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1947/10/11 第1回国会 参議院 参議院会議録情報 第001回国会 本会議 第36号
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1947/10/11 第1回国会 参議院

参議院会議録情報 第001回国会 本会議 第36号

#1
第001回国会 本会議 第36号
昭和二十二年十月十一日(土曜日)
   午前十時四十九分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
 議事日程 第三十五号
  昭和二十二年十月十一日
   午前十時開議
 第一 医師会、歯科医師会及び日本医療團の解散等に関する法律案(内閣提出)(委員長報告)
 第二 簡易組合法を廃止する法律案(内閣提出、衆議院送付)(委員長報告)
 第三 裁判官及びその他の裁判所職員の分限に関する法律案(内閣提出)(委員長報告)
 第四 刑法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)(委員長報告)
 第五 北海道における家庭越冬用燃料の價格に関する請願(委員長報告)
 第六 家庭暖房用燃料に関する陳情(委員長報告)
    ━━━━━━━━━━━━━
#2
○議長(松平恒雄君) 諸般の報告は御異議がなければ朗読を省略いたします。
     ―――――・―――――
#3
○議長(松平恒雄君) これより本日の会議を開きます。日程第一、医師会、歯科医師会及び日本医療團の解散等に関する法律案(内閣提出)を議題といたします。
   〔塚本重藏君登壇、拍手〕
#4
○塚本重藏君 只今議題になりました医師会、歯科医師会及び日本医療團の解散等に関する法律案の厚生委員会におきまする審議の経過並びにその結果を御報告申上げます。この法律案につきましては、九月の十七日、十八日、十九日並びに十月の三日、と四日に亘つて審議をおこなつたのであります。先ず最初に厚生大臣から本案の提出理由の説明を聴取いたしました。その概要をここに申上げます。現存の医師会及び歯科医師会は、國民医療法に基ずいて強制的に設立せられたものでありまして、医療及び保健指導の改良発達を図り、國民体力の向上に関する國策に協力することを目的として、すべての医師及び歯科医師は強制的にその会員となることを要するのであります。かような強制設立、強制加入を建前といたしまする医師会、歯科医師会は終戰後の國内の諸情勢の激変と民主主義の原則等に照して考えますると、この制度はこのままに存続させることは適当でないと考えられるのであります。又、医師会、歯科医師会の側におきましても、現存の強制設立、強制加入を旨とするところの今日の團体を解散しまして、新らしく民法に基ずきまして、任意設立、任意加入を原則とする新たな医師会、歯科医師会を設けたいとの強い要望があるのであります。かような事情からいたしまして、この際現在の医師会、歯科医師会を解散すると共に、國民医療法中の関係法規を削除することにしまして、そうして新らしい医師会、歯科医師会は、その設立、加入共に医師、歯科医師の自由意思に任せることにしたいというのであります。尚、現在医師会、歯科医師会解散に当つての清算に関しましては、監督廳の監督の下に、原則としておのおのその総会の議決によつて清算を行わせることにいたしております。
 次に、日本医療團は國民医療法に基ずいて設立せられたところの法人でもありまして、戰時中におきましては國民体力の向上に関する國策に應し、医療の普及を図ることを以て目的といたしたのでありますが、終戰後の経済情勢及び社会情勢の激変等によりまして、これも亦同様にこのまま存続させることは不適当となつた現状に鑑みまして、本年一月二十四日の閣議において、これを解散することが妥当であるとの決定を見ていたのであります。而して解散に判いまする医療團の事業措置につきましては、結核療養施設として適当なものは取敢えずすべてこれを本年四月一日から國営に移管され、その他の一般医療施設につきましては、医療制度審議会において慎重に協議の上、原則として國営又は府縣営に移管されることに処理方針が決定されていたのであります。解散の期日に関しましては、当初本年の四月一日と予定されておつたのでありますが、一般医療施設の方針の決定が遅延いたしましたために、今日まで延期せられておつたのでありますが、ここに、この法律が可決いたされますると、直ちに解散することにいたしたいというのであります。尚、日本医療團の清算に関しましては、厚生大臣の定めまする清算計画によつてこれを行わせることにしまして、清算に関しまする重要事項を調査審議させるために、厚生大臣の諮問機関として日本医療團清算監理委員会を設置することになつておるのであります。又日本医療團解散の際に、現に同團の経営しておりまするところの病院、診療所に収容せられておりますところの患者その他従來これらの診療施設を利用しておりました人々に、医療上の不便を與えないために、医療團解散後におきましても、その清算の結了するまでは医療事業を継続して行うことができるような措置が用意せられておるのであります。又日本医療團の解散に判いまして、國民医療法中の日本医療團に関しまする規定を削除することになつております。これが大体本案の内容であり、趣旨なのであります。
 第二回、第三回の委員会におきまして、質疑應答を重ね、審議を続行したのでありましたが、その質疑應答の主なるもの二三をここに御報告申上げます。
 先ず第一に、医師、歯科医師は、新たに設立せられる医師会、歯科医師会を任意組織とするならば、その会には入会してもしなくてもいいのである。又、そういう團体を別個に作つても差支えないのであるかどうか、こういう問に対しまして、新たなる医師会、歯科医師会は、設立並びに加入共に自由であつて、それらのことに関しては政府は何ら干渉するものではない。併しながら希望としては、自主的に成立した團体に対しては挙つてすべての者が参加して、その機能を発揮することが望ましいというのでありました。第二の質問といたしまして、医師会、歯科医師会は、公的責任があるに拘わらず、従來ややともすると営利に走り、専横に陥る嫌いがあつた。又医師の中には社会保險の診療を好まない者がありまして、これに対して粗診粗療を行い、或いは差別的な扱いをする者がある。又中にはその診療を拒絶する者すらあるのである。ついては新らしき医師会、歯科医師会はかかることないように、すべての國民の要望に應えしむるように是正することを考えていないかという質問に対しまして、政府から、医療制度審議会よりの答申にも、その点が特に重視せられているのであつて、医療制度改正要綱の中にも強くこのことが謳つてある次第である。この点に関しては、医療團解散後の処置についても十分考えて行きたいとの答弁がありました。これに加えまして、本委員会の委員でありまする現日本医師会の会長中山壽彦君より、新生する医師会は任意設立、任意加入であるけれども、開業医は申すまでもなく、医育機関、学究の人々、官界の技術官等のすべてを包容して、真に医学、医術を一体化したものとして、現在の医師会よりは更に一段と有力なる、権威ある新医師会を設立して、そうして現下の社会情勢に適應せる各種の事業を遂行して、全社会の尊敬と信頼を集中し得べき医師会を建設すべく努力しつつあるという表明があつたのであります。更に又、今日の医薬料が非常に高くて、一般の國民大衆が診療を受けることが非常に困難な事情になつておる。この点について政府は将來どういうふうな方向にこれを持つて行つて國民大衆の診療、治療を容易ならしむる方策を持つておるかという質問に対しまして、政府としては、社会保險の活用を図ると共に、國庫の補助を増額する等の措置を取り、又将來は社会保障制度のいうようなものを樹立して、そうしてこの問題の解決に寄與したいとの答弁がありました。更に第十五條の日本医療團所有の土地、建物その他の施設等を政府が他に優先して買取る規定があるが、これは強制買収を意図しておるものではないか。この質問に対しまして、医療團の財産の中、すでに当初から買収、出資又は寄付等によるものと、解散等の場合にそれぞれ出資しておるものに返還する條件に附いておるものとがある。その中、公的医療施設として残すことが適当と考えられるものであつて当事者と十分話合いをしてもどうしても解決しないような場合には、最後の手段として本法第十五條によつて買取ることのできる規定を設けたのであるが、解散等の場合に元の出資者に返還する條件のあるもの、又は特別の事情のあるもの、殊に大都市等から強く返還を要望せられておりまするもの等につきましては、どこまでも話合いによつてこれを処理することにし、政府の一方的な買収等の措置は取らないという答弁があつたのであります。更に、この法律は國民医療法の改正という方法を以て提案すべきではなかつたか。医師会、歯科医師会並びに日本医療團を解散してそれらの規定を削除すると、残る医療法というものの内容というのは甚だお粗末なものになると思う。この機会に医療法の改正を根本的にやるべきではなかつたか。こういう質問に対しまして、政府は、國民医療法の全般的な改正につきましては尚研究の余地が十分に残されておるので、取敢えず本法を單行法として提出したのであつて、近く國民医療法を改正する意思のあることを明らかにせられたのであります。
 以上のような質疑應答の後に、十月三日の委員会におきまして討論に入りました。この討論におきまして中山委員から修正の動議が提出されました。修正の要旨は、本案におきましては施行の期日を政令に任せておるのでありますが、このことは憲法の精神に反するから、施行期日は本法においてこれを明らかに規定したいというのでありまして、附則の第二十三條を次のように改めたいとというのであります。即ち「この法律は、昭和二十二年十一月一日から、これを施行する。但し、第二十五條乃至第二十七条の規定は、日本医療團の清算結了の登記のあつた翌日から、これを施行する。」というふうに修正の動議がありました。委員会は満場一致を以てこの修正を可決いたしたのであります。更に修正を除いた部分の原案について採決いたしましたところ、これ亦全会一致を以て原案を可決すべきものと決定いたした次第であります。
 尚多くの質問等があつたのでありますが、本日全体の会議の事情等も考えまして報告を省略した部分が沢山あるのでありますから、その点につきましては何とぞ委員会における速記録によつて御了承賜わらんことをお願いいたしまして、報告を終ります。(拍手)
#5
○議長(松平恒雄君) 別に御発言もなければ、これより採決をいたします。本案全部を問題に供します。委員長の報告は修正議決報告でございます。本案に賛成の諸君の起立を請います。
#6
○議長(松平恒雄君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て修正議決せられました。
     ―――――・―――――
#7
○議長(松平恒雄君) 議事日程変更につきお諮りいたします。日程第二号を後に廻し、この際、日程第三、裁判官及びその他の裁判所職員の分限に関する法律案(内閣提出)、日程第四、刑法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)、以上両案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#8
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。司法委員長伊藤修君。
   〔伊藤修君登壇、拍手〕
#9
○伊藤修君 只今上程になりました中、裁判官及び裁判所職員の分限に関する法律案に対する説明を先ず申上げたいと存じます。本案に対しましては数回委員会を開いた次第でありますが、後の刑法に対する説明が多少時間を要すると存じますから、本案つきましては極く簡単にその要旨のみを申上げておきたいと存じます。
 御承知の通り旧憲法に基ずく従來の判事懲戒法は、先に裁判所法の制定に際し、その附則において廃止せられておるのであります。そして新憲法においては、裁判官の身分の保障に関し、その第七十八條において、裁判官が心身の故障のために職務をとることができない場合においても、裁判によつてその認定がなければ罷免ができない旨、及び裁判官の懲戒処分は行政機関がこれを行うことができない旨を規定しておるのであります。従つて裁判官の分限及び懲戒に関して特別の立法をなす必要があるのであります。次に裁判官以外の裁判所職員は、執行吏を除いて、すべて官吏となつておるのでありますが、新憲法は裁判所の独立を著しく鞏固に規定いたしておるのであります。これに従い、裁判所法においてもその任免は、一級の者については最高裁判所の申出により内閣が、二級以下の者については最高裁判所以下の各裁判所においてこれを行うこと、及び職員に対する身分上の監督権は、最高裁判所が最終的にこれを有することを規定しておるのでありまして、裁判官以外の裁判所の職員の分限及び懲戒についても、裁判所のその職員に対する以上の程度の自律権に即應するように、特別の立法をいたす必要があるのであります。かような趣旨に基ずきましてこの法律案が提出せられたのでありますが、次にその主たる内容について御説明申上げます。
 第一に、新憲法第七十八條においては、裁判官が心身の故障のために職務をとる固とができないときは、これを罷免することができる趣旨を規定しておるのでありますが、その故障の程度については規定していませんので、これを「回復の困難な心身の故障のため」と明らかにいたしました。尚、従來裁判官は終身官でありましたので、本人が願い出た場合においても免官ができなかつたのでありますが、新制度により終身官ではなくなりましたので、本人が願い出た場合には免官ができる旨を明瞭に規定いたしました次第であります。
 第二に、新憲法第七十八條においては、裁判官の懲戒は、戒告及び一万円以下の過料といたしました。改正前の憲法に基ずく判事懲戒法によれば、裁判官の懲戒は、免職、定職、轉所、減俸及び譴責の五種でありましたが、免職即ち免官及び停職は、前述の新憲法第七十八條の規定に牴触に牴触いたしますので、轉所についても右同様の結果を生ずる疑いがあるのみならず、裁判官の地位に鑑み、罰目としては不適当であり、次に減俸も新憲法第七十九條第六項及び第八十條第二項に、いずれもこれを廃し、戒告及び過料といたし、過料の額は裁判官の受ける報酬額に照し、最高一万円を適当といたしたのであります。
 第三に、裁判官に関する心身の故障のために職務をとることができないか否かの裁判及び懲戒の裁判については、裁判所の組織、管轄および手続の中、極めて重要な事項のみを規定いたし、その他は原則的に最高裁判所の定める規則に委ねることにいたしました。これは、この種の裁判は裁判所の内部規律に関するものでありますので、成るべく裁判所の自律に委ねることが適当と考えたからであります。
 最後に、裁判官以外の職員については、その官吏たる性質より、官吏分限令、管理懲戒令の適用を受けることは当然でありますが、前述の裁判所職員たる特殊性に鑑み、又裁判所の自律権を尊重いたしまして、懲戒委員会は一般官吏の場合の例によることなく、最高裁判所の定めるところによつてこれを設けることといたし、その議決に基ずいて、懲戒及び心身の衰弱による免官は、一級のしよくいんについては最高裁判所の申出により内閣がこれを行い、二級以下の職員については最高裁判所以下の書く裁判所においてこれを行う外、減俸についても、各級別に従つて、最高裁判所以下の裁判所においてこれを行うことといたした次第であります。
 以下の外、尚、執行吏は官吏ではなく、純粋に裁判所の職員でありますので、その懲戒については最高裁判所の定めるところによることといたし、従來の執達吏懲戒令はこれを廃止することにいたしました次第であります。
 以上のような内容に基ずくところの本案に対しましては、内容頗る多岐に亘る、これに対しまするところの質疑應答は、従つて沢山あつた次第でありますが、便宜上これらの質疑應答は速記録に譲ることに御了承を願いまして、この点に対しましては省略さして頂きたいと存じます。
 次に討論に入りましたところが、大野委員、齋委員の賛成意見がありまして、原案通り可決すべきものと決定いたした次第であります。以上を以ちましてこの法案に対するところのご報告申上げる次第であります。(拍手)
 次に刑法の一部を改正する法律案につきまして御説明を申上げます。この法案は、御承知の通り憲法附属法規といたしても誠に重要なるところの國家の基本法規であることは、皆様十分御了承のことと存じます。一國の治安、一國の司法制度が確立しているや否や、世界に伍して恥しからざるところの國家体制を整え得るや否やということは、刑法法典、民主法典の完備が成るか成らざるかによつて、これらが決定せらるのであります。故に日本の過去におけるところの沿革から申しましても、刑法の改正は一大事業としてこれが行われまして、今日まで私の知るところにおきましては、旧刑法及び現行刑法の二度の改正があつたことと思うのであります。曾て日本が條約改正の際におきまして、先ず以てこの司法法規の完備を図らなくてはならんというので、非常なるところの努力をいたしまして旧刑法が制定せられ、そうして現刑法が、次いで改訂制定せられた次第であります。かくのごとく、この法典の改廃ということは、今日までにおきましては重大なる事項といたしまして、軽々しく行われたことではないのであります。然るにこの度の新憲法におきまして基本人権の確立、平和主義の徹底、個人の尊厳、男女の本質的平等、自由の確立、こういうような各種の原則が憲法において謳われた次第であります。従つてこの憲法の現すところの線に沿いまして、我が国におけるところの現行憲法を改正する必要があるということは、当然のことであります。従來に見ざるところの僅かな短時日の中にこの大事業をなさなくてはならんということは、我々の現在といたしまして誠に止むを得ざるところに出たものとは申しながら、匆々の中にかかる大法典を決定するということは、誠に遺憾な次第であるのであります。従つて政府といたしましては、本案に対するところの大改正の事業は後日にこれを譲りまして、今日におきましては、当面必要な最小限度のこの範囲におきまして、本法案の改正がなされた次第であります。かような趣旨におきまして、どうか本案に対するところのお聴き取りを願いたいと存ずる次第であります。故に現行刑法の改正案といたしましては完全無欠なるものと言い得ないということを、我々は先ず似て前提といたしまして、本案の審議に向かわなくてはならんと思うのであります。一應本案に対するところの皆様のお立場につきまして一言添えておく次第でございます。次に改正案の大体の内容につきまして項目的に申上げて見たいと存じます。
 先ず第一は、皇室に対する罪を削除せられたことであります。第二に、外國の元首、使節に対する暴行、脅迫、侮辱の罪を削除せられたことであります。第三に、外患に関する罪を変更又は削除せられたことであります。第四に、外國法及び外國裁判の尊重の趣旨からいたしまして、いわゆる國際原則、國際主義の原則を徹底する意味におきまして、これが刑法法典の、この点に関するところの條項を変更せられた次第であります。第五に、外國裁判の尊重、第六に、法定刑の加重に対しまして、公務員の職権濫用、逮捕、監禁、暴行、陵辱、これらに対するところの涜職の罪に対しまして。法定刑を加重いたしますし、一般暴行脅迫罪に対しましては、暴力の否定という意味からいたしまして、これ亦加重をせられた次第であります。名誉毀損罪に対しまして、いわゆる自由の保護というこの点に対しましても亦加重せられた次第であります。猥褻文書等の販売頒布の罪、公然猥褻罪等につきまして、法定刑がいすれも加重せられました次第であります。次ぎに、姦通罪の削除をなされておるのであります。第七に、安寧秩序に対するところの罪が削除せられておる次第であります。又侮辱罪の規定が原案といたしましては削除されておる次第であります。刑の執行猶予の範囲拡大、前科抹消の規定の新設、連続犯の廃止、累犯加重規定の廃止、犯人藏匿、証憑湮滅に親族間の場合におきますところの処罰をなし得るということ、こういう点におきまして現行刑法が前言申上げますごとく、新憲法の趣旨に副わざるという意味からいたしまして、いずれも改正せられた次第であります。
 こういうような大部分の改正が行われました故に、委員会といたしましても、これに対しまして十分なるところの討議が交わされた次第でありますが、予備審査におきまして九回、本審査におきまして三回、公聴会を開くこと二回、証人を喚問すること一回、視察をすること一回、尚懇談会を開くこと二回、合計十七回の回数を重ねまして、文字通り愼重会議をいたしました次第でありますが、この質疑應答の内容におきましては、誠に貴重なるところの御質疑もあり、又これに対するところの御答弁あつた次第でありまして、この要旨のみを要約いたしましても、ここに準備いたしました資料によりますれば、百数十枚を数える程の問題であるのであります。これらの質疑應答の内容を、その要旨のみにつきましてもここに皆様に申上げまして、本案審議の御参考に供することが委員長といたしまして忠実なるやり方とは存じまするが、かくては時間を非常に要する次第でありますから、これらの質疑應答に対しましては、後日の刑法改正の重要なる資料といたしまして、皆様におかれましても、速記録において十分この点を御了承を賜わりたいと存じます。故にこれらの貴重なるところの質疑應答に関する一切は、ここにご報告申上げることは省略さして頂き、すべて速記録において御了承を賜わりたいと存ずる次第であります。
 かように愼重審議をいたしました結果、委員会といたしましては、各委員の熱心なる御研究の結果、これに対するところの修正意見を御提出願つた次第であります。便宜この修正意見の表示せられたところの個所を皆様にご報告申上げまして、いかなる点に本案に対しまして質疑があつたか、論点の中心があつたか、又将來この刑法を改正するに当りまして御考慮を願う意味におきましても、この点は明らかにして置きたいと存ずる次第であります。
 先ず修正意見の申出でのありました第一といたしましては執行猶予の條件の緩和であります。これは現行刑法におきましては勿論、改正案におきましてもです、七年以下という條件になつております。これを五年以下に緩和しろというお説であります。又五千円以下の罰金ということになつておりますが、これを現在の経済状態から考えまして、通貨の價値から判断いたしますれば、五千円という額はあまりに僅少ではないかと、故にこの制限を撤去しろというようなご意見もあつた次第であります。
 次に第二十六條、執行猶予の取消についての修正の御意見があつたのであります。この点は改正刑法におきましては、從來懲戒法のみについまして執行猶予の制度を認めておつたのであります。然るに原案におきましてこの制度を拡大いたしまして、罰金についても執行猶予の制度を置くということになつたのであります。併し一度この執行猶予を受けた者は、その猶予期間中謹慎いたしまして、社会生活の中に正しくその行いをなさなくてはならんのであります。次に犯した場合におきましては、この執行猶予は取消されることは当然のことであります。然るに改正案におきましては罰金の執行猶予を認めた関係上、第二に、その期間中において、執行猶予の期間中におきまして、次に罰金刑を犯したばあいにおきましては、この場合におきまして、原則的にこれを取扱いますれば、過去の罰金刑を取消される場合もあります。又過去の懲戒刑も取消される虞れがあるのであります。故にさようなことに至りますれば、誠に執行猶予の制度を認めた趣旨が徹底しない。且つ又國民はそれによつて不利益を被る虞れがあるのではないか、むしろ加重になるのではないかというような御意見があつたのであります。裁判官の裁判のよろしきを得ない場合におきましては、先に五千円の罰金で、若しくは二年以下の懲戒によつて、執行猶予の恩典に俗している者が、たまたまその日の生活の代を得るために、僅かの犯罪を犯しまして、仮に罰金十円を科せられました場合におきましても、尚且つ先の執行猶予の恩典は取消されることになるのであります。若しさような結果に至りますれば、今日の経済状態におきまして、先ず以て政府は社会生活を安全になし得るような政治を行つてから、かような規定を設くべきではないかというような御議論もあつた次第であります。併しながらこれに対しましては、政府といたしましても、これを取扱うところの裁判官の運用よろしきを得ますれば、原案におきましては取消すことを得とあるのでありますから、必ずしも取消されるものとは決定しないのでありまして、取捨よろしきを得て、事実に適應したるところの適切な取扱いがなされ得るものと期待せらると、又そういうように運用することをここにおいて政府の意見として声明するということの御意見もあつた次第であります。
 次に、三十四條の二、計の消滅に対しまして修正の意見はありましたのです。これは衆議院におきまして、参議院の意向と同様な修正が行われた次第であります。即ち懲戒刑に対するところの刑の消滅は十年、原案におきましては罰金刑に対しましても十年でありましたが、これを懲戒刑と罰金刑とを区別いたしまして、罰金刑の場合におきましては五年を以て形は消滅する。いわゆる過去におきまして判決の言渡なかりし状態に復帰する。今日までにおきまして、不幸にいたしまして過去に罪によつて、いわゆる前科ということによりまして、幾多の人々が苦しんでおることは皆様の夙に御了承のことと存じます。これらの人々らの十年という正しい生活の現状を保護する意味におきましてこの規定が設けられた、こういう次第でありまして、誠に時宜に適したるところの規定と言わなくてはならんと思うのであります。この点に対しまして衆議院において修正せられましたところは、これは当然であると存じまして、参議院の委員会におきましては、この修正に対しまして了承するところの次第であります。
 次に、宣告猶予の修正の御意見があつたのであります。凡そ罪を犯しまして、その事案に対しまして必ず判決をし、而してこれに対しまして刑罰の責任を負わしめなくてはならんということはないのであります。現実なる事実に適應いたしまして、その者に対し、ただ精神的に罪悪の自覚を與え、若しくは一般社会に対しまして予防の趣旨が徹底いたしますれば、敢えて以てその個人に対しまして、より以上の刑罰の苦痛を與えるということは必要ではないかという意味におきまして、この修正案が提出せられた次第であります。
 次に、七十三條、皇室に対する罪に対しまして修正案が提出せられたのであります。この問題に対しましては参議院の司法委員会といたしましては、夙に各委員より御質疑がありまして、いわゆる皇室に対して特別なるところの規定を置く必要は今日の憲法の上からいたしましてないかも知らないが、國民統合の象徴たる天皇、國家の象徴たるところの天皇、國事を行わせられるところの天皇、この天皇に対しましては特別なるところの措置をするの必要はないかどうか、又國民感情の上から申しましても、これらの天皇の御地位に対しまして、我々國民と同様にこれを取扱うということは誠に論理が一致しない、不合理ではないかというようなきつい御質問がありまし多のであります。仮に現行刑法の上から申しましても、後に申上げますところの二百四條、二百五條でありますが、尊属殺人の場合におきましても普通の殺人の場合より重く罰しておるのであります。我々一般國民の間におきましてもかくの如くその処罰の規定が異なつておる場合があるのであります。單に殺人をなしたという意味におきましても、その個人によつて、被害者個人の地位によつて、刑罰が異なる場合があり得るのであります。この点から考えましても國事を行わせらるところの天皇、象徴たる天皇、これに対しまして特別なる考慮を拂うに必要があるのではないかとというような御意見があつたのであります。併しながらこれに対しましては、政府といたしまして縷々御説明があつた次第でありまして、これを要約いたしますと、成る程國民感情の上から申しますれば、天皇の御地位に対しまして特別の規定を設くる必要あることは是認せらるるのでありますが、天皇も亦國民の一人としての地位を有せらるるのであります。すべての國民は法の前に平等でなくてはならん。これが新憲法を貫くところの、一貫したるところの大精神であるのであります。かかる見地からいたしましても、天皇に特別なるところの規定を設くることは、憲法の精神を蹂躪する結果を招來する、又今日の國際関係から考えましても、日本の天皇制度にたいしまして幾多の疑惑を以て環視せられて時であるのであります。日本の民主主義の成るか成らざるかという点に対しましては、一に天皇制の存するか否かという点にその疑惑の中心が置かれておるのであります。従つてこれらの点から考慮いたしましても、煮本の民主主義の徹底という意味からいたしまして、國際環視の間におきまして、敢然我々は勇を鼓してこの規定を廃止するということが、我々の持つところの理想に対する誤解を招かないという意味におきましても、この原案というものを支持しなくてはならんという御趣旨であるのであります。かような次第でありまして、この一点に対するところの御論議は幾多ありましたのでありますが、強く御主張になられましたのは、松井議員よりこの点に対しましては、最後まで特別なる規定として、いわゆる一般普通に、衆議院において言われるがごとく、或いは普通に唱えられるがごとく、天皇に対するところの特別な規定を設けるのじやない。自分は國事を行わせるるところの天皇、この地任に対して保護するところの規定を置きたいのであるという強い御主張があつたのでありますが、政府の御答弁」、又委員会の全委員の意向といたしまして、政府の答弁を了承いたしまして、今日の情勢下におきましては、我々はこの原案を支持するの止むを得ざるものとして、この本案に対するところの修正案は御撤回を願つた次第であります。
 次に、國交に関する罪につきまして、同じく松井議員より修正の御意見が出たのであります。これは御承知の通り外國君主及び外國の使臣に対しまして、特別なる刑法上の保護を與えることが規定せられておつたのでありますが、原案即ちこの改正法におきましては、天皇に対するときと同じ理論の下に、すべての人は差別なく法の前に平等であるという観念を貫ぬきまして、これ亦削除された次第であります。この点に対しましても、松井議員より種々御主張がありましたが、先ず外國元首若しくは外國の使臣をかように普通人と同様に待遇することは、國際慣例の上におきまして如何かというような御意見もあつたのであります。併しながら政府の御答弁といたしましては、先程の天皇に対するところの見解と同様な理念に基ずきまして、本案を削除いたした次第でありますが、尚これによつて外國使臣に対しまして保護の欠くるところは万ないということを誓約せられておる次第であります。又この点に対しまするところの種々なる御見解に対しましては、國際関係の上から重要なるところの事項であるのでありますから、特にこの点に対しまして司法大臣の御意見を私の報告の後でお伺いすることになつておりますから、すべて司法大臣の御説明にこの点はお譲りすることにいたします。
 次に姦通両罰若しくは姦通両罰せざること、百八十三條の問題でありますが、これは最後にお譲りすることにいたしたいと存じます。
 次に百九十條、涜職の罪でありますが、これは前にも申上げましたごとく、檢察官若しくは公務員が職権を濫用し、暴行又は陵虐を加えました場合におきましては、これを七年以下の懲役に処すということに改正せられたのでありますが、この点に対しまして、從來即ち現行刑法が起案されまして今日に至るまで、常に在野法曹におきましても、又我々が学生時代におきましても、問題になつておつた点は、暴行、陵虐と規定されまして、脅迫という文字が挿入されていないのであります。今日の実情から考えましても、脅迫の事例は多々ありまして、これがために刑事被告人は思わざるところの自白を余儀なくされまして、遂に囹圄の身に落ちる人もありますし、又永く裁判に繋屬せられまして、一生を棒に振るというような結果を招來せられた人も幾多あるのであります。暴行、陵虐を入れるならば、何故脅迫をいれなかつたか。この立法の趣旨は明らかではありませんが、恐らくいわゆる從來の公務員の絶対権力、國家権力というものを重く見まして、檢察官若しくは警察官がその職務執行に際しまして、この脅迫という文字がありますれば、おのずからそこに制約を受ける。さような観点からいたしまして、これが政策的に除去せられておつたものと考えられるのであります。併しながら今日新憲法によりまして、基本人権の確立ということが大きく原則的に主張せられておる時代におきまして、何故に現行刑法の改正に当りまして、即ち憲法の原則を表現すべく改正せられましたこの改正案におきまして、この文字を落されたかと言わなくてはならんのであります。これは恐らく私はミスではないかと存じます。意識的にこれを落されたかというふうには考えられないのです。故に我々委員会といたしましては、本案が改正憲法の趣旨に副うべく應急的に改正せられるのならば、この点に対しましては勿論これが改正せられなくてはならんのである。かような見地からいたしまして、この暴行と陵虐の間に、「若クハ脅迫」という五字の文字を挿入する修正案が出た次第であります。
 次に二百條、二百五條の関係、即ち尊属殺の問題でありますが、前に一言申上げましたから、これは省略することにいたします。
 次は二百三十條ノ二、名誉毀損の事実の証明の問題でありますが、特に公務員の候補者の特例の場合であります。今度の改正法によりますれば、公務員を目的とする候補者に対しましては、名誉毀損罪に対して特別な規定を置いた次第であります。その行為が「公共ノ利害ニ關スル事實ニ係リ其目的専ヲ公益ヲ圖ルニ出テタルモノト認ムルトキハ事實ノ慎否ヲ判斷シ慎實ナルコトノ證明アリタルトキハ、」いわゆる公共の利益、公益の目的、こういう條件が具備いたしますれば、名誉毀損罪は成立しないのであります。而して公務員の場合におきましては、すべてこれが公益の目的であるというふうに取扱われまして、常に批判の的に置かれるのであります。かかる規定は、現行新民法の上におきまして、公務員の地位と責任が格段に引き上げられました現状におきましては、誠に当然な規定であると言わなくてはならん。併しながら現在の日本の選挙界を一瞥いたしますのに、果たしてこの規定がここに成立せられることによりまして、各候補者が自由に選挙せられるであるかどうか。殊更にその候補者の落選を目的といたしまして、責任のない人々の言論によりまして、遂に落選の結果を見るような不幸な結果を招來することは、火を見るより明らかなものと考えられるのであります。現在におけるところの日本の選挙界を見ますれば、この規定は時期尚早ではないかというような御意見であつたのでありますが、委員会いたしましては、この点に対しまして、議員の職責の重大とその地位の高きに鑑みまして、かりそめにもさような非難を受くることのなきことを欲するという意味におきまして、原案は先ず一應支持するというようなことに至つた次第でありますが、本案に対するところの委員会の各位の意見の中におきましては、さような杞憂の念を抱かれる人が沢山ある次第であるのであります。
 次は二百三十一條の侮辱の罪の復活でありますが、これは衆議院においてこれが原案を修正されまして復活せられたのでありますから、この説明は省略いたす次第であります
 次は二百三十二條の天皇の近親の告訴権の当否の問題であります。改正案によりますれば、名誉毀損罪が成立する場合におきまして何人が告訴するか。普通國民の場合におきましては、その被害者が告訴することは当然のことでありますが、事一度天皇に対するところの名誉毀損の場合におきましては、これは何人が取扱うか。天皇御自身及び天皇の近親者御自身が取扱いますればこれは誠に当然のことでありますが、今日までの慣例から申しましても、亦天皇の御地位から申しましても、かようなことを求むることは不能のことであると言わなくてはならんのであります。然らば天皇に近親するところの宮内府長官若しくは皇族会議の議長を以ていたしましてこの告訴権者とするという意見もあつたのでありますが、若しさようなことにいたしますれば、やはりその累は天皇に及び、又天皇が徒らにその問題の対象に扱われるということは、天皇の御地位から、新憲法上におけるところの天皇の御地位に影響のあることと思わなくてはならんのであります。これらの点を勘案いたしまして、この告訴権は内閣総理大臣がこれを行うということに規定されておるのであります。併しながら内閣総理大臣は、この告訴権をどういう法律上の根拠に基ずいて行うかという御質疑もあつたのであります。而してこれは國事かどうかというような御質疑もあつたのでありますが、これは改正刑法によりまして新しく創設されたところの内閣総理大臣の権限といたしまして行うのであつて、規定の上に表現する文字は、代理者ということに、代りて行うということになつておりますが、その権利はいわゆる民法上の代理の観念では律せられずして、この規定によつて新しく生まれるところの権限行為として行うものである。從つてその行なつた結果に対するところの政治上の責任は総理大臣が正に負わなくてはならん。こういう結論であるという御釈明であつたのでありまして、山下議員より、若しさようなことがありといたしますれば、天皇問題を中心といたしまして、ひいては内閣に罅が入るというような、政治問題まで及ぶような事態が生ずることがあり得るのは、努めてこれを避けなくてはならんと、こういうようなお説もあつたのでありますが、然らばこれに対しまして、何人が代つてこの告訴権を行うかと申しましても、全く先程挙げましたところの宮内府長官若しくは皇族会議議長というぐらいのものでありまして、その他に適当なる告訴権者というものは見出せないのであります。(「議長は総理大臣だ」と呼ぶ者あり)さような次第でありまして、原案に対しまして、委員会といたしましては、先ず原案通り賛成することといたしておいた次第であります。
 次に外国使臣に対するところの告訴権者でありますが、これはその外国の代表者、いわゆる日本に滞在するところの代表者が、代つて元首に対するところの名誉毀損に対して告訴権を行うと、こういう規定を設けたのであります。この規定の結果、外国使臣が直接この告訴権を行使するか否かということに対しましては、この刑法法典の上では規定いたしません。おのずからその手続規定は、近く提案されるところの刑事訴訟法の中においてこれが規定せらるることと存じます。又最高裁判所においてその手続が規定せられるかも存じませんが、いずれにいたしましても、その手続きに関しましては本法に規定いたしませんのでありますが、これは然るべく規定せらるることと存ずる次第であります。
 次に強盗傷人、強盗強姦の短期刑の引下げという御意見もあつたのでありますが、これは今日の実情から考えまして、この修正案に関しましては未だ時期尚早と考えられると述べ、これも御撤回願つたのであります。
 以上申上げました点が主なる修正御意見であつたのであります。かような例のない沢山な修正意見を、本委員会におきまして取上げるということは一考を要すると考えまして、又この改正案が改正せらるるところの趣旨は、前言申上げましたごとく応急的措置である、近く大改正の事業が行われるのでありますから、さような点を鑑みまして、且つ又本法案の一日も早く決定せられなくてはならんという時間の制約もありまして、これらの点から考えて、この幾多の修正案に対しましての取扱につきまして懇談会を開きまして、先ずその中で重要なる部分といたしまして、百八十三条の姦通罪に関する件、及び先程申しましたところの百九十五条の涜職に関する件、並びに二十六条の執行猶予の取消の条件に関する件、この三点を正式に委員会の修正意見といたしまして取上げ、その余分に対しましては、後日の刑法改正の際に十分考慮せらるべきことを期待いたしまして、今日の場合におきましては、各御意見を撤回して頂いた次第であるのであります。故に将来刑法改正の場合におきましては、本委員会におけるところの、本会議におけるところの、この趣旨を資料といたしまして、改正せらるることを期待して止まない次第であります。
 先ず二十六条の執行猶予の取消しの件に対しまするところの委員会の結果について申上げます。この問題は先程簡単に御説明申上げました通りでありまして、松井議員より提出されまして、これと大同小異の修正案が小川議員より提出せられた次第であります。併しいずれも大同小異でありますから、便宜上、松井議員の提案に合流して頂くことにいたしまして、修正案を一本といたしまして、これを委員会に諮つた次第でありますが、委員会におきましては少数否決いたしました次第であります。
 次に百九十五条の涜職に関する罪でありますが、これは先程御説明申上げましたごとき理由によりまして、委員会におきましては、多数を以てこれが修正案通り可決せられました次第であります。
 次に姦通罪に関する問題でありますが、これは松村議員より提案されまして、縷々二時間近く御説明を拝聴いたしました次第であります。これに対しまして小川議員より、やはり両罰の修正案が提案されたのであります。内容は非常に異なりまして、御着想は非常に結構とは存じましたのですけれども、苟も日本の刑法といたしまして、世界に向つて公示するところの国家の大法典である以上は、今少し御研究を煩わさなくてはならん点があると考えまして、これは小川議員に御撤回を願いまして十分御研究を願い、そうして将来におけるところの改正案において御主張を願うことにお願いいたした次第でありまして、結局委員会といたしましては、松村議員提案にかかるところの修正案一本といたしまして、これを問題といたした次第であります。
 松村議員提案にかかるところの修正案は、後刻同議員より本会議に修正案として御提案になりますから、この説明は省略させて頂きますが、修正の案文といたしましては、従来の「有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ処ス」とこうあつたものを、「配偶者アル者」、こういうふうに改めまして、いわゆる男女の平等の原則を積極的平等に持つて行かれた次第でありまして、両罰という観点に立つてこれが草案された次第であります。刑期は従来二年とありましたのを「三月以下ノ懲役又ハ五千円以下ノ罰金」ということになつたのであります。而して個々の事案に対しまして、罰することを必要としない場合がありますから、これに対しましてはその刑の言渡を免除するという特別なる第二項を設ける、こういうのが松村議員提案にかかるところの修正案の骨子である次第であります。これに対しまして、委員会といたしましては、採択に際しましては、常時御出席になる方のみを以てこの採決を若し行うといたしますれば、両罰主義が可決せられる状態になつたのであります。併しながら法案の重大性に鑑みまして、常時御欠席になるお方に対しまして手紙及び電報を以ちまして急遽御招集を申し上げまして、全員の御出席を求めまして公平に本案を取扱つた次第であります。その結果といたしまして、原案通り、いわゆる男女両方とも罰しないという御意見が十一票あつた次第であります。両罰すべしという松村議員提案にかかるところの修正案に賛成の方が六票あつた次第であります。一票は私ですから私は投票いたしません。一人は欠席いたしまして、今一人は不幸にいたしまして投票の間際に中座されまして、要するに総投票数十七中、さような結果を以て修正案は否決せられました次第であります。
 ここに一言申し添えて置きたいことは、この問題を何故委員会がかように大きく取上げたか、この点について一言委員長の責任上申し添えて置きたいと存じます。もともと姦通罪というものは、従来の刑法の建前から申しますれば、いわゆる夫権の侵害であつた、併しながら現在の憲法の建前から申しますれば、もはや夫権の侵害ではない、憲法は男女の基本的平等を原則といたしまして、一夫一婦制度を建前といたしておることは明らかなるところの事実であります。憲法の企図するところのものは、正しい生活、正しい一夫一婦の生活、而して自由なるところの愛情の表現にも基ずくところの男女の合意によつてのみその家庭というものは成立するのであります。この憲法の目的とするところの、而して憲法が保障するところの、國民の、民族の基本たるところの一夫一婦制度を破壊する者、これを侵害する者を果して放任していいのであろうか、從來のごとく夫権の侵害にあらずして、憲法が保障するところの、この民族の最低基本たるところの男女の結合を侵害する者は、いわゆる社会の法益を侵害する者である、憲法の精神を蹂躪する者ではないか、憲法が、一方においてそれを保障するに拘わらず、一方におきましてはその侵害行為を認容するということは、矛盾も亦甚だしいことではないかと言わなくてはならんのです。又平等の原則ということは、敢えて両罰せざることも平等の原則でありましよう。消極的原則でありましよう。両罰するということも平等の原則に悖らないのであります。かるが故に、憲法が、一而におきまして正しい婚姻生活の保障を目的としておる以上は、而して民族の発展の基礎をここに置こうといたしておる以上は、これを侵害する者を刑法上放任していいか悪いかということに対しましては、我々といたしまして正に大きな研究課題ではないかと存じます。單なるところの姦通の近視眼的。その行為事態に対するところの我々の批判ではないのであります。私たちは日本八千万の民族の将來の正しい生活の上に、正しい発展の上におきまして、この点におきましては十分なる検討を加える必要がある、こう考えた次第であります。(拍手)又この点に対しまして、仮に罰せざるということに結論が至りましても、少なくとも我が参議院が正しい見解の下におきまして、眞面目に本問題を取上げまして、これを論議いたしましたということは、日本國民に取りましていかばかり幸福であるかと存じまする次第であります。(拍手)
 今日社会におきましては、姦通罪が抹殺せられた、かような見地からいたしまして、論理を一躍いたしまして、姦通公認というような思想が瀰漫しておるのでああります。(「簡単」と呼ぶ者あり)かような次第でありまして、若しかような結果を、普遍的に行わるるということになりますれば、どうしても我々といたしまして是認できないのです。故に本委員会におきましては、かような見地からいたしまして、この問題を眞面目に取上げまして、皆様の御愼重なる御審議に待たんといたしした次第でありまして、委員会といたしましても十分この点に対しまして意を用いて審議いたした次第であります。この点予め御了承を賜わりたいと存ずる次第であります。
 以上簡単ながら(「簡単ではない」と呼ぶ者あり)十分申上げますれば一日かかりますから簡単であるのです。でありますから簡単に刑法に対するところの御報告を申上げます。(拍手)
 今の修正にかかる部分を除きまして以外は、全部これを原案通り可決すべきものと決定いたした次第であります。
#10
○議長(松平恒雄君) この際司法大臣より発言を求められました。許可いたします。鈴木司法大臣。
   〔国務大臣鈴木義男君登壇〕
#11
○国務大臣(鈴木義男君) 只今司法委員長の御報告にありました通り、刑法の一部を改正する法律案においては、第二編第四章中第九十条及び第九十一条を削除することになつたのでありまして、その削除の理由は、凡そ何人と雖も法の前に平等であるという建前から「第一章皇室ニ対スル罪」を削除いたしまして、天皇及び皇室も一般国民と同様の保護を受くべきこととしたこととの均衡にあるのであります。併しながら御承知の通り、外国の元首、使節につきましては、国際法上いわゆる不可侵権が認められておるのでありまして、その身体、名誉を特別に保護し、これを侵害した者がありまするときは、これを厳重に処罰すべきことが要求されておるのでありまするが、今回この特別の保護規定を削除したことは、この国際法上の義務に違反するのではないか、従つて又憲法第九十八条第二項の「確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」という条項に違反するのではないかという御懸念を抱かれる向がありまするのは誠に御尤もな次第であります。併しながら今回の改正案によりますると、一般人に対する暴行脅迫、名誉毀損罪の法定刑をそれぞれ引上げておるのでありまするし、尚いわゆる単純侮辱罪の規定も存置することになつておりますので、これらの規定の定むる範囲内において、国際法の要求するところに従い、外国の元首、使節の身体名誉等を保護するに遺憾はないと信ずるのであります。尚外国の元首、使節に対する名誉毀損又は侮辱の行為があつた場合、国際慣例によりますれば厳格な方式によらざる処罰請求の意思表示を以て十分な訴追条件といたしておるのでありますが、今回の場合も一応告訴を必要とする形になつておりますので、この点についても御懸念があると存じますが、この告訴の問題については、目下立案中の刑事訴訟法改正案の中において、この種のものに限りその方式に特例を設けて、国際慣例に反するような結果の生じないように、十分の考慮を拂いたいと考えておるのであります。
 以上一言政府の見解を申述べまして、政府が決して国際法及び国際慣例を軽視するものではないということ、及び今回の改正におきましてもその点を十分に考慮して、遺憾なる事態の生じないような用意をいたしておるということを御了承願いたいと存ずる次第であります。
#12
○議長(松平恒雄君) 先ず裁判官及びその他の裁判所職員の分限に関する法律案の採決をいたします。本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を請います。
   〔総員起立〕
#13
○議長(松平恒雄君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て可決せられました。これにて午後一時まで休憩をいたします。
   午後零時十四分休憩
     ―――――・―――――
   午後一時五十九分開議
#14
○議長(松平恒雄君) 休憩前に引続き会議を開きます。刑法の一部を改正する法律案に対しましては、松村眞一郎君より成規の賛成数を得て修正案を提出されております。この際、修正案の主旨説明を求めます。松村眞一郎君。
   〔松村眞一郎君登壇、拍手〕
#15
○松村眞一郎君 修正案を提出いたしました理由を申述べます。
 先ず妻の立場から述べます。第一、婚姻の妻の姦通について、婚姻により夫婦は協力して公共の福祉のために働く。婚姻届出により公認制約の血統の生殖により、民族は存続繁栄する。婚姻は国民生活、国家秩序の基礎である。妻の姦通は性欲のためである。生殖を欲しない。もし妊娠せば公認制約血統を乱るのであります。夫婦間に子供があるときは、その子の教育、名誉を害します。相姦者も配偶者を有するとき、即ちダブル・アダルタリーの場合には、二つの家庭に亘り害悪が生ずる。姦婦、本夫、相姦者だけの問題ではありません。社会の風教を害するのであります。
 第二、相姦者の侵害行為について、妻の姦通は、内からの妻の貞節裏切りなる契約違反的行為と共に、夫婦関係を外から侵害する相姦者の破壊行為について考えなければなりません。宗教上の姦淫罪は、色情を懐きて女を見るとき姦淫したるなりとのキリストの言葉、仏教の戒律パーラーヂカ、邪淫戒によりましても、むしろ單に男性が女性一般に対して、況んや人妻に対しては勿論のこと、不浄の想いを懸けることなきの戒めであります。万葉集巻の一の歌に、「人妻ゆゑに我恋いひめやも」とあります。精神的の恋というものは肉欲的な姦通とは区別することを要するのでありますが、妻の姦通は、外よりの相姦者たる男性の婚姻破壊、エーヘ・ブルフなる侵害行為に重点を置くべきであります。
 第三、対世権侵害と風俗を害する罪について、婚姻は契約であります。併し、婚姻成立によりて生ずる貞操義務は、法律上当然生ずる相互義務、即ち相互権利でありまして、この相互関係は第三者の介入關與を排除する絶対権、即ち対世権であります。刑法は物権、身体権等、対世権の侵害を犯罪といたしておるのでありまして、第三者たる姦通相姦者の侵害は、対世権の侵害であります。民法上は不法行為であり、罪刑法上では社会風儀、ジツトリヒカイトなる法益の侵害であります。これを風俗を害する罪として規定するのが当然であります。昭和二年刑法改正予備草案も、昭和十五年刑法改正仮案も、姦通罪を姦淫罪から分別しまして、別に風俗を害する罪として規定いたしておるのは適当であります。外よりする侵害者が男性たると女性たるとを問わざることが、真の男女平等一夫一婦制であります。
 次に夫の立場から述べます。第一は夫の貞節と一夫一婦制であります。多妻、ポリガミー、多夫、ポリアンドリーは、現代国家では国民生活の秩序としては是認せられません。欧米諸国は一夫一婦制であります。ソ連邦は姦通を犯罪とはしておりませんが、併し一夫一婦制キリスト教国であります。英国は一夫一婦の国であります。コモンローでは姦通は犯罪としてはいないが、英国は御承知の通り政治と宗教との合体したる国でありまして、宗教上は姦通を罪悪としているのであります。ロード・コークの述ぶるところによりますると、昔は姦通を法律上犯罪としておつたのであつて、コモン・ウエルスのときは男女平等有罪の成文規定がありました。フランス、ドイツ、イタリー、スイス等、又北米合衆国諸州は、一般に一夫一婦制男女平等有罪制でありまして、アジアの回教国や儒教国中華民国は、従来一夫多妻制の国であります。中華民国は、書教の堯典には、堯が二人の娘を舜に嫁せしむる旨の記事があります。禮記の曲禮には、天子は后あり、婦人、世婦、嬪、妻、妾あり。公候は婦人、世婦、妻、妾ありとありまして、一夫多妻制であります。然るに今日の中華民国の刑法には、姦通を男女平等有罪とし、一夫一婦制を確立しておるのであります。日本は古事記の伊弉諾、伊弉册尊は一夫一婦であります。その後久しきに亘り儒教を道徳の基本として来たのでありまして、一夫多妻制であります。男系の子孫を相続人とする法規慣例のために一夫多妻制が行われておつたのであります。明治三年に新律綱領ができまして、五等親図なるものが掲げられております。一等親、夫、子。二等親、妻妾とあります。犯姦律には、凡そ和姦は各杖七十、夫ある者は各徒三年とあります。夫ある者とは妻と妾のことであります。一夫多妻制であります。明治六年の改定律令の犯姦の規定第二百六十条に、凡そ和姦、夫ある者は各懲役一年、妾は一等を減ずとあります。一夫多妻制であります。明治十三年刑法、即ち旧刑法では妻の姦通罪の規定はありますが、妾の姦通罪の規定は載せておりません。明治四十年刑法、即ち現行刑法は、妻の貞節義務を定めておりますけれども、夫におきましては妻に対する貞節義務は定めていないのであります。かくのごとく刑法改正の沿革は一夫一婦制の歩みの歴史であります。大正天皇崩御のとき、米国の雑誌のカーレント・ヒストリーであつたかと私は記憶しますが、崩御せられたる天皇は曾てなき一夫一婦の天皇であつたという意味の記事がありました。新憲法に伴い、先ず皇室典範は改正せられまして、皇位に即かせらるるのは嫡出に限るということが定められておるのであります。これは日本始まつて以来の改革であります。私は貴族院において、この演壇において賛成演説をいたしたのであります。新憲法は、民法、刑法の改正につきましては、個人の尊厳、性道徳の革新、一夫一婦制の確率を要望しておるのであります。これは刑法を改正いたしおまして、姦通を男女平等有罪制とする外に適切なる方法はありません。
 第二に一夫一婦制の根拠について考えて見ましよう。ショペンハウエルは婦人論、イーバー・デイ・ワイバーにおいて、自然が男性を体格、理性等で女性よりも優れたものとしておるから、おのずから一夫多妻となるのであり、又それが正しいのであると述べております。併し今日の遺伝学の教える所では、男女の遺伝子は同数であつて、遺伝現象には優性、劣性の区別はありますけれども、遺伝力は男女同等であります。又人類は、大体において男女同数でありますから、数を基礎とする民主主義政治においては一夫一婦制が正しいと思います。
 終りに一般的立場から述べます。第一、罪と罰の意義と、姦通罪存置の価値について考えて見たいと思います。
 罪と刑罰とを規定しておる法を刑法と称しております。フランスはコード・ペナルと言い、ドイツはストラーフ・ゲゼツと称します。併し、元来罪を掲げて罪の認識、反省によりまして、実際は犯罪なく、刑に処せらるることなきを目的とするのでありますから、むしろ英米のごとく、罪法、クリミナル・コードという方が適当であります。ソ連のロシア国は、罪、プレストウブレーニエと、罰、ナカザーニエとを規定する法典を、ウゴローヴヌイ・コーデクス、罪法と称しております。罪に対しましては社会防衛手段の一つである規定としておるのであります。刑法としては非常に進んだ立て方であります。日本の大祓の祝詞には、天津罪、国津罪というのを数えておりまして、罪、穢を祓い清むべきことを祈り、罰に処することは申しません。元来、刑罰は過去の反社会性、不正行為の糾弾制裁であると同時に、将来の不正行為なからしむるための威嚇、鎮圧、社会の陥らんとする悪傾向に対する社会防衛手段であります。更に又、刑の有無、軽重如何を詮索するまでもなく、法律にその犯罪として掲げられておるということだけを顧みまして、反省警戒をして、これを犯さないことが犯罪規定の道徳上の矩としての効果であると思います。誤まつて罪を犯しましても、改悛すれば刑罰は無用であります。刑の免除、執行猶予の制度のあるゆえんであります。凡そ国家の秩序を破壊するところの作為、不作為は、罪として網羅して掲げるのが整つた罪刑法であります。その罪刑法に掲げられておるような行為は犯さないけれども、たとい刑法では罪としない行為についても、罪悪感を深刻にいたしまして反省をするということが、道徳標準を高める所以でありまして、宗教の戒律が存する所以であります。僅かな罪に対しまして過大なる刑罰を科する場合にどんな影響を生ずるかということは、有名なユーゴーのレ・ミゼラブルで説いております。ドストエエフスキーの「罪と罰」、プレストウブレーニエ・イ・ナカザーニエは、罪と罰との複雑深刻なる関係を考えておるのであります。トルストイの「復活」、ヴオスクレセーニエは罪悪反省を教えておるのであります。以上の趣旨によりまして、刑法に姦通罪の規定を存置いたし、貞節についての罪悪感を深刻にして反省警戒せんことを願うのであります。誤つて犯しましても、刑罰はできるだけ軽くし、情状により刑を免除することを得とすべしと主張するのであります。それは罪を眺めて、罰を眺めないという趣旨であります。
 第二、男女平等有罪制と刑の軽減、免除について考えて見ます。現行刑法委は、妻の姦通行為と相姦者の相姦行為とを犯罪とするのでありますが、更に夫の姦通行為も、相姦者たる女性の相姦行為も犯罪とすべしと主張するのであります。刑罰は、現行規定は二年以下の懲役とありますが、これを三月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処することといたしまして、情状によりその刑を免除することを得とするのであります。親告罪といたしまして、婚姻解消又は離婚の訴え提起後たるべきことを刑事訴訟法第二百六十四条に規定があります。姦通を縦容したるときは、これを告訴することを得ざることとすること、これは現行法通りであります。新しく加えんとすることは罰金刑であります。罰金刑を選択刑として加えましたのは、夫の姦通には、事情により軽微なものがあること等を考えたのであります。刑を免除し得るといたしましたのは、妻が配偶者から遺棄され、又はその他の事由で事実上夫婦関係の絶えた後の姦通等を考えたのであります。罰金刑は五千円以下でありますから、執行猶予はできます。又刑の免除の言渡をいたしますれば、その後二年経過すれば、言渡は効力を消滅するのであります。親告罪といたしたのは、貞操罪であるからであります。
 第三、告訴の成行きがどうなるかということを考えて見ます。離婚の訴えがありますときに、裁判所は一切の事情を勘酌いたしまして、婚姻の継続を相当と認めるときは離婚の請求を却下いたします。これは民法改正案第八百十三条第二項の規定であります。恐らくはこの規定は成立するでありましよう。又親告がありましても、検察官は不起訴とすることはできるのであります。検察官、判事の介在により、時の経過によりまして、冷静なる事態に落着くことを期するのであります。執念深い変態心理的の告訴の通りに国家の機関が動かされるというようなことはありません。恐喝などに濫用され、逆効果を生ずるがごときは十分防ぎ得ると考えます。法律が愚弄されるというようなことはありません。又告訴の取下げが途中にありましても、そのときまでの国家機関の介在は決して無駄ではありません。次に姦通罪の無罪の場合はどういうことになるだろうかということを想像して見ますると、国家がもう取上げないから告訴の途はありません。国家機関は關與いたしません。そういたしました場合に、或いは自救行為や私刑リンチ、自分で解決しなければならんというその行為が行われ、或いは傷害事件というようなことが起るかも知れないと思います。
 最後に結論を述べます。第一、個人尊厳と刑法尊厳というようなことについて考えて見たいと思います。姦通罪の規定は個人の尊厳を傷つけるのである。国民侮辱であるという論があります。併し、かくのごときことを申しますれば、強姦罪であるとか、親殺しの罪であるとか、窃盗罪というものも同様であります。個人の尊厳を害しましよう。この議論は刑法そのものを否認する議論であります。元来刑法というものは何であるかと申しますれば、個人の尊厳を傷つけるような行為そのものを犯罪として掲げるのが目的なんであります。又こういう議論があります。性道徳については刑法の規定が属行にならんことがあるから、刑法に規定することによつて却つて刑法の尊厳を害するであろうという説もあります。併しながら国民行為の規律として一般的に尊重せられておるならば、法の目的は達せられておるのであります。性の問題は刑法で取扱わざるのが適当であるという説もあります。併しながらすべての姦淫罪を刑法から除くことはできないでありましよう。猥褻の罪はいかがでありますか。この刑法の改正案でも、従来の罰金科料の刑を二年以下の懲役に改めておる程に重きを於いておるのであります。
 第二に、男女平等有罪制の尚早論というものを私は想像して見るのであります。今日は妾を置くことも、妾となることも無罪であります。男性の女性に対する貞節観念も、妾となる女性の純潔観念も、現在まだ確立しておりません。無罪であつた行為が犯罪と定められるとき、新規定を遵守し得るの用意ができておらないのでありますから、事態の混乱を生ずる虞れのあります男女平等有罪制にするのは尚早であると思うのであります。併し、新憲法の下では、妻だけの姦通罪の規定のままにして置くわけには参りません。そこで妻の姦通罪を無罪にして、男女平等無罪制にするとの論が生ずると思うのであります。これは法律上の道徳標準低下論であります。私は賛成いたしません。
 第三、経過現象の罰則を考えて見ましよう。男女平等無罪制としまして、刑法上姦通が放任行為となつた場合…刑法の有責不法の行為、権利行為、放任行為というように分類するのでありますが、その放任行為となりますとき、民法改正案が成立しましたならば、民法の七百六十八条が削除されることになつております。その規定の削除の結果どうなるかと申しますと、昔からの姦後禁婚の掟、姦通をした後は結婚をしてはいけない。こういう規定がありますが、この掟がなくなると私は思うのでありますが、それはなくなつてもいいかも知れませんが、同時に姦通罪がなくなるということが問題なんであります。妻の姦通の相姦者は、妻の離婚後は適法にこれと結婚することを得るのでありますから、姦通というものに対する罪悪感は薄弱になるだろうと私は思います。次に男女平等有罪制の場合の経過現象を考えて見ますと、妾を持つ男性、妾となる女性は、妻の縦容を、承認を得るであろうと思います。認知には妻の承諾を受けるでありましよう。それで離婚はありません。告訴もありません。処罰もありません。併し、貞節観念は漸次その方が私は高まると思います。
 第四、淳風美俗、道義日本建設について、私は日本の社会現状を直視いたしますとき姦通行為を刑法から解放すべき理由を発見することができないのであります。刑法は現在の実状に適切なる規定を内容とするところの日常の現実法であります。理想を掲げるものではありません。又刑法そのものの存在を必要とせざるに至ることは理想でありましよう。併し、それは現実でありません。日本は従来一夫一婦制確立に今到達せんといたしておるのであります。一方におきまして妻の姦通はいにしえから法律上の犯罪であります。
 私は、敗戦後、道徳低下、風儀頽廃を憂えておる今日におきまして、これを刑法から解放いたしまして、いわゆる放任行為といたしました場合に、道徳上でも姦通勝手次第となつたような、感を社会一般に與える虞があると思います。なぜかと申しますと、法律の規定は、同時に道徳上の矩として尊重せられておるからであります。新日本建設のためには、法律を以て道徳と宗教に協力する必要があります。道徳、宗教は、日本の風儀を良くするために非常に努力をいたしておるのであります。その場合に法律の方では犯罪にしないという態度が、果たして道徳、宗教に協力する態度でありましようか。私は道徳と、法律と、宗教と、すべて一致団結して、一つの心になつて、国の段々良くなるように努めなければならんと思うのであります。その理由を以ちまして、法律に姦通罪の規定を置いて国民反省の道徳の矩として掲げまして、国民にはおのずからその矩を越えないところの淳風美俗、道義日本の確立せられんことを念願いたしておるのであります。満堂の諸君、私は何とぞこの修正意見にご賛成あらんことを切にお願いいたす次第であります。(拍手)
#16
○議長(松平恒雄君) 松村君の修正案に討論の通告がございます。先ず本院規則第九十二条により司法委員会が指名された討論者の発言を許します。中村正雄君
   〔中村正雄君登壇、拍手〕
#17
○中村正雄君 私は松村議員提出に係りまする修正案に対しまして反対の見解を有し、姦通罪廃止を主張するものであります。
 姦通という事実が、夫婦間におきましては背徳行為であり、又社会に起きましては善良な風俗を乱すものといたしまして、社会悪だということに関しましては、国民のひとしく認めておるところでありまして、両罰論、廃止論の焦点となりますものは、この社会悪である姦通という事実を禁止し、予防することにつきまして、刑法において宣言し、刑罰を以て臨むのが妥当であるか。或いは又道徳の領域にこれを委ね、夫婦間の道義と愛情に委ねるのが最善であるかという点であると信ずるものであります。ところが、両罰論者の多くは、姦通が社会悪であるがため、これを罰しなければいけないというふうに主張される方があります。併しながら社会悪である行為と雖も、刑罰を科することが妥当であるかどうかということは、別に刑法の本質なり或いは刑罰の目的によつて定めなければならないことだと信ずるものであります。従いまして、修正案のごとく姦通罪を罰するということにいたしまして、社会における道義が保てるかどうかという点になりますると、私は従来の例に徹しまして、却つて刑罰の副作用と申しますか、逆効果の方が多く現れておるという現状を指摘したいと思います。姦通罪を存置する論者と雖も、これを親告罪とする点につきましては異論のないところでありまして、修正案も亦これを親告罪といたしております。この親告罪といたしまする関係上、告訴の取下ということはできることになります。この告訴の取下に関しまして、その裏面において、忌まわしい一種の関係、特に恐喝ということが事実上行われておるということは、我々のよく耳にするところであります。姦通罪の件数を実際に調べてみましても、第一審の審理中におきまして起訴されましたものの半数以上は、告訴の取下が行われています。恐らく第二審におきましても、告訴は取下げられ、控訴棄却となりまして姦通罪によつて刑務所に行くという人は一人もいない現状ではないかと思います。而もこの間におきまして、姦通という弱点無論これは社会悪ではありますが、これにつけ込んで忌わしい取引が行われるという現状であります。私はかかる刑罰の副作用からいたしまして、特に女性の地位を保護するということにつきましては、他の法律の分野にこれを委ねまして、刑法におきましてはその謙抑主義からいたしまして、これを廃止するということを妥当と信ずるものであります。幸いにいたしまして改正予定の民法によりますと、夫の不貞行為に対しましても、妻は離婚の訴を提起することを得ますと共に、又離婚につきましては、その一方は相手方に対しまして財産分与の請求もできることになつております。又姦通が不法行為を形成いたしますならば、損害賠償の請求もできるわけであります。即ち女性の地位を保護するためには、離婚という武器もあれば、又損害賠償という武器もあるわけであります。又両罰論者は、若しもその姦通罪を廃止することになれば、性道徳が紊乱し、社会の秩序が保てないということを主張されます。又午前中における委員長の報告におきましても、遺憾ながらこの点につきまして強調されましたように伺います。併しながら私はいかに道義廃れておりますと言われる現在におきましても、姦通罪の廃止によつて姦通が適法な行為になつたのだと考えたり、或いは又社会がこれを容認するものだと思うような馬鹿な国民は八千万の中に一人もいないと信ずるものであります。従いまして、私はこの姦通罪の一般的予防といたしましては、宗教、道徳の分野にこれを委ね、法律におきましては民法の分野においてこれを取上げ、離婚、損害賠償等につきまして男女平等な取扱いをなし、以て刑法の分野におきましては、姦通罪を廃止するということが妥当なものと信ずる者であります。(拍手)松村議員提出にかかる姦通罪の修正案に対しまして、簡単ではありますが、反対意見の表明を終わります。(拍手)
#18
○議長(松平恒雄君) 宮城タマヨ君。
   〔宮城タマヨ君登壇、拍手〕
#19
○宮城タマヨ君 この度改正されようとしております刑法の中から、姦通罪を削除されたという原案につきまして、その可否はもう法律論も、倫理論も、宗教論も尽き果てておると思つております。私は家庭婦人の立場から、松村議員のお出しになりました修正案に賛成するものでございますが、一二の点につきまして、貧弱ながらお聞き願いたいと思つております。
 今度改正されようとしております刑法の条文の中から、姦通罪を削除いたしましたことについて、法律が少くとも国家の意思表示をするものであるという建前であります以上、本当に民主的な、理想的な物の考え方をする人々は、削除されましたことによつて、一層貞操の責任を思い、自愛自制することとなりましようが、又その一方には、この法文に姦通罪がなくなつたということは、いかにも国家が姦通を公認したというように勝手に解釈しまして、これを利用したり、或いは悪用したりするような人も亦多くはないかと、私は心配するのでございます。そうしてこの両方の者が、量においてどちらが多いかということが結局問題になることと思つております。そこで私はできるだけ実際のことを知りたいと思いまして、家事調停裁判所や警視庁の人事調停に現れておりますところの事件を、いろいろ調べて見たのでございますが、残念ながら正しい数字を発表することを許されません。それで極くぼんやりとしたことでございますけれども、この人事相談に集まつておりますところの問題の多くは、夫婦間の貞操問題から起つて来るところの争いが一番数の点において多うございます。そうしてこれに伴いますところの離婚後の損害賠償に絡まる調停の事件が又非常に多いということでございます。私は又私自身が時折受けております相談事からいろいろ考えまして、実際この社会的に割合にいい地位であり、そうして人々からは尊敬されていると思われますような家庭にも、なかなかこの貞節問題が沢山あるということでございます。殊にこのインテリ層で、法律のことなんかよく知つておりまして、逃げ道を心得ておりますような人々の間に、案外この貞節問題で家庭のいざこざが沢山あるのでございます。又現在生活難や住宅難のために、随分それこそ息の根もつまるような厳しい生活難の中にあります人でさへも、尚この性の問題に悩みながら、そうしてこの妻も夫も、夫婦間の真実と愛情とを求めて悩んでおりますところの人々が随分多いのでございます。そうかと思いますというと、この頃新しく起こつたことには、新興財閥と申しましようか、闇によつてお金を沢山儲けましたところの人々が、今までは夢にも思わなかつたところの妾を蓄えて、いろいろな放埒な生活をするというようなことから、そういう階級に沢山新しい家庭問題が起こつておる事も事実でございます。実際そういう事実から考えまして、貞操の問題は貧富の差や或いは教育の程度によつて解決できるものではございませんで、今日の頽廃しました世相の中で、一番大きい部分を占領しておりますところの社会問題だろうと私は思つております。
 現行の刑法には夫のある妻の姦通に対する罪だけを罰しておりますが、このような法律のあるのは世界でただ日本の国一つでございます。これは現在民主日本の女性にとりましては、とても堪えられないことでございますが、何故このような法律がいつたいできておりますかというと、これは長い間、かれこれ四十年も続いているのでございますが、これは要するに、本法が男子専制的な封建的なものが強かつたためであります。而もそれ以来の日本は、これを改めるような社会の民主主義化が行われていないばかりか、却つて封建的な色彩が強まつて行つておりますからでございます。これは男系の血統を重んじましたところの封建的家族制度の下では、男子の血統によりますところの後継者を作りますためには、妾を置くこともこれは公認されておりました。そのために女性の人格を無視して顧みなかつた結果になつたのでございます。敗戦後民主主義的ないろいろな改革が行われ、新らしい憲法の制定によつて、男女が平等同権となつて、そうして正しい本当に良い結婚ができて、堅実な、真実な家庭生活ができるようになりました今日であればこそ、姦通罪削除は理論から申しますと、私も実際この削除することに賛成でございます。併し新憲法ができ、形式的、法律的には男女が平等になつたからと言つて、世の中のすべての人々の物の考え方が急に変わつて来るとは思われません。殊に今日の日本の実生活ではなかなか根深い封建的なものが残つており、男女の貞操感においてはまだ私共反省しなければならないところが沢山ございますと思います。そればかりではございません。民主主義や自由主義、平等というようなことを履き違えまして、新憲法が実施されまして以来は、随分心得違いをいたしたり、放縦に流れておりますところの女性も可なり沢山あるのでございます。新憲法の下、文化国家を目指して進んでおります人々にとりましては、こんな姦通罪のような汚らわしいところの罪名は、一日も早く跡を絶つようにと私共は皆希望しておりますけれども、法律はいつでも現実の社会に基盤を置かねばなりませんので、一足飛びにこれを全廃するということは、今日の社会情勢の下では却つて弊害を生じて、今まで長い間この封建的な法律の下で苦しめられて来ましたところの女性が、もつともつと悲惨な地位に置かれる結果になることと思つております。それと同時に男性にとつても亦私はこのことは不利益な点があると思います。純情であるべき今の若い青年たちに、今度の姦通罪を両罰にして存置したいという希望を持つた者が沢山あるということが、即ち今の女性、殊に若い女性に見られたものがあるということを裏書きするものであろうと思つております。少くとも日本の民主化が相当に進むまでは男女両罰として、男女両方に私は赤信号を掲げ、そうして警戒する鐘を強く打つて置く必要が大いにあると思つております。(拍手、「同感々々」「賛成々々」と呼ぶ者あり)男女両罰の姦通罪は、米国その他先進民主主義の国にも現実に存在していることでございますが、今日の日本としまして法律上の形式や体裁を整えるよりも、実際の家庭生活を私は民主化しまして、家庭の神聖、それから家庭の純潔を守つて、実質上の男女平等を実現することが一層肝要でございますと信じております。この点から私は理想に走つて今姦通罪を全廃するというよりも、男女平等の地位に置いて、暫く日本が真に民主化されるまで、本修正案のように男女両罰を存置するということの方が、却つて国家のために役に立つのではないかと思います。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)
 それから今一つ私の特に申したいことは子供の問題でございます。姦通によつて一番大きい影響を蒙むる者は、何と申しましても姦通によつて生まれて来ます不義の子供と言われる可愛そうな子供であります。今日の改正民法によりますれば、私生子とか、庶子とかいうような名前は実際戸籍の上から取り除かれることにはなつてはおりますけれども、これは戸籍上綺麗になるということは喜ばしいことではございますが、実際生活はまだまだこの悪因縁の下に生まれ出ましたところの子供は、やはり不義不貞の子供として世間からは取扱われ、そうして暗い生活を余儀なくせられておるのであります。これが因で不良少年が起り、浮浪の子供が出て参り、或る者は自暴自棄に陥りまして、私の知つております子供にも放火をしたとか、人殺しをしたとかいうところの極悪の罪を侵すような子供さへも出て来ておるのでございます。子供は両親が揃つた上で、両親から受ける愛と教育とによつて初めてよく育つて行くのでございますが、姦通によつて生まれました子供には、多くの場合に片親又は両親なしの無理な暗い生活を送る結果になるのが多いのでございます。姦通は子供の教育を放棄した親の無責任と言い得ると私は思います。戸籍上では何とか片が付いて、表面は体裁がよろしうございましても、その子供たちが精神的に、物質的に虐げられておりますところの、この悪い影響は、それを考えますだけでも、どうにかして私はこの子供たちを守つて頂きたいと思うのでございます。それにはこのような子供の生まれてからの後ではなくて、生まれて来ないような方法を考える、つまり姦通そのものが行われないようにする必要があるのでございます。私が男女両罰として姦通罪を存置する本修正案に賛成するのも、この種類の罪を起させないための予防策としたい、即ち刑は刑なきを期すという意味で以て賛成しておるのでございますが、文化国家を建設いたします大きい礎石になつております、私共の大切に守つておりますこの家庭、同時に明日の国家を担つて立ちますところの本当の国の宝でございます子供たちを是非守りたい。その意味におきまして私は家庭婦人の立場で、つまり私共の家庭を守り、私共の大事な子供を守るという意味で、この修正案に賛成いたしましたのでございますが、どうか皆様も家庭と子供のために是非御賛成願いたいとお願いするわけでございます。(拍手)
#20
○議長(松平恒雄君) 松井道夫君。
   〔松井道夫君登壇、拍手〕
#21
○松井道夫君 私は修正案を否といたす意見でございます。只今からその理由を述べさして頂きます。
 私は新憲法の個人の尊重、人間性を尊重いたしますという精神から言いまして姦通罪の規定は廃止せらるべきものであるということを信じておるものでございます。婚姻と言いますことは、人間の最も根源的な関係でございまして、単なる性的関係に限られるものではありません。全人格的な、全生命的な結合であるのであります。これは第三者の批判や、或いは人工的なものによりますところの支配というものを超越いたしましたものでございます。苦楽を共にいたしまして、子供によりまして自己の生命を次代に伝えて参ります愛と誠実により結ばれましたいはば神聖な関係であるのであります。この神聖な関係、かかる関係こそは、律すべきものがあれば、それは倫理であり、道徳なのであります。然るにかような神聖な関係を破壊いたしますような姦通というような事実が起りましてここに姦通罪というものを廃止するかどうかといつたような議論になるのでございますが、そういつた愛と誠実の結合がどうして破られなければならんようなことになるのでございましようか。今私はその原因と思われまするようなものを考えて見たいと存じます。私は先ずこの本来不幸な結合というものがある事実を指摘いたしたいと存ずるのであります。これは後程申上げることとも関連いたしますが、従前の日本社会におきましては、女性がその夫を選択するのではございません。自由な意志によりまして選択いたすのではありませんで、これは社会的の習慣によりまして与えられるものなのであります。かかる結合が時日の経過によりましてその間におのずから愛情も生じ、敬、うやまいというものも生じまして、又子供もでき、これが理想の結婚として終生続くことが一般なのでございますが、たまたま結合の最初から、又はその途中から、愛と誠実というものが存在せぬというものがあるのであります。教養の高い、高い理想を持ちました婦人が、例えば博奕打ちのようなならず者、言葉が過ぎるかも分かりませんが、尊敬すべからざるその夫を、愛さんとしても愛するを得ず、誠実を盡しても受入れられず、これが全人格的の終生の結合あるが故に、その悲惨な状況は同情するに余りのあるような例が多々あるのでございます。人間性を尊重いたすという立場から言いまして、かかる結合に女性が終生束縛されなければならんということは、これは悲しいことではないでございましようか。その他いろいろな結合関係がございまして、その本質から言つて婚姻生活の範疇に入らないような結合が、外形的の戸籍に縛られまして、どうにもならない。一生を涙で暮す。離婚せんとしても相手が頑冥性で言うことを聞いてくれません。又経済的の理由から離婚いたしましても食べて行けない。そういうようなことで、この封建的な結婚が、人間性の点から言いまして、悲劇的な結婚が幾多あるのでございます。又これを日本の従来の家族制度に例を取つてみますると、嫁はこれはかたづけられるのであります。嫁は貰われるのであり、嫁にくれてやるのであります。女は人格を十分に認められておりません。で、家に入りますと、家風というものがございまして、それが固陋な、女にひどいところのものでありましても、これに対して抗議を申し立てることは許されておりません。姑、小姑、その他厳然たる秩序がございまして、その間に与えられたる地位で、与えられたる仕事に従事いたすその以外のことは許されないのであります。又不合理性、従来の日本家庭の不合理性と申しますか、どんなに自分の言うことが正しくても、それを申出ることもできないし、又申出ても通らない。どんな無理な注文でも、夫であり、戸主である人の言うことであれば聞かなければならん。要するに自分というものを全然殺して、自分の全生命を家のために捧げておつたのであります。それは封建的の美しい美風であつたかも知れませんが、人間性を尊重するという立場から申しますと、実に悲劇であります。それに日本家庭の非科学性は、炊事に、掃除に、洗濯に、実に沢山の手間を婦人に課すのであります。又育児につきましても然り。(「簡単々々」と呼ぶ者あり)かようなことでございまして、勿論立派な家庭が大多数なのでございまするが、悲劇的な状況の下に縛られておるという人たちもあるのであります。又経済的の原因を考えて見ますると、例えば夫を失つた遺家族、又戦災で夫を、働き手を失つた婦人、こういう方々が売笑婦にまで落ち込むといつたようなことがあるのであります。経済的の原因から、どうにもならないで、或いはお妾さんというような、親切に世話してくれる人のお妾さんとなつておるというような人もある。そういういろいろに複雑な社会的、経済的原因から姦通というものが出て参るのであります。これは日本の全政治がうまく参りまして、その恵まれない女性のために温かい配慮をめぐらしますならば、こういうものはぐつと減るでございましよう。又昭和二十一年の四月頃の統計によりますと、二十歳以上四十歳以下の男女の数が、女性の方が三百万人多いのであります。これは年も相当になつて嫁にやろうと思つても、なかなかよい相手がないということで、心配しておられる方が沢山ある。そういつたすべての契機から姦通というものは出て参る。そういうものに臨むに刑罰を以てするということは、私はこれは人間性を蹂躙することに相成る場合が多々存すると存ずるのであります。(「然り」と呼ぶ者あり)これを道徳、徳義に任せまして、又各人の自覚、国民の自覚に任せまして、これを立派に導いて行く、立派な社会にいたしまして導いて行くということが、唯一の解決策であると私は確信しておるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)婦人の地位を高めるという点から申しますならば、これ亦これを廃止しなければならないのであります。なぜかならば、(「分つた分つた」「しつかりやれ」と呼ぶ者あり)経済的弱者があらゆる場合に不利をうけるのでありまして、両罰となりましても、やはり処罰され泣かされるのは弱い女であります。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)これを解放いたしまして双方平等に処罰せんということにして、初めて婦人の地位が高まるのであります。奥さんを大事にし、婦人を大切にしなければ、姦通というような行為が相変らず頻発するのであります。奥さんを大事にし、婦人を大事にし、婦人の地位を高めて初めて、姦通というような行為が減らすことができるのであります。(「その通り」「もうよし」「分つた分つた」「結論を言へ」と呼ぶ者あり)さようなことでございまして、私は法律家でございますが、刑法の関係につきましては、先程中村君が申しましたが、刑法の観点から言いましても、三宅正太郎博士、牧野英一博士などは、今のような姦通といつた関係は民事関係に任さなければいけないというような主張でおられるのでございます。
 以上甚だ徹底いたしませんでしたけれども、要するにこの姦通問題を解決いたしますためには、すべて我々が理想的な努力を以ちまして憲法の示しますところの個人の尊厳、人間性の尊重というところに全力を注ぎまして、これを社会の教養を高めて参るということによつて初めてできるのであります。又家庭の立場から申しましても、これが子供の立場から申しましても、要するにお父さん、お母さんが姦通罪で処罰されたというような子供は、実に悲惨なものであります。(「そうだそうだ」「悲惨だ」「反対」と呼ぶ者あり)宮城さんはそれが心配だから両罰にしろというのは、これは両罰にすればそういう姦通などなくなるというようなお考えなのでございます。それは大間違いでありまして、今申しました全社会的、経済的理由から姦通という者は出て参る。法律があるからこれが減るとか殖えるとかいうことは、余り心配する必要はないのでございます。これは姦通は先程申しましたような特殊の環境から出るのでありますから、特殊の環境があります限りは、法律は幾ら改めましても、法律の文字だけではこれはどうにもならないのであります。徒らに赤新聞か不潔漢、即ち詐欺漢、恐喝漢たの好餌にならざれば仕合わせでございます。(「もうよい」「まだまだ」と呼ぶ者あり)
 結論といたしまして申上げます。(「度々結論は困るぞ」と呼ぶ者あり)要するに憲法の人間性の尊重という立場からこれは廃止しなければならない。婦人の地位を高めるためにも、亦廃止されなければならない。刑法の謙抑性、法律的立場からいつても、廃止せられなければならない。我々が、若い男女手を取つて、そうして理想的な結婚、自覚と、経済的或いは社会的に男女の平等ということを実現いたしまして、その理想に邁進いたしまして、そうしてお互い立派な日本社会を作りましてこの姦通なる忌わしい事実の発生しないことを期そうではございませんか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)これを以て私の意見を終わります。(「反対」と呼ぶ者あり)
#22
○議長(松平恒雄君) 齋武雄君。
   〔齋武雄君登壇、拍手〕
#23
○齋武雄君 私は松村議員の修正案に賛成するものであります。即ち両罰をするということであります。以下簡単に二三点について意見を申上げまして各位のご判断を願いたいと思うのであります。(「簡単に願います」と呼ぶ者あり)
 私は第一に、両罰をするということは憲法の精神に適合するものであるということであります。御承知のごとく、憲法第二十四条には、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」相互の協力によつて維持されなければならんということは、憲法の命ずるところであります。姦通行為はこの憲法の精神に反する行為であります。相互の協力を破る行為であります。こういう意味からいたしまして、我々は全国民と共に、憲法を守る責任があるのでありますから、この憲法の精神を守る意味におきまして両罰に賛成するものであります。
 第二点は、姦通罪は公の秩序、善良の風俗に反する行為であります。姦通罪を以て単に夫婦間の行為であると考えるのは誤りでありまして、これは公の秩序、善良の風俗を害する罪であります。害する行為であります。御承知のごとく刑法では、公の秩序、善良の風俗に反する罪として、賭博罪、或いは猥褻罪、或いは礼拝所、墳墓に関する罪、こういう罪を、こういう行為を罰しております。殊に刑法の改正法律案においては、猥褻の罪を重く改正しております。現行刑法は科料であつたものが、猥褻行為については六ヶ月以下の懲役というように、非常に重く規定しておるのであります。然るに姦通…同じ法益を侵害する同じ行為に対して、姦通罪のみを廃止しなければならんということは、不合理であると考えるのであります。こういう観点からも私は修正案に賛成するものであります
 反対論の有力なる議論として、副作用がある。若し姦通罪を処罰するならば、脅迫の道具に使用される。副作用が起るから廃止すべきものであるという議論があるのであります(「副作用はでかい」と呼ぶ者あり)一応傾聴すべき議論でありますが、併しながら副作用ということはいかなる犯罪にも伴うものであります。法律が告訴告発を許す以上は、いかなる犯罪にも副作用は伴うものであります。例えば名誉毀損罪においては告訴を以て論ずる親告罪であります。脅迫の目的のために告訴する人、或いは告発する人があるのであります。法律が告訴を認め、告発を認めた以上はいかなる場合においても副作用が伴うのであります。ただ姦通罪においては多少多いということでありましようが、併しながら副作用があるからと言つて、法律そのものを廃止しなければならんという理論はないのであります。我々は副作用があつたならば、その副作用をすることに努めなければならんと信じておるものであります。(拍手)御承知のごとく冤罪ということがあるのであります。殺人罪は重く罰せられております。併し多くの事件の間には冤罪があります。冤罪があるからと言つて殺人罪を放棄することはできるでありましようか。それと同一でありまして、副作用があつたならば我々はその副作用を除去することに努力するのが当然ではないでしようか。(拍手)そういう意味において修正案には情状によつて免除することができるという規定を掲げておるのであります。若し姦通罪の告訴が脅迫に用いられ、或いは金銭的利欲によつて告訴された場合においては、裁判所は具体的に調査してそれを免除すればよいのであつて、私はこういうような場合は、いわゆる具体的妥当性によつて解決さるべき問題であつて、一般的刑法において存置するか存置しないかという問題には該当しないと信じておるものであります。参議院がこの問題を大きく取上げて、公聴会を開いたということについては、私自身大いに敬意を表しておる者であります。(拍手)委員長がこの問題を大きく取上げたということは、参議院の性格として国民一般の関心の下に非常によい事例であつたと信じておる者であります。公聴会に現れた成績は皆さんも御承知でしようが、大部分与論は両罰の意見であつたのであります。無論公聴会は賛否は同数であつたのでありますが、その希望者の大部分は両罰の論であります。鹿児島県の船員がわざわざ鹿児島から出て来て、両罰にされなければ我々は船の中におつて、何日も仕事をすることはできない。(拍手)どうか両罰にして貰いたい、現実の問題であるということを言われたのであります。その他多くの理由があるのでありますが、時間に制限がありますから、(「もつとやれもつとやれ」と呼ぶ者あり)この程度といたしまして、皆さんが姦通罪の問題が小さい問題でなく、大きい問題だということを御認識下さいまして、そうして若し廃止になつたらどういうふうになるかということを慎重に御考慮下さいまして、この修正案に御賛成あらんことをお願いいたしまして、私の賛成の意見とする次第であります。(拍手)
#24
○議長(松平恒雄君) 來馬琢道君。
   〔來馬琢道君登壇、拍手〕
#25
○來馬琢道君 私が操觚界の先輩として敬服しておる徳富蘇峯、(「戦犯だ」と呼ぶ者あり)彼は戦争犯罪人になつたといわれたが、近来軟禁を解かれたということも聞いた。併しながら彼が明治の操觚界において、我々に対する立派な模範的文章家であつたことは、且つその観察眼の高かかつたことは諸君も否定することはできないであろう。(「戦争も挑発したぞ」と呼ぶ者あり)彼が四十年程前に中国を観察して帰つて来て、その感懐を述べて言つた。孔子の戒めたことは皆現代の中国人が行つておることである。つまり中国人が行つておる不正の行為を孔子が戒めたのであることが分つた。この筆法で日本に姦通罪があるときは、日本人は盛んに姦通を行うのであろうということの誤解を招く虞れがある。かかる批判を恐るるが故に、姦通罪を存置しない方がよいという考えは私も抱いております。(「簡単々々」と呼ぶ者あり)この重大な問題に簡単という言葉はどなたがお出しになるのでありますか、(「やれやれ」、「分つてる」と呼ぶ者あり)分つているかいないか分らんから述べるのであります。(「偉いぞ」と呼ぶ者あり)併し私は西洋の偉人の書いた物を見ても、又ヨーロッパ、アメリカ及び東洋各国を見回つて、各国の人と語り合つたところによつて見ても、欧米人は日本人及び東洋各国人を多妻の国、つまりは妻の多い国なりと言い、スエズ以東には西洋道徳が行われていないという、(「誰が」と呼ぶものあり)西洋人たちは中国でも日本でも、東洋のみに通用する妻を雇つておりました。ラシヤメン、この一語は我が明治の婦人史上に見逃すべからざる存在である。さりながらすでに日本は目覚めたのである。一夫一婦制の生活を心から尊ぶようになつた。大正天皇、今上陛下がその範を垂れ給い、又垂れつつあり給うことは、心ある西洋の通信員は厳粛なる態度を以て各本国に伝えておることである。私共は日本が一夫一婦の国になつたということを世界に宣言したいのであります。それには大日本帝国憲法の下にあつた刑法が、日本国憲法の下の刑法となるときに、姦通せる夫婦は共に罰するという新しい精神を取入れたことを表示することが最も好き機会であると信ずる。仏教には根本の戒律に不邪淫戒がある。シヤム国の皇帝は、即位式の時に五戒を保つことを誓われるのであつて、その中にこの戒法もある。仏教は僧侶には絶対に淫欲を禁じ、現に東洋諸国にも実行されるくらいだから、厳密に言えば夫婦共に姦通してはならないのであるが、東洋の社会道徳は妾を置くことを邪淫と言わないようにしてしまつた。決して釈尊の真意ではない、釈尊若し今日に在らば、両罰主義を強調せられるであろう。(拍手)私は自分の信仰の上からも、我が国の国民道徳の水準をここまで引上げたことを中外に誇りたいものである。これ私が国際的に両罰主義の法文を改正刑法に止めんとする理由のひとつである。
 更に国内的に考えると、すでに公聴会を開き、姦通罪廃止の可否を世に問うた。又法医学者、医学者よりも、最も適任と認むる人を招いて、先夫遺伝の学説等も聞いたことは世間に発表せられておる。これを知つた人々の中でも、いわゆる識者はその根本理由を了解しておる。併し、一般国民は、自由とは放縦なりという誤つた解釈をなし、新憲法の下には性の制裁は撤回されたと脱線説をなす者もあろう。現在の我が国には戦争中の影響を受けて孤閨を守り、又守らねばならない婦人も相当の数に上つておる。そういう人々に及ぼす精神的影響も考慮しなければならない。殊に男子の品行を慎む点については、我が国は従来家を重んじたから、相続人を得るために妾を置くことを許した。これはスパルタのごとき男子を産むために、密かに男を雇い入れたという陋風もあつたのだから、既往は咎めないにしても、今や民法上家の観念はなくなるのだから、この際妻に対する節操を保つことを国法を以て迫るのは最も必要のことである。これが第二の理由である。
 この法律は一度も実際に行われた事がない、大審院まで来たことがないから廃止するがいいという議論は、世情を知らない人の言うことである。(笑声)我が国民中刑法の全文を読んだ人は幾人あるか、ただ人を殺せば殺される、物を盗めば懲役だ、姦通をすれば命を取られても仕方がないというぐらいの荒削りの概念で国法を恐れ、これを守つておるのである。選挙法違反の裁判のときに「欲しいと言う人に金をやり、貰つた者が投票をする、何が悪いのだか分らない」と言つたので、裁判長は「投票の権利は天皇から頂戴したのだ、それを売買したのが大罪と思わぬか。」と戒めたという実例もある。この裁判長の訓戒は現在では改つておるが、この純朴な国民の前に姦通罪廃止を宣言することは、私は国民道徳の維持上賛成することはできない。かの未成年者禁酒法、同禁煙法のごとき、或いは一向罰則を実行したことがないかも知れない。併し国民はこの法律があるがために、家庭においても公の席においても相戒め、相慚じて相当の効果を挙げておる。これが第三の理由である。
 社会生活の様相は単純でない。船員の話は先程出ましたが、各種の職業の中には遠洋漁業に従事する者、殊に近いところにおりながら深夜鉱山に入坑する抗夫、汽車、汽船の乗務員等にして一定の日に外泊をなす者等、社会には親切なる隣人を気にしながら出勤する者も少なくない。その人々をして妻にも貞操を守らしめ、自身も亦品行を正しくする確乎たる信念を与え、それが談笑の間に現れるようになれば、国民の品位の向上は期して待つべきものがある。これが第四の理由である。
 更に、講話問題について考察するに、戦争に負けた日本は過去の悪夢から醒めておる。すでに男女同権を認めておる。それは改正刑法に現れておる。男子も節操を重んずる制度を実施しておるということが高調せられ、これと相並んで不敬罪を刑法から除いたということが伝えられるならば、かような有力なる証拠は必ず講和会議の時の話題となつて、彼我の間に意志の疎通を見ることに大いなる好果を奏することと信ずる。これが第五の理由である。(「くだらんくだらん」と呼ぶ者あり)
 私は仏教の説教に従事すること五十年、(笑声)全国を行脚して各階層の人々に接しております。只今指摘せられたように、刑法を濫用して金銭等を強要する逆効果に対しては、しばしば聞くことであるが、これらの例よりも妻を虐待して妾と同棲させ、正しい婦人が陰において子供を抱えて泣いておる実例を聞くことが多いのであります。時に一人の男子の葬儀の際に、数名の婦人が「お父さんとお別れだよ」と言つて子供を連れて来て焼香しておる光景を見ては、身を震わして男子の無節操を浩歎し、欺かれたる婦人を憐れみ、これを怪しまざる社会を詛うのであります。私は宗教家であるから、かかる問題を刑法に規定しなくてもよいと言いたいのであるが、私共の説教の背後には、この法文の存することが教化の目的を達するに便なりと信ずるのであります。涙を揮つてこの修正案に賛成する私の微衷を申上げて、諸君の賛成を請います。(拍手)
#26
○議長(松平恒雄君) 他に御発言がなければ、討論は終局したものと認めます。これより修正案の採決に移ります。松村眞一郎君外四十五名より、修正案の評決は記名投票を以て行われたいとの要求が提出されております。現在の出席議員の五分の一以上に達しておるものと認めます。よつてこれより記名投票を行います。修正案に賛成の諸君は議席に備えてあります白色票を、修正案に反対の諸君は青色票を御登壇の上御投票を願います。氏名点呼を行います。議場の閉鎖を命じます。
   〔議場閉鎖〕
   〔参事が氏名を点呼する〕
   〔投票執行〕
#27
○議長(松平恒雄君) 投票漏れはございませんか。…投票漏れはないと認めます。これより開票いたします。議場の閉鎖を命じます。
   〔議場閉鎖〕
   〔参事が投票を計算する〕
#28
○議長(松平恒雄君) 投票の結果を報告いたします。投票総数百四十票、白色票、即ち修正案を可とするもの六十六票、青色票、即ち修正案を否とするもの七十四票、(拍手)よつて修正案は否決せられました。(拍手)
    ―――――――――――――
   〔参照〕
   賛成者氏名  六十六名
   議 員
    玉置吉之丞君  堀越 儀郎君
    高瀬荘太郎君  宿谷 榮一君
    安部  定君  高田  寛君
    小野  哲君  小川 久義君
    山崎  恒君  楠見 義男君
    赤澤 與仁君  西郷吉之助君
    三好  始君  加賀  操君
    服部 教一君  來馬 琢道君
    松村眞一郎君  姫井 伊介君
    小宮山常吉君  寺尾  博君
    飯田精太郎君  小杉 イ子君
    藤野 繁雄君  米倉 龍也君
    岡部  常君  岩男 仁藏君
    穗積眞六郎君  奥 むめお君
    三島 通陽君  北條 秀一君
    鎌田 逸郎君  宮城タマヨ君
    河井 彌八君  下條 康麿君
    東浦 庄治君  駒井 藤平君
    木下 辰雄君  高橋龍太郎君
    佐藤 尚武君  山本 勇造君
    田中耕太郎君  梅原 眞隆君
    中平常太郎君  山田 節男君
    丹羽 五郎君  藤井 新一君
    岡村文四郎君  佐伯 四郎君
    門田 定藏君  井上なつゑ君
    岩本 月洲君  新谷寅三郎君
    伊藤  修君  松本治一郎君
    入交 太藏君  安達 良助君
    小杉 繁安君  高橋  啓君
    小林 勝馬君  紅露 みつ君
    高良 とみ君 深川榮左エ門君
    齋  武雄君  小泉 秀吉君
    遠山 丙市君 池田七郎兵衞君
   反対者氏名  七十四名
   議 員
    中西  功君  板野 勝次君
    中野 重治君  細川 嘉六君
    小川 友三君  阿竹齋次郎君
    千田  正君  羽仁 五郎君
    岩間 正男君  星野 芳樹君
    川上  嘉君  九鬼紋十郎君
    小林米三郎君  波田野林一君
    山下 義信君  岡本 愛祐君
    島村 軍次君  島津 忠彦君
    市來 乙彦君  伊達源一郎君
    柏木 庫治君  竹下 豐次君
    野田 俊作君  中村 正雄君
    大野 幸一君  内村 清次君
    清水 武夫君  赤松 常子君
    木下 源吾君  波多野 鼎君
    原  虎一君  羽生 三七君
    島   清君  松井 道夫君
    渡邊 甚吉君  吉川末次郎君
    植竹 春彦君  油井賢太郎君
    木内キヤウ君  原口忠次郎君
    竹中 七郎君  水橋 藤作君
    三木 治朗君  大畠農夫雄君
    大島 定吉君  伊東 隆治君
    村尾 繁雄君  鈴木 清一君
    岩木 哲夫君  佐々木鹿藏君
    鬼丸 義齊君  岡田 宗司君
    塚本 重藏君  北村 一男君
    西川甚五郎君  奥 主一郎君
    鈴木 安孝君  山田 佐一君
    黒田 英雄君  草葉 隆圓君
    柴田 政次君 大野木秀次郎君
    板谷 順助君  松野 喜内君
    一松 政二君  深水 六郎君
    仲子  隆君 尾形六郎兵衞君
    團  伊能君  重宗 雄三君
    木檜三四朗君  左藤 義詮君
    水久保甚作君  平沼彌太郎君
     ―――――・―――――
#29
○議長(松平恒雄君) 百八十三条に関しましては、委員会報告通り原案、即ち第百八十三条削除に賛成の諸君の起立を請います。
   〔起立者…〕
   〔「少数」、「多数」、「もう一遍やり直し」と呼ぶ者あり〕
#30
○議長(松平恒雄君) もう一遍宣告をいたします。百八十三条に関しましては、委員長通り原案、即ち第百八十三条削除に賛成の諸君の起立を請います。
   〔起立者多数〕
#31
○議長(松平恒雄君) 過半数と認めます。よつて第百八十三条は削除することに決せられました。(拍手)
     ―――――・―――――
#32
○議長(松平恒雄君) 次に、第二十六条を問題に供します。委員会の報告は可決報告でございます。原案に賛成の諸君の起立を請います。
   〔起立者多数〕
#33
○議長(松平恒雄君) 過半数と認めます。よつて本条は原案通り可決せられました。(拍手)
     ―――――・―――――
#34
○議長(松平恒雄君) 次に、第百九十五条を問題に供します。委員会の修正に賛成の諸君の起立を請います。
   〔起立者多数〕
#35
○議長(松平恒雄君) 過半数と認めます。よつて第百九十五条は委員長報告通り修正議決せられました。(拍手)
#36
○議長(松平恒雄君) 只今採決いたしました残り全部を問題に供します。残り全部、委員長報告通り本案に賛成の諸君の起立を請います。
   〔起立者多数〕
#37
○議長(松平恒雄君) 過半数と認めます。よつて残り全部は可決せられました。これにて本案は修正議決せられました。
     ―――――・―――――
   〔岡本愛祐君発言の許可を求む〕
#38
○議長(松平恒雄君) 岡本愛祐君。
#39
○岡本愛祐君 只今刑法改正案が可決相成りましたるにつきまして、姦通罪の削除に関する緊急質問をいたしたいと存じます。発言のお許しをお願いいたします。
   〔「必要なし」、「許可すべし」、「賛成」、「無用」、「問答無用」、「登壇登壇」、「議長許可し給え」、「採決後には許されない筈だ」、「絶対反対」と呼ぶ者あり〕
#40
○議長(松平恒雄君) 岡本愛祐君の緊急質問の動議に賛成の諸君の起立を請います。
   〔起立者多数〕
#41
○議長(松平恒雄君) 過半数と認めます。(拍手)岡本愛祐君。
   〔岡本愛祐君登壇、拍手〕
#42
○岡本愛祐君 只今多数を以て、姦通罪削除に関する政府原案が可決に相成りましたが、これに対する賛否両論を拜承いたしましても、一様に最も憂うるところは、国民中にはこの削除をもつて国家による姦通の黙認と早合点をいたし、これにより男女性道徳の紊乱を来たし、我が国の淳風美俗を害することなきやの点であります。政府が削除の原案を提出されましたについては、この点につき十二分の御用意があり、万遺憾なきを期せらる対策があるものと信じますが、この際政府当局の御所信と責任ある御対策の程を聞いて置きたいと存じます。(拍手)以上が緊急質問の要旨であります。
   〔「答弁の必要なし」、「答弁」、「登壇」、「国会が最高の機関ではないか」、「答弁は簡単でよろしい」と呼ぶ者あり〕
   〔国務大臣鈴木義男君登壇、拍手〕
#43
○国務大臣(鈴木義男君) 貞操並びに性道徳の問題を、法律上いかに取扱うべきかということは、極めて古く又常に新しいものであります。姦通を法律を以て処罰すべしという論も、又処罰すべきでない、処罰するに適しないという論も、それぞれ十分理由と根拠のあるものであります。政府は過去の実績に鑑みまして、一応姦通罪を刑法の面から取り外して、道徳上の制裁に委ねることにいたしまして、改正案を提案いたしたのでありまするが、その提案理由の説明の際に申上げましたように、強いて原案を固執しない、広く民間の与論と、国会の自由なる討議の結果の多数の決せられるところに委ねようといたしたのであります。然るに先日は衆議院におきまして多数を以て廃止に決し、只今本院におきましても少数の差を以て廃止に決せられたわけであります。この結果に対しましては敬意を表するものであります。姦通罪が廃止せられましても、政府は姦通という恥ずべき事実を黙認するものではない、況んや公認するというわけではないのであります。刑法上監獄に入れて解決するに適当でないと存ずるだけであります。民法上離婚の原因となり、損害賠償の目的となることは申すまでもないのであります。道義上は常に顰蹙されなければならないことは、これは永久に変わらないことであります。政府はよつて当面の対策といたしましては、本改正案の公布の際に、総理大臣談その他の方法を以て、姦通罪の廃止の意義を誤りなく国民諸君に伝えたいと存じております。又恒久的対策といたしましては、あらゆる教育の場面を通じまして、貞操、性道徳の尊重を国民一般に教え込むことに努力いたすつもりであります。そうして刑罰を以てしなくても、愛情と道義とを以て姦通のごとき忌まわしいことが行われない社会を招来いたしたいと存ずるのであります。改正案通過に際しまして、一言政府の所見を述べる次第であります。(拍手)
#44
○議長(松平恒雄君) 本日はこれにて延会いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
#45
○議長(松平恒雄君) 御異議ないと認めます。次会は明後十三日午前十時より開会いたします。議事日程は決定次第広報を以て御通知いたします。本日はこれにて散会いたします。
   午後三時五十一分散会
ソース: 国立国会図書館
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