におきましても、國家又は公共團体に対しましてこれが賠償を要求することができないのであります。然るに実際の場合におきまして、故意又は過失という公務員がさような主観條件を具備しておつたかどうかということを挙証することは、なかなか実際問題として困難であります。殊に客観的要件の場合におきまするところの違法という問題に対しましても、これ亦非常に困難なるところの要件であるのであります。故にこれに対しまして委員会といたしましては、むしろこれを無過失責任に持つて行つた方が憲法第十七條に規定するところの趣旨を普く徹底することになるのではないか、こういうような意見があつたのであります。これは最も進歩したところの法律理念でありまして「理想といたしましては、この方向に將來とも損害賠償の基本観念を進めるということは、全く賛成せられるところであるのであります。今日の日本の情勢から考えまして、若しさような飛躍的な、理想的な法規を定めるということになりますれば、それによつて國家が多大なるところの負担を負わなくてはならんという結果を昭來するということが予見せられるのであります。何となれば濫訴は勿論起り得るところであります。又苟くも損害がありますればそこに國家の責任を認めまして、これが賠償請求の場合におきましては、國家が幾許の、幾数千億の予算をここに計上いたすと難も、この賠償に應じ得ないというようなことをも予見せられることになるのであります。かたがた以ちましてかような大きな結果をもたらす場合におきましては、公務員は自然に行政行爲の運用に当りまして臆病なり、控え目になるということになるようなことをも招來せられることが予見せられるのであります。かような状態になつて参りますれば、いわゆる牛の角を矯めてその牛を殺すという譬に洩れすいたしまして、法は理想的に構成できるといたしましても、実際の運用の面におきましてこれが非常なる障害を來し、今日の日本の財政の面から考えましても由々しき結果を招來することが予見せられる場合におきましては、我々政治家といたしまして、この点に対しまして遺憾ながら原案につきまして賛成せざるを得ないような状態に立ち至つたのであります。本來申しますれば、故意、過失という主観條件を除く、或いは違法という客観條件を除く、こうした方がこの法案の理想であります。例えば違法という條件がありますれば、檢事が不法に勾引をいたし、逮捕状を発した場合におきまして、その逮捕状を発する権限は檢事は適正に持つておるのであります。この場合におきまして、その檢事が故意若しくは過失の主観條件を具備しておつたかどうかということを証明するにあらざれば、この第一條を以て國民は損害賠償を請求することができないのであります。故にさようなことはなかなか賠償を請求する実際問題として困難である、從つて少くとも違法という観念をここから除いてはどうか、こういうような意見を度々繰返したのであります。政府当局といたしましては、この点に対しまして、憲法は、不法行爲ということを明らかに明記しておる、その不法行爲の観念は民法の即ち七百九條の見出しにあるところの「不法行爲」をここに取つて以て規定してあるのでありますから、民法第七百九條のいわゆる他人の権利を侵害しだという場合に正に相應するものでありまして、これは特段に違法という文字に意味を附けたものではないのである、こういうように極力これに対するところの弁解をせられたのであります。要するにこの違法は、民法七百九條に掲ぐるところの権利侵害より多少廣い意味においてこれが表現せられておるのであります。今日立法の形式といたしましては、権利侵害ということを、違法という文字を以て表わすという傾向にあることは、我々も承知しておりますが、この特別法におきましてかような文字を使用することは、実際これを運用するところの人々において、その趣旨が十分咀嚼せられてその完璧を期することを得ないというような危惧も我々に抱かれるのであります。從つてこの点に対しまして十分討議を重ねた次第でありますが、政府当局は、極力これに対しまして弁解に努められまして、即ち違法というこの文字の表現は、只今申上げましたごとく七百九條の権利侵害に相應するものであつて、客観的にその行爲が違法である、不正である、そういう場合は即ちここに違法となるのである。或いはその行爲自体は、例えば檢事は勾引状を発する、こういう場合にその行爲自体は正に適法行爲である、併しながらそこに故意若しくは過失というものが主観的に加わつた場合におきましては、これは客観的に見まして、その逮捕状を正当に発しました場合におきましても、尚且つ客観的にこれが違法性を認められるという意味合にこれを解釈すべきものだということを言明せられたのであります。又ここに違法という文字を特に掲げたゆえんのものは、即ち不法行爲の成立の場合におきましては、違法を阻却する場合におきましては、國家若しくは公共團体におきまして損害賠償の責任を負わないのであります。その意味からいたしましても違法阻却の本体を明らかにするために、ここに時に違法という文字を使用したのである、こういうような御弁解がありました。これに対しまして、いわゆる今日の日本の法律の体系から申しますれば、全般に亙りまして過失主義を探つておるのである。この過失主義を飛躍いたしまして、挙証責任を轉換せしめ、延いて以て無過失責任までこの法規の立法体制を進めるということは、今日の情勢におきましては少くとも尚早であるというような御趣旨の御答弁があつたのであります。我々といたしましても前言申上げましたような今日の実情に鑑みまして、この点に対しましては、折角この法を作る以上は、完璧を期したいと考えたのでありまするけれども、さような事情によりまして遺憾ながら原案に賛成いたした次第であります。又かたがた以ちまして衆議院におきましても、この第一條に対しましては原案通り決定しておる次第でありまするから、この意味におきましても、衆議院の決議をこの点においては尊重いたしまして、止むを得ず第一條は原案通り賛成いたした次第であります。
 尚第一條におきまして、公務員がその「公権力を行うについて」とこういう規定がありますが、この「ついて」という文字は、「際して」ということよりは狹いのであります。併しながら職務行爲自体よりは廣いのであります。職務行爲自体は当然この場合に適応されます。又「ついて」と申しますれば、いわゆる関連性のある場合に、たまたま職務行爲を行う場合におきまして、個人の不正行爲があつたり、個人の不法行爲があつたりした場合に、いわゆろ本條によつて國民は賠償を請求することはできないのであります。言い換えて申しますれば、繰返して申上げますれば、いわゆる「際して」よりは狹く、行爲自体よりは廣く、いわゆる「ついて」と規定した次第であります。次に二項の趣旨は、これは多く申上げるまでもないと思いますが、二項は國家が賠償した場合におきまして、その公務員に対しまするところの求償権を規定した次第であります。併しながら國家は先程申上げましたごとく、故意芳しくは過失、過失と申しますれば、その間におきまして重過失、軽過失共に含まれるのであります。軽過失の場合におきましても、國家はその責任を負わなくてはならんのでありますが、併しながらその國家の公権力を行使するところの公務員自体に対しましては、重大なる過失のある場合に限つてのみ國家はこれに対しまして求償し得るということを規定いたしまして、公務員に対するところの親心を示した次第であります。若し公務員に対しまして軽過失までその責任を問うというようなことがありますれば、これ亦公務員の一般行政の運行の上に差支えを生ずるような結果を招來するということになります。この点におきましてこの法條は、いわゆる國家が公務員に対するところの求償権をこの範囲に限定した趣旨であるのであります。
 第二條は、いわゆる民法第七百十七條に相当するところの規定でありまして、國家若しくは公共團体が河川その他公の営造物の設置若しくはこれが管理に当りまして、その間に瑕疵がありますれば、いわゆる疵があつた場合、欠点があつた場合におきましては、それによつて損害を國民に被らせたときは、國家はこれに対して責任を負う。賠償の責任を負うということを明らかにした次第であります。この問題に対しましては、從來の判例の傾向はまちまちでありました。少くとも量近の判例におきましては、例の有名なるところの東京都下でありましたか知らんが、遊動円木事件というものがありまして、遊動円木にたまたま小学生が乗つておつて怪我をいたしました。これに対するところの父兄から公共團体に損害賠償を請求した事件があつたのであります。この有名なる遊動円木事件から大審院の判決の傾向は、國家も亦私人と同様にかような場合におきましては責任を負うのであるという判決をいたした次第であります。さような次第でありまして、必ずしも大審院の判決は一定していなかつたのであります。故にここにおきましては民法七百十七條と同趣旨に基ずきまして、國家及び公共團体のこれらの施設物に対するところの瑕疵に対して責任を負うべき旨を明らかにいたしだ次第であります。
 第三條は、これらの國家及び公共團体の責任の負担者を何人にするかということであります。これは第三條に表現せられたるところのものを以ていたしますれば、即ち設置及び管理をいたしますとこるの國家及び公共團体は、その賠償の責任を持たない。ただ俸給若しくは設置保存に当つて費用を拂う國家若しくは公共團体が賠償の責に任ずるのであると、こういうふうに費用負担者にこの賠償責任を負わしめたのであります。これは從來の大審院の判例から申しますれば、正に逆なことを規定したのであります。從來の大審院の判例から申しますれば、この場合におきましては管理をする者において責任を負うということが通例であつたのであります。然るにこの原案によりますれば費用の負担者にのみその責任を負わしめたのであります。故にこの責任に対しましては我々委員会といたしましては、第一條は讓ると雖も第三條はこれを讓ることができない。若しこの第三條まで讓るといたしますれば、これは全く憲法第十七條によりまして折角この國家賠償法案が立案せられましても、全くこの実用を爲さないことになる。國民の権利保護の上において全きを得ないことになる。こういうような趣旨からいたしまして、この第三條を修正することになつた次第であります。この修正に対しましては後程申上げることにいたします。
 第四條は「國又は公共團体の損害賠償の責任については、前三條の規定によるの外、民法の規定による。」こういうことを明らかにしておるのでありますが、これは民法によると申しましても、民法から援用するところの法規は例えば損害賠償の主体として、胎兒をすでに生れたるものとみなすとか、時効であるとか、或いは過失相殺、こういうような民法規定がここに準用せらるることと思う次第であります。かような趣旨を政府においては答弁せられておつた次第であります。
 第五條は「國又は公共團体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。」こういう規定があるのでありますが、これが今日の状態におきましては郵便法に特別に損害賠償の規定が定められて、郵便一通を紛失した場合においては何程を賠償するという規定があるのでありますが、或いは他の行政法規の上におきましてさような規定があるかも存じませんが、今日例示的に申上げますれば郵便法のごときものであるということを申上げて置きたいと思います。
 第六條は、「この法律は外國人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する」。これは国際法上少くとも國家主義の色彩が濃厚であるのであります。いわゆる相互主義に基ずくところの規定であるのでありますが、今日の東洋方面における國際情勢から考えますれば、この相互主義を探ることも又止むなき次第であるということを我々は了承した次第であります。
 附則の第六條は先程申しました公証人がその職務行爲を行う場合におきまして依頼者に対しまして損害を與えた場合におきましては、その公証人が損害賠償の責任を負う、或いは戸籍法の一部におきましても戸籍官吏がその届出人に対しまして不測の損害を被らしめた場合においては、賠償の責任を負うということが規定せられておるのであります。又不動産登記法においてもさようなことが規定されております。民事訴訟法の五百三十二條においては、執達吏の職務行爲に対しまして依頼者に対しまして損害を蒙らしめた場合におきましては、これ又執達吏が責任を負うことが規定されておるのであります。ここに國家賠償法を制定せられまして第一條に先程申しまするごとく國家が先ず責任を負い、而してその公務員が重大なる過失のある場合に限つてのみ求償するということを明らかにいたしました以上は、これらの特別法によりまして各個人が職務行爲について責任を負うということは相矛盾する次第でありますから、附則において経過法といたしましてこれらの各法律を削除いたしました次第でありまして、多く説明を申上げるまでもないことと存じます。
 かような次第でありまして委員会といたしまして第三條に対しては前言申上げますごとく、これに対しまして原案に賛成することができないのでありまして、ここに松村議員より修正案が提出せられた次第であります。第三條中「費用を負担する者が、」を「費用を負担する者もまた、」と、この「もまた」という三字を入れたのであります。そうしてその二項に「前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。」こういうふうにいたしまして、その賠償した者の間におけるところの求償権の原則をここに定めた次第であります。かようにいたしました所以のものは、大体不法行爲によつてその責任を負うという者は、不法行爲をなした者である。即ち公の営造物、例えば河川、港湾、建築物、そういうものにおいて、少くとも相当なる注意をいたしまして、瑕疵のないことを期しなくてはならん國家及び公共團体が、漫然とこの瑕疵を徒過いたしまして、よつて以て國民に対しまして損害を與えた場合におきましては、損害賠償の原理原則から申しましても、この賠償に対する責任は、その営造物を設置若しくは管理しておる者それ自体が負うべきが当然であるのであります。民法七百十七條においてもその原則を定められておる次第であります。特段に國家なるが故にその賠償責任を免がれしめるということは、私は不合理であると考えられるのであります。殊に公務員を使用するところの國家が、公務員の俸給をたまたま支拂う公共團体に、いわゆる月給を拂うということのみによつて、その公務員が何千、何百万の損害を國民に與えた場合におきまして、その僅かな月給を拂うところの公共團体が全損害賠償の責任を負うということは、これ亦不合理であると考えられるのであります。損害賠償の原則から考えましても、正に責任ある所にその結果をもたらすことは当然のことであります。かような意味合からいたしまして、我々はこの場合におきまして、費用を支拂うところの者にのみ責任を負担せしめるということではなく、國家も亦共に責任を負うべきものであるというところの原則を定めた次第であります。又政府の言うところによりますれば、この損害賠償というものは、費用を拂うという、その公共團体のその費用の中に損害賠償金が入つておるのだと、こういう観念の前提の下にこの法律を立案したのであるという御説明があつたのであります。この立案の糟神、立法者のお考えというものは、根本的に費用の概念の中に損害賠償請求権が入つておるということの矛盾があるのでありまして、純理から考えまして、地方公共團体がたまたまその費用を拂い、その月給を拂う場合におきまして、損害賠償金まで拂うという意思を以てその費用の負担を認めたものではないということは自明の理であります。
 又第三点に、例えば國家が管理をいたしまして地方公共團体がその費用を拂う場合におきまして、財政の面の小さいところの、負担力の少いところの地方公共團体がその莫大なる責任を負うということは、これ正に地方公共團体の財政を危くするところの基因をなすものど言わなければならんと思います。例えば河川法第六條及び第二十四條の但書の規定によりますれば、河川は國家においてこれは設置いたしまして、而して管理は府縣知事にこれを委ねられるのであります。それが原則でありまするが、その但書によりまして、國家が管理いたしまして、その費用の一部を地方公共團体が負担する場合があり得るのであります。例えば大利根川の堤防の工事に著しい瑕疵がありまして、平水の場合に一夜にしてその堤防が決壊いたしまして、関東平野一面が大洪水によつて数億円、数十億円の損害を生じたような場合を想定いたしますならば、その場合において、或いは埼玉縣なり、千葉縣なり、茨城縣なりが、この損警の責任を負うところの資格があるかどうかということを考えますれば、自明の理であると思うのであります。かような不合理を敢えてここに原則的に定めるということは、我々として賛成できないのであります。又第四点といたしましては、憲法が第十七條によりまして國民に損害賠償の請求権を與えたという以上は、容易にその損害賠償請求権を行使し得るような体制を整えることが最も親切であると考えるのであります。請求権の行使がないものといたしますれば、それは有名無実であります。この意味におきましても、從來しばしば國家の不法行爲によりまして請求いたしました場合に、その当事者が的確でなかつた。即ちそれは國が責任を負うものでない、或いは公共團体が責任を負うものであるというので、その訴訟が却下されまして、その訴訟を度々繰返して、遂には貧困なるところの國民は、厖大なるところの資力を有する國家に訴訟上において実質上の権利がありましても、これが賠償の満足を得ることは得なくて泣き寝入りになつた事例も多々ある次第であります。かような点を救済する意味におきましても……國民は何人が費用を負担するか分らないのです。
 その穿鑿をすることの煩を避けしむる意味におきましても、損害を受けたところの國民は、國家でも、公共團体でも、いずれに対しましてもこれが請求し得るという途を開くことが、憲法第十七條の規定の趣旨に副うものと考える次第であります。以上四つの理由からいたしまして、この修正案を我々は満場一致可決決定いたした次第であります。又修正案を除く部面に対しましては、原案通り可決決定いたした次第であります。
 かような次第でありまして、この修正の結果、果して然らばどうなるか、こういう問題が出るのでありますが、これは國家若しくは公共團体に対しまして、國民が賠償の請求をどちらに対してもできます。即ち一個の請求権に対しまして、二個の加害者に責任を負わしめるのでありますが、本來一個の請求権でありますから、一個のいわゆる給付、一個の賠償がありますれば、それによつて本來持つところの賠償請求権は消滅するのであります。手形の裏書者が数名ある場合におきまして、各裏書人に同時に請求ができると同一の法律理念に立つのであります。法律的に申しますれば、不眞正連帶ということになるのであります。かような次第でありますから、これを賠償いたしまして……國家若しくは公共團体のその間におきまして、その本來賠償をしなくてはならぬ者がたまたま賠償しなかつた場合、即ち公共團体が本來賠償するという場合において國家が賠償した場合におきまして、國家は公共團体に求償してその間の賠償の結果を整理するということを、この法律において原則を定めた次第であります。或いはこれに對しまして、この法律においてさような点まで我々は考える必要はない。それは一般民法の規定によつて定めれば足るのではないかというような御議論もあるかも存じませんが、若しさような場合を想定いたしますれば、民法の債権者代理、或いは連帶債務の求償権、若しくは不当利得の観念をこれに利用するか。いずれを似てこれを解決するか。今日までの場合におきましては、國家の公権力の行使によつて賠償した場合におけるところの、実際にかような問題が起り得なかつたのであります。さような法制ではなかつたのであります。して見ますれば、今後にさような難解なる問題を残すということは、法を作る者の親切が欠くるところと言わなければならんのでありますから、この法律におきましてその点まで考慮いたしまして、結果の整理をいたした次第であります。ここに内部関係においてという表現をいたしたことは、これは今日までの行政規定が区々でありまして、一々その内容がどういうふうになつておるかということは、ここに想像ができないのであります。故にすべての場合を包含し得るように、内部関係においてと、こう定めた次第でありまして、内部関係が或いは一方に偏する場合もありましよう。分担部分が定まつている場合もありましよう。かようなことはいずれも内部関係においてこれを定むべきものである。そうしてその範囲において正しく責任を負うべき者が負うということを明らかにいたした次第であります。かくいたしまして委員会といたしましては、いわゆる憲法第十七條の趣旨を徹底いたさせ、而して國民の権利擁護を完からしめ、且つ又負担部分の均衡を得せしめるという結果を狙いまして、これの修正をいたした次第であります。この点に対しまして、或いは衆議院において反対があるかも存じませんが、我々は信念的にこの法案に対するところの修正を可決いたした次第であります。以上簡単でありますが、御報告申上げる次第であります。(拍手)
 次に裁判所予備金に関する法律案でありますが、これは極めて簡単な法規でありまして、御承知の通り裁判所法によりまして、裁興所は國家の経費の予算の上におきまして、独立して予算を持つことができるようになつたのであります。その予算の上におきまして予備金という項目があるのでありますが、これに封するところの管理、支出についての規定はないのでありまして、國会法の場合におきましては、昭和二十二年法律第八十二号によりまして、國会の予備金に関するところのこれと同様な法規が制定せられておるのイであります。でありますから、この法案にこの國会予備金に関する件即ち昭和二十二年法律第八十二号と同様な趣旨に基ずいてこの法律案が立案せられたのであります。法律案の内容は、ここに明記せられておりまするがごとく、この予備金は最高裁判所長官がこれを管理いたしまして、そうしてこの支出に対しましては、裁判官会議によつてこれが支出することができる。事前、事後においてこの承認を経ることを要するということを明らかにした次第であります。この事前、事後という文字の表現に対しましては、委員より多々質疑がありました次第でありますが、これはいずれも速記録に讓りまして、省略させて頂きたいと存じます。かくて討論は省略いたしまして採決に入りまして、採決におきましては全会一致、原案通り可決すべきものと決定いたしました次第であります。以上御報告申上げます。(拍手)
#11
○議長(松平恒雄君) 別に御発言もなければ、これより両案の採決をいたします。先ず國家賠償法案全部を問題に供します。委員長の報告は修正議決報告でございます。委員長報告通り修正議決することに賛成の諸君の起立を請います。
   〔総員起立〕
#12
○議長(松平恒雄君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て委員会修正通り議決せられました。(拍手)
    ━━━━━━━━━━━━━
#13
○議長(松平恒雄君) 次に裁判所予備金に関する法律案全部を問題に供します。委員長の報告は可決報告でございます。本案に賛成の諸君の起立を請います。
   〔総員起立〕
#14
○議長(松平恒雄君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て可決せられました。
     ―――――・―――――
#15
○議長(松平恒雄君) 大藏大臣より大藏省廳舎の火災につき発言を求められております。この際発言を許可いたします。栗栖大藏大臣。
   〔国務大臣栗栖赳夫君登壇、拍手〕
#16
○國務大臣(栗栖赳夫君) 大藏大臣は、大藏省廳舎の一部が焼失いたしましたことにつきまして御報告申上げたいと存ずる次第でございます。
 去る十三日の午後九時前後に大藏省の新たに建てました東北東にありますバラツクの一部から出火をいたしまして、そのバラツクを直ちに全焼し、そうして火は飛びまして四階に、即ち本屋が三階でございまして、その三階の上に新たにバラツク建の四階を造つたのでございますが、その四階に飛火いたしまして、大部分を燒失いたしたのであります。そうしまして大体通計八百坪に余るバラックを燒いてしまつたわけでございます。出火の原因その他については不明でございまして、尚取調をいたしておる次第でございます。大臣といたしまして、就任の際にも、公僕として十分務めを果たすようにと、こういうことも申しております。殊にあの廳舎は小学校の校舎を利用し、更にバラツクを建てましたので、かねがね注意をいたしておつた次第でございます。かようなこの校舎が燒失というようなことに相成りまして、誠に遺憾に堪えない次第でございます。
 尚國務遂行上の問題について一言申上げて置きたいと思うのであります。燒けました部分は主計局の一部と主税局の一部と國有財産局の全部、給與局の全部と会計課、かように相成つておる次度でございまして、主計局は八課だけ燒けたのであります。そうしてその中に予算課があるのでございます。この予算につきましては資料を相当燒いたのでございます。追加予算及び本予算の執行については、この本屋の方に大臣室、次官室、その他にも資料を出しております。それから更に官邸にも持つておりましたので、遂行には一切支障はないのであります。ただ各省から出ております説明資料、その他詳細な資料を燒きましたので、これについては直ちに先般閣議で関係閣僚の了解を得まして、写しを出して頂くようにいたしておる次第でございます。追加予算を提出いたしますまでには皆出揃いますので、國務遂行の支障には相成らんと考えておる次第であります。主税局は、燒けましたのは関税課と監理課でございます。監理課は新たに作つたものでありまして、大した仕事も未だ発足いたしておりませんので、重要な資料その他の燒けるということはなかつたのであります。関税課につきましては、関税統計に関するものが非常に燒けてしまつたのでございます。これは去る昭和十五年の落雷による類燒によつて大藏省が燒けましたときも燒失したのでございまして、関係官職その他から資料を集めて漸く集まつたような次第でございます。今回も戰争前及び戰時中のものは、かようにして再び集める外ないと考えて、その準備をいたしておる次第でございます。終戰後のものは外にも資料がございますし、これはすべて取り揃つておりますので、支障は起らぬと思うのでございます。國有財産局の全部は燒けたのでございましてこれは併し各地の財務局を通じ、更に地方官廳を通じて仕事をいたしておりましたので、その関係から資料を更に提出して貰いまして、至急補充いたしたいと考えるのでございます。荷賠償物資に関するものにつきましては、丁度仕事が管理局と國有財産局と両方に跨がつておるのでございまして、管理局は全部無事に残りまして、資料は全部存しておりますので支障は起らぬ、かように考えておる次第でございます。尚給與局でございます。給與局は、でこぼこ資金とか、追加予算に関する資料はすべて残つておりますので、この点では不幸中の幸いであつたと思うのであります。尚職員の生活に関する調査をここでいたしておつたのであります。この調査につきましては結論をすでに得ておりまして、結論その他に関するものは無事に残つたわけであります。併しその計算の過程において使用しました資料は皆焼失したわけであります。ただ生活に関する調査として職員から出して貰いました原票は内閣の方にございますので、これを更に複製をして取揃えたい。かように考えておる次第でございます。それから会計課につきましては、帳簿を皆燒いてしまつたわけでございます。これは早急に関係先と計数を合せまして帳簿を再製いたしたい。かように考えておる次第でございます。かように考えまして、國務の日々の仕事の遂行には支障のないということを御安心を願いますと同時に、出火原因は未だ不明でございますけれども、とにかくかような大事なときに廳舎の一部を燒き、重要書類の一部が燒けたということは、誠に遺憾でございまして、御了承願いたいと思う次第でございます。
#17
○議長(松平恒雄君) これにて本日の議事日程は議了いたしました。次会の議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。本日はこれにて散会いたします。
   午前十一時二十四分散会
ソース: 国立国会図書館
姉妹サイト